説明

転写調節因子及びその方法

本発明は、転写調節因子及びその関連する方法に関する。本発明は、さらに、転写因子によって調節される遺伝子の同定、転写調節因子の異常な機能に関連する疾患の治療、及び転写調節因子活性の調整(modulation)による、肝細胞又は膵臓細胞で発現される遺伝子を含む遺伝子発現の調整に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2003年11月26日付で出願された、「HNF転写因子による膵臓及び肝臓の遺伝子発現の制御」と題する米国特許出願第60/525318号、2004年2月6日付で出願された、「HNF転写因子による膵臓及び肝臓の遺伝子発現の制御」と題する米国特許出願第60/542520号、2004年2月13日付で出願された、「HNF転写因子による膵臓及び肝臓の遺伝子発現の制御」と題する米国特許出願第60/544835号、及び2004年2月26日付で出願された、「転写調節因子及びその方法」と題する米国特許出願第60/547933号の出願日の利益を主張する。引用された出願の全ての教示は、本明細書中に引用することで組み込まれる。
【0002】
[財政的支援]
本明細書中に記載の発明は、その全体又は一部が、米国エネルギー省コンピュータ分子生物学プログラム(Department of Energy Program for Computational Molecular Biology)によって支援された。合衆国政府は、本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
[発明の背景]
遺伝子発現は、特定のDNA配列に結合して補因子及び転写装置(apparatus)をプロモーターに動員する転写調節因子によって制御されている(1〜3)。転写調節因子自体の発現も転写調節因子によって調節され、1つの遺伝子を複数の転写因子によって調節することができる。これらの調節ネットワーク又は経路の結果として、細胞中の1つの転写調節因子の誤った調節により、転写調節因子が活性なネットワーク中で複数の遺伝子が異常に発現し、生物に疾患を引き起こし得る。
【0004】
転写調節因子によって制御される遺伝子の現在の同定方法は、典型的には、転写調節因子を発現する細胞及び転写調節因子を発現しないコントロール細胞中の候補標的のmRNAレベルの比較を含む。しばしば、この比較は、所与の細胞型における組換え転写調節因子の過剰発現、及び、コントロール細胞としてのコントロール組換えタンパク質を過剰発現するか、又は組換えタンパク質を全く発現しない細胞の使用を含む。しかし、細胞株の使用及び導入遺伝子の過剰発現によって人為的性質が与えられると、このような手法から得られた結果は、生物における天然の転写調節因子によるin vivo調節を反映することができない。
【0005】
ゲノム規模(wide)の分析方法が最近使用され、この方法により、サッカロミセス・セレビシエにおいてコードされた標識(tagged)転写調節因子がどのようにして生きた酵母細胞中のゲノムと関与するのかを決定し、これらの細胞の転写調節回路をモデル化されてきている(4)。これらの方法は、いくつかの転写調節因子の標的遺伝子を同定するためにヒト組織培養細胞でも使用されている(5〜7)。
【0006】
しかし、転写調節因子が、特定の組織、特に、新たに単離した初代組織(この転写調節因子は、そのin vivo特異性を維持する可能性が高い)を特徴づける全体的(global)遺伝子発現プログラムをどのようにして制御するのかを決定するためのゲノム規模の分析方法を開発するが依然として必要である。さらに、転写調節因子の異常な機能によって引き起こされる疾患に対する治療標的を同定することが可能なように、所与の転写アクチベーターが部分的にでも作用する調節ネットワーク又は経路を同定する必要がある。
【発明の開示】
【0007】
一態様では、本発明は転写調節因子によって調節される遺伝子を同定する方法を提供する。本発明の一態様は、遺伝子サブセット中のいずれの遺伝子が細胞中に発現した転写調節因子によって調節されるかを決定する方法であって、(a)転写調節因子を発現する細胞からクロマチンを選択的に単離し、単離クロマチンを生成するステップと、(b)単離クロマチンからクロマチンフラグメントを選択的に単離し、結合クロマチンフラグメントを生成するステップであって、結合クロマチンフラグメントには転写調節因子が結合している、ステップと、(c)結合クロマチンフラグメントを増幅し、増幅クロマチンフラグメントを生成し、且つ、単離クロマチンを増幅し、増幅コントロールクロマチンを生成するステップと、(d)増幅コントロールクロマチン及び増幅クロマチンフラグメントをDNAマイクロアレイとハイブリッド形成させるステップであって、DNAマイクロアレイは、(1)少なくとも10,000個の実験スポットであって、実験スポットはそれぞれ実験DNAを含み、実験DNAはそれぞれサブセット中の遺伝子のプロモーター領域を含む、実験スポット、及び(2)少なくとも100個のコントロールスポットであって、コントロールスポットはそれぞれコントロールDNAを含み、コントロールDNAはそれぞれ非プロモーター領域を含む、コントロールスポットを含む、ハイブリッド形成させるステップと、(e)マイクロアレイ上のスポットのそれぞれにおけるハイブリッド形成シグナルを、(1)増幅コントロールクロマチン、及び(2)増幅クロマチンフラグメントによって生成されたシグナル間で決定及び比較するステップを含み、遺伝子のプロモーター領域を含むスポットが増幅コントロールクロマチンよりも増幅クロマチンフラグメントによってより高いハイブリッド形成レベルを示す場合、サブセット中の当該遺伝子が細胞中の転写調節因子によって調節されると考えられる、方法を提供する。
【0008】
別の態様では、本発明は、細胞中の調節ネットワーク又は経路を同定する方法を提供する。本発明は、細胞中の転写調節ネットワークを同定する方法であって、本明細書中に記載の任意の方法を使用して転写調節因子が細胞中のさらなる転写調節因子を調節するかを決定するステップを含み、少なくとも1つのさらなる転写調節因子が転写調節因子によって調節される場合、転写調節ネットワークが同定される、方法を提供する。
【0009】
本発明はまた、細胞中の転写調節ネットワークを同定する方法であって、本明細書に記載の任意の方法を使用して、転写調節因子が、(i)転写調節因子自体のプロモーター、又は(ii)複数の転写調節因子のプロモーターを調節するか決定するステップであって、実験DNAが、(a)転写調節因子のプロモーター、及び(b)複数の転写調節因子のプロモーターを含む、ステップを含み、転写調節因子が転写調節因子自体を調節するか、又は転写調節因子が複数の転写調節因子のうちの少なくとも1つを調節する場合、転写調節ネットワークが同定される、方法を提供する。
【0010】
本発明はさらに、細胞中の転写調節ネットワークを同定する方法であって、(a)複数の転写調節因子のそれぞれについて転写調節因子の標的を同定する方法を繰り返すことによって、複数の転写調節因子のそれぞれによって調節されるサブセット中の遺伝子を決定するステップであって、実験DNAは複数の転写調節因子のそれぞれのプロモーター領域を含む、ステップと、(b)複数の転写調節因子のうちのいずれかが複数の転写調節因子のうちの少なくとも1つによって調節されるかを決定するステップとを含み、複数の転写調節因子のうちのいずれかが、複数の転写調節因子のうちの少なくとも1つによって調節される場合、転写調節ネットワークが同定される、方法を提供する。
【0011】
本発明はまた、ヒト細胞中のプロモーターの占有(occupancy)を決定するためのDNAマイクロアレイであって、(1)少なくとも10,000個の実験スポットであって、実験スポットはそれぞれ実験DNAを含み、実験DNAはそれぞれサブセット中のヒト遺伝子のプロモーター領域を含む、実験スポット、及び(2)少なくとも100個のコントロールスポットであって、コントロールスポットはそれぞれコントロールDNAを含み、コントロールDNAはそれぞれ非プロモーター領域を含む、コントロールスポットを含み、プロモーター領域の少なくとも75%は、転写開始部位の少なくとも700bp上流から少なくとも200bp下流までを含む、DNAマイクロアレイを提供する。
【0012】
本発明の別の態様は、転写調節因子が全体的転写調節因子(global transcriptional regulator)であるかを評価する方法であって、(a)組織からクロマチンを選択的に単離するステップと、(b)候補全体的転写調節因子が結合しているクロマチンからプロモーター領域を同定するステップと、(c)基本転写機構のメンバーが結合しているクロマチンからプロモーター領域を同定するステップと、(d)ステップ(b)及びステップ(c)で同定されたプロモーター領域を比較し、(i)候補全体的転写調節因子及び基本転写機構のメンバーの両方が結合しているプロモーター領域の数と、(ii)基本転写機構のメンバーが結合しているプロモーター領域の数との間の比を決定する、ステップとを含み、比が0.2を超える場合に、転写調節因子が全体的転写調節因子である、方法を提供する。
【0013】
本発明はさらに、治療薬の標的を同定する方法を提供する。一態様では、本発明は、被験体の障害を治療又は予防するための治療薬の開発のための少なくとも1つの標的遺伝子を同定する方法であって、障害の少なくとも1つの形態が転写調節因子内又は転写調節因子と疑われるものの活性の変化に起因し、(a)細胞中の転写調節因子によって調節される遺伝子を同定するステップと、(b)転写調節因子が広域作用転写調節因子であるか又は狭域作用転写調節因子であるかを決定するステップであって、転写調節因子が広域作用転写調節因子である場合、転写調節因子は治療薬開発のための標的遺伝子であり、転写調節因子が狭域作用転写調節因子である場合、(i)転写調節因子によって調節される少なくとも1つの遺伝子が障害の原因である可能性が高いかを決定し、障害の原因である可能性が高い遺伝子が治療薬の開発のための標的遺伝子であり、かつ(ii)細胞中の転写調節因子によって調節され、且つ(1)転写調節因子をコードするか、または(2)転写調節因子をコードすると疑われる少なくとも1つの遺伝子について、ステップ(a)及びステップ(b)における前記転写調節因子を前記遺伝子と変更して、ステップ(a)及びステップ(b)を繰り返すステップとを含み、これにより被験体の障害を治療又は予防するための治療薬の開発のための少なくとも1つの標的遺伝子を同定する、方法を提供する。
【0014】
本発明はまた、疾患を治療又は予防する方法を提供する。一態様では、本発明は、被験体のII型糖尿病を治療又は予防する方法であって、HNF4αの全体的転写活性を増加させる治療有効量の薬剤を被験体に投与するステップを含む、方法を提供する。
【0015】
一態様では、本発明は、被験体のHNF4αの低転写活性に関連する障害を治療又は予防する方法であって、HNF4αの全体的転写活性を増加させる治療有効量の薬剤を被験体に投与するステップを含む、方法を提供する。関連する一態様は、被験体のHNF4αの高転写活性に関連する障害を治療又は予防する方法であって、HNF4αの全体的転写活性を減少させる治療有効量の薬剤を被験体に投与するステップを含む、方法を提供する。
【0016】
本発明はまた、肝細胞又は膵臓細胞における全体的転写活性を増加させる方法であって、細胞をHNF4αの全体的転写活性を増加させる薬剤と接触させるステップを含む、提供する。関連する一態様は、肝細胞又は膵臓細胞における全体的転写活性を減少させる方法であって、細胞をHNF4αの全体的転写活性を減少させる薬剤と接触させるステップを含む、方法を提供する。
【0017】
本発明の一態様は、遺伝子の発現レベルを調節する方法を提供する。一態様は、肝細胞中の図13に記載の遺伝子のうちのいずれかの発現レベルを調節する方法であって、細胞をHNF1αの転写活性を調節する薬剤と接触させるステップを含む、方法を提供する。関連する一態様は、膵臓細胞中の図14に記載の遺伝子のうちのいずれかの発現レベルを調節する方法であって、細胞をHNF1αの転写活性を調節する薬剤と接触させるステップを含む、方法を提供する。
【0018】
本発明の別の態様は、肝細胞中の図16に記載の遺伝子のうちのいずれかの発現レベルを調節する方法であって、細胞をHNF6の転写活性を調節する薬剤と接触させるステップを含む、方法を提供する。関連する一態様は、膵臓細胞中の図17に記載の遺伝子のうちのいずれかの発現レベルを調節する方法であって、細胞をHNF6の転写活性を調節する薬剤と接触させるステップを含む、方法を提供する。
【0019】
本発明のさらに別の態様は、肝細胞中の図18に記載の遺伝子のうちのいずれかの発現レベルを調節する方法であって、細胞をHNF4αの転写活性を調節する薬剤と接触させるステップを含む、方法を提供する。関連する一態様は、膵臓細胞中の図19に記載の遺伝子のうちのいずれかの発現レベルを調節する方法であって、細胞をHNF4αの転写活性を調節する薬剤と接触させるステップを含む、方法を提供する。
【0020】
本発明はまた、細胞中の転写調節因子によって調節される転写活性遺伝子を同定する方法を提供する。一態様では、本発明は、細胞中の転写調節因子によって調節される転写活性遺伝子を同定する方法であって、(a)組織からクロマチンを選択的に単離するステップと、(b)転写調節因子が結合しているクロマチンのプロモーター領域を同定するステップと、(c)基本転写機構のメンバーが結合しているクロマチンのプロモーター領域を同定するステップと、(d)ステップ(b)及びステップ(c)で同定されたプロモーター領域を比較して、重複する遺伝子を決定するステップを含み、重複する遺伝子が転写調節因子によって調節される転写活性遺伝子である、方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
[発明の詳細な説明]
〔I.概要〕
一定の態様では、本発明は、転写調節因子に関する方法を提供する。本発明のいくつかの態様は、細胞中の特定の転写調節因子によって転写が調節される遺伝子の同定方法を提供する。いくつかのこれらの方法は、細胞中の転写調節因子に物理的に関連するプロモーター領域のクロマチン沈降及び/又はDNAマイクロアレイ分析の組み合わせを使用して転写調節因子中のプロモーターの占有を決定することを含む。本明細書中に記載の方法のいくつかの実施形態では、DNAマイクロアレイは、プロモーターDNAを含む実験スポット及び非プロモーターDNAを含むコントロールスポットの両方を含む。本明細書中に記載の方法を、任意の細胞型(移植用グレードのヒト初代組織が含まれる)に適用することができる。さらに、本明細書中に記載の方法を使用して、細胞型間又は健常な被験体及び罹患被験体等の2つの集団間で転写調節因子の機能を比較することができる。
【0022】
関連する態様では、本発明は、調節ネットワーク又は経路を同定する方法を提供する。いくつかの方法は、所与の転写調節因子によって調節される転写調節因子を同定すること、及び、任意選択的に、これらの転写調節因子によって調節される遺伝子を決定することを含む。本明細書中に記載の方法を使用して同定することができる経路には、自己調節経路、多成分経路、フィードフォワード経路、及び多成分ループ経路、並びに調節鎖(regulatory chain)が含まれる。
【0023】
本発明はまた、転写調節因子が全体的転写調節因子であるかを決定する方法を提供する。いくつかの態様では、このような方法は、転写調節因子及び基本転写機構のメンバーの両方のプロモーターの占有を決定することを含む。転写調節因子及び基本転写機構のメンバーによるプロモーターの占有の比較により、転写調節因子によって結合及び調節される転写活性プロモーターが同定可能である。他の方法は、試験されるプロモーターのセットからゲノム中の総プロモーターメンバー数を推定し、特定の転写因子の制御下における細胞中の転写活性プロモーター概数を決定するか、又は転写調節因子が全体的転写調節因子であるかを決定することをさらに含む。
【0024】
本発明の他の態様は、疾患を治療するための治療標的の同定方法を提供する。本発明の1つの特定の態様は、被験体の障害、好ましくは、障害の少なくとも1つの形態が転写調節因子又は転写調節因子をコードすると疑われる遺伝子の活性の変化に起因する障害を治療又は予防するための治療薬の開発のための少なくとも1つの標的遺伝子の同定に関する。本明細書中に提供された治療標的を同定するためのいくつかの方法は、転写調節因子が細胞中で調節する遺伝子の少なくともサブセットの同定等によって疾患に関連する転写調節因子が広域作用転写調節因子又は狭域作用転写調節因子であるかを決定することを含み、広域作用転写調節因子が治療薬の標的である。転写調節因子が狭域作用転写調節因子である場合、転写調節因子が調節する遺伝子をさらに試験し、いずれかの遺伝子が広域作用転写調節因子(転写調節因子をコードする遺伝子)であるか、又はいずれかの遺伝子が病状の原因となるか(すなわち、それらの遺伝子が病状を悪化させる経路又はネットワークを調節するか)を決定することができる。
【0025】
本発明は、さらに、疾患の治療方法を提供する。本発明のいくつかの態様は、II型糖尿病等の代謝障害の治療方法を提供する。本発明の特定の態様は、治療有効量のHNF4αの全体的転写活性を増加させる薬剤を被験体に投与することによる被験体のII型糖尿病を治療又は予防する方法を提供する。さらに、本発明は、遺伝子の発現レベルを調整する方法を提供する。このような方法は、肝細胞及び膵臓細胞中のHNF1α、HNF4α、又はHNF6によって転写が調節される遺伝子についての出願人による所見に一部基づく。関連する態様では、本発明は、HNF1α、HNF4α、又はHNF6の転写活性又は発現の調整による図13〜図19に記載の遺伝子の発現レベルを調整する方法及び異常な発現に関連する病状を緩和する方法を提供する。特定の実施形態では、肝細胞、膵臓細胞、又はその両方における遺伝子発現を調整する。
【0026】
〔II.定義〕
便宜上、明細書、実施例、及び添付の特許請求の範囲中で使用する一定の用語をここに集める。他で定義しない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明に属する当業者によって一般的に理解されている意味と同義である。
【0027】
冠詞「a」及び「an」は、1つ又は1つを超える(すなわち、少なくとも1つの)文法上の冠詞の対象物を言うために本明細書中で使用される。例として、「an element」は、1つの要素又は1つを超える要素を意味する。
【0028】
用語「含まれる」は、句「含まれるが、これらに限定されない」を意味するために本明細書中で使用され、この句と交換可能に使用される。
【0029】
用語「又は」は、他で明確に示されない限り、用語「及び/又は」を意味するために本明細書中で使用され、この用語と交換可能に使用される。
【0030】
用語「等」は、句「等であるが、これらに限定されない」を意味するために本明細書中で使用され、この句と交換可能に使用される。
【0031】
本発明の方法によって治療を受けるべき「患者」又は「被験体」は、ヒト又は非ヒト動物のいずれか、好ましくは哺乳動物を意味することができる。
【0032】
用語「アルファ」及び「α」は交換可能に使用され、用語「ベータ」及び「β」も同様である。
【0033】
用語「コードする」は、DNA分子の転写に起因するRNA産物、RNA分子の翻訳に起因するタンパク質、又はDNA分子の転写及びその後のRNA産物の翻訳に起因するタンパク質を含む。
【0034】
「プロモーター」は、核酸の転写を指示する核酸配列である。プロモーターは、転写開始部位付近の核酸配列(例えば、TATAボックス)を含む(例えば、Butler and Kadonaga (2002) Genes Dev. 16: 2583-2592;Georgel (2002) Biochem. Cell Biol. 80: 295-300を参照のこと)。プロモーターはまた、任意選択的に、遠位エンハンサーエレメント又はリプレッサーエレメントを含み、これらは転写開始部位のいずれかの部位に数千塩基対も存在し得る。「構成性」プロモーターは、ほとんどの環境条件下及び発生条件下で活性であるプロモーターであり、「誘導性」プロモーターは、例えば、特定の環境条件下又は発生条件下で活性であるか活性化されるプロモーターである。
【0035】
用語「発現」は、DNAからポリペプチドが産生される過程を意味するために本明細書中で使用される。この過程は、遺伝子のmRNAへの転写及びこのmRNAのポリペプチドへの翻訳を含む。使用される文脈に依存して、「発現」は、RNA、タンパク質、又はその両方の産生をいうことができる。
【0036】
用語「組換え」は、天然で隣接しない配列を含む任意の核酸を意味するために本明細書中で使用される。組換え核酸を、例えば、分子生物学的方法を使用してin vitroで生成するか、又は例えば、相同組換え又は非相同組換えによる新規の染色体位置への核酸の挿入によってin vivoで生成することができる。
【0037】
用語「転写調節因子」は、一定の環境条件下でプロモーター駆動DNA配列の転写を防止又は阻害するように作用する生化学的エレメント(例えば、リプレッサー又は核阻害タンパク質)、又は一定の環境条件下でプロモーター駆動DNA配列の転写を可能にする若しくは刺激するように作用する生化学的エレメント(例えば、インデューサー又はエンハンサー)をいう。
【0038】
用語「マイクロアレイ」は、紙、ナイロン、若しくは他の膜型、フィルター、チップ、ガラススライド、又は任意の他の適切な固体支持体等の基板(substrate)上で合成された異なるポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドのアレイをいう。
【0039】
用語「障害」及び「疾患」は、包含的に使用され、身体の任意の部位、器官、又は系(又はこれらの任意の組み合わせ)の正常な構造又は機能からの任意の逸脱をいう。特定の疾患は、特徴的な症状及び徴候(生物学的変化、化学的変化、及び物理的変化が含まれる)によって現され、しばしば、種々の他の要因(人口統計学的要因、環境要因、雇用要因、遺伝的要因、及び病歴要因が含まれるが、これらに限定されない)に関連する。一定の特徴的な徴候、症状、及び関連する要因を種々の方法によって定量し、重要な診断情報を得ることができる。
【0040】
用語「細胞中の遺伝子発現レベル」又は「遺伝子発現レベル」は、mRNAレベル、並びに細胞中の遺伝子によってコードされる前mRNA新生転写物、転写物プロセシング中間体、成熟mRNA、及び分解産物のレベルをいう。
【0041】
用語「調整」は、応答の上方制御(すなわち、活性化又は刺激)、下方制御(すなわち、阻害又は抑制)、又はこれら2つが組み合わせて起こること若しくは個別に起こることをいう。「調整因子(modulator)」は、調整する化合物又は分子であり、例えば、アゴニスト、アンタゴニスト、活性化因子、刺激因子、抑制因子、又はインヒビターであり得る。
【0042】
用語「アゴニスト」は、タンパク質(例えば、ポリペプチドX)の生物活性を模倣する又は上方制御する(例えば、増強するか捕捉する)薬剤をいう。アゴニストは、野生型タンパク質又は野生型タンパク質の少なくとも1つの生物活性を有する誘導体であり得る。アゴニストはまた、遺伝子発現を上方制御する又は少なくとも1つのタンパク質の生物活性を増加させる化合物であり得る。アゴニストはまた、ポリペプチドの別の分子(例えば、標的ペプチド又は核酸)との相互作用を増加させる化合物であり得る。
【0043】
用語「アンタゴニスト」は、少なくとも1つのタンパク質の生物活性を下方制御する(例えば、抑制する又は阻害する)薬剤をいう。アンタゴニストは、タンパク質と別の分子(例えば、標的ペプチド又は酵素基質)との間の相互作用を阻害する又は減少する化合物であり得る。アンタゴニストはまた、遺伝子発現を下方制御するか、又は発現タンパク質の存在量を減少させる化合物であり得る。
【0044】
用語「予防的」又は「治療上の」処置は、1つ又は複数の本組成物の被験体への投与をいう。望ましくない病態の臨床症状(例えば、宿主動物の疾患又は他の望ましくない状態)の前に投与する場合、処置は予防的であるのに対して(すなわち、望ましくない病態の発症から宿主を保護する)、望ましくない病態の発現後に投与する場合、処置は治療的である(すなわち、既存の望ましくない病態又は病態由来の副作用を減少、改善、又は維持することが意図される)。
【0045】
用語「治療効果」は、薬理学的に活性な物質に起因する動物、特に哺乳動物、さらに特にヒトにおける局所効果又は全身効果をいう。したがって、この用語は、疾患の診断、治癒、軽減、治療、若しくは予防、又は動物若しくはヒトにおける望ましい身体的若しくは精神的な発達及び病態の強化での使用が意図される任意の物質を意味する。句「治療有効量」は、任意の治療に適用可能な合理的利益/リスク比でいくらかの望ましい局所効果又は全身効果が生じるような物質の量を意味する。一定の実施形態では、化合物の治療有効量は、その治療指標及び溶解度等に依存する。例えば、本発明の方法によって発見された一定の化合物を、このような治療に適用可能な合理的利益/リスク比を生じるのに十分な量で投与することができる。
【0046】
「標識された」プローブは、分光学的手段、光化学的手段、生化学的手段、免疫化学的手段、同位体手段、又は化学的手段によって直接又は間接的に検出可能である。例えば、有用な標識には、32P、33P、35S、14C、3H、125I、安定同位体、蛍光色素、及びフルオレッテ(fluorette)(Rozinov and Nolan (1998) Chem. Biol 5: 713-728; Molecular Probes, Inc. (2003) Catalogue, Molecular Probes, Eugene Oreg.)、高電子密度試薬、酵素及び/又は基質(例えば、アルカリホスファターゼ又は西洋ワサビペルオキシダーゼを使用するアッセイと同様に酵素結合免疫アッセイで使用される)が含まれる。標識又は検出可能部分は、典型的には、検出すべき分子にリンカー又は化学結合を介して共有結合しているか、又はイオン結合、ファンデルワールス結合、若しくは水素結合を介して結合している。「放射性標識」は、共有結合手段又は非共有結合手段を介して放射性同位体が結合した化合物をいう。「フルオロフォア」は、第1の波長の放射エネルギーを吸収し、第2のより長い波長の放射エネルギーを放出する化合物又は部分である。
【0047】
「標識された核酸プローブ又はオリゴヌクレオチド」は、プローブの存在をプローブに結合した標識の存在の検出によって検出することができるように標識にリンカー若しくは化学結合を介して共有結合するか、又はイオン結合、ファンデルワールス結合、静電結合、若しくは水素結合を介して非共有結合した核酸プローブ又はオリゴヌクレオチドである。プローブを、好ましくは、同位体、発色団、フルオロフォア、色原体等を使用して直接標識するか、又はビオチン等を使用して間接的に標識し、ストレプトアビジン複合体又はアビジン複合体を後に結合することができる。
【0048】
「核酸プローブ」は、通常は相補的塩基対合(例えば、水素結合の形成)によって相補配列の標的核酸に結合することができる核酸である。プローブには、天然の塩基(例えば、A、G、C、又はT)又は修飾塩基(例えば、7−デアザグアノシン、イノシン等)が含まれ得る。プローブ中の塩基を、ホスホジエステル結合以外の結合によって連結することができる。プローブは、構成塩基がホスホジエステル結合よりもむしろペプチド結合によって連結されるペプチド核酸であり得る。プローブがハイブリッド形成条件のストリンジェンシーに依存してプローブ配列との完全な相補性を欠く標的配列に結合することができることが当業者に理解されるであろう。
【0049】
「小分子」は、分子量が10kD未満、典型的には2kD未満、好ましくは1KD未満の分子と定義する。小分子には、無機分子、有機分子、無機成分を含む有機分子、放射性原子を含む分子、合成分子、ペプチド模倣物、及び抗体模倣物が含まれるが、これらに限定されない。治療薬として、小分子は、巨大分子よりも細胞に対してより透過性が高く、分解に対する感受性が低く、免疫応答を誘発する傾向が低い。小分子毒素について記載があり、例えば、Steart他に付与された米国特許第6,326,482号を参照のこと。小分子は、分子量が約1000kDa未満の組成物をいう。
【0050】
〔III.転写標的及び転写ネットワークの同定〕
本発明の1つの態様は、遺伝子サブセット中のいずれの遺伝子が細胞中の転写調節因子によって調節されるかを決定する方法であって、(a)転写調節因子を発現する細胞からクロマチンを選択的に単離し、単離クロマチンを生成する、ステップと、(b)単離クロマチンからクロマチンフラグメントを選択的に単離し、結合クロマチンフラグメントを生成する、ステップであって、結合クロマチンフラグメントには転写調節因子が結合している、ステップと、(c)結合クロマチンフラグメントを増幅し、増幅クロマチンフラグメントを生成し、且つ、単離クロマチンを増幅し、増幅コントロールクロマチンを生成するステップと、(d)増幅コントロールクロマチン及び増幅クロマチンフラグメントをDNAマイクロアレイとハイブリッド形成させるステップであって、DNAマイクロアレイは、(1)少なくとも10,000個の実験スポットであって、実験スポットはそれぞれ実験DNAを含み、実験DNAはそれぞれサブセット中の遺伝子のプロモーター領域を含む、実験スポット、及び(2)少なくとも100個のコントロールスポットであって、コントロールスポットはそれぞれコントロールDNAを含み、コントロールDNAはそれぞれ非プロモーター領域を含む、コントロールスポットを含む、ハイブリッド形成させるステップと、(e)マイクロアレイ上の各スポットにおけるハイブリッド形成シグナルを、(1)増幅コントロールクロマチン、及び(2)増幅クロマチンフラグメントによって生成されたシグナルの間で決定及び比較するステップとを含み、遺伝子のプロモーター領域を含むスポットが増幅コントロールクロマチンよりも増幅クロマチンフラグメントによってより高いハイブリッド形成レベルを示す場合、サブセット中の遺伝子が細胞中の転写調節因子によって調節されると考えられる、方法を提供する。
【0051】
クロマチン、特に転写調節因子が結合しているクロマチンフラグメントの単離方法を、当業者に既知の任意の方法(転写調節因子のクロマチンへの架橋、クロマチンの断片化、及び転写調節因子の免疫沈降が含まれる)によって実施することができる。
【0052】
好ましい実施形態では、転写調節因子が結合しているクロマチンフラグメントを、クロマチン免疫沈降(ChIP)を使用して単離する。簡潔に述べれば、この技術は、対応する抗原(すなわち、転写調節因子)を含むクロマチン複合体を免疫沈降するための特異的抗体の使用及び免疫沈降物中に存在するヌクレオチド配列の試験を含む。抗体による特定の配列の免疫沈降は、抗原と特定の配列との相互作用を示す。例えば、O'Neill et al.in Methods in Enzymology, Vol. 274, Academic Press, San Diego, 1999, pp. 189-197; Kuo et al. (1999) Method 19: 425-433; and Ausubel et al., supra, Chapter 21を参照のこと。
【0053】
1つの実施形態では、クロマチン免疫沈降技術を以下のように適用する。天然の転写調節因子又は組換え転写調節因子等の目的の転写調節因子を発現する細胞を、当該転写調節因子がクロマチンに安定に結合している場合、転写調節因子とクロマチンとを架橋する薬剤で処理する。本明細書中に記載の方法の1つの実施形態では、架橋はホルムアルデヒド架橋である(Solomon, M. J. and Varshavsky, A. , Proc. Natl. Sci. USA 82: 6470-6474; Orlando, V., TIBS, 25: 99-104)。UV光も使用することができる(Pashev et al. Trends Biochem Sci. 1991; 16 (9): 323-6; Zhang L et al.Biochem Biophys Res Commun. 2004; 322 (3): 705-11)。
【0054】
架橋後、細胞の核酸を単離し、超音波処理等によって剪断し、転写調節因子に指向する抗体の存在下でインキュベートする。抗体−抗原複合体を沈降し、架橋を無効にし(例えば、ホルムアルデヒド誘導性DNA−タンパク質架橋を加熱によって無効にすることができる)、免疫沈降したDNAの配列成分を特定の配列(例えば、プロモーター領域)の存在について試験する。抗体は、転写調節因子上のエピトープに直接結合することができるか、又は抗Myc抗体(Santa Cruz Biotechnology, sc-764)と共に使用する場合、調節因子上のmycタグ等のタグに結合することができる。
【0055】
さらに別の実施形態では、転写調節因子又は転写調節因子に対して使用したタグに親和性を示す非抗体薬を、抗体の代わりに使用する。例えば、転写調節因子が6ヒスチジンタグ等の親和性タグを含む場合、複合体を、ニッケル含有セファロースに対するアフィニティクロマトグラフィによって単離することができる。本発明の範囲内でのChIP法のさらなる変形形態を、Kurdistani et al. Methods. 2003 31(1): 90-5; O'Neill et al. Methods. 2003,31(1): 76-82; Spencer et al., Methods. 2003; 31 (1): 67-75; and Orlando et al. Methods 11: 205-214 (1997)に見出すことができる。
【0056】
本明細書中に記載の転写調節因子によって調節される遺伝子の同定方法の別の実施形態では、コントロール免疫沈降反応由来の増幅クロマチンフラグメントを、コントロールとして単離クロマチンの代わりに使用する。例えば、試験される転写因子と反応しない抗体を、クロマチンIP手順で使用してコントロールクロマチンを単離し、次いで、転写調節因子と反応しない抗体を使用して単離したクロマチンと比較することができる。好ましい実施形態では、試験される転写因子と反応しない抗体は、他の転写調節因子又はDNA結合タンパク質とも反応しない。
【0057】
1つの実施形態では、増幅コントロールクロマチン及び増幅クロマチンフラグメントを、その全体において、ライゲーション媒介型ポリメラーゼ連鎖反応(LM−PCR)を使用して対応するテンプレートDNAから生成する(例えば、Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel, F. M. et al., eds.1991及び米国特許出願第2003/0143599号(その教示全体が本明細書中に引用することにより組み込まれる)を参照のこと)。特定の実施形態では、LM−PCRは、LM−PCR反応で蛍光標識ヌクレオチドを含むことによる増幅DNAの蛍光標識を含む。マイクロアレイを使用したクロマチンの操作及び試験のさらなる変形形態は、米国特許第6,410,243号(その教示が本明細書中で参考として援用される)に記載されている。
【0058】
1つの実施形態では、米国特許第6,410,243号等に記載のように、標識プローブ又は非標識プローブは、DNAマイクロアレイとハイブリッド形成される。「バイオチップ」又は「アレイ」とも呼ばれるマイクロアレイは、典型的には、化学反応及び生化学反応を行うための直径がμmからmmの範囲の小型のデバイスであり、特に、本発明の実施形態に適切である。アレイを、本質的に半導体産業及び/又は生化学産業で既知且つ利用可能な任意の及び全ての技術を使用したミクロ電子工学及び/又はマイクロ加工によって構築することができるが、このような技術がポリヌクレオチド配列の沈殿及びスクリーニングを受け入れることが可能であり、且つ適合可能である場合に限られる。マクロアレイは、マクロアレイのサンプル処理が速く、且つプロフィール及び他のデータの生成コストが低い点で特に望ましい。マイクロアレイを使用したクロマチンの操作及び試験のさらなる変形形態は、米国特許第6,410,243号(その教示が本明細書中で参考として援用される)に記載されている。
【0059】
記載の方法の1つの実施形態では、増幅コントロールクロマチン及び増幅クロマチンフラグメントを、ゲノムの全て又はサブセット(例えば、染色体(単数又は複数))を示す実験スポットを含むDNAマイクロアレイにハイブリッド形成させる。増幅コントロールクロマチンと比較した増幅クロマチンフラグメント由来のマイクロアレイ上の各実験スポットの蛍光強度は、目的のタンパク質がその特定のスポットに存在するDNA領域に結合するかを示す。したがって、本明細書中に記載の方法により、全ゲノムにわたるタンパク質−DNA相互作用を検出可能である。
【0060】
本明細書中に記載の方法のいくつかの実施形態では、遺伝子のプロモーター領域は、遺伝子の転写開始部位の少なくとも700bp上流から少なくとも200bp下流を含む。いくつかの実施形態では、プロモーター領域は、少なくとも約30、40、50、又は60ヌクレオチド長を含む。特定の実施形態では、マイクロアレイのスポット上に見出される遺伝子のプロモーター領域は、少なくとも30ヌクレオチドの配列を含み、この配列は上記遺伝子の転写開始部位の3kb上流から1kb下流までに及ぶ領域と同一である。いくつかの実施形態では、DNAマイクロアレイは、非プロモーターDNAのコントロールスポットを含む。特定の実施形態では、非プロモーター領域は、オープンリーディングフレームを含む。好ましい実施形態では、非プロモーター領域は、転写調節因子によって結合せず、且つ好ましくは試験される転写調節因子によって結合しないゲノム領域を含む。いくつかの実施形態では、全ての実験スポット又はコントロールスポットがそれぞれ実験DNA又はコントロールDNAを含むとは限らない。さらに、いくつかの特定の実施形態では、いくつかのスポットは、プロモーターDNAを含むコントロールDNAを含む。当業者は、所与の適用のための実験スポット数又はコントロールスポット数を決定することができる。
【0061】
本明細書中に記載の方法のいくつかの実施形態では、増幅クロマチンフラグメントの各実験スポットへのハイブリッド形成レベルを、増幅クロマチンフラグメントのコントロールスポットへのハイブリッド形成レベルによって標準化する。特定の実施形態では、各実験スポットでの増幅クロマチンフラグメントのハイブリッド形成レベルからコントロールスポットへの増幅クロマチンフラグメントの平均ハイブリッド形成レベルを差し引くことによって標準化を行う。
【0062】
マイクロアレイ由来のデータの分析方法は当該分野で十分に説明されており、例えば、DNA Microarrays: A Molecular Cloning Manual, Ed by Bowtel and Sambrook (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2002); Microarrays for an Integrative Genomics byKohana (MIT Press,2002) ; A Biologist's Guide to Analysis of DNA Microarray Data, by Knudsen (Wiley, John & Sons, Incorporated, 2002); and DNA Microarrays: A Practical Approach, Vol. 205 by Schema (Oxford University Press, 1999); and Methods of Microarray Data AnalysisII, ed by Lin et al. (Kluwer Academic Publishers, 2002)(その全体が本明細書中に引用することにより組み込まれる)が含まれる。
【0063】
本明細書中に記載の任意の方法のいくつかの実施形態では、転写調節因子は細胞に天然のものである。「天然のものである」は、転写調節因子が細胞中に天然に存在することを意味する。他の実施形態では、転写調節因子は、組換え転写調節因子である。いくつかの実施形態では、転写調節因子は、細胞の転写調節因子と異なる種が起源である。いくつかの実施形態では、転写調節因子は、ウイルス転写調節因子である。このような実施形態では、細胞をウイルス及びウイルスタンパク質を十分な時間発現させた後に感染細胞から抽出したクロマチンと接触させることができる。いくつかの実施形態では、組換え転写調節因子は、ミスセンス変異、短縮、若しくは挿入配列、又は他の天然に存在するタンパク質由来の全ドメインを有する。タグにより調節因子の免疫沈降を容易にすることができるので、いくつかの実施形態では、標識組換え転写調節因子を本発明の方法で使用することができる。
【0064】
本発明の一定の実施形態では、転写調節因子は、特定の転写因子、コアクチベーター、コリプレッサー、又はこれらの複合体を含む。転写因子は、プロモーターエレメント、エンハンサーエレメント、及びサイレンサーエレメント等の特定の同族DNAエレメントに結合し、遺伝子発現の調節を担う。転写因子は、細胞に関する文脈に依存して転写のアクチベーター、転写のリプレッサー、又はその両方であり得る。転写因子は、既知であるか若しくは同定された転写因子の任意のクラス又は型に属し得る。既知のファミリー又は構造的に関連する転写因子の例には、ヘリックス−ループ−ヘリックス、ロイシンジッパー、亜鉛フィンガー、リングフィンガー、及びホルモン受容体が含まれる。転写因子を、疾患とのその既知の関連又は1つ若しくは複数の遺伝子の調節に基づいて選択することもできる。例えば、c−myc、Rel/Nf−kB、neuroD、c−fos、c−jun、及びE2F等の転写因子をターゲティングすることができる。任意の転写コアクチベーター又はコリプレッサーに指向する抗体も本発明に従って使用することができる。特定のコアクチベーターの例には、CBP、CTIIA、及びSRAが含まれ、コリプレッサーの特定の例には、mSin3タンパク質、MITR、及びLEUNIGが含まれる。さらに、ヒストンアセチラーゼ(HAT)及びヒストンデアセチラーゼ(HDAC)等の転写複合体に関連するタンパク質によって調節される遺伝子を、本明細書中に記載の方法を使用して決定することもできる。
【0065】
本明細書中に記載の方法の1つの実施形態では、細胞は初代細胞である。初代細胞を、生物から直接単離し、in vitroで最少に継代し、それにより生物中の細胞のほとんどの表現型の特徴が保存される。特定の実施形態では、初代細胞は、ex vivoで10回未満倍加した初代細胞である。いくつかの実施形態では、細胞は、移植用グレードの組織又は新たに単離した組織に由来する。本明細書中に記載のアッセイで使用される細胞型は、任意の細胞型であり得る。細胞は、後生動物又は酵母等の単細胞生物由来の原核細胞若しくは真核細胞であり得る。いくつかの好ましい実施形態では、細胞は、げっ歯類、霊長類、又はヒト由来の細胞等の哺乳動物細胞である。細胞は、野生型細胞又は組換え手段若しくは変異誘発物質への曝露によって遺伝子修飾された細胞であり得る。細胞は、形質転換細胞又は不死化細胞であり得る。いくつかの実施形態では、細胞は、罹患生物に由来する。いくつかの実施形態では、細胞は、過形成状態等の疾患を引き起こす遺伝的変異を含む。
【0066】
いくつかの実施形態では、細胞は、移植用グレードの組織又は新たに単離した組織に由来する。いくつかの実施形態では、細胞は、障害を罹患しているか又は罹患している疑いのある被験体等の組織生検に由来する。別の実施形態では、細胞を、体液又は分泌液(血清、血漿、唾液、涙、汗、精液、羊水、膣分泌物、鼻汁(nasal secretion)、滑液、髄液、痰、気管支肺胞洗浄液、水疱液(blister fluid)、膿、便、及び頭蓋内液(intracranial fluid)が含まれる)から単離する。細胞は、生細胞、又はホルマリン、B5、ツェンケル固定液、ルゴール液、カルノア固定液、F13固定液、若しくは他の防腐剤等での処理によって保存された細胞、又は凍結によって保存された細胞であり得る。
【0067】
本明細書中に記載の方法のいくつかの実施形態では、細胞は、クロマチンの単離前に化合物又は薬物等の薬剤で処理されている。いくつかの好ましい薬剤には、転写調節因子に結合するか又はその発現を調節する薬剤が含まれる。いくつかの実施形態では、所与の転写調節因子によって調節される遺伝子を、薬剤と接触させた細胞及び薬剤と接触させない細胞の両方又は異なる量の薬剤と接触させた細胞で決定する。このような方法を使用して、遺伝子の型及び/又は転写調節因子がこれらの遺伝子の転写を制御する範囲を変化させる化合物を同定することができる。さらに、このような手法を使用して、転写調節因子の活性、特異性、又は発現を変化させる薬剤をスクリーニングすることができる。
【0068】
本明細書中に記載の転写調節因子によって調節される遺伝子の同定方法のいくつかの実施形態では、増幅コントロールクロマチンよりも増幅クロマチンフラグメントによるより高いハイブリッド形成レベルは、少なくとも2倍のより高いハイブリッド形成レベルを含む。当業者は、より高いハイブリッド形成レベルを構成する閾値を、特定の適用のために調整することができる。より高いハイブリッド形成によると標的サイズがより小さくなることが予想されるが、その閾値を超える所与の遺伝子がin vivoにて細胞で転写調節因子によって調節される確からしさがより高くなる。
【0069】
本明細書中に記載の転写調節因子によって調節される遺伝子の同定方法の他の実施形態では、転写調節因子は、基本転写因子又は基本転写機構の成分である。特定の実施形態では、基本転写機構の成分は、RNAポリメラーゼ(poII、poIII、poIIII、TBP、NTF−1、及びSp1が含まれる)及びTFIIDの任意の他の成分(例えば、TAF(例えば、TAF250、TAF150、TAF135、TAF95、TAF80、TAF55、TAF31、TAF28、及びTAF20)が含まれる)、又はポリメラーゼホロ酵素の任意の他の成分を含む。
【0070】
本発明の別の態様は、細胞中の転写調節因子によって調節される転写活性遺伝子の同定方法を提供する。この方法は、転写調節因子によって調節される遺伝子は何かを決定すること及びどの遺伝子が細胞中で転写活性を示すのかを決定することを含む。1つの実施形態では、転写活性を示す遺伝子のセットは、そのプロモーターがRNAポリメラーゼII等のRNAポリメラーゼ又は基本転写機構のメンバーによって結合される遺伝子のセットである。或いは、転写活性を示す遺伝子を、当該分野で既知の他の技術を使用して同定することができる。例えば、転写調節因子を発現する細胞由来のmRNAを回収し、コード配列を含むDNAマイクロアレイにて試験してどの遺伝子が転写されるのかを決定することができる。
【0071】
1つの実施形態では、本発明は、細胞中の転写調節因子によって調節される転写活性遺伝子を同定する方法であって、(a)組織からクロマチンを選択的に単離するステップと、(b)転写調節因子が結合しているクロマチンのプロモーター領域を同定するステップと、(c)基本転写機構のメンバーが結合しているクロマチンのプロモーター領域を同定するステップと、(d)ステップ(b)及びステップ(c)で同定されたプロモーター領域を比較して重複する遺伝子を決定するステップとを含み、重複する遺伝子が転写調節因子によって調節される転写活性遺伝子である、方法を提供する。
【0072】
関連する態様では、本発明は、転写調節因子が全体的転写調節因子であるかを決定する方法を提供する。1つの方法は、転写調節因子が全体的転写調節因子であるかを評価する方法であって、(a)組織からクロマチンを選択的に単離するステップと、(b)候補全体的転写調節因子が結合しているクロマチンからプロモーター領域を同定するステップと、(c)基本転写機構のメンバーが結合しているクロマチンからプロモーター領域を同定するステップと、(d)ステップ(b)及びステップ(c)で同定されたプロモーター領域を比較し、(i)候補全体的転写調節因子及び基本転写機構のメンバーが結合しているプロモーター領域の数と、(ii)基本転写機構のメンバーが結合しているプロモーター領域の数との間の比を決定するステップとを含み、比が0.2を超える場合に当該転写調節因子が全体的転写調節因子である、方法を含む。
【0073】
上記の方法の好ましい実施形態では、ステップ(b)及びステップ(c)を、DNAマイクロアレイを使用して行う。特定の実施形態では、DNAマイクロアレイは、(i)少なくとも10,000個の実験スポットであって、実験スポットはそれぞれ実験DNAを含み、実験DNAはそれぞれサブセット中のヒト遺伝子のプロモーター領域を含む、実験スポット、及び(ii)少なくとも100個のコントロールスポットであって、コントロールスポットはそれぞれコントロールDNAを含み、コントロールDNAはそれぞれ非プロモーター領域を含む、コントロールスポットを含む。任意のマイクロアレイ型又はアレイ型を使用することができる。
【0074】
上記の方法の1つの実施形態では、転写調節機構のメンバーは、RNAポリメラーゼII等のRNAポリメラーゼ、TATA結合タンパク質、又はTFIIDの任意の他の成分(例えば、TAF(例えば、TAF250、TAF150、TAF135、TAF95、TAF80、TAF55、TAF31、TAF28、及びTAF20)が含まれる)である。
【0075】
本発明の別の態様は、細胞中の調節ネットワーク又は経路の同定方法を提供する。本発明によって提供される方法により、図2B等に示す調節モチーフの調節モチーフを同定可能である。調節経路には、例えば、特定の条件下で細胞機能を制御する経路が含まれ得る。調節経路は、例えば、系の成分の活性若しくは生化学物質の活性、遺伝子発現、又は他の経路型の変化によって細胞機能を制御する。活性の変化には、例えば、特定の条件下での発現、活性、又は経路成分の物理的相互作用における変化の誘導が含まれる。調節経路の特定の例には、細胞成長シグナルの存在に反応した細胞分化の阻害並びにガラクトースの存在及び抑制する糖の非存在に反応したガラクトースの輸送及び触媒反応の活性化等の生化学系の環境刺激に反応して細胞機能を活性化させる経路が含まれる。用語「成分」は、ネットワーク又は経路に関して使用される場合、生化学系、ネットワーク、又は経路の分子構成要素(例えば、ポリペプチド、核酸、他の高分子、又は他の生体分子等)を意味することを意図する。
【0076】
1つの態様では、本発明は、細胞中の転写調節ネットワークを同定する方法であって、本明細書中に記載の任意の方法等を使用して、転写調節因子が細胞中のさらなる転写調節因子を調節するかを決定することを含み、少なくとも1つのさらなる転写調節因子が転写調節因子によって調節される場合に転写調節ネットワークが同定される、方法を提供する。
【0077】
本発明の別の態様は、細胞中の転写調節ネットワークを同定する方法であって、本明細書中に記載の任意の方法等の使用によって、転写調節因子が、(i)転写調節因子自体のプロモーター、又は(ii)複数の転写調節因子のプロモーターを調節するかを決定するステップであって、実験DNAが、(a)転写調節因子のプロモーター、及び(b)複数の転写調節因子のプロモーターを含む、ステップを含み、転写調節因子が転写調節因子自体を調節するか、又は転写調節因子が複数の転写調節因子のうちの少なくとも1つを調節する場合、転写調節ネットワークが同定される、方法を提供する。
【0078】
本発明のさらに別の態様は、細胞中の転写調節ネットワークを同定する方法であって、(a)複数の転写調節因子のそれぞれについて本明細書中に記載の1つの方法の繰り返すことによって、複数の転写調節因子のそれぞれによって調節されるサブセット中の遺伝子を決定するステップであって、実験DNAが複数の転写調節因子のそれぞれのプロモーター領域を含む、ステップと、(b)複数の転写調節因子のうちのいずれかが複数の転写調節因子のそれぞれのうちの少なくとも1つによって調節されるかを決定するステップとを含み、複数の転写調節因子のそれぞれのうちのいずれかが複数の転写調節因子のうちの少なくとも1つによって調節される場合、転写調節ネットワークが同定される、方法を提供する。
【0079】
本明細書中に記載の調節ネットワークを同定する方法の特定の実施形態は、複数の転写調節因子のうち1つによって調節される任意の遺伝子も任意の他の転写調節因子の標的であるかを決定することをさらに含む。
【0080】
本発明は、さらに、調節モチーフの同定のためのアルゴリズムを提供し、このアルゴリズムは、転写調節因子によって調節される遺伝子の同定方法等の本明細書中に提供された任意の方法と併せて使用することができる。特定の実施形態では、2つのデータ行列を作製する。全行列Dは、バイナリエントリーDijからなり、これは、1が調節因子jの遺伝子間領域iへの結合を示し、0は結合事象なしを示す。調節行列Rは、Dのサブセットであり、調節因子の列と同一の順序で各調節因子に割り当てた遺伝子間領域に対応する行のみを含む。Matlab(商標)ソフトウェアを使用して分析を行うことができる。各モチーフを求めるためのアルゴリズムを以下に記載する。
【0081】
自己調節モチーフ:Rの対角線上の各非ゼロエントリーを求める。
【0082】
フィードフォワードループ:それぞれの主な調節因子(R列)について、結合した調節因子に対応する非ゼロエントリーを求める。それぞれの主な調節因子/二次調節対について、両調節因子によって結合されるD中の全ての行を求める。
【0083】
多成分ループ:それぞれの調節因子(R列)について、調節因子が結合する調節因子を求める。これらのそれぞれについて、調節因子が結合する調節因子を求める。これらのいずれもが元の調節因子である場合、2つの多成分ループである。他の全てについて、調節因子が結合する調節因子を求める。これらのいずれもが元の調節因子である場合、3つの多成分ループである。より大きなループを求めるために繰り返す。
【0084】
単一(single)入力モジュール:たった1つの調節因子によって結合される遺伝子間領域を求める。すなわち、各行の合計が1であるようにD行のサブセットをとる。次いで、それぞれの調節因子(列)について、非ゼロエントリーを求める。各セット(3つを超える遺伝子間領域)はSIMである。
【0085】
多入力モジュール:1つを超える調節因子によって結合される遺伝子間領域を求める。すなわち、各行の合計が1を超えるにようD行のサブセットをとる。次いで、それぞれの行について、同一の調節因子によって結合される任意の他の行を求める。同一の調節因子によって結合される列の集合は、MIMに対応する。一旦行がMIMに割り当てられると、さらなる分析のためにこの行を取り出す。
【0086】
調節因子鎖:各調節因子(R列)について、再帰アルゴリズムを使用して全長の鎖を求める。すなわち、鎖中に結合する前にプロモーターが調節因子によって結合されるそれぞれの鎖について、調節因子が結合する調節因子のプロモーターを求める。鎖が終了するまで繰り返す。鎖を終了させるための可能な方法は以下の3つ存在する:いかなる他の調節因子のプロモーターにも結合しない調節因子、調節因子自体のプロモーターに結合する調節因子、又は鎖中でより早く別の調節因子のプロモーターに結合する調節因子。
【0087】
調節ネットワークの同定方法等の本明細書中に記載の任意の方法の1つの好ましい実施形態では、マイクロアレイ中の実験DNAは、さらなる転写調節因子又は転写調節因子をコードすると疑われる遺伝子のプロモーター領域を含む。当業者は、このようなマイクロアレイにより、調節経路の成分を同定することができる。例えば、1つの転写調節因子をはじめとして、転写調節因子が調節する遺伝子のサブセットを、本明細書中に記載の方法等の任意の方法を使用して同定する。例えば、1つの同定された遺伝子自体が第2の転写調節因子であるか、又は転写調節因子をコードすると疑われる場合、第2の転写調節因子が調節する遺伝子のサブセットが同定される、等である。さらに、第1及び第2の転写調節因子が調節する遺伝子のサブセットを比較して、両サブセット中に任意の遺伝子が見出されるかを決定することができる。そうであれば、フィードフォワードモチーフ(調節ネットワーク単位)が同定される。同様に、第2の転写調節因子が第1の転写調節因子を調節することが見出された場合、フィードバックループが同定される。
【0088】
〔4.障害を治療又は予防するための治療薬の開発〕
本発明の1つの態様は、治療薬の開発のための標的を同定する方法を提供する。本発明の1つの態様は、被験体の障害を治療又は予防するための治療薬の開発のための少なくとも1つの標的遺伝子を同定する方法であって、障害の少なくとも1つの形態が転写調節因子又は転写調節因子と疑われるものの活性の変化に起因し、(a)細胞中の転写調節因子によって調節される遺伝子を同定するステップと、(b)転写調節因子が広域作用転写調節因子であるか又は狭域作用転写調節因子であるかを決定するステップであって、転写調節因子が広域作用転写調節因子である場合、当該転写調節因子が治療薬開発のための標的遺伝子であり、転写調節因子が狭域作用転写調節因子である場合、(i)転写調節因子によって調節される少なくとも1つの遺伝子が障害の原因である可能性が高いかを決定して、障害の原因である可能性が高い遺伝子が治療薬の開発のための標的遺伝子あり、且つ(ii)細胞中の転写調節因子によって調節され、且つ(1)転写調節因子をコードするか、又は(2)転写調節因子をコードすると疑われる、少なくとも1つの遺伝子について、ステップ(a)及びステップ(b)における前記転写調節因子を前記遺伝子と変更して、ステップ(a)及びステップ(b)を繰り返す、ステップを含み、それにより、被験体の障害を治療又は予防するための治療薬の開発のための少なくとも1つの標的遺伝子が同定される、方法を提供する。
【0089】
治療薬開発のための標的遺伝子の同定方法のいくつかの実施形態では、細胞中で転写調節因子によって調節される遺伝子を、染色体規模の位置分析、転写調節因子を発現する細胞中のmRNA転写物の分析を使用するか、又は転写調節因子によって調節される遺伝子の同定のための本明細書中に記載の任意の方法の使用によって同定する。いくつかの方法は、Gabrielson et al., Obesity Research, 8 (5), 374- 384 (2000)に記載のDNAマイクロアレイ又はDNAアレイ等のDNAマイクロアレイ又はDNAアレイの使用を含み得る。
【0090】
本明細書中に記載の治療薬開発のための標的遺伝子の同定方法のいくつかの実施形態では、転写調節因子は、主要調節遺伝子(master regulatory gene)である。特定の実施形態では主要調節遺伝子は、SOX1−18、OCT6、PAX3、ミオカルジン、GATA1−6、TCF1/HNF1A、HNF4A、HNF6、NGN3、C/EBP、FOXA1−3、IPF1、GATA、HNF3、NKX2.1、CDX、FTF/NR5A2、C/EBPβ、SCL1、SKIN1、又は転写因子のニューロゲニン、LK、LMO、SOX、OCT、PAX、GATA、若しくはMyoDファミリーのメンバーである。
【0091】
本明細書中に記載の方法のいくつかの実施形態では、転写調節因子は、PAX3、EGR−1、EGR−2、OCT6、SOXファミリーメンバー、GATAファミリーメンバー、PAXファミリーメンバー、OCTファミリーメンバー、RFX5、WHN、GATA1、VDR、CRX、CBP、MeCP2、AML1、p53、PLZF、PML、Rb、WT1、NR3C2、GCCR、PPARγ、SIM1、HNFlα、HNFlβ、HNF4α、PDX1、MAFA、FOXA2、又はNEUROD1である。
【0092】
活性の変化により疾患を引き起こし得る転写調節因子を、生物中の複数又は全ての組織で発現することができ、その結果任意の複数の細胞型を治療薬の同定で使用することができる。本明細書中に記載の治療薬開発のための標的遺伝子の同定方法のいくつかの実施形態では、細胞は、その機能が障害で低下する組織に由来する。例えば、膵臓細胞を糖尿病に使用することができ、心筋細胞を心筋梗塞に使用することができ、ニューロンをアルツハイマー病に使用することができる。
【0093】
本明細書中に記載の治療薬開発のための標的遺伝子の同定方法の特定の実施形態では、広域作用遺伝子は細胞中の少なくとも約1%、2%、又はより好ましくは少なくとも約2.5%の遺伝子を調節し、狭域作用遺伝子は細胞中の約1%、2%、又は2.5%未満の遺伝子を調節する。
【0094】
本明細書中に記載の方法の特定の実施形態では、遺伝子は、転写調節因子の少なくともDNA結合ドメイン内で少なくとも約30%、40%、又は50%のアミノ酸配列が同一である場合に転写調節因子をコードする疑いがある。DNA結合ドメイン並びに核酸及びポリペプチドの配列アラインメントの実施方法は当該分野で既知である。比較のための最適な配列アラインメントを、Smith and Waterman,Adv. Appl. Math. 2: 482 (1981)の局所相同性アルゴリズム;Needleman and Wunsch,J Mol Biol 48: 443 (1970)の相同性アラインメントアルゴリズム;Pearson and Lipman, Proc.Natl. Acad. Sci.8: 2444 (1988)の類似性検索方法;これらのアルゴリズムのコンピュータ化された実行プログラム(lntelligenetics, Mountain View, Calif.のPC/Gene プログラム中のCLUSTAL、Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group (GCG), 7 Science Dr. , Madison, Wis. , USA のGAP、BESTFIT、BLAST、FASTA、及びTFASTAが含まれるがこれらに限定されない)によって行うことができる。CLUSTALプログラムは、Higgins and Sharp, Gene, 73: 237-244,1988 ; Higgins and Sharp, CABIOS: 11-13,1989 ; Corpet, et al., Nucleic Acids Research, 16: 881-90,1988 ; Huang, et al.,Computer Applications in the Biosciences 8: 1-7,1992 ;及びPearson, et al., Methods in Molecular Biology 24: 7-331,1994で十分に説明されている。
【0095】
本明細書中に記載の治療薬開発のための標的遺伝子の同定方法のいくつかの特定の実施形態では、転写調節因子によって調節される遺伝子は、この遺伝子の変異によって障害に関連する少なくとも1つの表現型又は症状が生じる場合、障害の原因である可能性が高いといわれる。別の特定の実施形態では、調節因子によって調節される遺伝子は、障害で機能が低下する経路で機能する酵素又はシグナル伝達分子をこの遺伝子がコードする場合、障害の原因である可能性が高いといわれる。例えば、疾患がII型糖尿病(高血糖症によって特徴づけられる障害)である場合、糖輸送体をコードする転写調節因子によって調節される遺伝子、解糖工程若しくは糖新生工程の触媒に関与する酵素、又はインスリンの産生、分泌、若しくはシグナル伝達を調節する遺伝子は、障害の原因である可能性が高いといわれる。別の特定の実施形態では、転写調節因子によって調節される遺伝子は、遺伝子の変異対立遺伝子が疾患の少なくとも1つの形態の「感受性遺伝子座」に遺伝的に関連する場合、障害の原因である可能性が高いと言われる。特定の疾患の「感受性遺伝子座」は、疾患の開始又は進行に関与する配列又は遺伝子座である。感受性遺伝子座は、例えば、マイクロサテライトマーカーによって同定されるか、又は定義された1つのヌクレオチド多型によって同定することができる遺伝子又はマイクロサテライト反復であり得る。一般に、特定の疾患に関与する感受性遺伝子及びその遺伝子座を、科学刊行物で見出すことができるが、実験で確定することもできる。
【0096】
本明細書中に記載の治療薬開発のための標的遺伝子の同定方法のいくつかの実施形態では、転写調節因子の活性の変化は、少なくとも1つの以下:(a)DNAに対する転写調節因子の結合親和性の変化、(b)RNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼホロ酵素、又は第2の転写調節因子に結合する転写調節因子の能力の変化、(c)リガンドに対する転写調節因子の結合親和性の変化、(d)転写調節因子の発現レベル又は発現パターンの変化、又は(e)ホモ多量体又はヘテロ多量体を形成する転写調節因子の能力の変化を含む。
【0097】
本明細書中に記載の方法のいくつかの実施形態では、細胞は、転写調節因子の変異形態を含む。転写調節因子の好ましい変異形態は、治療薬が模索されている疾患を引き起こす変異形態である。このような実施形態は、疾患の少なくとも1つの形態を引き起こす変異転写調節因子の標的特異性が変化し、これにより、当該転写調節因子が調節する遺伝子又は当該転写調節因子が転写を調節する程度が、当該転写調節因子の非変異形態と比較して変化する場合、特に好ましい。このような実施形態は、転写調節因子の野生型形態を使用した場合に同定することができなかった治療標的を同定することができる。例えば、DNA結合ドメインの変異は、種々のDNA結合配列に対するその親和性の変化によって転写調節因子の標的特異性を変化させることができる。
【0098】
転写調節因子の変異により、低形質(hypomorphic)、高形質(hypermorphic)、又は新形質(neomorphic)の表現型を得ることができることが当業者に既知である。変異は、一般に、転写調節因子の活性を減少させることができるか、一般に、活性を増加させることができるか、又は新規の性質(標的範囲の変更又はアクチベーターのリプレッサーへの変化若しくはその逆等)を付与することができる。本明細書中に記載の任意の方法、特に治療薬の同定方法では、任意のこれらの活性の変化を有する転写調節因子を発現する細胞を使用することができる。
【0099】
本明細書中に記載の方法を、転写調節因子が関連する任意の障害に適用することができる。疾患及び疾患を引き起こす転写調節因子の例を、当業者による科学文献及び医学文献(Medical Genetics, L. V. Jorde et al., Elsevier Science 2003, and Principles of Internal Medicine,15th edition, ed by Braunwald et al., McGraw-Hill, 2001; American Medical Association Complete Medical Encyclopedia (Random House, Incorporated, 2003); and The Mosby Medical Encyclopedia, ed by Glanze (Plume, 1991)が含まれる)に見出すことができる。いくつかの実施形態では、障害は、少なくとも1つの以下:脳、脊髄、心臓、動脈、食道、胃、小腸、大腸、肝臓、膵臓、肺、腎臓、尿路、卵巣、乳房、子宮、精巣、陰茎、結腸、前立腺、骨、筋肉、軟骨、甲状腺、副腎、下垂体、骨髄、血液、胸腺、脾臓、リンパ節、皮膚、目、耳、鼻、歯又は舌の機能低下によって特徴づけられる。
【0100】
本明細書中に記載の治療薬開発のための標的遺伝子の同定方法のいくつかの実施形態では、被験体は哺乳動物である。好ましい実施形態では、被験体はヒトである。本明細書中に記載の治療薬開発のための標的遺伝子の同定方法のいくつかの実施形態では、治療薬は、小分子薬物、アンチセンス核酸、抗体、ペプチド、リガンド、脂肪酸、ホルモン、又は代謝産物を含む。
【0101】
RNAiによるアンチセンス核酸作用には、細胞mRNA及び/又はゲノムDNAレベル等で細胞条件下にて遺伝子配列と特異的にハイブリッド形成(例えば結合)し、これにより、例えば、転写及び/又は翻訳の阻害によってこの遺伝子の発現を阻害するオリゴヌクレオチドが含まれる。従来の塩基対の相補性、又は、例えば、DNA二重鎖への結合の場合、二重らせんの主溝中の特異的相互作用によって結合することができる。好ましいアンチセンス核酸は、siRNA、shRNA、又は二本鎖RNA分子の任意の他の形態を含む。アンチセンス核酸を、そのin vivo安定性を増加させる等のために化学修飾することができる。
【0102】
RNAiは、真核細胞中で起こり得る配列特異的な転写後の遺伝子抑制過程である。一般に、この過程は、特定の配列と相同な二本鎖RNA(dsRNA)によって誘導される特定の配列のmRNAの分解を含む。例えば、特定の一本鎖mRNA(ss mRNA)配列に対応する長いdsRNAの発現は、そのメッセージを不安定にし、対応する遺伝子の発現を「干渉する」。したがって、任意の選択された遺伝子を、この遺伝子のmRNAの全部又は実質的部分に対応するdsRNAの移入によって抑制することができる。長いdsRNAが発現される場合、最初にリボヌクレアーゼIIIによってより短いdsRNAオリゴヌクレオチド(いくつかの例では、わずか21〜22塩基対長)にプロセシングされるようである。さらに、比較的短い相同dsRNAの移入又は発現によってRNAiを生じることができる。RNAiによる遺伝子抑制を生じるには約30塩基対未満のdsRNAが好ましい(Hunter et al. (1975) J Biol Chem 250: 409-17; Manche et al. (1992) Mol Cell Biol 12: 5239-48; Minks et al. (1979) J Biol Chem 254: 10180-3;及びElbashir et al. (2001) Nature 411: 494-8参照のこと)。
【0103】
抗体には、例えば、任意のアイソタイプの全抗体(IgG、IgA、IgM、IgE等)が含まれ、脊椎動物(例えば、哺乳動物)タンパク質とも特異的に反応するそのフラグメントも含まれる。抗体を従来の技術を使用して断片化し、フラグメントを上記の全抗体に記載の様式と同一の様式で有用性についてスクリーニングすることができる。したがって、この用語には、一定のタンパク質と選択的に反応することができる抗体分子のタンパク質分解的切断部分又は組換え調製部分のセグメントが含まれる。このようなタンパク質分解フラグメント及び/又は組換えフラグメントの非限定的な例には、ペプチドリンカーによって連結したV[L]ドメイン及び/又はV[H]ドメインを含むFab、F(ab’)2、Fab’、Fv、及び単鎖抗体(scFv)が含まれる。scFvを共有結合又は非共有結合させ、2つ又はそれ以上の結合部位を有する抗体を形成することができる。本発明は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、又は抗体の他の精製調製物及び組換え抗体を含む。
【0104】
ペプチド模倣物には、天然の親ポリペプチドの生物作用(単数又は複数)を模倣することができるペプチド様構造エレメントを含む化合物が含まれる。
【0105】
ホルモンには、一定の細胞又は組織によって産生され、体内の他の場所に存在する別の細胞又は組織で特定の生物学的変化又は活性を引き起こす多数の生化学物質のうちのいずれもが含まれる。
【0106】
代謝産物には、代謝又は代謝過程によって産生された任意の物質が含まれる。本明細書中で使用される場合、「代謝」は、組織及び組織中の細胞で生じる分子又は化合物の形質転換に関与する種々の化学反応をいう。
【0107】
リガンドには、受容体タンパク質に結合する任意の物質が含まれる。転写調節因子タンパク質のリガンドは、核ホルモン受容体に結合するエストロゲン等の調節タンパク質に結合する物質である。好ましい実施形態では、転写調節因子へのリガンド結合は高親和性で起こる。用語「リガンド」は、物質(単離及び/又は精製されている天然リガンド、合成リガンド、及び/又は組換えリガンド、天然リガンドのホモログ(例えば、別の哺乳動物由来)が含まれるが、これらに限定されない)をいう。用語「リガンド」は、受容体活性を有するインヒビター又はプロモーターである物質及び受容体に選択的に結合するが、インヒビター活性又はプロモーター活性を欠く物質を含む。
【0108】
本発明のいくつかの態様は、病状の診断に関する。遺伝子の「転写フィンガープリント」又はリスト及び任意選択的に所与の転写調節因子によって調節される範囲を、健常な個体及び障害を罹患した個体から得ることができる。2群間のフィンガープリントの比較により、2群のうちの1つに特異的な遺伝子を定義し、これにより、患者が障害のリスクがあるか、又は罹患しているリスクの診断として役立ち得る。1つの実施形態では、HNF4aの転写フィンガープリントを使用して、II型糖尿病を診断する。被験体の肝臓又は膵臓の生検から、このような分析のための細胞を提供することができる。
【0109】
特定の実施形態では、転写フィンガープリント疾患診断分析を、特定の疾患の原因となる転写調節因子に適用して疾患を診断する。この手法を、被験体中の転写調節遺伝子の対立遺伝子の遺伝子型同定と組み合わせることができる。例えば、被験体のHNF4aの遺伝子型同定は、新規の対立遺伝子を明らかにすることができる。患者の組織中のHNF4aの「転写フィンガープリント」の使用により、当業者は、変異がHNF4a活性にどのような影響を及ぼすのかを決定し、これにより、II型糖尿病を診断することができる。
【0110】
〔5.HNFの調節による疾患の予防/治療方法〕
本発明のいくつかの態様は、転写調節因子(特に、HNFファミリーメンバー)の活性の調節による疾患の治療又は予防方法を提供する。本発明は、被験体のII型糖尿病を治療又は予防する方法であって、治療有効量のHNF4αの全体的転写活性を増加させる薬剤を被験体に投与するステップを含む、方法を提供する。米国特許第5,849,485号は、HNF−4a活性の調節因子の単離方法及び単離アッセイを記載しており、これは、本明細書中に引用することにより組み込まれる。
【0111】
本発明はまた、被験体のHNF4αの低転写活性に関連する障害を治療又は予防する方法であって、HNF4αの全体的転写活性を増加させる治療有効量の薬剤を被験体に投与するステップを含む、方法を提供する。関連する態様では、本発明は、被験体のHNF4αの高転写活性に関連する障害を治療又は予防する方法であって、HNF4αの全体的転写活性を減少させる治療有効量の薬剤を被験体に投与するステップを含む、方法を提供する。
【0112】
本発明のさらに別の関連する態様は、肝細胞又は膵臓細胞における全体的転写活性を増加させる方法であって、細胞をHNF4αの全体的転写活性を増加させる薬剤と接触させるステップを含む、方法を提供する。同様に、本発明は、肝細胞又は膵臓細胞における全体的転写活性を減少させる方法であって、細胞をHNF4αの全体的転写活性を減少させる薬剤と接触させるステップを含む、方法を提供する。
【0113】
出願人は、肝細胞及び膵臓細胞中のHNF−1a、HNF4a、及びHNF6によって転写的に調節される遺伝子を同定した。したがって、本発明は、HNF転写因子の発現レベル又は転写調節活性を調整する薬剤の細胞との接触又は被験体への投与による、細胞又は被験体中のこれらの遺伝子のいずれかの発現レベルを調節する方法を提供する。
【0114】
本発明は、肝細胞中の図13に記載の遺伝子のうちのいずれかの発現レベルを調節する方法であって、細胞をHNF1αの転写活性を調節する薬剤と接触させるステップを含む、方法を提供する。同様に、本発明はまた、膵臓細胞中の図14に記載の遺伝子のうちのいずれかの発現レベルを調節する方法であって、細胞をHNF1αの転写活性を調節する薬剤と接触させるステップを含む、方法を提供する。
【0115】
本発明はまた、肝細胞中の図16に記載の遺伝子のうちのいずれかの発現レベルを調節する方法であって、細胞をHNF6の転写活性を調節する薬剤と接触させるステップを含む、方法を提供する。同様に、本発明は、膵臓細胞中の図17に記載の遺伝子のうちのいずれかの発現レベルを調節する方法であって、細胞をHNF6の転写活性を調節する薬剤と接触させるステップを含む、方法を提供する。
【0116】
本発明は、さらに、肝細胞中の図18に記載の遺伝子のうちのいずれかの発現レベルを調節する方法であって、細胞をHNF4αの転写活性を調節する薬剤と接触させるステップを含む、方法を提供する。同様に、本発明は、膵臓細胞中の図19に記載の遺伝子のうちのいずれかの発現レベルを調節する方法であって、細胞をHNF4αの転写活性を調節する薬剤と接触させるステップを含む、方法を提供する。
【0117】
HNF−4a又は任意の他のHNFファミリーメンバーの転写活性を調整する薬剤を、HNF4aの発現レベル、DNA結合活性、又は転写促進活性を増加させる能力について化合物をスクリーニングすることによって同定することができる。使用することができる1つのアッセイ形式は、2つの遺伝子構築物を使用する。一方の遺伝子構築物は、適切な細胞株にトランスフェクトされた場合に目的の転写調節因子を連続して発現するプラスミドである。CV−1細胞が最も頻繁に使用される。第2の遺伝子構築物は、転写調節因子の調節下でレポーター、例えば、ルシフェラーゼを発現するプラスミドである。例えば、HNF−4のリガンドとして作用する化合物が評価されるべきである場合、プラスミドの1つは、CV−1細胞等の適切な細胞株中でHNF−4受容体を発現する構築物であろう。第2の遺伝子構築物は、HNF−4応答エレメントが挿入されたルシフェラーゼ遺伝子に連結されたプロモーターを有するであろう。試験すべき化合物がHNF−4受容体のアゴニストである場合、リガンドは受容体と複合体を形成し、得られた複合体は応答エレメントに結合し、ルシフェラーゼ遺伝子の転写を開始する。細胞が溶解した時にルシフェラーゼの基質を添加する。得られた化学発光を分光光度計で測定する。用量応答曲線が得られ、これを既知のリガンドの活性と比較することができる。CAT及び他の酵素を含む、ルシフェラーゼ以外の他のレポーターを使用することができる。
【0118】
ウイルス構築物を使用して、受容体及びレポーターの遺伝子を導入することができる。通常のウイルスベクターはアデノウイルスである。この好ましいアッセイに関するさらなる詳細については、本明細書に引用することで組み込まれる、1991年1月1日発行の米国特許第4,981,784号及びこれも本明細書に引用することで組み込まれる、Evans他のWO88/03168号を参照のこと。
【0119】
この同一の基本「アゴニスト」アッセイを使用してHNF−4aアンタゴニストを同定することができる。一定量のアンタゴニストを種々の量の試験化合物と共に細胞に添加して、用量応答曲線を作成する。化合物がアンタゴニストの場合、ルシフェラーゼ発現が抑制される。
【0120】
HNF転写因子のアゴニスト及びアンタゴニストのさらなる単離方法は、米国特許第6,187,533号及び同第5,620,887号に記載されている。転写因子の活性を調整する薬剤を同定する方法を記載しているさらなる米国特許には、米国特許第5,804,374号及び同第5,298,429号、並びに米国特許公報第2004/0033942A1号、2003/0077664号、2003/0215829号、及び2003/0039980号が含まれる。本明細書中に記載の任意の方法を、HNF転写因子のいずれのアゴニスト又はアンタゴニストを同定するために容易に適合させることができる。米国特許第6,303,653号は、HNF−4活性の調整因子を記載している。
【0121】
HNF4aのアゴニスト及びアンタゴニストを、内因性脂肪酸リガンドと複合体化したHNF4aの既知の結晶構造に基づいて設計することもできる(DhePaganon, J. Biol. Chem. 277 (41), 37973-37976)。米国特許公報第2002/0072587号は、その結晶構造に基づいた、HNFタンパク質のような核受容体であるエストロゲン受容体のアゴニストの同定方法を記載している。当業者は、このような方法を、HNF−1a、HNF−4a、及びHNF6に容易に適用することができる。タンパク質構造に基づいた合理的薬物設計のさらなる例を、米国特許又は公報第6,236,946号、6,684,162号、2004/0014153号、2003/0124699号、2003/0077628号、2002/0151028号、2002/0072587号、及び2003/0211588号に見出すことができる。
【0122】
〔6.治療薬〕
1つの態様では、本発明は、治療薬を含む組成物の投与を含む、被験体の疾患の治療方法を提供する。「治療薬(therapeutic agent)」又は「治療薬(therapeutic)」は、ホスト(host)に対して所望の生物学的効果をもたらすことができる薬剤をいう。化学療法薬及び遺伝毒性物質は、生物起源と対照的に化合物を起源とすることが一般に既知の治療薬の例であり、これらはそれぞれ特定の作用機構によって治療効果が得られる。生物起源の治療薬の例には、成長因子、ホルモン、及びサイトカインが含まれる。種々の治療薬が当該分野で既知であり、その効果によって同定することができる。一定の治療薬は、細胞の増殖及び分化を調節することができる。例として、化学療法用ヌクレオチド、薬物、ホルモン、非特異的(非抗体)タンパク質、オリゴヌクレオチド(例えば、標的核酸配列(例えば、mRNA配列)に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド)、ペプチド、及びペプチド模倣物が挙げられる。
【0123】
1つの実施形態では、組成物は薬学的組成物である。本発明に従って使用する薬学的組成物を、1つ又は複数の生理学的に許容可能なキャリア又は賦形剤を使用した従来の様式で処方することができる。したがって、化合物並びにその生理学的に許容可能な塩及び溶媒和化合物を、例えば、エアゾール、静脈内経路、経口経路、又は局所経路による投与のために処方することができる。投与は、病変内、腹腔内、皮下、筋肉内、又は静脈内への注射;注入;リポソーム媒介送達;局所、鞘内、歯肉ポケット、経直腸、気管支内、鼻腔内、経粘膜、腸内、経口、眼内、又は耳への送達を含み得る。
【0124】
本発明の例示的組成物は、任意選択的に許容可能なキャリアを含むリポソーム系等の送達系を使用して、転写調節因子の発現又は活性を調整することができる化合物を含む。好ましい実施形態では、注射のために組成物を処方する。
【0125】
技術及び処方物を、一般に、Remmington's Pharmaceutical Sciences, Meade Publishing Co., Easton, PAに見出すことができる。全身投与のために、注射(筋肉内、静脈内、腹腔内、及び皮下への注射が含まれる)が好ましい。注射のために、本発明の化合物を、溶液、好ましくはハンクス液又はリンゲル液等の生理学的に適合可能な緩衝液中に処方することができる。さらに、化合物を、固体形態に処方し、使用直前に再溶解又は懸濁することができる。凍結乾燥形態も含まれる。
【0126】
経口投与のために、薬学的組成物は、例えば、結合剤(例えば、アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、又はヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えば、ラクトース、微結晶性セルロース、又はリン酸水素カルシウム);潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、又はシリカ);崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプン又はデンプングリコール酸ナトリウム);又は湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)等の薬学的に許容可能な賦形剤を使用した従来の手段によって調製した錠剤又はカプセルの形態をとることができる。錠剤を、当該分野で既知の方法によってコーティングすることができる。経口投与のための液体調製物は、例えば、溶液、シロップ、又は懸濁液の形態を取ることができるか、使用前に水又は他の適切な溶剤(vehicle)で構成するための乾燥製品として存在し得る。このような液体調製物を、懸濁剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体、又は水素化食用脂肪);乳化剤(例えば、レシチン又はアカシア);非水性賦形剤(例えば、アチオンド油(ationd oil)、油性エステル、エチルアルコール、又は分留植物油);及び防腐剤(例えば、メチル若しくはプロピル−p−ヒドロキシベンゾエート、又はソルビン酸)等の薬学的に許容可能な添加剤を使用した従来の手段によって調製することができる。調製物はまた、必要に応じて、緩衝塩、香味物質、着色料、及び甘味料を含み得る。
【0127】
経口投与用調製物を、活性化合物を制御放出させるために適切に処方することができる。口腔投与のために、組成物は、従来の様式で処方された錠剤又はロゼンジの形態を取ることができる。吸入による投与のために、本発明に従って使用するための化合物を、適切な噴射剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、又は他の適切なガス)を使用して、圧縮パック又は噴霧器からエアゾールスプレー調製物の形態で都合良く送達させる。圧縮エアゾールの場合、投薬単位を、定量を送達させるためのバルブを設けることによって決定することができる。吸入器又は注入器で使用するためのゼラチン等のカプセル及びカートリッジを、化合物とラクトース又はデンプン等の適切な粉末基剤との粉末混合物を含んで処方することができる。
【0128】
注射(例えば、ボーラス注射又は連続注入)による非経口投与のために化合物を処方することができる。注射用処方物は、防腐剤を添加した単位投薬形態(例えば、アンプル又は複数回投与用コンテナ)の形態で存在し得る。組成物は、懸濁液、溶液、又は油性又は水性媒体(vehicle)の乳濁液等の形態を取ることができ、懸濁剤、安定剤、及び/又は分散剤等の配合剤(formulatory agent)を含み得る。或いは、有効成分は、使用前に適切な賦形剤(例えば、滅菌無発熱物質水)で構成するための粉末形態であり得る。
【0129】
化合物を、例えば、ココアバター又は他のグリセリド等の従来の座剤の基剤を含む座剤又は持続性(retention)浣腸剤等の直腸組成物で処方することもできる。
【0130】
処方物に加えて、化合物をデポー調製物として処方することもできる。このような長期作用処方物を、移植(例えば、皮下又は筋肉内)又は筋肉内注射によって投与することができる。したがって、例えば、化合物を、適切な高分子材料若しくは疎水性材料(例えば、許容可能な油を含む乳濁液)、又はイオン交換樹脂を使用して処方することができるか、又はやや溶けにくい誘導体(例えば、やや溶けにくい塩)として処方することができる。
【0131】
経粘膜手段又は経皮手段によっても全身投与することができる。経粘膜又は経皮投与のために、浸透すべきバリアに対する浸透剤を処方物中で使用する。このような浸透剤は、当該分野で一般に既知であり、例えば、経粘膜投与用の胆汁塩及びフシジン酸誘導体が含まれ、さらに、界面活性剤を使用して浸透を容易にすることができる。経粘膜投与は、鼻内噴霧によるか座剤を使用することができる。局所投与のために、本発明のオリゴマーを、当該分野で一般に既知の軟膏、蝋膏、ゲル、又はクリームに処方する。洗浄液を局所的に使用して、損傷又は炎症を治療し、治癒を促進することができる。
【0132】
所望ならば、組成物を、有効成分を含む1つ又は複数の単位投薬形態を含み得るパック又は分注デバイスに存在させることができる。パックは、例えば、金属箔又はブリスターパック等のプラスチック箔(plastic foil)を含み得る。パック又は分注デバイスに、投与説明書を添付することができる。
【0133】
核酸の投与を含む治療のために、本発明のオリゴマーを、種々の投与様式(全身投与及び局所投与又は局在化投与が含まれる)のために処方することができる。技術及び処方物を、一般に、Remmington's Pharmaceutical Sciences, Meade Publishing Co.,Easton, PAに見出すことができる。全身投与のために、注射(筋肉内、静脈内、腹腔内、結節内(intranodal)、及び皮下への注射が含まれる)が好ましく、注射のために、本発明のオリゴマーを、溶液、好ましくはハンクス液又はリンゲル液等の生理学的に適合可能な緩衝液中に処方することができる。さらに、オリゴマーを、固体形態に処方し、使用直前に再溶解又は懸濁することができる。凍結乾燥形態も含まれる。
【0134】
経粘膜手段又は経皮手段によって全身投与することもでき、又は化合物を経口投与することができる。経粘膜又は経皮投与のために、浸透すべきバリアに対する浸透剤を処方物中で使用する。このような浸透剤は、当該分野で一般に既知であり、例えば、経粘膜投与用の胆汁塩及びフシジン酸誘導体が含まれる。さらに、界面活性剤を使用して浸透を容易にすることができる。経粘膜投与は、鼻内噴霧によるか座剤を使用することができる。経口投与のために、オリゴマーを、カプセル、錠剤、及び強壮薬(tonic)等の従来の経口投与形態に処方する。局所投与のために、オリゴマーを、当該分野で一般に既知の軟膏、蝋膏、ゲル、又はクリームに処方することができる。
【0135】
本発明の薬剤及び組成物の毒性及び治療有効性を、細胞培養又は実験動物における標準的な薬学的手順(例えば、LD50(集団の50%の致死用量)及びED50(集団の50%の治療有効用量)の決定)によって決定することができる。毒作用と治療効果との間の用量比は治療指数であり、LD50/ED50比として示すことができる。治療指数が高い化合物が好ましい。有害な副作用を示す化合物を使用することができるが、罹患組織部位にこのような化合物をターゲティングする送達系を設計するにあたって、非感染細胞への潜在的損傷を最小にし、それにより副作用を軽減するように注意を払うべきである。
【0136】
細胞培養アッセイ及び動物研究から得たデータを、ヒト用の投薬量範囲の策定で使用することができる。このような化合物の投薬量は、好ましくは、ほとんど又は全く毒性のないED50を含む循環濃度範囲内である。投薬量は、使用される投薬形態及び利用される投与経路に応じてこの範囲内で変化し得る。本発明の方法で使用される任意の化合物について、細胞培養アッセイから治療有効用量を最初に評価することができる。細胞培養で決定したIC50(すなわち、症状の最大阻害度の半分を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するために、動物モデルにおける用量を策定することができる。このような情報を使用して、ヒトで有用な用量をより正確に決定することができる。血漿レベルを、例えば、高速液体クロマトグラフィによって測定することができる。
【0137】
本明細書中に記載の方法の1つの実施形態では、薬剤の有効量は、約1mg/kg被験体体重と約50mg/kg被験体体重との間である。1つの実施形態では、薬剤の有効量は、約2mg/kg被験体体重と約40mg/kg被験体体重との間である。1つの実施形態では、薬剤の有効量は、約3mg/kg被験体体重と約30mg/kg被験体体重との間である。1つの実施形態では、薬剤の有効量は、約4mg/kg被験体体重と約20mg/kg被験体体重との間である。1つの実施形態では、薬剤の有効量は、約5mg/kg被験体体重と約10mg/kg被験体体重との間である。
【0138】
本明細書中に記載の方法の1つの実施形態では、薬剤を1日あたり少なくとも1回投与する。1つの実施形態では、薬剤を毎日投与する。1つの実施形態では、薬剤を1日おきに投与する。1つの実施形態では、薬剤を6〜8日毎に投与する。1つの実施形態では、薬剤を毎週投与する。
【0139】
化合物及び/又は薬剤の被験体への投与量に関して、当業者は、どのようにして適量を決定するかを理解しているであろう。本明細書中で使用される場合、用量又は量は、障害を阻害するか、障害を治療するか、被験体を治療するか、被験体が障害に羅患するのを予防するのに十分な量であろう。この量を、有効量と見なすことができる。当業者は、簡潔な適定実験を実施して被験体の治療に必要な量を決定することができる。本発明の組成物の用量は、被験体及び使用される特定の投与経路に応じて変化する。1つの実施形態では、投薬量は、約0.1μg/kg被験体体重〜100,000μg/kg被験体体重の範囲であり得る。組成物に基づいて、用量を、連続ポンプ又は定期的間隔等で連続的に送達させることができる。例えば、1つ又は複数の個別の場合。当業者は、特定の組成物の複数回投与の望ましい時間間隔を、過度に実験することなく決定することができる。
【0140】
有効量は、特に、化合物のサイズ、化合物の生分解性、化合物の生物活性、及び化合物の生物学的利用能に基づき得る。化合物が急速に分解されずに生物学的に利用可能且つ活性が高い場合、より少量で有効である。有効量は当業者に既知であり、化合物の形態、化合物のサイズ、及び化合物の生物活性にも依存する。当業者は、化合物について日常的に経験的活性試験を行ってバイオアッセイにおける生物活性を決定し、それにより、有効量を決定することができる。上記方法の1つの実施形態では、化合物の有効量は、約1.0ng/kg被験体体重〜約100mg/kg被験体体重を含む。上記方法の別の実施形態では、化合物の有効量は、約100ng/kg被験体体重〜約50mg/kg被験体体重を含む。上記方法の別の実施形態では、化合物の有効量は、約1μg/kg被験体体重〜約10mg/kg被験体体重を含む。上記方法の別の実施形態では、化合物の有効量は、約100μg/kg被験体体重〜約1mg/kg被験体体重を含む。
【0141】
化合物、組成物、及び/又は薬剤を投与する場合に関して、当業者は、このような化合物及び/又は薬剤をいつ投与するのかを決定することができる。一定の期間又は周期及び特定の間隔で投与を継続することができる。化合物を、1時間、1日、1週間、1ヶ月、1年(例えば、持続放出形態で)で送達させるか、1度に送達させることができる。送達は、一定期間の連続的送達(例えば、静脈内送達)であり得る。本明細書中に記載の方法の1つの実施形態では、薬剤を1日に少なくとも1回投与する。本明細書中に記載の方法の1つの実施形態では、薬剤を毎日投与する。本明細書中に記載の方法の1つの実施形態では、薬剤を1日おきに投与する。本明細書中に記載の方法の1つの実施形態では、薬剤を6〜8日毎に投与する。本明細書中に記載の方法の1つの実施形態では、薬剤を毎週投与する。
【0142】
〔実施例〕
一般的に記載されてきた本発明は、以下の実施例を参照してより容易に理解されるであろうが、実施例は、本発明の一定の態様及び実施形態の例示のみを目的とし、本発明を制限することを意図せず、当業者は、上記の教示及び以下の実施例から、特許請求の範囲に記載の発明の範囲を逸脱することなく、他のDNAマイクロアレイ、転写調節因子、細胞型、抗体、ChIP条件、又はデータ分析法(これらに制限されない)を使用することができると認識するであろう。
【0143】
本発明の実施には、適切な場合であって他で示さない限り、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、ウイルス学、組換えDNA、及び免疫学の従来の技術を使用し、これらは当業者の範囲内である。このような技術は、文献に記載されている。例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Ed., ed. by Sambrook and Russell (Cold Spring Harbor Laboratory Press: 2001); the treatise, Methods In Enzymology (Academic Press,Inc., N. Y.) ; Using Antibodies, Second Edition by Harlow and Lane, Cold Spring Harbor Press, New York, 1999; Current Protocols in Cell Biology, ed. by Bonifacino, Dasso, Lippincott-Schwartz, Harford, and Yamada, John Wiley and Sons,Inc., New York, 1999;及びPCR Protocols, ed. by Bartlett et al., Humana Press, 2003を参照のこと。
【0144】
種々の刊行物、特許、及び特許出願が本願を通して引用されており、その内容全体が本明細書に引用することにより組み込まれる。
【0145】
[実験手順]
以下の実験の実施において以下の手順に従った。
【0146】
〔ゲノム規模の位置分析〕
本明細書中に記載のプロトコールは、Ren 2001を修正したものである。簡潔に述べれば、細胞を最終濃度1%のホルムアルデヒドにて室温で10〜20分間固定し、回収し、1×PBSでリンスした。得られた細胞ペレットを超音波処理し、目的のタンパク質に架橋したDNAフラグメントを、因子特異的抗体を使用した免疫沈降によって濃縮する。架橋の無効化(reversal)後、ライゲーション媒介PCR(LM−PCR)を使用して濃縮DNAを増幅し、その後、高濃度のクレノー酵素(Klenow polymerase)及びdNTP−フルオロフォアを使用して蛍光標識する。免疫沈降によって濃縮していないDNAサンプルを、LM−PCRに供し、異なるフルオロフォアで標識する。標識DNAのIP濃縮及び非濃縮プールを、13,000個のヒト遺伝子間領域を含む1つのDNAマイクロアレイとハイブリッド形成させる(DNAマイクロアレイ及び結合部位の決定の説明については以下を参照のこと)。肝細胞実験のために、典型的には、クロマチン免疫沈降あたり2.5×107個の肝細胞を使用する。これらの肝細胞を、標準的な肝臓灌流技術によって単離し、直後に1%ホルムアルデヒド溶液で架橋し、リンスし、急速冷凍した。膵臓からの単離から1時間後と5時間後との間に、島調製物を、ホルムアルデヒドで処理した。最低限の30,000個の生きた島等価物(約2×107個のβ細胞)を固定し、上記のように処理した。本明細書中に記載の3つの実験についての典型的な島の純度は、80%超の生存度で70%超であった。HNF4a、HNF6、及びRNAポリメラーゼIIは、わずか30,000個の島等価物を使用して質の高い結果が得られた。HNF1aChIPは、有意により多い材料(典型的には、8,000個の島)を必要とし、肝細胞を使用して得られた結果よりもいくらか濃縮比(enrichment ratio)が低い結果が得られた。
【0147】
〔ヒト13K DNAマイクロアレイ〕
全ヒトゲノム配列を含むDNAマイクロアレイを有することが理想であろうが、技術上の制限及びコストにより、出願は、このマイクロアレイ中に含めるためのゲノムの最も関連する部分を選択した。近位プロモーター中の転写結合部位の有意な比率が転写開始部位の1kb以内であるので、出願人は、プロモーターアレイへのプリントのためのこれらのゲノム領域を増幅するためのプライマーを設計した。出願人は、NCBI RefSeqデータベースから15,000個のcDNAを選択し、これらを、BLASTを使用して、ヒトゲノムのNCBI Build 22(2001年4月)にマッピングした。複数のスプライス変異型が記載されている場合、出願人は、最も上流の部位を使用し、Transcriptional Start Sites (http://elmo.ims.utokyo.acjp/dbtss/)のデータベースとのアラインメントによって5’末端を検証した。増幅すべき配列を、この転写開始部位に対するゲノム領域−750bp〜+250bpから抽出した。非特異的結合を制御するために、長シロイヌナズナオープンリーディングフレーム由来の9つの増幅領域を、アレイ上に含めた。さらなるネガティブコントロールとしてデータの標準化で使用するために、出願人は、増幅のためのヒト遺伝子の長エキソン内の158個のORF領域を選択する。アレイのDNA成分を調製するために、Primer3プログラム(http://wwwgenome.wi.mit.edu/genome#software/other/primer3.html)を使用し、上記配列を使用してプライマーを設計した。全PCR反応物中に1Mベタインが存在すること以外は、標準的条件を使用して、これらのプライマー組に対してPCRを行った。ベタインは、増幅反応の成功率を増加させることが経験的に認められていた。
【0148】
2%アガロースゲルで検証したところ、13,000個のPCR対のうちの70%から適切なサイズの強いバンドが得られた。しかし、出願人は、アガロースEtBrゲル分析によって検出不可能なPCR産物は、濃縮してDNAアレイ上にプリントした場合に有効な正のシグナルを得ることができることに留意した。Biotechnology Research Institute of the National Research Council of Canada (http://www.irb-bri.cnrc-nrc.gc.ca/)のプログラムのBRIDNAsuiteによってPCRの質を評価した。PCR産物を、酢酸アンモニウム/イソプロパノール沈降によって反応混合物から回収し、蒸発を最小限にし、且つスポットの質を改善するために1.5Mベタインを含む3×SSCに再懸濁した。出願人は、Cartesian PixSys 5500アレイヤーを使用して、増幅産物をGAPSコーティングガラススライド(Corning)上にプリントした。アレイの質を、バッチ式に基づいた、Cy3又はCy5に共有結合した配列中性オリゴヌクレオチドとのハイブリッド形成、その後のチップの質の直接目視検査と組み合わせたスポットの有用率の計算によって決定した。2つの独立した方法を使用して、生成後にHu13Kアレイを再マッピングした。第1に、出願人は、2003年8月に最終的に発表されたヒトゲノムに対するプライマーのセットに対して電子PCRを行った。第2に、出願人は、増幅のためのプライマーを抽出するために使用した配列を、2003年8月に最終的に発表されたヒトゲノムに対するプライマーのセットに対してBLAST検索を行った。後援しているウェブサイトからダウンロード可能なデータセットは、転写開始部位に対する各整列プロモーターの位置を報告している。
【0149】
〔データの品質管理〕
(1.ChIPハイブリッド形成品質管理)
各アレイ実験から得た生データを、複数の品質管理レベルに供した。第1に、実施されている各スキャンを視覚的に試験した。可能な場合はいつでも、全ての不備(例えば、擦れ、不鮮明なスポット)を含むマイクロアレイ上のサンプルを繰り返した。出願人はまた、シロイヌナズナDNAを含むコントロールスポットから信頼できるシグナルが得られないとも判断した。
【0150】
(2.結合部位の決定及びエラーモデル)
スキャニングした画像を、GenePix(v3.1又はv4.0)を使用して分析し、バックグラウンド除去強度値を得た。各スポットは、異なるフルオロフォアで標識したIP濃縮及び非濃縮DNAの両方に結合する。したがって、各スポットから、免疫沈降DNA及びゲノムDNAに対応する2チャンネルの蛍光強度情報が得られる。スライドに対するバックグラウンドハイブリッド形成を説明するために、部位特異的転写因子(例えば、HNF1a)に対してコントロールブランクスポット組の強度の中央値を差し引き、広域作用DNA結合タンパク質(例えば、RNA PolII、HNF4a)に対してコントロールORFスポット組の強度の中央値を差し引いた。マイクロアレイにハイブリッド形成した異なる量のゲノムDNA及び免疫沈降DNAを補正するために、IP濃縮DNAチャネルの強度の中央値を、ゲノムDNAチャネルの中央値で割り、この標準化因子を、ゲノムDNAチャネル中の各強度に適用した。次に、出願人は、全ハイブリッド形成試験のセットを通した各遺伝子間領域のゲノムDNAチャネル中の強度に対するIP濃縮チャネル中の強度の比の対数を計算した。IP濃縮チャネルについて調整した強度値を、これらの比から計算した。次いで、全チップエラーモデル(Hughes 2000; Lee 2002)を使用して、各マイクロアレイ上の各スポットの信頼値を計算し、各実験の反復データを合わせて各プロモーター領域の最終平均比及び信頼値を得た。エラーモデル中の結合P値が0.001未満であるか、免疫沈降における濃縮が少なくとも2倍である場合、遺伝子を「結合」遺伝子組に含めた。
【0151】
〔推定結合の確認〕
本明細書で報告したゲノム規模の位置データの正確さを、いくつかの手法を使用して評価した。
【0152】
(1.従来のChIP実験を使用した偽陽性率の評価)
遺伝子特異的レベルにて本発明者らの研究室(laboratory)で行った従来の独立したChIP実験を、6つの異なる調節因子を含む位置分析データによって同定した100個の結合相互作用にわたって確認した(http://web.wi.mit.edu/young/pancregulatorsを参照のこと)。これらの結果により、本発明者らの偽陽性の経験的比率は多くても16%であることが示唆される。この比率は、酵母転写因子の大規模調査で見出された比率よりも幾らか高く(Lee 2002)、これはおそらくヒトゲノムのさらなる複雑さを反映している。図9及び10は、肝細胞におけるHNF4a及びHNF1aについてのChIP実験の典型的な検証を示す。
【0153】
(2.以前の文献との比較)
出願人は、初代ヒト組織における転写調節因子のゲノム標的についての以前の研究を見出せなかった。しかし、多数のHNF1a標的及びHNF4a標的がモデル生物及びヒト癌(ほとんどが肝臓癌)細胞株で同定されており、これらの標的を、図14にまとめている。例えば、ゲノム規模の位置分析により、以前にHNF4aの標的であることが示唆されており、且つ13K DNAアレイ上に含まれる68個の肝細胞遺伝子のうちの30個を同定した。同様に、ゲノム規模の位置分析により、以前にHNF4aの標的であることが示唆されており、且つ13K DNAアレイ上に含まれる81個の肝細胞遺伝子のうちの21個を同定した。本明細書中に報告した標的と文献で報告された標的との間の相違は、多数の要因(特に、(1)転写因子の結合を探索するために1kbのプロモーターフラグメントの使用に制限されていること、(2)本発明者らの閾値基準のストリンジェンシー、(3)モデル生物及び/又は細胞株中の調節ネットワークと初代ヒト組織中の調節ネットワークとの間の相違、(4)文献の間接的技術(すなわち、ゲルシフト及び一過性トランスフェクション)とゲノム規模の位置分析との間の相違、(5)組織単離の影響が含まれるが、これらに限定されない)に起因し得る。より総括的な考察を、http://web.wi.mit.edu/young/pancregulatorsで見出すことができる。
【0154】
〔結合データ由来の調節モチーフ〕
ネットワークモチーフを発見するために、2つのデータ行列を作成した。全行列Dは、バイナリエントリーDijからなり、これは、1が調節因子jの遺伝子間領域iへの結合を示し、0は結合事象なしを示す。調節行列Rは、Dのサブセットであり、調節因子の列と同一の順序で各調節因子に割り当てた遺伝子間領域に対応する行のみを含む。Matlabで全分析を行った。各モチーフを求めるために使用したアルゴリズムを以下に記載する。自己調節モチーフ:Rの対角線上の各非ゼロエントリーを求める。フィードフォワードループ:それぞれの主な調節因子(R列)について、結合した調節因子に対応する非ゼロエントリーを求める。それぞれの主な調節因子/二次調節対について、両調節因子によって結合されたD中の全ての行を求める。多成分ループ:それぞれの調節因子(R列)について、調節因子が結合する調節因子を求める。これらのそれぞれについて、調節因子が結合する調節因子を求める。これらのいずれかが元の調節因子である場合、2つの多成分ループである。他の全てについて、調節因子に結合する調節因子を求める。これらのいずれかが元の調節因子である場合、3つの多成分ループである。より大きなループを求めるために繰り返す。単一(single)入力モジュール:たった1つの調節因子によって結合される遺伝子間領域を求める。すなわち、各行の合計が1であるようにD行のサブセットをとる。次いで、それぞれの調節因子(列)について、非ゼロエントリーを求める。各セット(3つを超える遺伝子間領域)はSIMである。多入力モジュール:1つを超える調節因子によって結合される遺伝子間領域を求める。すなわち、各行の合計が1を超えるにようD行のサブセットをとる。次いで、それぞれの行について、同一の調節因子によって結合される任意の他の行を求める。同一の調節因子によって結合される列の集合は、MIMに対応する。一旦行がMIMに割り当てられると、さらなる分析のためにこの行を取り出す。調節因子鎖:各調節因子(R列)について、再帰アルゴリズムを使用して全長の鎖を求める。すなわち、鎖中に結合する前にプロモーターが調節因子によって結合されるそれぞれの鎖について、調節因子が結合する調節因子のプロモーターを求める。鎖が終了するまで繰り返す。鎖を終了させるための可能な方法は以下の3つ存在する:いかなる他の調節因子のプロモーターにも結合しない調節因子、調節因子自体のプロモーターに結合する調節因子、又は鎖中でより早く別の調節因子のプロモーターに結合する調節因子。
【実施例1】
【0155】
肝臓及び膵臓は、長期にわたりどのようにして器官が発生するのかを理解するための研究の被験体であり、転写レベルで調節される(8〜12)。転写調節因子HNF1α(ホメオドメインタンパク質)、HNF4α(核受容体)、及びHNF6(ワンカット(onecut)ファミリーのメンバー)は、肝臓中の連結ネットワークで協力して作用するが、ヒト膵島中のこの調節ネットワークの構造についてはあまり知られていない。3つの全転写調節因子は、肝臓及び膵島の正常な機能に必要である(13〜18)。HNF1α及びHNF4αの変異は、若年発症の成人型糖尿病の3型形態及び1型形態(MODY3及びMODY1)(25歳未満での真性糖尿病の発症及び遺伝的形質の常染色体優性パターンによって特徴づけられるインスリン分泌性膵臓β細胞の遺伝子障害)の原因である(19)。
【0156】
出願人は、発現が正常なβ細胞中のこれらの転写因子によって調節される膵島遺伝子のゲノム規模の分析により、MODYを特徴づける異常なβ細胞機能の分子基盤への洞察を提供することができると仮定した。出願人は、膵島中の転写因子HNF1α、HNF4α、及びHNF6によって占められる遺伝子を同定した。各組織中で転写される遺伝子を、RNAポリメラーゼIIのゲノムの占有によって同定した。出願人はこの情報を使用し、これらの組織中の転写調節回路のマッピングを開始した。
【0157】
出願人は、最初に、組織ドナーから単離したヒト肝細胞及び膵島中のHNF1αによって結合されたプロモーターを同定するために、ゲノム規模の位置分析(20)を使用した(図1A)。各組織について、HNF1α−DNA複合体を、3つの別個の実験においてクロマチン免疫沈降によって濃縮した。出願人は、13,000個のヒト遺伝子のプロモーター領域の一部を含むあつらえのDNAマイクロアレイを構築した(Hu 13Kアレイ)。出願人は、開始部位がNational Center for Biotechnology Information annotationに基づいて最良に特徴づけられる遺伝子の転写開始部位の700bp上流及び200bp下流にわたる領域をターゲティングした(20)。多数のエンハンサーがより離れた位置に存在するにもかかわらず、最も既知の転写因子の結合部位配列は、プロモーターのこれらの開始部位の近位領域内に生じる。
【0158】
これらのゲノム位置実験の結果により、HNF1αが肝細胞中の少なくとも222個の標的遺伝子に結合し、これはHu 13Kアレイ上の遺伝子の1.6%に相当することが明らかとなった(図11)(20)。この結果を、独立した従来のクロマチン免疫沈降実験を使用して検証し、これにより、遺伝子特異的調節因子を使用したゲノム規模の位置データにおける偽陽性の頻度が、本発明者らの閾値基準を使用した場合に16%に過ぎないことが示唆された(20)。初代ヒト肝細胞中でHNF1αによって占められると出願人が見出した遺伝子は、その機能が肝細胞生化学の有意な断面(cross-section)を示す産物をコードする。結果により、HNF1αが糖新生及び関連経路における多数の中心的な律速工程の転写調節に寄与することが確認される。HNF1αはまた、その産物が正常な肝機能(炭水化物の合成及び貯蔵、脂質代謝(コレステロール及びアポリポタンパク質の合成)、解毒(シトクロムP450の合成)、及び血清タンパク質(アルブミン、補体、及び凝固因子)の合成が含まれる)の中心である遺伝子に結合する。
【0159】
出願人は、次に、ヒト膵島中のHNF1α標的遺伝子を同定した(図11)(20)。HNF1αは、島中の106個の遺伝子のプロモーター領域を占め(Hu 13Kアレイプロモーターの0.8%)、その30%が肝細胞中のHNF1αによって結合された(図1B)。島では、肝細胞中よりも少ないシャペロン及び酵素がHNF1αによって結合され、HNF1αによって調節される受容体及びシグナル伝達機構は、二組織間で異なる。
【0160】
HNF1αは、以前に、肝細胞及び島細胞中の多数の遺伝子の調節に関与していると考えられてきた(13、16、20(図15))。本明細書中に報告した直接ゲノム結合データにより、多数であるが全てではないこれらの遺伝子を確認した。相違は、少なくとも一部は、ゲノム規模のデータにおける結合に関する本発明者らのストリンジェントな基準に起因し得、この基準は位置分析によって同定された直接標的遺伝子に対する本発明者らの信頼が増すが、in vivoでの標的の実際の数値を過小評価している可能性が高い。さらに、アレイ上にプリントされた近位プロモーター領域はかなり多数の転写因子の結合配列を含むにもかかわらず、多数の遺伝子はまた、Hu 13Kアレイ上に存在しないより遠位のプロモーターエレメント及びエンハンサーによって調節される。
【0161】
出願人はまた、ゲノム規模の位置分析を使用してヒト肝細胞及び膵島中のHNF6によって結合されたプロモーターを同定した(図1B;図16及び17)(20)。HNF6は、肝細胞中の少なくとも222個の遺伝子及び膵島中の189個の遺伝子に結合し、それぞれアレイ上のプロモーターの1.7%及び1.4%を示した。HNF6によって占められるほぼ半分のプロモーターは二組織で共通であり、CDK2等の多数の重要な細胞周期調節因子を含んでいた(20)。
【0162】
ゲノム規模の位置分析により、肝細胞及び膵島においてHNF4αについて驚くべき結果が明らかとなった(図1B)。HNF4αクロマチン免疫沈降で濃縮した遺伝子数は、典型的な部位特異的調節因子で見出されたよりもはるかに多かった。HNF4αは、肝細胞中のHu 13K DNAマイクロアレイ上に示された遺伝子の約12%に結合し、膵島では11%に結合した。ヒト細胞において出願人がプロファイリングした他の転写因子は、13Kアレイ上に示された2.5%を超えるプロモーター領域に結合することが見出されなかった。
【0163】
6つの独立した一連の証拠は、HNF4αの結果が不十分な抗体特異性又はマイクロアレイ分析のエラーに起因せず、HNF4αが通常は肝細胞及び膵島中の多数のプロモーターに関連するという見解を支持することを示す(20)。第1に、HNF4αの異なる部分を認識する2つの異なる抗体を使用して本質的に同一の結果が得られた。第2に、ウェスタンブロットは、HNF4α抗体の特異性が高いことを示した。第3に、出願人は、従来の遺伝子特異的クロマチン免疫沈降によって肝細胞中HNF4αの50個を超える無作為に選択した標的での結合を検証した。第4に、HNF4αに対する抗体をJurkat細胞、U937細胞、及びBJT細胞(HNF4αを発現しない)を使用したコントロール実験でChIPのために使用した場合、本発明者らの基準によって各細胞株中にわずか17個のプロモーターが同定され、これはこの系における固有のノイズの十分に範囲内である。第5に、ウサギ及びヤギ由来の前免疫抗体(2つの異なる抗HNF4α抗体はウサギ及びヤギに由来する)を肝細胞におけるコントロール実験で使用した場合、同定された標的数は、ノイズの範囲内である。最後に、HNF4αの結果が正しい場合、出願人は、HNF4αによって結合されたプロモーター組が主に各組織中のRNAポリメラーゼIIによって結合されたプロモーターのサブセットであると予想し、出願人は、これが真であることを見出した(以下を参照のこと)。出願人は、HNF4αがこれらの組織中で広範に作用する転写因子であり、これは異常に豊富な構成的に活性な転写因子であるという所見と一致すると結論づける(11)。
【0164】
出願人は、次に、肝細胞及び膵島で活発に転写されるHu 13Kマイクロアレイ上に示された遺伝子を同定し、それにより、HNF4αによって結合される活発に転写された遺伝子の画分を決定することができる(図2C)。DNAマイクロアレイを使用した転写レベルのプロファイリングによってこれらの組織のトランスクリプトームを正確に決定することは困難である。転写プロファイリングは、組織RNA集団を比較することができる基準RNA集団が必要であり、適切な基準RNAの生成には限度がある。この限度を回避するために、出願人は、RNAポリメラーゼIIが真核細胞中で活発に転写されるタンパク質コード遺伝子組を占めるという事実を活用した。RNAポリメラーゼII抗体を使用した位置分析は、これらの活発に転写される遺伝子を同定することができる(7、21)。出願人は、Hu 13Kアレイ上の遺伝子の23%(2984個の遺伝子)が肝細胞中でRNAポリメラーゼIIによって結合され、19%(2426個の遺伝子)が島細胞中でRNAポリメラーゼIIによって結合されたことを見出した(20)。肝細胞及び島中のRNAポリメラーゼIIによって占められた遺伝子組は実質的に重複し(島と比較して81%重複)、二組織の関連と一致した(22)。予想どおり、肝細胞及び膵島中のHNF4αによって占められる遺伝子の大部分(それぞれ80%及び73%)も、RNAポリメラーゼIIによって占められた。著しく、RNAポリメラーゼIIによって占められた遺伝子のうちの42%(1262/2984)は、肝細胞中でHNF4αによって結合され、43%(1047/2426)は島中でHNF4αによって結合された(図1C)。比較すると、RNAポリメラーゼII濃縮プロモーターのわずか6%及び2%も、それぞれ肝細胞及び島中でHNF4αによって結合された。
【0165】
以前の研究は、HNF1α、HMF4α、及びHNF6は、肝細胞及び島中の多数の発生機能及び代謝機能を協力的に調節する転写因子のネットワークの中心にあることを示す(9、13、15、17)。これらの因子の直接in vivo標的の本発明者らの系統的分析により、初代ヒト組織における調節ネットワークの理解が有意に広がった(図2A)。これらの二組織における調節ネットワークの比較により、HNF1α、HNF4α、及びHNF6が2つの組織中の転写因子及び補因子の巨大集団をコードする遺伝子のプロモーターを占めることが明らかとなる(20)。HNF1α、HNF4α、及びHNF6によって占められる転写因子の正確な組及びこれらがHNF調節因子によって占められる範囲は、これらの二組織間で実質的に異なっていた。
【0166】
転写因子結合データを使用して、調節ネットワークモチーフ(機械的モデルを示唆する転写調節ネットワーク構造の簡潔な単位)を同定した(図2B)(4、23)。本発明者らのデータにより、HNF1α及びHNF4αが肝細胞及び島の両方で1つの別のプロモーターを占め、多成分ループを形成するという以前の報告が確認される(24〜26)。多成分ループにより、フィードバック調節能力が提供され、2つの代替的状態の間で切り替わることができる二重安定系が生成される(23)。HNF1αとHNF4αとの間に存在する多成分ループが膵臓β細胞の最終表現型の安定化を担うことが示唆された(26)。出願人はまた、HMF6が各組織の80個を超える遺伝子を含む肝細胞及び膵島におけるフィードフォワードモチーフの主な調節因子として役立つことを見出した(図20及び22)。例えば、肝細胞では、HNF6は、HNF4α7プロモーターに結合し、HNF6及びHNF4αは共にホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(糖新生の鍵となる酵素)をコードするPCK1に結合する(図2B)。フィードフォワードループは、一過性よりもむしろ持続的入力に感受性を示すように設計されたスイッチとして作用することができる(23)。HNF1α、HNF4α、及びHNF6はまた、肝細胞及び島中の遺伝子組への集合的結合によって多入力モチーフを形成することが見出された。この調節モチーフにより、複数の入力シグナルによる遺伝子発現の調整が示唆される。出願人はまた、HNF6、HNF4α、及びHNF1αがTHRAと共に調節鎖モチーフ(NR1D1)を形成することを見出し、調節鎖モチーフは一過性配列中の転写事象の順序付けのための最も簡潔な回路ロジックを示す(4、23)。これらの調節モチーフのさらなる例を、図20及び図23に見出すことができる(20)。図20〜図24のパネルA及びBは、HNF転写因子及びその調節ループによって占められる転写調節因子を示す。図4〜図10は、本明細書中に記載の実験によって得られたさらなるコントール及びデータを示す。
【0167】
本発明者らの結果により、核ホルモン受容体HNF4αが活発に転写される遺伝子のほとんど半分への直接結合による肝臓及び膵島トランスクリプトームの巨大画分の調節に寄与することが示唆される。これは、何故HNF4αがこれらの組織の発生及び適切な機能に重要であるのかを説明する可能性が高い(12〜15、17、18)。おそらく最も重要には、本発明者らの結果により、スプライス変異HNF4α7の島特異的P2プロモーター中の多型がII型糖尿病のリスクを非常に増加させ得るという最近の発見に対するメカニズムの説明が示唆される(27〜30)。出願人は、複数のHNF因子が健常なヒトの初代島中のP2プロモーターに直接結合することを見出した。これらの因子の結合部位の変化によってHNF4α発現が誤調節され、これにより、標的が下方制御され、β細胞の機能障害及び糖尿病を引き起こし得る。
【0168】
[実験分野の参考文献リスト]
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【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1A−1C】ヒト組織中のHNF調節因子のゲノム規模の位置分析を示す図である。(A)肝細胞及び膵島を組織分配プログラムから得た。これらの細胞を、ホルムアルデヒドで処理して転写因子をDNA相互作用部位に架橋させた。細胞を採取し、細胞溶解物中のクロマチンを、超音波処理によって剪断した。調節因子−DNA複合体を、特異的抗体を使用したクロマチン免疫沈降によって濃縮し、架橋を無効にし(reversed)、濃縮DNAフラグメント及びコントロールゲノムDNAフラグメントを、ライゲーション媒介PCRを使用して増幅した。個別のフルオロフォアで標識した増幅DNA調製物を混合し、プロモーターアレイ上にハイブリッド形成させた。(B)肝細胞(上)及び膵島(下)中のHNF1α、HNF6、及びHNF4α結合プロモーターの重複を示すベン図である。(C)肝細胞中のRNAポリメラーゼIIが占める遺伝子集合を円で示し、HNF1α、HNF6、及びHNF4αに結合する遺伝子をチャートの一部分(fraction)として集合的に外側に描く。HNF1α、HNF6、及びHNF4αの相対的寄与率を枠取りした弧(framing arc)として示す。
【図2A−2B】転写調節ネットワーク及びモチーフを示す図である。(A)HNF1α、HNF6、及びHNF4αは、組織特異的転写調節ネットワークの中心にある。例示のために選択されたこれらの例では、調節タンパク質及びその遺伝子標的を、それぞれ円及びボックスとして示す。実線の矢印は、タンパク質−DNA相互作用を示し、調節因子をコードする遺伝子を、そのタンパク質産物と破線で繋ぐ。P2プロモーター(24、25)としても既知のHNF4a7プロモーターは、最近、主要ヒト糖尿病感受性遺伝子座に関連するとされた(テキストを参照のこと)。(B)肝細胞中の調節ネットワークモチーフの例。例えば、多成分ループでは、HNF1αタンパク質はHNF4α遺伝子のプロモーターに結合し、HNF4αタンパク質はHNF1α遺伝子のプロモーターに結合する。これらのネットワークモチーフを、種々のアルゴリズムを使用した結合データの検索によって明らかにした。使用したアルゴリズム及び見出されたモチーフの全リストの詳細については、(20)を参照のこと。
【図3】障害を治療又は予防するための治療薬の開発のための主要調節因子の少なくとも1つの標的遺伝子の同定のためのストラテジーの1つの実施形態を示す図である。
【図4】抗HNF4α抗体sc−6556及びsc−8987を使用し、肝細胞を使用した2つの単一の独立したChIP実験の重複を示すベン図である。
【図5】sc−6556抗体を使用し、50μgの細胞溶解物タンパク質を使用したHepG2細胞中のHNF4aのウェスタンブロットを示す図である。下の泳動バンドは、約50kDaであり、これはHNF4aの標準分子量であり、上の泳動バンドはHNF4a二量体の特有の位置である。sc−6556に対するHNF4aの抗体特異性を示す非常に類似したゲルは、Santa Cruzウェブサイト(www.scbt.com)で利用可能である。
【図6A−6D】Jurkat細胞(Tリンパ球由来、6A)、BJ−T細胞(包皮線維芽細胞由来、6B)およびU937細胞(大食細胞由来、6C)を用いて抗HNF4a抗体であるsc−6556により行った、クロマチン免疫沈降の試み(attempted)の散布図である。アレイ分析における固有のノイズを示すために、出願人は、分割し、2つのフルオロフォアで標識し、アレイとハイブリッド形成させた、入力DNAのサンプルの散布図を占めす。抗HNF1a抗体であるsc−6547抗体を使用して行った同一のコントロール実験では、本質的に同一の結果が得られた。
【図7】肝細胞を使用し、市販の免疫前ウサギ血清を使用して行ったクロマチン免疫沈降の散布図である(左)。ヤギ免疫前血清及び異なる個体由来の2つのウサギ血清により、類似の散布図が得られた。比較のために、出願人は、肝細胞を使用し、抗HNF4a抗体であるsc−6556を使用した等価なChIPの散布図を示す(右)。
【図8】肝細胞及び膵島におけるHNF4α及びRNA PolIIによって結合されたプロモーター組の重複を示すベン図である。
【図9】架橋ヒト肝細胞を使用し、抗HNF4α抗体であるsc−6556を使用した、遺伝子特異的クロマチン免疫沈降反応の複合ゲル(composite gel)を示す図である。
【図10】架橋ヒト肝細胞を使用し、抗HNF1α抗体であるsc−6547を使用した、遺伝子特異的クロマチン免疫沈降反応の複合ゲルを示す図である。
【図11】ヒト肝細胞及び膵島中のHNF1aを占める近位プロモーターの部分的リストを示す図である。これらの遺伝子を、ProtoGoプログラムを使用して機能カテゴリーに割り当てた。この自動化GOオントロジーデータベース中に含まれない遺伝子をLocuslink情報を使用して割り当てた。各組織/カテゴリー組み合わせについて4つの遺伝子を示す。いくつかの組み合わせについて、4個未満のプロモーターを標的と見なした。仮説上の機能的に特徴づけられていない遺伝子は示していない。標的の完全なリストは、図13及び図14で利用可能である。
【図12】BJ−T及び組織特異的プロモーター組におけるHNF因子の占有を示す図である。(*)は、BJ−Tと一次組織との間の比較にHu13Kアレイプロモーターのサブセットのみを使用したことを示すが、これは、RNA PolIIをより小さなプロトタイプアレイを使用してBJ−T細胞にプロファイリングしたからである。上記分数の分母は、BJ−Tに特異的又は一次組織に特異的なプロモーター中に占めるRNA PolII組中に占める目的のHNF因子の標的数を示す。
【図13】肝細胞中のHNF1α結合プロモーターを示す。
【図14】膵島中のHNF1α結合プロモーターを示す。
【図15A−15D】調節されると以前に示唆されている遺伝子を示す図である。「直接」結合は、in vivoChIP及びin vivoフットプリンティングであり、「in vitro」結合は、主にゲル移動度遅滞アッセイ及びin vitroフットプリンティングであり、「間接的」は、主に一過性トランスフェクションである。「配列ベース」は、結合を定量するために多数の異なる基準を使用する。いくつかの重複報告を省略しているが、これらは最近の大量スクリーニングの少数であるからであることに留意のこと(例えば、Tronche 1997, Shih 2001等)。
【図16】肝細胞中のHNF6結合プロモーターを示す図である。
【図17】膵島中のHNF6結合プロモーターを示す図である。
【図18A−18C】肝細胞中のHNF4α結合プロモーターを示す図である。
【図19A−19C】膵島中のHNF4α結合プロモーターを示す図である。
【図20A−20B】肝細胞中のフィードフォワード調節モチーフを示す図である。ここに記載の調節モジュールは、実施例に記載のものから得た。HNF1a及びHNF4aのみを含むフィードフォワードは、多成分ループ中のそれぞれの他のプロモーターに結合するので、多入力モチーフでもある。
【図21A−21B】肝細胞における多入力モチーフを示す図である。ここに記載の調節モジュールは、実施例に記載のものから得た。HNF6/HNF4a及びHNF1a/HNF4aのMIMを、フィードフォワードモチーフとして図20に列挙している。
【図22A−22B】膵島におけるフィードフォワード調節モチーフを示す図である。ここに記載の調節モジュールは、Supporting Online Materialに記載のものから得た。HNF1a及びHNF4aのみを含むフィードフォワードは、多成分ループ中のそれぞれの他のプロモーターに結合するので、多入力モチーフでもある。
【図23A−23B】膵島における多入力モチーフを示す図である。ここに記載の調節モジュールは、Supporting Online Materialに記載のものから得た。HNF6/HNF4a及びHNF1a/HNF4aのMIMを、フィードフォワードとして図22に列挙している。
【図24A−24B】HNF1a及びHNF4aによって占有される転写調節因子を示す図である。肝細胞及び島中のHNF1a及びHNF4aの下流のDNA調節因子のネットワーク。遺伝子オントロジーの「DNA調節因子」カテゴリー中の標的遺伝子をまとめ、機能別サブカテゴリーに従って列挙する。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図2A】

【図2B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子サブセット中のいずれの遺伝子が細胞中に発現した転写調節因子によって調節されるかを決定する方法であって、
(a)前記細胞からクロマチンを選択的に単離し、単離クロマチンを生成するステップと、
(b)前記単離クロマチンからクロマチンフラグメントを選択的に単離し、結合クロマチンフラグメントを生成するステップであって、前記結合クロマチンフラグメントには前記転写調節因子が結合している、ステップと、
(c)前記結合クロマチンフラグメントを増幅し、増幅クロマチンフラグメントを生成し、且つ、前記単離クロマチンを増幅し、増幅コントロールクロマチンを生成するステップと、
(d)前記増幅コントロールクロマチン及び前記増幅クロマチンフラグメントをDNAマイクロアレイとハイブリッド形成させるステップであって、前記DNAマイクロアレイが、
(1)少なくとも10,000個の実験スポットであって、それぞれの実験スポットは実験DNAを含み、それぞれの実験DNAは前記サブセット中の遺伝子のプロモーター領域を含む、実験スポット、及び
(2)少なくとも100個のコントロールスポットであって、それぞれのコントロールスポットはコントロールDNAを含み、それぞれのコントロールDNAは非プロモーター領域を含む、コントロールスポット
を含む、ステップと、
(e)前記マイクロアレイ上の前記スポットのそれぞれにおけるハイブリッド形成シグナルを、
(1)前記増幅コントロールクロマチン、及び
(2)前記増幅クロマチンフラグメント
によって生成されたシグナル間で決定及び比較するステップと、
を含み、
ある遺伝子のプロモーター領域を含むスポットが、前記増幅コントロールクロマチンよりも前記増幅クロマチンフラグメントによってより高いハイブリッド形成レベルを示す場合、前記サブセット中の当該遺伝子が前記細胞において前記転写調節因子によって調節されると考えられる、方法。
【請求項2】
前記増幅クロマチンフラグメントの各実験スポットへのハイブリッド形成レベルを、前記増幅クロマチンフラグメントの前記コントロールスポットへのハイブリッド形成レベルによって標準化する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記増幅クロマチンフラグメントの各実験スポットへのハイブリッド形成レベルを、前記増幅クロマチンフラグメントの前記コントロールスポットへの平均ハイブリッド形成レベルを引くことによって標準化する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記より高いハイブリッド形成レベルが、少なくとも2倍のより高いハイブリッド形成レベルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記転写調節因子が前記細胞に天然のものである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記転写調節因子が組換え転写調節因子ではない、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞が初代細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞がヒト細胞である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞が移植用グレードのヒト細胞である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(b)が転写調節因子の免疫沈降を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(c)がライゲーション媒介型ポリメラーゼ連鎖反応(LM−PCR)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記遺伝子のプロモーター領域が、前記遺伝子の転写開始部位の少なくとも700bp上流から少なくとも200bp下流までを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記プロモーター領域が、少なくとも30、40、50、又は60ヌクレオチド長を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記遺伝子のプロモーター領域が、少なくとも30ヌクレオチドの配列であって、当該遺伝子の転写開始部位の3kb上流から1kb下流までに及ぶ領域と同一である配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記非プロモーター領域がオープンリーディングフレームを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記転写調節因子が基本転写因子である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記転写調節因子が、RNAポリメラーゼII又はTATA結合タンパク質である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
細胞中の転写調節ネットワークを同定する方法であって、請求項1に記載の方法を使用して、転写調節因子が前記細胞中のさらなる転写調節因子を調節するかを決定するステップを含み、少なくとも1つのさらなる転写調節因子が前記転写調節因子によって調節されると決定された場合に転写調節ネットワークが同定される、方法。
【請求項19】
前記実験DNAが、前記さらなる転写調節因子のプロモーター領域を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
細胞中の転写調節ネットワークを同定する方法であって、請求項1に記載の方法を使用して、転写調節因子が、
(i)当該転写調節因子自体のプロモーター、又は
(ii)複数の転写調節因子のプロモーター
を調節するかを決定するステップであって、前記実験DNAが、
(a)前記転写調節因子のプロモーター、及び
(b)前記複数の転写調節因子のプロモーター
を含む、ステップを含み、
前記転写調節因子が当該転写調節因子自体を調節するか、又は前記転写調節因子が前記複数の転写調節因子のうちの少なくとも1つを調節する場合、転写調節ネットワークが同定される、方法。
【請求項21】
細胞中の転写調節ネットワークを同定する方法であって、
(a)複数の転写調節因子のそれぞれについて請求項1に記載の方法を繰り返すことによって、前記複数の転写調節因子のそれぞれによって調節される、サブセット中の前記遺伝子を決定するステップであって、前記実験DNAは前記複数の転写調節因子のそれぞれのプロモーター領域を含む、ステップと、
(b)前記複数の転写調節因子のうちのいずれかが、前記複数の転写調節因子のうちの少なくとも1つによって調節されるかを決定するステップと
を含み、
前記複数の転写調節因子のうちのいずれかが前記複数の転写調節因子のうちの少なくとも1つによって調節される場合、前記転写調節ネットワークが同定される、方法。
【請求項22】
ある遺伝子が、前記複数の転写調節因子のうちの1つを超える転写調節因子によって調節されるかを決定するステップをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ヒト細胞中のプロモーターの占有を決定するためのDNAマイクロアレイであって、
(1)少なくとも10,000個の実験スポットであって、それぞれの実験スポットは実験DNAを含み、それぞれの実験DNAは前記サブセット中のヒト遺伝子のプロモーター領域を含む、実験スポット、及び
(2)少なくとも100個のコントロールスポットであって、それぞれのコントロールスポットはコントロールDNAを含み、それぞれのコントロールDNAは非プロモーター領域を含む、コントロールスポット
を含み、
前記プロモーター領域の少なくとも75%は、前記転写開始部位の少なくとも700bp上流から少なくとも200bp下流までを含む、DNAマイクロアレイ。
【請求項24】
転写調節因子が全体的転写調節因子であるかを評価する方法であって、
(a)組織からクロマチンを選択的に単離するステップと、
(b)候補全体的転写調節因子が結合している前記クロマチンからプロモーター領域を同定するステップと、
(c)基本転写機構のメンバーが結合している前記クロマチンからプロモーター領域を同定するステップと、
(d)ステップ(b)及びステップ(c)で同定されたプロモーター領域を比較し、(i)前記候補全体的転写調節因子及び前記基本転写機構の前記メンバーの両方が結合しているプロモーター領域の数と、(ii)前記基本転写機構の前記メンバーが結合しているプロモーター領域の数との比を決定する、ステップと
を含み、
前記比が0.2を超える場合に、転写調節因子は全体的転写調節因子である、方法。
【請求項25】
ステップ(b)及びステップ(c)が、DNAマイクロアレイを使用して行われる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記DNAマイクロアレイが、
(i)少なくとも10,000個の実験スポットであって、それぞれの実験スポットは実験DNAを含み、それぞれの実験DNAは前記サブセット中のヒト遺伝子のプロモーター領域を含む、実験スポット、及び
(ii)少なくとも100個のコントロールスポットであって、それぞれのコントロールスポットはコントロールDNAを含み、それぞれのコントロールDNAは非プロモーター領域を含む、コントロールスポット
を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記基本転写機構の前記メンバーが、RNAポリメラーゼII又はTATA結合タンパク質である、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記組織が移植用グレードの組織である、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
前記組織が新たに単離されたヒト組織である、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
前記組織が、障害を患う被験体に由来する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記障害が、過形成状態である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
被験体の障害を治療又は予防するための治療薬の開発のための少なくとも1つの標的遺伝子を同定する方法であって、前記障害の少なくとも1つの形態が転写調節因子又は転写調節因子と疑われるものの活性の変化に起因し、
(a)細胞中の前記転写調節因子によって調節される遺伝子を同定するステップと、
(b)前記転写調節因子が広域作用転写調節因子であるか又は狭域作用転写調節因子であるかを決定するステップであって、前記転写調節因子が広域作用転写調節因子である場合、前記転写調節因子が治療薬開発のための標的遺伝子であり、前記転写調節因子が狭域作用転写調節因子である場合、
(i)前記転写調節因子によって調節される少なくとも1つの遺伝子が前記障害の原因である可能性が高いかを決定し、前記障害の原因である可能性が高い遺伝子が治療薬の開発のための標的遺伝子あり、且つ
(ii)前記細胞中の転写調節因子によって調節され、且つ
(1)転写調節因子をコードするか、または
(2)転写調節因子をコードすると疑われる
少なくとも1つの遺伝子について、ステップ(a)及びステップ(b)における前記転写調節因子を前記遺伝子と変更して、ステップ(a)及びステップ(b)を繰り返すステップと
を含み、
これにより、被験体の障害を治療又は予防するための治療薬の開発のための少なくとも1つの標的遺伝子を同定する、方法。
【請求項33】
細胞中の前記転写調節因子によって調節される遺伝子を同定するステップが、染色体規模の位置分析を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記細胞中の前記転写調節因子によって調節される遺伝子を同定するステップが、請求項1に記載の方法の使用を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記転写調節因子が、主要調節遺伝子である、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
前記主要調節遺伝子が、SOX1−18、OCT6、PAX3、ミオカルジン、GATA1−6、TCF1/HNF1A、HNF4A、HNF6、NGN3、C/EBP、FOXA1−3、IPF1、GATA、HNF3、NKX2.1、CDX、FTF/NR5A2、C/EBPβ、SCL1、SKIN1、又は転写因子のニューロゲニン、LK、LMO、SOX、OCT、PAX、GATA若しくはMyoDファミリーのメンバーである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記転写調節因子が、PAX3、EGR−1、EGR−2、OCT6、SOXファミリーメンバー、GATAファミリーメンバー、PAXファミリーメンバー、OCTファミリーメンバー、RFX5、WHN、GATA1、VDR、CRX、CBP、MeCP2、AML1、p53、PLZF、PML、Rb、WT1、NR3C2、GCCR、PPARγ、SIM1、HNFlα、HNFlβ、HNF4α、PDX1、MAFA、FOXA2、又はNEUROD1である、請求項32に記載の方法。
【請求項38】
前記細胞が、前記障害で機能が低下した組織に由来する、請求項32に記載の方法。
【請求項39】
前記広域作用遺伝子が前記細胞中の少なくとも約2.5%の前記遺伝子を調節し、前記狭域作用遺伝子が前記細胞中の約2.5%未満の前記遺伝子を調節する、請求項32に記載の方法。
【請求項40】
前記遺伝子が、転写調節因子のDNA結合ドメインと少なくとも30%のアミノ酸配列の同一性を有する場合、当該遺伝子が転写調節因子をコードすると疑われる、請求項32に記載の方法。
【請求項41】
前記細胞中の前記転写調節因子が、変異転写調節因子である、請求項32に記載の方法。
【請求項42】
前記細胞中の前記転写調節因子が、変化した活性を有する、請求項32に記載の方法。
【請求項43】
前記遺伝子の変異によって前記障害に関連する少なくとも1つの表現型又は症状がもたらされる場合、前記転写調節因子によって調節される遺伝子が、前記障害の原因である可能性が高い、請求項32に記載の方法。
【請求項44】
前記遺伝子が、前記障害で損なわれる経路で機能する酵素又はシグナル伝達分子をコードする場合、前記転写調節因子によって調節される遺伝子が、前記障害の原因である可能性が高い、請求項32に記載の方法。
【請求項45】
前記転写調節因子の前記活性の変化は、少なくとも1つの以下:
(a)DNAに対する前記転写調節因子の結合親和性の変化、
(b)RNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼホロ酵素又は第2の転写調節因子に結合する前記転写調節因子の能力の変化、
(c)リガンドに対する前記転写調節因子の結合親和性の変化、
(d)前記転写調節因子の発現レベル又は発現パターンの変化、又は
(e)ホモ多量体又はヘテロ多量体を形成する前記転写調節因子の能力の変化
を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項46】
前記障害が、少なくとも1つの以下:脳、脊髄、心臓、動脈、食道、胃、小腸、大腸、肝臓、膵臓、肺、腎臓、尿路、卵巣、乳房、子宮、精巣、陰茎、結腸、前立腺、骨、筋肉、軟骨、甲状腺、副腎、下垂体、骨髄、血液、胸腺、脾臓、リンパ節、皮膚、目、耳、鼻、歯又は舌の機能低下によって特徴づけられる、請求項32に記載の方法。
【請求項47】
前記治療薬が、小分子薬物、アンチセンス試薬、抗体、ペプチド、リガンド、脂肪酸、ホルモン、又は代謝産物を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項48】
前記被験体が哺乳動物である、請求項32に記載の方法。
【請求項49】
前記哺乳動物がヒトである、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記転写調節因子が、転写活性化因子又は転写抑制因子である、請求項32に記載の方法。
【請求項51】
前記転写調節因子が前記細胞に天然のものである、請求項32に記載の方法。
【請求項52】
前記転写調節因子が、前記細胞と異なる種ものである、請求項32に記載の方法。
【請求項53】
前記転写調節因子がウイルス転写調節因子である、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
被験体のII型糖尿病を治療又は予防する方法であって、HNF4αの全体的転写活性を増加させる治療有効量の薬剤を前記被験体に投与するステップを含む、方法。
【請求項55】
被験体のHNF4αの低転写活性に関連する障害を治療又は予防する方法であって、HNF4αの全体的転写活性を増加させる治療有効量の薬剤を前記被験体に投与するステップを含む、方法。
【請求項56】
被験体のHNF4αの高転写活性に関連する障害を治療又は予防する方法であって、HNF4αの全体的転写活性を減少させる治療有効量の薬剤を前記被験体に投与するステップを含む、方法。
【請求項57】
肝細胞又は膵臓細胞における全体的転写活性を増加させる方法であって、前記細胞をHNF4αの全体的転写活性を増加させる薬剤と接触させるステップを含む、方法。
【請求項58】
肝細胞又は膵臓細胞における全体的転写活性を減少させる方法であって、前記細胞をHNF4αの全体的転写活性を減少させる薬剤と接触させるステップを含む、方法。
【請求項59】
肝細胞中の図13に記載の遺伝子のうちのいずれかの発現レベルを調節する方法であって、前記細胞をHNF1αの転写活性を調節する薬剤と接触させるステップを含む、方法。
【請求項60】
膵臓細胞中の図14に記載の遺伝子のうちのいずれかの発現レベルを調節する方法であって、前記細胞をHNF1αの転写活性を調節する薬剤と接触させるステップを含む、方法。
【請求項61】
肝細胞中の図16に記載の遺伝子のうちのいずれかの発現レベルを調節する方法であって、前記細胞をHNF6の転写活性を調節する薬剤と接触させるステップを含む、方法。
【請求項62】
膵臓細胞中の図17に記載の遺伝子のうちのいずれかの発現レベルを調節する方法であって、前記細胞をHNF6の転写活性を調節する薬剤と接触させるステップを含む、方法。
【請求項63】
肝細胞中の図18に記載の遺伝子のうちのいずれかの発現レベルを調節する方法であって、前記細胞をHNF4αの転写活性を調節する薬剤と接触させるステップを含む、方法。
【請求項64】
膵臓細胞中の図19に記載の遺伝子のうちのいずれかの発現レベルを調節する方法であって、前記細胞をHNF4αの転写活性を調節する薬剤と接触させるステップを含む、方法。
【請求項65】
細胞中で転写調節因子によって調節される転写的に活性な遺伝子を同定する方法であって、
(a)組織からクロマチンを選択的に単離するステップと、
(b)前記転写調節因子が結合している前記クロマチンのプロモーター領域を同定するステップと、
(c)前記基本転写機構のメンバーが結合している前記クロマチンのプロモーター領域を同定するステップと
(d)ステップ(b)及びステップ(c)で同定されたプロモーター領域を比較して、重複する遺伝子を決定するステップと
を含み、
前記重複する遺伝子が、前記転写調節因子によって調節される転写的に活性な遺伝子である、方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【図15D】
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【図16】
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【図17】
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【図18A】
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【図18B】
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【図18C】
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【図19A】
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【図19B】
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【図19C】
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【図20A】
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【図20B】
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【図21A】
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【図21B】
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【図22A】
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【図22B】
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【図23A】
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【図23B】
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【図24】
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【公表番号】特表2007−515954(P2007−515954A)
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541476(P2006−541476)
【出願日】平成16年11月23日(2004.11.23)
【国際出願番号】PCT/US2004/039805
【国際公開番号】WO2005/054461
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(502168404)ホワイトヘッド・インスティテュート・フォー・バイオメディカル・リサーチ (4)
【氏名又は名称原語表記】Whitehead Institute for Biomedical Research
【Fターム(参考)】