説明

軟弱地盤の地盤強化方法

【課題】注入管による可塑性グラウトの圧入により周辺地盤を押しやって地盤密度を高めることにより軟弱地盤を強化する際に、地盤中に可塑性グラウトを動的に圧入して、可塑性グラウトそのものによる塊状ゲル固結体を形成することにより圧密作用と脱水作用を行って軟弱地盤を強化する軟弱地盤の強化方法を提供する。
【解決手段】注入管1、圧送管2、可塑性グラウト製造プラント3および衝撃発生装置5をそれぞれ配置する。注入管1は地盤中に所定間隔おきに配置する。可塑性グラウト製造プラント3で製造された可塑性グラウトを各注入管1に圧送管2を介して一定の注入圧で圧送する。各注入管1に圧入された可塑性グラウトを吐出口から地盤中に圧入して注入管1の周囲に可塑状ゲル固結体6を形成する。そしてこの過程で、衝撃発生装置4の衝撃発生弁5を作動させて圧送管2内を圧送される可塑性グラウトの注入圧に一定の衝撃を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注入管による可塑性グラウトの圧入により周辺地盤を押しやって、地盤密度を高めることにより地盤を強化する軟弱地盤の強化工法に関し、特に注入管周辺の地盤に動的衝撃を連続的に与えて軟弱地盤の土粒子を再配列せしめて空間を生じせしめ、その空間に可塑性グラウトからなる可塑状ゲルそのものによる塊状ゲル固結体を形成して地盤を周囲に押し広げ、周辺地盤を圧密することにより地盤強度を向上させようとするものであり、特に液状化現象を起しやすい軟弱地盤の改良に適している。
【背景技術】
【0002】
軟弱地盤の地盤強化方法として、注入管を用いてセメント系のグラウト材や水ガラス系の薬液を地盤中に注入して地盤の一定範囲を固結する注入工法が一般に知られている。
【0003】
本工法により地盤中に注入された注入材は、地盤中の土粒子の配列を変えることなしに地盤中に均等に注入されるか(浸透注入)、あるいは地盤中の土を局部的に割裂して脈状に注入される(脈状注入)と考えられ、特に、対象地盤が浸透性の良い粗粒土の場合に前者の浸透注入になりやすく、対象地盤が細粒土あるいは異なった土層の境界の場合には、後者の脈状注入になりやすいと考えられている。
【0004】
しかし、いずれの注入においても、注入材は注入速度を所定圧に保って地盤中に注入されるため、注入材が地上や対象領域外に逸走しやすく、このため注入材の注入量が膨大になりやすく不経済な施工になりやすいという課題があった。
【0005】
また、注入材によって地盤の表層部が隆起して地上の建物に悪影響を及ぼすおそれ、さらに、注入材の注入量が少なすぎて強度不足に陥る等のおそれもあり、施工性に大きな問題があった。
【0006】
ところで、注入管を用いて地盤中に薬液を注入する注入工法に関する発明として、薬液を地盤中に注入する際に、注入圧力に脈動を与えて薬液を動的に注入する注入工法が知られている(特許文献1)。
【0007】
また当出願人は、注入管を用いて可塑性グラウトを地盤中に静的に圧入し、地盤中に可塑性グラウトからなる塊状ゲル固結体を形成することにより周辺地盤を押し拡げ、周辺の土の密度を高めることにより地盤を強化する地盤強化方法を開発した(特許文献2)。
【0008】
前者の工法は、薬液を圧送配管ラインによって地盤中に注入する過程で、可とう性の圧送配管を機械的な回転動作や往復動作によって高速かつ規則的に押えることにより注入圧力に脈動圧力を与えることにより、薬液を土粒子間に動的に注入してその浸透性を高めるようにしたものである。
【0009】
一方、後者の方法は、注入材として特に可塑性グラウトを地盤中に注入することにより、可塑性グラウトが土粒子間に浸透注入したり、あるいは亀裂して脈状注入することなく、可塑性グラウトそのものからなる塊状固結体を形成して周辺の地盤を押し拡げることによって地盤を締め固め強化しようとするものである。
【0010】
【特許文献1】特開2003−105745号公報
【特許文献2】特開2000−27171号公報
【特許文献3】特許第3153799号公報
【特許文献4】特許第3654855号公報
【特許文献5】特許第3731189号公報
【特許文献6】特開平10−18282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1に開示された注入工法は、注入薬液の土粒子間浸透における、注入薬液の浸透性を改善させる方法であり、注入薬液の粘性が低いために脈動圧を与えて動的に注入すると、亀裂が生じて地上や対象領域外に注入薬液が逸走しやすく、所定の地盤中に可塑状ゲルのみの塊状ゲル固結体を形成して周辺を高密度化して地盤を強化する効果はないという課題があった。
【0012】
また、瞬結性のグラウト材は圧送しても、圧入を停止すると直ちに重合固化し、後続して注入するグラウト材は地盤の固結した部分を割って更に先に割裂部を生じてしまうことがあり、また抵抗の弱い地上方向に割裂しながら上昇し地盤を隆起させることがあるため、浸透していない部分の強度増加は不可能であるという欠点があった。
【0013】
一方、後者の特許文献2に開示され、当出願人らが開発した注入工法は、可塑性グラウトは圧送時には流動性を有するものの、圧送圧入を停止すると脱水によって速やかに粘性が増大してゲル化し、それをさらに加圧することにより可塑性ゲルのみによる大きな塊状ゲル固結体を形成して周辺地盤を高密度化するという効果をもつという優れた特徴を有する。
【0014】
しかし、単に静的に圧入しただけでは、塊状ゲル固結体の拡大が制約されるため、塊状ゲル固結体をさらに大きく形成したいという課題があった。
【0015】
本発明は以上の課題を解決するためになされたもので、地盤中に注入管を介して可塑性グラウトを圧入し、当該可塑性グラウトからなる塊状ゲル固結体を地盤中に形成することにより周辺地盤を押しやって地盤密度を高めることにより地盤を強化する際に、密度が小さく液状化しやすい軟弱地盤に連続的に衝撃を与えて負のダイレンシーを生じせしめて地盤中に空間をつくりその空間に可塑性グラウトを圧入し、可塑性グラウトそのものによる大きな塊状ゲル固結体を形成できるようにした軟弱地盤の地盤強化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1記載の軟弱地盤の地盤強化方法は、地盤中に注入管を介して可塑性グラウトを圧入し、当該可塑性グラウトからなる塊状ゲル固結体を地盤中に形成することにより周辺地盤を押しやって地盤密度を高めることにより軟弱地盤を強化する軟弱地盤の強化工法であって、地盤中に可塑性グラウトを当該可塑性グラウトに連続的に衝撃を繰り返し与えながら圧入することにより、注入管周辺の地盤に衝撃による土粒子の再配列による空間の形成と当該空間と圧入された可塑性グラウトとの置き換えを同時に行う工程を継続することにより、地盤中に可塑性グラウトからなる塊状ゲル固結体を形成すると共に、当該塊状ゲル固結体を介して周辺の土粒子に衝撃を与えて周辺地盤の地盤強度を高め、さらに塊状ゲル固結体を拡大することにより周辺の地盤密度を高めて地盤を強化することを特徴とするものである。
【0017】
本発明は、軟弱地盤中に可塑性グラウトを圧入して地盤中に当該可塑性グラウトそのものによる可塑状ゲル固結体を形成して周囲の地盤を押し広げて地盤を圧縮することにより地盤強度を高めようとするものであり、地盤中に注入管を用いて可塑性グラウトを圧入する過程において、地盤中に可塑性グラウトを圧入しながら注入圧力の増減を連続的に繰り返して可塑性グラウトの注入圧力および注入管周辺の地盤に連続的に衝撃を与えることで、注入管周辺の地盤に負のダイレイタンシーを生じせしめ、この負のダイレイタンシーによって生じた土粒子の再配列により空間が形成されると同時に、当該空間に圧入された可塑性グラウトが充填されて空間が可塑性グラウトに置き換わる。
【0018】
また、可塑性グラウトの圧入をさらに継続することにより、衝撃によって注入管周辺の地盤に空間が生じ、この空間に可塑性グラウトが充填さることにより、注入管の周辺に可塑性グラウトそのものからなる塊状ゲル固結体が形成される。
【0019】
さらにこの可塑性グラウトの塊状ゲル固結体を介して当該固結体周辺の土粒子に衝撃が与えられて周辺の地盤密度が増し、さらに塊状ゲル固結体が拡大して周辺地盤を圧縮することで地盤強度が高められる。
【0020】
当該現象は対象地盤がルーズな砂地盤の時に生じやすく、その性質を利用して可塑性グラウトを圧入するものであるが、地盤が軟弱な粘性土の場合は繰り返し連続して衝撃を与えることにより、さらにその衝撃が作用する周辺の粘性土が軟弱化され、可塑性グラウトが圧入されやすい領域が形成され、大きな塊状ゲル化が行われて地盤が強化される。
【0021】
可塑性グラウトを注入する過程で、通常は注入圧力を徐々に上昇させたり、段階的に上昇させたり、あるいは可塑性グラウトをインターバルで送液または中断することを繰り返しながら可塑性グラウトを注入することは、当出願人によってすでに提案されているが、本発明においては、可塑性グラウトの注入圧を連続的に上下させることを繰り返して注入管周辺の地盤に一定の衝撃を連続的に与えることにより、可塑性グラウトを地盤中に注入し、かつ地盤中における塊状ゲル固結体を拡大せしめて周辺地盤の高密度化を図るものである。
【0022】
また、このように衝撃を与えながら圧入することで、注入圧力のみで地盤中に可塑性グラウトが注入され、当該可塑性グラウトからなる可塑性ゲル固結体が形成され、かつ当該固結体が拡大するのではなく、衝撃による土粒子の再配列が生じて注入された可塑性グラウトが浸透注入や脈状注入によって地盤中に注入されることなく、その多くが確実にゲル化してほぼ設計通り大の可塑状ゲル固結体を形成することができる。
【0023】
従来、軟弱地盤中に多量の可塑性グラウトを一度に過大に圧入すると、周辺土が圧密する前に可塑性グラウトが浸透注入や脈状注入を呈して逸送し、さらには周辺地盤を破壊し、このため地盤強度が設計通りに向上しないだけでなく、地盤表面を隆起させることがあった。
【0024】
そこで、注入中は流動性があり、注入を停止すると流動性を停止して凝固状態が現出するという可塑性グラウトの特性を生かして、対象地盤中に可塑性グラウトを連続的な衝撃を与えながら少量づつインターバルで複数回に分けて反復注入する手法を組み合わせることにより、注入の中断により流動が停止し、その位置に保持されて可塑状ゲル固結体を形成し、連続的な衝撃を与えながら注入を再開すると、先行して形成された固結体は側方に徐々に押しやられて大きくなり、その内側に新たな可塑状ゲル固結体が重ねて形成されることで、その周辺地盤は破壊されることなく押し広げられ圧密脱水されて強化される。
【0025】
したがって、地盤中に可塑性グラウトを衝撃を与えながら連続的に少量づつインターバルで複数回に分けて反復圧入する過程で、注入の中断と再開をインターバルで反復することにより、可塑性グラウトそのものからなる可塑状ゲル固結体を形成しつつ側方に押し広げ、さらにその内側に新たな可塑状ゲル固結体を形成して可塑状ゲル固結体を徐々に大きくすることによりその周辺地盤を破壊することなく圧密脱水して軟弱地盤を強化させることができる。
【0026】
また、地盤中に可塑性グラウトを一定の注入圧で圧入する過程で、通常は一定である注入圧に、あるいは徐々に変動する注入圧に一定の衝撃を与えることにより、可塑性グラウトを効率的に注入することができ、工期の短縮化等が図れる。
【0027】
ここで用いる可塑性グラウトは、注入圧を加えている時は流動性を持つが、注入を停止すると流動性を失うグラウト材であって、例えばセメントベントナイト、当該セメントベントナイトに少量の水ガラスを添加したもの、セメントベントナイトにスラグを加え、さらに少量の水ガラスを添加したもの、当該スラグに消石灰を加え、さらにベントナイトと少量の水ガラスを添加したもの、セメントにベントナイトを加え、さらに消石灰などの添加材を加えて、フライアッシュや粘土等の増量材を加えたり、アルミ粉を加えて発泡したり、エアを混入したりしても良い等のものである。
【0028】
また、可塑性グラウトとして一液性と二液性があり、一液性の可塑性グラウトはセメントベントナイトを主材とし、これに増量材としてスラグ、フライアッシュ、排土等を加えたり、さらに少量の石灰、水ガラス等を加えて可塑性を調整したり、気泡剤を加えて流動性を調整したりすることができる。
【0029】
一方、二液性の可塑性グラウトはA液にセメントベントナイト、さらに増量材や気泡剤を加え、B液に水ガラス液を用いて、A液とB液を合流した時点で可塑性を呈するグラウトにするものである。その他に、A液にセメントベントナイト液を、B液にベントナイト液をそれぞれ組み合わせてブリージングを生じ難い可塑性グラウトを形成しても良い。
【0030】
また、A液としてセメントベントナイトに気泡剤として動物性蛋白や界面活性剤を加えて、B液として石灰更に硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム等のアルミニウム塩を組み合わせて、合流して水酸化アルミを生じさせて可塑性を付与してもよい。
【0031】
また、可塑性グラウトとして他には、シリカ系非硬化性粉状体、カルシウム系粉状硬化発現材および水を有効成分とする可塑性グラウトを用いることができる。例えば、フライアッシュ(石炭灰)、スラグ、焼却灰、粘土、土砂、珪砂などのシリカ系非硬化性粉状体と、セメント、石灰、石膏などのカルシウム系粉状硬化発現材と水を有効成分とし、これらを適量配合して製造した可塑性グラウトを用いる場合、比重2.0以下のスラリー状に製造することにより効率的に圧入することができ、また、当該可塑性グラウトは圧入後、徐々に固化して所定の強度に達し、所定強度の塊状ゲル固結体を形成せしめることができる。
【0032】
なお、施工状況に応じて固化促進材や固化遅延材を添加することにより固化速度を調整することもできる。また、可塑性グラウトを圧入する際のフロー値とスランプ値がそれぞれ12cm以上、15cm以上あればよい。
【0033】
また、他の特定の成分としては、消石灰、石膏、ベントナイト、スラグ、気泡剤、アルミニウム粉末、硫酸バンド(硫酸アルミニウム、固化促進材)などがあり、例えば硫酸バンドはゲル化促進剤であり、フライアッシュとモルタルからなる流動性のあるモルタルに添加すると急速にゲル化してすぐに可塑状とすることができる。ただし、添加量が多いと長期強度の発現性が低下する傾向にあるため、0.1〜1.0%が適当である。
【0034】
セメントは硬化発現材であり、フライアッシュの可塑材でもある。フライアッシュ単独ではゲル化せず、自硬・可塑性の固化材にならないが、セメントを混ぜることによりポゾラン反応を起こし固結強度を得る。しかし、セメント量が嵩むにつれて可塑状グラウトとしての特性が低下する。セメントの配合量が50%を超えると可塑状保持時間が短くなって、ブリージング率が大きくなり、可塑状になるまでの時間が短くなり、流動性も作業性も低下する。
【0035】
したがって、セメントの配合量は50%より少なく、好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下にすることで、可塑状保持時間が長く、ブリージング率、初期粘性がともに低く、流動性と作業性がともによい。
【0036】
また、ブリージング率を低くできることで、固化後の沈下を最小に止めることができる。なお、この場合のセメントは普通ポルトランドセメントを用いることができる。
【0037】
また、水粉体比が30%より小さくなると、配合後の粘性がきわめて高く、ポンプ注入管内の流動性や作業性が困難になる。一般に、水粉体比が小さくなるにつれてゲルタイムと可塑状保持時間がともに短く、またブリージング率が小さく、粘性が高く、強度が大きい。一般に、水粉体比は施工性を考えると30〜130%、好ましくは30〜70%、さらに好ましくは35〜50%が適切である。これ以上になると、可塑状になるまで時間を要するため、ブリージング率が大きくなり、固化後の沈下も大きくなる。
【0038】
請求項2記載の軟弱地盤の地盤強化方法は、請求項1記載の軟弱地盤の地盤強化方法において、可塑性グラウトをインターバルで反復して圧入することを特徴とするものである。本発明は特に、可塑性グラウトの特性を生かして、対象地盤中に可塑性グラウトを少量づつインターバルで複数回に分けて反復注入することにより、対象地盤中に可塑状ゲル固結体が確実に形成されるようにすると共に、当該固結体を徐々に大きくさせてほぼ設計通り大の可塑状ゲル固結体が形成されるようにしたものである。
【0039】
請求項3記載の軟弱地盤の地盤強化方法は、請求項1または2記載の軟弱地盤の地盤強化方法において、注入管によって可塑性グラウトを地盤中に圧入する過程で、可塑性グラウトの注入圧力を規則的に制御して可塑性グラウトの注入圧力の増減を連続的に繰り返すことにより、可塑性グラウトの注入圧力および注入管周辺の地盤に衝撃を与えることを特徴とするものである。可塑性グラウトの注入圧力を規則的に制御して可塑性グラウトの注入圧力の増減を連続的に繰り返す方法としては、例えば注入管に可塑性グラウトを圧送する圧送管として可とう性の圧送管を接続し、この圧送管を介して注入管に可塑性グラウトを一定の注入圧で圧送すると共に、当該可とう性の圧送管を機械的な回転動作や往復動作によって外部から規則的に押圧したり、絞り込んだり、あるいは可塑性グラウトの流路を規則的に遮断することにより可塑性グラウトの注入圧力を特別な装置を使用せずに制御することができる。
【0040】
また、可塑性グラウトの注入圧を一定圧以上に保持しながら、可塑性グラウトの注入ポンプの回転数を増減することによっても、可塑性グラウトの注入圧力を制御して可塑性グラウトの注入圧力および注入管周辺の地盤に衝撃を与えることができる。この場合、注入ポンプの回転数を下げても注入圧は一定圧以上に保持されていることで、可塑性グラウトの圧入に支障を来たすことはない。
【0041】
なお、ここで注入圧力の増減を連続的に繰り返すとは、通常のポンプによる注入において注入圧力と時間の関係として記録紙に表現されるポンプの脈動の波とは区別され、単なるポンプの脈動によっては、本発明における効果的な衝撃による地盤への緩みは期待できない。
【0042】
請求項4記載の軟弱地盤の地盤強化方法は、請求項1〜3のいずれかに記載の軟弱地盤の地盤強化方法において、注入管に袋体と当該袋体の下方に位置する吐出口を設け、前記袋体に固化材を圧入してパッカーを形成したのち、前記吐出口から可塑性グラウトを地盤中に圧入することを特徴とするものである。
【0043】
本発明は、可塑性グラウトの注入過程で、注入管の吐出口から地盤中に圧入された可塑性グラウトが特に地上に逸走して地盤が隆起するのを抑制するようにしたものである。ここで用いられるパッカーには、例えばモルタル等の固化材を充填することにより簡単に膨張する袋状パッカー等を用いることができる。袋体には不織布等の透水性袋体や合成樹脂製等の不透水性の袋体を用いることができる。
【0044】
請求項5記載の軟弱地盤の地盤強化方法は、請求項1〜3のいずれかに記載の軟弱地盤の地盤強化方法において、注入管に当該注入管の軸方向に複数の袋体と当該袋体間に位置する吐出口をそれぞれ設け、前記袋体に充填材を圧入してパッカーを形成したのち、前記吐出口から可塑性グラウトを地盤中に圧入することを特徴とするものである。本発明は、各パッカー間で可塑状ゲル固結体が形成されるようにすることで、固結体周囲の軟弱地盤をより強固に締め固めて地盤強度を高めるようにしたものである。
【0045】
請求項5記載の軟弱地盤の地盤強化方法は、請求項1〜4のいずれかに記載の軟弱地盤の地盤強化方法において、ドレーン工法による脱水または吸水工法による吸水を併用することを特徴とするものである。
【0046】
本発明は、可塑性グラウトの注入とドレーン工法による脱水または吸水工法による吸水を並行して行うことにより地盤の圧密脱水をより効率的に行うことができ、周辺土の密度増加を急速にかつ確実に進行させることができる。
【0047】
一般に、地盤注入工法において、これらの脱水工法や吸水工法を併用すると、その部分に流線が集中して注入材がドレーン材や吸水管に流れ込むので好ましくないが、可塑性グラウトの場合は、流出することなくゲル化して可塑状ゲル固結体を形成するため、固結体周辺の間隙水はドレーン材や吸水管を通って地上に確実に脱水される。よって、周辺土の密度増加が急速にかつ確実に進み地盤が強化される。
【0048】
請求項6記載の軟弱地盤の地盤強化方法は、請求項1〜5のいずれかに記載の軟弱地盤の地盤強化方法において、地盤の変位を計測しながら可塑性グラウトの圧入を行うことを特徴とするものである。本発明は、可塑性グラウトの注入過程で、地盤の隆起などの変化をリアルタイムで測定し、異常な変化には可塑性グラウトの注入を調整する等の措置を即応的に対応できるようにしたものである。なお、この場合の測定器にはレーザー等のセンサーやストレンゲージを利用したものを用いることができる。
【0049】
請求項7記載の軟弱地盤の地盤強化方法は、請求項1〜6のいずれかに記載の軟弱地盤の地盤強化方法において、地盤の土層ごとに可塑性グラウトの圧入量を設定して行うことを特徴とするものである。本発明は地盤の土層ごとに最適量の可塑性グラウトを圧入することにより、グラウト材の無駄をなくして経済性を図ったものである。
【発明の効果】
【0050】
本発明は、軟弱地盤中に可塑性グラウトを注入して当該可塑性グラウトからなる可塑状ゲル固結体を形成して周囲の地盤を押し広げて地盤を圧密することにより地盤強度を高める方法であり、その際特に可塑性グラウトを注入する過程で、可塑性グラウトの注入圧と注入管周辺の地盤に連続的に衝撃を与えることにより、衝撃により地盤を緩ませながら可塑性グラウトを圧入すると共に、当該可塑性グラウトからなる大きな塊状ゲル固結体を地盤中に形成し、かつ拡大させて周辺地盤を圧縮することにより軟弱地盤を強化することができる。
【0051】
また、可塑性グラウトの特性を生かして地盤中に可塑性グラウトを少量づつインターバルで複数回に分けて反復注入することにより、注入された可塑性グラウトが浸透注入や脈状注入によって地盤中に注されることなく、その多くをゲル化させて設計通り大の可塑状ゲル固結体を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
図1は、本発明の軟弱地盤の地盤強化方法を実施するに当り、現地に設置される施工システムの概念を示し、図において、符号1は地盤強化の対象とされる軟弱地盤中に可塑性グラウトを注入する注入管であり、当該注入管1には可塑性グラウトの吐出口(図省略)が注入管1の軸方向に一定間隔おきに複数形成されている。そして、当該注入管1は地盤中に一定間隔おきに複数設置されている。
【0053】
符号2は一端側が注入管1側に、他端側が可塑性グラウト製造プラント3側にそれぞれ接続され、可塑性グラウト製造プラント3で製造された可塑性グラウトを各注入管1に圧送するための圧送管であり、当該圧送管2には変形可能な可とう性の管が用いられている。
【0054】
そして、符号4は注入管1と圧送管2によって可塑性グラウトを地盤中に一定の注入圧で圧入する過程で、機械的な回転動作または往復動作によって圧送管2内を圧送される可塑性グラウトの流れを規則的に遮断することにより、可塑性グラウトの注入圧と各注入管1の周辺地盤に所定の衝撃を与える衝撃発生装置である。
【0055】
図3(a),(b),(c)は、衝撃発生装置の一例を示し、図3(a),(b)に図示する衝撃発生装置は、モータ等を動力源として回転する回転体5aと当該回転体5aの端部に取り付けられた複数の押圧ローラ5bとからなる衝撃発生弁5を備え、回転体5aの回転に伴い、複数の押圧ローラ5b,5bが圧送管2を交互に押し付けて圧送管2内を圧送される可塑性グラウトの流れを規則的に遮断することにより、可塑性グラウトの注入圧および注入管1周辺の地盤に所定の衝撃を与えるように構成されている。
【0056】
また、図3(c)に図示する衝撃発生装置は、モータ等を動力源として回転するクランク軸5cと、当該クランク軸5cのクランク部に取り付けられた複数の押圧ロッド5dとからなる衝撃発生弁5を備え、クランク軸5cの回転に伴い、複数の押圧ロッド5dが圧送管2を交互に押し付けて圧送管2内を圧送される可塑性グラウトの流路を規則的に遮断することにより、可塑性グラウトの注入圧に所定の衝撃を与えるように構成されている。なお、いずれの場合においても、各注入管1周辺の地盤には、注入管1の吐出口から地盤中に衝撃を伴って吐出される可塑性グラウトによって衝撃が与えられる。
【0057】
このような構成において、次に本発明の施工方法を説明すると、最初に図1に図示するように、現地に注入管1、圧送管2、可塑性グラウト製造プラント3および衝撃発生装置5をそれぞれ配置する。なお、注入管1は地盤中に直接挿入して設置してもよく、あるいは予め削孔した孔に挿入して設置してもよい。
【0058】
次に、可塑性グラウト製造プラント3で製造された可塑性グラウトを各注入管1に圧送管2を介して一定の注入圧で圧送し、さらに各注入管1に圧入された可塑性グラウトを吐出口から地盤中に圧入する。
【0059】
そしてこの過程で、衝撃発生装置4の衝撃発生弁5を作動させて圧送管2内を圧送される可塑性グラウトの注入圧に一定の衝撃を与える。これにより可塑性グラウト製造プラント3で製造された可塑性グラウトを地盤中に動的圧入により効率的に圧入することができる。そして、各注入管1の周囲に可塑性グラウトそのものからなる可塑状ゲル固結体6を形成することができる。
【0060】
図3は、注入管1に当該注入管1の側方に膨張するパッカー7を取り付けることにより、可塑性グラウトの注入過程で、注入管1の吐出口から地盤中に圧入された可塑性グラウトが地上側に逸走して地盤を隆起させるのを抑制するようにしたものである。
【0061】
また図4は、注入管1に当該注入管1に形成された複数の吐出口の一個ないし複数を挟んで注入管1の軸方向に複数のパッカー7,7を取り付け、各パッカー7,7間で吐出口から地盤中に可塑性グラウトを圧入する例を示したものである。各パッカー7,7間で可塑状ゲル固結体6が形成されるようにすることで、固結体周囲の軟弱地盤をより強固に締め固めて地盤強度を高めることができる。
【0062】
ここで用いられるパッカー7としては、例えばモルタル等の固化材を充填することにより簡単に膨張する袋状パッカー等を用いることができる。袋体には不織布等の透水性袋体や合成樹脂製等の不透水性の袋体を用いることができる。
【0063】
そして図5は、各注入管1,1間にドレーン材8を設置して圧密水を排水することで短期間で地盤強度を高めるようにしたものである。
【0064】
いずれの例においても、地盤中に圧入された可塑性グラウトは、ゲル化して可塑状ゲルそのものからなる固結体6を形成して周囲の地盤を押し広げて地盤を圧密することにより地盤強度を高めることができる。またその際、可塑性グラウトを注入する過程で、通常は一定である可塑性グラウトの注入圧に一定の衝撃を与えて可塑性グラウトを動的に注入するため、可塑性グラウトの目詰まり等を抑制して非常に効率的に圧入することができる。
【0065】
また、注入中は流動性を有し、注入を停止すると流動性を停止して凝固状態が現出するという可塑性グラウトの特性を生かして、地盤中に可塑性グラウトを少量づつインターバルで複数回に分けて反復注入することにより、注入された可塑性グラウトは注入の中断により衝撃を停止し、その位置に保持されて可塑状ゲル固結体6を形成し、注入を再開すると、先行して形成された固結体は側方に徐々に押しやられ、その内側に新たな可塑状ゲル固結体6が重ねて形成されることで、その周辺地盤は破壊することなく徐々に押し広げられて圧密脱水されて強化される。
【0066】
したがって、対象地盤中に可塑性グラウトを少量づつインターバルで複数回に分けて反復注入する過程で、注入の中断と再開をインターバルで反復することにより、可塑性グラウトそのものからなる可塑状ゲル固結体6を形成し、さらに当該可塑状ゲル固結体6を徐々に大きくさせることによりその周辺地盤を破壊することなく圧密脱水することにより強化させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、地盤強化の対象とされる軟弱地盤中に可塑性グラウトそのものから可塑状ゲル固結体を形成してその外周部の地盤を圧密することにより地盤強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の軟弱地盤の強化方法を実施するに当り、現地に設置される施工システムを示す概念図である。
【図2】各注入管の吐出口から地盤中に圧入された可塑性グラウトがゲル化して可塑状ゲル固結体を形成する状態を示す概念図である。
【図3】(a)〜(c)は、地盤中に圧入される可塑性グラウトの注入圧に衝撃圧を与えるための衝撃発生装置の一例を示す概念図である。
【図4】各注入管に地盤の表層部において側方に膨張するパッカーを取り付けて可塑性グラウトを圧入することにより可塑状ゲル固結体を形成する例を示す概念図である。
【図5】各注入管に当該注入管の軸方向に複数のパッカーを取り付け、各パッカー間に可塑性グラウトを圧入することにより可塑状ゲル固結体を形成する例を示す概念図である。
【図6】注入管と注入管との間にドレーン材を設置してドレーン工法を併用して可塑状ゲル固結体を形成する状態を示す概念図である。
【符号の説明】
【0069】
1 注入管
2 圧送管
3 可塑性グラウト製造プラント
4 衝撃発生装置
5 衝撃発生弁
5a 回転体
5b 押圧ローラ
5c クランク軸
5d 押圧ロッド
6 可塑状ゲル固結体
7 パッカー
8 ドレーン材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤中に注入管を介して可塑性グラウトを圧入し、当該可塑性グラウトからなる塊状ゲル固結体を地盤中に形成することにより周辺地盤を押しやって地盤密度を高めることにより地盤を強化する軟弱地盤の強化工法であって、可塑性グラウトを当該可塑性グラウトに衝撃を連続的に繰り返し与えながら地盤中に圧入することにより注入管周辺の地盤に衝撃による土粒子の再配列による空間の形成と当該空間と可塑性グラウトの置き換えを同時に行う工程を継続することにより、地盤中に可塑性グラウトからなる塊状ゲル固結体を形成すると共に、当該塊状ゲル固結体を介して周辺の土粒子に衝撃を与えて周辺地盤の地盤強度を高め、さらに塊状ゲル固結体を拡大することによって地盤密度を高めて地盤を強化することを特徴とする軟弱地盤の地盤強化方法。
【請求項2】
可塑性グラウトは地盤中にインターバル方式により反復して圧入することを特徴とする請求項1記載の軟弱地盤の地盤強化方法。
【請求項3】
注入管を介して可塑性グラウトを地盤中に圧入する過程で、可塑性グラウトの注入圧力を規則的に制御することにより、可塑性グラウトの注入圧力の増減を連続的に繰り返して可塑性グラウトの注入圧力および注入管周辺の地盤に衝撃を与えることを特徴とする請求項1または2記載の軟弱地盤の地盤強化方法。
【請求項4】
注入管に袋体と当該袋体の下方に位置して吐出口を設け、前記袋体にグラウトを圧入してパッカーを形成したのち、前記吐出口から可塑性グラウトを地盤中に圧入することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の軟弱地盤の地盤強化方法。
【請求項5】
注入管に当該注入管の軸方向に複数の袋体と各袋体間に位置して吐出口を設け、前記袋体にグラウトを圧入してパッカーを形成したのち、前記吐出口から可塑性グラウトを地盤中に圧入することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の軟弱地盤の地盤強化方法。
【請求項6】
ドレーン材による脱水または吸水管による吸水を併用することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の軟弱地盤の地盤強化方法。
【請求項7】
地盤の変位を計測しながら可塑性グラウトの注入を行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の軟弱地盤の地盤強化方法。
【請求項8】
地盤の土層ごとに可塑性グラウトの圧入量と配合を設定して行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の軟弱地盤の地盤強化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−127939(P2008−127939A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316934(P2006−316934)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000162652)強化土エンジニヤリング株式会社 (116)
【Fターム(参考)】