説明

軸受装置

【課題】深溝玉軸受を備えたオルタネータの主軸支持用軸受において、内外輪の経年変化量の差によって生じる軸受すきまの減少を防止することで、スピン滑りの発生、さらには、鋼球剥離の発生を抑制する。
【解決手段】オルタネータAの主軸4をフロント側とリア側の2つの深溝玉軸受10,20を介してハウジング1に支持し、前記主軸4のフロント側端部にプ−リ3が取付けられたオルタネータの主軸支持用軸受装置において、フロント側の前記深溝玉軸受10は、内外輪12,11の温度差に起因する軸受すきまΔrの減少を防止するよう前記内外輪12,11の材質を互いに異なるものとし、且つ、鋼球剥離対策として、前記フロント側の前記深溝玉軸受10に生じ得るラジアル変位量δrに対して、前記軸受すきまΔrを、−0.2δr以上0.2δr以下とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主としてオルタネータの主軸の支持に用いられる深溝玉軸受を備えた軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オルタネータの主軸を支持するために用いられる深溝玉軸受を備えた軸受装置(以下、「オルタネータの主軸支持用軸受装置」と称する)では、軸受の使用条件が高速・高荷重など過酷化するのに伴い、使用条件によっては、深溝玉軸受の鋼球の表面に白色組織変化を伴った剥離が早期に発生する事象が散見される。
【0003】
このような白色組織変化を伴った剥離は、通常の金属疲労により生じる剥離とは異なり、鋼球の表面の比較的浅い部分から生じる破壊現象である。この破壊現象の原因としては水素脆化説が有力である。その原因である水素は、潤滑油の分解により発生すると考えられる。
【0004】
この水素脆化による鋼球の表面の破壊現象について説明すると、オルタネータの主軸にモーメント荷重が負荷され深溝玉軸受が接触角を持つようになると、鋼球にスピンすべりが発生しやすくなる。接触角とは、内輪、鋼球、外輪の接触点を結ぶ直線が、ラジアル方向に対して成す角度である。また、スピンすべりは、鋼球に発生する微小なすべりであり、深溝玉軸受の場合、接触楕円の長軸方向両端部における軌道半径の差(接触点の周速差)によって生じる。このスピンすべりに伴う摩耗により、鋼球の表面に新生面ができ、鋼中へ水素が浸入し、水素脆化による剥離が発生すると考えられる。
【0005】
この水素脆化による剥離を防止するための対策として、例えば、潤滑油組成物やグリース添加剤等を改良するなど、新生面を保護する潤滑剤に着目した種々の手法が採用されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0006】
また、水素脆化による剥離を防止するための他の手法として、鋼球と転走面との接触角を小さくし、鋼球のスピンすべりを抑えることで、水素脆化による鋼球の剥離を防止する対策も採用できる。ここで、モーメント荷重負荷により発生する接触角は、軸受のすきまの大小に左右されるため、鋼球の剥離の対策には適正なすきま設定が重要となる。
【0007】
すなわち、鋼球のスピンすべりを抑えるには、モーメント荷重が負荷されることにより生じる接触角を小さく抑えるが必要があり、その接触角を小さく抑えるには、適正な軸受すきま(ラジアルすきま)を設定する必要がある。したがって、適正な軸受すきまを設定すれば、鋼球剥離の発生を抑制する効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−45994号公報
【特許文献2】特開2008−8419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、深溝玉軸受を備えたオルタネータの主軸支持用軸受では、軸受はオルタネータに内蔵されている冷却ファンにより強制冷却されるが、外周を覆うハウジングがアルミ材であるため、内輪に対して外輪の放熱性が相対的に良くなり、内外輪の温度差が大きくなる傾向がある。
【0010】
また、高温下での使用に対応した近年における高温仕様のオルタネータでは、内外輪に寸法安定化処理品などの同一素材を用いる場合が多いため、前述のような内外輪の温度差により、内輪と外輪の経年変化量、特に、経年に伴う軸受半径方向への寸法の変化量に差ができて、その結果、当初設定されていた軸受すきまが減少することがある。
【0011】
したがって、オルタネータの主軸支持用軸受では、鋼球剥離対策に適正な軸受すきまを設定しても、内外輪の経年変化量の差による軸受すきまの減少により、対策効果がキャンセルされてしまうという問題がある。この傾向は、オルタネータが、特に高温仕様の場合に顕著である。
【0012】
そこで、この発明は、深溝玉軸受を備えたオルタネータの主軸支持用軸受において、内外輪の経年変化量の差によって生じる軸受すきまの減少を防止することで、スピン滑りの発生、さらには、鋼球剥離の発生を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、この発明は、オルタネータの主軸をフロント側とリア側の2つの深溝玉軸受を介してハウジングに支持し、前記主軸のフロント側端部にプ−リが取付けられたオルタネータの主軸支持用軸受装置において、フロント側の前記深溝玉軸受は、内外輪の温度差に起因する軸受すきまΔrの減少を防止するよう前記内外輪の材質を互いに異なるものとし、且つ、鋼球剥離対策として、前記フロント側の前記深溝玉軸受に生じ得るラジアル変位量δrに対して、前記軸受すきまΔrを、−0.2δr以上0.2δr以下としたことを特徴するオルタネータの主軸支持用軸受装置を採用した。
【0014】
また、上記の課題を解決するために、この発明は、オルタネータの主軸をフロント側とリア側の2つの深溝玉軸受を介してハウジングに支持し、前記主軸のフロント側端部にプ−リが取付けられたオルタネータの主軸支持用軸受装置において、フロント側の前記深溝玉軸受は、内外輪の温度差に起因する軸受すきまΔrの減少を防止するよう前記内外輪の材質を互いに異なるものとし、且つ、鋼球剥離対策として、フロント側の前記深溝玉軸受の転走面負荷率εを、0.45以上0.55以下、ただし、転走面負荷率ε=[1−(Δr/2δr)]×1/2としたことを特徴とするオルタネータの主軸支持用軸受装置を採用することもできる。
【0015】
すなわち、この発明は、内外輪の材質を互いに異なるものとして温度差による経年変化量の差を吸収できるようにし、予め設定された軸受すきま(ラジアルすきま)Δrが減少することを防止する。軸受すきまΔrが減少しないためには、内輪のラジアル方向への経年変化量が、外輪のラジアル方向への経年変化量を相殺して軸受すきまΔrを減少させないものであればよい。
さらに、設定される軸受すきまΔrを、従来の設計範囲を越えて−0.2δr以上0.2δr以下に設定、あるいは、同じく従来の設計範囲を越えて転走面負荷率εを0.45以上0.55以下に設定することで、鋼球のスピンすべりを効果的に抑制し得ることが確認できた。
前述のように、鋼球の水素脆化による剥離は、スピンすべりによる摩耗で発生した鋼球表面の新生面に水素が浸入することで起こるため、スピンすべりを抑えることができれば、鋼球剥離を防止することができる。ここでは、鋼球のスピンすべりを抑えるために、適正な軸受すきまを設定することで、モーメント荷重を負荷されることにより持つ接触角を小さく抑え、鋼球剥離の発生を抑制する手法を採用したものである。
【0016】
これらの各構成において、フロント側の前記深溝玉軸受における前記内外輪の材質の差異の少なくとも一つは、前記内外輪のうち、前記内輪のみに施された焼戻し処理の有無である構成を採用することができる。その焼戻し処理としては、例えば、230〜280℃の条件で行われる構成を採用することができる。
内輪の素材への焼戻し処理により、組織や機械的性質が安定化し、じん性の改善等により、外輪の素材との間で材質の差異を生じる。なお、外輪の素材には、少なくとも焼戻し処理を行わないものとする。経年変化の主要因は、残留オーステナイトの分解による膨張であるため、予め熱処理によって残留オーステナイト量を軽減させるものである。
【0017】
なお、焼入れ、焼戻し処理の温度や、その温度での保持時間は、処理後の内輪の素材に要求される機械的性質や経年変化量等に応じて、適宜設定できる。
【0018】
ここで、前記外輪の素材は自由であるが、例えば、JISG4805に規定する標準軸受鋼を用いることができる。また、上記焼入れ、焼戻し処理前の内輪の素材も自由に選定できるが、例えば、この焼入れ、焼戻し処理前の内輪の素材にも、外輪と同様、JISG4805に規定する標準軸受鋼を用いることができる。標準軸受鋼とは、例えば、JISG4805:2008に規定するSUJ2、SUJ3、SUJ4、SUJ5が挙げられる。上記処理前の内輪の素材は、標準軸受鋼を用いる場合、それ以外の鋼材の場合のいずれにおいても、外輪の素材と異なるものとすることもできるが、これは同一とすることが望ましい。
【0019】
また、上記焼戻し処理に加えて、内輪の素材にサブゼロ処理を行うこともできる。すなわち、フロント側の前記深溝玉軸受における前記内外輪の材質の差異の少なくとも一つは、前記内外輪のうち、前記内輪のみに施されたサブゼロ処理の有無である構成を採用することができる。
サブゼロ処理とは、一般的に、焼入れ処理した鋼を、焼き戻し処理をする前に、常温よりも低い温度へ冷却する処理であり、残留オーステナイトをマルテンサイトに変態させるためのものである。この処理により、鋼の組織を安定させることができる。
【0020】
また、上記焼戻し、サブゼロ処理等に基づく各構成からなる内外輪の材質の差異の設定に加えて、焼入れ後窒化処理を行うこともできる。すなわち、フロント側の前記深溝玉軸受における前記内外輪の材質の差異の少なくとも一つは、前記内外輪のうち、前記内輪のみに施された焼入れ後窒化処理の有無である構成を採用することができる。
窒化処理とは、金属の表面に硬い窒化物を形成してその表面を硬くするものであり、窒化処理後は、耐磨耗性、耐疲労性、耐腐食性、耐熱性を向上させることができる。
【0021】
なお、いずれの構成においても、前記外輪の素材に、JISG4805に規定する標準軸受鋼を用いることができる点は同様である。また、外輪の素材にその標準軸受鋼を用いた場合において、前記内輪の素材に、標準軸受鋼に対して前記材質の差異に関わる各処理から選択される一つの又は全ての処理を行ったものを用いた構成を採用することができる。標準軸受鋼としては、例えば、JISG4805:2008に規定するSUJ2、SUJ3、SUJ4、SUJ5が挙げられる点も同様である。上記処理前の内輪の素材は、外輪の素材と異なるものとすることもできるが、これは同一とすることが望ましい。
【0022】
また、外輪の素材にその標準軸受鋼を用いた場合において、前記内輪の素材に、窒化処理を施したマルテンサイト系ステンレス鋼を用いた構成を採用することもできる。あるいは、前記内輪の素材に、耐熱軸受鋼を用いた構成を採用することもできる。この材質の差異により、前述の内外輪の経年変化量の差の吸収が可能となるからである。
【発明の効果】
【0023】
深溝玉軸受を備えたオルタネータの主軸支持用軸受において、内外輪の経年変化量の差によって生じる軸受すきまの減少を防止することで、スピン滑りの発生、さらには、鋼球剥離の発生を抑制することができる。これにより、潤滑油組成物やグリース添加剤等、潤滑剤選定のための制限が小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の一実施形態を示す縦断面図
【図2】図1の要部拡大図
【図3】オルタネータの模式図
【図4】転走面負荷率と、鋼球剥離発生確率との関係を示すグラフ図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、この発明の一実施形態を、図面等に基づいて説明する。車両用交流発電機としてのオルタネータAの主軸支持用軸受装置を、例示した図1をもとに説明すると、ハウジング1に固定されたステータ2と、エンジンの回転力を伝達するプーリ3が取り付けられた主軸(ロータ軸)4、その主軸4に一体回転可能に取付けられたロータ5とを備える。
【0026】
主軸4はフロント側とリア側の2つの転がり軸受、すなわち、深溝玉軸受10,20を介してハウジング1に支持されている。また、その主軸4のフロント側端部に前記プ−リ3が取付けられている。発電された電流は、主軸4のリヤ側に取り付けられたスリップリング6からブラシ7で取り出されるようになっている。
【0027】
フロント側の深溝玉軸受10の内輪12は、ロータ軸4のフロント側へ向けた段差部4aと、主軸4のフロント側に外嵌されたプーリ3の内筒部3aとの間に、ナット9で締め付け固定されている。外輪11は、アルミニウムで形成されたハウジング1に圧入固定されている。
【0028】
また、リヤ側の深溝玉軸受20の外輪21は、アルミニウムで形成されるハウジング1と鋼製のロータ軸4との熱膨張差を許容するために、樹脂バンド8を介してハウジング1に嵌合されている。内輪22は、主軸4の外周に圧入固定されている。
【0029】
実施形態では、リヤ側の深溝玉軸受20は、外輪21と内輪22の素材に、JISG4805に規定する標準軸受鋼を用いる。外輪21と内輪22の素材は同一であってよい。
フロント側の深溝玉軸受10の外輪11の素材には、JISG4805に規定する標準軸受鋼を用いる。また、内輪12の素材には、外輪11と同じ素材に焼入れ、焼戻し処理を行ったものを用いる。例えば、実施形態において、焼入れ処理の条件は、800℃以上、焼戻し処理の条件は、230〜280℃となっている。なお、通常の焼戻し温度は200℃以下であり、通常より高温に設定している。
【0030】
フロント側の深溝玉軸受10において、この内輪12のみに施された焼戻し処理は、その深溝玉軸受10の内外輪12,11の材質の差異の一つとなっている。この焼戻し処理により、組織や機械的性質が安定化し、じん性の改善等により、外輪11の素材との間で材質の差異を生じる。なお、外輪11の素材には、焼戻し処理を行わないものとする。
【0031】
この焼戻し処理の有無による内外輪12,11の材質の差異により、その内外輪12,11の熱膨張率が異なるものとなり、両者の経年変化量の差の吸収が可能となる。すなわち、フロント側の転がり軸受10は、内外輪12,11の温度差に起因する軸受すきまΔrの減少を防止する。すなわち、内輪12のラジアル方向への経年変化量が、外輪11のラジアル方向への経年変化量を相殺して軸受すきまΔrを減少させない設定となっている。
【0032】
また、実施形態では、鋼球剥離対策として、フロント側の深溝玉軸受10に生じ得るラジアル変位量δrに対して、軸受すきまΔrを、−0.2δr以上0.2δr以下としている。このように、ハウジング1、深溝玉軸受10、主軸4間に設定されるラジアル方向の軸受すきまΔrを、従来の設計範囲を越えて−0.2δr以上0.2δr以下に設定することで、鋼球13のスピンすべりを効果的に抑制する。
【0033】
図4に、このオルタネータの主軸支持用軸受装置における鋼球剥離再現試験の結果を示す。実験は、図3に示すように、プーリ3に1.65kNの荷重を加えて行った。フロント側の深溝玉軸受10にはNTN社製/6303LLVV65を、リア側の深溝玉軸受20には同EC−6202LLBC3を用いた。プーリ3と深溝玉軸受10の軸方向中心間距離は42.2mm、深溝玉軸受10,20間の軸方向距離は99mmである。
【0034】
この図4では、転走面負荷率が0.45〜0.55の範囲で、鋼球剥離が発生し難くなることを示している。
【0035】
図4に示すように、鋼球剥離が発生し難い転走面負荷率は、0.45〜0.55となっており、
転走面負荷率ε=[1−(Δr/2δr)]×1/2
Δr:ラジアルすきま(軸受すきま)
δr:軸受のラジアル変位量
とすると、軸受のラジアル変位量δrに対して鋼球剥離が発生し難いラジアルすきまΔrの範囲は、
−0.2δr≦Δr≦0.2δr
となる。
【0036】
ここで、−0.2≦Δr/δr≦0.2となるΔr、δrを求める。
軸受すきまΔr=−0.0035mmに設定すると、軸受のラジアル変位量δr=0.0173mmのときに、Δr/δr≒−0.2となる。
また、軸受すきまΔr=0.0041mmに設定すると、軸受のラジアル変位量δr=0.0203mmのときに、Δr/δr≒0.2となる。
なお、これらの数値は、試験条件の荷重を負荷したときの軸受の弾性変位量(軸のたわみ、内・外輪の曲げ変形は未考慮)を計算した値である。
【0037】
したがって、軸受すきまΔrは、−0.0035≦Δr≦0.0041(mm)と設定できる。
【0038】
また、この軸受すきまΔrは運転時のラジアルすきま(以下、「運転すきま」と称する。)であるため、軸受を主軸4およびハウジング1に組込む前の初期すきまを求める。
【0039】
嵌め合い条件として、以下の値を例示する。
軸受内径:φ17 0/−0.008
軸受外径:φ47 0/−0.011
主軸(鋼材)外径:φ17 +0.012/+0.001
ハウジング(アルミ材)内径:φ47 +0.025/+0.009
軸受外輪温度:110℃(実測値)
【0040】
以上の条件において、運転すきま−0.0035mmとなる初期すきまは、0.009mmとなる。また、運転すきま0.0041mmとなる初期すきまは、0.0017mmとなる。
ここで、運転すきま=初期すきま−嵌合によるすきま減少量−内・外輪温度差によるすきま減少量、としている。
【0041】
したがって、条件を満たす軸受の初期すきまの範囲は、0.009〜0.017mmとなる。なお、上記NTN社製/6303LLVV65のラジアルすきまの図面規格値は、0.004〜0.011mmであるから、従来の規格値を超えて設定されたラジアルすきまが、鋼球剥離の防止に有効であることが確認できた。
【0042】
このように、鋼球剥離対策として、フロント側の前記深溝玉軸受10の転走面負荷率εを、0.45以上0.55以下、ただし、転走面負荷率ε=[1−(Δr/2δr)]×1/2としたことにより、鋼球13のスピンすべりを抑え、その鋼球13の水素脆化による剥離を抑えることができる。
【0043】
また、これらの実施形態では、内輪12の素材に焼戻し処理を行うことで、内外輪12,11の材質に差異を設けたが、その焼戻し処理に加えて、例えば、内輪12の素材にサブゼロ処理を行うこともできる。すなわち、焼戻し処理の有無に加え、サブゼロ処理の有無が、フロント側の深溝玉軸受10における内外輪12,11の材質の差異点の一つとなる。
また、その焼戻し処理、あるいは、焼戻し処理とサブゼロ処理を行った内輪12の素材に対し、焼入れ後窒化処理を行うこともできる。すなわち、焼入れ後窒化処理の有無が、内外輪12,11の材質の差異点に加わる構成である。
これらの材質の差異の設定により、内外輪12,11の経年変化量の差の吸収が可能となり、鋼球13のスピンすべり、鋼球13の水素脆化による剥離を、さらに効果的に抑制できる。
【0044】
また、外輪11の素材に標準軸受鋼を用いた場合において、内輪12の素材に、窒化処理を施したマルテンサイト系ステンレス鋼を用いた構成を採用することもできる。あるいは、外輪11の素材に標準軸受鋼を用いた場合において、内輪12の素材に、耐熱軸受鋼を用いた構成を採用することもできる。この材質の差異によっても、内外輪12,11の経年変化量の差の吸収が可能となり、鋼球13のスピンすべり、鋼球13の水素脆化による剥離を、効果的に抑制できる。
【符号の説明】
【0045】
1 ハウジング
2 ステータ
3 プーリ
3a 内筒部
4 主軸(ロータ軸)
4a 段差部
5 ロータ
6 スリップリング
7 ブラシ
8 樹脂バンド
9 ナット
10,20 転がり軸受
11,21 外輪
11a,21a 外輪軌道面
12,22 内輪
12a,22a 内輪軌道面
13,23 鋼球(ボール)
15 保持器
16 シール部材
A オルタネータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルタネータ(A)の主軸(4)をフロント側とリア側の2つの深溝玉軸受(10,20)を介してハウジング(1)に支持し、前記主軸(4)のフロント側端部にプ−リ(3)が取付けられたオルタネータの主軸支持用軸受装置において、
フロント側の前記深溝玉軸受(10)は、内外輪(12,11)の温度差に起因する軸受すきまΔrの減少を防止するよう前記内外輪(12,11)の材質を互いに異なるものとし、且つ、鋼球剥離対策として、前記フロント側の前記深溝玉軸受(10)に生じ得るラジアル変位量δrに対して、前記軸受すきまΔrを、−0.2δr以上0.2δr以下としたことを特徴するオルタネータの主軸支持用軸受装置。
【請求項2】
オルタネータ(A)の主軸(4)をフロント側とリア側の2つの深溝玉軸受(10,20)を介してハウジング(1)に支持し、前記主軸(4)のフロント側端部にプ−リ(3)が取付けられたオルタネータの主軸支持用軸受装置において、
フロント側の前記深溝玉軸受(10)は、内外輪(12,11)の温度差に起因する軸受すきまΔrの減少を防止するよう前記内外輪(12,11)の材質を互いに異なるものとし、且つ、鋼球剥離対策として、フロント側の前記深溝玉軸受(10)の転走面負荷率εを、0.45以上0.55以下、ただし、転走面負荷率ε=[1−(Δr/2δr)]×1/2としたことを特徴とするオルタネータの主軸支持用軸受装置。
【請求項3】
フロント側の前記深溝玉軸受(10)における前記内外輪(12,11)の材質の差異の少なくとも一つは、前記内外輪(12,11)のうち、前記内輪(12)のみに施された焼戻し処理の有無であることを特徴とする請求項1又は2に記載のオルタネータの主軸支持用軸受装置。
【請求項4】
前記焼戻し処理は、230〜280℃で行われることを特徴とする請求項3に記載のオルタネータの主軸支持用軸受装置。
【請求項5】
フロント側の前記深溝玉軸受(10)における前記内外輪(12,11)の材質の差異の少なくとも一つは、前記内外輪(12,11)のうち、前記内輪(12)のみに施されたサブゼロ処理の有無であることを特徴とする請求項3又は4に記載のオルタネータの主軸支持用軸受装置。
【請求項6】
フロント側の前記深溝玉軸受(10)における前記内外輪(12,11)の材質の差異の少なくとも一つは、前記内外輪(12,11)のうち、前記内輪(12)のみに施された焼入れ後窒化処理の有無であることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか一つに記載のオルタネータの主軸支持用軸受装置。
【請求項7】
前記外輪(11)の素材に、JISG4805に規定する標準軸受鋼を用いたことを特徴とする請求項3乃至6のいずれか一つに記載のオルタネータの主軸支持用軸受装置。
【請求項8】
前記内輪(12)の素材に、前記標準軸受鋼に対して前記材質の差異に関わる処理を行ったものを用いたことを特徴とする請求項7に記載のオルタネータの主軸支持用軸受装置。
【請求項9】
前記内輪(12)の素材に、窒化処理を施したマルテンサイト系ステンレス鋼を用いたことを特徴とする請求項7に記載のオルタネータの主軸支持用軸受装置。
【請求項10】
前記内輪(12)の素材に、耐熱軸受鋼を用いたことを特徴とする請求項7に記載のオルタネータの主軸支持用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−68278(P2013−68278A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207611(P2011−207611)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】