説明

通信システム内のユーザの臨機応変型ビーム形成およびスケジューリング

【課題】ユーザに向けて生成するビームを決定する方法を提供する。
【解決手段】本願発明は、ユーザ母集団内の各ユーザについて追跡されるパラメータに基づいてユーザ母集団からユーザを選択することができ、選択されたユーザによって好まれるビームを決定することができる。基地局で生成したビームはパイロット信号をユーザ母集団に送信するために使用することができる。基地局は、スケジューリング・アルゴリズムを実行し、ユーザ母集団内のすべてのユーザから受け取ったフィードバックに基づきユーザをスケジュールし、そして生成したビームを使用してスケジュールされたユーザに情報を送信することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信システムにおけるビーム生成およびユーザのスケジューリングに関する。
【背景技術】
【0002】
高速パケット・システムのダウンリンク・スループットを改善するためのスケジューリング手法として臨機応変型スケジューリング(Opportunistic Scheduling:OS)が提案されている。OS(例えば、基地局スケジューラまたはスケジューリング・アルゴリズムで採用されているような)では、基地局と基地局が受け持つMSとの間の伝搬チャネルに独立のフェージングが生じるという事実を利用する。この独立のフェージングにより、マルチユーザ・ダイバーシティ(Multi−User Diversity:MUD)と呼ばれるものが生じる。マルチユーザ・ダイバーシティは、時間変動するチャネルが最大容量に迫るときにユーザへの送信をスケジュールするダイバーシティの一形態であり、これにより、システムのスループットが向上する。
【0003】
OSでは、多くのデータ・サービスが遅れに対し許容性があるという事実を利用する。しかし、音声、場合によっては、ビデオなどのリアルタイム・サービスでは、許容できるパケット遅延の長さは限られており、したがってスケジューラ側でも、パケット遅延統計量を考慮しなければならない。さらに、公平性の問題にも対処しなければならない。したがって、OSを実装しているスケジューラまたはスケジューリング・アルゴリズムでは、公平性と遅延統計量を考慮することで所望のシステム・スループットを評価しなければならない。
【0004】
スループット、遅延統計量、および公正さの間のトレードオフの関係を妥当なものとすべくいくつかのスケジューラまたはスケジューリング・アルゴリズムが開発された。HDR(High Data Rate)規格のダウンリンクに対するスループットおよび公平性を高めるPF(Proportional Fair)スケジューラと呼ばれるスケジューラが開発されている。PFスケジューラはMSの平均スループットの対数の総和を最大にすることが証明されている。他のスケジューラでは、それぞれのユーザに割り当てられたタイムスロットの一部を、所望の目的(サービス品質(QoS)要件を満たすことなど)に基づいて任意に選択することができ、そしてスケジューラは時間配分制約条件に従って平均システム・スループットを最大にする。MLWDF(Modified Largest Weighted Delay First)アルゴリズムと呼ばれる、他のスケジューリング・アルゴリズムがあり、これは、Pr{W>τ}≦δ,i=1,・・・,nという式に基づく所望のサービス品質(QoS)を持つn個のMSをサポートする。上の式において、それぞれ、WはMSに対するパケット遅延、τは遅延しきい値を表し、Sは遅延しきい値を超える最大確率を表す。
【0005】
上記のスケジューラまたはスケジューリング・アルゴリズムの例はそれぞれ、OS手法を採用している。しかし、伝搬チャネルのコヒーレンス時間(Coherence Time)が許容可能なパケット遅延と比べて長い場合、またはフェージングが弱い場合(例えば、K係数が高いライス・フェージング(Ricean fading))、OSは役立たない。
【0006】
そこで、遅いチャネルまたは弱いフェージングのシナリオを扱うために、OBF(Opportunistic Beamforming)と呼ばれるスケジューリング手法が提案された。OBFは、OSの「自然な」機能拡張であり、一般的にいうと、単一アンテナを持つ基地局を複数アンテナを持つ基地局で置き換え、タイムスロット毎に、ここで「ビーム」と称する、異なる放射パターンを生成するアルゴリズムを実装するということである。ビームのシーケンスは、完全にランダムで非周期的であるか、または疑似ランダム方式で、固定され予め設計されているN本のビームの集まりから選択することが可能である。OBF手法は、その手法の単純さにより、他の提案されているダウンリンク・ビーム形成システムから区別することができる。例えば、OSと同様に、OBFは、わずかの量のアップリンク・フィードバックを必要とするが、ビーム生成アルゴリズムは独立に実行される、つまりシステムの残り部分から情報を一切受け取らない。
【0007】
OBF手法を採用している通信システムは、無相関環境と相関環境の2つの異なる環境で考察されている。無相関環境では、MSとBSのアンテナのどれかとの間の伝搬チャネルはすべて無相関である。現実のシステムは、各BSのアンテナが十分離れて配置され(例えば、2GHzで3.048m(10フィート)、環境内にある程度の散乱があるときに、このケースに近い。相関環境では、MSと単一BSのすべてのアンテナとの間の伝搬チャネルは、相関が高いが、異なるBSへのチャネルは無相関である。現実のシステムは、BSのアンテナが互いに接近するように配置され(例えば、1/2波長分離れて)、BSで拡散する角度が小さいときに、このケースに近い。一般に、相関システムは無相関システムより優れていることが証明されているため、したがって、本明細書では相関システムを取りあげる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Viswanath et al.「Opportunistic Beamforming Using Dumb Antennas」IEEE Trans.On Information Theory,第48巻第6号,2002年6月
【非特許文献2】G.L.Stuber著「Principles of Mobile Communication」Kluwer Academic Publisher、1966年、52〜55頁
【非特許文献3】Young et al「The Generation of Correlated Rayleigh Random Variates by Inverse Fourier Transform」IEEE Trans.On Comm.、第48巻、第7号、2000年7月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現在開発されているOBF手法では、スループットの高さと遅延特性のよさは相反する目的である。OBF手法に関する研究では、主に、スケジューリング・アルゴリズムだけに注目しているが、その一方で相関システムのビーム生成アルゴリズムは所望のセル/セクタの単純周期的走査であるとみなされていた。ビーム生成アルゴリズムはスケジューラとは独立して実行され、方法はどうあれシステム状態情報を使用してビーム・シーケンスを修正しようとする試みはなされていなかった。これまでビーム形成およびスケジューリングに関する共同研究が実施されたとは信じられていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施例は、ユーザに向けて生成するビームを決定する方法を対象とする。ユーザ母集団内の各ユーザについて追跡されるパラメータに基づきユーザ母集団からユーザを選択し、その選択されたユーザが好むビームを決定することができる。好ましいビームは、基地局によって生成され、パイロット信号をユーザ母集団に送信するために使用されることができる。ユーザ母集団の各ユーザは、このパイロット信号に応答する。基地局は、スケジューリング・アルゴリズムを実行し、ユーザ母集団内のすべてのユーザから受け取ったフィードバックに基づきユーザをスケジュールすることができ、好ましいビームを使用してスケジュールされたユーザに情報を送信することができる。
【0011】
本発明は、以下で述べる詳細な説明と付属の図面からより完全に理解され、類似の要素は類似の参照番号とプライムで表され、複数プライム表記は他の実施形態における類似の要素を示し、これらは説明のためのみ取りあげられており、本発明の実施例を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】PFスケジューリング・アルゴリズムのシステム・スループットに対するMSおよびTの個数の影響を示すグラフである。
【図2】パラメータTの異なる値についてPFアルゴリズムにより決定されたタイムスロット内のパケット間遅延の累積分布関数(CDF)を示す図である。
【図3】サイズの等しい2つのMS母集団に対するパケット間遅延の累積分布関数(CDF)を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例により、MSに対し生成するビームを決定し、伝送を受信するようにMSをスケジュールする方法を説明する流れ図である。
【図5】本発明の一実施例によるシステム・スループットと固定MS母集団の遅延機能停止の確率とを対比するグラフである。
【図6】本発明の一実施例による信号対干渉除去比(SIR)の累積分布関数(CDF)を示すグラフである。
【図7】本発明の一実施例によるシステム・スループットと遅延機能停止の対比を示すグラフである。
【図8】本発明の一実施例によるMSスループットとMS速度の対比を示すグラフである。
【図9】システム・スループットとMSの平均方位角に関するMSの方位角の標準偏差との対比を示すグラフである。
【図10】本発明の一実施例によるシステム・スループットと短期スループットが長期スループットの50%を下回る確率とを対比するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の原理はUMTS(Universal Mobile Telecommunication System:UMTS)規格のよく知られているHSDAP(High Speed Downlink Packet Access)仕様に基づく無線通信システムに好適であり、この実施例に関して説明されている場合があるが、図に示され本明細書で説明されている実施例は、例示のみを目的としており、いかなる形でも制限する意図はない。したがって、当業者にとっては、3G−1x EV−DO、3G−1x EV−DV、UMTS技術に基づく無線通信システムまたはネットワークおよび/または、例えば、ビーム形成およびスケジューリング機能を現在サポートしている、またはサポートするように適合でき、本明細書の教示により考察されている、現在開発中の第四世代無線通信システムに応用するためのさまざまな修正形態は明白であろう。
【0014】
以下で使用されている用語「ユーザ」は、移動局(MS)、ユーザ機器(UE)、加入者、加入者ユーザ、アクセス端末、リモート局などと同義であり、無線通信ネットワーク内の無線資源のユーザを記述するものである。本明細書では、ユーザという用語と移動局という用語は入れ替えて使用することができる場合が多い。基地局(ノードBともいう)という用語は、ネットワークと1つまたは複数の移動局との間のデータ接続を行う機器を記述するものである。システムまたはネットワーク(アクセス・ネットワークなど)は、1つまたは複数の基地局を含むことができる。用語「ビーム」は、基地局により生成される特定の放射パターンを意味する。
【0015】
本明細書で使用されているような、「信号対干渉除去比(SIR)」および「信号対雑音比(SNR)」という用語は、入れ替えて使用することができ、所定の時刻での信号振幅と干渉(雑音)の量との比を表す。
【0016】
これらの実施例は、ユーザ・パケット遅延を低減しながらシステム・スループット改善するため既存のスケジューリング方式とあわせて使用することができるOB(臨機応変型ビーム形成(Opportunistic Beamforming))法を対象とする。MSの好ましいビームを決定するために、BSはBSが送信したパイロット信号に対する応答としてMSから受信された過去のレポート(長い時間にわたる)を処理する。
【0017】
しかし、ビーム形成およびスケジューリングの方法を詳しく説明する前に、発明者は、スケジューリング・ルーチン例、本発明の方法のシミュレーションに使用されるシステム・モデル例について説明し、さらに、本発明の実施例をより適切な文脈で考察できるように公平さと待ち時間の概念について簡単に説明する。
【0018】
スケジューリング・アルゴリズム
これ以降、「スケジューラ」および/または「スケジューリング・アルゴリズム」という用語は、特定のスケジューリング手法を説明するために使用される場合があり、スケジューラまたはスケジューリング・アルゴリズムはハードウェアおよび/またはソフトウェアの両方で実装できるものと理解されたい。したがって、これらの用語は、入れ替えて使用することができる。さらに、用語「ビーム」は、すでに上で説明したように、基地局により生成される特定の放射パターンを意味する。
【0019】
スケジューリング・アルゴリズムには可能な選択肢が多数ある。もっとも単純なスケジューリング・アルゴリズムの1つは、ラウンド・ロビン(RR)スケジューリングと一般に呼ばれるものである。ラウンド・ロビン・スケジューリングは、典型的な時分割多重化であり、同一移動局(MS)への連続する伝送間の遅延は、すべてMSに関して一定であり、等しい。ラウンド・ロビン・スケジューラは、独立して実行され、チャネル状態情報の形のフィードバックを必要としない。対照的に、常に、最高のデータ転送速度で受信することができるMSに常に送信する最高速度スケジューリングでは、可能な最高のシステム・スループットをもたらすが、公平さと遅延はともに無視する。他のスケジューラ、つまりPFスケジューリング・アルゴリズムは、望ましい特性をもつことが証明されている。そこで、あるバージョンのPFスケジューラが、ここでは説明され、いくつかの実施例によるビーム形成法と組み合わせて動作するものとして想定されるが、以下のPFスケジューラ以外のスケジューリング・アルゴリズムも、本明細書では適用可能であることを理解されたい。後述のPFスケジューラは、Viswanath et al.「Opportunistic Beamforming Using Dumb Antennas」IEEE Trans.On Information Theory,第48巻第6号,2002年6月の記事の中で詳しく説明されている。
【0020】
PFスケジューラ
(n)はタイムスロットnのはじめのMSiの移動平均スループットを表し、J∈{1,・・・,n}はタイムスロットn内での伝送について選択されたMSを表すものとし、nはBSがサポートするMSの数であるとする(nは、固定された数として取り扱われるが、アルゴリズムの実行中に動的に変化する場合がある)。その後、タイムスロットT(n+1)でのMSiの移動平均スループットは、式(1)で記述することができる。
【数1】

式(1)の中で、T(0)=δで、δは与えられた初期値であり、Tはスケジューラのスループット平均フィルタ(Throughput averaging filter)の実効メモリを決定する自由パラメータである。式(1)から、大きなTはフィルタの大きな実効メモリに対応し、その逆も成り立つことがわかるであろう。
【0021】
したがって、PFスケジューラを実行するBSにより実装されるスケジューリング決定は、式(2)で記述できるが、ただしタイムスロットn内でBSは以下の式を満たすMS Jをスケジュールする。
【数2】

つまり、式(2)は、BSが、最大のR(n)/T(n)比を持つMSiに送信するということを示している。T(n)項を分母に入れたことで、ここのところ「飢餓状態」にあった(例えば、異常に多いタイムスロットについてパケットを受け取っていなかった)MSは、スケジューリング・プロセスで相対的優先度を与えられることになる。MSiが伝送に関してスケジューリングされると、伝送は速度R(n)で実行される。確率過程
【数3】

は、MSiに割り当てられた時間の長期部分とする定常状態分布
【数4】

を持つマルコフ連鎖であることが証明されている。
【0022】
PFスケジューリング・アルゴリズムの特徴として、(a)システム・スループットはTで課される限界までのMSの個数とMSの速度とともに増大すること、(b)システムのスループットはTとともに増大するが、固定された数のMSについては、スループット利得率はTが増大し続けると飽和すること、(c)Tが増大すると、同じMSへの連続する伝送間に長い遅延が出現し始めることが挙げられる。
【0023】
図1は、PF(Proportional Fair)スケジューリング・アルゴリズムのシステム・スループットに対するMSおよびTの個数の影響を示すグラフである。図1では、シミュレートされたセル・スループットは、2msのタイムスロット(Ts)、0dBのMSのすべてに対するSNR、1msの移動体速度、および2GHzのRFキャリア周波数(Fc)に基づいて、MSの数の関数として示されている。図1に示されているように、システム・スループットは、Tで課された限界までのMSの数とMSの速度とともに高まる。
【0024】
図2は、パラメータTの異なる値についてPFアルゴリズムにより決定されたタイムスロット内のパケット間遅延の累積分布関数(Cumulative Distribution Function:CDF)を示す図である。特に、図2は、長いパケット間遅延(平均的パケット間遅延の数倍)の確率がTとともに高まることを示している。図2のy軸は、遅延がx軸上のタイムスロットの対応する数を超えない確率である。図2には、平均SNR、タイムスロット持続時間、および移動体速度に関する、図1の場合と同じパラメータが示されている。図1および2では、関係式R(n)=log(1+SIR(n))、およびレイリー・フェージングが仮定されている。
【0025】
システム・モデル
以下で説明するビーム形成およびスケジューリング方法を理解しやすくするために、発明者は、以下のシステム・モデル例を作成した。ただし、後述のシステム・モデルは単に1つの可能なシステム・モデルにすぎず、他のシステム・モデルも当業で理解されているように適用可能であることは理解されるであろう。
(a)各チャネルは、G.L.Stuber著「Principles of Mobile Communication」Kluwer Academic Publisher、1966年、52〜55頁の55頁で説明されているように、MSの速度に結びついた、相関レイリー・フェージング処理を受ける。相関レイリー変数列は、MS毎に独立に選択することができる。これは、Young et al「The Generation of Correlated Rayleigh Random Variates by Inverse Fourier Transform」IEEE Trans.On Comm.、第48巻、第7号、2000年7月の記事で説明されているような適当な方法を使って実行される。
(b)各チャネルの平均減衰は、つまり、レイリー・フェージングが除去される場合、実行シミュレーション全体にわたって一定である。
(c)特に断りのない限り、MSはランダムに、かつ一様に、通信可能範囲セクタのエリアに配置される。この選択処理は、シミュレーション実行毎に独立に繰り返される。
(d)BSは全出力で送信する。
(e)BSの入力バッファは、MS毎に1つずつ、常に、送信を待つデータを格納する。つまり、BSへ向かう途中、またはバッファ内で待機しているときにパケットに生じた遅延は無視される。
(f)簡単のため、伝送速度に関係なく、ちょうどパケット1つ分の情報を単一スロットで送信する。
(g)R(n)は、誤りなしで実行され、MSのレポートは遅延なしでBSに完全に届く。データ・パケットは常に、正常に受信される。
【0026】
公平性と待ち時間
公平性(Fairness)の概念は、一般に、各MSに割り当てられた時間の長期部分πに関連付けることができる。例えば、ラウンド・ロビン・スケジューラでは、この部分は、π=1/n、i=1,・・・,nであり、遅延は固定され、nタイムスロットに等しい。R(n)∝SNR(n)、i=1,・・・,nという仮定の下で、すべてのMSへの伝搬チャネルが任意の倍率まで静止プロセス、独立プロセス、および等しく分散されたプロセスである場合、PFアルゴリズムは、MSの平均SIRに関係なくπ=1/nという公平性の特性を処理する。しかし、一般に、上記の主張は正しくない。
【0027】
図3は、サイズの等しい2つのMS母集団に対するパケット間遅延の累積分布関数(CDF)を示すグラフである。特に、図3は、MS母集団が一方のグループの平均SIRが10dBに等しく、他方のグループの平均SIRは−10dBに等しい2つの等しいグループを含む場合のパケット間遅延のCDFを示している。CDFは、R(n)=log(1+SIR(n)),i=1,・・・,nで、他のパラメータは20MS、T=100、0dBの平均SNR、1msの移動局速度、および2GHzのRFキャリア周波数(Fc)という仮定の下でPFアルゴリズムによるシミュレーションで得られた。
【0028】
図3を見ると明らかなように、長い遅延に関しては(特に、約40タイムスロットの、またはそれ以上のパケット間遅延の場合)、「より弱い」グループ(−10dBの平均SIRのグループ)は、「より強い」グループ(10dBの平均SIR)に比べて著しく悪い。例えば、強いグループに対し遅延が100タイムスロット(x軸上で10)を超える確率は1%程度でしかないが、弱いグループ内の移動局のパケット間遅延が100タイムスロットを超える確率はほぼ6%である。
【0029】
このパケット間遅延は、「待ち時間」と呼ぶことができる。待ち時間は、MSが最後のパケットを受信した後経過したタイムスロットの個数と理解することができる。特定のセル内のMSのグループを受け持つBSは、そのセルを受け持つ各MSに対する待ち時間を追跡することができる。以下でわかるように、与えられたタイムスロットにおいて、最も長く待っているMSが選択され、そのMS側で好むビームが生成されるようにできる。これは、現在のタイムスロットでの伝送のため選択MSがスケジューラにより選ばれる確率を高めるという効果を持つ。
【0030】
臨機応変型ビーム形成(概要)
上述のように、OBFは、BSで複数のアンテナを使用するOSの「自然な」機能拡張であり、タイムスロット毎に異なるビームを生成するアルゴリズムを実装する。相関環境では、BSのアンテナへの給電が不均等(振幅に関して)であることからは何も得られない。したがって、選択は、各アンテナに同じ信号電力を供給し、給電フェーズを使用してビームを望む方に向ける。シミュレーションで使用されるN本のビームを120度の扇形に等間隔で配置し、1番目のビームおよびN番目のビームの頂点が扇形の境界と一致するようにした。
【0031】
QoS要件の満足
標準的なMSのサービス品質(QoS)要件を満たすことは、特定のパケット遅延制約条件を満たしながら十分な平均スループットを実現することになる。PFスケジューラを使用したOBFの従来の研究では、システム・スループット、およびそれぞれBSアンテナの本数とMSの個数の関数として、MS毎のスループットのみを重視していた。遅延制約条件は、単にTを適切に選択することに起因していた。しかし、これだと、Tを低減することにより遅延および遅延ジッタを制御する場合スループットのペナルティが大きくなるため、多くのものが不十分なままである。これは、例えば、OSのケースに関して、図1で示唆されている。MS母集団、MS速度の分散、および個々の伝搬チャネルの動的に変化するサイズなどの他のシステム・パラメータも、パケット遅延の統計量および個々のMSの時間配分、さらには平均スループットに影響を及ぼす。
【0032】
さらに、研究中のシステム(またはBSと特徴付けられる「サブシステム」、それが実行中のスケジューラ、およびBSが受け持っているMS)は、通常、MSによって認知されるエンド・ツー・エンド遅延全体に寄与する1つの要因にすぎない。遅延パフォーマンス、および十分な規則正しさと公平さによりMSをサポートできるかどうかを調べるために、システムの残り部分からサブシステムを切り離すことが必要である。これは、BS内のスケジューラの入力バッファにはいつでもデータが入っており、個々のパケットがバッファ内で待機するのに費やす時間は無視されると仮定することにより実行できる。したがって、大いに異なる可能性のある個々のパケット到着処理は、スケジューリング決定には影響しない。各MSの個々のフェージング処理は静的処理であると仮定すると、遅延制約条件は、特定のアプリケーションにより設定できる所定の時間枠で測定された移動平均スループットが与えられたしきい値を下回る確率に関して定義することができる。
【0033】
固定長の「正方形の」時間窓内で少なくとも1つのパケットが受信される必要がある場合、一般要求条件はパケット間遅延に課される時間制限に帰着することが観察されるであろう。
【0034】
この場合、遅延パフォーマンスは、パケット間遅延(2つの正常に受信されたパケット間の遅延)が特定のしきい値を超える確率に関して測定することができる。このようなイベントの発生を「遅延機能停止」と呼ぶことができる。平均待ち時間は、BSがサポートするMSの個数(n)だけで容易に決定できる。例えば、10台のMSがある場合、平均待ち時間は10タイムスロット(平均待ち時間)である。平均待ち時間を変更する手だてはないため、遅延パフォーマンスを改善することは、パケット間遅延の確率密度関数曲線の右側の裾が縮むことを意味する(CDFは図2および3に示されている)。
【0035】
ビーム形成およびスケジューリング・アルゴリズム
OBFシステムでは、スループットの高さと遅延特性の良さは相反する目的である。上述のように、現在のOBF実装では、ビーム・シーケンス生成は独立に実行するものと見られているため、相関システム(例えば、隙間なく並べられている複数のアンテナ)のビーム生成とスケジューリング・アルゴリズムとを組み合わせる試みはなされていない。したがって、比較のために、これ以降、現在のOBF手法を「標準OBF」(sOBF)アルゴリズムと呼ぶことにする。
【0036】
本発明の実施例によりMSに対し生成すべきビームを決定する方法(したがって、スケジューリング方法)では、過去のMSレポートを利用する。MSからは追加レポートも、フィードバックも必要ない。BSで利用可能な情報に基づき走査シーケンスを修正することにより、スループットおよび遅延統計量に関してシステム・パフォーマンスを改善することが可能である。
【0037】
低速移動中のMSは、平均すると高速なフェージングで、伝搬チャネルが実際に変更されていないときに相当数のレポートを送信する。したがって、各ビームでの伝送に対する応答としてMSによって送信されるレポートを平均することによりMSにより「好まれる」ビームを識別することが可能である(適度の個数のビームを仮定する)。「好ましいビーム」は、最高の平均稼働データ率、または、例えば、所定のMSによりBSへ送られるレポート、つまりフィードバックにより示されるような対応するSIRを持つ放射パターンとして理解できる。したがって、BSは、例えば、BSによって送信されるパイロット信号に対する応答としてMSが送信するレポートなど、所定のMSによりBSに送られるレポート、つまりフィードバックに基づいて所定のMSの「好ましいビーム」を決定し生成することができる。
【0038】
以下の表記および条件を導入する、つまり、以下のアルゴリズムについて、N個の予め選択されたビーム{b,b,・・・,b}の有限集合があり、式j(m)∈{1,・・・,N}は、nを現在のタイムスロットとしm=0,1,・・・,n−1についてタイムスロットmで使用されるビームのインデックスを表す。
【0039】
図4は、本発明の実施例により、MSに対し生成されるビームを決定する方法を説明する流れ図である。図4の関数は、例えばソフトウェア・ルーチンを実行するマイクロプロセッサまたはデジタル・シグナル・プロセッサなどのハードウェアまたはソフトウェアにより実装することができる。図4に概略が示されている関数は、さらに、共同臨機応変型ビーム形成およびスケジューリング・アルゴリズムと現在のsOBFアルゴリズムの修正形態を説明するものとして考えることもできる。
【0040】
図4を参照すると、初期化(ファンクション410)で、タイムスロット・カウンタnは初期化され(n=0)、除外窓が空にされる。一般に、チャネル条件の悪いMSにビームが連続的に当たるとシステム・スループットに悪影響が生じる可能性があるため、そのようなことを防止するように設計された時間窓が除外窓である。除外窓は、固定サイズに設定されるか、または可変サイズであり、これについて以下で詳述する。
【0041】
BSは、BSが受け持つ各MSの共通パラメータを追跡する。このパラメータは、MSの上述の「待ち時間」、つまり例えば、MSが最後のパケットを受信してから経過したタイムスロットの数とすることが可能である。それとは別に、BSは、待ち時間の代わりに、各MSの短期スループットなどのパラメータを追跡することも可能であり、その場合、短期スループットを計算するために使用される平均、つまり除去処理は、アプリケーションにより指示することができ、またMS毎に異なる可能性もある。さらに、BSは、BSが受け持つ各MSの長期スループット(または平均スループット)により正規化された短期スループットを追跡することも可能である。
【0042】
BSは、追跡パラメータに基づいてMS母集団からMSを選択する(ファンクション420)。図4は、上述の最も長く待っているMSだけの追跡を例示しており、これは単なる追跡可能パラメータにすぎないことと理解するものであり、計算済みの短期スループットおよび各MSに対する長期スループットにより正規化された短期スループットなどの他のパラメータも、BSにより追跡することも可能である。この例では、BSは、最後のパケットが受信された時刻において最も「飢餓状態」にあるMSを選択する。したがって、与えられた伝送(パケットなど)を受信するのを最も長い期間待っていたとBSによって認識されたMSは、最も長い間待っているMSとして選択されることができる。ファンクション420に示されているように、除外窓に入っていない最も長く待っている移動局がタイムスロットnの最初に移動体母集団内で探索される。このMSは、i(n)を所定のタイムスロットnに対するMSインデックスとして、MSi(n)と呼ばれる。
【0043】
選択されたMSについて、好ましいビームは、好ましいビーム・アルゴリズムに従って決定することができるが(ファンクション430)、これについて以下で詳述する。好ましいビームは、N個のあらかじめ選択されたビームの前述の有限集合から選択される。以前にビームを使用してパイロット信号を送信していた場合は、必ず各MSによりBSにレポートが送り返されている。そのため、BSは、MS母集団内のすべてのMSにより送信された、ビームに関する過去のレポートを収集しているはずである。
【0044】
上述のように、BSは、N本のビームのそれぞれについて、各ビームでの伝送に対する応答としてMSによって送信されるレポートに含まれる情報を平均することができる(適度の数のビームを仮定する)。そこで、集まったレポートに基づき、「好ましいビーム」は、最高の平均稼働データ率、または例えば、MSのレポートにより示されているような最高の対応する平均SIRを持つ放射パターンとすることもできる。したがって、MSi(n)の好ましいビームは、好ましいビーム・アルゴリズムに従って決定することができ、その例について以下で説明する。
【0045】
次に、BSは好ましいビームを生成し(ファンクション430)、その好ましいビームを使用してパイロット信号を送信する(ファンクション440)。その後、BSは、BSが受け持つMS母集団内のすべてのMSからレポートを受信する(ファンクション450)。それらのレポートはそれぞれ、PFアルゴリズムに関して上述のように、n番目のタイムスロットにおいて応答側移動局が受信することができる最大データ転送速度の推定値を表すR(n)項を含むことができる。MS母集団内の各MSは、パイロット信号の信号対干渉除去比(SIR)を測定することによりR(n)を計算し、その後、例えば、シャノンの容量公式R(n)=log(1+SIR(n))などの望ましい変換を適用する。
【0046】
次に、BSのスケジューラは、レポートに基づき、どのMSが現在のタイムスロットでパケットを受信するかを決定する(ファンクション460)。これは、PFスケジューラに関し上で説明した手法を使用することで実行し、「勝利側MS」を選択するようにできる。
BSは、次に、速度Rj(n)で工程460においてスケジューラにより選択されたMSJにデータを送信する工程に進む(ファンクション470)(工程420で選択されたMSであってもなくても)(工程430で選択されたビームに関する式(2)を参照)。除外窓を更新し、次のタイムスロットのためにタイムスロットをインクリメントすることによりこの反復は完了する。除外窓は、ファンクション420で選択されたMSのインデックスi(n)を除外窓に押し込むことにより更新され、それにより窓内の最も古いインデックスであるインデックスi(n−L)が除外窓から落とされる。ファンクション420〜490は、後続のタイムスロットで繰り返すことができる。
【0047】
図4で説明されているファンクションは、一部または全部を実行できる。例えば、ファンクション410〜430および490は、ビーム決定ルーチンの一部として実行することにより、例えば、スケジューリングまたは伝送以外の他の特定のアプリケーションのため好ましいビームを生成することができる。スケジューリングの方法は、ファンクション410〜430に従って好ましいビームを生成することを含むが、BSは好ましいビーム以外のビームを使用してスケジュールされたユーザに情報を送信することができる。実施例に従って好ましいビームを決定する方法は、どのような種類のスケジューリング・アルゴリズムでも使用でき、PFスケジューラはスケジューリング・アルゴリズムの単なる一例にすぎない。
【0048】
好ましいビーム・アルゴリズム
好ましいビームは、以下の「好ましいビーム・アルゴリズム」に従って決定することができる。タイムスロットnでMSiによって好まれるビームは、以下の場合、bである。
【数5】

ただし、
【数6】

式(3)において、j(m)はタイムスロットnでBSにより生成されたビームのインデックスである。j(m)=kとなるmについて、δ=1である。例えば、k=3の場合、第3のビームが生成されたすべてのmについて、δ=1、それ以外の場合はδ=0である。式(3)は、タイムスロットnでのMSiの好ましいビームは、移動局iの最高の移動平均フィードバック率を持つビームであることを示している。つまり、N本のビームのそれぞれを1つずつ評価し、ビームの過去のすべての出現を調べ、過去のレポート(またはレポートの選択されたファンクション)の平均をとり、最高の平均を選ぶ。分母の項δ(l,k)は、式を正規化するために用意されている。
【0049】
パラメータa(0<a<1)は、好ましいビームでMSの位置を追跡できるようにする「忘却係数」である。忘却係数aは、マクロ・セル内で通常は秒単位で測定される処理であるMSによる好ましいビームの変化の追跡が可能なように十分に小さくなければならず、それと同時に高速なフェージングの適切なフィルタ処理を行えるように十分に1に近くなければならない。aを適切に選択するには、例えばシャドウ・フェージングの無相関距離、セル/セクタの物理的サイズ、および注目しているMS速度範囲に基づいて選択する(無相関距離は、2点の間の距離であってそれらの点とBSとの間の経路損失のシャドウ・フェージング成分間の相関はある種のあらかじめ選択された値、e−1にまで減衰してしまうような2点間の距離である)。
【0050】
計算労力とメモリを節約するために、式(4)〜(6)に例示されているように、前のタイムスロットからの情報を利用してMS毎に式(3)を反復計算することができる。
以下の式
【数7】

および
【数8】

から、以下の式が得られる。
【数9】

【0051】
除外窓(L)
除外窓Lは、Lを高々n−1とするL次元ベクトルである。j番目の成分Lは、MSのどれかのインデックスまたは0のいずれかである。除外窓の目的を理解しやすくするために、Lは0に設定され、MSiは最も長く待っているMSを表すものとする。好ましいビーム・アルゴリズムは、MSiによって好まれるビームを繰り返し決定し(選択し)、MSiがパケットを受信するまで次の(および後続の)タイムスロットでその作業を続け、受信したらそれにより最も長く待っているMSであることを止める。これだと、システム・スループットによくない影響が生じる。
【0052】
除外窓の目的は、したがって、「悪い」チャネルから復旧するのが遅いMSにビームが繰り返し当たるのを防止することである。移動の遅いMSでは、可能な最も長い除外窓(N=n−1)は最良の結果を出すように見えるが、車両速度で移動するMSの場合には、短い除外窓(例えば、L=1)のほうがパフォーマンスが良いように見える。MSの速度と一致するようにLを調整するとよい。しかし、BSがMSの速度を知っていると想定されていない。したがって、MSの速度が知られていない状態でLを選択することが必要である。しかしながら、図6に示されているように、良いパフォーマンスは、隙間を広く取った速度で得られ、これについて以下で説明する。
【0053】
ビームの本数(N)は、修正されたOBFアルゴリズムのパフォーマンスに影響を及ぼすことがある。発明者によるシミュレーションでは、Nは、ビームが十分重なり合い、しかもシステム・スループットの損失がわずかであるように、N=11に選択されている。sOBFアルゴリズムにおいて、Nを大きくすると、長い遅延が生じる頻度が増える。本明細書で説明されている修正されたOBFアルゴリズムでは、Nを大きくしても、伝搬チャネルの平均減衰を追跡しながら(高速フェージングを除く)、アルゴリズムで高速フェージングを効率よく除去できるように各ビームに対し十分なレポートが用意されている限り、悪影響がもたらされることはない。これは、「欠損」ビームを挿入するためにビーム生成アルゴリズムからの周期的逸脱を必要とし、それにより、N本すべてのビームを最小限の周期性で働かせることができる。これらの逸脱がタイムスロットのわずかの部分しか占有しない限り、その結果生じる損失は最小である。
【0054】
QoSおよび遅延の他の尺度
上述の方法は、次のパケットを「最も長い間待っている」MSを優先する目的で考案された。より一般的な場合、パフォーマンスを測定するのに、長期間続くサービス低下を基準として使用することができる。MSが持つ必要のある妥当なQoS要件は以下のように述べることが可能である。
a)十分長い期間(平均)のスループット、
b)短期間のスループットの低下は、余り頻繁に生じてはならず、また深すぎても行けない。定量的には、(b)では、短期スループットはタイムスロットの部分δよりも短い間に長期スループットの一部γを下回ることを要求することができる。
【0055】
「長期スループット」、「短期スループット」、およびパラメータγおよびδは、与えられたアプリケーションに基づき可変である(かつ、設定できる)。これは、ビット誤り率(BER)ではなく、例えば「1日の不良分」により通信リンクの品質を測定する頻繁に使用される実践に類似している。
【0056】
QoS目的をこのように定義すると、ビーム生成の方法が変わる。つまり、次のパケットを最も長く待っているMSによって好まれるビームを生成する代わりに、好ましいビーム・アルゴリズムは、短期スループットと長期(または平均)スループットとの最低の比を持つMSにより好まれるビームを生成する。
【0057】
シミュレーションと結果
図5は、本発明の一実施例によるシステム・スループットと固定MS母集団の遅延機能停止の確率とを対比するグラフである。図5は、システム・スループットとTをパラメータとする遅延機能停止の確率とを示している。
【0058】
図5では、遅延制約条件(つまり、しきい値)は、160msとなるように選択されている。20台のMSでは、このしきい値は、平均遅延40msの4倍に等しい。3つのシステムのスループット/遅延曲線が比較されている。第1の「PF」というラベルが付いている曲線は、単一アンテナのPFアルゴリズムである。標準OBFに対する第2の「sOBF」というラベルが付いている曲線は、ビームの単純走査を行うOBFシステムである。第3の「JOBS」というラベルが付いている曲線は、本発明の実施例による図4に関して説明されている方法である。ラベルJOBSは、単なる識別子であり、いかなる形でも実施例を制限するものと解釈すべきではない。図5では、両方のOBFシステムはBSで4本のアンテナを使用し、ビームの同じ集合{b,b,・・・,b11}を生成するが、順序は異なる。すべてのMSに対する平均SNR値は0dBに固定され、移動局速度は8m/秒に固定され、除外窓Lは15に固定される。
【0059】
上述のように、本発明の実施例によれば、遅延パフォーマンスは、パケット間遅延が特定のしきい値を超える確率に関して測定することができ、その場合、そのようなイベントの発生は遅延機能停止と呼ばれる。図5に示されているように、固定された移動局母集団および速度については、遅延機能停止の確率は、JOBSに関してsOBFまたはPFアルゴリズムよりもかなり低い。そのため、JOBSでは、過剰な遅延の発生確率を下げると同時に、より高いシステム・スループットを実現することができることがわかるであろう。
【0060】
図6は、本発明の一実施例による信号対干渉除去比(SIR)の累積分布関数(CDF)を示すグラフである。図6のデータは、MSをセルのエリアにランダムかつ一様に配置することにより生成されたものである。すべてのBSが無指向性アンテナを使用し等しい電力で連続的に送信する場合の六角形のグリッド上の干渉セルの2つのリングを考察した。それぞれのMSについて、平均受信電力が最高であるセクタの信号は信号とみなされる一方で、残りのセクタは干渉電力に寄与していた。
【0061】
BSとMS(または他の任意のBS,MSのペア)の間のAj,iと表されるdB経路損失は、2つの部分の総和、つまりdj,iをBSとMSの間の距離、ξj,iをj,iリンクのシャドウ損失とする、Aj,i=−35logdj,i−ξj,idBとみなされた。ξj,iは、標準偏差a=8dBの独立(リンク毎に)、ゼロ平均、ガウス・ランダム変数としてみなされた。図6に示されている曲線を確立するために何回もこの処理を繰り返した。
【0062】
図7は、本発明の一実施例によるシステム・スループットと遅延機能停止の対比を示すグラフである。図7は、図5に示されているのと同じ実験を、ただし異なる2つの速度(すべてのMSに共通)について繰り返した。この場合、各移動局のSIRは、図6に示されているCDFとは独立に選択される。図7は、すべてのMSの速度が1m/秒に設定される第1のケースと、すべてのMSの速度が8m/秒である第2のケースを示している。
【0063】
上で簡単に説明したように、除外窓はMSの個数およびその速度と一致することが望ましいと考えられる。しかし、BSは、通常、一般的には等しくない、BSが受け持っているMSの速度を知らないため、すべての速度に使用するために特定の固定された除外窓Lを選択する必要があった。図7では、除外窓Lは15に固定されていた。
【0064】
図7に示されているように、JOBSのパフォーマンスは低速、高速の両方にわたってsOBFおよびPFよりも優れているが、利得は特に高速度で大きい。3つすべての一般的トレンドは、図に示されている範囲でTが増大すると遅延機能停止は悪化する(上昇する)が、スループットは小さな利得を示しているというものである。したがって、図7から、JOBSでは、過剰な遅延の発生確率を下げると同時に、より高いスループットを実現することができることがわかるであろう。Tは任意のパラメータなので、特定のアプリケーションに適合するようにスループットと遅延との間の所望のトレードオフの関係を選択することができる。
【0065】
図8は、本発明の一実施例によるMSスループットとMS速度の対比を示すグラフである。OBFアルゴリズムの下で広く分散する速度を持つ個々のMSのスループットを観察するために、7つのMSシステム内のそれぞれのMSに異なる速度が割り当てられた。伝搬チャネルはi.i.dである。図8を参照すると、より高速なMSは、低速なMSと比べてスループットが高いが、違うのは大きいという点であることがわかる。
【0066】
図9は、システム・スループットとMSの平均方位角に関するMSの方位角の標準偏差との対比を示すグラフである。特に、図9は、システム・スループットとBSから見て特定の方位角を中心にMS母集団がクラスタを作る程度との対比を示している。クラスタを作る程度は、MSの平均方位角に関するMSの方位角の標準偏差により測定される。JOBSアルゴリズムがsOBFアルゴリズムに勝っていることは、MSがセル/セクタのエリア上に均等に分布していないが、例えば、商店街などの指定されたエリア内または幹線道路にそって集中している場合により明らかである。sOBFアルゴリズムは、MSの不均等な分布を無視し、負荷の軽いサブセクタ、さらには空のサブセクタであっても、それを照らすのに、負荷の重いエリアの場合と同じタイムスロットを費やす。
【0067】
他方、JOBSアルゴリズムは、MSの空間的分布になじんでおり、空のエリアを避ける。この特徴を示すために、各MSの方位角を、必要な切り捨て、回り込み、スケーリングを行ったラップアラウンド正規確率密度関数N(α,σ)(例えば、αを平均、σを標準偏差とするガウス分布を持つランダム変数)から各シミュレーション実行についてランダムにかつ独立に選択した。シミュレーション実行毎に、セクタ境界内で平均値をランダムにかつ一様に選択した。得られたシステム・スループットは、図9に、標準偏差σの関数として示されている。図9から明らかなように、σが低いときにはJOBSのパフォーマンスはsOBFよりも優れている。
【0068】
図10は、本発明の一実施例によるシステム・スループットと短期スループットが長期スループットの50%を下回る確率とを対比するグラフである。JOBSアルゴリズムのパフォーマンスをより一般的な遅延の尺度(異なるパフォーマンス測定基準)でテストするために、発明者は、好ましいビーム・アルゴリズムが短期スループットと長期(または平均)スループットとの比が最低であるMSによって好まれるビームを出力するように好ましいビーム・アルゴリズムを再構成した。次に、発明者は、システムのスループットと、T=100でフィルタ処理された短期スループットが長期スループットの50%を下回る確率との対比をシミュレートした。その結果は、図10に示されている。このような異なる測定基準であっても、JOBSアルゴリズムはsOBFよりもロバスト性に優れているように思われる。
【0069】
したがって、上述のようにビーム形成とスケジューリングとを組み合わせると、セルラー無線通信システムの与えられたセルまたはセクタ内でサービスを受けるMSは必ず公平にかつ定期的にサービスを受けられるようにできる。選択されたMSを優先すると(最も長い間待っているMSとして選択されるかまたは他の基準に基づいて)、状況にもよるが、MSによるパケット受信で長い中断が生じる確率が小さくなるか、または低下したサービスが続いてしまう期間(日照り続き)が短くなり、例えば、システム遅延制約条件を満たすようにしながらシステム全体のスループットを改善することができる。
【0070】
本発明の実施例によれば、好ましいビームは、システム状態情報を使用して決定することができる。つまり、過剰なまたは追加信号機能を必要としないということである。これにより、ビームはセルまたはセクタを照らすように順番にまたは指定された順序で生成されるため、システム状態情報とは無関係に実行され、したがってシステム状態情報を入力として受け取らないsOBFアルゴリズムに比べてパフォーマンスが高い。
【0071】
以上のように本発明の実施例を説明してきたが、さまざま点で本発明を変更できることは明白であろう。このような変更形態は、本発明の実施例の精神と範囲から逸脱したものとみなされず、このようなすべての修正は、当業者には明らかなことであろうが、請求項の範囲内に収まる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信システムのユーザのためにパケット遅延を低減しながらシステム・スループットを改善する方法であって、
ユーザ母集団の各ユーザについて追跡されるパラメータに基づきユーザ母集団からユーザを選択する工程、及び
有限の複数の選択可能なビームの各ビームから最高の移動平均データ転送速度に基づいて、選択されたユーザが次のパケットを受信するようにスケジュールされる確率を最大にするためそのユーザについて好ましいビームを決定する工程を備え、該好ましいビームは、該好ましいビームで次の伝送を受信するようにユーザ母集団内のユーザをスケジュールするためパイロット信号を送信するのに使用されることを特徴とする方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−61816(P2011−61816A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230154(P2010−230154)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【分割の表示】特願2004−341349(P2004−341349)の分割
【原出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(596092698)アルカテル−ルーセント ユーエスエー インコーポレーテッド (965)
【Fターム(参考)】