説明

透明導電膜の形成方法及び透明電極

【課題】光学特性に優れ、表面抵抗の低い透明導電膜の形成方法及び透明電極の提供。
【解決手段】金属酸化物の微粒子を含む塗布液を基材上に塗布して乾燥し、酸化性雰囲気ガス中で焼成し、得られた塗膜を還元性ガス雰囲気中で焼成し、次いで酸化性ガス雰囲気中で焼成して、透明導電膜を形成する。この透明導電膜から透明電極を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜の形成方法及び透明電極に関し、特に、金属酸化物の微粒子を用いて透明導電膜を形成する方法及びこの方法で形成された透明導電膜からなる透明電極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ(LCD)やプラズマディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ用の電極として、ITO(インジウム・スズ酸化物)、ATO(アンチモン・スズ酸化物)等の金属酸化物からなる透明導電膜が用いられている。この透明導電膜の形成方法としては、蒸発法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等があり、これらの方法で、基材上に前記の金属酸化物を成膜することにより透明電極を形成している。一般的には、ITO膜をスパッタリング法により形成している。
【0003】
また、上記の透明導電膜の形成方法以外に、ITO、ATO等の酸化物微粒子を含んでなる塗布液を基板上に塗布し、乾燥後、塗膜を直接焼成することにより透明導電膜を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。しかしながら、この特許文献1に示される方法では、酸化物微粒子を含んでなる塗布液により形成した透明導電膜は、その焼成工程のために、その膜の透過率は高いが電気抵抗も高くなってしまうという問題があった。
【0004】
上記の問題を解消するために、インジウム、スズ、アンチモン、アルミニウム、及び亜鉛の金属の微粒子を含んでなる塗布液を基材に塗布後、これら金属が酸化しない雰囲気中で焼成し、次いで、酸化性ガス雰囲気中で焼成することによりこれらの金属を酸化させて透明導電膜を形成する方法が知られている(例えば、特許文献3及び4参照)。この方法は、酸化物の状態よりも金属の状態である方が融点が低いため、300℃以下の低温において微粒子同士を金属の状態で焼結させた後に、その焼結体を酸化して得られる膜の透明化を図ろうという知見に基づいている。
【特許文献1】特開平07−242842号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2003−249131号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2005−183054号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2005−243249号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上述の従来技術の問題点を解決すると共に、従来技術と異なる方法で透明導電膜を形成するために、出発物質として金属酸化物を用いて透明導電膜を形成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の透明導電膜の形成方法は、金属酸化物の微粒子を含む塗布液を基材上に塗布して成膜し、酸化性雰囲気中で焼成して微粒子表面に付着している分散剤を除去して、得られた塗膜を還元性ガス雰囲気中で焼成した後、酸化性ガス雰囲気中で焼成して、透明導電膜を形成することを特徴とする。
【0007】
前記還元性ガス雰囲気は、水素ガス雰囲気及び活性水素ガス雰囲気から選ばれる少なくとも1種の雰囲気であることを特徴とする。特に、活性水素ガスを用いることにより焼成温度を230℃以下に下げることが可能となる。
【0008】
前記金属酸化物の金属成分は、インジウム、スズ、アンチモン、アルミニウム、及び亜鉛から選ばれた1種類以上の金属であることを特徴とする。
【0009】
前記塗布は、インクジェット印刷により行われることを特徴とする。
【0010】
本発明の透明電極は、前記方法により形成した透明導電膜からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光学特性に優れ、表面抵抗の低い透明導電膜を形成することが可能になると共に、この透明導電膜からなる優れた透明電極を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明によれば、上記したように、金属酸化物の微粒子を含む塗布液を基材上に塗布して乾燥し、酸化性雰囲気中で焼成して微粒子表面に付着している分散剤を除去して、得られた塗膜を、水素ガス雰囲気及び活性水素ガス雰囲気から選ばれる少なくとも1種の還元性ガス雰囲気中で焼成した後、酸化性ガス雰囲気中で焼成することにより、表面抵抗が低く、かつ透明性に優れた金属酸化物膜からなる透明導電膜を形成することができる。
【0013】
本発明で使用できる金属酸化物としては、例えばインジウム、スズ、アンチモン、アルミニウム、及び亜鉛から選ばれた1種類以上の金属を含む酸化物、及びこれらの金属酸化物の混合物を挙げることができる。2種以上の金属を含む酸化物には、例えばドーピングした金属酸化物として、SnドープIn(ITO)、SbドープSnO(ATO)、ZnドープIn(IZO)及びAlドープZnO(AZO)等から選ばれた金属酸化物、及びこれらの金属酸化物の混合物を挙げることがきる。
【0014】
本発明で用いることができる塗布液は、例えば後述するガス中蒸発法や湿式法等で調製した、前記金属酸化物微粒子が溶媒中に分散した分散液であることが好ましい。
【0015】
本発明において、透明導電膜形成用塗布液を塗布する基材は、透明基材であれば特に制限されず、例えば、無アルカリガラス等のガラス基材や、アクリル樹脂基材、ポリイミド樹脂基材、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の低温焼成が可能な有機樹脂材料からなる基材であってもよいし、有機系カラーフィルターのような有機物の膜が成膜された基材であってもよい。これらを単独で又は貼り合わせて基材として用いることができる。この基材の形状としては、特に制限されず、例えば、平板、立体物、フィルム等であってもよい。なお、これらの基材は、本発明の塗布液を塗布する前に、純水や超音波等を用いて洗浄することが好ましい。
【0016】
本発明において、塗布液の基材への塗布方法としては、例えば、スピンコート法、スプレー法、浸漬法、ロールコート法、スクリーン印刷法、コンタクトプリント法、スリットコート法、インクジェット法(インクジェット印刷法)等が挙げられる。塗布は、所望の膜厚を得ることができれば、一度塗りでも重ね塗りでもよい。
【0017】
本発明によれば、上記したように、金属酸化物微粒子含有塗布液を基材上に塗布し、酸化性雰囲気中で焼成し、得られた塗膜を、水素ガス雰囲気及び活性水素ガス雰囲気から選ばれる少なくとも1種の還元性ガス雰囲気中で焼成した後、酸化性ガス雰囲気中で焼成する。
【0018】
前記還元性ガス雰囲気としては、水素ガス又は水素原子を含んでいる活性水素ガス雰囲気から選ばれる少なくとも1種の雰囲気であることが好ましい。
【0019】
この還元性ガス雰囲気中での焼成条件は、例えばガス圧力1×10−1torr以下で1×10−3torr以上の活性水素ガス雰囲気中で基材の有機材を劣化させない230℃以下であることが好ましい。
【0020】
また、前記酸化性ガス雰囲気としては、酸素ガス、酸素原子含有ガス、水蒸気、又は水蒸気含有ガス等のガスを含んでいる雰囲気から選ばれる少なくとも1種の雰囲気であることが好ましい。
【0021】
この酸化性ガス雰囲気中での焼成条件は、例えば温度が300℃以下、好ましくは基材の有機材を劣化させない230℃以下である。また、150℃未満であると微粒子表面についている分散剤が十分に除去されなかったり、還元された微粒子を十分に酸化できず、膜の透明性が十分に得られない。
【0022】
本発明で使用できる金属酸化物微粒子の作製法は、特に制限されず、例えば、上記したようにガス中蒸発法や湿式法であってもよい。以下、ガス中蒸発法を代表例として、この方法による金属酸化物微粒子の分散液の作製法について説明する。
【0023】
ガス中蒸発法は、ガス雰囲気中でかつ溶媒の蒸気の共存する気相中で金属を蒸発させ、蒸発した金属を均一な微粒子に凝縮させて溶媒中に分散せしめ、分散液を得る方法である(例えば、特許第2561537号公報参照)。この分散液に酸素を吹き込むことにより金属の微粒子を酸化させて酸化物微粒子とする。このガス中蒸発法により、粒径50nm以下の粒度の揃った金属酸化物微粒子を作製することができる。このような金属酸化物微粒子を原料として、各種用途に適した塗布液である分散液とするためには、最終工程で有機溶媒置換を行えばよい。また、この微粒子の分散安定性を増すためには、所定の工程で分散剤を添加すればよい。これにより、金属酸化物微粒子が個々に独立して均一に分散され、かつ、流動性のある状態が保持されるようになる。
【0024】
前記ガス中蒸発法における有機溶媒としては、使用する金属酸化物微粒子の種類によって適宜選択すればよく、例えば、次のようなものがある。メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、デカノール、シクロヘキサノール、及びテルピネオール等のアルコール類、エチレングリコール、及びプロピレングリコール等のグリコール類、アセトン、エチルケトン、メチルエチルケトン、及びジエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、及び酢酸ベンジル等のエステル類、メトキシエタノール、及びエトキシエタノール等のエーテルアルコール類、ジオキサン、及びテトラヒドロフラン等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド等の酸アミド類、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、及びドデシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサン、及びトリメチルペンタン等の長鎖アルカン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、及びデカリン等の環状アルカン等のような常温で液体のものを適宜選択して使用することができる。この有機溶媒中には水も含まれるものとする。
【0025】
ガス中蒸発法における金属酸化物微粒子を分散する有機溶媒としては、上記のような溶媒を使用できるが、好ましくは、デカリンや、トルエン、キシレン、ベンゼン及びテトラデカン等のような無極性溶媒、アセトン及びエチルケトン等のようなケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール及びブタノール等のようなアルコール類である。
【0026】
上記有機溶媒は、単独で用いても、混合溶媒の形で用いてもよい。例えば、長鎖アルカンの混合物であるミネラルスピリットであってもよい。
【0027】
上記溶媒の使用量は、使用する金属酸化物微粒子の種類、用途に応じて、塗布しやすく、かつ所望の膜厚を得ることができるように適宜設定すればよい。例えば、金属酸化物微粒子1〜70wt%の濃度になるように、溶媒を使用すればよく、この金属酸化物微粒子濃度は、分散液製造後でも真空中加熱等により随時調整可能である。
【0028】
以下、本発明で使用する金属酸化物微粒子の周りに付着している有機化合物からなる分散剤について説明する。
【0029】
ガス中蒸発法により作製された金属酸化物微粒子分散液は、例えば、粒径50nm以下の金属酸化物微粒子が、孤立状態で、アルキルアミン、カルボン酸アミド及びアミノカルボン酸塩等から選ばれた少なくとも1種を分散剤として、有機溶媒中に分散されたものであっても良い。金属酸化物微粒子は、その周囲に分散剤である有機化合物が付着した状態の粒子であるので、この微粒子を用いると、分散が容易になり、安定も増す。
【0030】
上記分散剤のアルキルアミンとしては、第1〜3級アミンであっても、モノアミン、ジアミン、トリアミンであっても良い。主鎖の炭素数が4〜20であるアルキルアミンが好ましく、主鎖の炭素数が8〜18であるアルキルアミンが安定性、ハンドリング性の点からはさらに好ましい。アルキルアミンの主鎖の炭素数が4より短かいと、アミンの塩基性が強過ぎて金属酸化物微粒子を腐食する傾向があり、最終的には金属酸化物微粒子を溶かしてしまうという問題がある。また、アルキルアミンの主鎖の炭素数が20よりも長いと、金属酸化物微粒子分散液の濃度を高くしたときに、分散液の粘度が上昇してハンドリング性がやや劣るようになり、また、焼成後の膜中に炭素が残留しやすくなって、比抵抗値が上昇するという問題がある。また、全ての級数のアルキルアミンが分散剤として有効に働くが、第1級のアルキルアミンが、安定性、ハンドリング性の点からは好都合である。
【0031】
アルキルアミンの具体例としては、例えば、ブチルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘクサドデシルアミン、オクタデシルアミン、ココアミン、タロウアミン、水素化タロウアミン、オレイルアミン、ラウリルアミン、及びステアリルアミン等のような第1級アミン、ジココアミン、ジ水素化タロウアミン、及びジステアリルアミン等のような第2級アミン、並びにドデシルジメチルアミン、ジドデシルモノメチルアミン、テトラデシルジメチルアミン、オクタデシルジメチルアミン、ココジメチルアミン、ドデシルテトラデシルジメチルアミン、及びトリオクチルアミン等のような第3級アミンや、その他に、ナフタレンジアミン、ステアリルプロピレンジアミン、オクタメチレンジアミン、及びノナンジアミン等のようなジアミンがある。
【0032】
上記カルボン酸アミドやアミノカルボン酸塩の具体例としては、例えば、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリン酸ラウリルアミド、オレイン酸アミド、オレイン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ラウリルアミド、ステアラニリド、オレイルアミノエチルグリシン等がある。
【0033】
また、本発明で用いる塗布液の場合、前記溶媒中に分散している金属酸化物微粒子の表面に付着している分散剤として、前記分散剤の代わりに、総炭素数6〜20の脂肪酸及び/又は脂肪酸エステルを用いても良い。この脂肪酸、脂肪酸エステルは、飽和脂肪酸、飽和脂肪酸エステルであってもよいし、不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステルであってもよい。また、エステルとしては、炭素数1〜6の低級アルキルエステル(このアルキル基は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、及びヘキシル基から選ばれる)、好ましくは炭素数1〜3のアルキルエステルを用いることができ、脂肪酸エステルの総炭素数が6〜20になるようにアルキル基を選べば良い。
【0034】
この分散剤は、総炭素数6〜20の脂肪酸及び/又は脂肪酸エステルであれば特に制限されない。脂肪酸としては、例えば、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、パルミトイル酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、バクセン酸、エレステアリン酸、ノナデカン酸、イコサン酸等が挙げられる。脂肪酸エステルとしては、例えば、ペンタン酸メチル、ペンタン酸エチル、ヘキサン酸メチル、ヘキサン酸エチル、ヘプタン酸メチル、ヘプタン酸エチル、オクタン酸メチル、オクタン酸エチル、ノナン酸メチル、ノナン酸エチル、デカン酸メチル、デカン酸エチル、ドデカン酸メチル、ドデカン酸エチル、テトラデカン酸メチル、テトラデカン酸エチル、テトラデカン酸イソプロピル、ペンタデカン酸メチル、ペンタデカン酸エチル、ヘキサデカン酸メチル、ヘキサデカン酸エチル、パルミトイル酸メチル、パルミトイル酸エチル、ヘプタデカン酸メチル、ヘプタデカン酸エチル、オクタデカン酸メチル、オクタデカン酸エチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、リノール酸メチル、リノレン酸メチル、バクセン酸メチル、エレステアリン酸メチル、ノナデカン酸メチル等が挙げられる。
【0035】
分散剤が、総炭素数6未満の脂肪酸及び/又は脂肪酸エステルであると、塗布液中での金属酸化物の微粒子の分散が不安定となるため、塗布液中の微粒子が沈降することがあり、その結果、良好な透明導電膜を得ることができない。一方、分散剤が、総炭素数20より大きい脂肪酸及び/又は脂肪酸エステルであると、300℃以下の焼成では、分散剤の熱分解が不十分となり、分散剤又は分散剤起源の炭素質の物質が残留することがある。このため、得られる透明導電膜の電気抵抗は高くなり、また、透明性も低くなってしまう。
【0036】
本発明において、塗布液の基材への塗布方法としては、上記の塗布方法のなかでも、インクジェット印刷法がより好ましい。インクジェット印刷法は、塗布する基材の必要な領域に必要な量だけ塗布することが可能であるため、結果として、材料の利用効率が高くなり好ましい。インクジェット印刷法ではまた、基材全面に塗布し、塗膜を焼成して透明導電膜を得た後、エッチング等の処理により、基材中の透明導電膜の不要な箇所を除去する方法と比較すると、透明導電膜を形成する工程の簡略化が可能であり、また、エッチング等の工程で発生する廃液の問題を解消することができる。
【0037】
本発明における透明導電膜形成用塗布液は、前記の微粒子が溶媒中に分散してなる。この溶媒の種類は特に限定されないが、塗布法としてインクジェット印刷法を用いる場合、インクジェット印刷用のインク液を調製するには、ヘッド材料(表面コート材を含む)との相性(例えば、ヘッド材料を腐食、溶解等しないという物性を有すること)や、ヘッド内での金属酸化物微粒子の凝集、粒子詰まりを考慮して、適切な溶媒を選定する必要がある。そのためには、デカヒドロナフタレン、テトラヒドロナフタレン、オクチルベンゼン、ドデシルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカンを好ましく使用することができる。これらの溶媒の沸点は180℃以上であるために、インクジェット法による塗布の際に発生させる微小の液滴が吐出される前に乾くことがなく、液滴を滴下するためのノズルの目詰まり等を起こしにくいという利点がある。
【0038】
本発明の透明導電膜形成方法の一実施の形態について、以下説明する。
【0039】
まず、金属酸化物微粒子を含む分散液である塗布液の所定量を、所定の寸法、形状を有する上記透明基材上に、上記塗布方法で塗布し、乾燥せしめて、酸化性雰囲気中で焼成し、粒子表面に付着している分散剤が除去された金属酸化物膜を形成する。この分散液としては、上記したように、例えばガス中蒸発法により調製される、溶媒中に所望の固形分濃度で金属酸化物微粒子が分散している分散液や、湿式法により調製される、溶媒中に所望の固形分濃度で金属酸化物微粒子が分散している分散液等を用いることが好ましい。ガス中蒸発法により調製した分散液としては、例えば、デカリン溶媒中に固形分濃度20%でITOナノ粒子が分散している独立分散ITOインク(アルバックマテリアル(株)製ITOナノメタルインク、Sn含有率12wt%)、また、湿式法により調製した分散液としては、例えば、メチルカルビトール溶媒中に固形分濃度20%でITOナノ粒子が分散しているITOインク(三菱マテリアル(株)製ITOインク、Sn含有率10wt%)を使用することができる。
【0040】
次いで、上記加熱処理後の、金属酸化物膜が形成されている透明基材に対して、水素ガス雰囲気等の還元性ガス雰囲気中で還元処理を行う。以下、一つの代表例として、ITO膜が形成されている透明基材に対する、水素ガス雰囲気中での還元処理について説明する。
【0041】
まず、真空焼成炉中に設けたホットプレート上に、上記酸化性雰囲気中で焼成し、粒子表面に付着している分散剤が除去されたITO膜が形成されている透明基材を置き、焼成炉内が所定の圧力(例えば、1×10−5torr〜5×10−5torr)になるまで真空排気した後、ホットプレートの温度を所定の温度(230℃)に設定し、水素ガスを導入しながら、真空計の表示で所定の圧力(例えば、1×10−3torr〜1×10−1torr)になるように水素ガス導入量と排気量とを調整する。その後、焼成炉内に設置されたTaワイヤーが所定の温度(例えば、1900℃)になるように電流を流す。この状態で所定の時間(例えば、30分)保持した後、Taワイヤーの通電を止め、ホットプレートを室温に戻した後、水素ガスの導入をとめ、真空排気した後で炉を大気開放して透明基材を取り出す。
【0042】
かくして得られた透明基材に対して四端子法によりその表面抵抗を測定すると、その値は低いことが確認されたが、透明基材を照明灯にかざしてみたところ、黒っぽくなっており、透明度が落ちていることが確認された。このことから、Taワイヤーで活性化された水素原子によりITO膜が還元されて金属膜になったものと推測される。この透明基材を空気中でホットプレート上で所定の温度で所定の時間加熱処理したところ、透明度が回復し、上記還元処理前の膜と同様に、良好な光学特性を示すことが確認された。これは、金属膜が酸化されて金属酸化物膜になっていたためであると考えられる。
【実施例1】
【0043】
ガス中蒸発法により調製した、デカリン溶媒中に固形分濃度20%でITOナノ粒子が分散している独立分散ITOインク(アルバックマテリアル(株)製ITOナノメタルインク、Sn含有率12wt%)を300μLとり、50mm角×0.7mm厚の無アルカリガラス基材上にスピンコート法により1500rpm×60secの条件で塗布した。このガラス基材に対して、空気中でホットプレート上、60分間、230℃での加熱処理を行った。
【0044】
上記処理後に四端子法により表面抵抗値(Rs)を測定したところ、100kΩ/□であった。また、光透過率T(%)の測定を行ったところ、図1に示すような光学特性を持っていた。さらに、上記のようにして得られた膜に対して、レーザー顕微鏡による膜厚測定を行ったところ、膜厚(δ)は200nmであった。
【0045】
上記加熱処理後の、ITO膜が形成されたガラス基材に対して、次に述べる方法により水素還元処理を行った。
【0046】
まず、真空焼成炉中のホットプレート上に上記加熱酸化処理したガラス基材を置き、真空排気して5×10−5torrになるまで排気した後、ホットプレートの温度を150℃に設定し、水素ガスを導入しながらピラニ真空計の表示で5×10−2torrになるようにガス導入量と排気量を調整した。その後、炉内に設置されたTaワイヤーが1900℃になるように電流を流した。その状態で30分間保持した後、Taワイヤーの通電を止め、ホットプレートを室温に戻した。室温に戻ったら水素ガスの導入をとめ、真空排気した後で、炉を大気開放してガラス基材を取り出した。
【0047】
このガラス基材に対して、四端子法により表面抵抗を測定したところ、20Ω/□であった。かくして得られたガラス基材を照明灯にかざしてみたところ黒っぽくなり、透明度が落ちていることが観察された。このことから、Taワイヤーで活性化された水素原子によりITO膜が還元されたものと推測された。このガラス基材を大気中ホットプレート上で230℃×60分間加熱処理したところ、透明度が回復し、図1のような光学特性を示した。このガラス基材に対して、四端子法にて表面抵抗を測定したところ、80Ω/□であった。得られた膜は、ITO膜であった。
【実施例2】
【0048】
湿式法により調製した、メチルカルビトール溶媒中に固形分濃度20%でITOナノ粒子が分散しているITOインク(三菱マテリアル(株)製ITOインク、Sn含有率10wt%)を300μLとり、50mm角×0.7mm厚の無アルカリガラス基材上にスピンコート法により1500rpm×60secの条件で塗布した。このガラス基材を大気中でホットプレート上で、230℃で60分間加熱した。
【0049】
かくして得られた膜に対し、四端子法により表面抵抗値を測定したところ、200kΩ/□であった。また、光透過率測定を行ったところ、図1と同様な光学特性を持っていることが分かった。
【0050】
次いで、上記加熱処理後のITO膜が形成されたガラス基材を実施例1と同様な方法により水素還元法により処理した。得られたガラス基材に対して、四端子法により表面抵抗を測定したところ、30Ω/□であった。このガラス基材を照明灯にかざしてみたところ黒っぽくなり、透明度が落ちていることが観察された。このことから、Taワイヤーで活性化された水素原子によりITO膜が還元されたものと推測された。このガラス基材を大気中ホットプレート上で230℃×60分間加熱処理したところ、透明度が回復し、図1のような光学特性を示した。このガラス基材に対して、四端子法にて表面抵抗を測定したところ、100Ω/□であった。得られた膜は、ITO膜であった。
(比較例1)
【0051】
本比較例では、水素還元処理の加熱温度を150℃の代わりに400℃にしたこと以外は、実施例1と同じ条件でITO膜の処理を行って得られた膜の表面抵抗を測定したところ、100kΩ/□と高い値を示した。この膜のSEM観察の結果、図2に示すように、加熱処理温度が高かったために、膜が溶けて不連続となっていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、光学特性に優れ、表面抵抗の低い透明導電膜を形成することができると共に、この導電膜からなる透明電極を提供できるので、本発明は、液晶ディスプレーに代表されるフラットパネルディスプレー用の電極等の電子工業等の技術分野において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施例1で得られた膜の光学特性を示すグラフ。
【図2】比較例1で得られた膜のSEM写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物の微粒子を含む塗布液を基材上に塗布して成膜し、酸化性雰囲気中で焼成し、得られた塗膜を還元性ガス雰囲気中で焼成した後、酸化性ガス雰囲気中で焼成して、透明導電膜を形成することを特徴とする透明導電膜の形成方法。
【請求項2】
前記還元性ガス雰囲気が、水素ガス雰囲気及び活性水素ガス雰囲気から選ばれる少なくとも1種の雰囲気であることを特徴とする請求項1に記載の透明導電膜の形成方法。
【請求項3】
前記活性水素ガス雰囲気中での焼成温度が230℃以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の透明導電膜の形成方法。
【請求項4】
前記金属酸化物の金属成分が、インジウム、スズ、アンチモン、アルミニウム、及び亜鉛から選ばれた1種類以上の金属であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の透明導電膜の形成方法。
【請求項5】
前記塗布が、インクジェット印刷により行われることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の透明導電膜の形成方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法により形成した透明導電膜からなることを特徴とする透明電極。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−262775(P2008−262775A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−103786(P2007−103786)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】