説明

近赤外線吸収材

【課題】反射色調が青色を示さず、近赤外線を有効に吸収し、かつ可視光線透過率の高い、透明性に優れる近赤外線吸収材を提供すること。
【解決手段】基材上に近赤外線吸収層を積層した近赤外線吸収材であって、近赤外線吸収層が樹脂、平均粒子径40〜200nmの無機近赤外線吸収剤、及び平均粒子径5〜30nmの金属酸化物微粒子を含有してなる、可視光線透明性を有する近赤外線吸収材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線吸収材に関し、特にはプラズマディスプレイパネル(以下「PDP」と記載することがある。)用のフィルターとして特に優れる近赤外線吸収材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイの大型化、薄型化に伴い、PDPが注目を集めている。PDPは近赤外線を発することが知られており、近赤外線によって、コードレスホン、近赤外線リモートコントロール装置を使用するビデオデッキなど、周辺にある電子機器に悪影響を及ぼし、正常な動作を阻害する恐れがあった。そこで、種々のPDP用近赤外線フィルターが提案され、特に近赤外線吸収力が大きく、かつ耐久性に優れたものとして、近赤外線吸収材料に平均分散粒径が800nm以下の、タングステン酸化物微粒子及び/又は複合タングステン酸化物微粒子を用いた近赤外線吸収フィルターが提案されている(特許文献1参照)。さらに、これに反射防止機能をも付与した反射防止フィルムが提案されている(特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−154516号公報
【特許文献2】特開2006−201463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1及び2に記載される近赤外線吸収フィルター及び反射防止フィルムは、良好な近赤外線吸収能を有する点で優れているが、反射色調が青色であるという問題点があった。反射色調が青色であると、コントラストが不十分となる上、不使用時のディスプレイの外観が青味がかり、意匠上も好ましくない。
反射色調が青色となる原因としては、近赤外線吸収材料として用いられる酸化タングステン系粒子の粒子径が小さいことに起因するレイリー散乱によるものと考えられる。レイリー散乱領域における散乱光は、粒子径の6乗に反比例して低減するため、近赤外線吸収材料の粒子径を大きくすることで、該散乱光を抑制することができるが、一定以上の大きさになると、ミー散乱が支配的となり、白濁の問題が生じる。従って、これまでは、近赤外線吸収材の反射色調が青色を呈する点について改善策が見出されていないのが現状であった。
そこで、本発明の課題は、反射色調が青色を示さず、近赤外線を有効に吸収し、かつ可視光線透過率の高い、透明性に優れる近赤外線吸収材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の平均粒子径を有する無機の近赤外線吸収剤及び特定の平均粒子径を有する金属酸化物微粒子を併用することにより、上記課題を解決し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づき完成したものである。
すなわち、本発明は、基材上に近赤外線吸収層を積層した近赤外線吸収材であって、近赤外線吸収層が樹脂、平均粒子径40〜200nmの無機近赤外線吸収剤、及び平均粒子径5〜30nmの金属酸化物微粒子を含有してなる、可視光線透明性を有する近赤外線吸収材を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、反射色調が青色を示さず、近赤外線を有効に吸収し、かつ可視光線透過率の高い、透明性に優れる近赤外線吸収材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の近赤外線吸収材について、図面を参照しながら以下説明する。図1は本発明の近赤外線吸収材の構成を示す模式図であり、基材2上に近赤外線吸収層3が積層された構成を有する。尚、本発明の近赤外線吸収材は、フィルム、シート、或は板の各種形態を採り得る。特に、これらの形態を、各々、近赤外線吸収フィルム、近赤外線吸収シート、或は近赤外線吸収板とも呼称する。
基材2としては、特に制限はなく、従来近赤外線吸収材の基材として公知の物、即ち材料としてはプラスチック(樹脂)又はガラスから適宜選択して用いることができる。また、基材の形態としては、フィルム、シート、或は板の各種形態を用いることが出来、厚みとしては、20〜5000μm程度の範囲のものが用いられる。
【0008】
プラスチック基材としては、上述のようにフィルム、シート、或は板の何れの形態でも用いることが出来、具体的材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ノルボルネン系樹脂、シクロオレフィン樹脂などのポリオレフィン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチルなどのアクリル樹脂;ポリスチレン;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどの塩化ビニル系樹脂;セロファン、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、アセチルセルロースブチレートなどのセルロース系樹脂;ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体などの酢酸ビニル系樹脂;ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなどのポリスルホン系樹脂;ポリイミド、ポリエーテルイミドなどのポリイミド系樹脂;ポリアミド樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;フッ素樹脂等を挙げることができる。
ガラスは主に板の形態で用いられ、具体的材料としては、ソーダ硝子、カリ硝子、石英硝子、硼珪酸硝子等を挙げることができる。
これらのうち、透明性、表面平滑性、機械的強度等の点からポリエステル樹脂を材料とする厚さ50〜200μm程度のフィルムが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
また、ガラス基材も、光学的特性、機械的特性の点から好ましい。
【0009】
上記基材は、透明、半透明のいずれであってもよく、また、着色されていてもよいが、PDP用としては無色透明が好ましい。
これらの基材の厚さは特に制限はなく、使用形態に応じて、上述のように20〜5000μm程度のものが適宜選定される。フィルム乃至シート形態の場合、15〜250μm、好ましくは30〜200μmの範囲であり、板形態の場合、1000〜5000μm程度の範囲である。また、基材として、上記プラスチックフィルムを用いる場合には、その表面に設けられる層との密着性を向上させる目的で、所望により片面又は両面に、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれるが、一般にはコロナ放電処理法が効果及び操作性などの面から好ましい。
【0010】
本発明における近赤外線吸収層は樹脂、無機近赤外線吸収剤及び金属酸化物微粒子を含有する。
ここで用いる樹脂は、無機近赤外線吸収剤及び金属酸化物微粒子を結着させるためのバインダーの機能を果たし、基材上に近赤外線吸収層を形成することができるものであれば特に制限はなく、電離放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。これらのうち、加工適性、耐久性等の点で電離放射線硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂が好適に挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
また、非常に短時間の照射時間で硬化させることが可能であり、生産効率が高いとの観点から、電離放射線硬化性樹脂が好ましく、特に装置が簡便である紫外線硬化性樹脂が好ましい。
【0011】
電離放射線硬化性樹脂とは、電磁波又は荷電粒子線、例えば紫外線又は電子線などを照射することにより、架橋乃至重合反応により、硬化する樹脂を意味する。このような電離放射線硬化性樹脂としては、例えば電離放射線重合性プレポリマー及び/又は電離放射線重合性モノマーを挙げることができる。
【0012】
上記電離放射線重合性プレポリマー(オリゴマーとも云う)としては、分子中にラジカル重合性不飽和基を有するプレポリマーとして、例えばポリエステル(メタ)アクリレート系、エポキシ(メタ)アクリレート系、ウレタン(メタ)アクリレート系、ポリオール(メタ)アクリレート系、エポキシ系樹脂などが挙げられる。なお、ここで、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート又はメタクリレート」を意味する。また、カチオン重合性プレポリマーとして、例えば、ノボラック型エポキシ樹脂プレポリマー、芳香族ビニルエーテル系樹脂プレポリマー等が挙げられる。
次に、電離放射線重合性モノマー(単量体)の例を挙げると、分子中にラジカル重合性不飽和基を有するモノマーとして、多官能性(メタ)アクリレートが好ましく、具体的にはエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、カチオン重合性モノマーとして、例えば、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートなどの脂環式エポキシド類、ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどグリシジルエーテル類、4−ヒドロキシブチルビニルエーテルなどビニルエーテル類、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタンなどオキセタン類等が挙げられる。これらの電離放射線重合性モノマーは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、前記電離放射線重合性プレポリマーと併用してもよい。
【0013】
電離放射線硬化性樹脂として紫外線硬化性樹脂を用いる場合には、光重合用開始剤を樹脂100質量部に対して、0.1〜5質量部程度添加することが望ましい。光重合用開始剤としては、従来慣用されているものから適宜選択することができ、特に限定されず、例えば、分子中にラジカル重合性不飽和基を有する重合性モノマーや重合性オリゴマーに対しては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−2(ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、ベンゾフェノン、p−フェニルベンゾフェノン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリーブチルアントラキノン、2−アミノアントラキノン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタールなどが挙げられる。
また、分子中にカチオン重合性官能基を有する重合性オリゴマー等に対しては、芳香族スルホニウム塩、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、メタロセン化合物、ベンゾインスルホン酸エステル等が挙げられる。
また、光増感剤としては、例えばp−ジメチル安息香酸エステル、第三級アミン類、チオール系増感剤などを用いることができる。
【0014】
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、フェノール−ホルマリン樹脂、尿素樹脂、尿素−ホルマリン樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル−メラミン樹脂、メラミン−ホルマリン樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ−メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、汎用の2液硬化型アクリル樹脂(アクリルポリオール硬化物)などを例示することができる。
【0015】
本発明における無機近赤外線吸収剤は、可視光線透明性(単に透明性とも云う)と近赤外線吸収性との両立、樹脂中への分散適性等の点から、その平均粒子径が40〜200nmの無機材料であることを要する。無機材料としては、本発明の効果を奏する範囲であれば、材料自体に制限はなく、金属酸化物、金属ホウ化物、金属窒化物などが挙げられる。
金属酸化物としては、例えば、酸化タングステン系化合物、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化亜鉛、酸化ルテニウム、酸化インジウム、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、酸化錫、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、酸化セシウムなどが挙げられる。
金属ホウ(硼)化物としては、多ホウ化金属化合物が好ましく、具体的には、ホウ化ランタン(LaB6)、ホウ化プラセオジウム(PrB6)、ホウ化ネオジウム(NdB6)、ホウ化セリウム(CeB6)、ホウ化イットリウム(YB6)、ホウ化チタン(TiB6)、ホウ化ジルコニウム(ZrB6)、ホウ化ハフニウム(HfB6)、ホウ化バナジウム(VB6)、ホウ化タンタル(TaB6)、ホウ化クロム(CrB、CrB6)、ホウ化モリブデン(MoB6、Mo25、MoB)、ホウ化タングステン(W25)などが挙げられる。
また金属窒化物としては、窒化チタン、窒化ニオブ、窒化タンタル、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、窒化バナジウムなどが挙げられる。
これらの中で、近赤外線の吸収率が高く、かつ可視光線の透過率が高いことから、酸化タングステン系化合物が好ましく、特には下記一般式(I)で示される酸化タングステン系化合物が好ましい。
【0016】
MxWyOz ・・・(I)
ここで、M元素はCs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe及びSnからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、Wはタングステンを示し、Oは酸素を示す。
上記一般式(I)で示される酸化タングステン系化合物のうち、特にM元素がCsで表わされるセシウム含有酸化タングステンが、近赤外線吸収能が高いことから好適である。
【0017】
また、上記一般式(I)において、添加されるM元素の添加量はタングステンの含有量を基準としたx/yの値として、0.001≦x/y≦1.1の関係を満足することが好ましく、特にx/yが0.33付近であることが、好適な近赤外線吸収能を示す点で好ましい。また、x/yが0.33付近であると、六方晶の結晶構造をとりやすく、該結晶構造をとることによって、耐久性の点でも好適である。
また、上記一般式(I)における酸素の含有量は、タングステンの含有量を基準としたz/yの値として、2.2≦z/y≦3.0の関係を満足することが好ましい。より具体的には、Cs0.33WO3、Rb0.33WO3、K0.33WO3、Ba0.33WO3などを挙げることができる。
上記無機近赤外線吸収剤は1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用することもできる。
【0018】
本発明における無機近赤外線吸収剤は、その平均粒子径が40〜200nmであることが肝要である。平均粒子径が40nm未満であると近赤外線吸収能が不十分となり、一方、平均粒子径が200nmを超えると、ミー散乱によって白濁を生じ、コントラストが低下してしまう。さらに好ましい近赤外吸収性能を発揮させるためには、該平均粒子径が40〜80nmであることが好ましく、40〜60nmであることがさらに好ましい。
なお、本発明における平均粒子径の測定は、透過型電子顕微鏡により撮像し、無作為に、例えば50個の無機近赤外線吸収剤を抽出して該粒子径を測定し、これを平均したものである。また、粒子の形状が球形でない場合には、長径を測定して算出したものと定義する。
【0019】
上記近赤外線吸収剤の近赤外線吸収層における含有量は、単位面積あたりの含有量で表した場合、0.01g/m2〜10g/m2の範囲であることが好ましい。含有量が0.01g/m2以上であれば、十分な近赤外線吸収効果が現れ、10g/m2以下であれば、十分な量の可視光線を透過できる。
【0020】
本発明においては、上述のように無機の近赤外線吸収剤を用いることを特徴とするが、本発明の効果を奏する範囲内で、有機系や金属錯体等の他の近赤外線吸収剤を併用することもできる。例えば、ジイモニウム系化合物、アルミニウム系化合物、フタロシアニン系化合物、有機金属錯体、シアニン系化合物、アゾ化合物、ポリメチン系化合物、キノン系化合物、ジフェニルメタン系化合物、トリフェニルメタン系化合物等を併用することもできる。
【0021】
次に、本発明における金属酸化物微粒子は、その平均粒子径が5〜30nmの金属酸化物微粒子であり、本発明の効果を奏する範囲であれば、材料自体に制限はないが、上記近赤外線吸収剤との間で屈折率差が小さいものが好ましく、特に酸化ジルコニウム及び酸化チタンが好適に挙げられる。例えば、前記の無機近赤外線吸収剤としてCs0.33WO3(セシウム含有酸化タングステン)を例にとると、その屈折率は2.5〜2.6である。一方、酸化ジルコニウム及び酸化チタンの屈折率は不純物、結晶構造によって多少異なるが、それぞれ2.0〜2.2及び2.2〜2.7の範囲であるため、無機近赤外線吸収剤との屈折率差を0.3程度以下にすることが出来る。これらの金属酸化物微粒子は、1種を単独で、又は2種以上を併用することもできる。
尚、樹脂中に平均粒子径40〜200nmの無機近赤外線吸収剤を分散させた近赤外線吸収層に、該無機近赤外線吸収剤よりも平均粒子径が小さく、且つ屈折率が近似する金屬酸化物微粒子を添加することで、レイリー散乱に起因する青色を低減出来る機構については、未解明であるが、以下のように推察される。
即ち、樹脂の屈折率は通常1.5前後であり、一方、本発明で用いる無機近赤外線吸収剤粒子の屈折率は2.0〜2.5前後である。従って、無機近赤外線吸収剤粒子表面における樹脂との屈折率差は0.5〜1.0前後とかなり高く、しかも屈折率は無機近赤外線吸収剤粒子表面において不連続的に変化する。そのため、無機近赤外線吸収剤粒子表面の光反射率は高くなり、これが散乱強度を高める一因と推測される。
本発明発においては、高屈折率で光反射性の強い該無機近赤外線吸収剤粒子の周囲に、これと屈折率は近似するがより小粒子径の該金屬酸化物微粒子がハロー状に包囲し(恐らくは、該近赤外線吸収剤粒子に近づく程、分布密度が濃くなると推測される)、これによって該近赤外線吸収剤粒子の表面近傍において、該近赤外線吸収剤粒子と該金屬酸化物微粒子と樹脂とを平均した屈折率が、該近赤外線吸収剤粒子から外方に向かって連続的に低下するようになり(該近赤外線吸収剤粒子表面と樹脂との屈折率の段差を緩和)、そのため、該無機近赤外線吸収剤粒子表面における光反射が低減し、これが散乱強度の低減に寄与するのではないかと推測している。
【0022】
本発明における金属酸化物微粒子は、その平均粒子径が5〜30nmであることが肝要である。平均粒子径が5nm未満であると、反射色調の青味を消すことができず、本発明の効果を奏することができない。一方、平均粒子径が30nmを超えると、反射色調の青味を消すことができないと同時に白濁を生じる場合がある。本発明の効果をより高いレベルで達成するとの観点からは、該金属酸化物微粒子の平均粒子径は10〜20nmの範囲であることがより好ましい。
また、金属微粒子の形状については特に制限はないが、通常、球形が用いられる。
なお、金属酸化物微粒子の平均粒子径は、無機近赤外線吸収剤と同様に透過型電子顕微鏡を用いた方法により測定したものである。
【0023】
上記金属酸化物微粒子の近赤外線吸収層における含有量は、前記無機近赤外線吸収剤100質量部に対して50〜200質量部であることが好ましい。50質量部以上であると、反射色調の青味を消すことができ、一方、200質量部以下であると白濁の問題が生じない。
【0024】
本発明の近赤外線吸収層の厚さは、各種塗工法によって形成する場合は、2〜20μmの範囲が好ましい。厚さが2μm以上であると、近赤外線を十分に吸収することができ、一方、20μm以下であると、通常の塗工法で形成が可能である。以上の観点から、近赤外線吸収層の厚さは3〜15μmの範囲がさらに好ましく、5〜10μmの範囲が特に好ましい。なお、近赤外線吸収層の厚さを変えることで近赤外線の吸収効率を制御することができる。
また、近赤外線吸収層の形成を、樹脂、無機近赤外線吸収剤、及び金屬酸化物微粒子からなる組成物を熔融押出法、キャスティング法等により行う場合には20μm以上の厚みも可能であり、近赤外線吸収材(フィルタ)として用いられる範囲内、すなわち5mm程度までの厚みのものを作製することができる。但し、所望の近赤外線吸収性能を達成するのに必要以上に厚みを増やすことは、価格高騰、後加工適性の低下、最終製品の重量増加等の点で好ましくない。
【0025】
本発明の近赤外線吸収材の製造方法としては、基材上に近赤外線吸収層形成用塗工液を塗布し、乾燥・硬化して近赤外線吸収層を形成する方法が簡便で好ましい。
本発明における近赤外線吸収層形成用塗工液は、必要に応じ、適当な溶剤中に、前記樹脂、無機近赤外線吸収剤、金属酸化物微粒子、所望により用いられる前記光重合開始剤、及び所望により添加される添加剤を所定の割合で加え、溶解又は分散させることにより、調製することができる。
本発明においては、無機近赤外線吸収剤及び金属酸化物微粒子を溶剤中に分散させることが重要であり、分散方法としては、乾式法、湿式法等各種挙げられる。本発明においては、湿式法が有効であり、具体的には、ボールミル、サンドミル、媒体攪拌ミル、超音波照射等が挙げられる。また、無機近赤外線吸収剤の分散に際し、溶媒の選定、分散剤の選定及びpHを調整することで無機近赤外線吸収剤を安定に液体中に分散保持することが可能となる。各種分散剤は、使用する溶媒やバインダー等との相性で各種選択可能である。
【0026】
溶剤としては、例えばヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;塩化メチレン、塩化エチレンなどのハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノールなどのアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、メチルイソブチルケトン、イソホロンなどのケトン;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル;エチルセロソルブなどのセロソルブ系溶剤などが挙げられる。
また、ここで添加し得る各種添加剤としては、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、消泡剤などが挙げられる。
塗工液の濃度、粘度については、コーティング可能な濃度、粘度であればよく、特に制限されない。
【0027】
基材に上記塗工液を塗工する方法としては、従来公知の方法、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、グラビアロールコート法、ダイコート法などを用いることができる。塗工し、塗膜を形成させた後、乾燥し、これに電離放射線照射、加熱等によって該塗膜を硬化させることにより、近赤外線吸収層が形成される。
電離放射線としては、例えば紫外線や電子線などが挙げられる。紫外線は、高圧水銀ランプ、ヒュージョンHランプ、キセノンランプなどで得られる。一方電子線は、電子線加速器などによって得られる。この電離放射線の中では、特に紫外線が、大気中に照射でき、照射装置として簡便なものを使用することができる点で好適である。なお、電子線を使用する場合は、重合開始剤を添加することなく、硬化膜を得ることができるという利点がある。
【0028】
本発明の近赤外線吸収材は、波長380〜780nmの可視光線帯域のうち、仕様用途において所望の波長域の可視光線透過率が50%以上であり、波長800〜1100nmの近赤外線透過率が20%以下であることが好ましい。可視光線透過率が50%以上であると、PDP等の画像表示装置の近赤外線吸収フィルターとして用いた場合でも、十分に輝度を与えることができ、画像の暗化を生じることがない。以上の観点から、可視光線透過率は60%以上であることが特に好ましい。一方、近赤外線透過率が20%以下であると、PDP本体から発生する近赤外線によって周囲の電子機器が誤動作を生じることがない。以上の観点から近赤外線透過率は10%以下であることが特に好ましい。
【0029】
本発明の近赤外線吸収材における近赤外線吸収層は、1.8〜2.5程度の高い屈折率を有する。従って、使用用途によっては、画像表示装置の画面に外部からの光が入射した際に、該外光が反射して表示画像が見づらくなる場合がある。このような場合には、図2に示すように、近赤外線吸収層3の上に防眩層4を設ける方法、近赤外線吸収層3の表面を直接粗面化する方法がある。このうち、防眩層(Anti Glare層、AG層)を設ける方法は、簡便で効果が高く好ましい。
【0030】
防眩層4は近赤外線吸収層3の表面に、好ましくは電離放射線硬化性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂をバインダーとし、これに光拡散性粒子7として無機フィラー又は有機フィラーを含有させ、これを塗膜化することにより得られる。
バインダーに用いる樹脂としては、表面層として表面強度が望まれる場合には、熱硬化性アクリル樹脂や熱硬化性ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂、或は上述の電離放射線硬化性樹脂が好適に用いられる。
無機フィラーとしては、例えば平均粒子径が0.5〜10μm程度のシリカ粒子や、コロイド状シリカ粒子のアミン化合物による凝集物であって、平均粒子径が0.5〜10μm程度のものなどを挙げることができる。
また、有機フィラーとしては、例えばメラミン系樹脂粒子、アクリル系樹脂粒子、アクリル−スチレン系共重合体粒子、ポリカーボネート系粒子、ポリエチレン系粒子、ポリスチレン系粒子、ベンゾグアナミン系樹脂粒子などが挙げられる。これらの有機フィラーの平均粒径は、通常2〜10μm程度である。
これらの光拡散性粒子7は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、防眩層中の含有量は、通常2〜15質量%、好ましくは3〜8質量%である。
【0031】
また、表面に微凹凸を設けた防眩フィルムを近赤外線吸収層3の表面に貼付することにより、防眩層4を形成することもできる。このような防眩フィルムは、厚さが15〜250μm程度の、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、トリアセチルセルロースフィルムなどの透明基材に、エンボス版を用いた熱プレス法やサンドブラスト法により、表面に微凹凸を形成させてなる。
【0032】
防眩層の厚さについては特に限定されるものではないが、通常、1〜20μm程度が好ましい。また、該防眩層の凹凸の平均間隔をSmとし、凹凸部の平均傾斜角をθaとし、凹凸の十点平均粗さをRzとした場合に、Smが60〜250μmであり、θaが0.3度〜1.0度であり、Rzが0.3〜1.0μmであることが好ましい。
【0033】
また、近赤外線吸収層3の表面を粗面化する方法としては、サンドブラスト法やエンボス法等により近赤外線吸収層3の表面に直接微細凹凸を形成して粗面化する方法、近赤外線吸収層3の表面に海島構造による多孔質膜を形成する方法等を挙げることができる。この場合にも、Smが60〜250μmであり、θaが0.3度〜1.0度であり、Rzが0.3〜1.0μmであることが好ましい。
なお、上記Sm、θa及びRzはJIS B0601 1994に準拠し、例えば、表面粗さ測定器((株)小坂研究所製「SE−3400」)で測定し得るものである。
【0034】
また、近赤外線吸収フィルムの表面における外光の反射を防止する方法として、図3に示すように、近赤外線吸収層3の上に、さらに低屈折率層5を設ける方法がある。すなわち、相対的に高い屈折率を有する近赤外線吸収層3の上に、低屈折率層5を設けることで、反射防止層6を形成し、外光の反射を防止するものである。
反射防止層(Anti Reflection層、AR層)は、一般に、低屈折率層の単層、或いは、低屈折率層と高屈折率層とを、該低屈折率層が最上層に位置する様に交互に積層した多層構成が一般的であり、蒸着やスパッタ等の乾式成膜法で、或いは塗工等の湿式成膜法を利用して形成するものである。本発明では上述のように、近赤外線吸収層3が高屈折率層の機能を持つので、その上に低屈折率層5を設けるものである。低屈折率層5の屈折率については、近赤外線吸収層3の屈折率に対して相対的に低い屈折率を示せばよく、特に限定されないが、理論上は、低屈折率層の屈折率がその直下の層の屈折率の平方根になるとき、光の反射率は最小となることが知られている。低屈折率層を近赤外線吸収層3の上に直接形成する場合は、低屈折率層の最適な屈折率NLは近赤外線吸収層3の屈折率NNIRの平方根√(NNIR)で計算できる。無機近赤外線吸収剤として前記のセシウム含有酸化タングステン粒子を採用する場合、セシウム含有酸化タングステン屈折率NNIR=2.5〜2.6であるが、近赤外線吸収層はこれに樹脂と金屬酸化物微粒子を混合する為、その屈折率は組成比に応じてこれより低減する。例えば、NNIR=2.5であれば、NL=1.58、NNIR=2.0であれば、NL=1.41となる。屈折率がこれに近似する範囲であると、十分な反射防止性能が得られる。又、低屈折率層の厚みtは反射率最小となる波長に関し、光学厚みtNL=λ/4のとき、波長λが反射率最小となる波長を与える。
なお、近赤外線吸収層以外に、さらに高屈折率層を設け、より反射防止性能を向上させることもできる。
【0035】
低屈折率層を構成する材料としては、ケイ素酸化物、フッ化物、フッ素含有樹脂等が用いられ、具体的にはSiO2(屈折率n=1.38)、MgF2(屈折率n=1.4)、LiF(屈折率n=1.4)、3NaF・AlF3(屈折率n=1.4)、AlF3(屈折率n=1.4)、Na3AlF6(屈折率n=1.33)などがある。本発明においては、これらの無機材料を微粒子化し、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹等のバインダー樹脂中に分散した材料が、容易に低屈折率層5を設けることができる点で好ましい。
低屈折率層5の形成方法としては、まず上記で述べた材料を例えば溶剤に希釈し、スピンコーティング、ロールコーティング、グラビアロールコーティング等を用いるウェットコーティング法によって低屈折率層形成材料を塗布し、次いで、乾燥後、熱や電離放射線(紫外線の場合は上述の光重合開始剤を使用する)等により塗膜を硬化せしめる方法、或は、真空蒸着、スパッタリング、プラズマCVD、イオンプレーティング等による気相法によって、低屈折率層形成材料を堆積せしめる方法よって得ることができる。
【0036】
また、低屈折率層には、空隙を有する微粒子を用いても良い。空隙を有する微粒子とは、微粒子の内部に気体が充填された構造及び/又は気体を含む多孔質構造体を形成し、微粒子本来の屈折率に比べて微粒子中の気体の占有率に反比例して屈折率が低下する微粒子を意味する。微粒子の形態、構造、凝集状態、塗膜内部での微粒子の分散状態により、内部及び/又は表面の少なくとも一部にナノポーラス構造の形成が可能な微粒子も含まれる。空隙を有する微粒子は、無機物、有機物のいずれでもあってよく、例えば、金属、金属酸化物、樹脂からなるものが挙げられ、好ましくは、酸化珪素(シリカ)微粒子が挙げられる。
【0037】
さらに、5〜30nmのシリカ超微粒子を水もしくは有機溶剤に分散したゾルとフッ素系の皮膜形成剤を混合した材料を使用することもできる。該5〜30nmのシリカ超微粒子を水もしくは有機溶剤に分散したゾルは、ケイ酸アルカリ塩中のアルカリ金属イオンをイオン交換等で脱アルカリする方法や、ケイ酸アルカリ塩を鉱酸で中和する方法等で知られた活性ケイ酸を縮合して得られる公知のシリカゾル、アルコキシシランを有機溶媒中で塩基性触媒の存在下に加水分解と縮合することにより得られる公知のシリカゾル、さらには上記の水性シリカゾル中の水を蒸留法等により有機溶剤に置換することにより得られる有機溶剤系のシリカゾル(オルガノシリカゾル)が用いられる。これらのシリカゾルは水系及び有機溶剤系のどちらでも使用することができる。有機溶剤系シリカゾルの製造に際し、完全に水を有機溶剤に置換する必要はない。前記シリカゾルはSiO2として0.5〜50質量%濃度の固形分を含有する。シリカゾル中のシリカ超微粒子の構造は球状、針状、板状等様々なものが使用可能である。
なお、本発明の近赤外線吸収材においては、上記低屈折率層と防眩層の両者を設けることもできる。
【0038】
本発明の近赤外線吸収材は、基材又は近赤外線吸収層、防眩層及び低屈折率層の少なくとも1層のいずれかに赤色色素を含有することが好ましい。赤色色素を含有することで、反射色調の青色をより確実に相殺することができる。
赤色色素としては、赤色染料及び赤色顔料を使用することができる。赤色染料としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、C.I.アシッドレッド1,8,13,14,18,26,27,35,37,42,52,82,87,89,92,97,106,111,114,115,134,186,249,254,289等の酸性染料;C.I.ベーシックレッド2,12,13,14,15,18,22,23,24,27,29,35,36,38,39,46,49,51,52,54,59,68,69,70,73,78,82,102,104,109,112等の塩基性染料;C.I.リアクティブレッド1,14,17,25,26,32,37,44,46,55,60,66,74,79,96,97等の反応性染料;C.I.ソルベントレッド111、135、179、などが挙げられる。
【0039】
また、赤色顔料としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、C.I.ピグメントレッド9、C.I.ピグメントレッド97、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド168、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド180、C.I.ピグメントレッド192、C.I.ピグメントレッド209、C.I.ピグメントレッド215、C.I.ピグメントレッド216、C.I.ピグメントレッド217、C.I.ピグメントレッド220、C.I.ピグメントレッド223、C.I.ピグメントレッド224、C.I.ピグメントレッド226、C.I.ピグメントレッド227、C.I.ピグメントレッド228、C.I.ピグメントレッド240、C.I.ピグメントレッド48:1、パーマネント・カーミンFBB(C.I.ピグメントレッド146)、パーマネント・ルビーFBH(C.I.ピグメントレッド11)、ファステル・ピンクBスプラ(C.I.ピグメントレッド81)、などが挙げられる。
上記赤色染料及び赤色顔料は、各々1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、赤色染料と赤色顔料を併用してもよい。
【0040】
本発明の近赤外線吸収材は、上述のように、防眩層を組み合わせたり、低屈折率層を組み合わせることで、防眩フィルム及び反射防止フィルムの機能を兼ね備えた複合材(フィルム)とし得る。その他、電磁波遮蔽層、ネオン光吸収層、調色層、ハードコート層、紫外線吸収層、表面保護層、耐衝撃層、帯電防止層、防汚染層などを設けることにより、本発明の近赤外線吸収材に他の機能を付加することができる。
特に、本発明の近赤外線吸収材をPDP用のフィルターとして用いる場合には、PDPの発光がプラズマ放電を利用しているため、これに起因するMHz帯〜GHz帯の周波数帯域において、電磁波の漏洩がなく、他の機器に悪影響を与えないように、電磁波遮蔽層を設けることは重要である。
また、上述の電磁波遮蔽層、ネオン光吸収層、調色層、ハードコート層、紫外線吸収層、表面保護層等は必ずしもこれらを単独にそれぞれ層として有する必要はなく、複数の機能を1つの層に持たせた多機能層とすることもできる。この場合には、以下に記載する各層を構成する材料を複合化することで、多機能層を得ればよい。
【0041】
電磁波遮蔽層は、上記帯域の電磁波は遮蔽し且つ可視光線は透過する性能を持つものであれば、公知の各種形態のものが使用できる。代表的には、導電性乃至無電解めっき触媒性粒子とバインダー樹脂を含む導電層形成用材料を所定のパターン状に印刷形成したもの、或は金属層(金属箔)を腐蝕加工によって所望のパターンにする方法により形成したものを挙げることができる。
導電性材料を印刷形成した形態について説明すると、導電性乃至無電解めっき触媒性粒子としては、金、銀、白金、錫、銅、ニッケル、アルミニウム、パラジウムなどの低抵抗性或いは無電解めっきの触媒性を持つ金属粒子、或いは前記の金属以外の物質の粒子(前記以外の金属、樹脂、非金属無機物等の粒子)の表面が金や銀などの前記の低抵抗或いは無電解めっきの触媒性を持つ金属でめっきされた粒子、グラファイト、カーボンブラック等から成る粒子を好ましく挙げることができ、形状も球状、回転楕円体状、多面体状、鱗片状、円盤状、繊維状等から選ぶことができる。
これらの材料や形状のものは適宜混合して用いても良い。また、導電性乃至無電解めっき触媒性粒子の大きさは種類に応じて任意に選択されるので一概に特定できないが、例えば、鱗片状の銀粒子の場合には粒子の平均粒子径が0.1〜10μm程度のものを用いることができ、カーボンブラック粒子の場合には平均粒子径が0.01〜1μm程度のものを用いることができる。また、特に無電解めっき触媒として用いるパラジウム粒子の場合にはコロイド粒子(1μm未満)程度の粒径のものを用いる。導電層形成用材料中の該粒子の含有量は、該粒子の導電性や粒子の形態に応じて任意に選択されるが、例えば導電層形成用材料の固形分100質量部のうち、該粒子を40〜99質量部の範囲で含有させることができる。
なお、本願において、平均粒子径というときは、粒度分布径、またはTEM(透過型電子顕微鏡)観察で測定した値を指している。
【0042】
また、バインダー樹脂としては、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれも使用可能である。熱硬化性樹脂及び電離放射線硬化性樹脂としては、前述のものと同様のものを用いることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂等を挙げることができる。
なお、熱硬化性樹脂を使用する場合、必要に応じて硬化触媒を添加してもよい。光硬化性化合物を用いる場合は必要に応じて重合開始剤を添加してもよい。
斯かる組成の導電性乃至無電解めっき触媒性材料からなる液状組成物を、シルクスクリーン印刷、凹版印刷、フレキソ印刷等の印刷法によって、透明基材上に、メッシュ(格子乃至網)、ストライプ(縞乃至平行線)等の非印刷部(開口部)を有するパターン上に印刷する。該パターンは、通常、線幅が5〜50μm程度、周期が150〜300μm程度、開口率(全表面積中に於ける開口部の面積率)が80〜95%程度とする。該組成物それ自体で十分な導電性が発現する場合はそのままで電磁波遮蔽層として使用できるが、導電性が不十分な場合は、更に印刷した導電性乃至無電解めっき触媒性材料のパターン上に金属層をめっきする。めっきとしては、電解めっき、無電解めっきの何れも適用可能である。電解めっきの場合は、該組成物の印刷パターンに電解めっき可能な程度の導電性は持たせた上で、公知のめっき浴とめっき条件により電解めっきを施す。無電解めっきの場合は、該組成物として無電解めっき触媒性の有るもの(パラジウムが代表的)を選定して印刷し、印刷したパターン上に、公知の浴と条件にて無電解めっきを施す。これら無電解めっき或は電解めっきする金屬としては、金、銀、白金、銅、ニッケル等が用いられる。透明基材としては、前記の近赤外線吸收層の基材2として説明したものと同様のものが使用できる。
一方、金属層(金属箔)を腐蝕加工によって所望のパターンにする方法について説明すると、金属層としては、金、銀、白金、錫、銅、ニッケル、アルミニウム等からなる厚み3〜30μm程度のものが用いられる。該金屬層上に、所望のパターンの形成部のみ被覆し、開口部は露出させたパターンでレジスト層を形成し、公知の腐蝕液にて、レジスト非形成部のみ選択的に腐蝕して開口させ、その後、レジストを除去して金属層を所望のパターンとする。パターン化した金属層は、透明基材上に積層されるが、腐蝕加工は、金属層を透明基材に積層した後でも、或は積層する前でも何れでも良い。金属層の透明基材への積層は、予め成膜してなる金属層(金属箔)を接着剤を介して透明基材上に接着しても良いし、或は透明基材上に、蒸着、スパッタ等により直接金属層を堆積させても良い。尚、透明基材としては、前記の近赤外線吸収層の基材2として説明したものと同様のものが使用できる。
【0043】
ネオン光吸収層は、PDPから放射されるネオン光即ちネオン原子の発光スペクトルを吸収すべく設置されるものであり、ネオン光吸収剤とバインダー樹脂を含む材料により形成することができる。ネオン光吸収剤により、少なくともPDPからのオレンジ色発光が抑制可能で、鮮やかな赤色を得ることができる。ネオン光の発光スペクトル帯域は波長550〜640nmのため、ネオン光吸収層として機能する場合の分光透過率は波長590nmにおいて50%以下、さらに25%以下になるように設計することが好ましい。
ネオン光吸収剤は、少なくとも550〜640nmの波長領域内に吸収極大を有する色素を用いることができる。該色素の具体例としては、シアニン系、オキソノール系、メチン系、サブフタロシアニン系もしくはポルフィリン系等を挙げることができる。これらの中でもポルフィリン系が好ましい。その中でも特に、特許第3834479号公報に開示されるような、テトラアザポルフィリン系色素が、分散性が良好で、且つ耐熱性、耐湿性、耐光性が良好な点から好ましい。
ネオン光吸収剤の含有量は、特に限定されないが、ネオン光吸収層中に、0.05〜5質量%であることが好ましい。含有量が0.05質量%以上であれば充分なネオン光吸収機能を発現でき、5質量%以下であれば、充分な量の可視光線を透過できる。
【0044】
調色層は、パネルからの発光の色純度や色再現範囲、電源OFF時のディスプレイ色などの改善のために設けられるものである。すなわち、ディスプレイ用フィルターの色を調整するものであって、各ディスプレイ毎に色補正機能の要求が異なるため、適宜調整して用いられる。
色補正色素として用いることのできる公知の色素としては、特開2000−275432号公報、特開2001−188121号公報、特開2001−350013号公報、特開2002−131530号公報等に記載の色素が好適に使用できる。さらに、この他にも、黄色光、赤色光、青色光等の可視光線を吸収するアントラキノン系、ナフタレン系、アゾ系、フタロシアニン系、ピロメテン系、テトラアザポルフィリン系、スクアリリウム系、シアニン系等の色素を使用することができる。
色補正色素の含有量は、補正すべき色に合わせて適宜調整され、特に限定されない。通常、調色層中に0.01〜10質量%程度含有する。
【0045】
本発明において、ハードコート層は透明性を有し、JISK5600−5−4(1999)で規定される鉛筆硬度試験で「H」以上の硬度を示すものであれば、ハードコート層を構成する材料等は特に制限されない。
通常は樹脂硬化層として形成され、用いられる硬化性樹脂としては、電離放射線硬化性樹脂、その他公知の硬化性樹脂などを要求性能などに応じて適宜採用すればよい。電離放射線硬化性樹脂としては前述のものと同様のものを用いることができる。ハードコート層は、上記材料を必要に応じて溶剤で希釈して、基材や近赤外線吸収層等の上に塗工等の湿式成膜法により形成することができる。ハードコート層の厚みは特に限定されるものではないが、1〜20μmの範囲が好ましく、3〜5μmの範囲がより好ましい。
【0046】
紫外線吸収層は、紫外線吸収剤又は紫外線散乱剤とバインダー樹脂を含む材料により形成することができる。
紫外線吸収剤としては、サリシレート系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、置換アクリロニトリル系、トリアジン系の紫外線吸収剤を使用することができる。
サリシレート系紫外線吸収剤の例としては、フェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート、p−t−ブチルフェニルサリシレートなどが挙げられ、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤の例としては、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノンなどが挙げられる。また、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の例としては、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−アミル−5’−イソブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−イソブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−イソブチル−5’−プロピルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(1,1,3,3−テトラメチル)フェニル]ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0047】
置換アクリロニトリル系紫外線吸収剤の例としては、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸エチル、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられる。さらに、トリアジン系紫外線吸収剤の例としては、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−トリデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジンなどのモノ(ヒドロキシフェニル)トリアジン化合物;2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−プロピルオキシフェニル)−6−(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−プロピルオキシフェニル)−6−(4−メチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−ヘキシルオキシフェニル)−6−(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジンなどのビス(ヒドロキシフェニル)トリアジン化合物;2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−6−(2,4−ジブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス[2−ヒドロキシ−4−(3−ブトキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]−1,3,5−トリアジンなどのトリス(ヒドロキシフェニル)トリアジン化合物等が挙げられる。
本発明においては、前記各種の紫外線吸収剤は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
紫外線散乱剤とは、紫外線を散乱させることによって、紫外線遮蔽効果をもたらす材料のことであり、主に金属酸化物粉体などの無機系材料が用いられる。この紫外線散乱剤の例としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウムなどを微粒子化した粉体、あるいは二酸化チタン微粒子を酸化鉄で複合化処理してなるハイブリッド無機粉体、酸化セリウム微粒子の表面を非結晶性シリカでコーティングしてなるハイブリッド無機粉体などが挙げられる。紫外線散乱効果は、粒子径に大きく影響を受けるので、本発明においては、前記紫外線散乱剤の平均粒子径は5μm以下が好ましく、特に10〜200nmの範囲が好ましい。
【0049】
バインダー樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂が好適に用いられる。
また、市販の紫外線カットフィルタ、例えば、富士写真フィルム社製の「シャープカットフィルターSC−38」(商品名)、「同SC−39」、「同SC−40」、三菱レーヨン社製の「アクリプレン」(商品名)等を用いることもできる。
また、紫外線吸収層の厚さは特に限定されるものではないが、1〜30μmの範囲が好ましく、10〜20μmの範囲がより好ましい。
【0050】
表面保護層は、耐汚染性向上の観点から設けられるもので、シリコーン系化合物、フッ素系化合物などを添加することが好ましい。
また表面保護層は、防汚染層として、本発明の近赤外線吸収フィルターを使用する際に、その表面に不用意な接触や環境からの汚染が原因でごみや汚染物質が付着するのを防止し、あるいは付着しても除去しやすくするために形成される層であっても良い。例えば、フッ素系コート樹脂、シリコン系コート剤、シリコン・フッ素系コート剤等が使用され、中でもシリコン・フッ素系コート剤が好ましく適用される。これらの防汚染層としての厚さは好ましくは100nm以下で、より好ましくは10nm以下であり、更に好ましくは5nm以下である。これらの防汚染層の厚さが100nmを超えると防汚染性の初期値は優れているが、耐久性において劣るものとなる。防汚染性とその耐久性のバランスから5nm以下が最も好ましい。
【0051】
本発明にかかる近赤外線吸収層の上に、直接上述の防眩層、低屈折率層、電磁波遮蔽層、ネオン光吸収層、調色層、ハードコート層、紫外線吸収層、表面保護層などを設ける形態を選択する場合において、好ましい形態としては、近赤外線吸収層を構成する樹脂として、電離放射線硬化性樹脂を選択し、基材上に近赤外線吸収層形成用の塗工液をコーティングした後に、電離放射線を照射して半硬化させる形態を挙げることができる。半硬化における紫外線の光量は、通常50〜150mJ/cm2程度である。次いで、このようにして形成された半硬化状態の近赤外線吸収層の上に、防眩層等を形成するための塗工液を塗布して塗膜を形成させ、電離放射線を十分に照射し、半硬化状態の近赤外線吸収層と共に完全に硬化させる。この際の紫外線の光量は、通常400〜1000mJ/cm2程度である。なお、これらの硬化の際には、酸素による硬化阻害を防ぐために、窒素ガスなどの雰囲気下で、電離放射線を照射することができる。この場合、酸素濃度は低い方がよく、2容量%以下が好ましい。
【0052】
本発明の近赤外線吸収材は、プラズマディスプレイ、ブラウン管(CRT)、液晶ディスプレイ(LCD)などの画像表示装置の前面フィルター用として好適であり、特にプラズマディスプレイ用として好適である。
【実施例】
【0053】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
(評価方法)
(1)無機近赤外線吸収剤及び金属酸化物微粒子の平均粒子径の測定
近赤外線吸収層形成用塗工液を樹脂(2液硬化型ポキシ樹脂系)に包埋し、クライオシステムによるダイヤモンドナイフ(DIATOME社製「DIATOME ULTRA CRYO DRY」)が装着されたウルトラミクロトーム(切片作製装置、ライカ(株)製「EM−FCS」)を用いて、トリミングし、面出しをした。次いで、金属酸化物による上記染色を施し、超薄切片作製後、透過型電子顕微鏡((株)日立製作所製「H−7100FA型」、加速電圧100kV)を用いて観察を実施した。倍率12万倍で電子顕微鏡写真を撮影後、無機近赤外線吸収剤及び金属酸化物微粒子をそれぞれ50個無作為に選び、粒子の形状が球形でない場合には、長径を測定して平均粒子径を算出した。
(2)青味の評価
各実施例及び比較例で製造したフィルム形態の近赤外線吸収フィルムを、黒色アクリル樹脂板の上に、透明粘着剤(日東電工(株)製CS−9621)を用いて貼り合せた後、(株)協真エンジニアリング製オートクレーブ機にて、70℃、0.5MPaの条件で30分保持した。その後、人口太陽燈で光を照射した。アクリル樹脂板上での明るさは、2500ルクスとした。人口太陽燈、人間、アクリル樹脂板の位置関係としては、アクリル板を水平に置き、斜め上方30度の角度(角度はアクリル樹脂板の法線から測る。以下同様。)から観察し、光は斜め上方45度の方向から照射した。評価は人が目視にて行い、評価基準は以下の通りとした。
○;目視で黒く見える
×;目視で青く見える
(3)白濁の評価
各実施例及び比較例で製造した近赤外線吸収フィルムを上記青味の評価時と同様の条件で、人が目視にて評価した。評価基準は以下の通りである。
○;目視で白濁を感じない
△;目視で若干の白濁が見られる
×;目視で白濁して見える
(4)光線透過率
光線透過率の測定は、JIS A 5759に準ずる方法で行った。透過率測定は分光光度計((株)島津製作所製「UV3100」)を使用して、波長300〜2600nmの範囲において5nm間隔で測定し、800〜1100nm(近赤外線波長)の光線透過率及び380〜780nm(可視光線波長)の光線透過率を求めた。評価基準は、以下の通りである。
(近赤外線透過率)
○;850nmにおいて、10%以下
×;850nmにおいて、10%超過
(可視光線透過率)
○;550nmにおいて、50%以上
×;550nmにおいて、50%未満
(5)反射率
分光光度計[日本電飾工業(株)製「ND5000」]により、波長550nmにおける反射率を測定した。
(6)防眩性
上記青味の評価と同様の条件で目視評価し、実施例1を基準として、表面の鏡面反射光による光沢の度合いを比較した。評価基準としては、実施例1(防眩層も低屈折率層も無し)と比較して、光沢が低減した場合を○、光沢が同等の場合を△とした。
【0054】
実施例1
(1)近赤外線吸収層形成用塗工液の調製
電離放射線硬化性モノマーであるペンタエリスリトールテトラアクリレート100質量部に、光重合開始剤[チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名「イルガキュア907」(2−メチル−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパノン−1)]3質量部を添加し、次いで近赤外線吸収剤[住友金属鉱山(株)製、商品名「YMF−01」、セシウム含有酸化タングステン(平均粒子径44nmのCs0.33WO3、セシウム33モル%含有)]15質量部(固形分換算)、及び金属酸化物微粒子として、酸化ジルコニウム(平均粒子径15nm)55質量部を混合したのち、全体の固形分濃度が30質量%になるようにメチルイソブチルケトン(MIBK)中に分散させ、近赤外線吸収層形成用塗工液を調製した。
(2)近赤外線吸収フィルムの製造
基材として、厚さ100μmの両面易接着処理ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム[東洋紡績(株)製、商品名「A4300」]の表面に、上記(1)で調製した近赤外線吸収層形成用塗工液を硬化後の厚さが6μmとなるように、マイヤーバーNo.16で塗布した。次いで、90℃で1分間乾燥したのち、窒素ガス雰囲気下(酸素濃度0.5容量%)で紫外線を光量500mJ/cm2で照射して硬化させ、PETフィルム上に近赤外線吸収層を形成して、近赤外線吸収フィルムを製造した。この近赤外線吸収フィルムについて、上記方法にて評価した。評価結果を第1表に示す。
【0055】
実施例2
実施例1において、セシウム含有酸化タングステンに代えて、ルビジウム含有酸化タングステン[平均粒子径41nmのRb0.33WO3、住友金属鉱山(株)製]15質量部(固形分換算)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、近赤外線吸収フィルムを製造した。
【0056】
実施例3
実施例1において、近赤外線吸収剤として、平均粒子径40nmのセシウム含有酸化タングステンを用い、近赤外線吸収層の上に、以下のような方法で防眩層を設けたこと以外は実施例1と同様にして近赤外線吸収フィルムを製造した。この近赤外線吸収フィルムについて、実施例1と同様に評価した。評価結果を第1表に示す。
(3)防眩(AG)層の積層
電離放射線硬化性モノマーであるペンタエリスリトールテトラアクリレート100質量部に、光重合開始剤[チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名「イルガキュア907」(2−メチル−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパノン−1)]3質量部を添加し、これに光拡散性粒子として平均粒径1μmのシリカ微粒子を28質量部添加して防眩層形成用塗工液を調製した。
近赤外線吸収層の塗布後に、90℃で1分間乾燥し、窒素ガス雰囲気下(酸素濃度0.5容量%)、紫外線を光量100mJ/cm2で照射して、半硬化させた。その上に、上記防眩層形成用塗工液を硬化後の厚さが6μmとなるように、マイヤーバーNo.16で塗布した。次いで、90℃で1分間乾燥したのち、窒素ガス雰囲気下(酸素濃度0.5容量%)で紫外線を光量500mJ/cm2で照射して完全硬化させ、PETフィルム上に近赤外線吸収層及び防眩層を形成して、近赤外線吸収フィルムを製造した。
【0057】
実施例4
実施例3において、防眩層に代えて低屈折率層を設けたこと以外は実施例3と同様にして近赤外線吸収フィルムを製造した。この近赤外線吸収フィルムについて、実施例1と同様に評価した。評価結果を第1表に示す。
(4)低屈折率層の積層
電離放射線硬化性モノマーであるペンタエリスリトールテトラアクリレート1.95質量部に、光重合開始剤[チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名「イルガキュア184」(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)]0.1質量部を添加し、これに低屈折率層を構成する材料として、処理シリカゾル含有溶液(空隙を有する微粒子(粒径60nm)、シリカゾル固形分20質量%、溶媒;メチルイソブチルケトン)12.3質量部、シリカ粒子含有溶液(巨大粒子(平均粒径100nm)、シリカ粒子固形分20質量%、商品名;sicastar(ナカライテスク(株))、溶媒;メチルイソブチルケトン)1.23質量部、及び溶剤としてメチルイソブチルケトン83.5質量部を配合して低屈折率層形成用塗工液を調製した。
近赤外線吸収層の塗布後に、90℃で1分間乾燥し、窒素ガス雰囲気下(酸素濃度0.5容量%)、紫外線を光量100mJ/cm2で照射して、半硬化させた。その上に、上記低屈折率層形成用塗工液を乾燥重量0.1g/m2換算で塗布(バーコーティング)し、次いで、40℃にて60秒間乾燥した。低屈折率層の硬化後の膜厚は、約90nmになるように形成した。次いで、90℃で1分間乾燥したのち、窒素ガス雰囲気下(酸素濃度0.5容量%)で紫外線を光量500mJ/cm2で照射して完全硬化させ、PETフィルム上に近赤外線吸収層及び低屈折率層を形成して、反射防止性能を兼ね備えた近赤外線吸収フィルムを製造した。
【0058】
実施例5
実施例1において、セシウム含有酸化タングステンに代えて、平均粒子径39nmのホウ化ランタン[LaB6]を用いたこと以外は実施例1と同様にして、近赤外線吸収フィルムを製造した。実施例1と同様に評価した結果を第1表に示す。
【0059】
実施例6
実施例1において、金属酸化物微粒子として、酸化ジルコニウムに代えて、平均粒子径42nmの酸化チタン[TiO2]を用いたこと以外は実施例1と同様にして、近赤外線吸収フィルムを製造した。実施例1と同様に評価した結果を第1表に示す。
【0060】
比較例1
実施例1において、金属酸化物微粒子を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして近赤外線吸収フィルムを製造した。実施例1と同様に評価した結果を第1表に示す。
【0061】
比較例2
実施例1において、金属酸化物微粒子として添加する酸化ジルコニウムに代えて、平均粒子径50nmの酸化ジルコニウムを用いたこと以外は実施例1と同様にして、近赤外線吸収フィルムを製造した。実施例1と同様に評価した結果を第1表に示す。
【0062】
比較例3
実施例5において、金属酸化物微粒子を用いなかったこと以外は、実施例5と同様にして近赤外線吸収フィルムを製造した。実施例1と同様に評価した結果を第1表に示す。
【0063】
比較例4
実施例1において、近赤外線吸収剤として、平均粒子径79nmのセシウム含有酸化タングステン[Cs0.33WO3、セシウム33モル%含有、住友金属鉱山(株)製]25質量部(固形分換算)を用い、金属酸化物微粒子を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして近赤外線吸収フィルムを製造した。実施例1と同様に評価した結果を第1表に示す。
【0064】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、反射色調が青色を示さず、近赤外線を有効に吸収し、かつ可視光線透過率の高い、透明性に優れる近赤外線吸収材を提供することができる。この近赤外線吸収フィルムは、プラズマディスプレイ、ブラウン管(CRT)、液晶ディスプレイ(LCD)などの画像表示装置用として好適である。特にプラズマディスプレイ用として好適であり、本発明の近赤外線吸収フィルムを前面に配したプラズマディスプレイは、周辺の電子機器に悪影響を及ぼすことがなく、かつ、反射色調が青色を示さない。また、高輝度であって、外光の映り込みがなく、視認性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の近赤外線吸収材を示す模式図である。
【図2】本発明の近赤外線吸収材の別の態様を示す模式図である。
【図3】本発明の近赤外線吸収材の別の態様を示す模式図である。
【符号の説明】
【0067】
1 近赤外線吸収材
2 基材
3 近赤外線吸収層
4 防眩層
5 低屈折率層
6 反射防止層
7 光拡散性粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に近赤外線吸収層を積層した近赤外線吸収材であって、近赤外線吸収層が樹脂、平均粒子径40〜200nmの無機近赤外線吸収剤、及び平均粒子径5〜30nmの金属酸化物微粒子を含有してなる、可視光線透明性を有する近赤外線吸収材。
【請求項2】
前記無機近赤外線吸収剤が酸化タングステン系化合物である請求項1に記載の近赤外線吸収材。
【請求項3】
前記酸化タングステン系化合物が、下記一般式(I)で表わされる請求項2に記載の近赤外線吸収材。
MxWyOz ・・・(I)
(M元素はCs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe及びSnからなる群から選ばれる少なくとも1種、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1.1、2.2≦z/y≦3.0)
【請求項4】
前記酸化タングステン系化合物がセシウム含有酸化タングステンである請求項3に記載の近赤外線吸収材。
【請求項5】
前記金属酸化物微粒子が酸化ジルコニウム及び/又は酸化チタンである請求項1〜4のいずれかに記載の近赤外線吸収材。
【請求項6】
前記金属酸化物微粒子の含有量が前記無機近赤外線吸収剤100質量部に対して、50〜200質量部である請求項1〜5のいずれかに記載の近赤外線吸収材。
【請求項7】
前記樹脂が電離放射線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂である請求項1〜6のいずれかに記載の近赤外線吸収材。
【請求項8】
前記基材がプラスチックフィルムからなる透明基材である請求項1〜7のいずれかに記載の近赤外線吸収材。
【請求項9】
前記近赤外線吸収層の上に、さらに防眩層を有する請求項1〜8のいずれかに記載の近赤外線吸収材。
【請求項10】
前記近赤外線吸収層の上に、さらに低屈折率層を有する請求項1〜9のいずれかに記載の近赤外線吸収材。
【請求項11】
波長380〜780nmの可視光線透過率が50%以上であり、波長800〜1100nmの近赤外線透過率が20%以下である請求項1〜10に記載の近赤外線吸収材。
【請求項12】
近赤外線吸収層、防眩層及び低屈折率層の少なくとも1層のいずれか、又は基材に赤色色素を含有する請求項1〜11のいずれかに記載の近赤外線吸収材。
【請求項13】
さらに電磁波遮蔽層、ネオン光吸収層、調色層、ハードコート層、紫外線吸収層、及び表面保護層から選ばれる少なくとも1層を備える請求項1〜12のいずれかに記載の近赤外線吸収材。
【請求項14】
画像表示装置用である請求項1〜13のいずれかに記載の近赤外線吸収材。
【請求項15】
前記画像表示装置がプラズマディスプレイである請求項14に記載の近赤外線吸収材。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載の近赤外線吸収材を前面に貼付した画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−205029(P2009−205029A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49129(P2008−49129)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】