説明

透析用剤、および透析用剤の製造方法

【課題】保存中に固結を生じ難く、透析液の調製作業を行い易い透析用剤、および透析用剤の製造方法を提供する。
【解決手段】塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、塩化マグネシウムと、酢酸ナトリウムとを成分に含む粒状物4を混在した透析用剤であって、粒状物4とは別個に透析用成分剤(塩化ナトリウム粒子およびブドウ糖粒子)5を含み、粒状物4を1700μm以下とし、粒状物4のうち、1000μm以上1700μm以下となる含有量を粒状物4の全量の30重量%以上とするとともに、355μm以下となる含有量を粒状物4の全量の10重量%以下とし、塩化ナトリウム粒子を850μm以下とし、塩化ナトリウム粒子のうち150μm以下となる含有量を塩化ナトリウム粒子の全量の10重量%以下とし、ブドウ糖粒子を850μm以下とし、ブドウ糖粒子のうち150μm以下となる含有量をブドウ糖粒子の全量の10重量%以下とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工透析に用いる重炭酸透析液の調製に使用され、粒状物を含んで構成された固体透析用剤などの透析用剤、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透析液(具体的には、重炭酸透析液)の調製に使用される透析用剤には、液体型と固体型の2種類の型がある。液体型の透析用剤は、その大部分が水で占められており、重量と容量が大きくなるため、透析医療従事者への運搬作業の負荷が大きく、保管スペースも大きくなってしまう。一方、固体型の透析用剤は、主に粉末状や顆粒状に構成されており、水に溶解されて透析液となる。また、液体型の透析用剤と比較して重量や容量が小さい。このため、近年では、固体型の透析用剤(固体透析用剤)が急速に普及している。
【0003】
固体透析用剤は、当該固体透析用剤を構成する複数の原材料(成分)を固体状態(例えば、粉末状態、粒状態、顆粒状態)で混合・攪拌し、この混合物から粒状物を造粒して製造されている(例えば、特許文献1〜3参照)。なお、固体透析用剤の原材料は、電解質成分としての塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウムと、糖質成分としてのブドウ糖と、アルカリ化成分としての炭酸水素ナトリウム(重曹)と、pH調整剤としての酢酸(氷酢酸)である。また、調製後の透析液の成分濃度を適切な濃度(詳しくは透析治療を受ける患者にとって適切な濃度)とするため、固体透析用剤内の塩化ナトリウムの含有量が他の原材料の含有量よりも極めて多く設定されている。なお、上記した各原材料は一例であり、他の原材料を用いて固体透析用剤を構成することもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−261454号公報
【特許文献2】特開2005−239618号公報
【特許文献3】特許第4001062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、透析用剤の1バッチ当たりの製造効率を向上させるために、原材料の大部分を占める塩化ナトリウムを含まない混合物から粒状物を造粒し、この粒状物と市販の塩化ナトリウム粉末とを含ませて固体透析用剤を製造することが考えられている。このような製造方法を行えば、1バッチ当たりの透析用剤の包数(個数)の増量を図ることができる。しかしながら、塩化ナトリウムを除く原材料は、塩化ナトリウムと比較して溶解性、具体的には潮解性が高く、混合・攪拌し続けるとべとついて粘度が高くなってしまい、各成分の含量均一性を得られるまで混合・攪拌を十分に行うことができない。また、各成分が均一に混ざる前に、高粘度化した原材料が混合・攪拌装置に付着してしまう。この結果、造粒工程を経て粒状物を造粒できたとしても、この粒状物に含まれる成分量がバラついてしまい、調製後の透析液の成分濃度が予め設定された許容範囲から外れてしまう虞がある。
【0006】
また、粒状物を含んだ透析用剤を袋体などの収納容器へ収納し、この状態で保存しておくと、透析用剤が強固に固結してしまいがちになる。そして、透析液調製時に透析用剤が水に溶解し難くなり、透析液の調製作業に支障を来たす虞がある。
【0007】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、粒状物に含まれる成分量がバラつく不都合を抑えることができ、また、保存中に固結を生じ難く、透析液の調製作業を行い易い透析用剤、および透析用剤の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1に記載のものは、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、塩化マグネシウムと、酢酸ナトリウムとを成分に含む粒状物を混在した透析用剤であって、
前記粒状物中の各成分の重量から算出する成分重量比mを次式、
m=(Ma+Mb)/(Mc+Md+Me)
Ma:塩化ナトリウムの重量
Mb:塩化カリウムの重量
Mc:塩化カルシウムの重量
Md:塩化マグネシウムの重量
Me:酢酸ナトリウムの重量
(ただし、各成分の重量は無水物換算)
で設定するとともに、該成分重量比mを0.5〜6とし、
前記粒状物とは別個に塩化ナトリウム粒子およびブドウ糖粒子を含み、粒状物と塩化ナトリウム粒子とブドウ糖粒子とを水に溶解して透析液を調製すると、該透析液の成分濃度が予め設定された許容成分濃度条件を満たすように構成され、
前記粒状物の粒径を1700μm以下に設定し、この粒状物のうち、粒径が1000μm以上1700μm以下となる含有量を粒状物の全量の30重量%以上とするとともに、粒径が355μm以下となる含有量を粒状物の全量の10重量%以下とし、
前記塩化ナトリウム粒子の粒径を850μm以下に設定し、この塩化ナトリウム粒子のうち粒径が150μm以下となる含有量を塩化ナトリウム粒子の全量の10重量%以下とし、
前記ブドウ糖粒子の粒径を850μm以下に設定し、このブドウ糖粒子のうち粒径が150μm以下となる含有量をブドウ糖粒子の全量の10重量%以下としたことを特徴とする透析用剤である。
【0009】
請求項2に記載のものは、前記粒状物と塩化ナトリウム粒子とブドウ糖粒子とを含ませてA剤とし、該A剤とは別個に炭酸水素ナトリウムをB剤とし、A剤およびB剤を水に溶解して透析液を調製可能とした請求項1に記載の透析用剤である。
【0010】
請求項3に記載のものは、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、塩化マグネシウムと、酢酸ナトリウムとを成分に含む粒状物を混在した透析用剤の製造方法であって、
前記各成分を次式、
m=(Ma+Mb)/(Mc+Md+Me)
Ma:塩化ナトリウムの重量
Mb:塩化カリウムの重量
Mc:塩化カルシウムの重量
Md:塩化マグネシウムの重量
Me:酢酸ナトリウムの重量
(ただし、各成分の重量は無水物換算)
で設定される成分重量比mが0.5〜6となる状態で混合し、この混合物から前記粒状物を造粒し、
前記粒状物とは別個に塩化ナトリウム粒子およびブドウ糖粒子を含ませ、粒状物の含有量と塩化ナトリウム粒子の含有量とブドウ糖粒子の含有量とを、粒状物と塩化ナトリウム粒子とブドウ糖粒子とを水に溶解して調製された透析液の成分濃度が予め設定された許容成分濃度条件を満たすように設定し、
前記粒状物の粒径を1700μm以下に設定し、粒径が1000μm以上1700μm以下となる粒状物を粒状物の全量の30重量%以上含ませるとともに、粒径が355μm以下となる粒状物を粒状物の全量の10重量%以下含ませ、
前記塩化ナトリウム粒子の粒径を850μm以下に設定し、粒径が150μm以下となる塩化ナトリウム粒子を塩化ナトリウム粒子の全量の10重量%以下含ませ、
前記ブドウ糖粒子の粒径を850μm以下に設定し、粒径が150μm以下となるブドウ糖粒子をブドウ糖粒子の全量の10重量%以下含ませることを特徴とする透析用剤の製造方法である。
【0011】
請求項4に記載のものは、前記粒状物と塩化ナトリウム粒子とブドウ糖粒子とを含ませてA剤を製造し、炭酸水素ナトリウムからなるB剤をA剤とは別個に製造することを特徴とする請求項3に記載の透析用剤の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下のような優れた効果を奏する。
すなわち、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、塩化マグネシウムと、酢酸ナトリウムとを成分に含む粒状物を混在した透析用剤であって、
前記粒状物中の各成分の重量から算出する成分重量比mを次式、
m=(Ma+Mb)/(Mc+Md+Me)
Ma:塩化ナトリウムの重量
Mb:塩化カリウムの重量
Mc:塩化カルシウムの重量
Md:塩化マグネシウムの重量
Me:酢酸ナトリウムの重量
(ただし、各成分の重量は無水物換算)
で設定するとともに、該成分重量比mを0.5〜6としたので、他の原材料と比較して大量の塩化ナトリウムを加えずに粒状物を造粒することができ、この粒状物の造粒後に塩化ナトリウムを加えて透析用剤を製造することができる。したがって、1バッチ当たりの透析用剤の包数(個数)を増量することができ、透析用剤の製造効率の向上を図ることができる。また、粒状物の造粒時に、潮解性の低い塩化ナトリウムを加えて原材料の粘度が高くなる不具合を抑えることができる。したがって、原材料が製造装置に付着して粒状物に含まれる成分量がバラつく不都合、ひいては、調製後の透析液の成分濃度が許容範囲から外れる不都合を防ぐことができる。
【0013】
また、粒状物とは別個に塩化ナトリウム粒子およびブドウ糖粒子を含み、粒状物と塩化ナトリウム粒子とブドウ糖粒子とを水に溶解して透析液を調製すると、該透析液の成分濃度が予め設定された許容成分濃度条件を満たすように構成され、粒状物の粒径を1700μm以下に設定し、この粒状物のうち、粒径が1000μm以上1700μm以下となる含有量を粒状物の全量の30重量%以上とするとともに、粒径が355μm以下となる含有量を粒状物の全量の10重量%以下とし、塩化ナトリウム粒子の粒径を850μm以下に設定し、この塩化ナトリウム粒子のうち粒径が150μm以下となる含有量を塩化ナトリウム粒子の全量の10重量%以下とし、ブドウ糖粒子の粒径を850μm以下に設定し、このブドウ糖粒子のうち粒径が150μm以下となる含有量をブドウ糖粒子の全量の10重量%以下としたので、透析用剤を構成する構成要素(粒状物、塩化ナトリウム粒子、ブドウ糖粒子)同士の接触面積を小さく抑えることができ、透析液調製前の保存中に構成要素が固結することを抑制することができる。したがって、透析液調製時に透析用剤が水に溶解し易くなり、透析液を支障なく調製することができる。さらに、透析用剤の流動性が良好となり、透析用剤を袋などの容器へ収納する作業をスムーズに行うことができる。このことから、透析用剤の製造効率を向上し易い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】透析用剤の概略図である。
【図2】A剤の製造工程の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態における透析用剤(固体透析用剤)1は、図1に示すように、A剤2とB剤3とから構成されている。ここで、B剤3はアルカリ化成分の一種である固形状の炭酸水素ナトリウムである。また、A剤2は、透析用剤1からB剤3を除いた残りの成分からなり、後述の造粒工程で造粒される粒状物4と、粒状物4とは別個に加えられる固形状の透析用成分剤5とを混在して構成されている。そして、A剤2およびB剤3は、それぞれ別個の容器6、例えば高密度ポリエチレン製ボトルや可撓性のある合成樹脂シート材(フィルム材)を筒状に形成した袋に充填されている。
【0016】
次に、A剤2を構成する粒状物4および透析用成分剤5について説明する。
粒状物4は、透析用剤1を構成する複数の電解質成分とpH調整剤、具体的には、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、塩化マグネシウムと、酢酸ナトリウムと、酢酸(氷酢酸)とから構成されている。そして、粒状物4中の各成分のうち、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウムの重量から算出する成分重量比mを次式、
m=(Ma+Mb)/(Mc+Md+Me)
Ma:塩化ナトリウムの重量
Mb:塩化カリウムの重量
Mc:塩化カルシウムの重量
Md:塩化マグネシウムの重量
Me:酢酸ナトリウムの重量
(ただし、各成分の重量は無水物換算)
で設定し、成分重量比mが0.5〜6、好ましくは1〜6となるように各成分量を設定して、塩化ナトリウムの重量が他の成分の重量よりも極めて大きくなることを避けている。
【0017】
透析用成分剤5は、透析液に必要な成分のうち粒状物4中の成分とは異なる粒状物非含有成分(具体的には、糖質成分としてのブドウ糖)と、粒状物4中にも含まれている粒状物含有成分(具体的には、電解質成分の一種である塩化ナトリウム)とを、それぞれ粒状物4とは別個に固形状(具体的には、粉末状、顆粒状、粒状)にして構成されている。具体的には、塩化ナトリウム粒子とブドウ糖粒子とを含んで構成されている。なお、透析用成分剤5として透析用剤1内に混在する塩化ナトリウム粒子の重量は、透析用剤1から調製された透析液の成分濃度、詳しくはナトリウムおよび塩素の成分濃度が予め設定された許容成分濃度条件を満たすことができるように設定されている。言い換えると、透析用成分剤5としての塩化ナトリウム粒子は、粒状物4に含まれている分では足りない塩化ナトリウムの量を補充する補充剤として機能する。なお、透析液中の成分濃度の好適な範囲は以下の通りである。
Na 120〜150mEq/L
1.5〜3.0mEq/L
Ca++ 2.0〜4.0mEq/L
Mg++ 0.5〜2.0mEq/L
Cl 90〜120mEq/L
HCO 20〜35mEq/L
CHCOO 2.0〜12mEq/L
ブドウ糖 0〜2.5g/L
【0018】
このような構成から成る透析用剤1の製造方法、主にA剤2の製造方法について、図2に基づき説明する。なお、B剤3は、炭酸水素ナトリウムのみを容器6bへ所定の分量だけ充填して製造される。
まず、A剤2の原材料として、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、塩化マグネシウムと、酢酸ナトリウムとを、成分重量比mが0.5〜6となる分量で1バッチ分準備し、これらを攪拌混合機(図示せず)へ投入し、各成分が均一に混ざるまで混合・攪拌を十分に行う(混合・攪拌工程)。このとき、攪拌混合機内には、潮解性が比較的高い成分(塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム)だけではなく、これらの成分よりも潮解性が低い成分(塩化ナトリウム)をも投入しているので、混合・攪拌中に原材料がべとついてくることを防ぐことができ、原材料の粘度が高くなり難い。したがって、原材料が製造装置である攪拌混合機の内壁に付着する不都合、ひいてはこの原材料から造粒される粒状物4に含まれる成分量がバラつく不都合を抑えることができ、調製後の透析液の成分濃度が許容範囲から外れることを防ぐことができる。
【0019】
攪拌混合機へ投入された原材料を十分に混合・攪拌したならば、この混合物を粉砕機(図示せず)へ供給し、粉砕機で粉砕して微粉状にする(粉砕工程)。この粉砕工程においても、原材料の粘度が高くなり難く、原材料が粉砕機内に付着することを抑えることができる。原材料を微粉状に粉砕したならば、この微粉状の原材料を、圧縮機(ローラコンパクタ)と破砕機(オシレータ)と分級機とからなる造粒装置(図示せず)へ供給して粒状物4を造粒する(造粒工程)。具体的には、微粉状の原材料を圧縮機で圧縮して圧縮体を形成し、この圧縮体を破砕機(図示せず)で破砕し、分級機で分級して所望粒径の粒状物4を得る。粒状物4を造粒したならば、この粒状物4を乾燥させ、乾燥後に粒状物4と氷酢酸とを混合機(容器回転型混合機,図示せず)で混合して粒状物4のpH調整処理を行う(pH調整工程)。
【0020】
そして、粒状物4と、別途準備した透析用成分剤5(塩化ナトリウム粒子およびブドウ糖粒子)とを所定の分量で容器6a(B剤3の容器6bとは別個の容器6a)に充填してA剤2を得る。具体的には、粒状物4を篩で分級する等して粒径を1700μm以下に設定し(言い換えると粒径が1700μmよりも大きい粒状物4を除去し)、さらには、粒径が1000μm以上1700μm以下となる粒状物4を粒状物4の全量の30重量%以上含ませるとともに、粒径が355μm以下となる粒状物4を粒状物4の全量の10重量%以下含ませて容器6aに充填する。また、塩化ナトリウム粒子を篩で分級する等して粒径を850μm以下に設定し、さらには、粒径が150μm以下となる塩化ナトリウム粒子を塩化ナトリウム粒子の全量の10重量%以下含ませて容器6aに充填する。そして、ブドウ糖粒子を篩で分級する等して粒径を850μm以下に設定し、さらには、粒径が150μm以下となるブドウ糖粒子をブドウ糖粒子の全量の10重量%以下含ませて容器6aに充填する。このようにして行われるA剤2の製造方法においては、他の原材料と比較して大量の塩化ナトリウムを加えずに粒状物4を造粒し、この粒状物4の造粒後に塩化ナトリウムを加えて透析用剤1のA剤2を製造することができる。したがって、1バッチ当たりの透析用剤1の包数(個数)を増量することができ、透析用剤1の製造効率の向上を図ることができる。
【0021】
また、容器6aに充填されたA剤2の構成要素(粒状物4、透析用成分剤5である塩化ナトリウム粒子およびブドウ糖粒子)同士の接触面積を小さく抑えることができ、透析液調製前の保存中に粒状物4、透析用成分剤5(塩化ナトリウム粒子およびブドウ糖粒子)が固結することを抑制することができる。したがって、透析液調製時にA剤2(透析用剤1)が水に溶解し易くなり、透析液を支障なく調製することができる。さらに、粒状物4および透析用成分剤5の流動性が良好となり、容器6aへの充填(収納)作業をスムーズに行うことができる。このことから、透析用剤1の製造効率を向上し易い。
【0022】
このようにして製造された透析用剤1(A剤2およびB剤3)から透析液を調製するには、A剤2を所定量の精製水に溶解してA原液を作製し、B剤3を所定量の精製水に溶解してB原液を作製し、これらのA原液とB原液とを所定の比率で混合希釈する。例えば、2682.0gのA剤2を9Lになるように精製水で溶解してA原液を作製し、661.6gのB剤3を11.34Lになるように精製水で溶解してB原液を作製する。そして、A原液:B原液:精製水=1:1.26:32.74の割合で混合すれば、315Lの透析液を調製することができる。
【0023】
なお、上記実施形態においては、十分に混合・攪拌した複数の原材料を粉砕、圧縮、破砕の各処理を行って粒状物4を造粒したが、本発明はこれに限定されず、原材料から粒状物4を造粒できればどのような処理を経てもよい。
【実施例】
【0024】
次に、本発明の実施例および比較例を挙げて本発明をさらに説明する。まず、上記成分重量比mの設定の実施例および比較例について説明する。
実施例1においては、塩化ナトリウム5.355kg、塩化カリウム2.35kg、塩化カルシウム2水和物3.475kg、塩化マグネシウム6水和物1.6kg、酢酸ナトリウム無水物10.335kgをそれぞれ量り取って成分重量比mを0.6に設定し、攪拌混合機で混合してから粉砕機で微粉状に粉砕した。そして、微粉にした原材料を造粒装置へ供給して粒状物を造粒し、造粒された粒状物と氷酢酸2.1kgとを混合機で混合し、得られた粒状物504.3gと、透析用成分剤(塩化ナトリウム1862.7g、およびブドウ糖315g)とを容器に充填してA剤を得た。さらに、A剤を精製水で溶解してA原液9Lを調製し、このA原液を35倍希釈して成分濃度を測定した。
【0025】
実施例2においては、塩化ナトリウム13.060kg、塩化カリウム2.35kg、塩化カルシウム2水和物3.475kg、塩化マグネシウム6水和物1.6kg、酢酸ナトリウム無水物10.335kgをそれぞれ量り取って成分重量比mを1に設定し、攪拌混合機で混合してから粉砕機で微粉状に粉砕した。そして、微粉にした原材料を造粒装置へ供給して粒状物を造粒し、造粒された粒状物と氷酢酸2.1kgとを混合機で混合し、得られた粒状物658.4gと、透析用成分剤(塩化ナトリウム1708.6g、およびブドウ糖315g)とを容器に充填してA剤を得た。さらに、A剤を精製水で溶解してA原液9Lを調製し、このA原液を35倍希釈して成分濃度を測定した。
【0026】
比較例1においては、粒状物内に塩化ナトリウムを含まないA剤を製造した。具体的には、塩化カリウム2.35kg、塩化カルシウム2水和物3.475kg、塩化マグネシウム6水和物1.6kg、酢酸ナトリウム無水物10.335kgをそれぞれ量り取って成分重量比mを0.2に設定し、攪拌混合機で混合してから粉砕機で微粉状に粉砕した。そして、微粉にした原材料を造粒装置へ供給して粒状物を造粒し、造粒された粒状物と氷酢酸2.1kgとを混合機で混合し、得られた粒状物397.2gと、透析用成分剤(塩化ナトリウム1969.8g、およびブドウ糖315g)とを容器に充填してA剤を得た。さらに、A剤を精製水で溶解してA原液9Lを調製し、このA原液を35倍希釈して成分濃度を測定した。
【0027】
比較例2においては、従来の方法で塩化ナトリウムを透析用成分剤として分離せずにA剤を製造した。具体的には、塩化ナトリウム19.698kg、塩化カリウム0.47kg、塩化カルシウム2水和物0.695kg、塩化マグネシウム6水和物0.32kg、酢酸ナトリウム無水物2.067kgをそれぞれ量り取って成分重量比mを7に設定し、攪拌混合機で混合してから粉砕機で微粉状に粉砕した。そして、微粉にした原材料を造粒装置へ供給して粒状物を造粒し、造粒された粒状物と氷酢酸0.42kgとを混合機で混合し、得られた粒状物2367gと、透析用成分剤(ブドウ糖315gのみ)とを容器に充填してA剤を得た。さらに、A剤を精製水で溶解してA原液9Lを調製し、このA原液を35倍希釈して成分濃度を測定した。
【0028】
各実施例および各比較例で測定された6検体の成分濃度の平均値、標準偏差、変動係数を表1に示す。なお、Na,K,Clの成分濃度の測定はイオンメーター法を用いて行われ、MgおよびCaの成分濃度の測定はキレート滴定法を用いて行われ、酢酸の成分濃度(酢酸イオン:acetate)の測定は液体クロマトグラフィー法を用いて行われた。
【0029】
【表1】

【0030】
表1から、粒状物内に塩化ナトリウムを含有しない比較例1(m=0.2)では、変動係数が、従来の製造方法を行って得られた比較例2の変動係数よりも大きくなってしまい、透析用剤内(具体的にはA剤内)の各成分の含量均一性が不良であることが判る。
【0031】
一方、粒状物内に塩化ナトリウムを含有して成分重量比を0.5以上に設定した2つの実施例では、ほとんどの成分濃度の変動係数において比較例2よりも小さくなり、透析用剤内(A剤内)の各成分の含量均一性が比較例1よりも良好であることがわかる。しかも、実施例2では比較例2(従来製法)とほぼ等しい変動係数となり、透析用剤内(A剤内)の各成分のバラつき具合が従来の透析用剤とほとんど変わらないことが判る。
【0032】
次に、A剤における粒径設定の実施例および比較例について説明する。なお、下記の実施例3〜8および比較例3〜8で用いられるA剤は、粒状物の粒径を1700μm以下に設定するとともに、粒状物の成分重量比mをm=0.5に設定している。さらに、塩化ナトリウム粒子およびブドウ糖粒子を850μm以下に設定している。
【0033】
また、説明の便宜上、A剤に含まれる粒状物(1700μm以下に設定された粒状物)のうち、粒径が1000μm以上1700μm以下となる含有量の粒状物全量に対する割合をR1とし、粒径が355μm以下となる含有量の粒状物全量に対する割合をR2とする。さらに、A剤に含まれる塩化ナトリウム粒子(850μm以下に設定された塩化ナトリウム粒子)のうち、粒径が150μm以下の含有量の塩化ナトリウム粒子全量に対する割合をR3とし、A剤に含まれるブドウ糖粒子(850μm以下に設定されたブドウ糖粒子)のうち、粒径が150μm以下の含有量のブドウ糖粒子全量に対する割合をR4とする。
【0034】
そして、各実施例および各比較例の粒径設定で得られたA剤の固結状態および溶解性を評価した。固結状態の評価においては、A剤を容器に充填した状態で室温30℃下での長期保存(1ヶ月保存、3ヶ月保存、6ヶ月保存)を行い、長期保存後のA剤の固結状態を目視確認して判定した。また、溶解性の評価においては、室温30℃下で6ヶ月間保存したA剤を用いて溶解試験を行った結果に基づいて判定した。詳しくは、溶解槽と循環ポンプとA剤が充填された容器とを配管接続して循環流路を構成し、該循環流路内に約9Lの精製水を27±2L/minの流速で循環し、この循環する精製水によりA剤を溶解してA原液を調製し、このときのA剤の溶け残りを目視で確認した。さらに、循環流路内に設置された電導度計でA原液の電導度を観察し、この電導度が安定するまでの時間を測定した。そして、電導度が安定するまでの時間が短ければ短いほど、溶解性に優れていると評価する。
【0035】
実施例3,4および比較例3,4においては、R1およびR2を大きく異ならせ、R3およびR4を10重量%以下に設定して、粒状物の粒径設定の変化による影響を評価した。具体的に説明すると、実施例3では、R1=53.0重量%、R2=4.7重量%、R3=2.2重量%、R4=2.5重量%に設定した。実施例4では、R1=32.5重量%、R2=9.1重量%、R3=2.3重量%、R4=3.2重量%に設定した。比較例3では、R1=26.4重量%、R2=10.5重量%、R3=3.1重量%、R4=2.6重量%に設定した。比較例4では、R1=15.8重量%、R2=13.7重量%、R3=1.9重量%、R4=2.1重量%に設定した。実施例3,4および比較例3,4の設定で得られたA剤の固結状態および溶解性を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2から、R1(1000μm以上1700μm以下の粒状物の含有率)を30重量%以上とし、且つR2(355μm以下の粒状物の含有率)を10重量%以下とした実施例3,4では、いずれの保存期間においても粒状物の固結が発生しなかった。また、A原液を調製した後でA剤の溶け残りが確認されず、1分30秒以内で電導度が安定した。一方、R1を30重量%未満とし、且つR2を10重量%超過とした比較例3,4では、いずれの保存期間においても粒状物の固結が発生した。また、比較例3では、A原液を調製した後でA剤の溶け残りはなかったが、電導度が安定するまでの時間が3分を超え、実施例3,4における安定時間の2倍以上の時間が掛かった。さらに、比較例4では、調製後の溶け残りが発生し、電導度が安定しなかった。このことから、実施例3,4におけるA剤(R1を30重量%以上に設定し、且つR2を10重量%以下に設定したA剤)は、比較例3,4におけるA剤(R1を30重量%未満に設定し、且つR2を10重量%超過に設定したA剤)よりも溶解性に優れており、A原液を安定した状態で調製可能であることが判る。
【0038】
次に、実施例5,6および比較例5,6においては、R3のみを大きく異ならせ、R1を30重量%以上に設定し、R2およびR4を10重量%以下に設定して、塩化ナトリウム粒子の粒径設定の変化による影響を評価した。具体的に説明すると、実施例5では、R1=46.9重量%、R2=4.6重量%、R3=2.0重量%、R4=3.0重量%に設定した。実施例6では、R1=49.6重量%、R2=5.8重量%、R3=8.9重量%、R4=2.5重量%に設定した。比較例5では、R1=53.1重量%、R2=3.3重量%、R3=14.9重量%、R4=1.5重量%に設定した。比較例6では、R1=48.7重量%、R2=4.8重量%、R3=18.4重量%、R4=2.9重量%に設定した。実施例5,6および比較例5,6の設定で得られたA剤の固結状態および溶解性を表3に示す。
【0039】
【表3】

【0040】
表3から、R3(150μm以下の塩化ナトリウム粒子の含有率)を10重量%以下とした実施例5,6では、いずれの保存期間においても粒状物の固結が発生しなかった。また、A原液を調製した後でA剤の溶け残りが確認されず、1分30秒以内で電導度が安定した。一方、R3を10重量%超過とした比較例5,6では、比較例5の1ヶ月保存を除いたケースにおいて塩化ナトリウム粒子の固結が発生した。また、A原液を調製した後でA剤の溶け残りはなかったが、電導度が安定するまでの時間が2分30秒以上となり、実施例5,6における安定時間よりも1分以上の時間が掛かった。このことから、実施例5,6におけるA剤(R3を10重量%以下に設定したA剤)は、比較例5,6におけるA剤(R3を10重量%超過に設定したA剤)よりも溶解性に優れており、A原液を安定した状態で調製可能であることが判る。
【0041】
次に、実施例7,8および比較例7,8においては、R4のみを大きく異ならせ、R1を30重量%以上に設定し、R2およびR3を10重量%以下に設定して、ブドウ糖粒子の粒径設定の変化による影響を評価した。具体的に説明すると、実施例7では、R1=49.7重量%、R2=6.5重量%、R3=3.4重量%、R4=1.6重量%に設定した。実施例8では、R1=46.8重量%、R2=5.2重量%、R3=4.5重量%、R4=9.3重量%に設定した。比較例7では、R1=40.8重量%、R2=4.2重量%、R3=4.1重量%、R4=13.3重量%に設定した。比較例8では、R1=50.4重量%、R2=5.5重量%、R3=4.4重量%、R4=19.1重量%に設定した。実施例7,8および比較例7,8の設定で得られたA剤の固結状態および溶解性を表4に示す。
【0042】
【表4】

【0043】
表4から、R4(150μm以下のブドウ糖粒子の含有率)を10重量%以下とした実施例7,8では、いずれの保存期間においても粒状物の固結が発生しなかった。また、A原液を調製した後でA剤の溶け残りが確認されず、1分30秒以内で電導度が安定した。一方、R4を10重量%超過とした比較例7,8では、比較例7の6ヶ月保存と、比較例8の3ヶ月保存および6ヶ月保存のケースにおいてブドウ糖粒子の固結が発生した。また、A原液を調製した後でA剤の溶け残りはなかったが、電導度が安定するまでの時間が、僅かではあるが実施例7および実施例8における安定時間よりも長引いた。このことから、実施例7,8におけるA剤(R4を10重量%以下に設定したA剤)は、比較例7,8におけるA剤(R4を10重量%超過に設定したA剤)よりも溶解性に優れており、6ヶ月間以上保存した場合であっても、A原液を安定した状態で調製可能であることが判る。
【符号の説明】
【0044】
1 透析用剤
2 A剤
3 B剤
4 粒状物
5 透析用成分剤
6a,6b 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、塩化マグネシウムと、酢酸ナトリウムとを成分に含む粒状物を混在した透析用剤であって、
前記粒状物中の各成分の重量から算出する成分重量比mを次式、
m=(Ma+Mb)/(Mc+Md+Me)
Ma:塩化ナトリウムの重量
Mb:塩化カリウムの重量
Mc:塩化カルシウムの重量
Md:塩化マグネシウムの重量
Me:酢酸ナトリウムの重量
(ただし、各成分の重量は無水物換算)
で設定するとともに、該成分重量比mを0.5〜6とし、
前記粒状物とは別個に塩化ナトリウム粒子およびブドウ糖粒子を含み、粒状物と塩化ナトリウム粒子とブドウ糖粒子とを水に溶解して透析液を調製すると、該透析液の成分濃度が予め設定された許容成分濃度条件を満たすように構成され、
前記粒状物の粒径を1700μm以下に設定し、この粒状物のうち、粒径が1000μm以上1700μm以下となる含有量を粒状物の全量の30重量%以上とするとともに、粒径が355μm以下となる含有量を粒状物の全量の10重量%以下とし、
前記塩化ナトリウム粒子の粒径を850μm以下に設定し、この塩化ナトリウム粒子のうち粒径が150μm以下となる含有量を塩化ナトリウム粒子の全量の10重量%以下とし、
前記ブドウ糖粒子の粒径を850μm以下に設定し、このブドウ糖粒子のうち粒径が150μm以下となる含有量をブドウ糖粒子の全量の10重量%以下としたことを特徴とする透析用剤。
【請求項2】
前記粒状物と塩化ナトリウム粒子とブドウ糖粒子とを含ませてA剤とし、該A剤とは別個に炭酸水素ナトリウムをB剤とし、A剤およびB剤を水に溶解して透析液を調製可能とした請求項1に記載の透析用剤。
【請求項3】
塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、塩化マグネシウムと、酢酸ナトリウムとを成分に含む粒状物を混在した透析用剤の製造方法であって、
前記各成分を次式、
m=(Ma+Mb)/(Mc+Md+Me)
Ma:塩化ナトリウムの重量
Mb:塩化カリウムの重量
Mc:塩化カルシウムの重量
Md:塩化マグネシウムの重量
Me:酢酸ナトリウムの重量
(ただし、各成分の重量は無水物換算)
で設定される成分重量比mが0.5〜6となる状態で混合し、この混合物から前記粒状物を造粒し、
前記粒状物とは別個に塩化ナトリウム粒子およびブドウ糖粒子を含ませ、粒状物の含有量と塩化ナトリウム粒子の含有量とブドウ糖粒子の含有量とを、粒状物と塩化ナトリウム粒子とブドウ糖粒子とを水に溶解して調製された透析液の成分濃度が予め設定された許容成分濃度条件を満たすように設定し、
前記粒状物の粒径を1700μm以下に設定し、粒径が1000μm以上1700μm以下となる粒状物を粒状物の全量の30重量%以上含ませるとともに、粒径が355μm以下となる粒状物を粒状物の全量の10重量%以下含ませ、
前記塩化ナトリウム粒子の粒径を850μm以下に設定し、粒径が150μm以下となる塩化ナトリウム粒子を塩化ナトリウム粒子の全量の10重量%以下含ませ、
前記ブドウ糖粒子の粒径を850μm以下に設定し、粒径が150μm以下となるブドウ糖粒子をブドウ糖粒子の全量の10重量%以下含ませることを特徴とする透析用剤の製造方法。
【請求項4】
前記粒状物と塩化ナトリウム粒子とブドウ糖粒子とを含ませてA剤を製造し、炭酸水素ナトリウムからなるB剤をA剤とは別個に製造することを特徴とする請求項3に記載の透析用剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−43073(P2010−43073A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166424(P2009−166424)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】