説明

透明導電性膜積層基材の製造方法及び透明導電性膜積層基材

【課題】 本発明は、良好な光学的透過性を有し、且つ、導電性を有する透明導電性膜積層基材の製造方法及び透明導電性膜積層基材を提供するものである。
【解決手段】金属微粒子分散溶液を、透明性を有する基材上に塗布した後に、網目状構造物を形成させるまでの間、塗布面に対して当たる風の垂直成分が0.5m/s以下であり、並行成分が0.5〜10m/sであり、且つ、基材の温度が塗布面に当たる並行風の温度より高い透明導電性膜積層基材の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な光学的透過性を有し、且つ、導電性を有する透明導電性膜積層基材の製造方法及び透明導電性膜積層基材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、透明性と導電性とを有する透明導電性膜は、特に画像デバイスの部材として様々に利用されている。例えば、プラズマディスプレイや液晶ディスプレイなどフラットディスプレイ内の透明電極であったり、低抵抗な膜であれば電磁波シールドなどにも用いられている。あるいは、タッチパネルなどの入力デバイスや薄膜型太陽電池の透明電極として透明導電性膜が広く使用されている。
【0003】
これらの透明導電性膜は金属系と酸化物系に大別され、金属系では金、銀、パラジウムなどの導電性金属微粒子を基材に蒸着法や塗布法により積層させ作製されており、酸化物系では酸化錫、ITO(酸化錫と酸化インジウムの複合酸化物であり、以後ITOと記載する)、酸化亜鉛などの酸化物微粒子を基材上に塗布したり、各酸化物を蒸着法やスパッタリング法により基材に連続膜を積層させて作製されている。
【0004】
あるいは、電磁波シールド特性の良い透明導電性膜としては、格子状の銅を基材上に作成する方法により得られる透明導電性膜積層基材が用いられている。
【0005】
透明導電性膜で現在広く使われている透明導電性膜の代表はITO連続膜であり、光学的透過率と表面抵抗値の良好な膜を得るために、通常は気相法であるスパッタリング法により基材に積層されているものが用いられている。
【0006】
一方、ITO膜では上述したようにその製造過程において特別な真空装置が必要であり、また抵抗値も金属膜レベルの値を得ることは困難である。そこで、近年では、導電性金属微粒子を基材に塗布する方法において、より導電性と透過率を向上させた透明導電性膜積層基材を得る手法が開示されている。
【0007】
例えば、特許文献1では、金属微粒子を含有するW/O型乳濁液を基材上に塗工し、続いて乾燥させることで、金属微粒子同士が基材上で網目状構造を有する導電性部を形成した透明導電性膜で被覆された基材の形成法が開示されている。該透明導電性膜は上述したITO連続膜とは異なり、網目状の導電性部が導電性を担い、網の目の空孔部位が光学的透過性を担っている。
【0008】
さらに、特許文献2では特許文献1と同様に金属微粒子を含有するW/O型乳濁液を基材上に塗工し、続いて風速10m/s以下の並行風を当てることで、モアレ現象のない金属微粒子同士が基材上で網目状構造を有する導電性部を形成した透明導電性膜で被覆された基材の形成法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2005−530005号公報
【特許文献2】特開2008−78441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の手法によると透明導電性膜を製造することは可能であるが、塗工を行ってから透明性の発現までに時間を要するため、効率よく生産するためにロールツーロール連続塗工を行おうとするとライン速度を上げられないなどの問題が生じる。
【0011】
特許文献2の手法にはネットワーク形成時間に関する記載はないが、並行風を当てることで特許文献1の手法よりもネットワーク形成に要する時間を短縮化できることを発明者らは確認した。
【0012】
連続塗工を行うには装置の巨大化を避けるためネットワーク形成時間は少なくとも20秒以下であることが望ましいが、特許文献2の方法でもってしてもネットワーク形成には20秒以上を要する。
【0013】
発明者らは、自己組織化し網目状構造物を形成する金属微粒子分散溶液である金属微粒子のW/O型乳濁液を基材に塗布、乾燥させ透明導電性膜を得る方法において、基材を赤外線ヒーター等の加熱装置で加温し、塗布面に基材温度より低い温度の並行風を当てることで短時間でネットワーク形成時間できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0015】
即ち、本発明は、金属微粒子を含むW/O型乳濁液からなる金属微粒子分散溶液を、透明性を有する基材上に塗布した後に、網目状構造物を形成させるまでの間、塗布面に対して当たる風の垂直成分が0.5m/s以下であり、並行成分が0.5〜10m/sであり、且つ、基材の温度が塗布面に当たる並行風の温度より高いことを特徴とする透明導電性膜積層基材の製造方法である(本発明1)。
【0016】
即ち、本発明は、前記記載の製造方法において、金属微粒子分散溶液を、透明性を有する基材上に塗布した後に網目状構造物を形成させるまでの間、基材を加熱装置で15〜50℃に温めることを特徴とする透明導電性膜積層基材の製造方法である(本発明2)。
【0017】
即ち、本発明は、前記いずれかに記載の製造方法において、金属微粒子分散溶液を、透明性を有する基材上に塗布した後に網目状構造物を形成させるまでの間、塗布面に対して当たる並行風の温度が5〜40℃であることを特徴とする透明導電性膜積層基材の製造方法である(本発明3)。
【0018】
即ち、本発明は前記いずれかに記載の製造方法において、金属微粒子分散溶液を、透明性を有する基材上に塗布した後に網目状構造物を形成させるまでの間、基材の温度と塗布面に対して当たる並行風の温度の差が1〜45℃であることを特徴とする透明導電性膜積層基材の製造方法である(本発明4)。
【0019】
即ち、本発明は、前記いずれかに記載の製造方法において、金属微粒子分散溶液を、透明性を有する基材上に塗布した後に網目状構造物を形成させるまでに要する時間(ネットワーク形成時間)が20秒以内であることを特徴とする透明導電性膜積層基材の製造方法である(本発明5)。
【0020】
即ち、本発明は、前記いずれかに記載の製造方法において、金属微粒子が、金、銀、銅、ニッケル、白金、パラジウムあるいは前記金属を2種以上含んでいる合金を用いて形成される透明導電性膜積層基材の製造方法である(本発明6)。
【0021】
即ち、本発明は、前記いずれかに記載の製造方法において作成された透明導電性膜積層基材であり、透明導電性膜の全光線透過率が70%以上であり、表面抵抗が50Ω/□以下である透明導電性膜積層基材である(本発明7)。
【発明の効果】
【0022】
本発明における製造方法において、基材を温め、塗布面に基材温度より低い温度の並行風を当てることにより、基材上の塗剤には温度勾配が生じる。具体的には基材と接している面は加温されて温度が高く、空気との界面側は気化熱が奪われることで温度が低くなる。この現象によりベナード対流という対流現象が促進され、より短時間でネットワーク形成が進行する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を実施する際の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の構成をより詳しく説明すれば以下の通りである。
【0025】
本発明に係る透明導電性膜積層基材は、プライマーと、該プライマー上に形成された金属微粒子を主成分として構成される網目状構造物とからなる透明導電性膜が基材上に積層された透明導電性膜積層基材である。このような透明導電性膜積層基材は、次の手順で製造することができる。
【0026】
まず、基材上に所定の界面活性剤を含むプライマー溶液を所定の膜厚に制御して塗布する。続いて基材上に塗布したプライマー溶液に含まれる溶剤を乾燥除去し、その後、基材上に形成されたプライマー層上に自己組織化し網目状構造物を形成する金属微粒子分散溶液を塗布する。その後、塗布した金属微粒子分散溶液に並行風を当て、基材を赤外線ヒーターなどの加熱装置で加温することで、網目状構造物からなる透明導電性膜を積層させる。これにより透明導電性膜積層基材を得ることができる。さらに必要に応じて、その後、透明導電性膜積層基材に化学的処理及び/又は加熱処理を施すことで、導電性の向上、低抵抗な透明導電性膜積層基材を得ることができる。
【0027】
本発明における透明導電性膜積層基材において、金属微粒子を含むW/O型乳濁液からなる金属微粒子分散溶液を、透明性を有する基材上に塗布した後に、網目状構造物を形成させるまでの間、塗布面に対して当たる風の垂直成分が0.5m/s以下であり、並行成分が0.5〜10m/sである。好ましくは垂直成分が0.3m/s以下であり、並行成分が0.5〜5.0m/sである。更に好ましくは垂直成分が0.1m/s以下であり、並行成分が0.5〜3.0m/sである。垂直成分が0.5m/sを超える場合、若しくは並行成分が10m/sを超える場合には、全光線透過率が低下して、透明性が低下するとともに透明導電性膜の外観品位が損なわれるため好ましくない。並行成分が0.5m/s未満の場合には、網目状構造物の形成に時間を要するため好ましくない。
【0028】
また、金属微粒子分散溶液を、透明性を有する基材上に塗布した後に、網目状構造物を形成させるまでの間、基材を加熱装置で15〜50℃の温度に温める。好ましくは基材温度は20〜40℃であり、更に好ましくは23〜38℃である。基材温度が15℃未満の場合には、塗剤が乾燥する際に金属微粒子分散液と基材とが接している面の温度差が小さく、塗剤内の対流が生じにくいため、所望の網目状構造が形成されなくなる。また50℃を超える場合には、対流現象よりも乾燥現象の方が支配的となり、十分な網目構造が得られる前に乾燥し、全光線透過率が低下するため好ましくない。
【0029】
また、金属微粒子分散溶液を、透明性を有する基材上に塗布した後に網目状構造物を形成させるまでの間、塗布面に対して当たる並行風の温度が5〜40℃である。好ましくは10〜30℃であり、更に好ましくは20〜25℃である。並行風の温度が5℃未満の場合には、結露により塗膜の品位が損なわれるため好ましくない。40℃を超える場合には、対流現象よりも乾燥現象の方が支配的となり、十分な網目状構造が得られる前に乾燥し、全光線透過率が低下するため好ましくない。
【0030】
また、金属微粒子分散溶液を、透明性を有する基材上に塗布した後に網目状構造物を形成させるまでの間、基材の温度と塗布面に対して当たる並行風の温度との差(基材−並行風)が1〜45℃であり、基材の温度が塗布面に当たる並行風の温度よりも高いものである。基材の温度が塗布面に当たる並行風の温度よりも低い場合には、網目状構造の形成に長時間要する。好ましい温度差は2〜30℃であり、更に好ましくは5〜20℃である。温度差が1℃未満の場合には、塗剤が乾燥する際に金属微粒子分散液と基材と接している面の温度差が小さく、塗剤内の対流を促進する効果が弱くなるため、網目状構造体の形成時間が短縮できない。45℃を超える場合には、対流現象よりも乾燥現象の方が支配的となり、十分な網目状構造が得られる前に乾燥し、全光線透過率が低下するため好ましくない。
【0031】
また、金属微粒子分散溶液を、透明性を有する基材上に塗布した後に網目状構造物を形成させるまでに要する時間(ネットワーク形成時間)が20秒以内であることが好ましい。形成時間が20秒を超える場合には、量産する際の装置への制約が大きくなり、効率的な生産が困難となる。
【0032】
本発明に用いられる基材は、本発明において用いる金属微粒子を含有する乳濁液を塗布する場合に、該乳濁液の塗布膜厚が制御できる基材を用いることが好ましい。例えば、ガラス基材や樹脂基材、あるいはこれらの基材を組み合わせたものでもよい。
【0033】
また、樹脂基材としてはポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン基材、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレンなどのアクリル系基材、ナイロンなどのポリアミド基材、ポリ塩化ビニル基材、ポリウレタン基材、フッ素系基材、ポリフェニレンスルフィド基材などを用いることが出来る。
【0034】
本発明の界面活性剤を含むプライマーの溶液の塗布条件を良好にする目的あるいは界面活性剤を含むプライマーと基材との密着性を向上させる目的のために、基材表面を化学洗浄あるいは化学エッチングを施したり、プラズマ処理、コロナ放電処理、オゾン処理、紫外線処理などの物理的表面処理を施しても良い。
【0035】
本発明の金属微粒子を含有する乳濁液を塗布する方法としては、同業者が用いる一般的なコーティング法を採用することが出来る。例えばバーコート、ダイコート、ロールコート、スプレーコート、スピンコート、ディップコート、フローコートなどを用いることが出来る。塗布膜厚を制御できる手法であれば特に制限されないが、より好ましくはバーコート、ダイコート、ディップコートが簡便で好ましい。
【0036】
本発明に用いられる界面活性剤を含むプライマーは、該界面活性剤を含むプライマー上に金属微粒子分散溶液を塗布、乾燥することで得られる金属微粒子を主成分とする網目状構造物の構造が、該界面活性剤を含むプライマー溶液の塗布膜厚により容易に制御できるものであれば、特定のものに限定されない。このようなプライマーに適合する界面活性剤としては、酸化エチレン誘導体とポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとの組合せからなる界面活性剤がある。酸化エチレン誘導体とポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとの2種類の界面活性剤が必要であり、いずれか1種のみでは、所望の作用効果を得ることはできない。
【0037】
前記酸化エチレン誘導体としてはポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレン−β−ナフチルエーテル、ポリオキシエチレントリスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンベンジルエーテル、ポリオキシエチレンビスフェノールFエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンヤシアルコールエーテル、ポリオキシエチレン精製ヤシアルコールエーテル、ポリオキシエチレン−2−エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレン合成アルコールエーテル、ポリオキシエチレンセカンダリーアルコールエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレン長鎖アルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレン牛脂アミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンステアリルプロピレンジアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレン牛脂プロピレンジアミン、ポリオキシエチレンメタキシレンジアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミド、ポリオキシエチレンステアリルアミド、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノ牛脂オレート、ポリオキシエチレンモノオレート、ポリオキシエチレンモノトール油脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンウールグリースエーテル、ポリオキシエチレンラノリンエーテル、ポリオキシエチレンラノリンアルコールエーテル、ポリオキシエチレソルビトールエーテル、ポリオキシエチレンペンタエリスリトールジオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等を用いることが出来る。
【0038】
前記ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとしては、BYK−300、BYK−301、BYK−302、BYK−306、BYK−307、BYK−310、BYK−315、BYK−320、BYK−325、BYK−330、BYK−331、BYK−333、BYK−337、BYK−341、BYK−344、BYK−345、BYK−346、BYK−347、BYK−348、BYK−349、BYK−378、BYK−UV3510、BYK−DYNWET800等(ビックケミージャパン社製)や、TSF4440、TSF4445、TSF4446等(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)や、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF640、KF−642、KF−643、KF−6020、X−22−6191、X−22−4515、KF−6011、KF−6012、KF−6015、KF−6017等(信越シリコーン社製)を用いることが出来る。
【0039】
上記界面活性剤のうち、ポリオキシエチレン−β−ナフチルエーテルとBYK−348、ポリオキシエチレンオレイルエーテルとBYK−348、ポリオキシエチレントリスチレン化フェニルエーテルとBYK−348との組み合わせがより好ましい。
【0040】
酸化エチレン誘導体とポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとの混合割合は重量比で酸化エチレン誘導体に対してポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンが0.1 〜50であることが好ましい。
【0041】
本発明において、酸化エチレン誘導体及びポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンからなるプライマーをアセトン、メタノール、エタノール、酢酸エチル、メチルエチルケトンなどの溶媒に溶解して用いる。必要により、レオロジーコントロール剤などの他の添加剤を含有してもよい。
【0042】
界面活性剤を含むプライマーの濃度は、0.01〜10%である。好ましくは0.1〜5%である。0.01%より薄いか又は10%より濃い濃度では良好な光学的透過特性を有し、かつ導電性を制御することが困難になる。
【0043】
界面活性剤を含むプライマーの溶液の塗布膜厚は、1μm以上100μm未満の範囲で調整する。好ましくは5〜50μmの範囲で調整する。塗布膜厚が1μm未満又は100μmを超える場合には膜厚を制御しても良好な光学的透過特性を有し、導電性を制御することが困難になる。
【0044】
前記界面活性剤を含むプライマー上に塗布、乾燥させ、網目状構造物を形成する金属微粒子を含む分散溶液は、自己組織化現象により網目状構造物を形成するものであれば特に限定されず、このような分散溶液にはW/O型乳濁液がある。自己組織化現象により網目状構造物を形成する必要があるため、例えば、分散安定性が悪く、金属微粒子が短時間のうちに沈降するW/O型乳濁液であれば、自己組織化現象が良好に生じないため好ましくない。又は、塗布直後にW/O型乳濁液のチキソトロピー性がなくなり、構造が瞬時に固まってしまうような特性を有するW/O型乳濁液は好ましくない。金属微粒子を含むW/O型乳濁液としては、例えば特許文献1に記載の金属微粒子を含むW/O型乳濁液を用いるのが好ましい。
【0045】
金属微粒子としては導電性を有する金属又は2種以上の金属の合金を用いることが好ましい。さらには、金、銀、銅、ニッケル、白金、パラジウム又はこれらの合金がより好ましい。
【0046】
金属微粒子のW/O型乳濁液中での分散安定性及び塗布、自己組織化現象の促進、さらには低温での焼結性を考慮すると、金属微粒子の平均粒子径は5μm以下が好ましい。より好ましくは1μm以下であり、さらにより好ましくは0.1μm以下である。
【0047】
各金属微粒子の表面は、金属微粒子の表面酸化の防止又は金属微粒子同士の凝集又は焼結防止のために有機物又は無機物又はその両方が表面に被覆されていても良い。
【0048】
前記金属微粒子を含むW/O型乳濁液を塗布、乾燥した後、基材と界面活性剤を含むプライマーの耐薬品性及び耐熱性の許容する程度で加熱処理することで、透明導電性膜積層基材の導電性を向上させることが可能となり、低抵抗な透明導電性膜積層基材を得る場合にはより好ましい。
【0049】
本発明において得られた透明導電性膜積層基材を必要に応じて化学的処理する場合、アセトン、メタノール、エタノール、酢酸エチル、メチルエチルケトンなどの有機溶剤及び/又は塩酸、酢酸、蟻酸などの無機酸や有機酸に透明導電性膜積層基材を浸漬後、乾燥させる方法が良い。アセトン又はメタノールなどの有機溶剤及び塩酸、蟻酸などに30秒〜10分間浸漬するのが好ましい。
【0050】
本発明においては得られた透明導電性膜積層基材を必要に応じて加熱処理する場合、加熱温度としては100〜200℃、好ましくは100〜150℃の温度で30秒〜10分間加熱することが好ましい。
【0051】
上述した基材及び界面活性剤を含むプライマー及び金属微粒子と金属微粒子を含むW/O型乳濁液を塗布して得られる透明導電性膜積層基材の全光線透過率は70%以上であり、表面抵抗値は50Ω/□以下であり、好ましくは10〜30Ω/□である。全光線透過率が70%未満の場合は、透明性が十分であると言い難く好ましくない。また表面抵抗値が50Ω/□より大きい場合は、高導電性膜とは言い難く好ましくない。
【実施例】
【0052】
次に、実施例及び比較例を挙げる。
【0053】
本発明に係る透明導電性膜積層基材の諸特性は、下記の方法により評価した。
【0054】
<銀微粒子を含むW/O型乳濁液の調製方法>
特許文献1を参考に銀微粒子を含むW/O型乳濁液の調製を行った。
上述の方法で得られたた銀微粒子(平均粒子径60nm)を4g、トルエン等の溶媒を30g、BYK−410(ビックケミージャパン社製)等の結合材0.2gを混合し、出力180Wの超音波分散機で1.5分間分散化処理を行い、純水15gを添加し、得られた乳濁液を出力180Wの超音波分散機で30秒間分散処理を行い、銀微粒子を含むW/O型乳濁液を調製した。
【0055】
透明導電性膜積層基材へかかる風速の測定には、風速計(株式会社カスタムのHOT WIRE ANEMOMETER型番CW−60)を用いた。風速計のセンサー部には指向性があるので、センサー部を回転させながら基材平面に対して上方から吹き付ける垂直成分の風速及び基材平面に対して並行に当たる水平成分をそれぞれ記録した。一回の測定を10秒間行い、その間での最大値をそれぞれ垂直成分の風速、水平成分の風速として記録した。また風の温度は、同風速計(株式会社カスタムのHOT WIRE ANEMOMETER型番CW−60)を用い、上記風速測定時に同時に測定し記録した。
【0056】
透明導電性膜積層基材の基材温度の測定は、基材のヒーターと反対側の面に熱電対を張り付けて計測し、その値を基材温度とした。
【0057】
ネットワーク形成時間の測定は、塗剤を基材に塗布した時を始点として、乾燥が進行して目視にて透明になったと確認できるまでの時間を終点として計測した。
【0058】
透明導電性膜積層基材のシート抵抗の測定は、得られた透明導電性膜積層基材を150℃で2分加熱後アセトンへ30秒浸漬・洗浄し、さらに150℃で2分間加熱してJIS−K−7194に準拠した形で、ロレスタ−GP(株式会社ダイアインスツルメンツ製、型番:MCP−T610)において直列4探針プローブ(ASP)を用いて4端子4探針法で実施した。
【0059】
透明導電性膜の光学的透過率は、全光線透過率として評価した。前記透明導電性膜積層基材をヘイズメーター(型番:NDH−2000、日本電飾工業株式会社製)を用いてJIS K−7105に準拠して測定した。
【0060】
作製した透明導電性膜積層基材の外観検査は目視によって行った。透明性がありムラがなければ○、それ以外は×と評価した。
【0061】
基材として、透明性を有する100ミクロン厚のPETフィルム(ルミラーU46 東レ株式会社製)を用いた。
【0062】
赤外線発生装置は市販のヒーターと温度調節器及び金属板を組み合わせて自作したものを用いた(図1)。
【0063】
実施例1
基材にプライマーとしてポリオキシエチレンβナフチルエーテル1.2%(青木油脂工業社製)、8029 ADDITIVE0.1%(東レ・ダウコーニング株式会社製)を溶解させたアセトン溶液を調製し、メタバーを用いて6ミクロンのウェット厚みで塗工を行い、自然乾燥させた。次に、赤外線ヒーターで基材を25℃に温め、塗布面に対する並行風の温度23℃、風速が3m/s、垂直風は風速が0m/sで周囲の雰囲気は23℃に制御し、上述した銀微粒子を含むW/O型乳濁液を、バーコーターを用い、塗布膜厚30μmで前記プライマーがコーティングされたフィルム上に塗布し、乾燥させることで主に銀微粒子で構成される網目状構造を有した透明導電性膜積層基材を得た。そのときのネットワーク形成時間は20秒で、全光線透過率は81%で、シート抵抗は22Ω/□であった。そのネットワーク形状は良好であった。
【0064】
実施例2
並行風の風速を5m/sに変更した以外は、実施例1と同じ条件で透明導電性膜積層基材を得た。そのときのネットワーク形成時間は15秒で、全光線透過率は81%で、シート抵抗は20Ω/□であった。そのネットワーク形状は良好であった。
【0065】
実施例3
並行風の風速を10m/sに変更した以外は、実施例1と同じ条件で透明導電性膜積層基材を得た。そのときのネットワーク形成時間は9秒で、全光線透過率は80%で、シート抵抗は21Ω/□であった。そのネットワーク形状は良好であった。
【0066】
実施例4
基材の温度を30℃に変更した以外は実施例1と同じ条件で透明導電性膜積層基材を得た。そのときのネットワーク形成時間は11秒で、全光線透過率は81%で、シート抵抗は19Ω/□であった。そのネットワーク形状は良好であった。
【0067】
実施例5
並行風の風速を5m/sに変更した以外は、実施例4と同じ条件で透明導電性膜積層基材を得た。そのときのネットワーク形成時間は10秒で、全光線透過率は80%で、シート抵抗は21Ω/□であった。そのネットワーク形状は良好であった。
【0068】
実施例6
並行風の風速を10m/sに変更した以外は、実施例4と同じ条件で透明導電性膜積層基材を得た。そのときのネットワーク形成時間は6秒で、全光線透過率は81%で、シート抵抗は21Ω/□であった。そのネットワーク形状は良好であった。
【0069】
実施例7
基材の温度を35℃に変更した以外は実施例1と同じ条件で透明導電性膜積層基材を得た。そのときのネットワーク形成時間は13秒で、全光線透過率は80%で、シート抵抗は19Ω/□であった。そのネットワーク形状は良好であった。
【0070】
実施例8
並行風の風速を5m/sに変更した以外は、実施例7と同じ条件で透明導電性膜積層基材を得た。そのときのネットワーク形成時間は8秒で、全光線透過率は81%で、シート抵抗は20Ω/□であった。そのネットワーク形状は良好であった。
【0071】
実施例9
並行風の風速を10m/sに変更した以外は、実施例7と同じ条件で透明導電性膜積層基材を得た。そのときのネットワーク形成時間は6秒で、全光線透過率は81%で、シート抵抗は22Ω/□であった。そのネットワーク形状は良好であった。
【0072】
実施例10
並行風の温度を15℃、垂直風を15℃に制御した以外は、実施例1と同じ条件で透明導電性膜積層基材を得た。そのときのネットワーク形成時間は18秒で、全光線透過率は80%で、シート抵抗は21Ω/□であった。そのネットワーク形状は良好であった。
【0073】
比較例1
基材を温めず(フィルム温度18℃)、無風状態で塗工を行い透明導電性膜積層基材を得た。そのときのネットワーク形成時間は182秒で、全光線透過率は80%で、シート抵抗は20Ω/□であった。そのネットワーク形状は良好であった。
【0074】
比較例2
基材を温めずに使用した(フィルム温度18℃)以外は実施例1と同じ条件で透明導電性膜積層基材を得た。そのときのネットワーク形成時間は30秒で、全光線透過率は80%で、シート抵抗は19Ω/□であった。その外観は良好であった。
【0075】
比較例3
基材を温めずに使用した(フィルム温度18℃)以外は実施例2と同じ条件で透明導電性膜積層基材を得た。そのときのネットワーク形成時間は25秒で、全光線透過率は81%で、シート抵抗は21Ω/□であった。その外観は良好であった。
【0076】
比較例4
無風にした以外は実施例1と同じ条件で塗工を行った。得られた透明導電性膜積層基材のネットワーク形成時間は78秒で、全光線透過率が53%で、シート抵抗は99Ω/□であった。その外観はムラが目立ち汚かった。
【0077】
比較例5
無風にした以外は実施例4と同じ条件で塗工を行った。得られた透明導電性膜積層基材のネットワーク形成時間は66秒で、全光線透過率が50%で、シート抵抗は103Ω/□であった。その外観はムラが目立ち汚かった。
【0078】
比較例6
無風にした以外は実施例7と同じ条件で塗工を行った。得られた透明導電性膜積層基材のネットワーク形成時間は40秒で、全光線透過率が45%で、シート抵抗は108Ω/□であった。その外観はムラが目立ち、汚かった。
【0079】
比較例7
並行風の風速が0m/s、垂直成分の風速が1m/sにした以外は実施例1と同じ条件で透明導電性膜積層基材を得た。そのときのネットワーク形成時間は10秒で、全光線透過率は58%で、シート抵抗は96Ω/□であった。その外観はムラが目立ち、汚かった。
【0080】
このときの製造条件と透明導電性膜積層基材の諸特性を表1に示す。
【0081】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の透明導電性膜積層基材の製造方法を用いれば、光学的透明性及び導電性を有し、且つ、短時間でネットワーク形成されるため、効率的に透明導電性膜積層基材を得ることができる。
【符号の説明】
【0083】
1 風の流れ(並行風)
2 金属微粒子分散液を含む塗布膜
3 基材
4 赤外線ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属微粒子を含むW/O型乳濁液からなる金属微粒子分散溶液を、透明性を有する基材上に塗布した後に、網目状構造物を形成させるまでの間、塗布面に対して当たる風の垂直成分が0.5m/s以下であり、並行成分が0.5〜10m/sであり、且つ、基材の温度が塗布面に当たる並行風の温度より高いことを特徴とする透明導電性膜積層基材の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法において、金属微粒子分散溶液を、透明性を有する基材上に塗布した後に網目状構造物を形成させるまでの間、基材を加熱装置で15〜50℃に温めることを特徴とする透明導電性膜積層基材の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれかに記載の製造方法において、金属微粒子分散溶液を、透明性を有する基材上に塗布した後に網目状構造物を形成させるまでの間、塗布面に対して当たる並行風の温度が5〜40℃であることを特徴とする透明導電性膜積層基材の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の製造方法において、金属微粒子分散溶液を、透明性を有する基材上に塗布した後に網目状構造物を形成させるまでの間、基材の温度と塗布面に対して当たる並行風の温度の差が1〜45℃であることを特徴とする透明導電性膜積層基材の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の製造方法において、金属微粒子分散溶液を、透明性を有する基材上に塗布した後に網目状構造物を形成させるまでに要する時間(ネットワーク形成時間)が20秒以内であることを特徴とする透明導電性膜積層基材の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の製造方法において、金属微粒子が、金、銀、銅、ニッケル、白金、パラジウムあるいは前記金属を2種以上含んでいる合金を用いて形成される透明導電性膜積層基材の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の製造方法において作成された透明導電性膜積層基材であり、透明導電性膜の全光線透過率が70%以上であり、表面抵抗が50Ω/□以下である透明導電性膜積層基材。

【図1】
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【公開番号】特開2011−181202(P2011−181202A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41621(P2010−41621)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】