説明

転がり軸受の予圧調整構造

【課題】 外輪と内輪の軌道径膨張差を利用することで、付帯設備を必要とせずに、軸の遠心力及び温度上昇による内輪膨張の影響を小さくし、予圧増大を抑制することができるようにする。
【解決手段】 定位置予圧で使用される転がり軸受11において、内輪3を外輪2の材質よりも線膨張係数の小さな材質とし、内輪3の内周面と軸1とをすきま嵌めとする。これにより、運転中の内外輪軌道径膨張量が、(外輪)>(内輪)の関係となることを利用して予圧調整する。内輪3の両側に側輪6,7を設けて内輪3の位置決めを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械主軸等の高速で使用されるアンギュラ玉軸受等の転がり軸受の予圧調整構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械主軸に使用される軸受は、加工精度と加工能率を向上させるため、剛性を重視して、定位置予圧で負のすきま、即ち予圧を負荷した状態で使用されることが多い。しかし、予圧を負荷した軸受を高速で運転すると、主に内輪の温度上昇と遠心力による軌道径の膨張のため、ラジアル負すきま量が増大してしまう。その結果、予圧過大となって、温度上昇更には軸受寿命を低下させる等の不具合を発生させる場合がある。加工精度と加工能率に影響する軸受剛性と高速性は、相反する要因であり、両立が難しいのが現状である。
【0003】
軸受を高速運転した時に生じる過大予圧を緩和させるための技術として、特許文献1および特許文献2が提案されている。
特許文献1の方法は、背面組合せされたアンギュラ玉軸受において、軸受間(背面側)に配置された外輪間座に発熱体を設け、間座の寸法を温度制御により変化させることで軸受予圧を調整するものである。低速重切削時においては、予圧を大として軸受剛性を高くする必要がある。その時には間座を加熱することで軸方向に膨張させて予圧を大きくする。高速の軽切削時においては、大きな予圧は不要であることから、低速時とは逆に放冷することで間座を収縮させて予圧を減少させている。
【0004】
特許文献2の方法は、内輪に線膨張係数と密度が小さくて弾性係数の大きなセラミックスを使用することで、運転中に生じる内輪の径方向膨張(温度,遠心力による)を抑制して過度の予圧増加を抑えるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−64127号公報
【特許文献2】特開2009−74682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
運転中の軸受予圧は、内外輪の温度差に影響を受ける。一般的に、鋼製の内外輪を使用して運転すると、内輪での発生熱は軸受箱が強制冷却される外輪側に比べ放熱し難く、結果温度は、(内輪)>(外輪)となってしまう。即ち、運転中の内輪軌道径の膨張量は、この温度上昇と回転による遠心力のため、外輪軌道径の膨張量に対して大きくなってしまう。このことが運転中の予圧増大をもたらす主要因となっている。
【0007】
この運転中の予圧増大要因に鑑みて提案されている前項記載の技術についてその特性をみてみる。特許文献1の方法は、発熱体による間座の温度上昇、又は冷却に時間を要し、予圧制御の応答性が悪くなってしまう欠点がある。一定回転速度での長時間加工には向いているが、頻繁に回転速度が変化する加工機には不向きである。また、内輪にセラミックスを使用した特許文献2の方法に関しては、内輪軌道径の膨張でみると、鋼製内輪使用とで比較した場合、運転中の膨張量は小さくなって予圧増大が緩和される。しかし、最近の工作機械では、スピンドル内にモータを内臓するビルトイン構造とする場合が多くなってきている。この構造では軸受近傍にモータが配置されるため、モータの発熱が軸に伝わり、軸受発熱と相俟って軸温度を高くする傾向にある。即ち、軸の温度上昇が内輪膨張を誘発させることになり、内輪にセラミックスを使用しても予圧の抑制には限界がある。
【0008】
この発明の目的は、外輪と内輪の軌道径膨張差を利用することで、付帯設備を必要とせずに、比較的簡易な構成で、軸の遠心力及び温度上昇による内輪膨張の影響を小さくし、予圧増大を抑制することのできる転がり軸受の予圧調整構造およびスピンドル装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の転がり軸受の予圧調整構造は、定位置予圧で使用される転がり軸受において、内輪を外輪の材質よりも線膨張係数の小さな材質とし、内輪の内周面の全体または一部と軸とをすきま嵌めとしたことを特徴とする。例えば、内輪の内周面の全体と軸とをすきま嵌めとし、内輪と軸の嵌めあいすきまを、軸受の許容最高回転速度で軸が回転している時に、その嵌めあいすきまが0となるように初期設定する。
【0010】
この構成において、内輪と軸とのすきま嵌めは、軸の温度上昇及び遠心力に伴う径方向膨張が内輪に及ばないようにするためのものである。よって、すきま嵌めのすきま量としては、使用時の最高回転速度時において内輪内径と軸が接触するすきま量とする。すなわち、内輪と軸の温度上昇、及び遠心力による膨張差によって、嵌めあいすきまが0となるすきま量とする。
このように、軸の温度上昇及び遠心力に伴う径方向膨張が内輪に及ばないようにすることで、運転中の軸受予圧の増大が緩和されて、更なる高速化が図れ、軸受寿命の延長にも繋がる。工作機械の主軸軸受に適用した場合は、高速化によって加工効率の向上が図れる。また、初期予圧を大きくでき、低速での主軸剛性を高めると共に、工作機械用途では、加工精度の向上が期待できる。また、全回転領域で主軸の高剛性化が図れる。しかも、予圧調整のための付帯設備が不要であり、安価に予圧調整機構が構成できる。
【0011】
この発明において、前記内輪の軸方向の両側に一対の側輪を設け、前記内輪は、両側面が、内周部に環状の段差形成突部が突出した段付き形状であり、前記両側の側輪は、前記内輪の前記段差形成突部に嵌まり合う環状凹部を側面に有し、この環状凹部の内周面で前記内輪の前記段差形成突部の外周面に締り嵌めされ、かつ前記両側輪を軸と締り嵌めしても良い。前記側輪は、前記段差形成突部の側面に接着剤で接着固定しても良い。前記側輪の材質は、例えば外輪の材質と同じ材質とされるが、外輪とは別の材質であっても良い。なお、前記内輪と一対の側輪とは、例えば、通常の一体の内輪を、軌道面を有する部分である内輪本体とその軸方向両側の部分である一対の側輪とに分割したものであっても良い。
内輪と軸とをすきま嵌めとするため、内輪の径方向の位置決めが必要である。この構成の場合、内輪の両側に側輪を配置し、内輪の段差形成突部に圧入と接着により固定されている。軸との嵌めあいは、側輪の内径面で締り嵌めとする。即ち内輪と軸はすきま嵌めで、内輪の径方向固定は側輪にて行われる。
【0012】
この発明において、前記外輪及び内輪の材質として、外輪に鋼、内輪にセラミックスを使用しても良い。前記セラミックスは、窒化珪素(Si3 N4 )を主成分とする焼結体であっても良い。
使用する内輪の材質について説明する。運転による軸受温度は、(内輪温度)>(外輪温度)の関係であり、回転速度上昇に伴いその差は大きくなりながら推移する。その際、内輪の膨張量と外輪の膨張量の関係を、((内輪軌道径×内輪温度上昇×内輪線膨張係数)+(回転による遠心力膨張))<(外輪軌道径×外輪温度上昇×外輪線膨張係数) となるようにする。この関係が成立する内輪の線膨張係数材を内輪の材質とする。例えば、内輪材としてセラミックス(Si3 N4 )を適用し、外輪を鋼製とすれば、その線膨張係数は約1/3であり、実用的な軸受回転速度とその内外輪温度差を考えると十分に予圧調整可能である。
【0013】
運転中の予圧と軸との嵌めあい部の状況は,次のようになる。
・軸受組立て後 ;軸受初期予圧0 或いは若干の予圧を付加。
・運転中 ;内外輪の温度及び遠心力による内外輪軌道径膨張量は、外輪>内輪
となって予圧の増加は小さい。
・最高回転速度 ;(鋼製軸の膨張(温度及び遠心力による))>(内輪の膨張)により嵌め合い部のすきまが0となって内輪本体と軸とが直接接触。これ以上の高速となると、内輪の膨張は軸の膨張が支配的となってしまうため,予圧は増加していくことになる。
【0014】
この発明において、前記転がり軸受を背面組合せで一対配置しても良い。また、前記転がり軸受を正面組合せで一対配置しても良い。
【0015】
前記転がり軸受は、予圧可能な軸受であり、例えば、アンギュラ玉軸受、またはテーパころ軸受である。
【0016】
この発明において、前記軸が、工作機械の主軸であっても良い。工作機械の主軸は高速化が進んでおり、この発明の転がり軸受の予圧調整構造を採用することで、さらなる高速化による加工効率の向上と、剛性向上による加工精度の向上が図れる。
【0017】
この発明のスピンドル装置は、この発明の転がり軸受の予圧調整構造で主軸が支持されたスピンドル装置である。このスピンドル装置は、前記主軸の工具またはワークの取付側端である前端側の部分が、一対の転がり軸受で支持されて、これら一対の転がり軸受に、この発明の転がり軸受の予圧調整構造が適用され、前記主軸の後端側の部分が、円筒ころ軸受により支持されたものであっても良い。
工作機械のスピンドル装置にこの発明の転がり軸受の予圧調整構造を適用することで、さらなる高速化による加工効率の向上と、剛性向上による加工精度の向上が図れる。
【発明の効果】
【0018】
この発明の転がり軸受の予圧調整構造は、定位置予圧で使用される転がり軸受において、内輪を外輪の材質よりも線膨張係数の小さな材質とし、内輪の内周面の全体または一部と軸とをすきま嵌めとしたため、回転速度の上昇に対し、内外輪軌道径の膨張量を(外輪)>(内輪)とできて、回転速度の上昇に伴う予圧の増大が抑制される。そのため、付帯設備を必要とせずに、比較的安価となる簡素な構成で、高回転時等における軸の遠心力及び温度上昇による内輪膨張の影響を小さくし、予圧増大を抑制できる予圧調整が実現できる。
この発明の工作機械のスピンドル装置は、この発明の転がり軸受の予圧調整構造を適用したため、高速化による加工効率の向上と、剛性向上による加工精度の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の一実施形態に係る転がり軸受の予圧調整構造を適用した工作機械のスピンドル装置の一例を示す断面図である。
【図2】その背面組み合わせで配置した一対の転がり軸受を示す断面図である。
【図3】同転がり軸受の断面図である。
【図4】回転速度と内外輪温度の関係を示すグラフである。
【図5】軸との嵌め合い方法による膨張量の比較を示すグラフである。
【図6】各種条件での軸受予圧計算結果を示すグラフである。
【図7】他の実施形態における転がり軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図3と共に説明する。図1は、この転がり軸受の予圧調整構造を適用した工作機械のスピンドル装置の例を示す。主軸1のワークまたは工具(図示せず)が取り付く前側部分は、ラジアル負荷とアキシアル負荷を受けるアンギュラ玉軸受からなる一対の転がり軸受11,11を背面組合せで配置し、後側部分に、ラジアル荷重を受けながら主軸1の振れ止めを目的とする円筒ころ軸受からなる転がり軸受12を配置している。各転がり軸受11,12の外輪2,22は、ハウジング13の内周面に嵌合し、内輪3,23が主軸1の外周面に嵌まりあっている。
【0021】
ハウジング13は、ハウジング本体13Aと、このハウジング本体13Aの前後両側の端面にボルト(図示せず)等で着脱可能に取付けられた前蓋13Bおよび後ろ蓋13Cからなる。ハウジング本体13Aは、前側の一対の転がり軸受11,11のうちの後ろ側の転がり軸受11の外輪2の端面を係合させる段差部13aと、後端の転がり軸受12の外輪22の端面を係合させる段差部13bとを有している。
【0022】
前側の一対の転がり軸受11,11の外輪2,2間には外輪間座18が設けられ、前蓋13Bは、ハウジング本体13Aの内径面に嵌合して前端の転がり軸受11の外輪2の端面に係合する筒状部13Baを有している。前側2個の転がり軸受11,11は、前蓋13Bがハウジング本体13Aに前記ボルトで締め付け固定されることで、前記筒状部13Baとハウジング本体13Aの前記段差部13aとの間に、両転がり軸受11,11の外輪2,2と外輪間座13とが挟み付け状態に固定される。後端の転がり軸受12の外輪22は、後ろ蓋13Cに設けられた筒状部13Caとハウジング本体13Aの前記段差部13bとの間に挟み付け状態に固定される。
【0023】
主軸1には、前端の外周に雄ねじ部1aが形成され、後端付近に段差部1bが設けられている。前側の一対の転がり軸受11,11の各内輪3,3は、後述のように内輪組3A,3Aを構成していて、これら一対の転がり軸受11,11の各内輪組3A,3Aの内輪組3A,3Aと、後端の転がり軸受12の内輪23とは、雄ねじ部1aに螺合したリングナット9の締め付けにより、リングナット9と主軸後端の段差部1bとの間で、各内輪間座14〜17と共に、挟み付け状態に固定されている。各内輪間座14〜17は、それぞれ、リングナット9と前端の転がり軸受11の内輪組3Aとの間、一対の転がり軸受11,11の内輪組3A,3A間、一対の転がり軸受11,11のうちの後ろ側の転がり軸受11の内輪組3Aと後端の転がり軸受12の内輪23との間、後端の転がり軸受12の内輪23と主軸1の段差部1bとの間に設けられた間座である。
このように内輪間座14〜17、および外輪間座13を配置して前側の一対の転がり軸受11,11を位置決めすることで、これら一対の転がり軸受11,11に定位置予圧を与えている。
【0024】
前側のアンギュラ玉軸受からなる一対の転がり軸受11,11と、後側の円筒ころ軸受からなる転がり軸受12とは、通常では、軸剛性を確保するため、組立後の軸受すきまを0〜負すきまとするのが一般的である。この実施形態でも軸受すきまを0〜負すきまとしているが、次に説明する工夫を施している。なお、各転がり軸受11,12の潤滑は、グリース潤滑、ジェット潤滑、エアオイル潤滑等のいずれかの潤滑構造が用いられる。
【0025】
前側の一対の転がり軸受11は、図2に示すように、外輪2と、内輪組3Aと、玉からなる転動体4と、保持器5とからなる。内輪組3A以外の軸受構成部品は、従来のものがそのまま使用できる。転動体4は、鋼製、セラミックス製のどちらでも使用できる。上記のように、一対の転がり軸受11,11間には、組込み後の軸受アキシアルすきま(予圧)を設定する内輪間座15と外輪間座18が挿入されていて、これらの間座15,18の幅寸法を調整することで、転がり軸受11,11の初期予圧が設定できる。
【0026】
図3に示すように、転がり軸受11は、内輪3の軸方向の両側に一対の側輪6,7を設け、これら内輪3と一対の側輪6,7とで前記内輪組3Aを構成している。内輪組3Aは、いわば一般の内輪を、軌道面を有する内輪本体とその両側の側輪とでなる分割構造としたものであり、内輪本体が、前記内輪3となる。内輪3の材質は、外輪2に比して線膨張係数の小さな、例えば窒化珪素,サイアロン,アルミナ,ジルコニア等のファインセラミックスから成る。内輪3は、窒化珪素(Si3 N4 )を主成分とする焼結体であっても良い。両側の側輪6,7は鋼製であり、例えば外輪2と同じ材質とされる。
【0027】
内輪3は、両側面が、内周部に環状の段差形成突部3a,3bが突出した段付き形状であり、両側の側輪6,7は、内輪3の段差形成突部3aに嵌まり合う環状凹部6a,7aを側面に有する。両側の側輪6,7は、内輪3の段差形成突部3a,3bの外周面3aa,3baに締り嵌めされる。両側の側輪6,7は、内輪3の段差形成突部3a,3bよりも外周側の側面部分である肩部側面3c,3dに接して位置決めされる。また、側輪6,7は、段差形成突部の3a,3bの側面3ab,3bbに接着剤で接着固定する。この接着剤は、例えば、30〜50μmの接着剤層とされる。
【0028】
軸1に対して、側輪6,7は軸1と締り嵌めする。内輪3の段差部3a,3bに対する側輪6,7の嵌合面の初期締め代は、軸1が許容最高速度で回転しても締め代が残留するように設定されている。また、2つの側輪6,7と軸1との嵌めあいについても、軸1の許容最高速度において締め代が残留する初期締め代としてあり、これにより安定した運転が可能となる。
【0029】
内輪組3Aの内輪本体となる内輪3と軸1との嵌めあい部3eは、すきま嵌めとする。そのすきまの量は、内輪3の材質及び使用可能な最高回転速度として定められる許容最高回転速度により決定され、許容最高回転速度に達するまではすきまが確保され、許容最高回転速度で0となるように隙間量が定められる。
【0030】
上記構成の作用につき説明する。上記のような外輪2が鋼製で、内輪3がが外輪2よりも線膨張係数の小さな窒化珪素(Si3 N4 )で構成された転がり軸受11において、その内外輪軌道径の膨張量と予圧について運転試験結果を基に考えてみる。転がり軸受11は、内径φ70mmのアンギュラ玉軸受を背面組合せでエアオイル潤滑して運転した場合を想定する。まず、運転中に過度な予圧とならないような初期予圧で運転した時の内輪と外輪温度の試験結果を図4に示す。転がり軸受11を運転すると、放熱で不利な内輪3の温度が外輪2の温度に比べ高くなって、回転速度の上昇に伴い温度差も大きくなって行くことが分かる。
【0031】
この内外輪温度を基に、両者軌道輪の径方向膨張量を、セラミックス内輪と軸の嵌めあい方法で計算比較した結果が図5である。なお、内輪膨張量計算においては、内輪温度と軸温度は同等とし、また遠心力の影響も考慮した。内輪と軸の嵌めあいで、初期嵌めあい0の場合の膨張量は、軸(鋼製)の温度上昇による影響が大きく、軌道輪膨張量は(内輪)>(外輪)となり、運転中の軸受予圧は大きくなってしまうことが推測できる。
一方、この実施形態のように、内輪3と軸1をすきま嵌めした場合、内輪3の軌道径膨張量は外輪の軌道径膨張量よりも小さくなることが分かる。この外輪2よりも内輪3の膨張量を小さくできることが、定位置予圧で高速運転しても予圧増大を抑制できる所以である。
【0032】
図4の軸受温度から各種条件で運転した時の軸受予圧を計算すると図6になる。グラフ毎の諸条件は次の通りである。
A;鋼製内輪使用(一体型内輪の軸受構造)
内輪嵌めあい代0
初期軸受すきま0
B;セラミック内輪使用(図3の軸受構造)
内輪嵌めあい代0
初期軸受すきま0
C;セラミック内輪使用(図3の軸受構造)
内輪はめあい代31μm すきま
初期軸受すきま0
D;セラミック内輪使用(図3の軸受構造)
内輪嵌めあい代31μm すきま(25000min-1の時,すきま0となる初期すきま) 初期軸受すきま−30μm (1kN の予圧)
【0033】
運転中の軸受予圧で最も大きくなるのはAの鋼内輪使用時で、回転速度の増加による予圧の増大傾向が大きい。内輪材質を鋼からセラミックスに換えたBは、軸受予圧の軽減に効果的ではあるが、軸の温度上昇による内輪膨張のため回転速度の上昇に伴い予圧は増大する。更なる高速化を狙うには限界がある。一方、内輪と軸との嵌めあいをすきま嵌めとしたCは、予圧の増加が小さくなることが分かる。また、すきま嵌めの場合、Dに示したように初期予圧として−30μm(1kN の予圧荷重)付与した条件においても予圧の増大は小さく、低速から高速まで定位置予圧でありながら定圧予圧のような予圧変化となる。このように線膨張係数の小さな内輪3を、軸1とすきま嵌めする構造は、運転による軸受予圧の増大を抑制することができ、軸受の高速化、長寿命化に有効な手段といえる。
【0034】
この実施形態の転がり軸受の予圧調整構造によると、整理すると、次の各利点が得られる。
(1)運転中の軸受予圧の増大が緩和されて,更なる高速化即ち加工効率の向上,又は軸受寿命の延長が図れる。
(2)初期予圧を大きくでき、低速での主軸剛性を高めると共に加工精度の向上が期待できる。
(3)全回転領域で主軸の高剛性化が図れる。
(4)予圧調整のための付帯設備が不要であり,安価に予圧調整機構が構成できる。
【0035】
なお、内輪3にセラミックスを用いる場合、図3の構造は組立後の軸受中心と軸中心を一致させることができ、低速から高速度まで実用できる。仮に許容最高速度条件のみ使用する機械においては、一体形の内輪(いわば、図3の内輪3と側輪6,7とを互いに一体とした内輪)の材質をセラミックスとして、軸1との嵌めあいを最高回転数の時に締り嵌めとなるような初期すきまを設定すれば、側輪6,7なしでも最高回転数で十分使用可能となる。
【0036】
これまでは、内輪3にセラミックスを使用したアンギュラ玉軸受を背面組合せで使用する場合について解説してきたが、もちろん正面組合せであっても同じような効果が期待できる。また、アンギュラ玉軸受と同様に接触角を持つテーパころ軸受、例えば図7に示すテーパころ軸受への適用も可能である。図7において、図3の例と対応する部分には図3と同じ符号を付した。
【符号の説明】
【0037】
1…軸
2…外輪
3a,3b…段差形成突部
3A…内輪組
3…内輪
4…転動体
5…保持器
6,7…側輪
11…転がり軸受


【特許請求の範囲】
【請求項1】
定位置予圧で使用される転がり軸受において、内輪を外輪の材質よりも線膨張係数の小さな材質とし、内輪の内周面と軸とをすきま嵌めとしたことを特徴とする転がり軸受の予圧調整構造。
【請求項2】
請求項1において、内輪と軸の嵌めあいすきまを、軸受の許容最高回転速度で軸が回転している時に、その嵌めあいすきまが0となるように初期設定した転がり軸受の予圧調整構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記内輪の軸方向の両側に一対の側輪を設け、前記内輪は、両側面が、内周部に環状の段差形成突部が突出した段付き形状であり、前記両側の側輪は、前記内輪の前記段差形成突部に嵌まり合う環状凹部を側面に有し、この環状凹部の内周面で前記内輪の前記段差形成突部の外周面に締り嵌めされ、かつ前記両側輪を軸と締り嵌めした転がり軸受の予圧調整構造。
【請求項4】
請求項3において、前記側輪を、前記段差形成突部の側面に接着剤で接着固定した転がり軸受の予圧調整構造。
【請求項5】
請求項3または請求項4において、前記両側の側輪は、前記内輪の前記段差形成突部よりも外周側の側面部分である肩部側面に接して位置決めされる転がり軸受の予圧調整構造。
【請求項6】
請求項3ないし請求項5のいずれか1項において、前記側輪の材質を、外輪の材質と同じ材質とした予圧調整構造。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、外輪の材質を鋼とし、内輪の材質を外輪の鋼よりも線膨張係数が小さく、かつ、内輪の膨張量と外輪の膨張量の関係として、 ((内輪軌道径×内輪温度上昇×内輪線膨張係数)+(回転による遠心力膨張))<(外輪軌道径×外輪温度上昇×外輪線膨張係数)
となる関係が成立する線膨張係数材を内輪の材質とする転がり軸受の予圧調整構造。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記外輪及び内輪の材質として、外輪に鋼、内輪にセラミックスを使用した転がり軸受の予圧調整構造。
【請求項9】
請求項8において、前記セラミックスは、窒化珪素(Si3 N4 )を主成分とする焼結体である転がり軸受の予圧調整構造。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記転がり軸受を背面組合せで一対配置した転がり軸受の予圧調整構造。
【請求項11】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記転がり軸受を正面組合せで一対配置した転がり軸受の予圧調整構造。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項において、前記転がり軸受がアンギュラ玉軸受である転がり軸受の予圧調整構造。
【請求項13】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項において、前記転がり軸受がテーパころ軸受である転がり軸受の予圧調整構造。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれか1項において、前記軸が、工作機械の主軸である転がり軸受の予圧調整構造。
【請求項15】
請求項14に記載の転がり軸受の予圧調整構造で主軸が支持された工作機械のスピンドル装置。
【請求項16】
請求項15において、前記主軸の工具またはワークの取付側端である前端側の部分が、一対の転がり軸受で支持されて、これら一対の転がり軸受に、請求項7または請求項8に記載の転がり軸受の予圧調整構造が適用され、前記主軸の後端側の部分が、円筒ころ軸受により支持された工作機械のスピンドル装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−72804(P2012−72804A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216816(P2010−216816)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】