説明

転がり軸受及びそれを備えたダンパー付きプーリー

【課題】微小揺動時や外部から振動が加えられた際に、外方環状部材及び内方環状部材と転動体との接触面におけるフレッチング摩耗の発生を抑制することが可能な転がり軸受及びそれを備えたダンパー付きプーリーを提供する。
【解決手段】相対回転する外方環状部材2及び内方環状部材4と、外方環状部材2及び内方環状部材4の互いに対向する軌道溝間で転動する複数の転動体6を備える転がり軸受1であって、転動体6は、質量比でジルコニア‐イットリア成分:アルミナ成分=50:50〜95:5の割合で含有して形成されており、ジルコニア‐イットリア成分は、イットリアの含有率が1.5モル%以上5.0モル%以下の範囲内であるジルコニアから形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受及びそれを備えたダンパー付きプーリーに係り、例えば、自動車のオルタネータ等に用いるダンパー付きプーリーが備える転がり軸受に対し、微小揺動時に生じるフレッチング摩耗を防止する転がり軸受及びそれを備えたダンパー付きプーリーに好適な技術である。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のクランクシャフトとオルタネータとを連結する回転伝達系においては、エンジン燃焼工程によるクランクシャフトの回転方向の増速・減速が頻繁に繰り返されるような回転変動が生じる。そのため、エンジン動力を用いて、ベルトを介してオルタネータ発電軸と一体となったプーリーを駆動させている構造においては、ベルト速度が加減速する際に、駆動プーリーとベルトとの間で滑りが生じやすく、ベルト鳴きが誘発され易かった。
そこで、上記の回転伝達系に好適なプーリー、すなわち、プーリー回転方向のトルク変動を抑制するような構造として、例えば、特許文献1に記載されているように、相対回転可能な二つの回転体の間に弾性部材を介したダンパー付きプーリーの構造等が積極的に採用されている。
【0003】
二つの回転体の間に弾性部材を介したダンパー付きプーリーとしては、例えば、図10に示すものがある。なお、図10は、従来例のダンパー付きプーリーの構成を示す図である。
図10中に示すように、このダンパー付きプーリー32は、図外のオルタネータ側のみに配置した転がり軸受1を介して、プーリー28とハブ30が相対回転する構成となっている。
【0004】
転がり軸受1は、相対回転する外方環状部材2及び内方環状部材4と、外方環状部材2及び内方環状部材4の互いに対向する軌道溝間で転動する複数の転動体6と、弾性部材34を備えている。ここで、外方環状部材2は、プーリー28の内周側に配置されており、内方環状部材4は、ハブ30の外周側に配置されている。また、転動体6は、鋼球等の球(ボール)を用いて形成され、外方環状部材2及び内方環状部材4は、金属材料である軸受鋼を用いて形成されている。
【0005】
そして、このような転がり軸受1を備えたダンパー付きプーリー32では、転がり軸受1が片側のみ、具体的には、オルタネータ側にのみ配置されているため、オルタネータの作動時等、ダンパー付きプーリー32がクランクシャフト(図示せず)等、外部からの振動を受けた際に、転がり軸受1が、外方環状部材2及び内方環状部材4の軸方向に微小揺動することとなる。
【0006】
転がり軸受1が、外方環状部材2及び内方環状部材4の軸方向に微小揺動すると、転動体6の表面や、外方環状部材2及び内方環状部材4が有する軌道溝(転動体6が転がる溝)の表面に、衝撃的な繰返し荷重が加わる。
衝撃的な繰返し荷重が発生すると、転動体6と軌道溝との接触点に、微小滑りが発生しやすくなる。また、転がり軸受1の非稼動状態において、グリース等の潤滑油が転動体6や軌道溝の表面へ十分に供給されておらず、油膜が十分に形成されていない状態で、転動体6と軌道溝との接触点に微小滑りが発生すると、金属同士(外方環状部材2及び内方環状部材4と、転動体6)が接触してしまう。
【0007】
金属同士の接触による微小滑りが発生すると、転動体6の表面や軌道溝の表面に、フレッチング摩耗が生じることになる。また、転がり軸受1が外部からの振動を受けた場合、転動体6と軌道溝との接触面がほとんど変化しないため、グリース等の潤滑油を転動体6や軌道溝の表面へ十分に供給することが困難であり、フレッチング摩耗を抑制することが困難である。
【0008】
上記のようなフレッチング摩耗が生じると、転動体6及び軌道溝の表面形状の精度が悪化し、軸受トルクの増大や、損傷部を起点とした剥離等、様々な不具合が生じて、音響レベルの増加や、回転精度の著しい低下が発生するおそれがある。
このような問題に対し、転動体及び軌道溝の摩耗、特に、フレッチング摩耗を軽減する技術として、例えば、特許文献2に記載の技術や、特許文献3に記載の技術や、特許文献4に記載の技術が開示されている。
【0009】
特許文献2に記載の技術は、転動体として、鋼材等の金属材料を用いて形成した鋼球の代わりに、セラミックスを用いて形成したセラミックボールを使用するものである。ここで、セラミックスは、外方環状部材及び内方環状部材を構成する鋼の平均線膨張率との差が小さい材料である。また、特許文献2に記載の技術では、セラミックボールを、アルミナ(Al)を主成分(例えば、99.5質量%以上含有)として形成している。
【0010】
また、特許文献3に記載の技術は、転がり軸受の有効仕事量(=有効接触面積×平均面圧×すべり量×摩擦係数)を求め、この有効仕事量に基づいて、フレッチング摩耗による異音の発生を予測するものである。
また、特許文献4に記載の技術は、外方環状部材の外径、内方環状部材の内径及び転動体のピッチ円直径等、転がり軸受の内部の設計を変更することにより、転がり軸受の微小揺動時における振幅比を大きくして、油膜を確保するものである。
また、特許文献2から4に記載の技術以外にも、例えば、転動体(ボール)の転がり方向に微小揺動が生じる際のフレッチング摩耗対策として、転がり軸受の振幅比を大きくするために、軌道溝の曲率(R)を小さくする技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2008−528906号公報
【特許文献2】特開2005−188726号公報
【特許文献3】特開2005−10134号公報
【特許文献4】特開2010−65829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、セラミックスは、鋼材と比較して高価であるため、上述した特許文献2に記載の技術のように、転動体としてセラミックボールを使用すると、転動体として鋼球を使用した転がり軸受と比較して、部品コストが増加するという問題が発生する。また、転動体としてセラミックボールを使用した場合であっても、転がり軸受に加わる微小揺動や外部からの振動によっては、フレッチング摩耗の発生を抑制することが可能な転がり軸受を提供することは困難である。
【0013】
また、上述した特許文献3に記載の技術では、フレッチング摩耗による異音の発生を予測することは可能であるが、フレッチング摩耗の発生を抑制することが可能な転がり軸受を提供することは困難である。
また、上述した特許文献4に記載の技術では、設計段階で想定された以上の微小揺動や外部からの振動が転がり軸受に加わった場合、フレッチング摩耗の発生を抑制することが可能な転がり軸受を提供することは困難である。また、特許文献4に記載の技術のように、転がり軸受内部の設計変更には限界があり、全ての使用条件に適応させることは困難である。
【0014】
また、ダンパー付きプーリーに用いる転がり軸受は、転動体が外方環状部材及び内方環状部材の軸方向に微小揺動するため、転がり軸受の振幅比を大きくするためには、軌道溝の曲率を大きくする必要があるため、上述した従来技術の適用は困難である。
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたもので、転がり軸受の微小揺動時や、転がり軸受に外部から振動が加えられた際に、外方環状部材及び内方環状部材と転動体との接触面における、フレッチング摩耗の発生を抑制することが可能な、転がり軸受及びそれを備えたダンパー付きプーリーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、相対回転する外方環状部材及び内方環状部材と、前記外方環状部材及び前記内方環状部材の互いに対向する軌道溝間で転動する複数の転動体と、を備える転がり軸受であって、
前記転動体は、ジルコニア(ZrO)‐イットリア(Y)成分とアルミナ(Al)成分とを質量比でジルコニア‐イットリア成分:アルミナ成分=50:50〜95:5の割合で含有して形成されており、
前記ジルコニア‐イットリア成分は、イットリアの含有率が1.5モル%以上5.0モル%以下の範囲内であるジルコニアから形成されていることを特徴とするものである。
【0016】
本発明によると、ジルコニア‐イットリア成分とアルミナ成分とを質量比でジルコニア‐イットリア成分:アルミナ成分=50:50〜95:5の割合で含有して、転動体を形成している。さらに、ジルコニア‐イットリア成分を、イットリアの含有率が1.5モル%以上5.0モル%以下の範囲内であるジルコニアから形成している。
このため、転動体を、例えば、軸受け鋼(SUJ2等)や窒化珪素(Si)を材料として形成した場合と比較して、転がり軸受の微小揺動時や、転がり軸受に外部から振動が加えられた際に、外方環状部材及び内方環状部材と転動体との接触面における、フレッチング摩耗の発生を抑制することが可能となる。
【0017】
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した転がり軸受であって、前記ジルコニア‐イットリア成分中におけるイットリアの含有率は、3.0モル%であることを特徴とするものである。
本発明によると、転動体の材料である微粉末が含有している、ジルコニア‐イットリア成分中におけるイットリアの含有率を、3.0モル%としている。
このため、ジルコニア‐イットリア成分中におけるイットリアの含有率を、3.0モル%未満または3.0モル%を超える値とした場合と比較して、転がり軸受の微小揺動時や、転がり軸受に外部から振動が加えられた際に、外方環状部材及び内方環状部材と転動体との接触面における、フレッチング摩耗の発生を抑制することが可能となる。
【0018】
次に、請求項3に記載した発明は、請求項1または請求項2に記載した転がり軸受であって、前記転がり軸受の微小揺動または転がり軸受へ外部から加わる振動により発生する前記転動体の振幅を該転動体がヘルツ接触する前記軌道溝に生じるヘルツ接触円の直径で割った振幅比が、1.6以下であることを特徴とするものである。
本発明によると、転がり軸受の微小揺動または転がり軸受へ外部から加わる振動により発生する転動体の振幅を該転動体がヘルツ接触する軌道溝に生じるヘルツ接触円の直径で割った振幅比が、1.6以下である。
このため、上記の振幅比を、1.6を超える値とした場合と比較して、転がり軸受の微小揺動時、または、転がり軸受へ外部から振動が加わった際における転動体の振幅を、外方環状部材及び内方環状部材と転動体との接触面における、フレッチング摩耗の発生を抑制可能な値とすることが可能となる。
【0019】
次に、請求項4に記載した発明は、請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載した転がり軸受と、前記外方環状部材の外周側に配置されて外方環状部材と共に回転するプーリーと、前記内方環状部材の内周側に配置されて内方環状部材と共に回転するハブと、を備えることを特徴とするダンパー付きプーリーである。
本発明によると、ダンパー付きプーリーを、転がり軸受の微小揺動時や、転がり軸受に外部から振動が加えられた際に、外方環状部材及び内方環状部材と転動体との接触面における、フレッチング摩耗の発生を抑制することが可能な転がり軸受を備えて構成している。
このため、転がり軸受の微小揺動時や、転がり軸受に外部から振動が加えられた際に、外方環状部材及び内方環状部材と転動体との接触面における、フレッチング摩耗の発生を抑制することが可能となり、ダンパー付きプーリーの作動性及び耐久性を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、転動体を、例えば、軸受け鋼や窒化珪素を材料として形成した場合と比較して、転がり軸受の微小揺動時や、転がり軸受に外部から振動が加えられた際に、外方環状部材及び内方環状部材と転動体との接触面における、フレッチング摩耗の発生を抑制することが可能となる。
これにより、転がり軸受の微小揺動時や、転がり軸受に外部から振動が加えられた際に、外方環状部材及び内方環状部材と転動体との接触面における、フレッチング摩耗の発生を抑制することが可能な、転がり軸受及びそれを備えたダンパー付きプーリーを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第一実施形態の転がり軸受を示す断面図である。
【図2】転がり軸受の微小揺動時における振幅と、転がり軸受の微小揺動時において、転動体がヘルツ接触する軌道溝に生じるヘルツ接触円とを示す模式図である。
【図3】試験装置の構成を示す図である。
【図4】図3のIV‐IV線断面図である。
【図5】耐摩耗試験を行った球試験片の表面形状を示す図である。
【図6】図5のVI‐VI線断面図である。
【図7】フレッチング摩耗による損傷の評価を示す図である。
【図8】摩耗痕に対して元素の量を分析した結果を示す図である。
【図9】摩耗痕に対して元素の量を分析した結果を示す図である。
【図10】従来例のダンパー付きプーリーの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、「実施形態」と記載する)について、図面を参照しつつ説明する。
(第一実施形態)
(構成)
まず、図1を用いて、転がり軸受1の構成を説明する。
図1は、本実施形態の転がり軸受1を示す断面図である。
図1中に示すように、転がり軸受1は、外方環状部材2(外輪)と、内方環状部材4(内輪)と、複数の転動体6とを備えている。
外方環状部材2は、金属材料である軸受鋼を用いて形成された、内方環状部材4よりも大径の環状部材であり、その内径面に、外方転動体軌道溝8を有している。外方転動体軌道溝8は、転動体6の形状に応じた、断面円弧状の溝である。
【0023】
内方環状部材4は、金属材料である軸受鋼を用いて形成された、外方環状部材2よりも小径の環状部材であり、その外径面に、外方転動体軌道溝8と対向する内方転動体軌道溝10を有している。また、内方環状部材4は、外方環状部材2の内径側に配置されている。内方転動体軌道溝10は、外方転動体軌道溝8と同様、転動体6の形状に応じた、断面円弧状の溝である。
【0024】
各転動体6は、ジルコニア(ZrO)‐イットリア(Y)成分とアルミナ(Al)成分とを、質量比でジルコニア‐イットリア成分:アルミナ成分=50:50〜95:5の割合で含有して形成している。
これに加え、各転動体6は、微粉末が含有するジルコニア‐イットリア成分を、イットリアの含有率が1.5モル%以上5.0モル%以下の範囲内であるジルコニアから形成している。
【0025】
また、本実施形態では、一例として、ジルコニア(ZrO)‐イットリア(Y)成分中におけるイットリア(Y)の含有率が、3.0モル%である場合について説明する。
また、各転動体6は、それぞれ、互いに対向する軌道溝間、すなわち、外方転動体軌道溝8と内方転動体軌道溝10との間へ、転動自在に装填されている。これにより、外方環状部材2と内方環状部材4は、各転動体6の転動を介して、相対回転する。
【0026】
また、特に図示しないが、外方環状部材2と内方環状部材4との間には、転動体6とともに、グリース等の潤滑剤が配置されている。
なお、潤滑剤としては、例えば、増ちょう剤としてウレアを用いるとともに、基油としてポリ‐α‐オレフィン油を用いたグリースを用いる。
また、上記のグリースとしては、例えば、基油動粘度が10〜250[mm/s(温度条件:40℃)]の範囲内であり、混和ちょう度が200〜400の範囲内のグリースを用いる。
【0027】
(転がり軸受の形状寸法)
本実施形態の転がり軸受1は、転がり軸受1の微小揺動または転がり軸受1へ外部から加わる振動により発生する転動体6の振幅を、転動体6がヘルツ接触する軌道溝(外方転動体軌道溝8、内方転動体軌道溝10)に生じるヘルツ接触円の直径で割った振幅比を、1.6以下となるように形成する。
以下、図1を参照して、転がり軸受1を上記の振幅比(1.6以下)となるように形成する際に、転がり軸受1の形状寸法に関する設定方法(1)〜(4)を列挙する。なお、下記の設定方法(1)〜(4)は、具体例であり、転がり軸受1の形状寸法に関する設定方法は、これらの方法に限定するものではない。
【0028】
(1)外方環状部材2の外径D1、内方環状部材4の内径D2、転動体6のピッチ円直径PCDを設定する。
この場合、具体的には、外方環状部材2の外径D1及び内方環状部材4の内径D2に応じて、転動体6のピッチ円直径PCDを設定する。
(2)外方環状部材2の外径D1、内方環状部材4の内径D2、転動体6のピッチ円直径PCDに加え、転動体6の直径DBを設定する。
この場合、具体的には、転動体6のピッチ円直径PCDに応じて、転動体6の直径DBを設定する。
【0029】
(3)外方環状部材2の外径D1、内方環状部材4の内径D2、転動体6のピッチ円直径PCD、転動体6の直径DBに加え、外方転動体軌道溝8及び内方転動体軌道溝10の曲率Rを設定する。
この場合、具体的には、転動体6の直径DBに応じて、外方転動体軌道溝8及び内方転動体軌道溝10の曲率Rを設定する。
【0030】
(4)外方環状部材2の外径D1、内方環状部材4の内径D2、転動体6のピッチ円直径PCD、転動体6の直径DB、外方転動体軌道溝8及び内方転動体軌道溝10の曲率Rに加え、転がり軸受1の運転時における、外方環状部材2及び内方環状部材4と転動体6との、外方環状部材2及び内方環状部材4の径方向に沿った隙間を設定する。
この場合、具体的には、外方転動体軌道溝8及び内方転動体軌道溝10との隙間に応じて、転動体6の直径DBを設定する。
【0031】
(転がり軸受の振幅比)
次に、図1を参照しつつ、図2を用いて、転がり軸受1の振幅比について説明する。
ここで、本実施形態における転がり軸受1の振幅比とは、上述したように、転がり軸受1の微小揺動または転がり軸受1へ外部から加わる振動により発生する転動体6の振幅を、転動体6がヘルツ接触する軌道溝(外方転動体軌道溝8、内方転動体軌道溝10)に生じるヘルツ接触円の直径で割った振幅比である。
【0032】
図2は、転がり軸受1の微小揺動時に発生する転動体6の振幅と、転がり軸受1の微小揺動時において、転動体6がヘルツ接触する軌道溝(外方転動体軌道溝8、内方転動体軌道溝10)に生じるヘルツ接触円とを示す模式図である。
図2中に示すように、転がり軸受1の微小揺動時における振幅比は、転がり軸受1の微小揺動時に発生する転動体6の振幅Aを、転動体6がヘルツ接触する軌道溝(外方転動体軌道溝8、内方転動体軌道溝10)に生じるヘルツ接触円の直径DCで割った値である。
なお、特に図示しないが、転がり軸受1へ外部から加わる振動により発生する転動体6の振幅を、転動体6がヘルツ接触する軌道溝(外方転動体軌道溝8、内方転動体軌道溝10)に生じるヘルツ接触円の直径DCで割った振幅比に関しても、図2中に示した構成と同様であるため、その説明は省略する。
【0033】
(試験装置の構成)
以下、図1を参照しつつ、図3及び図4を用いて、フレッチング特性の評価試験に用いる試験装置の構成を説明する。
図3は、転がり軸受1の微小揺動時に、転動体6と軌道溝(外方転動体軌道溝8、内方転動体軌道溝10)との接触面において発生する、フレッチング摩耗の特性(以下、「フレッチング特性」と記載する場合がある)の測定に用いる、試験装置12の構成を示す図である。また、図4は、図3のIV‐IV線断面図である。なお、図4中には、説明のために、後述する揺動付加環状部材22と球試験片20a〜20cのみを示している。
図3及び図4中に示すように、試験装置12は、荷重付加部14と、微小揺動付加部16とを備えている。
【0034】
また、フレッチング特性の測定には、図3及び図4中に示すように、公知のスラスト玉軸受と類似した構成の試験用軸受18を用いる。
すなわち、試験用軸受18は、互いに対向する軌道溝を有し、厚さ方向に積層した二つの環状部材と、これらの環状部材が有する軌道溝間に装填された三個の球試験片20a〜20cを備えている。
なお、図3及び図4中と、以降の説明では、二つの環状部材のうち上方に配置された環状部材を、揺動付加環状部材22と記載し、二つの環状部材のうち下方に配置された環状部材を、平板試験片24と記載する。
【0035】
荷重付加部14は、平板試験片24を、上方へ押圧することにより、試験用軸受18に対して、試験用軸受18の軸方向に、荷重(面圧荷重)を付加している。
微小揺動付加部16は、本体部16aと、偏心カム16bと、クランク16cと、回転軸16dと、押圧部16eを備えている。
本体部16aは、例えば、ACサーボモータ等の駆動機構を用いて形成してあり、一方向(図中に示す矢印の方向)に回転可能となっている。
偏心カム16bと、クランク16cと、回転軸16dと、押圧部16eは、本体部16aと順次接続しており、本体部16aが回転すると、この回転を、揺動付加環状部材22に伝達する。
【0036】
具体的には、本体部16aの回転を、偏心カム16bにより偏心した回転(偏心回転)に変換し、この変換した偏心回転を、クランク16c及び回転軸16dを介して、押圧部16eに伝達する。そして、偏心回転が伝達された押圧部16eは、揺動付加環状部材22を平板試験片24側(下方)へ押圧しながら、偏心回転を揺動付加環状部材22へ伝達する。このため、試験用軸受18には、試験用軸受18の軸方向への微小揺動が加わる。
なお、揺動付加環状部材22は、三個の球試験片20a〜20cを収容可能な三箇所の凹部を有しており、各凹部内に収容された球試験片20a〜20cは、その一部が揺動付加環状部材22の平板試験片24と対向する面から突出して、平板試験片24と接触している。
【0037】
また、平板試験片24は、SUJ2(軸受け鋼)を材料として用い、平板状に形成されている。
また、三個の球試験片20a〜20cは、公知のスラスト玉軸受が備える転動体に対応する構成であり、ジルコニア(ZrO)‐イットリア(Y)成分を材料に含んで形成した球試験片20aと、SUJ2(軸受け鋼)を材料に含んで形成した球試験片20bと、Si(窒化珪素)を材料に含んで形成した球試験片20cから構成されている。
したがって、球試験片20aは、本実施形態の転がり軸受1が備える転動体6と同様の構成となっている。
【0038】
(フレッチング摩耗による損傷の評価方法)
以下、図1から図4を参照しつつ、図5から図7を用いて、フレッチング摩耗による損傷の評価方法について説明する。
フレッチング摩耗による損傷を評価する際には、まず、試験装置12を用いて、球試験片20a〜20c及び平板試験片24に対する耐摩耗試験を行う。
【0039】
ここで、本実施形態では、耐摩耗試験(フレッチング試験)の各種試験条件を、以下のように設定する。
荷重:12N(0.73GPa)
揺動角:±0.05°(±19.25um)
潤滑:PAO 30cSt
繰り返し数:30,100×10cycles
球試験片の材料:SUJ2、Si、ZrO‐Y
平板試験片の材料:SUJ2
上記の試験条件下で試験装置12を用いて、球試験片20a〜20c及び平板試験片24に対する耐摩耗試験を行う。その後、この球試験片20a〜20c及び平板試験片24に対し、図5及び図6中に示すように、干渉顕微鏡を用いて、耐摩耗試験を行った球試験片20a〜20c及び平板試験片24の表面形状を測定する。
【0040】
ここで、図5は、耐摩耗試験を行った球試験片20aの表面形状を示す図であり、図6は、図5のVI‐VI線断面図である。なお、図5中には、耐摩耗試験を行った球試験片20aの表面形状を示したが、球試験片20b及び球試験片20cや平板試験片24に関しても、同様に示される。
本実施形態では、耐摩耗試験を行った球試験片20a〜20c及び平板試験片24に対する、干渉顕微鏡を用いた表面形状の測定として、簡易的に損傷の度合いを表すために、耐摩耗試験を行った球試験片20a〜20c及び平板試験片24の表面に形成された摩耗痕26の、最も高い箇所と最も低い箇所との差である摩耗痕差Stを測定する。
【0041】
そして、耐摩耗試験を行った球試験片20a〜20c及び平板試験片24に対して測定した摩耗痕差Stを、図7中に示すように、球試験片20aの表面と平板試験片24のうち球試験片20aとの接触面、球試験片20bの表面と平板試験片24のうち球試験片20bとの接触面、球試験片20cの表面と平板試験片24のうち球試験片20cとの接触面の三組に分けて比較して、フレッチング摩耗による損傷を評価する。なお、図7は、フレッチング摩耗による損傷の評価を示す図である。また、図7中では、横軸に球試験片20の種類を示し、縦軸に摩耗痕差St[um]を示す。
【0042】
図7中に示すように、ジルコニア(ZrO)‐イットリア(Y)成分を材料に含んで形成され、本実施形態の転がり軸受1が備える転動体6と同様の構成である球試験片20aは、SUJ2(軸受け鋼)を材料に含んで形成した球試験片20b及びSi(窒化珪素)を材料に含んで形成した球試験片20cと比較して、球試験片20の表面と平板試験片24のうち球試験片20との接触面に形成された摩耗痕差Stが小さい。すなわち、球試験片20aの表面と平板試験片24のうち球試験片20aとの接触面に発生する、フレッチング摩耗による損傷は、他の二つに発生する損傷よりも小さくなる。
【0043】
(球試験片の材料と損傷との関係)
以下、図1から図7を参照しつつ、図8及び図9を用いて、球試験片20a〜20cの材料と、試験装置12により耐摩耗試験を行った球試験片20a〜20c及び平板試験片24に発生した、表面(接触面)の損傷との関係を説明する。
球試験片20aは、ジルコニア(ZrO)‐イットリア(Y)成分を材料に含んで形成されており、SUJ2(軸受け鋼)を材料に含んで形成された平板試験片24とは異種材料となる。このため、球試験片20aと平板試験片24は凝着しにくく、球試験片20の表面と平板試験片24のうち球試験片20との接触面に発生する、フレッチング摩耗による損傷は、SUJ2(軸受け鋼)を材料に含んで形成した球試験片20bの場合と比較して小さくなる。
【0044】
しかしながら、Si(窒化珪素)を材料に含んで形成された球試験片20cも、球試験片20aと同様、SUJ2(軸受け鋼)を材料に含んで形成された平板試験片24とは異種材料となるが、球試験片20の表面と平板試験片24のうち球試験片20との接触面に発生する、フレッチング摩耗による損傷は、球試験片20aと比較して大きい。
この理由を検討するため、試験装置12により耐摩耗試験を行った平板試験片24のうち球試験片20aとの接触面に対し、図8中に示すように、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)による観察と、エネルギ分散型X線分析装置(EDX:Energy Dispersive X‐ray Spectroscopy)による元素分析を行った。
【0045】
なお、図8は、耐摩耗試験を行った平板試験片24のうち球試験片20aとの接触面に形成された円状の摩耗痕26に対し、その径方向に貫通する直線を断面として、四種類の元素(O,Fe,Al,Zr)の量を分析した結果を示す図である。また、図8中では、横軸に円状の摩耗痕26の一端からの距離(Distance[um])を示し、縦軸に各元素の量(Counts)を示す。
また、図8中では、四種類の元素の量を示す線を、それぞれ、「O」の量を実線で示し、「Fe」の量を破線で示し、「Al」の量を点線で示し、「Zr」の量を「O」の量を示す線よりも細い実線で示している。さらに、図8中では、円状の摩耗痕26と重なっている部分を、二箇所の矢印で示している。
【0046】
また、試験装置12により耐摩耗試験を行った平板試験片24のうち球試験片20cとの接触面に対し、図9中に示すように、走査型電子顕微鏡による観察と、エネルギ分散型X線分析装置による元素分析を行った。
なお、図9は、耐摩耗試験を行った平板試験片24のうち球試験片20cとの接触面に形成された円状の摩耗痕26に対し、その径方向に貫通する直線を断面として、四種類の元素(O,Fe,N,Si)の量を分析した結果を示す図である。また、図9中では、図8中と同様、横軸に距離を示し、縦軸に各元素の量を示す。
【0047】
また、図9中では、四種類の元素の量を示す線を、それぞれ、「O」の量を実線で示し、「Fe」の量を破線で示し、「N」の量を点線で示し、「Si」の量を「O」の量を示す線よりも細い実線で示している。さらに、図9中では、図8中と同様、円状の摩耗痕26と重なっている部分を、二箇所の矢印で示している。
図8中に示されているように、耐摩耗試験を行った平板試験片24のうち球試験片20aとの接触面において、摩耗痕26の円周部には、「O」の量が多い部分が存在している。
【0048】
一方、図9中に示されているように、耐摩耗試験を行った平板試験片24のうち球試験片20cとの接触面において、摩耗痕26の円周部には、「Si」及び「O」の量が多い部分が存在している。
この結果により、耐摩耗試験を行った平板試験片24のうち球試験片20cとの接触面に発生するフレッチング摩耗は、以下に記載するメカニズムによって進行すると考えられる。
【0049】
上記のフレッチング摩耗が進行するメカニズムは、まず、フレッチング摩耗によるトライボケミカル反応により、Si(窒化珪素)を材料として含む球試験片20cの表面が酸化する。これにより、球試験片20cの表面に、SiO(二酸化珪素)の層が形成される。
球試験片20cの表面に形成されたSiO(二酸化珪素)の層は、その強度が脆いために、球試験片20cの表面から脱落する。これにより、SiO(二酸化珪素)の摩耗粉が、平板試験片24のうち球試験片20cとの接触面に供給されることとなる。
【0050】
そして、フレッチング摩耗が発生する条件下では、平板試験片24のうち球試験片20cとの接触面に供給されたSiO(二酸化珪素)の摩耗粉が、平板試験片24のうち球試験片20cとの接触面から排出されにくい。このため、SiO(二酸化珪素)の摩耗粉は、平板試験片24のうち球試験片20cとの接触面に留まる。
以上により、平板試験片24が材料として含むSUJ2(軸受け鋼)よりも硬いSiO(二酸化珪素)の摩耗粉によって、平板試験片24のうち球試験片20cとの接触面に三元アブレシブ摩耗が発生し、平板試験片24の摩耗が加速する。これにより、上記のフレッチング摩耗が進行することとなる。
【0051】
一方、球試験片20aは、酸化物であるジルコニア(ZrO)‐イットリア(Y)成分を材料に含んで形成されており、また、ジルコニア(ZrO)‐イットリア(Y)成分は破壊靭性値も高いため、球試験片20cと異なり、トライボケミカル反応によって、表面にSiO(二酸化珪素)の層が形成されることは無い。
したがって、球試験片20aには、球試験片20cと異なり、SiO(二酸化珪素)の層が表面から脱落することも無く、また、三元アブレシブ摩耗により平板試験片24の摩耗が加速することも無い。
【0052】
以上により、球試験片20aの表面と平板試験片24のうち球試験片20aとの接触面に発生する、フレッチング摩耗による損傷は、球試験片20cの表面と平板試験片24のうち球試験片20cとの接触面に発生する、フレッチング摩耗による損傷よりも小さくなったと考えられる。
なお、特に図示しないが、耐摩耗試験を行った平板試験片24のうち球試験片20bとの接触面では、フレッチング摩耗により、球試験片20bと平板試験片24のうち球試験片20bとの接触面との間に、酸化第二鉄(Fe)の摩耗粉が発生する。
そして、球試験片20bと平板試験片24のうち球試験片20bとの接触面との間に発生した、酸化第二鉄(Fe)の摩耗粉によって、平板試験片24のうち球試験片20bとの接触面に三元アブレシブ摩耗が発生し、平板試験片24の摩耗が加速する。
【0053】
(転がり軸受を備えたダンパー付きプーリーの構成)
本実施形態の転がり軸受1は、上述した図10中に示すように、プーリー28及びハブ30と共にダンパー付きプーリー32を形成しており、プーリー28とハブ30が相対回転するように、プーリー28とハブ30との間に配置されている。
すなわち、本実施形態の転がり軸受1を備えたダンパー付きプーリー32は、転がり軸受1と、外方環状部材2の外周側に配置されて外方環状部材2と共に回転するプーリー28と、内方環状部材4の内周側に配置されて内方環状部材4と共に回転するハブ30を備えている(図10参照)。
ここで、プーリー28の内径面には、外方環状部材2の外径面が取り付けられており、ハブ30の外径面には、内方環状部材4の内径面が取り付けられている(図10参照)。
すなわち、プーリー28とハブ30は、外方環状部材2及び内方環状部材4を介して、相対回転する(図10参照)。
【0054】
(作用)
次に、図1から図10を参照しつつ、転がり軸受1の作用について説明する。
転がり軸受1を備えたダンパー付きプーリー32において、オルタネータの作動時等、ダンパー付きプーリー32がクランクシャフトからの振動を受け、転がり軸受1に微小揺動が発生すると、この微小揺動により、転動体6、外方転動体軌道溝8及び内方転動体軌道溝10の表面に、衝撃的な繰返し荷重が加わる。同様に、転がり軸受1を備えたダンパー付きプーリー32において、転がり軸受1に外部から振動が加えられると、この振動により、転動体6、外方転動体軌道溝8及び内方転動体軌道溝10の表面に、衝撃的な繰返し荷重が加わる。
【0055】
ここで、本実施形態の転がり軸受1は、各転動体6を、ジルコニア‐イットリア成分とアルミナ成分とを質量比でジルコニア‐イットリア成分:アルミナ成分=50:50〜95:5の割合で含有して形成している。これに加え、微粉末が含有するジルコニア‐イットリア成分を、イットリアの含有率が1.5モル%以上5.0モル%以下の範囲内であるジルコニアから形成している。
【0056】
したがって、本実施形態の転がり軸受1では、転動体6を、軸受け鋼(SUJ2等)や窒化珪素(Si)を材料として形成した場合と比較して、転がり軸受1の微小揺動時や、転がり軸受1に外部から振動が加えられた際に、外方環状部材2及び内方環状部材4と転動体6との接触面における、フレッチング摩耗の発生を抑制することが可能となる。
また、本実施形態の転がり軸受1を備えるダンパー付きプーリー32は、転がり軸受1の微小揺動時や、転がり軸受1に外部から振動が加えられた際に、外方環状部材2及び内方環状部材4と転動体6との接触面における、フレッチング摩耗の発生を抑制することが可能となるため、その作動性及び耐久性を向上させることが可能となる。
【0057】
(第一実施形態の効果)
以下、本実施形態の転がり軸受1の効果を列挙する。
(1)本実施形態の転がり軸受1では、ジルコニア‐イットリア成分とアルミナ成分とを質量比でジルコニア‐イットリア成分:アルミナ成分=50:50〜95:5の割合で含有して、転動体6を形成している。これに加え、微粉末が含有するジルコニア‐イットリア成分を、イットリアの含有率が1.5モル%以上5.0モル%以下の範囲内であるジルコニアから形成している。
【0058】
このため、転動体6を、例えば、軸受け鋼や窒化珪素を材料として形成した場合と比較して、転がり軸受1の微小揺動時や、転がり軸受1に外部から振動が加えられた際に、外方環状部材2及び内方環状部材4と転動体6との接触面における、フレッチング摩耗の発生を抑制することが可能となる。
その結果、転がり軸受1の微小揺動時や、転がり軸受1に外部から振動が加えられた際に、外方環状部材2及び内方環状部材4と転動体6との接触面における、フレッチング摩耗の発生を抑制することが可能な転がり軸受1を形成することが可能となる。
【0059】
これにより、転がり軸受1の微小揺動時や、転がり軸受1に外部から振動が加えられた際に生じる、転動体6、外方環状部材2及び内方環状部材4の損傷を低減することが可能となるため、転がり軸受1の耐久性及び作動性を向上させることが可能となる。
(2)本実施形態の転がり軸受1は、微粉末が含有するジルコニア‐イットリア成分中におけるイットリアの含有率を、3.0モル%としている。
【0060】
その結果、微粉末が含有するジルコニア‐イットリア成分中におけるイットリアの含有率を、3.0モル%未満または3.0モル%を超える値とした場合と比較して、転がり軸受1の微小揺動時や、転がり軸受1に外部から振動が加えられた際に、外方環状部材2及び内方環状部材4と転動体6との接触面における、フレッチング摩耗の発生を抑制することが可能となる。
【0061】
(3)本実施形態の転がり軸受1は、転がり軸受1の微小揺動または転がり軸受1へ外部から加わる振動により発生する転動体6の振幅を、転動体6がヘルツ接触する軌道溝(外方転動体軌道溝8、内方転動体軌道溝10)に生じるヘルツ接触円の直径DCで割った振幅比が、1.6以下となるように形成している。
このため、転がり軸受1を、上記の振幅比が1.6を超えるように形成した場合と比較して、転がり軸受1の微小揺動または転がり軸受1へ外部から振動が加わった際における転動体6の振幅を、外方環状部材2及び内方環状部材4と転動体6との接触面における、フレッチング摩耗の発生を抑制可能な値とすることが可能となる。
その結果、転がり軸受1を、上記の振幅比が1.6を超えるように形成した場合と比較して、外方環状部材2及び内方環状部材4と転動体6との接触面における、フレッチング摩耗の発生を抑制することが可能となる。
【0062】
(4)本実施形態の転がり軸受1を備えたダンパー付きプーリー32は、転がり軸受1の微小揺動時や、転がり軸受1に外部から振動が加えられた際に、外方環状部材2及び内方環状部材4と転動体6との接触面における、フレッチング摩耗の発生を抑制することが可能な転がり軸受1を備えて構成している。
このため、転がり軸受1の微小揺動時や、転がり軸受1に外部から振動が加えられた際に、外方環状部材2及び内方環状部材4と転動体6との接触面における、フレッチング摩耗の発生を抑制することが可能な転がり軸受1を備えた構成とすることが可能となる。
その結果、転がり軸受1の微小揺動時や、転がり軸受1に外部から振動が加えられた際に生じる、転動体6、外方環状部材2及び内方環状部材4の損傷を低減することが可能となるため、ダンパー付きプーリー32の耐久性及び作動性を向上させることが可能となる。
【0063】
(応用例)
以下、本実施形態の転がり軸受1の応用例を列挙する。
(1)本実施形態の転がり軸受1では、微粉末が含有するジルコニア‐イットリア成分中におけるイットリアの含有率を、3.0モル%としているが、これに限定するものではなく、微粉末が含有するジルコニア‐イットリア成分中におけるイットリアの含有率を、3.0モル%以外としてもよい。
(2)本実施形態の転がり軸受1は、転がり軸受1の微小揺動または転がり軸受1へ外部から加わる振動により発生する転動体6の振幅を、上述したヘルツ接触円の直径DCで割った振幅比が、1.6以下となるように形成しているが、これに限定するものではない。すなわち、転がり軸受1を、転がり軸受1の微小揺動または転がり軸受1へ外部から加わる振動により発生する転動体6の振幅を、上述したヘルツ接触円の直径DCで割った振幅比が、1.6を超えるように形成してもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 転がり軸受
2 外方環状部材
4 内方環状部材
6 転動体
8 外方転動体軌道溝
10 内方転動体軌道溝
12 試験装置
14 荷重付加部
16 微小揺動付加部
16a 本体部
16b 偏心カム
16c クランク
16d 回転軸
16e 押圧部
18 試験用軸受
20 球試験片(球試験片20a、球試験片20b、球試験片20c)
22 揺動付加環状部材
24 平板試験片
26 摩耗痕
28 プーリー
30 ハブ
32 ダンパー付きプーリー
34 弾性部材
D1 外方環状部材の外径
D2 内方環状部材の内径
PCD 転動体のピッチ円直径
DB 転動体の直径
R 外方転動体軌道溝及び内方転動体軌道溝の曲率
A 転がり軸受の微小揺動時に発生する転動体の振幅
DC 転動体がヘルツ接触する軌道溝に生じるヘルツ接触円の直径
St 摩耗痕差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対回転する外方環状部材及び内方環状部材と、前記外方環状部材及び前記内方環状部材の互いに対向する軌道溝間で転動する複数の転動体と、を備える転がり軸受であって、
前記転動体は、ジルコニア(ZrO)‐イットリア(Y)成分とアルミナ(Al)成分とを質量比でジルコニア‐イットリア成分:アルミナ成分=50:50〜95:5の割合で含有して形成されており、
前記ジルコニア‐イットリア成分は、イットリアの含有率が1.5モル%以上5.0モル%以下の範囲内であるジルコニアから形成されていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記ジルコニア‐イットリア成分中におけるイットリアの含有率は、3.0モル%であることを特徴とする請求項1に記載した転がり軸受。
【請求項3】
前記転がり軸受の微小揺動または転がり軸受へ外部から加わる振動により発生する前記転動体の振幅を該転動体がヘルツ接触する前記軌道溝に生じるヘルツ接触円の直径で割った振幅比が、1.6以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載した転がり軸受。
【請求項4】
請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載した転がり軸受と、前記外方環状部材の外周側に配置されて外方環状部材と共に回転するプーリーと、前記内方環状部材の内周側に配置されて内方環状部材と共に回転するハブと、を備えることを特徴とするダンパー付きプーリー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−159178(P2012−159178A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20897(P2011−20897)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】