説明

軸受装置及びこれを備える回転軸装置

【課題】密封装置で密封してグリース潤滑する軸受を高速回転で使用する場合に、転走部の油膜切れを防止することができる軸受装置及びこれを備える回転軸装置を提供する。
【解決手段】内輪22と、外輪21と、内輪22と外輪21の間に配置される複数の玉23と、玉23を保持する保持器24と、内輪22と外輪21の軸方向端部に配置される環状の密封装置29と、内輪22と外輪21と密封装置29とによって囲まれる空間に封入されたグリースと、から構成される軸受装置において、密封装置29に振動を付与する少なくとも1個のピエゾアクチュエータ61と、ピエゾアクチュエータ61の振動を制御する制御部72と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース潤滑の軸受装置及びこれを備える回転軸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸などに用いられる回転軸装置には、主軸を回転自在に支持するための軸受がその内部に組み込まれている。工作機械の主軸は、加工能率を上げるために高速回転化が求められており、高速回転域での軸受の潤滑にオイルエア潤滑が多く用いられている。しかし、オイルエア潤滑をするには、オイルエア供給装置や、軸受へオイルエアを噴射する構造が必要であり、また、エアの風切り音による騒音やオイル飛散によって、作業環境を悪化させる問題がある。
【0003】
そこで、これらの問題を解決する潤滑方式として、粘性が高く流動性が低いグリース潤滑が用いられるようになっている。しかし、高速回転する主軸の軸受にグリース潤滑を用いた場合、高速回転時に遠心力によりグリースが外輪の軌道面両側から軸方向端部に流動して、転走部(内輪軌道面部、外輪軌道面部、転動体の転動面部、及び転動体を保持する保持器のポケット部)に残存するグリースも極僅かとなる。その結果、転走部が油膜切れとなり焼き付きが発生し、長期間の使用は困難であった。
【0004】
これを解決するために、例えば、軸受外部から転走部にグリースを供給するものがあるが複雑であった(特許文献1)。
【0005】
そこで、軸受の軸方向端部を密封装置で密封し、グリースを軸受内部に密封して潤滑するもので、軸受の回転による遠心力により軸方向端部に流動したグリースを、密封装置側に飛ばして転走部へ戻すものがある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4196184号公報
【特許文献2】特開2010−43693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2の軸受は、グリースが軸受の回転による遠心力によってグリースを転走部へ戻すものであるため、特に軸受を高速回転で使用する際に、転走部へのグリースの戻し量が不足して転走部が油膜切れとなり焼き付きが発生するという場合がある。そこで、密封装置で密封してグリース潤滑する軸受を高速回転で使用する際の、転走部の油膜切れ防止が課題となっていた。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、密封装置で密封してグリース潤滑する軸受を高速回転で使用する場合に、転走部の油膜切れを防止し、軸受の焼き付き寿命を長くすることができる軸受装置及びこれを備える回転軸装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る軸受装置の構成上の特徴は、内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪の間に配置される複数の転動体と、前記転動体を保持する保持器と、前記内輪と前記外輪の軸方向端部に配置される環状の密封装置と、前記内輪と前記外輪と前記密封装置とによって囲まれる空間に封入されたグリースと、から構成される軸受装置において、
前記密封装置に振動を付与する少なくとも1個の振動体と、
前記振動体の振動を制御する制御手段と、を備えることである。
【0010】
請求項1の軸受装置によれば、グリース潤滑の軸受を高速回転で使用して遠心力により密封装置に流動したグリースが、密封装置を振動させることにより転走部に移動して供給されるので、転走部の油膜切れを防止できる。
【0011】
請求項2に係る軸受装置の構成上の特徴は、前記密封装置は、前記空間において軸方向外側に向けて窪んだ環状の凹部を有することである。
【0012】
請求項2の軸受装置によれば、グリース潤滑の軸受を高速回転で使用して遠心力により密封装置の凹部に流動して溜まったグリースが、密封装置の凹部を振動させることにより効率良く転走部に移動して供給されるので、転走部の油膜切れを防止できる。
【0013】
請求項3に係る軸受装置の構成上の特徴は、前記密封装置は、弾性材よりなる環状のシール部材と、
前記シール部材に設けられる環状の環状部材と、を有し、
前記環状部材は、周方向に直交して略等配に形成される複数のスリットを含むことである。
【0014】
請求項3の軸受装置によれば、グリース潤滑の軸受を高速回転で使用して遠心力により密封装置に流動したグリースが、密封装置を振動させることにより環状部材がスリットにより可動しやすくなるため大きく振動して、効率良く転走部に移動して供給されるので、転走部の油膜切れを防止できる。
【0015】
請求項4に係る軸受装置の構成上の特徴は、前記密封装置は、軸方向両端部に配置され、
前記振動体は、一方の前記密封装置に少なくとも1個備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の軸受装置。
【0016】
請求項4の軸受装置によれば、グリース潤滑の軸受を高速回転で使用して遠心力により密封装置に流動したグリースが、密封装置を振動させることにより転走部に移動して供給されるので、転走部の油膜切れを防止できる。
【0017】
請求項5に係る軸受装置の構成上の特徴は、前記外輪又は前記外輪近傍に設けられ、潤滑状態を計測する計測手段を備え、
前記制御手段は、前記計測手段からの信号に基づき潤滑状態の悪化を判定する判定部と、
前記判定部において潤滑状態が悪化していると判定した場合に前記振動体に駆動指令を出力する指令部と、を有することである。
【0018】
請求項5の軸受装置によれば、グリース潤滑の軸受を高速回転で使用して遠心力により密封装置に流動したグリースが、潤滑状態を計測して悪化していると判定したときに密封装置を振動させることにより、適切な時期に転走部に移動して供給されるので、転走部の油膜切れを確実に防止できる。
【0019】
請求項6に係る回転軸装置の構成上の特徴は、機械の回転軸に使用される回転軸装置において、
前記制御手段は、前記機械から前記振動体の駆動を許可する駆動信号を入力する入力部を有することである。
【0020】
請求項6の回転軸装置によれば、グリース潤滑の軸受を高速回転で使用して遠心力により密封装置に流動したグリースが、機械から振動体の駆動を許可する信号が入力されたときに、密封装置を振動させることにより、機械の適切な時期に転走部に移動して供給されるので、機械の加工精度に影響を与えずに転走部の油膜切れを防止できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、密封装置で密封してグリース潤滑する軸受において、高速回転で使用して遠心力により密封装置に流動したグリースが、密封装置を振動させることにより転走部に移動して供給されるので、転走部の油膜切れを防止できることにより、軸受の焼き付き寿命を長くすることができる軸受装置及びこれを備える回転軸装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1実施形態:主軸装置(回転軸装置)の縦断面図である。
【図2】第1実施形態:図1の要部拡大断面図である。
【図3】第1実施形態:(a)は図2の芯金のA矢視図であり、(b)及び(c)は図2の要部拡大断面図である。
【図4】第2実施形態:アンギュラ玉軸受の拡大断面図である。
【図5】第2実施形態:(a)は図4の芯金のA矢視図であり、(b)及び(c)は図4の要部拡大断面図である。
【図6】第3実施形態:ピエゾアクチュエータを制御するブロック図である。
【図7】第3実施形態:制御部の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の回転軸装置を工作機械のマシニングセンタの主軸装置に用いた実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の実施形態の主軸装置10の縦断面図である。
マシニングセンタは、図略のワークに対して主軸装置10を互いに直交する3方向に相対移動させる機能を有する。
【0024】
主軸装置10は、主軸ハウジング11と、主軸ハウジング11内に設けられたアンギュラ玉軸受20,30と、円筒コロ軸受38と、アンギュラ玉軸受20,30及び円筒コロ軸受38を介して主軸ハウジング11に水平軸線回りに回転可能に支持される主軸40と、主軸ハウジング11内に設けられ主軸40を回転駆動するビルトインモータ50と、工具80のプルスタッド81を把持するコレットチャック58とを主に備えている。
主軸装置10は、工具80を着脱可能に把持し、この工具80を回転させる機能を有する。マシニングセンタは、工具80を回転させながら、互いに直交する3方向に工具80をワークに対して相対移動させることにより、ワークを加工する機能を有する。
【0025】
アンギュラ玉軸受20,30は、ビルトインモータ50に対し工具80側で主軸ハウジング11内に設けられ、アンギュラ玉軸受20の外輪21とアンギュラ玉軸受30の外輪31間に外輪間座12が介挿され、アンギュラ玉軸受20の内輪22とアンギュラ玉軸受30の内輪32間に内輪間座13が介挿されている。外輪21及び外輪間座12a、並びに、内輪22及び内輪間座13aは、外輪押え部材14a及び工具ホルダ44により付勢され、アンギュラ玉軸受20には与圧が与えられている。また、外輪31及び外輪間座12b、並びに、内輪32及び内輪間座13bは、外輪押え部材14及び内輪押え部材43により付勢され、アンギュラ玉軸受30には与圧が与えられている。
【0026】
円筒コロ軸受38は、ビルトインモータ50に対し工具80と反対側で主軸ハウジング11内に設けられている。
【0027】
ビルトインモータ50は、主軸ハウジング11内に固定されたステータ51と、主軸40に固定されたロータ52とからなっている。
【0028】
主軸40は、一端内周に工具80が装着されるテーパ状の工具装着面41を有する。また主軸40は、一端面に工具80に円周方向に係合するキー42が取付けられ、このキー42を介して主軸40の回転が工具80に伝えられるようになっている。
【0029】
コレットチャック58は、主軸40内に設けられ、これを主軸40の軸線方向に進退させると、主軸40内に設けられた図略のカムによってコレットチャック58が半径方向に開閉するようになっている。工具80を主軸40に把持させる場合は、コレットチャック58をビルトインモータ50側へ後退させ、コレットチャック58が閉じて工具80のプルスタッド81を把持し、工具80を主軸40の工具装着面41に押付ける。
【0030】
主軸装置10は、アンギュラ玉軸受20に振動を付与するピエゾアクチュエータ(振動体)61,62と、アンギュラ玉軸受30に振動を付与するピエゾアクチュエータ63,64と、ピエゾアクチュエータ61〜64の各々に駆動電圧を供給するピエゾアクチュエータ駆動回路71と、ピエゾアクチュエータ駆動回路71を制御する制御部(制御手段)72と、ビルトインモータ50に駆動電圧を供給する主軸モータ駆動回路73とを有する。
【0031】
制御部72が備える入力部72cは、マシングセンタ全体を制御する制御装置100から、例えば、マシニングセンタが非加工時など精度に影響を与えないときに、各ピエゾアクチュエータの駆動を許可する駆動許可信号(駆動信号)101を入力する。
また、主軸モータ駆動回路73は制御装置100により制御される。
【0032】
図2は、図1の要部拡大断面図である。
アンギュラ玉軸受20は、内輪22と、外輪21と、内輪22と外輪21の間に配置される複数の玉(転動体)23と、玉23を保持する保持器24と、内輪22と外輪21の軸方向端部に形成されている内輪側密封装置装着部27、及び外輪側密封装置装着部28に装着される密封装置29とよりなる。
【0033】
密封装置29は、弾性材よりなる環状のシール(シール部材)26と、シール26に接着され、補強する環状の芯金25(環状部材)とよりなる。
【0034】
外輪21には外輪側軌道面21aが形成され、内輪22には内輪側軌道面22aが形成されている。外輪側軌道面21aと内輪側軌道面22a上を玉23が転動するようになっている。保持器24には円周方向に複数のポケット24aが設けられ、各ポケット24aに玉23が回転可能に保持されている。
内輪22と外輪21と密封装置29とによって囲まれる空間にグリースを封入して転走部(外輪側軌道面21a、内輪側軌道面22a、玉23、及びポケット24a)を潤滑する。
【0035】
ピエゾアクチュエータ61,62は、多数の圧電素子を積層し互いに接合したもので、積層した圧電素子の一端に取付け部材61a,62aが取付けられている。積層した圧電素子の他端が密封装置29に接している。外輪間座12,12aには、取付け部材61a,62aを収容する収容穴12e,12fが形成されている。取付け部材61a,62aが収容穴12e,12fに収容された状態で半径方向に外輪間座12,12aと主軸ハウジング11とで挟み込まれることによって、ピエゾアクチュエータ61,62が外輪間座12,12aに固定される。
【0036】
アンギュラ玉軸受30もアンギュラ玉軸受20と同様に構成される。
また、ピエゾアクチュエータ63,64もピエゾアクチュエータ61,62と同様に固定される。
【0037】
図3(a)は、図2の芯金25のA矢視図である。
芯金25は、周方向に直交して複数のスリット25bが略等配に形成され、スリットの一端がP1となり他端P2は開口している。
また、アンギュラ玉軸受30の芯金も芯金25と同様に複数のスリットが形成される。
【0038】
ここで、アンギュラ玉軸受20,30と、ピエゾアクチュエータ61,62,63,64と、ピエゾアクチュエータ駆動回路71と、制御部72とが、本発明の軸受装置に対応する。
【0039】
次に上述した構成にもとづいて、図3(b)及び(c)を参照しながら動作を説明する。
図3(b)及び(c)は、図2の要部拡大断面図である。
【0040】
工具80がコレットチャック58によって把持され、主軸40がビルトインモータ50によって回転駆動される。主軸40は、アンギュラ玉軸受20,30及び円筒コロ軸受38を介して主軸ハウジング11に回転可能に支持される。
【0041】
アンギュラ玉軸受20は、主軸40が高速回転したときの遠心力によりグリースが外輪の軌道面両側から密封装置29に流動して、グリース溜り80が形成され、転走部に残存するグリースが減少する。
【0042】
主軸装置10は、入力部72cがマシニングセンタの制御装置100から駆動許可信号101を入力した場合、例えば、マシングセンタが非加工時でグリース溜り80を移動させてもワークの加工精度に影響を与えないとき、制御部72がピエゾアクチュエータ駆動回路71に駆動指令を出力することにより、ピエゾアクチュエータ駆動回路71がピエゾアクチュエータ61,62を駆動する。これにより、ピエゾアクチュエータ61,62が振動する。
【0043】
密封装置29は、ピエゾアクチュエータ61,62が振動すると、図3(a)に示す芯金25のスリット25bにより可動しやすくなるため大きく振動し、図3(b)に示す矢印Bの方向へ振動する。そして、この振動により図3(c)に示すようにグリース溜り80が矢印a,bの方向へ移動して転走部にグリースを供給する。
また、アンギュラ玉軸受30もアンギュラ玉軸受20と同様に動作する。
【0044】
以上のように、本実施の形態に係る軸受装置及びこれを備える主軸装置10によれば、アンギュラ玉軸受20,30を高速回転で使用して遠心力により密封装置29に流動したグリース溜り80が、密封装置29を振動させることに芯金25が大きく振動して、効率良く転走部に移動して供給されるので、転走部の油膜切れを防止できる。これにより、軸受の焼き付き寿命を長くすることができる軸受装置及びこれを備える回転軸装置を提供することができる。
【0045】
また、マシニングセンタの主軸装置10によれば、適切な時期、例えば、マシニングセンタが非加工時に密封装置29を振動させることにより、グリース溜り80が転走部に移動して供給されるので、ワークの加工精度に影響を与えずに、転走部の油膜切れを防止できる。
【0046】
さらに、本実施の形態に係る軸受装置によれば、芯金25のスリット25bの大きさを、ピエゾアクチュエータ61,62の振動仕様と、密封装置29の大きさとから適宜設定して、密封装置29を共振させることにより大きく振動させることができ、グリース溜り80が、効率良く移動して転走部へのグリース供給量を増加できるので、転走部の油膜切れをより一層防止できる。
【0047】
<第2実施形態>
第2実施形態は、第1実施形態におけるアンギュラ玉軸受20,30において、密封装置が軸受内部空間において軸方向外側に向けて窪んだ環状の凹部を有する実施形態である。第2実施形態において、第1実施形態と同一の構成の説明は、簡略化のため省略する。
【0048】
図4はアンギュラ玉軸受20の拡大断面図である。
アンギュラ玉軸受20は、内輪22と、外輪21と、内輪22と外輪21の間に配置される複数の玉23と、玉23を保持する保持器24と、内輪22と外輪21の軸方向端部に形成されている内輪側密封装置装着部27、及び外輪側密封装置装着部28に装着される密封装置93とよりなる。
【0049】
密封装置93は、弾性材よりなる環状のシール91と、シール91に接着され、補強する環状の芯金90とよりなり、アンギュラ玉軸受20の軸受内部空間において軸方向外側に向けて窪んだ環状の凹部92を有する。
【0050】
また、アンギュラ玉軸受30もアンギュラ玉軸受20と同様に構成される。
【0051】
図5(a)は、図4の芯金90のA矢視図である。
芯金90は、周方向に直交して複数のスリット90bが略等配に形成され、スリットは一端が凹部92の開始位置P10となり他端P11は開口している。
また、アンギュラ玉軸受30の芯金も芯金90と同様に複数のスリットが形成される。
【0052】
密封装置93は、ピエゾアクチュエータ61,62が振動すると、図5(a)に示す芯金90のスリット90bの効果により大きく振動し、図5(b)に示す矢印Cの方向へ振動する。そして、この振動により図5(c)に示すように凹部92に溜まったグリース溜り80が、効率良く矢印c,dの方向へ移動して転走部にグリースを供給する。
また、アンギュラ玉軸受30もアンギュラ玉軸受20と同様に動作する。
【0053】
以上のように、本実施の形態に係る軸受装置及びこれを備える主軸装置10によれば、第1実施形態に同じく効果を得ることができる。
さらに、本実施の形態に係る軸受装置は、凹部92に溜まったグリース溜り80が、効率良く移動して転走部へのグリース供給量を増加できるので、転走部の油膜切れをより一層防止できる。
【0054】
<第3実施形態>
第3実施形態の主軸装置10は、アンギュラ玉軸受20,30の潤滑状態を計測し、計測信号に基づきピエゾアクチュエータ61,62,63,64を制御する実施形態である。第3実施形態において、第1実施形態と同一の構成の説明は、簡略化のため省略する。
【0055】
図6は、ピエゾアクチュエータを制御するブロック図である。
計測部(計測手段)74は、図1に示す主軸ハウジング11に振動センサを取付けて振動を計測することにより、アンギュラ玉軸受20,30の潤滑状態を計測する。
【0056】
制御部72は、計測部74からの潤滑状態計測信号74aに基づき潤滑状態の悪化を判定する判定部72aと、判定部72aにおいて潤滑状態が悪化していると判定した場合に、ピエゾアクチュエータ駆動回路71に駆動指令を出力する指令部72bと、制御装置100から駆動許可信号101を入力する入力部72cとを備える。
ピエゾアクチュエータ駆動回路71は、駆動指令を入力した場合にピエゾアクチュエータ61,62、63,64を駆動して振動させる。
【0057】
図7は、制御部72の処理手順を示すフローチャートである。
アンギュラ玉軸受20,30の潤滑状態を計測して、ピエゾアクチュエータ61,62,63,64の振動を制御する動作について、図7のフローチャートを参照しつつ説明する。
主軸装置10は、潤滑状態計測信号74aを入力し(ステップS10)、潤滑状態計測信号74aから潤滑状態が悪化(例えば、振動センサからの計測値が所定値を越えている場合、アンギュラ玉軸受20,30の潤滑状態が悪化することにより振動が大きくなったと判定する。)したか否かを判定する(ステップS11)。そして、潤滑状態が悪化していない場合(ステップS11:NO)、処理を終了する。
【0058】
一方、潤滑状態が悪化している場合(ステップS11:YES)、駆動許可信号101を入力し(ステップS12)、駆動許可信号101がオンか否かを判定する(ステップS13)。そして、駆動許可信号101がオンしていない場合(ステップS13:NO)、処理を終了する。一方、駆動許可信号101がオンしている場合(ステップS13:YES)、駆動指令を出力する(ステップS14)。
【0059】
ここで、ステップS10,S11が判定部72aの処理に相当し、ステップS12が入力部72cの処理に相当し、ステップS13,S14が指令部72bの処理に相当する。
また、ステップS10〜S14の処理が本発明の制御手段が実行する処理に相当する。
【0060】
これにより、主軸装置10は、アンギュラ玉軸受20,30の潤滑状態を計測し、計測信号から潤滑状態が悪化していると判定した場合、ピエゾアクチュエータ61,62,63,64を振動させて転走部にグリースを供給する。
【0061】
以上のように、本実施の形態に係る軸受装置及びこれを備える主軸装置10によれば、第1実施形態に同じく効果を得ることができる。
さらに、本実施の形態に係る軸受装置は、アンギュラ玉軸受20,30の潤滑状態の悪化を検知したときに密封装置29を振動させることにより、グリース溜り80が適切な時期に転走部に移動して供給されるので、転走部の油膜切れを確実に防止できる。
【0062】
なお、上記実施形態では、振動体としてピエゾアクチュエータ61,62,63,64を適用した。しかし、これに限らず、振動体として振動モータを適用しても良い。
また、上記実施形態では、軸受装置としてアンギュラ玉軸受20,30を適用した。しかし、これに限らず、軸受装置として円筒コロ軸受あるいは円すいコロ軸受を適用しても良い。
【0063】
さらに、上記実施形態では、振動体はアンギュラ玉軸受の軸方向端部にそれぞれ1個設けるとしたが、しかし、これに限らず、それぞれに複数個設けても良い。これにより、転走部へのグリースの供給量を増加できる。
【0064】
また、上記実施形態では、振動体はアンギュラ玉軸受の軸方向端部にそれぞれ1個設けるとしたが、しかし、これに限らず、軸方向端部の一端には設けなくても良い。例えば、振動体は、軸方向端部の一端には設けず、他端に複数個設けることにより転送部への所定のグリースの供給量を確保することができる。これにより、軸受装置を回転軸装置などに使用する場合にレイアウトの自由度を大きくすることができる。
【0065】
さらに、上記実施形態では、環状部材は芯金としたが、これに限らず、密封装置の補強に加えて、振動体からの振動により振動可能な合成樹脂などでも良い。
【符号の説明】
【0066】
10:主軸装置(回転軸装置)、 20,30:アンギュラ玉軸受、 21,31:外輪、 22,32:内輪、 23:玉(転動体)、 24:保持器、 25,90:芯金(環状部材)、 26,91:シール(シール部材)、 29,93:密封装置、 61,62,63,64:ピエゾアクチュエータ(振動体)、 72:制御部(制御手段)、 72a:判定部、 72b:指令部、 72c:入力部、 74:計測部(計測手段)、 25b,90b:スリット、 92:凹部、 101:駆動許可信号(駆動信号)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪の間に配置される複数の転動体と、前記転動体を保持する保持器と、前記内輪と前記外輪の軸方向端部に配置される環状の密封装置と、前記内輪と前記外輪と前記密封装置とによって囲まれる空間に封入されたグリースと、から構成される軸受装置において、
前記密封装置に振動を付与する少なくとも1個の振動体と、
前記振動体の振動を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする軸受装置。
【請求項2】
前記密封装置は、前記空間において軸方向外側に向けて窪んだ環状の凹部を有することを特徴とする請求項1に記載の軸受装置。
【請求項3】
前記密封装置は、弾性材よりなる環状のシール部材と、
前記シール部材に設けられる環状の環状部材と、を有し、
前記環状部材は、周方向に直交して略等配に形成される複数のスリットを含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の軸受装置。
【請求項4】
前記密封装置は、軸方向両端部に配置され、
前記振動体は、一方の前記密封装置に少なくとも1個備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の軸受装置。
【請求項5】
前記外輪又は前記外輪近傍に設けられ、潤滑状態を計測する計測手段を備え、
前記制御手段は、前記計測手段からの信号に基づき潤滑状態の悪化を判定する判定部と、
前記判定部において潤滑状態が悪化していると判定した場合に前記振動体に駆動指令を出力する指令部と、を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の軸受装置。
【請求項6】
機械の回転軸に使用される回転軸装置において、
前記制御手段は、前記機械から前記振動体の駆動を許可する駆動信号を入力する入力部を有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の回転軸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−177462(P2012−177462A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56539(P2011−56539)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】