説明

軸状部材の高周波焼入装置

【課題】軸方向を上下方向に配置した金属製の軸状部材を上下で支持し、該軸状部材の径方向を囲繞したコイルと軸状部材の相対的高さ位置を変更可能に構成した軸状部材の高周波焼入装置において、高周波焼入による軸状部材の熱伸びを吸収し、該熱伸びによる軸状部材の歪みの発生を抑制する。
【解決手段】
リアアクスルシャフト等の金属製の軸状部材を軸方向を上下方向に配置し、該軸状部材の上部を上主軸で支持するとともに、下部を下主軸で支持し、前記軸状部材の径方向を囲繞し高周波電流を流すことが可能なコイルと前記軸状部材を冷却する冷却手段とを設け、前記コイルと前記軸状部材の少なくとも一方を上下方向即ち軸状部材の軸方向に移動して上下方向の相対的位置を変化可能とするとともに、前記上主軸を前記軸状部材の熱伸びに追従して上方向に移動可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に用いられるリアアクスルシャフトなどの金属製の軸状部材に対して、軸部の外径面に高周波焼入を行う軸状部材の高周波焼入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両に用いられるリアアクスルシャフトなどの金属製の軸状部材は、硬度を増大させるために焼入処理を行う場合がある。焼入処理は、鋼をオーステナイト組織の状態に加熱した後、水中または油中で急冷することによって、マルテンサイト組織の状態に変化させる熱処理である。また、前記軸状部材は、高周波焼入処理を行う場合もある。高周波焼入処理は、金属に高周波の電磁波による電磁誘導を起こし、表面を過熱させて焼入を行う熱処理の手法であって、金属の表面のみを硬化させて硬化層を形成し、内部は靭性を保った元の状態を保つことで、柔軟性に富んだ材料にすることが出来るものである。
【0003】
リアアクスルシャフトのような金属製の軸状部材の高周波焼入処理は、該軸状部材の径方向をコイルで囲繞し該コイルに高周波電流を流す。このようにコイルに高周波電流を流すことによって、電磁誘導が起こり前記軸状部材の表面に高周波磁束による誘導電流が流れる。該誘導電流が流れることによって、前記軸状部材の持つ電気抵抗によってエネルギーを損失して熱が発生する。そして、前記軸状部材の表面が所定の温度まで上昇したところでその加熱を停止して、散水するなど急冷することによって高周波焼入処理が終了する。
【0004】
このような、リアアクスルシャフトのような金属製の軸状部材の高周波焼入装置は、例えば特許文献1に開示されている。
特許文献1に開示された技術では、高周波焼入対象のワークである軸状部材(シャフト)は、軸方向を上下にして配置されるとともに、上下をそれぞれ上主軸、下主軸で支持されている。また、軸状部材の径方向を囲繞するように、コイルと冷却水ジャケットが設けられている。そして、前記コイルに高周波電流を流し、前記冷却手段(冷却水ジャケット内)に冷却水を流通させ、前記軸状部材を回転させながら軸方向に移動させる。これにより、コイルに高周波電流を流すことで電磁誘導が起こり、軸状部材の表面に高周波磁束による誘導電流が流れ、軸状部材が誘導加熱される。また、軸状部材は軸方向即ち上下方向に移動しているため、軸状部材のある位置では、前記誘導電流は一定時間だけ流れて止まる。前記一定時間経過後は、軸状部材の軸方向への移動によって前記ある位置は冷却水ジャケットと同じ位置に移動し冷却水ジャケットによって急冷され、高周波焼入処理が完了する。
【0005】
つまり、特許文献1に開示された技術は、軸状部材の上下をそれぞれ上主軸、下主軸で支持するとともに、軸状部材の径方向を高周波電流を流したコイル及び冷却手段で囲繞し、軸状部材を軸方向に移動させることで軸状部材に高周波焼入を行うものである。また、特許文献1に開示された技術と類似の技術として、軸状部材の上下をそれぞれ上主軸、下主軸で支持するとともに、軸状部材の径方向を高周波電流を流したコイル及び冷却手段で囲繞し、コイルと冷却手段を軸状部材の軸方向に移動させることで軸状部材に高周波焼入を行う技術も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−269550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたような軸状部材の軸方向を上下にして配置してその上下をそれぞれ上主軸、下主軸によって支持して高周波焼入を行う軸状部材の高周波焼入装置においては、高周波焼入を行うことによって軸状部材が熱伸び(膨張)し、該熱伸びにより前記上主軸、下主軸の周辺で軸状部材が歪んでしまう。
【0008】
高周波焼入によって軸状部材に歪みが生じた場合、高周波焼入の終了後に歪修正装置を用いて歪取りを行う必要がある。歪取りの作業は長時間を要するため、高周波焼入に係る作業時間が長時間化するとともに、高コスト化する。
【0009】
従って、本発明は従来技術の問題点に鑑み、リアアクスルシャフトのような金属製の軸状部材を上下方向に配置し、該軸状部材の上下それぞれを支持する支持部材と、前記軸状部材の径方向を囲繞するとともに高周波電流を流すことが可能なコイルと、該コイルと一体化して前記部材を冷却する冷却手段とを有し、前記コイルと前記軸状部材の相対的高さ位置を変更可能に構成した軸状部材の高周波焼入装置において、高周波焼入による軸状部材の熱伸びを吸収し、該熱伸びによる軸状部材の歪みの発生を抑制することが可能な軸状部材の高周波焼入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明においては、金属製の軸状部材に対して軸部の外径面に高周波焼入を行う軸状部材の高周波焼入装置において、軸方向を上下方向に配置した前記軸状部材の上部を支持する上主軸と、前記軸状部材の下部を支持する下主軸と、前記軸状部材の径方向を囲繞して高周波電流を流すことが可能なコイルと、該コイルと一体化し前記軸状部材を冷却する冷却手段とを有し、前記軸状部材と前記コイルの少なくとも一方を上下方向に移動可能に構成して、前記軸状部材と前記コイルの高さの相対位置を変化可能とし、前記上主軸は前記軸状部材の熱伸びに追従して上方向に移動可能であることを特徴とする。
【0011】
これにより、高周波焼入による前記軸状部材の熱伸びを前記上主軸によって吸収することができるため、該熱伸びに起因して軸状部材に歪みが発生することを抑制することができる。
【0012】
また、前記上主軸は、前記軸状部材を支持することが可能であり且つ前記熱伸びに追従して上方向に移動可能な圧力で押圧して前記軸状部材を支持しているとよい。
これにより、前記軸状部材を支持する上主軸の圧力を調整するだけで、前記軸状部材の熱伸びの吸収が可能となり、簡単な機構で本発明の実施が可能となる。
【0013】
また、前記上主軸の鉛直方向上方にガイド部材を有し、該ガイド部材は前記熱伸びによって上方向に移動した前記上主軸を鉛直方向上側に移動させるものであるとよい。
これにより、上主軸によって熱伸びを吸収された軸状部材が前記ガイド部材によって鉛直方向上方向即ち軸状部材の軸方向に伸びる。従って、熱伸びによって伸びた部分で軸状部材が曲がってしまうことを防止することができる。
【0014】
また、前記熱伸びによって前記上主軸が上方向に移動した量を検出する熱伸び量検出手段を設けるとよい。
これにより、軸状部材の熱伸び量を確認することができる。また、高周波焼入前の軸状部材の全長を予め測定しておけば、該全長と前記熱伸び量から軸状部材の高周波焼入後や高周波焼入中の全長の検出が可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、金属製の軸状部材を上下方向に配置し、該軸状部材の上下それぞれを支持する支持部材と、前記軸状部材の径方向を囲繞するとともに高周波電流を流すことが可能なコイルと、該コイルと一体化して前記部材を冷却する冷却手段とを有し、前記コイルと前記軸状部材の相対的高さ位置を変更可能に構成した軸状部材の高周波焼入装置において、高周波焼入による軸状部材の熱伸びを吸収し、該熱伸びによる軸状部材の歪みの発生を抑制することが可能な軸状部材の高周波焼入装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例に係るリアアクスルシャフトの高周波焼入装置の概略図である。
【図2】実施例に係る上部センター芯押し台の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【実施例】
【0018】
図1は、実施例に係るリアアクスルシャフトの高周波焼入装置の概略図である。
図1において、高周波焼入装置1は、上主軸2、下主軸4、コイル10及び焼入水筒12から概略構成されている。
【0019】
上主軸2は後述する上部センター芯押し台20に下向きに設けられており、下主軸4は主軸台6に上向きに回転自在に取り付けられている。
【0020】
高周波焼入対象のワークであるリアアクスルシャフト8は、軸方向を上下にして配置され、上部を上主軸2に支持されるとともに、下部を下主軸4と一体となって回転自在に下主軸4によって支持される。
また、コイル10及び焼入水筒12は、それぞれリアアクスルシャフト8の径方向を囲繞している。コイル10と焼入水筒12は一体となっており、リアアクスルシャフト8の径方向を囲繞したまま、リアアクスルシャフト8の軸方向即ち上下方向に移動可能に構成されている。
【0021】
図2は、実施例に係る上部センター芯押し台の構成図である。
上部センター芯押し台は、上主軸2、熱伸び吸収ガイド部22、スケールシリンダ24から概略構成されている。
【0022】
上主軸2は、上部センター芯押し台20の最下部に下向きに設けられており、前述の通りリアアクスルシャフト8の上部を支持するものである。上主軸2は、リアアクスルシャフト8を支持したままリアアクスルシャフト8の熱伸びを吸収でき、且つリアアクスルシャフト8とともに回転することができる圧力で上方よりリアアクスルシャフト8を支持している。該支持に係る上主軸2の推力は、通常の工場エアー圧力の4.0kgf/cmで、焼入を開始すると減圧回路に切り替わりエアー圧力を微力程度のものとし、回転検知のある上主軸2を追従させながら、かつ、歪を抑制させている。
【0023】
熱伸び吸収ガイド部22は、上主軸2の上方に設けられており、内部に上下方向即ちリアアクスルシャフト8の軸方向に延びて上主軸2の鉛直方向上方に位置するガイド通路22aが設けられている。
【0024】
スケールシリンダ24は、上主軸2の上方に設けられており、熱伸び吸収ガイド部22内の上主軸2の上端の位置を随時検出することで、リアアクスルシャフト8の熱伸び量を検知可能としたものである。
【0025】
さらに、図2に示したように、上主軸2の回転数を検出する回転検出装置28が設けられている。前述の通り上主軸2はリアアクスルシャフト8とともに回転することができる圧力でリアアクスルシャフト8を支持している。そのため、上主軸2はリアアクスルシャフト8の回転に追従して回転することとなるので、回転検出装置28による上主軸の回転数の検出値はリアアクスルシャフト8の回転数と同値となる。
【0026】
次に、図1及び図2を用いて実施例に係る高周波焼入装置1による高周波焼入の動作について説明する。
図1に示した高周波焼入装置においてリアアクスルシャフト8の高周波焼入を行う場合、まずリアアクスルシャフト8を上主軸2及び下主軸4で支持し、モータ(不図示)によって下主軸4を回転させる。下主軸4を回転させることにより、下主軸4と一体となってリアアクスルシャフト8が回転し、リアアクスルシャフト8の回転に追従して上主軸2が回転する。該回転は、斑無くリアアクスルシャフト8に高周波焼入処理を行うために実施するものである。
【0027】
次いで、コイル10と焼入水筒12の一体物をリアアクスルシャフト8の最下部まで下げる。そして、コイル10と焼入水筒12の一体物を上方に上げながら、コイル10に高周波電流を流すとともに、焼入水筒12からリアアクスルシャフト8に向けて冷却水を供給する。
【0028】
コイル10に高周波電流を流すことによって電磁誘導が起こり、リアアクスルシャフト8の表面に高周波磁束による誘導電流が流れ、リアアクスルシャフト8が誘導加熱される。前述の通り、コイル10は上方に向けて移動しているため、リアアクスルシャフト8のある高さ位置では、前記誘導電流は一定時間だけ流れて止まる。該一定時間は、コイル10の上方への移動速度によって調整することができ、該移動速度はリアアクスルシャフト8の表面温度が前記誘導電流の流れによって所望の所定温度に上がる時間だけ誘導電流が流れるように調整する。
【0029】
そして、前述のようにコイル10と焼入水筒12は一体化しているため、コイル10に高周波電流を流すことによってリアアクスルシャフト8の表面に誘導電流を流してリアアクスルシャフト8の表面温度が上昇した後、次いでその位置に焼入水筒12によって冷却水が供給されて急冷され、高周波焼入処理が完了する。
【0030】
高周波焼入処理の際に、高周波焼入による加熱によってリアアクスルシャフト8は熱伸びする。また、前述の通り、上主軸2は、リアアクスルシャフト8を支持したままリアアクスルシャフト8の熱伸びを吸収できる推力で上方よりリアアクスルシャフト8を支持している。そのため、リアアクスルシャフト8は、その熱伸びを上主軸2に吸収されて上主軸2を押し上げながら上方に延びる。そして、押し上げられた上主軸2は熱伸び吸収ガイド部22にガイドされて、熱伸び吸収ガイド部22内部のガイド通路22a内を上方に上がっていく。
【0031】
また、高周波焼入処理の際、スケールシリンダ24で熱伸び吸収ガイド部22内の上主軸2の上端の位置を検出する。これにより、リアアクスルシャフト8の熱伸び量を確認することができる。そして、高周波焼入前のリアアクスルシャフト8の全長を予め測定しておけば、該全長と熱伸び量の検出値からリアアクスルシャフト8の高周波焼入後や高周波焼入中の全長の検出が可能である。
なお、スケールシリンダ24の検出値は外部に設けたモニタ(不図示)等に常時表示させておくと、熱伸び状態が数値として常時確認することができ、熱伸び状態から高周波焼入状態を推測できるため好ましい。
【0032】
本実施例によれば、高周波焼入によるリアアクスルシャフトの熱伸びを上主軸2によって吸収することができるため、該熱伸びに起因してリアアクスルシャフト8に歪みが発生することを抑制することができる。また、リアアクスルシャフト8を支持する上主軸2の推力によって熱伸びの吸収を可能としているため、簡単な機構で本発明の実施が可能である。なお、本実施例においては前記推力をエアシリンダー構造によって上主軸2に与えているが、上主軸2に所望の推力を与えられる機構であれば、例えば機械的に押圧力を上主軸に与えるなどその他の機構とすることもできる。
【0033】
さらに、熱伸び吸収ガイド部22を設けたため、リアアクスルシャフト8の熱伸びを吸収した上主軸2が熱伸び吸収ガイド部22内のガイド部22a内を上方に移動する。即ちリアアクスルシャフト8はその軸方向に伸びる。従って、熱伸びによって伸びた部分でリアアクスルシャフト8が曲がってしまうことを防止することができる。
【0034】
また、スケールシリンダ24を設けているため、前述の通り熱伸び量を確認することができ、リアアクスルシャフト8の高周波焼入後や高周波焼入中の全長の検出が可能である。
【0035】
また、回転検出装置28を設けているため、上主軸2の回転数即ちリアアクスルシャフト8の回転数を検出することができる。これにより、リアアクスルシャフト8が異常回転や回転数の低下、停止などをしている場合には、回転に係る装置(不図示)の故障等何らかの異常の発生を予想することができ該装置の点検等の処置をとることができる。これにより、リアアクスルシャフト8の回転の停止その他の異常によりリアアクスルシャフト8の高周波焼入に斑が発生することを防止できる。
【符号の説明】
【0036】
1 高周波焼入装置
2 上主軸
4 下主軸
8 リアアクスルシャフト(軸状部材)
10 コイル
12 焼入水筒(冷却手段)
20 上部センター芯押し台
22 熱伸び吸収ガイド部(ガイド部材)
24 スケールシリンダ(熱伸び量検出手段)
28 回転検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の軸状部材に対して、軸部の外径面に高周波焼入を行う軸状部材の高周波焼入装置において、
軸方向を上下方向に配置した前記軸状部材の上部を支持する上主軸と、
前記軸状部材の下部を支持する下主軸と、
前記軸状部材の径方向を囲繞し、高周波電流を流すことが可能なコイルと、
該コイルと一体化し、前記軸状部材を冷却する冷却手段とを有し、
前記軸状部材と前記コイルの少なくとも一方を上下方向に移動可能に構成して、前記軸状部材と前記コイルの高さの相対位置を変化可能とし、
前記上主軸は、前記軸状部材の熱伸びに追従して上方向に移動可能であることを特徴とする軸状部材の高周波焼入装置。
【請求項2】
前記上主軸は、前記軸状部材を支持することが可能であり且つ前記熱伸びに追従して上方向に移動可能な圧力で押圧して前記軸状部材を支持していることを特徴とする請求項1に記載の軸状部材の高周波焼入装置。
【請求項3】
前記上主軸の鉛直方向上方にガイド部材を有し、
該ガイド部材は、前記熱伸びによって上方向に移動した前記上主軸を鉛直方向上側に移動させるものであることを特徴とする請求項1又は2記載の軸状部材の高周波焼入装置。
【請求項4】
前記熱伸びによって前記上主軸が上方向に移動した量を検出する熱伸び量検出手段を設けたことを特徴とする請求項1〜3何れかに記載の軸状部材の高周波焼入装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−87370(P2012−87370A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235448(P2010−235448)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】