説明

農作業車

【課題】 往復植付け走行から枕地の周回植付け作業に入った時に、不適正な農作業装置の稼動を回避できるように制御すると共に、マーカの作動精度上昇によって作業性が向上する農作業車を提供する。
【解決手段】 機体の旋回動作を検出する旋回検出手段により検出される旋回開始のタイミングと対応して農作業装置の停止と走行距離計の計測開始を指令し、その走行距離から判定される旋回完了による次行程の作業開始位置への到達によって上記農作業装置の稼動を指令する旋回制御を行う制御処理部を備える農作業車において、左右の後輪の回転数を検出する回転センサーに基づき、左右のマーカのうち回転数の多い側のマーカを出す制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機体走行とともに自動的に田植作業等の圃場作業をする農作業車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
旋回走行可能な機体に備えた農作業装置により、機体走行とともに田植作業を行う水田作業車において、特許文献1に示すように、機体の旋回走行動作と連動して農作業装置の動作を制御するようにしたものが知られている。この水田作業車は、昇降動作可能に田植え等の水田植生作業を行う農作業装置と、この農作業装置と一体構成のフロート等を備えて構成される。このフロートは、前後方向傾斜を検出可能に取付けられた平板状浮体であり、水田の植生盤面を均平整地するとともに、植生盤面の高さ位置を検出する。
【0003】
田植え等の圃場の往復作業走行においては、フロートで植生盤面を均平整地しつつ農作業装置が植付作業を行う。このとき、フロートの傾斜角度等に基づいて農作業装置の高さを昇降調節して植付け深さを調節する。往行から復行への折り返し地点でUターン旋回する旋回行程においては、農作業装置の植付動作を停止するとともに上昇動作により農作業装置とフロートとを植生盤面の上方の非作業高さ位置に保持して旋回走行に入り、機体が復行方向まで旋回すると農作業装置とフロートを下降するとともに同農作業装置を稼動することにより植付けを再開する。この一連の旋回操作を制御装置により機体の旋回動作と連動して自動処理することにより、オペレータの操作負担を軽減することができる。
【0004】
しかし、上記制御装置による一連の旋回自動処理においては、圃場の往復植え作業の終了とともに枕地植え作業に入った時に不適正に制御されて農作業装置が稼動することがあり、その結果、枕地の植付け作業の乱れを招くという問題があった。
【0005】
また、従来は、農作業装置である植付部の上下動作により、マーカの左右切替え制御を行っていたため、苗補給で植付部を上昇させた場合に反対側に切替わることがあり、枕処理では手動でマーカを「切」にする必要があり、その他、ハンドル操作では条合わせのために逆に操舵することもあるので動作が不安定である問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−335720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする問題点は、往復植付け走行から枕地の周回植付け作業に入った時に、不適正な農作業装置の稼動を回避できるように制御すると共に、マーカの作動精度上昇によって作業性が向上する農作業車を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、機体の旋回動作を検出する旋回検出手段により検出される旋回開始のタイミングと対応して農作業装置の停止と走行距離計の計測開始を指令し、その走行距離から判定される旋回完了による次行程の作業開始位置への到達によって上記農作業装置の稼動を指令する旋回制御を行う制御処理部を備える農作業車において、左右の後輪の回転数を検出する回転センサーに基づき、左右のマーカのうち回転数の多い側のマーカを出す制御を行うことを特徴とする農作業車とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、旋回完了と判定される走行距離に到達しなかった場合は、マーカを左右とも出さない制御を行うと共に、走行距離から判定される旋回制御の際の農作業装置を上昇させる前に、マーカを上昇させる制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の農作業車とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、農作業装置を植付部とした田植機であり、制御処理部は、農作業装置の稼動を指令する前に、走行クラッチの切断、畦クラッチレバーの操作、駐車ブレーキレバーの操作、苗減少センサの検出、肥料減少センサの検出、スロットルレバーのアイドリング操作、畦越えアームの操作又は予備苗台の移動があると、旋回制御を中止することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の農作業車とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、制御処理部は、作業開始位置への到達の上記判定までの間に、機体旋回のための操向動作を検出する操向動作検出手段に基づく操向の中断、又は農作業装置の駆動を検出する作業駆動検出手段に基づく農作業装置の駆動、又は農作業装置の手動操作を検出する手動操作検出手段に基づく農作業装置の手動操作、又は機体の方位を検出する方位センサ51に基づく旋回前との機体方位差が120度以下で且つ現在の方位変化が小さいことを条件に、前進操作又は農作業装置の下降操作した場合に、農作業装置の稼動を指令する枕地の旋回制御を行い、枕地の旋回制御時にはマーカを非作動状態にする構成とした請求項1から請求項3の何れか1項に記載の農作業車とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、枕地の旋回制御時に、フィンガレバーによる農作業装置の上昇操作があれば、ドライブシャフト回転数のカウントを開始し、該カウントが所定値に達するか又は該カウントが所定値に達するまでの間に前後傾斜角センサが機体の前上がり状態を検出すると、旋回制御を終了する構成とした請求項4に記載の農作業車とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によると、制御処理部により、機体旋回と対応する旋回動作距離の計測により旋回完了して次行程の作業開始位置に到達したことを判定すると農作業装置が稼動される。また、マーカの作動精度上昇によって作業性を向上することができる。
【0014】
請求項2に係る発明によると、請求項1に係る発明の効果に加えて、枕地作業に移行する際に、旋回制御が実行されることによる農作業装置の不適正な動作が規制されて枕地作業の乱れを回避することができると共に、旋回しながらマーカを上げたときの引きずりによってマーカが捩れる事態を防止できるので、マーカによる線引きが真直でオペレータが迷うことなく作業できるとともに、マーカの破損を防止することができる。
【0015】
請求項3に係る発明によると、請求項1又は請求項2に係る発明の効果に加えて、走行クラッチの切断、畦クラッチレバーの操作、駐車ブレーキレバーの操作、苗減少センサの検出、肥料減少センサの検出、スロットルレバーのアイドリング操作、畦越えアームの操作又は予備苗台の移動があると、旋回制御を中止することができる。
【0016】
請求項4に係る発明によると、請求項1から請求項3の何れか1項に係る発明の効果に加えて、枕地作業に移行する際に、旋回制御が実行されることによる農作業装置の不適正な動作が規制されて枕地作業の乱れを回避することができる。
【0017】
請求項5に係る発明によると、請求項1から請求項4の何れか1項に係る発明の効果に加えて、作業を終えて畦越えしながら圃場から退出するとき、あるいは植付部が上昇したままで所定距離以上走行する路上走行のように圃場での作業時とは異なる状態のとき、枕植処理を終了し制御開始状態に復帰することにより、次の圃場に移って作業を開始するときには作業条件に応じて旋回制御を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の対地作業機用制御装置を適用した田植機の側面図である。
【図2】ターン選択スイッチである。
【図3】「自動ターン」(a)、「バック付ターン」(b)、「枕地調節ターン」(c)の各旋回構成図である。
【図4】対地作業機用制御装置の入出力系統図である。
【図5】ターン制御の詳細フローチャートである。
【図6】ターン制御の詳細フローチャート(a)である。
【図7】ターン制御の詳細フローチャート(b)である。
【図8】図6における枕植についての処理Aの詳細なフローチャートである。
【図9】図8における植付けに関する処理Bの詳細なフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について、以下に図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の水田作業機の一例を図1の側面図に示す田植機について説明する。田植機1は、転向車輪2、2と後輪3、3とによって4輪駆動可能に機体を支持し、操舵ハンドル4、オペレータシート5、エンジン6、植付部(農作業装置)7のほか、各種機器を制御する不図示の制御装置を備える。
【0020】
植付部7は、機体後部に昇降部11を介して昇降可能に取付けた農作業装置であり、図示せぬ植付クラッチを介して機体の走行に合わせて多条植え動作するほか、植付け動作と連動して苗を順次送り出す送出部13、薬肥を吐出する施肥部14、均平用のフロート部15…等を備える。フロート部15は、作業部に対して傾斜検出可能に取付けられた平板状浮体であり、水田の植生盤面を均平整地するとともに、植生盤面の高さ位置を検出する。
【0021】
制御装置は、田植機1の運転台に配置した図2のターン切替スイッチ21の切替操作により、「バック付ターン」「自動ターン」「枕地調節ターン」の中から選択に応じたパターンの旋回処理を行うべく構成する。「自動ターン」は、図3(a)に示すように、旋回のためのハンドル操作に対応して植付を停止し、機体旋回に付帯して所定の手順で植付けを再開する旋回パターンであり、「バック付ターン」は、図3(b)に示すように、畦に近接した位置まで進んで停車するとともに植付けを停止し、その後の機体後進に続く機体旋回に付帯して植付けを再開するものであり、「枕地調節ターン」は、図3(c)に示すように、機体旋回の手前位置から植付けを停止してさらに前進し、続く機体旋回に付帯して植付けを再開するものである。
【0022】
制御装置において信号処理をする制御処理部22の入出力構成は、図4の系統図に示すように、旋回パターンを選択するための切替スイッチ21の操作信号のほか、各種のスイッチ、センサの信号を受け、また、機体走行と植付部作動用の各種機器のアクチュエータ類を制御する。具体的には、入力側には、植付け自動動作選択用の植始め自動切替スイッチ23、植付け動作指令用のフィンガーレバースイッチ23a、植付部7の自動上昇選択用の植付部上昇モードスイッチ24、変速操作検知用のHSTレバー位置センサ25、操舵操作検知用のハンドル切れ角センサ26、時間調節用のタイムラグ調節ダイヤル27、ブレーキ操作検知用のブレーキペダルセンサ28、作業部の下降タイミングを決めるn1設定ダイヤル29、機体軸線の方位を検出する方位センサ51、機体の前後傾斜を検出する前後傾斜角センサ52等を接続して信号を入力する。
【0023】
出力側には、昇降部11の油圧シリンダ11aを介して植付部7を昇降する電磁油圧バルブ11b、植付部7の植付け稼動用の植付クラッチ作動ソレノイド31、施肥機動作用の施肥クラッチ作動ソレノイド32、HSTレバー傾動用のHST用モータ33、後述のフロート部15の傾斜検出を固定制御するサイドフロートストッパソレノイド36、植付深さを調節するための植付深さモータ37、左右の電動マーカを動作させるマーカモータ61等を接続して各機器を制御する。
【0024】
n1設定ダイヤル29は、「標準」を中心に「早」から「遅」までの所定範囲内で調節可能なダイヤルであり、その指示と対応するドライブシャフトの回転距離n1が作業部の下降タイミングとして設定される。サイドフロートストッパソレノイド36は、サイドフロートの傾動を固定するストッパを進退駆動する。このサイドフロートストッパソレノイド36によってサイドフロートの傾斜を固定することにより、旋回途中の車輪跡を強制的に均平整地することができる。この均平整地のためのフロート固定動作は、植付部7が下降して植付動作を開始すると制御処理部22により解除され、以後は傾斜検出による昇降調節を行う。また、サイドフロートの支持部には上記植付深さモータ37を取付けて植付け深さを調節する。特に、旋回の後の直進する時に駆動反力が掛かり、機体が前上がりになることによって機体後部の植付部7が下がり、この植付部7による植付け深さが不適正になるので、植付け深さが浅くなるように制御する。
【0025】
上記制御処理部22による制御処理は、図5のフローチャートに示すように、各センサ値読込(S1)の後に、変速位置が植付速(S2)になり、かつ、ドライブシャフト回転数が所定値n3(S2a)になるまで待機する。この所定値n3は、圃場の直進距離と対応する回転距離であり、予め設定することにより、圃場端の畦際との接近を判定することができる。この条件判定により、マーカ非作動処理(S2b)の後、ターン選択用の切替スイッチ21をチェック(S3)し、「バック付ターン」「自動ターン」「枕地調節ターン」の中から選択に応じたパターンの旋回処理を行う。
【0026】
各旋回パターンについて詳細に説明すると、「バック付ターン」は、HSTレバー位置センサ25の信号によりHSTレバーが中立(S11)で、主クラッチが「切」(S12)でないことを条件に、すなわち、HSTレバーで走行停止がなされたときに植付部「上昇」と植付クラッチ「切」とを指令(S13)する。
【0027】
この場合、HSTレバーの中立検出によって旋回制御の感知精度を向上することができる。また、図示せぬ接触センサ等による畦検知センサを機体前端部に設け、畦の側面に最接近した時の検知信号によりレバー傾動装置33を介してHSTレバーを中立に戻し、自動停車するように構成することにより、畦との衝突を防止して位置決め精度を向上し、以降の制御精度を確保することができる。
【0028】
主クラッチ「切」の場合は、所定時間以上の停車継続を検出した場合を含め、旋回処理を中止することにより、植付け途中の異常停車等に対応することができる。この時は、オペレータが後進操作を行うことにより、「バック付ターン」の処理に復帰するように構成する。また、植付部「上昇」は、機体の後進動作の前に行われることから、機体後進とともに作業部を上昇する通常のバックリフト動作による機体後進の際に植付部7が上昇しきれずに表土に喰い込むという事態が回避されるので、フロート部15の破損を防止することができる。
【0029】
次いで、衝撃緩和のため所定時間の経過を挟んで所定距離後進(S14)する。この後進の際は、その時間的余裕により、走行方向切替によってオペレータが受けるショックを抑えるとともに、植付部7の上昇動作が遅い場合の表土への喰い込みを防止することができる。また、後進動作による車輪跡によって植え付け済みの圃場面が乱れ、植付けた苗を倒すことなく車輪跡を消すのは煩わしい手間を要するので、上記後進動作は、植え終わり位置までの範囲に規制する。
【0030】
所定時間の経過後に前進操作(S15)を待ってドライブシャフト回転による距離カウントを開始(S16)する。この前進操作に代えてHSTレバーの傾動指令によって機体を前進させるように構成することにより、操作性の向上を図ることができる。また、機体の前進開始までのタイムラグを設けることにより、オペレータが受けるショックを抑えることができ、さらに、タイムラグ調節ダイヤル27を設けることにより後進時と前進時について好みの時間に設定できるので、操作性を向上することができる。
【0031】
この前進開始に続く旋回のためのハンドル操作(S17)に応じて方位記憶処理(S18a,S18a)と後述の左または右の所定のターン制御(S18,S18)により、機体の旋回動作に付帯して所定位置から植付けを再開する。所定のターン制御(S18)は、左右共通のサブルーチン処理によるものであり、他の旋回パターンにも組み込み可能に構成する。
【0032】
このように制御処理する「バック付ターン」の処理は、植付け条数の少ない田植機を使用する場合において、圃場の往復植付け作業において畦に近接した位置まで植付けすることができるので、作業部の植付け幅に適合させるべく畦際部の周回植付け作業幅を小さくすることができる。なお、ブレーキペダルセンサ28の信号によって旋回処理の制御を中止するべく構成した場合には、異状に際して安全性を確保することができる。
【0033】
「自動ターン」は、旋回のための左右のハンドル操作(S21)に応じて上記同様に距離カウントを開始(S22,S22)するとともに、それぞれ、方位記憶処理(S18a,S18a)と対応するターン制御(S18,S18)により所定位置から植付けを再開する。また、「枕地調節ターン」は、植付「切」操作(S31)を条件として上記同様に距離カウントを開始(S32)して方位記憶処理(S18a)をし、前進を続行した後に旋回のためのハンドル操作(S33)に応じて方位記憶処理とターン制御(S18,S18)をすることにより所定位置から植付けを再開する。
【0034】
サブルーチン処理による左または右のターン制御処理の詳細は、図6および図7のフローチャートに示すように、植付部7の上昇モードスイッチ24をチェック(S41)し、上昇モードでない場合にドライブシャフト回転数チェック(S42)によって所定の旋回距離n1になるまで待った上で、センターフロートの昇降感度を「鈍感」に設定(S42a)し、かつ、サイドフロートソレノイド36を作動(S42b)してサイドフロートの傾斜検出を固定する。
【0035】
昇降感度は、表土が硬い場合に前上がり姿勢としてフロート部15のセンターフロートの後部の支点寄りに作用力を受けることにより、検出感度を抑えて鈍感とし、逆に、表土が軟らかい場合に前下がり姿勢としてセンターフロートの回動支点から離れた前部寄りに作用力を受けることにより、検出感度を上げて敏感とする。これらサイドとセンターのフロートの設定の後、後述の枕植についての処理A(S43)の後、植付部「下げ」を指令(S44)する。
【0036】
一方、上記チェック(S41)で上昇モードの場合は、植付部「上げ」を指令(S41a)し、この場合を含め、ドライブシャフト回転数チェック(S45)によって所定の旋回距離n2’になると、異常操作の判定のためのハンドル角度が規定値b(例えば180°)以上でないこと(S46)を条件に施肥クラッチ「入」を指令(S47)する。ハンドル角度のチェック(S46)の結果が規定値b以上であれば、警報出力(S46a)の上で処理を終了する。
【0037】
続いて、植始め自動切替スイッチ23のチェック(S48)により「入」の場合は、ドライブシャフト回転数チェック(S49)によって所定の旋回距離n2になるまでの間、主クラッチ「切」の警報出力(S49b)によって終了するように主クラッチ監視(S49a)までを繰り返す。また、植始め自動切替スイッチ23のチェック(S48)で「入」でないときはフィンガレバーの操作(S48a)を待つ。
【0038】
所定の旋回距離n2(S49)になった時、または、フィンガレバーの操作(S48a)が有った時は、昇降感度とサイドフロートストッパソレノイド36を元に戻し(S50a)て検出感度を上げ、直進植付けのために植付部7の昇降を調節制御し、かつ、植付深さモータ37を「浅」側に所定量作動(S50b)することにより、直進開始時の深植えを防止する。
【0039】
次いで、植付「入」、旋回外側のマーカ作動を指令(S50c)するとともにドライブシャフト回転カウントクリア(S51)により新たに直進距離カウントを開始する。このカウントにより、次のターン位置までの間でハンドル操作をしても、植付部7を上昇することなく植付け走行することができる。また、上記植付け開始時にタイマをセット(S52)し、機体が安定する所定時間のタイムアップ(S52a)を待って植付深さモータを元に戻す(S53)ことにより、所定の植付深さを維持しつつ処理を終了する。
【0040】
これらの一連の動作パターンに必要なすべての制御値、例えば、直進走行距離、直進走行方位、旋回時操向量、旋回時変速値は、エンジンキーを切っても記憶が維持され、その一方で全制御値をリセットするスイッチを設けることにより、田圃が変わった場合に新たな制御値の設定を可能に構成する。
【0041】
上述のように構成することにより、左または右のターン制御処理により、機体の旋回動作と連動して植付部7が対応動作することにより、旋回過程の整地を行うとともに、旋回終了後の直進によって植付けが再開される。
【0042】
上記において、枕植についての処理A(S43)の詳細は、図8のフローチャートに示すように、枕植モードスイッチ(S61)のオンチェックに該当せず、ハンドル角度(S62)が規定値a以上、フィンガレバーによる植付部の下降操作(S63)がなく、旋回前との機体方位差が120度以下で且つ現在の方位変化が小さくない条件(S64)、すなわち、所定の旋回動作に非該当であれば、枕植処理することなく元の処理を続行する。
【0043】
枕植モードスイッチ(S61)がオンの場合のほか、ハンドル角度(S62)が規定値a以上でない場合、また、上記S64の条件に該当し、タイマ処理(S65)でタイムアップの条件(S66)によるタイマ旋回が終了し所定時間維持されてタイマクリアし(S67)た場合に、(1)の枕植処理(S71〜S77)を開始する。
【0044】
この枕植処理は、マーカ非作動処理(S71)の下でHSTレバーによる後進操作とこれに続く前進操作(S72,S73)をした場合、または、フィンガレバーによる植付部の下降操作(S63,S72a)の場合に、植付部「下げ」、植付「入」、施肥クラッチ「入」(S74)、昇降感度を「鈍感」に設定(S75)、タイマクリア(S76)、植付けに関する所定の処理B(S77)までを一連に繰り返す。
【0045】
上記において、フィンガレバーによる植付部の下降操作(S72a)がない場合は、タイマ処理(S72b)により(1)から繰り返し、タイマアップ(S72c)した時は、警報出力、タイマクリア、ドライブシャフト回転カウントクリア(S81〜S83)により処理を終了する。
【0046】
上記植付けに関する処理B(S77)の詳細は、図9のフローチャートに示すように、ドライブシャフト回転カウントクリア(S91)した後、フィンガレバーによる植付部の上昇操作(S92)を待ってドライブシャフト回転カウント開始(S93)し、その回転数が所定値n4(S94)になるまでの間、前後傾斜角センサ値が「前上がり」(S95)でない場合に、フィンガレバーによる植付部の下降操作(S96)がされると、ドライブシャフト回転カウントクリア(S97)をして元の処理に戻る。
【0047】
上記S96の下降操作がされないときは再度上記S94から繰り返す。このS94により回転数が所定値n4(S94)になった場合、または、前後傾斜角センサ値が「前上がり」(S95)の場合は処理を終了する。これにより、一度、枕植処理(枕地での回り植えのための制御、処理A,B)に入るとターン制御に戻らない構成としているので、以降の枕地での回り植えにおいて農作業装置の誤作動を確実に防止できるとともに、作業を終えて畦越えしながら圃場から退出していることを機体の「前上がり」により検出(S95)して前記枕植処理(処理A,B)を終了し制御開始状態に復帰することにより、次の圃場に移って作業を開始するときには作業条件に応じてターン制御することができる。同様に、植付部が上昇したままで所定距離以上走行する路上走行のように圃場での作業時とは異なる状態を検出(S94)して前記枕植処理(処理A,B)を終了し制御開始状態に復帰することにより、次の圃場に移って作業を開始するときには作業条件に応じてターン制御を実行することができる。
【0048】
上述の処理手順による制御処理においては、90°旋回で植付部7を下降した場合(S63)に制御を停止処理することにより、不要な植付けを防止できる。この植付部7の下降に代えて、ハンドルの中立操作を基準とする場合や、後輪カウントや方位センサによる場合も同様である。この停止処理の後は、別の圃場に移動することにより制御が再開される。
【0049】
このように、制御処理部により、機体旋回完了までの間に、操向の中断、農作業装置の駆動、農作業装置の手動操作が検出されると、以降、ターン制御が停止されることから、旋回完了の判定基準を枕地作業用に設定することにより、枕地作業に移行する際の機体旋回が完了するまでの間に誤操作を含む異常作動があっても、農作業装置の不適正な動作が規制されて植付け済みの苗に対する障害を防止することができる。
【0050】
枕地の旋回制御では、90°の旋回の後、機体の後退動作(S72)に続く前進動作(S73)によって植付部を下降し、次いで植付け稼動(S74)することにより、枕地の回り植えが自動で制御されるので、作業性を向上することができる。また、枕地の旋回とともにオートマーカを自動的に切ること(S71)により、回り植えに不要なマーカ作動を禁止してその破損を回避することができる。この場合は、枕植えモードスイッチを設けてオートマーカを切替えるようにしてもよい。さらに、枕植えの際にフロート等による昇降感度を「鈍感」、すなわち、「硬」に切替える(S75)ことにより、機体旋回によって荒れている圃場の均平化を図ることができる。
【0051】
機体旋回の方向を認識できる地磁気等による方位センサを備えて、植付方向が、例えば、90度変更になったことの認識を時間で選択できるように設定タイマーを設け、所定時間の経過(S64〜S67)によって、旋回制御のオート機能(ターン制御)を自動解除できるように構成した場合は、従来のような旋回制御を終了するためのスイッチ操作を要することなく、旋回制御モードをクリアできるので、操作を簡易化することができる。この場合、タイマー設定をオペレータが任意に設定入力できるようにすることで、オペレータの個性に対応することができる。
【0052】
旋回制御の中止判定は、走行クラッチの切断(S49a)に基づいて処理することにより、誤動作を防止することができる。同様に、畦クラッチレバー操作、駐車ブレーキレバー操作、苗減少センサの検出信号、肥料減少センサの検出信号、スロットルレバーのアイドリング操作、畦越えアームの操作、予備苗台の移動等に基づいて処理することができる。
【0053】
マーカの制御は、旋回制御における後輪回転差及び回転数により、マーカの左右切替、及び、出入りを制御する(S50c)。具体的には、旋回終了後に、後輪支軸に設けた回転センサにより回転数の多い側のマーカを出すように制御する。また、枕処理で機体が180度旋回しなかった場合(内側後輪の回転数により判定され、旋回距離がn2に満たない場合)は、マーカは左右とも出さないように制御する。
【0054】
従来は、植付部の上下動作により、左右切替え制御を行っていたため、苗補給で植付部を上昇させた場合に反対側に切替わることがあり、また、枕処理では手動でマーカを「切」にする必要があった。その他、ハンドル操作では条合わせのために逆に操舵することもあるので動作が不安定であったが、上記構成によりそのような問題が解消され、伝動マーカの作動精度上昇によって作業性を向上することができる。
【0055】
また、旋回制御の際の植付部7を上げる前に、走行距離に基づいてマーカを上げる位置を制御(S2b)することにより、旋回しながらマーカを上げたときの引きずりによってマーカが捩れる事態を防止できるので、マーカによる線引きが真直でオペレータが迷うことなく作業できるとともに、マーカの破損を防止することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 田植機(農作業車)
2 転向車輪
3 後輪(走行距離計)
4 操舵ハンドル
7 植付部(農作業装置)
11 昇降部
22 制御処理部
23a フィンガーレバースイッチ(手動操作検出手段)
25 レバー位置センサ
26 切れ角センサ(操向動作検出手段)
31 植付クラッチ作動ソレノイド
51 方位センサ(旋回検出手段)
53 後輪伝動軸回転数センサ(旋回検出手段)
A、B 処理

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体の旋回動作を検出する旋回検出手段により検出される旋回開始のタイミングと対応して農作業装置の停止と走行距離計の計測開始を指令し、その走行距離から判定される旋回完了による次行程の作業開始位置への到達によって上記農作業装置の稼動を指令する旋回制御を行う制御処理部を備える農作業車において、左右の後輪の回転数を検出する回転センサーに基づき、左右のマーカのうち回転数の多い側のマーカを出す制御を行うことを特徴とする農作業車
【請求項2】
旋回完了と判定される走行距離に到達しなかった場合は、マーカを左右とも出さない制御を行うと共に、走行距離から判定される旋回制御の際の農作業装置を上昇させる前に、マーカを上昇させる制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の農作業車。
【請求項3】
農作業装置を植付部とした田植機であり、制御処理部は、農作業装置の稼動を指令する前に、走行クラッチの切断、畦クラッチレバーの操作、駐車ブレーキレバーの操作、苗減少センサの検出、肥料減少センサの検出、スロットルレバーのアイドリング操作、畦越えアームの操作又は予備苗台の移動があると、旋回制御を中止することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の農作業車。
【請求項4】
制御処理部は、作業開始位置への到達の上記判定までの間に、機体旋回のための操向動作を検出する操向動作検出手段に基づく操向の中断、又は農作業装置の駆動を検出する作業駆動検出手段に基づく農作業装置の駆動、又は農作業装置の手動操作を検出する手動操作検出手段に基づく農作業装置の手動操作、又は機体の方位を検出する方位センサ51に基づく旋回前との機体方位差が120度以下で且つ現在の方位変化が小さいことを条件に、前進操作又は農作業装置の下降操作した場合に、農作業装置の稼動を指令する枕地の旋回制御を行い、枕地の旋回制御時にはマーカを非作動状態にする構成とした請求項1から請求項3の何れか1項に記載の農作業車。
【請求項5】
枕地の旋回制御時に、フィンガレバーによる農作業装置の上昇操作があれば、ドライブシャフト回転数のカウントを開始し、該カウントが所定値に達するか又は該カウントが所定値に達するまでの間に前後傾斜角センサが機体の前上がり状態を検出すると、旋回制御を終了する構成とした請求項4に記載の農作業車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−187695(P2010−187695A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102283(P2010−102283)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【分割の表示】特願2004−160632(P2004−160632)の分割
【原出願日】平成16年5月31日(2004.5.31)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】