説明

透明多層シートおよびその成形体

【課題】優れた真空成形性を有し、かつ成形時の白化を十分に防止して高い透明性を有する成形体を得ることが可能な透明多層シートを提供すること。
【解決手段】本発明の透明多層シートは、基材層と、前記基材層の少なくとも片面に積層された表面層とを備えており、前記基材層は、温度23℃、振動数1Hzにおける貯蔵弾性率が2300MPa以上であり、温度140℃、振動数1Hzにおける貯蔵弾性率が150MPa以下であり、かつ結晶化速度が1min−1以上である樹脂組成物からなることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明多層シートおよびその成形体に関し、より詳しくは、自動販売機ディスプレイ、産業資材の加飾などの用途に用いられる透明多層シートおよびその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンに代表される結晶性樹脂は、その結晶性の高さ(結晶化度、結晶化速度、球晶サイズなど)から通常の製膜方法では不透明である。透明なフィルムやシートを得ようとした場合、造核剤により、微細結晶を多量に造り、球晶の成長を抑える方法や、ベルトプロセスを用いた急冷法などが採用されている。
【0003】
具体的には、例えば、ベルトプロセスを用いた急冷法により、ホモポリプロピレンと造核剤とを含む組成物からなるシートを製造する方法が提案されている(特許文献1参照)。また、ホモポリプロピレンと、石油樹脂と、造核剤としてのジベンジリデンソルビトール誘導体とを含む組成物からなるシートが提案されている(特許文献2参照)。さらに、ホモポリプロピレンとエチレンプロピレンコポリマーと造核剤とを含む3種の樹脂組成物からなる3層構造の多層シートが提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−254946号公報
【特許文献2】特開平7−70385号公報
【特許文献3】特開平7−308998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般に造核剤などの添加剤処方やベルトプロセスによる急冷法にて作製された透明ポリプロピレンシートは、融点以上に加熱を行わなければならない真空成形では、微細構造が破壊されて巨大な球晶が生成され、透明性が失われてしまう問題がある。また、透明性喪失防止のためにポリプロピレンより軟化点が低い成分を添加すると、ポリプロピレンシートの白濁は軽減するが、シート表面が低温軟化点成分の影響によって荒れてしまう問題がある。さらに、自動販売機ディスプレイ用の成形体といった比較的に大きく、凹凸やペットボトル形状など複雑な形状を有する成形体においては、優れた真空成形性も必要になるが、この真空成形性と成形体の透明性とを両立させることは難しい。
【0006】
また、特許文献1に記載のシートは、真空成形時にシート表面が荒れて透明性が低下してしまうため、成形体の透明性の点で十分なものではない。また、特許文献2に記載のシートにおいては、真空成形時にシート表面が荒れて透明性が低下するという問題と共に、真空成形時の軟化点が高すぎるために真空成形性が不足するという問題がある。このため、特許文献2に記載のシートは、真空成形性および成形体の透明性の点で十分なものではない。また、特許文献3に記載のシートは、真空成形性および成形体の透明性の点で十分なものではない。さらに、特許文献3に記載のシートにおいては、エチレンプロピレンコポリマーを用いているため、耐熱性や剛性が不足するという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、優れた真空成形性を有し、かつ成形時の白化を十分に防止して高い透明性を有する成形体を得ることが可能な透明多層シート、並びにそれを用いた成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決すべく、本発明は、以下のような透明多層シートおよび成形体を提供するものである。
すなわち、本発明の透明多層シートは、基材層と、前記基材層の少なくとも片面に積層された表面層とを備え、前記基材層は、温度23℃、振動数1Hzにおける貯蔵弾性率が2300MPa以上であり、温度140℃、振動数1Hzにおける貯蔵弾性率が150MPa以下であり、かつ結晶化速度が1min−1以上である樹脂組成物からなることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の透明多層シートにおいては、前記基材層および前記表面層がポリプロピレン系重合体を含む樹脂組成物からなることが好ましい。
本発明の透明多層シートにおいては、前記基材層が、ポリプロピレン系重合体79.5質量%以上89.8質量%以下、110℃以上170℃以下の軟化点を有する石油樹脂10質量%以上20質量%以下、および、造核剤0.2質量%以上0.5質量%以下を含む樹脂組成物からなることが好ましい。
本発明の透明多層シートにおいては、前記基材層に対する前記表面層の厚み比(表面層の総厚み/基材層の厚み)が1/99以上20/80以下であり、該透明多層シートの厚みが150μm以上700μm以下であることが好ましい。
本発明の透明多層シートは、ヘイズ値が10%以下であるものであることが好ましい。
【0010】
本発明の成形体は、前記透明多層シートから成形されたことを特徴とするものである。
本発明の成形体は、真空成形により成形されたものであることが好ましい。
本発明の成形体は、ヘイズ値が15%以下であることが好ましい。
本発明の成形体においては、自動販売機ディスプレイに用いるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた真空成形性を有し、かつ成形時の白化を十分に防止して高い透明性を有する成形体を得ることが可能な透明多層シート、並びにそれを用いた成形体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の透明多層シートの製造に用いられる製造装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
先ず、本発明の透明多層シートについて説明する。すなわち、本発明の透明多層シートは、基材層と、前記基材層の少なくとも片面に積層された表面層とを備え、前記基材層は、以下説明する条件を満たす樹脂組成物からなることを特徴とするものである。
【0014】
前記基材層に用いる樹脂組成物においては、温度23℃、振動数1Hzにおける貯蔵弾性率(G’)が2300MPa以上で、温度140℃、振動数1Hzにおける貯蔵弾性率(G’)が150MPa以下であることが必要である。
ここで、貯蔵弾性率(G’)は、以下に説明するようなパラメータである。すなわち、樹脂組成物のような粘弾性体は、粘性と弾性を兼ね備えて持っている。理想弾性体の場合は、応力とひずみは同一位相で観察される。一方で理想液体の場合は、応力の位相に対してひずみの位相は90度遅れる。粘弾性体はその中間の挙動を示し、位相差は0度から90度の間の値となる。
弾性率は応力(σ*)とひずみ(γ*)の比として複素数により複素弾性率G*として、下記数式(F1)のように表現できる。
*=σ*/γ*=(σ0/γ0)e=(σ0/γ0)(cosδ+isinδ) ・・・(F1)
複素弾性率G*を実数部分と虚数部分に分けて、下記数式(F2):
*=G+iG” ・・・(F2)
としたとき、実数部分のGは粘弾性のうち弾性部分、G”はそれより90度遅れた位相にあるので粘性部分を表す。Gは貯蔵弾性率、G”は損失弾性率を呼ばれ、測定試料に振動変形を加え、ひずみの振幅と力計で検出される応力の振幅およびそれらの間の位相差を測定すると、粘弾性体の弾性の寄与、粘性の寄与が評価できる。
本発明においては、貯蔵弾性率(G’)を前記範囲内とすることで、室温において優れた剛性を有し、例えば真空成形のような成形時には透明性を維持しながら良好な成形性を有する透明多層シートを得ることができる。
【0015】
温度23℃、振動数1Hzにおける貯蔵弾性率(G’)が、が2300MPa以上であると、室温における剛性に優れるので、自動販売機ディスプレイ用などの大型の成形体に必要な自立性と、固定器具への嵌合部分の高強度とを併せて達成できる。また、この貯蔵弾性率(G’)は、上記の観点から、2400MPa以上であることがより好ましく、2600MPa以上であることが特に好ましい。なお、貯蔵弾性率(G’)は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0016】
温度140℃、振動数1Hzにおける貯蔵弾性率(G’)が150MPa以下であると、真空成形時にシートが伸びやすくなるため、白化しない温度域で良好な成形性を達成できる。また、この貯蔵弾性率(G’)は、上記の観点から、100MPa以下であることがより好ましく、90MPa以下であることが特に好ましい。
【0017】
前記基材層に用いる樹脂組成物においては、結晶化速度が1min−1以上であることが必要である。この結晶化速度が1min−1以上であると、真空成形時の冷却時間を短くすることができるため、金型の熱で起きる結晶成長による白化を防ぐことができる。これにより、高い透明性を達成できる。また、この結晶化速度は、上記の観点から、2.3min−1以上であることがより好ましい。なお、結晶化速度は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0018】
前記基材層に用いる樹脂組成物は、透明多層シートを製造した場合のヘイズ値が以下の条件を満たすようなものであることが好ましい。すなわち、このような透明多層シートのヘイズ値は10%以下であることが好ましく、8.5%以下であることがより好ましい。なお、ヘイズ値は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0019】
前記基材層に用いる樹脂組成物は、上記の条件を満たす樹脂組成物であればよく、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン系重合体、石油樹脂および造核剤を含む樹脂組成物が挙げられる。
【0020】
前記ポリプロピレン系重合体としては、例えば、ホモポリプロピレン、ポリプロピレンランダムコポリマー、ポリプロピレンブロックコポリマーが挙げられる。これらの中でも、耐熱性および剛性に優れるという観点から、ホモポリプロピレンが好ましい。また、これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
前記ポリプロピレン系重合体においては、立体規則性(アイソタクティックペンタッド分率)が0.92以上であることが好ましい。立体規則性が前記下限未満では、耐熱性および剛性が低下する傾向にある。なお、アイソタクティックペンタッド分率は、A.Zambelliにより開示された13C−NMR法(Macromolecules,vol6,925,1973)の記載に準拠する方法で測定できる。
【0021】
前記ポリプロピレン系重合体においては、メルトフローレート(MFR)が0.5g/10min以上5g/10min以下であることが好ましい。メルトフローレートが前記下限未満では、樹脂組成物の溶融粘度が高くなり、成形時の伸びが悪くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、成形時のドローダウンが大きくなり、成形性が悪くなる傾向にある。
前記ポリプロピレン系重合体の含有量は、前記基材層に用いる樹脂組成物に対して、79.5質量%以上89.8質量%以下であることが好ましい。
【0022】
前記石油樹脂は、110℃以上170℃以下の軟化点を有するものであることが好ましい。軟化点が前記下限未満では、耐熱性が低下すると共に、高温雰囲気下で樹脂成分が表面にブリードアウトしやすくなる傾向があり、他方、前記上限を超えると、ポリプロピレン系重合体の融点を超えるため、成形体が白化しない成形温度領域でのシートの軟化の効果を付与しにくくなる傾向にある。
このような石油樹脂としては、例えば、芳香族系、脂肪族系、芳香族炭化水素樹脂系、脂環族飽和炭化水素樹脂系、共重合系等の石油樹脂が挙げられる。これらの中でも、透明性と成形性という観点から、芳香族成分を含む共重合系石油樹脂が好ましい。また、これらの中でも、前記の観点から、芳香族成分とジシクロペンタジエンとの共重合系石油樹脂が更に好ましい。また、これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
前記石油樹脂は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができるが、軟化点の異なる2種以上の石油樹脂を組み合わせて使用することがより好ましい。このような場合において、軟化点が140℃以上150℃以下の石油樹脂に対して、この石油樹脂と比べて軟化点が20℃から30℃低い石油樹脂を、これらの質量比(低軟化点石油樹脂/高軟化点石油樹脂)が1/10以上1/1以下となるように、添加することがより好ましい。このようにすることで、真空成形時に良好な型再現性を得られる温度範囲が広くなり、加工性を更に向上できる。
【0023】
前記石油樹脂の数平均分子量は720以上1085以下であることが好ましい。数平均分子量が前記下限未満では、耐熱性が低下すると共に、高温雰囲気下で樹脂成分が表面にブリードアウトしやすくなる傾向があり、他方、前記上限を超えると、ポリプロピレン系重合体の融点を超えるため、成形体が白化しない成形温度領域でのシートの軟化の効果を付与しにくくなる傾向にある。
【0024】
前記石油樹脂の含有量は、前記基材層に用いる樹脂組成物に対して、10質量%以上20質量%以下であることが好ましく、13質量%以上16質量%以下であることがより好ましい。含有量が前記上限を超えると、成形体の耐熱性が低下して、高温雰囲気下で形状が維持しにくくなる傾向にあり、他方、前記下限以下では、成形体が白化しない成形温度領域にてシートの軟化が不十分となり、真空成形性が低下する傾向にある。
前記基材層に用いる樹脂組成物において、温度23℃、振動数1Hzにおける貯蔵弾性率(G’)が2300MPa以上であり、温度140℃、振動数1Hzにおける貯蔵弾性率(G’)が150MPa以下であるという条件を達成するためには、前記石油樹脂を前記範囲内で使用することが好ましい。
【0025】
前記造核剤としては、例えば、カルボン酸金属塩、リン酸エステル金属塩、ロジン金属塩、タルク、マイカ、ソルビトール誘導体が挙げられる。これらの中でも、成形体の透明性の向上という観点から、ソルビトール誘導体を用いることが好ましい。
【0026】
前記造核剤の含有量は、前記基材層に用いる樹脂組成物に対して、0.2質量%以上0.5質量%以下であることが好ましく、0.25質量%以上0.4質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以上0.35質量%以下であることが特に好ましい。含有量が前記下限未満では、樹脂組成物の結晶化速度が低下して、成形体の透明性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、造核剤がブリードアウトしてべた付き、外観不良の原因となる傾向にある。
前記基材層に用いる樹脂組成物において、結晶化速度が1min−1以上という条件を達成し、得られる透明多層シートでのべた付きや外観不良を抑制するためには、前記造核剤を前記範囲内で使用することが好ましい。
【0027】
前記基材層に用いる樹脂組成物には、必要に応じて、各種の添加剤をさらに添加してもよい。例えば、前記基材層に用いる樹脂組成物には、断裁や成形体の抜き加工時の割れやバリを減少させるという観点から、エラストマーを添加してもよい。また、前記基材層に用いる樹脂組成物は、顔料、帯電防止剤、防曇剤、安定剤、滑剤などをさらに添加してもよい。
【0028】
前記表面層に用いる樹脂組成物は、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン系重合体および造核剤を含む樹脂組成物が挙げられる。
ポリプロピレン系重合体および造核剤としては、前記基材層に用いる樹脂組成物で用いるポリプロピレン系重合体および造核剤と同様のものを用いることができる。
【0029】
前記ポリプロピレン系重合体の含有量は、前記表面層に用いる樹脂組成物に対して、99.5質量%以上99.8質量%以下であることが好ましい。
前記造核剤の含有量は、前記基材層に用いる樹脂組成物に対して、0.2質量%以上0.5質量%以下であることが好ましい。含有量が前記下限未満では、樹脂組成物の結晶化速度が低下して、成形体の表面の透明性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、造核剤がブリードアウトしてべた付き、外観不良の原因となる傾向にある。
【0030】
前記表面層に用いる樹脂組成物には、必要に応じて、各種の添加剤をさらに添加してもよい。例えば、前記基材層に用いる樹脂組成物には、顔料、帯電防止剤、防曇剤、安定剤、滑剤などをさらに添加してもよい。
【0031】
本発明の透明多層シートは、前記基材層と、前記基材層の少なくとも片面に積層された前記表面層とを備える。
このような透明多層シートにおいては、前記基材層に対する前記表面層の厚み比(表面層の総厚み/基材層の厚み)が1/99以上20/80以下であることが好ましく、5/95以上15/85以下であることがより好ましい。厚み比が前記下限未満では、表面の耐熱性が低下するために成形時の表面荒れが発生して、成形体の透明性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、シート全体での軟化温度が高くなり、成形品の透明性を維持できる温度範囲で成形しにくくなる傾向にある。
【0032】
前記透明多層シートの厚みは、特に限定されないが、150μm以上700μm以下であることが好ましく、400μm以上600μm以下であることがより好ましい。厚みが前記下限未満では、成形体の強度などを確保しにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、真空成形等により付形しにくくなる傾向にある。
【0033】
前記透明多層シートは、前記表面層の少なくとも一部に形成された、インク易接着層を備えていてもよい。このようなインク易接着層により、前記表面層にインクとの接着性を付与することができる。
このようなインク易接着層の表面張力は、インクとの接着性の観点から、45mN/m以上であることが好ましい。
【0034】
前記透明多層シートは、優れた真空成形性を有するものとなる。そのため、前記透明多層シートは、真空成形により成形されるものであることが好ましい。なお、前記透明多層シートを成形する方法は特に限定されない。
【0035】
次に、本発明の透明多層シートを製造する方法を、図面を参照しつつ説明する。すなわち、透明多層シート11の製造装置の構成の一例を図1に示すとともに、この製造装置を使用して、本発明の透明多層シートを製造する方法を説明する。なお、シートの製造としては、図1に示す製造装置を用いる場合に限られるものではなく、各種方法を利用できる。
【0036】
図1に示す製造装置は、複数の押出機に接続されたTダイ12、第一冷却ロール13、第二冷却ロール14、金属製のエンドレスベルト15、第三冷却ロール16、第四冷却ロール17を備える。このような製造装置を用い、例えば、以下に示すようにして、本発明の透明多層シートおよび成形体を製造することができる。
【0037】
先ず、透明多層シート11と直接接触しているエンドレスベルト15および第三冷却ロール16の表面温度が所定の冷却温度(例えば20℃以上140℃以下)に保たれるように、第一冷却ロール13、第二冷却ロール14、および第三冷却ロール16の温度制御をしておく。
【0038】
その後、前記表面層に用いる樹脂組成物および前記基材層に用いる樹脂組成物をそれぞれの押出機に投入し、Tダイ12より共押出しする。Tダイ12より押出された透明多層シート11を、第一冷却ロール13と接触しているエンドレスベルト15と、第三冷却ロール16とに略同時に接触するようにして、第一冷却ロール13および第三冷却ロール16の間に導入する。
第一冷却ロール13は、その表面に弾性材18が被覆されている。エンドレスベルト15および第三冷却ロール16は、好ましくは表面粗さが、例えば0.5S以下の鏡面を有している。
そして、第一冷却ロール13および第三冷却ロール16で透明多層シート11を圧接して結晶化温度以下に冷却する。このようにして、透明多層シート11の圧接と冷却とを同時に行うことが可能になり、透明多層シート11の透明性を高めることができる。この際、第一冷却ロール13と第三冷却ロール16間の押圧力で弾性材18が圧縮されて弾性変形し、透明多層シート11は、両冷却ロール13,16による面状圧接となっている。
その後、透明多層シート11を、第二冷却ロール14および第四冷却ロール17から巻き出して、本発明の透明多層シート11を得ることができる。
【0039】
また、本発明の透明多層シート11の表面層の一部にインク易接着層を形成する場合には、例えば、グラビアコート法などの方法を採用することができる。
【0040】
次に、本発明の成形体について説明する。すなわち、本発明の成形体は、本発明の透明多層シートから成形されたことを特徴とするものである。
このような成形体は、前述した本発明の透明多層シートから成形されたものであるため、成形時の白化を十分に防止して高い透明性を有している。そして、このような成形体のヘイズ値は15%以下(より好ましくは13%以下)であることが好ましい。
また、このような成形体は、前述した本発明の透明多層シートが優れた真空成形性を有しているため、意匠性の高い成形体とすることができる。具体的には、本発明の成形体は、自動販売機ディスプレイ用の成形体として好適に用いることができる。
【0041】
本発明の成形体を本発明の透明多層シートから形成する方法としては、特に限定されないが、例えば、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、プレス成形などの成形方法を採用することができる。
【実施例】
【0042】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、各例における樹脂組成物の特性(貯蔵弾性率、結晶化速度)、シートの特性(ヘイズ値、全光線透過率、真空成形性)および成形体の特性(ヘイズ値、全光線透過率、外観)は以下のような方法で求めた。
(1)貯蔵弾性率
粘弾性スペクトロメーター(セイコーインスツル株式会社製、製品名「EXSTAR DMS6100」)を用いて、貯蔵弾性率を測定した。具体的には、先ず、樹脂組成物を用いて幅4.0mm、厚み0.5mmの試料を作製する。そして、スパン間距離20mmとなるよう設定し、昇温速度2℃/min、周波数1Hzの条件で0℃から融点まで測定を行い、得られたデータから23℃と140℃における貯蔵弾性率を得た。
(2)結晶化速度
示差走査熱量測定器(DSC)(パーキンエルマー社製、製品名「Diamond DSC」)を用いて、結晶化速度を測定した。具体的には、先ず、樹脂組成物を用いて重量5gの試料を作製する。そして、試料を80℃/minにて50℃から230℃に昇温し、230℃にて5分間保持し、80℃/minで230℃から130℃に冷却し、その後130℃に保持して結晶化を行う。130℃になった時点から熱量変化について測定を開始して、DSC曲線を得た。
得られたDSC曲線から、以下の手順(i)〜(iv)により結晶化速度を求めた。
(i)測定開始からピークトップまでの時間の10倍の時点から、20倍の時点までの熱量変化を直線で近似したものをベースラインとした。
(ii)ピークの変曲点における接線とベースラインとの交点を求め、結晶化開始および終了温度を求めた。
(iii)得られた結晶化開始温度から、ピークトップまでの時間を結晶化時間として測定した。
(iv)得られた結晶化時間の逆数から、結晶化速度を求めた。
(3)ヘイズ値
JIS K7136に記載の方法に準拠して、ヘイズ値を測定した。具体的には、ヘイズメータ(日本電色工業株式会社製、製品名「NDH200」)を用いて、試料のヘイズ値を測定した。
(4)全光線透過率
JIS K7105に記載の方法に準拠して、全光線透過率を測定した。具体的には、ヘイズメータ(日本電色工業株式会社製、製品名「NDH200」)を用いて、試料の全光線透過率を測定した。
(5)真空成形性
得られた成形体における外周部分のエッジの型再現性を目視にて確認することで、シートの真空成形性を評価した。エッジの型再現性に優れる場合には「良好」と判定し、それ以外の場合には「不良」と判定した。
(6)外観
得られた成形体の外観を目視にて評価した。表面荒れおよび白化がない場合には「良好」と判定し、白化がある場合には「白化」と判定した。
【0043】
[実施例1から実施例5、および比較例1から比較例3]
先ず、以下に示すポリプロピレン系重合体、石油樹脂、造核剤および添加剤を用いて、表1および表2に示す組成にしたがって樹脂組成物を調製し、樹脂組成物のペレットとした。得られた樹脂組成物のうちの基材層用の樹脂組成物については、樹脂組成物の特性(貯蔵弾性率、結晶化速度)を評価し、得られた結果を表1および表2に示す。
ポリプロピレン系重合体:ホモポリプロピレン(サンアロマー株式会社製、商品名「PL500A」)
石油樹脂−1:石油樹脂(軟化点:140℃、数平均分子量:900、出光興産株式会社製、商品名「P−140」)
石油樹脂−2:石油樹脂(軟化点:125℃、数平均分子量:820、出光興産株式会社製、商品名「P−125」)
造核剤:ソルビトール誘導体(理研ビタミン株式会社製ソルビトール誘導体マスターバッチ、商品名「リケマスターPN−10R」)
エラストマー:ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン共重合体(株式会社クラレ製、商品名「セプトン2004」)
青色顔料:青色顔料(大日精化工業株式会社製、商品名「PP−RM 10G787」)
【0044】
次に、表1および表2に示す組成(単位:質量%)にしたがって樹脂組成物のペレットを準備して、押出機に投入する。但し、上記組成のうち青色顔料については、樹脂組成物の総量を100質量部とした場合の添加量である。そして、図1に示す製造装置1を用いて、樹脂温度を240℃として溶融押出してシート状樹脂組成物とし、このシート状樹脂組成物を、第一冷却ロール13上のエンドレスベルト15と、第三冷却ロール16との間に挟んで面状圧接しつつ急冷し、2.5m/minの速度で、シート厚み500mmの透明多層シート11を得た。得られた透明多層シート11は、表面層/基材層/表面層の3層構造を有するものである。得られた透明多層シート11の厚みおよび厚み比(表面層の総厚み/基材層の厚み)を表1および表2に示す。
次いで、得られた透明多層シート11を用いて、真空成型機(株式会社ミノス社製、製品名「FH−3M/H型 単板成形機」)により成形して、ディスプレイ缶形状の評価用の成形体を得た。得られた多層シートおよび得られた成形体の特性を評価し、得られた結果を表1および表2に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
[評価結果]
表1および表2に示した結果から明らかなように、基材層に用いる樹脂組成物が、温度23℃、振動数1Hzにおける貯蔵弾性率が2300MPa以上であり、温度140℃、振動数1Hzにおける貯蔵弾性率が150MPa以下であり、かつ結晶化速度が1min−1以上であるという条件を全て満たす場合(実施例1から実施例5)には、優れた真空成形性を有し、かつ成形時の白化を十分に防止して高い透明性を有する成形体を得ることができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の透明多層シートは、自動販売機ディスプレイ、産業資材の加飾などの用途に用いられる透明多層シートとして好適に用いられる。
【符号の説明】
【0049】
11…透明多層シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、前記基材層の少なくとも片面に積層された表面層とを備え、
前記基材層は、温度23℃、振動数1Hzにおける貯蔵弾性率が2300MPa以上であり、温度140℃、振動数1Hzにおける貯蔵弾性率が150MPa以下であり、かつ結晶化速度が1min−1以上である樹脂組成物からなる
ことを特徴とする透明多層シート。
【請求項2】
請求項1に記載の透明多層シートにおいて、
前記基材層および前記表面層がポリプロピレン系重合体を含む樹脂組成物からなる
ことを特徴とする透明多層シート。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の透明多層シートにおいて、
前記基材層が、ポリプロピレン系重合体79.5質量%以上89.8質量%以下、110℃以上170℃以下の軟化点を有する石油樹脂10質量%以上20質量%以下、および、造核剤0.2質量%以上0.5質量%以下を含む樹脂組成物からなる
ことを特徴とする透明多層シート。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の透明多層シートにおいて、
前記基材層に対する前記表面層の厚み比(表面層の総厚み/基材層の厚み)が1/99以上20/80以下であり、
該透明多層シートの厚みが150μm以上700μm以下である
ことを特徴とする透明多層シート。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の透明多層シートにおいて、
ヘイズ値が10%以下であるものである
ことを特徴とする透明多層シート。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の透明多層シートから成形されたことを特徴とする成形体。
【請求項7】
請求項6に記載の成形体であって、
真空成形により成形されたものである
ことを特徴とする成形体。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の成形体であって、
ヘイズ値が15%以下である
ことを特徴とする成形体。
【請求項9】
請求項6から請求項8までのいずれか1項に記載の成形体であって、
自動販売機ディスプレイに用いるものである
ことを特徴とする成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−139826(P2012−139826A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292083(P2010−292083)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(500163366)出光ユニテック株式会社 (128)
【Fターム(参考)】