説明

通信装置及び通信方法、コンピューター・プログラム、並びに通信システム

【課題】前回通信時に用いたビーム・パターンを有効に利用することによって、効率的に指向性リンクを確立することができ、オーバーヘッドを低減する。
【解決手段】通信装置100は、リンク確立時において、前回使用した送信ビーム・パターンを使って準備パケットを送信することによって、効率的に指向性リンクを確立し、オーバーヘッドを低減する。また、通信装置100は、リンク確立時において、送信タイミングが既知である準備パケットを、前回使用した受信ビーム・パターンを使って受信することによって、効率的に指向性リンクを確立し、オーバーヘッドを低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばミリ波を利用して無線通信を行なう通信装置及び通信方法、コンピューター・プログラム、並びに通信システムに係り、特に、指向性アンテナのビームを通信相手の位置する方向に向けて、ミリ波の信号到達距離を伸ばす通信装置及び通信方法、コンピューター・プログラム、並びに通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
「ミリ波」と呼ばれる無線通信は、高周波の電磁波を利用して通信速度の高速化を実現することができる。ミリ波通信の主な用途として、短距離の無線アクセス通信や、画像伝送システム、簡易無線、自動車衝突防止レーダーなどが上げられる。また現在では、大容量・長距離伝送の実現や、無線装置の小型化、低コスト化など、利用促進に向けたミリ波通信の技術開発が行なわれている。ここで、ミリ波の波長は10mm〜1mm、周波数で30GHz〜300GHzに相当する。例えば、60GHz帯を使用する無線通信では、GHz単位でチャネル割り当てが可能であることから、非常に高速なデータ通信を行なうことができる。
【0003】
ミリ波は、無線LAN(Local Area Network)技術などで広く普及しているマイクロ波と比較しても、波長が短く、強い直進性があり、非常に大きな情報量を伝送することができる。その反面、ミリ波は、反射に伴う減衰が激しいため、通信を行なう無線のパスとしては、直接波や、せいぜい1回程度の反射波が主なものとなる。また、ミリ波は、伝搬損失が大きいため、遠くまで無線信号が到達しない、という性質を持つ。
【0004】
このようなミリ波の飛距離問題を補うために、送受信機のアンテナに指向性を持たせ、その送信ビーム並びに受信ビームを通信相手の位置する方向に向けて、信号到達距離を伸ばす方法が考えられる。ビームの指向性は、例えば送受信機にそれぞれ複数のアンテナを設け、アンテナ毎の送信重み若しくは受信重みを変化させることで制御することができる。ミリ波では、反射波はほとんど使用されず、直接波が重要になることから、ビーム形状の指向性が適しており、指向性として鋭いビームを使うことが考えられる。送信ビーム及び受信ビームを通信相手にそれぞれ向けて無線信号を送受信することがより好ましい。
【0005】
例えば、電力線通信、光通信、音波通信のうちいずれか1つによる通信を利用した第2の通信手段によって送信アンテナの指向性方向を決定するための信号を伝送して、送信アンテナの方向を決定した後、10GHz以上の電波を用いた第1の通信手段によって送受信機間の無線伝送をする無線伝送システムについて提案がなされている(例えば、特許文献1を参照のこと)。
【0006】
また、ミリ波帯を使用する無線PAN(mmWPAN:millimeter−wave Wireless Personal Area Network)の標準規格であるIEEE802.15.3cにも、アンテナの指向性を利用して信号到達距離を伸ばす方法が適用されている。
【0007】
アンテナの最適な指向性を学習する手法として、送信側からトレーニング信号を送り、受信側でその受信結果に応じて最適な指向性を決定する方法が一般的である。例えば、1パケットを送受信する度に送信側でアンテナの指向性を変化させ、受信側でパケットの受信結果に応じて最適な指向性を決定することができる。
【0008】
移動物の多いモバイル環境で用いる場合、通信局同士の指向性リンクを一旦確立したとしても、その後の通信局の移動や遮蔽物の存在により指向性リンクが無効になってしまう可能性がある。すなわち、モバイル環境では、指向性のミリ波通信を利用することは困難である。このため、リンク再確立するときには指向性フレームを利用せず、無指向フレームを用いて指向性の学習処理を行なった後に、指向性フレームの送信を開始する、という運用形態が考えられる。例えば、ミリ波通信において、RTSパケットCTSハンドシェイクを利用した衝突回避手順を採り入れる場合、RTSパケットやCTSパケットといった準備パケットには指向性を利用せず、無指向で送受信し、それらの受信状況に基づいて指向性の方向を決定した上で、指向性を利用してデータ・パケットの送受信を行なう。
【0009】
しかしながら、リンク再確立する度に改めて最適な指向性の学習処理を実行すると、データ・パケットの送信が開始されるまでのオーバーヘッドを伴うことになる。また、ミリ波通信において指向性を利用しないと、その信号到達距離の短さから、RTSパケットやCTSパケットなどの準備パケットが通信相手に届かず(あるいは、通信相手は受信することができず)、この結果、いつまでもデータ・パケットの送信が開始されない(あるいは、指向性通信を開始できない)という事態を招来する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3544891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、指向性アンテナのビームを通信相手の位置する方向に向けて、ミリ波の信号到達距離を伸ばすことができる、優れた通信装置及び通信方法、コンピューター・プログラム、並びに通信システムを提供することにある。
【0012】
本発明のさらなる目的は、効率的に指向性リンクを確立することによって、オーバーヘッドを低減することができる、優れた通信装置及び通信方法、コンピューター・プログラム、並びに通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願は、上記課題を参酌してなされたものであり、請求項1に記載の発明は、
所定の高周波数帯を使用する通信方式に従って指向性の無線通信を行なうことができる無線通信部を備え、
通信相手との間で所定の準備パケットを交換してからデータ伝送を開始する際に、前記無線通信部を指向性制御して前記準備パケットの指向性通信を行なう、
ことを特徴とする通信装置である。
【0014】
また、本願の請求項2に記載の発明によれば、請求項1に係る通信装置は、前記通信相手と前回パケット交換を行なった際の通信ビーム・パターンを利用して前記準備パケットの指向性通信を行なうように構成されている。
【0015】
また、本願の請求項3に記載の発明によれば、請求項2に係る通信装置は、前記通信相手と前回パケット交換を行なってからの経過時間に応じて、前記通信ビーム・パターンを調整するように構成されている。
【0016】
また、本願の請求項4に記載の発明によれば、請求項2に係る通信装置は、前記通信相手と前回パケット交換を行なった際の通信ビーム・パターンを保持していないときには、前記準備パケットを無指向性の通信ビーム・パターンを用いて通信を行ない、又は、前記通信相手とトレーニング動作を実行して得られた通信ビーム・パターンを用いて前記準備パケットの通信を行なうように構成されている。
【0017】
また、本願の請求項5に記載の発明によれば、請求項1に係る通信装置は、データ送信側が送信開始要求パケットを送信するとともにデータ受信側から返信される確認通知パケットを受信してからデータ・パケットの送信処理を開始する手順が適用され、前記データ送信側として動作する際に、前記データ受信側の位置の方向に向けた送信ビーム・パターンを用いて前記送信開始要求パケットを送信するように構成されている。
【0018】
また、本願の請求項6に記載の発明によれば、請求項5に係る通信装置は、前記データ受信側の位置の方向に向けた送信ビーム・パターンを用いて前記送信開始要求パケットを送信したことに応じて前記データ受信側から確認通知パケットを受信できなかったときに、前記送信開始要求パケットを無指向性の送信ビーム・パターンを用いて再送信するように構成されている。
【0019】
また、本願の請求項7に記載の発明によれば、請求項1に係る通信装置は、前記通信相手が送信するタイミングが既知となるパケットを、前記通信相手の位置の方向に向けた受信ビーム・パターンを用いて受信待ちするように構成されている。
【0020】
また、本願の請求項8に記載の発明によれば、請求項1に係る通信装置は、通信相手に割り当てた送信区間に関する情報を通知するとともに、前記送信区間内において、前記通信相手の位置の方向に向けた受信ビーム・パターンを用いて受信待ちするように構成されている。
【0021】
また、本願の請求項9に記載の発明によれば、請求項1に係る通信装置は、データ送信側が送信開始要求パケットを送信し、データ受信側が前記送信開始要求パケットを受信してから第1の所定期間後に確認通知パケットを返信し、前記データ送信側が前記確認通知パケットを受信してから第2の所定期間後にデータ・パケットを送信開始するとともに、前記データ受信側がデータ・パケットを受信してから第3の所定期間後に確認応答パケットを返信する手順が適用され、前記データ送信側として動作する際に、前記送信開始要求パケットを送信してから前記第1の所定期間後に、前記データ受信側の位置の方向に向けた受信ビーム・パターンを用いて前記確認通知パケットを受信待ちし、又は前記データ・パケットを送信してから前記第3の所定期間後に前記データ受信側の位置の方向に向けた受信ビーム・パターンを用いて前記確認通知パケットを受信待ちするように構成されている。
【0022】
また、本願の請求項10に記載の発明によれば、請求項1に係る通信装置は、データ送信側が送信開始要求パケットを送信し、データ受信側が前記送信開始要求パケットを受信してから第1の所定期間後に確認通知パケットを返信し、前記データ送信側が前記確認通知パケットを受信してから第2の所定期間後にデータ・パケットを送信開始するとともに、前記データ受信側がデータ・パケットを受信してから第3の所定期間後に確認応答パケットを返信する手順が適用され、前記データ受信側として動作する際に、前記確認通知パケットを送信してから前記第2の所定期間後に、前記受信側の位置の方向に向けた受信ビーム・パターンを用いて前記データ・パケットを受信待ちするように構成されている。
【0023】
また、本願の請求項11に記載の発明は、所定の高周波数帯を使用する通信方式に従って指向性の無線通信を行なうことができる無線通信部を備えた通信装置における通信方法であって、
通信相手との間で所定の準備パケットを交換してからデータ伝送を開始する際に、前記無線通信部を指向性制御して前記準備パケットの指向性通信を行なうステップを有する、
ことを特徴とする通信方法である。
【0024】
また、本願の請求項12に記載の発明は、所定の高周波数帯を使用する通信方式に従って指向性の無線通信を行なうことができる無線通信部を備えた通信装置における通信処理をコンピューター上で実行するようにコンピューター可読形式で記述されたコンピューター・プログラムであって、前記コンピューターを、
通信相手との間で所定の準備パケットを交換してからデータ伝送を開始する際に、前記無線通信部を指向性制御して前記準備パケットの指向性通信を行なう手段、
として機能させるためのコンピューター・プログラムである。
【0025】
本願の請求項12に係るコンピューター・プログラムは、コンピューター上で所定の処理を実現するようにコンピューター可読形式で記述されたコンピューター・プログラムを定義したものである。換言すれば、本願の請求項12に係るコンピューター・プログラムをコンピューターにインストールすることによって、コンピューター上では協働的作用が発揮され、本願の請求項1に係る通信装置と同様の作用効果を得ることができる。
【0026】
また、本願の請求項13に記載の発明は、通信相手との間で所定の準備パケットを交換してからデータ伝送を開始する手順を適用し、指向性制御して前記準備パケットを送信する第1の通信装置と、送信された前記準備パケットを受信する第2の通信装置と、
を具備することを特徴とする通信システムである。
【0027】
また、本願の請求項14に記載の発明は、通信相手との間で所定の準備パケットを交換してからデータ伝送を開始する手順を適用し、所定の送信タイミングにおいて前記準備パケットを送信する第1の通信装置と、前記送信タイミングにおいて前記第1の通信装置の位置の方向に向けた受信ビーム・パターンを用いて前記準備パケットを受信する第2の通信装置と、
を具備することを特徴とする通信システムである。
【0028】
但し、請求項13並びに14で言う「システム」とは、複数の装置(又は特定の機能を実現する機能モジュール)が論理的に集合した物のことを言い、各装置や機能モジュールが単一の筐体内にあるか否かは特に問わない。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、指向性アンテナのビームを通信相手の位置する方向に向けて、ミリ波の信号到達距離を伸ばすことができる、優れた通信装置及び通信方法、コンピューター・プログラム、並びに通信システムを提供することができる。
【0030】
また、本発明によれば、効率的に指向性リンクを確立することによって、オーバーヘッドを低減することができる、優れた通信装置及び通信方法、コンピューター・プログラム、並びに通信システムを提供することができる。
【0031】
本願の請求項1、11乃至14に記載の発明によれば、通信相手との間で所定の準備パケットを交換してからデータ伝送を開始する際に、準備パケットを指向性のあるビーム・パターンを使って送受信するので、リンク確立時のオーバーヘッドを低減することができる。
【0032】
また、本願の請求項2に記載の発明によれば、通信装置は、通信相手と前回パケット交換を行なった際の通信ビーム・パターンを利用して準備パケットの指向性通信を行なうので、リンク確立時のオーバーヘッドを低減することができる。
【0033】
また、本願の請求項3に記載の発明によれば、通信装置は、通信相手と前回パケット交換を行なった際の通信ビーム・パターンを、経過時間に応じて調整してから用いるので、通信相手が経過時間に応じて移動したとしても準備パケットの通信を行なうことができる。
【0034】
また、本願の請求項4に記載の発明によれば、通信装置は、通信相手と前回パケット交換を行なった際の通信ビーム・パターンを保持していないときであっても、無指向性の通信ビーム・パターンを用い、又は通信相手とトレーニング動作を実行して得られた通信ビーム・パターンを用いて、準備パケットの通信を行なうことができる。
【0035】
また、本願の請求項5に記載の発明によれば、通信装置は、RTS/CTSハンドシェイクを利用する場合に、通信相手の位置の方向に向けた送信ビーム・パターンを用いてRTSパケットを送信するので、リンク確立時のオーバーヘッドを低減することができる。
【0036】
また、本願の請求項6に記載の発明によれば、通信装置は、通信相手の位置の方向に向けた送信ビーム・パターンを用いてRTSパケットを送信するもののCTSパケットを受信できないときには、RTSパケットを無指向性の送信ビーム・パターンを用いて再送信するので、通信相手が経過時間に応じて移動したとしてもRTSパケットが通信相手に届く可能性が高まる。
【0037】
また、本願の請求項7に記載の発明によれば、通信装置は、送信タイミングが既知となるパケットを、通信相手の位置の方向に向けた受信ビーム・パターンを用いて受信待ちするので、リンク確立時のオーバーヘッドを低減することができる。
【0038】
また、本願の請求項8に記載の発明によれば、通信装置は、自らが通信相手に割り当てた送信区間内において、通信相手の位置の方向に向けた受信ビーム・パターンを用いて受信待ちするので、リンク確立時のオーバーヘッドを低減することができる。
【0039】
また、本願の請求項9に記載の発明によれば、通信装置は、RTS/CTSハンドシェイクを利用する場合に、RTSパケットを送信してから所定期間後に、データ受信側の位置の方向に向けた受信ビーム・パターンを用いてCTSパケットを受信待ちし、さらには、データ・パケットを送信してから所定期間後に、データ受信側の位置の方向に向けた受信ビーム・パターンを用いてACKパケットを受信待ちするので、リンク確立時のオーバーヘッドを低減することができる。
【0040】
また、本願の請求項10に記載の発明によれば、通信装置は、RTS/CTSハンドシェイクを利用する場合に、CTSパケットを送信してから所定期間後に、データ送信側の位置の方向に向けた受信ビーム・パターンを用いてデータ・パケットを受信待ちするので、リンク確立時のオーバーヘッドを低減することができる。
【0041】
本発明のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する本発明の実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るミリ波無線通信システムの構成例を模式的に示した図である。
【図2】図2は、通信装置100の構成例を示した図である。
【図3】図3は、ディジタル部180の内部構成の一例を示した図である。
【図4】図4は、送信ビーム処理部185による送信ビームの指向性制御によって通信装置100が形成することができる10個の送信ビーム・パターン要素Bt0〜Bt9を示した図である。
【図5】図5は、最適なビーム方向の学習に用いるビーム学習用信号の信号フォーマットの一例を示した図である。
【図6】図6は、本発明の第1の実施例に係る、リンク再確立時において前回と同じ送信ビーム・パターンを用いて送信動作を行なう信号送受信シーケンスの一例を示した図である。
【図7】図7は、同じ通信相手に対する前回のパケット送信時に使用したのと同じ送信ビーム・パターンを用いて準備パケットを送信する信号送受信シーケンスの一例を示した図である。
【図8A】図8Aは、指向性リンクの状態の変化を説明するための図である。
【図8B】図8Bは、指向性リンクの状態の変化を説明するための図である。
【図8C】図8Cは、指向性リンクの状態の変化を説明するための図である。
【図8D】図8Dは、指向性リンクの状態の変化を説明するための図である。
【図9】図9は、パケット内の一部又は全部を複数回送信する様子を示した図である。
【図10A】図10Aは、図4に示した10個の送信ビーム・パターン要素Bt0〜Bt9を選択的に用いて信号到達範囲を調整する方法を説明するための図である。
【図10B】図10Bは、図4に示した10個の送信ビーム・パターン要素Bt0〜Bt9を選択的に用いて信号到達範囲を調整する方法を説明するための図である。
【図10C】図10Cは、図4に示した10個の送信ビーム・パターン要素Bt0〜Bt9を選択的に用いて信号到達範囲を調整する方法を説明するための図である。
【図10D】図10Dは、図4に示した10個の送信ビーム・パターン要素Bt0〜Bt9を選択的に用いて信号到達範囲を調整する方法を説明するための図である。
【図11】図11は、本発明の第1の実施例において、通信装置100がデータ送信側(STA_A)として通信動作を行なうための処理手順を示したフローチャートである。
【図12】図12は、本発明の第2の実施例に係る、リンク再確立時において前回と同じ受信ビーム・パターンを用いて受信動作を行なう信号送受信シーケンスの一例を示した図である。
【図13】図13は、本発明の第2の実施例において、通信装置がアクセスポイント(AP)又は各端末局(STA1、STA2)としてパケット受信動作を行なうための処理手順を示したフローチャートである。
【図14】図14は、モジュール化された通信装置100を搭載した情報機器の構成例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、ミリ波の通信方式として、VHT(Very High Throughput)規格で使用する60GHz帯を挙げることができるが、本発明の要旨は特定の周波数帯に限定されるものではない。
【0044】
図1には、本発明の一実施形態に係るミリ波無線通信システムの構成例を模式的に示している。図示の無線通信システムは、通信装置100と通信装置200からなる。
【0045】
通信装置100及び200は、ミリ波の通信方式に従って互いに無線通信することができる。ミリ波の通信方式は、直進性が強く反射時の減衰の大きいため、送信ビーム及び受信ビームを通信相手にそれぞれ向けて無線信号を送受信することがより好ましい。
【0046】
図1に示す例では、通信装置100は、ミリ波の通信方式に従って無線信号を送受信するための複数のアンテナ160a〜160nを備えている。そして、各アンテナ160a〜160nを介して送信される信号の重みを調整することによって、送信ビームの指向性Btを制御するようになっている。図示の例では、送信ビームBtは、通信相手となる通信装置200の位置の方向に向けられている。
【0047】
また、通信装置200は、ミリ波の通信方式に従って無線信号を送受信するための複数のアンテナ260a〜260nを備えている。そして、各アンテナ260a〜260nを介して受信される信号の重みを調整することによって、受信ビームの指向性Brを制御するようになっている。図示の例では、受信ビームBrは、通信相手となる通信装置100の位置の方向に向けられている。
【0048】
図2には、通信装置100の構成例を示している。図示の通信装置100は、ブロードバンド・ルーターや無線アクセスポイントとして動作してもよい。なお、図示しないが、通信装置200も同様の構成であってもよい。
【0049】
通信装置100は、記憶部150と、複数のアンテナ160a〜160nと、無線通信部170を備えている。無線通信部170は、アナログ部172と、AD変換部174と、DA変換部176と、ディジタル部180と、制御部190で構成される。
【0050】
複数のアンテナ160a〜160nは、ミリ波の通信方式に従った無線通信に使用される。具体的には、アンテナ160a〜160nは、所定の重み係数を用いて重み付けされた無線信号を、ミリ波を用いてそれぞれ送信する。また、アンテナ160a〜160nは、ミリ波の無線信号を受信して、アナログ部172へ出力する。
【0051】
アナログ部172は、典型的には、ミリ波の通信方式に従った無線信号を送受信するためのRF回路に相当する。すなわち、アナログ部172は、アンテナ160a〜160nによりそれぞれ受信された複数の受信信号を低雑音増幅するとともにダウンコンバートし、後段のAD変換部174へ出力する。また、アナログ部172は、DA変換部176によりそれぞれアナログ信号に変換された複数の送信信号をRF帯にアップコンバートするとともに電力増幅して、各アンテナ160a〜160nへ出力する。
【0052】
AD変換部174は、アナログ部172から入力される複数のアナログ受信信号をそれぞれディジタル信号に変換し、後段のディジタル部180へ出力する。また、DA変換部176は、ディジタル部180から入力される複数のディジタル送信信号をそれぞれアナログ信号に変換し、アナログ部172へ出力する。
【0053】
ディジタル部180は、典型的には、ミリ波の通信方式に従って受信信号を復調及び復号するための回路、並びに、ミリ波の通信方式に従って送信信号を符号化及び変調するための回路で構成される。
【0054】
図3には、ディジタル部180の内部構成の一例を示している。図示のように、ディジタル部180は、同期部181と、受信ビーム処理部182と、電力計算部183と、決定部184と、復調復号部185と、符号化変調部186と、送信ビーム処理部187で構成される。
【0055】
同期部181は、例えば、複数のアンテナ160a〜160nにより受信された複数の受信信号について、パケットの先頭のプリアンブルに応じて受信処理の開始タイミングを同期させて受信ビーム処理部182へ出力する。
【0056】
受信ビーム処理部182は、同期部181から入力される複数の受信信号について、例えば一様分布又はテイラー分布に従って重み付け処理を行なうことによって、受信ビームの指向性を制御する。そして、受信ビーム処理部182は、重み付けされた受信信号を電力計算部183及び復調復号部185へ出力する。
【0057】
最適な送受信ビーム方向の学習を行なう際、電力計算部183は、各送受信ビーム方向で送受信された受信信号の受信電力をそれぞれ計算して、決定部184へ順次出力する。そして、決定部184は、電力計算部183から入力される受信電力値に基づいて、最適な送信ビーム方向並びに最適な受信ビーム方向を決定する。そして、決定されたビーム方向を特定するためのパラメーター値が、制御部190を介して記憶部150に記憶される。ここで言う最適なビーム方向とは、典型的には、1つのビーム学習用信号について電力計算部183から入力される一連の受信電力値が最大値となるビーム方向に相当する。
【0058】
復調復号部185は、受信ビーム処理部182により重み付けされた受信信号をミリ波の通信方式に使用される任意の変調方式及び符号化方式に従って復調及び復号し、データ信号を取得する。そして、復調復号部185は、取得したデータ信号を制御部190へ出力する。
【0059】
符号化変調部186は、制御部190から入力されるデータ信号をミリ波の通信方式に使用される任意の符号化方式及び変調方式に従って符号化及び変調し、送信信号を生成する。そして、符号化変調部186は、生成した送信信号を送信ビーム処理部187へ出力する。
【0060】
送信ビーム処理部187は、符号化変調部186から入力された送信信号から、例えば一様分布又はテイラー分布に従って重み付けされた複数の送信信号を生成し、送信ビームの指向性を制御する。送信ビーム処理部187により使用される重みの値は、例えば、制御部190から入力される指向性制御信号により指定される。送信ビーム処理部187により重み付けされた複数の送信信号は、DA変換部176へそれぞれ出力される。
【0061】
図2に戻って、引き続き、無線通信装置100の構成について説明する。制御部190は、例えばマイクロプロセッサーなどの演算装置を用いて構成され、無線通信部170の動作全般を制御する。また、制御部190は、最適な送信ビーム方向又は受信ビーム方向を特定するためのパラメーター値を記憶部150から取得し、当該パラメーター値に基づいて特定されるビーム方向を形成するよう各アンテナ160a〜160nに重み係数を付与することを指示するための指向性制御信号をディジタル部180内の送信ビーム処理部185へ出力する。これにより、無線通信装置100によるミリ波の通信方式に従った無線送信の際の送信ビーム又は受信ビームが通信相手の位置する方向に向くような最適なビーム・パターンが形成される。
【0062】
なお、図2には示していないが、通信装置100は、通信相手との相対位置を検出する位置検出機能を備えていてもよい。かかる位置検出機能は、例えば、通信装置100自身がGPS(Global Positioning System)などの絶対位置の計測手段を備えるとともに通信相手と互いの位置情報を交換することや、レーダーやその他の通信相手の位置情報を捕捉する手段を備えることによって実現される。
【0063】
図4には、送信ビーム処理部185による送信ビームの指向性制御によって通信装置100が形成することができる送信ビーム・パターンの一例を示している。同図に示す例では、通信装置100は10個の送信ビーム・パターン要素Bt0〜Bt9を形成することができる。送信ビーム・パターン要素Bt0〜Bt9は、通信装置100が位置する平面上で、36度ずつ異なる方向への指向性をそれぞれ有している。
【0064】
送信ビーム処理部185は、制御部190からの指向性制御信号に応じて、各アンテナ160a〜160nに重み係数を付与することによって、かかる10個の送信ビーム・パターン要素Bt0〜Bt9のうちいずれか1つの送信ビーム・パターンを形成して、指向性の無線信号を送信させることができる。また、通信装置100により形成可能な受信ビーム・パターンも、図4に示した送信ビーム・Bt0〜Bt9と同様のビーム・パターンであってよい。すなわち、受信ビーム処理部182は、制御部190からの指向性制御信号に応じて、各アンテナ160a〜160nに重み係数を付与することによって、かかる10個の受信ビーム・パターン要素Br0〜Br9のうちいずれか1つ(若しくは2以上の組み合わせ)と一致する受信ビーム・パターンを形成して、ミリ波の通信方式に従った無線信号をアンテナ160a〜160nで受信させることができる。通信装置100の記憶部150には、これら送受信ビーム・パターン要素Bt0〜Bt9、Br0〜Br9をそれぞれ形成するためのアンテナ160a〜160n毎の重み係数を特定するためのパラメーター値があらかじめ記憶されている。
【0065】
なお、通信装置100により形成可能な送信ビーム・パターン及び受信ビーム・パターンは、図4に示した例に限定されるものではない。例えば、3次元空間上のさまざまな方向に指向性を有する送信ビーム・パターン又は受信ビーム・パターンを形成できるように複数のアンテナ160a〜160nを構成することもできる。
【0066】
図5には、最適なビーム方向の学習に用いるビーム学習用信号の信号フォーマットの一例を示している。但し、同図では、ヘッダー部の記載を省略している。図示のビーム学習用信号BTF(Beam Training Field:ビーム学習用フィールド)は、通信相手が持つ複数のアンテナ160a〜160nからミリ波の通信方式に従って送信される。ビーム学習用信号BTFに載せる学習用信号系列は、例えばBPSK(Binary Phase Shift Keying:2位相偏移変調)のランダム・パターンなどでよい。
【0067】
図示のビーム学習用信号は、送信ビーム・パターン要素Bt0〜Bt9毎の学習用信号系列を時分割により多重化したものである。ビーム学習用信号BTFは、図5に示した各送信ビーム・パターン要素Bt0〜Bt9にそれぞれ対応する10個のタイムスロットT0〜T9により構成される。そして、各タイムスロットT0〜T9では、所定の既知信号系列に対し各送信ビーム・パターン要素Bt0〜Bt9を形成するための重み係数でそれぞれ各アンテナ160a〜160nが重み付けされた10通りの学習用信号系列が順次送信される。したがって、ビーム学習用信号の送信ビームの指向性は、タイムスロットT0〜T9毎に、図5に示す送信ビーム・パターン要素Bt0〜Bt9のように順次変化する。
【0068】
このビーム学習用信号BTFを受信する受信側では、ビーム学習用信号BTFのタイムスロットT0〜T9毎(すなわち、学習用信号系列毎)の受信信号の電力レベルを順次観測する。この結果、ビーム学習用信号BTFのいずれかのタイムスロットにおいて受信信号の電力レベルは突出した値となる。受信信号の電力レベルがピークとなるタイムスロットは、ビーム学習用信号BTFを送信する送信側との相対位置に応じて変化する。そして、受信電力レベルがピークとなるタイムスロットに該当する送信ビーム・パターンを、送信側にとっても最適な送信ビーム・パターンに決定することができる。
【0069】
また、ビーム学習用信号BTFの受信側も、図4に示した送信ビーム・パターン要素Bt0〜Bt9と同様の、10個の受信ビーム・パターン要素Br0〜BR9を形成することができるとする。そして、ビーム学習用信号BTFの各タイムスロットT0〜T9をさらに10個ずつの小区間ST0〜ST9にそれぞれ分け、各小区間ST0〜ST9においてそれぞれ異なる10通りの受信ビーム・パターン要素Br0〜Br9で受信信号を重み付け処理する。図5に示す例では、タイムスロットT0の第1の小区間ST0は受信ビーム・パターン要素Br0、タイムスロットT0の第2の小区間ST1は受信ビーム・パターン要素Br1、…、タイムスロットT9の第1の小区間ST0は受信ビーム・パターン要素Br0、…、などと関連付けられる。このような受信ビームの指向性制御処理によって、1つのビーム学習用信号BTFにおいて、10通りの送信ビーム・パターン×10通りの受信ビーム・パターン=計100通りの送受信ビーム・パターンで送受信された受信信号を得ることができる。
【0070】
図3に示した電力計算部183は、上述した計100通りの送受信ビーム・パターンで送受信された受信信号の受信電力をそれぞれ計算して、決定部184へ順次出力する。そして、決定部184は、入力される受信電力値に基づいて、最適な送信ビーム・パターン及び受信ビーム・パターンを特定するためのパラメーター値を決定する。最適なビーム・パターンとは、典型的には、1つのビーム学習用信号について電力計算部183から入力される一連の受信電力値が最大値となるビーム・パターンである。最適な送信ビーム・パターンを特定するためのパラメーター値とは、例えばビーム学習用信号BTFのいずれかのタイムスロット番号(T0〜T9)でよい。また、最適な受信ビーム・パターンを特定するためのパラメーター値とは、例えば図5に示した小区間番号(ST0〜ST9)でよい。決定部184は、このように決定したパラメーター値を制御部190へ出力する。また、最適な送信ビーム・パターンを特定するためのパラメーター値(T0〜T9)を、ビーム学習用信号BTFの送信側へフィードバックするようにしてもよい。但し、このフィードバック手順は本発明の要旨に直接関連しないので、本明細書では説明を省略する。
【0071】
ミリ波を利用する無線通信システムは、複数の送受信アンテナを用い、鋭いアンテナ指向性(すなわち、ビーム形状のアンテナ指向性)を形成することで、その信号到達範囲を拡大することができる。しかしながら、背景技術の欄で既に述べたように、移動物の多いモバイル環境では、指向性のミリ波通信を利用することは困難であるという問題がある。また、以前リンク確立していた通信相手とリンク再確立する場合であっても、まず指向性を利用せずにフレーム(準備パケットなど)を交換し、その受信状況に基づいて指向性の方向を決定した上で、指向性を利用したデータ送受信を行なうため、オーバーヘッドを伴うという問題がある。
【0072】
そこで、本発明の一実施例では、通信装置100は、リンク確立時において準備パケットを指向性のあるビーム・パターンを使って送信することによって、効率的に指向性リンクを確立し、オーバーヘッドを低減するようにしている。
【0073】
また、本発明の他の実施例では、通信装置100は、リンク確立時において準備パケットを指向性のあるビーム・パターンを使って受信することによって、効率的に指向性リンクを確立し、オーバーヘッドを低減するようにしている。
【0074】
図6には、本発明の第1の実施例に係る、リンク確立時において準備パケットを指向性のあるビーム・パターンを使って送信する信号送受信シーケンスの一例を示している。図示の信号送受信シーケンスでは、端末問題を解決する方法論として一般的なRTSパケットCTSハンドシェイクが利用される。但し、各通信局STA_A、STA_Bは、図2〜図4に示した通信装置100で構成されるものとする。
【0075】
データ送信側(STA_A)は、まず、CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance:搬送波感知多重アクセス/衝突回避)の手順によりメディアが一定期間だけクリアであることを確認し、その後、データ受信側(STA_B)に向けて、データ送信の開始を要求する準備パケットであるRTSパケットを、指向性のあるビーム・パターンを使って送信する(Beamformed RTS)。
【0076】
データ受信側(STA_B)は、データ送信側(STA_A)からの自分宛てのRTSパケットを受信すると、所定のフレーム間隔SIFSが経過した後に、上記のデータ送信開始要求を確認したことを通知する準備パケットであるCTSパケットを返信する。
【0077】
データ送信側(STA_A)は、自分がRTSパケットを送信した後、データ受信側(STA_B)から返信されるCTSパケットの受信を待機している。そして、データ送信側(STA_A)は、CTSパケットを受信することによって、メディアがクリアであること確認すると、CTSパケットを受信してからSIFSが経過した後に、送信ビームがデータ受信側(STA_B)宛てのデータ・パケットDATAを、指向性のあるビーム・パターンを使って送信する(Beamformed DATA)。なお、データ送信側(STA_A)は、CTSパケットの受信時に、例えば当該受信パケットの一部のフィールドを用いて保存中の送信ビーム・パターンを最適化するなど、指向性通信リンクの状態をアップデートするようにしてもよい。
【0078】
データ受信側(STA_B)は、CTSパケットを送信した後、データ送信側(STA_A)からのデータ・パケットの受信を待機する。その際、データ受信側(STA_B)は、データ送信側(STA_A)の位置の方向に受信ビームを向けた、指向性のあるビーム・パターンを用いるようにしてもよい。そして、データ受信側(STA_B)は、データ・パケットを無事に受信し終えると、ACKを返信する。データ送信側(STA_A)は、ACKを受信することで、一連のRTSパケットCTSハンドシェイク手順が無事に完了したことを認識する。
【0079】
ここで、リンク確立時の準備パケットを送信する際における指向性を決定する方法の一例として、以前に指向性リンクを確立していた通信相手とリンクを再確立してパケット送信を行なう際に、同じ通信相手に対する前回のパケット送信時に使用したのと同じ送信ビーム・パターンを用いる方法を挙げることができる。
【0080】
図7には、同じ通信相手に対する前回のパケット送信時に使用したのと同じ送信ビーム・パターンを用いて準備パケットを送信する信号送受信シーケンスの一例を示している。同図においても、図6と同様に、送信する信号送受信シーケンスの一例を示している。また、各通信局STA_A、STA_Bは、図2〜図4に示した通信装置100で構成されるものとする。
【0081】
データ送信側(STA_A)は、データ受信側(STA_B)宛てのデータ・パケットDATA1を、既に学習済みの指向性のあるビーム・パターンを使って、送信する(Beamformed DATA1)。
【0082】
これに対し、データ受信側(STA_B)は、データ・パケットDATA1を無事に受信し終えると、ACKを返信する。データ送信側(STA_A)は、ACKを受信することで、一連のRTSパケットCTSハンドシェイク手順が無事に完了したことを認識する。
【0083】
その後、データ送信側(STA_A)は、再びデータ送信要求が発生すると、CSMA/CA手順によりメディアがクリアであることを確認した後、データ・パケットDATA1の送信時に利用した指向性のあるビーム・パターンを使って、準備パケットRTSを送信する(Beamformed RTS)。
【0084】
データ受信側(STA_B)は、データ送信側(STA_A)からの自分宛てのRTSパケットを受信すると、所定のフレーム間隔SIFSが経過した後に、上記のデータ送信開始要求を確認したことを通知する準備パケットであるCTSパケットを返信する。
【0085】
データ送信側(STA_A)は、自分がRTSパケットを送信した後、データ受信側(STA_B)から返信されるCTSパケットの受信を待機している。そして、データ送信側(STA_A)は、CTSパケットを受信することによって、メディアがクリアであること確認すると、CTSパケットを受信してからSIFSが経過した後に、送信ビームがデータ受信側(STA_B)宛てのデータ・パケットDATAを、指向性のあるビーム・パターンを使って送信する(Beamformed DATA)。なお、データ送信側(STA_A)は、CTSパケットの受信時に、例えば当該受信パケットの一部のフィールドを用いて保存中の受信ビーム・パターンを最適化するなど、指向性通信リンクの状態をアップデートするようにしてもよい。
【0086】
データ受信側(STA_B)は、CTSパケットを送信した後、データ送信側(STA_A)からのデータ・パケットの受信を待機する。その際、データ受信側(STA_B)は、データ送信側(STA_A)の位置の方向に受信ビームを向けた、指向性のあるビーム・パターンを用いるようにしてもよい。そして、データ受信側(STA_B)は、データ・パケットを無事に受信し終えると、ACKを返信する。データ送信側(STA_A)は、ACKを受信することで、一連のRTSパケットCTSハンドシェイク手順が無事に完了したことを認識する。
【0087】
図7に示した信号送受信シーケンスは、前回のパケット送信時から次のパケット送信時までの間に各通信局間の指向性リンクの状態に変化がなく有効なままであることを前提とするものである。しかしながら、移動物の多いモバイル環境では、その後の通信局の移動や遮蔽物の存在により指向性リンクの状態が変化していく可能性がある。
【0088】
前回のパケット送信時に通信ビームを最適化した場合、ビーム・パターンは急峻であることから、送信側(STA_A)は信号到達距離を伸ばすことができる(図8Aを参照のこと)。しかしながら、受信側(STA_B)が多少移動しただけで(若しくは、通信局間の相対位置が多少ずれただけで)指向性リンクは無効になってしまう(図8Bを参照のこと)。かかる問題の対策として、前回のパケット送信時に使用した送信ビーム・パターンを利用する際には、送信ビーム・パターンを緩やかにする方法が考えられる(図8Cを参照のこと)。送信ビーム・パターンを緩やかにすると、信号到達距離は短縮するが、信号到達範囲の面積は拡張することから、相対位置が変化した通信相手を信号到達範囲に収容できる可能性が高まることが期待される。
【0089】
また、通信局間の相対位置は、前回パケットを送信してから経過した時間に応じて大きくなることが予測される。そこで、ビーム・パターンを緩やかにする度合いを、前回のパケット送信時からの経過時間とともにさらに大きくしていくように調整する、という方法も考えられる(図8Dを参照のこと)。
【0090】
また、上記のようなビーム・パターンの調整方法を採用したとしても、通信相手を信号到達範囲に収容することができなければ、指向性リンクを有効にすることはできず、応答パケットを受信できない。このような場合、指向性通信を行なう意味は全くなくなるので、無指向性の通信に変更すべきである。
【0091】
ここで、パケットを無指向性で送信する際には、パケット内の一部又は全部を複数回送信することによって(図9を参照のこと)、オーバーヘッドは大きくなるが信号到達範囲を拡大することができる。
【0092】
通信装置100は、送信ビーム・パターンをいくら緩やかにしても、RTSパケットに対するCTSパケットの応答が得られないような場合には、無指向性でRTSパケットを送信する、オーバーヘッドの大きな繰り返し送信を行なう、最適な送信ビーム・パターンの際トレーニングを行なうなどの対策を講じる必要がある。
【0093】
送信ビーム処理部185による送信ビームの指向性制御によって通信装置100が形成することができる送信ビーム・パターンは、例えば図4に示した通りである。
【0094】
図4には、送信ビームの指向性制御によって複数の送信ビーム・パターン要素Bt0〜Bt9を形成することを示した。例えば、図10A左に示すように、ただ1つの送信ビーム・パターン要素Bt2のみを選択して重み付けして用いる場合には、図10A右に示すように、急峻で且つ信号到達距離の長い送信ビームを得ることができる。
【0095】
これに対し、複数の送信ビーム・パターン要素を重み付け加算することで、信号到達距離は短くなるが、信号到達範囲が広くなる送信ビームを得ることができる。例えば、図10B左に示すように、送信ビーム・パターン要素Bt2及びこれに隣接する送信ビーム・パターン要素Bt1、Bt3の3つの送信ビーム・パターン要素を選択してこれらを重み付け加算すると、図10B右に示すように、信号到達距離は短くなるが信号到達範囲は広くなる。また、図10C左に示すように、送信ビーム・パターン要素Bt2及びこれに隣接する送信ビーム・パターン要素Bt0、Bt1、Bt3、Bt4の5つの送信ビーム・パターン要素を選択してこれらを重み付け加算すると、図10C右に示すように、信号到達距離はさらに短くなるが、信号到達範囲はより広くなる。同図から、重み付け加算する送信ビーム・パターン用素数の増大とともに、信号到達範囲が拡大していくことを理解できよう。さらに、図10D左に示すように、すべての送信ビーム・パターン要素Bt0〜Bt9を選択して均等に重み付けすると、図10D右に示すように、信号到達距離が短い、無指向性の送信ビーム・パターンとなる。
【0096】
図11には、上記第1の実施例において、通信装置100が図7中のデータ送信側(STA_A)としてパケット送信動作を行なうための処理手順をフローチャートの形式で示している。この処理手順は、例えば制御部190が所定の制御プログラムを実行することを通じて実現される。
【0097】
通信装置100は、通信プロトコルの上位層などからデータ送信要求が発生すると(ステップS1のYes)、まず、データ受信側(STA_B)に対して前回データ・パケット(若しくは、指向性のパケット)を送信したときの送信ビーム・パターンを保存しているかどうかを確認する(ステップS2)。具体的には、制御部190は、前回使用した送信ビーム・パターンを特定するためのパラメーター値が記憶部150に保存されているかどうかを確認する。
【0098】
通信装置100は、前回使用した送信ビーム・パターンを保存している場合には(ステップS2のYes)、前回データ受信側(STA_B)にデータ・パケットを送信してからの経過時間に従って送信ビーム・パターンを調整する(ステップS3)。すなわち、制御部190は、記憶部150からパラメーター値を取り出して前回使用した送信ビーム・パターンを特定すると、送信ビーム・パターンを経過時間に応じて緩やかにするよう調整する。なお、判断ステップS2の際、経過時間に閾値を設けて、所定時間以上が経過している場合には、前回使用した送信ビーム・パターンの再利用は行なわないようにしてもよい。
【0099】
一方、データ受信側(STA_B)に対して前回パケットを送信したときの送信ビーム・パターンを保存していない場合には(ステップS2のNo)、通信装置100は、データ受信側(STA_B)との間で、最適な送信ビームの指向性を学習するためのトレーニング動作を実施して(ステップS7)、送信ビーム・パターンを決定する。本発明の要旨は特定のトレーニング動作に限定されないので、ここではトレーニング動作についての詳細な説明を省略する。
【0100】
次いで、通信装置100は、ステップS3又はステップS7によって決定した送信ビーム・パターンを用いて、データ受信側(STA_B)に対してRTSパケット(Beamformed RTS)を送信する(ステップS4)。制御部190は、この決定した送信ビーム・パターンを形成するよう、送信ビーム処理部187を制御する。
【0101】
そして、通信装置100は、所定期間内にデータ受信側(STA_B)からCTSパケットを受信すると(ステップS5のYes)、データ受信側(STA_B)に対するデータ・パケットの送信処理を開始する(ステップS6)。
【0102】
また、通信装置100が所定期間内にデータ受信側(STA_B)からCTSパケットを受信できないときには(ステップS5のNo)、データ受信側(STA_B)が経過時間に応じた予測量よりも大きく移動しているため、RTSパケットが届かなかった可能性がある。このような場合、指向性を広げることによってデータ受信側(STA_B)にRTSパケットが届くようになることも考えられる。そこで、制御部190は、送信ビーム・パターンが無指向性となるよう送信ビーム処理部187を制御して、無指向のRTSパケットを送信する(ステップS8)。
【0103】
そして、通信装置100は、無指向のRTSパケットを送信してから所定期間内にデータ受信側(STA_B)からCTSパケットを受信できたときには(ステップS9のYes)、データ受信側(STA_B)に対するデータ・パケットの送信処理を開始する(ステップS6)。
【0104】
なお、ステップS2において、前回使用した送信ビーム・パターンを特定するためのパラメーター値を保存していない場合には、ステップS7に進んでトレーニング動作を行なうのではなく、ステップS8に進んで無指向性のRTSパケットを送信するようにしてもよい。
【0105】
また、通信装置が通信相手との相対位置を検出する位置検出機能を備えている場合には、ステップS3において、前回のデータ・パケット(若しくは、指向性パケット)の送信時に使用した送信ビーム・パターンを利用する際に、前回のパケット送信時からの経過時間に加え、データ受信側(STA_B)との相対位置情報も考慮して、送信ビーム・パターンを調整するようにしてもよい。
【0106】
続いて、本発明の第2の実施例について説明する。第2の実施例では、通信装置100は、リンク確立時において準備パケットを指向性のあるビーム・パターンを使って受信する。この場合、通信装置100は、通信相手からの準備パケットの送信タイミングを把握している必要がある。
【0107】
通信相手からの準備パケットの送信タイミングを把握する方法として、通信相手に対して送信タイミングを割り当てる方法や、RTS/CTSハンドシェイクなどフレーム間隔(IFS:Inter Frame Space)が規定されている手順を利用する方法が挙げられる。
【0108】
例えば、インフラストラクチャ・ネットワークにおいて、アクセスポイント(AP)は、配下に置く各端末局(STA1、STA2)に対して送信区間のスケジューリングを行ない、各端末局(STA1、STA2)は、自分に割り当てられた送信区間内でRTS/CTSハンドシェイク手順を利用してアクセスポイント(AP)にデータ送信を行なう場合について考える。アクセスポイント(AP)にとって、各端末局(STA1、STA2)が各々の送信区間内で準備パケットを送信するタイミングは既知である。また、各端末局(STA1、STA2)は、自分が準備パケットRTSを送信した後、アクセスポイント(AP)が準備パケットを送信するタイミングは既知である。
【0109】
図12には、アクセスポイント(AP)と端末局(STA)間の信号送受信シーケンスの一例を示している。以下では、図示の信号送受信シーケンス例を参照しながら、通信装置100がリンク確立時において準備パケットを指向性のあるビーム・パターンを使って受信する動作について説明する。
【0110】
アクセスポイント(AP)は所定のフレーム周期毎にビーコンを報知し、これを各端末局(STA1、STA2)が受信することによってアクセスポイント(AP)の配下に置かれ、BSSにおけるコーディネーションがとられる。ビーコンには、BSSの運用情報として、各端末局(STA1、STA2)に割り当てた送信タイミングなどのスケジュール情報が記載されている。図12に示す例では、ビーコンに記載されているスケジュール情報に従って、フレーム周期内において、左斜線で示す区間が一方の端末局(STA1)の第2の通信方式に従う送信区間に割り当てられるとともに、右斜線で示す区間が他方の端末局(STA2)の第2の通信方式に従う送信区間に割り当てられている。端末局(STA1、STA2)は、各々の送信区間においてコンテンション・フリーで無線通信を行なうことができる。
【0111】
端末局(STA1)は、自分に割り当てられた送信区間(図12中で参照記号Aで示した領域)に入ってから所定期間が経過した後に、アクセスポイント(AP)に向けてRTSパケットを送信する。
【0112】
一方、アクセスポイント(AP)は、端末局(STA1)に割り当てた送信区間の開始時刻が到来すると、端末局(STA1)に対して最適な受信ビーム・パターンとなるように受信ビーム処理部182の指向性を制御して、RTSパケットの受信動作を開始する。あるいは、アクセスポイント(AP)は、端末局(STA1)から前回データ・パケットを受信するときに利用したビーム・パターンを使って、RTSパケットを待ち受ける。そして、アクセスポイント(AP)は、端末局(STA1)からRTSパケットを受信したことに応答して、所定のフレーム間隔SIFS(Short Inter Frame Space)が経過した後に、RTSパケットを受信できた旨をフィードバックするCTSパケットを返信する。
【0113】
端末局(STA1)は、RTSパケットを送信完了してから所定のフレーム間隔SIFSが経過すると、アクセスポイント(AP)から前回パケットを受信するときに利用したビーム・パターンを使って、CTSパケットを待ち受ける。そして、端末局(STA1)は、CTSパケットを無事に受信することによってメディアがクリアであることを確認すると、SIFSが経過した後に、アクセスポイント(AP)の位置の方向に送信ビームを向けて、データ・パケットを送信する。
【0114】
アクセスポイント(AP)は、CTSパケットを送信した後、前回データ・パケットを受信するときに利用したビーム・パターンを使って、データ・パケットを待ち受ける。このとき、アクセスポイント(AP)は、端末局(STA1)からのRTSパケットの受信時に、例えば当該受信パケットの一部のフィールドを用いて保存中の受信ビーム・パターンを最適化するなど、指向性通信リンクの状態をアップデートするようにしてもよい。そして、アクセスポイント(AP)は、端末局(STA1)からデータ・パケットを無事に受信し終えると、SIFSが経過した後に、ACKパケットを返信する。
【0115】
端末局(STA1)は、前回CTSパケットを受信するときに利用したビーム・パターンを使って、ACKパケットを待ち受ける。このとき、端末局(STA1)は、アクセスポイント(AP)からのCTSパケットの受信時に、例えば当該受信パケットの一部のフィールドを用いて保存中の受信ビーム・パターンを最適化するなど、指向性通信リンクの状態をアップデートするようにしてもよい。そして、端末局(STA1)は、ACKパケットを受信することで、一連のRTS/CTSハンドシェイク手順が無事に完了したことを認識する。
【0116】
同様に、端末局(STA2)は、自分に割り当てられた送信区間(図12中で参照記号Bで示した領域)に入ってから所定期間が経過した後に、アクセスポイント(AP)に向けてRTSパケットを送信する。
【0117】
一方、アクセスポイント(AP)は、端末局(STA2)に割り当てた送信区間の開始時刻が到来すると、端末局(STA2)に対して最適な送受信ビーム・パターンとなるように受信ビーム処理部182の指向性を制御して、RTSパケットの受信動作を開始する。あるいは、アクセスポイント(AP)は、端末局(STA2)から前回データ・パケットを受信するときに利用したビーム・パターンを使って、RTSパケットを待ち受ける。そして、アクセスポイント(AP)は、端末局(STA2)からRTSパケットを受信したことに応答して、所定のフレーム間隔SIFSが経過した後に、RTSパケットを受信できた旨をフィードバックするCTSパケットを返信する。
【0118】
端末局(STA2)は、RTSパケットを送信完了してから所定のフレーム間隔SIFSが経過すると、アクセスポイント(AP)から前回パケットを受信するときに利用したビーム・パターンを使って、CTSパケットを待ち受ける。そして、端末局(STA2)は、CTSパケットを無事に受信することによってメディアがクリアであることを確認すると、SIFSが経過した後に、アクセスポイント(AP)の位置の方向に送信ビームを向けて、データ・パケットを送信する。
【0119】
アクセスポイント(AP)は、CTSパケットを送信した後、前回データ・パケットを受信するときに利用したビーム・パターンを使って、データ・パケットを待ち受ける。このとき、アクセスポイント(AP)は、端末局(STA2)からのRTSパケットの受信時に、例えば当該受信パケットの一部のフィールドを用いて保存中の受信ビーム・パターンを最適化するなど、指向性通信リンクの状態をアップデートするようにしてもよい。そして、アクセスポイント(AP)は、端末局(STA2)からデータ・パケットを無事に受信し終えると、SIFSが経過した後に、ACKパケットを返信する。
【0120】
端末局(STA2)は、前回CTSパケットを受信するときに利用したビーム・パターンを使って、ACKパケットを待ち受ける。このとき、端末局(STA2)は、アクセスポイント(AP)からのCTSパケットの受信時に、例えば当該受信パケットの一部のフィールドを用いて保存中の受信ビーム・パターンを最適化するなど、指向性通信リンクの状態をアップデートするようにしてもよい。そして、端末局(STA2)は、ACKパケットを受信することで、一連のRTS/CTSハンドシェイク手順が無事に完了したことを認識する。
【0121】
図12に示した信号送受信シーケンスは、前回のパケット受信時から次のパケット受信時までの間に各通信局間の指向性リンクの状態に変化がなく有効なままであることを前提とするものである。しかしながら、移動物の多いモバイル環境では、その後の通信局の移動や遮蔽物の存在により指向性リンクの状態が変化していく可能性がある。そこで、図8A〜図8Dに示したような前回のパケット送信時からの経過時間に応じて送信ビーム・パターンを緩やかにする調整方法は、パケット受信時にも当て嵌まる。すなわち、前回のパケット受信時に通信ビームを割いて帰した直後は、受信ビーム・パターンを急峻にして、受信可能距離を伸ばす。その後、経過時間に応じて通信相手が移動していくことを考慮して、受信ビーム・パターンを徐々に緩やかにしていくよう調整する。受信ビーム・パターンを緩やかにすると、受信可能距離は短縮するが、受信可能範囲の面積は拡張することから、相対位置が変化したパケット送信元を受信可能範囲に収容できる可能性が高まることが期待される。
【0122】
また、受信ビーム処理部182による送信ビームの指向性制御によって通信装置100が形成することができる受信ビーム・パターンは、例えば図4に示した通りである。そして、図10A〜図10Dに示したように、受信ビーム・パターン要素Br0〜Br9の選択方法によって、所望する受信可能距離及び受信可能範囲を設定することができる。
【0123】
図13には、上記第2の実施例において、通信装置がアクセスポイント(AP)又は各端末局(STA1、STA2)としてパケット受信動作を行なうための処理手順をフローチャートの形式で示している。この処理手順は、例えば制御部190が所定の制御プログラムを実行することを通じて実現される。
【0124】
通信装置100は、パケット受信タイミングが到来すると(ステップS11のYes)、まず、同じパケット送信元から前回パケットを受信したときの受信ビーム・パターンを保存しているかどうかを確認する(ステップS12)。
【0125】
パケット受信タイミングとして、例えばアクセスポイント(AP)として、パケット送信元に送信区間を割り当てたときや、RTSやCTSなどの準備パケットを送信完了してから所定のフレーム間隔SIFSが経過した通信相手のCTSパケット又はデータ・パケットの送信タイミング、並びに、データ・パケットを送信完了してから所定のフレーム間隔SIFSが経過した通信相手のACKパケットの送信タイミングが挙げられる。
【0126】
通信装置100は、同じ通信相手に対して前回使用した受信ビーム・パターンを保存している場合には(ステップS12のYes)、同じ通信相手から前回パケットを受信してからの経過時間に従って受信ビーム・パターンを調整する(ステップS13)。すなわち、制御部190は、記憶部150からパラメーター値を取り出して前回使用した受信ビーム・パターンを特定すると、受信ビーム・パターンを経過時間に応じて緩やかにするよう調整する。そして、通信装置100は、ステップS13で決定した受信ビーム・パターンを用いて、通信相手からのパケットを受信待ちする(ステップS14)。なお、判断ステップS12の際、経過時間に閾値を設けて、所定時間以上が経過している場合には、前回使用した受信ビーム・パターンの再利用は行なわないようにしてもよい。
【0127】
一方、同じ通信相手から前回パケットを受信したときの受信ビーム・パターンを保存していない場合には、通信装置100は、制御部190は、受信ビーム・パターンが無指向性となるよう受信ビーム処理部187を制御して、無指向でパケットを受信待ちする(ステップS16)。
【0128】
ここで、パケット受信に失敗したときには(ステップS15のNo)、通信装置100は、通信相手との間で、最適な受信ビームの指向性を学習するためのトレーニング動作を実施して(ステップS17)、受信ビーム・パターンを決定する。本発明の要旨は特定のトレーニング動作に限定されないので、ここではトレーニング動作についての詳細な説明を省略する。
【0129】
なお、ステップS12において、前回使用した受信ビーム・パターンを特定するためのパラメーター値を保存していない場合には、ステップS7に進んで、ステップS16に進んで無指向性のパケットを送信するのではなく、トレーニング動作を行なうようにしてもよい。
【0130】
また、通信装置が通信相手との相対位置を検出する位置検出機能を備えている場合には、ステップS13において、同じ通信相手に対する前回のパケット受信時に使用した受信ビーム・パターンを利用する際に、前回のパケット受信時からの経過時間に加え、データ送信側(STA_A)との相対位置情報も考慮して、受信ビーム・パターンを調整するようにしてもよい。
【0131】
図6、図7、図12に示した信号送受信シーケンスによれば、飛距離問題の解決のために指向性制御を利用したミリ波通信において、前回通信時に用いたビーム・パターンを有効に利用することによって、効率的に指向性リンクを確立することができ、オーバーヘッドを低減することができるということを理解できよう。
【0132】
なお、アクセスポイント(AP)又は端末局(STA)として動作する通信装置100は、例えば、パーソナル・コンピューター(PC)、携帯電話機、PDA(Personal Digital Assistant)などの携帯情報端末、携帯音楽プレーヤー、ゲーム機などの情報機器、あるいは、テレビジョン受像機やその他の情報家電機器に搭載される無線通信モジュールであってもよい。
【0133】
図14には、モジュール化された通信装置100を搭載した情報機器の構成例を示している。
【0134】
CPU(Central Processing Unit)1は、オペレーティング・システム(OS)が提供するプログラム実行環境下で、ROM(Read Only Memory)2やハード・ディスク・ドライブ(HDD)11に格納されているプログラムを実行する。例えば、後述する受信パケットの同期処理又はその一部の処理をCPU1が所定のプログラムを実行するという形態で実現することもできる。
【0135】
ROM2は、POST(Power On Self Test)やBIOS(Basic Input Output System)などのプログラム・コードを恒久的に格納する。RAM(Random Access Memory)3は、ROM2やHDD(Hard Disk Drive)11に格納されているプログラムをCPU1が実行する際にロードしたり、実行中のプログラムの作業データを一時的に保持したりするために使用される。これらはCPU1のローカル・ピンに直結されたローカル・バス4により相互に接続されている。
【0136】
ローカル・バス4は、ブリッジ5を介して、PCI(Peripheral Component Interconnect)バスなどの入出力バス6に接続されている。
【0137】
キーボード8と、マウスなどのポインティング・デバイス9は、ユーザにより操作される入力デバイスである。ディスプレイ10は、LCD(Liquid Crystal Display)又はCRT(Cathode Ray Tube)などからなり、各種情報をテキストやイメージで表示する。
【0138】
HDD11は、記録メディアとしてのハード・ディスクを内蔵したドライブ・ユニットであり、ハード・ディスクを駆動する。ハード・ディスクには、オペレーティング・システムや各種アプリケーションなどCPU1が実行するプログラムをインストールしたり、データ・ファイルなどを保存したりするために使用される。
【0139】
通信部12は、無線通信装置100をモジュール化して構成される無線通信インターフェースであり、インフラストラクチャ・モード下でアクセスポイント若しくは端末局として動作し、あるいはアドホック・モード下で動作し、信号到達範囲内に存在するその他の通信端末との通信を実行する。無線通信装置100の動作については既に説明した通りである。
【産業上の利用可能性】
【0140】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について詳細に説明してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0141】
本明細書では、ミリ波の通信方式は、IEEE802.15.3cで使用する60GHz帯とした実施形態を中心に説明してきたが、本発明の要旨は必ずしも特定の周波数帯に限定されるものではない。また、ミリ波通信だけでなくその他の指向性通信であってもよい。
【0142】
要するに、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、特許請求の範囲を参酌すべきである。
【符号の説明】
【0143】
1…CPU
2…ROM
3…RAM
4…ローカル・バス
5…ブリッジ
6…入出力バス
7…入出力インターフェース
8…キーボード
9…ポインティング・デバイス(マウス)
10…ディスプレイ
11…HDD
12…通信部
100…通信装置
150…記憶部
160a〜160n…複数のアンテナ
170…無線通信部
172…アナログ部
174…AD変換部
176…DA変換部
180…ディジタル部
181…同期部
182…受信ビーム処理部
183…電力計算部
184…決定部
185…復調復号部
186…符号化変調部
187…送信ビーム処理部
190…制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の高周波数帯を使用する通信方式に従って指向性の無線通信を行なうことができる無線通信部を備え、
通信相手との間で所定の準備パケットを交換してからデータ伝送を開始する際に、前記無線通信部を指向性制御して前記準備パケットの指向性通信を行なう、
ことを特徴とする通信装置。
【請求項2】
前記通信相手と前回パケット交換を行なった際の通信ビーム・パターンを利用して前記準備パケットの指向性通信を行なう、
ことを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記通信相手と前回パケット交換を行なってからの経過時間に応じて、前記通信ビーム・パターンを調整する、
ことを特徴とする請求項2に記載の通信装置。
【請求項4】
前記通信相手と前回パケット交換を行なった際の通信ビーム・パターンを保持していないときには、前記準備パケットを無指向性の通信ビーム・パターンを用いて通信を行ない、又は、前記通信相手とトレーニング動作を実行して得られた通信ビーム・パターンを用いて前記準備パケットの通信を行なう、
ことを特徴とする請求項2に記載の通信装置。
【請求項5】
データ送信側が送信開始要求パケット(RTS:Request To Send)を送信するとともにデータ受信側から返信される確認通知パケット(CTS:Clear To Send)を受信してからデータ・パケットの送信処理を開始する手順が適用され、
前記データ送信側として動作する際に、前記データ受信側の位置の方向に向けた送信ビーム・パターンを用いて前記送信開始要求パケットを送信する、
ことを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項6】
前記データ受信側の位置の方向に向けた送信ビーム・パターンを用いて前記送信開始要求パケットを送信したことに応じて前記データ受信側から確認通知パケットを受信できなかったときに、前記送信開始要求パケットを無指向性の送信ビーム・パターンを用いて再送信する、
ことを特徴とする請求項5に記載の通信装置。
【請求項7】
前記通信相手が送信するタイミングが既知となるパケットを、前記通信相手の位置の方向に向けた受信ビーム・パターンを用いて受信待ちする、
ことを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項8】
通信相手に割り当てた送信区間に関する情報を通知するとともに、前記送信区間内において、前記通信相手の位置の方向に向けた受信ビーム・パターンを用いて受信待ちする、
ことを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項9】
データ送信側が送信開始要求パケットを送信し、データ受信側が前記送信開始要求パケットを受信してから第1の所定期間後に確認通知パケットを返信し、前記データ送信側が前記確認通知パケットを受信してから第2の所定期間後にデータ・パケットを送信開始するとともに、前記データ受信側がデータ・パケットを受信してから第3の所定期間後に確認応答パケット(ACK)を返信する手順が適用され、
前記データ送信側として動作する際に、前記送信開始要求パケットを送信してから前記第1の所定期間後に、前記データ受信側の位置の方向に向けた受信ビーム・パターンを用いて前記確認通知パケットを受信待ちし、又は前記データ・パケットを送信してから前記第3の所定期間後に前記データ受信側の位置の方向に向けた受信ビーム・パターンを用いて前記確認通知パケットを受信待ちする、
ことを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項10】
データ送信側が送信開始要求パケットを送信し、データ受信側が前記送信開始要求パケットを受信してから第1の所定期間後に確認通知パケットを返信し、前記データ送信側が前記確認通知パケットを受信してから第2の所定期間後にデータ・パケットを送信開始するとともに、前記データ受信側がデータ・パケットを受信してから第3の所定期間後に確認応答パケット(ACK)を返信する手順が適用され、
前記データ受信側として動作する際に、前記確認通知パケットを送信してから前記第2の所定期間後に、前記受信側の位置の方向に向けた受信ビーム・パターンを用いて前記データ・パケットを受信待ちする、
ことを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項11】
所定の高周波数帯を使用する通信方式に従って指向性の無線通信を行なうことができる無線通信部を備えた通信装置における通信方法であって、
通信相手との間で所定の準備パケットを交換してからデータ伝送を開始する際に、前記無線通信部を指向性制御して前記準備パケットの指向性通信を行なうステップを有する、
ことを特徴とする通信方法。
【請求項12】
所定の高周波数帯を使用する通信方式に従って指向性の無線通信を行なうことができる無線通信部を備えた通信装置における通信処理をコンピューター上で実行するようにコンピューター可読形式で記述されたコンピューター・プログラムであって、前記コンピューターを、
通信相手との間で所定の準備パケットを交換してからデータ伝送を開始する際に、前記無線通信部を指向性制御して前記準備パケットの指向性通信を行なう手段、
として機能させるためのコンピューター・プログラム。
【請求項13】
通信相手との間で所定の準備パケットを交換してからデータ伝送を開始する手順を適用し、指向性制御して前記準備パケットを送信する第1の通信装置と、送信された前記準備パケットを受信する第2の通信装置と、
を具備することを特徴とする通信システム。
【請求項14】
通信相手との間で所定の準備パケットを交換してからデータ伝送を開始する手順を適用し、所定の送信タイミングにおいて前記準備パケットを送信する第1の通信装置と、前記送信タイミングにおいて前記第1の通信装置の位置の方向に向けた受信ビーム・パターンを用いて前記準備パケットを受信する第2の通信装置と、
を具備することを特徴とする通信システム。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図9】
image rotate

【図11】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図8C】
image rotate

【図8D】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate

【図10C】
image rotate

【図10D】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−212804(P2010−212804A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54135(P2009−54135)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】