説明

転移した腫瘍の治療

転移したガン、たとえば転移した腫瘍を治療する方法は、構造Iの化合物、該化合物の互変異性体、該化合物の医薬的に許容される塩、該互変異性体の医薬的に許容される塩、またはそれらの混合物を被験体に投与する工程を含む。化合物、化合物の互変異性体、化合物の塩、互変異性体の塩、またはそれらの混合物を使用して転移性ガンの医薬を製造できる可能性がある。変数Aは本明細書で定義された値を持つ。一つの実施態様において、本発明は、ヒトガン患者などの被験体において、転移性のガンを治療する方法を提供する。いくつかの実施形態において、ガンは乳ガン、肝ガン、肺ガン、または前立腺ガンである。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は広く被験体の転移した腫瘍を治療するための方法および組成物に関する。特に、本発明は、転移した腫瘍を処理し、そして転移した腫瘍を治療するための医薬を製造することに化合物、たとえば4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]キノリン−2(1H)−オンおよびその互変異性体、塩およびそれらの混合物を使用することを提供する。
【背景技術】
【0002】
毛細血管は、人体のほぼすべての組織中に入り込んでおり、酸素および栄養分を組織に供給するとともに、老廃物の排泄が促進される。典型的な条件下では、毛細血管の内壁を被覆する内皮細胞は細胞分裂しないため、成人では通常その数も大きさも増加しない。しかし、ある正常な条件下、たとえば組織が損傷を受けた時や、月経周期のある一定の時期には、毛細血管が急激に増殖を始める。すでに存在する血管から新しい毛細血管が形成される過程は血管形成あるいは血管新生という言葉で知られている。非特許文献1を参照。傷が治癒する間に見られる血管形成は成人期における病態生理学的血管新生の一つの例である。傷が治癒する間、追加された毛細血管によって酸素および栄養分が供給され、肉芽組織が増進され老廃物の排泄が促進される。治癒過程が終了すると、通常毛細血管は退行する。Lymboussaki,A.“Vascular Endothelial Growth Factors and their Receptors in Embryos,Adult,and in Tumors”Academic Dissertation,University of Helsinki,Molecular/Cancer Biology Laboratory and Department of Pethology, Haartman Institute,(1999)。
【0003】
血管形成は、ガン細胞の増殖にも重要な役割を演じる。ガン細胞病変が、ひとたびある大きさ、大ざっぱに言って1〜2mmに達すると、拡散だけでは、ガン細胞に十分な酸素と栄養分を供給することが困難になるため、腫瘍がさらに成長するためには、ガン細胞が血液の供給を増やさなければならないことが知られている。したがって、血管の形成を阻害すればガン細胞の増殖を止めることができるものと予想される。
【0004】
レセプターチロシンキナーゼ(RTK)は細胞の成長と分化、および成体組織の再形成や再生を調節するトランスメンブラン(膜貫通)ポリペプチドである。非特許文献2;非特許文献3。増殖因子として知られるポリペプチドリガンドまたはサイトカインは、RTKを活性化することが知られている。シグナリングRTKは、リガンドの結合、およびレセプターの外部ドメインにおける立体配置の変化とそれによるレセプターの二量化を含む。Lymboussaki,A.“Vascular Endothelial Growth Factors and their Receptors in Embryos,Adult,and in Tumors”Academic Dissertation,University of Helsinki,Molecular/Cancer Biology Laboratory and Department of Pethology, Haartman Institute,(1999); Ullrich,A.ほか、Cell 61,203〜212(1990)。リガンドがRTKに結合すると特定のチロシン残基でレセプターのトランスホスホリル化が起き、そのあとに、細胞質基質をリン酸化するための触媒ドメインの活性化がつづく。同上文献。
【0005】
RTKの2つのサブファミリーは血管内皮に対して特異的である。これらのサブファミリーには、血管内皮増殖因子(VEGF)サブファミリーとTieレセプターサブファミリーとが含まれる。クラスV RTKにはVEGFR1(FLT−1)、VEGFR2(KDR(ヒト)、Flk−1(マウス))、およびVEGFR3(FLT−4)が含まれる。Shibuya,M.ほか、Oncogene 5,519〜525(1990);Terman,B.ほか、Oncogene 6,1677〜1683(1991); Aprelikova,O.ほか、Cancer Res.52,746〜748(1992)。
【0006】
ガンは、腫瘍細胞の増殖を推進する多重の遺伝子欠陥を含む病気である。それゆえ、複数個の細胞シグナル伝達経路を同時に阻害する戦略が、より好ましい治療成績をもたらす可能性がある。腫瘍細胞には、しばしば、RTKの過剰発現および/または活性化をもたらす変異が存在し、腫瘍の増殖に関係している。Blume−Jensen,PおよびHunter,T.,“Oncogenic Kinase Signaling,”Nature,411,pp355〜65(2001); Carmeliet,P.,“Manipulating Angiogenesis in Medicine,”J.Intern.Med.,255,pp538〜61(2004)。ほとんどのRTKは、細胞外ドメインを持ち、リガンドの結合および自己リン酸化を仲介し、シグナル伝達イベントのカスケードの引き金を引く下流シグナル伝達分子の動員を仲介する細胞内キナーゼドメインと関連している。ガンに関係するRTKは30を超え、その例を挙げれば、たとえばタイプIII(PDFGR、CSF−1R、FLT3およびc−KIT)、タイプIV(FGFR1−4)およびタイプV(VEGFR1−3)RTKなどがある。
【0007】
悪性B細胞の疾患である多発性骨髄腫(MM)は、骨髄(BM)にクローン形質細胞が蓄積することと、溶骨障害とに特徴がある。自己幹細胞移植(ASCT)と支援的ケアの進歩とが、この病気と長期生存とにめざましい効果をもたらしている。Attal,M.ほか、N.Engl.J.Med.,1996;335:91〜97;およびBarlogie,B.ほか、Blood,1997;89:789〜793。しかし、患者は常に病気をぶりかえすため、MMは、普遍的な死の病である。MMにおけるランダムでない染色体の転座を同定することで、強力な予後ツールを手にすることができ、新規分子標的の同定が可能となった。MMの患者の半数近くがガン遺伝子と推定されている遺伝子を過剰発現し、5つの再発性免疫グロブリン重(IgH)転座:11q13(サイクリンD1)、6p21(サイクリンD3)、4p16(FGFR3およびMMSET)、16q23(c−maf)および20q11(mafB)のうちの一つによって調節不全に陥る。Kuehl,W.M.ほか、Nat Rev Cancer,2002;2:175〜187;およびAvet−Loiseau,H.ほか、Blood,2002;99:2185〜2191。これらの転座はMMが進行する過程の早期のおそらく生殖の(seminal)イベントを表している可能性が高い。比較的最近、これらの特異的IgH転座が予後に関連することが明確になってきた。特に、患者のおよそ15%に現れるt(4;14)は、MMに対して、ASCTの目に見えるような治療効果が上がらず、特にはかばかしくない予後の原因になっているように見える。Fonseca,R.ほか、Blood,2003;101:4569〜4575; Keats,J.J.ほか、Blood,2003;101:1520〜1529; Moreau,P.ほか、Blood,2002;100:1579〜1583;およびChang,H.ほか、Br.J.Haematol.2004;125:64〜68。新規治療法がこれらの患者にとって必要であることは言うまでもない。
【0008】
t(4;14)転座は、2つのガン遺伝子、すなわちder(4)上のMMSETと、der(14)上のFGFR3とが調節不全であると思われる点で異常である。Chesi,M.ほか、Nat.Genet.,1997;16:260〜265;およびChesi,M.ほか、Blood,1998;92:3025〜3034。これらの遺伝子のいずれか一方、または両方の調節不全が、MMの病態発現にとって重大な意味を持つか否かはわかっていないが、いくつかの証拠は、腫瘍の開始と進行にFGFR3が果たす役割を裏付けている。RTKの一つ、WT FGFR3の活性化が、骨髄腫細胞の増殖と生存を促進しており、造血マウスモデルにわずかに転換しつつある。Plowright,E.E.ほか、Blood,2000;100:3819〜3821。つづいて起きる一部MMにおけるFGFR3の変異活性化の獲得は、後期骨髄腫への進行と関連していて、いくつかの実験モデルにいちじるしく転換しつつある。Chesi,M.ほか、Blood,2000;97:729〜736;およびLi,Z.ほか、Blood,2001;97:2413〜2419。In vitroでの研究は、FGFR3が、化学抵抗性を付与する可能性を示唆している。その観察は通常の化学療法に対する応答が悪いことおよびt(4;14)MM患者の生存期間中央値が短いことを示す臨床データによって支持される。Fonseca,R.ほか、Blood,2003;101:4569〜4576;Keats,J.J.ほか、Blood,2003;101:1520〜1529;Moreau,P.ほか、Blood,2002;100:1579〜1583;およびChang,H.ほか、Br.J.Haematol.2004;125:64〜68。これらの知見はFGFR3の異所発現が、骨髄腫の腫瘍形成に重要な、しかし珍しくはない役割を演じる可能性を示唆しており、そのことがこのRTKを分子療法の標的にする動機をなしている。
【0009】
t(4;14)MM細胞株におけるFGFR3の阻害は細胞毒応答を誘起する。そのことは、末期患者から取り出したこれらの細胞の遺伝子的変化が複雑であるにもかかわらず、これらの細胞は、FGFR3のシグナル伝達に依存しつづけることを示している。Trudel,S.ほか、Blood,2004;103:3521〜3528; Peterson,J.L.ほか、Br.J.Haematol.2004;124:595〜603;およびGrand,E.K.ほか、Leukemia,2004;18:962〜966。これらの観察はヒトの悪性度の範囲でレセプターチロシンの不活性化の結果と一致しており、そこでは臨床的な成功の記録が保存されており、その成功は、予後が良くないこれらの患者を治療するためのFGFR3インヒビターの臨床的開発を促している。Druker,B.J.ほか、N.Engl.J.Med.2001;344:1031〜1037; Demetri,G.D.ほか、N.Engl.J.Med.2002;347:472〜480; Slamon,D.J.ほか、N.Engl.J.Med.2001;344:783〜792;およびSmith,B.D.ほか、Blood,2004;103:3669〜3676。
【0010】
急性骨髄性白血病(AML)は攻撃的なガンであり、全成人急性白血病の90%を占め、発生率は100,000人当たり3.9人で、毎年新たに10,500症例の発生が推定されている。Redaelli,A.ほか、Exper.Rev.Anticancer.Ther.,3,695〜710(2003)。細胞毒物質(Arac+アントラサイクリン)はAML患者の最大70%に寛解を誘発する可能性を持つ。しかし、大部分は再発してしまい、もっと効果的な療法の必要性を映し出している。Weick,J.K.ほか、Blood,88:2841〜2851(1996); Vogler,W.R.ほか、J.Clin.Oncol.,10:1103〜1111(1992)。腫瘍細胞の遺伝子型は、AML芽細胞の25〜35%がfms様チロシンキナーゼ(flt3/Flk2/Stk−2)の変異を持っているのに対して、大部分(>70%)は野生型FLT3を発現することを示している。Gilliland,D.G.ほか、Curr.Opin.Hematol.,9:274〜281(2002); Nakao,M.ほか、Leukemia,10:1911−1918(1996); Yokota,S.ほか、Leukemia,11:1605〜1609(1997)。FLT3レセプターは、CSF−1R、c−KIT、PDCFRを包含するクラスIIIレセプターチロシンキナーゼ(RTK)のメンバーで、造血細胞、樹枝状細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、および始原B細胞の増殖、分化および生存に重要な役割を演じていることは、機能的に知られている。McKenna,H.J.ほか、Blood,95:3480〜3497(2000); Mackaehtcjian,k.ほか、Immunity,3/147〜161(1995)。FLT3は他のRTKと同様、5つのIG様細胞外ドメインに特徴があり、親水的なキナーゼ挿入ドメインを含んでいる。Blume−Jensen,P.ほか、Nature,411:355〜365(2001)。FLT3の連結につづくシグナル伝達は、STAT5(転写5のシグナルトランスデューサおよびアクチベーター)、Ras/MAPK(分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ)およびPI3Kを含む複数の下流経路を変調する。Hayakawa,F.ほか、Oncorogene,19:624〜631(2000); Takahashi,S.ほか、Biochem.Biophys.Res.Commun.,316:85〜92(2004); Zhang,S.ほか、J.Exp.Med.,192:719〜728(2000); Rosnet,O.ほか、Acta Haematol.,95:218223(1996)。変異体FLT3を持つ細胞では、発ガンシグナルの伝達が、調節不全キナーゼの活性化および/または自己抑制ドメインの機能喪失から生じる(FLT3ライゲーション不在下の)構成キナーゼの活性化と関連づけられる。Stirewalt,D.L.ほか、Nat.Rev.Cancer,3:650〜665(2003); Brown,P.ほか、Eur.J.Cancer,40:707〜721(2004)。これらFLT3変異の分子レベルにおける特性評価から、FLT3のメンブラン近傍(juxtamembrane)領域における遺伝子内縦列重複(ITD)かキナーゼ領域(ASP835/836)の点変異が明らかにされており、17〜34%がFLT3 ITDであり、約7%が点変異である。Yamamoto,Y.ほか、Blood,97:2434〜2439(2001); Thiede,C.ほか、Blood,99:4326〜4335(2002); Abu−Duhier,F.M.ほか、Br.J.Haematol.,113:983〜988(2001)。さらに、AMLにおける好ましくない予後としてFLT3 ITD変異が関係していることを裏づけるかなりの証拠があり、病気の再発の増加および全体的な生存の減少と相関づけている。Thiede,C.ほか、Blood,99:4326〜4335(2002); Schnittger,S.ほか、Blood,100:59〜66(2002)。AMLにおけるFLT3変異の関連性を考慮に入れると、FLT3に対する小分子キナーゼインヒビター/抗体を使用する多くの標的化アプローチは、医薬品開発の臨床前または初期のフェーズで研究が進められている最中である。Brown,P.ほか、Eur.J.Cancer,40:707〜721(2004); O‘Farrell,A.M.ほか、Clin.Cancer.Res.,9:5464〜5476(2003); Weisberger,E.ほか、Cancer Cell,1;433〜443(2002); Smith,B.D.ほか、Blood(2004); Kelly,L.M.ほか、Cancer Cell,1:421〜432(2002)。
【0011】
前立腺腫瘍の場合、VEGFRおよび、血管形成におけるPDGFRの役割以外に、いくつかの線維芽細胞増殖因子(FGF)およびそれらの受容体(FGFR)が、ヒトの前立腺の発達とホメオスタシスにおいて、カギとなる間質−表皮間の連絡を促進する。Griffioen,A.W.およびMolema,G.,“Angiogenesis:Potentials for Pharmacologic Intervention in the Treatment of Cancer,Cardiovascular Disease,and Chronic Inflammation,”Pharmacol.Rev.,52,pp237〜68(2000); Ferrara,N.,“VEGF:an Update on Biological and Therapeutic Aspects,” Curr.Opin.Biotechnol.,11,pp617〜24(2000); Kwabi−Addo,B.,Ozen,M.,and Ittmann,M.,“The Role of Fibroblast Growth Factors and their Receptors in Prostate ancer,”Endocr.Relat.Cancer,11,pp709〜24(2004);およびGowardhan,B.,Douglas,D.A.,Mathers,M.E.ほか、“Evaluation of the Fibroblast Growth Factor System as a Potential Target for Therapy in Human Prostate Cancer,”Br.J.Cancer,92,pp.320〜7(2005)。前立腺ガンの病理発生に線維芽細胞増殖因子(FGF)シグナル伝達の変化が関係しているのではないかと言われている。Ozen,M.Giri,D.Ropiquet,F.,Manskhani,A.,and Ittmann.M.“Role of Fibroblast Growth Factor Receptor Signaling in Prostate Cancer Cell Survival,”J.Natl.Cancer Inst.,93,pp.1783〜90(2001)。前立腺ガンは、多くの症例で骨に転移する傾向があるため、患者が骨格の合併症および/または骨折を起こすリスクが高く、その高いリスクが、前立腺ガン患者の罹病率と死亡率の主要原因をなしている。このように、前立腺ガン治療法および前立腺ガン患者における前立腺ガンの骨への転移を防止する方法が必要とされている。
【0012】
近年、各種インドリル置換化合物が特許文献1、特許文献2および特許文献3に開示され、やはり近年、各種ベンズイミダゾリル化合物が特許文献4に開示されている。開示内容によれば、これらの化合物は、レセプタータイプおよび非レセプターチロシンキナーゼのシグナル伝達を阻害、変調、および/または調節できるという。開示された化合物のいくつかは、インドリル基またはベンズイミダゾリル基に結合したキノロンフラグメントを含んでいる。
【0013】
4−ヒドロキシキノロン誘導体および4−ヒドロキシキノリン誘導体の合成は、多くの文献に開示されており、これらの文書は、参照することにより、ここに完全に記述されたものとして、その全体があらゆる目的のためにここに組み込まれる。例を挙げれば、Ukrainetsらは、3−(ベンズイミダゾール−2−イル)−4−ヒドロキシ−2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリンの合成を開示している。Urainets,Iほか、Tet.Lett.42,7747〜7748(1995); Urainets,Iほか、Khimiya Geterotsiklicheskikh Soedinii,2,239〜241(1992)。Ukarainetsは、別の4−ヒドロキシキノロンおよびそれらのアナローグ、たとえば1H−2−オキソ−3−(2−ベンズイミダゾリル)−4−ヒドロキシキノリンの合成、抗痙攣活性および抗甲状腺活性も開示している。Urainets,Iほか、Khimiya Geterotsiklicheskikh Soedinii,1,105〜108(1993); Urainets,Iほか、Khimiya Geterotsiklicheskikh Soedinii,8,1105〜108(1993); Urainets,Iほか、Chem.Heterocyclic Comp.,33,600〜604(1997)。
【0014】
各種キノリン誘導体の合成が特許文献5に開示されている。これらの化合物は、核ホルモンレセプターに対する結合能力を有するとして、また骨芽細胞の増殖および骨の成長を刺激するために有用であるとして開示されている。これらの化合物は、核ホルモンレセプターファミリーが関係する病気の治療または防止にも有用であるとして開示されている。
【0015】
キノロンのベンゼン環が硫黄基で置換された各種キノリン誘導体が特許文献6に開示されている。これらの化合物は医薬製剤に有用であるとして、また医薬として開示されている。
【0016】
キノロンおよびクマリン誘導体が、医薬および医薬製剤と関係のないさまざまな用途に有用であるとして開示されている。光重合可能な組成物への使用および発光する性質に対する使用に向けられるキノロン誘導体の生成について記載する文献として、Okamotoらに授与された特許文献7;特許文献8;特許文献9;特許文献10;特許文献11;特許文献12および特許文献13を挙げることができ、これらの文書は、参照することにより、ここに完全に記述されたものとして、その全体があらゆる目的のためにここに組み込まれる。
【0017】
血管形成および血管内皮増殖因子レセプターチロシンキナーゼの阻害に、また別のチロシンキナーゼおよびセリン/スレオニンキナーゼの阻害に有用な、たとえば4−アミノ−5−フルオロ−3−[5−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]キノリン−2(1H)−オンまたはその互変異性体のような各種キノリノンベンズイミダゾール化合物が、次に挙げる文書、つまり特許文献14;特許文献15;米国特許出願第10/116,117号(特許文献16として2003年02月06日公告);米国特許出願第10/644,055号(特許文献17として2004年05月13日公告);米国特許出願第10/983,174号;米国特許出願第10/706,328号(特許文献18として2004年11月04日公告);米国特許出願第10/982,757号;米国特許出願第10/982,543号に開示されており、これらの文書は、参照することにより、ここに完全に記述されたものとして、その全体があらゆる目的のためにここに組み込まれる。
【特許文献1】国際公報第01/29025号パンフレット
【特許文献2】国際公報第01/62251号パンフレット
【特許文献3】国際公報第01/62252号パンフレット
【特許文献4】国際公報第01/28993号パンフレット
【特許文献5】国際公報第97/48694号パンフレット
【特許文献6】国際公報第92/18483号パンフレット
【特許文献7】米国特許第5,801,212号明細書
【特許文献8】特開平8−29973号公報
【特許文献9】特開平7−43896号公報
【特許文献10】特開平6−9952号公報
【特許文献11】特開昭63−258903号公報
【特許文献12】欧州特許第797376号明細書
【特許文献13】独国特許発明第23 63 459号明細書
【特許文献14】米国特許第6,605,617号明細書
【特許文献15】米国特許第6,756,383号明細書
【特許文献16】米国特許出願公開第2003/0028018号明細書
【特許文献17】米国特許出願公開第2004/0092535号明細書
【特許文献18】米国特許出願公開第2004/0220196号明細書
【非特許文献1】Folkman,J.Scientific American(1996)275,150〜154
【非特許文献2】Mustonen,Tほか、J.Cell Biology(1995)129,895〜898
【非特許文献3】van der Geer,P.ほか、Ann.Rev.Cell Biol.(1994)10,251〜337
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
近年、腫瘍およびガンの治療方法が進歩したにもかかわらず、新しいガン治療法に対する要求、特に、転移した腫瘍のような転移性のガンの治療に対する新しい方法および組成物に対する要求は、依然として重要である。多発性骨髄腫、急性骨髄性白血病および前立腺ガンに対する治療方法は、なお必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
(発明の要旨)
本発明は転移性のガンおよび特に転移した腫瘍の治療方法を提供する。また、本発明は転移性のガンを治療するための医薬製剤および医薬の使用において、化合物、その互変異性体、その塩およびそれらの混合物の使用を供する。
【0020】
一つの実施態様において、本発明は、ヒトガン患者などの被験体において、転移性のガンを治療する方法を提供する。いくつかの実施形態において、ガンは乳ガン、肝ガン、肺ガン、または前立腺ガンである。別の実施形態において、転移した腫瘍を治療する方法が提供される。別の実施形態において、転移した腫瘍を持つ被験体を治療する方法が提供される。追加的な実施形態は血液学的腫瘍を治療する方法を提供する。別の実施形態は充実性腫瘍を治療する方法を提供する。これらの方法は、有効量の構造Iの化合物、該化合物の互変異性体、該化合物の医薬的に許容される塩、該互変異性体の医薬的に許容される塩、またはそれらの混合物を被験体に投与する工程を含む。構造式Iは次式で表される:
【0021】
【化7】

(式中、
Aは次の構造の一つを有する基である:
【0022】
【化8】

(式中、
は、Hまたは、1ないし6個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖アルキル基から選択される)。
【0023】
本発明の方法のさまざまな実施形態において、投与したあとで(被験体の)ガンまたは転移した腫瘍の増殖を阻害される。
【0024】
いくつかの実施形態において、Rはメチル基であり、構造Iの化合物は構造IAを有する。
【0025】
【化9】

いくつかの実施形態において、Rは水素であり、構造Iの化合物は構造IBを有する。
【0026】
【化10】

いくつかの実施形態において、Rはメチル基であり、構造Iの化合物は構造ICを有する。
【0027】
【化11】

別の実施形態は、転移した腫瘍を持つ被験体を治療する方法を提供し、その方法は、転移した腫瘍に構造IA、IBまたはICを接触させることを含む。
【0028】
いくつかの実施形態において、化合物は全身投与される。特に構造Iの化合物が経口投与または静脈内投与される。
【0029】
いくつかの実施形態において、第二の物質が被験体に投与される。特に、第二の物質は骨粗鬆症を治療するための物質であり、たとえばビスホスホネートである。別の実施形態において、第二の物質は抗ガン剤である。
【0030】
いくつかの実施形態において、化合物は構造I、IA、IB、またはICの化合物であり、化合物の乳酸塩または互変異性体が被験体に投与される。
【0031】
いくつかの実施形態において、腫瘍は多発性骨髄腫であり、被験体はt(4;14)染色体が転座した多発性骨髄腫患者である。特に、腫瘍は血液学的腫瘍である。
【0032】
いくつかの実施形態において、腫瘍は多発性骨髄腫であり、被験体は多発性骨髄腫の患者であり、多発性骨髄腫は線維芽細胞増殖因子レセプター3を発現する。
【0033】
いくつかの実施形態において、腫瘍は多発性骨髄腫であり、被験体は多発性骨髄腫の患者であり、多発性骨髄腫は患者の骨、たとえば骨髄に転移している。
【0034】
いくつかの実施形態において、腫瘍は多発性骨髄腫であり、被験体は多発性骨髄腫の患者であり、患者はヒトである。
【0035】
いくつかの実施形態において、腫瘍は急性骨髄性白血病(AML)であり、被験体は急性骨髄性白血病の患者である。いくつかのそのような実施形態において、被験体は哺乳動物であり、いくつかの実施形態においてそれはヒトであり、別の実施形態においてそれはイヌまたはネコである。
【0036】
いくつかの実施形態において、腫瘍またはガンは肝ガン、肺ガン、または乳ガンから選択される。
【0037】
いくつかの実施形態において、腫瘍は前立腺ガンであり、被験体は前立腺ガンの患者であり、前立腺ガンは患者の骨に転移している。
【0038】
いくつかの実施形態において、腫瘍は前立腺ガンであり、被験体は前立腺ガンの患者であり、患者はヒトである。
【0039】
一つの実施態様において、本発明は、本発明の方法の、いずれかの実施形態の、いずれかに使用するための医薬または医薬製剤の製造における、構造I、IA、IB、および/またはICの化合物、該化合物の互変異性体、該化合物の医薬的に許容される塩、該互変異性体の医薬的に許容される塩、またはそれらの混合物の使用を提供する。
【0040】
別の一つの実施態様において、本発明は、構造I、IA、IB、および/またはICの化合物、該化合物の互変異性体、該化合物の医薬的に許容される塩、該互変異性体の医薬的に許容される塩、またはそれらの混合物を入れた容器を含むキットを提供する。そのキットは転移したガンまたは腫瘍の治療に使用するための別の一つの化合物を含んでもよい。キットは、さらに、本発明の方法のいずれかを実施するための指示が書かれた使用説明書を含んでもよい。いくつかの実施形態において、書かれた使用説明書は、キットの容器とは別個の紙の文書として含まれてもよく、それに対して、別の実施形態において、書かれた文書は、キットの容器に貼り付けられるラベルに書かれてもよい。
【0041】
本発明のさらなる目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明および図面から明らかになろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
(発明の詳細な説明)
本発明は転移したガン、特に、転移した腫瘍、たとえば転移した多発性骨髄腫および転移した前立腺ガンなどの治療方法を提供する。さらに本発明は、化合物、互変異性体、塩およびそれらの混合物を、転移したガン、特に充実性腫瘍または血液学的な腫瘍を治療するための医薬または医薬製剤の製造に使用することを提供する。
【0043】
本出願明細書には全体にわたって次の略字および定義が使用される:
“AML”は急性骨髄性白血病を表す略字である。
【0044】
“ALS”は筋萎縮性側索硬化症を表す略字である。
【0045】
“AD” はアルツハイマー病を表す略字である。
【0046】
“APP” はアミロイド前駆体タンパク質を表す略字である。
【0047】
“ASCT” は自己幹細胞移植を表す略字である。
【0048】
“BM” は骨髄を表す略字である。
【0049】
“bFGF” はベーシック線維芽細胞増殖因子を表す略字である。
【0050】
“FGFR1” は、線維芽細胞増殖因子FGFと相互作用するチロシンキナーゼを表す略字であり、bFGFRとも呼ばれる。
【0051】
“Cdc2” は細胞分裂サイクル2を表す略字である。
【0052】
“Cdk2” はサイクリン依存性キナーゼ2を表す略字である。
【0053】
“Cdk4” はサイクリン依存性キナーゼ4を表す略字である。
【0054】
“Chk1” はチェックポイントキナーゼ1を表す略字である。
【0055】
“CK1ε” はカゼインキナーゼ1(エプシロン)を表す略字である。
【0056】
“cABL” は最初、アベルソン白血病ウイルスから分離された腫瘍発生産生物を表すチロシンキナーゼの略字である。
【0057】
“C−Kit” は幹細胞因子レセプターまたはマスト細胞増殖因子レセプターとしても知られる。
【0058】
“FGF” はFGFR1と相互作用する線維芽細胞増殖因子を表す略字である。
【0059】
“FGFR3” は骨髄腫タイプのガンにしばしば発現されるチロシンキナーゼ線維芽細胞増殖因子レセプター3を表す略字である。
【0060】
“Flk−1” は胎児肝臓チロシンキナーゼ1を表す略字であり、キナーゼ挿入ドメインチロシンキナーゼあるいはKDR(ヒト)でも知られ、さらに血管内皮増殖因子レセプター2またはVEGFR2(KDR(ヒト)、Flk―1(マウス))の名称でも知られている。
【0061】
“FLT−1” はfms様チロシンキナーゼ−1を表す略字であり、血管内皮増殖因子レセプター1またはVEGFR1の名称でも知られている。
【0062】
“FLT−3” はfms様チロシンキナーゼ−3を表す略字であり、幹細胞チロシンキナーゼ1(STK1)の名称でも知られている。
【0063】
“FLT−4” はfms様チロシンキナーゼ−4を表す略字であり、VEGFR3でも知られている。
【0064】
“Fyn” はSRC、FGR、YESと関連するFYN腫瘍遺伝子キナーゼを表す略字である。
【0065】
“GSK−3” はグリコーゲン合成酵素キナーゼ3を表す略字である。
【0066】
“PAR−1” は乱れた会合キナーゼとしても知られるキナーゼを表す略字で、HDAKとも呼ばれる。
【0067】
“Lck” はリンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼを表す略字である。
【0068】
“MEK1” はRat−MEK1−ERKの、形成されたモジュールのMAPK(分裂促進因子によって活性化されるタンパク質キナーゼ)シグナル伝達経路におけるセリンスレオニンキナーゼを表す略字である。MEK1はERK(細胞外調節キナーゼ)をリン酸化する。
【0069】
“MM” は多発性骨髄腫を表す略字である。
【0070】
“NEK−2” はNIM−A関連キナーゼを表す略字である。
【0071】
“NIM−A” は有糸分裂をしないことを表す略字である。
【0072】
“PDGF” は血小板由来増殖因子を表す略字である。PDGFはチロシンキナーゼPDGFRαおよびPDGFRβと相互作用する。
【0073】
“Rsk2” はリボソームS6キナーゼ2を表す略字である。
【0074】
“Raf”はMAPKシグナル伝達経路におけるセリン/スレオニンキナーゼである。
【0075】
“RTK”はレセプターチロシンキナーゼを表す略字である。
【0076】
“Tie−2” はIgおよびEGF相同ドメインを持つチロシンキナーゼを表す略字である。
【0077】
“VEGF” は血管内皮増殖因子を表す略字である。
【0078】
“VEGF−RTK” は血管内皮増殖因子レセプターチロシンキナーゼを表す略字である。
【0079】
「転移」という用語は、腫瘍部位から身体の別の部位へガン細胞が広がることを指す。ガン細胞は、一般にリンパ系または血流を介して全身に広がる。
【0080】
転移した腫瘍の増殖阻害とは、腫瘍の増殖を直接的に阻害すること、および/または腫瘍に由来するガン細胞を全身的に阻害することを指す。
【0081】
一般に、ある元素、たとえば水素またはHについて言及した場合、それはその元素のすべての同位体を包含することを意味する。たとえば、構造Iの化合物のある一つの基が削除される場合、あるいはHで表される場合、それは水素またはH、デュートリウムおよびトリチウムを含むものと定義される。
【0082】
「1ないし6個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖アルキル基」という表現は、ヘテロ原子を含まず、かつ1ないし6個の炭素原子を含むアルキル基を意味する。それゆえ、この表現にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などの直鎖アルキル基が包含される。さらに、この表現には直鎖アルキル基の分枝鎖異性体も含まれ、例として次のような基を挙げることができるが、もちろんこれらに限定されるものではない: −CH(CH、−CH(CH)(CHCH)、−CH(CHCH、−C(CH、−CHCH(CH、−CHCH(CH)(CHCH)、−CHCH(CHCH、−CHC(CH、−CH(CH)CH(CH)(CHCH)、−CHCHCH(CH、−CHCHCH(CH)(CHCH)、−CHCHC(CH、−CH(CH)CHCH(CHなど。いくつかの実施形態において、アルキル基は、1ないし6個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖アルキル基を包含する。別の実施形態において、アルキル基は1ないし4個の炭素原子を有する。さらに別の実施形態において、アルキル基は、1ないし2個の炭素原子を有する直鎖アルキル基(メチル基またはエチル基)である。さらに別の実施形態において、アルキル基はただ1個の炭素原子を有していて、メチル基(−CH)である。
【0083】
「医薬的に許容される塩」という表現は、無機塩基、有機塩基、無機酸、有機酸、塩基性アミノ酸、または酸性アミノ酸との塩を含む。無機塩基の塩の例として、本発明は、たとえばアルカリ金属、たとえばナトリウムまたはカリウム、アルカリ土類金属、たとえばカルシウムおよびマグネシウムまたはアルミニウム、およびアンモニアを含む。有機塩基の塩として、本発明は、たとえばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、およびトリエタノールアミンを含む。無機酸として、本発明は、たとえば塩酸、ヒドロホウ酸(hydroboric acid)、硝酸、硫酸、およびリン酸を含む。有機酸として、本発明は、たとえばギ散、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、乳酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸およびp−トルエンスルホン酸を含む。塩基性アミノ酸として、本発明は、たとえばアルギニン、リシンおよびオルニチンを含む。酸性アミノ酸として、本発明は、たとえばアスパラギン酸およびグルタミン酸を含む。
【0084】
一つの実施態様において、本発明は被験体、たとえばヒトガン患者の転移したガンを治療する方法を提供する。いくつかの実施形態において、ガンは乳ガン、肝ガン、肺ガンまたは前立腺ガンである。別の実施形態において、転移した腫瘍を治療する方法が提供される。別の実施形態において、転移した腫瘍を持つ被験体を治療する方法が提供される。追加的な実施形態は、血液学的腫瘍を治療する方法を提供する。別の実施形態は、充実性腫瘍を治療する方法を提供する。これらの方法は、有効量の構造Iの化合物、該化合物の互変異性体、該化合物の医薬的に許容される塩、該互変異性体の医薬的に許容される塩、またはそれらの混合物を、投与する必要がある被験体に投与する工程を含む。構造Iは次式を有する:
【0085】
【化12】

式中、
Aは、次の構造の一つを有する:
【0086】
【化13】

式中、
は、Hまたは1ないし6個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖アルキル基から選択され、そして
さまざまな実施形態において、ガンまたは転移した腫瘍の増殖が、構造Iの化合物、該化合物の互変異性体、該化合物の医薬的に許容される塩、該互変異性体の医薬的に許容される塩、またはそれらの混合物を投与したあとで阻害される。
【0087】
いくつかの実施形態において、Rはメチル基であり、構造Iの化合物は構造IAを有する。
【0088】
【化14】

いくつかの実施形態において、Rは水素であり、構造Iの化合物は構造IBを有する。
【0089】
【化15】

いくつかの実施形態において、Rはメチル基であり、構造Iの化合物は構造ICを有する。
【0090】
【化16】

別の実施形態は、転移した腫瘍を持つ被験体を治療する方法を提供し、その方法は、転移した腫瘍に構造IA、IBまたはICを接触させることを含む。
【0091】
いくつかの実施形態において、化合物は全身投与される。特に構造Iの化合物が経口投与または静脈内投与される。
【0092】
いくつかの実施形態において、第二の物質が被験体に投与される。特に、第二の物質は骨粗鬆症を治療するための物質であり、たとえばビスホスホネートである。別の実施形態において、第二の物質は抗ガン剤である。
【0093】
いくつかの実施形態において、化合物は構造I、IA、IB、またはICの化合物であり、化合物の乳酸塩または互変異性体が被験体に投与される。
【0094】
いくつかの実施形態において、被験体の生存率が、構造Iの化合物、該化合物の互変異性体、該化合物の医薬的に許容される塩、該互変異性体の医薬的に許容される塩、またはそれらの混合物を投与したあとで、引き延ばされる。
【0095】
本発明によれば、転移したさまざまな腫瘍を治療することが可能である。血液学的な腫瘍およびガンの例として、急性骨髄性白血病、多発性骨髄腫などが挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。いくつかの実施形態において、腫瘍は多発性骨髄腫であり、被験体は、t(4;14)染色体が転座した多発性骨髄腫の患者である。
【0096】
いくつかの実施形態において、腫瘍は多発性骨髄腫であり、被験体は多発性骨髄腫の患者であり、そして多発性骨髄腫は線維芽細胞増殖因子レセプター3を発現する。
【0097】
いくつかの実施形態において、腫瘍は多発性骨髄腫であり、被験体は多発性骨髄腫の患者であり、そして多発性骨髄腫は患者の骨、たとえば骨髄に転移している。本発明の化合物は骨に集中するため、転移した血液学的腫瘍の治療に特に有用であり、かつ有効である。
【0098】
いくつかの実施形態において、腫瘍は充実性腫瘍である。別の実施形態において、患者は乳ガン、肝ガン、肺ガンまたは前立腺ガンに罹っている。それゆえ、いくつかの実施形態において、ガンまたは腫瘍は乳ガンである。別の実施形態において、ガンまたは腫瘍は肝ガンである。さらに別の実施形態において、ガンまたは腫瘍は肺ガンである。さらに別の実施形態において、ガンまたは腫瘍は前立腺ガンである。別の実施形態において、患者は胃ガン、子宮内膜ガン、唾液腺ガン、副腎ガン、非小細胞肺ガン、膵臓ガン、腎臓ガン、卵巣ガン、腹膜ガン、前立腺ガン、頭部および頸部ガン、膀胱ガン、結腸直腸ガン、またはグリア芽細胞腫に罹っている。本明細書に記載する方法はこのような任意のガンの治療にも有用である。特に、これらの方法は骨に転移したガン、たとえば患者の骨に転移した前立腺ガンの治療などに有用である。
【0099】
いくつかの実施形態において、本発明は骨に転移したガン患者の治療方法を提供する。このようなガンは血液学的腫瘍か、あるいは充実性腫瘍でもよい。いくつかの実施形態において、ガンは多発性骨髄腫であり、別の実施形態において、前立腺ガンである。
【0100】
いくつかの実施形態において、腫瘍は多発性骨髄腫であり、被験体は多発性骨髄腫の患者であり、そして患者はヒトである。
【0101】
いくつかの実施形態において、腫瘍は急性骨髄性白血病(AML)であり、被験体は急性骨髄性白血病の患者である。いくつかの実施形態において、被験体は哺乳動物であり、いくつかの実施形態において、その哺乳動物はヒトであり、別の実施形態において、その哺乳動物はイヌまたはネコである。
【0102】
いくつかの実施形態において、腫瘍は前立腺ガンであり、被験体は前立腺ガン患者であり、そして前立腺ガンは患者の骨に転移している。
【0103】
いくつかの実施形態において、腫瘍は前立腺ガンであり、被験体は前立腺ガン患者であり、そして患者はヒトである。
【0104】
一つの実施態様において、本発明は、構造I、IA、IB、および/またはICの化合物、該化合物の互変異性体、該化合物の医薬的に許容される塩、該互変異性体の医薬的に許容される塩、またはそれらの混合物を、本発明の方法のいずれかの、実施形態のいずれかに使用するための医薬または医薬製剤の製造に使用することを提供する。
【0105】
別の一つの実施態様において、本発明は構造I、IA、IB、および/またはICの化合物、該化合物の互変異性体、該化合物の医薬的に許容される塩、該互変異性体の医薬的に許容される塩、またはそれらの混合物を入れた容器を含むキットを提供する。そのキットは転移したガンまたは腫瘍の治療に使用するための、別の一つの化合物を含んでもよい。キットは、さらに、本発明の方法のいずれかを実施するための指示が書かれた使用説明書を含んでもよい。いくつかの実施形態において、書かれた使用説明書は、キットの容器とは別個の紙の文書として含まれてもよく、それに対して、別の実施形態において、書かれた文書は、キットの容器に貼り付けられるラベルに書かれてもよい。
【0106】
構造Iの化合物は、下記「実施例」の章に記載する手順および下記の文書に開示された手順を使って容易に合成される。次に挙げる文書は、参照することにより、ここに完全に記述されたものとして、その全体があらゆる目的のためにここに組み込まれる: 米国特許第6,605,617号,米国特許出願第2004/0092535号として公告; 米国特許出願第10/983,174号,米国特許出願第2004/0220196号として公告; 米国特許出願第10/982,757号;および米国特許出願第10/982、543号。
【0107】
本明細書に記載する目的のために使用することが可能であり、そして本明細書に記載するさまざまな生物学的状態を治療するために使用することが可能な医薬を製造するために、構造Iの化合物、該化合物の互変異性体、該化合物の医薬的に許容される塩、該互変異性体の医薬的に許容される塩、またはそれらの混合物を使用することができる。
【0108】
医薬製剤は、上記実施形態のいずれかに記載する化合物、互変異性体、または塩のいずれかを、本明細書に記載するような医薬的に許容される担体と組み合わせた形で、含むことができる。
【0109】
さらに、本発明は、本発明の一つ以上の化合物、またはその医薬的に許容される塩、互変異性体、またはそれらの混合物と、医薬的に許容される担体、賦形剤、バインダー、希釈剤などとを混合することにより製造可能な、転移した腫瘍に関係する障害を治療または改善するための組成物も提供する。本発明の組成物は、本明細書に記載する転移した腫瘍を治療するために使用される製剤の製造に使用できる。このような製剤は、たとえば、顆粒、粉末、錠剤、カプセル、シロップ、坐薬、注射液、乳剤、エリキシル剤、懸濁液または溶液の形が可能である。本組成物はさまざまな投与経路、たとえば、経口投与、鼻腔内投与、直腸投与、皮下注射、静脈注射、筋肉注射、または腹腔内注射などに合わせて製剤化することができる。下記の剤型を例に挙げて説明するが、もちろんこれによって本発明が制限されるものではない。
【0110】
口腔、頬部および舌下への投与には、粉末、懸濁液、顆粒、錠剤、ピル、カプセル、ゲルキャップ、およびキャップレットが、固体剤型として許容される。これらの剤型はたとえば、一つ以上の本発明の化合物、医薬的に許容される塩、互変異性体、またはそれらの混合物を、少なくとも一つの添加物、たとえばデンプンなどと混合して作ることができる。好適な添加物はショ糖、乳糖、セルロース糖、マンニトール、マルチトール、デキストラン、デンプン、寒天、アルギネート、キチン、キトサン、ペクチン、トラガカントガム、アラビアゴム、ゼラチン、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、合成ポリマーまたは半合成ポリマーまたはグリセリドである。経口剤型には、投与しやすくするため、たとえば不活性希釈剤や、ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、パラベンやソルビン酸などの保存剤、アスコルビン酸、トコフェロール、システインなどの酸化剤のほか、さらに崩壊剤、バインダー、増粘剤、緩衝剤、甘味料、風味料、あるいは香料など、上記以外の成分を任意選択的に含めることができる。錠剤およびピルは、さらに、適当な既存の被覆物質で処理することができる。
【0111】
経口投与のための液体剤型は、医薬的に許容されるエマルション、シロップ、エリキシル剤、懸濁液、および溶液の形が可能であり、これらの液剤には水などの不活性希釈剤を含めることができる。医薬製剤および医薬は、滅菌液を使って液体懸濁液や溶液の形で製造することができ、その場合、滅菌液にはたとえば油、水、アルコールおよびこれらの組み合わせを使用できるが、これらに限定されるものではない。経口または非経口投与には、医薬的に好適な界面活性剤、懸濁剤、乳化剤を加えることができる。
【0112】
上で触れたたように懸濁液には油を加えることができる。そのような油として、たとえば落花生油、ゴマ油、綿実油、コーン油、オリーブ油を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。懸濁製剤には脂肪酸エステル、たとえばオレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、脂肪酸グリセリドおよびアセチル化脂肪酸グリセリドなどを含めることができる。懸濁液製剤は、アルコール、たとえば、エタノール、イソプロピルアルコール、ヘキサデシルアルコール、グリセロールおよびプロピレングリコールを含むことができるが、これらに限定されるものではない。懸濁製剤には、限定されるものではないがポリ(エチレングリコール)のようなエーテル、そして鉱油およびワセリンなどの石油系炭化水素および水も使用できる。
【0113】
鼻腔投与の場合、医薬製剤および医薬は、適当な溶媒および、任意選択的にその他の化合物、たとえば、限定されるものではないが安定剤、抗菌剤、抗酸化剤、pH調整剤、界面活性剤、バイオアベイラビリティ改善剤、およびそれらの組み合わせを含むスプレーまたはエアロゾルが可能である。エアロゾル製剤用噴射剤としては、圧縮空気、窒素、二酸化炭素、または炭化水素系低沸点溶媒が使用可能である。
【0114】
注射液剤型には、一般に、適当な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を使って調製可能な水性懸濁液または油性懸濁液が含まれる。注射液剤型は、溶媒または希釈剤を使って調製される溶液相か懸濁液の形が可能である。許容される溶媒または媒質は、滅菌水、リンゲル液または生理食塩水などである。あるいは、溶媒または懸濁剤として滅菌油も使用できる。使用される油または脂肪酸は、好ましくは不揮発性天然油または合成油、脂肪酸、モノ、ジまたはトリグリセリドである。
【0115】
注射用医薬製剤および/または医薬は、上に記載した適当な溶液で再溶解するのに適した粉末とすることも可能である。このような例を挙げれば、凍結乾燥粉末、回転式蒸発器でえられた乾燥粉末またはスプレイドライ粉末、非結晶粉末、顆粒、沈殿物または粒子などであるが、これらに限定されるものではない。注射用製剤は、任意選択的に安定剤、pH調整剤、界面活性剤、バイオアベイラビリティ改善剤およびこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0116】
直腸投与用の医薬製剤および医薬は、腸、S状結腸曲および/または結腸で化合物を放出する坐薬、軟膏、浣腸剤、錠剤またはクリームの形が可能である。直腸に投与する坐薬は、一つ以上の本発明の化合物、または化合物の医薬的に許容される塩もしくは互変異性体を、許容される賦形剤、たとえば普通の保存温度では固相で存在し、体内、たとえば直腸で薬物を放出するに適する温度では液相で存在するココアバターまたはポリエチレングリコールと混合することによって製造することができる。油も軟質ゼラチンタイプの製剤および坐薬の製造に使用できる。懸濁製剤の製造には水、食塩水、デキストロース水溶液とその関連糖液およびグリセロールが使用でき、懸濁製剤は、懸濁剤、たとえばペクチン、カルボマー、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースまたはカルボキシメチルセルロースのほか、緩衝剤および保存剤も含むことができる。
【0117】
上に記載した代表的な剤型以外に、医薬的に許容される賦形剤および担体は当業者に広く知られており、それゆえ本発明に包含される。このような賦形剤および担体は、たとえば“Remingtons Pharmaceutical Sciences”Mack Pub.Co.,New Jersey(1991)に記載されている。この文献は、参照することにより、ここに完全に記述されたものとして、その全体があらゆる目的のためにここに組み込まれる。
【0118】
本発明の製剤は、以下で述べるように、短時間作用、迅速放出、長時間作用および持続的放出するように設計することが可能である。すなわち、医薬製剤を、放出を制御したり、ゆっくり放出されるように製剤化することもできる。
【0119】
本組成物は、たとえばミセル、リポソーム、あるいは何か別のカプセル化した剤型を包含することもできるし、あるいは長時間貯蔵および/または送達効果を賦与するため、長時間にわたって放出する形で投与する工程もできる。それゆえ、医薬製剤および医薬はペレットまたは円柱状に加圧成型し、デポ注射剤として、あるいはステントのようなインプラントとして筋肉内または皮下に埋め込むこともできる。このようなインプラントは、既知の不活性材料、たとえばシリコーンポリマーや生分解性ポリマーを使用できる。
【0120】
比投与量は、被験体の病気の状態、年齢、体重、全身的な健康状態、性別、およびダイエット、投与の間隔、投与経路、排出速度、および使用薬物の組み合わせによって調節可能である。有効量を含む上記剤型は、いずれもルーチン実験の範囲内に入るため、本発明の範囲内にある。
【0121】
治療的に効果的な用量は投与経路および剤型によって変化する可能性がある。本発明の好ましい化合物は高い治療指数を示す製剤である。治療指数というのは毒性効果と治療効果の間の用量比であり、LD50とED50の間の比で表すことができる。LD50は集合の50%が死亡する量を意味し、ED50は集合の50%に対して治療的に有効な量を指す。LD50とED50は、標準的薬物学的手順に従い、動物細胞培地または実験動物を使って決定される。
【0122】
本発明で言う「治療する(treating)」という表現は、障害または病気に付随する症状を緩和すること、またはそれらの症状がさらに進行または悪化するのを阻止すること、または病気または障害を防止または予防することを意味する。たとえば、患者の転移した腫瘍を治療するという文脈の範囲内で、成功した治療(successful treatment)とは、腫瘍または病気組織に栄養補給をする毛細血管の増殖の低下、ガンの増殖または腫瘍、毛細血管または病気組織の増殖に関連する症状の緩和、毛細血管の増殖の阻止、またはガンなどの病気の進行、またはガン細胞の増殖の阻止を含む。治療は本発明の医薬製剤の投与と他の治療法の組み合わせも含むことができる。たとえば、本発明の化合物および医薬製剤は、外科手術および/または放射線治療の前に、これらの治療法と並行して、あるいはこれらの治療のあとに投与する工程ができる。本発明の化合物は、アンチセンスおよび遺伝子治療法で使用されるものを含む別の抗ガン剤と組み合わせて投与する工程も可能である。適当な組み合わせは、腫瘍学およびガン医薬分野の当業者によって決定可能である。
【0123】
本発明による医薬製剤および医薬は、構造Iの化合物またはその互変異性体、それらの塩またはそれらの混合物を医薬的に許容される担体と組み合わせた形で包含する。かくして、本発明の化合物は医薬および医薬製剤の製造に使用でき、このようにして製造された医薬および医薬製剤は本明細書に記載する治療方法に使用できる。
【0124】
本発明の医薬製剤および医薬は、カンプトテシン、ドキソルビシン、シスプラチン、イリノテカン(CPT−11)、アルキル化剤、トポイソメラーゼIおよびIIインヒビター、および放射線治療などの抗ガン剤と併用すると、相乗効果を示すことが明らかにされており、特に、併用療法の使用に適している。それゆえ、本発明は、抗ガン剤と併用する形で、構造Iの化合物および互変異性体、それらの塩および/またはそれらの混合物を含む医薬製剤を提供する。さらに本発明は、このような製剤および医薬の創出に化合物、互変異性体、塩、および/または混合物の使用を提供する。
【0125】
別の一つの実施態様において、本発明は、本発明の化合物と抗ガン剤とを併用投与して転移したガンを治療する方法を提供する。その方法は、それを必要とする被験体に、メシル酸イマチニブ(グリベック)、BAY 43−9006、ブロスタリシン、レナリドマイド(レブリミド)、サリドマイド(サロミド)、ドセタキセル(タキソテール)、エルロチニブ(タルセバ)、バタリニブ(PTK−787)、VEGF−トラップ、fenretidine、ボルテゾミブ、ベバシズマブ(アバスチン)、ペルツズマブ、および/またはリツキシマブから選択された抗ガン剤および本発明の化合物、化合物の互変異性体、化合物の塩、互変異性体の塩、それらの混合物、または、化合物、互変異性体、化合物の塩、互変異性体の塩、または混合物を含む医薬製剤を投与する工程を含む。
【0126】
本発明の化合物はさまざまな被験体の治療に使用できる。好適な被験体には哺乳動物およびヒトが含まれる。好適な哺乳動物には、キツネザル、類人猿、およびサルなどの霊長類;ラット、マウスおよびモルモットなどの齧歯類;家ウサギ、野ウサギ;ウシ;ウマ;ブタ;ヤギ;ヒツジ;有袋類;およびネコ科、イヌ科およびクマ科などの肉食動物が含まれるが、これらに限定されるものではない。いくつかの実施形態において、被験体または患者はヒトである。別の実施形態において、被験体または患者はマウスまたはラットなどの齧歯類である。いくつかの実施形態において、被験体または患者はヒト以外の動物であり、いくつかの実施形態において、被験体または患者はヒト以外の哺乳動物である。
【0127】
本発明に使用される化合物が互変異性現象を示すことを理解しなければならない。本明細書の中で言及される化学構造は、可能な互変異性体の一つしか表すことができないため、本発明は、描かれた構造のいかなる互変異性体をも包含していることを理解しなければならない。たとえば、構造IAは以下に一つの互変異性体、すなわち互変異性体1aで示されている:
【0128】
【化17】

構造IAの別の互変異性体、すなわち互変異性体Ibおよび互変異性体Icは以下に示されている。
【0129】
【化18】

このように包括的に記述された本発明は、図解によって示される以下の実施例を参照することによってさらに容易に理解できよう。そしてこれらの実施例は、本発明の理解を助けるためのものであって、これによって本発明が制限されるものではない。
【実施例】
【0130】
本明細書で一貫して使用される化学用語に関する略字は以下のとおりである:
ATP: アデノシントリホスフェート
Boc: N−tert−ブトキシカルボニル
BSA: ウシ血漿アルブミン
DMSO: ジメチルスルホキシド
DTT: DL−ジチオスレイトール
ED50: 集団の50%に対して治療的に有効な用量
EDTA: エチレンジアミン四酢酸
EtOH: エタノール
HPLC: 高速液体クロマトグラフィ
IC50値: 測定された活性を50%低下させるインヒビター濃度
KHMDS: カリウム=ビス(トリメチルシリル)アミド
LC/MS: 液体クロマトグラフィ/質量分析
THF: テトラヒドロフラン。
【0131】
(化合物の精製および確認)
本発明の化合物は2690 Separation Moduleを装着したWaters Milleniumクロマトグラフィシステム(Millford,Masachusets)を使った高速液体クロマトグラフィ(HPLC)によって確認した。分析カラムにはAlltech(Deerfield, Illinois)から入手したAlltima C−18逆相カラム、4.6×250 mmを使用した。溶離にはグラジエント溶離法を使用した。使用した代表的な溶離は、プログラムによって、5%アセトニトリル/95%水から100%アセトニトリルまで40分間で変化させた。すべての溶媒にはトリフルオロ酢酸(TFA)を0.1%含量となるように添加した。化合物は、220nmまたは254nmにおける紫外線(UV)の吸収により検出した。HPLC用溶媒はBurdick and Jackson社(Muskegan,Michigan)またはFisher Scientific社(Pittsburg,Pennsylvania)から入手した。いくつかの例において、純度は、たとえばBaker−Flex Silica Gel 1B2−Fフレキシブルシートのような、シリカゲルガラスプレートまたはプラスチックシートを使った薄層クロマトグラフィ(TLC)によって検定した。TLCの結果は、紫外線を照射するか、あるいはよく知られたヨウ素蒸気およびその他の各種発色方法によって、容易に肉眼で検出された。
【0132】
質量分光分析は2種類のLCMS装置のうちの一つで行った:Waters社製System(Alliance HT HPLC+Micromass ZQ質量分析装置; カラム:Eclipse XDB−C18,21×50mm; 溶媒系:0.05%TFA添加5〜95%アセトニトリル/水;流速0.8mL/分; 分子量範囲150〜850; コーン電圧20V; カラム温度40℃)またはHewlett Packard社製System(Series 1100 HPLC: カラム:Eclipse XDB−C18,2.1×50mm; 溶媒系:0.05%TFA添加1〜95%アセトニトリル/水; 流速0.4mL/分; 分子量範囲150〜850; コーン電圧50V;カラム温度30℃)。すべての質量はプロトン化した親イオンとして報告する。
【0133】
GCMS分析はHewlett Packard分析装置(HP6890 Seriesガスクロマトグラフ+Mass Selectine Detector 5973; 注入量:1μL; 初期カラム温度:50℃; 最終カラム温度:250℃; ランプ時間:20分; ガス流量:1mL/分; カラム:5%フェニルメチルシロキサン#HP 190915−443,カラムサイズ:30.0m×25μm×0.25μm)で行った。
【0134】
分取スケールの分離は、Flash 40クロマトグラフィシステム+KP−Sil,60A(Biotage,Charlottesville,Virginia)か、C−18逆相カラムを使ったHPLCの、どちらかで行った。Flash 40 Biotageシステムには、主な溶媒としてジクロロメタン、メタノール、酢酸エチル、ヘキサンおよびトリエチルアミンを使用した。逆相クロマトグラフィには、濃度を変化させたアセトニトリル−水にトリフルオロ酢酸を0.1%添加したものを使用した。
【0135】
4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペリジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンの合成
【0136】
【化19】

A.5−(4−メチルピペリジン−1−イル)−2−ニトロアニリンの合成
方法A
【0137】
【化20】

冷却器を備えた2000mLフラスコに、5−クロロ−2−ニトロアニリン(500g,2.898mol)および1−メチルピペラジン(871g,8.693mol)を入れ、窒素ガスでフラスコ内部を置換した。100℃に加熱した油浴にフラスコを入れ、HPLCで確認しながら5−ニトロ−2−ニトロアニリンが完全に反応するまで(通常一晩)加熱した。5−ニトロ−2−ニトロアニリンが完全に消えたことをHPLCで確認したのち、機械的に攪拌しながら、反応混合物を直接(まだ温かい間に)室温の水2500mLに注入した。室温になるまで生成した混合物を攪拌し、それから濾過した。得られた黄色固体を1000mLの水に加えて30分間攪拌した。生成した混合物を濾過し、得られた固体をTBME(500mL,2回)で洗浄し、それから固体をゴム製ダムを使って1時間真空乾燥した。得られた固体を乾燥トレイに移し、重さが変わらなくなるまで、真空乾燥器内で、50℃で乾燥し、標題化合物670g(97.8%)の黄色粉末を得た。
【0138】
方法B
オーバーヘッド(電動)攪拌機、冷却器、ガス導入管、滴下漏斗および温度プローブを備えた500mL4つ口丸底フラスコに、5−クロロ−2−ニトロアニリン(308.2g,1.79mol)を加えた。フラスコ内に窒素ガスを導入したのち、攪拌しながら1−メチルピペラジン(758.1g、840mL、7.57mol)および200proofエタノール(506mL)を反応フラスコに加えた。再びフラスコを窒素ガスで置換し、反応を窒素下に維持した。フラスコを内部の温度が97℃(±5℃)になるまで加熱マントルで加熱し、反応が終了したことをHPLCで確認するまで(通常約40時間)この温度に維持した。反応が終了したら加熱をやめ、内部の温度が約20〜25℃に下がるまで攪拌しながら反応物を冷却し、それから反応物を2〜3時間攪拌した。この間に沈殿が生じなかった場合は、5−(4−メチルピペリジン−1−イル)−2−ニトロアニリンの種結晶(0.20g,0.85mol)を反応混合物に添加した。攪拌しながら約1時間かけて水(2,450mmL)を反応混合物に加えた。この間、内部の温度は約20〜30℃の温度範囲に維持した。水を添加したのち、生成した混合物を20〜30℃の温度で1時間攪拌した。次に、生成した混合物を濾過し、フラスコと濾過ケーキを水(3×2.56L)で洗浄した。黄金色固体生成物を真空乾燥器中、約50℃で、重さが変化しなくなるまで真空乾燥した(416g,98.6%)。
【0139】
方法C
オーバーヘッド攪拌機、冷却器、ガス導入管、滴下漏斗および温度プローブを備えた12L4つ口丸底フラスコに、5−クロロ−2−ニトロアニリン(401g,2.32mol)を加えた。フラスコ内に窒素ガスを導入したのち、攪拌しながら1−メチルピペラジン(977g、1.08L、9.75mol)および100%エタノール(650mL)を反応フラスコに加えた。再びフラスコを窒素ガスで置換し、反応物を窒素下に維持した。フラスコを内部の温度が97℃(±5℃)になるまで加熱マントルで加熱し、反応が終わったことをHPLCで確認するまで(通常約40時間)この温度に維持した。反応が終了したら加熱をやめ、内温が約80℃に下がるまで、攪拌しながら反応物を冷却し、内部温度を82℃(±3℃)に維持しながら、滴下漏斗から水(3.15L)を、混合物に1時間かけて添加した。水の添加が終了したら、加熱をやめ、反応混合物の内部温度が20〜25℃に達するまで、4時間以上の時間をかけて放冷した。反応混合物を、内部温度20〜30℃でさらに1時間攪拌した。生成した混合物を濾過し、フラスコと濾過ケーキを水(1×1L)、50%エタノール(1×1L)および95%エタノール(1×1L)で洗浄した。黄金の固体生成物を乾燥皿に入れ、真空乾燥器中、約50℃で、重さが変化しなくなるまで真空乾燥した(546g,収率99%)。
【0140】
B.[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]酢酸エチルエステルの合成
方法A
【0141】
【化21】

5000mL4つ口フラスコに攪拌機、温度計、冷却器およびガス導入管/排出管を取り付けた。そのフラスコに5−(4−メチルピペラジン−1−イル)−2−ニトロアニリン265.7g(1.12mol、1.0eq)および200proofエタノール2125mLを入れた。生成した溶液に15分間窒素ガスを導入した。次に、5%Pd/C(50%HO w/w)20.0gを加えた。水素ガスを導入しながら、反応混合物を40〜50℃(内部温度)で激しく攪拌した。1時間ごとにHPLCで反応をモニターし、5−(4−メチルピペラジン−1−イル)−2−ニトロアニリンの消失を追跡した。典型的な反応時間は6時間であった。
【0142】
5−(4−メチルピペラジン−1−イル)−2−ニトロアニリンが反応物から完全に消えたのち、溶液に窒素ガスを15分間導入した。次に、3−エトキシ−3−イミノプロパン酸エチル塩酸塩440.0g(2.25mol)を固体として加えた。反応が終了するまで、40〜50℃(内部の温度)で反応物を攪拌した。HPLCでジアミノ化合物の消失を追跡することにより、反応をモニターした。典型的な反応時間は1〜2時間であった。反応が終了したら、反応物を室温まで冷却し、Celite濾過助材の層を通して濾過した。無水エタノール(2×250mL)でCelite濾過助材を洗浄し、濾液を減圧濃縮して粘稠な褐色/橙色油状物を得た。得られた油状物を0.37%HCL溶液850mLに溶解した。次に、固体NaOH(25g)を一度に加えると、沈殿が生成した。生成した混合物を1時間攪拌したのち、濾過した。固体を水(2×400mL)で洗ったのち、真空乾燥機中、50℃で乾燥すると、[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンゾイミダゾール−2−イル]酢酸エチルエステル251.7g(74.1%)が、淡黄色の粉末として得られた。
【0143】
方法B
5000mmLのジャケット付き4つ口フラスコに機械式攪拌機、冷却器、温度プローブ、ガス導入管およびオイルバブラーを取り付けた。そのフラスコに5−(4−メチルピペラジン−1−イル)−2−ニトロアニリン300g(1.27mol)および200proofエタノール2400mL(反応は95%エタノール中で行うことができるかもしれないし実際に行われた。したがって、この反応に200proofエタノールを使用する必要はない)を入れた。生成した溶液を攪拌し、15分間窒素ガスを導入した。次に、5%Pd/C(50%HO w/w)22.7gを反応フラスコに加えた。反応器に窒素ガスを15分間導入した。窒素ガスを導入したのち、反応フラスコに水素ガスをゆっくり、しかし一定の速度で導入して置換した。HPLC分析によって5−(4−メチルピペラジン−1−イル)−2−ニトロアニリンが完全に消費されたことが確認されるまで、45〜55℃(内部の温度)で、水素を導入しながら反応物を攪拌した。典型的な反応時間は6時間であった。
【0144】
反応物からすべての5−(4−メチルピペラジン−1−イル)−2−ニトロアニリンが消えたのち、溶液に窒素ガスを15分間導入した。ジアミン中間体は空気に鋭敏なため、空気にさらされないように注意した。3−エトキシ−3−イミノプロパン酸エチル塩酸塩500g(2.56mol)を反応混合物に約30分かけて添加した。HPLC分析によってジアミンが完全に消費されたことが確認されるまで、反応物を、窒素下、45〜55℃(内部の温度)で攪拌した。典型的な反応時間は約2時間であった。反応が終了したら、暖かい間にCeliteの層を通して反応物を濾過した。反応フラスコおよびCeliteを200proofエタノール(3×285ml)で洗浄した。濾液を5000mLフラスコに入れて一つにし、真空蒸発させてエタノール約3300mLを除去すると、橙色油状物が得られた。得られた油状物に水(530mL)、つづいて1M HCl(350mL)を加え、得られた混合物を攪拌した。生成した溶液を激しく攪拌しながら、これに30%NaOH(200mL)を、内部の温度を約25〜30℃に保ちながら、約20分間で添加し、pHを9〜10にした。内部の温度を約20〜25℃に維持しながら、生成した懸濁液を約4時間攪拌した。得られた混合物を濾過し、濾過ケーキを水(3×300mL)で洗浄した。集めた固体を、重さが一定になるまで真空乾燥器中、50℃で真空乾燥し、[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンゾイミダゾール−2−イル]酢酸エチルエステル345.9g(90.1%)を淡黄色の粉末として得た。もう一つの分離操作法では、濾液を一つに合わせたのち、エタノールを真空下に蒸発させ、少なくとも約90%のエタノールを除去した。得られた油状物に中性のpHで水を加え、それから溶液を約0℃まで冷却した。次に、高速で攪拌しながら20%NaOH水溶液をゆっくり加えて、(pHメーターで見ながら)pHを9.2にした。生成した混合物を濾過し、上記と同様に乾燥した。この分離操作法により淡黄褐色ないし淡黄色生成物が97%の高収率で得られた。
【0145】
[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンゾイミダゾール−2−イル]酢酸エチルエステルの水分含量を減らす方法
上の操作で得られ、約8〜9%の水分含量まで乾燥した[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンゾイミダゾール−2−イル]酢酸エチルエステル(120.7g)を2000mL丸底フラスコに入れ、無水エタノール(500mL)に溶解した。コハク色の溶液を回転式蒸発器で加熱しながら濃縮して溶媒を完全に除去し、粘稠な油状物を得た。この操作をさらに2回くり返した。このようにして得られた粘稠油状物がフラスコに残った状態でそのまま真空乾燥器に入れ、50℃で一晩加熱した。カールフィッシャー水分測定の結果、水含量は5.25%であることがわかった。この方法による低水分含量は、次の実施例において収率の向上をもたらした。この乾燥法に対して、エタノールの代わりにトルエンやTHFなどの別の溶媒を使用することができる。
【0146】
C.4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンの合成
方法A
【0147】
【化22】

冷却器、機械式攪拌機、温度プローブを取り付けた5000mLフラスコ中、THF(3800mL)に[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンゾイミダゾール−2−イル]酢酸エチルエステル(250g,820mmol)(エタノールとともに上記のように乾燥)を溶解し、アルゴンを導入した。2−アミノ−6−フルオロベンゾニトリル(95.3g,700mmol)を溶液に加え、内部の温度を40℃まで昇温した。すべての固体が溶解し、溶液の温度が40℃に達したら、固体KHMDS(376.2g,1890mmol)を5分間かけて加えた。カリウム塩基を加え終わったとき、不均一な黄色溶液が得られ、内部の温度は62℃まで上昇していた。60分すると内部の温度は40℃まで下がり、HPLC分析によれば反応は終了していることがわかった(出発物質または非環化中間生成物は存在しなかった)。稠密な反応混合物を水(6000mL)中に注加し、生成した混合物が室温に下がるまで攪拌してクエンチした。つづいて混合物を濾過し、濾過層を水(1000mL、2×)で洗浄した。鮮やかな黄色固体を乾燥トレイに入れ、真空乾燥器中、50℃で一晩乾燥し、155.3g(47.9%)の目的物質、4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンを得た。
【0148】
方法B
5000mmLのジャケット付き4つ口フラスコに蒸留装置、温度プローブ、窒素ガス導入管、滴下漏斗および機械式攪拌機を取り付けた。[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンゾイミダゾール−2−イル]酢酸エチルエステル(173.0g,570mmol)を反応器に入れ、窒素ガスを15分間導入した。つづいて、攪拌しながら乾燥THF(2600mL)フラスコに加えた。すべての固体が溶解したのち、必要に応じて加熱しながら溶媒を留去した(真空下または大気圧下(温度を上げればそれだけ水の除去が容易になる))。溶媒1000mLを除去したのち蒸留をやめ、反応系に窒素ガスを導入した。つづいて乾燥THF1000mLを反応器に加え、すべての固体が溶解したら、再度溶媒1000mLを除去し終わるまで、蒸留(真空下または大気圧下)を行った。THFを加えて溶媒を留去するこの操作を少なくとも4回くり返した(最初の3回の蒸留では溶媒の40%を留去するのに対して4回目の蒸留では60%を留去する)。それから試料1mLを採取し、カールフィッシャー分析にかけて水分含量を決定した。分析の結果、試料の水分含量が0.20%未満であることがわかったときは、反応を次の段落に記載したとおり続けた。しかし分析の結果、水分含量が0.20%より多いことがわかったときは、0.20%未満になるまで、上記の乾燥操作をくり返した。
【0149】
前の段落に記載した方法で水分含量が0.20%未満になったのち、蒸留装置を還流冷却に取り替え、反応器に2−アミノ−6−フルオロベンゾニトリル(66.2g,470mmol)(何回かの反応では0.95当量使用した)を入れた。反応物を加熱し内部の温度を38〜42℃とした。内部温度が38〜42℃に達したとき、滴下漏斗からKHMDS溶液(1313g,1.32mol,THFに溶かした20%KHMDS)を、内部温度を約38〜50℃に保ちながら5分間かけて反応物に添加した。カリウム塩基を加え終わったら、内部温度を38〜42℃に維持しながら、反応物を3.5〜4.5時間攪拌した(一部の実施例では30〜60分間攪拌したが、この時間以内に反応が終了している可能性がある)。ここで反応試料を採取し、HPLC分析した。反応が終了していないときは、KHMDS溶液を5分間かけてさらに追加し、38〜42℃で45〜60分間攪拌した(KHMDS溶液の量は次のようにして決定した: IPC比が3.50<0のときは125mL、10.0≧IPC比≧3.50のときは56mL、そして20.0≧IPC比≧10のときは30mL加えた)。IPC比は、4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンに対応する面積と非環化中間物質に対応する面積との比に等しい)。反応が終了(IPC比>20)していれば反応器を内部温度が25〜30℃になるまで冷却し、内部温度を25〜35℃に保ちながら、反応器に水(350mL)を15分間かけて加えた(別の一つの操作では反応を40℃で行い、水を5分未満の時間で添加した。速くクエンチするほど時間とともに形成される不純物の量が減少する)。次に、還流冷却器を蒸留装置と付け替え、必要に応じて加熱しながら溶媒を留去(真空蒸留または常圧蒸留)した。溶媒1500mLを除去したのち、蒸留をやめ、反応器内に窒素を導入した。内部温度を20〜30℃の保ちながら、反応フラスコに水(1660mL)を添加した。つづいて、反応混合物を内部温度20〜30℃で30分攪拌し、それから反応混合物を5〜10℃まで冷却し、1時間攪拌した。生成した懸濁液を濾過し、反応フラスコと濾過ケーキを水(×3650mL)で洗浄した。得られた固体を真空乾燥器中、50℃で重さが一定になるまで乾燥し、4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンの淡黄色粉末103.9g(収率42.6%)を得た。
【0150】
方法C
【0151】
【化23】

冷却器、機械式攪拌機、ガス導入管、および温度プローブを取り付けた12Lの4つ口フラスコに[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンゾイミダゾール−2−イル]酢酸エチルエステル(乾燥品)(608g,2.01mol)および2−アミノ−6−フルオロベンゾニトリル(274g,2.01mol)を入れ、加熱マントルにセットした。反応器に窒素を導入し、攪拌しながらトルエン(7.7L)を反応混合物に加えた。反応器に再度窒素を導入し、窒素雰囲気下に維持した。混合物の内部温度を63℃(±3℃)まで昇温した。混合物の内部温度を63℃(±3℃)に保ちながらトルエン約2.6Lをフラスコから減圧留去した(380±10torr、蒸留ヘッドの温度t=40℃(±10℃))(カールフィッシャー分析を行って混合物の水分含量をチェックした。水分含量が0.03%より多いときは、トルエンをさらに2.6L加えて、蒸留をくり返した。水分含量が0.03%より少なくなるまでこの操作をくり返した)。水分含量が0.03%より少なくなったら、加熱を止め、窒素下で反応物を内部温度17〜19℃まで冷却した。次に、反応物の内部温度を20℃より低い温度に保ちながら、窒素下、反応物にカリウムt−ブトキシドTHF溶液(THFに溶かした20%溶液;3.39kg、6.04molesのカリウムt−ブトキシド)を加えた。カリウムt−ブトキシドを加え終わったら、20℃より低い内部温度で反応物を30分間攪拌した。つづいて温度を25℃まで上げ、反応物を少なくとも1時間攪拌した。それから温度を30℃まで上げ、反応物を少なくとも30分間攪拌した。つづいて、出発物質が消費され、反応が終了したかチェックするため、HPLCを使って反応をモニターした(典型的には、2〜3時間で両出発物質が消費された(HPLCにおける面積%が0.5%未満))。2時間後になっても反応が終了していないときは、さらに一回に0.05当量のカリウムt−ブトキシドを加え、HPLCで反応が終了したことが証明されるまで、この操作を行った。反応が終了したら、反応混合物を攪拌しながら水650mLを加えた。つづいて、反応物を内部温度50℃まで加熱し、減圧下に反応混合物からTHFを留去した(約3L)。次に、滴下漏斗を使って反応混合物に水(2.6L)を滴下した。つづいて、混合物を室温まで冷却して少なくとも1時間攪拌した。混合物を濾過し、濾過ケーキを水(1.2L)、70%エタノール(1.2L)および95%エタノール(1.2L)で洗浄した。鮮やかな黄色固体を乾燥トレイに移し、真空乾燥器中、50℃で重さが一定になるまで乾燥して、目的とする4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オン674g(収率85.4%)を得た。
【0152】
4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンの精製
冷却器、温度プローブ、窒素ガス導入管、および機械式攪拌機を取り付けた3000mmL4つ口フラスコを加熱マントルにセットした。フラスコに4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オン(101.0g,0.26mol)を入れ、黄色固体を95%エタノール(1000mmL)に懸濁させて攪拌した。いくつかの例では8:1の溶媒比を使用した。次に、懸濁液を攪拌しながら約1時間穏やかに加熱還流させた(温度約76℃)。次に、反応物を還流させながら45〜75分間攪拌した。この時点で加熱をやめ、懸濁液を25〜30℃まで放冷した。験濁液を濾過し濾過層を水(2×500mL)で洗浄した。次に、黄色固体を乾燥トレイに移し、真空乾燥器中、50℃で重さが一定になるまで(典型的には16時間)乾燥し、精製した生成物97.2g(収率96.2%)の淡黄色粉末を得た。
【0153】
D.4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンの乳酸塩の調製
【0154】
【化24】

3000mL4つ口フラスコに冷却器、温度プローブ、窒素ガス導入管、および機械式攪拌機を取り付けた。反応器に窒素を少なくとも15分間導入し、それから4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オン(484g、1.23mol)を入れた。D,L−乳酸(243.3g,モノマー1.72mol−次の段落を参照)、水(339mL)およびエタノール(1211mL)の溶液を調製して反応フラスコに入れた。中程度の速度で攪拌を開始し、反応物を内部温度68〜72℃まで加熱した。反応内部温度を68〜72℃に15〜45分間保ち、それから加熱をやめた。10〜20ミクロンのガラス製濾過板を通して生成混合物を濾過し、濾液を12Lフラスコに集めた。12Lフラスコに内部温度プローブ、還流冷却器、滴下漏斗、ガス導入管および排出管、およびオーバーヘッド攪拌機を取り付けた。次に、濾液を中程度の速度で攪拌しながら加熱還流させた(内部の温度約78℃)。穏やかに還流させながら、約20分かけてエタノール(3,596mL)をフラスコに加えた。次に、15〜25分間に反応フラスコの内部温度を約64〜70℃まで冷却し、この温度に約30分間保った。反応器内の結晶の状態を検査した。結晶が見られない場合は、4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オン乳酸塩の結晶(484mg,0.1mole%)をフラスコに加え、反応物を64〜70℃で30分間攪拌し、それから再度フラスコの結晶を検査した。結晶が存在していれば、攪拌速度を遅くして、反応物を64〜70℃でさらに90分間攪拌した。つづいて、反応物を約2時間かけて約0℃まで冷却し、生成する混合物を25〜50ミクロングラスフィルターを使って濾過した。反応器をエタノール(484mL)で洗浄し、内部温度が約0℃になるまで攪拌した。冷エタノールを使って濾過ケーキを洗浄し、この操作をさらに2回くり返した。集めた固体を真空乾燥器中、50℃で重さが変化しなくなるまで真空乾燥し、4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オン乳酸塩の黄色結晶510.7g(85.7%)を得た。濾過操作には、典型的にはゴム製ダムまたは不活性条件を使用した。乾燥した固体は非常に吸湿性が強いようには見えないが、湿った濾過ケーキは吸湿してべとつきが見られる。したがって、湿った濾過ケーキはなるべく長時間大気に曝さないように注意した。
【0155】
市販の乳酸は一般に水分を8〜12%w/w含んでいるほか、さらに単量体の乳酸に加えて、二量体および三量体の乳酸も含んでいる。二量体乳酸対単量体乳酸比は一般におよそ1.0:4.7である。市販の乳酸は、好ましくは反応混合物からモノラクテート塩が析出する、前の段落に記載した方法に使用できる。
【0156】
代謝産物の同定
4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オン(化合物1)の2種類の代謝産物が同定されており、本明細書に組み込まれた引用文献に記載されている2週間の毒物試験から、プールされたラットの血漿で諸特性が決定されている。同定された2種類の代謝産物は、下記構造のピペラジンN−オキシド(化合物2)とN−脱メチル化合物(化合物3)であった。
【0157】
【化25】

化合物1〜3のIC50
化合物1〜3について、若干数のタンパク質チロシンキナーゼのキナーゼ活性を、下記手順によって測定し、次表に示すIC50値を得た。
【0158】
【化26】

4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチル−4−オキシドピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2(1H)−オン(化合物2)および4−アミノ−5−フルオロ−3−(6−ピペラジン−1−イル−1H−ベンズイミダゾール−2−イル)キノリン−2(1H)−オン(化合物3)の合成
化合物1の同定された代謝産物の構造を確認するため、代謝産物を独立に合成した。
【0159】
化合物2、すなわち化合物1のN−オキシド代謝産物は、下記スキームに従って合成した。化合物1を、エタノール、ジメチルアセトアミドおよび過酸化水素の混合物中で加熱した。反応が終了したのち、濾過して化合物2を分離し、エタノールで洗浄した。生成物は、必要に応じてカラムクロマトグラフィにかけ、さらに精製することができた。
【0160】
【化27】

化合物3、すなわち化合物1のN−脱メチル代謝産物は、下記スキームに従って合成した。5−クロロ−2−ニトロアニリンをピペラジンと処理して4を合成し、つづいて4をブチルオキシカルボニル(Boc)基で保護して5を得た。ニトロ基を還元し、つづいて3−エトキシ−3−イミノプロピオン酸エチルエステルと縮合して6を合成した。さらに、カリウム=ヘキサメチルジシラジドを塩基として、6と6−フルオロアントラニロニトリルとを縮合して7を得た。粗製の7を塩酸水溶液で処理すると、目的とする代謝産物が、精製後、黄色/褐色固体として得られた。
【0161】
【化28】

アッセイ方法
セリン/スレオニンキナーゼ
ATPと、リン酸化を受けるセリンまたはスレオニンアミノ酸残基を含む適当なペプチドまたはタンパク質とを準備して、セリンまたはスレオニン残基へのリン酸基の転移を検定することにより、各種タンパク質セリン/スレオニンキナーゼのキナーゼ活性を測定した。バキュロウイルス発現系(InVitrogen)を使ってSf9昆虫細胞にGSK−3、RSK−2、PAR−1、NEK−2、およびCHK−1酵素のキナーゼドメインを含む組み換えタンパク質を発現させ、Glu抗体相互作用(Gluエピトープタグが付けられた構造体に対して)あるいは金属イオンクロマトグラフィ(His(SEQ ID NO:1)タグが付けられた構造体に対して)によって精製した。Cdc2(GST融合構造体)およびサイクリンBは、バキュロウイルス発現系を使ってSf9昆虫細胞に共発現させた。組み換え体活性Cdk2/サイクリンAは市販されており、Upstate Biotechnologyから購入した。アッセイに使用した精製Cdc2酵素は市販品を使用した。New England BioLabsから購入できるかもしれない。各アッセイを行うには、試験化合物をそれぞれDMSO中で系列希釈したのち、適当なキナーゼ反応緩衝液+5〜10nM 33Pガンマ標識ATPと混合した。キナーゼタンパク質および該当するビオチニル化ペプチド基質を加えて最終体積を150μLとした。反応物を室温で3〜4時間インキュベートし、それから、反応停止緩衝液100μLを含むストレプトアビジンコーティング白色マイクロタイタープレート(Thermo Labsystems)に移し、反応を停止させた。反応停止緩衝液は50mM 非標識ATPと30mM EDTAとからなる。1時間インキュベートしたのち、ストレプトアビジンプレートをPBSで洗い、各槽に200μLのMicroscint 20シンチレーション液を添加した。プレートをシールしてTopCountでカウントした。XL Fitデータ解析ソフトウェアを使用し、非線形回帰法によって各化合物の50%阻止濃度(IC50)を計算した。
【0162】
反応緩衝液は、30mM Tris−HCl pH7.5、10mM MgCl、2mM DTT、4mM EDTA、25mM βグリセロホスフェート、5mM MnCl、0.01% BSA/PBS、0.5μM ペプチド基質、および1μM 非標識ATPを含んでいた。GSK−3酵素は27nMで、CHK1は5nMで、Cdc2は1nMで、Cdk2は5nMで、そしてRsk2は0.044単位/mLの各濃度で使用した。GSK−3のアッセイにはビオチン−CREBペプチド(Biotin−SGSGKRREILSRRP(pS)YR−NH)(SEQ ID NO:4)を使用した。CHK1のアッセイにはビオチン−Cdc25cペプチド(ビオチン−[AHX]SGSGSGLYRSPSMPENLNRPR[CONH](SEQ ID NO:5))を使用した。Cdc2およびCdk2のアッセイには、ビオチン−ヒストンH1ペプチド([IcBiotin]GGGGPKTPKKAKKL[CONH](SEQ ID NO:6))を使用した。Rsk2のアッセイには、ビオチン−p70ペプチド、15mM MgCl、1mM DTT、5mM EDTA、2.7μM PKCインヒビターペプチド、および2.7μM PKAインヒビターペプチドを使用した。
【0163】
チロシンキナーゼ
ATPと、リン酸化を受けるチロシンアミノ酸残基を含む適当なペプチドまたはタンパク質とを準備して、チロシン残基へのリン酸基の転移を検定することにより、いくつかのタンパク質チロシンキナーゼのキナーゼ活性を測定した。バキュロウイルス発現系(InVitrogen)を使ってSf9昆虫細胞にFLT−1(VEGFR1)、VEGFR2、VEGFR3、Tie−2、PFGFRα、PFGFRβ、およびFGFR1レセプターの細胞質ドメインに対応する組み換えタンパク質を発現させ、Glu抗体相互作用(Gluエピトープタグが付けられた構造体に対して)あるいは金属イオンクロマトグラフィ(His(SEQ ID NO:1)タグが付けられた構造体に対して)によって精製できるかもしれない。各アッセイを行うには、試験化合物をそれぞれDMSO中で系列希釈したのち、適当なキナーゼ反応緩衝液+ATPと混合した。キナーゼタンパク質および該当するビオチニル化ペプチド基質を加えて最終体積を50〜100μLとした。反応物を室温で1〜3時間インキュベートし、それから、45mM EDTA、50mM HEPES pH7.5を25〜50μL加えて反応を停止させた。停止させた反応混合物(75μL)をストレプトアビジンでコーティングしたマイクロタイタープレート(Boehringer Mannheim)に移し、1時間インキュベートした。リン酸化されたペプチド生成物は、DELFIA時間分解蛍光システム(WallacまたはPE BioSciences)によって測定した。この測定にはユーロピウム標識抗ホスホチロシン抗体PT66を使用し、抗体の希釈には1mM MgClを加えたDELFIA分析用緩衝液を使用した。Wallac 1232 DELFIA蛍光計またはPE Victor II多重信号読みとり装置を使って時間分解蛍光強度を読みとった。XL Fitデータ解析ソフトウェアを使用し、非線形回帰法によって各化合物の50%阻止濃度(IC50)を計算した。
【0164】
FLT−1、VEGFR2、VEGFR3、FGFR3、Tie−2、およびFGFR1キナーゼのアッセイは、50mM Hepes pH7.0、0.2mM MgCl、10mM MnCl、1mM NaF、1mM DTT、1mg/mL BSA、2μM ATP、および0.20〜0.50μMの対応するビオチン化ペプチド基質の中で行った。FLT−1、VEGFR2、VEGFR3、Tie−2、およびFGFR1キナーゼは、0.1μg/mL、0.05μg/mL、または0.1μg/mL濃度で、それぞれ加えた。PDGFRキナーゼのアッセイには、ATPおよびペプチド基質の濃度を1.4μM ATPおよび0.25μM ビオチン−GGLFDDPSYVNVQNL−NH(SEQ ID NO:2)ペプチド基質に変更した点を除き、上記と同じ緩衝液条件で120μg/mLの酵素を使用した。
【0165】
組み換え体および活性チロシンキナーゼFynおよびLckは市販品を使用でき、Upstate Biotechnology社から購入した。各アッセイに対して、試験化合物をDMSO中で系列希釈したのち、適当なキナーゼ反応緩衝液+10nM 33Pガンマ標識ATPと混合した。キナーゼタンパク質および該当するビオチニル化ペプチド基質を加えて最終体積を150μLとした。反応物を室温で3〜4時間インキュベートし、つづいて、100mM EDTAと50μM 非標識ATPとからなる100μLの反応停止緩衝液を含むストレプトアビジンコーティング白色マイクロタイタープレート(Thermo Labsystems)に移して反応を停止させた。1時間インキュベートしたのち、ストレプトアビジンプレートをPBSで洗い、各槽に200μLのMicroscint 20シンチレーション液を添加した。プレートをシールしてTopCountでカウントした。XL Fitデータ解析ソフトウェアを使用し、非線形回帰法によって各化合物の50%阻止濃度(IC50)を計算した。
【0166】
Fly、Lckおよびc−ABLに対するキナーゼ反応緩衝液には、50mM Tris−HCl pH7.5、15mM MgCl、30mM MnCl、2mM DTT,2mM EDTA、25mM β−グリセロールホスフェート、0.01% BSA/PBS、0.5μM濃度の適当なペプチド基質(ビオチニル化Srcペプチド基質:FynおよびLckに対しビオチン−GGGGKVEKIGEGTYGVVYK−NH(SEQ ID NO:3))、1μM 非標識ATPおよび1nM キナーゼが含まれた。
【0167】
c−KITおよびFLT−3のキナーゼ活性は、ATPと、リン酸化を受けるチロシンアミノ残基を含むペプチドまたはタンパク質とを準備して、チロシン残基へのリン酸基の転移を検定することにより測定した。c−KitおよびFLT−3レセプターの細胞質ドメインに対応する組み換え体タンパク質は購入した(Proquinase)。試験を行うには、例として取り上げる化合物、たとえば4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンをDMSOで希釈したのち、下記のキナーゼ反応緩衝液+ATPと混合する。キナーゼタンパク質(c−KitまたはFLT−3)およびビオチニル化ペプチド基質(ビオチン−GGLFDDPSYVNVQNL−NH2(SEQ ID NO:2))を加えて最終体積を100μLとした。これらの反応物を室温で2時間インキュベートし、それから、45mM EDTA、50mM HEPES,pH7.5を50μL加えて反応を停止させた。停止させた反応混合物(75μL)をストレプトアビジンでコーティングしたマイクロタイタープレート(Boehringer Mannheim)に移し、1時間インキュベートした。リン酸化されたペプチド生成物は、DELFIA時間分解蛍光システム(WallacまたはPE BioSciences)により、ユーロピウム標識抗ホスホチロシン抗体PT66を使用し、抗体の希釈には1mM MgClを加えたDELFIA分析用緩衝液を使うという変更を行って測定した。Wallac 1232 DELFIA蛍光計またはPE Victor II多重信号読みとり装置を使って時間分解蛍光強度を決定した。XL Fitデータ解析ソフトウェアを使用し、非線形回帰法によって各化合物の50%阻止濃度(IC50)を計算した。
【0168】
FLT−3およびc−Kitキナーゼは、50mM HEPES pH7.5、1mM NaF、2mM MgCl、10mM MnClおよび1mg/mL BSA、8μM ATPおよび1μM濃度の対応するビオチニル化ペプチド基質(ビオチン−GGLFDDPSYVNVQNL−NH(SEQ ID NO:2))の中でアッセイした。FLT−3およびc−Kitキナーゼ濃度のアッセイは2nMで行った。
【0169】
臨床前多発性骨髄腫モデルにおける4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンの有効性についてのリアルタイムによる画像評価と包括的画像評価
多発性骨髄腫(MM)、すなわち造血性骨髄における形質細胞のクローン拡大によって特徴づけられるB細胞新生物は、通常の高用量化学療法を導入しても、生来の薬物抵抗性に加えて後天的薬物抵抗性が形成されるため、今なお致命的な血液学的悪性腫瘍でありつづけている。好ましくはMM細胞のホームであり、増殖する場所でもある骨髄の微小環境が、MMに対する従来の治療法および新規の治療法にとってきわめて重要な役割を演じることはすでに証明されている。したがって、MM細胞だけでなくMM細胞と骨髄微小環境との相互作用をも標的とする分子的に標的化された薬剤は、MMを治療するための有望な機会を与える。近年、MMの分子病理学の理解が進んだことで、この病気を治療するための新しい治療目標が立てられるようになった。異所発現し、かつ調節を受けないFGFR−3は、t(4;14)染色体転座によって起きるMMの患者の15%に発生し、臨床での予後が特に悪いため、MMに対する魅力的な治療ターゲットになっている。
【0170】
4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オン(化合物1)は、VEGFR−2およびPDGFR(キナーゼアッセイでIC50は〜20nM)およびFGFR−3(キナーゼアッセイでIC50は〜5nM)を含む多重レセプターチロシンキナーゼを標的とする小分子インヒビターである。4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンが、in vitroでFGFR−3の自己リン酸化を阻害し、FGFR−3変異体MM細胞における細胞増殖を阻害することは証明されている(S.Trudelほか、Blood;印刷中)。4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンの抗骨髄腫有効性を評価するため、ルシフェラーゼ構造体を安定的に移入した変異体FGFR−3(Y373C)を発現するヒトKMS−11−luc細胞を尾部血管に静脈注射すると、そのあとに多臓器MM病変が現れるin vivo臨床前MMモデルを考案した。in vivoにおけるKMS−11−lucMM腫瘍の増殖と転移を非侵襲的にモニターするには、生体発光画像化(BLI)法を使用した。このモデルを使ったBLI法によって、転移病変の増殖を早期に発見し、かつ逐次的包括的にモニターすることに成功した。KMS−11−lucMM腫瘍細胞を注射されたほとんどすべての実験動物で、26日目という早期にMM病変を発現することが見いだされた。これらの病変は、主として背骨、頭蓋骨および骨盤に局在し、このモデルにしばしば麻痺をもたらした。in vivoで静脈内注射されたこのKMS−11−lucMMモデルにおける4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンの抗骨髄腫有効性を調べた結果、KMS−11−luc腫瘍においてERKのリン酸化をin vivoで阻害することが証明された用量である20mg/kgの4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンを毎日経口投与すると、KMS−11腫瘍の増殖が有意に阻害されることが、逐次BLI法によって見いだされた。加えて、4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンの抗腫瘍増殖活性は、賦形剤による治療と比較して、試験動物の生存率の有意な改善となって現れた。これらの試験は、今後、MM患者に4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンを臨床試験するための臨床前基礎を与えると同時に、このKMS−11−luc in vivoモデルで従来の医薬、あるいは他の分子標的化させた医薬との併用療法における4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンの成績評価の実施を確実なものにする。
【0171】
方法
免疫欠損SCIDベージュマウスのメス18匹(約18週齢)からなるコホートは、The Jackson Laboratoy(Bar Harbor、ME)から入手し、barrier facility内の、12時間サイクルで明暗をくり返す滅菌フィルター付きケージで飼育した。すべての実験は、Association for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care Internationalが認定した施設で、Institutional Animal Care and Use CommitteeのすべてのガイドラインおよびGuide for The Care and Use of Laboratory Animals(National Research Council)に従って実施した。FGFR−3変異体(Y737C)を内包するKMS−11−lucMM細胞は、Iscove培地+10%FBS+L−グルタミンで培養し、2回/週、1:2ないし1:4の範囲で継代した。細胞は、各マウスに100μL HBSS当たり、10×10個の細胞を尾部静脈に静脈内注射して移植した。マウスには細胞移植の日に3GYで照射した(3.2分間)。動物は、KMS−11−luc細胞を注射してから48時間後に開始し、4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンまたは賦形剤20mg/kgの経口投与による治療を毎日受けた(各群n=9)。生物蛍光画像(BLI)は、遮光カメラボックスに取り付ける形で冷却高感度CCDカメラを搭載したIVIS(登録商標)画像化システム(Xenogen)によって得られた。フォトン/秒によって量子化された画像および生物蛍光シグナルの測定は、ルシフェラーゼ基質を注射後、8日目、そしてその後は毎週1回に取得した。動物の体重は1週間に2回モニターし、臨床所見は毎日記録した。動物の保護に関する法律とガイドラインに従い、マウスに麻痺が起きた場合および生存の質の観点からやむを得ない場合は、COを吸入させて安楽死させた。
【0172】
結果
KMS−11−luc細胞をSCIDベージュマウスに静脈内注射してから8日目には、全身画像から細胞増殖の進行および、主として肺、肝臓および脾臓を含む骨格外部位に局在化したMMと思われる病変の進行が明らかになった。(BLI画像に見られるように)41日目から48日目の間に、ほとんどのマウスにうしろ足の麻痺を伴う典型的な瀰漫性多発性骨格障害、たとえば頭蓋骨、骨盤および背骨を含む骨格の障害が、はっきり観察された。マウスは、プロトコルに従って安楽死させた。
【0173】
このin vivoモデルを使用し、KMS−11−luc細胞における4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンの抗骨髄腫有効性を試験した。マウスの経口治療は、KMS−11−luc細胞を注射してから48時間後に開始し、化合物1を毎日20mg/kg経口投与した(n=マウス9匹/群)。1週間ベースのスケジュールに従って、包括的逐次的に各試験動物のフォトンカウント数をモニターした。図1に示すように賦形剤投与群に比べて、4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンによる治療群に、フォトン平均カウント数の有意な減少が見られた。このことは、KMS−11を注射したのち、賦形剤で治療したマウスと4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンで治療したマウスの全身BLI画像を比較するとただちにわかる。興味深いことに、化合物1で治療したマウスのKMS−11多発性骨髄腫細胞パターンの広がりも顕著に少なかった。転移は腹部と背部に限られ、頭蓋骨、脊椎またはうしろ足に大きな広がりは見られなかった。
【0174】
4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンで治療したマウスのフォトンカウント数の減少は、賦形剤で治療を受けたマウスより生存期間が有意に延びたことによく表れた。4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンで治療したマウスは、9匹のうち5匹が、91日目でも全体的に健康な状態で生存をつづけた。それに対して、賦形剤治療群のほとんどのマウスは、50日目前後に安楽死させた。また、4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンで治療したマウスは、この長い試験期間中この治療によく耐えた。4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンで治療したマウスの生存期間が明白に改善されたため、実際的な見地から、この試験は91日目で終了した。
【0175】
キナーゼの阻害全般、FGFR−3の阻害、および多発性骨髄腫を含め各種ガンの4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンによる治療に関するさらなる研究は、公告米国特許出願第2004/0092535号、および米国特許出願第10/983,174号、米国特許出願第2004/0220196号、および米国特許出願第6,605,617号に記載されている。したがって、これによって、これらの文献は、参照することにより、ここに完全に記述されたものとして、その全体があらゆる目的のためにすべてここに組み込まれる。
【0176】
ヒトAMLの腫瘍異種移植実験モデルにおける4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンの活性
4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オン(化合物1)は、内皮細胞および腫瘍細胞の増殖に関係するFLT3キナーゼおよびクラスIII、IVおよびVに属するRTKに強い阻害活性を示す、新規の経口活性な複数標的化された小分子である。急性骨髄性白血病(AML)におけるFLT3変異の関与を考慮して、FLT3の変異状態が異なる(MV4;11 FLT3 ITD対RS−411 FLT3 ITD)2種類のヒト白血病細胞株に対する化合物1の試験を行った。その結果、MV4;11に対する化合物1の抗増殖活性はRS4;11と比較して〜24倍高く、構成的に活性化されたFLT3に対する阻害がより強力であることを示した。MV4;11細胞におけるレセプターのリン酸化および下流シグナル伝達(STAT5およびERK/MAPK)の化合物1による用量依存性の変調は、分子レベルでの作用機構を裏づけた。化合物1の生物活性用量でMV4;11腫瘍におけるpFLT3、pERKの標的変調が見られた。皮下および骨髄(BM)生植白血病異種移植モデルで腫瘍が退行したことおよびAML細胞がBMから根絶されたことが示された。腫瘍の反応は、細胞増殖の減少と、アポトーシスによる細胞死を示唆する活性カスパーゼ3および切断PARPのポジティブな免疫組織化学的染色とによって確認された。以上のデータは化合物1のAMLにおける臨床的評価を支持している。
【0177】
細胞株
ヒトMV4;11(FLT3 ITD)およびRS4;11(FLT3 WT)白血病細胞は、American Tissue Culture Collection(Rockville,MD)24―26から入手した。MV4;11細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS,Gibco Life Tchnologies,Gaithersberg,MD)を加えた、4mM L−グルタミン、5ng/ml顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF,R&D SYSTEMS、Minneapolis,MN)および1%ペニシリンおよびストレプトマイシンを含むIscove改変Dulbecco培地(IMBM)で培養した。RS4;11細胞は、10%FBS、1mMピルビン酸ナトリウムおよび10mM HEPES(pH7.4)を含むRPMI−1640で培養した。細胞は、懸濁培地で培養し、37℃および5%COの加湿雰囲気中で培養した。
【0178】
キナーゼのアッセイ
in vitroでのFLT−3キナーゼのアッセイは、8μM ATPおよび系列希釈した化合物1の存在下に、2nM FLT3酵素(Upstate Biotechnology,Charlotesville,VA)で行った。最終濃度1μMのリン酸化ペプチド基質は、ユーロピウム標識抗ホスホチロシン抗体(PT66)(Perkin Elmer Life Sciences,Boston,MA)と一緒にインキュベートした。ユーロピウムは時間分割蛍光分析によって検出した。IC50は非線形回帰法によって計算した。
【0179】
増殖のアッセイ
細胞を96槽マイクロタイタープレートに入れ(細胞10,000個/槽)、系列希釈した化合物1を加えた。RS4;11細胞をFLT3リガンドで刺激した(100ng/mL,R&D SYSTEMS、Minneapolis,MN)。インキュベート終了時(37℃で72時間)にMTSのアッセイ(Promega,Madison,WI)を行って細胞生存率を測定した。EC50値は、非線形回帰法によって計算し、治療しなかった対照に対して、治療した細胞の吸光度が50%低下するのに必要な濃度と定義した。
【0180】
免疫沈降分析およびウェスタンブロット分析
in vitroで実験を行うため、MV4;11細胞およびRS;11細胞を化合物1で3時間処理した。すなわち、化合物1とインキュベートしたのち、RS4;11細胞をFLT3リガンド(100ng/mL)で15分間刺激した。薬物と一緒にインキュベートしたのち、細胞を集め、氷冷したPBSで洗浄し、プロテアーゼインヒビター(Roche Molecular Biochemicals,Indianapolis,IN)およびホスファターゼインヒビター(Sigma,St.Louis,MO)を含むRIPA緩衝液(1%Nonidet P−40,0.5%デオキシコール酸ナトリウム、1×リン酸塩緩衝食塩水に溶かした0.1%硫酸ドデシルナトリウム,pH7.2)で溶解した。in vivoで標的変調の分析を行うため、150mM NaCl、1.5mM MgCl、50mM HEPES、pH7.5、10%グリセロール、1.0%Triton X−100、1mM EGTA、50mM NaF、1mM NaVO、2mM Pefabloc(Roche)、および完全プロテアーゼインヒビターカクテル(Roche)で溶解するまえに、切除した腫瘍をフラッシュ凍結し、粉砕して−70℃で貯蔵した。溶解物に含まれるタンパク質含量は、BCAアッセイ(Bio−Rad,Hercules,CA)によって決定した。pERK(1:1000、Cell Signaling、Beverly,MA)に対するマウス抗体について、pERKのウェスタンブロット分析を行い、4℃で一晩インキュベートした。全ERKに対する抗体(Cell Signaling)で再プローブして全ERKレベルを評価した。つづいて、膜を1:5000ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合抗ウサギIgG(Jackson Immunoreseach,West Grove,PA)と室温で1時間インキュベートした。免疫沈降によってFLT3を検出するため、等量のタンパク質(STAT5の場合500μg;FLT3の場合1000μg)をヒトFLT3またはSTAT5に対する抗体(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA)と4℃で一晩、そしてタンパク質A−アガロースと4℃で2時間インキュベートした。FLT3またはSTAT5のリン酸化を、抗ホスホチロシン抗体(抗pFLT3抗体はCell Signalingから入手し、抗pSTAT5抗体はUpstateから入手した)でプロービングすることにより測定した。タンパク質は増強化学発光(ECL;Amersham Biosciences,Buckinghamshire,英国)を利用して検出し、コダックのフィルムに露光して可視化した。バンド強度の定量は、走査式デンシトメトリーによって行った。ローディング量をそろえるため、ブロットから取り出し、抗FLT3抗体(Santa Cruz Biotechnology)または抗STAT5抗体(BD Biosciences)で再プローブして、それぞれ全FLT3またはSTAT5タンパク質量を測定した。pFLT5、pERKまたはpSTAT5の量を全FLT3、ERKまたはSTAT5タンパク質レベルに規格化して、賦形剤投与群、すなわち治療しなかった対照群と比較した。
【0181】
フローサイトメトリーによるアッセイ
MV4;11細胞を、血漿欠乏条件で化合物1と3時間処理した(OptiMEM培地で一晩)。pSTAT5を検出するため、細胞を1%ホルムアルデヒドで固定し、90%氷冷メタノールで透過性を上げた。透過性が増した細胞(0.5〜1×10)を抗pSTAT5抗体(Cell Signaling)と30分間インキュベートした。同じ濃度の精製したウサギIgG(Oncogene,San Diego,CA)をアイソタイプの対照として使用した。二次抗体はPE結合ヤギF(ab‘)2抗ウサギIgG(Jackson Immunoresearch)とした。試料は、FACScanフローサイトメーター(Becton Dickson,San Jose,CA)で分析するまで4℃で暗所保存した。pSTAT5の染色に対して平均蛍光強度(MFI)をCellQuestソフトウェア(Becton Dickinson)を使って決定し、対照のアイソタイプ抗体のMFIとの差を比MFIとした。
【0182】
マウスMV4;11生着モデル由来の骨髄(BM)を処理するため、大腿骨を冷食塩水で洗浄し、赤血球をFACS溶解緩衝液(Becton Dickinson)に溶解した。マウスの骨髄に対するヒト白血病細胞の生着率は、抗ヒトHLA−A,B,C−FITC(BD Pharmingen)で染色することにより決定した(アイソタイプに適合する抗体−FITCを対照とする)。
【0183】
VEGF ELISA
MV4;11は、濃度を様々に変えて(0〜1μM)化合物1を加えた10%FBS含有培地で48時間培養した。遠心分離にかけたのち上清液を集め、VEGFレベルをELISA(R&D Systems,Minneapolis,MN)によって測定した。タンパク質の濃度はBIO−RADタンパク質アッセイ(Hercules,CA)を使って決定し、得られた結果はタンパク質濃度に対して規格化した。
【0184】
in vivo有効性試験
メスのSCID−NODマウス(4〜6週齢,18〜22g)はCharles River(Wilmington,MA)から入手し、試験を始める前に、病原体を排除した囲いの中で1週間訓化した。試験動物は無菌の齧歯類用食餌と水が随時与えられ、12時間周期で明暗がくり返される無菌フィルター付きケージに収容した。すべての実験は、Association for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care Internationalのガイドラインに従って実施した。
【0185】
皮下モデル
MV4;11およびRS4;11細胞は、SCID−NDOマウスの皮下の腫瘍から継代された。細胞(細胞5×10個/マウス)は50% Matrigel(Becton Dickinson)で再構成して、SCID−NDOマウスの右脇腹の皮下(s.c.)に移植した。具体的な試験デザインの項に記述したように、治療は腫瘍が200〜1000mmになったときに開始した。マウスをコホートに割り付けるときは無作為に行った(典型的には、有効性試験の場合10匹/群、薬物動態(PD)研究の場合3〜5匹/群)。化合物1は、溶液の形で経口給餌によって投与した。腫瘍の体積と体重は毎週2〜3回測定した。腫瘍をカリパスで測定した結果は、1/2(長さ×[幅])の関係式によって平均腫瘍体積に変換した。腫瘍の増殖阻害率(TGI)を賦形剤で治療したマウスと比較した。応答率は、治療開始時の腫瘍体積と比較して、完全応答(CR)(触診されない)か部分応答(PR)(50〜99%収縮)かの形で定義した。
【0186】
静脈内骨髄(BM)生植モデル
1×10 MV4;11細胞を含む0.2ml食塩液を尾部静脈に注射するまえに、SCID−NODマウスに照射した(3Gy)。化合物1または賦形剤による治療は、細胞接種から3週間後に開始した。マウスは毎日モニターし、瀕死の状態か、早期にうしろ足の麻痺の徴候が見られたときは安楽死させた。治療を受けたマウスの寿命の伸び(ILS)は、賦形剤で治療した対照マウスに対する生存期間中央値(MST)増加百分率として計算した。
【0187】
in vivoにおける標的の変調
SCID−NODマウス(n=3匹/群)におけるMV4;11皮下腫瘍は300mmで病期分類し、治療は、賦形剤か化合物1のどちらかを、5日間10mg/kg経口投与する工程で行った。化合物1のPDの特徴を明らかにするため、化合物1投与後、時間を変えて腫瘍サンプルを採取した(N=3匹/サンプリング時点)。
【0188】
免疫化学
切除した腫瘍を緩衝化した10%中性ホルマリン液に入れて一晩室温に放置し、それから70%エタノールに移し、Thermo Electron Excelsior 組織プロセッサー(Pittsburgh,PA)を使用して、パラフィンに包埋(paraffin embedding)した。骨(大腿骨)のサンプルは脱石灰化した(ProtocolTM,Fisher Diagnostics, Middleton,VA)。パラフィンブロックを4μmの厚さに切り出して、正に荷電したスライドグラス上にのせた。Discovery自動スライド機(Ventana Medical Systems,Tucson,AZ)を使って組織を染色した。スライドを加圧スチーマー中、クエン酸塩緩衝液(pH6.0)で処理し、Ki−67,pKERKおよびPARPの染色に対して抗原を検索し、カスパーゼ3はVentana試薬CC1によって検索した。一次抗体にはKi−67(1:750希釈,NovoCastra Laboratories,UK)、pERK(1:100希釈,Biosource,Camarillo,CA)、抗ヒトミトコンドリア(1:200,Chemicon,Temecula,CA)、切断カスパーゼ3(1:200,Cell Signaling)および切断PARP(1:100,Biosource)を使用した。二次抗体にはヒツジ抗ウサギF(ab‘)2ビオチニル化抗体,1:100希釈(Jackson ImmunoResearch)を使用した。スライドをヘマトキシリンで対比染色し、染色したスライドにカバースリップをかぶせた。ヘマトキシリン染色およびエオシン染色によって全体的な組織の形態も評価した。
【0189】
統計的分析
線形回帰分析を行うにはマイクロソフトのExcel(Redmond,WA)を使った。2つの治療群間における統計的な有意性を測定するにはスチューデントのt検定を使用した。多重比較を行うには一方向分散分析(ANOVA)を使用し、異なる治療手段を比較するpost−testを行うにはStudent−Newman−Keulの検定法を使用した(SigmaStat,San Rafael,CA)。生存率の検討にはログランク検定(Prism,San Diego,CA)を使って各種治療法と賦形剤による治療群との間の、生存率曲線の有意性を決定した。試験終了時に正常な健康状態にあって安楽死させたマウスは長期生存したとし、この統計では削除した。p<0.05における差は統計的に有意であると見なした。
【0190】
結果
化合物1はFLT3キナーゼ活性を強力に阻害する
上に記載したように、精製酵素によるATP競争結合アッセイを使って、様々なRTKに対する化合物1の特異性を検査した。その結果、化合物1は、c−KIT(2nM);VEGFR1/2/3(10nM);FGFR1/3(8nM);PDGFRβ(27nM);CSF−1R(36nM)に比べてFLT3(1nM)に対してナノモルで活性を示し、きわめて強力であることがわかった(次表を参照)。クラスIII、IVおよびVのRTKに対する選択性を確認するため、PI3K/AktおよびMAPK(K)経路の他のキナーゼに対する化合物1の活性を調べた結果、活性は無視できるほど小さい(IC50>10μM)ことがわかった(次表を参照)。
【0191】
(表 各種RTKに対する4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンの活性)
【0192】
【化29】

上の表の作成に使用したin vitroRTKアッセイは、上で述べたように、精製した酵素およびATPの存在下に、化合物1の希釈率をさまざまに変えて行った。リン酸化されたペプチド基質(1μM)をユーロピウムで標識した抗ホスホ特異的抗体と一緒にインキュベートしたのち、ユーロピウムを時間分解蛍光によって検出した。
【0193】
MV4;11(FLT3 ITD)細胞に対する化合物1の強力な抗増殖効果
FLT3の阻害がin vitroでの増殖阻害に変換するか否かを明らかにするため、MTSアッセイを使ってMV4;11およびRS4;11に対する化合物1の活性を調べた。MV4;11およびRS4;11を系列希釈した化合物1と一緒に(FLT3リガンドの存在で)インキュベートした。72時間インキュベートしたのち、MTS検定を行って細胞生存率を決定した。非線形回帰法によりEC50値を計算し、治療した細胞の吸光度が、治療しなかった対照の細胞と比べて、50%減少するために必要な濃度として定義した。化合物1は、用量依存的にMV4;11細胞の増殖を強力に阻害し、EC50=13nMであった。RS4;11でも増殖に対して類似の濃度依存効果が観察されたが、化合物に対する感度は約24分の1であった(EC50=315nM)。MLV4;11で見られた濃度と類似のEC50濃度(EC50〜6nM)を持つFLT3 ITD変異体細胞、MOLM13およびMOLM14に対する化合物1の抗増殖効果も検査した。これらのデータは、化合物1がFLT3 ITDとWT白血病細胞の両者に対して活性であり、構成的に活性なレセプターは阻害に対してより鋭敏であることを示唆している。
【0194】
白血病細胞のFLT3媒介シグナル伝達に対する化合物1のin vitroにおける効果
FLT3変異状態(RT―PCRによって確認)を対比させながら、2つのヒト白血病細胞株、MV4;11およびRS4;11に対する化合物1のin vitro細胞活性を調べた。これらの実験において、細胞を溶解する前に、血漿を含まないMV4;11(ITD)またはRS4;11(WT)細胞を、濃度を高くした化合物1と3時間インキュベートした。RS4;11細胞はFLT3リガンド(100ng/ml)で15分間刺激した。細胞溶解物全量を抗ヒトFLT3抗体で免疫沈降させ、SDS−PAGEによって分離した。免疫ブロットを抗ホスホチロシン抗体でプローブした。FLT3のローディングが等量であることを証明するため、膜を除去し、抗ヒトFLT3で再プローブした。デンシトメーターを使って、pFLT3の変化は、ベースライン(無処理)に対する百分率で表示される。MV4;11細胞は、FLT3レセプターに内部縦列重複変異(ITD)を持ち、構成的に活性化されたFLT3を形成する。Levis M.ほか、Blood,9:3885〜3891(2002);O‘Ferrell A.M.ほか、Blood,101:3597〜3605(2003)。外因性リガンドによる刺激がない場合、この活性化によってFLT3の自己リン酸化が起きる。血漿欠乏MV4;11細胞を化合物1で3時間処理し、FLT3レセプターの活性化に対する直接効果を、リン酸化状態を分析することで決定した。化合物1の濃度を高くしてMV4;11細胞をこれにさらすと、用量依存的にpFLT3を強力に阻害し、EC50濃度は1〜10nMであった。
【0195】
FLT3 ITDは、AML患者の芽細胞の約20%に認められるのに対して、ほとんどの急性白血病がWT FLT3を発現する。FLT3レセプターのリン酸化を活性化する外因性FLT3リガンド(100ng/ml,15分)につづいて、白血病RS4;11細胞に対する化合物1の効果も調べた(FLT3 WT)。RS4;11 FLT3 WT細胞は、FLT3リガンド刺激がなければ低いベースレベルのpFLT3を持つ。化合物1で処理すると、RS4;11細胞のpFLT3レベルは低下した。しかし、ITDに比べてWT FLT3の変調には比較的高い濃度が必要であった。>0.5μMの濃度で完全な阻害が実現された。
【0196】
化合物1はFLT3を阻害するための下流の標的、ERKおよびSTAT5を変調する
FLT3の阻害に関する化合物1の効果の特徴をさらに明らかにするため、FLT3を阻害するための下流の標的、すなわち細胞の生存と増殖のカギを握るタンパク質であるERKおよびSTAT5の変調について調べた。化合物1の濃度を高くして、MV4;11細胞を3時間処理したのち、pERKおよびpSTAT5を検出するため、フローサイトメトリーおよびウェスタンブロットにかけた。pERKおよびpSTAT5の変化は、ベースライン(無処理)百分率の形で表示される。MV4;11細胞の場合、FLT3のシグナル伝達が活性なため、細胞のpERKおよびpSTAT5ベースレベルは高い。化合物1は、用量依存的にERKおよびSTAT5のリン酸化を阻害した。>0.1μMの濃度(フローサイトメトリーおよびウェスタンブロット)で、pERKおよびpSTAT5の実質的な阻害(>50%)が観察された。pERKおよびpSTAT5に対する化合物1の阻害効果は、FLT3リガンドによって刺激されるRS4;11細胞よりもMV4;11の方が強力であった。
【0197】
化合物1はin vitroでMV4;11における自己分泌VEGFの産生を阻害する
in vitroでVEGFの産生に対する化合物1の効果に的を絞るため、MV4;11培地の上清に対してELISAを行った。これらの実験では、化合物1の濃度を高くして(0〜1μM)、MV4;11細胞を、10%FBSを含む培地で48時間培養した。薬物による治療を行わなかった場合、MV4;11細胞はかなりの量(180pg/ml)のVEGFを分泌するのに対して、化合物1はVEGFの産生を用量依存的に阻害し、EC50値は0.001〜0.01μM、そして完全阻害濃度は>0.5μMであった。
【0198】
化合物1はin vivoでFLT3のシグナル伝達を変調する
in vivoでの標的の変調を試験するため、MV4;11の腫瘍を持つマウス(300〜500mmの病期にある)に化合物1(10mg/kg/日)または賦形剤を5日間投与した。5日目の投与後4、8、24および48時間目に腫瘍を切除し、粉砕し、直ちにフラッシュ凍結した(−70℃)。決められた時点で採取した腫瘍をホモジナイズし、IP/ウェスタンブロットにかけてpFLT3およびpSTAT5を分析した。pFLT3およびpSTAT5の変調を調べるため、腫瘍溶解物を抗ヒトFLT3または抗STAT5抗体で免疫沈降させ、SDS−PAGEによって分離した。免疫ブロットを適当な抗ホスホチロシン抗体でプローブした。ローディングの対照として、全FLT3またはSTAT5タンパク質を定量するため、膜を取り去り、抗FLT3か抗STAT5で再プローブした。pFLT3およびpSTAT5レベルの有意な減少は、化合物1を単回または複数回投与後早くも4時間で観察され、他方、全FLT3またはSTAT5タンパク質に対する影響は見られなかった。FLT3およびSTAT5両者のリン酸化は、ベースラインに対して減少し、投与後8時間で最大値の〜90%阻害に到達し、24時間抑制(〜85%阻害)はつづいた。ホスホFLT3はベースラインレベル近くまで戻ったのに対して、p−STAT5は、投与後48時間が経過しても阻害(〜60%阻害)がつづいた。pERKレベルの減少も観察された。このことは下流FLT3シグナル伝達の封鎖を示している。
【0199】
in vivo有効性試験
MV4;11およびRS4;11の腫瘍に対する化合物1の
in vivo用量応答効果
化合物1のin vitroでの効果が、腫瘍のin vivo増殖阻害と相関性があるかを確かめるため、SCID−NDOマウスにおけるMV4;11またはRS4;11腫瘍の異種移植に対する化合物1の有効性を試験した。マウスに腫瘍細胞を皮下移植し、腫瘍が200〜300mmになったときに、化合物1による治療を開始した。用量−応答有効性試験において、MV4;11の腫瘍に対しては、化合物1を1〜30mg/kg/日の用量範囲で、またRS4;11の腫瘍に対しては、10〜150mg/kg/日の用量範囲で経口投与した。
【0200】
化合物1はMV4;11の腫瘍に対してきわめて有効であり、良好な用量−応答効果を示し、>5mg/kg/日の用量で有意な腫瘍増殖阻害を示した(図2)。30mg/kg/日の用量で、部分応答者と完全応答者からなる(1CR,8PR)腫瘍の退行が誘起された(9/10の腫瘍応答)。1mg/kg/日の投与でも、2週間後には、わずかではあるが腫瘍増殖阻害が観察され(23%)、このモデルにおける統計的最小有効用量であると確認された(p<0.01対賦形剤)。RS4;11腫瘍を有するマウスにおいて、化合物1による治療は腫瘍の増殖を阻害したが、退行は観察されなかった(図3)。化合物1の阻害効果は、各モデルにおけるそれぞれの最小有効用量によって定義されるところによれば、RS4;11腫瘍に対してより、MV4;11腫瘍に対して強力であった(8日目:RS4;11腫瘍に対して100mg/kg/日;48%TGI、p<0.01対MV4;11腫瘍に対して1mg/kg/日;23%TGI、p<0.01)。
【0201】
化合物1の別の投与スケジュールも等しく有効である
MV4;11異種移植腫瘍に対する化合物1の断続的投与と周期的投与の効果も調べた(図4)。化合物1を30mg/kg/日の用量で、毎日、一日おきに(q.o.d)、または7日間つづけて投与し、7日間中断するサイクルで2サイクルほど、経口投与した(図4)。毎日投与した場合と同様、断続的に投与した場合も薬物治療の期間の間に有意な腫瘍の退行をもたらした(>94%TGI)。3種類の投与方式すべてが等価な抗腫瘍活性をもたらし(29日目、p>0.05)、q.o.d.(6PR)の場合および7日間投与をつづけて7日間投与を中断した場合(9PR)の応答数は、毎日投与した場合(1CR,9PR)の応答数と類似の成績であった。
【0202】
化合物1は大きなMV4;11腫瘍に対して有効である
大きさの異なる300、500または1000mmの大きなMV4;11腫瘍に対する化合物1の効果も調べた。化合物1(30mg/kg/日)で治療すると、治療開始時の腫瘍の初期サイズに関係なく、すべてのMV4;11腫瘍に対して、有意な退行が誘起された(図5)。腫瘍の退行は薬物治療を開始して3〜5日以内に現れた。すべての治療された腫瘍が応答し(n=27)、完全応答が15%、部分応答が70%であった。残る15%は応答が弱いか安定したままであった。50日後には投与を中止した。50日間治療している間に再増殖した症例はなかった。このことは化合物1に対する抵抗性が現れなかったことを示唆している。治療中断後の応答の持続性も検討した。一つのCRとPRのほぼ50%が、化合物1の投与を中止してから40日間持続した。再増殖(600〜2000mmまで)した10の腫瘍を、試験90日目(投与中止後40日目)に30mg/kg/日の化合物1で再治療を開始し、60日間つづけた。すべての腫瘍が化合物1の第二サイクルに応答した(2CR、8CR)。明らかにこのことは、化合物1に対する腫瘍の抵抗性がないことを示している。
【0203】
in vivoにおける生物活性の組織学的評価
腫瘍の体積および標的の変調エンドポイントに加えて、免疫組織学化学的読みとり値を薬物活性の指標として使用した。われわれは30mg/kgの4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オン(化合物1)で治療したSCID−NDOマウスのMV4;11またはRS4;11腫瘍における、腫瘍のアポトーシス/ネクローシスおよび細胞増殖の阻害を、組織学および免疫組織化学分析によって評価した。この研究では、皮下にMV4;11腫瘍を持つSCID−NDOマウス(n=3〜5/群)を、賦形剤または30mg/kg/日の化合物1で5日間治療した。2〜5日で腫瘍を切除した。パラフィンに包埋した腫瘍をヘマトキシリンおよびエオシンで染色するか、Ki67(増殖マーカー)、pERK(機構的薬力学マーカー)、切断カスパーゼ3(アポトーシス用)またはPARP(アポトーシス用)(ヘマトキシリンで対比染色)で免疫染色した。MV4;11腫瘍において、化合物1を1回ないし5回投与した後の、投与による一時的な効果を調べた。H&E染色による形態学的評価の結果、賦形剤で治療した腫瘍は、骨髄の過形成を示唆する著しい細胞過多(hypercellularity)を備えたMV4;11腫瘍細胞からなることが明らかになった。賦形剤治療群の腫瘍細胞がKi67で強く染色されたことは、この腫瘍が増殖性の強い細胞で構成されていることを示している。投与から24時間までに化合物1で治療した腫瘍は細胞充填密度の低下を示し、アポトーシス細胞/ネクローシス細胞のまばらの領域からなった(1日目)。5回投与後、アポトーシス細胞/ネクローシス領域はさらに顕著となり、Ki67による染色が弱まったのと時を同じくして、非生存腫瘍領域がかなりの部分を占めた。pERKの免疫組織化学的染色から、in vivoにおける標的の変調が確認された。化合物1で治療した腫瘍中のホスホERKは5日間の投与で著しく低下し、そのことは腫瘍中のpERKのウェスタン分析によって確認された。化合物1によってアポトーシスが誘発されたことは、賦形剤で治療した対照に比べて、5日目に腫瘍中の活性化カスパーゼ3が増加したことおよび切断PARPの染色がより濃厚であったことから明白である。さらにわれわれは、30mg/kgの化合物1で治療したあとのRS4;11腫瘍を免疫組織化学的に調べた。RS4;11腫瘍(n=3〜5/群)を賦形剤または化合物30mg/kgで治療した。9日目に腫瘍を切除した。パラフィンで包埋した腫瘍は、ヘマトキシリンまたはエオシンで染色するか、Ki67またはpERKで免疫染色した(上記参照)。化合物1(30mg/kg/日)で治療したRS4;11腫瘍でも、細胞性と増殖が低下し、pERKが減少するという類似の効果がはっきり認められた。
【0204】
さらに、われわれは、部分応答(>50%の腫瘍阻害)と完全応答(触診できる腫瘍の塊を認めない)とを定義して、腫瘍を組織学的に評価した。これらの研究では、MV4;11腫瘍を皮下に持つSCID−NODマウス(n=3〜5匹/群)を賦形剤または化合物1 30mg/kg/日で治療した。賦形剤で治療した腫瘍は15日目に切除し、化合物1で治療した腫瘍は89日目に切除した(化合物1を毎日1回投与で50回投与し+治療しないで39日)。パラフィンで包埋した腫瘍は、ヘマトキシリンまたはエオシンで染色するか、Ki67で免疫染色した(ヘマトキシリンで対比染色)。完全応答者にはMV4;11腫瘍細胞が全く存在せず、ネクローシスおよび/または傷跡のわずかな痕跡が見られるだけであった。部分応答者には腫瘍周辺部にKi67陽性増殖腫瘍のポケットが観察された。
【0205】
化合物1は播種性ヒト白血病細胞を持つマウスの生存期間を延長する
照射SCID−NODマウスの尾部静脈に細胞を接種したMV4;11白血病モデルで化合物1の有効性を調べた(図6)。このモデルでMV4;11細胞は骨髄(BM)に散在し、ヒト白血病に似た疾患パターンを病理学的に模した。1日目にマウスにMV4;11を注射し、MV4;11細胞がBMに生植してから23日目に化合物1による治療(20mg/kgを毎日投与、または7日間投与をつづけて、7日間投与を中断、n=10〜12/群)を開始した。対照(賦形剤で治療する)マウスは、典型的には、腫瘍細胞がBMに浸潤した結果としてうしろ足に麻痺を発症し、生存期間の中央値(MST)は51日であった(図6)。生存試験で、化合物1による治療を毎日行う(23日目〜100日目)と、賦形剤で治療を行った対照と比較して(MST=51日)、病気が進行する時間を有意に遅らせた(MST=134日)(p<0.0001)。このことは生存期間(ILS)が163%に延びたことを意味する(図6)。印象的なのは、化合物1で毎日治療したマウスの4匹が長期生存したという点である(MST>160日)。BM中のMV4;11細胞の生殖率(%)を定量するのに組織学的分析およびフローサイトメトリー分析を使用した。フローサイトメトリー分析でヒトMHClのエピトープに結合する抗ヒトHLA−A,B,C抗体で、マウスBM中にヒトMV4;11細胞を同定した。賦形剤で治療したマウスでは、分離された全BM細胞の約2〜19%は、生植MV4;11細胞からなった(51日目)。このことは、マウスのBMマトリックス中にヒト細胞を同定するMV4;11細胞を染色するヒトミトコンドリアに対する抗体の免疫組織化学によって確証される。毎日(20mg/kg)25日間にわたって投与した化合物1は、賦形剤に比して、白血病の負荷を有意に軽減した(BM中にMV4;11細胞<1%)。興味深いことに、化合物1による治療後に生存しているマウスは、BM中に腫瘍細胞の免疫組織化学的な形跡を見せず(167日目には、抗ヒトミトコンドリア陽性細胞は存在しないものと見られた)、「治癒したものと」定義された。化合物1を周期的に投与(7日間投与して、7日間投与を中止するサイクルを5回)した場合も、生存期間が有意に延長(MST=118日、賦形剤に対して131%ILS、p=0.0001)されたが、毎日投与した場合ほど有効ではなかった(p=0.007、図6)。
【0206】
前立腺ガンの細胞株を治療するときの化合物1の有効性
化合物1は、ケースIII、IVおよびV受容体チロシンキナーゼ(RTK)に対して複数標的化されたキナーゼ選択性を持つため、前立腺ガンの転移モデルで、化合物1の活性を調べた。化合物1によって阻害される重要なRTSであるVEGFRおよびFGFRを発現するPC−3M腫瘍を使って、化合物1の抗腫瘍有効性を評価した。PC−3M細胞は骨に転移することが明らかにされているため、ヌードマウスにおけるヒト前立腺ガンの転移性異種移植実験モデルで化合物1の活性を調べるのにこのモデルを使用した。
【0207】
細胞株 null p53、del PTEN、VEGFR、FGFRを発現し、ルシフェラーゼ構造体を確実に移入される転移性ヒト前立腺細胞株PC−3MをXenogen社とのライセンス契約によって入手した。
【0208】
in vivo有効性試験 オスのヌードマウス(4〜6週齢、18〜22g)をCharles River(Wilmington,MA)から入手して、試験開始前に病原を排除した囲いの中で1週間訓化した。試験動物は無菌の齧歯類用食餌と水が随時与えられ、12時間周期で明暗がくり返される無菌フィルター付きケージに収容した。すべての実験は、Association for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care Internationalのガイドラインに従って行われた。
【0209】
PC−3M luc骨転移モデル ルシフェラーゼ構造体を確実に移入されるヒト前立腺ガン細胞株PC−3M luc細胞(1.5×10個の細胞)を心臓内に注射した。細胞接種後のPC−3M−luc腫瘍のin vivoでの増殖および転移を非侵襲的にモニターするには生物発光画像化法(Xenogen社IVIS(登録商標)画像化システム)を使用した。PC−3M−luc腫瘍細胞を注射されたほとんどすべての試験動物が前立腺病変を発症し、それらの病変は主として大腿骨および下顎骨に局在した。細胞を接種して4週間後(試験0日目)に化合物1、タキソールまたは賦形剤による治療を開始した(n=7/群)。毎日マウスをモニターし、瀕死状態のマウスは安楽死させた。
【0210】
試験群に関する情報
細胞を接種して4週間後に投与を開始(試験0日目)
1.賦形剤(n=8)
2.化合物1、50mg/kg、p.o.、毎日投与(n=7)
3.タキソール、15mg/kg、1週間にi.p.3回投与(n=7)
エンドポイント 有効性(Xenogen社のIVIS(登録商標)画像化システムを使って腫瘍をin vivoでリアルタイムに画像化)。
【0211】
免疫組織化学 骨(大腿骨、下顎骨)のサンプルは脱石灰化した(ProtocolTM,Fisher Diagnostics, Middleton,VA)。パラフィンブロックを4mmの厚さに切り出して、正に荷電したスライドグラス上にのせた。全般的な組織の形態を確認し、骨のPC−3M細胞を同定するため、組織をヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。
【0212】
心臓内注射によってPC−3M−luc細胞を接種したオスのヌードマウスは、in vivoにおけるPC−3M−luc腫瘍細胞の逐次的な全身画像化および組織学的評価による検出の結果、心臓内接種後PC−3M細胞が散在して増殖していることが確認された(図7)。ヌードマウスにPC−3M細胞を接種して4週間後、全身画像化によって調べた結果、主として頭部および腹部に局在化した細胞増殖と転移病変の進展が明らかとなり、組織学的評価から、PC−3M細胞が骨(大腿骨、下顎骨)に転移することが確認された。一部のマウスでは乳房にも腫瘍細胞が検出された。これは心臓内に接種したあとも、いくらか残留した細胞ではないかと思われる。
【0213】
細胞を接種してから4週間後(0日目)に、腫瘍が骨に転移してから、化合物1による治療を開始した。骨に腫瘍が存在することはマウスの全身画像化によっても確認された。化合物1を50mg/kg/日経口投与し、逐次的にマウスをスキャニングした結果、化合物1は、賦形剤による治療に比べて、ヌードマウスにおけるPC−3M luc腫瘍細胞の、転移性の増殖を阻害する傾向を示した。化合物1で治療したマウスが、0、8および15/18日目に示した平均フォトン強度(阻害)は、賦形剤で治療したマウスに比べて弱かった。化合物1によって腫瘍の増殖が阻害されることは、フォトンカウント数の中央値阻害でも評価した(図7)。化合物1による毎日治療(50mg/kg/日)は、タキソールによる治療(15mg/kg/日)より有効であった(図7)。タキソールによる治療と賦形剤による治療の間で、治療効率に違いは見られなかった(図7)。
【0214】
結果のまとめ 骨髄に転移した充実性腫瘍の治療における化合物1の有効性を試験した。このモデルでは、PC−3M−luc細胞をヌードマウスの心臓内に接種した。PC−3M−luc細胞は、ルシフェラーゼを安定して移入されたヒト前立腺細胞株である。接種するとき、PC−3−luc細胞は骨も含めて複数臓器に散在した。散在性腫瘍細胞は、Xenogen,Corpから購入可能なin vivo画像化装置を使って可視化した。
【0215】
ヌードマウスの心臓内にPC−3M−luc細胞を1.5×10接種した。接種して4週間後(0日目)に、賦形剤(n=8)、化合物1 50mg/kgを毎日経口で(n=7)、およびタキソール15mg/kgをi.p.(腹腔内)に週に3回(n=7)、投与を開始した。PC−3M−luc細胞株はXenogen社から購入し、マウスの観察にはXenogen社のIVIS(登録商標)画像化システムを使用した。
【0216】
化合物1で治療したマウスは、賦形剤およびタキソールで治療したマウスと比べて、フォトンカウント数の減少の傾向が見られた。マウスの頭部および脚部から発生するフォトンカウント中央値およびグラフを図7に示す。この実験から、化合物1による治療は、骨に散在しているPC−3M−luc細胞の増殖を強力に阻害することがはっきり示された。
【0217】
4T1ネズミの乳房腫瘍モデルにおける化合物1の有効性
以下の試験では、自発転移4T1ネズミ乳房腫瘍モデルにおける化合物1の毎日経口投与の有効性を評価した。
【0218】
9週齢のメスのBALB/cマウス(Charles River,Wilmington,MA)の右脇腹の皮下に2.5×10個の4T1細胞(転移した肝臓小結節由来の細胞)を移植した。治療は平均腫瘍体積が140mmに達してから13日後に開始した。この日を試験1日目とした。化合物1を純水に溶かして液剤とし、毎日1回強制経口投与によって17日間投与した。
【0219】
治療群(n=10/群)は:賦形剤(水)の群と、化合物の投与量が10,30,60,100および150mg/kgの5つの群とした。
【0220】
腫瘍の増殖、試験動物の所見および肺および肝臓への転移数を試験のエンドポイントに含めた。スチューデント検定を使って、治療群と賦形剤の群をペアにして比較評価した。治療群間の違いを比較するには、ノンパラメトリックANOVA(Kruskal−Wallis)と、それにつづいてペア多重比較のためのDunn法とを使用した。試験は、賦形剤群の腫瘍の体積を基にして18日目で終了した。
【0221】
結果のまとめ 治療を開始して4日後までに10mg/kg用量群を除いてすべての群で、一次腫瘍増殖は統計的に有意に阻害された。用量が10、30、60、100および150mg/kgに対する最大腫瘍増殖阻害は、それぞれ32,45,50,74および82%であった(図25、表X)。群の間の比較から、10.30および60mg/kgの用量と150mg/kgの用量レベルとの間の差、および10mg/kg群と100mg/kg群との間の差が明らかになった(p<0.05)。
【0222】
18日目に切除した組織を肉眼で検査し、肺および肝臓への転移数を数えた。賦形剤で治療した対照マウスは、統計的な比較に影響を与えた前の試験(〜50%n減少)で観察された大きさまで肺の腫瘍を進行させなかった。賦形剤に比べて化合物1の投与によって肺への転移は減少し、特に150mg/kg投与群で91%減少した。そして30、60および100mg/kgによる治療では肝臓腫瘍小結節の数が、賦形剤に比べて≧77%減少した(表Y)。
【0223】
(表X 化合物1による4T1一次腫瘍増殖阻害)
【0224】
【化30】

(表Y 17日間投与後の4T1自発性肝臓および肺転移に対する化合物1の有効性)
【0225】
【化31】

要約すると、4T1ネズミ乳房腫瘍モデルにおいて化合物を毎日経口投与する工程の有効性がこの実験で確認された。4日間の治療で有意な一次腫瘍増殖阻害が観察された。化合物1の用量を30、60、100および150mg/kgとした場合、一次腫瘍増殖阻害は、それぞれ45%、50%、74%および82%であった。化合物1による治療は、肺臓および肝臓への自発性転移を有意に阻害した。肝臓への転移の数は、150mg/kgの用量レベルで完全に阻害され、30,60および100mg/kgの用量でも有意に減少した。肺への転移は150mg/kgの用量レベルで統計的に有意に減少した(91%阻害)。
【0226】
考察
腫瘍細胞の増殖に関係する異常な細胞内キナーゼシグナル伝達経路を標的にすることで細胞過程を破壊し、腫瘍の増殖を阻害することができる。このことは、2種類の小分子標的薬、すなわちCML(Bcr−Abl)および胃腸管間質腫瘍(v−KIT)におけるイマチニブ(グリベック)および進行または転移した難治性非小型細胞肺ガン(EGFR)におけるゲフチニブ(イレッサ)の認可によってすでに証明されている。Druker,B.J.,Oncogene,21:8541〜8546(2002); Giaccone G.,Clin.Cancer Res.10:4233S〜4237S(2004)。両化合物は腫瘍細胞の特定の分子欠陥を標的にしており、この成功がFLT3 15,20−23など、その他発ガン性のキナーゼに対する分子標的療法に関する研究を駆り立てている。FLT3遺伝子の変異が、AMLの最も頻度の高い遺伝子の変異であり、患者の35%近くが変異の活性化と関係がある。FT3の変異は、臨床予後が良くないことの要因であることが明らかにされており、そのためFLT3はAMLにおける治療の標的になっている。Thiede C.ほか、Blood,99:4326〜4335(2002);Schnittger S,ほか、Blood,2002;100:59〜66(2002)。
【0227】
化合物1は、腫瘍増殖および血管形成に関与するクラスIII、IVおよびV RTKに対してナノモル量で効力を発揮する複数標的キナーゼインヒビターである。生化学的キナーゼアッセイは、化合物1がFLT3に対して強力な活性を有する(1nMのIC50)。2種類の白血病細胞株における化合物1の活性については、対照をなすFLT3の状態、MV4;11(FLT3 ITD)およびRS4;11(FLT3 WT)でその特徴が現れた。化合物1は用量依存的にFLT3のリン酸化を抑制することが示され、細胞における分子活性が確認された。化合物1は、in vitroで、ともに細胞増殖経路の重要な調節因子であるMAPKおよびSTAT5の細胞分裂関連経路において、後に続く下流シグナル伝達分子をブロックする。細胞に対する細胞毒性/増殖アッセイで化合物1の効果が顕著であったように、FLT3標的変調に対する活性は、MV4;11およびRS4;11細胞において、より顕著に現れたことは興味深い。FLT3−ITDおよび野生型FLT3に対する同様の差別的効果はほかのFLT3インヒビターに対しても報告されている。FLT3 ITD MV4;11は、細胞の増殖を駆動する構成的に活性なグナル(Ras,STAT5)を持っており、FLT3の活性化とは無関係に増殖を持続でき、そして/あるいは別の腫瘍原経路に依拠しているかもしれないFLT3 WT(RS4;11)とは異なっていることが推論できる。Minami Y.ほか、Blood,102:2969〜2975(2003);Kiyoi H.ほか、Oncogene,21:2555〜2563(2002);Spiekermann K.ほか、Clin.Cancer Res.9:2140〜2150(2003)。
【0228】
in vivo試験から得られた結果は、化合物1が、充実性腫瘍および白血病の播種性BMモデルに対して強い活性を有することを示している。臨床前モデルにおける化合物1の分子活性に注目し、標的変調の大きさと持続期間を、PDエンドポイント使って調べた。その結果、化合物1は、MV4;11腫瘍のpFLT3とpERKの両者を大きくダウン調節することがわかった。4時間までに標的(pFLT3)の調節が観察され、その調節は、化合物1の単回または多回投与後、24時間まで腫瘍内で持続した。腫瘍の組織病理から生物学的効果も明白であり、腫瘍におけるpERK、増殖およびアポトーシス応答の減少が薬物治療の1〜2日以内に観察された。MV4;11の充実性腫瘍異種移植の場合、腫瘍の退行も薬物治療を開始して数日以内に顕著になった。MV4;11モデルにおける化合物1の強力な阻害効果は、PLT3の直接阻害に、他のRTKの阻害が組み合わさって生まれる可能性がある。データ(RT−PCR、この明細書には記載しなかった)は、MV4;11が、VEGFR1、cKIT、PDGFRβ、FGFR1、およびCSF−1R、化合物1によって強力に阻害されるすべてのRTKを発現することを示している。化合物1はVEGF1/2/3キナーゼに対して<10nMで活性を示し、データは、化合物1がMV4;11のin vitroの培地において自己分泌VEGFレベルを阻害しうることを明確に示している。in vivoにおいて、腫瘍細胞または腫瘍間質細胞(内皮細胞を含む)による分泌VEGFまたはFGFの自己分泌またはパラクリン阻害が、これらの細胞の増殖および生存を阻害している可能性がある。Ferrara N.ほか、Nat Med.,9:669〜676(2003); Compagni A.ほか、Cancer Res.,60:7163〜7169(2000);Carmeliet P.,Nat Med.,9:653〜660(2003)。充実性腫瘍における化合物1の追加的活性は、血管形成時に血管細胞周辺の補強および血管の成熟に影響を及ぼすことによって、PDGFRβに対する強力な効果から生まれるのかもしれない。Carmeliet P.,Nat. Med.,9:653〜660(2003);Ostman A.Cytokine Growth Factor Rev.,15:275〜286(2004)。われわれは、AML BMモデルで、化合物1がマウスの生存率を高め、一部のマウスでは病気を根絶したことを示す。このことは、化合物1が、直接的な抗増殖効果または骨髄血管形成の調節によって循環芽細胞およびBM疾患の両方を根絶する潜在的能力を持っており、芽細胞の生存に役割を果たすかもしれないことを表わしている。Carow C.E.ほか、Blood,87:1089〜1096(1996);Dexler H.G.,Leukemia,10:588〜599(1996)。
【0229】
化合物1の薬理学および標的阻害の点から、化合物1の断続的投与および周期的投与のスケジュールを検討した。化合物1を交互に投与するスケジュールは、化合物1を毎日投与する方式と似たような活性を示したことから、臨床では柔軟な投与方式が可能であることを示唆している。化合物1を多回投与する工程によって腫瘍の増殖を継続的に抑制することができ、治療を中断したあとで腫瘍が再発しても、薬物による再治療に対する感度(応答)は変わらないことがわかった。キナーゼインヒビターで治療した場合、AML患者のなかには、治療を持続していても症状がぶり返すことがあるため、このような知見は、臨床の現場に移した場合に重要である。Fiedler W.ほか、Blood,(2004);Cools J.ほか、Cancer Res.64:6385〜6389(2004)。代謝あるいは(P−糖タンパクのような薬物輸送体の発現を経由する)細胞の流出を含む複数の機構、あるいは薬物の結合を妨害する酵素活性部位のATP結合ドメインにおける変異が、キナーゼインヒビターと相互関連していることが明らかにされている。Bagrintseva K.ほか、Blood,103:2266〜2275(2004);Grundler R.ほか、Blood,102:646〜651(2003)。化合物1はP−GP基質ではなく、薬物治療過程を通して応答が永続的であるということは、化合物1を使うことで、抵抗性の発現が回避できるかもしれないことを暗示している。
【0230】
AMLに対するFLT3インヒビター(SU11248 PKC412、CEP−701、MLN518)の臨床に向けた開発はまだ初期の段階にある。O‘Farrell A.M.ほか、Clin.Cancer Res.9:5465〜5476(2003);Fiedler W.ほか、Blood(2004);Stone R.M.ほか、Ann.Hematol.83 Suppl.1:S89〜90(2004);Smith B.D.ほか、Blood,103:3669〜3676(2004);DeAngelo D.J.ほか、Blood,102:65a(2003)。単一薬剤による治療を選択することでは未だに十分な応答は得られていないし、AMLにおけるFLT3インヒビターの今後の臨床的な進展もこれらの薬剤と、細胞毒薬物か、別の分子標的薬剤とを組み合わせて使用することに頼ることになるのかもしれない。AMLの病態発生に役割を演じていることがわかっているRTKに対して追加的な活性を有する強力なFLT3インヒビターである化合物1について本明細書に報告したデータはその臨床的評価を保証する。
【0231】
構造Iの別の化合物、たとえば構造IBおよびICは上記と同様に合成した。これらの化合物を使用する試験は、4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]−1H−キノリン−2−オンに対して上に記載した方法を使って実施される。これらの試験は、これらの化合物もまた、マウス、ヒトおよびその他の哺乳動物の被験体における、血液学的腫瘍を含め、転移した腫瘍の治療に有用であることを明らかにするであろう。
【0232】
これによって、すべての文献あるいは参照文献は、参照することにより、ここに完全に記述されたものとして、その全体があらゆる目的のために、ここに組み込まれる。
【0233】
本発明は図解のためにここに記述した実施形態に限定されるものではなく、本明細書の範囲に入るものとして、あらゆるそのような形態を包含することが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0234】
【図1】KMC−11−luc細胞を注射し、4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]キノリン−2(1H)−オン(20mg/kg/日)で治療したSCIDベージュマウスが、賦形剤で治療を受けた対照群と比較して、大幅に低いフォトン平均カウント数を示したことを示すグラフである。
【図2】SICD−NODマウスのヒトMV4;11またはRS4;11白血病性腫瘍の皮下異種間移植モデルにおける4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]キノリン−2(1H)−オン(化合物1)の抗腫瘍活性を示すグラフである。(図2)MV4;11細胞または(図3)RS4;11細胞をSICD−NODマウス(n=10/群)の右横腹に皮下的に移植した。MV4;11の実験では、腫瘍が〜300mmになったときに、賦形剤(白抜き菱形)または化合物Iを1(黒塗り円)、5(黒塗り三角形)または30(黒塗り四角形)mg/kg/日の用量で15日間経口投与した。RS4;11の実験では、腫瘍が〜300mmになったときに、賦形剤(白抜き菱形)または化合物Iを10(黒塗り三角形)、30(黒塗り四角形)、100(黒塗り菱形)または150(黒塗り円)mg/kg/日の用量で8日間経口投与した。
【図3】SICD−NODマウスのヒトMV4;11またはRS4;11白血病性腫瘍の皮下異種間移植モデルにおける4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]キノリン−2(1H)−オン(化合物1)の抗腫瘍活性を示すグラフである。(図2)MV4;11細胞または(図3)RS4;11細胞をSICD−NODマウス(n=10/群)の右横腹に皮下的に移植した。MV4;11の実験では、腫瘍が〜300mmになったときに、賦形剤(白抜き菱形)または化合物Iを1(黒塗り円)、5(黒塗り三角形)または30(黒塗り四角形)mg/kg/日の用量で15日間経口投与した。RS4;11の実験では、腫瘍が〜300mmになったときに、賦形剤(白抜き菱形)または化合物Iを10(黒塗り三角形)、30(黒塗り四角形)、100(黒塗り菱形)または150(黒塗り円)mg/kg/日の用量で8日間経口投与した。
【図4】SICD−NODマウスのヒトMV4;11またはRS4;11白血病性腫瘍の皮下異種間移植モデルにおける4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]キノリン−2(1H)−オン(化合物1)の抗腫瘍活性を示すグラフである。(図4)化合物Iを毎日、断続的および周期的に投与する方式がMV4;11腫瘍の有効性に与える効果。化合物Iを毎日(黒塗り四角形)、一日おきに/q.o.d.(黒塗り円)、または周期的に7日間つづけて投与し、7日間休止する方式(×)で30mg/kgを経口投与した。
【図5】SICD−NODマウスのヒトMV4;11またはRS4;11白血病性腫瘍の皮下異種間移植モデルにおける4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]キノリン−2(1H)−オン(化合物1)の抗腫瘍活性を示すグラフである。(図5)化合物Iは、大きくなったMV4;11腫瘍の退行を誘起する。MV4;11の皮下腫瘍(n=マウス10匹/群)の病期を300(黒塗り三角形)、500(黒塗り四角形)または1000(黒塗り円)mmの段階に分類した。デ―タは、腫瘍体積平均値±SE(n=マウス10匹/群)で表わした。
【図6】4−アミノ−5−フルオロ−3−[6−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]キノリン−2(1H)−オン(化合物1)が、静脈内MV4;11細胞を持つSICD−NODマウスの生存を引き延ばすことを示すグラフである。照射したSCID−NODマウスにMV4;11(1×107個の細胞、i.v.)をi.v.に注入、移植した。23日目に治療を開始し、23日目から98日目まで、賦形剤(黒塗り菱形)または化合物1を毎日20mg/kg(黒塗り三角形)経口投与するか、7日間投与し、それから7日間休止する(黒塗り四角形)というスケジュールで経口投与した。早期にうしろ足の麻痺の徴候が見られる、または健康状態の悪いマウスを安楽死させた。図6は、Kaplan−Meierの生存百分率を時間に対してプロットしたものである(n=マウス10〜12匹/群)。
【図7】PC−3M−luc細胞を封入し、それから賦形剤、タキソール、または化合物1で治療したヌードマウスの腹部、頭部および足の部位から発するフォトン(光子)の数(ログ・スケールで)をそれぞれ計測した結果を示すグラフである。グラフから、化合物1(154258)で治療するとPC−3M−lucフォトンの数が抑制され、骨に広がったPC−3M−luc細胞の増殖が抑制される傾向を示したことがわかる。
【図8】腫瘍の体積を治療日に対してプロットしたグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転移した腫瘍を持つ被験体を治療する方法であって、該方法は、構造式I
【化1】

の化合物、該化合物の互変異性体、該化合物の医薬的に許容される塩、該互変異性体の医薬的に許容される塩、またはそれらの混合物を被験体に投与する工程を包含し、式中、Aは次の構造
【化2】

の一つを有する基であり、ここで、
は、1ないし6個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖アルキル基から選択され、
さらに、該転移した腫瘍の増殖が、構造Iの化合物、該化合物の互変異性体、該化合物の医薬的に許容される塩、該互変異性体の医薬的に許容される塩、またはそれらの混合物を該被験体に投与したあとで、阻害される、
方法。
【請求項2】
がメチル基であり、構造Iの化合物が構造IA
【化3】

を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化合物を全身投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
さらに、第二の物質を前記被験体に投与する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
構造Iの化合物の乳酸塩またはその互変異性体を被験体に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記腫瘍が多発性骨髄腫であり、前記被験体がt(4;14)染色体の転座を持つ多発性骨髄腫患者である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記腫瘍が多発性骨髄腫であり、前記被験体が多発性骨髄腫患者であり、そして該多発性骨髄腫が線維芽細胞増殖因子レセプター3を発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記腫瘍が多発性骨髄腫であり、前記被験体が多発性骨髄腫患者であり、そして該多発性骨髄腫が該患者の骨に転移している、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第二の物質が骨粗鬆症の治療を対象としている、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記腫瘍が多発性骨髄腫であり、前記被験体が多発性骨髄腫患者であり、そして該患者がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記腫瘍が急性骨髄性白血病であり、前記被験体が急性骨髄性白血病患者である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記腫瘍が血液学的な腫瘍である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記腫瘍が充実性腫瘍である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記腫瘍が前記被験体の骨に転移している、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記被験体が乳ガン、前立腺ガン、肝臓ガンまたは肺ガンに罹っていて、そして/または前記腫瘍が乳ガン、前立腺ガン、肝臓ガンまたは肺ガンから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記腫瘍が前立腺ガンであり、前記被験体が前立腺ガン患者である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記腫瘍が前立腺ガンであり、前記被験体が前立腺ガンの患者であり、そして該前立腺ガンが該患者の骨に転移している、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記第二の物質がビスホスホネートである、請求項9に記載の方法。
【請求項19】
前記腫瘍が前立腺ガンであり、前記被験体が前立腺ガンの患者であり、そして該患者がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記被験体がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記第二の物質が抗ガン剤である、請求項4に記載の方法。
【請求項22】
構造Iの化合物が経口投与される、請求項3に記載の方法。
【請求項23】
構造式I
【化4】

の化合物、該化合物の互変異性体、該化合物の医薬的に許容される塩、該互変異性体の医薬的に許容される塩、またはそれらの混合物の、被験体の転移したガンを治療するための医薬の製造における使用であって、式中、
Aは次の構造
【化5】

の一つを有する基であり、ここで、
は、1ないし6個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖アルキル基から選択され、
さらに、該患者の転移した腫瘍の増殖が、構造Iの化合物、該化合物の互変異性体、該化合物の医薬的に許容される塩、該互変異性体の医薬的に許容される塩、またはそれらの混合物を該被験体に投与したあとで、阻害される、
使用。
【請求項24】
がメチル基であり、構造Iの化合物が構造式IA
【化6】

を有する、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
前記医薬がさらに第二の物質を含む、請求項23に記載の使用。
【請求項26】
構造Iの化合物の乳酸塩またはその互変異性体が前記医薬の製造に使用される、請求項23に記載の使用。
【請求項27】
前記ガンが多発性骨髄腫であり、前記被験体がt(4;14)染色体が転座した多発性骨髄腫患者である、請求項23〜26のいずれか一つに記載の使用。
【請求項28】
前記ガンが多発性骨髄腫であり、前記被験体が多発性骨髄腫患者であり、そして該多発性骨髄腫が線維芽細胞増殖因子レセプター3を発現する、請求項23〜26のいずれか一つに記載の使用。
【請求項29】
前記ガンが多発性骨髄腫であり、前記被験体が多発性骨髄腫患者であり、そして該多発性骨髄腫が該患者の骨に転移している、請求項23〜26に記載の使用。
【請求項30】
前記ガンが多発性骨髄腫であり、前記被験体が多発性骨髄腫患者であり、そして該患者がヒトである、請求項23〜26のいずれか一つに記載の使用。
【請求項31】
前記ガンが急性骨髄性白血病であり、前記被験体が急性骨髄性白血病患者である、請求項23〜26のいずれか一つに記載の使用。
【請求項32】
前記ガンが血液学的な腫瘍である、請求項23〜26のいずれか一つに記載の使用。
【請求項33】
前記ガンが充実性腫瘍である、請求項23〜26のいずれか一つに記載の使用。
【請求項34】
前記ガンが前記被験体の骨に転移している、請求項23に記載の使用。
【請求項35】
前記被験体が乳ガン、前立腺ガン、肝臓ガンまたは肺ガンを罹っており、そして/または前記ガンが乳ガン、前立腺ガン、肝臓ガンまたは肺ガンから選択される、請求項23〜26のいずれか一つに記載の使用。
【請求項36】
前記ガンが前立腺ガンであり、前記被験体が前立腺ガン患者である、請求項23〜26のいずれか一つに記載の使用。
【請求項37】
前記ガンが前立腺ガンであり、前記被験体が前立腺ガンの患者であり、そして該前立腺ガンが該患者の骨に転移している、請求項23〜26のいずれか一つに記載の使用。
【請求項38】
前記ガンが前立腺ガンであり、前記被験体が前立腺ガンの患者であり、そして該患者がヒトである、請求項23〜26のいずれか一つに記載の使用。
【請求項39】
前記第二の物質が骨粗鬆症の治療を対象としている、請求項25に記載の使用。
【請求項40】
前記第二の物質がビスホスホネートである、請求項39に記載の使用。
【請求項41】
前記第二の物質が抗ガン剤である、請求項25に記載の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公表番号】特表2008−528617(P2008−528617A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−553278(P2007−553278)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【国際出願番号】PCT/US2006/002979
【国際公開番号】WO2006/081445
【国際公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(507251918)ノバルティス ヴァクシンズ アンド ダイアグノスティクス インコーポレイテッド (17)
【Fターム(参考)】