説明

透明架橋フィルム

【課題】 単一フィルムであって、十分なハンドリング性および自己支持性を有し、高耐熱性、表面硬度に優れ、かつ光学等方性に優れた透明架橋フィルムを提供する。
【解決手段】 本発明の透明架橋フィルムは、ビニルエステル組成物100重量部に対し、多官能アクリレート5〜50重量部と、2官能ウレタンアクリレート5〜30重量部とを含有する液状硬化性組成物の硬化物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、透明架橋フィルムに関し、更に詳しくは本発明のフィルムは、十分なハンドリング性、自己支持性を有し、光学用フィルムとして好適な透明性、高いガラス転移点温度、更には表面硬度、光学的等方性に優れた透明架橋フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイパネル(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)等の各種ディスプレイ用フィルム、あるいはカーナビや携帯情報端末(PDA)などのタッチパネルフィルムなどに用いられる光学フィルムの基材として用いられるポリエステルフィルム(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等)、ポリカーボネートフィルム(PC)、ポリメチルメタクリレートフィルム(PMMA)、トリアセチルセルロースフィルム(TAC)、非晶性ポリオレフィン(非晶PO)などの透明プラスチックフィルムは、ガラスと比べて、軽量・割れにくい・曲げられるといった好適な性質を有する。一方、フィルム表面の硬度が低く、また耐摩耗性も不足しているため、他の固い物質との接触、引っ掻きなどにより表面に損傷を受けやすく商品価値を著しく低下させる、あるいは使用不可能となる場合がある。
【0003】
このため、上記の基材フィルム上に耐擦傷性や耐摩耗性に優れたハードコート層を設ける方法が知られており、ハードコートフィルムとして汎用的に利用されている。しかしながら、このようなハードコートフィルムを光学フィルムとして使用する場合には、(1)設けたハードコート層と基材フィルムとの屈折率差が原因となり、虹色のむら(干渉縞)が発生する、(2)光源からの熱、加工中の熱などに起因する変形などにより商品価値が低下する、といった問題が発生する。
【0004】
前者の干渉縞は、基材とハードコート層との屈折率差が原因となり、界面で反射する光の干渉により、3波長蛍光灯下で観察すると虹彩状反射が観察される現象である。ディスプレイ用途に用いる場合には視認性を低下させるひとつの原因となっている。
【0005】
干渉縞を改善する手段として、基材とハードコート層の屈折率差を小さくする方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この文献では、基材とハードコート層の間に、両者の中間の屈折率をもつプライマー層を設けたものが提案されている。しかし、プライマー層を設けても、屈折率が段階的に変化するに過ぎない。このため、干渉縞は低減しても無くなるまでには至らない。また中間層を設ける工程が必要となるためコスト高になるという問題もある。
【0006】
その他の改善方法として、基材フィルムを溶解または膨潤させる溶剤を含むハードコート剤を基材に塗布して、基材を溶解または膨潤させることで、ハードコート層と基材の界面に微小な凹凸面を形成した光学フィルムが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
しかし、基材フィルムを溶解または膨潤させる方法では、基材フィルムを溶解または膨潤させる溶剤を用いなければならず、適用できる基材フィルムや溶剤が限られる。例えば、高度に二軸延伸したポリエステルフィルムなどでは、オルトクロロフェノールのような特殊な溶剤に限定される。また、溶剤の毒性により、作業環境が極めて悪くなる。また、この文献に記載の方法では、干渉縞の低減はできるが、ヘイズが高くなる。このため、ディスプレイ用途などで要求される低いヘイズを得ることができず、視認性が悪くなるという問題がある。
【0008】
また、後者の熱による変形は、基材フィルムのガラス転移点温度向上により改善することが知られている。耐熱性については、例えばアクリル樹脂フィルムの耐熱性を改良する目的で、グルタル酸無水物単位を有するフィルム(特許文献3および特許文献4参照)が開示されている。しかし、表面硬度、耐擦傷性に乏しいといった問題を有する。
【0009】
また、単一フィルムであって高い耐熱性と表面硬度、光学等方性、更には自己支持性を有する透明フィルムは未だ提案されていない。このようなフィルムが開発されれば、偏向板保護フィルム、反射防止フィルム、拡散フィルム、集光フィルムなどの広範囲の光学用フィルムとして好適に使用できる。
【特許文献1】特開2000−111706号公報
【特許文献2】特開2003−205563号公報
【特許文献3】特開平7−268036号公報
【特許文献4】特開2004−2711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明では、上記課題を解決し、単一フィルムであって、十分なハンドリング性および自己支持性を有し、高耐熱性、表面硬度に優れ、かつ光学等方性に優れた透明架橋フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、以下の発明を完成させた。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0012】
本発明の透明架橋フィルムは、ビニルエステル組成物100重量部に対し、多官能アクリレート5〜50重量部と、2官能ウレタンアクリレート5〜30重量部とを含有する液状硬化性組成物の硬化物である。
【0013】
上記2官能ウレタンアクリレートの数平均分子量が2000以上12000以下であるとよい。
【0014】
上記透明架橋フィルムは、リターデーションが5nm以下であるとよい。
【0015】
上記透明架橋フィルム構成するビニルエステル組成物は、ビスフェノール型または脂環式のエポキシ化合物と、アクリル酸またはメタクリル酸とをエステル化反応させて得られるビニルエステル組成物であるとよい。
【0016】
上記透明架橋フィルムは、ガラス転移点温度が120℃以上であるとよい。
【0017】
上記透明架橋フィルムは、破断伸度が3%以上30%以下であるとよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の透明架橋フィルムは、ビニルエステル組成物100重量部に対し、多官能アクリレート5〜50重量部と、2官能ウレタンアクリレート5〜30重量部とを含有する液状硬化性組成物を硬化させて得る。
この構成にすることより、本発明の透明架橋フィルムは、単独フィルムとして、十分なハンドリング性、自己支持性を有し、かつ十分な表面硬度を有する。この結果、ハードコート層を積層する必要がなく、耐熱性が高いために熱劣化による変形などがほとんど無く、干渉縞レスであり、更には光学的に等方性である透明架橋フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0020】
[透明架橋フィルム]
本発明の透明架橋フィルムは、ビニルエステル組成物を主たる構成成分とし、副成分として3官能以上の多官能アクリレートと、2官能ウレタンアクリレートとを含み、必要に応じて2官能以下のアクリレートを含む液状硬化性組成物を硬化させて得る。
【0021】
(ビニルエステル組成物)
ここで、ビニルエステル組成物とは、エポキシ基の開環反応により生成した2級水酸基と、(メタ)アクリロイル基とを同一分子中に共有する一連のオリゴアクリレートと定義する。かかるアクリレートは、ビスフェノール型または脂環式型のエポキシ化合物と、アクリル酸またはメタクリル酸とをエステル化反応させて得られるものであることが好ましい。
【0022】
かかるビスフェノール型または脂環式エポキシ化合物としては、以下の様なものを例示することができる。すなわち、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応物、ビスフェノールFとエピクロルヒドリンとの反応物、水素化ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応物、シクロヘキサンジメタノールとエピクロルヒドリンとの反応物、ノルボルナンジアルコールとエピクロルヒドリンとの反応物、テトラブロモビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応物、トリシクロデカンジメタノールとエピクロルヒドリンとの反応物、アリサイクリックジエポキシアジペート、アリサイクリックジエポキシカーボネート、アリサイクリックジエポキシアセタール、アリサイクリックジエポキシカルボキシレートなどである。
【0023】
(多官能アクリレート)
次に、本発明に係る液状硬化性組成物の第2の成分である多官能アクリレートとは、一分子中に、3(より好ましくは4または5)個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物である。具体的な例としては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサンメチレンジイソシアネートウレタンポリマーなどを用いることができる。これらの単量体は、1種または2種以上を混合して使用することができる。また、市販されている多官能アクリル系化合物としては、三菱レーヨン株式会社;(商品名”ダイヤビーム”シリーズなど)、長瀬産業株式会社;(商品名”デナコール”シリーズなど)、新中村株式会社;(商品名”NKエステル”シリーズなど)、大日本インキ化学工業株式会社;(商品名”UNIDIC”など)、東亜合成化学工業株式会社;(”アロニックス”シリーズなど)、日本油脂株式会社;(”ブレンマー”シリーズなど)、日本化薬株式会社;(商品名”KAYARAD”シリーズなど)、共栄社化学株式会社;(商品名”ライトエステル”シリーズなど)などを挙げることができ、これらの製品を利用することができる。
【0024】
これらの多官能アクリレートはフィルムの表面硬度を向上させるのに有効である。多官能アクリレートの配合量は、上記のビニルエステル組成物100重量部に対し、5〜50重量部、好ましくは10〜30重量部、更に好ましくは15〜25重量部である。この多官能アクリレートの配合量が、5重量部未満では表面硬度が不足し、逆に50重量部を超える場合にはフィルムの伸度が低下して、もろさが発現し、自己支持性に問題が生じる。
【0025】
また、本発明の透明架橋フィルムには、上記のビニルエステル組成物、多官能アクリレートの混合物以外に、アリルエステルモノマ−やアクリル酸エステルモノマー及びメタクリル酸エステルモノマーのような2官能以下のアクリレート化合物を本発明の効果を阻害しない範囲内で、低粘度化などの目的で使用しても良い。
【0026】
すなわち、かかるアリルエステルモノマ−としては、オルソフタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、コハク酸ジアリルなどを使用することができる。
【0027】
また、アクリル酸エステルモノマー及びメタクリル酸エステルモノマーとしては、メチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシルエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ビスフェノールAのEO付加物ジメタクリレート、ビスフェノールAのEO付加物ジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、モルホリンアクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパンジメタクリレート、トリシクロデカニルメタクリレート、アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、グリセリンジアクリレート、グリセリンジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、2,6−ジブロム−4−tert−ブチルフェニルアクリレート、各種のウレタンアクリレート、エポキシアクリレートなどを使用することができる。
【0028】
(2官能ウレタンアクリレート)
次に本発明の第3成分である2官能ウレタンアクリレートについて説明する。本発明で使用する2官能ウレタンアクリレートは、ポリエーテルポリオール、脂肪族または脂環式ポリイソシアネートおよび水酸基を有するアクリル酸エステル系単量体を反応することにより得ることができる。
【0029】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなどを開始剤として、エチレンオキシド、プロピレンオキシドなどを付加反応することにより得られる2官能のポリエーテルポリオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどを挙げることができる。
【0030】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネートなどを挙げることができる。
【0031】
脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネートなどを挙げることができる。
【0032】
水酸基を有するアクリル酸エステル系単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、グリシドールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートなどを挙げることができる。
【0033】
本発明において使用可能な2官能ウレタンアクリレートの数平均分子量としては、2000以上12000以下であるのが好ましく、より好ましくは3000〜10000、更に好ましくは4000〜9000である。この2官能ウレタンアクリレートの数平均分子量が、2000未満では伸度が不足し、12000を超える場合には、透明性が損なわれる場合がある。ここで、数平均分子量Mnとは、分子量Miの分子数をNiとした際に、Mn=ΣMiNi/ΣNiで定義され、氷点降下、沸点上昇、浸透圧、末端基定量の蒸気圧オスモメトリーなどで求められる。
【0034】
また、市販されている2官能ウレタンアクリレートとしては、根上工業株式会社;(商品名“アートレジン”シリーズなど)、日本合成化学工業株式会社;(商品名“紫光”シリーズなど)、を挙げることができる。これらの製品を2官能ウレタンアクリレートとして利用することができる。これらのウレタンアクリレートはフィルムのTgを大きく損なうことなく伸度を向上させるのに有効である。
【0035】
ウレタンアクリレートの配合量は、上記のビニルエステル組成物100重量部に対し、5〜30重量部、好ましくは6〜25重量部、更に好ましくは7〜20重量部である。5重量部未満では伸度が不足し、30重量部を超える場合にはフィルムのTgが低下して耐熱性に問題が生じる。
【0036】
本発明の透明架橋フィルムは、上記組成物を架橋させるために硬化方法に応じて重合開始剤を添加することができる。架橋させる方法としては、加熱架橋または電離放射線架橋、例えば紫外線、電子線などによる架橋の、いずれかの方法または両者を併用して用いることができる。
【0037】
まず、加熱架橋する場合は、重合開始剤として有機過酸化物を用いるのが有効である。かかる有機過酸化物としては、ジアルキルパーオキサイド、アシルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ケトンパーオキサイド、パーオキシエステルなど公知のものを使用することができ、具体的には以下に示すようなものが例示しうる。
【0038】
すなわち、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイル)パーオキシヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、1,1,3,3−トリメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、2,5−ジメチル−2,5−ジブチルパーオキシヘキサンなどを使用することができる。
【0039】
また、紫外線架橋する場合は、重合開始剤として、以下に例示するような公知の光重合開始剤を使用することができる。
【0040】
すなわち、2,2−ジメトキシ−1,2−ジゲニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、ベゾフェノン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モンフォリノプロパノン−1,2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−フォスフィンオキサイドなどを使用することができる。また必要に応じて架橋促進剤を添加することもできる。
【0041】
かかる重合開始剤の添加量は、上記ビニルステル組成物と多官能アクリレートの混合物100重量部に対し、好ましくは0.05〜7.0重量部、より好ましくは1.0〜5.0重量部の範囲とするのがよい。
【0042】
なお、電子線架橋の場合は特に開始剤を用い無くても良い。また、紫外線によって架橋させる場合には、紫外線照射を窒素雰囲気下で行うのが効率的であることで好ましく採用される。本発明においては、電離放射線により架橋する方法が好ましく採用される。
【0043】
(その他の含有物)
また、本発明の透明架橋フィルム中には、本発明の効果を阻害しない範囲内で各種の添加剤や樹脂組成物、架橋剤などを含有しても良い。例えば酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、有機、無機の粒子(例えば例えばシリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミナゾル、カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、カーボンブラック、ゼオライト、酸化チタン、金属微粉末など)、顔料、染料、帯電防止剤、核剤、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ゴム系樹脂、ワックス組成物、メラミン系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、メチロール化、アルキロール化された尿素系架橋剤、アクリルアミド、ポリアミド、エポキシ樹脂、イソシアネート化合物、アジリジン化合物、各種シランカップリング剤、各種チタネート系カップリング剤などを挙げることができる。
【0044】
液状硬化性組成物を硬化させて得られる本発明の透明架橋フィルムは、以下の性状・特性を有する。
【0045】
(ガラス転移点)
本発明の透明架橋フィルムは、示差走査熱量測定におけるガラス転移点(Tg)が120℃以上であることが好ましく、さらに好ましくは130℃以上である。
【0046】
Tgとは、一般には高分子物質を加熱した場合にガラス状の硬い状態からゴム状に変わる温度をいう。本発明では、JIS K 7121に従い、示差走査熱量計(DSC(differential scanning calorimeter))を用い、Tgを測定する。
【0047】
Tgに影響を与えるのは、ウレタンアクリレートの構造、分子量である。ウレタンアクリレートの構造、分子量が本発明の範囲を超える場合には、透明架橋フィルムの示差走査熱量測定でのTgが大きく低下する。一方、分子量が本発明の範囲に満たない場合には、Tgの低下はほとんど見られない。Tgが小さいと、熱によるフィルムの変形、劣化が発生しやすく、画像のゆがみが生じる、あるいは加工性を低下させる。Tgは、光学用途に適用する場合には可能な限り高い方が好ましく、装置や使用環境から発生する熱に晒された状態で長時間変化しないことが望ましい。
【0048】
(破断伸度)
本発明の透明架橋フィルムの破断伸度は、3%以上30%以下であることが望ましい。破断伸度が3%未満の場合には、フィルムの自己支持性が低下し、ハンドリングが困難となる場合がある。また、破断伸度が30%を越える場合は表面硬度の低下が起こる可能性が高い。これらのことから、破断伸度と自己支持性、表面硬度のバランスを取ることが肝要である。
【0049】
本発明において、破断伸度は、25℃、65%RH下で引張試験機を用い、JIS K 7127法に従って試験を行う。フィルムが破断した時の歪み(伸び率(%))を求める。
【0050】
本発明において、自己支持性は、25℃、65%RHにおいて180度に折り曲げた時にフィルムが破断するかどうかで判断する。フィルムが破断しない場合を自己支持性ありとする。
【0051】
なお、本発明の透明架橋フィルムの表面硬度は、好ましくは耐擦傷性の点から鉛筆硬度でH以上、より好ましくは2H以上である。かかる表面硬度も勘案して多官能アクリレートの配合量は決定される。表面硬度は、JIS K−5400(1990)に従って測定荷重500gで測定する。
【0052】
(リターデーション)
本発明の透明架橋フィルムは、リターデーションが好ましくは5nm以下、より好ましくは3nm以下、特に好ましくは1.5nm以下であるのがよい。透明架橋フィルムのリターデーションをこのような値に制御することにより、光学的にも等方である特性を有することができる。本発明においては、光学的等方性の指標としてリターデーションを用いる。
【0053】
本発明にいうリターデーションとは、フィルム面内のリターデーション(Re)、およびフィルム厚み方向のリターデーション(Rth)の両方を表し、フィルムの主屈折率をn(面内幅方向)、n(面内長手方向)、n(厚み方向)とし、フィルムの厚さをd(nm)とすると、Re=|n−n|×d、Rth=|(n+n)/2−n|×dで求める。
【0054】
かかるRe、Rthは、市販の自動複屈折計(例えば王子計測社製、「KOBRA−21ADH」、またはこれと同等以上の装置)を用いて測定することができる。
【0055】
本発明で用いられる透明架橋フィルムの厚みは、機械的強度やハンドリング性などの点から、好ましくは5〜300μm、より好ましくは20〜150μmである。
【0056】
[製造方法]
本発明の透明架橋フィルムは、例えば以下のようにして製造することができる。
具体的には、上記ビニルエステル組成物と、多官能アクリレートと、ウレタンアクリレートとを含有する液状硬化性組成物を製膜して、硬化して得る。
【0057】
液状硬化性組成物は、溶剤で希釈して用いても良いし、無溶剤とすることもできる。溶剤は、単独あるいは2種以上を混合して用いることもできる。ウレタンアクリレートのフィルム内での均一分散性、および塗工時の作業性の向上、フィルムの平滑性、厚みのコントロール等を容易にするために有機溶剤を含むことが好ましい。特に製膜時の剪断力を軽減し、一方向への配向を緩和させるために有機溶剤を使用して低粘度で製膜することがフィルムの屈折率の等方性の点で好ましい。
【0058】
液状硬化性組成物の種類に応じて、上記製膜した液状硬化性組成物を加熱架橋または電離放射線架橋する。
【0059】
以下に具体的な製膜方法を例示するが必ずしもこれに限定されるものではない。上記組成物を、フィルム、金属板、回転する鏡面ドラム上、あるいは無端の駆動ベルトに流延し、必要に応じて溶剤を乾燥後、紫外線を照射して硬化し、得られたフィルムを鏡面ドラム、もしくは該ベルトから連続的に剥離し巻き取る方法が好ましい。この方法を用いる場合、フィルム、金属板、ドラムおよびベルト表面は硬化後のフィルムの剥離応力を軽減し、かつフィルムの等方性を維持するためにシリコーン、フッ素化合物などにより表面に離型処理されたものを用いるのが好ましい。
【0060】
また、リターデーションが上記値になるような透明架橋フィルムを得るためには、上記液状硬化性組成物を、回転するドラム上、あるいは無端の駆動ベルトに流延して紫外線を照射して硬化させ、得られたフィルムをドラム、もしくは該ベルトから連続的に剥離し巻き取る製膜方法において、過剰な応力をかけないようにすることが重要である。剥離などの際にフィルムに過剰な応力が作用するとフィルム面内に分子配向を生じ、レターデーションが大きくなる。このため、ドラムやベルトの表面に低応力で剥離可能な処理を施しておけばよい。表面処理は、シリコーンやフッ素化合物による処理が好ましい。
【0061】
上記組成物を製膜するときの塗布手段としては、各種の塗布方法、例えば、リバースコート法、グラビアコート法、コンマコート法、ロッドコート法、バーコート法、ダイコート法、スプレーコート法などを用いることができる。
【0062】
本発明の透明架橋フィルムは、表面硬度、透明性、耐熱性、光学等方性、ハンドリング性に優れた自己支持性を有する単独フィルムである。このため、本発明の透明架橋フィルムは、反射防止フィルム、偏向板保護フィルム、電磁波シールドフィルム、拡散フィルム、プリズムフィルムなどの光学用フィルム部材、銘板、化粧板などの基材フィルムとして好適に使用することができる。
【0063】
[特性の測定方法および効果の評価方法]
本発明における特性の測定方法および効果の評価方法として、以下に記載の方法を用いる。測定装置は、以下の測定方法および効果の評価方法と同等の結果が得られるものであれば、他の装置を用いてもよい。なお、特に断りのない場合を除き、測定は各実施例・比較例において、1つのサンプルについて場所を変えて5回測定を行い、その平均値を用いた。
【0064】
(1)光学的等方性
王子計測機器(株)製の自動複屈折計KOBRA−21ADHを用い、低位相差モードでサンプル中央部を測定した。測定波長は590nmとし、遅相軸を固定して、入射角を0°から50°まで10°ごとに変更して位相差の入射角依存性を測定した。入射角0°の値を面内位相差(Re)とし、厚み方向位相差(Rth)の算出には、入射角0°および40°の測定値を用いた。
【0065】
(2)鉛筆硬度
HEIDON(新東科学株式会社製)を用いてJIS K−5400(1990)に従って測定荷重500gで測定した。H以上を合格とした。
【0066】
(3)耐熱性
パーキンエルマー社製DSCによって、試料10mg、昇温速度20℃/分で行い、Tgを測定した。このTgを耐熱性の指標とした。120℃以上を合格とした。
【0067】
(4)自己支持性
25℃65%RHにおいて180度に折り曲げた時にフィルムが破断するかどうかで判断した。フィルムが破断しない場合は自己支持性ありとした。
【0068】
(5)破断伸度
25℃、65%RH下で株式会社オリエンテック製 引張試験機を用い、JIS K 7127法に従って試験を行い、フィルムが破断した時の歪み(伸び率)を求めて破断伸度とした。
【0069】
(6)数平均分子量測定方法
マトリックス支援イオン化−時間型質量分析計(AXIMA−CFR、島津製作所製)を用いウレタンアクリレートの数平均分子量測定を行った。
【0070】
(7)干渉縞の有無
干渉縞の評価は、以下に方法に従いサンプルにハードコート層を積層した状態で評価を行った。まず、サンプルの片面に、厚みが約5μmとなるようにハードコート層を設けた。ハードコート層は、ハードコート塗料(JSR社製 Z7528 濃度50%)を♯10のメタリングバーを用いて、薄膜を形成し、90℃にしたオーブンに入れ1分間熱処理を行った後、高圧水銀灯一灯(120W)を備えた、コンベアー式UV照射装置に、5m/minの速度で一度通し紫外線照射を行った。このようにしてハードコート層が積層されたサンプルを得た。さらに、裏面の反射の影響をなくすために、裏面(ハードコート層面の反対面)を240番のサンドペーパーで粗面化した後、黒色マジックインキ(登録商標)にて着色して調整したサンプルを、暗室にて、3波長蛍光灯(ナショナル パルック 3波長形昼白色(F.L 15EX−N 15W))の直下30cmに置き、視点を変えながらサンプルを目視したときに、虹彩模様が視認できるか否かで評価した。なお、1つのサンプルについて場所を変えた5箇所について評価したうち、最も多い評価結果を採用する。
・虹彩模様がみえない : Aランク
・非常に弱い虹彩模様が見える : Bランク
・弱い虹色模様が見える : Cランク
・強い虹色模様がはっきり見える: Dランク
【0071】
(8)全光線透過率
JIS K 7105法に従って試験を行った。測定は10点の平均値とした。
【0072】
(9)ヘイズ
JIS K 7105法に従って試験を行った。3回の測定の平均値を求めた。
【実施例】
【0073】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0074】
(塗剤の調整)
[透明架橋フィルム形成混合物用塗剤]
(塗剤1:ビニルエステル組成物)
温度計、撹拌装置、分留コンデンサー、ガス導入管を取り付けた1Lのフラスコに、ビスフェノールAジエポキシ化合物 374.4g(1.20モル)、メタクリル酸 206.4g(2.4モル)、オクチル酸クロム 1.5g、亜リン酸0.15g、ハイドロキノン0.2gを加え、窒素ガスを吹き込みながら120〜125℃で2時間反応を行った。酸価11.0となった段階で、フラスコ内組成物を金属製バットに注入し、冷却したところ無色透明なビニルエステル組成物が得られた。(固形分100%)とした。
【0075】
(塗剤2:多官能アクリレート)
多官能アクリレートとしてDPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:日本化薬(株)製:固形分100%)を用いた。
【0076】
(塗剤3:分子量3000のウレタンアクリレート)
ウレタンアクリレートとして、2官能ウレタンアクリレート(KY−200:根上工業(株)製:固形分100%)を用いた。
【0077】
(塗剤4:分子量6000のウレタンアクリレート)
ウレタンアクリレートとして、2官能ウレタンアクリレート(DKS−18:根上工業(株)製:固形分100%)を用いた。
【0078】
(塗剤5:分子量8000のウレタンアクリレート)
ウレタンアクリレートとして、2官能ウレタンアクリレート(DKS−30:根上工業(株)製:固形分100%)を用いた。
【0079】
(塗剤6:分子量12000のウレタンアクリレート)
ウレタンアクリレートとして、2官能ウレタンアクリレート(DKS―5:根上工業(株)製:固形分100%)を用いた。
【0080】
(塗剤7:分子量1500の多官能ウレタンアクリレート)
多官能ウレタンアクリレートとして、10官能ウレタンアクリレート(UV−1700B:日本合成化学工業(株)製:固形分100%)を用いた。
【0081】
(塗剤8:その他のアクリレート)
反応希釈剤として1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(固形分100%)を用いた。
【0082】
(光開始剤1)
光開始剤として1−ヒドロキシーシクロヘキシルーフェニルケトン(“イルガキュア184”:長瀬産業(株)製)を用いた。
【0083】
上記の材料を表1に示す混合比率(固形分重量比)で混合して、実施例1〜9、比較例1〜5の塗布液を得た。
【表1】

【0084】
(製膜方法)
実施例1〜9、比較例1〜5の塗布液をフッ素処理金属板上へアプリケーターを用いて塗工後、照射強度が600mJ/cmとなる紫外線を照射して樹脂組成物を硬化させ、金属板から剥離してフィルムを得た。なおフィルム厚みは80μmとした。
【0085】
得られた実施例1〜9、比較例1〜5のフィルムの光学的等方性、鉛筆硬度、干渉縞の有無、自己支持性の評価、ガラス転移点(℃)、破断伸度(%)、全光線透過率(%)、ヘイズ(%)を測定・評価した。結果を表2に示す。

【表2】

【0086】
表2から、分子量が本発明の範囲にある2官能ウレタンアクリレートの配合量が本発明の範囲にある場合(実施例1〜9)では、光学的等方性、表面硬度(鉛筆硬度)、自己支持性、透明性、伸度のいずれにも優れ、バランスの良いフィルムであることがわかる。また、全光線透過率、ヘイズも優れていた。
【0087】
また、2官能ウレタンアクリレートの配合量が本発明の範囲より多い、比較例1の透明架橋フィルムでは、鉛筆硬度が「H」であり、許容範囲ではあるが、実施例1〜3の透明架橋フィルムの鉛筆硬度「2H」に比べて、鉛筆硬度が低下していることがわかる。また、比較例1の透明架橋フィルムのガラス転移点は110℃であり、実施例1〜3の透明架橋フィルムのガラス転移点(133℃、128℃、123℃)より低下していることがわかる。このことから、2官能ウレタンアクリレートの配合量が本発明の範囲より多いと、Tgが低下し、耐熱性に欠けることがわかる。
【0088】
また、2官能ウレタンアクリレートの配合量が本発明の範囲より少ない、比較例2の透明架橋フィルムでは、破断伸度が2.5%であった。一方、実施例1〜3の透明架橋フィルムの破断伸度は7.1%、7.6%、8.0%と優れていることがわかる。このことから、2官能ウレタンアクリレートの配合量が本発明の範囲より少ないと、自己支持性が低下し、ハンドリング性が不十分となることがわかる。
【0089】
ウレタンアクリレートの官能基数が10と、本発明の範囲を超えて、多官能であり、分子数が1500と、本発明の範囲より分子量が小さい場合(比較例3)では、自己支持性がなく、破断伸度が0.7%と劣り、ハンドリング性が不十分なものであった。一方、ウレタンアクリレートの官能基数が2であり、分子量が3000である以外は、組成が同様の実施例4の透明架橋フィルムは、自己支持性があり、破断伸度が7.2%と優れ、ハンドリング性が十分なものであった。このことから、ウレタンアクリレートの官能基数が2であるとよいことがわかる。
【0090】
多官能アクリレートである塗剤2を含まない、比較例4の透明架橋フィルムは、鉛筆硬度が「HB」と、表面硬度(鉛筆硬度)に欠ける。一方、多官能アクリレートである塗剤2を含む以外は、比較例4と同じ、実施例2、8の透明架橋フィルムは、いずれも鉛筆硬度が「2H」と表面硬度(鉛筆硬度)に優れる。このことから、多官能アクリレートは、本発明の透明架橋フィルムは、表面硬度(鉛筆硬度)に寄与していることがわかる。
【0091】
多官能アクリレートである塗剤2が本発明の範囲を超えている、比較例5の透明架橋フィルムは、鉛筆硬度が「3H」と、表面硬度(鉛筆硬度)に優れるが、自己支持性がなく、破断伸度も0.4%と、ハンドリング性に欠ける。一方、多官能アクリレートである塗剤2が本発明の範囲内である実施例2、8の透明架橋フィルムは、いずれも鉛筆硬度が「2H」と表面硬度(鉛筆硬度)ではあるが、自己支持性を有し、破断伸度も、7.2%、6.4%と、ハンドリング性に優れる。このことから、多官能アクリレートが本発明の範囲内であれば、自己支持性に優れ、ハンドリング性に優れることがわかる。
【0092】
表2に示すようにそれぞれの組成物が本発明の範囲にある場合(実施例1〜9)には、自己支持性に優れ、Tgが高く、硬度、透明性に優れたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の透明架橋フィルムは、光学用フィルムとして満足しうる透明性、耐熱性、表面硬度に優れ、かつ光学的等方性がある単独フィルムとして自己支持性に優れたものであり、各種ディスプレイの基材フィルムとして好適に用いることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルエステル組成物100重量部に対し、多官能アクリレート5〜50重量部と、2官能ウレタンアクリレート5〜30重量部とを含有する液状硬化性組成物の硬化物である、透明架橋フィルム。
【請求項2】
前記2官能ウレタンアクリレートの数平均分子量が2000以上12000以下である、請求項1に記載の透明架橋フィルム。
【請求項3】
前記ビニルエステル組成物は、ビスフェノール型または脂環式のエポキシ化合物と、アクリル酸またはメタクリル酸とをエステル化反応させて得られるビニルエステル組成物である、請求項1または2に記載の透明架橋フィルム。
【請求項4】
リターデーションが5nm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の透明架橋フィルム。
【請求項5】
ガラス転移点温度が120℃以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の透明架橋フィルム。
【請求項6】
破断伸度が3%以上30%以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の透明架橋フィルム。



【公開番号】特開2009−173816(P2009−173816A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15858(P2008−15858)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】