説明

近赤外反射フィルム及びそれを用いた近赤外反射体、近赤外反射フィルムの製造方法

【課題】経時しても着色せず、安定した柔軟性があり、近赤外反射性に優れ、可視光透過率が高い近赤外反射フィルム及びその近赤外反射フィルムを設けた近赤外反射体を提供する。
【解決手段】基材上に、高屈折率層と低屈折率層とから構成されるユニットを少なくとも1つ有する近赤外反射フィルムにおいて、該高屈折率層に金属酸化物粒子を含有し、該高屈折率層と低屈折率層の少なくとも1層に温度応答性ポリマーを含有することを特徴とする近赤外反射フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外反射性、可視光透過性に優れ、経時しても着色せず、安定した柔軟性がある近赤外反射フィルム、近赤外反射フィルムを設けた近赤外反射体及び近赤外反射フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー対策への関心の高まりや、冷房設備にかかる負荷を減らす観点から、建物や車両の窓ガラスに装着させて、太陽光の熱線の透過を遮断する近赤外反射フィルムの要望が高まってきている。
【0003】
近赤外反射フィルムの形成方法としては、主には、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層させた構成からなる積層膜を、蒸着法、スパッタ法などのドライ製膜法を用いて形成する方法が提案されている。しかし、ドライ製膜法は、形成に用いる真空装置等が大型になり、製造コストが高く、大面積化が困難であり、しかも、基材として耐熱性素材に限定される等の課題を抱えている。
【0004】
上記のような課題を有しているドライ製膜法に代えて、湿式塗布法を用いて近赤外反射フィルムを形成する方法が知られている。
【0005】
例えば、酸化チタン、紫外線硬化型バインダー及び有機溶剤から構成される塗膜形成用組成物を、バーコーター等を用いた湿式塗布方式により基材上に塗布して透明積層体を形成する方法(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−123766号公報
【特許文献2】特開2009−86659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示されている方法では、バインダーとして紫外線硬化型バインダーや熱硬化型バインダーを用いて層を形成した後、紫外線あるいは熱により硬化するため、製膜後において、未反応のバインダ(モノマー)が大気下での紫外線または熱により硬化してしまい、経時で柔軟性が乏しくなる塗膜物性となっている。さらに、未反応のバインダ(モノマー)が経時で分解し、塗膜が変色してしまうという問題もあった。
【0008】
以上のように、これまで、安定したフィルム性能を示すものが得られていないのが現状であった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、経時しても着色せず、安定した柔軟性があり、近赤外反射性に優れ、可視光透過率が高い近赤外反射フィルムとその製造方法及びその近赤外反射フィルムを設けた近赤外反射体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0011】
(1)
基材上に、高屈折率層と低屈折率層とから構成されるユニットを少なくとも1つ有する近赤外反射フィルムにおいて、該高屈折率層に金属酸化物粒子を含有し、該高屈折率層と低屈折率層の少なくとも1層に温度応答性ポリマーを含有することを特徴とする近赤外反射フィルム。
【0012】
(2)
前記高屈折率層が、金属酸化物粒子として、酸化チタン粒子を含有することを特徴とする前記(1)に記載の近赤外反射フィルム。
【0013】
(3)
前記温度応答性ポリマーが、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドを含有することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の近赤外反射フィルム。
【0014】
(4)
基材上に、高屈折率層と低屈折率層とから構成されるユニットを少なくとも1つ有し、該高屈折率層に金属酸化物粒子を含有する近赤外反射フィルムの製造方法において、該高屈折率層と低屈折率層の少なくとも1層が温度応答性ポリマーを含有する塗布液を用いて形成されることを特徴とする近赤外反射フィルムの製造方法。
【0015】
(5)
高屈折率層形成用の塗布液と低屈折率層形成用の塗布液のどちらか一方の塗布液の温度を臨界溶液温度以下とし、他方の塗布液の温度を臨界溶液温度以上として、同時に重層塗布を行い、乾燥することにより形成することを特徴とする前記(4)に記載の近赤外反射フィルムの製造方法。
【0016】
(6)
前記塗布液が、水系であることを特徴とする前記(4)または(5)に記載の近赤外反射フィルムの製造方法。
【0017】
(7)
基体の少なくとも一方の面側に、前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の近赤外反射フィルムを有することを特徴とする近赤外反射体。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、経時しても着色せず、安定した柔軟性があり、近赤外反射性に優れ、可視光透過率が高い近赤外反射フィルムとその製造方法及び近赤外反射フィルムを設けた近赤外反射体を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0020】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、基材上に、高屈折率層と低屈折率層とから構成されるユニットを少なくとも1つ有する近赤外反射フィルムにおいて、該高屈折率層に金属酸化物粒子を含有し、該高屈折率層と低屈折率層の少なくとも1層に温度応答性ポリマーを含有することを特徴とする近赤外反射フィルムにより、経時しても着色せず、安定した柔軟性があり、近赤外反射性に優れ、可視光透過率が高い近赤外反射フィルムを実現することができることを見出し、本発明に至った次第である。
【0021】
即ち、従来の湿式塗布近赤外反射フィルムの製造においては、バインダーとして紫外線硬化型バインダー(モノマー)や熱硬化型バインダー(モノマー)用いた塗布液を用いて形成していたが、環境適性及び製膜後の経時安定性の点で問題を抱えていた。
【0022】
本発明者らの鋭意検討の結果、高屈折率層と低屈折率層の少なくとも1層に温度応答性ポリマーを含有した塗布液を用いることが可能であり、製膜後の重合や分解の懸念がなくなり、経時安定性を確保することができることがわかった。さらに、メカニズムについては不明ではあるが、湿式積層塗布において既に塗設された層上に新たな塗布液が塗布されるに際し、塗布界面での既設層面の膨潤が起こり、通常のバインダーでは隣接層間の化合物が混合し充分な屈折率差が出せないところが、本発明の温度応答性ポリマーを使用することで、塗布直後に温度応答性ポリマーが析出固定化して塗布界面での化合物の混合が抑制され、良好な赤外反射率及び可視光透過率を有する近赤外反射フィルムを得ることができたものと思われる。また本発明者らの鋭意検討の結果、高屈折率層と低屈折率層の少なくとも1層に温度応答性ポリマーを含有した水系の塗布液を用いることが可能であり、環境適性にも優れていることがわかった。
【0023】
以下、本発明の近赤外反射フィルムの構成要素、及び本発明を実施するための形態等について詳細な説明をする。
【0024】
(近赤外反射フィルム)
本発明の近赤外反射フィルムは、基材上に、高屈折率層と低屈折率層から構成されるユニットを少なくとも1つ積層することを一つの特徴とする。
【0025】
本発明の近赤外反射フィルムは、基材上に、屈折率が相互に異なる二層以上の層で構成される近赤外反射ユニットを少なくとも1つ以上有し、屈折率が相互に異なる二層以上の層のうち、相対的に屈折率が高い層を「高屈折率層」と呼び、相対的に屈折率が低い層を「低屈折率層」と呼ぶ。
【0026】
一般に、近赤外反射フィルムにおいては、高屈折率層と低屈折率層の屈折率の差により赤外反射能を出すことができるが、その差を大きく設計することが、少ない層数で赤外反射率を高くすることができる観点で好ましい。
【0027】
本発明では、高屈折率層と低屈折率層とから構成されるユニットの少なくとも1つにおいて、隣接する該高屈折率層と低屈折率層との屈折率差が0.1以上であることが好ましく、より好ましくは0.3以上であり、更に好ましくは0.4以上である。
【0028】
特定波長領域の反射率は、隣接する2層の屈折率差と積層数で決まり、屈折率の差が大きいほど、少ない層数で同じ反射率を得られる。この屈折率差と必要な層数については、市販の光学設計ソフトを用いて計算することができる。
【0029】
次いで、本発明の近赤外反射フィルムにおける高屈折率層と低屈折率層の基本的な構成概要について説明する。
【0030】
本発明の近赤外反射フィルムにおいては、基材上に、高屈折率層と低屈折率層から構成されるユニットを少なくとも1つ積層した構成であればよいが、好ましい高屈折率層と低屈折率層の層数としては、上記の観点から、総層数の範囲としては、100層以下、すなわち50ユニット以下であり、より好ましくは40層(20ユニット)以下であり、さらに好ましくは20層(10ユニット)以下である。
【0031】
また、本発明の近赤外反射フィルムにおいては、高屈折率層の好ましい屈折率としては1.80〜2.50であり、より好ましくは1.90〜2.20である。本発明においては、高屈折率層に金属酸化物粒子を含有させることにより、上記屈折率を達成することができる。また、低屈折率層の好ましい屈折率としては1.10〜1.60であり、より好ましくは1.30〜1.50である。
【0032】
本発明において、高屈折率層、低屈折率層の屈折率は、下記の方法に従って求めることができる。
【0033】
基材上に屈折率を測定する各屈折率層を単層で塗設したサンプルを作製し、このサンプルを10cm×10cmに断裁した後、下記の方法に従って屈折率を求める。分光光度計として、U−4000型(日立製作所社製)を用いて、各サンプルの測定面とは反対側の面(裏面)を粗面化処理した後、黒色のスプレーで光吸収処理を行って裏面での光の反射を防止して、5度正反射の条件にて可視光領域(400nm〜700nm)の反射率を25点測定して平均値を求め、その測定結果より平均屈折率を求める。
【0034】
本発明の近赤外反射フィルムの光学特性として、JIS R3106−1998で示される可視光領域の透過率が50%以上であり、かつ、波長900nm〜1400nmの領域に反射率50%を超える領域を有することが好ましい。
【0035】
(金属酸化物粒子)
本発明に係る高屈折率層に用いられる金属酸化物粒子としては、屈折率が2.0以上で、体積平均粒径が膜の可視光透過性を確保する点で100nm以下の金属酸化物粒子を用いることが好ましく、例えば、酸化ジルコニウム粒子、酸化セリウム粒子、酸化チタン粒子等を挙げることができる。また、高屈折率層中の金属酸化物粒子の体積平均粒径も100nm以下であることが好ましい。特に、屈折率を向上でき、赤外反射率を向上できる点で酸化チタン粒子を用いることが好ましい。
【0036】
〈酸化チタン粒子〉
本発明に係る酸化チタン粒子の体積平均粒径は、100nm以下であることが好ましいが、4nm以上、50nm以下であることがより好ましく、更に好ましくは4nm以上、30nm以下である。体積平均粒径が100nm以下であれば、ヘイズが少なく可視光透過性に優れる観点で好ましい。
【0037】
本発明に係る酸化チタン粒子の体積平均粒径とは、粒子そのものあるいは屈折率層の断面や表面に現れた粒子を電子顕微鏡で観察し、1,000個の任意の粒子の粒径を測定し、それぞれd1、d2・・・di・・・dkの粒径を持つ粒子がそれぞれn1、n2・・・ni・・・nk個存在する金属酸化物粒子の集団において、粒子1個当りの体積をviとした場合に、体積平均粒径mv={Σ(vi・di)}/{Σ(vi)}で表される体積で重み付けされた平均粒径である。
【0038】
さらに、本発明に係る酸化チタン粒子は、単分散であることが好ましい。ここでいう単分散とは、下記式で求められる単分散度が40%以下をいう。更に好ましくは30%以下であり、特に好ましくは0.1〜20%となる粒子である。
【0039】
単分散度=(粒径の標準偏差)/(粒径の平均値)×100
〈酸化チタン粒子の製造方法〉
本発明においては、近赤外反射フィルムを製造する方法として、水系高屈折率層塗布液を調製する際に、酸化チタン粒子として、pHが1.0以上、3.0以下で、かつ酸化チタン粒子のゼータ電位が正である水系の酸化チタンゾルを用いることが好ましい。
【0040】
本発明で用いることのできる酸化チタンゾルの調製方法としては、例えば、特開昭63−17221号公報、特開平7−819号公報、特開平9−165218号公報、特開平11−43327号公報、特開昭63−17221号公報、特開平7−819号公報、特開平9−165218号公報、特開平11−43327号公報等に記載された事項を参照にすることができる。
【0041】
また、本発明に係る酸化チタンのその他の製造方法については、例えば、「酸化チタン−物性と応用技術」清野学 p255〜258(2000年)技報堂出版株式会社、或いはWO2007/039953号明細書の段落番号0011〜0023の記載の工程(2)の方法を参考にすることができる。
【0042】
上記工程(2)による製造方法とは、二酸化チタン水和物をアルカリ金属の水酸物又はアルカリ土類金属の水酸化物からなる群から選択される、少なくとも1種の塩基性化合物で処理するWO2007/039953号明細書の段落番号0011〜0016に記載の工程(1)の後に、得られた二酸化チタン分散物を、カルボン酸基含有化合物及び無機酸で処理する工程(2)からなる。本発明では、工程(2)により得られた無機酸によりpHを1.0〜3.0に調整された酸化チタンの水系ゾルを用いることができる。
【0043】
本発明において、高屈折率層中における金属酸化物粒子の含有量としては、高屈折率層全質量の15質量%以上、50質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは、20質量%以上、40質量%以下である。
【0044】
(バインダー)
〈温度応答性ポリマー〉
本発明においてはバインダーとして、高屈折率層と低屈折率層の少なくとも1層に温度応答性ポリマーを含有することを特徴とする。
【0045】
本発明で用いられる温度応答性ポリマーとは、0〜60℃の範囲での臨界溶液温度を境にして水への溶解性が変化するポリマーのことを言う。この温度応答性ポリマーは下限臨界溶液温度を有するポリマー及び上限臨界溶液温度を有するポリマーに区別され、下限臨界溶液温度を有するポリマーは、温度を上げて臨界溶液温度に達するとポリマーが溶媒から分離するものを言う。また上限臨界溶液温度を有するポリマーは、逆に、温度を下げて臨界溶液温度に達するとポリマーが溶媒から分離するものを言う。
【0046】
本発明の下限臨界溶液温度を有するポリマーは、温度応答性を示すポリマー部位(共重合成分)として、例えば、N−n−プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルモルホリン、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−メタクリロイルピロリジン、N−メタクリロイルピペリジン、N−メタクリロイルモルホリン等のN置換(メタ)アクリルアミド誘導体からなるポリマー;ポリビニルアルコール部分酢化物、ポリビニルメチルエーテル、(ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン)ブロックコポリマー、ポリオキシエチレンラウリルアミン等のポリオキシエチレンアルキルアミン誘導体;ポリオキシエチレンソルビタンラウレート等のポリオキシエチレンソルビタンエステル誘導体;(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)アクリレート、(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)メタクリレート等の(ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル)(メタ)アクリレート類;及び(ポリオキシエチレンラウリルエーテル)アクリレート、(ポリオキシエチレンオレイルエーテル)メタクリレート等の(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)(メタ)アクリレート類等のポリオキシエチレン(メタ)アクリル酸エステル誘導体等を含有するポリマーが挙げられる。これらの下限臨界溶液温度を有するポリマー部位は、これらの単量体からなる単独重合体及びこれらの少なくとも2種の単量体からなる共重合体のいずれでもよい。これらのなかでも、下限臨界溶液温度を有するポリマー部位として、N−n−プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルモルホリン、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−メタクリロイルピロリジン、N−メタクリロイルピペリジン、N−メタクリロイルモルホリンからなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体を含有する単独重合体または共重合体が好ましく利用できるが、N−イソプロピルアクリルアミドの単独重合体がさらに柔軟性を向上させるため、より好ましい。
【0047】
また、本発明の上限臨界溶液温度を有するポリマーは、温度応答性を示すポリマー部位(共重合成分)として、例えば、アクリルアミド、N−アセチルアクリルアミド、ビオチノールアクリレート、N−ビオチニル−N′−メタクロイルトリメチレンアミド、アクロイルグリシンアミド、アクロイルザルコシンアミド、メタクリルザルコシンアミド、アクロイルニペコタミド及びアクロイルメチルウラシル等からなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体を含有するポリマーが挙げられる。これらの上限臨界溶液温度を有するポリマー部位は、これらの単量体からなる単独重合体およびこれらの少なくとも2種の単量体からなる共重合体のいずれでもよい。これらのなかでも、上限臨界溶液温度を有するポリマー部位として、アクリルアミド、N−アセチルアクリルアミド、ビオチノールアクリレート、N−ビオチニル−N′−メタクロイルトリメチレンアミド、アクロイルグリシンアミド、アクロイルザルコシンアミド、メタクリルザルコシンアミド、アクロイルニペコタミド及びアクロイルメチルウラシルからなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体を含有する重合体または共重合体が好ましく利用できる。
【0048】
本発明の温度応答性ポリマーの分子量は特に限定されず、温度応答性ポリマーの臨界溶液温度などの性質は、その分子量に殆ど依存しないので重量平均分子量が5,000以上の高分子化合物であれば良い。重量平均分子量が5,000以上、100,000以下の高分子化合物を用いることが好ましい。
【0049】
〈その他のバインダー〉
本発明では、その他のバインダーとして水溶性バインダーを用いることができる。水溶性バインダーは水に対する溶解度(25℃)が0.1質量%以上で重量平均分子量が5,000以上の高分子化合物であれば良く、例えば、ゼラチン、ケン化度85%以上のポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、β1−4グルカン(例えば、カルボキシメチルセルローズ、カルボキシエチルセルローズ等)、ガラクタン(例えば、アガロース、アガロペクチン等)、ガラクトマンノグリカン(例えば、ローカストビーンガム、グアラン等)、キシログルカン(例えば、タマリンドシードガム等)、グルコマンノグリカン(例えば、蒟蒻マンナン、木材由来グルコマンナン、キサンタンガム等)、ガラクトグルコマンノグリカン(例えば、針葉樹材由来グリカン)、アラビノガラクトグリカン(例えば、大豆由来グリカン、微生物由来グリカン等)、グルコラムノグリカン(例えば、ジェランガム等)、グリコサミノグリカン(例えば、ヒアルロン酸、ケラタン硫酸等)、アルギン酸及びアルギン酸塩、寒天、κ−カラギーナン、λ−カラギーナン、ι−カラギーナン、ファーセレラン等の紅藻類に由来する天然高分子多糖類等の各種多糖類、反応性官能基を有するポリマー類を使用できる。
【0050】
本発明においては、層中における温度応答性ポリマーの含有量としては、層中の全バインダー質量の90質量%以上であることが好ましく、更に好ましくは、95質量%以上である。
【0051】
〔その他の添加剤〕
本発明に係る高屈折率層、低屈折率層には、必要に応じて各種添加剤を用いることができる。
【0052】
〈等電点が6.5以下のアミノ酸〉
本発明でいうアミノ酸とは、同一分子内にアミノ基とカルボキシル基を有する化合物であり、α−、β−、γ−などいずれのタイプのアミノ酸でもよいが、等電点が6.5以下のアミノ酸であることを特徴とする。アミノ酸には光学異性体が存在するものもあるが、本発明においては光学異性体による効果の差はなく、いずれの異性体も単独であるいはラセミ体でも使用することができる。
【0053】
本発明に係るアミノ酸の詳しい解説は、化学大辞典1縮刷版(共立出版;昭和35年発行)268頁〜270頁の記載を参照することができる。
【0054】
具体的に好ましいアミノ酸として、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、セリン、等を挙げることができ、特にグリシン、セリンが好ましい。
【0055】
アミノ酸の等電点とは、アミノ酸は特定のpHにおいて分子内の正・負電荷が釣り合い、全体としての電荷が0となるので、このpH値をいう。本発明においては等電点6.5以下のアミノ酸を用いるが、各アミノ酸の等電点については、低イオン強度での等電点電気泳動で求めることが出来る。
【0056】
〈エマルジョン樹脂〉
本発明においては、本発明に係る高屈折率層または低屈折率層が、更にエマルジョン樹脂を含有させてもよい。
【0057】
本発明でいうエマルジョン樹脂とは、油溶性のモノマーを、分散剤を含む水溶液中でエマルジョン状態に保ち、重合開始剤を用いて乳化重合させた樹脂微粒子である。
【0058】
エマルジョンの重合時に使用される分散剤としては、一般的には、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジエチルアミン、エチレンジアミン、4級アンモニウム塩のような低分子の分散剤の他に、ポリビニルピロリドンのような高分子分散剤が挙げられる。
【0059】
本発明に係るエマルジョン樹脂とは、水系媒体中に微細な、例えば、平均粒径が0.01〜2.0μm程度の樹脂粒子がエマルジョン状態で分散されている樹脂で、油溶性のモノマーを、水酸基を有する高分子分散剤を用いてエマルジョン重合して得られる。用いる分散剤の種類によって、得られるエマルジョン樹脂のポリマー成分に基本的な違いは見られないが、水酸基を有する高分子分散剤を用いてエマルジョン重合すると、微細な微粒子の少なくとも表面に水酸基の存在が推定され、他の分散剤を用いて重合したエマルジョン樹脂とはエマルジョンの化学的、物理的性質が異なる。
【0060】
水酸基を含む高分子分散剤とは、重量平均分子量が10000以上の高分子の分散剤で、側鎖または末端に水酸基が置換されたものであり、例えばポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミドのようなアクリル系の高分子で2−エチルヘキシルアクリレートが共重合されたもの、ケン化度85%以上のポリビニルアルコールなどが挙げられ、特にケン化度85%以上のポリビニルアルコールが好ましい。
【0061】
高分子分散剤として使用されるケン化度85%以上のポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルを加水分解して得られる通常のポリビニルアルコールの他に、カチオン変性したポリビニルアルコールやカルボキシル基のようなアニオン性基を有するアニオン変性ポリビニルアルコール、シリル基を有するシリル変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコールも含まれる。ポリビニルアルコールは、平均重合度が5000以内であると、エマルジョン樹脂の粘度が高くなく、製造時に取り扱いやすい。したがって、平均重合度は300〜5000のものが好ましく、1500〜5000のものがより好ましく、3000〜4500のものが特に好ましい。
【0062】
上記の高分子分散剤で乳化重合される樹脂としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ビニル系化合物、スチレン系化合物といったエチレン系単量体、ブタジエン、イソプレンといったジエン系化合物の単独重合体または共重合体が挙げられ、例えばアクリル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂等が挙げられる。
【0063】
〈各屈折率層のその他の添加剤〉
本発明に係る高屈折率層と低屈折率層に適用可能な各種の添加剤を以下に列挙する。例えば、特開昭57−74193号公報、同57−87988号公報及び同62−261476号公報に記載の紫外線吸収剤、特開昭57−74192号、同57−87989号公報、同60−72785号公報、同61−146591号公報、特開平1−95091号公報及び同3−13376号公報等に記載されている退色防止剤、アニオン、カチオンまたはノニオンの各種界面活性剤、特開昭59−42993号公報、同59−52689号公報、同62−280069号公報、同61−242871号公報および特開平4−219266号公報等に記載されている蛍光増白剤、硫酸、リン酸、酢酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等のpH調整剤、消泡剤、ジエチレングリコール等の潤滑剤、防腐剤、帯電防止剤、マット剤等の公知の各種添加剤を含有させることもできる。
【0064】
〔基材〕
本発明の近赤外反射フィルムに適用する基材としては、フィルム支持体であることが好ましく、フィルム支持体は、透明であっても不透明であってもよく、種々の樹脂フィルムを用いることができ、ポリオレフィンフィルム(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステルフィルム(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリ塩化ビニル、3酢酸セルロース等を用いることができ、好ましくはポリエステルフィルムである。ポリエステルフィルム(以降ポリエステルと称す)としては、特に限定されるものではないが、ジカルボン酸成分とジオール成分を主要な構成成分とするフィルム形成性を有するポリエステルであることが好ましい。主要な構成成分のジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルチオエーテルジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸などを挙げることができる。また、ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビスフェノールフルオレンジヒドロキシエチルエーテル、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、シクロヘキサンジオールなどを挙げることができる。これらを主要な構成成分とするポリエステルの中でも透明性、機械的強度、寸法安定性などの点から、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸や2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジオール成分として、エチレングリコールや1,4−シクロヘキサンジメタノールを主要な構成成分とするポリエステルが好ましい。中でも、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートを主要な構成成分とするポリエステルや、テレフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸とエチレングリコールからなる共重合ポリエステル、およびこれらのポリエステルの二種以上の混合物を主要な構成成分とするポリエステルが好ましい。
【0065】
本発明に係るフィルム支持体の厚みは、10〜300μmであることが好ましく、より好ましくは20〜150μmである。また、本発明のフィルム支持体は、2枚を重ねたものであっても良く、この場合、その種類が同じでも異なってもよい。
【0066】
〔近赤外反射フィルムの製造方法〕
本発明の近赤外反射フィルムの製造方法では、基材上に高屈折率層と低屈折率層とから構成されるユニットを積層して形成される。具体的には高屈折率層と低屈折率層とを交互に塗布、乾燥して積層体を形成することが好ましいが、同時に重層塗布、乾燥して形成することがより好ましい。
【0067】
塗布方式としては、例えば、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、エアナイフコーティング法、スプレーコーティング法、カーテン塗布方法、あるいは米国特許第2,761,419号、同第2,761,791号公報に記載のホッパーを使用するスライドビード塗布方法、エクストルージョンコート法等が好ましく用いられる。
【0068】
塗布および乾燥方法としては、高屈折率層塗布液と低屈折率層塗布液のうち、温度応答性ポリマーを含有させた塗布液は、添加した温度応答性ポリマーが塗布液中で溶解している必要がある。そのため、添加した温度応答性ポリマーが下限臨界溶液温度を有する場合は、臨界溶液温度以下にしておく必要があり、添加した温度応答性ポリマーが上限臨界溶液温度を有する場合は、臨界溶液温度以上にしておく必要がある。さらに、塗布する基材面の温度も添加した温度応答性ポリマーの種類に応じて、下限臨界溶液温度を有する場合は、臨界溶液温度以下にしておくのが好ましく、添加した温度応答性ポリマーが上限臨界溶液温度を有する場合は、臨界溶液温度以上にしておくことが好ましい。塗布後の乾燥においては、添加した温度応答性ポリマーが下限臨界溶液温度を有する場合は、塗布後すぐに下限臨界溶液温度以上で乾燥することが好ましく、添加した温度応答性ポリマーが上限臨界溶液温度を有する場合は、形成した塗膜の温度を上限臨界溶液温度以下に一旦冷却し、上限臨界溶液温度以下で恒率乾燥した後、上限臨界溶液温度以上で乾燥することが好ましい。
【0069】
本発明においては、温度応答性ポリマーの温度に対する上記性質を利用することにより、塗布時の層間の混合を抑えて、界面分離させることができるため、充分な赤外反射率を確保できるようになったと思われる。
【0070】
さらに本発明においては、温度応答性ポリマーを含有させた塗布液の隣接層の塗布液温度を温度応答性ポリマーの臨界溶液温度に対して、温度応答性ポリマーが溶解しない温度にして、同時重層塗布乾燥すると最も好ましい結果が得られる。すなわち、例えば、下限臨界溶液温度を有する温度応答性ポリマーを含有させた塗布液の隣接層の塗布液温度は下限臨界溶液温度以上で同時に塗布乾燥することを意味する。これにより隣接層間の界面分離が、逐次塗布乾燥により形成した場合以上に促進され、より好ましい結果が得られたのは驚くべきことであった。
【0071】
また、本発明における近赤外反射フィルムの製造方法では、環境上の問題から塗布液が水系の場合が好ましい。本発明において「水系」とは、塗布液中に50質量%以上水が含まれている場合を指す。好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。塗布液が水系の場合、環境上の問題の解決に加えて、製造コストの低減及び光反射フィルム等の大面積化が可能となる。
【0072】
〔近赤外反射フィルムの応用〕
本発明の近赤外反射フィルムは、幅広い分野に応用することができる。例えば、建物の屋外の窓や自動車窓等長期間太陽光に晒らされる設備に貼り合せ、熱線反射効果を付与する熱線反射フィルム等の窓貼用フィルム、農業用ビニールハウス用フィルム等として、主として耐候性を高める目的で用いられる。
【0073】
特に、本発明に係る近赤外反射フィルムが直接もしくは接着剤を介してガラスもしくはガラス代替樹脂基材に貼合されている部材には好適である。
【0074】
接着剤は、窓ガラスなどに貼り合わせたとき、近赤外反射フィルムが日光(熱線)入射面側にあるように設置する。また近赤外反射フィルムを窓ガラスと基材との間に挟持すると、水分等周囲ガスから封止でき耐久性に好ましい。本発明の近赤外反射フィルムを屋外や車の外側(外貼り用)に設置しても環境耐久性があって好ましい。
【0075】
本発明に適用可能な接着剤としては、光硬化性もしくは熱硬化性の樹脂を主成分とする接着剤を用いることができる。
【0076】
接着剤は紫外線に対して耐久性を有するものが好ましく、アクリル系粘着剤またはシリコーン系粘着剤が好ましい。更に粘着特性やコストの観点から、アクリル系粘着剤が好ましい。特に剥離強さの制御が容易なことから、アクリル系粘着剤において、溶剤系及びエマルジョン系の中で溶剤系が好ましい。アクリル溶剤系粘着剤として溶液重合ポリマーを使用する場合、そのモノマーとしては公知のものを使用できる。
【0077】
また、合わせガラスの中間層として用いられるポリビニルブチラール系樹脂、あるいはエチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂を用いてもよい。具体的には可塑性ポリビニルブチラール(積水化学工業社製、三菱モンサント社製等)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(デュポン社製、武田薬品工業社製、デュラミン)、変性エチレン−酢酸ビニル共重合体(東ソー社製、メルセンG)等である。なお、接着層には紫外線吸収剤、抗酸化剤、帯電防止剤、熱安定剤、滑剤、充填剤、着色、接着調整剤等を適宜添加配合してもよい。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0079】
実施例1
《近赤外反射フィルムの作製》
〔試料1の作製〕
(高屈折率層塗布液の調製)
下記の添加物(1)〜(4)をこの順序で添加、混合して、高屈折率層塗布液を調製した。
(1)30%酸化ジルコニウム粒子ゾル(体積平均粒径10nm) 30g
(2)5.0%ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド水溶液 200g
(下限臨界溶解温度21℃)
(3)純水 150g
(4)5.0%界面活性剤水溶液 0.45g
(ニッサンカチオン 2−DB−500E、4級アンモニウム塩系カチオン性界面活性剤、日油社製)
(低屈折率層塗布液の調製)
下記の添加物(1)〜(4)をこの順序で添加、混合して、低屈折率層塗布液を調製した。
(1)20%コロイダルシリカ 68g
(2)5.0%ポリビニルアルコール(PVA235)水溶液 200g
(3)純水 240g
(4)5.0%界面活性剤水溶液 0.64g
(ニッサンカチオン2−DB−500E、4級アンモニウム塩系カチオン性界面活性剤、日油社製)
(積層体の形成)
〈高屈折率層の形成〉
上記調製した高屈折率層用塗布液を18℃に保温しながら、35℃に加温した厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に、乾燥膜厚が135nmとなる条件で、ワイヤーバーを用いて塗布し、80℃の温風を吹き付けて乾燥させて、高屈折率層を形成した。
【0080】
〈低屈折率層の形成〉
次いで、低屈折率層用塗布液を35℃に保温しながら、35℃に加温した上記ポリエチレンテレフタレートフィルムの高屈折率層上に、乾燥膜厚が175nmとなる条件で、ワイヤーバーを用いて塗布し、80℃の温風を吹き付けて乾燥させて、低屈折率層を形成した。
【0081】
〈近赤外反射フィルムの作製〉
上記形成した低屈折率層上に、同様に繰り返し高屈折率層/低屈折率層から構成されるユニットを更に5ユニット積層し、それぞれ6層の高屈折率層及び低屈折率層(合計12層)から構成された近赤外反射フィルムである試料1を作製した。
【0082】
〔試料2の作製〕
上記試料1の作製において、高屈折率層塗布液の調製で酸化ジルコニウム粒子ゾルを酸化チタン粒子ゾル(体積平均粒径35nm、ルチル型酸化チタン粒子)に変更する以外は同様にして、試料2を作製した。
【0083】
〔試料3の作製〕
上記試料2の作製において、高屈折率層塗布液のバインダーをポリビニルアルコール(PVA235)に変更し、高屈折率層用塗布液を35℃に保温しながら、35℃に加温した上記ポリエチレンテレフタレートフィルム上に、乾燥膜厚が175nmとなる条件で、ワイヤーバーを用いて塗布し、80℃の温風を吹き付けて乾燥させて、高屈折率層を形成した。次に、低屈折率層塗布液のバインダーをポリ−N−n−プロピルアクリルアミドに変更し、低屈折率層用塗布液を18℃に保温しながら、35℃に加温した厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの高屈折率層上に、乾燥膜厚が135nmとなる条件で、ワイヤーバーを用いて塗布し、80℃の温風を吹き付けて乾燥させて、低屈折率層を形成した後は同様にして、試料3を作製した。
【0084】
〔試料4の作製〕
上記試料2の高屈折率層塗布液を用いて、高屈折率層用塗布液を18℃に保温しながら、35℃に加温した厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に、乾燥膜厚が135nmとなる条件で、ワイヤーバーを用いて塗布し、80℃の温風を吹き付けて乾燥させて、高屈折率層を形成した。次に試料3の低屈折率層塗布液を用いて、高屈折率層用塗布液と同様に、低屈折率層用塗布液を18℃に保温しながら、35℃に加温した厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの高屈折率層上に、乾燥膜厚が135nmとなる条件で、ワイヤーバーを用いて塗布し、80℃の温風を吹き付けて乾燥させて、低屈折率層を形成した後は同様にして、試料4を作製した。
【0085】
〔試料5の作製〕
上記試料2の作製において、高屈折率層塗布液のバインダーをポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド(下限臨界溶解温度32℃)に変更する以外は同様にして、試料5を作製した。
【0086】
〔試料6の作製〕
上記試料2の作製において、高屈折率層塗布液のバインダーをポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(下限臨界溶解温度32℃)に変更する以外は同様にして、試料6を作製した。
【0087】
〔試料7の作製〕
上記試料2の作製において、高屈折率層塗布液のバインダーをN−アクリロイルグリシンアミド−N−アクリロイルアスパラギンアミド共重合体(2:1)(上限臨界溶解温度8℃)に変更し、高屈折率層用塗布液を12℃に保温しながら、5℃に調整した上記ポリエチレンテレフタレートフィルム上に、乾燥膜厚が175nmとなる条件で、ワイヤーバーを用いて塗布し、次いで、膜面が5℃以下となる条件で冷風を3分間吹き付けた後、80℃の温風を吹き付けて乾燥させて、高屈折率層を形成した以外は同様にして、試料7を作製した。
【0088】
〔試料8の作製〕
上記試料7の作製において、高屈折率層塗布液のバインダーを:N−アセチルアクリルアミド−メタクリルアミド共重合体(1:12)(上限臨界溶解温度21℃)に変更し、高屈折率層用塗布液を25℃に保温しながら、15℃に調整した上記ポリエチレンテレフタレートフィルム上に、乾燥膜厚が175nmとなる条件で、ワイヤーバーを用いて塗布し、次いで、膜面が15℃以下となる条件で冷風を3分間吹き付けた後、80℃の温風を吹き付けて乾燥させて、高屈折率層を形成した以外は同様にして、試料8を作製した。
【0089】
〔試料9〜11の作製〕
上記試料2、5、6の作製において、高屈折率層用塗布液と低屈折率層用塗布液を、乾燥膜厚がそれぞれ135nmとなる条件で、ダイコーターにて同時に6ユニット分を35℃に加温した厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布後、80℃の温風を吹き付けて乾燥させて、高屈折率層と低屈折率層を同時に形成した以外は同様にして、6層の高屈折率層及び低屈折率層(合計12層)からなる試料9〜11を作製した。
【0090】
〔試料12の作製〕
上記試料7の作製において、低屈折率層用塗布液の温度を5℃に保温して、高屈折率層用塗布液と低屈折率層用塗布液を同時に6ユニット分塗布後、80℃の温風を吹き付けて乾燥させて、高屈折率層と低屈折率層を同時に形成した以外は同様にして、試料12を作製した。
【0091】
〔試料13の作製〕
上記試料8の作製において、低屈折率層用塗布液の温度を15℃に保温して、高屈折率層用塗布液と低屈折率層用塗布液を同時に6ユニット分塗布後、80℃の温風を吹き付けて乾燥させて、高屈折率層と低屈折率層を同時に形成した以外は同様にして、試料13を作製した。
【0092】
〔試料14の作製〕
上記試料9の作製において、試料3の高屈折率層用塗布液と低屈折率層用塗布液を使用する以外は同様にして、試料14を作製した。
【0093】
〔試料15の作製〕
上記試料9の作製において、試料6の高屈折率層用塗布液と低屈折率層用塗布液のバインダーをN−アセチルアクリルアミド−メタクリルアミド共重合体(1:12)(上限臨界溶解温度21℃)に変更して液温を25℃に保温する以外は同様にして、試料15を作製した。
【0094】
〔試料16の作製〕
上記試料1の作製において、高屈折率層塗布液の調製で酸化ジルコニウム粒子ゾルを添加しない以外は同様にして、試料16を作製した。
【0095】
〔試料17の作製〕
上記試料1の作製において、高屈折率層塗布液の調製でバインダーとしてポリビニルアルコール(PVA235)に変更する以外は同様にして、試料17を作製した。
【0096】
〔試料18の作製〕
上記試料1の作製において、高屈折率層塗布液の調製でバインダーとして温度応答性を有しないポリアクリルアミドに変更する以外は同様にして、試料18を作製した。
【0097】
〔試料19の作製〕
特開2009−86659号の実施例1及び実施例2に従ってPETベース上に高屈折率層と低屈折率層をそれぞれ6層ずつ交互に積層して、試料19を作製した。
【0098】
以下のように作製した。
【0099】
〈分散液Aの調製〉
無機粒子としてルチル型酸化チタン(石原産業株式会社製「TTO−55A」、粒径30〜50nm、水酸化アルミニウム表面処理品、屈折率2.6)を109部、分散剤としてポリエチレンイミン系ブロックポリマーを11部、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA、和光純薬株式会社製)180部を、直径0.5mmのジルコニアビーズ141部を用いてビーズミル分散機で24分間分散させた後、直径0.1mmのジルコニアビーズに切り替えてビーズミル分散機で147分間分散させることにより、分散液Aを得た。
【0100】
〈溶液Aの調製〉
バインダー樹脂として4,4′−ビス(β−メタクリロイルオキシエチルチオ)ジフェニルスルホン(硬化後の屈折率1.65)を50%、重合開始剤として2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドを0.25%含有するPGMEA溶液を調製し、溶液Aとした。
【0101】
〈溶液Bの調製〉
分散液Aと溶液Aの質量混合比1:7の混合液を調製し、溶液Bとした。
【0102】
〈溶液Cの調製〉
溶液BとPGMEAの質量混合比1:2の混合液を調製し、溶液Cとした。
【0103】
〈高屈折率層Aの作製〉
溶液Cを厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に2ml滴下し、1000rpm、30秒の条件でスピンコーター(ミカサ株式会社製1H−D7)により塗布した後、120℃で10分間加熱した。その後、出力184W/cmの無電極水銀ランプ(フュージョンUVシステムズ社製)を用いて積算光量2.8J/cmの紫外線を照射することにより高屈折率層Aを得た。膜厚は134nm程度であった。
【0104】
高屈折率層Aをコロナ放電処理(信光電気計装株式会社製コロナ放電表面改質装置)により表面改質した後、1%のヒドロキシエチルセルロース(東京化成工業株式会社製)の水溶液を2ml滴下し、1分間室温で放置した後、500rpm、30秒のスピンコート条件で塗布した。塗布直後、すぐさま80℃のホットプレート(アズワン株式会社製HPD−3000)上に試料を置いて10分間加熱することにより高屈折率層Aの上に低屈折率層を積層させた。
【0105】
更に、同様な操作により、高屈折率層と低屈折率層を更にそれぞれ5層ずつ交互に積層して試料19を作製した。
【0106】
〔試料20の作製〕
特開2004−123766号の実施例1及び応用例に従ってPETベース上に高屈折率層と低屈折率層をそれぞれ6層ずつ交互に積層して、試料20を作製した。
【0107】
以下のように作製した。
【0108】
下記のように原料を配合しボールミルにて4時間分散させ、分散粒子径が20nmに達したのを確認後、紫外線硬化バインダー(信越化学工業製 X−12−2400、有効成分30質量%)1.5部、触媒(信越化学工業製DX−2400)0.15部配合し、ボールミルにて1時間分散させ、分散粒子径が16nmに達したのを確認し、これを高屈折率コーティング液Aとした。これをPETフィルム(厚さ50μm)にバーコーターNo.08にて乾燥膜厚み100nmになるように塗布し、100℃乾燥後、紫外線を照射し、硬化させ、高屈折率層Bを形成した。
【0109】
イソプロピルアルコール 100部
ピリジン(和光純薬製 試薬特級) 3部
エチルシリケート溶液 5部
(コルコート製 HAS−1、有効成分30%)
ルチル型酸化チタン微粒子(石原産業製 55N) 10部
次いで、低屈折率層を形成した。
【0110】
(低屈折率層のスラリー組成)
粒子直径10〜20nm(平均粒子径15nm)のシリカゾル(日産化学工業製「IPA−ST」)1部、有機溶剤としてイソプロピルアルコール(和光純薬製 試薬特級)を10部、バインダー前駆体として紫外線硬化バインダー(信越化学工業製 X−12−2400)3〜10部、触媒(信越化学工業製DX−2400)0.3〜1部を配合しスターラー攪拌し低屈折率層用溶液を得、これをバーコーターにて高屈折率層B上に塗布した。塗布後、100℃で乾燥し、紫外線照射して硬化させ低屈折率層を形成した。高屈折率層と低屈折率層を更にそれぞれ5層ずつ交互に積層して、試料20を作製した。
【0111】
《近赤外反射フィルムの評価》
上記作製した各近赤外反射フィルムについて、下記の特性値の測定及び性能評価を行った。
【0112】
(各層の屈折率の測定)
基材上に屈折率を測定する対象層(高屈折率層、低屈折率層)をそれぞれ単層で塗設したサンプルを作製し、下記の方法に従って、各高屈折率層及び低屈折率層の屈折率を求めた。
【0113】
分光光度計として、U−4000型(日立製作所社製)を用いて、各サンプルの測定側の裏面を粗面化処理した後、黒色のスプレーで光吸収処理を行って裏面での光の反射を防止して、5度正反射の条件にて可視光領域(400nm〜700nm)の反射率の測定結果より、屈折率を求め、表1に示した。
【0114】
(経時劣化条件)
以下の温度サイクルを経時代用条件とした。
【0115】
・温度:低温 −20℃ 高温 +55℃
・時間:各上下限10分以上、1サイクル3時間
・温度変化率:上昇・降下ともに100℃/hr.
・サイクル数:90
・風速:2m/s
(可視光透過率および赤外透過率の測定)
上記作製した各赤外反射フィルムについて、上記経時劣化条件で処理後に、屈折率測定で使用した分光光度計(積分球使用、日立製作所社製、U−4000型)を用い、各赤外反射フィルムの300nm〜2000nmの領域における透過率を測定した。可視光透過率は550nmにおける透過率の値を、赤外透過率は1200nmにおける透過率の値を用いた。
【0116】
(柔軟性の評価)
上記作製した各赤外反射フィルムについて、上記経時劣化条件で処理後に、JIS K5600−5−1に準拠した屈曲試験法に基づき、屈曲試験機タイプ1(井元製作所社製、型式IMC−AOF2、マンドレル径φ20mm)を用いて、1000回の屈曲試験を行った後、赤外反射フィルム表面を目視観察し、下記の基準に従って柔軟性を評価した。
【0117】
◎:赤外反射フィルム表面に、折り曲げ跡やひび割れは観察されない
○:赤外反射フィルム表面に、わずかに折り曲げ跡が観察される
△:赤外反射フィルム表面に、微小なひび割れが僅かに観察される
×:赤外反射フィルム表面に、明らかなひび割れが多数発生している
(着色性の評価)
作製した各赤外反射フィルムについて、メタルハライドランプ式耐候性試験機(スガ試験機製 M6T)により、放射照度1kW/mの光を100時間照射し、照射後における着色状態を目視観察し、下記の基準に従って評価した。
【0118】
◎:着色が全く認められない
○:ほぼ着色が認められない
△:わずかに着色が認められる
×:明らかな着色が認められる
以上により得られた測定結果、評価結果を、表1に示す。
【0119】
【表1】

【0120】
表1に記載の結果より明らかなように、本発明の近赤外反射フィルムは、可視光透過率を低下させることなく、近赤外透過率を低下させることが可能であり、かつ経時しても着色せず、安定した柔軟性があることが分かる。
【0121】
実施例2
〔近赤外反射体1〜15の作製〕
実施例1で作製した試料1〜15の近赤外反射フィルムを用いて近赤外反射体1〜15を作製した。厚さ5mm、20cm×20cmの透明アクリル樹脂板上に、試料1〜15の近赤外反射フィルムをそれぞれアクリル接着剤で接着して、近赤外反射体1〜15を作製した。
【0122】
〔評価〕
上記作製した本発明の近赤外反射体1〜15は、近赤外反射体のサイズが大きいにもかかわらず、容易に利用可能であり、また、本発明の近赤外反射フィルムを利用することで、優れた近赤外反射性を確認することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、高屈折率層と低屈折率層とから構成されるユニットを少なくとも1つ有する近赤外反射フィルムにおいて、該高屈折率層に金属酸化物粒子を含有し、該高屈折率層と低屈折率層の少なくとも1層に温度応答性ポリマーを含有することを特徴とする近赤外反射フィルム。
【請求項2】
前記高屈折率層が、金属酸化物粒子として、酸化チタン粒子を含有することを特徴とする請求項1に記載の近赤外反射フィルム。
【請求項3】
前記温度応答性ポリマーが、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の近赤外反射フィルム。
【請求項4】
基材上に、高屈折率層と低屈折率層とから構成されるユニットを少なくとも1つ有し、該高屈折率層に金属酸化物粒子を含有する近赤外反射フィルムの製造方法において、該高屈折率層と低屈折率層の少なくとも1層が温度応答性ポリマーを含有する塗布液を用いて形成されることを特徴とする近赤外反射フィルムの製造方法。
【請求項5】
高屈折率層形成用の塗布液と低屈折率層形成用の塗布液のどちらか一方の塗布液の温度を臨界溶液温度以下とし、他方の塗布液の温度を臨界溶液温度以上として、同時に重層塗布を行い、乾燥することにより形成することを特徴とする請求項4に記載の近赤外反射フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記塗布液が、水系であることを特徴とする請求項4または5に記載の近赤外反射フィルムの製造方法。
【請求項7】
基体の少なくとも一方の面側に、請求項1〜3のいずれか1項に記載の近赤外反射フィルムを有することを特徴とする近赤外反射体。

【公開番号】特開2013−41201(P2013−41201A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179437(P2011−179437)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】