説明

輸液ポンプ

【課題】使用環境における温度の変動があっても、正確に輸液管路の内圧を測定でき、精度良く制御できる輸液ポンプを提供すること。
【解決手段】ケース11と、ケース11に配置されて可撓性を有する輸液管路21を有するカセットを着脱可能に装着でき輸液管路21を押すことで薬液を送出するための輸液送り部31を有する輸液ポンプ10であって、輸液ポンプ10は、輸液送り部31に装着されたカセット20の輸液管路21の内圧により生じる輸液管路21の膨らみ量を検出する検出部83と、輸液ポンプ10が使用される環境の温度を測定する温度センサ550と、温度センサ550により得られた温度に基づいて検出部83により検出された輸液管路21の内圧を補正する制御部100を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者に薬液を注入するための携帯型の輸液ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、患者に薬液を投入するために使用する医療機器としては、例えば輸液ポンプが知られており、この輸液ポンプは、患者に対して時間当たり薬液を決められた量だけ長時間かけて注入するのに広く使用されている。このような輸液ポンプのうち、例えば、医療機関だけでなく、一般の家庭において在宅でも使用できるようにコンパクトに形成した携帯型の輸液ポンプが知られている(特許文献1参照)。特許文献1の携帯型の輸液ポンプは、外部から導入される薬液を通す可撓性の輸液チューブを着脱式のカセットに導く構成とされている。
【0003】
具体的には、該着脱式のカセットのケース内に可撓性の輸液チューブ(以下、「チューブ」と言う。)を導入し、このケースから一部露出させたチューブに対して、回転ローラを押しつけることにより、輸液チューブに蠕動様運動を与えて、輸液チューブから薬液を所定の流速(mL/h)で注液を行なうようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平11−506355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した在宅で使用する携帯型の輸液ポンプでは、カセットのチューブの膨らみ量を測定してチューブの内圧を測定している。しかし、在宅で使用する携帯型の輸液ポンプは、24時間温度管理された病院内とは異なり、一般家庭において在宅で環境温度の変化する場所で使用されることが多い。
しかも、可撓性を有するチューブの形状は、患者が輸液ポンプを使用している環境温度の変化に追従して変化するいわゆる温度依存性がある。このように、患者が輸液ポンプを使用している環境温度が変化してばらつくと、チューブの形状の膨らみ量が変わるので、その結果チューブの内圧が変わってしまう。このため、正しいチューブの内圧を測定することが困難であった。
そこで、本発明は、使用環境における温度の変動があっても、正確に輸液管路の内圧を測定でき、精度良く制御できる輸液ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の輸液ポンプは、輸液管路を押すことで薬液を送出するための輸液送り部とを有する輸液ポンプであって、前記輸液管路で送液されている前記薬液の作用により発生する内圧により生じる前記輸液管路の膨らみ量を検出する検出部と、前記輸液ポンプが使用される環境の温度を測定する温度センサと、前記温度センサにより得られた前記温度により前記検出部により検出された前記輸液管路の内圧を補正する制御部と、を有することを特徴とする。
上記構成によれば、チューブのような輸液管路の温度のばらつきを補正して正確に輸液管路の内圧を測定することができる。すなわち、輸液管路の膨らみ量は温度依存性があり、輸液管路は温度が変化すると膨張収縮するので、制御部は、得られた輸液管路の内圧のばらつきを、前記温度センサの検出温度に応じて補正することができる。制御部は、輸液管路の温度のばらつきを考慮して輸液管路の内圧を補正できるので、輸液管路の内圧を正確に測定することができる。
【0007】
好ましくは、前記検出部は、付勢部材と、2つの永久磁石を有しており、前記輸液管路の膨らみにより押されることで前記付勢部材の力に抗して前記ケース内において直線移動する移動部材と、前記ケースに配置されて、前記移動部材の直線移動により生じる前記永久磁石の磁束密度の変化を検出する磁気センサと、前記磁気センサが検出した前記磁束密度の変化から前記輸液管路の膨らみ量を得るセンサ回路と、を有することを特徴とする。
上記構成によれば、輸液管路が膨らむことで移動部材とともに2つの永久磁石が直線移動すると、磁気センサがこの移動部材の移動量を永久磁石の磁束密度の変化を検出でき、移動部材の移動量に相当する輸液管路の膨らみ量を検出できる。
【0008】
好ましくは、前記磁気センサはホール素子であり、前記ホール素子に対面する前記2つの永久磁石の一方はN極であり他方はS極であることを特徴とする。
上記構成によれば、直線状の磁束密度変化部を発生することができ、磁気センサは、移動部材の直線移動により生じる永久磁石の磁束密度の変化を容易に検出することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、使用環境における温度の変動があっても、正確に輸液管路の内圧を測定でき、精度良く制御できる輸液ポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の輸液ポンプの好ましい実施形態を示す概略斜視図である。
【図2】図1の輸液ポンプのカセット収納部のカバーを開いた様子を示す概略正面図である。
【図3】図1の輸液ポンプのカセット収納部のカバーを開いて、カセットを収納する様子を示す概略斜視図である。
【図4】図4(A)は、カセットがセットされた閉塞検出部を含むカセット収納部を示す斜視図であり、図4(B)は、図4(A)に示すカセット収納部を矢印J方向から見た斜視図である。
【図5】図4(A)に示す閉塞検出部のF−F線における断面構造例を示す図である。
【図6】輸液ポンプの電気的な構成を示すブロック図である。
【図7】図6に示す閉塞検出部と温度センサ等を示すブロック図である。
【図8】図5に示す2つの永久磁石M1、M2が設けられている場合の磁束密度の変化例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して詳しく説明する。
尚、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
図1は、本発明の輸液ポンプの好ましい実施形態を示す概略斜視図である。図2は、図1の輸液ポンプのカセット収納部のカバーを開いた様子を示す概略正面図である。図3は、図1の輸液ポンプのカセット収納部のカバーを開いて、カセットを収納する様子を示す概略斜視図である。
図1から図3に示す輸液ポンプ10は、例えば、略矩形の本体(筐体)11を有している。本体11は、前筐体49と後筐体44を有する。本体11は、輸液ポンプ10の構成物を収納するためのケースであり、好ましくは、耐薬品性、耐衝撃性を有する熱可塑性合成樹脂、例えばハイインパクトスチロールやABS樹脂で形成されている。
【0012】
図1に示すように、本体11は、本体11の上面側のほぼ半分程度の面積を閉めるように、開閉可能なカバー12を有しており、該カバー12を、ヒンジ13を中心として回動可能として開閉できる。カバー12は、図示しない付勢手段、例えば、ヒンジ13の軸周りにトーションコイル等を配設することにより、図2と図3に示すように、常時開方向に付勢されている。カバー12を閉じて押し込むことにより、カバー12は本体11側の図示しないラッチ等に係合されるようになっており、本体11の側部外縁に突出する解除ボタン16,16を、矢印方向に手指にて押し込むことにより、該ラッチ等が解除されてカバー12を開けることができる。
【0013】
図1の前筐体49における符号17は、開始停止スイッチであり、この開始停止スイッチ17は、図1において横方向に「停止−開始」のスライド操作をすることができる。符号18は液晶表示装置等で形成した表示部であり、運転状態や報知情報等を表示するようになっている。これらの他に、本体11は、図示しないモード選択スイッチ等を備えることができる。
【0014】
前筐体49には、発光ダイオードランプのような点灯表示部LPが、表示部18の付近に配置されている。この点灯表示部LPは、例えば通常動作時は緑色で注入速度に応じた点滅または点灯で、異常時は赤色で点滅また点灯することにより輸液ポンプ10の動作状況を、例えば患者あるいは周囲の家族の人が目視で分かるようになっている。
図1に例示するように、後筐体44内には、ブザーのようなブザー88と、スピーカ89が配置されている。ブザー88は警報内容を警報音で報知でき、スピーカ89は警報内容を音声により報知する機能を有する。これらの警報が使用者に聞き取れるように放音孔310が後筐体44に配置されている。この放音孔310の貫通孔の直径が小さすぎると液体が毛細管現象により外部から放音孔310を通じて後筐体44に侵入してしまうので好ましくない。このため、放音孔310の貫通孔の直径は、液体の毛細管現象による侵入を防ぐことができ、しかも医療用のテストピンが放音孔310に入らないような大きさを採用している。
【0015】
図2と図3に示すように、本体11からカバー12を開くと、カセット収納部15が露出するようになっている。カセット収納部15は、本体11の厚みの約半分程度の寸法で形成された空間であり、この空間であるカセット収納部15には、図3に示すように、輸液チューブ21を引きこみかつ導出するためのカセット20を着脱可能にセットすることができるようになっている。
本体11のカセット収納部15内には、図1から図3には図示していないが駆動部としてのモータが配置されている。また、カセット収納部15上には、輸液送り部としてのロータユニット31と、輸液チューブ21の膨らみ量を検出するための検出部の一例である閉塞検出部83が配置されている。このモータの出力軸からの駆動力が、ロータユニット31に対して図示しない皿歯車等を介して伝達されることにより、ロータユニット31が軸Lを中心にして回転する。
【0016】
図2に示すように、このロータユニット31の外周には、例えば、4か所以上の図示例では5つの回転ローラであるチューブ押圧部31Rが設けられており、ロータユニット31のチューブ押圧部31Rが図2の矢印方向の回転することにより、順次図3に示す可撓性を有する輸液チューブ21を順次押圧して、輸液チューブ21に対して蠕動様運動を付与することができる。このロータユニット31は、外部から薬液を導入するための輸液チューブ21に対して圧接し、この輸液チューブ21に対して蠕動様運動をさせて、薬液を送出するための輸液送り部の一例である。本発明の実施形態では、ロータユニット31を用いて蠕動様運動させて薬液を送出しているが、これに限らず、フィンガ方式で薬液を送出するようにしても良い。
【0017】
図3に示すように、カセット20がカセット収納部15内に収納された状態で、閉塞検出部83は、カセット20の可撓性を有する輸液チューブ21の一部分の内圧により生じる膨らみ量を検出することで、輸液チューブ21の内圧を検出するようになっている。図2に示すように、この閉塞検出部83は、閉塞プランジャ99を有している。この閉塞プランジャ99は、輸液チューブ21の膨らみにより押されることでD方向に移動する移動部材の一例であり、図1と図2に示す付勢部材133の力により、カセット収納部15内において図2に示すC方向に沿って突出している。
なお、図3に示すように、カセット20がカセット収納部15内に収納された状態では、閉塞プランジャ99は、図1と図2に示す付勢部材133の力に抗してD方向に押されることで、例えば図2に示すスイッチ134がオンとなり、このスイッチ134のオン信号は制御部100に通知されるようになっている。すなわち、閉塞検出部83は、輸液チューブ21内が閉塞されて輸液チューブ21の直径が大きくなったことを検出することで、薬液が輸液チューブ21内に通過していないことを制御部100に通知することができる。
【0018】
図2に示すように、カセット収納部15には、このロータユニット31の付近の上方位置に、第1のスライダ32と、該第1のスライダ32に隣接して第2のスライダ33が配置されている。第1のスライダ32と第2のスライダ33はそれぞれ係止片を備えており、これら係止片は、付勢手段により常時矢印C方向に付勢されている。しかも、第1のスライダ32と第2のスライダ33のそれぞれ係止片は、後述するカセット20がカセット収納部15にセットされる際に矢印D方向に移動されて、カセット20を保持するとともに、該カセット20に内蔵された可撓性の輸液チューブ21をロータユニット31に対して押圧することができる。図2において、第2のスライダ33の右方の下側には、カセット20をカセット収納部15に配置する際の目印となる傾斜部34aを有するマーク34と、該マーク34の下方にはカセット20を装着する際のストッパとして機能する突起部35が設けられている。
【0019】
図3を参照して、カセット20の構造例を説明する。
カセット20は、合成樹脂で形成された図示のような横長のケース体である。輸液チューブ21の一部分は、カセット20内に収納されており、輸液チューブ21は該ケース体の外縁に沿って矢印F方向から導入され、カセット20の右端部でほぼU字状に曲折され、そして矢印E方向に導出されている可撓性のチューブ(輸液チューブともいう。)である。該輸液チューブ21に対しては、薬液が外部から矢印F方向に導入され、矢印E方向に導出され、輸液チューブ21の該矢印E方向の延長には留置針などが接続されており、輸液チューブ21内の薬液がこの留置針を通じて患者に対して輸液される。輸液チューブ21は、輸液管路(あるいは薬液管路ともいう)の一例である。
【0020】
図3に示すように、輸液チューブ21内の輸液の移動を目視できるように、カバー12とカセット20は好ましくは透明部材で作られている。なお、カバー12には切欠き部19が設けられており、該切欠き部19から輸液チューブ21がカバー12の外部に導出されるようになっている。
また、図3に示すように、カセット20の下部の一端寄りには露出部24が形成されており、該露出部24はカセット20の一部を切欠き、輸液チューブ21の一部を外部に露出させている。この輸液チューブ21の露出部24には、ロータユニット31のチューブ押圧部31R(図2を参照)が押圧されることで、図3に示すように蠕動様運動が輸液チューブ21に付与されるようになっている。
【0021】
図3のカセット20のほぼ中央部には、横に並んで2つの係合用スリット22,23が形成されており、これらスリット22,23は、Z方向に沿ってカセット20のケース体を貫通している。
スリット22,23には、図2で説明した第1のスライダ32と第2のスライダ33がそれぞれ入り込むようになっている。そして、図3に示すように、カバー12を矢印A方向に閉じた際には、ヒンジ13よりも該カバー12の内側に設けられた当接部14がカセット20を押すことにより、該カセット20がカセット収納部15において矢印B方向に移動される。
このカセット20の矢印B方向への移動により、各係合用スリット22,23に入り込んだ第1のスライダ32と第2のスライダ33の付勢方向(図2の矢印C方向)に働く付勢力に抗して、第1のスライダ32と第2のスライダ33を矢印D方向に移動させることができる。これにより、カセット20は、カバー12を閉止した状態においては、カバー12の当接部14と第1のスライダ32と第2のスライダ33に挟まれて固定されるとともに、輸液チューブ21はロータユニット31側に押圧されている。
【0022】
図3に示すカセット20には、縦スリット25a及び横スリット25bを有する逆L字状の規制用スリット25が形成されている。縦スリット25aにはストッパ26が収納されており、そのストッパ26の先端の当接部は付勢手段26aにより矢印C方向に常時押圧されており、カセット20内の図示しない箇所で、輸液チューブ21の一部を押し潰して輸液チューブ21内の輸液の流れを止めている。横スリット25bには、スライダ29が配置されている。
【0023】
図3のように、本体11のカセット収納部15内にカセット20を収納してカバー12を閉じると、カセット20の横スリット25bのスライダ29が、ストッパ26を付勢手段26aの力に抗して矢印D方向に押し込むことにより、ストッパ26の先端部は輸液チューブ21から離れる。これにより、輸液チューブ21は開放されて輸液チューブ21内の輸液の流れ止めは解除でき、輸液チューブ21には輸液を導入でき、ロータユニット31のチューブ押圧部31Rの動きにより患者に対して輸液チューブ21を通じて薬液を送液できる。このとき、送液される設定注入速度の範囲は、例えば5〜300mL/hであり、輸液ポンプ10の総重量は、電池を入れた状態で約320gである。
【0024】
次に、図4と図5を参照して、図1から図3に示す閉塞検出部83の構造例を説明する。
図4(A)は、カセット20がセットされた閉塞検出部83を含むカセット収納部15を示す斜視図であり、図4(B)は、図4(A)に示すカセット収納部15を矢印J方向から見た斜視図である。図5は、図4(A)に示す閉塞検出部83のF−F線における断面構造例を示す図である。
図4(A)に示すように、閉塞検出部83は、カセット収納部15において、ロータユニット31の右側に配置されており、図4(B)に示すように、閉塞プランジャ99と、ベース部材670と、プランジャカバー680と、全体カバー部材690を有している。ベース部材670は、カセット収納部15の穴部15Hにはめ込んで配置されている。プランジャカバー680は、閉塞プランジャ99を、ベース部材670に対して、Y方向に直線移動可能に保持している。全体カバー部材690は、プランジャカバー680を被覆している。閉塞プランジャ99と、ベース部材670と、プランジャカバー680と、全体カバー部材690は、プラスチック製である。
【0025】
図5に示すように、ベース部材670は、カセット収納部15の穴部15Hにはめ込まれており、ベース部材670の内側には、センサ基板560が固定されている。このセンサ基板560には、磁気センサとしての1つのホール素子600と、温度センサ回路551が実装されている。
図4(B)と図5に示す閉塞プランジャ99は、突出部分99Pと本体部99Bを有している。突出部分99Pが本体部99Bの一端部から突出して形成されている。この突出部分99Pは、輸液チューブ21の一部分21Aに直接当たる部分である。
図5に示す付勢部材133は、閉塞プランジャ99の溝部99G内に配置されている。付勢部材133の一端部が、閉塞プランジャ99の内端部99Tに固定され、付勢部材133の他端部が、プランジャカバー680の内面に固定されている。付勢部材133としては、例えばコイルスプリングが用いられている。閉塞プランジャ99は、プランジャカバー680に覆われ、プランジャカバー680は、全体カバー部材690に覆われている。全体カバー部材690は、カバー12により開閉可能に覆うことができる。
【0026】
これにより、閉塞プランジャ99は、Y方向に平行なD方向、そしてD方向とは反対のC方向にスライド可能である。閉塞プランジャ99の突出部分99Pは、付勢部材133の力により、C方向に、すなわち輸液チューブ21の一部分21A側に対して付き当てられている。図5に示すように、閉塞プランジャ99の本体部99Bの端部99D側には、閉塞プランジャ99がD方向に移動できるようにするために空間部688がある。
図5において、輸液ポンプ10の厚み方向がZ方向であり、Y方向はC方向とD方向と平行であり、X方向は図5の紙面垂直方向である。X、Y、Z方向は互いに直交している。
【0027】
図5に示すように、閉塞プランジャ99の本体部99Bには、2つの永久磁石M1、M2が埋設されている。永久磁石M1、M2は、本体部99B内において、例えば間隔DCを離して配置されている。ホール素子600は、永久磁石M1、M2の間の位置に対面するように、センサ基板560上に配置されている。永久磁石M1、M2は、例えば円柱状の部材である。このホール素子600は、その原理から、永久磁石M1、M2が発生する磁束密度に比例した検出出力を得ることができる。
図5に示す閉塞プランジャ99の2つの永久磁石M1、M2は、ホール素子600に対して、閉塞プランジャ99のY方向(D方向)への移動量に比例した磁束密度がかかるように配置することで、ホール素子600は、閉塞プランジャ99のY方向(D方向)への移動量に比例した磁束密度の検出出力を得ることができる。
【0028】
次に、図6を参照して、上述した輸液ポンプ10の電気的な構成を説明する。図6は、輸液ポンプ10の電気的な構成を示すブロック図である。
図6に示すブロック図では、本体11の前筐体49と後筐体44と、カバー12を示しており、カバー12側にはカセット20とこのカセット20の輸液チューブ21が配置されている。後筐体44には、ジャック78と電源回路80が配置されている。しかも、電池(乾電池もしくは充電池)Bが後筐体44の電池ボックス内に着脱可能に配置される。ジャック78と電池Bが電源回路80に対して電気的に接続されている。ジャック78は、電源コネクタ127を介して、例えば100Vの商用交流電源に接続可能である。電源コネクタ127は、100Vの交流電源を所定の直流電圧に変換して電源回路80に供給する。
【0029】
図6に示すように、前筐体49には、ロータユニット31と、空液検出部82と、閉塞検出部83を備えている。ロータユニット31は、ギア31Gを介してモータMに連結されており、モータMはモータ駆動回路81からの駆動信号により、ロータユニット31を連続回転させることができる。回転検出回路81Tは、モータMの回転状態を検出して制御部100にモータの回転状態信号を送る。電源回路80は、モータ駆動回路81と制御部100とショックセンサ200に電気的に接続されており、モータ駆動回路81と制御部100に対して電源供給を行う。
【0030】
図6の空液検出部82と閉塞検出部83は制御部100に電気的に接続され、空液検出部82は、輸液チューブ21内が薬液により満たされているか気泡が存在するかを検出して、制御部100に通知する。閉塞検出部83は、輸液チューブ21が閉塞されて輸液チューブ21の直径が大きくなったことを検出することで、薬液が輸液チューブ21内に通過していないことを制御部100に通知する。
開始停止スイッチ17は、開始停止検出回路84に電気的に接続され、開始停止検出回路84は、開始停止スイッチ17が、図1に示す開始位置に位置されているか停止位置に位置されているかを検出して、その状態を制御部100に通知する。制御部100はCPU110を有しており、メモリ部111は、制御部100のCPU111に電気的に接続されている。メモリ部111は、CPU110との間で情報を記憶したり、記憶した情報を読み出したりするもので、しかもメモリ部111はCPU110により処理すべきプログラムが記憶されているROM(読み出し専用メモリ)を含んでいる。
【0031】
図6の表示部18は、制御回路18Tに電気的に接続され、点灯表示部LPは、制御回路85に電気的に接続されている。制御回路18Tと制御回路85は制御部100に電気的に接続され、制御部100の指令により、制御回路18Tは表示部18に必要な内容を表示させる。また、制御部100の指令により、制御回路85は点灯表示部18を例えば点滅させて、患者に点滅により警報があることを報知することができる。
ブザー88は、ブザー回路90に電気的に接続され、スピーカ89は、音声回路91に電気的に接続されている。ブザー回路90と音声回路91は、制御部100に電気的に接続されている。その他に、外部通信回路101が制御部100に電気的に接続されている。
【0032】
図6のブロック図に示すように、輸液ポンプ10は、ショックセンサ200と内部バッテリ201と、温度センサ550と、温度センサ回路551を有している。
図6に示すショックセンサ200は、本体11に加わる衝撃力を検出すためのセンサであり、例えば本体11の前筐体49内に配置されている。内部バッテリ201は、電源オフ時にショックセンサ200に電源を供給するためのバックアップ用のバッテリであり、例えばボタン電池である。
図6に示す温度センサ550は、患者が輸液ポンプ10を使用する部屋の環境温度(室内温度)を測定する。この温度センサ550は、温度センサ回路551に電気的に接続されており、温度センサ回路551は、温度センサ550が測定した値から温度を得て、制御部100に温度の値を知らせるようになっている。
【0033】
図7は、図6に示す閉塞検出部83と、温度センサ550と温度センサ回路551と、制御部100をさらに詳しく示す図である。
図7に示すように、閉塞検出部83は、閉塞プランジャ99と、ホール素子600と、閉塞センサ回路601を有している。閉塞プランジャ99は、突出部分99Pと本体部99Bを有している。閉塞プランジャ99の本体部99B内には、2つの永久磁石M1、M2が保持されている。ホール素子600は閉塞センサ回路601に電気的に接続され、閉塞センサ回路601は、制御部100に電気的に接続されている。
温度センサ550は温度センサ回路551に電気的に接続され、温度センサ回路551は制御部100に電気的に接続されている。
【0034】
図8は、図7に示すように2つの永久磁石M1、M2が閉塞プランジャ99の本体部99B内に設けられている場合に、永久磁石MJ1、M2が発生する磁束密度MFの変化例を示している。
永久磁石M1、M2はともにN極とS極を有しているが、永久磁石M1がホール素子600に対面している側はN極であり、永久磁石M2がホール素子600に対面している側はS極であるので、永久磁石M1、M2の向きは逆になっている。永久磁石M1、M2が生じるY方向に関する磁束密度MFの変化が波型であり、向きが逆になっている一対の永久磁石M1、M2は、傾きが急な直線状の磁束密度変化部699を発生することができる。
【0035】
図8に示すように、例えば患者が図1に示す輸液ポンプ10を使用する部屋の環境温度が上昇した場合には輸液チューブ21の一部分21Aが膨らんで膨らみ量が増えて直径が増すので、閉塞プランジャ99が、付勢部材133の力に抗してY方向のD方向に沿って直線移動される。このため、閉塞プランジャ99とともに2つの永久磁石M1、M2がD方向に直線移動されるので、ホール素子600は、この傾きが急な直線状の磁束密度変化部699における磁束密度MFの変化を検出することができる。このため、閉塞プランジャ99の僅かな直線移動による変化も確実に検出できる。
これにより、図6に示すホール素子600は、閉塞センサ回路601に磁束密度MFの変化の検出信号SSを送る。閉塞センサ回路601は、この検出信号SSを閉塞プランジャ99のY方向のD方向への移動量の信号SQに変えて、この移動量の信号SQを制御部100に送るので、制御部100は、閉塞プランジャ99のY方向(D方向)に関する移動量、すなわち輸液チューブ21の一部分21Aの膨らみ量を得ることができるようになっている。制御部100は、閉塞プランジャ99のY方向(D方向)に関する移動量、すなわち輸液チューブ21の一部分21Aの膨らみ量と輸液チューブ21の内圧の関係テーブルから、輸液チューブ21の内圧の値を得るようになっている。
【0036】
次に、上述した携帯型の輸液ポンプ10の動作例を説明する。
図3と図4に示すように、患者は、カバー12を開けてカセット収納部15を露出させて、輸液チューブ21を有するカセット20を、輸液ポンプ10のカセット収納部15内に装着する。その後、患者が図5に示すようにカバー12を閉じると、図3に示すカバー12の当接部14がカセット20を押すことにより、該カセット20がカセット収納部15において矢印B方向に移動される。
【0037】
カセット20が矢印B方向へ移動することにより、各係合用スリット22,23に入り込んだ第1のスライダ32と第2のスライダ33の付勢方向(図2の矢印C方向)に働く付勢力に抗して、第1のスライダ32と第2のスライダ33を矢印D方向に移動させることができる。これにより、カセット20は、カバー12を閉止した状態においては、カバー12の当接部14と第1のスライダ32と第2のスライダ33に挟まれて固定されるとともに、輸液チューブ21はロータユニット31側に押圧される。
【0038】
カバー12を閉じると、カセット20の横スリット25bのスライダ29が、ストッパ26を付勢手段26aの力に抗して矢印D方向に押し込むことにより、ストッパ26の先端部は輸液チューブ21から離れる。これにより、輸液チューブ21は開放されて輸液チューブ21内の輸液の流れ止めは解除でき、輸液チューブ21には輸液を導入でき、ロータユニット31のチューブ押圧部31Rの動きにより患者に対して輸液チューブ21を通じて薬液を送液できる状態になる。
【0039】
ところで、カセット20の輸液チューブ21の内圧は、輸液ポンプ10を在宅で使用する場合の部屋の環境温度に依存するので、部屋の環境の温度を考慮して正しい輸液チューブ21の内圧を測定する必要がある。輸液チューブ21の内圧が部屋の環境温度により変動するは、輸液チューブ21が可撓性の材料により作られており、環境温度が上がれば輸液チューブ21の膨らみ量(直径)が大きくなり、輸液チューブ21内を通る薬液の内圧が実際の薬液の内圧よりも低下し、環境温度が下がれば輸液チューブ21の膨らみ量(直径)が小さくなって縮むので輸液チューブ21内を通る薬液の内圧が実際の薬液の内圧よりも上がってしまう。輸液チューブ21の内圧が低下したり上昇したりすると、薬液の送液量が異なってしまう。
このため、輸液チューブ21が膨らむ際の輸液チューブ21の膨らみ量を閉塞プランジャ99の移動量により測定する場合に、その膨らみ量の値、すなわち輸液チューブ21内の内圧の値が、環境の温度によりばらつくのを補正する必要がある。
輸液チューブ21は、輸液チューブ21内で送液されている薬剤の作用により発生する内圧が一定の場合であっても、輸液チューブ21周辺の温度が変化するのに伴って、その膨らみ量も変化する。輸液チューブ21として使用される一般的な塩化ビニル製チューブやシリコンチューブは、温度が高くなると軟化し、逆に、温度が低くなると硬化する傾向がある。このため、一定のチューブ内圧が作用していても、温度が高くなると輸液チューブ200は膨らみ易くなり、逆に、温度が低くなる輸液チューブ21は膨らみ難くなる。
このため、好ましくは、輸液ポンプ10の使用環境温度を検出するためにサーミスタ等の温度センサ550を設け、温度センサ550で検出した使用環境温度を例えば20〜40℃の間で5℃毎に閉塞圧検知の閾値(閉塞プランジャ99の直線移動量の閾値)を変更することで、輸液チューブ21の閉塞状態を精度よく検出できる。例えば、一定圧の時の20〜25℃の時の閉塞プランジャ99の直線移動量を1として、15〜20℃の時の閉塞プランジャ99の直線移動量を0.99、10〜15℃の時の閉塞プランジャ99の直線移動量を0.98、5〜10℃の時の閉塞プランジャ99の直線移動量を0.97、25〜30℃の時の閉塞プランジャ99の直線移動量を1.01、30〜35℃の時の閉塞プランジャ99の直線移動量を1.02としてメモリ部111に記憶し、閾値を変更する。こうすることで、輸液チューブ21が膨らみ易くなったり、膨らみ難くなってもそれに対応して輸液チューブ21内の閉塞圧をほぼ一定のレベルで検知できる。なお、温度の幅を5℃より大きくして補正してもよいが、この場合、閉塞検知の感度がやや低下する。また、温度の幅を5℃より小さくして補正してもよいが、この場合、メモリ部111の記憶容量が大きくなる。
【0040】
輸液チューブ21の内圧を計測するために、図5と図7に示す閉塞プランジャ99がY方向のD方向に移動する量によって、輸液チューブ21の内圧による膨らみ量を検出する。この際に、輸液チューブ21の膨らみ量(直径の拡大)に応じて生じる閉塞プランジャ99のD方向への移動量は、閉塞プランジャ99の2つの永久磁石M1、M2がホール素子600に対する相対的な位置の変化に変換することができる。すなわち、図7と図5に示すように、輸液チューブ21の内圧が上昇して輸液チューブ21の一部分21Aが膨らむと、閉塞プランジャ99が、この輸液チューブ21の一部分21Aにより、Y方向(D方向)に沿って、付勢部材133の力に抗して押される。
【0041】
このため、図8に示すように、2つの永久磁石M1、M2は、ホール素子600に対してD方向に相対的に移動する。
これにより、図8に示すように、ホール素子600は、ホール素子600は、この傾きが急な直線状の磁束密度変化部699における磁束密度MFの変化を検出することができる。
これにより、図6に示すホール素子600は、閉塞センサ回路601に磁束密度MFの変化の検出信号SSを送る。閉塞センサ回路601は、この磁束密度MFの変化の検出信号SSを閉塞プランジャ99のY方向のD方向への移動量(輸液チューブ21の一部分21Aの膨らみ量)の信号SQに変える。すなわち、閉塞センサ回路601は、磁気センサが検出した磁束密度MFの変化から輸液チューブ21の膨らみ量を得る。
【0042】
この閉塞センサ回路601からの移動量の信号SQは、制御部100に送るので、制御部100は、閉塞プランジャ99のY方向(D方向)に関する移動量、すなわち輸液チューブ21の一部分21Aの膨らみ量を得ることができるようになっている。制御部100は、閉塞プランジャ99のY方向(D方向)に関する移動量、すなわち輸液チューブ21の一部分21Aの膨らみ量と輸液チューブ21の内圧の関係テーブルから、輸液チューブ21の内圧の値を得る。輸液チューブ21の一部分21Aの膨らみ量と輸液チューブ21の内圧の関係テーブルは、図6に示すメモリ部111に記憶されている。
【0043】
このように輸液チューブ21の一部分21Aの膨らみ量を算出して輸液チューブ21内の内圧を得る際に、患者が在宅で環境温度を一定に保持できない部屋で輸液ポンプ10を使用している場合に、この環境温度を、図7に示す温度センサ550が測定している。その温度の測定値は温度センサ回路551を通じて、制御部100に温度信号が供給される。
輸液チューブ21の膨らみ量は温度依存性があり、輸液チューブ21は、温度が変化すると膨張収縮するので、制御部100は、得られた輸液チューブ21の内圧のばらつきを、温度と内圧の関係テーブルに従って、温度に応じて補正することができる。この温度と輸液チューブ21の内圧の関係テーブルは、図6に示すメモリ部111に記憶されている。これにより、制御部100は、輸液チューブ21の温度のばらつきを考慮して、輸液チューブ21の内圧を補正できるので、輸液チューブ21の内圧を正確に測定することができる。
【0044】
ところで、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明は様々な修正と変更が可能であり、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変形が可能である。
磁気センサは、ホール素子600に限らず他の種類のセンサを用いても良い。温度センサ550としては、例えばサーミスタ等を用いることができるが、特に限定されない。
【符号の説明】
【0045】
10・・・輸液ポンプ(医療機器の一例)、11・・・本体(ケースともいう)、21・・・チューブ(輸液管路の一例)、21A・・・チューブの一部分、31・・・輸液送り部としてのロータユニット、44・・・後筐体、49・・・前筐体、83・・・閉塞検出部(検出部の例)、99・・・閉塞プランジャ(移動部材の一例)、99P・・・閉塞プランジャの突出部分、99B・・・閉塞プランジャの本体部、100・・・制御部、550・・・温度センサ、600・・・磁気センサとしてのホール素子、699・・・直線状の磁束密度変化部、M1、M2・・・永久磁石、MF・・・磁束密度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸液管路を押すことで薬液を送出するための輸液送り部とを有する輸液ポンプであって、
前記輸液管路で送液されている前記薬液の作用により発生する内圧により生じる前記輸液管路の膨らみ量を検出する検出部と、
前記輸液ポンプが使用される環境の温度を測定する温度センサと、
前記温度センサにより得られた前記温度により前記検出部により検出された前記輸液管路の内圧を補正する制御部と
を有することを特徴とする輸液ポンプ。
【請求項2】
前記検出部は、付勢部材と、2つの永久磁石を有しており、前記輸液管路の膨らみにより押されることで前記付勢部材の力に抗してケース内において直線移動する移動部材と、前記ケースに配置されて、前記移動部材の直線移動により生じる前記永久磁石の磁束密度の変化を検出する磁気センサと、前記磁気センサが検出した前記磁束密度の変化から前記輸液管路の膨らみ量を得るセンサ回路と、を有することを特徴とする請求項1に記載の輸液ポンプ。
【請求項3】
前記磁気センサはホール素子であり、前記ホール素子に対面する前記2つの永久磁石の一方はN極であり他方はS極であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の輸液ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−205867(P2012−205867A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76147(P2011−76147)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】