説明

転がり軸受

【課題】ピニオンギヤの転がり軸受のように、外輪側にギヤが一体に設けられた転がり軸受において、そのギヤと他のギヤの噛み合い部分に効率よく潤滑油を供給できるようにした転がり軸受を提供することを課題とする。
【解決手段】外輪22の外径部にピニオンギヤ16が一体に設けられた転がり軸受において、外輪22の端面に外方に突き出した肩部26が設けられ、前記肩部26の内径面に油溜め用の内周溝27が形成され、前記内周溝27から前記肩部26の外径面に至る油穴28が複数個所に設けられ、前記肩部26の外径面に結合された環状部材29に前記油穴28から供給された潤滑油をピニオンギヤ16側に案内する案内部31が設けられた構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、遊星ギヤ装置のピニオンギヤ支持軸受等に用いられる転がり軸受に関し、特に、外輪外径面に形成されたギヤの冷却構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、歯車装置においては、伝達トルクが大きくなると、歯車の噛み合い部での発熱が大きくなるため、これを冷却すべく歯面へ連続的に潤滑油を供給することが要求される。この場合の潤滑装置として、歯車の噛み合い部分に向けて給油ノズルを固定し、その給油ノズルから潤滑油を噴射させるものが知られている(特許文献1、同2)。
【0003】
また、回転する歯車に設けた周溝に給油ノズルを非接触状態に臨ませ、その周溝から歯底に至る油穴を設け、歯底に開放された油穴から潤滑油を供給させるようにした装置も知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−122310号公報
【特許文献2】特開2009−156368号公報
【特許文献3】特開平10−202467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、遊星ギヤ減速装置(増速装置を含む。)においては、回転するサンギヤと静止したリングギヤの間にピニオンギヤが介在され、ピニオンギヤはサンギヤの周りを自転しつつ公転する。この場合、ピニオンギヤとリングギヤの噛み合い部分は、ピニオンギヤの公転にしたがって常に移動する。このため、前述のような給油装置によっては、リングギヤとピニオンギヤの噛み合い部分に潤滑油を連続的に供給することができない。
【0006】
そこで、この発明は、ピニオンギヤの転がり軸受のように、外輪側にギヤが一体に設けられた転がり軸受において、そのギヤと他のギヤの噛み合い部分に効率よく潤滑油を供給できるようにした転がり軸受を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、この発明は、外輪の外径面にギヤが形成された転がり軸受において、前記外輪の端面に前記ギヤより外方に突き出した肩部が設けられ、前記肩部の内径面に周方向の油溜め用の内周溝が形成され、前記内周溝の円周上の複数個所に前記肩部外径面に至る油穴が設けられ、前記肩部の外径面に環状部材が嵌合され、その環状部材に前記油穴から供給された潤滑油を前記ギヤ側に案内する案内部が設けられた構成としたものである。
【0008】
前記環状部材は、前記の案内部と、その案内部の内側内周部に設けられた取付基部と、外側内周部に設けられた内向きのつば部とからなり、前記取付基部は、前記油穴より外側において前記肩部外径面に結合され、前記つば部は前記肩部の先端面に当接し、前記案内部は案内面を有し、その案内面は前記油穴の出側開口上に臨む傾斜角を有する構成をとることができる。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、この発明によれば、外輪の肩部外径面に結合した環状部材に案内部を設けたことにより、前記肩部の内周溝に供給されその内周溝に溜められた潤滑油が径方向の油穴から噴出されると、前記案内部によってその方向が変えられる。これにより、内周溝内の潤滑油を外輪外径部のギヤに向けて供給することができる。
【0010】
このため、前記ギヤが自転しつつ公転する遊星ギヤ減速装置のピニオンギヤであっても、そのピニオンギヤとリングギヤとの噛み合い部に対し潤滑油を供給することができ、噛み合い部の冷却を促進し、ギヤ付き外輪の温度上昇を抑制することができる。
【0011】
また、給油ノズルなどにより供給された潤滑油が、肩部の内周溝に溜められるため、連続的にギヤ側へ潤滑油を供給することができるので、噛み合い部の冷却効果が一層増大する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施形態1の転がり軸受を使用した遊星ギヤ減速装置の縦断断面図である。
【図2】図2(a)は、同上の転がり軸受の一部拡大断面図、図2(b)は図2(a)のX1−X1線の断面図である。
【図3】図3は、図2(a)の一部拡大断面図である。
【図4】図4(a)は、図3の分解断面図、図4(b)は図4(a)のX2−X2線の断面図である。
【図5】図5(a)及び図5(b)は、図3の場合と同じ部分を示す各変形例の拡大断面図である。
【図6】図6(a)及び図6(b)は、肩部と環状部材の結合構造の変形例を示す一部分解断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
[実施形態1]
【0014】
図1は、この発明の対象である転がり軸受11を使用した遊星ギヤ減速装置を示している。この遊星ギヤ減速装置は、入力軸12の外径面にサンギヤ13が設けられ、そのサンギヤ13の周りにこれと同芯状態のリングギヤ14がケーシング15に固定される。サンギヤ13とリングギヤ14の間に複数のピニオンギヤ16が介在される。各ピニオンギヤ16は、キャリヤ17に設けられた支持軸18によって支持される。キャリヤ17は前記入力軸12と同軸状態の出力軸(図示省略)に結合されている。
【0015】
前記支持軸18とピニオンギヤ16の間に前記の転がり軸受11が介在される。前記入力軸12に入力された回転が一定比率で減速されて出力軸に出力される。入出力を逆にすると増速装置となる。
【0016】
図2は、前記遊星ギヤ減速装置の一部を示している。転がり軸受11は、自動調心ころ軸受であり、内輪21、外輪22、これらの間に介在された複列のころ23、及び各ころ23を一定間隔に保持案内する保持器25等によって構成される。
【0017】
前記外輪22の外径面にピニオンギヤ16が一体に設けられる。また、その外輪22の軸方向の両端部に、外向きに突き出した肩部26が全周にわたり設けられる。肩部26は、外輪22及びピニオンギヤ16の端面より外方へ突き出している。
【0018】
前記肩部26の内周面に全周にわたり内周溝27が設けられる。この内周溝27は軸方向に対向した内側内壁27aと外側内壁27bを有する(図3参照)。軸方向内側の内側内壁27aは、外輪22の端面に連続しているので、肩部26に形成された軸方向外側の外側内壁27bより径方向に高くなる。潤滑油は、軸受外部に設けられた給油ノズルから供給されるので(図2(a)、図3の白抜き矢印参照)、前記のように、潤滑油の入側となる外側内壁27bが相対的に低く、内側内壁27aが相対的に高く形成されていると、潤滑油を内周溝27へ導き易くなる。
【0019】
前記内周溝27の溝底の周方向複数個所に油穴28が径方向に設けられる。各油穴28の出側は肩部26の外周面の軸方向の中間部分に設定される。
【0020】
前記両側の肩部26の先端部外周に環状部材29が、焼き嵌め、ネジ結合等の結合手段によって結合される。環状部材29は、耐熱性合金(例:M50)や耐熱性樹脂(例:PEEK)等により構成され、図3に示したように、環状の案内部31、取付基部32及び内向きのつば部33とからなる。案内部31は、軸受内方に向けて傾斜角α1(図4(a)参照)をもった案内面34を有する。案内面34の肩部26外周面からの高さh(図3参照)は、ピニオンギヤ16の歯底36よりも高い所定の高さに設定される。
【0021】
図4(a)に示したように、前記の取付基部32は案内部31の内側内周部に設けられ、前記肩部26の外周面に対する嵌合面35を有する。前記のつば部33は案内部31の外側内周部に設けられ、肩部26の端面に当接するように、径方向内側に突き出している。
【0022】
前記取付基部32の嵌合面35は、肩部26の先端部に差し込む方向に対して逆向きとなる小さい逆テーパ角α2が付与されている。また、肩部26の外径面にも前記と同じか又は若干大きい逆テーパ角α3が付与されている。前記環状部材29は、肩部26に焼き嵌めによって嵌合固定され、焼き嵌め後は、逆テーパ角α2、α3の係合作用によって外れることがない。
【0023】
前記のようにして環状部材29を肩部26に結合すると、図3に示したように、取付基部32は油穴28より外側において肩部26の先端部外径面に嵌合される。同時に、つば部33が肩部26の先端面に当接することにより、環状部材29が位置決めされる。案内部31は、その傾斜角α1をもって傾斜した案内面34の中央部分が油穴28の出側開口上に臨む。傾斜角α1の大きさは、油穴28から噴出され案内面34に衝突した潤滑油が、矢印Aで示したように、ピニオンギヤ16の歯底36の方向に曲げられる所定の角度(例えば、50°〜60°)に設定される。
【0024】
前記のように、油穴28から径方向に噴出した潤滑油は、環状部材29の案内面34によって内向きに曲げられ、ピニオンギヤ16の歯底36の方向に曲げられ、リングギヤ14との噛み合い部に供給されるが、このような案内をするためには、油穴28が外輪22の端面からある程度離れている必要がある。一方、油穴28の位置が肩部26の先端に接近した位置であると、環状部材29の取付けが困難になる。このようなことから、油穴28の出側の開放位置は、前記のように肩部26の中間部に設定されている。
【0025】
油穴28の内周溝27の溝底における位置は、図3に示したように、油穴28の出側の開放位置に合わせて、溝底の軸方向外側となる外側内壁27bに寄った位置に設定される。この場合において、図5(a)に示したように、他方の内側内壁27aから油穴28までの溝底に傾斜角α4を付与すると、内周溝27内に溜まった潤滑油を油穴28に導き易くなる。
【0026】
さらに、図5(b)に示したように、油穴28を軸方向外側へ傾斜角α5を持つように設けることにより、油穴28から噴射され案内面34に衝突する潤滑油Aの衝突角度を変えることができる。
【0027】
前記油穴28から噴出され案内面34に衝突した潤滑油Aの流れは、ピニオンギヤ16の自転に伴う回転速度の影響を受け、回転速度が高くなるほど油穴28からの流出角が小さくなり、歯底36側への潤滑油の供給効率が低下する。このことを、図2(b)及び図4(b)に基づいて説明する。
【0028】
図2(b)は、油穴28が肩部26の径方向に対する傾斜角がゼロの場合において、肩部26及びこれと一体の外輪22の周速度S1(回転方向を矢印Bで示す。)、その周速度S1を考慮に入れない場合の流出速度S2及び考慮に入れた場合の実際の流出速度S3の関係を示す。この場合の実際の流出速度S3の流出角度をβ1とする。
【0029】
図4(b)は、油穴28の出側開口に対し入側開口が回転方向に変位し、傾斜角α6をもって傾斜した場合の前記の各速度S1〜S3の関係を示す。この場合の流出角度β2は前記の流出角度β1より大となる。
【0030】
したがって、油穴28に径方向に対して一定の傾斜角α6をもつように傾斜させて形成することにより、高い流出角度β2で潤滑油を案内面34に当てることができ、効率よく歯底36側へ潤滑油を供給することができる。
【0031】
図6(a)(b)は、環状部材29を肩部26の外径面に結合する他の構造を示している。図6(a)の場合は、肩部26の外径面の全周に凹部38を形成し、環状部材29の取付基部32の内径面全周に凸部39を形成したものである。逆に凹部38を取付基部32側に、凸部39を肩部26側に形成してもよい。いずれの場合も、焼き嵌めによって強制嵌合され、凹部38と凸部39の嵌合によって環状部材29の抜け止めが図られる。
【0032】
図6(b)の場合は、肩部26の外径面に雄ネジ部40を形成し、取付基部32の内径面に雌ネジ部41を形成したものである。両者のネジ結合によって環状部材29が肩部26に結合される。
【0033】
この場合、ピニオンギヤ16の自転及び公転の回転方向が、図2(a)の左側から見て右回転(時計方向回転)である場合、左側の環状部材29のネジ結合部分は左ネジ(反時計方向ネジ)とし、右側の環状部材29のネジ結合部分は右ネジとすることにより、ネジ結合部分の緩みを防止することができる。自転及び公転の方向が前記と逆の場合は、これらのネジ結合部分のネジの向きも逆になる。
【0034】
実施形態1の転がり軸受11は以上のようなものであり、次にその作用について説明する。
【0035】
転がり軸受11を用いた遊星ギヤ減速装置において、その転がり軸受11の外輪22が通過する部分のうちリングギヤ14に最も近い複数個所の両側に給油ノズルが設置され、内周溝27に向け潤滑油が供給される(図2(a)の白抜き矢印参照)。
【0036】
装置が駆動されると、ピニオンギヤ16が前記の給油ノズルの部分を通過する際に、内周溝27に潤滑油が流入貯留され、その潤滑油が遠心力によって油穴28を通って径方向に噴出される。潤滑油は案内面34に衝突してピニオンギヤ16の歯底36の方向に曲げられ、ピニオンギヤ16とリングギヤ14の噛み合い部分における歯面を冷却する。
【0037】
潤滑油の供給効率を上げるために、内周溝27の溝底に傾斜角α4を付与すること(図5(a)参照)、油穴28に軸方向外向きの傾斜角α5を付与するこ(図5(b)参照)と、油穴28に回転方向の傾斜角α6を付与すること(図4(b)参照)は、いずれも有効な手段である。
【符号の説明】
【0038】
11 転がり軸受
12 入力軸
13 サンギヤ
14 リングギヤ
15 ケーシング
16 ピニオンギヤ
17 キャリヤ
18 支持軸
21 内輪
22 外輪
23 ころ
25 保持器
26 肩部
27 内周溝
27a 内側内壁
27b 外側内壁
28 油穴
29 環状部材
31 案内部
32 取付基部
33 つば部
34 案内面
35 嵌合面
36 歯底
38 凹部
39 凸部
40 雄ネジ部
41 雌ネジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪の外径面にギヤが形成された転がり軸受において、前記外輪の端面に前記ギヤより外方に突き出した肩部が設けられ、前記肩部の内径面に周方向の油溜め用の内周溝が形成され、前記内周溝の円周上の複数個所に前記肩部外径面に至る油穴が設けられ、前記肩部の外径面に環状部材が嵌合され、その環状部材に前記油穴から供給された潤滑油を前記ギヤ側に案内する案内部が設けられたことを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記肩部が前記外輪の軸方向の両端部に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記環状部材は、前記の案内部と、その案内部の内側内周部に設けられた取付基部と、外側内周部に設けられた内向きのつば部とからなり、前記取付基部は、前記油穴より外側において前記肩部外径面に結合され、前記つば部は前記肩部の先端面に当接し、前記案内部は案内面を有し、その案内面は前記油穴の出側開口上に臨む傾斜角を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記案内面の傾斜角が、前記油穴から当該案内面に噴射された潤滑油を前記外輪のギヤの方向に曲げる大きさに設定されたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記油穴が、前記内周溝を形成する外側内壁に片寄って形成され、前記内周溝の内側内壁から前記油穴までの溝底に傾斜角を付与したことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の転がり軸受。
【請求項6】
前記油穴が、前記内周溝から外向きに傾斜して形成されたことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の転がり軸受。
【請求項7】
前記油穴が、前記外輪の回転方向に傾斜角をもって形成されたことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の転がり軸受。
【請求項8】
前記環状部材の取付基部の内周面と、前記肩部外周面にそれぞれ逆テーパ面が形成され、その逆テーパ面相互が強制嵌合されたことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の転がり軸受。
【請求項9】
前記環状部材の取付基部の内周面と、前記肩部外周面にそれぞれネジ部が形成され、相互にネジ結合されたことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の転がり軸受。
【請求項10】
前記環状部材の取付基部の内周面と、前記肩部外周面の一方に周方向の凸部、他方に周方向の凹部が形成され、相互に凹凸嵌合されたことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の転がり軸受。
【請求項11】
前記環状部材が、耐熱性合金又は耐熱性樹脂であることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の転がり軸受。
【請求項12】
前記ギヤが、遊星ギヤ装置のピニオンギヤであることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の転がり軸受。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−47196(P2012−47196A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187058(P2010−187058)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】