説明

透明導電性素子、透明導電性素子の製造方法

【課題】透明導電性素子において、塗布式低抵抗透明導電膜の経時劣化を抑制する。
【解決手段】透明導電性素子は、基材1上にアンカー層4を介して透明導電膜2が形成されるが、この透明導電膜2を被覆する保護層3をさらに形成するようにする。保護層3は樹脂や樹脂に無機フィラーを加えた材料で形成する。透明導電膜2の上に保護層3をオーバーコートする構造とすることで、透明導電膜2への酸素吸着を防ぎ、抵抗劣化を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は透明導電性素子とその製造方法に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】特許第4323156号公報
【特許文献2】特許第4287124号公報
【特許文献3】特開2010−146757号公報
【背景技術】
【0003】
透明導電膜は、タッチパネル、FPD、太陽電池、EMI、光学フィルターなどの電子産業等に欠かせない主要部材であることから注目を集めており、より一層の普及が期待されている。
現在、主に用いられている透明導電膜の成膜方法は、真空蒸着法やスパッタリング法などのドライプロセスであるが、成膜する基板の大型化に伴い、製造装置が大掛かりとなり、コストが高くなってしまうという欠点があった。
一方、ウェットプロセスである塗布方式を用いた透明導電膜は、プラスチックという軽量安価でフレキシブルな基材を用いて、製造コストが安いロールToロール(R2R)で生産できる可能性を秘めていることから、近年非常に注目を集めている。しかし、ドライプロセスで成膜するものよりも抵抗値が高く、経時劣化が生じてしまうという問題があった。
【0004】
塗布法による透明導電膜の成膜が検討されている例としては、例えば、ITO微粒子を含有するシリカゾル液(特許文献1参照)や、ITO微粒子とバインダ用シリケートと極性溶媒からなる塗布液(特許文献2参照)などの導電性粒子を分散させたインクを用いて、ガラスなどの基板上にスピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティングなどの方法で塗布・乾燥・焼成してITO透明導電膜を形成する製造方法が知られている。
【0005】
しかし、導電性粒子を分散させたインクを透明基板上に塗布することにより透明導電膜を形成する方法では、通常絶縁性であるバインダによって導電性粒子同士の接触が妨げられる。このため、成膜される透明導電膜の初期シート抵抗値が、スパッタリング法によって成膜された透明導電膜と比較して、2桁以上高くなってしまう問題がある。
【0006】
また、特許文献3には、透明導電膜のみを選択的に加熱処理する工程を含む透明導電膜の製造方法が記載されている。この場合、初期シート抵抗値がドライプロセスによるものと同等まで下がっている。ところが経時劣化に関しては示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の技術では、透明導電性素子において、透明導電層の経時劣化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の透明導電性素子は、基材と、上記基材上に透明導電材料で成膜されて成る透明導電膜と、上記透明導電膜を被覆する保護層とを備えている。
例えば上記保護層は、樹脂や、樹脂に無機フィラーを加えた材料で形成される。
【0009】
本開示の透明導電性素子の製造方法は、基材上に、透明導電材料を塗布して透明導電膜を形成する工程と、上記透明導電膜に対する後処理、例えば焼成処理や加圧処理を行う工程と、上記透明導電膜上に保護層を被覆する工程とを有する。
【0010】
塗布式低抵抗透明導電膜では、塗布膜(透明導電膜)を形成しても、経時劣化が生じてしまう。つまり時間経過によって抵抗値が高くなっていき、電極素子としての機能が劣化する。本開示の技術では、透明導電膜の上に保護層をオーバーコートする構造とすることで、透明導電膜への酸素吸着を防ぎ、抵抗劣化を抑制する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、透明導電膜の経時劣化を抑制し、低抵抗を維持した透明導電性素子を実現することができる。これにより例えば静電容量式タッチパネルの透明導電電極等に用いる場合に好適なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本開示の実施の形態の透明導電性素子の構造の説明図である。
【図2】実施の形態の透明導電性素子の製造工程のフローチャートである。
【図3】実施の形態の製造プロセスIの模式的な説明図である。
【図4】実施の形態の透明導電性素子を用いた入力装置の説明図である。
【図5】実施例及び比較例の抵抗劣化の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施の形態を次の順序で説明する。
<1.透明導電性素子の構成>
<2.透明導電性素子の製造>
<3.パターン形成された透明導電性フィルムの製造プロセス>
<4.透明導電性素子を用いた入力装置>
【0014】
<1.透明導電性素子の構成>

図1Aは透明導電性素子の構造を模式的に示すものである。
この透明導電性素子は、基材1、透明導電膜2,保護層3の積層構造を有する。透明導電膜2は、所定パターンの透明導電材料が形成されて成り、この透明導電膜2により透明導電性素子は電極素子として機能する。保護層3は、透明導電膜2を被覆するように積層されている。
【0015】
本実施の形態では、透明導電膜2上に保護層3を形成することにより、透明導電膜2のシート抵抗の経時劣化を抑制するものである。
詳しくは後述するが、保護層3は、熱硬化樹脂、UV硬化樹脂等の樹脂を用いる。また、樹脂に無機フィラー等を混ぜたものでも良い。
透明導電膜2は、例えば導電性金属酸化物フィラーを用いて形成されている。
この実施の形態の透明導電性素子は、静電容量式タッチパネル等の電極素子として好適に使用できる。
【0016】
なお実施の形態の透明導電性素子は、図1Bのような構造としてもよい。これは、透明導電膜2が、基材1上においてアンカー層4を介して形成されている例である。
【0017】
以下、透明導電性素子の各層について詳述する。
【0018】
・基材1
基材1の材質は特に制限されず、透明であれば種々の基材を用いることができる。
例えば、石英、サファイア、ガラスなどの透明無機基板、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、テトラアセチルセルロース、ブロム化フェノキシ、アラミド類、ポリイミド類、ポリスチレン類、ポリアリレート類、ポリスルフォン類、ポリオレフィン類などの透明プラスチック基板が挙げられ、これらの中でも特に可視光領域の透過率が高い基板を用いるのが好ましいが、これらに限定されるものではない。
この透明基板となる基材1の厚さは特に制限されず、光の透過率、水蒸気透過率などを考慮して自由に選択することができる。
【0019】
・透明導電膜2
透明導電膜2の材料にあたるフィラーには、ITOに代表される導電性金属酸化物フィラーが挙げられる。
導電性金属酸化物フィラーを具体的に例示すると、ITO、ATO、PTO、FTO、IFO、AZO、GZO、IZO、FZO、ZnOなどであり、これらの中でもITOが特に好ましい。導電性金属酸化物フィラーの種類はこれらに限定されるものではなく、また、これらを2種類以上混合して用いることもできる。
導電性金属酸化物フィラーの形状は、球状、キュービック状、紡錘状、棒状、針状、ワイヤー状、チューブ状から選択される少なくとも1種類以上が望ましい。
導電性金属酸化物フィラーの粒径は、可視光を透過させる観点から、一次粒子の平均粒径で1〜100nmが好ましい。
【0020】
ITOは、SnO2のドープ量20%以下が好ましい。市販品としては、例えば、チタン工業株式会社製EC・ESシリーズ、CIKナノテック株式会社製NanoTek ITO−R、株式会社巴製作所製ナノディスパーITO・ITOナノ粒子、東洋インキ製造株式会社製ITOペースト、三菱マテリアル電子化成株式会社製E−ITO、Inframat Advanced Materials社製49N−5090・49N−5090B、上海滬正ナノテクノロジー有限公司社製ITO−P100等を使用できる。
あるいは、インジウム化合物とスズ化合物などを熱分解するなどの公知の方法によって所定の粒径のものを作ってもよい。
【0021】
ATOは、市販品としては、チタン工業株式会社製EC・ESシリーズ、東洋インキ製造株式会社製ATOペースト、三菱マテリアル電子化成株式会社製T−1・TDLシリーズ、石原産業株式会社製SN・FSシリーズ、テイカ株式会社製CP095、DKSHジャパン株式会社製SG−AT50、上海滬正ナノテクノロジー有限公司社製ATO−P100等を使用できる。
【0022】
PTOは、市販品としては、三菱マテリアル電子化成株式会社製EP SPシリーズ等を使用できる。
AZOは、市販品としては、ハクスイテック株式会社製23−K・Pazet CK等を使用できる。
GZOは、市販品としては、ハクスイテック株式会社製Pazet GK−40等を使用できる。
なお、これらは適宜混合して用いることも可能である。
【0023】
導電性をアシストする目的で、金属フィラーを配合しても良い。該金属は、Ag、Au、Ni、Cu、Pd、Pt、Rh、Ir、Ru、Os、Fe、Co、Snより選択される1種類以上で構成される。
フィラー形状は、球状、キュービック状、紡錘状、棒状、針状、ワイヤー状、チューブ状から選択される少なくとも1種類以上が望ましい。
【0024】
溶剤は上記の導電性金属酸化物フィラーを溶解・分散するものを使用する。
例えば、水、アルコール(メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等)、メチルエチルケトン、イソプロパノールアルコール、アセトン、アノン(シクロヘキサノン、シクロペンタノン)、炭化水素(ヘキサン)、アミド(DMF)、スルフィド(DMSO)、ブチルセロソルブ、ジアセトンアルコール、ブチルトリグリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールイソプロピルエーテル、トリプロピレングリコールイソプロピルエーテル、メチルグリコール、テルピネオール、ブチルカルビトールアセテートが挙げられる。
基材1への塗布性や組成物のポットライフを向上させる目的で、必要に応じて界面活性剤、粘度調整剤、分散剤等の添加剤を加えてもよい。
【0025】
・保護層3
保護層3は、樹脂を使用する。無機フィラーを追加しても良い。
樹脂としてはUV硬化樹脂、熱硬化樹脂、熱可塑性樹脂等を使用する。
例えば、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、アクリロニトリル塩素化ポリエチレンスチレン共重合体、アクリロニトリルスチレン共重合体、アクリロニトリルスチレンアクリレート、二軸延伸ポリプロピレン、ビスマレイミドトリアジン、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、塩素化ポリエチレン、塩素化塩化ビニル、ジアリルフタレート、エチレンクロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレンエチルアクリレート、エポキシ樹脂、エチレンプロピレンジエン三元共重合体、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチルビニルエーテル、エチレンビニルアルコール共重合体、延伸ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアクリル酸、ポリアリルエーテルケトン、ポリアクリロニトリル、ポリアリレート、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルアルキド樹脂、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリジシクロペンタジエン、ポリエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルニトリル、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンオキシド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、フェノールホルムアルデヒド、ポリイソブチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリメチルペンテン、ポリオキシメチレン、ポリプロピレン、ポリフタルアミド、ポリプロピレン共重合体、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスチレン、ポリスルフォン、ポリサルフォン、ポリ三フッ化塩化エチレン、ポリ四フッ化エチレン、ポリトリメチレンテレフタレート、反応性ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニリデンフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリビニルホルマール、スチレンブロック共重合体、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体、スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体、シリコーン、スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体、シンジオタクチックポリスチレン、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、熱可塑性エラストマー、サーモポリオレフィン、リン酸トリフェニル、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性加硫エラストマー、メチルペンテン、ユリアホルムアルデヒド樹脂、超高分子量ポリエチレン、エポキシ樹脂、エチルセルロース等が挙げられる。
【0026】
無機フィラーとしては、透明な金属酸化物材料を用いる。より具体的には、SiO2、Al23、ZrO2、CeO2、TiO2、ITO、ATO、PTO、FTO、IFO、AZO、GZO、IZO、FZO、ZnOから選択される少なくとも1種類以上である。
可視光を透過させる観点から、一次粒子の平均粒径で1〜100nmが好ましい。
フィラー形状は、球状、キュービック状、紡錘状、棒状、針状、ワイヤー状、チューブ状から選択される少なくとも1種類以上が望ましい。
【0027】
<2.透明導電性素子の製造>

上記のような透明導電性素子の製造について説明する。
透明導電膜2の塗料については以下の工程を経て製造される。
導電性金属酸化物フィラーを溶剤に分散させる。分散手法としては、攪拌、超音波分散、ビーズ分散、混錬、ホモジナイザー処理等が好ましく適用できる。
フィラーの配合量は塗料重量を100重量部とした場合、1〜60重量部とする。これは1重量部未満である場合、塗布で膜形成した場合に十分な乾燥膜厚が得られず、一方、60重量部よりも大きい場合、塗料の粘度が高くなりすぎて膜形成時のハンドリングが困難になるためである。
【0028】
透明導電膜2と保護層3の成膜は以下の通りである。
基材1上への導電性金属酸化物フィラーからなる透明導電膜2の作製方法に特に制限はないが、物性、利便性、製造コストなどを考慮すると湿式製膜法が好ましく、公知の方法としては、例えば、塗布、スプレー法、印刷などが挙げられる。
【0029】
塗布方法は、特に限定されるものではなく、公知の塗布方法を用いることができる。公知の塗工方法としては、例えば、マイクログラビアコート法、ワイヤーバーコート法、ダイレクトグラビアコート法、ダイコート法、ディップ法、スプレーコート法、リバースロールコート法、カーテンコート法、コンマコート法、ナイフコート法、スピンコート法、キスコート法などが挙げられる。
印刷方法としては、例えば、凸版、オフセット、グラビア、凹版、ゴム版、スクリーン印刷などが挙げられる。
【0030】
図1A、図1Bにおける透明導電膜2の厚みは10nm〜5μmとすることが望ましい。10nm未満である場合、該透明導電膜におけるシート抵抗値が高く、良い導電性が得られないため、10nm以上が適切である。また膜厚が厚ければ厚いほど、シート抵抗も下がるが、膜厚を5μmより大きくした場合、透明性が低下してしまう傾向にある。そのため5μm以下が好ましい。
【0031】
基材1への透明導電材料の塗布後、溶剤を乾燥させる。自然乾燥、加熱乾燥のいずれでも良い。加熱乾燥が、以下の焼成工程を兼ねてもよい。
【0032】
透明導電膜2は、導電性金属酸化物フィラーの塗料を支持体(基材1)に塗布、乾燥した後に粒子同士を電子的にコンタクトさせ、膜強度の向上や基板との密着性を向上させるために、焼成することが好ましい。
【0033】
焼成は、ITO膜中の酸素欠損を埋めてしまわない条件が好ましい。酸素欠損がなくなってしまうと、酸素欠損起因のキャリアが消失してしまうため、キャリア密度が減少してしまい、ITO膜のシート抵抗が増大してしまう。酸素欠損を埋めてしまわない条件として、例えば、真空中、N2やAr等の不活性ガス中などが挙げられる。
焼成温度の範囲は40〜600℃である。特に、温度が高いほどITO膜の結晶性は向上しやすい。但し、温度を上げ過ぎると基材1が熱負けすることもあるため、プラスチック基材の場合は200℃以下が好ましい。
【0034】
焼成の方法に特に制限はない。例えば、ホットプレート、電気炉、IH処理、フレーム照射加熱、マイクロ波照射加熱、ランプ照射加熱、赤外線照射加熱、近赤外線照射加熱などある。
基材1としてプラスチック基材を用いる場合は、照射型加熱によって高温での加熱が可能となる。基材1の下に冷却板を設置して基板1を冷却しながら照射することで、プラスチック基材の熱負けを抑制しつつ、導電性金属酸化物フィラー層をより高温で処理することが可能である。
焼成時間に関して、特に制限はないが、通常は1秒〜10時間程度である。
【0035】
導電性金属酸化物フィラーの塗料を基材1上に塗布し、加熱加圧プレスによる基板への圧着を行うことも可能である。プラスチック基材を用いる場合は、加熱加圧ロールプレスによる基板への圧着を行うことも可能である。
【0036】
透明導電膜2上への保護層3の作製方法に特に制限はないが、例えば、樹脂を溶剤に溶解し、これを透明導電膜2上に塗布する。塗布方法としては、透明導電膜2の作製方法で上述した方法などが挙げられる。
図1A、図1Bにおける保護層3は、透明導電膜2中の空隙の少なくとも一部に浸透して形成される。
保護層3は、透明導電膜2の表面からの厚みを、10nm〜5μmとすることが望ましい。但し保護層3によって、導電性金属酸化物フィラーの表面が大気と非接触であり、かつ、光学特性が劣化しないのであればこれに限った範囲ではない。
【0037】
さらに、密着性向上のために、図1Bのように、導電性金属酸化物フィラー塗料を塗布する前にアンカー層4を別途基材1上に設けても良い。
アンカー層4には、ポリアクリル系、ポリアミド系、ポリエステル系や金属アルコキシド等の加水分解・脱水縮合物などを使用できる。
また、このアンカー層の厚みは透明導電膜としての光学特性を著しく悪化させない厚みとすることが望ましい。
【0038】
<3.パターン形成された透明導電性フィルムの製造プロセス>

以下では、例えば静電容量式タッチパネル等の電極素子として用いられる場合の、実施の形態の透明導電性素子(透明導電性フィルム)の製造プロセスを説明する。
これは透明導電膜2として所定の電極パターンが形成されるように導電材料が形成されて成るものである。
例えば図2A、図2B、図2C、図2Dとして製造プロセスI、II、III、IVを例示する。
【0039】
図2Aの製造プロセスIでは、まずステップF1で導電金属酸化物フィラー塗料のパターン塗布を行う。図3は製造プロセスIを模式的に示したものである。
塗料格納部10には導電性金属酸化物フィラーを溶剤に分散させた塗料が格納されている。この塗料格納部10から塗布装置12に塗料を供給する。
供給ロール11からはシート状(カット前)の基材が巻取ロール17側に向かって供給される。
塗布装置12では、基材シート上に透明導電膜2の電極パターンを形成していくようにパターン塗布を行う。
パターン塗布された塗料は、乾燥機13で乾燥される。
【0040】
このパターン塗布方法に関しては、特に限定されるものではなく、公知の塗布方法を用いることができる。
公知の塗工方法としては、例えば、マイクログラビアコート法、ダイレクトグラビアコート法、ダイコート法、スプレーコート法、リバースロールコート法、カーテンコート法、コンマコート法、ナイフコート法、キスコート法などが挙げられる。
印刷方法としては、例えば、凸版、オフセット、グラビア、凹版、ゴム版、スクリーン印刷などが挙げられる。
【0041】
次にステップF2で後処理が行われる。
後処理としては、加圧処理(カレンダー処理)や焼成処理がある。
加圧処理によって、透明導電膜2の低抵抗化、高透明化、膜質改善が行われる。
焼成処理によって、透明導電膜2の結晶性改善、低抵抗化、膜質改善が行われる。
この図3の例では、加圧ロール14により加圧処理を行う例を示している。
また焼成装置15により焼成を行う。焼成装置15では、不活性ガス中でのアニール処理を行う。上述のように赤外線照射加熱や、ランプ照射加熱(FLA:フラッシュランプアニール)等を採用してもよい。
【0042】
以上の後処理に続いてステップF3のオーバコート工程で保護層3の成膜が行われる。図3のようにオーバコート装置16により、樹脂材料もしくは樹脂+フィラーの材料が、パタン形成された透明導電膜2上にコーティングされる。この保護層3により経時劣化抑制、高透明化、膜耐性化が促進される。
【0043】
以上の工程を経た基材シートがカットされ、図示のように電極パターン18が形成された透明導電膜2を有する透明導電性素子が製造される。
なお、ここでは電極パターン18として、略菱形状の部分が連結された導電部が形成されているものを例示しているが、もちろん電極パターン形状は多様である。
【0044】
この製造プロセスIは、パターン塗布により電極パターンを形成するものとしたが、エッチングによってパターン形成するようにしてもよい。その場合を製造プロセスII、III、IVとしている。
図2Bに示す製造プロセスIIは、ステップF11で基材シートに対する塗料の全面塗布を行う。そしてステップF12でエッチング処理を行い、電極パターンを形成する。その後、ステップF13で後処理として加圧や焼成等を行い、ステップF14で保護層3のコーティングを行う。
【0045】
図2Cに示す製造プロセスIIIは、ステップF21で基材シートに対する塗料の全面塗布を行う。そしてステップF22で後処理として加圧や焼成等を行った後、ステップF23でエッチング処理を行って電極パターンを形成する。その後、ステップF24で保護層3のコーティングを行う。
【0046】
図2Dに示す製造プロセスIVは、ステップF31で基材シートに対する塗料の全面塗布を行う。そしてステップF32で後処理として加圧や焼成等を行う。ここで先にステップF33で保護層3のコーティングを行い、最後にステップF34でエッチング処理を行って電極パターンを形成する。
【0047】
以上のプロセスII〜IVによっても、所定の電極パターンが形成された透明導電膜2を有する透明導電性素子が製造できる。
【0048】
R2Rプロセスは、製造コスト及び設備投資が少なくて済むため、膜製造プロセスとして非常に優れている。
また近年、タッチパネル、FPD、太陽電池、EMI、光学フィルターなどの電子産業等に欠かせない主要部材として透明導電膜が注目を集めている。
透明導電膜はこれまで、ドライプロセスだけでなくウェットプロセスでも検討が行われてきたが、成膜後に経時によるシート抵抗が劣化してしまうという問題があった。そこで発明者らは、保護層3を設けることで経時劣化を抑制した透明導電性素子を開発するに至った。このことによりR2Rプロセスで大量に且つ安価に、経時劣化の無い透明導電性素子を製造することができる。
【0049】
<4.透明導電性素子を用いた入力装置>

例えば以上のように製造される実施の形態の透明導電性素子は、タッチパネル等の入力装置、特に静電容量式タッチパネル等の電極素子として好適に用いられる。
図4は、実施の形態の透明導電性素子を用いた入力装置の構造を例示している。
【0050】
図示するように、入力装置100は、表示装置110の表示面上に設けられる。入力装置100は、例えば貼合層111により表示装置110の表示面に貼り合わされている。
【0051】
入力装置100は、いわゆる投影型静電容量方式タッチパネルであり、第1の透明導電性素子101と、この透明導電性素子101の表面上に設けられた第2の透明導電性素子102とを備える。例えば透明導電性素子101がX電極を形成し、透明導電性素子102がY電極を形成する。
透明導電性素子101と透明導電性素子102とは貼合層105を介して貼り合わされている。
また、必要に応じて、透明導電性素子102の表面上にARフィルム等の光学層103をさらに備えるようにしてもよい。光学層103は、SiO2などのセラミックコート(オーバーコート)とすることも可能である。
【0052】
ここで第1,第2の透明導電性素子101、102として、本実施の形態の透明導電性素子を採用できる。即ち透明導電性素子101,102は、図1のように、基材1の表面に透明導電層2が形成され、さらに保護層3を有する構成となる。
【0053】
入力装置100が適用される表示装置110は特に限定されるものではないが、例示するならば、液晶ディスプレイ、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、プラズマディスプレイ(Plasma Display Panel:PDP)、エレクトロルミネッセンス(Electro Luminescence:EL)ディスプレイ、表面伝導型電子放出素子ディスプレイ(Surface-conduction Electron-emitter Display:SED)などの各種表示装置が挙げられる。
【実施例】
【0054】
以下、本開示の透明導電性素子の実施例を、比較例と共に示していく。
図5に実施例#1〜#5、及び比較例#1,#2について材料、工程及び評価結果について一覧を示した。
全ての実施例、比較例はPETを基材1とし、透明導電膜2の粒状微粒子をITOとした。膜厚は全て1.43μmである。
【0055】
実施例#1〜#5と、比較例#1,#2の違いは、保護層3の有無である。
実施例#1〜#5のそれぞれの違いは、熱処理の有無と保護層3の材料(アクリル樹脂、EC(エチルセルロース)、PAI(ポリアミドイミド))の組み合わせである。
アクリル樹脂を用いた実施例#1,#4は保護層3の膜厚が1.26μm、ECを用いた実施例#2,#5は保護層3の膜厚が1.01、PAIを用いた実施例#3は保護層3の膜厚が1.04である。
比較例#1,#2は、熱処理の有無の違いである。
【0056】
このような各試料について、シート抵抗を、製造後(保護層成膜後)と、大気中で100時間経過後について測定した。
【0057】
<評価方法>
・シート抵抗は、株式会社三菱化学アナリテック製のロレスタEP・MCP−T360型、ナプソン株式会社製EC−80Pで評価した。
・HAZE(JIS K7136)、全光線透過率(JIS K7361)は、株式会社村上色彩技術研究所製のHM−150で評価した。
・ITO層(透明導電膜2)の膜厚は、ITO層形成後、膜の一部を基材から削りとり、膜表面から基材表面までの段差を触針式表面粗さ測定器((株)小阪研究所製、商品名:サーフコーダET4000)で評価することにより求めた。
・保護層3の膜厚(ITO層表面から保護層表面までの厚みと定義する)は、保護層形成後、ITO層及び保護層の一部を基材から削り取り、保護層3の表面から基材1の表面までの段差を触針式表面粗さ測定器((株)小阪研究所製、商品名:サーフコーダET4000)で評価し、この値から上記のITO層の膜厚を差し引くことにより求めた。
なお、各膜厚は、ミクロトーム等でサンプルの断面を切り出し、SEM等で観察することにより求めることもできる。
・経時劣化に関しては、サンプル作製直後にシート抵抗を測定し、その後、室温大気中で100時間保管して再度シート抵抗を測定した。今回用いた保護層3は絶縁体であるため、保護層成膜後のシート抵抗は非接触抵抗測定機のナプソン株式会社製EC−80Pで評価した。
【0058】
<導電性金属酸化物フィラー塗料の調整>
導電性金属酸化物フィラーとしてITOフィラー(上海滬正ナノテクノロジー有限公司社製ITO−P100、粒径:20〜30nm)を用いた。
ITO重量含有率が20〜30wt%になるように粉体とエタノールとを混合し、ペイントシェイカーでφ0.65mmジルコニアビーズを用いて0.5〜24時間ビーズ分散処理し、ITOゾルを調製した。
【0059】
<透明導電性フィルムの作製方法>
以下の手順で透明導電性フィルム作製した。
[1] 上記ITOペイントをPETフィルム基板 (三菱樹脂株式会社製、O300E−125)上にバーコート後、80℃のオーブンで2分乾燥させた。
[2] 上記フィルムを5cm幅に切り出し、プレスロール並びにバックロール表面温度80℃のカレンダーで線圧7000N/5cm、ラインスピード21cm/minで加圧させた。その後、窒素雰囲気中で150℃のオーブンで1時間焼成した。
[3] 次に、保護層として、エチルセルロースのエタノール溶液(和光純薬工業株式会社製エチルセルロース(約49%エトキシ)をエタノールに固形分20wt%で溶かしたもの)、またはポリアミドイミドのNMP溶液(東洋紡績株式会社製、バイロマックスHR−11NN; 固形分15wt%、NMP溶媒)を、上記(2)のファイル上にバーコート後、80℃のオーブンで2分、または120℃のオーブンで2分乾燥させ、透明導電性フィルムを得た。或いは、下記組成のUVアクリル塗料を、上記(2)のフィルム上にバーコート後、80℃のオーブンで2分乾燥させ、積算光量300mJ/cm2でUV照射しUVアクリル層を形成した。
【0060】
UVアクリル塗料組成は次のとおりである。
・6官能ウレタンアクリレート(サートマー製、商品名:CN9006)・・・38質量部
・重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名:Irgacure184)・・・2質量部
・溶剤:メチルイソブチルケトン(MIBK)・・・60質量部
【0061】
以上のようにして作製した実施例および比較例の測定結果が図5に示すものである。
結果は次のとおりであった。
シート抵抗変化率は、好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1.2以下である。
保護層3がある透明導電性フィルム(実施例#1〜#5)の、大気中保管でのシート抵抗変化率は全て1.7未満と低いのに対し、保護層3が無い透明導電性フィルム(比較例#1,#2)の変化率は、3.7以上と高い。
【0062】
150℃焼成を施し保護層3を成膜した透明導電性フィルム(実施例#1、#2)は、大気中保管でのシート抵抗変化率は1.2以下と低いのに対し、150℃焼成を施さず保護層を成膜した透明導電性フィルム(実施例#4、#5)の変化率は、1.5以上2以下である。
実施例#3では、150℃焼成を施していないにも関わらず変化率が低い。これは、ポリアミドイミド樹脂が大気とITO膜を非接触にする機能が優れているためだと考えられる。
保護層無しの透明導電性フィルム(比較例#1、#2)では、何れも変化率が2よりも大きい。但し、150℃焼成を施したもの(比較例#1)の方が変化率は低く抑えられている。
【0063】
これらの結果より、次のことが考察される。
150℃焼成をすることにより、ITO膜の結晶性が改善された(格子欠陥起因の散乱が抑制された)ことによりシート抵抗が改善され、またシート抵抗の劣化原因となる酸素がITO膜の表面に付着しにくくなることにより、経時劣化しにくくなった(吸着酸素による電子トラップが減少した)と考えられる。
保護層3を成膜することにより、ITO膜(透明導電膜2)の表面が大気と非接触になり、酸素吸着を抑制できることから経時劣化しなくなったと考えられる。
【0064】
以上、本技術の実施の形態及び実施例について具体的に説明したが、本開示の技術は、上述の実施の形態、及び実施例に限定されるものではなく各種の変形が可能である。
例えば、上述の実施の形態や実施例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値などを用いてもよい。
また、上述の実施の形態の構成、方法、工程、形状、材料および数値などは、本技術の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0065】
なお本技術は以下のような構成も採ることができる。
(1)基材と、
上記基材上に透明導電材料で成膜されて成る透明導電膜と、
上記透明導電膜を被覆する保護層と、
を備えた透明導電性素子。
(2)上記保護層は、樹脂で形成される上記(1)に記載の透明導電性素子。
(3)上記保護層は、樹脂に無機フィラーを加えた材料で形成される上記(1)に記載の透明導電性素子。
(4)上記透明導電膜は、導電性金属酸化物フィラーを用いて形成されている上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の透明導電性素子。
(5)上記透明導電膜は、上記基材上においてアンカー層を介して形成される上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の透明導電性素子。
【0066】
また本技術は以下のような構成も採ることができる。
(6)基材上に、透明導電材料を塗布して透明導電膜を形成する工程と、
上記透明導電膜に対する後処理を行う工程と、
上記透明導電膜上に保護層を被覆する工程と、
を有する透明導電性素子の製造方法。
(7)上記後処理として焼成処理を行う上記(6)に記載の透明導電性素子の製造方法。
(8)上記後処理として加圧処理を行う上記(6)又は(7)に記載の透明導電性素子の製造方法。
【符号の説明】
【0067】
1 基材、2 透明導電膜、3 保護層、4 アンカー層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
上記基材上に透明導電材料で成膜されて成る透明導電膜と、
上記透明導電膜を被覆する保護層と、
を備えた透明導電性素子。
【請求項2】
上記保護層は、樹脂で形成される請求項1に記載の透明導電性素子。
【請求項3】
上記保護層は、樹脂に無機フィラーを加えた材料で形成される請求項1に記載の透明導電性素子。
【請求項4】
上記透明導電膜は、導電性金属酸化物フィラーを用いて形成されている請求項1に記載の透明導電性素子。
【請求項5】
上記透明導電膜は、上記基材上においてアンカー層を介して形成される請求項1に記載の透明導電性素子。
【請求項6】
基材上に、透明導電材料を塗布して透明導電膜を形成する工程と、
上記透明導電膜に対する後処理を行う工程と、
上記透明導電膜上に保護層を被覆する工程と、
を有する透明導電性素子の製造方法。
【請求項7】
上記後処理として焼成処理を行う請求項6に記載の透明導電性素子の製造方法。
【請求項8】
上記後処理として加圧処理を行う請求項6に記載の透明導電性素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−221075(P2012−221075A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84152(P2011−84152)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】