説明

転がり軸受の劣化評価方法

【課題】シールドタイプの転がり軸受に対しても余寿命を求めることができる転がり軸受の劣化評価方法を提供すること。
【解決手段】転がり軸受の劣化評価方法は、Is値による無元量化した転がり軸受劣化曲線、及び、Is値と振動加速度との相関曲線をそれぞれ求める第1工程と、転がり軸受劣化曲線に対し相関曲線のIs値と振動加速度との関係を適用することにより、振動加速度を基準とした転がり軸受劣化曲線を求める第2工程と、実機転がり軸受の振動加速度を少なくとも2つの測定時点で測定し、各測定時点において測定された振動加速度を、振動加速度を基準とした転がり軸受劣化曲線上に展開することにより、各振動加速度値を示す無元量化した経過時間を求め、該求めた無元量化した経過時間と各測定時点とに基づいて当該実機転がり軸受の余寿命を求める第3工程とから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実機における転がり軸受の余寿命を求めるための転がり軸受の劣化評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり軸受のうち玉軸受の定格疲れ寿命Lhは、下記式(1)で表される。
【0003】
h=(106/60n)・(C/P)3 (1)
(n:回転数(rpm)、C:基本動定格荷重、P:軸受荷重)
そして、実験結果をもとに軸受の異常認知から寿命(焼付きまたは破損)までの余寿命計算式を下記式(2)で表したものが知られている(非特許文献1参照)。
【0004】
dh=(0.032×106/60n)・(C/P)3.37 (2)
【非特許文献1】井上紀明著「現場の質問に答える 実践 振動法による設備診断」日本プラントメンテナンス協会出版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記式(1)は、軸受メーカーが安全サイドの見地から90%の軸受が寿命に至らない場合を想定して定められているため、上記式(1)を用いた転がり軸受の劣化評価方法は実用性に欠けるという問題がある。
【0006】
また、本発明者らは、試験条件に上記式(2)を当てはめ、異常認知後の軸受の余寿命を試験結果と比較したところ、下記表1に示すような対比結果が得られ、上記式(2)を用いた転がり軸受の劣化評価方法では、異常認知後の軸受の余寿命を十分に予測できるとはいえないことが判明した。
【0007】
【表1】

そこで、本発明に先立ち、転がり軸受の余寿命を十分に予測することができる転がり軸受の劣化評価方法を提供することを目的として、次のような未公開の発明、つまり、試験用転がり軸受に定量フェログラフィ法を適用することによって求めたIs値から転がり軸受劣化評価曲線を作成する工程と、実機転がり軸受の異常発生後の任意の時点で定量フェログラフィ法を適用し、Is値を求める工程と、該求めたIs値を前記転がり軸受劣化評価曲線上に展開し、当該実機転がり軸受の余寿命を求める工程とからなることを特徴とする転がり軸受の劣化評価方法に係る発明がなされた。
【0008】
この前提発明は、下記のような知見に基づいてなされたものである。
【0009】
従来から、転がり軸受の劣化評価方法として、潤滑油診断法の中心技術をなすフェログラフィ法を用いた劣化評価方法が知られている。
【0010】
フェログラフィ法は、潤滑油中に含まれている摩耗粒子を磁気勾配を有する強力な磁場で大きさの順に配列分離する。
【0011】
そして、定量フェログラフィ法では、分離した摩耗粒子に対して光を照射し、光の透過量により例えば5μm以上の大摩耗粒子濃度PL及び例えば1〜2μm程度の小摩耗粒子濃度PSを測定し、摩耗の異常度PL−PSと全摩耗量WPC(=PL+PS)とから異常摩耗指数Isを下記式(3)により求め、このIs値から転がり軸受の劣化状態を診断している。
【0012】
Is=(PL−PS)×(PL+PS)=PL2−PS2 (3)
このIs値に着目し、Is値と転がり軸受の余寿命との関係を検討したところ、多数の過去の診断データ及び新たな劣化加速試験による試験データから、Is値と余寿命との間に密接な関係があり、Is値が所定値まで増大すると転がり軸受の劣化が開始し、つまり転がり軸受に異常が発生し、その後、Is値がさらなる所定値まで増大すると転がり軸受が焼付きまたは破損を起こすことが判明した。さらに、転がり軸受の劣化開始時点(異常発生時点)から焼付きまたは破損が生じる時点(寿命時点)までのIs値の変化曲線は指数関数などで代表できることが判明した。
【0013】
前提発明は、上記のような知見に基づいてなされたのである。
【0014】
前提発明によると、定量フェログラフィ法によるIs値から作成した転がり軸受劣化評価曲線は、転がり軸受の異常発生時点から寿命時点までのIs値の変化をほぼ正確に表しているため、実機転がり軸受に定量フェログラフィ法を適用して求めたIs値を転がり軸受劣化評価曲線上に展開することにより、実機転がり軸受の余寿命を十分に予測することができるようになる。
【0015】
しかし、フェログラフィ法を用いた転がり軸受の劣化評価方法は、実機の運転中に潤滑油のサンプリングが不可能なシールドタイプの転がり軸受に対して使用することができないという問題がある。
【0016】
本発明は、上記前提発明の問題点を解決し、シールドタイプの転がり軸受に対しても余寿命を求めることができる転がり軸受の劣化評価方法を提供することを目的とする。
【0017】
上記目的の下、本発明者らは、試験結果等から得られたIs値と振動加速度との相関をグラフで表したところ、図1に示すように、Is値と振動加速度とに十分な相関関係があることが分かった。
【0018】
このようなIs値と振動加速度との相関関係に立脚し、シールドタイプの転がり軸受に対してもその振動加速度から余寿命を推定することが可能であるとの結論に達した。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明による転がり軸受の劣化評価方法は、Is値による無元量化した転がり軸受劣化曲線、及び、Is値と振動加速度との相関曲線をそれぞれ求める第1工程と、前記転がり軸受劣化曲線に対し前記相関曲線のIs値と振動加速度との関係を適用することにより、振動加速度を基準とした転がり軸受劣化曲線を求める第2工程と、実機転がり軸受の振動加速度を少なくとも2つの測定時点で測定し、各測定時点において測定された振動加速度を、前記振動加速度を基準とした転がり軸受劣化曲線上に展開することにより、各振動加速度値を示す無元量化した経過時間を求め、該求めた無元量化した経過時間と前記各測定時点とに基づいて当該実機転がり軸受の余寿命を求める第3工程とから構成されることを特徴とする。ここで、「無元量化」とは、全ての軸受劣化現象を同等に比較するために、初期状態から終末(限界)状態までの単位軸(時間軸)を便宜上「1」という無次元の単位量として表したものをいう。
【0020】
本発明によると、振動加速度を情報とした軸受状態の正確かつ定量的な予測が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本実施形態による転がり軸受の劣化評価方法は、Is値による無元量化した転がり軸受劣化曲線、及び、Is値と振動加速度との相関曲線をそれぞれ求める第1工程と、転がり軸受劣化曲線に対し相関曲線のIs値と振動加速度との関係を適用することにより、振動加速度を基準とした転がり軸受劣化曲線を求める第2工程と、実機転がり軸受の振動加速度を少なくとも2つの測定時点で測定し、各測定時点において測定された振動加速度を、振動加速度を基準とした転がり軸受劣化曲線上に展開することにより、各振動加速度値を示す無元量化した経過時間を求め、該求めた無元量化した経過時間と各測定時点とに基づいて当該実機転がり軸受の余寿命を求める第3工程とから構成される。
【0022】
第1工程において、Is値による無元量化した転がり軸受劣化曲線(直線を含む。)の一例を図2に示す。図2において、経過時間「0」は、Is値が所定値例えば101になる劣化開始時点(異常発生時点)に対応しており、また、経過時間「1」は、Is値が所定値例えば103になる管理寿命時点に対応している。また、Is値と振動加速度との相関曲線は上述したように図1に示される。
【0023】
第2工程において、図1及び図2から振動加速度を基準とした転がり軸受劣化曲線を求めると、図3に示す通りとなる。
【0024】
第3工程において、実機転がり軸受の測定データを図4に示す。この測定データは、測定時点がτ1、τ2で、各測定時点τ1、τ2で測定された振動加速度がG1、G2である。この測定された振動加速度G1、G2は図5に示すマスターカーブ(振動加速度を基準とした転がり軸受劣化曲線)上に展開され、振動加速度値G1、G2を示す無元量化した経過時間t1,t2を求める。なお、図5に示すマスターカーブは、図3に示した転がり軸受劣化曲線をイメージ化したものであり、図3と同一曲線である。そして、下記式(4)により実機転がり軸受の余寿命τ3を求める。
【0025】
2−τ1)/(t2−t1)=(τ3−τ2)/(1−t2)
τ3=τ2+(τ2−τ1)(1−t2)/(t2−t1) (4)
以上説明したように、本実施形態によると、振動加速度を情報とした軸受状態の正確かつ定量的な予測が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】Is値と振動加速度との相関曲線図である。
【図2】Is値による転がり軸受劣化曲線図である。
【図3】振動加速度を基準とした転がり軸受劣化曲線図である。
【図4】実機データ図である。
【図5】マスターカーブ図(振動加速度を基準とした転がり軸受劣化曲線図)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Is値による無元量化した転がり軸受劣化曲線、及び、Is値と振動加速度との相関曲線をそれぞれ求める第1工程と、
前記転がり軸受劣化曲線に対し前記相関曲線のIs値と振動加速度との関係を適用することにより、振動加速度を基準とした転がり軸受劣化曲線を求める第2工程と、
実機転がり軸受の振動加速度を少なくとも2つの測定時点で測定し、各測定時点において測定された振動加速度を、前記振動加速度を基準とした転がり軸受劣化曲線上に展開することにより、各振動加速度値を示す無元量化した経過時間を求め、該求めた無元量化した経過時間と前記各測定時点とに基づいて当該実機転がり軸受の余寿命を求める第3工程と
から構成されることを特徴とする転がり軸受の劣化評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−71717(P2007−71717A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−259508(P2005−259508)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【出願人】(501016995)トライボ・テックス株式会社 (9)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】