説明

輸送タンパク質(18kDa)のためのリガンドとしての2−アリールピラゾロ[l,5−α]ピリミジン−3−イルアセトアミド誘導体

本発明は、18F、123I、76Br、124Iまたは75Brで放射性標識された式(I)の化合物およびそれらの塩、ならびに、18F、123I、76Br、124Iまたは75Brで放射性標識された式(I)の化合物またはそれらの薬学的に許容される塩を投与する段階を含む、被験体において輸送タンパク質(18kDa)(TSPO)を画像化する方法を提供する。本発明はさらに、式(II)のフッ素置換化合物およびそれらの塩、ならびに式(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩を投与する段階を含む、被験体において神経変性疾患、炎症または不安を処置する方法を提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は被験体において輸送タンパク質(18kDa)(TSPO)発現を画像化するための化合物および方法に関する。本発明はまた、被験体における神経変性疾患、炎症または不安の処置のための化合物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
末梢ベンゾジアゼピン受容体(PBR)としてかつては知られていた、輸送タンパク質(18kDa)(TSPO)は、アデニンヌクレオチド担体(ANC)(30kDa)および電圧依存性アニオンチャネル(VDAC)(32kDa)と共に三量体複合体を形成し、ミトコンドリア膜透過性遷移孔(MPTP)を構成する。TSPOは中枢ベンゾジアゼピン受容体(CBR)からその異なる構造、生理機能およびミトコンドリアの外膜上の細胞内位置により識別される。TSPOは多くの生物過程に関係しているが、生理学的役割のいくつかの局面は不明確なままである。研究により、ステロイド生合成の律速段階、免疫調節、ポルフィリン輸送、カルシウムホメオスタシス、およびプログラム細胞死におけるTSPOの重要性が示される。
【0003】
TSPOは肺、心臓、および腎臓を含むほとんどの末梢器官に密に分布しているが、正常な脳実質では最小限に発現されているにすぎない。神経損傷または感染後、脳実質におけるTSPO発現は著しく増加する。インビトロオートラジオグラフィーおよび免疫組織化学的検査により、この領域における上昇したTSPO結合が直接、活性化ミクログリアの出現と相関することが明らかになった。最近では、アルツハイマー病(AD)および多発性硬化症(MS)を患う患者におけるインビボ陽電子放出断層撮影(PET)イメージングにより、脳実質におけるTSPO結合が活性化ミクログリア細胞に限定されることが確認された。
【0004】
ミクログリアは中枢神経系(CNS)の主な免疫エフェクター細胞である。これらのマクロファージ様免疫細胞は、単球系列から誘導されると仮定され、その主な役割は宿主防御および免疫監視にある。これらは、その微小環境の変化に対し感度が高く、病理学的事象に応答して直ちに活性化される。このため、TSPOは、いくつかの神経変性疾患の早期の段階における初期炎症過程と密接に関連していると考えられる。
【0005】
多くのクラスのTSPOリガンドが、過去数十年にわたって報告されており、ベンゾジアゼピン(ジアゼパムおよびRo 5-4864)、イソキノリンカルボキサミド(PK 11195)、インドールアセトアミド(FGIN-1-27)、フェノキシフェニル-アセトアミド(DAA1106)、プラゾロピリミド(DPA-713)、ベンゾチアゼピンおよびイミダゾピリジンが含まれる。いくつかの他のクラスも開発されているが、様々な結合特性および生物活性を有するより広範囲のリガンドが、TSPOの生理学的および治療的役割、その正確な位置ならびにTSPOサブタイプの予測される存在をよりよく特徴づけるために、求められている。
【0006】
イソキノリンカルボキサミド[11C](R)-PK11195がTSPOの機能および発現を研究するための薬理プローブとして使用されている。AD、MSおよび多系統萎縮症(MSA)患者において実施された多くのPET研究により、[11C](R)-PK11195を用いたTSPOのインビボ測定は、生体脳において実行可能であることが示されている。[11C](R)-PK11195が最も広く使用されているPET TSPOリガンドとして考えられているが、よくない信号対雑音比を示し、低い脳透過性が証明されており、これにより最終的には、ミクログリア活性化のマーカーとしてのその感度が減少する。
【0007】
1998年、フェノキシフェニル-アセトアミド誘導体、DAA1106がTSPOに対し選択性の高い、強力なリガンドとして報告された(Chaki, S.;Funakoshi、T.;Yoshikawa, R.;Okuyama, S.;Okubo, T.;Nakazato, A.;Nagamine, M.;Tomisawa, K. European Journal of Pharmacology, 1999, 371, 197-204(非特許文献1))。最近、DAA1106が炭素-11(11C)で標識され、PET研究で使用され、齧歯類および霊長類の脳の両方におけるインビボ動力学が評価された(Zhang MR, Kida T, Noguchi J et al., [(11)C]DAA1106:radiosynthesis and in vivo binding to peripheral benzodiazepine receptors in mouse brain. Nucl Med Biol. 2003;30:513-519(非特許文献2)、Maeda J, Suhara T, Zhang MR et al., Novel peripheral benzodiazepine receptor ligand [11C]DAA1106 for PET:An imaging tool for glial cells in the brain. Synapse. 2004;52:283-291(非特許文献3))。[11C]DAA1106の結合はサル後頭皮質において[11C](R)-PKよりも4倍も大きいことが明らかにされ、その優れた脳透過性が示された。この化合物のフッ素-18(18F)類似体、すなわち[18F]FEDAA1106もまた合成されており、この類似体はまた、[11C]DAA1106に対しインビボで同様の結合特性を示す(Zhang MR, Maeda J, Ogawa M et al., Development of a new radioligand, N-(5-fluoro-2-phenoxyphenyl)-N-(2-[18F]fluoroethyl-5-methoxybenzyl)acetamide, for pet imaging of peripheral benzodiazepine receptor in primate brain, J Med Chem. 2004;47:2228-2235(非特許文献4))。しかしながら、[11C]DAA1106および[18F]FEDAA1106の両方の結合は不可逆であると考えられ、実際、それらの脳からの除去が遅いことから、定量分析に適した動力学を有していない可能性があることが示される。
【0008】
Ryu JK et al., Neurobiology of Disease, 20(2005)550-561(非特許文献5)により、TSPOリガンドPK11195は、キノリン酸を注射したラット層(stratum)においてミクログリア活性および神経細胞死を減少させることが報告されている。この論文で報告されている結果から、活性化ミクログリアからの炎症応答が、線条体ニューロンに損傷を与え、このため、ミクログリアにおけるTSPOの薬理学的ターゲティングが神経変性疾患においてニューロンを保護する可能性があることが示唆される。
【0009】
インビボでTSPO発現を画像化するのに使用することができる改善された脳動力学を有するTSPOリガンドを同定することは、そのようなリガンドを使用していくつかの神経変性疾患の初期段階に関連する生物化学事象のカスケードをさらに研究することができるので、好都合である。改善された脳動力学を有するTSPOリガンドを同定することはまた、そのようなリガンドが、神経変性疾患のための診断および治療手段の両方として機能する可能性を有するので、好都合である。
【0010】
【非特許文献1】Chaki, S.;Funakoshi、T.;Yoshikawa, R.;Okuyama, S.;Okubo, T.;Nakazato, A.;Nagamine, M.;Tomisawa, K. European Journal of Pharmacology, 1999, 371, 197-204
【非特許文献2】Zhang MR, Kida T, Noguchi J et al., [(11)C]DAA1106:radiosynthesis and in vivo binding to peripheral benzodiazepine receptors in mouse brain. Nucl Med Biol. 2003;30:513-519
【非特許文献3】Maeda J, Suhara T, Zhang MR et al., Novel peripheral benzodiazepine receptor ligand [11C]DAA1106 for PET:An imaging tool for glial cells in the brain. Synapse. 2004;52:283-291
【非特許文献4】Zhang MR, Maeda J, Ogawa M et al., Development of a new radioligand, N-(5-fluoro-2-phenoxyphenyl)-N-(2-[18F]fluoroethyl-5-methoxybenzyl)acetamide, for pet imaging of peripheral benzodiazepine receptor in primate brain, J Med Chem. 2004;47:2228-2235
【非特許文献5】Ryu JK et al., Neurobiology of Disease, 20(2005)550-561
【発明の開示】
【0011】
発明の開示
第1の局面では、本発明は18F、123I、76Br、124Iおよび75Brから選択される放射性同位体で放射性標識された式(I)の化合物、またはその塩を提供する:

式中、
RはH、ハロ、ハロで任意選択的に置換されていてもよいアルキル、またはハロで任意選択的に置換されていてもよいアルコキシであり;
R1、R2およびR3はそれぞれ独立してHまたは疎水性基であり;ならびに
R4およびR5はそれぞれ独立してハロで任意選択的に置換されていてもよいアルキル、またはハロで任意選択的に置換されていてもよいアルコキシである。
【0012】
本明細書で使用されるように、18F、123I、76Br、124Iまたは75Brで「放射性標識」されが式(I)の化合物により、式(I)におけるR1、R2、R3、R4またはR5の少なくとも1つは18F、123I、76Br、124Iまたは75Brにより置換されることが意味される。典型的には、R、R1、R2またはR3のうちの1つは18F、123I、76Br、124Iまたは75Brにより置換される。
【0013】
第2の局面では、本発明は、18F、123I、76Br、124Iまたは75Brから選択される放射性同位体で放射性標識された式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩、および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物を提供する。
【0014】
第3の局面では、本発明は、被験体に18F、123I、76Br、124Iおよび75Brから選択される放射性同位体で放射性標識された式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩を投与する段階、および被験体において放射性同位体の位置の画像を得る段階を含む、被験体において輸送タンパク質(18kDa)(TSPO)を画像化する方法を提供する。
【0015】
典型的には、式(I)の化合物が18F、76Br、124Iまたは75Brで放射性標識されると、画像は陽電子放出断層撮影(PET)イメージングにより得られる。典型的には、式(I)の化合物が123Iで放射性標識されると、画像は単光子型コンピュータ断層撮影(SPECT)イメージングにより得られる。
【0016】
第4の局面では、本発明は、被験体に18F、123I、76Br、124Iおよび75Brから選択される放射性同位体で放射性標識された式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩を投与する段階、および被験体において放射性同位体の位置の画像を得て、被験体の脳実質における化合物またはその塩のTSPO結合の程度を評価する段階を含む、被験体において神経変性疾患を診断する方法を提供する。
【0017】
第5の局面では、本発明は、被験体において輸送タンパク質(18kDa)を画像化するための医用製剤の製造における、18F、123I、76Br、124Iおよび75Brから選択される放射性同位体で放射性標識された式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
【0018】
第6の局面では、本発明は式(II)の化合物またはその塩を提供する:

式中、
Rはハロで任意選択的に置換されていてもよいアルキル、またはハロで任意選択的に置換されていてもよいアルコキシであり;
R1、R2およびR3はそれぞれ独立してHまたは疎水性基であり;ならびに
R4およびR5はそれぞれ独立してハロで任意選択的に置換されていてもよいアルキル、またはハロで任意選択的に置換されていてもよいアルコキシであり、
ここで、R、R1、R2、R3、R4またはR5の少なくとも1つはFで置換される。
【0019】
第7の局面では、本発明は式(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩と薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物を提供する。
【0020】
第8の局面では、本発明は、被験体に治療的有効量の式(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩を投与する段階を含む、被験体において神経変性疾患、炎症または不安を処置する方法を提供する。。
【0021】
第9の局面では、本発明は、神経変性疾患、炎症または不安の処置のための医用製剤の製造における、式(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
【0022】
発明の詳細な説明
本明細書で使用されるように、「アルキル」という用語は、直鎖、分枝または単環もしくは多環アルキルを示す。典型的には、アルキルはC1〜C30アルキル、例えばC1〜C6アルキルである。直鎖および分枝アルキルの例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、sec-ペンチル、1,2-ジメチルプロピル、1,1-ジメチルプロピル、ヘキシル、4-メチルペンチル、1-メチルペンチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、1,1-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、1,2-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、1,2,2-トリメチルプロピルおよび1,1,2-トリメチルプロピルが挙げられる。環状アルキルの例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルが挙げられる。
【0023】
本明細書で使用されるように、「アルコキシ」という用語は、式Oアルキルの基を示す。アルコキシの例としてはメトキシ、エトキシ、プロポキシおよびブトキシが挙げられる。
【0024】
本明細書で使用されるように、「アルケニル」という用語は、直鎖、分枝または環状アルケニルを示す。典型的には、アルケニルはC2〜C30アルケニル、例えばC2〜C6アルケニルである。アルケニルの例としては、ビニル、アリル、1-メチルビニル、ブテニル、イソブテニル、3-メチル-2-ブテニル、1-ペンテニル、シクロペンテニル、1-メチルシクロペンテニル、1-ヘキセニル、3-ヘキセニル、シクロヘキセニル、1-ヘプテニル、3-ヘプテニル、1-オクテニル、シクロオクテニル、1-ノネニル、2-ノネニル、3-ノネニル、1-デセニル、3-デセニル、1,3-ブタンジエニル、1,4-ペンタジエニル、1,3-シクロペンタジエニル、1,3-ヘキサジエニル、1,4-ヘキサジエニル、1,3-シクロヘキサジエニル、1,4-シクロヘキサジエニル、1,3-シクロヘプタジエニル、1,3,5-シクロヘプタトリエニルおよび1,3,5,7-シクロオクタテトラエニルが挙げられる。
【0025】
本明細書で使用されるように、「アルキニル」という用語は、直鎖、分枝または環状アルキニルを示す。典型的には、アルキニルはC2〜C30アルキニル、例えばC2〜C6アルキニルである。
【0026】
本明細書で使用されるように、「アリール」という用語は、単一、多核、共役または縮合芳香族炭化水素または芳香族複素環構造のラジカルを示す。アリールの例としては、フェニル、ナフチルおよびフリルが挙げられる。アリールが複素環芳香族環構造を含む場合、複素環芳香族環構造は、N、OおよびSから独立して選択される1〜4のヘテロ原子を含んでもよい。
【0027】
本明細書で使用されるように、「ハロ」という用語は、ハロゲンラジカル、例えばフルオロ、クロロ、ブロモまたはヨードを示す。本明細書で使用されるように、「ハロで任意選択的に置換されていてもよい」基という場合、1つまたは複数のハロゲン置換基で置換される可能性のある基を意味する。
【0028】
本発明者らは、驚くべきことに、18F、123I、76Br、124Iおよび75Brから選択される放射性同位体で放射性標識された式(I)の化合物が選択的TSPOリガンドであり、TSPO、そのためミクログリア活性化の正確なインビボマーカとして使用できることを見出した。そのため、これらの放射性標識化合物は多くの神経変性疾患において神経病理学的事象の研究に使用することができ、そのような疾患の診断のため、およびそのような疾患の進行をモニタするためのツールとして使用することができる。
【0029】
多くのクラスのTSPOリガンドが文献で記載されている。治療薬として有効な化合物は必ずしも、放射性標識可能で、イメージングに使用できる化合物ではない。実際、治療的に使用される多くの薬物は、特定の標識に対し選択的ではなく、いくつかの標的と相互作用し、治療効果を発生させる可能性がある。さらに、多くの治療薬は、イメージングのために通常使用されるnM範囲にある親和性を有さないが、μM範囲の親和性を有する。さらに、治療薬の代謝および親油性は、特にイメージングのためにより少量のレベルで投与される場合、イメージングのために使用するのに不適な薬物となる可能性がある。
【0030】
本発明者らは、驚くべきことに、18F、123I、76Br、124Iおよび75Brから選択される放射性同位体で放射性標識された式(I)の化合物が、被験体におけるTSPO、そのためミクログリア活性化を画像化するために使用できることを見出した。18F、123I、76Br、124Iまたは75Brで放射性標識された式(I)の化合物は、TSPOに対する選択的リガンドであり、TSPOに対し高い親和性を有する。
【0031】
18F、123I、76Br、124Iおよび75Brから選択される放射性同位体で放射性標識された式(I)の化合物は塩を形成し、そのような化合物の塩は本発明に含まれる。塩は好ましくは薬学的に許容されるが、薬学的に許容されない塩もまた、本発明の範囲内あることは認識されるであろう。薬学的に許容される塩の例としては、薬学的に許容されるカチオン、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウムおよびアルキルアンモニウムの塩;薬学的に許容される無機酸、例えば塩酸、オルトリン酸、硫酸、リン酸、硝酸、炭酸、ホウ酸、スルファミン酸および臭化水素酸の酸付加塩;または薬学的に許容される有機酸、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸、酒石酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フマル酸、クエン酸、乳酸、ムチン酸、グルコン酸、安息香酸、コハク酸、シュウ酸、フェニル酢酸、メタンスルホン酸、トリハロメタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、サリチル酸、スルファニル酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、エデト酸、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ラウリン酸、パントテン酸、タンニン酸、アスコルビン酸および吉草酸の塩が挙げられる。
【0032】
式(I)では、Rは典型的にはC1-6アルキルまたはC1-6アルコキシであり、ここで、はC1-6アルキルまたはC1-6アルコキシはハロで任意選択的に置換されていてもよい。
【0033】
典型的には、R1およびR3はそれぞれ、H以外の基である。R1、R2またはR3が疎水性基である場合、疎水性基は、例えば、ハロで任意選択的に置換されていてもよいC1-6アルキル、ハロで任意選択的に置換されていてもよいアリール、ハロで任意選択的に置換されていてもよいNHC1-6アルキル、ハロで任意選択的に置換されていてもよいOC1-6アルキル、ハロで任意選択的に置換されていてもよいSC1-6アルキル、R6がハロで任意選択的に置換されていてもよいC1-6アルキルであるCOOR6、R6がハロで任意選択的に置換されていてもよいC1-6アルキルでありnが整数(例えば、1、2、3、4、5または6である)(CH2)nOR6、またはハロで任意選択的に置換されていてもよいポリエーテルであってもよい。R1、R2またはR3がハロで任意選択的に置換されていてもよいポリエーテルである場合、ポリエーテルは例えば、ハロで任意選択的に置換されていてもよい、式-(O(CH2)a)b(CH2)cCH3の基であってもよく、式中、aは1、2または3であり、bは2、3、4または5であり、cは0、1、2、3、4または5である。
【0034】
式(I)の様々な化合物が、参照により本明細書に組み入れられているSelleri et al., 「2-Arylpyrazolo[1,5-a]pyrimidin-3-yl Acetamides. New Potent and Selective Peripheral Benzodiazepine Receptor Ligands」, Bioorganic & Medicinal Chemistry 9 (2001) 2661-2671 (「Selleri et al(2001)」)において記載されている。その文書は、式(I)のある特定の化合物(その文書において記載されている3f〜3yの化合物)の調製について記載し、それらの化合物がTSPOに対し親和性および選択性を有する(その文書ではPBRと呼ばれる)ことを開示する。その文書において記載されている特定の化合物のいくつかがCBRに対しいくらかの親和性を有するが、その文書に記載されている化合物3f〜3yの各々がCBRよりもTSPOに対しずっと選択的である。
【0035】
Selleri et al(2001)で記載されているように、その文書で言及されている式(I)の化合物は適当なアロイルアセトニトリルから開始する3段階手順で調製することができる。記載されている過程では、アロイルアセトニトリルをアルカリ媒質中、N,N-ジエチルクロロアセトアミドと反応させ、得られたタールをカラムクロマトグラフィーにより精製し、N,N-ジエチルブタンアミドを単離した。N,N-ジエチルブタンアミドをエタノール中で還流させながら、ヒドラジン水和物と、酢酸の存在下で反応させると、対応するN,N-ジエチル-(3-アミノ-5-アリールピラゾール-4-イル)アセトアミドが得られた。N,N-ジエチル-(3-アミノ-5-アリールピラゾール-4-イル)アセトアミドをその後、適した求電子試薬(4,4-ジメトキシ-2-ブタノン、1,1,3,3-テトラエトキシプロパン、2,4-ペンタンジオン、1-トリフルオロメチル-2,4-ペンタンジオン、1,5-トリフルオロメチル-2,4-ペンタンジオン、1-フェニル-1,3-ブタンジオン、3-メチル-2,4-ペンタンジオン、エチル2-アセチル-3-オキソブタノアート、エチル2-アセチル-3-エトキシアクリラート、フェニルマロンジアルデヒドまたは1-フェニル-3-ジメチルアミノ-2-プロペン-1-オン)と縮合させると、ピリミジン環が閉鎖され、このように、式(I)の関連化合物が形成される。
【0036】
式(I)の様々な化合物を調製する別の方法が、参照により本明細書に組み入れられる、Selleri, S.;Gratteri, P.;Costagli, C.;Bonaccini, C.;Costanzo, A.;Melani, F.;Guerrini, G.;Ciciani, G.;Costa, B.;Spinetti, F.;Martini, C.;Bruni, F. Bioorganic and Medicinal Chemistry, 2005, 13, 4821-4834(「Selleri et al(2005)」)において記載されている。その文書に記載されている方法では、ベンゾイルアセトニトリルを塩基性媒質(LiOH・H2O)中、ヨード酢酸またはヨード酢酸エチルと反応させると、それぞれ、対応する酸またはエステル(1aおよび1b)が得られる。中間体1aおよび1bをエタノール中、還流させながらヒドラジン水和物と、酢酸の存在下で反応させると、対応する3-アミノピラゾール(2aおよび2b)が得られる。化合物2aおよび2bを2,4-ペンタンジオンと縮合させると、ピリミジン環が閉鎖され、酸3aおよびエステル3bが得られた。酸3aを混合無水物に変換させ(クロロギ酸エチルを用いて)、この中間体をアミドと反応させると、式(I)の関連化合物が生成した。
【0037】
Selleri et al(2001)およびSelleri et al(2005)に記載されている式(I)の化合物は、それらの文書において記載されている方法により、または有機化学合成における当業者に公知の他の方法により調製してもい。当業者には明らかなように、式(I)の他の化合物は、Selleri et al(2001)およびSelleri et al(2005)に記載されている方法と同様の方法により調製することができる。
【0038】
式(I)の化合物は、化合物中の水素またはハロ基を18F、123I、76Br、124Iまたは75Brで置換するように有機化合物を修飾するための、有機化学において公知の標準技術により、18F、123I、76Br、124Iまたは75Brで放射性標識することができる。また、18F、123I、76Br、124Iおよび75Brから選択される放射性同位体で放射性標識された式(I)の化合物は、開始材料の1つまたは式(I)の化合物の合成において使用される中間体において置換基として18F、123I、76Br、124Iまたは75Brを組み入れることにより調製してもよい。
【0039】
18F、123I、76Br、124Iまたは75Brで放射性標識された式(I)の化合物は、例えば、上記で規定した式(I)を有するが、R1、R2、R3、R4またはR5のうちの1つがトシラート、メシラート、BrまたはIなどの脱離基で置換されており、これにより、脂肪族求核置換反応が脱離基で生じうる化合物を調製し、その後に、化合物を脂肪族求核置換反応が起きる反応条件に供し、脱離基を18F、123I、76Br、124Iまたは75Brで置換させることにより調製してもよい。例えば、置換基がBrまたはトシラートである場合、化合物は[18F]-クリプトフィックス-K222錯体とアセトニトリル中、約80℃で10分間反応させてもよく、18Fで放射性標識された式(I)の化合物が形成される。上記で規定した式(I)を有するが、R、R1、R2、R3、R4またはR5のうちの1つがスタンニル、シリルまたはハロゲン(ハロゲン置換基は通常、放射性同位体とは異なる)で置換されている化合物を形成させ、化合物を酢酸媒質中で、クロラミン-Tなどの酸化剤を使用する求電子置換反応に供し、123I、76Br、124Iまたは75Brで放射性標識された式(I)の化合物を形成させることにより、123I、76Br、124Iまたは75Brで放射性標識された式(I)の化合物もまた、形成される可能性がある。いくつかの態様では、この反応は室温で実施させてもよく、別の態様では、反応混合物を約80℃〜100℃まで加熱する。上記で規定されているが、R、R1、R2、R3、R4またはR5のうちの1つが脱離基で置換されている式(I)の化合物は、Selleri et al(2001)およびSelleri et al(2005)に記載されている、式(I)の化合物を調製するための方法と類似しているが、適当な反応物が脱離基で置換されている、方法により調製されてもよい。また、式(I)の化合物は、R、R1、R2、R3、R4またはR5のうちの1つ上の置換基として脱離基を導入する、有機化学において公知の反応により修飾してもよい。
【0040】
式(I)の化合物は、18F(半減期110分)、123I(半減期13.2時間)、76Br(半減期16.2時間)、124I(半減期4.2日)または75Br(半減期1.6時間)で放射性標識されてもよい。典型的には式(I)の化合物は18Fで放射性標識される。18F、123I、76Br、124Iおよび75Brで放射性標識された式(I)の化合物は、半減期が著しく短い放射性同位体で放射性標識された化合物よりも、複数のスキャンを一日に実行することができるので、イメージングに対し臨床的な意味においてより実用的である。さらに、放射性リガンドは、現地外で調製し、輸送中に活性の有意の損失無しに、病院/機関に輸送することができるので、現場にサイクロトロンを有さない病院/機関がそのような放射性リガンドを使用することができる。さらに、18F、123I、76Br、124Iまたは75Brで標識された化合物を用いるとより長いスキャン(例えば、180分)を行うことができ、ほとんどの生物学的過程の研究により適している。
【0041】
18F、123I、76Br、124Iまたは75Brで放射性標識された式(I)の化合物はTSPOに対し高い親和性および選択性を有し、被験体内のTSPOを画像化するのに使用することができる。したがって、18F、123I、76Br、124Iまたは75Brで放射性標識された式(I)の化合物は、被験体内のTSPOを試験するのに使用することができる。
【0042】
神経変性疾患を患う被験体では、脳実質におけるTSPO発現が、神経変性疾患を有さない被験体に比べ著しく増加する。したがって、18F、123I、76Br、124Iまたは75Brで放射性標識された式(I)の化合物を使用して神経変性疾患を研究することができ、この化合物を使用して神経変性疾患を診断し、その進行をモニタすることができる。これらの化合物を使用して研究、診断またはモニタすることができる神経変性疾患としては、アルツハイマー病、多発性硬化症、パーキンソン病、ハンチントン病、多系統萎縮症、てんかん、脳症、脳卒中および脳腫瘍が挙げられる。これらの疾患の各々がニューロン損傷または感染と関連する。
【0043】
本発明の第3または第4の局面の方法によれば、18F、123I、76Br、124Iおよび75Brから選択される放射性同位体で放射性標識された式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩が被験体に投与される。式(I)の化合物が18F、76Br、124Iまたは75Brで放射性標識されると、被験体内の放射性同位体の位置、そのため被験体内のTSPOの位置の画像が、当技術分野で公知の従来技術を用いて陽電子放出断層撮影(PET)イメージングにより得ることができる。化合物が123Iで放射性標識されると、被験体内の放射性同位体の位置の画像は当技術分野で公知の従来技術を用いてSPECTイメージングにより得ることができる。典型的には、PETおよびSPECTイメージングの両方に対し、データは、18F、123I、76Br、124Iまたは75Brで放射性標識された式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩の投与後直ちに開始され、約40分またはそれ以上続けられる、従来のダイナミックまたはリストモード収集技術を用いて収集される。データ収集が完了すると、データは典型的には、各々が特別な時間点での体内の放射性同位体の分布を示す時系列三次元再構成を提供するように処理される。
【0044】
典型的には、18F、123I、76Br、124Iまたは75Brで放射性標識された式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩は非経口投与される。典型的には、18F、123I、76Br、124Iまたは75Brで放射性標識された式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩は、静脈注射または注入により非経口投与される。典型的には、18F、76Br、124Iまたは75Brで放射性標識された式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩は約5〜20mCi(185〜740MBq)の範囲の用量で投与される。
【0045】
典型的には、18F、123I、76Br、124Iまたは75Brで放射性標識された式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩は、18F、123I、76Br、124Iまたは75Brで放射性標識された式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩、および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物を投与することにより投与される。
【0046】
非経口投与のための調製物は典型的には、滅菌水溶液または非水溶液、懸濁液またはエマルジョンの形態とされる。適した非水溶媒の例はプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、オレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルである。適した水性担体としては、生理食塩水および緩衝媒質を含む、水およびアルコール/水溶液、エマルジョンまたは懸濁液が挙げられる。適した非経口ビヒクルとしては塩化ナトリウム溶液が挙げられる。
【0047】
本発明者らはさらに、Rがハロで任意選択的に置換されていてもよいアルキルまたはハロで任意選択的に置換されていてもよいアルコキシであり、少なくとも1つのフルオロ基を含む式(I)の化合物が、フルオロ基を含まない同様の化合物よりも、驚くほどTSPOで活性であることを見出した。
【0048】
したがって、本発明はまた、式(II)の化合物またはその塩を提供する:

式中、
Rはハロで任意選択的に置換されていてもよいアルキル、またはハロで任意選択的に置換されていてもよいアルコキシであり;
R1、R2およびR3はそれぞれ独立してHまたは疎水性基から選択され;ならびに
R4およびR5はそれぞれ独立してハロで任意選択的に置換されていてもよいアルキル、およびハロで任意選択的に置換されていてもよいアルコキシから選択され、
ここで、R、R1、R2、R3、R4およびR5のうちの1つまたは複数がFで置換される。
【0049】
式(II)の化合物の塩は好ましくは薬学的に許容されるが、薬学的に許容されない塩もまた、本発明の範囲内にあることは認識されるであろう。式(II)の化合物の薬学的に許容されない塩は、式(II)の化合物の薬学的に許容される塩の調製において中間体として使用されてもよい。薬学的に許容される塩の例としては、薬学的に許容されるカチオン、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウムおよびアルキルアンモニウムの塩;薬学的に許容される無機酸、例えば塩酸、オルトリン酸、硫酸、リン酸、硝酸、炭酸、ホウ酸、スルファミン酸および臭化水素酸の酸付加塩;または薬学的に許容される有機酸、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸、酒石酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フマル酸、クエン酸、乳酸、ムチン酸、グルコン酸、安息香酸、コハク酸、シュウ酸、フェニル酢酸、メタンスルホン酸、トリハロメタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、サリチル酸、スルファニル酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、エデト酸、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ラウリン酸、パントテン酸、タンニン酸、アスコルビン酸および吉草酸の塩が挙げられる。
【0050】
典型的には、式(II)では、R1およびR3はそれぞれ、H以外の基である。
【0051】
典型的には、Rはハロで任意選択的に置換されていてもよいC1-6アルキル、またはハロで任意選択的に置換されていてもよいC1-6アルコキシである。いくつかの態様では、RはFで置換されたC1-6アルコキシであり、例えばOCH2CH2Fである。
【0052】
典型的には、R1、R2およびR3はそれぞれ独立して、H、C1-6アルキル、アリール、NHC1-6アルキル、OC1-6アルキル、SC1-6アルキル、R6がC1-6アルキル(例えば、メチル、エチルまたはプロピル)であるCOOR6、R6がC1-6アルキルであり、nが整数(例えば、1、2、3、4、5または6)である(CH2)nOR6、およびポリエーテルから選択され、ここで、これらの基のいずれも(H以外)、ハロで任意選択的に置換されていてもよい。R1、R2またはR3がハロで任意選択的に置換されていてもよいポリエーテルである場合、ポリエーテルは例えば、ハロで任意選択的に置換されていてもよい、式-(O(CH2)a)b(CH2)cCH3の基であってもよく、式中、aは1、2または3であり、bは2、3、4または5であり、cは0、1、2、3、4または5である。
【0053】
いくつかの態様では、R4およびR5はそれぞれ独立してC1-6アルキルおよびC1-6アルコキシから選択され、ここで、C1-6アルキルまたはC1-6アルコキシはハロで任意選択的に置換されていてもよい。
【0054】
いくつかの態様では、RはFで置換されたC1-6アルコキシであり、R1、R2およびR3はそれぞれ独立して、H、C1-6アルキル、アリール、NHC1-6アルキル、OC1-6アルキル、SC1-6アルキル、R6がC1-6アルキルであるCOOR6、R6がC1-6アルキルであり、nが整数である(CH2)nOR6、およびポリエーテルから選択され、R4およびR5はそれぞれ独立してC1-6アルキルおよびC1-6アルコキシから選択される。
【0055】
式(II)の化合物はTSPOに対し選択的であり、TSPOを活性化させる。TSPOの活性化は、神経ステロイド合成の増加に関する。TSPOの活性化はそのため、脳中の神経ステロイド濃度を増加させることができる。プロゲステロンおよびデヒドロエピアンドロステロンならびにそれらの代謝産物を含む、これらの神経ステロイドはγ-アミノ酪酸(GABA)神経伝達を正に調節し、記憶およびストレス関連疾患で治療的利益を有する非鎮静的抗不安効果が得られる。式(II)の化合物はまた、神経変性疾患の処置のための神経保護薬、抗炎症薬および抗不安薬として使用することができる。
【0056】
したがって、別の局面では、本発明は、被験体に治療的有効量の式(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩を投与する段階を含む、被験体において神経変性疾患、炎症または不安を処置する方法を提供する。この方法により処置される可能性のある神経変性疾患としては、アルツハイマー病、多発性硬化症、パーキンソン病、ハンチントン病、多系統萎縮症、てんかん、脳症、脳卒中および脳腫瘍が挙げられる。式(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩は典型的には、式(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩を含む薬学的組成物を投与することにより投与される。
【0057】
別の局面では、本発明は、式(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩と薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物を提供する。
【0058】
本発明の第7の局面の組成物は、少なくとも1つの式(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩を、1つまたは複数の薬学的に許容される担体、および任意で、他の治療薬と共に含む。適した組成物としては、経口、直腸、鼻内、局所(頬側および舌下を含む)、膣内または非経口(経皮、筋内、静脈内および皮内を含む)投与に適したものが挙げられる。組成物は好都合なことに、単位剤形中に存在させてもよく、薬学分野で周知の方法により調製させてもよい。そのような方法は、活性成分を、1つまたは複数の副成分を構成する担体と混合する段階を含む。一般に、組成物は、均一かつ密接に式(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩を液体担体、希釈剤、アジュバントおよび/もしくは賦形剤または微細固体担体あるいはその両方と混合することにより、その後、必要でれば、生成物を成形することにより調製される。
【0059】
本明細書で使用されるように、「被験体」という用語は任意の動物を示す。被験体は哺乳類、例えばヒトであってもよい。いくつかの態様では、被験体はイヌまたはネコなどのコンパニオンアニマル、ウマ、ポニー、ロバ、ラバ、ラマ、アルパカ、ブタ、ウシまたはヒツジなどの家畜、または霊長類、ネコ科、イヌ科、ウシ科または有蹄類などの動物園動物である。
【0060】
本明細書で使用されるように、「治療的有効量」という用語は所望の治療反応が得られるのに有効な化合物の量を示す。特定の「治療的有効量」は、治療される特別な状態、被験体の身体状態、治療される被験体の型、治療期間、併用療法(あれば)の性質、および使用した特定の製剤などの因子と共に変動し、担当臨床医は、適当な治療的有効量を決定することができる。例えば、担当臨床医は、他の神経学的に活性な化合物の従来の用量または動物実験の結果を考慮して、式(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩の適当な治療的有効量を決定してもよい。いくつかの態様では、式(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩は、約1〜約20mg/kg体重/日の用量で投与されてもよい。
【0061】
本明細書で使用されるように、「薬学的に許容される担体」は、化合物を被験体に送達するための薬学的に許容される溶媒、懸濁化剤またはビヒクルである。担体は液体または固体であってもよく、念頭にある計画された投与様式を用いて選択される。担体は、生物学的にまたはそれ以外で望ましくないことはないという意味で「薬学的に許容され」、すなわち担体は被験体に活性成分と共に、有害反応を全く、または実質的に引き起こさずに投与される可能性がある。
【0062】
式(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩は、経口、局所または非経口で(皮下注射により、肺または鼻腔へのエアロゾル投与により、または静脈内、筋内、くも膜下または頭蓋内注射または注入技術により)、従来の非毒性の薬学的に許容される担体を含む用量単位製剤で投与してもよい。
【0063】
式(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩は、錠剤、水性または油性懸濁液、ロゼンジ、トローチ、散剤、顆粒、エマルジョン、カプセル、シロップまたはエリキシルとして経口投与されてもよい。経口用途用の組成物は、薬学的に優雅で口当たりのよい調製物を生成させるために、甘味剤、香味剤、着色剤、崩壊剤、潤滑剤、時間遅延剤および保存剤の群から選択される1つまたは複数の薬剤を含んでもよい。適した甘味剤としては、スクロース、ラクトース、グルコース、アスパルテームまたはサッカリンが挙げられる。適した崩壊剤としては、トウモロコシデンプン、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、キサンタンガム、ベントナイト、アルギン酸または寒天が挙げられる。適した香味剤としては、ペパーミント油、冬緑油、サクランボ、オレンジまたはラズベリー香味が挙げられる。適した保存剤としては、安息香酸ナトリウム、ビタミンE、αトコフェロール、アスコルビン酸、メチルパラベン、プロピルパラベンまたは亜硫酸水素ナトリウムが挙げられる。適した潤滑剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、オレイン酸ナトリウム、塩化ナトリウムまたはタルクが挙げられる。適した時間遅延剤としてはモノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルが挙げられる。
【0064】
非経口投与のための調製物は典型的には、滅菌の水性または非水性溶液、懸濁液またはエマルジョンの形態である。適した非水性溶媒の例はプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、オレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルである。適した水性担体としては、生理食塩水および緩衝媒質を含む、水およびアルコール/水溶液、エマルジョンまたは懸濁液が挙げられる。適した非経口ビヒクルとしては塩化ナトリウム溶液が挙げられる。例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート化剤、成長因子、不活性ガス、などの保存剤および他の添加剤もまた、存在してもよい。
【0065】
一般に、「処置する」、「処置」などの用語は本明細書では、所望の薬理学的および/生理学的効果が得られるように被験体に影響を与えることを意味するように使用される。効果は、疾患または障害またはその症状もしくは兆候を完全または部分的に阻止するという意味で予防的であってもよく、および/または疾患または障害の部分的または完全な治癒という意味では治療的であってもよい。本明細書で使用されるように「処置」は、脊椎動物、哺乳類、特にヒトにおける疾患または障害の任意の処置、または予防に及び、下記を含む:(a)疾患または障害の素因がある可能性があるが、まだ、疾患または障害を有すると診断されていない被験者において疾患または障害が起こらないようにする;(b)疾患または障害を阻止する、すなわち疾患または障害の発現を阻止する;または(c)疾患または障害の効果を緩和または寛解させる、すなわち疾患または障害の効果の退行を引き起こす。
【0066】
実施例
本発明の態様を下記非制限的な実施例を参照することにより、以下、説明する。
【0067】
実施例1- DPA-714および[18F]DPA-714の合成
1. DPA-714の合成

スキーム1. PBRリガンドDPA-714およびそのトシル前駆体8の合成;(i)アセトニトリル、ナトリウムメトキシド;(ii)N,N-ジエチルクロロ-アセトアミド、ヨウ化ナトリウム、NaOH/80% EtOH;(iii)ヒドラジン水和物、EtOH、酢酸;(iv)2,4-ペンタジオン、EtOH.(Selleri et al.,2001);(v)48% HBr/PTC;(vi)7,トリフェニルホスフィン、DIAD:(vii)トリフェニルホスフィン、2-フルオロエタノール、DMF、DIAD。
【0068】
3-(4-メトキシ-フェニル)-3-オキソ-プロピオニトリル(2)
4-メトキシ安息香酸メチル(30g、181mmol)およびナトリウムメトキシド(9.75g、181mmol)の混合物を80℃、アルゴン雰囲気下で連続撹拌しながら均一になるまで加熱した。アセトニトリル(16.5ml、313mmol)およびクロロベンゼン(19ml)を混合物に滴下した。反応物を90〜100℃で24時間、連続撹拌しながら加熱した。混合物を〜0℃まで冷却し、氷水(〜50ml)およびジエチルエーテル(〜200ml)で処理した後、固体材料が溶解するまで振盪させた。水層を有機層から分離し、希H2SO4で酸性化しpH2とした。ジエチルエーテル添加後、有機層を抽出し、無水Na2SO4上で乾燥させ、蒸発乾燥させた。得られた黄色固体をCHCl3に溶解し、飽和NaHCO3水溶液(5×100ml)で洗浄し、安息香酸を除去した。有機層を無水NaSO4上で乾燥させ、蒸発乾燥させた。固体を石油エーテルで洗浄することにより精製すると、2が微細な淡黄色結晶として得られた(2.91g、9%);mp:132〜137℃;

【0069】
3-シアノ-N,N-ジエチル-4-(4-メトキシ-フェニル)-4-オキソ-ブチルアミド(3)
2(2.0g、11.4mmol)、N,N-ジエチルクロロアセトアミド(1.7g、11.4mmol)およびNaI(5.1g、34mmol)を80% EtOHに溶解したNaOH(0.5g、12.5mmol)溶液(80ml)に、連続撹拌しながら添加した。混合物を室温で7時間撹拌し、t.l.c.によりモニタした。反応が完了すると直ちに、冷却し、濾過して無機材料を除去した。濾液を濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー(溶離液としてCH2Cl2)により精製すると、3が暗黄色油として得られた(2.1g、64%);

【0070】
2-[3-アミノ-5-(4-メトキシ-フェニル)-1H-プラゾール-4-イル]-N,N-ジエチルアセトアミド(4)
ヒドラジン水和物(0.73g、14.6mmol)および酢酸(0.73ml)をEtOH(37ml)に溶解した3(2.1g、7.3mmol)の溶液に添加した。混合物を還流しながら4時間加熱し、t.l.c.によりモニタした。反応が完了すると直ちに、室温まで冷却した。溶液を蒸発乾燥させ、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液としてCH2Cl2/MeOH、10:1 v/v)により精製した。精製した生成物をCH2Cl2に再溶解し、飽和NaHCO3水溶液(4×20ml)で洗浄し、酢酸を除去した。これにより、4が黄色結晶として得られた(1.52g、68%);mp:154.5〜157.5℃;

【0071】
N,N-ジエチル-2-[2-(4-メトキシ-フェニル)-5,7-ジメチルピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル]-アセトアミド(5)
2,4-ペンタンジオン(0.4g、4mmol)をEtOH(20ml)に溶解した4(1.2g、4mmol)の溶液に添加した。混合物を還流しながら12時間加熱した。反応混合物を冷却させ、溶媒を蒸発乾燥させた。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液としてCHCl3/MeOH、40:1 v/v)により精製すると、5が淡黄色結晶として得られた(1.37g、93%);mp:120.5〜123.5℃;

【0072】
N,N-ジエチル-2-[2-(4-ヒドロキシ-フェニル)-5,7-ジメチルピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル]-アセトアミド(6)
5(0.43g、1.16mmol)、ヘキサデシルトリブチルホスホニウムブロミド(0.06g、0.116mmol)および45% HBr(6ml)の溶液を100℃で7時間、常に撹拌しながら加熱した。反応混合物を、NaHCO3を用いてpH8〜9まで塩基性化し、CH2Cl2で抽出した。有機層を収集し、無水NaSO4上で乾燥させた。溶媒を真空下で除去し、残渣をカラムクロマトグラフィー(溶離液としてCHCl3/MeOH、40:1 v/v)により精製すると、6が象牙色結晶として得られた(220mg、54%);mp:242.5〜247℃;

【0073】
トルエン-4-スルホン酸2-ヒドロキシ-エチルエステル(7)
新しい酸化銀(350mg、1.5mmol)、p-トルエンスルホニルクロリド(210mg、1.1mmol)およびヨウ化カリウム(33mg、0.2mmol)を、ジクロロメタン(10ml)に溶解した1,2-エタンジオール(62mg、1mmol)の撹拌溶液に添加した。反応混合物を室温で1時間撹拌し、セライトの小パッドを通して濾過し、酢酸エチルで洗浄した。溶媒を除去し、粗生成物をカラムクロマトグラフィー(溶離液としてCH2Cl2/MeOH、40:1 v/v)により精製すると、モノトシラート生成物7が透明油として46%の収率で得られた。

【0074】
トルエン-4-スルホン酸2-[4-(3-ジエチルカルバモイルメチル-5,7-ジメチル-ピラゾロ-[1,5-a]ピリミジン-2-イル)-フェノキシ]-エチルエステル(8)
アゾジカルボン酸ジイソプロピル(DIAD、0.48ml、2.4mmol)を、乾燥THF(10ml)に溶解した6(400mg、1.1mmol)、トリフェニルホスフィン(637mg、2.4mmol)および2-ヒドロキシエチルトシラート(525mg、2.4mmol)の溶液に添加した。反応混合物を20時間室温で撹拌し、蒸発乾燥させた。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液としてCHCl3/MeOH、80:1 v/v)により精製すると、8が淡黄色結晶として収率85%で得られた。

【0075】
N,N-ジエチル-2-{2-[4-(2-フルオロ-エトキシ)-フェニル]-5,7-ジメチル-ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル}-アセトアミド(DPA-714)
アゾジカルボン酸ジイソプロピル(DIAD、190mg、0.94mmol)を、乾燥DMF(6ml)に溶解した6(150mg、0.43mmol)、トリフェニルホスフィン(274mg、0.94mmol)および2-フルオロエタノール(60mg、0.94mmol)の溶液に添加した。反応混合物を48時間室温で撹拌し、その後48時間蒸発させ、その後蒸発乾燥させた。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液としてCHCl3/MeOH、80:1 v/v)により精製すると、DPA-714が淡黄色結晶として収率47%で得られた。

【0076】
2. [18F]DPA-714の放射性合成

スキーム2. [18F]DPA-714の放射性合成
【0077】
放射性同位体生成
非担体添加-水性[18F]フッ化物イオンをPETtraceサイクロトロン(GE Healthcare, Sweden)で、95%リッチ[18O]-H2Oに対する16.5MeVプロトンビームを用いた0.8mLの水標的の照射により、[18O(p,n) 18F]核反応により生成させた。
【0078】
[18F]-クリプトフィックス-K222の調製
[18O]リッチ-H2O中の[18F]フッ化物をGE TRACERlab MXFDG合成装置に移し、アニオン交換樹脂(0.5M K2CO3 10mLにより洗浄し、その後水10mLですすぐことにより調製した、カルボナートの形態のSep-Pak Waters Accell(商標)Light QMAカートリッジ)に真空下で通した。トラップされた[18F]フッ化物イオンをその後、K2CO3(7mgを含む純水300μL)、アセトニトリル300μLおよびクリプトフィックス(Kryptofix)222(K222:4,7,13,16,21,24-ヘキサオキサ-1,10-ジアザビシクロ[8.8.8]ヘキサコサン)含む溶離溶液を用いてSep-Pakカートリッジから溶離させ、反応容器に移した。アセトニトリルのアリコートを添加し、各添加後、反応混合物を蒸発乾燥させた(3度:80μL、毎回)。蒸発は95℃で、窒素流および真空下で実施した。
【0079】
[18F]DPA-714の調製および製剤
トシラート前駆体(7)をアセトニトリル3mLに溶解し、乾燥[18F]-クリプトフィックス-K222錯体に添加した。混合物を85℃で5分間反応させた。完了すると、反応混合物を注射用の水、Waters for Injections BP(WFI BP)で希釈し、tC-18 Sep-Pakカートリッジを通過させた。反応容器をWFIですすぎ、再びtC-18 Sep-Pakカートリッジを通過させた。tC18トラップ放射性標識生成物をさらに3度WFIですすいだ(総量40mL)。その後、生成物をtC-18 Sep-PakカートリッジからEtOH(2mL)およびWFI(3mL)で溶離した。得られた溶液を0.22μm Millipore CATHIVEX非発熱性滅菌フィルタに通過させ、粒状材料を除去し、その後、HPLC精製を実施した。粗混合物をその後、HPLC Waters XTerra RPC-18 10μm(7.8×300mm)半分取逆相カラム上に注入した。0.1M NH4Ac:CH3CN(pH=10):(60/40,v:v)の移動相を用い、流速を4.0mL/分とすると、[18F]DPA-714の保持時間(tR)は12.42分であった。[18F]DPA-714に対応する放射性画分を収集し、真空下で蒸発させた。残渣をWFI BP(4mL)中で再構成し、滅菌13mm Millipore GV0.22μmフィルタを通して濾過し、滅菌した発熱物質のない真空バイアルに入れた。これにより、[18F]DPA-714が10%の非減衰較正放射化学的収率で得られた(n=6)。
【0080】
[18F]DPA-714の品質制御
比放射活性および放射化学純度を決定するために、公知の体積および放射活性の最終溶液のアリコートを分析用逆相HPLCカラム(Waters XTerra C18 5μm(4.6×150mm)上に注入した。流速2.0mL/分の0.1M NH4Ac:CH3CN(pH=10):(50:50;v:v)の移動相を使用して、2.23分の保持時間(tR)を有する[18F]DPA-714を溶離した。担体生成物に対応する254nmで測定されたUV吸光度ピークの面積をHPLCクロマトグラムで測定(積分)し、質量をUV吸光度に関連させる標準曲線と比較した。放射化学および化学純度は98%を超え、比活性は1680GBq/μmolであった。
【0081】
実施例2- DPA-714のインビトロ結合親和性
結合研究のために、ミトコンドリアを前に記載したように(Trapani G, Franco M, Ricciardi L, et al. Synthesis and binding affinity of 2-phenylimidazo[1,2-alpha]pyridine derivatives for both central and peripheral benzodiazepine receptors. A new series of high-affinity and selective ligands for the peripheral type. Journal of Medicinal Chemistry. 1997;40:3109-3118およびCampiani G, Nacci V, Fiorini I, et al., Synthesis, Biological Activity, and SARs of Pyrrolobenzoxazepine Derivatives, a New Class of Specific 「Peripheral-Type」Benzodiazepine Receptor Ligands. Journal of Medicinal Chemistry. 1996;39:3435-3450)、下記のようにわずかに変更して、頸椎脱臼により屠殺した雄Wistarラットの腎臓から調製した。腎臓は、ガラスホモジナイザ内でテフロン内筒を用いて、プロテアーゼインヒビター(160μg/mLベンズアミジン、200μg/mLバシトラシンおよび20μg/mL大豆トリプシンインヒビター)を含む20体積の氷冷50mM Tris/HCl、pH7.4、0.32Mスクロースおよび1mM EDTA(緩衝液A)中でホモジナイズし、600gで10分間4℃で遠心分離した。得られた上清を10,000gで10分4℃で遠心分離した。ペレットをその後、20体積の氷冷緩衝液Aに再懸濁させ、再び10,000gで10分4℃で遠心分離した。粗ミトコンドリアペレットを-20℃で、アッセイ時間まで凍結させ、または0.6nM[3H]PK11195を含む50mM Tris/HCl、pH7.4(緩衝液B)を用いて、ある範囲の濃度の試験化合物(0.1nM〜10μM)と共に、総体積0.5mLとして90分間4℃でインキュベートした。インキュベーションを氷冷緩衝液Bで5mLに希釈することにより終了させ、直ちに、ガラスファイバWhatman GF/Cフィルタを通して急速濾過した。その後、フィルタを緩衝液Bで洗浄し(25mL)、フィルタ上に保持された放射活性量をPackard 1600 TR液体シンチレーションカウンタにより66%効率で決定した。非特異的結合を各場合において、それぞれ、標識していない1μM PK 11195の存在下で評価した。IC50値を決定し、Ki値をChengおよびPrusoffの式(Cheng Y-C, Prusoff WH. Relationship between the inhibition constant(KI) and the concentration of inhibitor which causes 50 per cent inhibition (I50) of an enzymatic reaction. Biochemical Pharmacology. 1973;22:3099-3108)に従い誘導した。タンパク質濃度は、Lowryらの方法により、標準としてウシ血清を用いて評価した(Lowry OH, Rosebrough NJ, Farr AL, Randall RJ. Protein measurement with the folin phenol reagent. Journal of Biological Chemistry. 1951;193:265-275)。
【0082】
TSPOに対するDPA-714の親和性を、膜結合アッセイ法により、[3H]PK 11195を放射性リガンドとして、ラット腎臓組織を受容体源として使用して評価した。DPA-714の選択性を保証するために、CBRへの結合を[3H]Ro 15-1788およびラット脳組織を使用して評価した。結果を表1に示す。表1に示されるように、DPA-714の親和性、Ki=7.0nMは、同じアッセイ法では、DPA-713、Ki=4.7nMほど高くはなかったが、PK 11195、Ki=9.3nMよりは比較できるほど高かった。3つのTSPOリガンド、DPA-714、DPA-713およびPK 11195は全てCBRに対して無視できる親和性を示した。
【0083】
(表1)それぞれ、放射性リガンドとして[3H]PK 11195および[3H]Ro 15-1788を、受容体源としてラット腎臓膜およびラット脳組織を用いたTSPOおよびCBRに対するリガンドの親和性
各リガンドに対するLogD値はHPLCを介して決定した。

【0084】
実施例3- 神経ステロイド産生の刺激
この実施例では、DPA-714を、そのプレグネノロン合成を増加させる能力について、十分に開発されたステロイド産生アッセイ法(Selleri S, Bruni F, Costagli C, et al. 2-Arylpyrazolo[1,5-a]pyrimidin-3-yl acetamides. New potent and selective peripheral benzodiazepine receptor ligands. Bioorganic and Medicinal Chemistry. 2001;9:2661-2671)を用いて評価した。
【0085】
(図1に示した)プレグネノロンアッセイ法の結果から、DPA-714が、DPA-713および広く使用されているPBRリガンド、PK11195およびRo5-4864に比べ、著しく大きな効力でステロイド産生を刺激することが証明される。
【0086】
細胞培養
ラットグリオーマC6細胞を、10% FBS、2mM L-グルタミン、100単位/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシンが補充されたダルベッコ変法イーグル培地で培養した。培養物は、5% CO2/95%空気、37℃の加湿雰囲気内で維持した。
【0087】
ステロイド生合成アッセイ
C6細胞を24ウェルプレートに〜1×106細胞/ウェルの密度で播種し、最終体積1mlとした。プレグネノロン産生の測定前に、細胞を3度、140mM NaCl、5mM KCl、1.8mM CaCl2、1mM MgSO4、10mMグルコース、10mM HEPES/NaOH、pH7.4+0.1% BSAから構成される単塩培地で洗浄した。実験中、細胞はこの単塩培地を用いて、37℃の空気インキュベータ内でインキュベートした。培地中に分泌されたプレグネノロンを測定するために、前に記載したように(Campiani B, Nacci V, Fiorini I, et al., Synthesis, Biological, Actwily and SARs of Pyrrolobenzoxazepine Derivatives, a New Class of Specific 「Peripheral-Type」Benzodiazepine Receptor Ligands, Journal of Medicinal Chemistry 1996;39:3435-3450
)、単塩培地へのそのさらなる代謝をトリロスタン(25μM)およびSU 10603(10μM)(それぞれ、3β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼおよび17α-ヒドロキシラーゼインヒビター)の添加により遮断した。新規化合物およびPK 11195、Ro 5-4864、またはクロナゼパムのC6細胞への添加は、単塩培地を適当な濃度(40μM)の化合物を含む培地へ完全に変化させることにより実施した。エタノールの最終濃度は各実験内の全てのウェルに対し一定であり、そのままではステロイド産生に何の効果もない濃度である0.5%(v/v)を超えなかった。インキュベーション期間(2時間)の終わりに、細胞培地を保持し1500gで10分間遠心分離した。培地中に分泌されたプレグネノロンの量を、ラジオイムノアッセイ(RIA)により、ICN Biochemical Inc., CA, USAから得られた抗体を用いて、供給者により推奨される条件下で定量した。細胞タンパク質濃度を前に記載した方法(Lowry OH, Rosenbrough NJ, Farr AL, Randall RJ. Protein measurement with the folin phenol reagent. J Biol Chem. 1951;193;265-275)に従い測定した。
【0088】
結果を図1に示す。図1に示されるように、DPA-714はベースラインを超えて80%のレベルでプレグネノロン合成を刺激し、PK 11195およびRo 5-4864よりも著しく大きい効力を示した。DPA-713は、同じアッセイ法においてステロイド産生に対し効果を示さなかった。
【0089】
実施例4- エクスビボ[18F]DPA-714齧歯類研究
体重300〜320gの成体の雄Wistarラット(Janvier, Le Genest-St-Isle, France)をエクスビボ実験に使用した。手順は全て、実験動物の世話のためのEuropean Community Council Directive 86/609/EECに従い実施した。動物は12時間の明暗サイクルで維持し(温度22.4±0.5℃;湿度測定40.3±7.2%)、水および食物は自由に利用できた。
【0090】
キノリン酸(QA)病変
ラットをイソフルラン(4%、500mL/分)で麻酔し、定位固定装置(Stoelting、Phymep, Paris, France)上に置き、外科処置中イソフルラン2%(500mL/分)下で維持した。頭蓋を露出させ、歯科用ドリルを用いて小さな穴を開けた。動物に、右線条体に下記座標で一側方に注射した:ブレグマからA,0.7;L,-3;P,-5.5mm(Paxinos and Watson, 1986)。カニューレ(ゲージ25、Hamilton, Massy, France)を挿入し、QA溶液(300nmolを含む2μLリン酸緩衝液、pH7.4)を0.5μL/分の流速で注入した。シリンジを4分間所定の位置に置き、その後QAの逆流を避けるために除去した。骨を蝋で満たし、その後、頭皮を縫合した。
【0091】
体内分布研究
エクスビボ体内分布研究を、QAを用いた一側性線条体病変後6日に、[18F]DPA-714を用いて実施した。ラットに陰茎静脈を介して、水およびEtOH(85/15)の混合物に溶解した20-37MBq[18F]DPA-714を注射し、または放射性リガンド15分前に、PK 11195(n=5、5mg/kg)、DPA-714(n=2、1mg/kg)またはDPA-713(n=2;1mg/kg)のいずれかの前注射に従った。放射性リガンド([18F]DPA-714)のみを注射し、前注射のないラットは対照群とした(n=6)。動物は、[18F]DPA-714注射後60分で屠殺した。末梢組織、すなわち、血液、筋肉、骨、肝臓、心臓、副腎およびいくつかの脳領域(小脳、右および左線条体、右および左前頭皮質、右および左海馬)の試料を除去し、計量し、その放射活性を、completer Denisを用いて測定した。末梢組織では、結果は比(%ID/g組織)/(%ID/g血液)±SEMとして表した。脳では、結果は比(%ID/g脳領域)/(%ID/g小脳)±SEMとして表した。データ数が?5である場合、スチューデントt検定を実施した。p<0.05で統計的有意性であると考えた。
【0092】
結果
末梢体内分布
図2は4つのQA病変ラット群;対照(放射性リガンドのみを注射)および3つの前処理群(PK 11195、DPA-713およびDPA-714)の各々における[18F]DPA-714の末梢分布を示す。対照群からの結果は、[18F]DPA-714の最も高い蓄積が副腎(71.62±35.06)および心臓(59.26±29.06)で起きたが、骨(6.30±0.97)、肝臓(3.36±0.16)および筋肉(2.11±1.13)では最小の蓄積にすぎなかったことを示す。PK 11195(5mg/kg)で前処理したラットにより、心臓、骨および肝臓での放射性リガンドの取り込みが著しく阻害されるが、副腎および筋肉ではそうではないことが証明された。対照的に、DPA-714(1mg/kg)またはDPA-713(1mg/kg)のいずれかによる前処理は全ての末梢組織での[18F]DPA-714蓄積を遮断することができた。
【0093】
脳内分布
図3は4つのQA病変ラット群の各々における[18F]DPA-714の脳分布を示す。対照群からの結果より、対応する非病変対応物に比べた場合の、線条体(4.81±0.47対0.61±0.14;p<0.05)および前頭皮質(1.92±0.86対0.68±0.13;p<0.05)の右(病変)側での[18F]DPA-714取り込みの統計学的に著しい増加が証明される。これは海馬では観察されなかった(0.74±0.13対0.77±0.29)。右線条体および前頭皮質では、[18F]DPA-714の蓄積は、PK 11195の前注射により著しく減少した(それぞれ、1.90±0.59および1.18±0.16、p<0.05)。視認可能な減少もまた、DPA-714(それぞれ、2.00±0.23および1.28±0.17)またはDPA-713(それぞれ、1.08±0.08および1.06±0.05)のいずれかの前注射後に同じ領域で見られた。興味深いことに、左線条体(1.25±0.48)、左前頭皮質(0.99±0.04)、右海馬(1.19±0.14)および左海馬(1.09±0.10)では、対照に比べPK 11195前処理群で[18F]DPA-714蓄積が増加した。DPA-714およびDPA-713の前注射後に、同様の傾向が観察された。
【0094】
実施例5- インビボ[18F]DPA-714ヒヒPET研究
年齢13および体重23.1kgの正常な雄マントヒヒをPETスキャンのために選択した。科学的目的のためにヒト以外の霊長類の世話および使用を実施するNational Health and Medical Research Council(NHMRC)コードに従い、ヒヒを維持し、取り扱った。プロジェクトの適用はSydney South West Area Health Service(SSWAHS) Animal Ethics Committeeにより認可された。注射された放射性リガンド用量は[18F]DPA-714では100MBqであった。
【0095】
PETデータは全て、オーストラリアのRoyal Prince Alfred HospitalのDepartment of PET and Nuclear MedicineにおいてSiemens Biograph LSO PET-CTスキャナを用いて獲得した。このデュアルモダリティ装置は同じガントリー内に、24結晶リングを備えた完全三次元PETスキャナおよびデュアルスライスCTスキャナを有する。視野の中心で、6.3mm半値全幅(FWHM)の再構成PET空間分解能が得られる。ヒヒは最初にケタミン(8mg/kg、筋肉内)で麻酔した。0.2mgケタミン/kg/分の投与速度での、生理食塩水に溶解したケタミン(Parnell Laboratory, Australia)の静脈内注入を使用して、麻酔を維持した。ヒヒはまた、半時間にわたるMgSO4(2mL、静脈内)+アトロピン(1mg、筋肉内)+マキサロン(5mg、筋肉内)を受けた。ヒヒの頭をプラスチックテープで固定し、動きアーチファクトを最小に抑えた。頭のCTスキャンを完了後、放射性リガンドを注射した。リストモードでのPETデータの獲得が、放射性リガンド注射直前に開始され、60分の期間、続けられた。遮断研究は、放射性リガンド注射前5分のPK 11195(1.5mg/kg)による前処理を含んだが、置換研究では、冷DPA-714(1mg/kg)が[18F]DPA-714の注入後20分で投与された。各研究の終わりに、リストモードデータは54フレーム(20×30s、30×60sおよび4×300s)を含むダイナミックスキャンに分類された。ダイナミック3-D PETシノグラムを、フーリエリビニング(FORE)を用いてリビニングし、フィルタ逆投影法ならびに光子減衰および各々が128×128ボクセルを含む47軸横断スライスへの散乱に対するCTデータに基づく較正を用いて再構成した。再構成したボクセル寸法は0.206×0.206×0.337cmであった。放射性リガンド取り込みを、脳組織1体積当たりの注入用量%単位(%用量/mL)に変換し、時間に対しプロットした。自動化3D登録アルゴリズムを使用して、ROI決定前に2つの再構成スキャンを共に登録した(Eberl S, Kanno I, Fulton RR, Ryan A, Hutton BF, Fulham MJ. 1996. Automated interstudy image registration technique for SPECT and PET. J Nucl Med 37(1):137-145)。
【0096】
時間に対するリガンド濃度の変動を表す減衰補正した時間活性曲線を、視床、小脳、線条体、皮質、頭蓋および全脳にわたる対象の領域に対して選択したスライスから構成した。リストモード獲得後、全身PET-CTスキャンを6つの体位の各々で2分実施し、放射性リガンド取り込みの他の部位を決定した。
【0097】
結果
ダイナミックPET脳イメージングを、[18F]DPA-714(100MBqを含む2ml生理食塩水、比活性270GBq/μmol)の静脈内投与数分前に開始し、注射後60分で中止するベースライン研究を実施した。この後、6つの体位の各々で2分間全身獲得を実施した。ベースライン研究において得られた軸横断脳スライスのこのPET加算画像により、[18F]DPA-714は血液脳関門に浸透することができ、脳内にかなり蓄積することが証明された。ヒヒ頭蓋では取り込みは観察されなかった。
【0098】
[18F]DPA-714結合の特異性を決定するために、TSPOリガンドPK11195(1.5mg/kg)を用いた前処理を含む、遮断研究を実施した。この研究で得られた軸横断脳スライスのPET加算画像から、PK11195は、脳での[18F]DPA-714取り込みを効果的に遮断することが証明された。最後に、冷DPA-714(1mg/kg)を[18F]DPA-714注射後20分で投与する置換研究を実施し、放射性リガンド結合の可逆性を評価した。
【0099】
図4は、3つのPET研究(ベースライン研究、遮断研究および置換研究)の各々におけるヒヒ全脳での[18F]DPA-714取り込みを表す時間活性曲線(TAC)を示す。ベースライン研究では、[18F]DPA-714は10分以内に最大取り込みに到達し、その後50分間、大体同じ取り込みレベルを維持した。置換研究は最初の20分間ベースライン研究に類似すると思われたが、冷DPA-714注射後、曲線は上昇し鋭いピークとなり、続いて、放射性リガンドは完全に洗い流された。対照的に、TSPO特異リガンドPK11195で前処理すると、[18F]DPA-714取り込みは最初に増加し、続いて急激に下降し、置換研究で見られるものと同一の洗い流しレベルとなった。
【0100】
全身画像もまた、脳イメージング後に直接獲得し、放射性リガンド取り込みの他の部位を調査した。これらから、心臓、副腎および唾液腺での[18F]DPA-714の高い取り込みが証明された。放射性リガンド投与後20分で冷DPA-714注射すると、これらの末梢領域では[18F]DPA-714結合の完全な置換が得られた(データ示さず)。
【0101】
実施例6- TSPOのためのPETトレーサとしての[18F]DPA-714:HSV脳炎ラットモデルにおける[11C]PK11195との比較
パーキンソン病および単純ヘルペス脳炎(HSE)を含む多くの神経疾患が、神経炎症と関連する。末梢ベンゾジアゼピン受容体(PBR)の発現は神経炎症中に増加し、[11C]PK11195を用いた陽電子放出断層撮影(PET)により視覚化することができる。しかしながら、[11C]PK11195は低い脳取り込みおよび高い非特異結合を示し、軽度の炎症を視覚化するのに十分感受性ではない可能性がある。この研究では、[18F]DPA-714をHSEラットモデルで評価し、同じモデルにおける[11C]PK11195と比較した。
【0102】
実験
[18F]DPA-714を、対応するトシラート前駆体をK18F/クリプトフィックスと反応させることにより調製した。[18F]DPA-714の安定性をTLCにより試験した。雄のWistarラットに単純ヘルペスウイルス1型(107PFUを含む100l PBS)またはPBS(対照)を鼻内で播種した。播種後1週間以内に、複製ウイルスが脳内に移動し、神経炎症を誘発した。播種後6または7日に、ラットは[18F]DPA-714(559MBq)または[11C]PK11195(7822MBq)の静脈注射を受け、ダイナミックPETスキャン(MicroPET Focus 220)をそれぞれ2時間および1時間実施し、続いてエクスビボ体内分布を実施した。
【0103】
結果および考察
[18F]DPA-714は20±5%放射化学収率で得られ、比活性は10428 MBq/nmolであり、放射化学純度>99%であった。インビボでは、[18F]DPA-714は徐々により極性の代謝酸産物に変換され、ラット血漿中の放射活性の78±1%は、トレーサ注射後2時間の親化合物から構成された。[18F]DPA-714のPET画像は、対照ラットでの低いトレーサ取り込みを示し(n=3)、これは1時間での[11C]PK11195取り込み(n=5)よりも著しく低く(p=0.01)、脳からの遅いトレーサクリアランスが示された(T1/2>100分)。HSEラットにおける[18F]DPA-714取り込みは、HSV-1が蓄積する嗅覚および逆行脳領域で増加した(90〜150%)。これらの領域では、[11C]PK11195取り込みは有意に増加しなかった。
【0104】
結論
これらの結果から、[18F]DPA-714は神経炎症を視覚化するのに有用なトレーサであり、炎症領域と非炎症領域の間でのコントラストがより良好であるため[11C]PK11195よりも感度が高いことが証明される。
【0105】
実施例7- DPA-714に対する毒性研究
この研究では、DPA-714の可能性のある毒性を、ラットにおいて静脈内経路により1回投与した後評価した。
【0106】
研究は2つの群の20匹のSPF Sprague-Dawleyラット(それぞれ5匹の雄および5匹の雌)を含み、ランダム化の日に7週齢で、雄は193.1g〜215gの間、雌は160.6g〜180.1gの間の体重であった。動物はCharles River Laboratories France(Domaine des Oncins-69592 L’Arbresle Cedex, France)から購入した。
【0107】
群は下記の通りであった:
1群:ビヒクル投与(すなわち、0.9% NaCl/エタノール(9/1、(v/v))
2群:DPA-714を5mL/kgで投与。
【0108】
1/10でそのビヒクル(すなわち、0.9% NaCl/エタノール9/1、(v/v))に希釈した試験項目DPA-714またはビヒクルを、0.2μmフィルタで濾過した後、静脈内経路によりボーラスとして、5mL/kgの体積で約30秒にわたり動物に投与した。
【0109】
動物の体重をランダム化の日、D7、D14およびD15(剖検の日)に測定した。
【0110】
一般的な観察をD1に、投与後60分±30分、再び投与後3〜4時間の間で、その後14日間1日に1度、実施した。機能試験および神経行動試験もまた、D1に、投与後60分±30分で、その後D7およびD14に評価した。死亡率を1日に2度、14日間記録した。14日の期間の最後に生存した動物は全て肉眼的剖検に提出した。
【0111】
採用した実験条件下では、ビヒクル(すなわち、0.9% NaCl/エタノール9/1、(v/v))を投与した動物は、有意の兆候を何も示さず、体重増加は正常であった。ビヒクルに起因する異常は、剖検で調べた器官では認められなかった。
【0112】
1/10でビヒクルに希釈し(すなわち、最終濃度は0.05mg/mL)、静脈内経路により5mL/kgで投与したDPA-714は死亡を誘発しなかった。対照群と比べ、雄および雌の体重増加に対する効果は見られなかった。関連する臨床兆候は、ビヒクルに1/10で希釈され、静脈内経路により5mL/kgでDPA-714が与えられた動物では観察されなかった。剖検では、肉眼的病変は観察されなかった。
【0113】
採用した実験条件下では、Sprague-Dawleyラットにおいて5mL/kgで静脈内経路により1度投与されたDPA-714(バッチ番号140306)は毒性兆候を誘発しなかった。
【0114】
そのため、DPA-714(バッチ番号140306)のLD50は、静脈経路により投与すると、雄および雌のSprague-Dawleyラットでは5mL/kgより高い。
【0115】
論評
ラット腎臓膜および[3H]PK 11195を使用したインビトロ結合研究(実施例2)から、DPA-714が高い親和性でTSPOに特異的に結合することが証明された。正常および病変ラットの両方におけるマイクロPETを使用した体内分布研究(実施例4)から、[18F]DPA-714が、変化したTSPO発現の領域を検出するための感度の高い、正確な放射性リガンドであることが示された。これらのラット研究から、[18F]DPA-714がインビボで有利な動力学および安定性を有することも証明された。
【0116】
正常なヒヒ脳でのPETイメージング(実施例5)により、ラット研究で観察された結果が再確認された。実施例5の結果から、[18F]DPA-714がTSPOに特異的にかつ選択的に結合することが示され、TSPO結合において種依存性はないことが示される。
【0117】
DPA-714の新規特徴は、プレグネノロンステロイド産生アッセイ法でのその著しい機能活性である(実施例3)。実際、同じアッセイ法において、DPA-714は、神経ステロイド合成の刺激では、最も広く使用されているTSPOリガンドであるPK 11195よりも2倍活性が高い。
【0118】
さらに、DPA-714はPK 11195(Ki=9.3nM)に比べ、より高い結合親和性(Ki=7.0nM)を有する(実施例2)。DPA-714のこのより高い結合親和性は優れたインビボ動力学およびより低い親油性と共に、[18F]DPA-714がTSPOをより良好に標識することができることを意味する。
【0119】
そのため、[18F]DPA-714は、ミクログリア活性化の正確なインビボマーカとして使用することができる。より詳細には、[18F]DPA-714は、PETと共に、多くの神経変性疾患における初期の神経病理学的事象を検出する手段として使用することができる。この放射性リガンドはまた、疾患の進行および処置の有効性を研究するためのツールとして使用することができる。[18F]DPA-714を、疾患の進行および処置の有効性を研究するためのツールとして使用することができる疾患の型としては、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病、多発性硬化症(MS)、多系統萎縮症(MSA)、てんかん、脳症、脳卒中および脳腫瘍が挙げられる。[18F]DPA-714の高い特異的結合および高い選択性ならびにその有利なインビボ動力学により、[18F]DPA-714はこの用途に適している。
【0120】
当業者であれば、本明細書で記載した本発明では、具体的に記載したもの以外の変更および改変が可能であることを認識するであろう。そのような変更および改変は全て、本質が前記記載から決定される本発明の範囲内に含まれると考えられる。
【0121】
添付の特許請求の範囲および本発明の前記説明では、文脈から、そうでなければ言語または必要な含意を表現することになっている場合を除き、「含む」という用語または「備える」もしくは「含んでいる」などの変形は包括的な意味で使用され、すなわち、本発明の様々な態様において、記載した特徴の存在を特定するものであり、別の特徴の存在または追加を除外するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】C6グリオーマラット細胞におけるプレグネノロン蓄積に対するTSPOリガンドPK11195、Ro5-4864、DPA-713およびDPA-714の効果を示すグラフである。化合物は全て同じ濃度(40μM)で使用した;インキュベーション期間(2h)の終わりに、プレグネノロンの量を、ラジオイムノアッセイ(RIA)により定量した。値は少なくとも3回の定量の平均である。
【図2】実施例4で記載したQA病変ラットの4つの群の各々における[18F]DPA-714の末梢分布のグラフである;対照(放射性リガンドのみ注射)および3つの前処置群(PK 11195、DPA-713およびDPA-714)。
【図3】実施例4で記載したQA病変ラットの4つの群の各々における右線条体(Right Stri)、左線条体(Left Stri)、右前頭皮質(Right Cx)、左前頭皮質(Left Cx)、右海馬(Right Hippoc)および左海馬(Left Hippoc)での[18F]DPA-714の脳内分布のグラフである;対照(放射性リガンドのみ注射)および3つの前処置群(PK 11195、DPA-713およびDPA-714)。
【図4】実施例5で記載した3つの研究に対する60分のPETスキャン中のヒヒ全脳における[18F]DPA-714の取り込みを示す時間活性曲線(TAC)である(ベースライン[18F]DPA-714、遮断[18F]DPA-714+PK 11195(1.5mg/kg)および置換[18F]DPA-714+DPA-714(1mg/kg)試験)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
18F、123I、76Br、124Iおよび75Brから選択される放射性同位体で放射性標識された式(I)の化合物、またはその塩:

式中、
RがH、ハロ、ハロで任意選択的に置換されていてもよいアルキル、またはハロで任意選択的に置換されていてもよいアルコキシであり;
R1、R2およびR3がそれぞれ独立してHまたは疎水性基であり;ならびに
R4およびR5がそれぞれ独立してハロで任意選択的に置換されていてもよいアルキル、またはハロで任意選択的に置換されていてもよいアルコキシである。
【請求項2】
式(I)において、Rがハロで任意選択的に置換されていてもよいC1-6アルキル、またはハロで任意選択的に置換されていてもよいC1-6アルコキシである、請求項1記載の放射性標識された化合物、またはその塩。
【請求項3】
式(I)において、R1、R2およびR3がそれぞれ独立して、H、ハロで任意選択的に置換されていてもよいC1-6アルキル、ハロで任意選択的に置換されていてもよいアリール、ハロで任意選択的に置換されていてもよいNHC1-6アルキル、ハロで任意選択的に置換されていてもよいOC1-6アルキル、ハロで任意選択的に置換されていてもよいSC1-6アルキル、R6がハロで任意選択的に置換されていてもよいC1-6アルキルであるCOOR6、R6がハロで任意選択的に置換されていてもよいC1-6アルキルでありnが整数である(CH2)nOR6、ならびにハロで任意選択的に置換されていてもよいポリエーテルから選択される、請求項1または2記載の放射性標識された化合物、またはその塩。
【請求項4】
式(I)において、R4およびR5がそれぞれ独立してハロで任意選択的に置換されていてもよいC1-6アルキル、およびハロで任意選択的に置換されていてもよいC1-6アルコキシから選択される、請求項1〜3のいずれか一項記載の放射性標識された化合物、またはその塩。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項記載の放射性標識された化合物または薬学的に許容されるその塩と、薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物。
【請求項6】
被験体に、18F、123I、76Br、124Iおよび75Brから選択される放射性同位体で放射性標識された請求項1記載の式(I)の化合物、またはその薬学的に許容される塩を投与する段階、および被験体内での放射性同位体の位置の画像を得る段階を含む、被験体において輸送タンパク質(18kDa)(TSPO)を画像化する方法。
【請求項7】
式(I)の化合物が18F、76Br、124Iまたは75Brで放射性標識され、画像が陽電子放出断層撮影(PET)イメージングにより得られる、請求項6記載の方法。
【請求項8】
式(I)の化合物が123Iで放射性標識され、画像がSPECTイメージングにより得られる、請求項6記載の方法。
【請求項9】
被験体に、18F、123I、76Br、124Iおよび75Brから選択される放射性同位体で放射性標識された請求項1記載の式(I)の化合物、またはその薬学的に許容される塩を投与する段階、および被験体内での放射性同位体の位置の画像を得て、被験体の脳実質における化合物またはその塩のTSPO結合の程度を評価する段階を含む、被験体において神経変性疾患を診断する方法。
【請求項10】
神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、多発性硬化症、多系統萎縮症、てんかん、脳症、脳卒中、または脳腫瘍である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
被験体がヒトである、請求項6〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
被験体内の輸送タンパク質(18kDa)を画像化するための医用製剤の製造における、18F、123I、76Br、124Iおよび75Brから選択される放射性同位体で放射性標識された請求項1記載の式(I)の化合物、またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項13】
式(II)の化合物またはその塩:

式中、
Rがハロで任意選択的に置換されていてもよいアルキル、またはハロで任意選択的に置換されていてもよいアルコキシであり;
R1およびR3がそれぞれ独立してH、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、sec-ペンチル、1,2-ジメチルプロピル、1,1-ジメチルプロピル、ヘキシル、4-メチルペンチル、1-メチルペンチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、1,1-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、1,2-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、1,2,2-トリメチルプロピル、1,1,2-トリメチルプロピル、アリール、NHC1-6アルキル、OC1-6アルキル、SC1-6アルキル、R6がC1-6アルキルであるCOOR6、R6がC1-6アルキルでありnが整数である(CH2)nOR6、またはポリエーテルであり、ここで、これらの基(H以外)のいずれもハロで任意選択的に置換されていてもよく;
R2がHまたは疎水性基であり;ならびに
R4およびR5がそれぞれ独立してハロで任意選択的に置換されていてもよいアルキル、またはハロで任意選択的に置換されていてもよいアルコキシであり、
ここで、R、R1、R2、R3、R4またはR5の少なくとも1つがFで置換される。
【請求項14】
RがOCH2CH2Fである、請求項13記載の化合物、またはその塩。
【請求項15】
請求項13または14記載の化合物またはその薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物。
【請求項16】
被験体に治療的有効量の請求項13または14記載の化合物またはその薬学的に許容される塩を投与する段階を含む、被験体において神経変性疾患、炎症または不安を処置する方法。
【請求項17】
被験体がヒトである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
神経変性疾患、炎症または不安の処置のための医用製剤の製造における、請求項13記載の式(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項19】
下記式の化合物から形成された、18Fで放射性標識された請求項1記載の式(I)の化合物、またはその塩:

式中、
RがH、ハロ、ハロで任意選択的に置換されていてもよいアルキル、またはハロで任意選択的に置換されていてもよいアルコキシであり;
R1、R2およびR3がそれぞれ独立してHまたは疎水性基であり;ならびに
R4およびR5がそれぞれ独立してハロで任意選択的に置換されていてもよいアルキル、またはハロで任意選択的に置換されていてもよいアルコキシであり、
ここで、R、R1、R2、R3、R4およびR5のうちの1つが脱離基で置換されており、これにより、脂肪族求核置換反応が脱離基で生じうる。
【請求項20】
下記式の化合物、またはその塩:

式中、
RがH、ハロ、ハロで任意選択的に置換されていてもよいアルキル、またはハロで任意選択的に置換されていてもよいアルコキシであり;
R1、R2およびR3がそれぞれ独立してHまたは疎水性基であり;ならびに
R4およびR5がそれぞれ独立してハロで任意選択的に置換されていてもよいアルキル、またはハロで任意選択的に置換されていてもよいアルコキシであり、
ここで、R、R1、R2、R3、R4およびR5のうちの1つが脱離基で置換されており、これにより、脂肪族求核置換反応が脱離基で生じうる。
【請求項21】
脱離基がトシラート、メシラート、BrおよびIから選択される、請求項20記載の化合物、またはその塩。
【請求項22】
脱離基がトシラートである、請求項21記載の化合物、またはその塩。
【請求項23】
下記式:

の化合物、またはその塩。
【請求項24】
下記式の化合物から形成された、123I、76Br、124Iおよび75Brから選択される放射性同位体で放射性標識された請求項1記載の式(I)の化合物、またはその塩:

式中、
RがH、ハロ、ハロで任意選択的に置換されていてもよいアルキル、またはハロで任意選択的に置換されていてもよいアルコキシであり;
R1、R2およびR3がそれぞれ独立してHまたは疎水性基であり;ならびに
R4およびR5がそれぞれ独立してハロで任意選択的に置換されていてもよいアルキル、またはハロで任意選択的に置換されていてもよいアルコキシであり、
ここで、R、R1、R2、R3、R4およびR5のうちの1つが脱離基で置換されており、これにより、求電子置換反応が脱離基で生じうる。
【請求項25】
下記式の化合物、またはその塩:

式中、
RがH、ハロ、ハロで任意選択的に置換されていてもよいアルキル、またはハロで任意選択的に置換されていてもよいアルコキシであり;
R1、R2およびR3がそれぞれ独立してHまたは疎水性基であり;ならびに
R4およびR5がそれぞれ独立してハロで任意選択的に置換されていてもよいアルキル、またはハロで任意選択的に置換されていてもよいアルコキシであり、
ここで、R、R1、R2、R3、R4およびR5のうちの1つが脱離基で置換されており、これにより、求電子置換反応が脱離基で生じうる。
【請求項26】
脱離基がスタニル、シリルおよびハロゲンから選択される、請求項25記載の化合物、またはその塩。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−537457(P2009−537457A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−510230(P2009−510230)
【出願日】平成19年5月4日(2007.5.4)
【国際出願番号】PCT/AU2007/000598
【国際公開番号】WO2007/134362
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(500026418)ザ・ユニバーシティ・オブ・シドニー (13)
【Fターム(参考)】