説明

送液ポンプ

【課題】送液ポンプを大型化させることなく、ポンプ室内の気泡を検出可能とする。
【解決手段】所定の最大電圧まで増加した後に減少する波形の駆動信号を印加することによって圧電素子を駆動し、ポンプ室の容積を増減させてポンプ室内の流体を送液する送液ポンプにおいて、駆動信号を印加してからの所定期間内に圧電素子に流れる電流を検出することで、ポンプ室内の気泡の有無を判定する。こうすれば、気泡を検出するための装置を別途設ける必要が無いので、送液ポンプを小型化することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を送液する送液ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
流路に流体を循環させる循環ポンプが従前より知られている。循環ポンプは、容積を変更可能なポンプ室を備えており、ポンプ室の容積を増加させることによってポンプ室内に流路から流体を吸い込んだ後、ポンプ室の容積を減少させてポンプ室内の流体を加圧することによって、ポンプ室から流路に流体を送液する。従って、ポンプ室の容積を増減させ続けることで、流路に流体が循環させることが可能である。
【0003】
また、ポンプ室内に気泡が混入すると、ポンプ室の容積を小さくした時に気泡が圧縮されることで流体が加圧されず、流体を送液することができなくなる。そこで、ポンプ室内の気泡を検出するための検出装置を循環ポンプに設けておき、検出装置で気泡を検出した場合に、循環ポンプのメンテナンスを実行してポンプ室内の気泡を除去可能とする技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−242764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来の技術では、気泡検出のための検出装置を別途、循環ポンプに設ける必要があるため、循環ポンプが大型化してしまうという問題があった。尚、ポンプ室を用いて流体を送液する技術は、循環ポンプに限らず、ポンプ室から送液した流体を噴射ノズルで細く絞ってから噴射する流体噴射装置にも用いられる。この流体噴射装置に検出装置を設けた場合にも、同様に装置の大型化を招いてしまう。
【0006】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、装置を大型化させることなく、ポンプ室内の気泡を検出することが可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の送液ポンプは次の構成を採用した。すなわち、
ポンプ室の容積を増加させることによって該ポンプ室内に流体を吸い込んだ後、該ポンプ室の容積を減少させることによって該ポンプ室内の流体を送液する送液ポンプであって、
電圧が印加されると内部に電荷を蓄えて、蓄えた電荷量に応じて変形することによって、前記ポンプ室の容積を増減させる圧電素子と、
所定の最大電圧まで増加した後に減少する波形の駆動信号を印加することによって、前記圧電素子を駆動する駆動手段と、
前記駆動信号を前記圧電素子に印加してからの所定期間内に前記圧電素子に流れる電流を検出することで、前記ポンプ室内の気泡の有無を判定する気泡判定手段と
を備えることを要旨とする。
【0008】
こうした構成を有する本発明の送液ポンプにおいては、駆動信号を印加することによって圧電素子を駆動すると、ポンプ室の容積が増減してポンプ室から流体が送液される。また、圧電素子に駆動信号を印加してからの所定期間内に流れる電流を検出することで、ポンプ室内に混入した気泡の有無を判定することができる。尚、「所定期間内に流れる電流を検出する」とは、所定期間の全範囲に亘って電流を検出することに限られず、所定期間の一部の範囲の電流を検出することとしてもよいし、所定期間のある時点での電流を検出することとしてもよい。
【0009】
ポンプ室に気泡が混入していた場合には、圧電素子に駆動信号を印加すると混入していた気泡が潰れるので、気泡が混入していなかった場合と比べて圧電素子の変形の仕方が変化する。その結果、混入した気泡の有無に応じて、圧電素子に流れる電流波形にも相違が現れるので、圧電素子に駆動信号を印加してからの所定期間内に流れる電流を検出することで、ポンプ室内に混入した気泡の有無を判定することができる。また、このように気泡の有無を判定する場合、圧電素子に流れる電流を検出するだけなので、気泡を検出するための装置を別途、送液ポンプに設ける必要が無い。従って、送液ポンプを小型化することができ、ひいては送液ポンプを搭載する装置全体の小型化を図ることが可能となる。
【0010】
また、上述した本発明の送液ポンプにおいて、圧電素子に流れる電流の検出を行う所定期間は、駆動信号が最大電圧に達したときからの圧電素子に駆動信号の印加が開始される期間、もしくは、駆動信号が最大電圧に達した後から圧電素子に駆動信号の印加が開始される期間としてもよい。
【0011】
ポンプ室内に気泡が混入していない状態では、駆動信号が最大電圧に達しても電流が圧電素子へ流れ続けるが、ポンプ室内に気泡が混入すると、駆動信号が最大電圧に達した時点で電流が流れなくなる。従って、駆動信号が最大電圧に達したときから開始される所定期間、もしくは、最大電圧に達した後から開始される所定期間内に圧電素子に流れる電流を検出することで、ポンプ室内の気泡の有無を判定することができる。また、このように気泡の有無を判定する場合にも、気泡を検出するための装置を別途、送液ポンプに設ける必要が無いので、送液ポンプを小型化することが可能となる。
【0012】
また、上述した本発明の送液ポンプにおいては、最大電圧に達した時点では時間に対する電圧の変化量が0であり、最大電圧に達してから所定期間は、時間の経過とともに電圧の変化量が大きくなるような駆動信号を、圧電素子に印加することとしてもよい。
【0013】
こうすると、最大電圧に達してから暫くの間は、駆動信号の電圧変化が小さくなる。駆動信号の電圧が変化すると変化速度に応じた電流が圧電素子に流れようとするから、気泡の有無によって圧電素子に流れる電流を検出するためには、駆動信号の電圧変化が小さくなることが望ましい。従って、駆動信号が最大電圧に達してから暫くの間は駆動信号の電圧変化が小さくなるようにしておけば、最大電圧に達してからの所定期間に流れる電流を精度よく検出することができるので、気泡の有無を精度よく判定することが可能となる。
【0014】
また、上述した本発明の送液ポンプにおいては、圧電素子に流れる電流の所定の周波数成分の大きさを検出することによって、ポンプ室内の気泡の有無を検出することとしてもよい。
【0015】
駆動信号が最大電圧に達したあとも電流が流れ続けるということは、電流が滑らかに変化するということであり、電流波形の周波数成分の大きさにその影響が現われる。実際にポンプ室に気泡がある場合とない場合とで、圧電素子に流れる電流波形の周波数成分を分析したところ、所定の周波数成分の大きさに明確な違いが現れた。従って電流波形を周波数解析することによって、あるいはフィルターを用いて所定の周波数成分を検出することによって、ポンプ室内の気泡の有無を簡単に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施例の冷却装置の構成を示した説明図である。
【図2】本実施例の冷却装置に搭載されている送液ポンプの構造を示した説明図である。
【図3】送液ポンプの動作を制御する制御部の構成を示した説明図である。
【図4】本実施例の送液ポンプがポンプ室内に混入した気泡を検出する原理を示した説明図である。
【図5】第1実施例の気泡検出部の内部構成を示した説明図である。
【図6】第1実施例の気泡検出部が気泡を検出する様子を例示した説明図である。
【図7】圧電素子に駆動信号を印加したときの駆動電流波形のスペクトル解析の結果を示した説明図である。
【図8】第2実施例の気泡検出部の内部構成を示した説明図である。
【図9】第2実施例の気泡検出部が気泡を検出する様子を例示した説明図である。
【図10】気泡検出部を適用可能な装置の別例として、噴射した流体の圧力によって生体組織などを切除する切除装置を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.冷却装置の構成:
B.送液ポンプの構成:
C.送液ポンプの動作:
D.気泡の検出原理:
E.第1実施例:
F.第2実施例:
【0018】
A.冷却装置の構成 :
図1は、本実施例の冷却装置10の構成を示した説明図である。図示されるように本実施例の冷却装置10は、流体が流れる流体流路150や、流体流路150に流体を循環させる送液ポンプ100などを備えている。流体流路150の途中には、電子部品などの熱源22からの熱を流体に吸収させる受熱部152や、流体の熱を放熱させる放熱部154が設けられており、流体流路150と、受熱部152と、放熱部154とによって、送液ポンプ100に流体を循環させる流路構成となっている。尚、図2では、流体が流れる方向が、破線の矢印によって示されている。
【0019】
受熱部152では、金属などの熱伝導率の高い材質で形成された図示しない伝熱部材に流体が接触して流れるようになっており、伝熱部材は、熱源22の熱を持つ部分に接触している。このため、熱源22の熱が伝熱部材を介して流体に伝達されて熱源22が冷却される。放熱部154は、いわゆるラジエーターであり、内部を流れる流体の温度を、表面に形成された複数の放熱フィンから空気中に放熱する。その結果、放熱部154を通過した流体は冷やされた状態で、送液ポンプ100に還流される。
【0020】
また、本実施例の冷却装置10には、放熱部154での放熱を促進するための冷却促進ユニットも搭載されている。この冷却促進ユニットは、冷却ファン160と、冷却ファン160を回転させるファンモーター162と、ファンモーター162の動作を制御するモーター制御部164と、温度センサー166などから構成されている。温度センサー166は熱源22の近傍に配置されており、熱源22の温度を検出して、検出した温度をモーター制御部164に出力する。モーター制御部164は、検出された温度に基づいてファンモーター162の動作を制御する。例えば、温度センサー166で検出した温度が高い場合には、ファンモーター162の回転速度を増加させることによって放熱部154での放熱を促進させる。すると、放熱部154から流出する流体の温度が低下し、より温度の低い流体が受熱部152に供給される結果、熱源22の温度を下げることが可能となる。
【0021】
C.送液ポンプの構成 :
図2は、本実施例の冷却装置10に搭載されている送液ポンプ100の構造を示した説明図である。図2(a)には送液ポンプ100の断面図が示されており、図2(b)には、送液ポンプ100の上面図が示されている。図2(a)に示されるように、本実施例の送液ポンプ100は、おおまかには、圧電素子ケース110と、ポンプ室ブロック120と、入口側ブロック130の3つの部分から構成されている。
【0022】
このうち、圧電素子ケース110は、積層型の圧電素子114が内部に収納されており、圧電素子ケース110の底部には、底板112が堅固に固定されている。圧電素子114の底部は底板112に接着されており、圧電素子114の上面には補強板116が接着されている。また、圧電素子114は正電圧が印加されると電圧値に応じて伸張する性質を有している。そして、補強板116および圧電素子ケース110は、圧電素子114に電圧が印加されていない状態で、補強板116の上面と圧電素子ケース110の端面とが面位置となるように研磨加工されている。従って、圧電素子114に正電圧を印加すると、補強板116の上面が圧電素子ケース110の端面から少し飛び出た状態となる。
【0023】
更に、補強板116および圧電素子ケース110の上面には、ステンレス鋼薄板で形成された円板形状のダイアフラム118が、それぞれ補強板116および圧電素子ケース110に接着される。
【0024】
ポンプ室ブロック120は、底面側(圧電素子ケース110に向いた側)に開口する円形の浅い凹部が形成されており、凹部の中心部分は円柱状に貫通した形状となっている。底面側の凹部の内径はダイアフラム118の外径よりも小さくなっており、このため、圧電素子ケース110の上にポンプ室ブロック120を載せると、ダイアフラム118は、ポンプ室ブロック120の凹部の外側の部分と、圧電素子ケース110との間で挟まれた状態となる。この状態で、ポンプ室ブロック120は、ネジ止めなどによって圧電素子ケース110に堅固に取り付けられる。
【0025】
また、ポンプ室ブロック120を圧電素子ケース110に取り付けると、ポンプ室ブロック120の底面側に形成された凹部および凹部の中央の貫通部分と、ダイアフラム118との間には、ポンプ室122が形成される。圧電素子114が伸張あるいは収縮してダイアフラム118が変形すると、ポンプ室122の容積が変化する。また、ポンプ室ブロック120の側面には出口接続管126が立設しており、出口接続管126の内部には出口流路128が形成されている。そして、ポンプ室122は、細管通路124を介して出口流路128に連通している。出口接続管126には、図2に示した流体流路150が取り付けられる。
【0026】
入口側ブロック130は、上面側(ポンプ室ブロック120とは反対側)に開口させて円形の凹部が形成されており、凹部の中心部分には底面側(ポンプ室ブロック120と向いた側)に貫通した通路が形成されている。上面側に開口した凹部は、柔軟で且つガスバリア性の高いカバー132で覆われており、入口側ブロック130の凹部との間に入口側バッファー室134が形成されている。カバー132の材質としては、柔軟性とガスバリア性とを両立させるために、金属(例えばステンレス、アルミニウムなど)の薄膜と樹脂との複合材料や、金属膜などが望ましい。また、入口側バッファー室134からポンプ室122に連通する通路は、内径が徐々に縮径されており、ポンプ室122との境界部分には、ステンレス鋼薄板で形成された逆止弁139が設けられている。このため、ポンプ室122の圧力が入口側バッファー室134の圧力よりも高い場合には、逆止弁139が閉じてポンプ室122から入口側バッファー室134への流体の逆流が防止され、逆に、ポンプ室122の圧力が入口側バッファー室134の圧力よりも低くなると、逆止弁139が開いて入口側バッファー室134からポンプ室122へと流体が流れ込む。また、入口側ブロック130の側面には、入口接続管136が立設しており、入口接続管136の内部には入口流路138が形成されており、この入口流路138は入口側バッファー室134に開口している。この入口接続管136には、図2に示した流体流路150が取り付けられる。また、図2(b)には、逆止弁139の形状や、補強板116の形状などが示されている。
【0027】
図3は、送液ポンプ100の動作を制御する制御部200の構成を示した説明図である。本実施例の制御部200は、駆動信号生成部210や、気泡検出部220などから構成されている。駆動信号生成部210では、送液ポンプ100に内蔵された圧電素子114に印加する正電圧の電圧波形(以下、駆動信号と呼ぶ)を生成する。駆動信号生成部210で生成した駆動信号は、増幅部(図示せず)で増幅された後に送液ポンプ100に出力され、送液ポンプ100の圧電素子114に駆動信号が印加される。
【0028】
また、駆動信号が送液ポンプ100の圧電素子114に出力されるのと同じタイミングで、駆動信号生成部210から気泡検出部220に対して信号(トリガー信号)が出力される。トリガー信号を受け取った気泡検出部220は、圧電素子114に流れる電流を検出することにより、送液ポンプ100のポンプ室122内に混入した気泡を検出する。気泡を検出する原理や検出方法については後ほど詳しく説明する。
【0029】
尚、本実施例の制御部200は、駆動信号生成部210で生成した駆動信号を圧電素子に印加したり、ポンプ室122内の気泡の検出を行っているので、本発明の「駆動手段」、および「気泡判定手段」に対応する。
【0030】
D.送液ポンプの動作 :
図2に示した本実施例の送液ポンプ100は、次のように動作する。先ず、ポンプ室122や、入口側バッファー室134、入口流路138、細管通路124、出口流路128は全て流体で満たしておく。また、圧電素子114に制御部200からの駆動信号が印加されていない状態では、補強板116の上面と圧電素子ケース110の端面とが面位置となっている。そして、圧電素子114に駆動信号の正電圧が印加されると、圧電素子114が伸張してポンプ室122の容積が小さくなり、ポンプ室122の流体が加圧される。ここで、ポンプ室122と入口側バッファー室134との間には逆止弁139が設けられているので、ポンプ室122内の流体が入口側バッファー室134に逆流することはない。その結果、ポンプ室122の容積が減少した分の流体が、出口流路128から圧送される。
【0031】
次に、圧電素子114に印加した正電圧を取り除くと、圧電素子114が収縮してポンプ室122の容積が元に戻り、ポンプ室122が負圧となる。この負圧は、入口側バッファー室134にある流体(入口側の流体)をポンプ室122に吸い込む方向に作用すると同時に、出口流路128内にある流体(出口側の流体)を吸い込む方向にも作用する。しかし実際には、出口側の流体が吸い込まれることはほとんど無く、もっぱら入口側の流体が吸い込まれる。これは、出口側の流路(細管通路124および出口流路128)のイナータンスに比べて、入口側の流路(入口側バッファー室134および逆止弁139が設けられた通路部分)のイナータンスが大幅に小さいことに因る。
【0032】
ここでイナータンスとは、流路の特性値であり、流路の一端に圧力が加わったことによって流路内の流体が流れようとする時の、流体の流れ易さを示している。たとえば、断面積がSで長さがLの流路に密度ρの流体(ここでは液体とする)が満たされており、流路の一端に圧力P(正確には、両端での圧力差P)が加わったものとする。流路内の流体には圧力P×断面積Sの力が作用し、その結果、流路内の流体が流れ出す。その時の流体の加速度をaとすると、流路内の流体の質量は密度ρ×断面積S×長さLだから、運動方程式を立てて変形すると、
P=ρ×L×a ・・・(1)
が得られる。更に、流路を流れる体積流量をQ、流路を流れる流体の流速をvとすると、
Q=v×S だから、
dQ/dt=a×S ・・・(2)
が成り立つ。(2)式を(1)式に代入すると、
P=(ρ×L/S)×(dQ/dt) ・・・(3)
となる。この式は、流路内の流体についての運動方程式を、流路の一端に加わる圧力P(正確には両端での圧力差)と、dQ/dtとを用いて表した式である。(3)式は、同じ圧力Pが加わるのであれば、(ρ×L/S)が小さくなるほど、dQ/dtが大きくなる(すなわち、流速が大きく変化する)ことを表している。この(ρ×L/S)が、イナータンスと呼ばれる値である。
【0033】
また、流路は断面積Sが変化する。たとえば、図2に示した本実施例の送液ポンプ100では、ポンプ室122から液体が流れ出す側の流路は、細管通路124および出口流路128という内径の異なる2つの部分から構成されている。流路の内径が途中で変化している場合は、内径が一定の複数の流路に分割して、それぞれの流路のイナータンスが合成されたものとして取り扱えばよい。合成されたイナータンス(合成イナータンス)は、電気回路に設けられたコイルのインダクタンスを合成する場合と同様にして求めることができる。
【0034】
図2に示した本実施例の送液ポンプ100では、ポンプ室122の出口側の流路の合成イナータンスは、細管通路124のイナータンスと出口流路128のイナータンスとを合成したイナータンスとなる。細管通路124も出口流路128も、内径が小さく且つ通路長が長いのでイナータンスが大きく、これらを合成した合成イナータンスも大きな値となる。これに対してポンプ室122の入口側の流路の合成イナータンスは、入口側バッファー室134のイナータンスと、逆止弁139が設けられた通路部分のイナータンスとを合成したイナータンスとなる。
【0035】
入口側バッファー室134は内径が大きく且つ通路長が短いのでイナータンスはたいへんに小さく、逆止弁139が設けられた通路部分のイナータンスと合成した合成イナータンスも小さな値となる。このため、前述のとおり、ポンプ室122が負圧となったときに、合成イナータンスの大きな出口側の液体はほとんど吸い込まれず、もっぱら合成イナータンスの小さな入口側の液体がポンプ室122に吸い込まれるのである。
【0036】
このように本実施例の送液ポンプ100は、圧電素子114に正電圧を印加するとポンプ室122内の流体が出口流路128から圧送され、圧電素子114に印加した正電圧を除去すると、入口側バッファー室134内の流体がポンプ室122に流入する。従って、圧電素子114に対して断続的に正電圧を印加することでポンプ室122内の流体が繰り返し圧送されて、流体流路150内を流体が循環する。
【0037】
ここで、送液ポンプ100のポンプ室122内に気泡が混入すると、ポンプ室122の容積を小さくした時に気泡が圧縮されることにより、流体を十分に加圧することが困難となる。その結果、出口流路128から流体を圧送することができなくなり、流体の循環が停止してしまう。そこで、本実施例の送液ポンプ100は、こうした事態を回避するために、ポンプ室122内に混入した気泡を次のようにして検出する。
【0038】
E.気泡検出の原理 :
図4は、本実施例の送液ポンプ100がポンプ室122内に混入した気泡を検出する原理を示した説明図である。図4には、圧電素子114に駆動信号を印加したときに、圧電素子114に流れる電流(駆動電流)の波形が示されている。尚、図4(a)には、ポンプ室122内に気泡が混入していない状態での圧電素子114の駆動電流波形が示されており、図4(b)には、ポンプ室122内に気泡が混入した状態での圧電素子114の駆動電流波形が示されている。
【0039】
図示されているように、本実施例の送液ポンプ100の圧電素子114に印加される駆動信号は、電圧が上昇する前半部分と、その後電圧が減少する後半部分とによって構成されている。この駆動信号を圧電素子114に印加すると、ポンプ室122内に気泡が混入していない状態では、図4(a)に示されるように、圧電素子114に流れる電流が増加した後に減少するが、駆動信号が最大電圧に到達したタイミングでは電流が0まで減少せず、その後ゆっくりと電流が減少してほぼ0になる。一方で、ポンプ室122内に気泡が混入した状態では、駆動信号が印加されると、図4(b)に示されるように、圧電素子114に流れる電流が増加した後に減少し、駆動信号が最大電圧に到達したタイミングで電流がほぼ0となる。
【0040】
一般的には、気泡が混入した状態(図4(b)の状態)のように、印加する電圧が大きくなるほど圧電素子114に流れる電流も大きくなり、駆動信号が最大電圧に達すると(電圧増加が無くなると)、圧電素子114に流れる電流がほぼ0になる。しかし、気泡が混入していない状態(図4(b)の状態)では、駆動信号が最大電圧に達しても少しの間、圧電素子114の電流が0まで落ちない(電流が流れ続ける)という現象が生ずる。これは次のようにして説明することができる。圧電素子114に対して正電圧を印加し、ポンプ室122内の流体を圧送する際に、圧電素子114はポンプ室122内の流体から反力を受けて、本来の印加電圧に対する伸び量よりも伸びが小さくなる。しかし、ポンプ室122内の流体が出口流路128から圧送されると、細管通路124および出口流路128の合成イナータンスによって、ポンプ室122内の流体が出口流路128に流れ続けてポンプ室122内圧力が減少する。このため、圧電素子114が本来の伸び量まで伸張されるので、駆動信号の電圧増加が無くなっても、圧電効果によって圧電素子114に電流が流れる。従って、こうした現象に起因する駆動電流波形の変化を気泡検出部220で検出することにより、ポンプ室122内の気泡を検出することが可能となる。
【0041】
F.第1実施例 :
図5は、第1実施例の気泡検出部220の内部構成を示した説明図である。図示されているように、第1実施例の気泡検出部220は、スイッチ部222や、スイッチ制御部224、電流検出部226、比較部228などの電気回路によって構成されている。
【0042】
送液ポンプ100の圧電素子114は、気泡検出部220のスイッチ部222に接続されている。スイッチ部222は主にアナログスイッチによって構成されており、スイッチ制御部224の制御を受けてスイッチのON/OFFが切り替わる。このスイッチ部222は、通常は、スイッチ制御部224からHi状態の制御信号を受けてスイッチがONとなっており、これにより圧電素子114と電流検出部226とが接続された状態となっている。一方で、駆動信号生成部210からのトリガー信号がスイッチ制御部224に入力されると、スイッチ制御部224からの制御信号が所定期間、Low状態になってスイッチがOFFとなり、圧電素子114と電流検出部226との接続が切断される。
【0043】
電流検出部226は、抵抗を含む回路として構成されている。この電流検出部226では、圧電素子114と電流検出部226とが接続された状態で、圧電素子114に流れる電流を、電流の大きさに対応する電圧として検出する。
【0044】
このように電流検出部226で検出された電圧は、比較部228に出力される。比較部228は、主にICチップによって構成されており、電流検出部226から入力された電圧と、予め設定された閾値電圧とを比較し、その結果に応じてHiまたはLow何れかの電圧状態を出力する。本実施例では、電流検出部226から入力された電圧が、閾値電圧よりも大きい場合には、Hiの電圧状態を検出信号として出力し、閾値電圧よりも小さい場合にはLowの電圧状態を検出信号として出力するようになっている。
【0045】
図6は、第1実施例の気泡検出部220が気泡を検出する様子を例示した説明図である。図6の最上段には、圧電素子114に印加する駆動信号が示されており、その下には、駆動信号を印加したときの圧電素子114の駆動電流波形が示されている。尚、図6には、ポンプ室122内に気泡が混入していない場合の駆動電流波形(図6(a)を参照)と、気泡が混入した場合の駆動電流波形(図6(b)を参照)とが示されている。
【0046】
駆動電流波形の下には、駆動信号生成部210から出力されるトリガー信号が示されている。図示されているように、駆動信号生成部210は、圧電素子114に駆動信号の印加を開始するタイミングでトリガー信号を出力する。また、トリガー信号の下には、スイッチ制御部224の制御信号が示されている。制御信号は、スイッチ制御部224がトリガー信号を受けるとLow状態となり、所定期間が経過すると、再びHi状態に戻る。
【0047】
ここで、制御信号がLow状態となる所定期間は、圧電素子114に駆動信号の印加を開始してから駆動信号が最大電圧に達するまでの期間に設定されている。制御信号がLow状態ではスイッチ部222がOFFとなるので、所定期間中は、圧電素子114の電流(正確には、電流の大きさに対応する電圧)が、電流検出部226で検出されなくなる。その結果、図6に示されるように、駆動信号の印加を開始してから最大電圧に達するまでの期間の波形を除いた駆動電流波形が取り出され、電流検出部226から出力される。
【0048】
こうして得られた電流検出部226の出力と、予め設定しておいた閾値電圧との大小関係を、比較部228を用いて検出する。図6には、電流検出部226の出力と比較する閾値電圧が、一点鎖線によって示されている。また、電流検出部226の出力の下には、比較部228の出力(検出信号)が示されている。
【0049】
ポンプ室122内に気泡が混入していなければ、駆動信号が最大電圧に達した後も少しの間、圧電素子114に電流が流れ続けるので、電流検出部226の出力波形中に、出力が0Vよりも大きい部分が生ずる(図6(a)を参照)。本実施例の閾値電圧は、0Vよりも少し大きな値に設定されているため、電流検出部226の出力が閾値電圧よりも大きくなる期間中に、比較部228からHi状態の検出信号が出力される。このHi状態の検出信号を受けて、気泡検出部220は、ポンプ室122内に気泡が混入していないと判断する。一方、気泡が混入すると、最大電圧の印加時には圧電素子114の電流がほぼ0まで減少しているので、電流検出部226の出力波形中に0Vよりも大きい部分は殆ど生じない(図6(b)を参照)。このため、比較部228からの出力電圧はLow状態のままとなり、これを受けた気泡検出部220は、気泡が混入したと判断する。
【0050】
尚、気泡検出部220がポンプ室122内に気泡が混入したと判断した場合、制御部200は、送液ポンプ100に設けられた警告ランプ(図示せず)を点灯させることにより、使用者に気泡を取り除くメンテナンス作業を行うように促す。
【0051】
このような第1実施例の気泡の検出方法では、ポンプ室122内の流体を加圧するための圧電素子114を利用して、ポンプ室122内の気泡を検出することができる。従って、気泡を検出するための装置を別途、送液ポンプ100に設ける必要がないので、送液ポンプ100の小型化を図ることが可能となる。
【0052】
尚、図6に示されているように、ポンプ室122内に気泡が混入すると、駆動電流波形のピーク値が大きくなる。従って、駆動電流波形のピーク値が高くなったことを検出して気泡を検出することも可能である。しかし、駆動電流波形のピーク値は、圧電素子114に印加する駆動信号の振幅によって変化する。従って、駆動電流波形のピーク値が、印加した駆動信号に対応して大小を判断しなければならず、適切な閾値を設定できるか否かによって判断の精度が大きく左右されてしまう。
【0053】
これに対して、本実施例の気泡の検出方法では、駆動信号が最大電圧に達して電圧増加が止まったにもかかわらず、圧電素子114に電流が流れ続けているか否かに基づいて、気泡を検出する。電流が流れ続けているか否かであれば、閾値の設定に左右されずに安定して判断することができるので、気泡の有無を精度よく検出することが可能となる。
【0054】
G.第2実施例 :
以上に説明した第1実施例の気泡検出部220では、駆動信号が最大電圧に達した以降の圧電素子114の駆動電流波形の変化を検出するために、最大電圧印加後に圧電素子114に流れる電流の有無を検出するものと説明した。ここで、駆動電流波形の変化を検出するには、駆動電流波形の特定の周波数成分の振幅を検出することとしてもよい。
【0055】
図7は、圧電素子114に駆動信号を印加したときの駆動電流波形のスペクトル解析の結果を示した説明図である。尚、図7には、ポンプ室122内に気泡が混入していない場合の駆動電流波形のスペクトル解析の結果が実線により示されており、気泡が混入した場合の解析結果が波線によって示されている。
【0056】
図示されているように、ポンプ室122内に気泡が混入していない場合と気泡が混入している場合とでは、気泡が混入している場合のほうが、駆動電流波形の特定の周波数成分(19Hzの成分,および30Hzの成分)の振幅が大きくなっている。このように駆動電流波形の変化が特定の周波数成分の振幅の変化として現れるので、19Hz,あるいは30Hzの何れかの周波数成分の振幅を検出することで、気泡の有無を判断する。
【0057】
図8は、第2実施例の気泡検出部320の内部構成を示した説明図である。図示されているように、第2実施例の気泡検出部320は、圧電素子114に接続された電流検出部322と、電流検出部322の出力から所定の周波数成分(第2実施例では、19Hzの周波数成分)を取り出すバンドパスフィルター324と、バンドパスフィルター324からの入力と閾値電圧とを比較して、閾値電圧よりも高い電圧が入力された場合にHi状態の検出信号を出力する比較部326などから構成されている。
【0058】
図9は、第2実施例の気泡検出部220が気泡を検出する様子を例示した説明図である。図9の上段には、バンドパスフィルター324からの出力(駆動電流波形の19Hzの周波数成分に相当)が示されており、図9の下段には、比較部326からの出力(検出信号)が示されている。尚、図9(a)には、ポンプ室122内に気泡が混入していない状態での出力が示されており、図9(b)には、気泡が混入した状態での出力が示されている。
【0059】
ポンプ室122内に気泡がない状態では、バンドパスフィルター324からの出力の振幅が小さいので、出力が比較部326の閾値電圧を超えない。従って、比較部326からLow状態の検出信号が出力され続ける。この場合、気泡検出部320は、ポンプ室122内に気泡はないと判断する。一方で、気泡が混入した場合、バンドパスフィルター324からの出力電圧の振幅が大きくなって閾値電圧を超えるので、閾値電圧を超えた期間中に比較部326からHi状態の検出信号が出力される。このような検出信号を受けると、気泡検出部320は、ポンプ室122内に気泡があると判断する。
【0060】
以上のような第2実施例の気泡検出部320では、前述した第1実施性の気泡検出部220のように、外部からの信号(トリガー信号)による制御を受けなくても、ポンプ室122内の気泡の検出を行うことができる。従って、気泡の検出を行うための制御を簡単なものとすることが可能となる。
【0061】
以上、本実施例の送液ポンプ100、および送液ポンプ100を搭載した冷却装置10について説明したが、本発明は上記すべての実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。たとえば、上述した実施例では、気泡検出部220,320を、流体を循環させる送液ポンプ100に適用するものと説明した。しかし、気泡検出部220,320は、送液ポンプ100と同様のメカニズムによって流体を噴射する装置に適用することもできる。
【0062】
図10には、気泡検出部220,320を適用可能な装置の別例として、噴射した流体の圧力によって生体組織などを切除する切除装置500が示されている。切除装置500は、大まかには、ポンプ室510や、ポンプ室510の容積を変化させるための圧電素子520や、ポンプ室510に流体を供給する入口流路530や、ポンプ室510内の流体が出口流路540を経て外部に噴射される流体噴射開口部550などから構成される。このような切除装置500も、上述した送液ポンプ100と同様のメカニズムでポンプ室510から流体を圧送するので、気泡の混入によって流体が圧送できなくなることを避けるために、ポンプ室510内の気泡の有無を検出することが必要となる。従って、切除装置500に本実施例の気泡検出部220,320を適用することで、送液ポンプ100に気泡検出部220,320を適用した場合と同様の有利な効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0063】
10…冷却装置、 100…送液ポンプ、 114…圧電素子、
118…ダイアフラム、 122…ポンプ室、 128…出口流路、
134…入口側バッファー室、 138…入口流路、 139…逆止弁、
150…流体流路、 152…受熱部、 154…放熱部、
200…制御部、 210…駆動信号生成部、 220…気泡検出部、
222…スイッチ部、 224…スイッチ制御部、 226…電流検出部、
228…比較部、 320…気泡検出部、 322…電流検出部
324…バンドパスフィルター、 326…比較部、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ室の容積を増加させることによって該ポンプ室内に流体を吸い込んだ後、該ポンプ室の容積を減少させることによって該ポンプ室内の流体を送液する送液ポンプであって、
電圧が印加されると内部に電荷を蓄えて、蓄えた電荷量に応じて変形することによって、前記ポンプ室の容積を増減させる圧電素子と、
所定の最大電圧まで増加した後に減少する波形の駆動信号を印加することによって、前記圧電素子を駆動する駆動手段と、
前記駆動信号を前記圧電素子に印加してからの所定期間内に該圧電素子に流れる電流を検出することで、前記ポンプ室内の気泡の有無を判定する気泡判定手段と
を備える送液ポンプ。
【請求項2】
前記所定期間は、前記駆動信号が前記最大電圧に達したときからの前記圧電素子に該駆動信号の印加が開始される期間、もしくは、該駆動信号が該最大電圧に達した後から該圧電素子に該駆動信号の印加が開始される期間である請求項1に記載の送液ポンプ。
【請求項3】
前記駆動信号は、前記最大電圧に達した時点では、時間に対する電圧の変化量が0であり、前記所定期間は、時間の経過とともに該電圧の変化量が大きくなるような信号である請求項2に記載の送液ポンプ。
【請求項4】
前記気泡判定手段は、前記圧電素子に流れる電流の所定の周波数成分の大きさを検出することによって、前記ポンプ室内の気泡の有無を検出する請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載の送液ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−50034(P2013−50034A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186963(P2011−186963)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】