説明

軸受取付構造及び車両用過給機

【課題】過給機ラジアル軸受のフローティングメタルに偏摩耗が発生することを抑えて、フローティングメタルの支持性能を高めること。
【解決手段】第1リア止め輪71の合口部71f及び第2リア止め輪73の合口部73fの周方向位置が同じ位置に設定され、第1リア止め輪71の合口部71f及び第2リア止め輪73の合口部73fの周方向位置が鉛直上方位置からロータ軸17の回転方向Dの反対側に30〜90度ずれた位置に設定されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用過給機等の過給機に用いられ、かつ軸受ハウジングにおける支持ブロックの設置穴にロータ軸を回転可能に支持するラジアル軸受を取付けるための軸受取付構造等に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用過給機は、内側に支持ブロックを有しかつ支持ブロックに水平方向へ延びた設置穴が貫通形成された軸受ハウジングと、支持ブロックの設置穴に設けられたラジアル軸受と、ラジアル軸受に回転可能に支持されたロータ軸と、ロータ軸の一端部に一体的に連結されかつ遠心力を利用して空気等のガスを圧縮するコンプレッサインペラと、ロータ軸の他端部に一体的に連結されかつ排気ガス等のガスの圧力のエネルギーを利用して回転力を発生させるタービンインペラとを備えている。
【0003】
車両用過給機において、ロータ軸を回転可能に支持するラジアル軸受(タービンインペラ側のラジアル軸受)を支持ブロックの設置穴に取付けるための軸受取付構造が用いられており、通常の軸受取付構造の構成について簡単に説明すると、次のようになる。
【0004】
支持ブロックの設置穴の内周面には、第1リング溝が形成されており、支持ブロックの設置穴の内周面における第1リング溝よりもタービンインペラ側には、第2リング溝が形成されている。また、第1リング溝には、ラジアル軸受の軸方向の一方側の移動(換言すれば、タービンインペラ側の反対側の移動)を規制する第1止め輪がその弾性力によって圧接して設けられている。更に、第2リング溝には、ラジアル軸受の軸方向の他方側の移動(換言すれば、タービンインペラ側の移動)を規制する第2止め輪がその弾性力によって圧接して設けられている。
【0005】
なお、本発明に関連する先行技術として特許文献1に示すものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−121273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、車両用過給機の運転中にロータ軸とラジアル軸受の摺動部を潤滑するため、通常、重力を利用してラジアル軸受の上側から潤滑油を給油しており、給油された潤滑油は、次のような挙動を有していると考えられる。
【0008】
即ち、図5(a)(b)に示すように、止め輪(例えば第2止め輪)の合口部の周方向位位置が鉛直上方位置UP付近(鉛直上方位置UPを含む)に設定されると、止め輪の合口部が潤滑油Gの給油位置FPに近くなって、給油された直後の潤滑油Gが止め輪の合口部からラジアル軸受の外側へ流出し易くなる。また、図6(a)(b)に示すように、止め輪(例えば第2止め輪)の合口部の周方向位置が鉛直下方位置DP付近(鉛直下方位置DPを含む)に設定されると、重力によりラジアル軸受の下側付近に溜まった潤滑油Gが止め輪の合口部からラジアル軸受の外側へ流出し易くなる。一方、止め輪の合口部の周方向位置が鉛直上方位置UPと鉛直下方位置DPとの中央位置付近(中央位置を含む)に設定されると、鉛直上方位置UP付近又は鉛直下方位置DP付近に設定された場合に比べて、潤滑油Gが止め輪の合口部からラジアル軸受の外側へ流出し難くなる。つまり、止め輪の合口部の周方向位置によってラジアル軸受の外側への潤滑油Gの流出量が変化するという現象が生じるものと考えられる。
【0009】
前述の車両用過給機の運転中における潤滑油の挙動を考慮しないで、図7(a)(b)(c)に示すように、第1止め輪の合口部及び第2止め輪の合口部の周方向位置が異なった位置に設定されると、ラジアル軸受の中央部(軸方向の中央部)の上側位置(給油位置FP)から潤滑油Gが給油された場合でも、ラジアル軸受の両側(軸方向の両側)から流出する潤滑油Gの流出量、換言すれば、ラジアル軸受の両側に作用する潤滑油Gの油圧に差が生じることなる。また、ラジアル軸受の両側に作用する潤滑油Gの油圧に差によってラジアル軸受に軸方向の荷重が生じる。そのため、ラジアル軸受の両側に作用する潤滑油Gの油圧の差が大きくなると、ラジアル軸受に軸方向の荷重によって偏摩耗(側面摩耗)が発生して、支持ブロックの設置穴に対するラジアル軸受のがたつきが大きくなり、ラジアル軸受の支持性能が低下するという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、前述の問題を解決するため、過給機の運転中における潤滑油の挙動を考慮した新規な構成の軸受取付構造等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の特徴は、内側に支持ブロックを有しかつ前記支持ブロックに水平方向へ延びた設置穴が貫通形成された軸受ハウジングと、前記支持ブロックの前記設置穴に設けられたラジアル軸受と、前記ラジアル軸受に回転可能に支持されたロータ軸と、前記ロータ軸の端部に一体的に連結されたインペラとを備えた過給機に用いられ、前記ロータ軸を回転可能に支持する前記ラジアル軸受を前記支持ブロックの前記設置穴に取付けるための軸受取付構造において、前記支持ブロックの前記設置穴の内周面に第1リング溝が形成され、前記支持ブロックの前記設置穴の内周面における前記第1リング溝よりも前記インペラ側に第2リング溝が形成され、前記第1リング溝に前記ラジアル軸受の軸方向の一方側の移動を規制する第1止め輪がその弾性力によって圧接して(圧接した状態で)設けられ、前記第2リング溝に前記ラジアル軸受の前記軸方向の他方側の移動を規制する第2止め輪がその弾性力によって圧接して設けられ、前記第1止め輪の合口部(合口部の中心)及び前記第2止め輪の合口部(合口部の中心)の周方向位置(円周方向の角度位置)が同じ位置に設定され、前記第1止め輪の合口部及び前記第2止め輪の合口部の周方向位置が鉛直下方位置から前記ロータ軸の回転方向の反対側に30〜90度ずれた位置に設定されていることを要旨とする。
【0012】
なお、本願の明細書及び特許請求の範囲において、「インペラ」とは、排気ガス等のガスの圧力のエネルギーを利用して回転力を発生させるタービンインペラ、遠心力を利用して空気等のガスを圧縮するコンプレッサインペラを含む意である。また、「軸方向」とは、ロータ軸の軸方向のことをいう。更に、「周方向位置が同じ位置」とは、±3度の誤差を許容する意である。
【0013】
第1の特徴によると、前記第1止め輪の合口部及び前記第2止め輪の合口部の周方向位置が同じ位置に設定されているため、前記ラジアル軸受の中央部(前記軸方向の中央部)の上側から潤滑油が給油された場合において、前記ラジアル軸受の両側(前記軸方向の両側)から流出する潤滑油の流出量、換言すれば、前記ラジアル軸受の両側に作用する潤滑油の油圧を差を極力小さくすることができる。これにより、前記過給機の運転中に前記ラジアル軸受に生じる前記軸方向の荷重を低減することができる。
【0014】
前記第1止め輪の合口部及び前記第2止め輪の合口部の周方向位置が鉛直下方位置から前記ロータ軸の回転方向の反対側に30度以上ずれた位置に設定されているため、前記第1止め輪の合口部及び前記第2止め輪の合口部を前記ラジアル軸受の下側位置から遠ざけることができる。これにより、重力により前記ラジアル軸受の下側付近に溜まった潤滑油が前記第1止め輪の合口部又は前記第2止め輪の合口部から前記ラジアル軸受の外側へ流出することを抑えることができる。
【0015】
前記第1止め輪の合口部及び前記第2止め輪の合口部の周方向位置が鉛直下方位置から前記ロータ軸の回転方向の反対側に90度を超えてずれないように設定されているため、前記第1止め輪の合口部及び前記第2止め輪の合口部を前記ラジアル軸受の上側位置(通常の給油位置)から遠ざけると共に、前記ラジアル軸受の下側位置(鉛直下方位置)から前記第1止め輪の合口部及び前記第2止め輪の合口部まで前記ロータ軸の回転方向に沿った距離(連れ回り距離)を長くすることができる。これにより、潤滑油が前記ラジアル軸受の上側位置から給油された直後に第1止め輪の合口部又は第2止め輪の合口部から前記ラジアル軸受の外側へ流出することを抑えることができると共に、重力により前記ラジアル軸受の下側付近に溜まった潤滑油が前記ロータ軸の回転による連れ回りによって前記第1止め輪の合口部又は前記第2止め輪の合口部から前記ラジアル軸受の外側へ流出することを抑えることができる。
【0016】
本発明の第2の特徴は、エンジンからの排気ガスのエネルギーを利用して、前記エンジン側に供給される空気を過給する車両用過給機において、第1の特徴からなる軸受取付構造を備えたことを要旨とする。
【0017】
なお、第2の特徴によると、第1の特徴による作用と同様の作用を奏する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、前記ラジアル軸受の中央部の上側から潤滑油が給油された場合において、前記過給機の運転中に前記ラジアル軸受に生じる前記軸方向の荷重を低減できるため、前記ラジアル軸受に偏摩耗(側面摩耗)が発生することを抑えて、前記支持ブロックの前記設置穴に対する前記ラジアル軸受のがたつきを十分に低減して、前記ラジアル軸受の支持性能を高めることができる。
【0019】
また、潤滑油が前記第1止め輪の合口部又は前記第2止め輪の合口部から前記ラジアル軸受の外側へ流出することを抑えることができるため、前記軸受ハウジング側から前記インペラ側への潤滑油の漏れを十分に防止して、前記過給機のシール性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、図4における矢視部Iの拡大図である。
【図2】図2は、図4における矢視部IIの拡大図である。
【図3】図3(a)は、ロータ軸の軸心から見た第2止め輪を示す図、図3(b)は、ロータ軸の軸心から見た第1止め輪を示す図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態に係る車両用過給機の側断面図である。
【図5】図5は、車両用過給機の運転中における潤滑油の挙動を説明する図であって、図5(a)は、ロータ軸の軸心から見た第2止め輪を示す図、図5(b)は、支持ブロック周辺の側断面図である。
【図6】図6(a)(b)は、車両用過給機の運転中における潤滑油の挙動を説明する図であって、図6(a)は、ロータ軸の軸心から見た第2止め輪を示す図、図6(b)は、支持ブロック周辺の側断面図である。
【図7】図7は、発明が解決しようとする課題を説明する図であって、図7(a)は、ロータ軸の軸心から見た第2止め輪を示す図、図7(b)は、支持ブロック周辺の側断面図、図7(c)は、ロータ軸の軸心から見た第1止め輪を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態について図1から図4を参照して説明する。なお、図面中、「FF」は、前方向、「FR」は、後方向、「U」は、鉛直上方、「D」は、鉛直下方をそれぞれ指してある。
【0022】
を指してある。
【0023】
図1、図2、及び図4に示すように、本発明の実施形態に係る車両用過給機1は、エンジン(図示省略)からの排気ガスのエネルギーを利用して、エンジンに供給される空気を過給(圧縮)するものである。そして、車両用過給機1の具体的な構成等は、以下のようになる。
【0024】
車両用過給機1は、軸受ハウジング3を備えており、この軸受ハウジング3は、内側に、支持ブロック5を有しており、この支持ブロック5には、前後方向(水平方向の1つ)に延びた設置穴7が貫通形成されている。なお、支持ブロック5は、軸受ハウジング3の内部の一部分を構成している。
【0025】
支持ブロック5の設置穴7内には、ラジアル軸受の一例として一対のフローティングメタル(フローティング軸受)9,11が前後方向に離隔して設けられており、各フローティングメタル9(11)は、支持ブロック5の設置穴7に対して回転可能である。また、各フローティングメタル9(11)の前後方向の中央部には、複数の通孔13(15)が周方向に間隔を置いて貫通形成されている。また、一対のフローティングメタル9には、前後方向へ延びたロータ軸(タービン軸)17が回転可能に支持されており、換言すれば、支持ブロック5には、ロータ軸17が一対のフローティングメタル9,11を介して回転可能に支持されている。
【0026】
ロータ軸17の前端部(一端部)には、遠心力を利用して空気を圧縮するコンプレッサインペラ19を一体的に連結されており、軸受ハウジング3の後側には、コンプレッサインペラ19を収容するコンプレッサハウジング21が設けられている。そして、コンプレッサハウジング21におけるコンプレッサインペラ19の入口側(コンプレッサハウジング21の後側)には、空気を取入れる空気取入口23が形成されている。また、コンプレッサハウジング21の内部におけるコンプレッサインペラ19の出口側には、渦巻き状のコンプレッサスクロール流路25が形成されている。更に、コンプレッサハウジング21の適宜位置には、圧縮された空気(圧縮空気)を排出する空気排出口27が形成されており、この空気排出口27は、コンプレッサスクロール流路25に連通してある。
【0027】
ロータ軸17の後端部(他端部)には、排気ガスの圧力エネルギーを利用して回転力(回転トルク)を発生させるタービンインペラ29が一体的に連結されており、軸受ハウジング3の前側には、タービンインペラ29を収容するタービンハウジング31が設けられている。そして、タービンハウジング31の適宜位置には、排気ガスを取入れるガス取入口33が形成されている。また、タービンハウジング31の内部におけるタービンインペラ29の入口側には、渦巻き状のタービンスクロール流路35が形成されており、このタービンスクロール流路35は、ガス取入口33に連通してある。更に、タービンハウジング31におけるタービンインペラ29の出口側(タービンハウジング31の後側)には、排気ガスを排出するガス排出口37が形成されている。
【0028】
ロータ軸17におけるコンプレッサインペラ19側には、環状のスラストカラー39が一体的に設けられている。そして、軸受ハウジング3におけるスラストカラー39の前側には、ロータ軸17に作用する前方向(ロータ軸17の軸方向の一方側)のスラスト荷重をスラストカラー39を介して負担(支持)する環状のスラスト軸受41が設けられている。また、軸受ハウジング3におけるスラストカラー39の後側には、ロータ軸17に作用する後方向(ロータ軸17の軸方向の他方側)のスラスト荷重をスラストカラー39を介して負担(支持)する環状のスラスト軸受43が設けられている。更に、ロータ軸17におけるコンプレッサインペラ19とスラストカラー39の間には、油切り45が一体的に設けられている。
【0029】
軸受ハウジング3の上部には、潤滑油Gを取入れる給油口(油取入口)47が形成されている。また、支持ブロック5(軸受ハウジング3の内部)には、各フローティングメタル9(11)とロータ軸17の摺動部及び各スラスト軸受41(43)とスラストカラー39の摺動部に潤滑油Gを給油するための給油通路49が形成されており、この給油通路49は、給油口47に連通してある。ここで、各フローティングメタル9(11)の前後方向の中央部の上側位置(通孔13(15)の上側位置)、及びスラスト軸受41の径方向の中央部の後側位置は、潤滑油Gの給油位置FPになっている。
【0030】
支持ブロック5の下部には、各フローティングメタル9(11)とロータ軸17の摺動部等を潤滑した潤滑油Gを排油するための排油穴51が形成されている。また、軸受ハウジング3内における支持ブロック5の下方には、各フローティングメタル9(11)のロータ軸17の摺動部等を潤滑した潤滑油Gを受容する受容室(空洞部)53が形成されており、この受容室53は、排油穴51に連通してある。更に、軸受ハウジング3の下部には、潤滑油Gを軸受ハウジング3の外側へ排油する排油口55が形成されており、この排油口55は、受容室53に連通してある。
【0031】
軸受ハウジング3の前側部には、環状のシールプレート57が油切り45を囲むように設けられている。また、シールプレート57の内周面と油切り45の外周面との間には、軸受ハウジング3側からコンプレッサインペラ19側への潤滑油Gの漏れ及びコンプレッサインペラ19側から軸受ハウジング3側への空気(圧縮空気)の漏れを抑制する複数のフロントシールリング59が設けられている。
【0032】
軸受ハウジング3の後側部には、ロータ軸17を嵌挿可能な嵌挿穴61が形成されている。また、軸受ハウジング3の嵌挿穴61の内周面とロータ軸17の外周面との間には、軸受ハウジング3側からタービンインペラ29側への潤滑油Gの漏れ及びタービンインペラ29側から軸受ハウジング3側への排気ガスの漏れを抑制する複数のリアシールリング63が設けられている。
【0033】
図1に示すように、車両用過給機1は、ロータ軸17を回転可能に支持するタービンインペラ29側のフローティングメタル11を取付けるためのリア軸受取付構造65を備えており、このリア軸受取付構造65の具体的な構成は、次のようになる。
【0034】
支持ブロック5の設置穴7の内周面には、第1リアリング溝67が形成されている。また、支持ブロック5の設置穴7の内周面における第1リアリング溝67よりも後側(タービンインペラ29側)には、第2リアリング溝69が形成されている。
【0035】
第1リアリング溝67には、フローティングメタル11の前方向(軸方向の一方側)の移動を規制する第1リア止め輪71がその弾性力によって圧接して(圧接した状態で)設けられている。また、図3(b)に示すように、第1リア止め輪71の両端には、径方向外側へ突出した突起部(第1突起部)71pがそれぞれ形成されており、第1リア止め輪71の合口部71fの反対側の部位及び第1リア止め輪71の一対の突起部71pが第1リアリング溝67の底面に局所的に圧接するようになっている。
【0036】
第2リアリング溝69には、フローティングメタル11の後方向(軸方向の他方側)の移動を規制する第2リア止め輪73がその弾性力によって圧接して設けられている。また、図3(a)に示すように、第2リア止め輪73の両端には、径方向外側へ突出した突起部(第2突起部)73pがそれぞれ形成されており、第2リア止め輪73の合口部73fの反対側の部位及び第2リア止め輪73の一対の突起部73pが第2リアリング溝69の底面に局所的に圧接するようになっている。
【0037】
図3(a)(b)に示すように、第1リア止め輪71の合口部71f(合口部71fの中心)及び第2リア止め輪73の合口部73f(合口部73の中心)の周方向位置(円周方向の角度位置)は、同じ位置に設定されている。また、第1リア止め輪71の合口部71f及び第2リア止め輪73の合口部73fの周方向位置は、鉛直上方位置からロータ軸17の回転方向Dの反対側に30〜90度、好ましくは、40〜60度ずれた位置に設定されている。
【0038】
ここで、第1リア止め輪71の合口部71f及び第2リア止め輪73の合口部73fのずれ角度を30度以上にしたのは、30度未満であると、第1リア止め輪71の合口部71f及び第2リア止め輪73の合口部73fが鉛直下方位置DPが近くなるからである。一方、第1リア止め輪71の合口部71f及び第2リア止め輪73の合口部73fのずれ角度を90度以下にしたのは、90度を超えると、第1リア止め輪71の合口部71f及び第2リア止め輪73の合口部71fがフローティングメタル11の上側位置(給油位置FP)に近くなると共に、フローティングメタル11の下側位置(鉛直下方位置DP)から第1リア止め輪71の合口部71f及び第2リア止め輪73の合口部73fまでロータ軸17の回転方向に沿った距離(連れ回り距離)が短くなるからである。
【0039】
図2に示すように、車両用過給機1は、ロータ軸17を回転可能に支持するコンプレッサインペラ19側のフローティングメタル9を取付けるためのフロント軸受取付構造75を備えており、このフロント軸受取付構造75の具体的な構成は、次のようになる。
【0040】
支持ブロック5の設置穴7の内周面おける第1リアリング溝67よりも前側には、フロントリング溝77が形成されている。また、フロントリング溝77には、フローティングメタル9の後方向の移動を規制するフロント止め輪79がその弾性力によって圧接して設けられている。更に、フローティングメタル9は、スラスト軸受43によって前方向の移動が規制されており、換言すれば、スラスト軸受43は、フローティングメタル9の前方向の移動を規制する規制部材としてフロント軸受取付構造75の一部を構成している。
【0041】
スラスト軸受43がフロント軸受取付構造75の一部を構成する代わりに、支持ブロック5の設置穴7の内周面おけるフロントリング溝77よりも前側に別のフロントリング溝(図示省略)が形成され、別のフロントリング溝にフローティングメタル9の前方向の移動を規制する別のフロント止め輪(図示省略)がその弾性力によって圧接して設けられるようにしても構わない。この場合には、リア軸受取付構造65と同様に、フロント止め輪79の合口部(図示省略)及び別のフロント止め輪の合口部(図示省略)の周方向位置は、同じ位置に設定され、フロント止め輪79の合口部及び別のフロント止め輪の合口部の周方向位置は、鉛直上方位置からロータ軸17の回転方向Dの反対側に30〜90度ずれた位置に設定されることが望ましい。
【0042】
続いて、本発明の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0043】
(車両用過給機1の通常の作用)
ガス取入口33から取入れた排気ガスをタービンスクロール流路35を経由してタービンインペラ29の入口側から出口側(排気ガスの流れ方向から見て上流側から下流側)へ流通させることにより、排気ガスの圧力エネルギーを利用して回転力(回転トルク)を発生させて、ロータ軸17及びコンプレッサインペラ19をタービンインペラ29と一体的に回転させることができる。これにより、空気取入口23から取入れた空気を圧縮して、コンプレッサスクロール流路25を経由して空気排出口27から排出することができ、エンジンに供給される空気を過給することができる(車両用過給機1の通常の運転動作)。
【0044】
車両用過給機1の運転中に、給油口47から潤滑油Gを取入れることにより、給油通路49を経由して各フローティングメタル9(11)とロータ軸17の摺動部及び各スラスト軸受41(43)とスラストカラー39の摺動部に潤滑油Gを給油する。これにより、各フローティングメタル9(11)とロータ軸17の摺動部等を潤滑して、各フローティングメタル9(11)とロータ軸17等の焼き付け等を防止することができる。一方、各フローティングメタル9(11)とロータ軸17の摺動部等を潤滑した潤滑油Gは、排油穴51等から流出して、受容室53を経由して排油口55から軸受ハウジング3の外側へ排油される。
【0045】
(リア軸受取付構造65の作用)
第1リア止め輪71の合口部71f及び第2リア止め輪73の合口部73fの周方向位置が同じ位置に設定されているため、フローティングメタル11における前後方向(ロータ軸17の軸方向)の中央部の上側位置(給油位置FP)から潤滑油Gが給油された場合において、フローティングメタル11における前後方向の両側から流出する潤滑油Gの流出量、換言すれば、フローティングメタル11における前後方向の両側に作用する潤滑油Gの油圧を差を極力小さくすることができる。これにより、車両用過給機1の運転中にフローティングメタル11に生じる前後方向の荷重を低減することができる。
【0046】
第1リア止め輪71の合口部71f及び第2リア止め輪73の合口部73fの周方向位置が鉛直下方位置DPからロータ軸17の回転方向Sの反対側に30度以上ずれた位置に設定されているため、第1リア止め輪71の合口部71f及び第2リア止め輪73の合口部73fをフローティングメタル11の下側位置(鉛直下方位置DP)から遠ざけることができる。これにより、重力によりフローティングメタル11の下側付近に溜まった潤滑油Gが第1リア止め輪71の合口部71f又は第2リア止め輪73の合口部73fからフローティングメタル11の外側へ流出することを抑えることができる。
【0047】
第1リア止め輪71の合口部71f及び第2リア止め輪73の合口部73fの周方向位置が鉛直下方位置DPからロータ軸17の回転方向Sの反対側に90度を超えてずれないように設定されているため、第1リア止め輪71の合口部71f及び第2リア止め輪73の合口部73fをフローティングメタル11の上側位置(通常の給油位置)から遠ざけると共に、フローティングメタル11の下側位置(鉛直下方位置DP)から第1リア止め輪71の合口部71f及び第2リア止め輪73の合口部73fまでロータ軸17の回転方向Sに沿った距離(連れ回り距離)を長くすることができる。これにより、潤滑油Gがフローティングメタル11の上側位置(給油位置FP)から給油された直後に第1リア止め輪71の合口部71f又は第2リア止め輪73の合口部73fからフローティングメタル11の外側へ流出することを抑えることができると共に、重力によりフローティングメタル11の下側付近に溜まった潤滑油Gがロータ軸17の回転による連れ回りによって第1リア止め輪71の合口部71f又は第2リア止め輪73の合口部73fからフローティングメタル11の外側へ流出することを抑えることができる。
【0048】
第1リア止め輪71の合口部71fの反対側の部位及び第1リア止め輪71の一対の突起部71pが第1リアリング溝67の底面に局所的に圧接するようになっているため、第1リア止め輪71と第1リアリング溝67の底面との間の面圧(接触圧)を大きくすることができる。同様に、第2リア止め輪73の合口部73fの反対側の部位及び第2リア止め輪73の一対の突起部73pが第2リアリング溝69の底面に局所的に圧接するようになっているため、第2リア止め輪73と第2リアリング溝69の底面との間の面圧を大きくすることができる。
【0049】
(本発明の実施形態の効果)
以上の如き、本発明の実施形態によれば、フローティングメタル11における前後方向の中央部の上側位置から潤滑油Gが給油された場合において、車両用過給機1の運転中にフローティングメタル11に生じる前後方向の荷重を低減できるため、フローティングメタル11に偏摩耗(側面摩耗)が発生することを抑えて、支持ブロック5の設置穴7に対するフローティングメタル11のがたつきを十分に低減して、フローティングメタル11の支持性能を高めることができる。
【0050】
また、潤滑油Gが第1リア止め輪71の合口部71f又は第2リア止め輪73の合口部73fからフローティングメタル11の外側へ流出することを抑えることができるため、軸受ハウジング3側からタービンインペラ29側への潤滑油Gの漏れを防止して、車両用過給機1のシール性能を更に向上させることができる。
【0051】
更に、第1リア止め輪71と第1リアリング溝67の底面との間の面圧(接触圧)を大きくできるため、第1リアリング溝67に特別な工夫(加工)をしなくても、第1リア止め輪71の回り止め機能が発揮されて、車両用過給機1の運転中における第1リア止め輪71の合口部71fの周方向位置のずれを防止することができる。同様に、第2リア止め輪73と第2リアリング溝69の底面との間の面圧を大きくできるため、第2リアリング溝69に特別な工夫をしなくても、第2リア止め輪73の回り止め機能が発揮されて、車両用過給機1の運転中における第2リア止め輪73の合口部73fの周方向位置のずれを防止することができる。
【0052】
なお、本発明は、前述の実施形態の説明に限るものでなく、種々の態様で実施可能である。また、本発明に包含される権利範囲は、これらの実施形態に限定されないものである。
【実施例】
【0053】
第1止め輪の合口部及び第2止め輪の合口部の周方向位置が鉛直下方位置からロータ軸の回転方向の反対側に45度ずれた位置に設定されたリア軸受構造を備えた車両用過給機を発明品として試作した。また、第1止め輪の合口部の周方向位置が鉛直下方位置に設定されかつ第2止め輪の合口部の周方向位置が鉛直下方位置からロータ軸の回転方向の反対側に45度ずれた位置に設定されたリア軸受構造(図7(a)(b)(c)参照)を備えた車両用過給機を比較品として試作した。そして、発明品及び比較品について、ロータ軸の回転数を2段階に分けて上昇(初めの5分間の間の回転数は13万rpm、その後の30分間の間の回転数は14.3万rpm)させながら、発明品及び比較品について偏摩耗試験を行ったところ、比較品については、フローティングメタルのタービンインペラ側の側面に偏摩耗(摩耗量は10μm)が生じたのに対して、発明品については、フローティングメタルに偏摩耗が生じなかった。
【符号の説明】
【0054】
1 車両用過給機
3 軸受ハウジング
5 支持ブロック
7 設置穴
9 フローティングメタル
11 フローティングメタル
17 ロータ軸
19 コンプレッサインペラ
21 コンプレッサハウジング
29 タービンインペラ
31 タービンハウジング
63 リアシールリング
65 リア軸受取付構造
67 第1リアリング溝
69 第2リアリング溝
71 第1止め輪
71p 第1止め輪の突起部
71f 第1止め輪の合口部
73 第2止め輪
73f 第2止め輪の合口部
73p 第2止め輪の突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側に支持ブロックを有しかつ前記支持ブロックに水平方向へ延びた設置穴が貫通形成された軸受ハウジングと、前記支持ブロックの前記設置穴に設けられたラジアル軸受と、前記ラジアル軸受に回転可能に支持されたロータ軸と、前記ロータ軸の端部に一体的に連結されたインペラとを備えた過給機に用いられ、
前記ロータ軸を回転可能に支持する前記ラジアル軸受を前記支持ブロックの前記設置穴に取付けるための軸受取付構造において、
前記支持ブロックの前記設置穴の内周面に第1リング溝が形成され、前記支持ブロックの前記設置穴の内周面における前記第1リング溝よりも前記インペラ側に第2リング溝が形成され、前記第1リング溝に前記ラジアル軸受の軸方向の一方側の移動を規制する第1止め輪がその弾性力によって圧接して設けられ、前記第2リング溝に前記ラジアル軸受の前記軸方向の他方側の移動を規制する第2止め輪がその弾性力によって圧接して設けられ、
前記第1止め輪の合口部及び前記第2止め輪の合口部の周方向位置が同じ位置に設定され、前記第1止め輪の合口部及び前記第2止め輪の合口部の周方向位置が鉛直下方位置から前記ロータ軸の回転方向の反対側に30〜90度ずれた位置に設定されていることを特徴とする軸受取付構造。
【請求項2】
前記第1止め輪の両端に径方向外側へ突出した突起部がそれぞれ形成され、前記第1止め輪の前記合口部の反対側の部位及び前記第1止め輪の一対の前記突起部が前記第1リング溝の底面に局所的に圧接するようになってあって、
前記第2止め輪の両端に径方向外側へ突出した突起部がそれぞれ形成され、前記第2止め輪の前記合口部の反対側の部位及び前記第2止め輪の一対の前記突起部が前記第2リング溝の底面に局所的に圧接するようになっていることを特徴とする請求項1に記載の軸受取付構造。
【請求項3】
前記ラジアル軸受は、前記支持ブロックの前記設置穴に対して回転可能なフローティングメタルであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の軸受取付構造。
【請求項4】
エンジンからの排気ガスのエネルギーを利用して、前記エンジン側に供給される空気を過給する車両用過給機において、
請求項1から請求項3のうちのいずれかの請求項に記載の軸受取付構造を備えたことを特徴とする車両用過給機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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