説明

近接場光発生素子の製造方法、及び近接場光発生素子

【課題】コア、クラッドおよび散乱体の相対位置、散乱体の寸法を高精度に製造できる近接場光発生素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】基板に設けられたクラッドに凹溝およびV溝を形成し、それぞれの溝内部にコアおよび金属構造物を成膜した後、基板表面を平坦化する。その上からクラッドを再び成膜した後、基板を切断し、V溝内に形成された金属構造物が所定厚さになるよう切断面を研磨し、散乱体を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光、特に近接場光を利用して記録媒体に各種情報を記録する記録ヘッドに搭載される近接場光発生素子の製造方法、及び近接場光発生素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報処理機器における情報記録再生装置は、装置自体を小型化した上でより大量の情報の記録再生を行うという要求にさらされている。そのため、情報を記録する媒体、例えばハードディスクドライブの磁気メディア等は、年々、記録密度が向上している。このような記録密度の高密度化に応えるためには、一つの記録単位である磁区(記録媒体上に設けられた小さな磁石)をより小さくかつ近接する必要があるが、小さくすると隣り合う磁区の影響や周囲の熱エネルギーなどにより、記録した磁区が意図せず反転する現象がおきる。このような現象を抑えるため、保持力の強い材料が記録媒体に採用されてきている。保持力の強い記録媒体は、意図しない反転現象を抑える代わりに、記録時により大きな磁界を与えなければ、磁区を反転させることができず、記録困難になってしまう。
【0003】
このような不具合を解消するため、光を照射することで、記録する磁区のみを加熱昇温させ、保磁力を低下させて書き換え記録を行う方式が提唱されている。年々進む記録密度の上昇のため、記録する磁区自体は非常に小さくなってきていることから、従来の光学系において限界とされてきた光の波長以下のサイズに集光し、加熱することが求められる。これを実現するために、近接場光を利用することで、より微小な領域に集光及び加熱することができ、従来の情報記録再生装置等を超える高い記録密度を実現することができるといわれている。
【0004】
このような光アシスト磁気記録方式を用いて情報を記録するヘッドには、高強度の近接場光を発生させる素子と、この素子の極近傍に設けられるとともに、媒体の情報を書き換える磁気ヘッドとが必要となる。特に重要なのが、高強度で近接場光を発生させる素子である。このような近接場光発生素子として、様々な構成が提案されている。一例としては、特許文献1および特許文献2に示すものが挙げられる。第一の光導波媒体(コア)に接するよう、第二の光導波媒体(クラッド)を設け、第二の光導波媒体を第一の光導波媒体より低屈折率で構成する。この第一の光導波媒体を介して光照射されるよう平面状の微細な三角形の散乱体(近接場光発生素子)が設けられている。このような構造の近接場光発生素子は、レンズ等を用いずコアから散乱体に直接、光照射できるため、コア中に大きな分極が発生しない。大きな分極が発生しないため、散乱体表面に集まる電荷の効果を打ち消すことがなく、高強度の近接場光を発生させることができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−280572号公報 図2
【特許文献2】特開2007−128573号公報 図3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような近接場光発生素子は、コア端面が一辺数百nm、散乱体は一辺百数十nm、厚さ数十nmという極微小な構造物から構成される素子である。このため、近接場光を生成する散乱体には少なくとも数〜十nm程度の高い寸法精度が要求されると考えられる。また、コア、クラッド及び散乱体との相対位置関係により生成される近接場光の強度が大きく変動することが上記特許文献には開示されている。しかしながら、このような数〜数十nmの位置および寸法精度を実現する製造方法が、上記特許文献には開示されていない。
【0007】
そこで本発明は、このような事情を鑑みてなされたもので、その目的は、コア、クラッドおよび散乱体の相対位置、散乱体の寸法を高精度に製造できる近接場光発生素子の製造方法を提供し、また、それによって製造された近接場光発生素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、以下の手段を提供する。
本発明の近接場光発生素子の製造方法は、基板にクラッドを成膜するクラッド成膜工程と、クラッドに第1溝を形成する第1溝形成工程と、クラッドに第1溝の長手方向に沿って第2溝を形成する第2溝形成工程と、第1溝内部に金属構造物を形成する金属構造物形成工程と、第2溝内部に前記クラッドより高屈折率材料のコアを設けるコア形成工程と、金属構造物を基板平面に対し垂直に切断し、該切断面を研磨することにより散乱体を形成する散乱体形成工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
かかる特徴によれば、近接場光を生成する散乱体と散乱体に光を供給する光導波路(コアとクラッド)の光軸との相互位置関係を、所望の位置関係で製造できる。このため、近接場光を効率よく生成することが可能となる。さらに、散乱体を研磨で形成する際、クラッドもしくはコアに埋没したまま研磨できるため、破損することなく散乱体を形成することが可能となる。さらに、真空薄膜製造技術を利用できるため、多数の素子を一括して製造でき、大量かつ低コストの近接場光発生素子の製造方法を実現できる。
【0010】
また、本発明の近接場光発生素子の製造方法は、第1溝形成工程において、第1溝に勘合する第1の型をクラッドに圧接して第1溝を形成することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の近接場光発生素子の製造方法は、クラッド成膜工程の後に、少なくともクラッド上にレジストを形成するレジスト形成工程を有し、第1溝形成工程において、第1溝に勘合する第1の型をレジストに圧接して第1溝と略同一形状の溝をレジストに形成し、第1溝と略同一形状の溝をエッチングすることによってクラッドに第1溝を形成することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の近接場光発生素子の製造方法は、第1溝形成工程が、第1溝をダイシングブレードにより形成することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の近接場光発生素子の製造方法は、第2溝形成工程において、第2溝に勘合する第2の型をクラッドに圧接して第2溝を形成することを特徴とする。
【0014】
かかる特徴によれば、一括して高精度の溝加工が可能であり、溝内に形成されるコアおよび散乱体を高精度に加工できる。したがって、高効率の近接場光を生成できると同時に、大量製造が可能となる。
【0015】
また、本発明の近接場光発生素子の製造方法は、コア形成工程の後に、コアを平坦化する平坦化工程と、平坦化されたコア上にオーバークラッドを形成する工程とを備えることを特徴とする。
【0016】
かかる特徴によれば、コアをクラッドで効果的に囲むことができ、コア内を伝播する光の散乱を防ぐことができるため、光伝播効率が上がって高強度の近接場光を発生させることができる。
【0017】
また、本発明の近接場光発生素子の製造方法は、散乱体形成工程において、金属構造物に電気抵抗体を設け、該電気抵抗体を通電することにより変化する電気抵抗体の抵抗値に応じて金属構造物の切断面を研磨することを特徴とする。
【0018】
かかる特徴によれば、目視による研磨量制御が必要なく、高精度の研磨量制御が可能となり、高い寸法精度で散乱体を形成できる。このため、高効率での近接場光を生成できる。
また、本発明は、上述した製造方法により製造される近接場光発生素子を提供する。
【発明の効果】
【0019】
近接場光を生成する散乱体と光導波媒体の光軸との相互位置関係を、所望の位置関係で製造できるため、近接場光を効率よく生成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る近接場光発生素子の製造方法を利用して製造したヘッドジンバルアセンブリを用いた情報記録再生装置を示す構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る近接場光発生素子の製造方法を利用して製造したヘッドジンバルアセンブリを示す構成図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る近接場光発生素子の製造方法を利用して製造したヘッドジンバルアセンブリの可撓基板の構造を説明する説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る近接場光発生素子の製造方法を利用して製造したヘッドジンバルアセンブリのスライダの構造を説明する説明図である。
【図5−1】(a)〜(f) 本発明の第1の実施形態に係る近接場光発生素子の製造方法を示す説明図である。
【図5−2】(g)〜(i) 本発明の第1の実施形態に係る近接場光発生素子の図5−1に続く製造方法を示す説明図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る近接場光発生素子の製造方法を示す説明図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る近接場光発生素子の製造方法に用いる型基板の製造方法を示す説明図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る近接場光発生素子の製造方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1の実施形態)
以下、本発明に係る第1の実施形態を、図1から図5を参照して説明する。図1は、本発明に係る近接場光発生素子の製造方法を利用して製造したヘッドジンバルアセンブリを用いた情報記録再生装置1を示す構成図である。なお、情報記録再生装置1は、磁気記録層を有する記録媒体Dに対して、熱アシスト磁気記録方式で書き込みを行う装置である。
【0022】
図1に示すように情報記録再生装置1において、スライダ2が固定されたサスペンション3が、キャリッジ11に固定されている。スライダ2とサスペンション3を合わせて、ヘッドジンバルアセンブリ12と呼ぶ。円盤状の記録媒体Dはスピンドルモータ7によって所定の方向に回転する。キャリッジ11はピボット10を中心に回転可能になっており、制御部5からの制御信号によって制御されるアクチュエータ6によって回転し、スライダ2を記録媒体D表面の所定の位置に配置することができる。ハウジング9はアルミニウムなどから成る箱状(図1では説明を分かりやすくするため、ハウジング9の周囲を取り囲む周壁を省略している)ものであり、上記の部品をその内部に格納している。スピンドルモータ7はハウジング9の底面に固定されている。スライダ2は記録媒体Dに向けて磁界を発生させる磁極(図示略)と、近接場光スポットを発生する近接場光発生素子(図示略)と、記録媒体Dに記録された情報を再生する磁気ヘッド(図示略)を有している。磁極と磁気ヘッドは、サスペンション3およびキャリッジ11に沿って敷設された可撓基板13、キャリッジ11側面に設けられたターミナル14およびフラットケーブル4を介して制御部5に接続されている。制御部5は、電子回路と、電子回路に接続された光源を備えている。制御部5の電子回路と可撓基板13内の電気配線とが電気的に接続され、光源と可撓基板13内の光導波路とが光学的に接続されている。
【0023】
記録媒体Dは1枚でも良いが、図1に示すように複数枚設けても良い。記録媒体Dの枚数が増えれば、ヘッドジンバルアセンブリ12の個数も増加する。図1では記録媒体Dの片面側のみにヘッドジンバルアセンブリ12が設けられている構成を示しているが、両面に設けても良い。よって、ヘッドジンバルアセンブリ12の個数は、最大で記録媒体Dの枚数の倍になる。これにより、情報記録再生装置の記録容量の増加及び装置の小型化を図ることができる。
【0024】
図2は本発明に係る近接場光発生素子の製造方法を利用して製造したヘッドジンバルアセンブリ12の拡大図である。サスペンション3は、ステンレス薄板を材料とする、ベースプレート201、ヒンジ202、ロードビーム203、フレクシャ204からなる。ベースプレート201は、その一部に設けられた取り付け穴201aにより、キャリッジ11に固定されている。ヒンジ202はベースプレート201とロードビーム203を接続している。ヒンジ202はベースプレート201とロードビーム203よりも薄くなっており、ヒンジ202を中心としてサスペンション3がたわむようになっている。フレクシャ204はロードビーム203、ヒンジ202に固定された細長い部材であり、ロードビーム203やベースプレート201よりも薄く、かつ略コ字型の開口205が設けられており、たわみやすく出来ている。フレクシャ204のロードビーム203との取り付け面との対面には、薄い板状の樹脂からなる可撓基板13が設けられている。フレクシャ204の先端部には、可撓基板13を経て、略直方体形状のスライダ2が固定されている。
【0025】
図3は、前述の可撓基板13の構造を説明する説明図である。
薄板上の樹脂からなる可撓基板13内部には、電気配線302と光導波路のコア303が設けられている。光導波路のコア303はフレクシャ204の開口205を架橋して設置されている。スライダ2側のコア303の一端面には略45度の斜面310が設けられ、斜面310面上には金属薄膜からなる反射膜(図示略)が設けられている。光導波路のコア303を他端から斜面310に向けて伝播する光は、斜面310の反射膜で反射し、スライダ2と固定される面(図3中、Z軸正側XY面)に出射する。この可撓基板13の表面のうち、光が出射する領域を可撓基板側光出射端320と呼ぶ。
【0026】
図4は前述のスライダ2の構造を説明する説明図である。
スライダ2のZ軸正側XY面は、記録媒体D(図1)に対向する面である。この面はABS(Air Bearing Surface)と呼ばれており、微細な凹凸形状(図示略)が設けられている。
【0027】
上述した構成では、記録媒体Dが回転すると、スライダ2に設けられたABSと記録媒体D間に生じた空気流の粘性から、スライダ2が浮上するための所望の圧力を発生する。スライダ2を記録媒体Dから離そうとする正圧とスライダ2を記録媒体Dに引き付けようとする負圧と、サスペンション3による押しつけ力の釣り合いで、スライダ2は所望の状態で浮上する。記録媒体Dとスライダ2のすきまの最低値は10nm程度もしくはそれ以下となっている。サスペンション3による押しつけ力は主にヒンジ202の弾性により発生している。また、記録媒体D表面のうねりに対して、ヒンジ202およびフレクシャ204が弾性変形することで、スライダ2は所望の浮上状態を維持することが出来る。
【0028】
また、スライダ2のZ軸正側XY面上かつX軸負側の端部には、近接場光発生素子210、磁極及び磁気ヘッド(図示略)それぞれが近傍になるよう配置されている。近接場光発生素子210は、X軸と略平行に設けられた導波コア212、導波コア212のZ軸正側端部に設けられた三角平板状の散乱体250および、導波コア212周囲に設けられたクラッド211から構成されている。この散乱体250は一辺約百nmの三角形である。
【0029】
可撓基板13に設けられた電気配線302は、スライダ2と電気的に接続されている。詳しくは、スライダ内部の配線を経て、磁極のコイルおよび磁気ヘッドに接続されている。コイルに流れる電流により磁極が磁界を発生し、また、磁気ヘッドは記録媒体に記録された磁区から発する磁界を電気出力として出力する。
【0030】
また可撓基板13とスライダ2とは、光学的にも接続されている。光源である半導体レーザから出射した光は、可撓基板13に設けられたコア303を伝播し、斜面310で反射され、スライダ2に設けられた近接場光発生素子210の入射端に入射する。近接場光発生素子210の入射端に入射した光は、近接場光発生素子210内部に設けられた導波コア212内をZ軸正側へと伝播する。導波コア212のZ軸正側の端面には三角平板状の散乱体250が設けられており、ここで導波コア212内を伝播した光は近接場光へ変換される。
【0031】
可撓基板13の電気配線302とコア303はそれぞれ制御部5と電気的および光学的に接続されているため、制御部5の電子回路、半導体レーザとスライダ2とは、電気的および光学的に接続されていることになる。
【0032】
このような構成により、制御部5の電子回路からの信号で、スライダ2に設けられた磁極および磁気ヘッドを制御することができる。また、磁極近傍に設けられた近接場光発生素子210の近接場光により記録媒体Dの所望の領域を加熱することができる。これにより、記録媒体Dの情報を記録再生することが可能となる。
【0033】
次に、本発明の近接場光発生素子の製造工程について、図5に示す。
まず、磁気情報の記録再生を行う磁気ヘッドおよび磁極の各種構造が形成されたアルチック基板上に、酸化タンタルを成膜し、クラッド211を形成する(図5(a))。
この上にレジスト291を塗布、微細な三角柱を形成した型基板295をレジストに圧接させる(図5(b))。なお、型基板295はシリコン製であり、異方性エッチングで横倒しの三角柱を形成した。詳しくは三角断面が基板表面に垂直になるよう形成している。
【0034】
型基板295をレジスト291に圧接しながら、ベークした後、型基板295を取り外す。クラッド211上のレジスト291には、型基板295の三角柱と勘合するV溝が転写、形成される(図5(c))。
【0035】
この後、酸化タンタルのエッチングを行うと、レジスト層が徐々に溶解し、V溝の最も薄い部分からレジストが除去される。レジスト層の除去された部分からクラッド211がエッチングされ、レジスト291のV溝を転写する形で、クラッド211にV溝297が形成される(図5(d))。
【0036】
残ったレジスト291を除去した後、金251を成膜し、V溝297内に金251を充填する(図5(e))。
【0037】
この上からレジストを塗布、露光および現像を行った後、V溝に隣接もしくは近傍に凹溝を形成する。その後、クラッド211より高屈折率の酸化タンタルを成膜し、少なくとも凹溝内に充填し、導波コア212を形成する(図5(f))。
【0038】
その後、基板上面にケミカルポリッシングを行い、基板上面を平坦化する(図5(g))。
【0039】
その上から図5(a)で成膜した低屈折率の酸化タンタルを成膜し、全体をクラッド211で覆うよう形成する(図5(h))。
【0040】
その後、アルチック基板をダイシングして、バー状にし、ダイシング切断面を研磨する。このとき、V溝内に充填した金251を研磨して、金251の厚さが所定値になるよう研磨量を制御し、散乱体250を形成する(図5(i))。
【0041】
さらに、研磨面にケミカルポリッシングやエッチング等でABS用の微細構造を形成する。そして、バー状の基板をダイシングして個片化し、スライダ2となる。
【0042】
なお、散乱体250を研磨、形成するため、V溝297近傍にELG(electro lapping guide)を設けて、これを利用して研磨量を制御してもよい。ELGとは、ELG素子の抵抗値を確認しながら研磨を行って研磨量を制御するものである。具体的には、V溝内に金を充填した後、基板表面を研磨する。この後、ELG素子と、ELG素子の両端に接続された一対のパッドを形成する。パッド上にクラッドを形成しないようにし、散乱体形成時に、パッドを介してELG素子に通電しながら研磨する。すると、バーの側面とともにELG素子も研磨され、ELG素子の幅が減少し、電気抵抗が増加する。そこで、ELG素子の電気抵抗と研磨量との相関を予め求めておき、ELG素子の抵抗値をモニタしながら研磨して、抵抗値が所定の値に達した時点で所望の研磨量が得られたと判断して研磨を終了する。
【0043】
なお、ここでは導波コア212に酸化タンタルを用いたが、導波コア212を伝播する光に対して透過率が高く、かつクラッド211に対して、所定の屈折率差を有し、微細構造が形成できる材料であれば、実施可能である。一例として、酸化シリコン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化スズカドミウム、光導波路用樹脂等が挙げられる。なお、同様に散乱体も金だけではなく、近接場光を生成する金属材料、銀、アルミニウム、銅、白金、パラジウム等を用いても実施可能である。
【0044】
また、ここでは、アルチック基板、磁気ヘッド構造、近接場光発生素子の順に形成したが、アルチック基板の上に、まず、近接場光発生素子を形成し、その後、磁気情報の記録再生を行う磁気ヘッド構造を形成することも可能である。記録媒体D上で効果的に相互作用する熱源である近接場光発生素子と、磁気情報の記録再生を行う磁気ヘッドとの位置関係から決定すればよい。
【0045】
このような製造方法によって、導波コア、クラッドおよび散乱体の相互位置および散乱体の寸法について、所定の位置関係および寸法で製造することができる。これにより、近接場光発生素子に入射する光を効率よく近接場光に変換することができ、高強度の近接場光を近接場光発生素子から発することができる。よって、高性能な情報記録再生装置を提供することができる。
【0046】
さらに、近接場光発生素子は薄膜製造装置で一括して大量に形成し、その後ダイシング等により分離して製造するため、大量かつ低コストの製造が可能となる。
【0047】
(第2の実施形態)
以下、本発明に係る第2の実施形態の製造方法を、図6に説明する。第1の実施形態と同一箇所については同一符号を付して詳細な説明を省略する。
本実施形態が第1の実施形態と異なる点は、クラッドにV溝と凹溝を同時に形成する点である。
【0048】
図6に示すように、磁気情報の記録再生を行う磁気ヘッド構造が形成されたアルチック基板上に、クラッド211となるPMMA(Poly Methyl Methacrylate Acrylic resin)をコーティングする(図6(a))。
【0049】
この上から、微細な三角柱および四角柱を形成した型基板295をPMMAに圧接する(図6(b))。なお、この型基板295の三角柱は横倒し、詳しくは三角断面が基板表面に垂直になるよう形成している。この三角柱に隣接もしくは近傍に四角柱を配置している。
【0050】
型基板295をクラッド211に圧接しながら、ベークした後、型基板295を取り外す。クラッド211には、型基板295の三角柱および四角柱と勘合するV溝297及び凹溝296が転写、形成される(図6(c))。
【0051】
この後、金251を成膜及び、クラッド211より高屈折率のPMMAをコーティングした後ベークする。V溝297内に金251を、凹溝296内に導波コア212を充填する(図6(d))。
その後、基板上面にケミカルポリッシングを行い、基板上面を平坦化する(図5(e))。
【0052】
その上から図6(a)で成膜した低屈折率のPMMAをコーティング後ベークし、全体をクラッド211で覆うよう形成する(図6(f))。
【0053】
その後、第一の実施形態と同様に、基板をダイシング後、V溝内に充填した金251を研磨して、金251の厚さが所定値になるよう研磨量を制御し、散乱体250を形成する(図6(g))。
【0054】
ここでは、V溝と凹溝を同時に形成する型基板295を用いた。この型基板295の製造方法について、図7に説明する。
【0055】
型基板に、レジスト292をコーティングし、幅の異なる四角形状にレジストを露光及び現像する(図7(a))。
【0056】
型基板をドライエッチングし、レジスト292を除去すると、レジスト292の形状に合わせて、型基板表面上に幅の異なる四角の凸形状が形成される(図7(b))。
【0057】
型基板の幅の太い凸形状とその周囲を覆うよう、レジスト293を露光、現像する(図7(c))。
【0058】
その後、型基板をアルゴン(Ar)などのプラズマ中でスパッタエッチングする。幅の細い凸部の角が選択的にエッチングされて、斜面が形成される。このエッチングを続けると、斜面が基板表面に対して一定の角度を保ちながらエッチングされ、断面が三角形状の凸部が形成される。
以上により、微細な三角柱と四角柱を近接もしくは隣接させた型基板を形成できる。
【0059】
なお、ここではクラッドおよび導波コア材料にPMMAを用いたが、光屈折率の調整が可能な熱可塑性樹脂を用いて実施可能である。また、溝形成用の型基板を紫外線が透過する酸化シリコン等で形成して、ベークではなく紫外線照射してクラッドを形成するようにすれば、紫外線硬化樹脂も利用可能である。
【0060】
このような製造方法によって、導波コアと散乱体を形成する溝を、精度よく一括して形成できるため、大量かつ低コストの製造が可能となる。また、クラッドおよび導波コアに樹脂材料を利用できるため、高性能の真空薄膜製造装置が不要であり、低コストに製造できる。
【0061】
(第3の実施形態)
以下、本発明に係る第3の実施形態の製造方法を、図8に説明する。第1及び第2の実施形態と同一箇所については同一符号を付して詳細な説明を省略する。
本実施形態が第1及び第2の実施形態と異なる点は、クラッドにダイシングでV溝を形成する点である。
【0062】
まず、磁気情報の記録再生を行う磁気ヘッドおよび磁極の各種構造が形成されたアルチック基板上に、酸化タンタルを成膜し、クラッド211を形成する(図8(a))。
この上にレジストを塗布、露光及び現像後、クラッド211をエッチングし、クラッド211に凹溝296を形成する(図8(b))。
【0063】
レジスト291を除去した後、凹溝296を縦断する位置に、ダイシングでV溝297を形成する(図8(c))。ここで用いるダイシングブレードは先端が所定の角度で鋭角となっているため、クラッド291にはV溝が形成される。
【0064】
形成したV溝297に金251を、凹溝296には導波コア212を形成する(図8(d))。その後、基板表面を研磨し(図8(e))、クラッド211を形成し(図8(f))、基板をダイシングで切断した後、ダイシング面を研磨し、散乱体250を形成する(図8(g))。
【0065】
ここで、V溝を形成するにあたり、先端が鋭角のダイシングブレードを用いて、ダイシングで形成した。ダイシングでの数十〜数百nm程度の深さの切り込み制御が難しい場合、V溝を深めに形成した後、図8(e)で示した研磨量で散乱体250の三角形状を制御することも可能である。
【0066】
このような製造方法によって、導波コア、クラッドおよび散乱体の相互位置および散乱体の寸法について、所定の位置関係および寸法で製造することができ、近接場光への変換効率が上がり、高強度の近接場光を近接場光発生素子から発することができる。よって、高性能な情報記録再生装置を提供することができる。
【0067】
また、機械的な加工方法を導入できるため、高性能の真空薄膜製造装置が不要であり、低コストに製造できる。
【0068】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、上述した実施形態で挙げた構成等はほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。 また、上述した各実施形態を適宜組み合わせて採用することも可能である。
【符号の説明】
【0069】
D 記録媒体 1 情報記録再生装置 2 スライダ 3 サスペンション 11 キャリッジ 12 ヘッドジンバルアセンブリ 13 可撓基板 204 フレクシャ 210 近接場光発生素子 211 クラッド 212 導波コア 213 上部クラッド層 250 散乱体 251 金 291、292、293 レジスト 295 型基板 296 凹溝 297 V溝 302 電気配線 303 コア 310 斜面 320 可撓基板側光出射端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にクラッドを成膜するクラッド成膜工程と、
前記クラッドに第1溝を形成する第1溝形成工程と、
前記クラッドに、前記第1溝の長手方向に沿って第2溝を形成する第2溝形成工程と、
前記第1溝内部に金属構造物を形成する金属構造物形成工程と、
前記第2溝内部に前記クラッドより高屈折率材料のコアを設けるコア形成工程と、
前記金属構造物を前記基板平面に対し垂直に切断し、該切断面を研磨することにより散乱体を形成する散乱体形成工程と
を備えることを特徴とする近接場光発生素子の製造方法。
【請求項2】
前記第1溝形成工程において、
前記第1溝に勘合する第1の型を前記クラッドに圧接して前記第1溝を形成することを特徴とする請求項1に記載の近接場光発生素子の製造方法。
【請求項3】
前記クラッド成膜工程の後に、前記クラッド上にレジストを形成するレジスト形成工程を有し、
前記第1溝形成工程において、
前記第1溝に勘合する第1の型を前記レジストに圧接して前記第1溝と略同一形状の溝を前記レジストに形成し、前記第1溝と略同一形状の溝をエッチングすることによって前記クラッドに前記第1溝を形成することを特徴とする請求項1に記載の近接場光発生素子の製造方法。
【請求項4】
前記第1溝形成工程は、前記第1溝をダイシングブレードにより形成することを特徴とする請求項1に記載の近接場光発生素子の製造方法。
【請求項5】
前記第2溝形成工程において、
前記第2溝に勘合する第2の型を前記クラッドに圧接して前記第2溝を形成することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の近接場光発生素子の製造方法。
【請求項6】
前記コア形成工程の後に、前記コアを平坦化する平坦化工程と、
前記平坦化されたコア上にオーバークラッドを形成する工程と
を備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の近接場光発生素子の製造方法。
【請求項7】
前記散乱体形成工程において、
前記金属構造物に電気抵抗体を設け、該電気抵抗体を通電することにより変化する前記電気抵抗体の抵抗値に応じて前記金属構造物の切断面を研磨することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の近接場光発生素子の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の近接場光発生素子の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする近接場光発生素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5−1】
image rotate

【図5−2】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−169009(P2012−169009A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29126(P2011−29126)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】