説明

送信電力制御装置、送信電力制御方法及びプログラム

【課題】信号が目標BLERを確保できる最小限の電力で過不足無く届くように、送信電力制御対象端末の送信電力を制御する。
【解決手段】第2の目標SIR制御部115は、目標SIR記憶部116が記憶する目標SIRを、CRC検出部106が誤りを検出しなかったときにSIR測定部104が測定した受信SIRに書き換える。次に、比較部117は、SIR測定手段104が測定した受信SIRが、目標SIR記憶部116が記憶する目標SIRより高い場合は、送信電力を上げる命令を示すTPCコマンドを生成し、また、比較部117は、SIR測定手段104が測定した受信SIRが、目標SIR記憶部116が記憶する目標SIRより低い場合は、送信電力を下げる命令を示すTPCコマンドを生成し、送信部118は、比較部117が生成したTPCコマンドを移動局装置200に送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信電力制御対象端末の送信電力を制御する送信電力制御装置、送信電力制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無線通信システムでは、変化する電波環境の中で、必要な通信品質を確保できるように、基地局装置が移動局装置の送信電力を制御している。送信電力の制御は、受信信号のブロック誤りを検出し、誤りが検出された場合は、信号対干渉比(SIR、Signal to Interference Ratio)の目標値(以下、目標SIR)を低くし、ブロック誤りが検出されなかった場合は、目標SIRを高くすることで行われる。これにより、受信信号の誤り率を確保し、かつ移動局装置の送信電力を抑えている。
【0003】
以下に、従来の公知の技術による基地局装置による送信電力の制御方法の具体例を説明する。
図4は、従来の公知の技術による基地局装置の構成を示す概略ブロック図である。
図5は、従来の公知の技術による基地局装置の目標SIRの算出動作を示すフローチャートである。
ステップS101で、基地局装置900の目標SIR制御部906は、ブロック誤り率(BLER、Block Error Rate)の目標値(目標BLER)に基づいて、パラメータテーブル記憶部907から目標SIRのステップ増加量及びブロック誤り測定区間長を取得する。ここで、ブロック誤り測定区間長は、ブロック誤りを測定する受信ブロック数を示す。
目標SIR制御部910は、ブロック誤り測定区間長内において受信信号にブロック誤りが検出されたとき、ステップS105で、式(1)によって信号対干渉比の目標値を設定する。また、目標SIR制御部910は、ブロック誤り測定区間長内において受信信号にブロック誤りが検出されなかったとき、ステップS108で式(2)によって信号対干渉比の目標値を設定する。
【0004】
【数1】

【0005】
【数2】

【0006】
但し、SIRは、目標SIRを示し、SIR′は、前回の目標SIRを示す。また、δは、所定のステップ増加量を示す。また、BLERは、目標BLERを示す。
このように目標SIRを算出すると、比較器912は、目標SIRと受信信号の信号対干渉比(以下、受信SIR)とを比較し、送信部113は、電力の増減を支持するTPC(Transmitting Power Control:送信電力制御)コマンドを移動局装置200に送出する。
【0007】
図6は、従来の公知の技術による基地局装置における目標SIRの変化を示す図である。
図6の縦軸は、SIRの値を示し、横軸は、時間を示している。図6によると、目標SIRは、断続的に減少し、ブロック誤りが発生したときにδ増加する。つまり、目標SIRは、受信SIRが、ブロック誤りを発生させないために必要とされる信号対干渉比(以下、所要SIR)を満たす場合に減少し、受信SIRが所要SIRに満たない場合に増加する。これにより、基地局装置900は、目標BLERを確保できるように移動局装置の送信電力を制御することができる。
【0008】
また、特許文献1、特許文献2及び特許文献3に、目標SIRを受信SIRが満たすように送信電力を制御する電力制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−188815号公報
【特許文献2】特開2005−303670号公報
【特許文献3】特開2006−086716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述したような送信電力制御方法では、ブロック誤りが無く、受信SIRが所要SIRを上回っていても、受信SIRが目標SIRに達していない場合、基地局装置900は、TPC増加コマンドの送信を継続してしまう。受信SIRが所要SIRを上回っている場合、移動局装置200の送信電力は、目標BLERを確保できる最小限の電力を満たしているため、基地局装置900によるTPC増加コマンドは必要以上の送信電力の増加を要求していることを示す。
【0011】
例えば、図6における時刻τでの受信SIRは、ブロック誤り発生後のTPC増加コマンドにより電力が増加し、既に所要SIRを満たした状態にあるが、目標SIRと受信SIRとの乖離が存在するために、TPC増加コマンドが移動局装置200へ送信され続けることとなる。そのため、移動局装置200は、不要な電力増加を行うこととなり、消費電力を浪費し、また他の移動局装置の送信信号への干渉を与えることとなる。
【0012】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、信号が目標BLERを確保できる最小限の電力で過不足無く届くように、送信電力制御対象端末の送信電力を制御する送信電力制御装置、送信電力制御方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、送信電力制御対象端末の送信電力を制御する送信電力制御装置であって、前記送信電力制御対象端末の信号対干渉比の目標値を示す目標信号対干渉比を記憶する記憶手段と、前記送信電力制御対象端末から信号を受信する受信手段と、前記受信手段が受信した信号の誤り検出を受信毎に行う誤り検出手段と、前記受信手段が受信した信号の信号対干渉比を受信毎に測定する信号対干渉比測定手段と、前記目標信号対干渉比記憶手段が記憶する目標信号対干渉比を、前記誤り検出手段が誤りを検出しなかったときに前記信号対干渉比測定手段が測定した信号対干渉比に書き換える第1の目標信号対干渉比設定手段と、前記信号対干渉比測定手段が測定した信号対干渉比が、前記目標信号対干渉比記憶手段が記憶する目標信号対干渉比より高い場合は、送信電力を上げる命令を示す送信電力制御コマンドを生成し、前記信号対干渉比測定手段が測定した信号対干渉比が、前記目標信号対干渉比記憶手段が記憶する目標信号対干渉比より低い場合は、送信電力を下げる命令を示す送信電力制御コマンドを生成する送信電力制御コマンド生成手段と、前記送信電力制御コマンド生成手段が生成した前記送信電力制御コマンドを前記送信電力制御対象端末に送信する送信手段と、を備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、送信電力制御対象端末の信号対干渉比の目標値を示す目標信号対干渉比を記憶する記憶手段を備え、前記送信電力制御対象端末の送信電力を制御する送信電力制御装置を用いた送信電力制御方法であって、受信手段は、前記送信電力制御対象端末から信号を受信し、誤り検出手段は、前記受信手段が受信した信号の誤り検出を受信毎に行い、信号対干渉比測定手段は、前記受信手段が受信した信号の信号対干渉比を受信毎に測定し、第1の目標信号対干渉比設定手段は、前記目標信号対干渉比記憶手段が記憶する目標信号対干渉比を、前記誤り検出手段が誤りを検出しなかったときに前記信号対干渉比測定手段が測定した信号対干渉比に書き換え、送信電力制御コマンド生成手段は、前記信号対干渉比測定手段が測定した信号対干渉比が、前記目標信号対干渉比記憶手段が記憶する目標信号対干渉比より高い場合は、送信電力を上げる命令を示す送信電力制御コマンドを生成し、また、送信電力制御コマンド生成手段は、前記信号対干渉比測定手段が測定した信号対干渉比が、前記目標信号対干渉比記憶手段が記憶する目標信号対干渉比より低い場合は、送信電力を下げる命令を示す送信電力制御コマンドを生成し、送信手段は、前記送信電力制御コマンド生成手段が生成した前記送信電力制御コマンドを前記送信電力制御対象端末に送信する、ことを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、前記送信電力制御対象端末の信号対干渉比の目標値を示す目標信号対干渉比を記憶する記憶手段を備え、送信電力制御対象端末の送信電力を制御する送信電力制御装置を、前記送信電力制御対象端末から信号を受信する受信手段、前記受信手段が受信した信号の誤り検出を受信毎に行う誤り検出手段、前記受信手段が受信した信号の信号対干渉比を受信毎に測定する信号対干渉比測定手段、前記目標信号対干渉比記憶手段が記憶する目標信号対干渉比を、前記誤り検出手段が誤りを検出しなかったときに前記信号対干渉比測定手段が測定した信号対干渉比に書き換える第1の目標信号対干渉比設定手段、前記信号対干渉比測定手段が測定した信号対干渉比が、前記目標信号対干渉比記憶手段が記憶する目標信号対干渉比より高い場合は、送信電力を上げる命令を示す送信電力制御コマンドを生成し、前記信号対干渉比測定手段が測定した信号対干渉比が、前記目標信号対干渉比記憶手段が記憶する目標信号対干渉比より低い場合は、送信電力を下げる命令を示す送信電力制御コマンドを生成する送信電力制御コマンド生成手段、前記送信電力制御コマンド生成手段が生成した前記送信電力制御コマンドを前記送信電力制御対象端末に送信する送信手段、として動作させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、第1の目標信号対干渉比設定手段は、目標信号対干渉比記憶手段が記憶する目標信号対干渉比を、誤り検出手段が誤りを検出しなかったときに信号対干渉比測定手段が測定した信号対干渉比に書き換える。そのため、目標信号対干渉比と信号の誤りを発生させないために必要とされる信号対干渉比との差を小さくすることができ、送信手段は、移動局装置(送信電力制御対象端末)に対して必要以上の送信電力の増加を示す送信電力制御コマンドを送信しなくなる。これにより、基地局装置(送信電力制御装置)は、信号が目標BLERを確保できる最小限の電力で過不足無く届くように、移動局装置の送信電力を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態による基地局装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図2】基地局装置による目標SIRの算出動作を示すフローチャートである。
【図3】基地局装置における目標SIRの変化を示す図である。
【図4】従来の公知の技術による基地局装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図5】従来の公知の技術による基地局装置の目標SIRの算出動作を示すフローチャートである。
【図6】従来の公知の技術による基地局装置における目標SIRの変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、本発明の一実施形態による基地局装置の構成を示す概略ブロック図である。
基地局装置100は、受信部101(受信手段)、遅延スプレッド計算部102、復調部103、SIR測定部104(信号対干渉比測定手段)、誤り訂正復号部105、CRC検出部106、登録部107、パラメータテーブル記憶部108、受信ブロック数カウンタ格納レジスタ109、パラメータ格納レジスタ110、第1の目標SIR制御部111(第2の目標SIR設定手段)、遅延スプレッド記憶部112、SIR測定値記憶部113、SIR測定区間用受信ブロック数カウンタ格納レジスタ114、第2の目標SIR増減制御115(第1の目標信号対干渉比設定手段)、目標SIR記憶部116(記憶手段)、比較部117(送信電力制御コマンド生成手段)、送信部118(送信手段)を備える。
【0019】
受信部101は、移動局装置200から信号を受信する。
遅延スプレッド計算部102は、受信信号に基づいて遅延スプレッドを計算する。ここで、遅延スプレッドとは、電離層や建造物による反射及び屈折によりマルチパスを伝搬した信号の時間方向の広がり程度を示す。
復調部103は、受信信号の復調を行う。
SIR測定部104は、受信信号の信号対干渉比を測定する。
誤り訂正符号部105は、復調した受信信号の誤りを訂正する。
CRC検出部106は、CRC(巡回冗長検査)によって受信信号のブロック誤りを検出する。
【0020】
登録部107は、受信ブロック数カウンタ格納レジスタ109、パラメータ格納レジスタ110、遅延スプレッド記憶部112、SIR測定値記憶部113、SIR測定区間用受信ブロック数カウンタ格納レジスタ114への情報の登録を行う。
パラメータテーブル記憶部108は、目標BLERに対応付けてブロック誤り測定区間長、ステップ増加量、SIR測定区間長算出用係数、SIR平均化区間長算出表係数を格納するパラメータテーブルを記憶する。ここで、ブロック誤り測定区間長は、ブロック誤りを測定する受信ブロック数を示す。また、SIR測定区間長算出用係数及びSIR平均化区間長算出表係数とは、後述する第2の目標SIRの算出に用いる係数である。
【0021】
第1の目標SIR制御部111は、ステップ増加量及び目標BLERに基づいて第1の目標SIRを算出する。
第2の目標SIR制御部115は、SIR測定区間長算出用係数及びSIR平均化区間長算出表係数に基づいて第2の目標SIRを算出する。
目標SIR記憶部116は、第1の目標SIRまたは第2の目標SIRのうち値が小さいほうを目標SIRとして記憶する。
比較部117は、目標SIR記憶部116が記憶する目標SIRと受信SIRとを比較し、TPCコマンドを生成する。
送信部118は、TPCコマンドを移動局装置200に送信する。
【0022】
そして、本実施形態によれば、基地局装置100において、受信部101は、移動局装置200から信号を受信し、CRC検出部106は、受信部101が受信した信号の誤り検出を受信毎に行い、SIR測定部104は、受信手段101が受信した信号の受信SIRを受信毎に測定し、第2の目標SIR制御部115は、目標SIR記憶部116が記憶する目標SIRを、CRC検出部106が誤りを検出しなかったときにSIR測定部104が測定した受信SIRに書き換える。
次に、比較部117は、SIR測定手段104が測定した受信SIRが、目標SIR記憶部116が記憶する目標SIRより高い場合は、送信電力を上げる命令を示すTPCコマンドを生成し、また、比較部117は、SIR測定手段104が測定した受信SIRが、目標SIR記憶部116が記憶する目標SIRより低い場合は、送信電力を下げる命令を示すTPCコマンドを生成し、送信部118は、比較部117が生成したTPCコマンドを移動局装置200に送信する。
これにより、基地局装置100は、信号が目標BLERを確保できる最小限の電力で過不足無く届くように、移動局装置200の送信電力を制御する。
【0023】
次に、基地局装置100の動作を説明する。
図2は、基地局装置による目標SIRの算出動作を示すフローチャートである。
まず、基地局装置100を起動させると、登録部107は、基地局装置100における所要品質を示す目標BLERに対応したSIRのステップ増加量δ、ブロック誤り測定区間長T、SIR測定区間長算出用係数α、SIR平均化区間長算出用係数βをパラメータテーブル記憶部が記憶するパラメータテーブルから取得し、それらをパラメータ格納レジスタ110に登録する(ステップS1)。
【0024】
登録部107は、パラメータをパラメータ格納レジスタ110に登録すると、受信ブロック数カウンタ格納レジスタが記憶する受信ブロック数カウンタをゼロにリセットする(ステップS2)。なお、初回起動時は、受信ブロック数カウンタ格納レジスタ109、パラメータ格納レジスタ110、遅延スプレッド記憶部112、SIR測定値記憶部113、SIR測定区間用受信ブロック数カウンタ格納レジスタ114が記憶する情報は全てゼロとなっている。
【0025】
ステップS2で、登録部107が受信ブロック数カウンタをリセットすると、遅延スプレッド計算部102は、受信部101が移動局装置200から受信するプリアンブル信号等の信号から、受信信号の遅延スプレッドを計算する(ステップS3)。このとき、登録部107は、遅延スプレッド計算部102が計算した遅延スプレッドを遅延スプレッド記憶部112に登録する。遅延スプレッドは、式(3)によって算出する。
【0026】
【数3】

【0027】
但し、Pはi番目のパスのパスレベルを示す。また、τは、i番目のパスの到来タイミングを示す。また、Nはパス数を示す。また、τは、パスの平均到来タイミングを示し、式(4)によって算出する。
【0028】
【数4】

【0029】
式(3)に示すように、遅延スプレッドはマルチパスによる影響を示すもので、パス数が多い場合は干渉電力によってSIRが高精度に求まらないことが知られている。ここで算出した遅延スプレッドは、後述する所要SIRを満たしているかの判定において、遅延スプレッドが大きい場合は測定区間を長く設けることで、受信SIRのサンプル数を多くして判定の確度を高めるために用いる。
【0030】
ステップS3で遅延スプレッド計算部102が遅延スプレッドを算出すると、受信部101は、移動局装置200から通信データを格納する転送ブロック(TB、Transport Block)を受信する(ステップS4)。移動局装置200が転送ブロックを受信すると、復調部103が受信した転送ブロックの復調処理を行い、SIR測定部104は、転送ブロックの受信SIRを測定する(ステップS5)。このとき、登録部107は、測定した受信SIRをSIR測定値記憶部113に追加登録する。
SIR測定部104が受信SIRを算出すると、誤り訂正復号部105が転送ブロックに対して誤り訂正処理を行い、CRC検出部106は、転送ブロックに付与されたCRC符号に基づいて転送ブロックに誤りがあるか否かを判定する(ステップS6)。
【0031】
CRC検出部106が、転送ブロックに誤りがあると判定した場合(ステップS6:NO)、登録部107は、パラメータ格納レジスタ110が記憶する誤り発生フラグをONにする(ステップS7)。ここで、誤り発生フラグとは、前回の転送ブロックの受信時にCRC検出部106が誤りを検出したか否かを示すフラグであり、ONの場合に誤りを検出したことを示し、OFFの場合に、誤りを検出しなかったことを示す。
【0032】
登録部107は、ステップS7で誤り発生フラグをONにすると、SIR測定用受信ブロック数カウンタ格納レジスタ114が記憶するSIR測定用受信ブロック数カウンタをゼロにリセットする(ステップS8)。
次に、第1の目標SIR制御部111は、式(1)によって、第1の目標SIRを増加させる計算を行い、算出した第1の目標SIRを目標SIR記憶部116に登録する(ステップS9)。第1の目標SIR制御部111が目標SIRを登録すると、比較部117は、SIR測定部104が測定した受信SIRと目標SIR記憶部116が記憶する目標SIRとを比較し、受信SIRが目標SIRより高い場合は、送信電力を上げる命令を示すTPCコマンドを生成し、受信SIRが目標SIRより低い場合は、送信電力を下げる命令を示すTPCコマンドを生成する。そして、送信部118は、比較部117が生成したTPCコマンドを移動局装置200に送信する(ステップS10)。
送信部118がTPCコマンドを送信すると、基地局装置は当該受信信号に対する処理を終了し、次の受信信号の処理を開始する。
【0033】
他方、ステップS6で、CRC検出部106が、転送ブロックに誤りがないと判定した場合(ステップS6:YES)、登録部107は、受信ブロック数カウンタ格納レジスタ109に格納される受信ブロック数カウンタ、及び、SIR測定用受信ブロック数カウンタ格納レジスタ114に格納されるSIR測定用受信ブロック数カウンタに受信した転送ブロック数を加算する(ステップS11)。
【0034】
次に、第1の目標SIR制御部111は、受信ブロック数カウンタ格納レジスタ109に格納される受信ブロック数カウンタの値が、パラメータ格納レジスタ110に格納されるブロック誤り測定区間長T以上であるか否かを判定する(ステップS12)。
第1の目標SIR制御部111が、受信ブロック数カウンタの値がブロック誤り測定区間長T未満であると判定した場合(ステップS12:NO)、ステップS3に戻り、遅延スプレッドの検出及び次の転送ブロックの受信を行う。
【0035】
他方、第1の目標SIR制御部111は、受信ブロック数カウンタの値がブロック誤り測定区間長T以上であると判定した場合(ステップS12:NO)、式(2)によって、第1の目標SIRを減少させる計算を行い、算出した第1の目標SIRを目標SIR記憶部116に登録する(ステップS13)。
第1の目標SIR制御部111が第1の目標SIRを算出すると、第2の目標SIR制御部115は、パラメータ格納レジスタ110に格納される誤り発生フラグがONであるか否かを判定する(ステップS14)。
【0036】
第2の目標SIR制御部115は、誤り発生フラグがONであると判定した場合(ステップS14:YES)、SIR測定区間長TSIR及びSIR平均化区間長TSIRを算出する(ステップS15)。ここで、SIR測定区間長TSIRは、受信SIRを測定する受信ブロック数を示す。また、SIR平均化区間長TSIRは、受信SIRの平均値の算出に用いる受信ブロック数を示す。SIR測定区間長TSIRは、パラメータ格納レジスタ110に格納されるSIR測定区間長算出用係数αに遅延スプレッド記憶部112が記憶する遅延スプレッドσを乗じることで算出される。また、SIR平均化区間長TSIRは、算出したSIR測定区間長TSIRにSIR平均化区間長算出用係数βを乗じることで算出される。
なお、SIR平均化区間長算出用係数βは、1≧β>0の値をとり、SIR平均化区間長TSIRは、SIR測定区間長TSIR以下の値とする。これは、誤り発生直後の受信SIRは、所要SIRを満たさない可能性が高いため、後述する処理により、受信SIRの平均を算出する際に、母集合に誤り発生直後の受信SIRを含まないようにするためである。
【0037】
ステップS14で第2の目標SIR制御部115が、誤り発生フラグがOFFであると判定した場合(ステップS14:NO)、または、ステップS15で第2の目標SIR制御部115が、SIR測定区間長TSIR及びSIR平均化区間長TSIRを算出した場合、第2の目標SIR制御部115は、SIR測定用受信ブロック数カウンタ格納レジスタ114が格納するSIR測定用受信ブロック数カウンタが、ステップS13で算出したSIR測定区間長TSIR以下であるか否かを判定する(ステップS16)。
【0038】
第2の目標SIR制御部115は、SIR測定用受信ブロック数カウンタがSIR測定区間長TSIRより大きいと判定した場合(ステップS16:NO)、パラメータ格納レジスタに格納されるエラー発生フラグがONであるか否かを判定する(ステップS17)。
第2の目標SIR制御部115が、エラー発生フラグがONであると判定した場合(ステップS17:YES)、SIR測定値記憶部が記憶する受信SIRの中から過去に遡り、SIR平均化区間長TSIRにおける受信SIRの平均値を第2の目標SIRとして算出する(ステップS18)。第2の目標SIR制御部115は、第2の目標SIRを算出すると、パラメータ格納レジスタ110が格納する誤り発生フラグをOFFにする(ステップS19)。
【0039】
ステップS16で第2の目標SIR制御部115が、エラー発生フラグがOFFであると判定した場合(ステップS17:NO)、または、ステップS19で第2の目標SIR制御部115が誤り発生フラグをOFFにした場合、ステップS13で第1の目標SIR制御部111が算出した第1の目標SIR、ステップS18で第2の目標SIR制御部111が算出した第2の目標SIRのうち、値が小さいほうを目標SIRとして目標SIR記憶部116に登録する(ステップS20)。
【0040】
ステップS16で第2の目標SIR制御部115が、SIR測定用受信ブロック数カウンタがSIR測定区間長TSIR以下であると判定した場合(ステップS16:YES)、または、ステップS20で目標SIRを目標SIR記憶部116に登録した場合、比較部117は、SIR測定部104が測定した受信SIRと目標SIR記憶部116が記憶する目標SIRとを比較し、受信SIRが目標SIRより高い場合は、送信電力を上げる命令を示すTPCコマンドを生成し、受信SIRが目標SIRより低い場合は、送信電力を下げる命令を示すTPCコマンドを生成する。そして、送信部118は、比較部117が生成したTPCコマンドを移動局装置200に送信する(ステップS21)。
送信部118がTPCコマンドを送信すると、基地局装置1100は、当該受信信号に対する処理を終了し、次の受信信号の処理を開始する。
【0041】
図3は、基地局装置における目標SIRの変化を示す図である。
図3によると、誤りの発生後、SIR測定区間長の数のブロックを受信する時刻τ′までは、従来の目標SIR算出アルゴリズム(第1の目標SIR)を用いてTPCコマンドの生成を行うが、時刻τ′にて第2の目標SIRを算出し、以降は、第2の目標SIRを用いてTPCコマンドの生成を行う。第2の目標SIRを目標SIRに設定することで、目標SIRが減少し、従来の手法で時刻τまで順次送信されていたTPC増加コマンドが抑制される。そのため、移動局装置200の送信電力を過度に上昇させない。また、時刻τ″で、第2の目標SIRが第1の目標SIRを上回るため、それ以降、第1の目標SIRを目標SIRとして設定している。これにより、基地局装置100におけるブロック誤り率を目標BLERに近づけることができる。
【0042】
このように、本実施形態によれば、第2の目標SIR制御部115は、目標SIR記憶部116が記憶する目標SIRを、CRC検出部106が誤りを検出しなかったときにSIR測定部104が測定した受信SIRに書き換える。そのため、目標SIRと所要SIRとの差を小さくすることができ、送信部118は、移動局装置200に対して必要以上の送信電力の増加を示すTPCコマンドを送信しなくなる。これにより、基地局装置100は、信号が目標BLERを確保できる最小限の電力で過不足無く届くように、移動局装置200の送信電力を制御することができる。
【0043】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
例えば、本実施形態では、CRC検出部106が転送ブロックのCRC符号に基づいてブロック誤りの検出を行う場合を説明したが、これに限られず、他の誤り検出符号を用いてブロック誤りを検出しても良い。
【0044】
上述の基地局装置100は内部に、コンピュータシステムを有している。そして、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【0045】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【符号の説明】
【0046】
100…基地局装置 101…受信部 102…遅延スプレッド計算部 103…復調部 104…SIR測定部 105…誤り訂正復号部 106…CRC検出部 107…登録部 108…パラメータテーブル記憶部 109…受信ブロック数カウンタ格納レジスタ 110…パラメータ格納レジスタ 111…第1の目標SIR制御部 112…遅延スプレッド記憶部 113…SIR測定値記憶部 114…SIR測定用受信ブロック数カウンタ格納レジスタ 115…第2の目標SIR制御部 116…目標SIR記憶部 117…比較部 118…送信部 200…移動局装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信電力制御対象端末の送信電力を制御する送信電力制御装置であって、
前記送信電力制御対象端末の信号対干渉比の目標値を示す目標信号対干渉比を記憶する記憶手段と、
前記送信電力制御対象端末から信号を受信する受信手段と、
前記受信手段が受信した信号の誤り検出を受信毎に行う誤り検出手段と、
前記受信手段が受信した信号の信号対干渉比を受信毎に測定する信号対干渉比測定手段と、
前記目標信号対干渉比記憶手段が記憶する目標信号対干渉比を、前記誤り検出手段が誤りを検出しなかったときに前記信号対干渉比測定手段が測定した信号対干渉比に書き換える第1の目標信号対干渉比設定手段と、
前記信号対干渉比測定手段が測定した信号対干渉比が、前記目標信号対干渉比記憶手段が記憶する目標信号対干渉比より高い場合は、送信電力を上げる命令を示す送信電力制御コマンドを生成し、前記信号対干渉比測定手段が測定した信号対干渉比が、前記目標信号対干渉比記憶手段が記憶する目標信号対干渉比より低い場合は、送信電力を下げる命令を示す送信電力制御コマンドを生成する送信電力制御コマンド生成手段と、
前記送信電力制御コマンド生成手段が生成した前記送信電力制御コマンドを前記送信電力制御対象端末に送信する送信手段と、
を備えることを特徴とする送信電力制御装置。
【請求項2】
前記誤り検出手段が誤りを検出した場合に前記記憶手段が記憶する目標信号対干渉比の値を増加させ、前記誤り検出手段が誤りを検出しなかった場合に前記記憶手段が記憶する目標信号対干渉比の値を減少させる第2の目標信号対干渉比設定手段を備え、
前記第1の目標信号対干渉比設定手段は、前記第2の目標信号対干渉比設定手段が前記目標信号対干渉比を増加させた時刻から所定の信号対干渉比測定時間の間に前記受信手段が受信した信号に対して前記誤り検出手段が誤りを検出しなかった場合に、前記目標信号対干渉比記憶手段が記憶する目標信号対干渉比を前記信号対干渉比測定手段が測定した信号対干渉比に書き換える、
ことを特徴とする請求項1に記載の送信電力制御装置。
【請求項3】
前記信号対干渉比測定時間は、信号の伝播環境を示すパラメータに基づいて決定されることを特徴とする請求項2に記載の送信電力制御装置。
【請求項4】
前記伝播環境を示すパラメータは、前記受信手段が受信した信号の遅延スプレッドであることを特徴とする請求項3に記載の送信電力制御装置。
【請求項5】
前記第1の目標信号対干渉比設定手段は、
前記目標信号対干渉比記憶手段が記憶する目標信号対干渉比を、前記第2の目標信号対干渉比設定手段が前記目標信号対干渉比を増加させた時刻から所定の信号対干渉比平均測定時間の間に前記信号対干渉比測定手段が測定した信号対干渉比の平均値に書き換える、
ことを特徴とする請求項2から請求項4の何れか1項に記載の送信電力制御装置。
【請求項6】
前記所定の信号対干渉比平均測定時間の間に前記信号対干渉比測定手段が測定した信号対干渉比の平均値は、誤り検出手段が誤りを検出した直後に前記信号対干渉比測定手段が測定した信号対干渉比を含めないで算出する、
ことを特徴とする請求項5に記載の送信電力制御装置。
【請求項7】
送信電力制御対象端末の信号対干渉比の目標値を示す目標信号対干渉比を記憶する記憶手段を備え、前記送信電力制御対象端末の送信電力を制御する送信電力制御装置を用いた送信電力制御方法であって、
受信手段は、前記送信電力制御対象端末から信号を受信し、
誤り検出手段は、前記受信手段が受信した信号の誤り検出を受信毎に行い、
信号対干渉比測定手段は、前記受信手段が受信した信号の信号対干渉比を受信毎に測定し、
第1の目標信号対干渉比設定手段は、前記目標信号対干渉比記憶手段が記憶する目標信号対干渉比を、前記誤り検出手段が誤りを検出しなかったときに前記信号対干渉比測定手段が測定した信号対干渉比に書き換え、
送信電力制御コマンド生成手段は、前記信号対干渉比測定手段が測定した信号対干渉比が、前記目標信号対干渉比記憶手段が記憶する目標信号対干渉比より高い場合は、送信電力を上げる命令を示す送信電力制御コマンドを生成し、また、送信電力制御コマンド生成手段は、前記信号対干渉比測定手段が測定した信号対干渉比が、前記目標信号対干渉比記憶手段が記憶する目標信号対干渉比より低い場合は、送信電力を下げる命令を示す送信電力制御コマンドを生成し、
送信手段は、前記送信電力制御コマンド生成手段が生成した前記送信電力制御コマンドを前記送信電力制御対象端末に送信する、
ことを特徴とする送信電力制御方法。
【請求項8】
前記送信電力制御対象端末の信号対干渉比の目標値を示す目標信号対干渉比を記憶する記憶手段を備え、送信電力制御対象端末の送信電力を制御する送信電力制御装置を、
前記送信電力制御対象端末から信号を受信する受信手段、
前記受信手段が受信した信号の誤り検出を受信毎に行う誤り検出手段、
前記受信手段が受信した信号の信号対干渉比を受信毎に測定する信号対干渉比測定手段、
前記目標信号対干渉比記憶手段が記憶する目標信号対干渉比を、前記誤り検出手段が誤りを検出しなかったときに前記信号対干渉比測定手段が測定した信号対干渉比に書き換える第1の目標信号対干渉比設定手段、
前記信号対干渉比測定手段が測定した信号対干渉比が、前記目標信号対干渉比記憶手段が記憶する目標信号対干渉比より高い場合は、送信電力を上げる命令を示す送信電力制御コマンドを生成し、前記信号対干渉比測定手段が測定した信号対干渉比が、前記目標信号対干渉比記憶手段が記憶する目標信号対干渉比より低い場合は、送信電力を下げる命令を示す送信電力制御コマンドを生成する送信電力制御コマンド生成手段、
前記送信電力制御コマンド生成手段が生成した前記送信電力制御コマンドを前記送信電力制御対象端末に送信する送信手段、
として動作させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−263371(P2010−263371A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112064(P2009−112064)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】