説明

逆浸透膜分離装置の運転方法

【課題】脱塩及び/又は有機物除去を行うRO装置の膜面透過流束の低下を抑制し、長期安定運転を可能とする。
【解決手段】脱塩及び/又は有機物除去を行う逆浸透膜分離装置の運転方法において、アルカリを添加してpHを9.5〜13にした被処理水をフラッシング水として、一時的に逆浸透膜分離装置をフラッシングする。運転中にアルカリ性の被処理水でフラッシングを行うことにより、効果的に膜面を洗浄して膜面透過流束の低下を抑制し、長期に亘り安定運転を行うことが可能となる。このフラッシング時には、給水の殆どは膜を透過せず、従って、膜面における濃縮が生じないため、給水がアルカリ性であっても、膜面におけるスケール生成の問題は発生しない。従って、スケール防止のための前処理装置等は不要である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は逆浸透膜分離装置(RO装置)の運転方法に係り、特に、脱塩及び/又は有機物除去を行うRO装置の膜面透過流束の低下を抑制し、長期安定運転を可能とするRO装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RO装置は用水の造水プロセス、食品・医薬用水の製造プロセス、排水回収プロセスなど幅広い分野で使用されている。中でも近年、用排水のコスト低減、環境負荷低減の目的から、排水回収プロセスにおいて、RO装置を使用するケースが急激に増加している。
【0003】
通常、RO装置は、供給水に対する水回収率を高める目的から、例えば、図2に示すようなクリスマスツリーと呼ばれる配置をとる。即ち、図2において、ROエレメントを内蔵したROベッセル(RO手段本体)1A,1B,1C,1Dが4機並列配置されてなる第1ROベッセル群(ROベッセル群は「バンク」とも言う。)1と、ROベッセル2A,2Bが2機並列配置されてなる第2ROバンク2とでクリスマスツリー型の多段RO装置が構成されている。
【0004】
被処理水、即ち、RO装置の供給水(RO給水)はまず第1バンク1に流入し、透過水と濃縮水とに分離される。続いて第1バンク1の濃縮水は第2バンク2に流入し、ここでも透過水と濃縮水とに分離される。第1バンク1の透過水と第2バンク2の透過水は合流し、後段処理工程に移送される。一方、第2バンク2の濃縮水は系外に放流されるか排水処理設備等に移送される。通常、RO装置におけるクリスマスツリー構造は、要求される水回収率にもよるが、2又は3バンクで構成されることが多い。
【0005】
このようなRO装置を、排水処理プロセス、特に被処理水中の有機物成分濃度が比較的高い排水回収プロセスに利用した場合、被処理水のTOC濃度が高いことにより、膜面に微生物が繁殖して引き起こされるバイオファウリングの発生、並びに排水処理プロセスに設置されている生物処理手段から排出される生物代謝物系有機物又は生物難分解性有機物である非イオン性界面活性剤のRO装置への流入による膜面閉塞で、RO装置の透過水量が低下し易く、そのために頻繁に膜洗浄を実施しなければならないという問題があり、この問題は近年特に顕著になる傾向にある。
【0006】
特許3321179号においては、RO給水のpHを10以上のアルカリ性に調整してRO装置に常時通水する方法が提案されているが、この方法ではアルカリ性でRO処理を行うため、膜面におけるスケール生成を抑制する目的から、硬度除去装置、又はアルカリ度除去装置をRO装置の前段に設置しなければならず、設備構成や運転管理が煩雑となる欠点がある。
【0007】
また、特開平11−128919号においては、RO連続運転中に一時的にRO給水のpHを10〜12とし、このpH調整中においても膜透過水を処理水として取り出す方法が提案されている。しかし、この方法は、RO給水のpHをアルカリ性として運転する時間がわずかであったとしても、スケール防止のための前処理対策なしで実施した場合、膜面にスケールが生成し、膜面が閉塞する恐れがある。一方で、スケール防止のための前処理装置を設けることは、上述の如く、設備が煩雑となる。
【0008】
なお、例えば特開2004−58022号に記載されるように、RO装置等の膜分離装置をアルカリ洗浄することは知られている。膜分離装置のアルカリ洗浄は、膜分離装置の通常運転を完全に停止して、即ち、被処理水の通水及び透過水の採水を完全に停止して実施されるものであり、給水ポンプの停止はもとより、系内の被処理水も排出した後、洗浄液貯槽と膜分離装置との間で洗浄ラインを形成して洗浄工程に入るものである。そして、洗浄液を循環させ、膜の一次側(濃縮水側)と二次側(透過水側)を洗浄液に浸漬し、更に再循環し、洗浄液の排出などの手順を経て実施される。このようなアルカリによる薬品洗浄では、洗浄ラインへの切替えなど複雑な手順を踏まねばならず、その間の通水停止時間も長く運転効率の低下にもつながるため、できるだけ薬品洗浄の回数を減らすことが望まれている。
【特許文献1】特許3321179号
【特許文献2】特開平11−128919号
【特許文献3】特開2004−58022号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、脱塩及び/又は有機物除去を行うRO装置において、スケール防止のための前処理装置等を必要とすることなく、膜面透過流束の低下を抑制し、長期安定運転を可能とするRO装置の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の逆浸透膜分離装置の運転方法は、脱塩及び/又は有機物除去を行う逆浸透膜分離手段を有する逆浸透膜分離装置の運転方法において、アルカリを添加してpHを9.5〜13にした被処理水をフラッシング水として、該逆浸透膜分離手段を一時的にフラッシングする工程を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項2の逆浸透膜分離装置の運転方法は、請求項1において、前記逆浸透膜分離装置は、前段逆浸透膜分離手段と、該前段逆浸透膜分離手段の濃縮水が供給される後段逆浸透膜分離手段とを備える多段逆浸透膜分離装置であり、前記フラッシング工程は、フラッシング水を前段逆浸透膜分離手段のみに供給してフラッシングする工程と、続いてフラッシング水を前段逆浸透膜分離手段と後段逆浸透膜分離手段とに直列的に供給してフラッシングする工程とを備えることを特徴とする。
【0012】
請求項3の逆浸透膜分離装置の運転方法は、請求項1又は2において、前記逆浸透膜分離装置は、逆浸透膜を有する逆浸透膜分離手段本体と、被処理水の導入排管と、逆浸透膜を透過した透過水の排出配管と、開閉弁を備える濃縮水の排出配管とを有し、透過水の採水を行う通常運転時には、被処理水を逆浸透膜分離手段本体に導入すると共に前記開閉弁を閉とするか、或いはその開度を絞って透過水を取り出し、前記フラッシング工程においては、被処理水の該逆浸透膜分離手段本体への導入を継続したまま該開閉弁を開とするか、その開度を大きくすることにより、該逆浸透膜分離本体に導入した被処理水の殆どを濃縮水排出配管から排出することを特徴とする。
【0013】
請求項4の逆浸透膜分離装置の運転方法は、請求項3において、前記被処理水の導入排管にアルカリを注入するアルカリ添加手段が設けられていることを特徴とする。
【0014】
なお、フラッシングとは、給水ポンプの稼動を継続したまま、濃縮水排出配管の開閉弁を開とすることにより、RO給水の殆どを膜透過させることなく、膜の一次側(濃縮水側)に流し、濃縮水排出配管から系外へ排出させる操作をさす。この際、RO給水の殆どが膜透過しないので、供給水量のほぼ全量が一次側の膜面を流れることにより、透過水の採水を行う通常運転時より速い流速でかつ多量の水が流れることにより、膜面を閉塞している汚れを効果的に洗い流すことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、RO装置の運転中にアルカリ性の被処理水でフラッシングを行うことにより、効果的に膜面を洗浄して膜面透過流束の低下を抑制し、長期に亘り安定運転を行うことが可能となる。
【0016】
このフラッシング時には、RO給水の殆どは膜を透過せず、従って、膜面における濃縮が生じないため、RO給水がアルカリ性であっても、膜面におけるスケール生成の問題は発生しない。従って、スケール防止のための前処理装置等は不要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明のRO装置の運転方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
図1は本発明のRO装置の運転方法の実施の形態を示す系統図である。
【0019】
図1に示すRO装置は、2個のROベッセル1A,1Bが並列配置されて前段の第1バンク(ベッセル群)1が構成され、1個のROベッセル2Aのみで後段の第2バンク2が構成されている2段のクリスマスツリー型RO装置である。
【0020】
各ROベッセル1A,1B,2Aには、各々、ROエレメントが1本又は複数本内蔵されている。また、各バンク1,2には、給水配管11,13Aと、透過水配管12,15と、濃縮水配管13,16とが設けられている。
【0021】
第1バンク1においては、給水配管11から分岐した給水分岐管11a,11bが各ROベッセル1A,1Bに接続され、被処理水が各ROベッセル1A,1Bに並列的に供給される。また、各ベッセル1A,1BでRO膜を透過した透過水は各々透過水分岐管12a,12bから透過水配管12に集められ、後段の第2バンク2の透過水と共に透過水排出管14を経て系外へ排出される。他方、各ベッセル1A,1Bの濃縮水は各々濃縮水分岐管13a,13bから濃縮水配管13に集められ、次段の第2バンク2の給水としてROベッセル2Aに送られる。
【0022】
第2バンク2のROベッセル2Aにおいても、RO膜を透過した透過水が透過水配管15から、透過水排出管14を経て、第1バンク1のROベッセル1A,1Bからの透過水と共に系外へ排出される。一方、濃縮水は、濃縮水配管16より系外へ排出される。この濃縮水配管16には絞り弁AV2が設けられている。
【0023】
このRO装置では、給水配管11の給水ポンプPの上流側に、薬品タンク3からのアルカリ薬品を注入するための薬注ポンプPを有する薬注配管18が設けられている。また、第1バンク1の濃縮水配管13には、開閉弁AV1を有する濃縮水排出管17が分岐している。
【0024】
本発明においては、このようなRO装置において、次のような運転を行う通常運転(採水運転)の際には、弁AV1を閉、弁AV2は所定の水回収率となるように開路設定し、給水ポンプPを作動させて、被処理水を配管11から、配管11a,11bを経て第1バンク1のROベッセル1A,1Bに加圧供給し、透過水を配管12a,12b,12,14を経て系外へ排出する。一方、濃縮水は配管13a,13b,13,13Aを経て第2バンク2のROベッセル2Aに導入し、透過水を配管15,14を経て系外へ排出する。第2バンク2の濃縮水は配管16より系外へ排出される。
【0025】
なお、濃縮水は放流又は後段の排水処理装置に送給される。透過水は更に後段の処理装置に送給される。
【0026】
このような通常運転を所定時間行った後は次のようにしてフラッシングを行う。
【0027】
まず、通常運転時と同様に給水ポンプPを作動したまま、薬注ポンプPを作動させて、被処理水にアルカリ薬品を添加してpH9.5〜13に調整すると共に、弁AV1を開く。これにより、前段の第1バンク1のROベッセル1A,1Bに流入した水の殆どは、RO膜を透過することなく、配管13a,13b,13,17を経て系外へ排出される。
【0028】
この操作で、第1バンク1のROベッセル1A,1Bの膜面をアルカリ性の水が多量にかつ高流速で流れることにより、各膜面が洗浄される。
【0029】
上述の如く、第1バンク1のみのフラッシングを行った後は、ポンプP,Pを作動したまま弁AV1を閉じ、弁AV2を開放する。これにより、前段の第1バンク1に流入したアルカリ性の水の殆どは、配管13a,13b,13,13Aを経て第2バンク2のROベッセル2Aに流入し、更に流入した水の殆どがRO膜を透過することなく配管16より系外へ排出される。
【0030】
この操作で、第1バンク1のROベッセル1A,1Bの膜面と第2バンク2のROベッセル2Aの膜面を連続して直列的にアルカリ性の水が多量にかつ高流速で流れることにより、各膜面が洗浄される。
【0031】
このようにして、第1バンク1のフラッシングと、それに続く第1バンク1と第2バンク2の連続フラッシングを行った後は、薬注ポンプ弁Pを停止すると共にAV2を通常運転時の開度に調整して通常運転を再開する。なお、この際、薬注ポンプPを停止して所定時間経過後に弁AV2の開度を調整して通常運転を再開しても良い。
【0032】
本発明に係るRO装置は、一般に、用水の造水プロセス、食品・医薬用水の製造プロセス、排水回収プロセスに設けられたRO装置であって、このようなRO装置のRO給水は、通常、pH5〜7程度の弱酸性ないし中性の水である。従って、本発明においては、このような中性の被処理水に水酸化ナトリウム(NaOH)等のアルカリ薬品を添加してpHが9.5〜13となるように調整した水をフラッシング水として用いてフラッシング工程を行う。これは次のような理由による。
【0033】
即ち、微生物はアルカリ性域では生息することができない。そのため、フラッシング水のpHを9.5以上に調整することにより栄養源はあるが微生物が生息できない環境を作り出すことが可能となり、従来のような高価なスライムコントロール剤の添加を必要とすることなく、バイオファウリングを防止することができる。また、膜面透過流束を低下させる恐れのある非イオン性界面活性剤又は生物代謝物系有機物はアルカリ性領域では膜面から脱着することが知られており、pHを9.5以上にすることにより膜面への付着を抑制することが可能となる。
【0034】
ただし、このフラッシング時のRO給水のpHが高過ぎるとRO膜が耐アルカリ性の限界を超え、破損し易くなる上に、添加する薬注コストも高くつき、好ましくないため、フラッシング工程時のRO給水のpHは13以下とする。
【0035】
微生物に対する抑制効果、有機物洗浄効果、汚れ除去効果、薬注コスト、膜の保護の面から、フラッシング時のRO給水のpHは特に10〜12であることが好ましい。
【0036】
このpH調整のためのアルカリは、被処理水がROベッセルに流入する前の段階であれば任意の位置で添加することができるが、図1に示す如く、特に給水ポンプの上流側の給水配管にライン注入するのが効率的である。
【0037】
本発明において、このようなフラッシングの頻度としては特に制限はなく、被処理水の水質やRO処理条件等に応じて適宜決定されるが、通常数時間〜10日に一度の割合で5〜60分間程度実施することが好ましい。特に、前述の如く、第1バンクのみのフラッシングと、その後、第1バンク→第2バンクの連続フラッシングとを行う場合、或いは更に後段の連続フラッシングを行う場合、各フラッシング毎の時間は5〜30分とし、全フラッシング時間が10〜60分程度となるように行うことが好ましい。
【0038】
なお、図1においては、第1バンクに2個のROベッセルが並列配置され、第2バンクに1個のROベッセルが設けられたクリスマスツリー型RO装置を示したが、本発明が適用されるRO装置は、何ら図1の構成のものに限らず、図2のように、第1バンクに4個のROベッセルが並列配置され、第2バンクに2個のROベッセルが並列配置されているものであっても良い。また、クリスマスツリー型RO装置に限らず、1段のROベッセル又はROバンクのみからなるものであっても良く、各段1個のROベッセルが多段に連結されたものであっても良い。
【0039】
クリスマスツリー型RO装置の場合、そのバンク数やベッセル数には特に制限はないが、バンクの段数は通常2段又は3段である。ただし、4段以上の多段構成であっても良いことは言うまでもない。また、各段のバンクのROベッセル数は、処理水量とROベッセルの処理能力に応じて適宜設定されるが、一般的には上流側ほど多く、下流側ほど少なくなる。通常、2段の場合は第1バンクのベッセル数:第2バンクのベッセル数=2:1の割合でベッセル数が設定され、3段の場合は、第1バンクのベッセル数:第2バンクのベッセル数:第3バンクのベッセル数=4:2:1の割合でベッセル数が設定されることが多い。最終段のベッセル数は1個である場合もある。
【0040】
いずれの場合も、前述の如く、各ROベッセルには、ROエレメントが内蔵されており、1ベッセルにROエレメントが1本又は複数本内蔵されている。
【0041】
各バンク(ベッセル群)には、給水配管と、透過水配管と、濃縮水配管とが設けられている。そして、各バンクにおいて、給水配管から分岐した給水分岐管が各ROベッセルに接続され、被処理水が各ベッセルに並列的に供給される。また、各ベッセルで膜を透過した透過水は透過水配管に集められ、排出される。他方、各ベッセルの濃縮水は濃縮水配管に集められ、次段のバンクの給水として、次段の給水配管に送られる。次段においても同様に水が流れ、RO処理される。
【0042】
前段側のバンクの濃縮水配管は、次段のバンクの給水配管と接続されているが、各段の濃縮水配管の任意の位置で分岐して濃縮水を系外へ排出する配管が設けられ、この濃縮水排出管には開閉弁が設けられている。最終段の濃縮水排出管は、濃縮水配管から分岐して設けてもよく、濃縮水配管と兼用でもよい。
【0043】
そして、少なくとも、最終段の濃縮水配管には絞り弁が設けられ、最終段のバンクのROベッセルの運転圧を調整できるようになっている。濃縮水配管と濃縮水排出管とが兼用の場合、開閉弁を省略して絞り弁で開閉弁の代用としてもよい。
【0044】
開閉弁、絞り弁は自動弁が好ましいが、手動弁でもよい。開閉弁、絞り弁を自動弁とし、その開閉と薬注ポンプのオン、オフを、タイマーで自動制御することにより、フラッシング工程を自動的に通常運転中に組み込むことができる。
【0045】
クリスマスツリー型RO装置のような多段RO装置の場合、特に、超低圧RO膜を用いた場合や浸透圧の大きい被処理水を処理する場合、前段のバンク(ないしベッセル)のRO膜の汚染が顕著になることから、前述の如く、前段のバンク(ベッセル群)のみのフラッシングを行い、その後前段バンクと後段バンク(ベッセル群)の連続フラッシングを順次行うことが好ましい。従って、例えば、3段のバンクで構成されるRO装置の場合は、第1バンクのみのフラッシングを行った後、第1バンク→第2バンクの連続フラッシングを行い、その後第1バンク→第2バンク→第3バンクの連続フラッシングを行うことが好ましい。
【0046】
ただし、前段バンクのみのフラッシングを行わずに、直接全バンクの連続フラッシングを行うことも可能である。この場合には、例えば、図1のRO装置において、給水ポンプPを作動させたまま薬注ポンプPを作動させ、開閉弁AV1を閉じたままで絞り弁AV2を開とする。これにより、アルカリ性の水が第1バンク1のROベッセル1A,1Bから第2バンク2のROベッセル2Aに流入し、配管16から排出されることにより各ROベッセルの膜面が洗浄される。
【0047】
しかし、この場合には、前段バンクの膜面に付着していた汚染物質が後段バンクに流入することとなるため、前段バンクのみのフラッシングを行った後、前段バンクと後段バンクの連続フラッシングを行う場合に比べて、後述の実施例2に示されるように、洗浄効果が若干劣るものとなる。従って、前述の如く、まず、前段バンクのみのフラッシングを行って前段バンクの汚染物質を系外へ排出した後、前段バンクと後段バンクの連続フラッシングを行うことが好ましい。
【0048】
このような本発明のRO装置の運転方法は、特に膜面の閉塞が起こり易い、TOC濃度が3mg/L以上であるような被処理水をRO給水とする場合に有効である。
【0049】
本発明によれば、従来のアルカリを用いた薬品洗浄のように運転を停止することなく、単なる弁の開閉操作、薬注ポンプの作動操作といった簡易な操作で膜面を効果的に洗浄することができ、しかも、スケール対策も不要であることから、既存の設備にも容易に適用することができる。
【実施例】
【0050】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
(実施例1)
TOC濃度3mg/L,電気伝導率100mS/mの液晶工場総合排水を凝集・沈殿・濾過、活性炭処理した後、図1に示すRO装置に1m/hr、回収率75%の条件で通水を行った。このときのRO給水のpHは5であった。各ROベッセル1A,1B,2AのROエレメントとしては超低圧RO膜であるES−20(日東電工製)を用いた。
【0051】
フラッシングは4重量%NaOH水溶液を薬品タンク3から薬注ポンプPを用いRO給水のpHが11となるようRO給水に添加して行い、4時間に1回の頻度で、第1バンク1のみのフラッシングを15分、続いて第1バンクバンク1→第2バンク2の連続フラッシングを15分の順で実施した。
【0052】
このときの運転日数と膜面透過流束との関係を図3と図4に示した。
【0053】
(実施例2)
第1バンク1のみのフラッシングを行わず、第1バンク1→第2バンク2の連続フラッシングのみを30分実施したこと以外は、実施例1と同条件でRO装置の運転を行った。このときの運転日数と膜面透過流束との関係を図3に示した。
【0054】
(比較例1)
フラッシングを実施しなかったこと以外は実施例1と同条件でRO装置の運転を行った。このときの運転日数と膜面透過流束との関係を図3に示した。
【0055】
図3より次のことが明らかである。
【0056】
実施例1では、膜面透過流束は殆ど低下することなく通水開始から90日後においても、膜面透過流束は0.77m/m・day程度であった。一方、実施例2においてはフラッシングを実施しなかった比較例1に比べ膜面透過流束は向上するものの、90日後には膜面透過流束は0.68m/m・dayとなり、第1バンクのフラッシング後に第1バンクと第2バンクの連続フラッシングを実施した実施例1に比べ低下が見られた。フラッシング未実施の比較例1においては、90日後の膜面透過流束0.55m/m・dayと顕著なRO膜面の閉塞が観測された。
【0057】
(実施例3)
フラッシング時のRO給水のpHを9.5としたこと以外は実施例1と同条件でRO装置の運転を行った。このときの運転日数と膜面透過流束との関係を図4に示した。
【0058】
(比較例2)
フラッシング時のRO給水のpHを7としたこと以外は実施例1と同条件でRO装置の運転を行った。このときの運転日数と膜面透過流束との関係を図4に示した。
【0059】
(比較例3)
フラッシング時のRO給水のpHを8としたこと以外は実施例1と同条件でRO装置の運転を行った。このときの運転日数と膜面透過流束との関係を図4に示した。
【0060】
図4より、フラッシング水のpHが9.5以上であれば、膜面透過流束の低下が観測されず、安定運転が可能であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明のRO装置の運転方法の実施の形態を示す系統図である。
【図2】一般的なクリスマスツリー型RO装置の構成を示す系統図である。
【図3】実施例1,2及び比較例1における運転日数と膜面透過流束との関係を示すグラフである。
【図4】実施例1,3と比較例2,3における運転日数と膜面透過流束との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0062】
1 第1バンク(第1ROベッセル群)
2 第2バンク(第2ROベッセル群)
1A,1B,1C,1D,2A,2B ROベッセル
3 薬品タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱塩及び/又は有機物除去を行う逆浸透膜分離手段を有する逆浸透膜分離装置の運転方法において、アルカリを添加してpHを9.5〜13にした被処理水をフラッシング水として、該逆浸透膜分離手段を一時的にフラッシングする工程を備えることを特徴とする逆浸透膜分離装置の運転方法。
【請求項2】
請求項1において、前記逆浸透膜分離装置は、前段逆浸透膜分離手段と、該前段逆浸透膜分離手段の濃縮水が供給される後段逆浸透膜分離手段とを備える多段逆浸透膜分離装置であり、前記フラッシング工程は、フラッシング水を前段逆浸透膜分離手段のみに供給してフラッシングする工程と、続いてフラッシング水を前段逆浸透膜分離手段と後段逆浸透膜分離手段とに直列的に供給してフラッシングする工程とを備えることを特徴とする逆浸透膜分離装置の運転方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記逆浸透膜分離装置は、逆浸透膜を有する逆浸透膜分離手段本体と、被処理水の導入排管と、逆浸透膜を透過した透過水の排出配管と、開閉弁を備える濃縮水の排出配管とを有し、透過水の採水を行う通常運転時には、被処理水を逆浸透膜分離手段本体に導入すると共に前記開閉弁を閉とするか、或いはその開度を絞って透過水を取り出し、前記フラッシング工程においては、被処理水の該逆浸透膜分離手段本体への導入を継続したまま該開閉弁を開とするか、その開度を大きくすることにより、該逆浸透膜分離本体に導入した被処理水の殆どを濃縮水排出配管から排出することを特徴とする逆浸透膜分離装置の運転方法。
【請求項4】
請求項3において、前記被処理水の導入排管にアルカリを注入するアルカリ添加手段が設けられていることを特徴とする逆浸透膜分離装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−125526(P2007−125526A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322399(P2005−322399)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】