説明

軸部材のすべり軸受構造

【課題】低温時の摺動抵抗の早期低減が可能で、高温時の潤滑油による冷却作用を阻害することのない軸部材のすべり軸受構造を提供する。
【解決手段】相対的に回転可能な軸部材10及び軸受部材12の摺動面間に潤滑油が供給される軸部材のすべり軸受構造において、半割りの2部品で構成され、各々の半割り部品の内周面における軸方向両端部に、所定の軸方向幅を有する周方向溝16が形成された軸受部材12と、半割りの2部品で構成され、周方向溝に対応する箇所に配置されたシール部材18であって、一方の半割り部品の周方向両端部と他方の半割り部品の周方向両端部とを互いに連結する連結部を有するシール部材とを備える。シール部材は、互いに連結された状態で、その内径が、低温時には軸受部材の内径よりも小さくなるように収縮し、高温時には軸受部材の内径と同一又はより大きくなるように膨張する熱膨張率を有する材料で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸部材のすべり軸受構造、特に、自動車用の内燃機関などに用いられる軸部材のすべり軸受構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、かかる軸部材のすべり軸受構造では、軸部材及び軸受部材の摺動面間のクリアランスに潤滑油を供給して潤滑油膜を形成し、この潤滑油膜内に生ずる油膜圧力により荷重を支持することで、摩擦損失の低減、磨耗や焼付き防止作用をもたらすようにしている。
【0003】
従来からこのような摺動面間のクリアランスに潤滑油を保持するために、軸受の内周面に周方向に多数の細溝ないしは条痕を並列に形成した技術などが提案されている。
【0004】
そして、特許文献1には、回転軸が接触する軸受部材に凹部を形成し、該凹部に軸受部材よりも熱膨張率の大きい材料からなる収縮部材を埋め込むことにより、軸受部が冷えた状態のときには凹部を油溜まりとし、熱を帯びるようになると収縮部材の膨張により面一の摺動面を形成させ、良好な潤滑特性を得ると共に、面圧を低減させて耐焼付性を向上させた軸受構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−285456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、自動車用の内燃機関などでは、その暖機完了後は、すべり軸受構造でのそれほど大きな摺動抵抗(摩擦損失)は発生しないが、例えば、極低温(−30℃程度)から室温(20〜25℃程度)での低温始動時には非常に大きな摺動抵抗を生じている。これは、潤滑油の粘度が温度に依存し、かかる低温時には粘度が急激に増大するからである。
【0007】
そこで、このような低温時の摺動抵抗を下げるために、軸受部の早期の温度上昇を図りたいが、かかる低温時では供給される潤滑油自体の温度も低く温度上昇が遅れること、及びせん断抵抗により発生した熱により潤滑油温度が上昇するにしても、この潤滑油は軸受部から直ぐに流出してしまうことから、軸受部の温度上昇に時間がかかるという問題があった。
【0008】
一方、暖機完了後の定常運転や高速運転での高温時(80〜120℃程度)では、十分な潤滑油量がないと過度の温度上昇を招き、焼き付きなどの不具合を発生させることから、高温時に十分な冷却能力を発揮できるすべり軸受構造が求められている。
【0009】
なお、上述の特許文献1に開示された軸受構造は、回転軸が接触する軸受部材に形成された凹部に軸受部材よりも熱膨張率の大きい材料からなる収縮部材を埋め込み、軸受部が冷えた状態のときには凹部が油溜まりとなるようにするもので、軸受部の温度の早期上昇を意図するものではない。
【0010】
そこで、本発明は、上記従来の実情に鑑みなされたもので、低温時の摺動抵抗の早期低減が可能で、高温時の潤滑油による冷却作用を阻害することのない軸部材のすべり軸受構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための本発明に係る軸部材のすべり軸受構造の一形態は、相対的に回転可能な軸部材及び軸受部材の摺動面間に潤滑油が供給される軸部材のすべり軸受構造において、半割りの2部品で構成され、各々の半割り部品の内周面における軸方向両端部に、所定の軸方向幅を有する周方向溝が形成された前記軸受部材と、半割りの2部品で構成され、前記周方向溝に対応する箇所に配置されたシール部材であって、一方の半割り部品の周方向両端部と他方の半割り部品の周方向両端部とを互いに連結する連結部を有するシール部材と、を備え、前記シール部材は、互いに連結された状態で、その内径が、低温時には前記軸受部材の内径よりも小さくなるように収縮し、高温時には前記軸受部材の内径と同一又はより大きくなるように膨張する熱膨張率を有する材料で形成されていることを特徴とする。
【0012】
なお、本明細書において、「低温時」とは、軸受部の温度が上述の極低温(−30℃程度)から室温(20〜25℃程度)にある状態、及び「高温時」とは、同じく軸受部の温度が上述の暖機完了後の定常運転や高速運転での高温時(80〜120℃程度)にある状態を意味する。
【0013】
この一形態の軸部材のすべり軸受構造によれば、軸受部材及びシール部材は、半割りの2部品で構成されていることから、軸部材または軸受部材への組み付けが容易である。特に、シール部材が半割りの2部品で構成されているので、軸部材にシール部材を先に取付けた後に軸受部材を組み付ける必要がなく、組み付け性が向上する。また、シール部材と軸受部材の周方向溝との手探りによる位置合わせが不要で、軸受部材がシール部材を噛み込むことを防止できる。
【0014】
さらに、この一形態では、軸受部材の内周面における軸方向両端部に形成された、所定の軸方向幅を有する周方向溝に対応する箇所に配置されたシール部材は、一方の半割り部品のシール部材の周方向両端部と他方の半割り部品のシール部材の周方向両端部とが連結部によって互いに連結される。そして、所定の熱膨張率を有する材料で形成されているシール部材は、互いに連結された状態で、低温時には、その内径が軸受部材の内径よりも小さくなるように収縮し、高温時には軸受部材の内径と同一又はより大きくなるように膨張して変形する。したがって、低温時には、シール部材と軸部材とのクリアランスが軸部材と軸受部材とのクリアランスよりも小さくなり、軸部材及び軸受部材の摺動面間に供給された潤滑油の軸受部の両端から漏れる量が制限されるので、軸受部に保持された潤滑油がせん断されて加熱され、軸受部の温度が早期に上昇する。一方、高温時には、シール部材と軸部材とのクリアランスが軸部材と軸受部材とのクリアランスと同一又はより大きくなり、潤滑油が軸受部の両端から漏れる量が制限されないので、潤滑油による冷却作用が奏される。
【0015】
ここで、上記一形態において、前記シール部材の連結部は、軸方向に延びる軸方向延在部と、軸方向に平坦面を周方向に円弧面を有する本体部から軸直交方向に所定の角度Θ1を有して延び、前記軸方向延在部の基端部に連続する角度付連続部とを有する鉤形状であり、前記軸受部材の前記周方向溝の周方向両端部はテーパ形状であってもよい。この構成によれば、軸受部材の周方向溝における周方向両端部のテーパ形状部に対し、シール部材の鉤形状連結部を収容させることによって、両者の位置決めが容易となり組み付け性が向上する。
【0016】
また、前記鉤形状連結部の前記軸方向延在部の軸方向大きさは、前記軸受部材の前記周方向溝の軸方向幅よりも大きいことが好ましい。この構成によれば、シール部材が周方向溝内を周方向に大きく摺動することが、軸方向延在部と周方向溝端部との干渉によって防止されるので、取扱いが容易である。
【0017】
さらに、前記軸方向延在部の先端部と前記本体部の軸方向平坦面の中、該先端部から遠い側の平坦面との距離は、前記周方向溝の軸方向幅の半分よりも大きいことが好ましい。この構成によれば、シール部材の連結部の一方の軸方向延在部と他方の軸方向延在部とが互いに噛合わされて連結された後、半割りのシール部材が互いに軸方向にずれたとしても、互いの軸方向延在部の先端部同士は外れることがないので、シール部材の保持が確実に行われる。
【0018】
また、前記周方向溝の周方向両端部のテーパ形状のテーパ角をΘ2とするとき、該テーパ角Θ2は前記角度付連続部の角度Θ1よりも大きいことが好ましい。この形態によれば、シール部材の両端部の鉤形状の連結部同士を互いに噛合わせて連結する際に、角度Θ1の角度付連続部がテーパ角Θ2を有する周方向溝のテーパ形状周方向両端部内で軸方向に移動することが確実に許容されるので、組み付け性が向上する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、低温時の摺動抵抗の早期低減が可能で、高温時の潤滑油による冷却作用を阻害することがない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る軸部材のすべり軸受構造の実施形態を示す横断面図である。
【図2】図1の軸部材のすべり軸受構造の下側半分を示す縦断面図である。
【図3】本発明に係る軸部材のすべり軸受構造の実施形態に用いられるシール部材の一例を示す(A)斜視図、及び(B)その端部の展開図である。
【図4】本発明に係る軸部材のすべり軸受構造の実施形態に用いられる(A)軸受部材の端部の展開図、(B)シール部材がその軸受部材へ組付けられた時の部分展開図、及び(C)同じくその部分斜視図である。
【図5】本発明に係る軸部材のすべり軸受構造の実施形態において、組み付けの手順(A)ないし(C)を示す部分展開説明図である。
【図6】本発明の実施形態を示す横断面図であり、(A)は極低温時を示し、(B)は室温程度の低温時を示し、及び(C)は高温時を示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
まず、本発明をエンジンのクランクシャフトのすべり軸受構造に適用した実施の形態につき、図1及び2を参照して説明する。図1及び2において、10は回転する軸部材としてのクランクシャフトのメインジャーナル、12はメインジャーナル10を回転自在に支持するための軸受部材としてのジャーナルベアリングである。ジャーナルベアリング12は、不図示のシリンダブロックに形成された上側ハウジング14U及びこれに締結されるベアリングキャップに形成された下側ハウジング14Lからなる軸受ハウジング14に収容され、挟まれて固定されている。
【0023】
なお、本実施の形態では、ジャーナルベアリング12は、上側ジャーナルベアリング12U及び下側ジャーナルベアリング12Lとで構成されている。そして、上側ジャーナルベアリング12U及び下側ジャーナルベアリング12Lは、より詳しくは、それぞれ、上側裏金12U1及び下側裏金12L1に上側ライニング12U2及び下側ライニング12L2が、それぞれ、装着されて構成されている(なお、図2には、下側裏金12L1と下側ライニング12L2とで構成される下側ジャーナルベアリング12Lのみが示されている)。そして、メインジャーナル10と、上側ジャーナルベアリング12U及び下側ジャーナルベアリング12Lで構成されているジャーナルベアリング12とは、それらの全周に亘り所定のクリアランスを有するように設定され、このクリアランスに対し油通路15及び上側ジャーナルベアリング12U(又は下側ジャーナルベアリング12Lでもよい)に形成され油孔を介して潤滑油が供給される。
【0024】
そこで、本実施形態における軸受部材としてのジャーナルベアリング12では、上側ジャーナルベアリング12Uと下側ジャーナルベアリング12Lの内周の摺動面において、その軸方向の両端部に、所定の軸方向幅bを有する周方向溝16(上側周方向溝16Uと下側周方向溝16Lとからなる)が連続して形成されている(なお、図2には下側ジャーナルベアリング12L及び下側周方向溝16Lのみが示されている)。そして、これらの周方向溝16に対応する箇所に、メインジャーナル10及びジャーナルベアリング12と別体の半割りの2部品で構成されているシール部材18(上側シール部材18U、下側シール部材18Lからなる)が配置されている。
【0025】
当該半割りの上側シール部材18U及び下側シール部材18Lは、図3(A)に示すように、それぞれ、軸方向の両側に平坦面、周方向に円弧面を有すると共に、幅wと厚さtのほぼ矩形断面を有する上側本体部18UB、下側本体部18LBと、それらのそれぞれの周方向両端部に形成された上側連結部18UC、下側連結部18LCとから構成されている。そして、それぞれの上側連結部18UC、下側連結部18LCは、上側本体部18UB、下側本体部18LBから軸直交方向に所定の角度を有して延びる上側角度付連続部18UC1、下側角度付連続部18LC1と、これらの端部からそれぞれ軸方向に延びる上側軸方向延在部18UC2、下側軸方向延在部18LC2を有する鉤形状に形成されている。なお、本実施形態においては、上側角度付連続部18UC1、下側角度付連続部18LC1は、それぞれ、上側本体部18UB、下側本体部18LBから軸直交方向に所定の角度Θ1を有して延びている(図3(B)参照、但し、図3(B)には下側シール部材18Lのみが示されている)。
【0026】
さらに、上側ジャーナルベアリング12Uと下側ジャーナルベアリング12Lとのそれぞれの上側周方向溝16U及び下側周方向溝16Lの周方向両端部には、上側シール部材18U及び下側シール部材18Lのそれぞれの上側連結部18UC及び下側連結部18LCをそれぞれ収容する上側拡大部16UE及び下側拡大部16LEが設けられている。本実施形態においては、これらの上側拡大部16UE及び下側拡大部16LEは、図4(A)に示すように、左右に等しく傾斜された傾斜面16LEs、16LEsを有するテーパ形状に形成されている(なお、図4(A)には下側拡大部16LEのみが示されている)。そして、このテーパ角をΘ2とするとき、テーパ角Θ2は前述の角度付連続部の角度Θ1よりも大きく形成されている。
【0027】
ここで、シール部材18と軸受部材の周方向溝16との寸法及び配置関係を説明して置くと、本実施形態において、図4(B)及び(C)に示すように、以下のように設定されている。なお、ここでは便宜上、図4(B)及び(C)に従って代表的に、下側ジャーナルベアリング12Lの下側周方向溝16Lと下側シール部材18Lとの関係についてのみ説明する。なお、上側の部材については、下側の部材に関して符号に用いられている「L」を「U」に読み替えれば、当業者には同様に理解可能であるはずである。
【0028】
そこでまず、下側シール部材18Lの鉤形状連結部18LCにおける下側軸方向延在部18LC2は、後述するが、下側ジャーナルベアリング12Lの上側ジャーナルベアリング12Uとの合わせ面12L1よりも周方向に突出するように、下側シール部材18Lの周方向寸法が設定されている。また、この下側軸方向延在部18LC2の先端部には、軸ないしはそれに直交する方向に関しほぼ45度の傾斜面18LC3が形成されている。さらに、下側シール部材18Lの鉤形状連結部18LCにおける下側軸方向延在部18LC2の軸方向大きさ(長さ)をaとするとき、この長さaは、下側周方向溝16Lの軸方向幅bよりも大きく形成されている。このように長さaを軸方向幅bよりも大きくすると、シール部材18が周方向溝16内を周方向に大きく摺動することが、軸方向延在部と周方向溝端部との干渉によって防止される。
【0029】
さらに、下側軸方向延在部18LC2の傾斜面18LC3の先端部と下側本体部18LBの軸方向平坦面の中、該先端部から遠い側の平坦面との距離をcとするとき、該距離cは、下側周方向溝16Lの軸方向幅bの半分よりも大きく形成されている。この構成によれば、後述するように、上下のシール部材18U,18Lの連結部における一方、例えば、上側の軸方向延在部18UC2と他方、すなわち、下側の軸方向延在部18LC2とが互いに噛合わされて連結された後、半割りの上下のシール部材18U,18Lが互いに軸方向にずれたとしても、互いの軸方向延在部18UC2、18LC2の先端部同士は外れることがない(後述の図5(C)参照)。
【0030】
このように構成された本実施の形態によるエンジンのクランクシャフトのすべり軸受構造においては、例えば、以下の手順によって組付けが行われる。すなわち、まず、半割りの上下のシール部材18U,18Lのそれぞれが、上下のジャーナルベアリング12U、12Lの周方向溝16U、16Lに、図5(A)に示されるように、上下のシール部材18U、18Lの鉤形状連結部18UC、18LCにおける軸方向延在部18UC2、18LC2がそれぞれ上下のジャーナルベアリング12U、12Lの合わせ面12U1、12L1よりも突出する状態で装着され、そして、上下のジャーナルベアリング12U、12Lの間にメインジャーナル10が介在される。
【0031】
次いで、その上下のジャーナルベアリング12U,12Lが、それらの間にメインジャーナル10が介在された状態で、図5(B)に示されるように、互いに接近される。すると、上記軸方向延在部18UC2、18LC2の先端部に形成されている、ほぼ45度の傾斜面18UC3、18LC3が互いに当接し、上述の接近が進行するにつれて、上下のシール部材18U,18Lはその有する弾性によって図5(B)に白抜きの矢印で示される方向に変形される。このとき、鉤形状連結部18UC,18LCにおいて角度Θ1を有して延びている角度付連続部18UC1、18LC1は、角度Θ1より大きいテーパ角Θ2に形成されている傾斜面16UEs、16LEsに向っての変形が許容されることになる。そして、上下のジャーナルベアリング12U、12Lの互いの合わせ面12U1、12L1が接触するまでに接近されると、それまでの過程において、弾性変形されていた上下のシール部材18U,18Lがそれぞれの傾斜面18UC3、18LC3を乗り越えた後に弾性的に復元され、図5(C)に示されるように、軸方向延在部18UC2、18LC2が、後述する収縮時に互いに周方向に離反しないように、それぞれ軸方向に重なり合って噛合い互いに連結される。
【0032】
その後、本実施の形態によるクランクシャフトのすべり軸受構造は、例えば、不図示のシリンダブロックに形成された上側軸受ハウジング14Uに、上述のようにして組み付けられた上側ジャーナルベアリング12Uが載せられた後、下側ジャーナルベアリング12Lに下側軸受ハウジング14Lが形成されているベアリングキャップがボルト等でもって締結されることによって、軸受ハウジング14に組付け支持されることになる。
【0033】
そして、互いに連結されて環状とされたシール部材18は、その外径部が周方向溝16内に位置されて、−30℃程度の極低温時には、その内径部が図6(A)に示すようにジャーナルベアリング12の内径よりも小さく、換言すると、メインジャーナル10の外径とほぼ同一となり、20〜25℃程度の室温時には、図6(B)に示すようにジャーナルベアリング12の内径よりも若干小さく、80〜120℃程度の暖機完了後の定常運転や高速運転といった温度上昇時の高温時には、その内径部が図6(C)に示すようにジャーナルベアリング12の内径と同一又はこれより大きく、換言すると、シール部材18の厚さtの分が周方向溝16内に埋没するように変形する熱膨張率を有する材料(例えば、ポリイミド樹脂)で形成されている。
【0034】
なお、周方向溝16の深さは、高温時に膨張したシール部材18の内径部がジャーナルベアリング12の内径と同一又はより大きくなるように決定される。
【0035】
このように構成された本実施の形態によれば、今、エンジンが冷機状態にある低温時での始動時には、シール部材18は収縮状態にあり、その内径部が、図6(A)に示すように、ジャーナルベアリング12の内径よりも小さく収縮し、シール部材18とメインジャーナル10とのクリアランスがメインジャーナル10とジャーナルベアリング12とのクリアランスよりも小さい状態にある。この状態では、メインジャーナル10及びジャーナルベアリング12の摺動面間のクリアランスに油通路15を介して供給された潤滑油は、その流出が収縮状態にあるシール部材18によって妨げられて、ジャーナルベアリング12による軸受部の両端からの潤滑油漏れ量が制限される。したがって、シール部材18の間の軸受部に保持された潤滑油は、メインジャーナル10の回転に伴いせん断されて熱を発生し、この結果、軸受部の温度が早期に上昇することになる。
【0036】
一方、エンジンの暖機が進んだ室温時(例えば、25℃程度)には、環状のシール部材18の内径が、図6(B)に示すように、収縮が緩和されてジャーナルベアリング12の内径よりも若干小さい状態にある。この状態にある環状のシール部材18の内径とジャーナルベアリング12の内径との差、換言すると、シール部材18のジャーナルベアリング12内へのはみ出し量を如何に設定するかによって、当該すべり軸受の特性が設定可能である。すなわち、はみ出し量を大きく設定すると低温時における軸受部の暖機効果は高くなるが、後述の高温時の冷却作用は低下する。そして、はみ出し量を小さく設定すると、逆の傾向となる。したがって、この特性は、エンジンの使用環境(仕向地)に適応するように設定することができる。
【0037】
さらに、暖機後の高温時には、環状のシール部材18が熱膨張状態にあり、その内径がジャーナルベアリング12の内径と同一又はより大きくなるように変形し、図6(C)に示す(正しくは、図6(C)では見えない)ように、環状のシール部材18とメインジャーナル10とのクリアランスがメインジャーナル10とジャーナルベアリング12とのクリアランスと同一又はより大きくなる。この状態では、油通路15を介して供給された潤滑油は、膨張状態にあるシール部材18によってはその流出が妨げられず、ジャーナルベアリング12による軸受部の両端からの潤滑油漏れ量が制限されないので、潤滑油による軸受部の冷却作用が奏される。
【0038】
なお、上記説明では、本発明をクランクシャフトのメインジャーナルの軸受部に適用した実施形態につき説明したが、他の部位のすべり軸受構造、例えば、クランクシャフトのピン部、カムシャフトのメインジャーナル軸受部などにも本発明を適用することが可能であることは言うまでもない。また、ジャーナルベアリングを有さない直受けの軸受構造の場合であっても、軸部材を支持する軸受ハウジングに上述の環状溝を形成し、上述のシール部材を配置するようにしても同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0039】
10 メインジャーナル(軸部材)
12 ジャーナルベアリング(軸受部材)
12U 上側ジャーナルベアリング
12L 下側ジャーナルベアリング
14 軸受ハウジング
14U 上側軸受ハウジング
14L 下側軸受ハウジング
15 油通路
16 (軸受部材の)周方向溝
16U 上側周方向溝
16UE 上側拡大部
16UEs (拡大部の)傾斜面
16L 下側周方向溝
16LE 下側拡大部
16LEs (拡大部の)傾斜面
18 シール部材
18U 上側シール部材
18UB 上側本体部
18UC 上側連結部
18UC1 上側角度付連続部
18UC2 上側軸方向延在部
18UC3 上側傾斜面
18L 下側シール部材
18LB 下側本体部
18LC 下側連結部
18LC1 下側角度付連続部
18LC2 下側軸方向延在部
18LC3 下側傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に回転可能な軸部材及び軸受部材の摺動面間に潤滑油が供給される軸部材のすべり軸受構造において、
半割りの2部品で構成され、各々の半割り部品の内周面における軸方向両端部に、所定の軸方向幅を有する周方向溝が形成された前記軸受部材と、
半割りの2部品で構成され、前記周方向溝に対応する箇所に配置されたシール部材であって、一方の半割り部品の周方向両端部と他方の半割り部品の周方向両端部とを互いに連結する連結部を有するシール部材と、を備え、
前記シール部材は、互いに連結された状態で、その内径が、低温時には前記軸受部材の内径よりも小さくなるように収縮し、高温時には前記軸受部材の内径と同一又はより大きくなるように膨張する熱膨張率を有する材料で形成されていることを特徴とする軸部材のすべり軸受構造。
【請求項2】
前記シール部材の連結部は、軸方向に延びる軸方向延在部と、軸方向に平坦面を周方向に円弧面を有する本体部から軸直交方向に所定の角度Θ1を有して延び、前記軸方向延在部の基端部に連続する角度付連続部とを有する鉤形状であり、前記軸受部材の前記周方向溝の周方向両端部はテーパ形状であることを特徴とする請求項1に記載の軸部材のすべり軸受構造。
【請求項3】
前記鉤形状連結部の前記軸方向延在部の軸方向大きさは、前記軸受部材の前記周方向溝の軸方向幅よりも大きいことを特徴とする請求項2に記載の軸部材のすべり軸受構造。
【請求項4】
前記軸方向延在部の先端部と前記本体部の軸方向平坦面の中、該先端部から遠い側の平坦面との距離は、前記周方向溝の軸方向幅の半分よりも大きいことを特徴とする請求項2又は3に記載の軸部材のすべり軸受構造。
【請求項5】
前記周方向溝の周方向両端部のテーパ形状のテーパ角をΘ2とするとき、該テーパ角Θ2は前記角度付連続部の角度Θ1よりも大きいことを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載の軸部材のすべり軸受構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−233525(P2012−233525A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101937(P2011−101937)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000207791)大豊工業株式会社 (152)
【Fターム(参考)】