説明

農作業機のレバー切替操作機構

【課題】操作性能に優れ誤動作の少ないレバー切換操作機構を得る。
【解決手段】変速操作レバー46の変速用操作経路K1と、変速用操作経路K1から分岐したエンジン停止用操作経路ESと、変速用操作経路K1とエンジン停止用操作経路ESとの間を変速操作レバー46が移動する際に抵抗を付与する抵抗手段30とを備えてある農作業機のレバー切替操作機構であって、抵抗手段30は、変速用操作経路K1からエンジン停止用操作経路ESへの変速操作レバー46の移動時に作用する第1抵抗力と、エンジン停止用操作経路ESから変速用操作経路K1への変速操作レバー46の移動時に作用する第2抵抗力とが異なるように設定してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速操作レバーの変速用操作経路と、前記変速用操作経路から分岐したエンジン停止用操作経路と、前記変速用操作経路とエンジン停止用操作経路との間を前記変速操作レバーが移動する際に抵抗を付与する抵抗手段とを備えてある農作業機のレバー切替操作機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の農作業機のレバー切替操作機構としては、変速用操作経路の平面形状は、前進変速用操作経路を前後方向に配置し、その後端部に、横方向に折れ曲がった中立位置の一端部が連続状態に設けられ、中立位置の他端部に、後方に折れ曲がった後進変速用操作経路が連続状態に配置されているものがあった。
そして、左右方向に沿った中立位置の一端部側(前進変速用操作経路側)に延長された部分に、変速用操作経路から分岐する状態でエンジン停止用操作経路が設けられていた。
また、中立位置とエンジン停止用操作経路との間の移動に所定の抵抗力を付与する抵抗手段が設けられていた。
変速操作レバーは、中立位置においては、他端部側から一端部側に付勢されており、前記エンジン停止用操作経路への分岐部に誘導されるようになっていた。(例えば、特許文献1参照)
また、抵抗手段によって変速操作レバーに付与される抵抗力は、エンジン停止用操作経路への入出時の何れもが同じ大きさに設定されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−097547号公報(図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の農作業機のレバー切替操作機構によれば、抵抗手段によって変速操作レバーに付与される抵抗力は、エンジン停止用操作経路への入出時の何れもが同じ大きさに設定されているから、少ない力で操作できるようにするためには、抵抗手段によって規定されている抵抗力が小さいことが必要となる。しかし、抵抗力を小さくすると、中立位置からエンジン停止用操作経路へ操作レバーが入り易くなり、運転を継続させておきたい場合でも、振動等によって不用意にエンジン停止用操作経路へ操作レバーが入ってしまい、誤動作する虞がある。
また、この問題を解消するのに、抵抗手段による抵抗力を大きく設定しておくと、操作レバーは、エンジン停止用操作経路に不用意に入ることは防止し易くなるものの、エンジン停止用操作経路から中立位置に操作レバーを戻す時にも大きな操作力が必要となり、操作性が低下する結果となる。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、操作性能の向上を図れながら、誤動作を少なくできる農作業機のレバー切替操作機構を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴構成は、変速操作レバーの変速用操作経路と、前記変速用操作経路から分岐したエンジン停止用操作経路と、前記変速用操作経路とエンジン停止用操作経路との間を前記変速操作レバーが移動する際に抵抗を付与する抵抗手段とを備えてある農作業機のレバー切替操作機構であって、前記抵抗手段は、前記変速用操作経路から前記エンジン停止用操作経路への前記変速操作レバーの移動時に作用する第1抵抗力と、前記エンジン停止用操作経路から前記変速用操作経路への前記変速操作レバーの移動時に作用する第2抵抗力とが異なるように設定してあるところにある。
【0007】
本発明の第1の特徴構成によれば、前記抵抗手段は、前記第1抵抗力と、前記第2抵抗力とが異なるように設定してあるから、変速操作レバーに関して誤動作を防止することと、操作性を向上させることとの相反する要求を、両方満たすことが可能となる。
例えば、第1抵抗力が第2抵抗力より大きくなるように設定しておけば、不用意にエンジン停止用操作経路に変速操作レバーが進入するのを防止でき、エンジン停止用操作経路から中立位置に変速操作レバーを戻す時は、小さな力で操作でき操作性能が向上する。
また、第1抵抗力と第2抵抗力との大小関係は、上述の関係の逆の場合であってもよく、往復経路の行きと帰りとの操作力に差がつくことで、実施している操作内容を、目で確認することなく、手への抵抗力の差によって直観的に認識することができ、より操作性能を向上させることができる。
また、第1抵抗力と第2抵抗力との大きさを異ならせることで、運転者の癖に適応した操作性を提供することも可能となり、より使い勝手を向上させることができる。
【0008】
本発明の第2の特徴構成は、前記抵抗手段は、前記第1抵抗力と前記第2抵抗力との比率を変更可能な比率変更機構を備えているところにある。
【0009】
本発明の第2の特徴構成によれば、上述の各作用を、より好ましい状態で実践することができる。
即ち、比率変更機構によって、運転者の好みに合わせて、第1抵抗力と第2抵抗力との比率を変更でき、複数の運転者が使用する場合であっても、夫々の運転者の要求に合わせて変速操作レバーの抵抗力の調整を行うことができる。
【0010】
本発明の第3の特徴構成は、前記抵抗手段は、前記第1抵抗力が前記第2抵抗力より大きくなるように設定してあるところにある。
【0011】
本発明の第3の特徴構成によれば、変速操作レバーを中立位置からエンジン停止用操作経路に入れる時には、大きな第1抵抗力が作用するから、不用意にエンジン停止用操作経路に変速操作レバーが進入するのを防止できる。また、エンジン停止用操作経路から中立位置に変速操作レバーを戻す時は、小さな第2抵抗力が作用するだけであるから、より小さな力で操作でき操作性能が向上する。
特に、中立位置の変速操作レバーにエンジン停止用操作経路側への付勢力を作用させてあるような場合には、付勢力は、大きな第1抵抗力に対向する方向に作用するから、操作力は、それらの力が相殺された状態となり、操作力の低減化を図ることができる。
また、変速操作レバーをエンジン停止用操作経路から中立位置に戻す時には、操作力に対して前記付勢力が対向して作用するものの、第2抵抗力そのものが小さく設定してあるから、操作力も小さくなり、操作性が向上する。
【0012】
本発明の第4の特徴構成は、前記変速操作レバーは、運転操作部の左右何れか一方に配置してあると共に、前記変速用操作経路と前記エンジン停止用操作経路との間を移動させる前記変速操作レバーの操作方向は、左右遠近方向に設定してあり、前記抵抗手段は、前記運転操作部に向かって近接方向に前記変速操作レバーを操作する際の抵抗力を前記第1抵抗力と設定し、前記運転操作部から離間方向に前記変速操作レバーを操作する際の抵抗力を前記第2抵抗力と設定してあるところにある。
【0013】
本発明の第4の特徴構成によれば、変速操作レバーに対する運転者の操作力のかけ方は、握った変速操作レバーを、引き付ける側に動かす場合と、遠ざける側に動かす場合とでは、前者の方が大きな力をかけやすい。従って、大きい第1抵抗力が作用する際の操作方向を、運転操作部に向かって近接方向に設定してあることで、無理なく操作することができる。また、小さい第2抵抗力が作用する際の操作方向を、運転操作部から離間方向に設定してあるから、この時にも、無理なく操作することができる。
以上の結果、より操作性が向上する。
【0014】
本発明の第5の特徴構成は、前記抵抗手段は、前記変速操作レバーの動きに従動可能で、前記変速用操作経路と前記エンジン停止用操作経路とにわたって揺動切替可能に設けられた切替アーム部材と、前記切替アーム部材を揺動両端部に付勢可能に取り付けられた引張バネ部材と、前記切替アーム部材の揺動範囲中間部にデッドポイントが位置する状態に前記引張バネ部材と前記切替アーム部材とを配置して構成されたトグル機構とを備えて構成してあるところにある。
【0015】
本発明の第5の特徴構成によれば、引張バネ部材を使用したトグル機構によって、引張バネ部材の引張力を切替アーム部材への揺動操作力として作用させることができ、切替アーム部材を揺動両端部へ確実に姿勢切替することができる。
その結果、変速操作レバーの変速用操作経路とエンジン停止用操作経路との位置切替を、より確実に行うことができる。
また、部品点数を少なく構成でき、簡単な構造によって抵抗手段を形成することができる。そして、引張バネ部材の固定位置を移動させることで、デッドポイントの両側への揺動操作力の大小比率を変更することができ、簡単に、前記比率変更機構を構成することができる。従って、抵抗手段のコストダウンを叶えることができる。
【0016】
本発明の第6の特徴構成は、前記切替アーム部材が、前記エンジン停止用操作経路側の揺動端部に達することを検出してエンジンを停止させるスイッチが設けられているところにある。
【0017】
本発明の第6の特徴構成によれば、トグル機構によって、より確実にエンジン停止用操作経路側の揺動端部に切り替わった切替アーム部材を、前記スイッチによって検出してエンジンを停止させることができ、確実性の高いエンジン停止切替を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】田植機の全体側面図
【図2】田植機の全体平面図
【図3】変速操作構造の側面図
【図4】変速操作構造の正面図
【図5】変速操作構造の平面図
【図6】抵抗手段を示す分解斜視図
【図7】抵抗手段の作用を示す説明図
【図8】別実施形態の抵抗手段を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1および図2に、農作業機の一例として乗用型の田植機が示されている。この乗用型田植機は、操向自在な左右一対の前輪1と操向不能な左右一対の後輪2とを備えた乗用型の走行機体3の後部に、苗植付け装置4が油圧シリンダ5によって駆動される平行四連式のリンク機構6を介して昇降自在に連結されるとともに、機体後部に施肥装置7が装備された構造となっている。
【0020】
前記走行機体3における機体フレーム8の前部には、前輪1を軸支したミッションケース9が連結固定されるとともに、機体フレーム8の後部には、後輪2を軸支した後部伝動ケース10がローリング自在に支持されている。また、ミッションケース9から前方に延出された前フレーム11にエンジン12が横向きに搭載されてボンネット13で覆われているとともに、エンジン12の後方に位置する搭乗運転部には、前輪1を操向操作するためのステアリングハンドル14、運転座席(運転操作部に相当)15、ステップ16などが備えられ、また、機体前部の左右には、予備苗を複数段に載置収容する予備苗のせ台17が設けられている。
【0021】
前記苗植付け装置4は、6条分の苗を載置して左右方向に設定ストロークで往復移動される苗のせ台21、苗のせ台21下端から1株分づつ苗を切り出して田面Tに植付けてゆく6組の回転式の植付け機構22、植付け箇所を整地する3個の整地フロート23、等を備えて構成されている。また、前記施肥装置7は、運転座席15と苗植付け装置4との間において走行機体3上に搭載されており、粉粒状の肥料を貯留する肥料ホッパー24、この肥料ホッパー24内の肥料を設定量づつ繰り出す繰出し機構25、繰り出された肥料を供給ホース26を介して各整地フロート23に備えた作溝器27に風力搬送する電動ブロア28、などを備えており、作溝器27によって田面Tに形成した溝に肥料を送り込んで埋設してゆくよう構成されている。
【0022】
前記ミッションケース9の側面には静油圧式無段変速装置(HST)からなる主変速装置41が連結されてエンジン12にベルト連動され、その変速出力がミッションケース9に入力されて走行系と作業系とに分岐されるようになっている。
【0023】
前記主変速装置41は、ステアリングハンドル14の左脇に配備された主変速レバー (変速操作レバーに相当)46で変速操作されるようになっており、次に、この主変速装置46の変速操作構造について説明する。
【0024】
図3,図4に示すように、ステアリングハンドル14を支持するよう立設されたハンドルポスト50には支持ブラケット51が固着され、この支持ブラケット51の左側端部には、支軸52を介してデテント板53が横向き支点a周りに前後揺動可能に支持され、このデテント板53に前記主変速レバー46が前後向き支点b周りに左右揺動可能に支持されている。ハンドルポスト50を立設支持する支持枠54に、横向き支点c周りに回動可能に中継回動部材55が支持されており、この中継回動部材55とデテント板53とが連係ロッド56を介して連係され、さらに、この中継回動部材55と、主変速装置41の変速操作軸57に連結された変速アーム58とが操作ロッド59を介して連係されている。
【0025】
図5に示すように、前記支持ブラケット51にはガイド板60が固着されるとともに、このガイド板60に形成された段違い状の案内溝61に主変速レバー46の基部から下向きに延出された案内ロッド46aが貫通されており、案内溝61と案内ロッド46aとの係合案内作用によって主変速レバー46を所定の段違い操作経路(変速用操作経路に相当)K1に沿って前後に揺動操作することができる。そして、デテント板53を正逆に回動させて主変速装置41を前進域から後進域までの範囲で変速操作することが可能となっている。
【0026】
そして、段違い操作経路K1は、段違い部位に位置する主変速装置41の中立位置Nと、その前方の前進変速操作経路Fと、後方に後進変速操作経路Rとで構成されている。
また、デテント板46の外周に並列形成した13個の凹部62に(図3参照)、片持ちバネレバー63の遊端に支持したデテントローラ64を弾性係入させることで、主変速レバー46を前進7段、中立位置N、および、後進5段の各変速位置に保持することができるようになっている。
【0027】
また、主変速レバー46の横操作中心となる支点bにはねじりバネ65が装備されており、主変速レバー46が常に支点b周りに揺動付勢されている。従って、主変速レバー46を中立位置Nに操作すると、図5に示すように、前進変速操作経路Fに臨む前進側中立位置Nfに向けて付勢移動される。
【0028】
前記主変速レバー46は主変速装置41を操作するのみならず、エンジン12の起動・停止およびエンジン回転速度の調整に関わっており、以下そのための構成について説明する。
【0029】
主変速レバー46が中立位置Nにあると所定のアイドリング回転速度にセットされるとともに、主変速レバー46が前進変速操作経路Fおよび後進変速操作経路Rにおいて高速側に操作されるほどエンジン回転速度が高くなるように、主変速レバー46とエンジン12のアクセルとが連係されている。
【0030】
また、前記案内溝61における前進側中立位置Nfの横外側にはエンジン停止用の特定位置としてエンジン停止位置(エンジン停止用操作経路に相当)ESが設定されるとともに、主変速レバー46の案内ロッド46aがこのエンジン停止位置ESに操作されたことを検知するスイッチ73がガイド板60に装備されている。
前記スイッチ73は制御装置20を介してエンジン停止回路に接続されており(図3参照)、主変速レバー46の案内ロッド46aがエンジン停止位置ESに設定時間(例えば数秒)連続して操作されると、エンジン停止回路が起動されてエンジン12が停止されるようにプログラムされている。
【0031】
尚、ガイド板60には、中立位置Nとエンジン停止位置ESとにわたった主変速レバー46の移動に抵抗を付与する抵抗手段30が設けてあり、中立位置Nにある主変速レバー46が、不用意にエンジン停止位置ESに移動したり、エンジン停止位置ESにある主変速レバー46が、不用意に中立位置Nに移動しないように構成されている。
【0032】
前記抵抗手段30は、図5〜7に示すように、ガイド板60の裏面側に縦軸d周りに揺動自在に取り付けられた切替アーム部材31と、切替アーム部材31の縁部を受け止めて揺動両端部の位置決めを行うストップ突起32と、一端を前記切替アーム部材31に、他端をガイド板60に支持された引張バネ部材33とを備えて構成してあり、切替アーム部材31の揺動範囲中間部にデッドポイントPが位置する状態に引張バネ部材33と切替アーム部材31とを配置してトグル機構を構成している(図7参照)。
【0033】
切替アーム部材31は、金属板によって形成してあり、主変速レバー46の案内ロッド46aが係入可能な切欠き部31aが設けられている。
また、前記引張バネ部材33の一端部を係止する第1支持ピン31bが切替アーム部材31に取り付けられている。因みに、引張バネ部材33の他端部は、ガイド板60に設けられた第2支持ピン60aに係止されている。また、縦軸dとストップ突起32と第2支持ピン60aとは、一直線上に配置されている。
【0034】
案内ロッド46aが、図7(a)に示すように、前進側中立位置Nfに位置した状態においては、引張バネ部材33の引張付勢力とスットップ突起32による抑止力とによって、切替アーム部材31は揺動始点に位置しており、切欠き部31aに案内ロッド46aが係入している。
案内ロッド46aがエンジン停止位置ES側に押し込まれるに伴って、切欠き部31aに押込力が伝わり、切替アーム部材31は、図7(b)に示すように、縦軸dを中心に揺動終点まで揺動する。その際、引張バネ部材33の軸芯Xが、第2支持ピン60aと縦軸dとを結ぶ線を越える(デッドポイントPを越える)までは、引張バネ部材33の引張付勢力が案内ロッド46aを戻す方向(中立位置N側に戻す方向)に作用し、主変速レバー46の操作に第1抵抗力を付与する。
尚、第1抵抗力は、ねじりバネ65によって主変速レバー46を中立位置Nにおける前進側中立位置Nfに向けて付勢している付勢力よりは大きな値となるように設定されている。
【0035】
また、案内ロッド46aを、エンジン停止位置ESから中立位置N側に戻すと、切欠き部31aに戻し力が伝わり、切替アーム部材31は、図7(a)に示すように、縦軸dを中心に揺動始点まで揺動する。その際、引張バネ部材33の軸芯Xが、第2支持ピン60aと縦軸dとを結ぶ線を越える(デッドポイントPを越える)までは、引張バネ部材33の引張付勢力が案内ロッド46aを戻す方向(エンジン停止位置ES側に戻す方向)に作用し、主変速レバー46の操作に第2抵抗力を付与する。
本実施形態においては、切替アーム部材31の揺動角度αを、図7に示すように、揺動始点からデッドポイントPまでの角度α1を、デッドポイントPから揺動終点までの角度α2よりも大きく設定してあるから、力積としての観点から、前記第1抵抗力は、第2抵抗力よりも大きい。
また、切欠き部31aの幅寸法は、案内ロッド46aに対する遊びを考慮してあることで、切欠き部31a内において案内ロッド46aが当接する位置が、前進側中立位置Nfからエンジン停止位置ESに向かって案内ロッド46aが移動する時と、その逆方向に移動する時とで異なり、縦軸d周りに作用する回転モーメントも異なる。その結果、単純な力の大きさの観点からも、前記第1抵抗力は、第2抵抗力よりも大きくなっている。
【0036】
前記スイッチ73は、切替アーム部材31が揺動始点側に位置している状態では、切替アーム部材31の縁部が、スイッチ73の検知部73aを押圧していることで、OFFの状態となっている。即ち、主変速レバー46が、段違い操作経路K1に位置している時は、OFFの状態となっており、制御装置20のエンジン停止回路を作動させることはない。
また、切替アーム部材31が揺動終点側に位置している状態では、切替アーム部材31が、スイッチ73の検知部73aから離れるからONの状態となっている。即ち、主変速レバー46が、エンジン停止位置ESに位置することで、ONの状態となり、制御装置20を介してエンジン停止回路が起動され、エンジン12が停止される。
この後、主変速レバー46を、エンジン停止位置ESから前進側中立位置Nfに戻した後、ブレーキペダル(不図示)を踏み操作するとエンジン12が始動する。
【0037】
尚、主変速レバー46は、前述のように、上端部の操作部分と下端部の案内ロッド46aとの間を前記横向き支点a、前後向き支点bによって枢支されて揺動操作自在に形成されているから(図3、図4参照)、主変速レバー46の操作部分での操作方向は、案内ロッド46aの位置では逆方向の動きとなって前記抵抗手段30に反映される。
即ち、主変速レバー46を前方に操作すると、案内ロッド46aはガイド板60の案内溝61内を後方に移動し、同様に、後方に操作すると案内ロッド46aは前方に、右側に操作すると案内ロッド46aは左側に、左側に操作すると案内ロッド46aは右側に移動する。
【0038】
本実施形態の農作業機のレバー切替操作機構によれば、主変速レバー46が中立位置Nからエンジン停止位置ESに移動するには、第2抵抗力より大きな第1抵抗力が作用するから、不用意にエンジン停止位置ESに主変速レバー46が進入するのを防止できる。また、エンジン停止位置ESから中立位置Nに主変速レバー46を戻す時は、小さな第2抵抗力が作用するだけであるから、より小さな力で操作でき操作性能が向上する。
また、主変速レバー46は、運転座席15の左側に配置してあり、且つ、その操作方向に関しては、大きい第1抵抗力が作用する際の操作方向が、運転座席15に向かって近接方向に設定してあることで、無理なく操作することができ、良好な操作性を得ることができる。
即ち、主変速レバー46の上端部の操作部分を前進側中立位置Nfから運転座席15に引き寄せる側(右側)に操作すると、案内ロッド46aがガイド板60の案内溝61における前進側中立位置Nfから左側のエンジン停止位置ESに入り、その状態から、逆に、主変速レバー46の操作部分を運転座席15から離れる側(左側)に操作すると、案内ロッド46aはエンジン停止位置ESから右側の前進側操作経路Nfに移動する。
そして、第2抵抗力に比べて大きい第1抵抗力は、主変速レバー46を操作する上で、生理的に力を入れ易いとされる引き寄せ方向への操作時に作用するから、主変速レバー46の操作が苦になりにくく、操作性が良好となる。
【0039】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
【0040】
〈1〉 前記抵抗手段30は、先の実施形態では、切替アーム部材31と引張バネ部材33とを使用したトグル機構によって構成したものを説明したが、この構成に限るものではない。例えば、図8に示すように、前進側中立位置Nfとエンジン停止位置ESとの間に、案内ロッド46aの移動経路に張り出す状態に板バネ部材34を設けて構成してあってもよい。
この板バネ部材34は、「く」字形状に屈曲成形してあり、前進側中立位置Nf側の第1斜面34aと、エンジン停止位置ES側の第2斜面34bとの傾斜角度を異ならせてある。具体的には、図に示す第1斜面34aの傾斜角度β1は、第2斜面34bの傾斜角度β2より大きく設定してある。従って、主変速レバー46の案内ロッド46aが前進側中立位置Nfからエンジン停止位置ESに移動する際の第1抵抗力が、エンジン停止位置ESから前進側中立位置Nfに移動する際の第2抵抗力より大きくなる。また、この実施形態においては、エンジン停止位置ESを検出するスイッチ73は、案内ロッド46aからの押圧力を受けることでエンジン12のストップ制御を行うように構成されている。
【0041】
〈2〉 前記抵抗手段30は、先の実施形態では、前記第1抵抗力と前記第2抵抗力との比率が一定のものを説明したが、例えば、引張バネ部材33のガイド板60に支持させる部分、即ち、第2支持ピン60aの位置を、縦軸dの周りに変更できるように構成すれば、それに伴って角度α1とα2との比率が変化し、第1抵抗力と第2抵抗力との比率を変更することができる。このような機構を、比率変更機構という。具体的には、例えば、縦軸dの周りの複数個所に、第2支持ピン60aを設けられるように構成したり、縦軸dの周りに沿った長穴を形成しておき、その長穴の任意の位置に第2支持ピン60aを固定できるように構成してもよい。
【0042】
〈3〉 前記抵抗手段30は、先の実施形態で説明したように、第1抵抗力が第2抵抗力より大きくなるように設定してあることに限るものではなく、例えば、第2抵抗力が第1抵抗力より大きくなるように設定してあってもよい。
〈4〉 前記変速用操作経路(段違い操作経路)K1とエンジン停止用操作経路(エンジン停止位置)ESとの位置関係は、先の実施形態で説明した変速用操作経路K1における前進側中立位置Nfからエンジン停止用操作経路ESが分岐する配置に限るものではなく、変速用操作経路K1の任意の位置から分岐する状態にエンジン停止用操作経路ESを配置してあってもよい。
【0043】
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
当該農作業機のレバー切替操作機構は、田植機以外の農作業機にも利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
15 運転座席(運転操作部に相当)
30 抵抗手段
31 切替アーム部材
33 引張バネ部材
46 主変速レバー(変速操作レバーに相当)
73 スイッチ
ES エンジン停止位置(エンジン停止用操作経路に相当)
K1 段違い操作経路(変速用操作経路に相当)
P デッドポイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速操作レバーの変速用操作経路と、前記変速用操作経路から分岐したエンジン停止用操作経路と、前記変速用操作経路とエンジン停止用操作経路との間を前記変速操作レバーが移動する際に抵抗を付与する抵抗手段とを備えてある農作業機のレバー切替操作機構であって、
前記抵抗手段は、前記変速用操作経路から前記エンジン停止用操作経路への前記変速操作レバーの移動時に作用する第1抵抗力と、前記エンジン停止用操作経路から前記変速用操作経路への前記変速操作レバーの移動時に作用する第2抵抗力とが異なるように設定してある農作業機のレバー切替操作機構。
【請求項2】
前記抵抗手段は、前記第1抵抗力と前記第2抵抗力との比率を変更可能な比率変更機構を備えている請求項1に記載の農作業機のレバー切替操作機構。
【請求項3】
前記抵抗手段は、前記第1抵抗力が前記第2抵抗力より大きくなるように設定してある請求項1又は2に記載の農作業機のレバー切替操作機構。
【請求項4】
前記変速操作レバーは、運転操作部の左右何れか一方に配置してあると共に、前記変速用操作経路と前記エンジン停止用操作経路との間を移動させる前記変速操作レバーの操作方向は、左右遠近方向に設定してあり、
前記抵抗手段は、前記運転操作部に向かって近接方向に前記変速操作レバーを操作する際の抵抗力を前記第1抵抗力と設定し、前記運転操作部から離間方向に前記変速操作レバーを操作する際の抵抗力を前記第2抵抗力と設定してある請求項3に記載の農作業機のレバー切替操作機構。
【請求項5】
前記抵抗手段は、前記変速操作レバーの動きに従動可能で、前記変速用操作経路と前記エンジン停止用操作経路とにわたって揺動切替可能に設けられた切替アーム部材と、前記切替アーム部材を揺動両端部に付勢可能に取り付けられた引張バネ部材と、前記切替アーム部材の揺動範囲中間部にデッドポイントが位置する状態に前記引張バネ部材と前記切替アーム部材とを配置して構成されたトグル機構とを備えて構成してある請求項1〜4の何れか一項に記載の農作業機のレバー切替操作機構。
【請求項6】
前記切替アーム部材が、前記エンジン停止用操作経路側の揺動端部に達することを検出してエンジンを停止させるスイッチが設けられている請求項5に記載の農作業機のレバー切替操作機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−1286(P2013−1286A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135570(P2011−135570)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】