説明

透明導電性フィルム及びその製造方法

【課題】導電性、透明性及び塗膜強度に優れ、さらに高湿度環境下に長期間保存しても導電性の低下が小さい透明導電性フィルム及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】透明な基材フィルムの少なくとも一方の面に、ポリアニオンとπ共役高分子を含有する透明導電性塗膜が設けられた透明導電性フィルムであって、前記透明導電性塗膜の上層における前記ポリアニオンに対する前記π共役高分子の割合が、透明導電性塗膜全体の平均値より高いことを特徴とする透明導電性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性、透明性及び塗膜強度に優れ、さらに高湿度環境下に長期間保存しても導電性の低下が小さい透明導電性フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電性フィルムは、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイ、太陽電池、タッチパネル等の透明電極、ならびに電磁波シールド材等に用いられている。
【0003】
広く応用されている透明導電性フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の透明フィルムの表面の少なくとも一方に、インジウム−スズの複合酸化物(ITO)を真空蒸着法やスパッタリング法等のドライプロセスにて成膜する方法であるが、成膜に高温が必要である、成膜コストが高いという問題点がある。また、フィルム基材上でのITO膜等の無機酸化物膜はフィルム基材の撓みによりクラックが入りやすく、そのため導電性の低下が起こりやすい問題があった。
【0004】
一方、ウェットプロセスによる低温かつ低コストで成膜可能な導電性高分子層を透明フィルムに成膜した透明導電性フィルムが提案されている。導電性高分子により形成される透明導電性層は、膜自体に柔軟性があるため、クラック等の問題が生じにくいが、ITO膜並の導電性を得ることは困難であった。例えば、水分散性が良好なポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリアニオンとの酸化重合体(特許文献1参照)や、さらに近年では導電性高分子の分散液に極性溶媒を添加することで導電性を大きく改良させた材料(特許文献2参照)が開示されているが、まだ十分な導電性が得られていない。この原因として導電性高分子を塗布乾燥したときに、導電性の低いポリアニオンが表層付近に移行しやすいことが知られている(非特許文献1参照)。この問題を解決するために、導電性高分子コーティング液を2回以上に分けて塗布したり、塗膜形成後にコロナ放電処理やプラズマ放電処理でポリアニオン成分を除去する方法(特許文献3参照)が開示されている。しかし、これらの方法でも導電性が不十分であるだけでなく、塗膜強度やフィルム支持体への膜付きを改良するために、バインダーやシラン化合物等を添加する必要性があり、さらに導電性の低下を招いてしまう問題があった。
【特許文献1】特開平7−90060号公報
【特許文献2】特表2005−529474号公報
【特許文献3】特開2006−291032号公報
【非特許文献1】J.Electr.spectr.Rel.Phenom.,121,1(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、導電性、透明性及び塗膜強度に優れ、さらに高湿度環境下に長期間保存しても導電性の低下が小さい透明導電性フィルム及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は、以下の構成により達成される。
【0007】
1.透明な基材フィルムの少なくとも一方の面に、ポリアニオンとπ共役高分子を含有する透明導電性塗膜が設けられた透明導電性フィルムであって、前記透明導電性塗膜の上層における前記ポリアニオンに対する前記π共役高分子の割合が、透明導電性塗膜全体の平均値より高いことを特徴とする透明導電性フィルム。
【0008】
2.透明な基材フィルムの少なくとも一方の面に、ポリアニオン溶液を塗布し、その後、π共役高分子溶液を塗布することを特徴とする透明導電性フィルムの製造方法。
【0009】
3.前記π共役高分子溶液が極性有機溶媒を含有することを特徴とする前記2に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【0010】
4.前記ポリアニオン溶液中のポリアニオンと前記π共役高分子溶液中のπ共役高分の質量比が0.5:1から10:1になるように塗布することを特徴とする前記2または3に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、導電性、透明性及び塗膜強度に優れ、さらに高湿度環境下に長期間保存しても導電性の低下が小さい透明導電性フィルムを提供することができる。この透明導電性フィルムは、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイ、太陽電池等の透明電極として好ましく使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、透明な基材フィルム上に設けられた透明導電性塗膜において、透明導電性塗膜上層のポリアニオンに対するπ共役高分子の割合を、透明導電性塗膜全体の平均値より高くすることで、本発明の効果、すなわち、導電性、透明性及び塗膜強度に優れ、さらに高湿度環境下に長期間保存しても導電性の低下が小さい透明導電性フィルムを得ることに成功した。
【0013】
一般に導電性高分子は着色しており、高い導電性を得るために導電性塗膜を厚くすると透明性が劣化してしまう。本発明では、導電性の高いπ共役高分子を上層(表面に近い層)に多く含有させることで、高い透明性を維持したまま導電性も高くできるものと思われる。ここで上層とは、乾燥後の透明導電性塗膜の膜厚の半分より表面に近い側を意味する。さらに、透明導電性塗膜の膜厚の1/3より表面に近い側の、ポリアニリンに対するπ共役高分子の割合が、透明導電性塗膜全体の平均値より高くすることが好ましい。
【0014】
ポリアニオンに対するπ共役高分子の割合が、上層で透明導電性塗膜膜厚全体の平均値より多いことは、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)等を用いて、ミクロトーム等で超薄膜に切り出した切片の厚さ方向に何箇所か測定したり、デプスプロファイル測定をすることで求められる。
【0015】
また、基材フィルムに、ポリアニオンを塗布した後に、π共役高分子を積層塗布する透明導電性フィルムの製造方法により、本発明の効果、すなわち、導電性、透明性及び塗膜強度に優れ、さらに高湿度環境下に長期間保存しても導電性の低下が小さい透明導電性フィルムの製造方法を得ることに成功した。
【0016】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0017】
(π共役高分子)
本発明に用いられるπ共役高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であればよく、例えばポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアニリン類、ポリアセン類、ポリチオフェンビニレン類、及びこれらの共重合体等が挙げられる。これらの中でも、ポリピロール類、ポリチオフェン類及びポリアニリン類が好ましい。
【0018】
本発明に用いられるπ共役高分子は、無置換のままでも、アルキル基、カルボキシ基、スルホ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基等の官能基で置換してもよい。
【0019】
このようなπ共役高分子の具体例としては、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−n−プロピルピロール)、ポリ(3−ブチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−エトキシピロール)、ポリ(3−ブトキシピロール)、ポリ(3−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(チオフェン)、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3−プロピルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3−クロロチオフェン)、ポリ(3−ヨードチオフェン)、ポリ(3−シアノチオフェン)、ポリ(3−フェニルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブテンジオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−メトキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−エトキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)、ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)等が挙げられる。
【0020】
これらの中でも、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)から選ばれる重合体または共重合体が、抵抗値、反応性の点から好適に用いられる。特に、下記一般式(1)で表されるポリチオフェンが好ましい。
【0021】
【化1】

【0022】
(式中、R1及びR2は、相互に独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基、または結合して置換されてもよい炭素数1〜12のアルキレン基を表す。)
(ポリアニオン)
本発明に用いられるポリアニオンとしては、高分子状カルボン酸塩、高分子状スルホン酸が挙げられる。
【0023】
高分子状カルボン酸としては、例えばポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸等が挙げられる。高分子状スルホン酸としては、リスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸等が挙げられる。これらの高分子状カルボン酸及びスルホン酸類は、ビニルカルボン酸及びビニルスルホン酸類と、他の重合可能な低分子化合物、例えばアクリレート類及びスチレン等との共重合体であってもよい。
【0024】
本発明に用いられるポリアニオンの具体例としては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。これらポリアニオンの中でも、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、及びその全てもしくは一部が金属塩であるものが好ましく用いられる。特にポリスチレンスルホン酸が最も好ましい。かかるポリアニオンの数平均分子量は、1,000〜2,000,000の範囲が適当であり、2,000〜500,000の範囲が好ましい。
【0025】
本発明において、ポリアニオンとπ共役高分子の比率は、π共役高分子1gに対してポリアニオンが0.5〜10gの範囲であることが好ましく、1〜5gの範囲であることがより好ましい。ポリアニオンの含有量が0.5g未満の場合には、塗膜強度が弱くなり、10gより多い場合には、十分な導電性が得られない。
【0026】
本発明に用いられるπ共役高分子には、ポリアニオン以外に他のドーパントを含んでもよい。他のドーパントとしては、π共役高分子を酸化還元できればドナー性のものであっても、アクセプタ性のものであってもよい。ドナー性ドーパントとしては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、メチルトリエチルアンモニウム、ジメチルジエチルアンモニウム等の4級アミン化合物等が挙げられる。アクセプタ性ドーパントとしては、例えば、ハロゲン化合物、ルイス酸、プロトン酸、有機シアノ化合物、有機金属化合物、フラーレン、水素化フラーレン、水酸化フラーレン、カルボン酸化フラーレン、スルホン酸化フラーレン等が挙げられる。
【0027】
(透明導電性フィルムの製造方法)
本発明の透明導電性フィルムは、フィルム基材にポリアニオン溶液を塗布し、次いでπ共役高分子溶液を塗布積層して透明導電性塗膜を形成することで得られる。ポリアニオン溶液とπ共役高分子溶液の塗布は交互に繰り返して塗布しても構わない。ただし、その場合には、π共役高分子溶液の塗布が最上層(最後の塗布)になることが重要である。
【0028】
塗布する方法としては、例えばリップダイレクト法、コンマコーター法、スリットリバース法、ダイコーター法、グラビアロールコーター法、ブレードコーター法、スプレーコーター法、エアーナイフコート法、ディップコート法、バーコーター法等、従来公知の方法を採用することができる。
【0029】
塗布前に、フィルム基材表面をカチオン変成(カチオン電荷付与)しておくことが好ましい。この理由としては、基材表面の電荷密度が高い方が、基材上に均一にポリアニオンの層を形成でき、一方、基材上に高分子電解質膜を形成することにより、電荷密度を高くすることができる。従って、高分子電解質膜を基材上に形成し、この高分子電解質膜とポリアニオンとの静電的相互作用によりポリアニオンが均一に付着した層とすることができるからである。
【0030】
基材表面にカチオン電荷を付与する方法としては、カチオン性高分子電解質の塗布、高分子電解質多層膜の形成等が挙げられる。
【0031】
カチオン性高分子電解質としては、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリエチレンイミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド等が好ましい。
【0032】
なお、基材表面は疎水性であることが多いため、基材表面に、コロナ放電処理、グロー放電処理、プラズマ処理、加水分解処理、シランカップリング処理の少なくとも一つを施した後、高分子電解質塗布または高分子電解質多層膜形成を行なうことも可能であり、好ましい方法である。
【0033】
乾燥後の透明導電性塗膜の膜厚は50〜500nm、好ましくは70〜200nmが適当である。50nm未満では、十分な導電性が得られず、500nmより厚い場合には透明性が悪くなる。
【0034】
ポリアニオン溶液、π共役高分子溶液の溶媒としては、例えば水、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、ヘキサン、トルエン等の炭化水素類、酢酸等のカルボン酸等が挙げられ、これらの溶媒は、単独でも2種以上の混合物のいずれでもよい。
【0035】
さらにπ共役高分子溶液には、透明導電層の耐久性に悪影響を起こさない範囲で、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシド等の極性有機溶媒を少量添加しておくことが好ましい。極性有機溶媒の添加量は、π共役高分子1質量%水溶液に対して0.5〜50質量%、好ましくは1〜10質量%である。50質量%より多い場合には、膜の耐久性が劣化するだけでなく、ヘイズが増大し、透明性も劣化する。0.5質量%未満では極性有機溶媒を添加した効果が得られない。
【0036】
(基材フィルム)
本発明に用いられる基材フィルムとしては、用途に応じて任意のものを用いることができ、例えばポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、並びにこれらの混合物及び共重合体、さらにはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ABS樹脂等からなるフィルムを挙げることができる。これらの中でも、二軸配向したポリエステルフィルムが、寸法安定性、機械的性質、耐熱性、電気的性質等に優れた性質を有することから好ましく、特にポリエチレンテレフタレートフィルムまたはポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムが、高ヤング率等の機械的特性に優れ、耐熱寸法安定性にも優れているため好ましい。なお、ポリエステルフィルムの厚みは500μm以下が好ましく、これを超える場合には剛性が強くなりすぎ、取扱い性が低下しやすい。
【0037】
本発明の透明導電性フィルムの透明度としては、全光線透過率が70%以上、好ましくは80%以上である。全光線透過率が70%未満では、透明性が不十分であり、液晶ディスプレイ等に用いるには好ましくない。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、実施例において「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量%」を表す。
【0039】
実施例
〔透明導電性フィルムの作製〕
(試料101の作製)
100μmのPETフィルムの片面にコロナ放電処理を施した後、コロナ放電処理した面側にワイヤーバーを用いてポリスチレンスルホン酸(分子量4000)10%水溶液を乾燥後の膜厚が107nmになるように塗布し、120℃で乾燥した。さらにこの上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を1%分散した水溶液にジメチルスルホオキシドを5%添加した塗布液を、乾燥後の膜厚が150nmになるように塗布し、150℃で乾燥させ、試料101(透明導電性フィルム)を作製した。
【0040】
(試料102〜107の作製)
試料101の作製において、乾燥膜厚が150nmになるように、ポリスチレンスルホン酸とポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)の乾燥後の含有比率を表1のように変更した以外は同様にして、試料102〜107を作製した。
【0041】
(試料108〜110の作製)
試料101の作製において、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を1%分散した水溶液に添加するジメチルスルホオキシドの添加量を9%と未添加に変更した以外は同様にして、それぞれ試料108、109を作製した。また、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を1%分散させた水溶液に添加するジメチルスルホオキシドをジエチレングリコール5%に変更した以外は同様にして、試料110を作製した。
【0042】
(試料111、112の作製)
試料101の作製において、ポリスチレンスルホン酸10%水溶液を塗布、乾燥後の膜厚を50nm、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を1%分散した水溶液にジメチルスルホオキシドを5%添加した塗布液の塗布後の全膜厚を70nmにしたものを試料111、ポリスチレンスルホン酸10%水溶液を塗布、乾燥後の膜厚を200nm、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を1%分散した水溶液にジメチルスルホオキシドを5%添加した塗布液の塗布後の全膜厚を280nmにしたものを試料112とした。
【0043】
(試料113の作製)
試料101の作製と同様のコロナ放電処理を施したPETフィルムに、ワイヤーバーを用いてポリスチレンスルホン酸(分子量4000)10%水溶液を乾燥後の膜厚が72nmになるように塗布し、120℃で乾燥した。さらにこの上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を1%分散させた水溶液にジメチルスルホオキシドを5%添加した塗布液を乾燥後の膜厚が85nmになるように塗布し、120℃で乾燥した。さらに、この塗膜の上にもう一度同じポリスチレンスルホン酸水溶液を乾燥後の膜厚が120nm、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を1%分散させた水溶液にジメチルスルホオキシドを5%添加した塗布液を乾燥後の膜厚が150nmになるようにこの順で塗布し、試料113を作製した。
【0044】
(試料114の作製)
試料101の作製において、PETフィルム上に予めポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドを塗布した以外は同様にして、試料114を作製した。
【0045】
(試料115、116の作製)
あらかじめポリスチレンスルホン酸の存在下で重合したポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(BaytronP、固形分濃度約1.3%:H.C.Starck製)を用いて、試料101と同じPETフィルム上に乾燥後の膜厚が150nmになるように塗布した後、120℃で乾燥し、試料115を作製した。
【0046】
さらに、BaytronPにジエチレングリコールを2.5%添加した液を乾燥後の膜厚が100nmになるように塗布、乾燥した後、もう一度その上に同じ液を乾燥後の全膜厚が150nmになるように塗布、乾燥して、試料116を作製した。
【0047】
【表1】

【0048】
〔透明導電性フィルムの測定及び評価〕
以上のようにして得られた透明導電性フィルム試料101〜116について、以下の方法で、透明導電性塗膜の上層のポリスチレンスルホン酸に対するポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)の割合を測定し、全光線透過率、表面抵抗率、塗膜強度及び高湿度保存後表面抵抗率の評価を行った。
【0049】
(上層のポリスチレンスルホン酸に対するポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)の割合)
透明導電性フィルムをミクロトームで表面に垂直方向に切り出し、VGサイエンティフィックス社製のESCALAB−200Rを用いて、チオフェン起因のピーク強度より算出した。
【0050】
(全光線透過率)
JIS K7150に従い、スガ試験機(株)製のヘイズメーターHCM−2Bにて全光線透過率を測定した。
【0051】
(表面抵抗率)
JIS K7194に準拠して、三菱化学社製ロレスターGP(MCP−T610型)を用いて、表面抵抗率を測定した。測定は対角35.56cm(14インチ)の長方形(17.43cm×30.99cm)サイズの中で任意の50点をサンプリングして行い、その平均値を表面抵抗値として求めた。
【0052】
(塗膜強度)
透明導電性フィルムの最上層の透明導電性膜を親指にて同一場所を3回こすり、塗膜の状態を目視で観察し、下記基準で評価した。
【0053】
◎:塗膜上にこすり剥がれた跡が全く見られない
○:塗膜上にこすり剥がれた跡がわずかに見られるが、性能上問題ない
△:塗膜上にこすり剥がれた跡が少し見られる
×:塗膜上にこすり剥がれた跡がはっきり見られる
(高湿度保存後表面抵抗率)
透明導電性フィルムを60℃、90%RH環境下に30日間放置した後、室温条件で上記表面抵抗率の測定と同様にして表面抵抗率を測定した。
【0054】
測定及び評価の結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
表2から分かるように、本発明の試料は導電性、透明性及び塗膜強度に優れ、さらに高湿度環境下に長期間保存しても導電性の低下をほとんど起こさないことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な基材フィルムの少なくとも一方の面に、ポリアニオンとπ共役高分子を含有する透明導電性塗膜が設けられた透明導電性フィルムであって、前記透明導電性塗膜の上層における前記ポリアニオンに対する前記π共役高分子の割合が、透明導電性塗膜全体の平均値より高いことを特徴とする透明導電性フィルム。
【請求項2】
透明な基材フィルムの少なくとも一方の面に、ポリアニオン溶液を塗布し、その後、π共役高分子溶液を塗布することを特徴とする透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記π共役高分子溶液が極性有機溶媒を含有することを特徴とする請求項2に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ポリアニオン溶液中のポリアニオンと前記π共役高分子溶液中のπ共役高分の質量比が0.5:1から10:1になるように塗布することを特徴とする請求項2または3に記載の透明導電性フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2008−258012(P2008−258012A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−99232(P2007−99232)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】