説明

送電用鉄塔金物

【解決手段】本発明の送電用鉄塔金物は、亜鉛に対して不活性なゴム弾性を有するポリオレフィン樹脂を15〜25重量部の範囲内の量で含み、粒子径が100〜200μmに範囲内にある粒子を75〜100重量%の範囲内の量で含有する亜鉛粉を45〜70重量部の範囲内の量で含み、有機溶剤を1〜15重量部の範囲内の量で含むペースト状防食塗料が表面に塗布され硬化した、厚さ100〜3000μmであり、体積抵抗率が0.4〜1.0Ω・cmの範囲にある、伝導性を有する防食塗膜が表面に形成された送電用鉄塔金物である。
【効果】本発明によれば、厚さが平均した、高い防食性を有すると共に良好な導電性を有する塗膜が形成された鉄塔用金物が提供され、特にアークホーンとして有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛よりも貴な金属の腐食を防止するためのペースト状防食塗料、このペースト状防食塗料から形成された防食塗膜およびこのような防食塗膜が形成された送電用鉄塔金物に関する。さらに詳しくは本発明は、経時的な粘度変化が小さく、開封後長時間にわたって好適に使用することが可能なペースト状防食塗料、防食性を有し、かつ導電性を有する塗膜、このような防食性を有すると共に導電性を有する塗膜が形成された送電用鉄塔金物に関する。
【背景技術】
【0002】
送電線などを張設する鉄塔などは、鉄で形成されており、しかもこのような鉄塔などは、大変厳しい大気腐食環境下で長期間保持されることから、非常に高い防食性が要求されている。このように非常に高い防食性が要求される場合には重塗装と呼ばれる塗装方法が採用されている。このような重塗装には、飽和甘こう電極基準の自然電位が鉄よりも卑である亜鉛粉を含有する塗料が使用され、この亜鉛粉を鉄に対する犠牲電極として作用させて鉄の腐食を防止している。
【0003】
このような重塗装に使用される塗料として、たとえば特許文献1(特公平8−22981号公報)に開示されている塗料などがある。この特許文献1には、粒径が70〜150μmの大きさの粒子が80%以上である亜鉛粒子と、酸を含有していない粘着剤と、溶剤とからなり、溶剤を除き亜鉛粉が80〜95wt%、粘着剤固形分5〜20wt%の比率で混合されてなり、乾燥後の皮膜に導電性と弾力性が付与されることを特徴とする防食用Zn入り塗布充填剤の発明が開示されている。
【0004】
このような防食用Zn入り塗布充填剤を重ね塗りすることにより、充填剤中に含有される亜鉛粉は、飽和甘こう電極基準の自然電位が鉄よりも卑であるので、鉄よりも先に酸化され、鉄の酸化を防止することができる。したがって、大気腐食環境下にある鉄塔などにおいては、上記のように亜鉛粉は酸化して消費されることから、一定の期間毎に塗料を塗りなおす必要がある。
【0005】
ところで、鉄塔に送電線を張設する際には、碍子を介して送電性が張設される。この碍子は、絶縁性であり、鉄塔と送電線を電気的に絶縁するものである。
このような碍子は絶縁性であるために、たとえば落雷の直撃を受けると破壊されることがある。このために碍子の両脇にアークホーンと呼ばれるリングを配置して落雷の際にはこのアークホーン間で放電させることにより、碍子を保護している。しかしながら、このようにアークホーン間で放電すると塗膜が損傷を受けることがある。
【0006】
このようなアークホーンを含む鉄塔の塗装は、高所作業であり、いったん鉄塔上に上がると所定の作業が終了するまで、高所作業を続けるのが一般的である。
しかしながら、上記のような鉄塔で使用される部品(通常、このような部品を「鉄塔金物」という)に塗料を重ね塗りするのに、上述のような防食用Zn入り塗布充填剤のような塗料を使用していると、この塗料中に含有される有機溶剤が次第に蒸発して、塗料の粘度が上昇し、塗布作業ができなくなることが多い。地上作業の場合には、溶剤を加えて粘度を調整しながら塗布作業を行うことができるが、高所作業においては、地上作業のように粘度調整を行いながら塗布作業を行うことは非常に困難である。
【0007】
また、このような鉄塔金物などの防食に使用される防食塗料は、犠牲電極となる亜鉛などの金属粉の含有率が高く、このような金属粉を多量に含む塗料では、金属粉が沈降しや
すく、作業中に粘度が上昇することを予定して防食塗料に過剰の溶剤を配合すると、この防食塗料中で金属粉が沈降してしまい、こうして沈降して固化した金属粉を再分散させることは非常に難しい。
【0008】
従って、鉄塔金物、さらには鉄塔構造物の防食に使用される防食塗料においては、使用する前においては、含有される亜鉛粉が沈降しにくく、さらに沈降したとしても攪拌により容易に塗料中に均一に分散するような初期粘度を有していることが必要であり、かつ塗料を開封した状態で使用しても粘度が過度に上昇しないようにその組成を調整する必要がある。
【0009】
しかしながら、上記のような鉄塔金物あるいは鉄塔構造物の防食に使用される塗料には、溶剤としてトルエンなどの芳香族溶媒が使用されており、たとえばトルエンの沸点は110℃であり、夏場のように気温が高く溶剤が揮散しやすい環境下で使用すると、溶剤であるトルエンの蒸発量が非常に多く、高所作業中にこの塗料の粘度が急速に上昇してはけ塗り塗布することができなくなってしまうという問題がある。
【特許文献1】特公平8−22981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、犠牲電極となる亜鉛粉を高い含有率で含有することにより優れた防食性を有するとともに、夏場などの気温の高い時や、鉄塔上等の風が強く吹く環境でも良好な施工性を有するとともに、形成される均一な塗膜を形成可能な防食塗料を提供することを目的としている。
【0011】
さらに、本発明は、むらが少なく均一な塗膜を形成可能な粘度を長時間保持できる防食塗料を提供することを目的としている。
また、本発明は、このような塗料を用いて形成された防食性に優れた塗膜を提供することを目的としている。
【0012】
さらにまた、本発明は、上記のように均一で、かつ高い防食性を有する塗膜が表面に形成された送電用鉄塔金物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のペースト状防食塗料は、
ペースト状防食塗料100重量部中に、亜鉛に対して不活性なゴム弾性を有するポリオレフィン樹脂を15〜25重量部の範囲内の量で含み、粒子径が100〜200μmの範囲内にある粒子を75〜100重量%の範囲内の量で含有する亜鉛粉を45〜70重量部の範囲内の量で含み、
有機溶剤を1〜15重量部の範囲内の量で含有するペースト状防食塗料であり、
該有機溶剤中に、ペースト状防食塗料の25℃における初期粘度が、はけ塗り塗工により容易に塗布することができる5000cp〜12000cpの範囲内になると共に、該ペースト状防食塗料を25℃で8時間放置した後の該ペースト状防食塗料の粘度が、長期間にわたってはけ塗り塗工が可能である初期粘度に対して110〜150%の範囲内になる量で、沸点が140〜240℃の範囲内にある脂肪族炭化水素系溶媒が含有されていることを特徴としている。
【0014】
また、本発明の防食塗膜は、
ペースト状防食塗料100重量部中に、亜鉛に対して不活性なゴム弾性を有するポリオレフィン樹脂を15〜25重量部の範囲内の量で含み、粒子径が100〜200μmの範囲内にある粒子を75〜100重量%の範囲内の量で含有する亜鉛粉を45〜70重量部
の範囲内の量で含み、
有機溶剤を1〜15重量部の範囲内の量で含有するペースト状防食塗料であり、該有機溶剤中に、該ペースト状防食塗料の25℃における初期粘度が、はけ塗り塗工により容易に塗布することができる5000cp〜12000cpの範囲内になると共に、該ペースト状防食塗料を25℃で8時間放置した後の該ペースト状防食塗料の粘度が、長期間にわたってはけ塗り塗工が可能である初期粘度に対して110〜150%の範囲内になる量で、沸点が140〜240℃の範囲内にある脂肪族炭化水素系溶媒が含有されているペースト状防食塗料から形成された平均厚さが100μm〜3000μmの範囲内にあり、体積抵抗率が、0.4〜1.0Ω・cmの範囲内にある導電性の防食塗膜である。
【0015】
さらに、本発明は、
ペースト状防食塗料100重量部中に、亜鉛に対して不活性なゴム弾性を有するポリオレフィン樹脂を15〜25重量部の範囲内の量で含み、
粒子径が100〜200μmの範囲内にある粒子を75〜100重量%の範囲内の量で含有する亜鉛粉を45〜70重量部の範囲内の量で含み、
有機溶剤を1〜15重量部の範囲内の量で含有するペースト状防食塗料が表面に塗布され硬化した導電性膜を有する導電鉄塔用金物であり、
該有機溶剤中に、該ペースト状防食塗料の25℃における初期粘度が、はけ塗り塗工により容易に塗布することができる5000cp〜12000cpの範囲内になると共に、該ペースト状防食塗料を、25℃で8時間放置した後の該ペースト状防食塗料の粘度が、長期間にわたってはけ塗り塗工が可能である初期粘度に対して110〜150%の範囲内になる量で沸点が140〜240℃に範囲内にある脂肪族炭化水素系溶媒が含有されるペースト状防食塗料から得られる、厚さ100〜3000μmであり、体積抵抗率が、0.4〜1.0Ω・cmの範囲内にある防食塗膜が表面に形成されて防食加工されている送電用鉄塔金物をも提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のペースト状防食塗料は、均質性の高い亜鉛粉末を含有しており、しかもこのペースト状防食塗料の初期粘度が5000cp〜12000cpの範囲内にあるので、このペースト状防食塗料中において亜鉛粉末が分離沈降しにくく、さらに、本発明のペースト状防食塗料は、初期粘度と所定時間後の粘度の差が小さく、粘度調整を行うことなく長時間にわたり均一な塗膜を形成することができる。従って、本発明のペースト状防食塗料を用いて高所作業を行う場合にも、このペースト状防食塗料の粘度変化が小さく、長時間にわたって安定にこのペースト状防食塗料の塗布作業を行うことができる。また、本発明のペースト状防食塗料は、亜鉛粉が沈降して容器の底で固化することが少なく、非常に貯蔵安定性がよい。
【0017】
さらに本発明のペースト状防食塗料を用いて形成された塗膜は、含有される亜鉛粉末により良好な導電性を示し、この塗膜に均一に含有される亜鉛粉末が、飽和甘こう電極基準の自然電位が亜鉛よりも貴である鉄に対する犠牲電極となって鉄の酸化を防止することができる。
【0018】
従って、このような本発明のペースト状防食塗料から形成された塗膜が表面に形成された鉄塔金物は、非常に優れた防食性を示すと共に、形成された塗膜が導電性であるので、この塗膜を有する鉄塔金物間でアーク放電が可能であり、たとえば落雷の際に碍子を挟んで配置されたアークホーン間でアーク放電することにより、碍子の損傷を防止することができる。
【0019】
特に上記のような塗膜を有する鉄塔金物は、表面に形成された塗膜が導電性であり、さらにこの塗膜中に均一に含有される亜鉛粉末が鉄に対して犠牲陽極として作用して鉄より
も先に酸化されるので、大変優れた防食性を有する。また、本発明のペースト状防食塗料中に含有される樹脂は、ゴム弾性を有しており、送電用鉄塔金物の熱収縮に追随することができるので、クラックなどが発生しにくく、従って本発明のペースト状防食塗料から形成された塗膜、および、このような塗膜を表面に有する送電用鉄塔金物は、優れた耐候性を示す。さらに、このようにして形成された塗膜には、本発明のペースト状防食塗料を塗り重ねることが可能であり、重ね塗りすることにより、耐候性が向上すると共に、鉄塔などの防食塗膜を補修する際に、既に塗布されている塗膜を剥離することなく、既にある塗膜の表面に本発明のペースト状防食塗膜を塗り重ねることができる。
【0020】
すなわち、送電用鉄塔金物に対するはけ塗り施工性の評価は、JIS K5400の規定に基き評価されるが、本発明ではさらに、塗膜の平滑性および均一性をも勘案して評価している。そして、本発明のペースト状防食塗料は、JIS K5400に規定される施工性を満たすことは勿論、形成された塗膜が平滑で、かつ均一である。さらに、従来の塗料を用いた場合には、塗工作業が長時間に及ぶと形成される塗膜の凹凸が大きくなり、だまなどが多く点在するが、本発明のペースト状防食塗料を用いることにより、経時的に、こうした凹凸あるいはだまが著しく発生しにくくなる。
【0021】
また、本発明で好適に使用される主有機溶媒は、脂肪族炭化水素系溶媒であり、従来、重塗装用塗料の主溶剤として使用されていたトルエン、キシレンなどと比較すると作業環境を汚染することがなく、安全に塗布作業を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に本発明のペースト状防食塗料、防食塗膜および送電用鉄塔金物について具体的に説明する。
本発明のペースト状防食塗料は、樹脂、亜鉛粉および有機溶媒を含有するものである。
【0023】
本発明のペースト状防食塗料中に配合される樹脂は、この塗料中に配合される亜鉛に対して反応性を有していない樹脂であり、この樹脂がゴム弾性を有していることが好ましい。
【0024】
すなわち、本発明のペースト状防食塗料中に含有される樹脂は、この塗料から形成される塗膜を塗布面に密着させると共に、亜鉛粉を分散させるためのマトリックスであり、さらに、この塗膜により防食される送電用鉄塔金物などの表面を保護する被覆材でもある。このためにこの樹脂からなる塗膜が硬質であると、たとえば金属との熱膨張係数の相違などにより、被膜にクラックが発生し、また、金属表面に対する密着性などが低下することがある。このため本発明で使用される樹脂は、金属表面に対して密着性がよく、熱膨張などによっても追随性を有するようにゴム弾性を有する樹脂を使用することが好ましい。
【0025】
このような樹脂としては、プロピレンゴム、ブタジエンゴムなどのようにα-オレフィ
ン構造を有するモノマーから形成されたゴム弾性を有するオレフィン系弾性樹脂;SEBS、SEPSのようにスチレンとα-オレフィンとからなるスチレン系弾性樹脂;アクリ
ル系弾性樹脂;天然ゴム;変性シリコーン系弾性樹脂を挙げることができる。これらの弾性樹脂は単独であるいは組み合わせて使用することができる。特に本発明では、ブタジエンのように共役ジエンから形成されたオレフィン系弾性樹脂を使用することが好ましい。このような弾性樹脂を使用することにより、溶剤として使用される特定の脂肪族炭化水素との親和性がよく、脂肪族炭化水素系の溶媒を使用することにより、本発明のペースト状防食塗料の粘度を急速に上昇しにくくするという作用がある。
【0026】
本発明のペースト状防食塗料に含有されている亜鉛粉は、粒子径の揃ったものを使用することが好ましく、本発明では、100〜200μmの範囲内の粒子径を有する粉末の含
有率が、亜鉛粉末全体の75〜100重量%の範囲内にある亜鉛粉を使用する。
【0027】
本発明で使用する亜鉛粉は、上記のように非常に粒子の揃ったものであるが、さらに、この亜鉛粉中における不純物の量はできるだけ少ないことが好ましく、特に飽和甘こう電極基準の自然電位が鉄と同等若しくは鉄よりも貴である金属を含まないものであることが特に好ましい。
【0028】
本発明で使用する亜鉛粉としては、好適にはアトマイザーなどで粉砕された純亜鉛粉を、風力分級装置、標準篩などの分級装置を用いて粒子径が上記範囲内になるように分級した純亜鉛粉を使用する。このように粒子径の揃った純亜鉛粉を使用することにより、本発明のペースト状防食塗料から得られる塗膜の均一性が高くなり、この塗膜が良好な防食性を有するようになり、さらに、この塗膜が良好な電気導電性を有するようになる
本発明のペースト状防食塗料は、上記のような樹脂とこの樹脂を溶解若しくは分散する有機溶媒と、このような樹脂の有機溶媒溶液あるいは有機溶媒分散液に、亜鉛粉が分散されてなる。
【0029】
ここで使用する有機溶媒中には脂肪族炭化水素系溶媒が含有されている。この脂肪族炭化水素系溶媒は、沸点が140〜240℃の範囲内、好ましくは140〜220℃の範囲内にある脂肪族炭化水素の混合物である。沸点が140℃以上の脂肪族炭化水素溶媒を使用することにより、塗布に好適な初期粘度を有する樹脂溶液を形成することができる。なお、この脂肪族炭化水素系溶媒の沸点が240℃を超えると、本発明のペースト状防食塗料を塗布することにより形成された塗布層から有機溶媒が揮散除去して防食性に優れた塗膜を形成するのに要する時間が長くなりすぎることがある。沸点が140〜240℃の範囲内にある脂肪族炭化水素系溶媒は、本発明のペースト状防食塗料に含有される亜鉛に対して不活性な樹脂との親和性がよく、このような樹脂を高濃度で溶解して、粘度の高く、かつはけ塗り塗装可能な粘度の溶液を形成することができる。特に本発明のペースト状防食塗料には上記のような亜鉛粉を高濃度で含有しており、貯蔵中にこのような亜鉛粉が缶の底に沈降して固化しにくい粘度を有している。
【0030】
即ち、本発明のペースト状防食塗料の初期粘度は、この塗料中に含有されている亜鉛粉が沈降しにくいように25℃において5000〜12000cpの範囲内に調整されていることが好ましい。このように初期粘度を調整することにより、亜鉛粉が沈降しにくくなり、また、このペースト状防食塗料をはけ塗り塗工により容易に塗布することができる。さらに、このようにして形成された塗膜の均一性が高くなる。
【0031】
なお、本発明で使用される沸点が140℃〜240℃に範囲内にある脂肪族炭化水素系の溶媒は、主に炭素数が8〜11の範囲内にある脂肪族炭化水素であり、このような脂肪族炭化水素系溶媒としては、具体的には、初留点が140℃以上であり、終点が240℃以下である石油留分を使用することができる。このような脂肪族炭化水素系溶媒は、ブチルゴムに対して良好な溶媒であると共に、このような脂肪族炭化水素系溶媒とブチルゴムとを組み合わせて使用することにより、ペースト状防食塗料の経時的な粘度上昇を抑えることができやすくなる。
【0032】
本発明のペースト状防食塗料は、25℃で8時間放置した後のこのペースト状防食塗料の粘度の上昇が小さいことが望ましく、上記の初期粘度に対して110〜150%の範囲内の粘度(本発明において、この25℃で8時間放置した後のこのペースト状防食塗料の粘度を「経時粘度」と記載することもある)になるように調整されている。さら初期粘度に対する経時粘度が110〜145%の範囲内になるように調整されていることが好ましい。このように初期粘度に対する経時粘度を調整することにより、粘度調整を行うことなく、長時間にわたってはけ塗り塗工が可能である。そして、このようにして形成された塗
膜は均一性が高く、良好な防食性を有すると共に、形成された塗膜が安定した導電性を有する。
【0033】
なお、本発明のペースト状防食塗料の初期粘度および経時粘度は次のようにして測定した値である。
初期粘度は、各成分を配合して調製されたペースト状防食塗料を密封状態で25℃に保存する。このペースト状防食塗料の25℃に保管したペースト状防食塗料の粘度を測定し、この粘度を初期粘度とする。本発明において経時粘度は、本発明のペースト状防食塗料を容器に入れたまま開口し、25℃で8時間放置した後、このペースト状防食塗料の粘度を測定した値である。本発明においてペースト状防食塗料の粘度は、JIS K5400で規定される回転粘度計を用いて測定した値である。
【0034】
上記のようにして測定された次式に従い粘度上昇率を算定する。
粘度上昇率(%)=(経時粘度/初期粘度)×100
そして、本発明のペースト状防食塗料は、上記式により算定される粘度上昇率が110〜150%の範囲内にあり、さらにこの粘度上昇率が110〜145%の範囲にあることが好ましい。このような粘度上昇率の範囲にあるペースト状防食塗料は、作業途中で粘度調整を行うことなく、はけ塗り塗装により均一性の高い防食塗膜を形成することができる。
【0035】
このように本発明のペースト状防食塗料の粘度は、樹脂、亜鉛粉、有機溶媒の含有量および種類により調整することができる。
本発明で使用する樹脂は、上述のようにゴム弾性を有する樹脂であり、調製直後における本発明のペースト状防食塗料(100重量部)中における上記樹脂の含有量を、樹脂固形分換算で、通常は10〜30重量部、好ましくは15〜25重量部の範囲内にする。また、調製直後における本発明のペースト状防食塗料(100重量部)中における亜鉛粉の含有量を、40〜85重量部、好ましくは45〜70重量部の範囲内にする。さらに、調製直後における本発明のペースト状防食塗料(100重量部)中における有機溶剤の含有量を、1〜15重量部の範囲内にする。上記のように樹脂、亜鉛粉、有機溶媒の量を上記のように調整して本発明のペースト状防食塗料の初期粘度を5000〜12000cpの範囲内にすることにより、亜鉛粉が沈降しにくくなる。
【0036】
本発明において、上記のような初期粘度を有する本発明のペースト状防食塗料の粘度上昇率を初期粘度に対して110〜150%、好ましくは110〜145%の範囲内にするためには、ペースト状防食塗料に含有される有機溶媒中における沸点が140〜240℃の範囲ある脂肪族系炭化水素溶媒を添加して粘度を調整する。
【0037】
本発明のペースト状防食塗料中には、粘度を調整するために添加される脂肪族系炭化水素溶媒のほかに、使用する樹脂原料中に含有される有機溶剤がある。即ち、本発明で使用される樹脂は、有機溶媒に溶解されて供給される。このような原料樹脂溶液には、樹脂成分が50〜60重量%の量で含有されており、また有機溶剤として、トルエン(bp.110℃)、キシレン(bp.138℃)などの芳香族系溶媒を10〜15重量%、低沸点脂肪族炭化水素溶媒(例;ペンタン、メチルペンタン、n-へキサン、ヘプタンなどのbp.35〜100℃
の脂肪族炭化水素系の溶媒)を20〜45重量%程度含有する。このような樹脂原料を使用すると、本発明のペースト状防食塗料中にはこうした樹脂原料由来の有機溶媒が含有されるが、本発明のペースト状防食塗料100重量部中における樹脂量は、固形分換算で、通常は10〜30重量部の範囲内にあるので、本発明のペースト状防食塗料中における、樹脂原料に由来する上記有機溶剤の量は通常は4〜15重量%であり、このような樹脂原料由来の上記有機溶剤が含有されていても本発明の経時粘度が著しく変動することはない。
【0038】
本発明のペースト状防食塗料を調製するに際しては、有機溶媒に溶解された樹脂原料を通常は10〜50重量部、好ましくは20〜40重量部、上記の亜鉛粉を、通常は40〜87.5重量部、好ましくは51.5〜76.5重量部、さらに、沸点が140〜240℃の範囲内にある脂肪族炭化水素系溶媒を、通常は2.5〜10重量部、好ましくは3.5〜8.5重量部の範囲内の量で配合することにより、25℃における初期粘度を5000〜9000cpの範囲内に調整することができる。そして、このような量で沸点が140〜240℃の範囲内にある脂肪族炭化水素系溶媒を使用することにより、経時粘度の上昇を、初期粘度に対して110%〜150%の範囲、好ましくは110%〜145%の範囲内に制御することができる。
【0039】
さらに、本発明のペースト状防食塗料においては、樹脂固形分と亜鉛粉との含有量の比率は、重量比で、通常は10:15〜10:25、好ましくは10:16〜10:24の範囲内に設定する。このような量で樹脂固形分と亜鉛粉の使用量を設定することにより、貯蔵時に亜鉛粉が沈降しにくくなると共に、得られる塗膜の防食性能がよくなり、さらに、得られる塗膜が良好な導電性を有するようになる。
【0040】
また、本発明のペースト状防食塗料100重量部中に、樹脂と、沸点が140〜240℃の範囲内にある脂肪族炭化水素系溶媒との配合比率は、重量比で、通常は1:0.18〜1:0.72、好ましくは1:0.25〜1:0.62の範囲内に設定される。
【0041】
また、本発明のペースト状防食塗料中には、通常は、原料樹脂に由来する溶剤と、沸点が140〜240℃の脂肪族炭化水素系溶媒とが含有されているが、この本発明のペースト状防食塗料中に含有される有機溶剤100重量部中における、沸点が140〜240℃の脂肪族炭化水素系溶媒の量を通常は2.5〜10重量部の範囲内の量、好ましくは3.5〜8.5重量部の範囲内の量にする。
【0042】
本発明のペースト状防食塗料の有機溶剤中における沸点が140〜240℃の脂肪族炭化水素系溶媒の量を上記のような範囲内にすることにより、本発明のペースト状防食塗料の粘度変化が、樹脂原料中に含まれる溶剤によって影響されにくくなり、本発明のペースト状防食塗料の粘度制御が容易になる。
【0043】
本発明のペースト状防食塗料は、原料樹脂成分と、亜鉛粉と、溶剤とを、通常の混合装置を用いて均一に混合することにより製造することができる。また、混練ロール装置などを用いて原料樹脂、亜鉛粉および溶剤を混練することによっても製造することができる。これらの成分の配合順序などは適宜設定することができるが、たとえば、亜鉛粉を溶剤に分散させて、この分散液と原料樹脂とを混合する方法、原料樹脂と亜鉛粉とを混練して亜鉛粉を原料樹脂に均一に分散させた後、徐々に溶剤を加えて均一に混合する方法などを採用することができる。また、亜鉛粉は分割して徐々に加えることにより、亜鉛粉を良好に分散させることができる。
【0044】
本発明のペースト状防食塗料は、上記のように樹脂、亜鉛および溶剤を含有するものであるが、その他の成分を配合することもできる。たとえば、得られる防食被膜の耐候性を向上させるために、紫外線吸収剤などの樹脂安定剤を配合することもできる。さらに、このペースト状防食塗料には亜鉛粉以外の充填材を配合することもできる。このような亜鉛粉以外の充填材の例としては、炭酸カルシウム、微粉末状シリカなどを挙げることができる。これらの充填材を配合することにより、本発明のペースト状防食塗料の流動性を調整することができ、含有される亜鉛粉を沈降しにくくすることが可能である。なお、本発明において配合することができる充填材は、亜鉛粉による防食性を阻害しないものである。
【0045】
上記のような本発明のペースト状防食塗料は、25℃における初期粘度が5000〜9000cpの範囲にあり、通常の塗装刷毛を用いて、鉄塔金物などに厚塗り塗装することができる。本発明のペースト状防食塗料を塗布して得られる防食塗膜は、防食対象物が必要とする防食に程度によってその膜厚を適宜設定することができるが、本発明のペースト状防食塗料は、初期粘度が比較的高いことから、一般の塗料よりも膜厚が厚くなる傾向があり、通常の場合、本発明のペースト状防食塗料を用いて一回塗りで形成された塗膜の膜厚は、通常は100〜2000μmの範囲内にあり、さらに、重ね塗りすることにより、膜厚が100〜3000μmの防食塗膜を形成することができる。このような防食塗膜は、多量に含有される亜鉛粉により電気的な導通が確保され、導電性を示す。従って、たとえば鉄などの基材表面にこの防食塗膜を形成すると、基材と防食塗膜とは、電気的に導通しており、鉄などの基材表面の一部にこの防食塗膜のよる被覆が不完全な部分があったとしても、防食塗膜に含有される亜鉛粉が犠牲電極となって、先に酸化されるために、基材である鉄の酸化腐食を防止することができる。
【0046】
このように本発明のペースト状防食塗料から得られた防食塗膜が、上記のように良好な防食性を示すためには、この防食塗膜の体積抵抗率が、通常は0.4〜1.0Ω・cmの範囲内にする。
【0047】
このように塗膜の電気導電率を一定の範囲内にするためには、本発明のペースト状防食塗料から形成される防食塗膜中の亜鉛粉が偏在しないように、ペースト状防食塗料の均一性が高く、さらに塗工作業中における塗布液(塗料)の粘度変化が小さいことが必要である。そして、本発明のペースト状防食塗料は、経時的な粘度変化が小さく、たとえば高所作業のように作業中に粘度調整を行いにくい場合であっても、均一性の高い防食塗膜を形成することができる。
【0048】
本発明のペースト状防食塗料は、優れた防食性を有しており、飽和甘こう電極基準の自然電位が亜鉛よりも貴な金属の防食に通常の防食塗料と同様に使用することも可能であるが、本発明のペースト状防食塗料から得られる防食塗膜は導電性を有しており、高い防食性を有すると共に防食塗膜が導電性であることを必要とする部材の防食塗料として好適に使用することができる。
【0049】
本発明のペースト状防食塗料は、含有される亜鉛粉によって、各鉄塔金物の接合部分においても良好な導電性が確立されるので、鉄塔自体をアースすることができる。
さらに、鉄塔には、送電線が張設されているが、この送電線と鉄塔とは絶縁されており、送電線を鉄塔に張設する際には、良好な絶縁性を示す碍子が使用される。
【0050】
この碍子は、通常の場合には、良好な絶縁性を示して鉄塔と送電線とを電気的に絶縁状態に保つが、落雷の場合などにおいては、非常に大電流が流れることから、この碍子が落雷のショックあるいは熱によって破損することがあり、鉄塔と送電線との電気的絶縁状態が破壊されることがある。このような落雷による碍子の損傷を防止するために、碍子の両側には、アークホーンと呼ばれる碍子の保護部材が配置されている。このアークホーンは、落雷の際にアークホーン間で放電させることにより、碍子の破損を防止するものであり、このアークホーンの表面は勿論、アークホーン全体が導電性であることが必要である。特に落雷の際に放電させて碍子を保護することから、他の鉄塔金物にもまして優れた導電性を有していることが必要である。
【0051】
図1、図2および図3にこのようなアークホーンの例を示す。図1は、鉄塔にアークホーンを配置する例を示す斜視図である。図1に示すように鉄塔の碍子12を介して送電線を張設する際に、碍子12の両側にアークホーン10、10が配置される。
【0052】
これらのアークホーン10は、図2に示すように、基本的に金属の輪14と、この金属の輪14を取り付けるための取り付け金具16と、放電するためのホーン部15を具備している。そして、落雷した場合には、落雷による電流を、このアークホーン10、10のホーン15の先端から放電して、碍子12にダメージを与えずにアースすることができる。
【0053】
このためにアークホーン10は導電性を有している。このアークホーン10は鉄で形成されており、図3に示すように、このアークホーン10を形成する鉄製芯材18の表面に本発明のペースト状防食塗料を塗布した防食塗膜17が形成されている。
【0054】
このアークホーン10に形成されている防食塗膜17は、本発明のペースト状防食塗料をはけ塗りなどによって塗布し、溶剤を蒸散させることにより形成することができる。このような防食塗膜17の膜厚は、通常は100〜3000μm、好ましくは300〜2000μmの範囲内にある。さらに、このアークホーン10に形成されている防食塗膜17の体積抵抗率は、通常は0.4〜1.0Ω・cmの範囲内にある。
【0055】
このような電気導電率を有する防食塗膜17は、放電するとこの放電した部分の防食塗膜17が損傷を受けることがあり、こうした損傷を受けたアークホーンは、作業員が鉄塔に登り、高所作業により、その防食塗膜17を修復する必要があるが、本発明のペースト状防食塗料を使用することにより、高所作業において粘度調整を行うことなく、アークホーンのような鉄塔金物の表面に形成された防食塗膜の修復を行うことができる。しかも、本発明のペースト状防食塗料は、初期粘度が高いので、一回の塗布で厚塗りの防食塗膜を形成することができる。さらに、このようにして形成された防食塗膜は、導電性であり、落雷時のアーク放電が妨げられることがない。また、本発明のペースト状防食塗料は、経時的に粘度変化が小さいのでこのペースト状防食塗料の粘度を調整する必要が生じにくく、一度鉄塔に登って高所作業を開始した後に粘度調整をせずに長時間にわたって防食塗工処理を行うことができる。
【0056】
さらに、本発明の塗膜は、上記のようなペースト状防食塗料を基材となる金属表面に、少なくとも1回塗布して形成されたものであり、その平均厚さは、通常は100〜3000μm、好ましくは、300〜2000μmの範囲内にある。そして、この塗膜の体積抵抗率は、通常は0.4〜1.0Ω・cmの範囲内にある。このような塗膜は、良好な防食性を有している。
【0057】
また、本発明の送電用鉄塔金物は、鉄塔を形成する金属部品の表面に、上記のような平均厚さを有し、導電性である塗膜が形成されてなり、優れた防食性を有する。特に本発明の送電用鉄塔金物がアークホーンであることが好ましい。このように塗膜を形成したアークホーンは、優れた防食性を有するが、形成された塗膜は良好な導電性を有しており、落雷の電流は、アークホーンのホーン部の間でアーク放電し、他の鉄塔部材を介してアースされるので、碍子の損傷を防止することができる。
【0058】
次に本発明の実施例を示して本発明のペースト状防食塗料、防食塗膜、鉄塔金物について説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0059】
溶剤を含むゴム系樹脂(コニシ(株)製、商品名:G6520)32.3重量%と、100〜200μmに篩分けにより粒度調整した亜鉛粉を80重量%以上含む亜鉛粉が64.7重量%、沸点が154℃から195℃の範囲内にある脂肪族炭化水素系溶剤を3.0重量%とを回転羽を有する攪拌装置で混合して本発明のペースト状防食塗料を調製した。上記沸点が154℃から195℃の範囲内にある脂肪族炭化水素系溶媒は、炭素数8〜1
1の脂肪族炭化水素系溶媒の混合物であり、この脂肪族炭化水素系溶媒は、主として直鎖状脂肪族炭化水素からなる。
【0060】
なお、原料として使用される上記ゴム系樹脂には、ブチルゴムが60重量%、トルエンが12重量%、低沸点脂肪族炭化水素溶媒(bp.60〜70℃)28重量%の量で含有されて
いる。
【0061】
従って、得られたペースト状防食塗料中におけるゴム系樹脂に由来する有機溶媒の含有量は、トルエン(bp.110℃)3.876重量%、低沸点脂肪族炭化水素溶媒(bp.60〜70
℃)9.044重量%であり、このペースト状防食塗料における樹脂固形分量(固形分)は、19.38重量%である。そして、このペースト状防食塗料中に有機溶剤は、14.305重量%含有されており、沸点が154℃から195℃の範囲内にある脂肪族炭化水素系溶媒は、含有される有機溶媒100重量部中に20.97重量部の量で含有されている。
【0062】
上記のようにして調製したペースト状防食塗料の25℃における初期粘度は、5000cpであった。このペースト状防食塗料をアークホーンにはけ塗りすることにより、アークホーンに防食被膜を形成することができた。
【0063】
このペースト状塗料を25℃で8時間放置した後に測定した経時粘度は、8500cpであり、ペースト状防食塗料の経時粘度は、初期粘度に対して、141.7%の粘度の上昇にすぎない。
【0064】
なお、本発明においてペースト状防食塗料の粘度は、JIS K5400で規定される回転粘度計を用いて測定した。
このように8時間放置した後のペースト状防食塗料をアークホーンにはけ塗り塗布したところ、このペースト状防食塗料を均一にはけ塗り塗装することができた。この塗布作業中にこのペースト状防食塗料を粘度調整することなく、良好にはけ塗りすることができた。
【0065】
また、上記のように8時間放置した後、このペースト状防食塗料を塗布して塗膜を形成したが均一性の高い塗膜を形成することができた。
さらに、このようなペースト状防食塗料を用いて形成された不均一な塗膜の電気抵抗値を測定したところ、この塗膜の体積抵抗率は、0.5Ω・cmであり、一定した値を示した。従って、この塗膜は、鉄塔金物の犠牲電極とするのに良好な導電性を有しており、このような良好な電気抵抗値を示す塗膜が表面に形成されたアークホーンは碍子を保護するのに充分な導電性を有していた。
【0066】
上記のようにして調製したペースト状防食塗料を、ブラスト処理した鉄塔用金物に、ニス塗り用ハケを用いて塗布し施工性を確認した。施工性の確認はJIS K5400に拠って行った。
【0067】
また、本発明のペースト状防食塗料の防食性を調べるために、上記のようにして得られたペースト状防食塗料を開封状態で25℃で8時間経過した後、このペースト状防食塗料を幅7.5cm、長さ15cmのブラスト処理した鋼板の全面に上記ハケを用いて塗布し
た。これを塩水噴霧試験に500時間供し、500時間経過後にも亜鉛の白錆以外に、鉄の錆は観察されない場合を防食性が良好とした。
【0068】
上記のようにして測定された初期粘度、経時粘度、施工性、防食性、電気抵抗値を表1に示す。
(比較例1)
実施例1において、沸点が154℃から195℃の範囲内にある脂肪族炭化水素系溶剤を3.0重量%の代わりに、トルエン(bp. 110℃)を3.0重量%の量で使用した以外は
同様にペースト状防食塗料を調製した。
【0069】
また、このペースト状防食塗料から塗膜を形成し、さらに塗膜を有する鉄塔金物を製造した。
得られたものについて、実施例1と同様にして測定した初期粘度、経時粘度、施工性、防食性、電気抵抗値を表1に示す。
【0070】
このトルエンを用いた比較例1では初期粘度が6000cpであるが、経時粘度は12000cpに上昇(粘度上昇率:200%)する傾向が認められ、施工性も悪くなり、塗りムラが一部見られた。
(比較例2)
実施例1において、沸点が154℃から195℃の範囲内にある脂肪族炭化水素系溶剤を3.0重量%の代わりに、キシレン(bp. 138℃)を3.0重量%の量で使用した以外は
同様にペースト状防食塗料を調製した。
【0071】
また、このペースト状防食塗料から塗膜を形成し、さらに塗膜を有する鉄塔金物を製造した。
得られたものについて、実施例1と同様にして測定した初期粘度、経時粘度、施工性、防食性、電気抵抗値を表1に示す。
【0072】
このキシレンを用いた比較例2では初期粘度が6000cpであるが、経時粘度は10000cpに上昇(粘度上昇率:167%)することが認められ、施工性が少し悪くなっていた。ただし塗りムラが見られるほどではなかった。
(比較例3)
溶剤を含有するゴム系樹脂(コニシ(株)製、商品名:G6520)と、100〜200μmに篩分けにより粒度調整された純亜鉛のアトマイズ粉と、トルエンとを、ゴム系樹脂(溶剤を含む)6重量%、亜鉛粉84重量%、溶剤(キシレン)10重量%を加えて、回転羽を有する攪拌装置で混合してペースト状防食塗料を調製した。なお、上記ゴム系樹脂には、ブチルゴムが60重量%、トルエンが12重量%、低沸点脂肪族炭化水素溶媒(bp.60〜70℃)28重量%の量で含有されている。
【0073】
従って、得られたペースト状防食塗料中における有機溶媒の含有量は、トルエン10.72重量%、低沸点脂肪族炭化水素溶媒(bp.60〜70℃)1.68重量%であり、このペ
ースト状防食塗料における樹脂固形分量(固形分)は、4.2重量%である。
【0074】
上記のようにして調製したペースト状防食塗料の25℃における初期粘度は、6000cpであった。このペースト状防食塗料をアークホーンにはけ塗りすることにより、アークホーンに防食被膜を形成することができた。
【0075】
このペースト状塗料を25℃で8時間放置した後に測定した経時粘度は、15000cpであり、ペースト状防食塗料の経時粘度は、初期粘度に対して、250.0%上昇した。
このように8時間放置した後のペースト状防食塗料をアークホーンにはけ塗り塗布しようとしたが、粘度が高くなりすぎて、このペースト状防食塗料を均一にはけ塗り塗装することが著しく困難であった。
【0076】
また、上記のように8時間放置した後、このペースト状防食塗料を塗布して塗膜を形成しようとしたが、均一性の高い塗膜を形成することができなかった。
さらに、このようなペースト状防食塗料を用いて形成された不均一な塗膜の電気抵抗値を測定したが、この塗膜の体積抵抗率は平均値では0.4Ω・cm程度であるが、この体積抵抗値は変動幅が大きく一定の値を示さなかった。従って、この塗膜は、鉄塔金物の犠牲陽極となるような導電性を有しておらず、また、このような不安定な電気抵抗値を示す塗膜が表面に形成されたアークホーンを配置してもアーク放電によって常に碍子を保護することができるとは必ずしもいえない。
【0077】
上記のように8時間経過した後のペースト状防食塗料を幅7.5cm、長さ15cmの
ブラスト処理した鋼板の全面に上記ハケを用いて塗布した。これを塩水噴霧試験に500時間供したところ、粘度上昇により生じた塗りむらのために一部に赤錆が生じた。
【0078】
【表1】

【0079】
註) 上記表1において、初期施工性および経時施工性は、JIS K5400に基き、さらに形成された塗膜の状態を含めて評価した。即ち、塗膜が平滑でかつ均一であれば、「良好」とし、塗膜の凹凸が大きく、だま等が点在しているものを「不良」とした。
【実施例2】
【0080】
実施例1で製造したペースト状防食塗料を用いて、鉄塔上における作業環境を想定して、施工性と粘度上昇性の確認を行った。
上記環境は、大型の扇風機を用いて風を起こし風が充分あたる場所にペースト状防食塗
料が入った缶を一定時間放置した。
【0081】
上記環境に5時間保持した後に、大型の扇風機の前でブラスト処理された鋼板にハケを用いて塗布した。
その結果、施工性が良好であることが確認された。また、粘度上昇性は、5時間経過した後でも3000cps程度であり、施工性は良好であった。
【0082】
これに対してトルエンを加えて調製した比較例1と同様にキシレンを用いた比較例2で調製した塗料についても同様に施工性および粘度上昇性について調べたところ、比較例1で調製した塗料は、初期粘度から8000cp以上の粘度上昇が認められ、施工性は悪くなっていいた。また、キシレンを用いた比較例2では5000cp以上の粘度上昇が見られ、施工性は悪くなっていた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のペースト状防食塗料は、被覆防食作用と犠牲防食作用を併せ持ち、溶剤の揮発し易い環境下においても施工性が良好であり、例えば鉄塔金物などのように非常に優れた防食性を有するとともに、防食塗膜に導電性が必要である用途に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】図1は、鉄塔にアークホーンを設置する例を示す説明図である。
【図2】図2は、アークホーンの例を示す斜視図である。
【図3】図3は、アークホーンの断面を示す断面図である・
【符号の説明】
【0085】
10・・・アークホーン
12・・・碍子
14・・・金属の輪
16・・・取り付け金具
15・・・ホーン部
17・・・防食塗膜
18・・・鉄製芯材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペースト状防食塗料100重量部中に、亜鉛に対して不活性なゴム弾性を有するポリオレフィン樹脂を15〜25重量部の範囲内の量で含み、
粒子径が100〜200μmの範囲内にある粒子を75〜100重量%の範囲内の量で含有する亜鉛粉を45〜70重量部の範囲内の量で含み、
有機溶剤を1〜15重量部の範囲内の量で含有するペースト状防食塗料が表面に塗布され硬化した導電性膜を有する導電鉄塔用金物であり、
該有機溶剤中に、該ペースト状防食塗料の25℃における初期粘度が、はけ塗り塗工により容易に塗布することができる5000cp〜12000cpの範囲内になると共に、該ペースト状防食塗料を、25℃で8時間放置した後の該ペースト状防食塗料の粘度が、長期間にわたってはけ塗り塗工が可能である初期粘度に対して110〜150%の範囲内になる量で沸点が140〜240℃の範囲内にある脂肪族炭化水素系溶媒が含有されるペースト状防食塗料から得られる、厚さ100〜3000μmであり、体積抵抗率が、0.4〜1.0Ω・cmの範囲内にある防食塗膜が表面に形成されて防食加工されている送電用鉄塔金物。
【請求項2】
上記送電用鉄塔金物が、アークホーンであることを特徴とする請求項第1項記載の送電用鉄塔金物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−273476(P2007−273476A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−106212(P2007−106212)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【分割の表示】特願2003−433609(P2003−433609)の分割
【原出願日】平成15年12月26日(2003.12.26)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【Fターム(参考)】