説明

農業用ロボット装置

【課題】ハウスの構造を変更することなく、ハウス内で連続的に長時間運用ができる農業用ロボットを提供する。
【解決手段】直線方向に移動が可能な移動機構を具備した台車4に、電力により稼働する作業機構5と、該移動機構及び該作業機構に電力を供給するための電源ケーブル6を収納した電源ドラム7と、前記電源ケーブルを前記電源ドラムから繰り出しまたは巻き取り動作と前記移動機構の動作を連動して移動を行う制御装置8とを搭載した農業用ロボットAと、該農業用ロボットを搭載して、上記台車の直線方向と交差する方向に往復動する移動台車Bとを連接した農業用ロボット装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施設園芸(ビニールハウス、グリーンハウス、温室など以下ハウスという)内で連続的に使用できる電動農業用ロボット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来ハウス内の農作業は人手により行われる事が多かった。しかし、過大な労働負荷を農業従事者に与えるため、農作業の一部を代行する農業用ロボットの開発が望まれていた。
ハウス内で農業用ロボットを用いて農薬散布や収穫作業を行う場合、作業効率を上げるため、農業用ロボットを長時間連続的に動かす事が要求されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-317363公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】農業ロボット(1)基礎と理論 ISBN: 9784339052152
【非特許文献2】農業ロボット(2)機構と事例 ISBN: 9784339052169
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ハウス外で使用する農業用機械や農業用ロボットではエンジンや発電機を搭載し長時間運用する事が可能であるが、ハウス内で使用する農業用ロボットは排気ガスの影響があるため、エンジンや発電機を搭載することが難しい。これまで、いちごやトマトなど高設栽培や水耕栽培が行える農作物では、圃場床面をコンクリートで覆い、電源供給が可能なレールもしくはロボット本体に電池を搭載して駆動する農業用ロボットが開発されている(非特許文献1、非特許文献2)。しかし、土壌が必要な農作物の場合は圃場床面をコンクリートで覆うことができず、電源供給が可能なレールを設置する事は難しい。また、電池をロボット本体に搭載する場合は、十分な容量の電池を搭載する事が難しく、充電時間若しくは電池の交換作業時間が必要であるため、長時間連続的に動かす農業用ロボットを実現する事は困難であった。
【0006】
ハウス内で薬剤を散布するために作物畝の上方に架設された複数の縦レールに懸架されて移動しながら薬剤を自動散布する装置の発明(特許文献1)があるが、作物畝の上方に設置するレール及び薬剤散布装置の全重量をハウスの構造材で支える必要があり、ハウスの構造や強度の問題から、従来使用しているハウスを使えないという欠点があった。
【0007】
本発明は、ハウスの構造を変更することなく、ハウス内で連続的に長時間運用ができる農業用ロボットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するために、本発明1は直線方向に移動が可能な移動機構を具備した台車に、電力により稼働する作業機構と、該作業機構に電力を供給するための電源ケーブルを収納した電源ドラムと、前記電源ケーブルを前記電源ドラムから繰り出しまたは巻き取り動作と前記移動機構の動作を連動して移動を行う制御装置とを搭載した農業用ロボットと、該農業用ロボットを搭載して、上記台車の直線方向と直行する方向に往復動する移動台車とを連接してなることを特徴とする農業用ロボット装置である。
【0009】
発明2は、発明1の農業用ロボット装置において、台車を2台以上に分割した構成とし、それぞれの台車を連結して使用する事を特徴とする農業用ロボット装置である。
【0010】
発明3は、発明1の農業用ロボット装置、若しくは、発明2の農業用ロボット装置の電源ドラムに、電源ケーブルの張力を検出する装置を搭載し、前記電源ケーブル張力検出装置から取得される張力に応じて電源ドラムを回転させることにより電源ケーブル張力を調整する機構を搭載した農業用ロボット装置である。

【発明の効果】
【0011】
本発明により農業用ロボットに電源ケーブルを通して電力を供給できるため、農業用ロボットを長時間連続的に運用する事が可能になった。更に、台車を2台以上に分割したことにより、人力で台車をレールに乗せ代え可能になった。
【0012】
また、畝間移動台車を設置したロボット用圃場により、複数の畝があるハウスで農業用ロボットを動かす事ができた。
【0013】
農業用ロボットに電源ドラムを搭載することで、電源ケーブルを引きずることなく電源ケーブルの繰り出し及び巻き取りができ、電源ケーブル断線の可能性を低くできた。
【0014】
電源ケーブルで電力を供給できるため、電池の交換や充電時間を考慮する必要がなく、農業用ロボットの駆動効率を上げる事ができた。
【0015】
電力を安定的に供給できるため、農業用ロボットの駆動モータに大電力の物が使用可能となり、高速に動作する農業用ロボットや大型の農業用ロボットの開発が可能となった。
【0016】
消費電力が大きいためこれまで実現が困難であった冷蔵装置、冷凍装置を搭載した収穫ロボット、大型噴霧装置を搭載した防除ロボット等の農業用ロボットが実現できた。

【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】発明1に係る第1実施例を示す斜視図である。
【図2】発明1に係る第1実施例を示す平面図である。
【図3】発明1に係る第2実施例を示す斜視図である。
【図4】発明1に係る第2実施例での圃場断面図である。
【図5】発明1に係る第3実施例を示す斜視図である。
【図6】発明1に係る第3実施例での圃場断面図である。
【図7】発明1に係る第4実施例を示す斜視図である。
【図8】発明1に係る第4実施例での圃場断面図である。
【図9】発明1に係る第5実施例を示す斜視図である。
【図10】発明1を収穫ロボットに応用した実施例を示す斜視図である。
【図11】発明2に係る第1実施例を示す斜視図である。
【図12】発明2に係る第2実施例を示す斜視図である。
【図13】発明3に係る第1実施例を示す斜視図である。
【図14】発明3に係る第1実施例を示す側面図である。
【図15】発明3に係る第2実施例を示す斜視図である。
【図16】発明3に係る第2実施例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明1を実施するための形態を、図1及び図2に示す。農業用ロボットAは畝1に略平行に設置されたロボット移動用通路2の上を直線方向に移動が可能なタイヤ3を備えた台車4に、電力により稼働する作業機構5と、作業機構5に電力を供給するための電源ケーブル6を収納した電源ドラム7と、電源ケーブル6を前記電源ドラム7から繰り出しまたは巻き取り動作と移動動作を連動して行うための制御装置8を備えている。農業用ロボットAは電源ケーブル6を通して供給される電力により畝1に沿って移動し、作業機構5により作業を行う。畝1及び隣の畝1aに対する作業が終了した後、農業用ロボットAは畝間移動台車Bに乗り移る。畝間移動台車Bは、農業用ロボットAの移動用通路2より掘り下げられ、畝1の直線方向と交差して畝1と隣の畝1aを繋ぐ場所をコンクリートで覆う事で構成された畝間移動台車用通路9に設置された第1のレール10上を移動する。畝間移動台車用通路9及び第1のレール10を畝1と交差して設置することで、畝間移動台車Bに乗り移った農業用ロボットAを畝間移動台車Bに移動させることで、畝間の移動を行うことができる。畝間移動台車Bは畝間移動台車車輪11、電源供給部12、主電源スイッチ13が搭載されており、農業用ロボットAを手動若しくは自動で畝間移動を行う。

【実施例】
【0019】
図3及び図4は発明1の第2実施例を示す図で、農業用ロボットAを移動させる場所を掘り下げU字型溝板14を設置、若しくはU字型溝板14及び隣のU字型溝板14aを設置後U字型溝板14及び隣のU字型溝板14aの間に土壌を導入する。農業用ロボットAはU字型溝板14上を移動させ、作物を育成する畝1と農業用ロボットAが移動する通路の分離を行う。
【0020】
この実施例を用いれば、作物の栽培を行う畝1と農業用ロボットAが移動する場所を分離できるため、農業用ロボットAが土壌の影響を受けることにより発生する異常動作の頻度を低くできた。
【0021】
図5及び図6は発明1の第3実施例を示す図で、U字型溝板14の代わりにL字型板15及び向かい合わせたL字型板15aを設置し、L字型板15及び向かい合わせに設置したL字型板15aの間に樹脂板16を並べて設置することでU字型の溝を形成する。樹脂板16上を農業用ロボットAを移動させ、作物を育成する場所と農業用ロボットAが移動する場所を分離する。
【0022】
この実施例を用いれば、農業用ロボットAが移動する場所の幅を任意に設定できるため、大型の農業用ロボットAの利用が可能となった。
【0023】
図7及び図8は発明1の第4実施例を示す図で、土壌若しくはU字型溝板若しくは樹脂板16の上に農業ロボット用レール17を設置し、畝間移動台車Bにも農業ロボット用レール17aを設置することで畝間移動台車(レール搭載型)Baとする。レール型農業ロボットAaは、畝間移動台車Bに搭載された農業用ロボットレール17a及び農業ロボット用レール17上を車輪3aで移動する。
【0024】
この実施例を用いれば、農業用ロボットAの畝1に対しての位置を調整する必要がなくなり、農業用ロボット移動機構及び作業機構5を簡素化できた。
【0025】
図9は発明1の第5実施例を示す図で、この実施例は農業用ロボットAの車輪の代わりにクローラ3bを用いたもので、クローラ3bを有したクローラ型農業用ロボットAbは、軟弱な土壌でも移動可能となり、農業用ロボット通路2の設定が容易になった。
【0026】
図10は発明1をアスパラガスを対象としたレール型収穫ロボットAcに応用した実施例を示す図で、レール型収穫ロボットAcは、レール17上を車輪3aで移動する。レール型収穫ロボットAcの作業機構は、アスパラガスを収穫するためのアーム回転機構5aおよびアーム直動機構5bおよびアーム昇降機構5c及びアーム傾斜機構5dおよび収穫用ハンド5eと収穫対象計測装置5fから構成されている。圃場の形状によりアーム昇降機構5c若しくはアーム傾斜機構5d若しくはアーム昇降機構5c及びアーム傾斜機構5dは省略可能である。収穫対象計測装置5fで計測した対象物をアーム回転機構5aおよびアーム直動機構5bおよびアーム昇降機構5c及びアーム傾斜機構5dおよび収穫用ハンド5eにより把持および切断し、収穫箱18に収穫する。
【0027】
発明2を実施するための第1の実施例を、図11に示す。農業用ロボット装置において、少なくとも作業機構5を搭載した作業機構部台車4aと少なくとも電力を供給するための電源ケーブル6を収納した電源ドラム7を搭載した電源ドラム部台車4bの2台の構成とし、それぞれの台車を連結機構19にて連結して使用した。必要によっては上記台車を2台以上の構成にしてもよい。
【0028】
台車4を連結式として、作業台車4aと電源台車4bに分けた事により、人力で台車を別々に運ぶことが可能となり、農業用ロボットの移動作業が容易となった。
【0029】
また、圃場に合わせた長さの電源ケーブル6を収納した電源ドラム7を搭載した電源台車4bを圃場ごとに設置しておくことにより、作業部台車4aのみを移動することで作業を行うことができるようになった。
【0030】
さらに、作業部台車4aを取り替えることで収穫作業や防除作業を行う事が可能となり、個別の機能を有するロボットを導入することと比較して、設備投資を低く抑えることができるようになった。
【0031】
発明2を実施するための第2の実施例を、図12に示す。この実施例では図11に示した第1の実施例の収穫ロボット作業台車Adを防除ロボット作業台車Afに変更した実施例である。作業台車Afには薬剤散布装置5gおよび薬剤タンク20が搭載されており防除作業を行うことができる。
【0032】
連結式としたことで、作業部台車の交換のみで収穫作業と防除作業の切り替えが容易になった。
【0033】
発明3の実施形態を図13及び図14に示す。発明1もしくは発明2の農業用ロボット装置の電源ドラム7に、電源ケーブルの張力を検出する装置21を搭載し、前記電源ケーブル張力検出装置21から取得される張力信号に応じて電源ドラム7をモータ22により回転伝達装置23を介して回転させることにより張力を調整する機構を搭載した農業用ロボット装置である。
【0034】
従来技術では、電源ドラム7は、図示省略の渦巻き状のバネを用いて電源ケーブル6を巻き取っていたが、畝方向に長い圃場で使用する場合、電源ケーブル6を繰り出すほどバネの張力が増加し、一定以上の距離になると農業用ロボットが引っ張られ、安定して動作できなかった。発明3を用いることで、モータ22により張力を調整し、電源ケーブル6を安定して巻き取り若しくは繰り出す事が可能になり、畝方向に長い圃場でも農業用ロボットを安定して動作させることができた。
【0035】
図15及び図16は発明3の第2の実施例で、機械式の張力検出装置21の代わりに、モータの電流を計測することで張力を電気的に検出する電流計測型張力検出装置21aを用いた例である。
【0036】
ロボットの移動距離とモータ22の電流値により、電源ドラム7の回転制御を行い、張力の調整をした。
【0037】
機構部分を少なくできるため、農業用ロボット装置の保守が容易になり低コスト化が可能となった。
【0038】
広大なハウスでは農業用ロボットA及び畝間移動台車Bを複数台利用する場合もある。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明を用いれば、地下茎を有するために土壌での栽培が必要なアスパラガスや花などの農作物に対して収穫作業を連続的に長時間行う事ができる農業用ロボットを実現できた。
【0040】
ハウス内で栽培を行う農作物の防除作業を定期的に行う事ができる農業用ロボットを実現できた。
【0041】
電池の充電や取り替えの必要がないため、指定した時間に収穫作業や防除作業を全自動で行う農業用ロボットを実現できた。
【0042】
消費電力が大きい高速なモータを用いてロボットを製作することができるため、農業用ロボットの高速化に貢献できた。また、大型のモータの利用が可能になり大型の農業用ロボットの製作が可能になった。
【0043】
これまで、消費電力が大きいため農業用ロボットへの搭載が困難であった、冷凍機や冷蔵庫を搭載した農業用ロボットを製作でき、収穫後すぐに冷凍もしくは冷蔵が可能になり、収穫した農作物の鮮度保持が可能になった。


【符号の説明】
【0044】
1 畝
1a 隣の畝
2 農業ロボット移動用通路
3 タイヤ
3a 車輪
3b クローラ
4 台車
4a 作業機構部台車
4b 電源ドラム部台車
5 作業機構
5a アーム回転機構
5b アーム直動機構
5c アーム昇降機構
5d アーム傾斜機構
5e 収穫用ハンド機構
5f 収穫対象計測装置
5g 薬剤散布装置
6 電源ケーブル
7 電源ドラム
8 制御装置
9 畝間移動台車用通路
10 第1のレール
11 畝間移動台車車輪
12 電源供給部
13 主電源スイッチ
14 U字型溝板
14a 隣のU字型溝板
15 L字型板
15a 向かい合わせに設置したL字型板
16 樹脂板
17 農業ロボット用レール
17a 農業ロボット用レール(移動台車に設置)
18 収穫箱
19 連結機構
20 薬剤タンク
21 張力検出装置
21a 電流計測型張力検出装置
22 モータ
23 回転伝達装置
A 農業用ロボット
Aa レール型農業ロボット
Ab クローラ型農業用ロボット
Ac レール型収穫ロボット
Ad 収穫ロボット作業台車
Ae 農業用ロボット電源ドラム台車
Af 防除ロボット作業台車
B 畝間移動台車
Ba 畝間移動台車(レール搭載型)




【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線方向に移動が可能な移動機構を具備した台車に、電力により稼働する作業機構と、該作業機構に電力を供給するための電源ケーブルを収納した電源ドラムと、前記電源ケーブルを前記電源ドラムから繰り出しまたは巻き取り動作と前記移動機構の動作を連動して移動を行う制御装置とを搭載した農業用ロボットと、該農業用ロボットを搭載して、上記台車の直線方向と直行する方向に往復動する移動台車とを連接してなることを特徴とする農業用ロボット装置。

【請求項2】
上記台車を2台以上に分割した構成とし、それぞれの台車を連結したこを特徴とする請求項1に記載の農業用ロボット装置。

【請求項3】
上記電源ドラムに、上記電源ケーブルの張力を検出する装置を搭載し、前記電源ケーブル張力検出装置から取得される張力信号に応じて前記電源ドラムを回転し張力を調整する機構を搭載したことを特徴とする請求項1、若しくは、請求項2に記載の農業用ロボット装置。




【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図13】
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【図15】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−233459(P2010−233459A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82025(P2009−82025)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000214191)長崎県 (106)
【Fターム(参考)】