説明

透明性材料及びその製造方法

【課題】 基材とその表面に形成された膜とからなる透明性を有する材料に関し、この膜に親水性かつ透明性の膜を採用して、防曇性が必要とされる材料、内部を確認できる包装材料、容器の窓材、ミラー用材料、接着性の良いフィルム、表示板、印刷材料、防滴性の材料などに好適な透明性材料及びその製造方法を提供する。また、透明性材料を製造する際にも取り扱いや廃水処理に負担がかからず、煩雑な工程を必要としないことを課題とする。
【解決手段】 基材とその基材の表面に形成された膜とからなる透明性を有する材料であって、前記膜は前記基材に蒸着されたアルミニウムが熱水変性処理されてなる透明性材料。および、透明性を有する基材にアルミニウムを蒸着した後、60℃以上の純水または蒸留水によって前記アルミニウムを熱水変性処理する透明性材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材とその表面に形成された膜とからなる透明性を有する材料に関し、特に前記膜はアルミニウムが熱水変性処理されてなる親水性を有する膜であり、防曇性が必要とされる材料、内部を確認できる包装材料、容器の窓材、ミラー用材料、接着性の良いフィルム、表示板、印刷材料、防滴性の材料などに好適な透明性材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車輌用、船舶用、航空機用あるいは建築用等のウインドウガラスなどに、防曇機能を付与するため、その表面に親水膜を形成することが提案されている。例えば、特許文献1には、基体上に、アルミニウムアルコキシドと安定化剤からなる塗布液を塗布し、乾燥、焼成をしてアモルフアスアルミナ膜を成膜し、次いで該アモルフアスアルミナ膜に熱水処理をし、乾燥、焼成して花弁状透明アルミナ膜を形成した後、その上に、RSiX4-a-b-c〔R,R,R:脂肪族炭化水素基および/あるいは芳香族炭化水素基。a,b,c:0〜3。a+b+c:0〜3。 X:水酸基または加水分解性官能基〕を主成分としてなる塗布溶液を塗布し、加熱処理して親水膜を被覆形成する親水性被膜の形成法が記載されている。しかし、この方法によれば、アルミニウムアルコキシドと安定化剤からなる塗布液を塗布する際に有機溶剤を使用しており、実際に製造する場合は、取り扱いや廃水処理などに負担がかかり煩雑な工程になるという問題があった。
【0003】
【特許文献1】特開H09−202651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の問題を解決し、基材とその表面に形成された膜とからなる透明性を有する材料に関し、この膜に親水性かつ透明性の膜を採用して、防曇性が必要とされる材料、内部を確認できる包装材料、容器の窓材、ミラー用材料、接着性の良いフィルム、表示板、印刷材料、防滴性の材料などに好適な透明性材料及びその製造方法を提供することを課題とする。また、透明性材料を製造する際にも取り扱いや廃水処理に負担がかからず、煩雑な工程を必要としないことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の課題を解決するための手段は、基材とその基材の表面に形成された膜とからなる透明性を有する材料であって、前記膜は前記基材に蒸着されたアルミニウムが熱水変性処理されてなることを特徴とする透明性材料である。また、透明性を有する基材にアルミニウムを蒸着した後、60℃以上の純水または蒸留水によって前記アルミニウムを熱水変性処理することを特徴とする前記透明性材料の製造方法である。
【0006】
なお、本発明において、透明性を有するとは、対象とする基材、または膜が前記基材の表面に形成されてなる膜被覆物などの試験体を目の30cm先に固定して、さらにその20cm先に白紙に縦3mmのゴシック体で1〜9までの数字が各5個ずつ縦5列横9行合計45個となるようにランダムに書かれた読み取り板紙を固定して、これら45個の数字が試験体を通して読み取れるか否かで判定し、全ての数字を正確に読み取れる場合を「透明性を有する」ものと評価し、それ以外の場合を「透明性を有しない」ものと評価する。また、評価に際して、読み取る人の視力は乱視などを含まない正常な状態において1.0以上であることを必要とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、基材とその表面に形成された膜とからなる透明性を有する材料に関し、特にその膜としてアルミニウムが熱水変性処理されてなる親水性かつ透明性を有する膜を採用することにより、防曇性が必要とされる材料、内部を確認できる包装材料、容器の窓材、ミラー用材料、接着性の良いフィルム、表示板、印刷材料、防滴性の材料などに好適な透明性材料及びその製造方法を提供することが可能となった。また、透明性材料を製造する際にも取り扱いや廃水処理に負担がかからず、煩雑な工程を必要としない効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の透明性材料は、基材とその基材の表面に形成された膜とからなるが、基材の材質としては、必ずしも耐熱性や耐火性を有していない基材であっても透明性を有する限り適用可能であり、無機質基材、合成樹脂基材など各種のものがあげられる。合成樹脂基材としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ABS樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニルなどの熱可塑性樹脂のフィルムや成形品、または不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、架橋型ポリウレタン、架橋型のアクリル樹脂、架橋型の飽和ポリエステル樹脂など各種の熱硬化性樹脂から得られる架橋フィルムや架橋した成形品などがあげられる。
【0009】
また、無機質基材としては、例えばセメント系、ガラス系、セラミックス系などの無機質の材料があげられる。これらの無機質基材の中でも、例えばガラス板やガラス成形品などの透明性に優れた基材が好ましい。
【0010】
前記基材の形態は、透明性を有する限り特に限定されないが、例えばこの基材が透明性を有する樹脂フィルムなどであることにより、この基材とその表面に形成された透明性を有する膜とが一体化することによって、一体化した材料全体が透明性を有することとなる。そしてこのような膜が被覆したフィルムは、例えば包装材によって包装された包装体に使用したり、あるいは包装容器の窓材などに使用することによって、包装体内部あるいは包装容器内部の状態を内部から発生する水蒸気によって曇ることなく確認が可能であるという利点がある。このように、前記基材が透明性を有する樹脂フィルムなどの透明性を有する基材であることにより優れた防曇性の材料となる。また接触角が小さく、例えば10°以下であることにより、防滴性にも優れた材料となる。
【0011】
本発明では、前記膜は前記基材に蒸着されたアルミニウムが熱水変性処理されることによって形成されている。基材にアルミニウムを蒸着する方法としては、特に限定されず基材の表面に真空蒸着やスパッタリングなどの方法でアルミニウムを蒸着することが可能である。
【0012】
また、アルミニウムの蒸着により形成される蒸着膜の厚さは、1〜0.001μmであることが好ましく、0.5〜0.005μmであることがより好ましく、0.1〜0.005μmであることが更に好ましい。蒸着膜の厚さが1μmを超えると、熱水変性処理の温度を高くしたり、処理時間を長くしても、十分な透明性が得られない場合がある。また0.001μm未満であると、十分な親水性が得られない場合がある。
【0013】
基材にアルミニウムが蒸着されている形態としては、基材の表面に蒸着されている限り、特に限定されることはなく、例えば基材の表面全体に蒸着されているのみならず、例えば基材の任意に決められた位置に蒸着されていることも何れも可能である。
【0014】
また、アルミニウムを蒸着させた後の熱水変成処理について説明すると、処理に使用する水としては、水道水、純水、イオン交換水、逆浸透膜水、蒸留水、またはイオン交換後に蒸留した蒸留水などの液体状の水、或いはこれらの水を使った気体状の水蒸気など、いずれも使用可能であるが、特に、純水または蒸留水が好ましく、純水または蒸留水を用いることにより、全く透明な膜を得ることができる。また、電気伝導度10μS/cm以下の水を用いることが好ましく、電気伝導度1.0μS/cm以下の水を用いることがより好ましく、電気伝導度0.5μS/cm以下の水を用いることがさらに好ましい。電気伝導度が10μS/cmを超えると、蒸着したアルミニウムが十分に熱水処理されずに、アルミニウムの銀色がそのまま残り、不透明となったり、まばらに熱水処理されるなどの問題が生じる場合がある。
【0015】
また、前記熱水変成処理に使用する水の温度としては、水和酸化物としてベーマイトが形成される条件が好ましく、常圧下では60〜100℃が好ましく、80〜100℃がより好ましく、90〜100℃の範囲であることが更に好ましい。このようにして、基材の面に蒸着したアルミニウムが熱水変性処理されて透明性の膜が形成されることなり、その膜の表面を電子顕微鏡写真によって確認すると、基材の表面全体に微細な凹凸組織を有する膜が形成されていることが分かる。水の温度が60℃未満であると、蒸着したアルミニウムが十分に熱水処理されずに、アルミニウムの銀色がそのまま残り、不透明となったり、まばらに熱水処理されるなどの問題が生じる場合がある。
【0016】
前記熱水変成処理の具体的な方法としては、前記基材を前記熱水に接触できる方法であれば特に限定されることはないが、前記基材を熱水に浸漬させる方法が好ましい。また、熱水に接触する時間は1秒以上30分以下が好ましく、2秒以上20分以下がより好ましく、3秒以上10分以下が更に好ましい。1秒未満では熱水変性処理が十分に行われれず、アルミニウムの銀色が残る場合があり、30分を超えると透明性がかえって低下する場合がある。
【0017】
本発明の透明性材料の基材表面に形成された膜は親水性を有しており、親水性の程度は接触角を測定することによって評価することができる。この評価方法によれば、本発明における基材表面の膜の接触角は30°以下が好ましく、20°以下がより好ましく、10°以下が更に好ましい。なお、接触角の測定方法は、次に示す方法による。
【0018】
(接触角の測定方法)
基材の表面に形成された膜を有する膜被覆基材を、膜側を表面として平坦な表面を有するサンプル支持具の平面上に載置して、膜被覆基材の両端を粘着テープで止める。次いで、この膜被覆基材の平面の純水との接触角を協和界面科学株式会社製の接触角計CA−SミクロII型を用いて測定する。また、純水を滴下してから3分間経過後に接触角の測定を行う。
【0019】
また、透明性材料の基材表面に形成された膜の親水性の程度は、下記に示す防曇性評価方法や防滴性評価方法によっても評価することができる。
【0020】
(防曇性評価方法)
200mlのビーカーに水150mlを入れて沸騰させる。次に、この沸騰した水の入っているビーカーの上方約5cmの位置に、約10秒間試験体をかざして、曇りが発生するか否かを目視にて確認する。この目視により、曇りが無いか、あるいは曇りが生じても1秒以内に消える場合は、防曇性があると判定する。
【0021】
(防滴性評価方法)
試験体を垂直に保持した後、試験体表面にスプレー装置を用いて蒸留水を均一にまんべんなく吹き付ける。吹き付ける水の量は吹き付けた水が試験体より滴り落ちる程度とする。水が試験体より滴り落ちるのを見届けた後、試験体表面の水滴の有無を目視にて確認する。この目視により、試験体表面に水滴がない場合は、防滴性があると判定する。
【0022】
以上説明したように、本発明の透明性材料は、基材とその表面に形成された膜とからなる透明性を有する材料に関し、特に蒸着したアルミニウムを熱水変性処理して透明性、かつ親水性を有する膜を形成する技術であり、この膜は防曇性、親水性、印刷特性、接着性、防滴性などに優れる。したがって、これらの特性を利用して、本発明の透明性材料は防曇性が必要とされる材料、内部を確認できる包装材料、容器の窓材、ミラー用材料、接着性の良いフィルム、表示板、印刷材料、防滴性の材料などに好適である。また、透明性材料を製造する際にも取り扱いや廃水処理に負担がかからず、煩雑な工程を必要としない効果を有する。
【0023】
以下、本発明の実施例につき説明するが、これは発明の理解を容易とするための好適例に過ぎず、本願発明はこれら実施例の内容に限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
透明性を有する厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(以下PETフィルムという)の片面に、スパッタリングにてアルミニウムを蒸着させてアルミニウム蒸着フィルムを得た。この蒸着によって形成された蒸着膜の厚さは約0.025μmであった。次いでこのアルミニウム蒸着フィルムを85℃の純水(電気伝導度1μS/cm以下)に3分間浸漬して、蒸着したアルミニウムを熱水変性処理して、表面に熱水変性処理による膜が形成されたPETフィルムを得た。この熱水変性処理による膜が形成されたPETフィルムの透明性を評価したところ、透明性を有しており、透明性材料が得られたことが確認できた。また、この熱水変性処理による膜を電子顕微鏡で観察すると、表面全体に微細な凹凸組織が形成されていた。また、この熱水変性処理による膜の親水性の程度は接触角が8°であり、防曇性及び防滴性を共に有していた。なお、PETフィルムのアルミニウムの蒸着を行わなかった側の表面の接触角は78°であり、防曇性及び防滴性のどちらも有していなかった。また、上記の純水はミリポア社製の超純水製造装置(Elix10UV MilliQ Gradient A10)で作製した純水を用いた。
【0025】
(実施例2)
PETフィルムの厚さを12μmとし、蒸着膜の厚さを約0.055μmとし、アルミニウム蒸着フィルムを100℃の純水(電気伝導度1μS/cm以下)に浸漬したこと以外は、実施例1と同様にして、表面に熱水変性処理による膜が形成されたPETフィルムを得た。この熱水変性処理による膜が形成されたPETフィルムの透明性を評価したところ、透明性を有しており、透明性材料が得られたことが確認できた。また、この熱水変性処理による膜を電子顕微鏡で観察すると、PETフィルムの表面全体に微細な凹凸組織が形成されていた。また、この熱水変性処理による膜の親水性の程度は接触角が7°であり、防曇性及び防滴性を共に有していた。
【0026】
(実施例3)
PETフィルムの代わりに厚さ3mmのガラス板を用いたこと、及び蒸着膜の厚さを約0.06μmとし、アルミニウム蒸着ガラス板を95℃の純水(電気伝導度1μS/cm以下)に浸漬したこと以外は、実施例1と同様にして、表面に熱水変性処理による膜が形成されたガラス板を得た。この熱水変性処理による膜が形成されたガラス板の透明性を評価したところ、透明性を有しており、透明性材料が得られたことが確認できた。また、この熱水変性処理による膜を電子顕微鏡で観察すると、表面全体に微細な凹凸組織が形成されていた。また、この熱水変性処理による膜の親水性の程度は接触角が6°であり、防曇性及び防滴性を共に有していた。
【0027】
(比較例1)
実施例2において、アルミニウム蒸着フィルムを55℃の純水(電気伝導度1μS/cm以下)に浸漬したこと以外は実施例2と同様にして、表面に熱水変性処理による膜が形成されたPETフィルムを得た。この熱水変性処理による膜が形成されたPETフィルムの透明性を評価したところ、この膜はアルミニウムによる銀色を呈しており、この熱水変性処理による膜が形成されたPETフィルムは透明性を有していなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材とその基材の表面に形成された膜とからなる透明性を有する材料であって、前記膜は前記基材に蒸着されたアルミニウムが熱水変性処理されてなることを特徴とする透明性材料。
【請求項2】
前記熱水変性処理が60℃以上の純水または蒸留水による処理である請求項1に記載の透明性材料。
【請求項3】
透明性を有する樹脂フィルムからなる前記基材の表面に前記膜が形成されてなる請求項1または請求項2に記載の透明性材料。
【請求項4】
透明性を有するガラス板からなる前記基材の表面に前記膜が形成されてなる請求項1または請求項2に記載の透明性材料。
【請求項5】
透明性を有する基材にアルミニウムを蒸着した後、60℃以上の純水または蒸留水によって前記アルミニウムを熱水変性処理することを特徴とする請求項1に記載の透明性材料
の製造方法。

【公開番号】特開2006−297681(P2006−297681A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−120434(P2005−120434)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】