説明

転写印刷用水溶性ベースフィルムの製造方法

【課題】高精細意匠の転写印刷が可能な転写印刷用フィルムに用いられる水溶性ベースフィルムを提供すること。
【解決手段】 ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とし、更に架橋剤を含有してなるフィルムを100〜160℃の温度で熱処理して、示差走査型熱量計(DSC)で測定される、昇温速度10℃/minで−30〜260℃まで昇温させたときの1st Runの吸熱曲線において150℃以上に吸熱ピークを2個有し、かつそのピーク温度差が32℃以内であるフィルムを得ることを特徴とする転写印刷用水溶性ベースフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非平面形状等の立体的表面を有する被転写体に対して、高精細意匠を円滑に付することのできる転写印刷用水溶性ベースフィルムを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、三次元の立体構造物に意匠を印刷する方法の一つとして、水溶性ベースフィルムの片面に印刷層を有した複層フィルムを、その印刷層が溶剤等の活性化液の塗布により活性化された状態で印刷層を上にして、水面に浮かべて、その上方から被転写体を押し入れることにより印刷層の意匠を立体構造体に転写する方法が知られている。
【0003】
この場合、かかるベースフィルムは、水面に浮かべたときにゲル膜状の層となり、被転写体にシワやラップを生ずることなくつきまわることが要求され、そのようなベースフィルムの素材として、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムが用いられており、かかるポリビニルアルコール系樹脂をベースフィルムとした転写印刷用薄膜が提案されている。
【0004】
本出願人も、かかる転写印刷用薄膜として、特許文献1では、平均重合度3200以上、平均ケン化度65〜95モル%の超高重合度ポリビニルアルコール系樹脂と平均重合度3200未満、平均ケン化度65〜95モル%のポリビニルアルコール系樹脂とを重量比で30:70〜70:30混合した組成物からなり、その厚さが35μm以下の膜を提案し、また、特許文献2では、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部にマンナン、キサンタンガム、グアーガム等の天然ガム系粘質物を2〜15重量部混合した組成物からなり、その厚さが1〜50μmで、水面上での膨潤伸張率が1.35倍以下の膜を提案した。
【0005】
さらに、特許文献3では、平均重合度300〜3000、平均ケン化度65〜97モル%のポリビニルアルコール系樹脂より製膜され、かつ該樹脂に対して0.02〜10重量%のホウ酸又はその塩を含み厚みが0.01〜0.1mmの転写印刷用薄質膜を提案した。
【特許文献1】特開平7−117327号公報
【特許文献2】特開平7−117328号公報
【特許文献3】特公昭61−3277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の薄膜では、高速での転写は可能であるが、重合度の異なるポリビニルアルコールをブレンドしているため、膨潤斑を生じ易く、また、最近の意匠の高精細化に伴ってベースフィルム上に印刷された意匠と被着体に転写印刷された意匠が異なったイメージになることがあり、特許文献2に開示の薄膜は、天然ゴムを使用しているため、印刷面内において、部分的に精度が低下したり、あるいは再現性が低い等の問題を抱えており、さらに、特許文献3に開示の薄膜においても、最近の意匠の高精細化に伴ってベースフィルム上に印刷された意匠と被着体に転写印刷された意匠が異なったイメージになることがあり、高精細意匠を確実に転写できる印刷用水溶性ベースフィルムが望まれるところである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者は、かかる現況に鑑みて鋭意研究をした結果、ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とし、更に架橋剤を含有してなるフィルムを100〜160℃の温度で熱処理することによって、示差走査型熱量計(DSC)で測定される、昇温速度10℃/minで−30〜260℃まで昇温させたときの1st Runの吸熱曲線において150℃以上に吸熱ピークを2個有し、かつそのピーク温度差が32℃以内である転写印刷用水溶性ベースフィルムが得られ、このフィルムを用いることにより、高精細意匠の転写が可能であることを見出して本発明を完成するに至った。
【0008】
なお、本発明でいう高精細意匠とは、複数の色を用いた複雑な図柄(例えば、豹柄、木目柄など)のことであり、転写前の意匠を精度良く被転写体に印刷することが必要であり、従来のベースフィルムでは、転写はできるものの、転写後のイメージが元の意匠よりもボケたイメージになり、クッキリ感がでなかったもので、本発明においては、かかる高精細意匠の転写が可能となったのである。
【発明の効果】
【0009】
本発明方法で得られる転写印刷用水溶性ベースフィルムは、示差走査型熱量計(DSC)で測定される吸熱曲線が特定の吸熱ピークを有するため、かかるフィルムを用いた転写印刷用フィルムは、高精細意匠の転写印刷を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明を詳細に述べる。
【0011】
本発明方法で得られる転写印刷用水溶性ベースフィルム(以下、単にベースフィルムと称することがある)は、ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とするもので、かかるポリビニルアルコール系樹脂は、特に限定されることなく、公知の方法で製造することができる。
すなわち、ビニルエステル系化合物を重合して得られたビニルエステル系重合体をケン化して得られるものである。
【0012】
かかるビニルエステル系化合物としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等が単独又は併用で用いられるが、実用上は酢酸ビニルが好適である。
【0013】
また、本発明においては、本発明の目的を阻害しない範囲において、他の単量体を共重合させることも可能で、かかる単量体としては、例えばエチレン、プロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等を挙げることができる。
【0014】
重合(あるいは共重合)を行うに当たっては、特に制限はなく公知の重合方法が任意に用いられるが、通常は、メタノール、エタノールあるいはイソプロピルアルコール等のアルコールを溶媒とする溶液重合が実施される。勿論、乳化重合、懸濁重合も可能である。
【0015】
また、重合反応は、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどの公知のラジカル重合触媒を用いて行われ、反応温度は35℃〜沸点(更には50〜80℃)程度の範囲から選択される。
【0016】
得られたビニルエステル系重合体をケン化するにあたっては、該重合体をアルコールに溶解してアルカリ触媒の存在下に行なわれる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられる。アルコール中の共重合体の濃度は、20〜50重量%の範囲から選ばれる。
【0017】
ケン化触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒を用いることができる。かかる触媒の使用量はビニルエステルに対して1〜100ミリモル当量にすればよい。なお、場合によっては、酸触媒によりケン化することも可能である。
【0018】
かくしてポリビニルアルコール系樹脂が得られるのであるが、本発明では、かかるポリビニルアルコール系樹脂の4重量%水溶液粘度が2〜60mPa・s(20℃)で、ケン化度が65〜97モル%のものを用いることが好ましい。
すなわち、かかる4重量%水溶液粘度が2mPa・s(20℃)未満では、ベースフィルムに意匠(パターン)を印刷するときのフィルム強度が不足して印刷斑が発生する恐れがあり、逆に60mPa・s(20℃)を越えると、被転写体への転写時に被転写体と転写印刷用フィルム(意匠が印刷されたベースフィルム)との密着性が低下して皺や剥離が発生する恐れがあり好ましくない。かかる4重量%水溶液粘度の更に好ましい範囲は10〜60mPa・s(20℃)である。
【0019】
また、ケン化度が65モル%未満や97モル%を越える場合には、転写後のベースフィルムの溶解に長時間を要することがあり好ましくない。かかるケン化度の更に好ましい範囲は72〜95モル%である。
【0020】
本発明方法で得られるベースフィルムは、上記の如きポリビニルアルコール系樹脂を主成分とするもので、更に後述の架橋剤を含有してなるものであり、かかる樹脂を製膜してベースフィルムとするのであるが、本発明では、かかるベースフィルムが、示差走査型熱量計(DSC)で測定される吸熱曲線において150℃以上に吸熱ピークを2個有し、かつそのピーク温度差が32℃以内であることが必要で、かかる条件を満足することにより本発明の目的を達成することが可能となる。
【0021】
なお、ここでいう示差走査型熱量計(DSC)で測定される吸熱曲線とは、図1で示される如き曲線で、具体的には、昇温速度10℃/minで−30〜260℃まで昇温させたときの1st Runの吸熱曲線で、例えば、パーキンエルマー社製『DSC−7』等を用いて測定することが可能であり、この時の測定試料(フィルム)は、五酸化二リンを入れたデシケーター中で4日間(室温)乾燥させた後、7±1mg採取して測定すればよい。
【0022】
かかる条件を満足するベースフィルムを得るためには、(1) ポリビニルアルコール系樹脂に架橋剤を配合して製膜した後、特定の熱処理を施す方法、(2) 重合度が同じでケン化度の異なるポリビニルアルコール系樹脂をブレンドする方法等を挙げることができるが、工業的には(1) の方法が好ましく、かかる方法について、より具体的に説明する。
【0023】
ポリビニルアルコール系樹脂に配合される架橋剤としては、ポリビニルアルコール系樹脂と架橋反応を起こすものであれば特に限定されず、ホウ素化合物、無機塩類等を挙げることができ、かかるホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸カルシウム、ホウ酸コバルト、ホウ酸亜鉛(四ホウ酸亜鉛,メタホウ酸亜鉛等)、ホウ酸アルミニウム・カリウム、ホウ酸アンモニウム(メタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等)、ホウ酸カドミウム(オルトホウ酸カドミウム、四ホウ酸カドミウム等)、ホウ酸カリウム(メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸カリウム等)、ホウ酸銀(メタホウ酸銀、四ホウ酸銀等)、ホウ酸銅(ホウ酸第2銅、メタホウ酸銅、四ホウ酸銅等)、ホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等)、ホウ酸鉛(メタホウ酸鉛、六ホウ酸鉛等)、ホウ酸ニッケル(オルトホウ酸ニッケル、二ホウ酸ニッケル、四ホウ酸ニッケル、八ホウ酸ニッケル等)、ホウ酸バリウム(オルトホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム、二ホウ酸バリウム、四ホウ酸バリウム等)、ホウ酸ビスマス、ホウ酸マグネシウム(オルトホウ酸マグネシウム、二ホウ酸マグネシウム、メタホウ酸マグネシウム、四ホウ酸三マグネシウム、四ホウ酸五マグネシウム等)、ホウ酸マンガン(ホウ酸第1マンガン、メタホウ酸マンガン、四ホウ酸マンガン等)、ホウ酸リチウム(メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸リチウム等)などの他、ホウ砂、カーナイト、インヨーアイト、コトウ石、スイアン石、ザイベリ石等のホウ酸塩鉱物などが挙げられる。
【0024】
また、無機塩類としては、(NH42SO4、Na2SO4、K2SO4、ZuSO4、CuSO4、FeSO4、MgSO4、Al2(SO43、KAl(SO42、NH4NO3、NaNO3、KNO3、Al(NO33、NH4Cl、NaCl、KCl、MgCl2、CaCl2、Na3PO4、K2CrO4、K3657などが挙げられる。
【0025】
上記の架橋剤の中でも、ホウ砂、K3657(クエン酸カリウム)が好適に用いられる。
【0026】
ポリビニルアルコール系樹脂に配合される架橋剤の量は、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部(更には0.5〜5重量部、特には0.5〜3重量部)であることが好ましく、かかる量が0.1重量部未満では、上記の条件を満足させることが困難となり、逆に10重量部を越えると上記の条件を満足させることができても、被着体への転写時に被着体と意匠が印刷されたベースフィルムとの密着性が低下して皺や剥離が発生する恐れがあり好ましくない。
【0027】
ついで、架橋剤が配合されたポリビニルアルコール系樹脂を製膜して、ベースフィルムとするのであるが、かかる製膜にあたっては、特に制限されることなく、該樹脂を水溶液とした後、ロール、ドラム、エンドレスベルト等の平滑な金属面上に流延する方法や該樹脂に適宜水や後述の可塑剤を加えて押出法等の手段によって溶融成形する方法等により、ベースフィルムとなるポリビニルアルコール系フィルムを得ることができる。
【0028】
また、上記の製造時においては、必要に応じて、該樹脂や水溶液に可塑剤(グリセリン、ジグリセリン、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)、界面活性剤(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルノニルエーテル、ポリエキシエチレンドデシルフィニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステアリルアミノエーテル)、抗酸化剤(フェノール系、アミン系等)、安定剤(リン酸エステル類等)、着色料、香料、増量剤、消包剤、防錆剤、紫外線吸収剤、無機粉体、界面活性剤、更には他の水溶性高分子(ポリアクリル酸ソーダ、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、デキストリン、キトサン、キチン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、澱粉等)などを添加しても差し支えない。
さらに、必要に応じて、ポリビニルアルコール系樹脂は、2種以上混合して用いてもよい。
【0029】
かかるポリビニルアルコール系フィルムの膜厚については、特に限定されないが、10〜50μm(更には15〜50μm、特には15〜45μm)であることが好ましく、かかる膜厚が10μm未満ではベースフィルムに意匠を印刷するときのフィルム強度が不足して印刷斑が発生する恐れがあり、逆に50μmを越えると被転写体への転写時に被転写体と転写印刷用フィルムとの密着性が低下して皺や剥離が発生する恐れがあり好ましくない。
【0030】
得られたベースフィルムは、最後に熱処理が施されて本発明で規定する条件を満足するベースフィルムとなるのである。
かかる熱処理は、100〜160℃(更には105〜140℃)で加熱処理が行われるもので、かかる温度が100℃未満では、上記の条件を満足させることが困難となり、逆に160℃を越えるとベースフィルムの結晶度が上がりすぎて転写後の水溶性が低下して好ましくない。
【0031】
かかる熱処理の方法としては特に制限はなく、例えば、熱ロール(カレンダーロール含む)、熱風、遠赤外線、誘電加熱などの方法により、熱処理を行うことが可能である。
【0032】
かくして得られた本発明で規定する条件を満足するベースフィルムは、その表面に転写用の意匠が印刷されて、転写印刷用フィルムとして実用に供されるのである。
かかる意匠としては、木目模様、大理石模様、幾何学模様、象形模様、抽象模様、文字など任意のパターンがあげられる。これら意匠は、好ましくは、非水溶性の樹脂のバインダーに染料、顔料等の着色剤を添加してなるインクを印刷して形成される。非水溶性の樹脂の例としては、硝化綿とアルキッド樹脂との混合物等がある。
【実施例】
【0033】
以下、本発明について実施例を挙げて更に詳しく説明する。
尚、例中に断りのない限り、「%」、「部」とあるのは、重量基準を示す。
【0034】
実施例1
ポリビニルアルコール系樹脂[4%水溶液粘度30mPa・s、平均ケン化度88.0モル%]100部とクエン酸カリウム5部とからなる固形分20%の水溶液をドラム流延製膜法により温度95℃の条件でポリビニルアルコール系フィルムを得て、該フィルムを125℃で10分間熱処理を行って、厚さ40μmのベースフィルムを得た。
かかるフィルムの吸熱曲線を本文中の方法により測定したところ、図1に示されるチャートが得られ、189℃と210℃に吸熱ピークを2個有し、かつその温度差は21℃であった。
【0035】
ついで、得られたベースフィルムにグラビアインキ[顔料(キナクリドン)/アルキッド樹脂/トルエン/酢酸エチル/イソプロピルアルコール=10/20/25/30/15(重量比)の組成]を用いて、グラビア印刷方式[80線/inch、ピッチ:317μm、土手:217μm]によりドット柄を印刷して転写印刷用フィルムを作製した。
別途、被転写体として塩化ビニル板(100mm×100mm×2mm)を用意して、その被転写(印刷)表面にプライマー[トルエン/酢酸エチル/イソプロピルアルコール=2/3/3(重量比)の混合溶液]を塗布したものを用意した。
【0036】
上記の転写印刷用フィルム(400mm×400mm)を30℃の水が入った水槽に浮かべて、60秒後に上記の塩化ビニル板を押し当てて、塩化ビニル板表面にドット柄を転写させて、その後、30℃の水を吹き付けてベースフィルムを除去し、40℃で20分間乾燥させてドット柄が転写印刷された塩化ビニル板を得た。
得られた塩化ビニル板に転写されたドット柄(10mm×10mmの範囲の中央部分)を光学顕微鏡で観察したところ、ドット間の平均距離は、ベースフィルムの長手方向で428μm、幅方向で454μmであり、そのバラツキ(標準偏差)は、長手方向で5.0、幅方向で5.3であった。
【0037】
実施例2
実施例1において、クエン酸カリウムに代えて、ホウ砂0.7部を用い、かつ熱処理条件を130℃で3分間とした以外は同様に行ってベースフィルムを得、同様に評価を行った。
なお、得られたベースフィルムは183℃と210℃に2個の吸熱ピークを有し、かつその温度差は27℃であった。
実施例1と同様に転写されたドット柄を光学顕微鏡で観察したところ、ドット間の平均距離は、ベースフィルムの長手方向で419μm、幅方向で463μmであり、そのバラツキ(標準偏差)は、長手方向で4.9、幅方向で5.4であった。
【0038】
実施例3
実施例2において、熱処理条件を140℃で1分間とした以外は同様に行ってベースフィルムを得、同様に評価を行った。
なお、得られたベースフィルムは185℃と211℃に2個の吸熱ピークを有し、かつその温度差は26℃であった。
実施例1と同様に転写されたドット柄を光学顕微鏡で観察したところ、ドット間の平均距離は、ベースフィルムの長手方向で423μm、幅方向で459μmであり、そのバラツキ(標準偏差)は、長手方向で4.9、幅方向で5.4であった。
【0039】
実施例4
実施例2において、熱処理条件を115℃で10分間とした以外は同様に行ってベースフィルムを得、同様に評価を行った。
なお、得られたベースフィルムは179℃と209℃に2個の吸熱ピークを有し、かつその温度差は30℃であった。
実施例1と同様に転写されたドット柄を光学顕微鏡で観察したところ、ドット間の平均距離は、ベースフィルムの長手方向で433μm、幅方向で469μmであり、そのバラツキ(標準偏差)は、長手方向で7.4、幅方向で8.0であった。
【0040】
実施例5
実施例1において、熱処理条件を115℃で10分間とした以外は同様に行ってベースフィルムを得、同様に評価を行った。
なお、得られたベースフィルムは182℃と209℃に2個の吸熱ピークを有し、かつその温度差は27℃であった。
実施例1と同様に転写されたドット柄を光学顕微鏡で観察したところ、ドット間の平均距離は、ベースフィルムの長手方向で432μm、幅方向で450μmであり、そのバラツキ(標準偏差)は、長手方向で5.0、幅方向で5.2であった。
【0041】
実施例6
実施例2において、ポリビニルアルコール系樹脂として、4%水溶液粘度が15mPa・sで、平均ケン化度が95モル%のポリビニルアルコールを用いた以外は同様に行ってベースフィルムを得、同様に評価を行った。
なお、得られたベースフィルムは183℃と210℃に2個の吸熱ピークを有し、かつその温度差は27℃であった。
実施例1と同様に転写されたドット柄を光学顕微鏡で観察したところ、ドット間の平均距離は、ベースフィルムの長手方向で414μm、幅方向で467μmであり、そのバラツキ(標準偏差)は、長手方向で4.8、幅方向で5.5であった。
【0042】
実施例7
実施例2において、ポリビニルアルコール系樹脂として、4%水溶液粘度が35mPa・sで、平均ケン化度が80モル%のポリビニルアルコールを用いた以外は同様に行ってベースフィルムを得、同様に評価を行った。
なお、得られたベースフィルムは187℃と210℃に2個の吸熱ピークを有し、かつその温度差は23℃であった。
実施例1と同様に転写されたドット柄を光学顕微鏡で観察したところ、ドット間の平均距離は、ベースフィルムの長手方向で421μm、幅方向で447μmであり、そのバラツキ(標準偏差)は、長手方向で4.4、幅方向で4.6であった。
【0043】
実施例8
実施例2において、ホウ砂の混合量を1.2部とした以外は同様に行ってベースフィルムを得、同様に評価を行った。
なお、得られたベースフィルムは185℃と211℃に2個の吸熱ピークを有し、かつその温度差は26℃であった。
実施例1と同様に転写されたドット柄を光学顕微鏡で観察したところ、ドット間の平均距離は、ベースフィルムの長手方向で420μm、幅方向で437μmであり、そのバラツキ(標準偏差)は、長手方向で4.6、幅方向で4.8であった。
【0044】
比較例1
実施例1において、熱処理を行わなかった以外は同様に行ってベースフィルムを得、同様に評価を行った。
なお、得られたベースフィルムは172℃と209℃に2個の吸熱ピークを有し、かつその温度差は37℃であった。
実施例1と同様に転写されたドット柄を光学顕微鏡で観察したところ、ドット間の平均距離は、ベースフィルムの長手方向で469μm、幅方向で508μmで、そのバラツキ(標準偏差)も、長手方向で8.4、幅方向で9.1と上記の各実施例よりもバラツキの大きいものであった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明方法で得られたベースフィルムの示差走査型熱量計(DSC)で測定された吸熱曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とし、更に架橋剤を含有してなるフィルムを100〜160℃の温度で熱処理して、示差走査型熱量計(DSC)で測定される、昇温速度10℃/minで−30〜260℃まで昇温させたときの1st Runの吸熱曲線において150℃以上に吸熱ピークを2個有し、かつそのピーク温度差が32℃以内であるフィルムを得ることを特徴とする転写印刷用水溶性ベースフィルムの製造方法。
【請求項2】
ポリビニルアルコール系樹脂の平均ケン化度が65〜97モル%で、かつ4重量%水溶液粘度(20℃)が2〜60mPa・sであることを特徴とする請求項1記載の転写印刷用水溶性ベースフィルムの製造方法。
【請求項3】
架橋剤がホウ砂またはクエン酸カリウムのいずれかであることを特徴とする請求項1記載の転写印刷用水溶性ベースフィルムの製造方法。
【請求項4】
フィルムの厚みが10〜50μmであることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の転写印刷用水溶性ベースフィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−101691(P2009−101691A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292880(P2008−292880)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【分割の表示】特願2001−105659(P2001−105659)の分割
【原出願日】平成13年4月4日(2001.4.4)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】