説明

透明性に優れる有機重合体/無機微粒子複合体及びその用途

【課題】ナノメートルオーダーの無機微粒子を水溶性または水分散性高分子化合物と凝集・分離等を起こさず安定に分散させた有機重合体/無機微粒子複合体及びその用途を提供する。
【解決手段】カルボキシル基を含む水溶性又は水分散性の合成高分子化合物(A)と、(a)周期表2族元素化合物と(b)有機酸、無機酸及びそれらの塩類から選ばれる1種以上の化合物を反応させて得られた粒径500nm以下の水難溶性無機微粒子(B)とを、(A):(B)=10:90〜99.99:0.01(重量比)で含有する透明性に優れた有機重合体/無機微粒子複合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散安定性ならびに透明性に優れる有機重合体/無機微粒子複合体およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
有機、無機、金属などの素材は、複合化により一つの素材のみでは実現不可能な特性をもつ材料を作り出すことができ、現代の材料開発ではごく当り前の手法となっている。例えば、ガラス繊維とポリマーとを複合化した繊維強化プラスチック材料(FRP)は、ポリマー単独では到達できない強度をもつ。一方、この材料をガラス繊維側から見れば、単独では脆く加工性に乏しいガラス繊維が、ポリマーとの複合化により成形性を備えた材料となるという見方もできる。このように、複合化により各々の素材の特徴を生かし、あるいは欠点を補うことにより、単独の素材では達成できない機能・性能の発現が可能になるのである。従来の複合材料は、マトリックス(分散媒)中の異種材料(分散相)の大きさはマイクロメートル以上のオーダーであり、その大きさでの複合化で期待される効果がもたらされてきた。
【0003】
走査プローブ顕微鏡(SPM)等を代表とする微小領域を解析する技術の進歩と相俟って、複合材料の分散相の大きさをナノメートルオーダーまで微小化することにより、従来の複合材料では達成できなかった高機能・多機能化した材料あるいは新しい機能をもつ材料を作ることが可能であることが多数報告されるようになり、注目を集めている。
【0004】
有機素材と無機素材とをナノメートルオーダーで複合化した材料(以下ナノ複合体)の例としては、クレイや合成層状ケイ酸塩等の層状粘土鉱物とナイロン等のポリマーとを組合わせたナノ複合体や、ゾル−ゲル法を利用したシリカとポリマーのナノ複合体等が知られている。前者のナノ複合体は、(1)層状化合物の層間に有機モノマーを挿入させて重合を行う手法、(2)ポリマーの重合及びフィラーの生成・分散を同時に行うin−situ重合法、(3)有機カチオン存在下に混練・分散する方法が検討されている。これらは基本的に有機物のインターカレートに伴うフィラーの劈開現象を利用しているため、無機物質はナノメートルオーダーの構造に分散できる層状粘土鉱物に限られる。後者のナノ複合体は、無機物質をゾル−ゲル法により低温度で合成することにより有機物質とのナノ複合化が可能になったものである。精製した無機原料が使用できるメリットがある反面原料が高価であり、反応に伴って体積が収縮する等の欠点がある。
【0005】
有機ポリマーと無機物質とのナノ複合体は、インターカレート法やゾル−ゲル法以外でも、無機物質を機械的にナノメートルオーダーまで粉砕した後に、有機ポリマーと混練して有機無機ナノ複合体を得る方法も考案されているが、無機物質をナノメートルオーダーまで粉砕することは一般に困難とされており、また粉砕できた場合でも再凝集を抑えながら異種材料である有機ポリマーに、ナノメートルオーダーで均一に混合することも容易ではない。
【0006】
本発明者らは、ヒドロキシアパタイト(以下HApと略称する)やリン酸三カルシウム(以下TCPと略称する)のような生物学的に毒性がなく、有機物との親和性の高いリン酸カルシウム類を有機無機ナノ複合体の構成材料として使用すれば、非常に有用な材料となる可能性があることに着目した。HApは、脊椎動物の硬組織を構成する無機成分であり、人工骨、人工歯根、人工関節などの硬組織代替材料として実用化が研究されている。HAp焼結体は、それ単独では圧縮に強いが引張りに弱い脆性材料であり、成形性に乏しい欠点があった。この欠点を改良するための方策として、乳酸系ポリエステルと混練することにより成形加工時の安定性を向上させ、柔軟性、強度、弾性率、再現性、成形加工性についてバランスのよい有機無機複合体を得る技術が、特開平10−229号公報に開示されている(特許文献1参照)。この技術は、生体内ではHApは生体高分子であるコラーゲンとの複合体で存在することを考慮して、より生体に近い材料を提供するという思想のもとに考案されたものである。この方法では、HApあるいはTCPのようなリン酸カルシウム化合物を湿式法で合成し、得られた沈澱物を焼成・粉砕した後、ミキサーでポリマーと混練することにより複合体を得ている。ここで用いられるリン酸カルシウム粒子は5mm以下の大きさであり、また、有機ポリマーは乳酸系ポリエステルに限定されている。この材料は、各々の素材の特長を生かして骨誘導能ないしは伝導能と生体親和性を実現化したものであり、ナノメートルオーダーで均一に分散した材料ではない。
【0007】
一方、特開平7−101708号公報には、結晶粒径が0.5μm(500nm)以下のHAp粉末とコラーゲン等の有機物からなる生物の骨や歯に近似した複合体が開示されている(特許文献2参照)。この技術では、水酸化カルシウムの懸濁液を激しく攪拌しながら、コラーゲンとリン酸混合液を加えて生じた沈澱を濾過・乾燥した含水物に40℃、200MPaの圧力を加えることにより高ヤング率の複合体を得ている。このHAp−コラーゲン複合体は、コラーゲン繊維(30nm)に沿ってHAp粒子(数nm)がc軸配向したナノ複合体となっていることが、田中らにより明らかにされている(非特許文献1参照)。しかし、生体骨に近い材料を製造する目的では、生体骨に近い強度を自由にコントロールできる合成法の確立が必要であることや、コラーゲンの抗原性を減少する方法を確立する必要があるなどの課題が挙げられている。また、この材料は配向構造を持つためか、ナノ複合体に特徴的な透明性の高い材料とはなっていない。
【0008】
リン酸カルシウムや炭酸カルシウムなど、液相法で合成できる無機物質の多くは、低結晶質、微細結晶になりやすく、通常はゲル状の沈澱物となる。通常はこの沈澱物を濾過し、乾燥、焼結した後に粉砕したものが利用されるが、一次粒子まで粉砕させることは困難であり、またポリマーの中にナノオーダー粒子に分散・混練することも容易ではなく、従来の技術では液相法で合成されるリン酸カルシウムをはじめとする無機物質をナノメートルオーダーで均一に分散させた複合体を製造する実用的な方法はなかった。
【0009】
製紙工業は、原料として森林資源を大量に消費し、パルプの製造や抄紙工程などにおいて多大なエネルギーを必要とする産業であるが、近年地球レベルでの環境問題が深刻化するなかで、環境への負荷をできるだけ低減するための努力が精力的に行われている。特に古紙を資源として再利用することは一段とその重要性を増しており、衛生紙や図書用などの回収不可能な紙を除くと、その限界に近い水準までリサイクルが進んでいると言われている。しかしながら、古紙は切断・摩耗などにより短繊維化した原料であるため、その使用比率が高くなると紙の強度の低下を招くことになる。このような紙強度の低下は、従来酸化デンプンやカチオン化デンプンなどの澱粉類や、ポリビニルアルコール(PVA)、(メタ)アクリルアミド系重合体などで代表される水溶性の高分子化合物を添加あるいは塗工することにより補われてきた。一方、省資源の観点から、パルプの使用量を減らす目的で、無機顔料を中心とした種々の添加剤を紙に抄き込むような場合にも、紙力の低下を補うために上記水溶性高分子化合物からなる紙力増強剤が用いられている。
【0010】
それらの紙力増強剤のなかでも(メタ)アクリルアミド系重合体は、微量の使用で大きな効果をもたらす高性能の薬品として知られている。しかしながら、環境問題は、今や地球規模で考慮しなければならない重要な課題であり、原料の悪化やパルプ使用量を減らす課題に対して、以前にも増して高性能な薬品に対する要望が高まっている。
【0011】
(メタ)アクリルアミド系重合体に高い紙力増強能を付与する方法として、官能性モノマーとを共重合する方法や後変性により官能基を導入する方法、あるいは架橋構造を導入する方法が従来より検討されてきた。しかしながら、今後さらに高い性能が求められるなかで、従来の重合体を改質する手法のみでは到達できる性能に限界があり、新規のコンセプトに基づいた製紙用薬品の出現が望まれている。
インクジェット記録方式によるプリントは、騒音が少なく静粛である、高速印刷が可能である、印字コストが低い、カラー化が容易である、記録が鮮明である、大判の記録が可能である等の利点を有するため広く普及している。インクジェット記録方式は、種々の作動方法によりインク液滴を微細なノズルより噴射し、紙等の記録シートに付着させて文字または画像としての情報を得る記録方式である。インクジェット記録方式に使用されるシートとしては、該方式の原理により、シート表面に付着したインク液滴が速やかにシート内に吸収されること、表面でのインクの広がりや滲みが抑えられること、発色濃度を高めるためにできる限りシート表面近傍にインクがとどまること等の特性が要求される。
【0012】
従来より、インクジェット記録用シートにこれらの特性を与える方法として、シート表面にインク吸収性の塗工層を設ける提案がなされてきた。例えば、インク吸収性の高いシリカ粉末またはアルミナ粉末とポリビニルアルコール等の水溶性高分子のバインダーを主成分とし、さらにインク定着性や耐水性等を改良するために各種添加剤を混合した塗工層が提案されている。
【0013】
このように、無機填料としてシリカ粉末やアルミナ粉末を用いた塗工層を有するインクジェット記録用シートは、インク吸収性等について大きく改善され、高画質の画像を得ることが可能となるが、長期保存することにより該塗工層が黄色に変色してしまうという耐光性に関する欠点を生じる。近年においては、インクジェットプリンターのめざましい進歩により、フルカラーで高画質の画像が容易に得られるようになってきており、その記録シートとしては白色度の高いことが必要であるため、経時で黄変してしまう前述の耐光性に関する欠点は大きな問題となる。さらに、該塗工層を有する記録シートには粘着テープを貼付すると、粘着テープを貼付した部分から著しく黄変を起こしてしまう問題がある。固定等のために該記録シートに粘着テープを貼付すると、黄変により著しく外観を損なう欠点があった。
【0014】
本発明者らは、上記HApを含むリン酸カルシウムやその他の無機物質をポリマーと複合化する過程で、沈澱を生じることがなく、また、高い圧力を加えなくても成形体にできる材料を開発できれば、生体材料以外にも製紙用薬品など多方面で有用な材料になると考えた。しかしながら、ポリマーとのナノ複合化には、前述したインターカレート法やゾル−ゲル法による複合化法を適用できない無機物質もある。そこで本発明者らは、無機物質の中にはゾル−ゲル法以外の液相法により、水媒体中で合成できるものがあることに着目し、それらの無機物質と水溶性または水分散性のポリマーとのナノ複合化が可能ではないかとの考えに至った。
【特許文献1】特開平10−229号公報
【特許文献2】特開平7−101708号公報
【非特許文献1】BIO INDUSTRY,Vol.13(N0.8),28(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、従来の手法では困難であったナノメートルオーダーの無機微粒子を水溶性または水分散性高分子化合物と凝集・分離などを起こさず安定に分散させることにより、成形加工性に優れ、透明なフィルムをつくり、各種用途に利用可能な有機重合体/無機微粒子複合体及びその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、カルボキシル基を含む水溶性または水分散性の合成高分子化合物と、粒径500nm以下の水難溶性無機微粒子、特に周期表2族元素化合物と有機酸、無機酸およびそれらの塩類から選ばれる1種以上の化合物を反応させて得られる粒径500nm以下の水難溶性無機微粒子とを組合わせた複合材料は、上記の目的にかなう材料であることを見出し、本発明に至った。
【0017】
すなわち、本発明は、
(1)カルボキシル基を含む水溶性または水分散性の合成高分子化合物(A)と、(a)周期表2族元素化合物と(b)有機酸、無機酸およびそれらの塩類から選ばれる1種以上の化合物を反応させて得られた粒径500nm以下の水難溶性無機微粒子(B)とを、(A):(B)=10:90〜99.99:0.01(重量比)で含有する透明性に優れる有機重合体/無機微粒子複合体、
(2)複合体が、透明性に優れるフィルムである、上記(1)記載の透明性に優れる有機重合体/無機微粒子複合体、
(3)カルボキシル基を含む水溶性または水分散性の合成高分子化合物(A)が、(メタ)アクリルアミド系重合体、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、及びビニルピロリドン系重合体のいずれかである上記(1)記載の透明性に優れる有機重合体/無機微粒子複合体、
(4)水難溶性無機微粒子(B)がリン酸カルシウムである、上記(1)又は(3)記載の透明性に優れる有機重合体/無機微粒子複合体、
(5)上記(1)〜(4)の何れかに記載の透明性に優れる有機重合体/無機微粒子複合体を含有する化粧品、
【0018】
(6)カルボキシル基を含む水溶性または水分散性の合成高分子化合物(A)と、(a)周期表2族元素化合物と(b)有機酸、無機酸およびそれらの塩類から選ばれる1種以上の化合物を反応させて得られた粒径500nm以下の水難溶性無機微粒子(B)とを、(A):(B)=10:90〜99.99:0.01(重量比)で含有してなる製紙用薬品、
(7)カルボキシル基を含む水溶性または水分散性の合成高分子化合物(A)と、(a)周期表2族元素化合物と(b)有機酸、無機酸およびそれらの塩類から選ばれる1種以上の化合物を反応させて得られた粒径500nm以下の水難溶性無機微粒子(B)とを、(A):(B)=10:90〜99.99:0.01(重量比)で含有してなるインクジェット記録シート用薬品、
(8)カルボキシル基を含む水溶性または水分散性の合成高分子化合物(A)が、(メタ)アクリルアミド系重合体、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、及びビニルピロリドン系重合体のいずれかである上記(6)又は(7)記載の薬品、
(9)水難溶性無機微粒子(B)がリン酸カルシウムである、上記(6)又は(7)記載の薬品、
(10)上記(6)〜(9)のいずれかに記載の薬品を用いて得られる紙
からなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、種々の用途に利用可能な透明性に優れるカルボキシル基を含む水溶性または水分散性の合成高分子化合物/無機微粒子複合体を提供することができる。
本発明のカルボキシル基を含む水溶性または水分散性の合成高分子化合物/無機微粒子からなる製紙用薬品は、紙力増強剤として従来より用いられている(メタ)アクリルアミド系重合体に比べ、さらに高い紙力増強能を有する製紙用薬品および該製紙用薬品を使用して得られる紙を提供することができる。
さらに、本発明のカルボキシル基を含む水溶性または水分散性の合成高分子化合物/無機微粒子からなるインクジェット記録用薬品は、従来よりインクジェット記録用薬品として用いられている微粉末シリカや微粉末アルミナに比べて塗工層の耐黄変性に優れており、耐黄変性に優れたインクジェット記録用シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、カルボキシル基を含む水溶性または水分散性の合成高分子化合物(A)と、粒径500nm以下の水難溶性無機微粒子、特に周期表2族元素化合物と有機酸、無機酸およびそれらの塩から選ばれる1種以上の化合物を反応させて得られる粒径500nm以下の水難溶性無機微粒子(B)とを含有する有機重合体/無機微粒子から構成される複合体およびその用途である。
【0021】
本発明の特徴は、有機重合体にカルボキシル基を含む水溶性または水分散性の合成高分子化合物を用いることにより、水難溶性無機微粒子(B)を有機重合体(A)の水系媒体中に安定に分散することが可能になり、この分散液を乾燥するだけで、ナノメートルオーダーの水難溶性無機微粒子が有機ポリマー中に凝集あるいは分離等を起こさず均一に分散した、新規な有機重合体/無機微粒子複合体が得られる点にある。
【0022】
本発明で使用される水溶性または水分散性の合成高分子化合物は、原料に化学的な反応処理を行うことにより合成される化合物を意味し、天然高分子材料を変性したもの(半合成高分子化合物)も含まれる。本発明で使用される半合成高分子化合物は、分子内にカルボキシル基を含むことが必須であり、それらの例としてカルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルキチン、カルボキシメチルデンプン、アルギン酸プロピレングリコールなどがあげられる。一方、モノマーを原料として重合反応により合成される合成高分子化合物は、主鎖構造の違いにより、ポリオレフィン鎖、ポリエーテル鎖、ポリエステル鎖、ポリアミン鎖、ポリアミド鎖、ポリウレタン鎖、ポリシリルエーテル鎖、ポリスルホン鎖などに分類される。これらの主鎖構造の側鎖にカルボキシル基を含むもの、または末端にカルボキシル基を含むものが、本発明の対象とする合成高分子化合物の基本構造である。これらの基本構造を持つ高分子化合物の中で、水溶性あるいは水分散性を示すものが本発明の対象とする合成高分子化合物である。本発明で用いられる合成高分子化合物の主鎖構造は、上記基本構造を持つものであれば特に限定されない。一般的に水溶性あるいは水分散性を示す合成高分子化合物の中で広く使用されているものの一つに、ポリオレフィン鎖を主鎖にもつ化合物があげられる。これらの化合物は、エチレン性不飽和化合物をラジカル重合またはイオン重合することにより合成できる。何れの方法も使用することができるが、経済的な観点から見ればラジカル重合が有利である。
【0023】
水溶性または水分散性を示すポリオレフィン鎖を主鎖に持つ高分子化合物には、アクリルアミド類やN−ビニル−2−ピロリドンに代表されるような親水性モノマーを重合したものと、ポリビニルアルコール類に代表されるような、重合体を得た後で化学反応により親水基を生成するものとがある。
前者の例として、使用可能な親水性モノマーには、エチレン性の非イオン性親水性不飽和化合物とエチレン性のイオン性不飽和化合物がある。
【0024】
エチレン性の非イオン性親水性不飽和化合物の例としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルモルホリン、N,N−ジ−n−プロピルアクリルアミド、N−n−ブチルアクリルアミド、N−n−ヘキシルアクリルアミド、N−n−ヘキシルメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−n−オクチルアクリルアミド、N−n−オクチルメタクリルアミド、N−tert−オクチルアクリルアミド、N−ドデシルアクリルアミド、N−n−ドデシルメタクリルアミド、N,N−ジグリシジルアクリルアミド、N,N−ジグリシジルメタクリルアミド、N−(4−グリシドキシブチル)アクリルアミド、N−(4−グリシドキシブチル)メタクリルアミド、N−(5−グリシドキシペンチル)アクリルアミド、N−(6−グリシドキシヘキシル)アクリルアミド、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−エチレンビスアクリルアミド、N,N’−ヘキサメチレンビスアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルメタクリルアミド、マレイン酸ジアミド、マレイン酸モノアミド、フマル酸ジアミド、フマル酸モノアミド、イタコン酸ジアミド、イタコン酸モノアミド等の不飽和カルボン酸アミド化合物類、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルオキサゾリドン、N−ビニル−5−メチルオキサゾリドン、N−ビニルスクシンイミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、アリルアルコール、メタリルアルコール等をあげることができる。
【0025】
不飽和カルボン酸アミド化合物の中では、下記の一般式(1)又は(2)で表されるものが好ましい。
【0026】
【化1】

【0027】
エチレン性の親水性不飽和化合物のイオン性化合物のなかで、アニオン性を示す化合物の例としては、不飽和カルボン酸化合物、不飽和スルホン酸化合物、その他のアニオン性不飽和化合物等からなる群より選択された一種以上の化合物である。本発明では、その中で不飽和カルボン酸化合物は必須成分であるが、不飽和カルボン酸化合物だけでなく、不飽和カルボン酸アミド化合物や不飽和カルボン酸エステル化合物などのように、加水分解等の後反応によりカルボキシル基を生成することが可能なものを共重合成分として含有するものでもよく、後反応によりカルボキシル基を生成させても良い。不飽和カルボン酸化合物は不飽和化合物総量に対して概ね0.1〜80モル%または0.1〜80重量%、好ましくは0.5〜50モル%または0.5〜50重量%共重合される。
【0028】
不飽和カルボン酸化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、アンゲリカ酸、チグリン酸、2−ペンテン酸、β−メチルクロトン酸、β−メチルチグリン酸、α−メチル−2−ペンテン酸、β−メチル−2−ペンテン酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、α−ジヒドロムコン酸、2,3−ジメチルマレイン酸、2−メチルグルタコン酸、3−メチルグルタコン酸、2−メチル−α−ジヒドロムコン酸、2,3−ジメチル−α−ジヒドロムコン酸等の酸及びそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等をあげることができる。
【0029】
不飽和スルホン酸化合物としては、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−フェニルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸等のスルホン酸およびそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等をあげることができる。
その他のアニオン性不飽和化合物としては、リン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリルエステル等のリン酸およびそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等をあげることができる。
【0030】
エチレン性の親水性不飽和化合物のイオン性化合物のなかで、カチオン性を示す化合物の例としては、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート(DA)、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DM)、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAA)、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド(DMAPMA)等の塩基性ビニル化合物とそれらの塩および、アリルアミン、N−メチルアリルアミン、2−メチルアリルアミン、ジアリルアミン等のアリルアミン類とそれらの塩等がある。さらには、DA、DM、DMAPAA、DMAPMA等をジメチル硫酸、メチルクロライドやメチルブロマイド等のハロゲン化アルキル類、アリルクロライド、ベンジルクロライドやベンジルブロマイド等のハロゲン化ベンジル類、エピクロロヒドリンやエピブロモヒドリン等のエピハロヒドリン類、プロピレンオキシドやスチレンオキシド等のエポキシ類で四級化したビニル化合物や、ジメチルジアリルアンモニウムクロリドなどをあげることができる。
【0031】
上記エチレン性の親水性不飽和化合物には、水溶性あるいは水分散性を損なわない程度にエチレン性の疎水性不飽和化合物を共重合することが可能である。疎水性不飽和化合物の共重合比率は、モノマーの種類や共重合の組み合わせ等により変わるので特定できないが、比率が高くなると水溶性を失うため、疎水性不飽和化合物の量は概ね99〜0重量%の範囲であって、しかも共重合体の水溶性を失わない程度に抑える必要がある。
【0032】
エチレン性の疎水性不飽和化合物の例としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、ジエン化合物、不飽和カルボン酸エステル化合物、ビニルアルキルエーテル化合物、その他のビニル化合物、および疎水性アリル化合物からなる群より選択された一種以上の化合物である。
【0033】
芳香族ビニル化合物は、スチレン、α−メチルスチレン、α−クロロスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、o−クロロスチレン、2,5−ジクロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン、ジメチルスチレン、ジビニルベンゼン等をあげることができる。
シアン化ビニル化合物は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等をあげることができる。
ジエン化合物は、アレン、ブタジエン、イソプレン等のジオレフィン化合物および、クロロプレン等をあげることができる。
【0034】
不飽和カルボン酸エステル化合物は、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソプロポキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、およびエポキシアクリレート類やウレタンアクリレート類のジビニル化合物等をあげることができる。
【0035】
ビニルアルキルエーテル化合物は、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソプロピルエーテル、ビニルn−プロピルエーテル、ビニルイソブチルエーテル、ビニル2−エチルヘキシルエーテル、ビニルn−オクタデシルエーテル等をあげることができる。
その他のビニル化合物としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類、エチレン、プロピレン、ブテン、α−オレフィン等のオレフィン類、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン化合物、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン類、アジピン酸ジビニル、セバシン酸ジビニル等のジビニルエステル類、ジエチルフマレート、ジメチルイタコネート等のカルボン酸ジアルキルエステル類、マレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等をあげることができる。
【0036】
さらに、疎水性のアリル化合物としては、ジアリルイソフタレート、ジアリルテレフタレート、ジエチレングリコールジアリルカーボネート、トリアリルシアヌレート等をあげることができる。
【0037】
本発明に用いられる親水性モノマーの重合体を製造する方法は、公知の重合方法、例えば水溶液重合、沈殿重合、乳化重合等を用いることが出来る。回分重合、半回分重合の何れの組み合わせでもよく、重合方法は何等制限されない。
【0038】
ラジカル重合を行う場合、通常はラジカル重合開始剤の存在下、重合溶液を所定温度に保つことにより重合を行う。重合中同一温度に保つ必要はなく、重合の進行にともない適宜変えてよく、必要に応じて加熱あるいは除熱しながら行う。重合温度は、使用するモノマーの種類や重合開始剤の種類などにより異なり、単一開始剤の場合には概ね30〜100℃の範囲であり、レドックス系重合開始剤の場合にはより低く、一括で重合を行う場合には概ね−5〜50℃であり、逐次添加する場合には概ね30〜90℃である。重合器内の雰囲気は特に限定はないが、重合を速やかに行わせるには窒素ガスのような不活性ガスで置換した方がよい。重合時間は特に限定はないが、概ね1〜40時間である。
【0039】
重合溶媒としては水を用いるが、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、エチレングリコール、プロピレングリコール等の有機溶剤を併用してもよい。
重合濃度は、モノマー濃度で1〜40重量%、好ましくは2〜30重量%である。
【0040】
ラジカル重合開始剤としては、一般の水溶性の開始剤が使用できる。過酸化物系では、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、tert−ブチルパーオキサイド等があげられる。この場合、単独でも使用できるが、還元剤と組み合わせてレドックス系重合剤としても使える。還元剤としては、例えば亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、鉄、銅、コバルト等の低次のイオンの塩、次亜リン酸、次亜リン酸塩、N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン等の有機アミン、更にはアルドース、ケトース等の還元糖等をあげることができる。また、アゾ化合物系では、2,2'−アゾビス−2−アミジノプロパン塩酸塩、2,2'−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、4,4'−アゾビス-4-シアノバレイン酸及びその塩等を使用することができる。更に上記した重合開始剤を2種以上併用してもよい。重合開始剤の添加量は、単量体に対して0.0001〜10重量%の範囲であり、好ましくは0.01〜8重量%である。また、レドックス系の場合には、重合開始剤に対して還元剤の添加量はモル基準で0.1〜100%、好ましくは0.2〜80%である。
【0041】
親水性モノマーの重合は、分子量あるいは重合速度を調整するなどの目的で、必要に応じてpH調整剤、連鎖移動剤等を使用してもよい。
pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム,アンモニア等の無機塩基類、エタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の有機塩基類、及び炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等の塩類等があげられる。
【0042】
連鎖移動剤としては、イソプロピルアルコール、α−チオグリセロール、メルカプトコハク酸、チオグリコール酸、トリエチルアミン、次亜リン酸ナトリウム等のなかから1種または2種以上の混合物を適宜使用することができる。
また、金属イオンを封止するあるいは重合速度を調整する等の目的で、エチレンジアミン4酢酸ナトリウム(EDTA−Na)や尿素、チオ尿素等の化合物を併用してもよい。pH調整剤、連鎖移動剤等の使用量は、使用目的に応じて異なるが、概ねモノマー重量に対してpH調整剤は100ppm〜10%、連鎖移動剤やその他の添加剤は1.0ppm〜5.0%の範囲にある。
【0043】
本発明で使用される(メタ)アクリルアミド系重合体やビニルピロリドン系重合体のような親水性モノマーを重合して得た重合体の分子量は、ポリマー構造(直鎖/分岐など)により異なるが、概ね1.0×10〜5.0×10の範囲に及ぶ。これは、本発明の複合体が様々な用途で使用されるためであり、粒子の分散性が重視される用途では概ね1.0×10〜1.0×10、各種添加剤、フィルムなどの強度を要求される用途では1.0×10〜1.0×10、その他凝集剤や製紙用薬品などの用途では5.0×10〜5.0×10の範囲が好ましい。1.0×10以下の分子量ではポリマー自体の特性低下に加えて、無機微粒子への吸着力が低いため安定な分散溶液とならず、5.0×10以上の分子量では粒子間の架橋反応が優先するため、安定な分散溶液とならない。また、重合体に含まれるカルボキシル基量は、概ね0.1〜80モル%または0.1〜80重量%、好ましくは0.5〜50モル%または0.5〜50重量%の範囲にある。
【0044】
次に、重合体を得た後で化学反応により親水基を生成する例には、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルアミンなどがあるが、カルボキシル基を分子内に持つ高分子化合物であれば、何れも使用できる。それらの中でもPVAが最も好ましい。PVAとしては、分子内にカルボキシル基を有するポリビニルアルコール系重合体(カルボキシル基変性ポリビニルアルコール)が用いられ、通常はビニルエステル化合物とエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体をケン化したもの、および/または末端にチオール基を有するポリビニルアルコール系重合体の存在下、エチレン性不飽和カルボン酸をラジカル共重合したものが使用される。
【0045】
上記のビニルエステル化合物としては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリル酸ビニル等をあげることができるが、工業的には酢酸ビニルが好ましい。
【0046】
上記エチレン性不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、アンゲリカ酸、チグリン酸、2−ペンテン酸、β−メチルクロトン酸、β−メチルチグリン酸、α−メチル−2−ペンテン酸、β−メチル−2−ペンテン酸等の不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、α−ジヒドロムコン酸、2,3−ジメチルマレイン酸、2−メチルグルタコン酸、3−メチルグルタコン酸、2−メチル−α−ジヒドロムコン酸、2,3−ジメチル−α−ジヒドロムコン酸等の不飽和ジカルボン酸およびそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等をあげることができる。
【0047】
また、エチレン性不飽和カルボン酸の代りに、ケン化反応時にカルボキシル基を生成するエチレン性不飽和カルボン酸エステル、エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル、エチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステル、エチレン性不飽和カルボン酸アミドなどを共重合してもよい。また、エチレン性不飽和カルボン酸とこれらのケン化反応時にカルボキシル基を生成する化合物を一緒に共重合しても差し支えない。さらには、カルボキシル基変性ポリビニルアルコールの水溶性や安定性等に支障をきたさない程度に他の共重合可能なモノマーと共重合させることも可能である。
【0048】
重合およびケン化方法は特に制限はなく、例えば特開昭53−91995号公報に開示されているような公知の方法に従ってカルボキシル基変性ポリビニルアルコールを製造することができる。
【0049】
末端にチオール基を有するポリビニルアルコール系重合体は、チオ酢酸のようなチオール基を含有する連鎖移動剤の存在下にビニルエステル化合物を重合し、その後ケン化反応を行うことにより得られる。重合の際には、カルボキシル基変性ポリビニルアルコールの水溶性や安定性等に支障をきたさない程度に共重合可能なモノマーと共重合させることも可能である。この末端にチオール基を有するポリビニルアルコール系重合体存在下にエチレン性不飽和カルボン酸をラジカル共重合すれば、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール(ブロック共重合体)が製造される。これらのブロック重合の際にも、カルボキシル基変性ポリビニルアルコールの水溶性や安定性等に支障をきたさない程度に共重合可能なモノマーを共重合させることが可能である。その量は使用するモノマーの種類により異なるが、ケン化反応前のビニルエステル化合物に対して概ね1〜50重量%の範囲にある。
【0050】
共重合可能なモノマーには、エチレン性不飽和カルボン酸、エチレン性不飽和カルボン酸エステル、エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル、エチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステル、エチレン性不飽和カルボン酸アミド、アニオン性のエチレン性不飽和化合物、カチオン性のエチレン性不飽和化合物、非イオン性のエチレン性親水性不飽和化合物、エチレン性疎水性不飽和化合物がある。
【0051】
エチレン性不飽和カルボン酸エステルは、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソプロポキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、およびエポキシアクリレート類やウレタンアクリレート類のジビニル化合物等をあげることができる。
【0052】
本発明で使用されるエチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルは、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル、シトラコン酸モノアルキルエステル等が例示される。
エチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステルは、マレイン酸ジアルキルエステル、フマル酸ジアルキルエステル、イタコン酸ジアルキルエステル、シトラコン酸ジアルキルエステル等が例示される。
【0053】
エチレン性不飽和カルボン酸アミドの例としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルヘキサヒドロアゼピン、N−アクリロイルモルホリン、N,N−ジ−n−プロピルアクリルアミド、N−n−ブチルアクリルアミド、N−n−ヘキシルアクリルアミド、N−n−ヘキシルメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−n−オクチルアクリルアミド、N−n−オクチルメタクリルアミド、N−tert−オクチルアクリルアミド、N−ドデシルアクリルアミド、N−n−ドデシルメタクリルアミド、N,N−ジグリシジルアクリルアミド、N,N−ジグリシジルメタクリルアミド、N−(4−グリシドキシブチル)アクリルアミド、N−(4−グリシドキシブチル)メタクリルアミド、N−(5−グリシドキシペンチル)アクリルアミド、N−(6−グリシドキシヘキシル)アクリルアミド、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−エチレンビスアクリルアミド、N,N’−ヘキサメチレンビスアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルメタクリルアミド、マレイン酸ジアミド、マレイン酸モノアミド、フマル酸ジアミド、フマル酸モノアミド、イタコン酸ジアミド、イタコン酸ミノアミド等をあげることができる。
【0054】
前記したエチレン性不飽和カルボン酸以外のアニオン性のエチレン性不飽和化合物には、エチレン性不飽和スルホン酸、およびその他のアニオン性不飽和化合物があげられ、これらの群より選択される一種以上の化合物が用いられる。
【0055】
エチレン性不飽和スルホン酸としては、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−フェニルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸等のスルホン酸およびそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等をあげることができる。
その他のアニオン性不飽和化合物としては、リン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリルエステル等のリン酸およびそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等をあげることができる。
【0056】
カチオン性のエチレン性不飽和化合物は、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート(DA)、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DM)、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAA)、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド(DMAPMA)等の塩基性ビニル化合物とそれらの塩および、アリルアミン、N−メチルアリルアミン、2−メチルアリルアミン、ジアリルアミン等のアリルアミン類とそれらの塩等がある。さらには、DA、DM、DMAPAA、DMAPMA等をジメチル硫酸、メチルクロライドやメチルブロマイド等のハロゲン化アルキル類、アリルクロライド、ベンジルクロライドやベンジルブロマイド等のハロゲン化ベンジル類、エピクロヒドリンやエピブロモヒドリン等のエピハロヒドリン類、プロピレンオキシドやスチレンオキシド等のエポキシ類で四級化したビニル化合物や、ジメチルジアリルアンモニウムクロリドなどをあげることができる。
【0057】
非イオン性のエチレン性親水性不飽和化合物は、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルオキサゾリドン、N−ビニル−5−メチルオキサゾリドン、N−ビニルスクシンイミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルカプロラクタム、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、アリルアルコール、メタリルアルコール等をあげることができる。
【0058】
また、エチレン性不飽和カルボン酸エステルおよびビニルエステル化合物以外のエチレン性疎水性不飽和化合物は、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、ジエン化合物、ビニルアルキルエーテル化合物、その他のビニル化合物、および疎水性アリル化合物からなる群より選択された一種以上の化合物である。
【0059】
芳香族ビニル化合物は、スチレン、α−メチルスチレン、α−クロロスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、o−クロロスチレン、2,5−ジクロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン、ジメチルスチレン、ジビニルベンゼン等をあげることができる。
シアン化ビニル化合物は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等をあげることができる。
【0060】
ジエン化合物は、アレン、ブタジエン、イソプレン等のジオレフィン化合物および、クロロプレン等をあげることができる。
ビニルアルキルエーテル化合物は、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソプロピルエーテル、ビニルn−プロピルエーテル、ビニルイソブチルエーテル、ビニル2−エチルヘキシルエーテル、ビニルn−オクタデシルエーテル等をあげることができる。
【0061】
その他のビニル化合物としては、エチレン、プロピレン、ブテン、α−オレフィン等のオレフィン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン類、アジピン酸ジビニル、セバシン酸ジビニル等のジビニルエステル類、ジエチルフマレート、ジメチルイタコネート等のカルボン酸ジアルキルエステル類、マレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等をあげることができる。
疎水性のアリル化合物としては、ジアリルイソフタレート、ジアリルテレフタレート、ジエチレングリコールジアリルカーボネート、トリアリルシアヌレート等をあげることができる。
【0062】
本発明で使用されるカルボキシル基変性ポリビニルアルコールの重合度は、概ね100〜5000、好ましくは200〜3000、ケン化度はケン化前のビニルエステル化合物に対して60〜100モル%、カルボキシル基含量は0.05〜50モル%、好ましくは0.1〜30モル%の範囲にある。
【0063】
水分散性の合成高分子化合物のなかには、所謂合成ラテックス、エマルションの形態をとるものも含まれる。ポリブタジエンラテックス、スチレン−ブタジエン系ラテックス、アクリロニトリル−ブタジエン系ラテックス、メチルメタアクリレート−ブタジエン系ラテックス、2−ビニルピリジン−スチレン−ブタジエンラテックス、クロロプレンラテックス、イソプレンラテックス、ポリスチレンエマルション、ウレタンエマルション、アクリルエマルション、酢酸ビニル系エマルション、酢酸ビニル−エチレン(EVA)系エマルション、アクリレート−スチレン系エマルション、塩化ビニルラテックス、塩化ビニリデンラテックス、エポキシ系エマルション等で称されるもののなかで、カルボキシル基変性されているものが本願の水分散性の合成高分子化合物に該当する。
【0064】
本発明において、好ましくは用いられるカルボキシル基を含む合成高分子化合物は、エチレン性不飽和化合物の重合体、特に(メタ)アクリルアミド系重合体、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、及びビニルピロリドン系重合体が好ましく、さらに
(1)エチレン性の不飽和カルボン酸アミド化合物1〜100重量%と、共重合可能なエチレン性の不飽和化合物0〜99重量%との重合体である(メタ)アクリルアミド系重合体、
(2)エチレン性の不飽和カルボン酸と、酢酸ビニルとの重合体をケン化して製造されたものであるカルボキシル基変性ポリビニルアルコール、
(3)N−ビニル−2−ピロリドン1〜99.9重量%と、共重合可能なエチレン性の不飽和化合物0.1〜99重量%との重合体であるビニルピロリドン系重合体が好ましい。
【0065】
本発明の水難溶性無機微粒子は、粒径500nm以下であれば制限はないが、好ましくは周期表2族元素化合物の微粒子、さらに好ましくは周期表2族元素化合物と有機酸、無機酸およびそれらの塩類から選ばれる1種以上の化合物を反応することにより得られるものである。周期表2族元素には、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムがあり、化学的性質が類似しているため、これらのなかから選ばれる1種以上の元素を使用することができるが、その中でもマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムが好ましい。さらに好ましくは、カルシウムである。
【0066】
無機微粒子の合成方法としては、液相合成法が好ましい。いわゆる沈殿法と称される方法であり、水に可溶あるいは難溶な周期表2族元素化合物の水溶液あるいは懸濁液に、有機酸、無機酸およびそれらの塩類を反応させることにより水難溶性無機微粒子が合成される。沈殿法と称せられるように、通常は生成した水難溶性無機微粒子は沈澱し、濾過後乾燥あるいは熱分解することにより粉末を得る方法であるが、本発明においては、前記したカルボキシル基を含む水溶性または水分散性の合成高分子化合物を存在させておくことにより、沈澱することなく、コロイド状に均一に分散した分散安定性に優れた有機重合体/無機微粒子分散水溶液となるのである。なぜこのような分散安定性に優れた有機重合体/無機微粒子分散水溶液が生成するのか、必ずしも完全に解明された訳ではないが、無機微粒子を構成する周期表2族元素と合成高分子化合物中のカルボキシル基が、イオン的な相互作用により結合することが本発明者らの実験結果から示唆されており、そのために結晶成長が抑制され、500nm以上に粒子径が増大しないとともに、結合した高分子化合物の保護コロイド的な作用のために粒子間の凝集を抑制していることが理由としてあげられる。
【0067】
本発明の水難溶性無機微粒子は、20℃における水への溶解度が概ね3.0(重量%)以下のものであり、水不溶性無機微粒子も含まれる。周期表2族元素の種類により異なり、例えばマグネシウムの場合、水酸化物、フッ化物、炭酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩など、カルシウムの場合、フッ化物、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩、シュウ酸塩、水酸化物など、ストロンチウムの場合、フッ化物、炭酸塩、シュウ酸塩、硫酸塩、リン酸塩、水酸化物など、バリウムの場合、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、シュウ酸塩などが例示される。
【0068】
本発明の水難溶性無機微粒子の合成に使用される周期表2族元素化合物の例としては、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、ケイフッ化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、乳酸カルシウム、クエン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、チオ硫酸カルシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、塩化ストロンチウム、酢酸バリウム、塩化バリウム、硝酸バリウム、硫酸バリウム、水酸化バリウム、フッ化バリウムなどから選ばれる1種以上の化合物があげられる。
【0069】
本発明で使用される無機酸、有機酸およびそれらの塩類は、周期表2族元素化合物と反応して水難溶性無機微粒子を生成するものであればよい。なかでもオキソ酸とハロゲン化水素酸およびそれらの塩類が好ましい。
【0070】
オキソ酸の例としては、ホウ酸、メタホウ酸、炭酸、イソシアン酸、雷酸、オルトケイ酸、メタケイ酸、硝酸、亜硝酸、リン酸(オルトリン酸)、ピロリン酸(二リン酸)、メタリン酸、ホスホン酸(亜リン酸)、ジホスホン酸(二亜リン酸)、ホスフィン酸(次亜リン酸)、硫酸、二硫酸、チオ硫酸、亜硫酸、クロム酸、二クロム酸、過塩素酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、安息香酸、フタル酸などがあげられる。
【0071】
ハロゲン化水素酸の例には、フッ化水素酸、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸などがある。
オキソ酸とハロゲン化水素酸の塩類の例としては、それらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩などがある。
【0072】
動物骨殻の無機成分として、貝殻等に含まれる炭酸カルシウムや骨、歯、魚燐等に含まれるリン酸カルシウムは、生体内に見られる有機/無機複合体の主要な構成成分であり、本発明の水難溶性微粒子の中でも、これらのリン酸カルシウムや炭酸カルシウムをはじめとしたカルシウム化合物は有機物との親和性が高いため、特に好適に使用される。
【0073】
水難溶性無機微粒子がリン酸カルシウムの場合について以下詳細に記述するが、基本的な操作などに関しては、カルシウム化合物の場合使用する原料が異なるだけであり、同様に実施すれば良い。また、その他2族元素化合物の場合も、使用する原料が異なるだけであり、同様にすれば良い。
本発明の分散水溶液中に含まれるリン酸カルシウムは、リン酸に由来する部分とカルシウム原子の合計が50重量%以上含まれるものである。例としてはヒドロキシアパタイト、フッ素アパタイト、塩素アパタイト、炭酸含有アパタイト、マグネシウム含有アパタイト、鉄含有アパタイト等のアパタイト化合物、リン酸三カルシウム等が挙げられる。
【0074】
本発明のリン酸カルシウムに含まれるアパタイト化合物は、基本組成がM(ROで表される。Mサイトがカルシウムイオン(Ca2+)、ROサイトがリン酸イオン(PO3−)、Xサイトが水酸化イオン(OH)の場合には、x=10、y=6、z=2となり、一般的にヒドロキシアパタイトと呼ばれる化合物である。M、RO、Xの各サイトは、種々のイオン等と置換が可能であり、また、空孔ともなり得るものである。置換量および空孔量は、そのイオン等の種類により異なるが、リン酸に由来する部分とカルシウム原子の合計が50重量%以上含まれていれば、他のイオン等と置換されていても、空孔であっても差し支えない。
【0075】
リン酸に由来する部分とカルシウム原子の合計が50重量%を下回るとリン酸カルシウムとしての特性が失われることがあるために好ましくない。Mサイトは基本的にCa2+であるが、置換可能なイオン種の例として、H、Na、K、H、Sr2+、Ba2+、Cd2+、Pb2+、Zn2+、Mg2+、Fe2+、Mn2+、Ni2+、Cu2+、Hg2+、Ra2+、Al3+、Fe3+、Y3+、Ce3+、Nd3+、La3+、Dy3+、Eu3+、Zr4+等があげられる。ROサイトは基本的にPO3−であるが、置換可能なイオン種の例として、SO2−、CO2−、HPO2−、PO2−、AsO3−、VO3−、CrO3−、BO3−、SiO4−、GeO4−、BO5−、AlO5−、H4−等があげられる。Xサイトに入るイオン種や分子の例として、OH、F、Cl、Br、I、O2−、CO2−、HO等があげられる。
【0076】
本発明の分散水溶液中に含まれるリン酸カルシウムの粒径は500nm以下である。粒径が500nmを越えると粒子が分散水溶液から沈降分離しやすくなり、分散水溶液の安定性に欠けるため適当ではない。また、リン酸カルシウム結晶構造についてはいかなるものでもよく、非晶質でもよい。さらに、リン酸カルシウムの形状についても特に制限はなく、球形、針状、柱状、不定形等いかなる形状でもかまわない。粒径分布についても、粒径が500nm以下であれば特に制限はない。ここで用いる粒径とは、粒子の長軸径を示す。
【0077】
カルボキシル基を含む水溶性または水分散性の高分子化合物/リン酸カルシウム微粒子分散水溶液を製造する方法(複合化)のなかで、分散安定性の優れた分散液を得るためには、リン酸カルシウムをカルボキシル基を含有する水溶性または水分散性の高分子存在下に製造するのが特に好ましく、その点に本発明の特徴がある。リン酸カルシウムの製造方法は、カルボキシル基を含む水溶性または水分散性の高分子化合物存在下に製造可能な方法であれば、いかなる製造方法でもかまわないが、所謂湿式法(液相法/沈殿法)が好ましい。湿式法は、カルシウム化合物(懸濁)水溶液とリン酸あるいはリン酸塩水溶液を混合することによりリン酸カルシウムを合成する方法であり、一般的には両液を同時滴下か、一方の溶液の中へ他方の溶液を滴下する方式がとられる。滴下時間については特に制限はないが、概ね5分〜24時間である。反応は滴下終了後、必要に応じて熟成させる。
【0078】
カルボキシル基を含む水溶性または水分散性の高分子化合物はリン酸カルシウムが生成する反応液中に存在させればよく、カルシウム化合物(懸濁)水溶液、リン酸あるいはリン酸塩水溶液いずれかに混合しておいてもよいし、両方に混合しておいてもよい。また、両者とは別に独立して反応器の中へ連続的あるいは断続的に添加してもよい。但し、未ケン化部含量が多い(概ね5〜60モル%)カルボキシル基変性ポリビニルアルコールを複合化する場合など、アルカリ加水分解反応をうける成分を高分子化合物の中に含有するものに関しては、特に原料として水酸化カルシウム等のアルカリ性の高い物質をカルシウム源として用いる場合には注意が必要である。例えば、水酸化カルシウムとカルボキシル基変性ポリビニルアルコールとを混合しておくと、未ケン化部の加水分解反応が副反応として生じるため問題となることがある。このような場合には、水酸化カルシウムが加水分解反応で消費される分量のリン酸が過剰になるため反応液のpH低下を招き、リン酸カルシウムの生成が不完全になるとともに、複合化が不良になり、反応液の分離、沈降を生じることがある。この問題を解決するには、水酸化カルシウムとカルボキシル基変性ポリビニルアルコールを分けて、両者あるいは一方を滴下すればよく、リン酸カルシウムの反応が優先するため副反応を抑えることができる。この方法により未ケン化部を含有するカルボキシル基変性ポリビニルアルコール/リン酸カルシウム分散水溶液が製造できる。ケン化により生じる酢酸ナトリウム等の影響が問題にならない場合には、未ケン化部に相当する量のアルカリを添加して、予めケン化反応を行った後に複合化反応を行ってもよいが、不純物による着色などの影響を抑えることができるため、完全ケン化タイプのカルボキシル基変性ポリビニルアルコールを用いるほうが好ましい。しかしながら、(メタ)アクリルアミド系重合体のように、加水分解反応によりカルボキシル基を生成するものは、複合化反応の際に加水分解反応をむしろ積極的に起こしても良いことがある。
【0079】
合成に用いるカルシウム塩としては、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム・2水和物等があげられる。リン酸塩としては、リン酸2水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム、およびアンモニウム塩以外のこれらのナトリウム、カリウム塩等があげられる。目的とする化合物以外の、反応に伴ない副生する有機あるいは無機塩は、用途によっては除去する必要があり、その際は透析など既知の方法で脱塩する。リン酸カルシウムを目的化合物とする場合には、水酸化カルシウムとリン酸を原料にすれば副生塩は発生しないため特に好ましい。また、リン酸カルシウムの中でもアパタイト構造をとるものはその構造の柔軟さから前述のように各種イオンと置換できることが知られており、必要に応じてカルシウムおよびリン酸以外のイオン種を含む化合物を併用することもできる。
【0080】
カルボキシル基を含む水溶性または水分散性の高分子化合物とリン酸カルシウムの重量比は10:90〜99.99:0.01、好ましくは20:80〜99.99:0.01、さらに好ましくは30:70〜99:1の範囲である。リン酸カルシウムの量が0.01%より少ないとリン酸カルシウムを添加する効果が乏しく、90%を越えると分散安定性が不良で沈降、分離を起こしやすくなり、均一な複合体を形成できなくなるため好ましくない。
【0081】
通常は反応溶液を所定温度に保つことにより反応を行う。反応中同一温度に保つ必要はなく、反応の進行にともない適宜変えてよく、必要に応じて加熱あるいは冷却しながら行う。反応温度により生成するリン酸カルシウム粒子の大きさが変化するため、反応温度を変えることにより粒径を変えることができ、その結果分散水溶液から作成されるフイルムの透明性を加減することも可能である。反応温度は概ね5〜95℃の範囲にある。反応器内の雰囲気は特に限定はなく通常は空気中で行われるが、リン酸カルシウムの組成をコントロールするには窒素ガスのような不活性ガスで置換した方がよい。合成時間は特に限定はないが、滴下、熟成時間を合わせて概ね1〜120時間である。
【0082】
攪拌方法については、均一に混合される方法であれば特に制限はなく、例として回転による方法、超音波による方法等があげられる。攪拌羽根を用いたバッチ式の反応容器を用いる場合、攪拌羽根の形状や溶液粘度等に影響されるため一概にはいえないが、攪拌速度は概ね30〜10000rpmの範囲である。
【0083】
反応溶媒としては水を用いるが、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の有機溶剤を併用してもよい。
【0084】
合成する際の濃度は特に制限はないが、リン酸カルシウムとカルボキシル基を含む水溶性または水分散性の高分子化合物の固形分を合わせて概ね0.5〜60重量%の範囲であり、好ましくは1〜50重量%の範囲にある。50重量%を越えると分散液の粘度が高くなり、取り扱いが困難となる場合がある。
【0085】
リン酸カルシウムは、反応時のpHにより生成するリン酸カルシウムの種類が異なるため、特定の種を製造する場合にはpHを調整しながら行うこともある。pH調整は、アンモニアガス、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等により行うことができる。特に、(1)目的化合物がpH変化により溶解する場合、(2)カルボキシル基の解離状態変化により複合体が分離するような場合には厳密にpH調整を行う必要がある。例えば、ヒドロキシアパタイト(リン酸カルシウム)の場合には、反応後は(2)の理由からpH5以下にならないように適宜アルカリを添加して調整する。
【0086】
かくして得られる安定性に優れるカルボキシル基を含む水溶性または水分散性の高分子化合物/リン酸カルシウム微粒子分散水溶液は、均一なエマルション溶液であり、長時間静置しておいても沈降、分離を起こさない。ここで言う安定性に優れるものとは、製造直後に混在する沈降粒子(一夜放置で沈降)を除いて、製造後沈降あるいは分離する固形物重量が、1ケ月経過した時点で1重量%以下のもの、あるいは2000rpmで10分間遠心処理を行っても沈降や分離を起こさないものを言う。
【0087】
水難溶性無機微粒子が炭酸カルシウムの場合にもリン酸カルシウムと同様の方法で製造される。この場合には、カルシウム源としては、リン酸カルシウムと同一の原料が使用でき、炭酸源には、炭酸ガス、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウムなどが適宜使用される。リン酸カルシウムの場合と同様に、副生塩を発生させないためには、水酸化カルシウムと炭酸(ガス)の組み合わせが好ましい。
【0088】
本発明の透明性に優れるカルボキシル基を含む水溶性または水分散性の高分子化合物/リン酸カルシウム複合体は、このようにして得られる分散安定性に優れるカルボキシル基を含む水溶性または水分散性の高分子化合物/リン酸カルシウム微粒子分散溶液から水を除去することにより固形化される。複合体は用途により、公知の方法や機器を用いてフィルム状、シート状、粉末状、発泡体状、糸状など任意の形状に加工することができる。
また、温度変化により物理的に架橋構造をつくる方法や、架橋剤を用いて化学的な結合(イオン結合、共有結合)で架橋構造をつくる方法により、ゲル状の複合体に加工することも可能である。
【0089】
例えば、フィルムに加工する場合には、分散水溶液をそのまま、あるいは濃縮処理やpH調整、必要に応じてエチレングリコールやグリセリン等の公知の可塑剤や、架橋剤、増粘剤、充填剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等の添加剤を混合した後にガラス、石英、金属、セラミックス、プラスチック、ゴム等の基板、ロール、ベルト等の上に上記の安定な分散液を塗布・製膜し、必要に応じて加熱、減圧、送気、赤外線照射、極超短波照射等の処理を行って水および/または水系の溶剤を蒸発させることにより製造することができる。塗布方法は、特に制限はなく、流し塗り法、浸漬法、スプレー法等があり、バーコーター、スピンコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、スプレーコーター等の公知の塗工機を使用できる。塗布厚み(乾燥前の厚み)は概ね1μm〜10mmで、塗布法の選択により任意に厚みを設定できる。水および/または水系の溶剤を蒸発させる温度は0〜150℃の温度範囲で行い、常圧あるいは減圧下に行う。その際に乾燥空気あるいは乾燥窒素を流通させて乾燥時間を短縮することができる。さらに、耐水性を付与する等の目的で架橋反応を促進する場合には、40〜200℃で数秒〜数十分間熱処理を行う。このフィルムを基材から剥がして使用する場合には、プラスチック製の基材を用いると離型性が良好であるが、その他の基材を用いる場合にも必要に応じて各素材に公知の離型剤を予め塗布するとよい。このようにして製造されるフィルムは透明性に優れる特徴を有する。これは、リン酸カルシウム微粒子のサイズが可視光の波長領域以下であり、個々の粒子が凝集を起こすことなくポリマーマトリックス中に均一に分散していることを示す。透明性については、400nmと700nmでの可視光透過率により定量的に評価できる。ここでいう透明性に優れるとは膜厚が30〜300μmにおける700nm波長の光透過率が、50%以上を示すものをいう。このフィルムは水分を吸収すると白濁し、乾燥すると透明になる。この変化は可逆的であり、透明性に優れるとの表現は乾燥条件下(含水量10重量%以下)についての記述である。
【0090】
さらに、この透明なフィルムは架橋など特別な処理を行わないものは水に再分散する。再分散性は特に(メタ)アクリルアミド系重合体に顕著である。なぜこのようにいったんフィルム化したものが再分散するなど、分散安定性にきわめて優れるのか理由は定かではないが、前述したような高分子と粒子間でのイオン的な結合を介在した吸着作用と、保護コロイド的な作用の存在を裏付けるものであると考えられる。
【0091】
フィルムは非常に親水性が高いため、耐水性に問題が生じる場合があるが、このような場合、(1)物理的に水や湿気の侵入を防ぐ方法と、(2)フィルム作製時に耐水性を付与する方法がある。(1)は、疎水性のフィルムをラミネートする方法が有効である。(2)は、カルボキシル基を含む水溶性または水分散性の高分子化合物/無機微粒子の水分散溶液自身に架橋反応性を持たせる方法と、耐水化剤を添加する方法がある。具体的には、前者は(I)カルボキシル基を含む水溶性または水分散性の高分子化合物を製造する際に共重合により架橋性の官能基を導入する方法、(II)カルボキシル基を含む水溶性または水分散性の高分子化合物と反応可能な架橋剤を添加する方法がある。(I)では官能基として、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、水酸基、オキサゾリン基などが用いられ、これらの官能基同士の反応あるいは多価金属イオンによる架橋反応により耐水性がもたらされる。(II)は、ホルマリンや尿素−ホルマリン樹脂、ポリアミド−ポリアミン樹脂やそれらの変性物などが挙げられる。また、後者は分散水溶液に硬化性のエマルション樹脂を混合する方法などがあり、公知のアクリル系、ポリエステル系、ポリウレタン系のエマルションが利用できる。
【0092】
カルボキシル基を含む水溶性または水分散性の高分子化合物/無機微粒子の水分散溶液から複合体を粉末化する方法は、フィルム加工と同様に複合体の分散水溶液をそのまま、あるいは濃縮処理やpH調整、必要に応じてエチレングリコールやグリセリン等の公知の可塑剤や、架橋剤、増粘剤、充填剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等の添加剤を混合した後に、スプレードライ、凍結乾燥のように溶媒を分散液から直接気化する方法や、あるいは水と混和するが複合体を溶解しないメタノールのような有機溶剤または硫酸ナトリウムのような塩析効果の高い化合物を用いることにより固体分離処理を行い、乾燥後粉末化する方法も可能であるが、本発明の主旨から言えば前者の方が好ましい。
【0093】
その他の形状加工についても、フィルム加工と同様に、複合体の分散水溶液をそのまま、あるいは濃縮処理やpH調整、必要に応じてエチレングリコールやグリセリン等の公知の可塑剤や、架橋剤、増粘剤、充填剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等の添加剤を混合した後に、公知の方法により実施できる。
【0094】
本発明のカルボキシル基を含む水溶性または水分散性の高分子化合物/無機微粒子複合体は、特にポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンなどに関しては安全性の高いポリマー材料であることが知られており、その複合化相手がリン酸カルシウムや炭酸カルシウムの場合には、「生体親和性の高い粒子がナノメートルサイズで均一に混合分散しているポリマー複合材料」という点で特徴づけられ、種々の用途がある。これらの複合体は前述のように種々の形状に加工可能である点から、特に医用あるいは化粧用材料として非常に有用な材料である。医用材料としては人工骨材料、骨充填剤、歯科材料、DDS担体、皮膚疾患治療薬等に利用できる。さらに、前述のようにこれらの複合体フィルムは水を吸収すると白濁し、乾燥すると透明なフィルムに戻るという特徴も有する。これは粒子水和に伴なう散乱によるものであり、フィルムに限った現象ではない。この性質を利用すれば、UV遮光性の高い化粧品や湿度により透明性が可逆的に変化する窓材、湿度センサーなどへの利用が可能である。
【0095】
このように、前記分散安定性に優れる高分子化合物/無機微粒子分散水溶液を含有するものや透明性に優れる高分子化合物/無機微粒子複合体を含有する化粧品も本発明の1つである。
【0096】
本発明のカルボキシル基を含む水溶性または水分散性の高分子化合物/無機微粒子複合体は、複合前のポリマー単独のフィルムに比べて、引張強度、硬度、熱特性、ガスバリア性などが向上する。例えば、ポリビニルアルコールはガスバリア性の高い材料として知られているが、それに比べても複合化によりバリア性が大幅に向上する。これらの特性を利用するには、耐水性に劣るポリビニルアルコールを中間層とした多層フィルムとすることで解決できるが、耐水性があまり問題とならない用途では必要に応じて耐水化処理を施すことで表面層にコートしてもよい。また、フィルム自体の強度が上がる利点もあるが、これを種々の基材に塗布、含浸させることにより、基材の強度を向上させる目的でも使用することができ、それらの中でも、紙に適用した場合に有用であり、製紙用薬品も本発明の1つである。
【0097】
本発明の製紙用薬品は、前記分散安定性に優れる高分子化合物/無機微粒子分散水溶液から得られるものである。また、本発明の製紙用薬品は、カルボキシル基を含む水溶性または水分散性の合成高分子化合物(A)と、周期表2族元素化合物と有機酸、無機酸およびそれらの塩類から選ばれる1種以上の化合物を反応させて得られた粒径500nm以下の水難溶性無機微粒子(B)とを、(A):(B)=10:90〜99.99:0.01(重量比)で含有してなる製紙用薬品である。
【0098】
本発明の製紙用薬品を使用して得られる紙は、紙力性能が向上する。特に、本発明の製紙用薬品を紙の表面に塗工(外添)することにより、紙力強度が大幅に向上する。紙に塗工する際の塗工液濃度は、0.01〜20.0重量%、好ましくは0.10〜10.0重量%の範囲にある。その塗工量は、0.001〜20.0g/m、好ましくは0.005〜10.0g/mの範囲にある。紙への塗工は、含浸、サイズプレス、ゲートロールコーター、カレンダー、ブレードコーター、スプレー等の一般的な方法が用いられる。塗工後の乾燥温度は、水が蒸発する温度であればよく、好ましくは100℃から180℃の範囲にある。さらに本発明の製紙用薬品は、澱粉系、カルボキシメチルセルロース系、PVA系、PAM系等の従来公知の表面塗工用の薬品類と組み合わせることにより、表面強度や内部強度を一層向上させることもできる。
【0099】
本発明の製紙用薬品は、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、アルミン酸ナトリウムや、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミドのマンニッヒ変性物やホフマン変性物、ポリアルキレンポリアミン、カチオン化澱粉などのカチオン基を持つ水溶性高分子などとの相互作用によりパルプへの定着が可能であり、抄紙用の内添薬品としても利用可能である。内添薬品として使用する場合には、パルプ重量に対して0.01〜5.0重量%、好ましくは0.05〜2.0重量%添加され、種箱やマシンチェストなどの通常の内添薬品と同様の場所で添加すればよい。
本発明の製紙用薬品は必要に応じて、消泡剤、防腐剤、防錆剤、防滑剤などを混合する、あるいは使用時に併用してもよい。
【0100】
リン酸カルシウム、炭酸カルシウムは生体に限らず有機物との親和性が高いことが知られている。本発明の複合体中のナノメートルサイズのリン酸カルシウム微粒子は従来のものと異なって凝集構造を作らずに複合体中に均一に分散していることから、比表面積は大幅に向上し、水中に含まれる有機物との相互作用が大きくなるため、例えばインクジェット記録材用途などにも好適に使用することができ、インクジェット記録シート薬品も本発明の1つてある。
【0101】
本発明のインクジェット記録シート用薬品は、前記分散安定性に優れる高分子化合物/無機微粒子分散水溶液から得られるものである。また、本発明のインクジェット記録シート用薬品は、カルボキシル基を含む水溶性または水分散性の合成高分子化合物(A)と、周期表2族元素化合物と有機酸、無機酸およびそれらの塩類から選ばれる1種以上の化合物を反応させて得られた粒径500nm以下の水難溶性無機微粒子(B)とを、(A):(B)=10:90〜99.99:0.01(重量比)で含有してなるインクジェット記録シート用薬品である。
本発明のインクジェット記録シート用薬品は、従来使用されてきた無機填料がもつ長期保存に対して紙が黄色く変色する黄変性の問題に対して、非常に優れた特長をもつ。
【0102】
本発明のインクジェット記録シート用薬品は、シート基材に塗布することにより耐黄変性に優れたインクジェット記録用シートを製造することができる。シート基材としては特に制限はなく、パルプおよびパルプを主原料とした紙、再生紙、合成紙、布、不織布、ポリオレフィンやアクリル系ポリマー、ポリエステルを主原料にしたフィルムや板、ガラス板等があげられる。
【0103】
本発明のインクジェット用記録シート用薬品は、単独でも使用し得る以外に、耐黄変性を損なわない範囲で必要に応じて公知の無機填料、有機填料、バインダー、その他各種添加剤を使用することができる。無機填料としては炭酸カルシウム、カオリン、クレー、タルク、マイカ、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、ゼオライト、スメクタイト、ケイソウ土、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、非晶質シリカ、アルミナ等があげられ、有機填料としてはスチレン系や尿素樹脂系のプラスチックピグメント等があげられる。バインダーとしてはポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースやヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、水溶性アクリル樹脂、カゼイン、大豆蛋白、ゼラチン、澱粉、スチレン−ブタジエン系ラテックスやアクリル系エマルション等があげられる。その他の添加剤としてはインク定着剤、耐水化剤、ドット調整剤、湿潤剤、pH調整剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、消泡剤、増粘剤、顔料分散剤、離型剤などがあげられる。
【0104】
本発明のインクジェット記録シート用薬品を基材上に塗布する手段としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。各種公知の方法、例えばブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、バーコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、サイズプレス、含浸等の方法が用いられる。必要に応じてスーパーカレンダー、ソフトカレンダー等の平滑化装置で平滑化処理することもできる。塗工層は用途、目的に応じて2層以上の積層構造にしてもよい。塗工層の塗布量については特に制限はないが、複合体の固形分で3〜30g/mが好ましい。30g/mより多く塗布しても特性が更に向上するものではなく、また、3g/mより少ないとインク吸収性が不十分となるおそれがある。
【0105】
本発明のカルボキシル基を含む水溶性または水分散性の高分子化合物/リン酸カルシウム複合体は透明性が高い点と、有機体・生体に対して親和性の高いリン酸カルシウムを幅広い比率で含有させることができる特徴を持つことから、上記以外にも塗料、接着剤、顔料バインダー、セラミックス粘結剤、経糸剤、乳化剤、クロマトグラフィー用充填剤、フィルター材料、樹脂改質剤、排水処理剤、抗菌剤、難燃剤、湿度や炭酸ガス等のセンサー材料、細胞培養用基材、分離膜、食品添加剤等の広い分野にわたって使用することができる。
【実施例】
【0106】
以下、実施例で本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の例において用いる%は特記のない限り重量基準を示す。
粘度は25℃においてB型粘度計〔(株)トキメック社製〕により計測した値である。
X線回折による分析は、RINT X-ray Diffractometer (理学電機社製)を用いて行った。
FT−IR測定は、日本分光社製のFT/IR−8300フーリエ変換赤外分光光度計を用いて行った。
光透過率測定は、島津自記分光光度計UV−2200A(島津製作所社製)を用いて行った。
透過型電子顕微鏡(TEM)観察は、H−300型日立電子顕微鏡(日立製作所社製)およびJEM−2010型透過型電子顕微鏡(日本電子社製)を用いて行った。
超微小硬度測定は、島津ダイナミック超微小硬度計DUH−201型(島津製作所社製)を用いて行った。
【0107】
〔重合体製造例1〕
攪拌機、還流冷却管、温度計、窒素ガス導入管を備えた4つ口フラスコにアクリルアミド30.00g、次亜リン酸ナトリウム一水和物0.15g 、蒸留水266.85g を混合溶解し、pHを4.5 に調整した。窒素ガスを液面上部から一定流量で流しながら溶液の温度を80℃に調整した後、過硫酸アンモニウム0.30g を溶解した水溶液3.0gを添加し、3時間重合反応を行なった。30℃以下に冷却して反応を終了させ、25℃におけるブルックフィールド粘度が114.4mPa・s の(メタ)アクリルアミド系重合体(重合体A)水溶液(不揮発分11.12%)を得た。
重量平均分子量は、337,000 であった。
【0108】
〔重合体製造例2〜5〕
アクリルアミド、共重合モノマー、重合開始剤、連鎖移動剤などを表1に記載した量を使って重合体製造例1と同様に反応を行い、(メタ)アクリルアミド系重合体(重合体B〜E)水溶液を得た。
重合結果は表1に記載した。
【0109】
〔重合体製造例6〕
攪拌機、還流冷却管、温度計、窒素ガス導入管を備えた4つ口フラスコにN,N−ジメチルアクリルアミド(DMA)30.00g、次亜リン酸ナトリウム一水和物0.15g 、蒸留水266.85g を混合溶解し、pHを4.5 に調整した。窒素ガスを液面上部から一定流量で流しながら溶液の温度を80℃に調整した後、過硫酸アンモニウム0.30g を溶解した水溶液3.0gを添加し、3時間重合反応を行なった。30℃以下に冷却して反応を終了させ、25℃におけるブルックフィールド粘度が37.5mPa ・ s の(メタ)アクリルアミド系重合体(重合体F)水溶液(不揮発分10.58%)を得た。
重量平均分子量は、232,200 であった。
【0110】
〔重合体製造例7〜20〕
DMA、共重合モノマー、重合開始剤、連鎖移動剤などを表1に記載した量を使って重合体製造例6と同様に反応を行い、(メタ)アクリルアミド系重合体(重合体G〜P:組成の同じ物は(1)等の添字で区別した)を得た。
重合結果は表1に記載した。
【0111】
〔重合体製造例21〕
攪拌機、還流冷却管、温度計、窒素ガス導入管を備えた4つ口フラスコにN−ビニル−2−ピロリドン(NVP)22.12g、イタコン酸2.88g、次亜リン酸ナトリウム一水和物0.13g 、蒸留水218.84g を混合溶解し、pHを4.5 に調整した。窒素ガスを液面上部から一定流量で流しながら溶液の温度を80℃に調整した後、4,4’−アゾビス(2−シアノ吉草酸)(V−501:和光純薬社製)0.25g を溶解した水溶液2.5gを添加し、3時間重合反応を行なった。30℃以下に冷却して反応を終了させ、25℃におけるブルックフィールド粘度が54.5mPa ・ s のビニルピロリドン系重合体(重合体R)水溶液(不揮発分11.28%)を得た。
重量平均分子量は、251,000 であった。
【0112】
〔重合体製造例22〜24〕
NVP、共重合モノマー、重合開始剤、連鎖移動剤などを表2に記載した量を使って重合体製造例21と同様に反応を行い、ビニルピロリドン系重合体(重合体S〜U)を得た。
重合結果は表2に記載した。
【0113】
〔重合体製造比較例1〕
攪拌機、還流冷却管、温度計、窒素ガス導入管を備えた4つ口フラスコにN−ビニル−2−ピロリドン(NVP)30.00g、蒸留水268.50g を混合溶解し、pHを4.5 に調整した。窒素ガスを液面上部から一定流量で流しながら溶液の温度を80℃に調整した後、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩(V−50:和光純薬社製)0.15g を溶解した水溶液1.5gを添加し、3時間重合反応を行なった。30℃以下に冷却して反応を終了させ、25℃におけるブルックフィールド粘度が36.0mPa ・ s のビニルピロリドン系重合体(重合体V)水溶液(不揮発分10.57%)を得た。
重量平均分子量は、149,800 であった。
【0114】
〔重合体製造比較例2〜4〕
NVP、共重合モノマー、重合開始剤、連鎖移動剤などを表2に記載した量を使って重合体製造比較例1と同様に反応を行い、ビニルピロリドン系重合体(重合体W〜Y)を得た。
重合結果は表2に記載した。
【0115】
〔複合化実施例〕
重合体とリン酸カルシウムとの複合化は以下の複合化実施例に示した。
水酸化カルシウム懸濁液に重合体とリン酸の混合液をフィードする方法をI、水酸化カルシウムと重合体の混合懸濁液にリン酸をフィードする方法をIIと表し、表3〜5に示した。
【0116】
得られた有機重合体/リン酸カルシウム微粒子分散溶液の安定性は製造後1日静置した後の分散状態を目視で確認する方法(静置分散性)と、2,000rpmで10分間遠心処理を行った後の分散状態を目視で確認する方法(遠心分散性)を、それぞれ1〜5の5段階で評価した。
1:分離なし
2:分離なし、微量初期沈降物あり
3:分離上澄液<10%
4:分離上澄液10〜25%
5:分離上澄液>25%
なお、2はごく微量、製造一夜放置後に沈降物が認められるもので、必要に応じて濾過処理を行うことで本発明の分散水溶液となる。1、2が本発明の安定な分散溶液に含まれる領域である。
【0117】
<(メタ)アクリルアミド系重合体との複合化(1)>
〔複合化実施例1〕
攪拌機、温度計を備えた丸底セパラブルフラスコに水酸化カルシウム 4.61g、蒸留水 145.39gを入れ、激しく攪拌して懸濁液とした。懸濁液の温度を40℃に調整し、攪拌速度200rpmで攪拌しながら、11.1%リン酸水溶液33.01g、pHを10.0に調整した重合体製造例1で得られた水溶性ポリマー(重合体A)水溶液56.21g、蒸留水10.78gを混合溶解した水溶液を、ミクロチューブポンプを用いて連続的に2時間かけて添加した(反応方法I)。添加後さらに40℃で1時間反応を行ない、1日静置しても分離等を起こさない、安定性に優れる(メタ)アクリルアミド系重合体/リン酸カルシウム微粒子(50:50)分散水溶液(a−1)を得た。
得られた分散水溶液のpHは8.75であり、沈降物の生成はほとんど認められず、数週間室温にて静置しても分離、沈降等の変化を起こさずに安定であった。さらに、得られた微粒子分散液を2,000rpmで10分間遠心処理を行ったが、分離、沈降等の変化は認められなかった。
【0118】
〔複合化実施例2〜33〕
表3に記載した各種(メタ)アクリルアミド系重合体B−Pを用い、表3に示す条件で複合化実施例1と同様に反応を行い、微粒子分散水溶液b−1〜p−1を得た。
複合化比率、仕込量、反応条件、反応方法、反応結果は表3に記載した。
なお、方法I、IIにおいて、重合体水溶液は予めpH10.0に調整後、リン酸または水酸化カルシウムと混合した。フィード液量は反応液全体の40%量を標準とした。
また、複合化実施例は反応濃度(固形分)5%、反応温度40℃を標準とたが、反応濃度を10%に上げた例(複合化実施例10、11)、反応温度を20−80℃に設定した例(複合化実施例13〜16)においても、問題なく複合化できることを示した。
なお、重合体A、C、D、E、Fは共重合モノマーにカルボキシル基を含まない重合体ではあるが、複合化反応過程でポリマー主成分であるアクリルアミド、あるいはN,N−ジメチルアクリルアミドのアミド結合がアルカリ(水酸化カルシウム)による加水分解反応を受けてカルボキシル基を生成しており(加水分解反応で生成するアンモニア、及びジメチルアミンを検出)、その結果として複合化が良好になっているのである。
【0119】
<(メタ)アクリルアミド系重合体との複合化(2)>
〔複合化実施例34〜38〕
カルボキシル基含有ポリアクリルアミド(ホープロン−3150B、三井化学社製)を用い、表4に示す条件で複合化実施例1と同様に反応を行い、微粒子分散水溶液q−1〜q−5を得た。
複合化比率、仕込量、反応条件、反応方法、反応結果は表4に記載した。
【0120】
<ビニルピロリドン系重合体との複合化>
〔複合化実施例39〜42〕
表2に記載したビニルピロリドン系重合体R〜Uを用い、表4に示す条件で複合化実施例1と同様に反応を行い、微粒子分散水溶液r−1〜u−1を得た。
複合化比率、仕込量、反応条件、反応方法、反応結果は表4に記載した。
【0121】
〔複合化比較例1〜5〕
重合体を添加しないブランク(比較例1)、および表2に記載した水溶性重合体V〜Yを用い、表4に示す条件で複合化実施例1と同様に反応を行ったが、何れも攪拌を止めて静置すると直ちに沈降分離した。
複合化比率、仕込量、反応条件、反応方法および反応結果は表4に記載した。
【0122】
複合化実施例39〜42と複合化比較例1〜5とを対比させると明らかなように、ビニルピロリドン系重合体の場合、カルボキシル基をもつ共重合体成分が安定な複合分散液をつくるために必要であることが判る。ポリマーの主成分であるN−ビニル−2−ピロリドンは本発明の複合化条件下ではアルカリによる加水分解反応を受けず、複合化反応過程においてもカルボキシル基を生成しない。その点で前記したアミド系のポリマーとは異なるため、比較例のようにカルボキシル基を含有しない共重合体を用いると安定な分散溶液とはならないのである。
【0123】
<カルボキシル基変性PVAとの複合化例>
〔複合化実施例43〕
攪拌機、温度計を備えた丸底セパラブルフラスコに予め蒸留水で溶解しておいたカルボキシル基変性ポリビニルアルコール(PVA KM−118;(株)クラレ社製、ケン化度 97.4モル%、重合度 1,800 )水溶液(9.35%)127.01g 、蒸留水20.91gを入れ、10%水酸化ナトリウム1.62g を加えた後に、水酸化カルシウム0.461gを攪拌しながら加えて懸濁液とした。懸濁液の温度を40℃に調整し、攪拌速度200rpmで攪拌しながら、10.5%リン酸水溶液3.50g 、蒸留水96.50gを混合溶解した水溶液をミクロチューブポンプを用いて連続的に2時間かけて添加した。添加後さらに40℃で2時間反応を行ない、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール/リン酸カルシウム微粒子(95:5)分散水溶液(z−1)を得た。得られた分散水溶液のpHは6.55であり、沈降物の生成はほとんど認められず、数週間静置しても分離、沈降等の変化を起こさずに安定であった。さらに、得られた微粒子分散液を2,000rpmで10分間遠心処理を行ったが、分離、沈降等の変化は認められなかった。反応液の固形分濃度は5.2 %であった。
【0124】
〔複合化実施例44〜66〕
カルボキシル基変性ポリビニルアルコール(Z1〜Z13)を用い、表5に示す条件で複合化実施例43と同様に反応を行った。
複合化比率、仕込量、反応条件、反応方法および反応結果は表5に記載した。
複合化に用いたカルボキシル基変性ポリビニルアルコールは、Z1:KM−118(ケン化度 97.4モル%)、Z2:KM−618(ケン化度 93.7モル%)、Z3:KL−118(ケン化度 97.4モル%)(Z3’は予め未ケン化相当量のNaOHで加水分解処理)、Z4:K−5112(ケン化度 95.1モル%)、 Z5:SK−5102(ケン化度 97.6モル%)(以上クラレ社製)、Z6:UFA170(ケン化度 >96.5モル%)、Z7:UFA170M(ケン化度 92−95モル%)、Z8:UPA170(ケン化度 88−92モル%)(以上ユニチカ社製)、Z9:T−330H(ケン化度 >99.0モル%)、Z10:T−330(ケン化度 95.0−98.0モル%)、Z11:T−350(ケン化度 93.0−95.0モル%)、Z12:T−230(ケン化度 95.0−98.0モル%)、Z13:T−215(ケン化度 95.0−98.0モル%)(以上日本合成化学社製)である。
【0125】
〔複合化比較例6〕
攪拌機、温度計を備えた丸底セパラブルフラスコに、予め蒸留水で溶解しておいた高純度ポリビニルアルコール(PVA 103C;(株)クラレ社製、ケン化度 98.6モル%、重合度300 )水溶液(10.0%)62.50g、蒸留水82.89gを入れ、10%水酸化ナトリウム0.05g を加えた後に、水酸化カルシウム4.61g を攪拌しながら加えて懸濁液とした。懸濁液の温度を40℃に調整し、攪拌速度200rpmで攪拌しながら、10.5%リン酸水溶液34.97g、蒸留水65.03gを混合溶解した水溶液をミクロチューブポンプを用いて連続的に2時間かけて添加した。添加後さらに40℃で2時間反応を行ない、ポリビニルアルコール/リン酸カルシウム微粒子(50:50)分散水溶液(Z14−1)を得た。
得られた分散水溶液のpHは7.61であり、一夜静置すると反応液の約20%が透明な上澄液となって分離した(静置分散性4)。反応液の固形分濃度は5.0%であった。
【0126】
〔複合化比較例7〜11〕
各種ポリビニルアルコールZ14−Z16を用い、表5に示す条件で複合化比較例6と同様に反応を行ったが、何れも攪拌を止めて静置すると沈降分離した。複合化比率、仕込量、反応条件、反応方法および反応結果は表5に記載した。
複合化に用いたポリビニルアルコールは、Z14:103C(高純度ポリビニルアルコール、ケン化度 98.6モル%)、Z15:205C(高純度ポリビニルアルコール、ケン化度 88.1モル%)、Z16:CM−318(カチオン性ポリビニルアルコール、ケン化度 96.4モル%)、Z17:205S(部分ケン化型ポリビニルアルコール、ケン化度 88.0モル%)(Z14’、16’は予め未ケン化相当量のNaOHで加水分解処理)(以上クラレ社製)である。
【0127】
複合化比較例6〜11から明らかなように、分子内にカルボキシル基をもたないPVAでは、安定な微粒子分散水溶液とはならない。複合化比較例7、10では完全ケン化処理を行い、未ケン化部による影響をなくしたが、それでも複合化は不良であり、複合化に及ぼすカルボキシル基の効果は明らかである。
【0128】
〔複合化分散水溶液の安定性〕
(1)pH効果
複合化実施例10で得られた分散水溶液(h−3)に蒸留水を加えて希釈し、濃度を0.5wt%に調整した。この分散液約30mlに、攪拌しながら11.1wt%リン酸水溶液をマイクロシリンジで少量ずつ添加して、pHを6.51、5.93、5.52、5.01に調整した。添加直後には何れも変化が認められなかったが、pH5.01に調整したものは一夜放置すると完全に二層分離した。その他のものは目視での変化は認められなかった。
また、0.5wt%希釈溶液に11.1wt%リン酸を継続して添加すると、pH4.5付近でリン酸を消費して、白濁分散水溶液が完全に透明化した。二相分離を起こすpH領域は、重合体のカルボキシル基のpKa領域であり、pH低下に伴ってカルボン酸陰イオンが部分的または全体にわたってイオン性を失うことが、複合化分散液の安定性に影響を及ぼしているものと考えられる。さらにpHを下げると、ヒドロキシアパタイトの溶解に伴なって、複合体は消失するため透明化するのである。
【0129】
(2)無機塩添加効果
複合化実施例10で得られた分散水溶液を(1)と同様に、濃度を0.5wt%に調整した。この際に、塩濃度が0.05〜2.0mol/lになるようにNaCl、NaSOを添加して分散液の安定性を評価した。
この濃度範囲ではNaCl添加による変化は認められなかったが、NaSO添加系は0.25mol/l以上の濃度で完全に2層に分離し、0.05mol/l濃度では1ケ月経た後も変化はなかった。
以上のpHおよび塩添加効果は、分散安定化にはイオン的な作用が重要な役割を果たしていることを示しており、それはカルボン酸陰イオンによる作用であることが強く示唆された。
【0130】
〔電子顕微鏡観察/分散液〕
・ポリ(メタ)アクリルアミド(PAM)系複合体
複合化実施例9で得られた(メタ)アクリルアミド系重合体/リン酸カルシウム微粒子分散水溶液(h−2)を希釈し、コロジオン膜張銅メッシュ上で乾燥して撮影した透過型電子顕微鏡写真を図1(a)に示した。
図1(a)を見ると明らかなように、リン酸カルシウム微粒子は細長い楕円状粒子となっており、これらの1次粒子が凝集することなくコロジオン膜上に均一に分散している。図1から求めた長軸方向の粒径分布を図3に示した。
【0131】
・カルボキシル基変性PVA系複合体
複合化実施例50で得られたカルボキシル基変性ポリビニルアルコール/リン酸カルシウム微粒子分散水溶液(z1−8)を希釈し、コロジオン膜張銅メッシュ上で乾燥して撮影した透過型電子顕微鏡写真を図1(b)に示した。
図1(b)も図1(a)とほぼ同様にリン酸カルシウム微粒子は細長い楕円状粒子となっており、これらの1次粒子が凝集することなくコロジオン膜上に均一に分散している。
【0132】
・ブランク
複合化比較例1で得られたブランクのリン酸カルシウム分散水溶液(blank)は、沈降・分離しているため、良く攪拌してサンプリングを行った後希釈し、コロジオン膜張銅メッシュ上で乾燥して撮影した透過型電子顕微鏡写真を図2に示した。
図2を見ると、細長い針状の結晶が多数凝集している構造となっており、安定な分散水溶液である図1(a)、(b)とは著しく異なっていることが判る。
【0133】
〔フィルム作成〕
〔フィルム作成例1〕
複合化実施例1〜66で得られた安定な分散水溶液(a−1〜z13−1)を直径90mmのポリメチルペンテン樹脂製のシャーレに入れ、水平台上にのせて乾燥窒素を流すことによって、透明性に優れるカルボキシル基含有重合体/リン酸カルシウム複合フィルムを製造した。全ての試料が透明なフィルムとなった。さらに110℃の送風乾燥機で2時間乾燥処理を行ったフィルムについても透明性に変化が認められなかった。
シャーレに入れる液量を調節することにより、種々の厚みを持つフィルムを作成した。とくに複合化実施例43〜66で得られたPVA系複合分散水溶液(z1−1〜z13−1)から作成されるフィルムは強靭かつ柔軟なフィルムであり、ハサミによる裁断加工性を備えていた。さらに、これらの分散液に、固形分重量に対して10%、20%、30%のグリセリンを可塑剤として添加することで、50%リン酸カルシウムを含有する複合体において完全に乾燥したフィルムでも柔軟性に富み、折り曲げても割れないようになった。
複合化比較例2〜10で得られた分散水溶液(v−1〜y−1、z14−1〜z16−2)は沈降・分離しているため、良く攪拌した後に直径90mmのポリメチルペンテン樹脂製のシャーレに入れ、水平台上にのせて乾燥窒素を流すことによって、カルボキシル基を含有しないポリビニルアルコール/リン酸カルシウム複合フィルムを製造しようとしたが、透明なポリマーフィルムと白色固体に完全に分離し、均一な複合体フィルムにはならなかった。
【0134】
〔フィルム作成例2〕
必要に応じて濾布または金属メッシュで濾過処理を行った複合化実施例1〜66で得られた安定な分散水溶液(a−1〜z13−1)をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの上にバーコーターで塗布し、フィルムを固定して風乾することで透明性に優れるカルボキシル基含有重合体/リン酸カルシウム複合体を表面層にもつフィルムを作成した。
【0135】
〔フィルム作成例3〕
必要に応じて、濾布または金属メッシュで濾過処理を行った複合化実施例1〜66で得られた安定な分散水溶液(a−1〜z13−1)をガラス上に流し塗り、水平台上にのせて乾燥窒素を流すことによって、透明性に優れるカルボキシル基含有重合体/リン酸カルシウム複合フィルムを表面層にもつガラス板を作成した。
【0136】
〔フィルム引張り強度測定〕
・カルボキシル基変性PVA系複合体
複合化実施例51で得られた分散水溶液(z1−9)(重合体:リン酸カルシウム=50:50複合体)からフィルム作成例1で得られた、平均膜厚64μmのフィルムと、複合化に使用した原料PVA(Z1:KM−118)水溶液から同様の方法で製膜化した平均膜厚75μmのフィルムを用い、23±2℃、50±5%RHの条件下で1週間調湿した各試料について、JIS K7113 2(1/2)号形の試験片で50.0mm/minの速度で引張り試験を行った。
PVA単独系での引張強度(破断)65.3MPaに対し、複合フィルムの引張強度は116.8MPaと、約80%近く強度の向上が認められた。
【0137】
〔超微小硬度測定〕
・カルボキシル基変性PVA系複合体
ダイナミック超微小硬度計DUH−201型(島津製作所製)を使用して、複合化実施例51の分散水溶液(z1−9)(重合体:リン酸カルシウム=50:50複合体)からフィルム作成例1で得られたフィルムと、複合化に使用した原料PVA(Z1:KM−118)単独のフィルムについて測定を行った。各々のフィルム厚は引張り試験で使用したフィルムと同程度のものを使用し、23±2℃、50±5%RHの条件下で1週間調湿した試料について、No-2モードにて、試験荷重9.8mN、保持時間5秒、負荷速度1.428mN/sec、変位フルスケール10μmの条件で試験を行った。
9.8mN5秒保持時および除荷後の押込み深さ(D1、D2(μm))は10点計測した平均値を取ると、PVA単独系でそれぞれ1.42、1.04に対し、複合系では1.06、0.77であった。この数値より計算されるダイナミック硬さ(DHT115-1、DHT115-2)は、PVA単独系でそれぞれ19.0、35.4に対し、複合系では33.8、65.2であり、複合化により表面硬度が増加することが判った。
なお、ダイナミック硬さは以下の計算式より算出される。三角錐圧子(115°)を用いた場合、α=3.8584である。
ダイナミック硬さ={9.8(mN)/D2}×α
【0138】
〔ガス透過性〕
複合化実施例51の分散水溶液(z1−9)(重合体:リン酸カルシウム=50:50複合体)からフィルム作成例1で得られたフィルムと、複合化に使用した原料PVA(Z1:KM−118)単独のフィルムについてヘリウムガスのフィルム透過率測定を行った。透過率測定は、4重極型質量分析計を検出器とした特開平6−241978に開示されているフィルム用ガス透過率測定装置を用いた。PVC単独フィルムの厚さは82μmで、ヘリウムガスの透過量10.7cc/m・day(透過係数:13.3*10−13cc*cm/cm・sec・cmHg)に対して、複合化フィルムの厚さは55μmで、透過量7.5cc/m・day(透過係数:6.3*10−13cc*cm/cm・sec・cmHg)であった。複合化により透過係数は50%以下になり、ガスバリア性が大幅に向上することが確認された。
【0139】
〔FT−IR測定〕
・PAM系複合体
複合化実施例12で製造した分散水溶液(h−5)をKRS−5の窓板にキャストして薄膜とした試料のFT−IRスペクトルを図4(a)に示す。
(メタ)アクリルアミド系重合体に由来するピークとヒドロキシアパタイトに由来するピークの両方が観測された。
また、このフィルムを電気炉中で800℃で3時間熱処理を行うと白色固体が残り、その重量は熱処理前の50%であった。その白色固体のIRスペクトルを図4(b)に示す。熱処理によりポリマー成分は焼失し、結晶化が進んだヒドロキシアパタイトが定量的に残ったことが確認された。
【0140】
・カルボキシル基変性PVA系複合体
複合化実施例49で製造した分散水溶液(z1−7)をKRS−5の窓板にキャストして薄膜とした試料のFT−IRスペクトルを図5(a)に示す。
カルボキシル基変性ポリビニルアルコールに由来するピークとヒドロキシアパタイトに由来するピークの両方が観測された。
また、このフィルムを電気炉中で800℃で9時間熱処理を行うと白色固体が残り、その重量は熱処理前の50%であった。その白色固体をKBr錠剤法により測定したFT−IRスペクトルを図5(b)に示す。熱処理によりポリマー成分は焼失し、結晶化が進んだヒドロキシアパタイトが定量的に残ったことが確認された。
【0141】
・ポリビニルピロリドン系複合体
複合化実施例42で製造した分散水溶液(u−1)をKRS−5の窓板にキャストして薄膜とした試料のFT−IRスペクトルを図6に示す。
ビニルピロリドン系重合体に由来するピークとヒドロキシアパタイトに由来するピークの両方が観測された。
【0142】
〔X線回折分析(XRD)〕
・PAM系複合体
複合化実施例12で製造した分散水溶液(h−5)を凍結乾燥により粉末とした試料のXRDスペクトルを図7(a)に、および同一の分散水溶液をフィルム作成例3で示した方法によりガラス基板上にキャストしてフィルム化した試料のXRDスペクトルを図7(b)に示す。なお、(h,k,0)面に対応するピークに*を印した。
粉末のスペクトルパターンはヒドロキシアパタイトと一致したが、フィルムのスペクトルは(h,k,0)面のピークは観測されるものの、それ以外のピークは強度が大きく低下するか消失していることから、フィルム中のヒドロキシアパタイト粒子はc軸がガラス面に対して平行に配向しているものと推測される。
【0143】
・カルボキシル基変性PVA系複合体
複合化製造例49で製造した分散水溶液(z1−7)を凍結乾燥により粉末とした試料のXRDスペクトルのスペクトルパターンはヒドロキシアパタイトとほぼ一致した(図8(a))。ヒドロキシアパタイトの(h,k,0)面のピークは観測されるものの、それ以外のピークは強度が大きく低下するか消失していた。同一の分散水溶液をガラス基板上にキャストしてフィルム化した試料のXRDスペクトルを図8(a)に示した。(メタ)アクリルアミド系重合体との複合体と同様に、フィルム中のヒドロキシアパタイト粒子はc軸がガラス面に対して平行に配向しているものと推測された。
【0144】
〔電子顕微鏡観察/フィルム〕
・PAM系複合体
複合化実施例12で得られた(メタ)アクリルアミド系重合体/リン酸カルシウム微粒子分散水溶液(h−5)から、キャスト法により製造した複合フィルム(フィルム作成例1)を、超薄切片法によりフィルムの平面方向と断面方向から透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した。平面方向の結果を図9(a)に、断面方向の結果を図9(b)に示す。
平面方向(a)には長軸が70−200nm、短軸が25−50nm程度の細長い楕円状粒子が観察された。一方、断面方向(b)にはその細長い粒子を輪切りにしたような像が多数観察され、一部には中空構造を示すものも観察された。平面方向に長軸が配向していることを示す電子顕微鏡像は、XRDの結果と良く一致する。UTW(Ultra Thin Window)型EDS検出器(Energy DispersiveSpectroscopy:エネルギー分散型分光法)による粒子の局所元素分析の結果、Ca/Pの元素比は3点の平均で1.43の値を示した。ヒドロキシアパタイトのCa/P比は1.67であることから、フィルム中のリン酸カルシウム粒子はカルシウム欠損型のヒドロキシアパタイトであることが、XRDとIRおよびTEMの結果から示された。
【0145】
〔フィルム光透過率測定〕
・PAM系複合体
安定性に優れる分散液a−1〜u−1から、フィルム作成例1の方法でつくられた複合フィルム(フィルムの平均膜厚は230μm−270μmの範囲にあった)の光透過率の波長依存性は似通ったパターンを示し、何れも700nmでの透過率は50%を越え、高い透明性を示した。それらの中から、重合体/リン酸カルシウム複合フィルムと重合体単独フィルムの比較を図10に示した。
図10から明らかなように、複合フィルムのほうが重合体単独フィルムに比べて透明性が良好であった。
また、複合化温度が透明性に及ぼす効果を図11に示した〔分散水溶液h−7から作成したフィルム(複合化温度:40℃)、分散水溶液h−8から作成したフィルム(複合化温度60℃)、分散水溶液h−9から作成したフィルム(複合化温度80℃)〕。図11からは複合化温度によりフィルムの透明性が変化することが判った。
【0146】
フィルム中に含まれる水分量の影響を図12に示した。分散水溶液h−7から作成した複合フィルムを水中に浸漬し、その後風乾して含水量を変化させた。含水量がフィルム重量に対してそれぞれ3%、50%、65%、85%、122%のフィルムについて測定した。なお、フィルムを120℃で4時間乾燥したものを含水量0%とした。図12からはフィルム中の水分量により透明性が変化することが判り、この変化は可逆的であった。この現象は特に紫外光領域での変化幅が大きく、UV遮光性の化粧品へ利用できることを示す。
【0147】
・カルボキシル基変性PVA系複合体
安定性に優れる微粒子分散水溶液(z1−1〜z13−1)から、フィルム作成例1の方法でつくられた複合フィルムの光透過率の波長依存性は、似通ったパターンを示し、何れも700nmでの透過率は50%を越え、高い透明性を示した。測定に用いたフィルムは、平均膜厚が90μm〜150 μmの範囲にあり、図13に示す分散水溶液z1−3(90:10複合体)、z1−5(70:30複合体)からフィルム作成例1でつくられたフィルムはそれぞれ約120 、140 μm、分散水溶液z1−6(60:40複合体)、z1−7(50:50複合体)から同様につくられたフィルムは約90μmであった。
【0148】
〔紙への塗工試験〕
以下の塗工実施例および塗工比較例には、被塗工原紙として中質紙(坪量58g/m)を用いた。表面強度は、RI−3型(明製作所社製)を用いてRIピックを(10点法の相対評価で点数が高いほど表面強度が高い)、Z軸強度はインターナルボンドテスター(熊谷理機工業社製)を用いて測定した。
【0149】
〔塗工実施例1〜5〕
複合化実施例34〜38で得られた微粒子分散水溶液(q−1〜q−5)に被塗工原紙を1秒間浸漬し、2本のロールで搾った後に吸収された液量を秤量して塗工量を求めた。塗工量は(メタ)アクリルアミド系重合体とリン酸カルシウムの不揮発分で 1.0および1.8g/mとなるように予め塗工液の濃度を調製した(分散水溶液濃度:2.0〜3.5wt%)。また、塗工液のpHは7.8〜8.2に調整した。塗工後直ちに表面温度を110℃に設定したドラムドライヤーで90秒間乾燥し、恒温恒湿室(20℃、65%RH)中で24時間調湿後の紙力強度を測定した。結果は表6に示した。
【0150】
〔塗工比較例1〕
塗工液を(メタ)アクリルアミド系重合体(ホープロン3150B;三井化学社製)の単独水溶液に変えた以外には塗工実施例1〜5と同様の操作を行って塗工紙を作り、紙力強度を測定した。
結果は表6に示した。
【0151】
表6の結果から、分散水溶液の紙力向上能は従来の(メタ)アクリルアミド重合体に比べて極めて優れていることが明らかである。特に、(メタ)アクリルアミド重合体/リン酸カルシウム比が95/5の分散液では、ブランクである被塗工原紙からのZ軸強度向上率は、塗工比較例1に対して20〜35%もアップしており、重合体単独で用いる場合に比べて非常に良好な結果を与える。これらの結果は、重合体単独で到達できる紙力強度の限界を、リン酸カルシウム微粒子を分散させて重合体と複合化することにより更に引き上げることが可能であることを意味するものである。
【0152】
〔インクジェット(IJ)用塗工試験〕
以下の塗工実施例および塗工比較例には、被塗工原紙として上質紙(OK−プリンス、坪量104.7g/m:王子製紙(株)社製)を用いた。
【0153】
〔IJ塗工実施例1〕
実施例11で得られた(メタ)アクリルアミド系重合体/リン酸カルシウム微粒子分散水溶液(h−4)を10%に調整後、被塗工原紙上に塗工量5.0g/mになるようにワイヤーバーにて塗工した。塗工後、120℃で90秒乾燥し、インクジェット記録用シートを得た。
【0154】
〔IJ塗工比較例1〕
微粉末ヒドロキシアパタイト(HCA−3000:三井化学(株)社製)10部と水90部を、ホモジナイザー(日本精機製作所製)を用いて3000rpm、3分間攪拌して得られた10%分散液と10%に調整した重合体製造例で得られた重合体A水溶液を1:1で混合し、塗工液とした。得られた塗工液を被塗工原紙上に乾燥塗工量が5.0g/mになるようにワイヤーバーにて塗工した後、120℃で90秒乾燥し、インクジェット記録用シートを得た。
【0155】
〔IJ塗工比較例2〕
微粉末シリカ(ミズカシルP−78A:水澤化学工業(株)社製)10部と水90部をホモジナイザーを用いて3000rpm、3分間攪拌して得られた10%分散液とポリビニルアルコール(PVA−117S:(株)クラレ社製)の10%水溶液を1:1で混合し、塗工液とした。得られた塗工液を被塗工原紙上に塗工量5.0g/mになるようにワイヤーバーにて塗工した後、120℃で90秒乾燥し、インクジェット記録用シートを得た。
【0156】
〔IJ塗工比較例3〕
ポリビニルアルコールをポリビニルピロリドン(K−90:ISP社製)に変えた以外はIJ塗工比較例2と同様の操作を行い、インクジェット記録用シートを得た。
【0157】
〔IJ塗工比較例4〕
微粉末シリカを微粉末アルミナ(カタロイドAP−3:触媒化成(株)社製)に変えた以外はIJ塗工比較例2と同様の操作を行い、インクジェット記録用シートを得た。
【0158】
〔IJ塗工比較例5〕
ポリビニルアルコールをポリビニルピロリドン(K−90:ISP社製)に、微粉末シリカを微粉末アルミナ(カタロイドAP−3:触媒化成(株)社製)に変えた以外はIJ塗工比較例2と同様の操作を行い、インクジェット記録用シートを得た。
【0159】
上記の方法で作成したインクジェット記録用シートについて、印刷適性および耐黄変性について以下のように調べた。
印刷適性については、市販のインクジェットプリンター(PM−2000C:セイコーエプソン(株)社製)で印刷し、印字濃度、ドット形状(真円性)について評価した。
印字濃度はマクベス濃度計(RD−918)を用いてブラック、シアン、マゼンダ、イエローのベタ部分を測定し、印字濃度がかなり高く優秀な「◎」、印字濃度が高い「○」、普通の「△」、印字濃度が低い「×」の4段階評価した。
ドット形状(真円性)はルーペで拡大観察し、目視により、真円性の高い優秀な「◎」、良好な「○」、やや滲みを生じる「△」、真円性のない「×」の4段階評価した。
評価結果を表7に示す。
【0160】
耐黄変性については、以下のように評価した。
作成したインクジェット記録用シートに粘着テープ(セロテープ(登録商標):ニチバン(株)製)を貼付し、20℃で4週間または40℃で2週間放置した。分光色彩計(カラーガイド:ビック−ガードナー社製)にてL、a、b値を測定して全色差△E(△E={(△L)
(△a)+(△b)1/2)を算出し、△Eの値が小さく、ほとんど黄変しない場合を「◎」、黄変が進み、△Eの値が大きくなるにつれて「○」、「△」、「×」とする4段階評価をした。
【0161】
表7に示す通り、(メタ)アクリルアミド系重合体/リン酸カルシウム微粒子分散水溶液を塗工したシートは粘着テープを貼付しても黄変せず、耐黄変性に優れていることがわかる。さらに、印刷適性についてもトータルバランスに優れていることから優れたインクジェット記録用薬品となっていることがわかる。
【0162】
【表1】

【0163】
【表2】

【0164】
【表3】

【0165】
【表4】

【0166】
【表5】

【0167】
【表6】

【0168】
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1】(a)複合化実施例9で得られた(メタ)アクリルアミド系重合体/リン酸カルシウム粒子分散水溶液(h−2)を希釈し、コロジオン膜張銅メッシュ上で乾燥して撮影した透過型電子顕微鏡写真。(b)複合化実施例50で製造したカルボキシル基変性ポリビニルアルコール/リン酸カルシウム微粒子分散水溶液(z1−8)を希釈し、コロジオン膜張銅メッシュ上で乾燥して撮影した透過型電子顕微鏡写真。
【図2】複合化比較例1で製造したリン酸カルシウム微粒子分散液を希釈し、コロジオン膜張銅メッシュ上で乾燥して撮影した透過型電子顕微鏡写真。
【図3】図1(a)から求めた長軸方向の粒径分布図。
【図4】(a)複合化実施例12で製造したPAM系分散水溶液(h−5)をKRS−5の窓板にキャストして薄膜とした試料のFT−IRスペクトルを示す図。(b)このフィルムを電気炉中で800℃、3時間熱処理を行って得られた白色固体のKBr錠剤法によるFT−IRスペクトルを示す図。
【図5】(a)複合化実施例49で製造したカルボキシル基変性PVA系分散水溶液(z1−7)をKRS−5の窓板にキャストして薄膜とした試料のFT−IRスペクトルを示す図。(b)このフィルムを電気炉中で800℃、9時間熱処理を行って得られた白色固体のKBr錠剤法によるFT−IRスペクトルを示す図。
【図6】複合化実施例42で製造したポリビニルピロリドン系分散水溶液(u−1)をKRS−5の窓板にキャストして薄膜とした試料のFT−IRスペクトルを示す図。
【図7】(a)複合化実施例12で製造したPAM系分散水溶液(h−5)を凍結乾燥により粉末とした試料のXRDスペクトルを示す図。(b)複合化実施例12で製造したPAM系分散水溶液をガラス基板上にキャストしてフィルム化した試料のXRDスペクトルを示す図。〔(h,k,0)面に対応するピークに*を印した〕
【0170】
【図8】(a)複合化実施例49で製造したカルボキシル基変性PVA系分散水溶液(z1−7)を凍結乾燥により粉末とした試料のXRDスペクトルを示す図。(b)複合化実施例49で製造したカルボキシル基変性PVA系分散水溶液をガラス基板上にキャストしてフィルム化した試料のXRDスペクトルを示す図。
【図9】複合化実施例12で得られた(メタ)アクリルアミド系重合体/リン酸カルシウム微粒子分散水溶液(h−5)からフィルム作成例1によりつくられたフィルムを超薄切片法によりフィルムの平面方向(a)と断面方向(b)を撮影した透過型電子顕微鏡写真。
【図10】複合化実施例14で得られた(メタ)アクリルアミド系重合体/リン酸カルシウム微粒子分散水溶液(h−7)からフィルム作成例1によりつくられたフィルムと、(メタ)アクリルアミド系重合体H(2)の単独フィルムの光透過率の波長依存性を示す図。
【図11】複合化温度の異なる(メタ)アクリルアミド系重合体/リン酸カルシウム複合フィルムの光透過率の波長依存性を示す図。〔分散水溶液h−7(複合化温度:40℃)、分散水溶液h−8(複合化温度:60℃)、分散水溶液h−9(複合化温度:80℃)からつくられたフィルム〕
【図12】含水率が異なる(メタ)アクリルアミド系重合体/リン酸カルシウム複合フィルム(分散水溶液h−7から作製)の光透過率の波長依存性を示す図。(含水量がフィルム重量に対してそれぞれ3%、50%、65%、85%、122%のフィルムについて測定した。なお、フィルムを120℃で4時間乾燥したものを含水量0%とした。)
【図13】複合化比率の異なるカルボキシル基変性PVA/リン酸カルシウム複合フィルム(分散水溶液z1−3、z1−5、z1−6、z1−7から得られたフィルム)の光透過率の波長依存性を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を含む水溶性または水分散性の合成高分子化合物(A)と、(a)周期表2族元素化合物と(b)有機酸、無機酸およびそれらの塩類から選ばれる1種以上の化合物を反応させて得られた粒径500nm以下の水難溶性無機微粒子(B)とを、(A):(B)=10:90〜99.99:0.01(重量比)で含有する透明性に優れる有機重合体/無機微粒子複合体。
【請求項2】
複合体が、透明性に優れるフィルムである、請求項1記載の透明性に優れる有機重合体/無機微粒子複合体。
【請求項3】
カルボキシル基を含む水溶性または水分散性の合成高分子化合物(A)が、(メタ)アクリルアミド系重合体、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、及びビニルピロリドン系重合体のいずれかである請求項1記載の透明性に優れる有機重合体/無機微粒子複合体。
【請求項4】
水難溶性無機微粒子(B)がリン酸カルシウムである、請求項1又は3記載の透明性に優れる有機重合体/無機微粒子複合体。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の透明性に優れる有機重合体/無機微粒子複合体を含有する化粧品。
【請求項6】
カルボキシル基を含む水溶性または水分散性の合成高分子化合物(A)と、(a)周期表2族元素化合物と(b)有機酸、無機酸およびそれらの塩類から選ばれる1種以上の化合物を反応させて得られた粒径500nm以下の水難溶性無機微粒子(B)とを、(A):(B)=10:90〜99.99:0.01(重量比)で含有してなる製紙用薬品。
【請求項7】
カルボキシル基を含む水溶性または水分散性の合成高分子化合物(A)と、(a)周期表2族元素化合物と(b)有機酸、無機酸およびそれらの塩類から選ばれる1種以上の化合物を反応させて得られた粒径500nm以下の水難溶性無機微粒子(B)とを、(A):(B)=10:90〜99.99:0.01(重量比)で含有してなるインクジェット記録シート用薬品。
【請求項8】
カルボキシル基を含む水溶性または水分散性の合成高分子化合物(A)が、(メタ)アクリルアミド系重合体、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、及びビニルピロリドン系重合体のいずれかである請求項6又は7記載の薬品。
【請求項9】
水難溶性無機微粒子(B)がリン酸カルシウムである、請求項6又は7記載の薬品。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれかに記載の薬品を用いて得られる紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−113010(P2007−113010A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−303635(P2006−303635)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【分割の表示】特願平11−322970の分割
【原出願日】平成11年11月12日(1999.11.12)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】