説明

農業用ポリプロピレンシート

【課題】 強度を損なうことなく、非常に軽量な農業用ポリプロピレンシートを提供すること。
【解決手段】 ポリプロピレンフィルムの層を少なくとも2層含むポリプロピレンフィルムベース層と、金属層と、ポリエチレンフィルム層とがこの順に積層された農業用ポリプロピレンシートであって、
(1)ポリプロピレンフィルムベース層の厚みが15〜25μmであり、
(2)金属層と接するポリプロピレンフィルムの層を層A1とし、ポリプロピレンフィルムベース層に含まれる、層A1以外の他の層のうち最も厚いポリプロピレンフィルムの層を層A2としたとき、層A1の厚みが0.3〜2μmであり、
(3)層A1が、融点が140〜159℃のポリプロピレン樹脂を含み、
(4)層A2が、融点が164〜168℃のポリプロピレン樹脂を含んでいる、
農業用ポリプロピレンシートとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフイン系樹脂からなる農業用シートに関するものであり、詳しくは、果実の熟成・色づきを促進する太陽光を反射する積層ポリオレフイン系農業用シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より農作物の栽培においては、種々の農業用プラスチックフィルムを利用して、農作物の品質向上と収量増加が図られてきた。
【0003】
このうち、光反射フイルムは地温の上昇、太陽光の反射を通じて、果実の色づき・収量を向上せんとするものであり、金属化フイルムをベースとして種々の構成が提案されている(特許文献1〜4)。このような金属化フイルムとしては、二軸延伸ポリプロピレンフイルムをベースとして、その表面に金属蒸着層を設けたフイルムが好ましく用いられている。
【0004】
こうした農業用シートでは敷設時の負担を低減する上で、シートの単位面積当たりの重量を軽減する(すなわち積層シートを薄膜化する)ことが求められるが、フイルムの強度の問題や層間接着力の制約から、例えば積層シートの基材となる二軸延伸ポリプロピレンフイルムの厚みは30μm程度であり、更なる薄膜化を進めることが困難であった。
【0005】
二軸延伸ポリプロピレンの剛性を向上する技術については、多くの技術が提案をされており、融点等を規定した樹脂を用いる方法が提案されている(特許文献5等)。
【0006】
しかしながら、これらの技術によると剛性は向上するものの、樹脂組成として特化したものとなり、農業用フイルムのように使い捨ての分野においては経済性が成り立たないという問題があった。
【特許文献1】実公昭57−23150号公報
【特許文献2】実開昭55−81031号公報
【特許文献3】実開昭57−174036号公報
【特許文献4】実開昭61−146147号公報
【特許文献5】特開2005−264151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、特定の層構成を備えることにより、強度を損なうことなく、非常に軽量な農業用ポリプロピレンシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明は、以下の構成からなる。
【0009】
ポリプロピレンフィルムの層を少なくとも2層含むポリプロピレンフィルムベース層と、金属層と、ポリエチレンフィルム層とがこの順に積層された農業用ポリプロピレンシートであって、
(1)ポリプロピレンフィルムベース層の厚みが15〜25μmであり、
(2)金属層と接するポリプロピレンフィルムの層を層A1とし、ポリプロピレンフィルムベース層に含まれる、層A1以外の他の層のうち最も厚いポリプロピレンフィルムの層を層A2としたとき、層A1の厚みが0.3〜2μmであり、
(3)層A1が、融点が140〜159℃のポリプロピレン樹脂を含み、
(4)層A2が、融点が164〜168℃のポリプロピレン樹脂を含んでいる、
農業用ポリプロピレンシート。
【発明の効果】
【0010】
本発明の農業用ポリプロピレンシートは、改良されたポリプロピレンフィルムベース層を基材フイルムとして用いることで以下の効果を有する。
1.ポリプロピレンフイルムを薄膜化でき、積層シートが軽量化できる。また、蒸着加工工程でより長尺のフイルムを加工できるために、製造コストを低減できる。
【0011】
2.2軸延伸フイルムの回収材を活用できるために、総合的な廃棄にかかる、環境負荷・コストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明の農業用ポリプロピレンシート(以下、本発明シート)を詳細に説明する。
【0013】
本発明シートは、ポリプロピレンフィルムの層を少なくとも2層含むポリプロピレンフィルムベース層と、金属層と、ポリエチレンフィルム層とがこの順に積層された積層構造を有している。
【0014】
ポリプロピレンフイルムベース層の厚みは、フイルムの腰が求められるために15μm以上の厚いフイルムが好ましく用いられ、また、経済上の理由で25μm以下が好ましい。すなわち、ポリプロピレンフィルムベース層の厚みは15〜25μmであることが好ましく、より好ましくは18〜23μmである。
【0015】
また、ポリプロピレンフィルムベース層は、金属層と接するポリプロピレンフィルムの層(以下、層A1という)と、ポリプロピレンフィルムベース層に含まれる、層A1以外の他の層のうち最も厚いポリプロピレンフィルムの層(以下、層A2という)の少なくとも2層を含んでいる。
【0016】
本発明フイルムは、上述のように層A1と層A2との少なくとも2層からなることを特徴とするものであるが、新たに層A3を設けて、層A1/層A2/層A3の3層構成とすることも可能であり、その用途に応じて適宜層構成を選択することができる。具体的に、層A3を設けた場合の該層A3の構成としては、層A1の樹脂をそのまま使用することもできるし、エチレンプロピレンブテン3元共重合体としてヒートシール層として活用する構成、エチレンプロピレンのブロック共重合体を用いてマット層として活用する構成等も例示される。
【0017】
金属層と層A1との積層方法としては、接着剤を使用する方法、スパッターによる方法、蒸着による方等が可能であるが、経済性、接着強度等を考慮すると蒸着による方法が好ましい。
【0018】
層A1は金属蒸着層との密着性を向上させる機能を有することが好ましく、層の厚みは0.3〜2μmであることが好ましく、積層の均一性を考慮すると層A1の厚みは、0.5〜2μmであることが好ましい。
【0019】
該層A1は、融点が140〜159℃のポリプロピレン樹脂を含むことが重要であり、好ましくは148〜156℃である。融点が140℃未満であると本発明フイルムの2軸延伸工程でフィルム表面が粗面化することにより、表面平滑性が損なわれて蒸着した際に光沢度が低下する恐れがある。一方融点が159℃を超えると金属層との密着力が低下する恐れがある。また、該ポリプロピレン樹脂はその効果を活かす観点から、層A1の51〜100質量%を占めることが好ましい。本発明においては、エチレンプロピレンブテン3元共重合体、エチレンプロピレン共重合体等も該ポリプロピレン樹脂に含まれる。上記範囲の融点を有するポリプロピレン樹脂を得るために、プロピレンにエチレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4メチルペンテン−1等のαオレフインから選ばれた少なくとも一種のコモノマー成分を総量で0.5〜4モル%をランダムに共重合する方法が好ましく、特に共重合量は1〜3モル%であることが好ましい。また、コモノマーとしては、エチレン、ブテン−1の少なくともいずれかであると経済性に優れるので好ましい。
【0020】
また、該ポリプロピレン樹脂は100〜130℃の溶融結晶化ピークを有することが好ましく、好ましくは100〜125℃である。該溶融結晶化ピークが100℃未満であると該層A1表面のフイルムの耐熱性に劣り、フィルム表面が粗面化することにより、蒸着層の光沢度が低下する恐れがある。一方、溶融結晶化ピークが130℃を超えると延伸時の均一性に劣り、厚み斑が大きくなる等の問題を生じる可能性がある。溶融結晶化ピークを上述の範囲とするためには、たとえば、以下の技術を適用することで達成が可能である。すなわち、ソルビトール誘導体のようにポリマー中でネットワークを形成してポリマーの運動性を低下させる機能を有する成分を溶融分散させる方法、タルクのようなフィラー類を添加する方法、キナクリドン類のように特定の顔料を含有せしめる方法等である。しかしながら、本発明においては、ポリエチレン、ポリ−3−メチルブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1等のαオレフイン類であってその溶融結晶化ピークが110℃以上のポリオレフイン樹脂を該ポリプロピレン樹脂に分散するよう添加することが好ましい。このような高融点のポリオレフイン類を分散させる方法としては、それぞれの樹脂を別々の製造装置で重合し、パウダーあるいはペレット形状としておき、再度押出機で溶融混練する方法、ポリプロピレンの重合工程に置いて、該溶融結晶化ピークを有するポリオレフインを前重合する等の技術が例示されるが、特に重合工程で分散させる方法が分散性に優れかつ溶融結晶化ピークの制御が容易となるので好ましい。もちろん、別な方法として該溶融結晶化ピークを有するポリオレフインを重合工程で分散させたポリプロピレン系樹脂をマスター樹脂として、ポリプロピレン系共重合体と溶融混練する方法も適用できる。この場合、樹脂組成のコントロールが容易となると同時に経済性にも優れるので好ましい。
【0021】
以上の溶融結晶化ピークを有する樹脂の層A1中の含有量は300〜10,000ppm(質量基準)としておくことが、接着性と表面光沢度のバランスに優れるので好ましく、更に好ましくは500〜5,000ppm(質量基準)である。
該層A1には、ポリプロピレン樹脂の劣化を防止するために公知の熱安定剤、酸化防止剤等を含有せしめることができ、更に触媒残査として残留する塩素を中和するためにステアリン酸カルシウム、エルカ酸カルシウム等の金属石鹸、ハイドロタルサイト類を塩素捕獲剤として含有せしめることができる。特に塩素捕獲剤としてはハイドロタルサイト類に例示される無機塩を含有せしめるとフイルム中の異物発生を低減できるので好ましい。
【0022】
また、フイルムの滑り性を良好にし、加工適性を向上する目的で、その平均粒子径が0.5〜5μmの酸化珪素、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン等の無機粒子、ポリメチルメタアクリレート、ベンゾグアナミン、ポリスチレン等の有機粒子等を含有せしめることができる。含有量としては300〜3,000ppm(質量基準)であると滑り性を良好として透明性を損なうことが少ないので好ましく、特に好ましくは500〜2,000ppm(質量基準)である。
【0023】
次いで、該層A1表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数比(O/C)は0.2〜0.4であることが好ましく、より好ましくは、0.22〜0.39である。また、更に窒素原子も存在していることが接着性を向上する上で好ましく、窒素(N)と炭素(C)の原子数比(N/C)が0.01〜0.08であることが好ましく、さらに好ましくは0.02〜0.06である。
【0024】
このように酸素原子及び/又は窒素原子が結合した結果として、該樹脂層表面にはカルボニル基、カルボキシル基、アミノ基、等の有極性基が形成され、表面エネルギーが上昇する。該表面エネルギーはいわゆる濡れ指数で評価した場合には、通常のポリプロピレンフイルムの表面が31mN/m程度であるのに対して、37〜56mN/m、好ましくは40〜56mN/m程度に高めることができる。
【0025】
このような酸素及び窒素原子を炭素原子と結合せしめる方法としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理等が例示されるが、特にコロナ処理が経済性に優れるので好ましい。この場合、コロナ処理は通常の大気中でも可能であるが、前述の樹脂の劣化を防止するために不活性ガス雰囲気で処理することが好ましく、希ガス、窒素ガス、炭酸ガス等のガスで空気を置換して処理することが好ましいが、コスト、効果の面から窒素ガス、炭酸ガスがより好ましい。特に雰囲気の酸素濃度が5容積%を超えると酸化による樹脂の劣化が促進するため、5容積%以下に抑制することが好ましい。また、雰囲気ガスの好ましい組成としては窒素ガスを80〜97容積%、炭酸ガスを3〜20容積%とした組成であると蒸着金属との接着性が良好となるので好ましい。
【0026】
該層A2は、融点が164〜168℃のポリプロピレン樹脂(以下HPPという)を含むことが重要であり、好ましくは165〜167℃である。HPP融点が164℃未満であると本発明フイルムの2軸延伸工程でフィルム表面が粗面化することにより、光沢度(グロス)が低下する恐れやフイルムの剛性が低下する恐れががある。一方融点が168℃を超えると延伸性が低下する恐れがある。また、該ポリプロピレン樹脂はその効果を活かす観点から、層A2の30質量%以上を占めることが好ましく、さらに好ましくは40〜70質量%である。
【0027】
本発明において、特に好ましい態様としては、層A2が該HPPと、MFRが0.5〜3g/10分、融点が157〜163℃のポリプロピレン樹脂(以下LPP)とを含んでいることである。
【0028】
このようにすると、延伸性が良好となるばかりか剛性も向上するので好ましい。上記組成をとる場合にはHPPのMFRは4〜10g/10分、5〜8g/10分としておくと、剛性が向上するので好ましい。また、さらにHPPの分子量分布の分散指数(Mw/Mn)は5以下であると好ましく、特に好ましくは4以下である。さらに、LPPの冷キシレン可溶部(CXS)が3〜7質量%であることも好ましい。
【0029】
上述のHPP樹脂はプロピレンを出発原料として公知の重合プロセスにより製造することも可能であるが、所定のポリプロピレン樹脂からなるキャパシターフイルム等の回収材料を用いることができる。
【0030】
当該層A2には樹脂の安定性を付与するため公知の熱安定剤、酸化防止剤、塩素捕獲剤等を含有せしめることができる。塩素捕獲剤については前述の通り、ハイドロタルサイト類が異物の発生が少なく好ましく用いられる。また、滑り性を付与する目的で、前述したA1層の場合と同種の、有機及び/又は無機の粒子を300〜5,000ppm(質量基準)含有せしめると好ましく、特に好ましくは800〜3,000ppm(質量基準)であることが好ましい。
【0031】
次いで、本発明シートを構成する金属層について説明する。
【0032】
金属層と層A1との積層方法としては、接着剤、スパッター、蒸着等が可能であるが、経済性、接着強度等を考慮すると蒸着が好ましいため、その方法について説明する。
【0033】
蒸着される金属種としては金属蒸気化ないしはクラスターイオン化して、減圧雰囲気中をとばすことができるものであれば特に限定されるものではなく、その目的に応じて適宜選択すればよい。例えば、アルミニウム、亜鉛、銅、ニッケル、クロム、錫、鉄、金、銀等が例示され、更にこれらの2元またはそれ以上を混合あるいは積層して蒸着することができる。また、これらの金属種はフイルム表面に金属層を形成する際に、あるいは金属層が形成された後に、その一部または全てが酸化されていてもよいし、シリコーン化合物が含まれていてもよい。金属のみを蒸着した場合でも該金属蒸着膜のフイルム表面側もその反対側も金属酸化層が形成されるのが通常である。本発明シートにおいては形成される金属層(金属蒸着層)の厚みは200〜700オングストロームであることが好ましい。金属層の厚みが200オングストローム未満であると充分な表面光沢が得難くなる。一方、700オングストロームを超えると金属層とフイルム層間のストレスが大きくなり、蒸着密着力が低下したり、経済性の点で不利になることがある。
【0034】
また、本発明シートを農業用シートに使用する場合は、該金属はアルミニウムであることが耐久性と経済性の点で優れている。
【0035】
アルミニウムを金属層としてフイルム表面に形成するためには、通常、減圧雰囲気下でアルミニウムを加熱・蒸着せしめフイルム表面で密着させる真空蒸着技術が用いられる。
【0036】
真空蒸着法としては、ロール状に巻かれたフイルムを減圧槽内に設置して蒸着を行うバッチ式蒸着法、フイルムロールを大気中から多段に設置されたニップロール間を通過させながら次第に減圧して蒸着する連続式蒸着法等が例示されるが、以下でより一般的なバッチ式蒸着法について説明する。
【0037】
バッチ式蒸着法では、蒸着加工を施すフイルムをロール状としたものを、真空蒸着装置内に設置して、1.33Pa以下の減圧下で巻きだし、−10〜−40℃程度に冷却されたクーリングドラムに密着させながら、アルミニウム蒸発源から金属蒸気を発生せしめ、該クーリングドラム上にあるフイルム表面で凝着せしめ、別な巻き取り軸で巻き取る。
【0038】
この際に単位時間の金属蒸発量と蒸着付着効率並びにフイルムの搬送速度で金属層の厚みをコントロールすることができる。該金属蒸着前後で適宜、グロー処理等の表面処理を適宜組み合わせることができるし、他の金属及び/または金属酸化物・シリコーン化合物を連続して、あるいは混合して蒸着することも可能である。
【0039】
該金属蒸発源としては、導電性セラミックス製のボートに電流を流し加熱せしめ、そのボート上にワイアー状の金属を連続的にフィードするワイアーフィード方式、坩堝中に金属塊を投入して、該坩堝または金属そのものを誘導加熱または電子ビーム等で加熱蒸発させる方法等が例示される。求められる品位、コストに応じていずれの蒸発源も随時選定することができる。
【0040】
次いで、本発明シートを構成するポリエチレンフィルム層について説明する。
【0041】
本発明に用いるポリエチレンフィルム層を構成する樹脂のMFR(メルトフローレイト)は0.05〜0.7g/10minであることが好ましく、密度は930〜980kg/mであることが、シートの剛性、均一性を良好とする上で好ましい。より好ましくはMFRが0.05〜0.5g/10min、さらには0.05〜0.35g/10minである。また、密度は940〜970kg/mであることがより好ましく、さらに好ましくは943〜963kg/mである。厚みは100〜1,000μmであることが好ましく、より好ましくは150〜350μmである。
【0042】
本発明に用いるポリエチレンフィルム層はインフレーション法やTダイ法等の公知の成形加工法を用いて成形される。また、必要に応じ共押出あるいはラミネーション等の公知の技術により少なくとも片面に樹脂層を積層して2層以上の多層としても構わないし、防曇塗布剤や防塵塗布剤等を塗布・乾燥し、表面に塗布膜を形成しても構わない。
【0043】
次いで、本発明シートの製造方法について以下に説明するが、もちろん、これに限定されるものではない。
【0044】
本発明ポリプロピレンフイルムベース層は基本的に2軸延伸を施されて製造されることが好ましい。延伸が施されていないフイルムの場合、シート成型時に形成された球晶構造により透明性に劣るばかりか、機械特性に劣るものともなる。
【0045】
2軸延伸方法としては、フラットダイ法に基づく逐次2軸延伸法、同時2軸延伸法、円形ダイ法に基づくチューブラー(バブル)法が例示されるが、フイルムの厚み均一性に優れるフラットダイ法が好ましく用いられる。以下逐次2軸延伸法による製造方法を説明する。金属蒸着層の接着性を付与する層A1の樹脂と基層を形成する層A2の樹脂とをそれぞれ別の押出機に導き、溶融混練し均一な溶融体とする。次いでそれぞれの樹脂をポリマーフィルターを通過せしめ異物等を除去した後に、層A1と層A2とを積層体とならしめる合流装置にて層A1/層A2の積層シートを形成する。これら層A1と層A2はそれぞれ、本発明のフィルムの層A1と層A2を構成することになる。該合流装置はポリマー管同士を結合し口金に導いてシート成形する方法、フィードブロックにて合流させシート成形する方法、あるいはマルチマニホールドタイプの口金で結合する方法であってもいずれでも構わないが、マルチマニホールドタイプの口金よると樹脂を幅方向に拡幅した後に積層するために樹脂の積層比の均一性が優れるので好ましい。もちろん、該積層工程において、第3あるいはそれ以上の樹脂を準備しておき3層以上の層構成とすることができる。
【0046】
次いで上記のようにして得られた溶融シートを冷却ドラム上に導いて、エアー圧で密着させて冷却固化させる。この際に冷却を充分に行うことで引き続く延伸時の延伸張力を低減せしめ均一な延伸フイルムを得ることができるので好ましく、シートを冷却ドラムに密着させた後に直ちに水槽に導いて冷却する方法、水を霧吹き状にして空気側のフイルム表面を冷却するする方法等の様々な冷却手段を講じることができる。
【0047】
以上の方法により得られた未延伸シートは複数の加熱ロールに順次接触させフイルム温度を130〜160℃とした後に少なくとも1対の周速差が異なるロール間で長手方向に3〜6倍に延伸する。次いで、該一軸延伸フイルムの両端部をクリップで把持して、熱風オーブンに導いて150〜180℃に予熱して該クリップ間を広げ幅方向に7〜12倍に延伸し、引き続き幅方向に0〜10%のリラックスを許しながら熱固定する。
【0048】
以上により2軸延伸されたフイルムの表面にコロナ放電処理を施し、クリップ把持部分をトリミングして巻き取る。コロナ放電処理については空気雰囲気で行ってもよいが、窒素ガス雰囲気下、又は窒素ガス/炭酸ガス雰囲気下で処理を施すと接着効果が向上するので好ましい。
【0049】
また、使用方法に応じて上記フィルムベース層には、各種の耐候安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐電防止剤、ブロッキング防止剤、滑剤、無機充剤、保温剤、殺菌剤、防カビ剤、防藻剤、除草剤、殺虫剤、昆虫忌避剤を添加することがある。
【0050】
さらに、本発明の農業用ポリプロピレンシートの長手方向(MD方向)のF5値は、65〜85N/mmであることが好ましく、より好ましくは70〜85N/mm、さらに好ましくは75〜85N/mmである。MD方向のF5値が65N/mmを下回る場合は、施工性(ハンドリング性)が悪くなるため、農業用シートとして使用するためには、厚みを厚くせざるを得ず、結局重量が増加して使用しずらいものとなる。
【0051】
本発明フィルムは、特に種々の農業用途に好適に用いることができる。特に、マルチングなど農業用途に用いることが好ましく、この場合に適用される農作物としては、特に限定されるものはないが、具体的には例えば、かき、もも、すもも、おうとう、りんご、なし、ぶどう、キウイ、イチジク、メロン、トマト、すいか、うり、いちご等が挙げられる。
【実施例】
【0052】
以下に実施例に基づき、本発明シートの好ましい態様について具体的に説明する。
本発明における特性値の測定方法、並びに効果の評価方法は次のとおりである。
【0053】
(1)融点(Tm)、溶融結晶化ピーク(Tmc)(℃)
セイコー社製RDC220示差走査熱量計を用いて、以下の条件で5回の測定を行い、その内の最大値と最小値の2点を除いた残り3点の平均値をTm、Tmcとした。
【0054】
<試料の調製>
検体として4±1mgを測定用のアルミパンに封入する。
【0055】
<測定>
以下の(a)→(b)→(c)のステップでフィルムを溶融・再結晶・再溶融させる。
【0056】
(a)溶融(1st Run):30℃→280℃(昇温速度20℃/分)
(b)再結晶化 :280℃で5分保持後に20℃/分で 30℃まで冷却
(c)再溶融(2nd Run):30℃→280℃(昇温速度20℃/分)
この際に、2nd Runで観測される融解に伴う吸熱ピーク温度をTmとし、該ピーク値が複数ある場合は最もピーク面積が大きいピークをTmとして採用する。
【0057】
また、Tmcは再結晶化の際に観測される結晶化に伴う発熱ピーク温度をTmcとして、該ピーク値が複数ある場合は最もピーク面積が大きいピークをTmcとして採用する。
【0058】
(2)フィルム厚さ
JIS C−2330(2001)の7.4.1.1.により、平均フィルム厚さを求めた。フィルム厚みは1枚で測定し、10点の平均値とした。
【0059】
(3)フイルムの厚み構成および金属蒸着層の厚み
フィルムの断面を透過型電子顕微鏡(TEM)にて以下の条件で写真撮影し、フィルムの厚み構成および金属蒸着層の厚みを測定した。
【0060】
装置:日本電子(株)製JEM−1200EX
観察倍率:フイルムの厚み構成の場合1,000倍
金属蒸着層の厚みの場合40万倍
加速電圧:100kV
(4)濡れ指数
ホルムアルデヒドとエチレングリコールモノエーテルとの混合液を用いて、JIS K 6768(1999)に準じて測定した。(単位:mN/m)。
【0061】
(5)蒸着密着力
金属アルミニウムをその厚みが500±50オングストローム(光学濃度(OD)換算2±0.2)となるようにフイルム表面蒸着したものをサンプルとした。該サンプルに日東電工(株)製ポリエステル粘着テープNO.31Bを4.2mN/mmの圧力で貼付し、剥離した。
【0062】
金属がフィルムに付着残存していた面積を求め、以下5段階の級別評価を行った。
【0063】
4級、5級であれば問題なく使用できるが、1級、2級では実用上問題を生じる。
【0064】
5級:残存面積90%以上
4級:残存面積75%以上90%未満
3級:残存面積50%以上75%未満
2級:残存面積25%以上50%未満
1級:残存面積25%未満
(6)F5値(N/mm)
JIS K7128(1998)に従い測定した。具体的には、25℃、65%RH環境下にて24時間保管したフィルムからサンプル(測定方向:150mm、測定方向と直角の方向:1cmのサイズ)を切り出した。(株)オリエンテック製のフィルム強伸度測定装置(AMF/RTA−100)を用いて、25℃、65%RH環境下にて、原長50mm、引張り速度300mm/分で伸張して測定した。
【0065】
測定方向はフイルム長手方向(MD)または幅方向(TD)とし、5%引っ張り時の引張り強度をサンプル幅で除し単位幅(mm)あたりの強度(N/mm)で表した。フイルム長手方向のF5値が65N/mm以上であると剛性に優れ施工性等が向上するので好ましい。
【0066】
(7)MFR(メルトフローレイト)
JIS K−7210(1999)7.4.2.により測定した。
【0067】
(8)フィルム表面の炭素原子数に対する酸素原子数の割合(O/C)、および窒素原子数の割合(N/C)
国際電気株式会社製のESCAスペクトロメーターES200型を用い、次の条件でフィルム表面を測定した。励起X線:AlKα線(1486.6eV)、X線出力:10kV、20mA、温度:20℃、運動エネルギー補正:中性炭素(−CH−)の運動エネルギー値を1202.0eVに合わせた。得られたエネルギー値から、C1sのピークとO1sのピークの面積の比を、O/Cとし、またC1sのピークとN1sのピークの面積の比を、N/Cとした。
【0068】
(9)粒子の平均粒径
電子顕微鏡(SEM)を用いてフィルム断面構成観察を行い、粒子の平均粒径を測定した。粒子の平均粒径としては、SEMでの観察画面中の粒子100個の長径を測定し、その平均値を平均粒径とした。
【0069】
(10)冷キシレン可溶分(CXS)
試料10gを沸騰キシレン1,000mlに溶解した後、50℃まで徐冷し、次いで氷水に浸し攪拌しながら20℃まで冷却し、20℃で一晩放置した後、析出したポリマーを濾別し、濾液からキシレンを蒸発させ、60℃で減圧乾燥して20℃のキシレンに可溶なポリマーを回収し、その質量を測定して求めた。
【0070】
(11)光沢度(グロス)
JIS−Z8741(1997)に従い測定した。
【0071】
(実験例)
フイルム層構成としては、2層のポリプロピレン系樹脂層からなるフイルムを製膜して特性評価を行う。
【0072】
2軸混練機で所定の含有量となるように練り込んだ。
【0073】
これらの樹脂は、それぞれ単軸押出機2台(バレル径65mmφ:Ex1、30mmφ:Ex2、30mmφ)を用いて溶融押出し、層A1/層A2の2層のからなる樹脂シートを形成できるマルチマニホールドダイに導いてシート状に押出す。該ダイより吐出した溶融シートは30℃に設定した冷却ドラムにエアー圧で密着させ冷却固化した後に6本の加熱ロール群で所定の温度に予熱した後に1対の周速差を設けたロール間で所定の倍率に長手方向に延伸した。次いで該延伸フィルムをクリップで把持して熱風オーブンに導いて所定の温度に予熱した後に幅方向に所定の倍率に延伸し、5%のリラックスをとって熱固定した。こうして得られた2軸延伸フイルムを空気中でコロナ放電処理し、エッジを取り除きロール状に巻き取った。尚、コロナ放電処理をする際の条件は、以下のように設定した。
【0074】
雰囲気:窒素ガス90容積%+炭酸ガス10容積%
フィルム温度:60℃
処理強度:23W/m/min
こうして得られた2軸延伸ポリプロピレンフイルムを坩堝式蒸着機にて金属アルミニウムを膜厚が500オングストロームを中心値として±50オングストロームとなるように蒸着して特性評価を行なった。
【0075】
以下、実施、比較例に基づいて、本発明について説明する。
【0076】
(実施例1〜3・比較例1〜2)
層A1の樹脂として、エチレンが2質量%含まれるエチレンプロピレン共重合体(MFR=4g/10分、融点154℃)、層A2の樹脂として住友化学製FS2016(MFR=2,融点162℃、CXS=4質量%)と東レ(株)製“トレファンBO”#7D−2172のフイルムを再溶融してペレット化した樹脂(MFR=6g/10分、融点167℃)とを50:50の質量比率でチップブレンドした樹脂を準備した。
【0077】
これらの樹脂を上述の方法で層A1/層A2からなる2軸延伸フイルムを得た。この際に層A1の厚みは0.1μm(比較例1)、0.3μm(実施例1)、1μm(実施例2)、2μm(実施例3)、2.5μm(比較例2)と変更した。いずれも、全厚み(A1+A2の厚み)は20μmに固定し、コロナ放電処理は層A1の表面に施し、濡れ指数は50mN/mであった。
【0078】
結果を表1に示すが、実施例1〜3ではアルミ蒸着接着力、光沢度(グロス)に優れた蒸着フイルムが得られた。
【0079】
また、いずれの実施例についてもMDのF5値が75N/mm以上高く、施工性に優れていた。一方、比較例2ではMDのF5値が63.3N/mmと低く、このままでは施工性に劣り、施工性を改善する上でフイルム厚みを厚くすることが望ましく、シート重量が増加することが避けられないものとなった。
【0080】
【表1】

【0081】
(実施例4、比較例3)
実施例2において、層A2に用いる樹脂として東レ(株)製“トレファンBO”#7D−YK57のフイルムから得られた再溶融ペレット(MFR=5g/10分、融点164℃)を用いた以外は同様にして二軸延伸フイルムを得た(実施例4)。また、実施例2において、A2層に再溶融ペレットを添加せずに同様に製膜しフイルムを得た(比較例3)。
【0082】
この結果、HPPの融点がやや低下することでF5値が低下し、無添加の場合は、F5値が低くなることが確認された(表2参照)
【0083】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明により得られるポリプロピレンフイルムは金属蒸着層との密着性に優れることから、農業用シートとして好ましく用いられるが、食品包装用資材、梱包用資材としても使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレンフィルムの層を少なくとも2層含むポリプロピレンフィルムベース層と、金属層と、ポリエチレンフィルム層とがこの順に積層された農業用ポリプロピレンシートであって、
(1)ポリプロピレンフィルムベース層の厚みが15〜25μmであり、
(2)金属層と接するポリプロピレンフィルムの層を層A1とし、ポリプロピレンフィルムベース層に含まれる、層A1以外の他の層のうち最も厚いポリプロピレンフィルムの層を層A2としたとき、層A1の厚みが0.3〜2μmであり、
(3)層A1が、融点が140〜159℃のポリプロピレン樹脂を含み、
(4)層A2が、融点が164〜168℃のポリプロピレン樹脂を含んでいる、
農業用ポリプロピレンシート。
【請求項2】
層A2が、MFRが0.5〜3g/10分であり融点が157〜163℃のポリプロピレン樹脂と、融点が164〜168℃のポリプロピレン樹脂とを含む、請求項1に記載の農業用ポリプロピレンシート。
【請求項3】
金属層の厚みが200〜700オングストロームである、請求項1に記載の農業用ポリプロピレンシート。

【公開番号】特開2009−112254(P2009−112254A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289292(P2007−289292)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】