説明

通気方法及び通気装置

【課題】液漏れの防止の可能な試料容器への通気方法を提供する。
【解決手段】試料溶液8を内部に収容し、開口部を薄膜弾性体4で封止した試料容器3に対し、側部に通気溝5c,5d、先端部近傍に試料取水孔5a、内部に試料取水孔5aに連続し長手方向に延伸する取水管5bを備える管状の採取ニードル5を、通気溝5c,5dが薄膜弾性体4に接するように、薄膜弾性体4に突き刺して試料取水孔5aを試料溶液8内に挿入する工程と、採取ニードル5を薄膜弾性体4に突き刺したことで生じた薄膜弾性体4の試料溶液8方向に向う歪みを緩和するように、採取ニードル5を試料溶液8の反対側に引き上げる工程と、採取ニードル5の取水管5bを介して試料容器3内部にガスを送りこむガス通気工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全有機炭素(total organic carbon,以下「TOC」という)分析システムに係り、特に、TOC分析システムにおいて試料溶液を採取する際に、前処理として適用可能な通気方法、及びこの通気方法が採用可能なTOC分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
TOC濃度は、水中の全炭素(Total Carbon, 以下「TC」という)濃度から、無機体炭素(Inorganic Carbon, 以下「IC」という)濃度を差し引くことで求められる。具体的には、試料溶液中に白金触媒等を充填した後、加熱しながら高純度空気を送り込んでTCを二酸化炭素(CO)に酸化させ、そしてCO濃度から間接的にTC濃度を測定する。その後、IC反応液で酸性にした試料溶液を充填する試料容器3中に高純度空気を送り込んでICをCOに酸化させた後、CO濃度から間接的にIC濃度を測定する。最後に、TC濃度からIC濃度を差し引くことでTOC濃度を求めることができる。
【0003】
TC濃度からIC濃度を差し引く手法の場合、総合測定時間が長くなるため、TOC分析システムに併設されたオートサンプラにより、試料溶液に予め高純度空気を送り込んでICを除去し、IC反応液でICをCOに酸化させる処理を省略若しくは簡略化し、総合測定時間を短縮する方法も提案されている(特許文献1参照。)。ICを通気処理により除去する方法は,通気時にトリハロメタンなどのPOC(揮発性有機炭素)が失われる可能性があるが,揮発性有機物がTOCに占める割合は一般に非常に小さく、揮発性有機物が少ない場合は、TOC値への影響はほとんどないと考えられ、この方法(「NPOC測定法」と呼ばれる。)が広く用いられる。
【0004】
従来のIC除去のための通気工程においては、まず図12に示すような試料溶液8に塩酸や硫酸等の無機酸を加えて酸性にした溶液を試料容器3の内部に収納し、試料容器3の開口部を薄膜弾性体4で封止して、オートサンプラに搭載する。その後、図13に示すように、採取ニードル5を薄膜弾性体4に突き刺し、採取ニードル5の先端部が試料容器3の底部近傍に達するまで挿入して、図14に示すように、採取ニードル5の試料取水孔5aを介して試料容器3内部に高純度空気を送りこんで、試料溶液8中のICに変換して、ICを除去している。
【0005】
ところが、通気工程において、図14に示すように、試料容器3の内側の薄膜弾性体4上に付着した液滴8aが、矢印で示すように採取ニードル5の通気溝5c、5dに集まり、通気溝5c、5dを通じて試料容器3の外部に漏れ出すことがあった。液滴8dが目視される程度まで漏れ出した場合、液滴8dを取り除く等のメンテナンスが必要となる。そのため、ガス通気工程、特にTOC濃度測定の高純度空気通気工程において、試料容器3からの液漏れを防止することが可能な通気方法及びこの通気方法が採用可能なTOC分析システムが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−322872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、試料容器からの液漏れが有効に防止できる通気方法、及びこの通気方法が適用可能な通気装置を提供することを要旨とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、(イ)試料溶液を内部に収容し、上部の開口部を薄膜弾性体で封止した試料容器に対し、側部に通気溝、先端部近傍に試料取水孔、内部に試料取水孔に連続し長手方向に延伸する取水管を備える管状の採取ニードルを、薄膜弾性体の上方から、通気溝の位置が薄膜弾性体に接するまで下方に向かって移動し、採取ニードルを薄膜弾性体に突き刺し、試料取水孔を試料溶液内に挿入する工程と、(ロ)採取ニードルを薄膜弾性体に突き刺したことで生じた薄膜弾性体の試料溶液方向に向う歪みを緩和するように、採取ニードルを試料溶液の反対側に引き上げる工程と、(ハ)取水管を介して試料容器内部の試料溶液にガスを送りこむガス通気工程とを含む通気方法であることを要旨とする。
【0009】
本発明の第2の態様は、(イ)側部に通気溝、先端部近傍に試料取水孔、内部に試料取水孔に連続し長手方向に延伸する取水管を備える管状の採取ニードルと、(ロ)試料溶液を内部に収容し、開口部を薄膜弾性体で封止した試料容器に対し、通気溝が薄膜弾性体に接するまで、採取ニードルを下降して薄膜弾性体を貫通させ、採取ニードルを薄膜弾性体に突き刺したことで生じた薄膜弾性体の試料溶液方向に向う歪みを緩和するように、採取ニードルを試料溶液の反対側に引き上げる採取ニードル駆動制御手段と、(ハ)採取ニードルの取水管を介して試料容器内部の試料溶液にガスを送りこむガス供給部とを備える通気装置であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、試料容器からの液漏れが有効に防止できる通気方法、及びこの通気方法が適用可能な通気装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る通気方法を、前処理として用いるTOC濃度測定のフローチャート図である。
【図2】本発明の実施形態に係る通気装置を備えたTOC分析システムのブロック図である。
【図3】本発明の実施形態に係るオートサンプラの要部外観図である。
【図4】本発明の実施形態に係るオートサンプラの要部拡大図である。
【図5】本発明の実施形態に係る採取ニードル示す。
【図6】本発明の実施形態に係る採取ニードルの要部拡大図である。
【図7】本発明の実施形態に係る採取ニードルの断面図である。
【図8】本発明の実施形態に係る通気方法を説明する模式図(その1)である。
【図9】本発明の実施形態に係る通気方法を説明する模式図(その2)である。
【図10】本発明の実施形態に係る通気方法を説明する模式図(その3)である。
【図11】本発明の実施形態に係る通気方法を説明する模式図(その4)である。
【図12】従来例に係る通気方法を説明する模式図(その1)である。
【図13】従来例に係る通気方法を説明する模式図(その2)である。
【図14】従来例に係る通気方法を説明する模式図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、実施形態を挙げて本発明の説明を行うが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。尚、図中同一の機能又は類似の機能を有するものについては、同一又は類似の符号を付して説明を省略する。
【0013】
[通気装置を備えたTOC分析システム]
図2に示すように、本発明の実施形態に係る通気装置を備えたTOC分析システムは、TOCを測定するTOC測定装置2と、TOC測定装置2が測定する試料溶液に通気処理を施して無機炭素(IC)を除去した後、この試料溶液をTOC測定装置2に供給するオートサンプラ1とを備える。
【0014】
TOC測定装置2は、オートサンプラ1から試料溶液を採取する試料採取部(マルチポートバルブ)21と、試料採取部21を経由して注入される試料溶液を、キャリアガスと酸化触媒の下で燃焼酸化して、全炭素を二酸化炭素(CO)に変換するTC燃焼管(図示省略。)を600℃〜1000℃程度の一定の高温に加熱するためのTC炉29と、TC燃焼管を経由して注入された測定ガス(COを含む燃焼ガス)及び試料採取部21から直接注入された試料溶液を、それぞれ切り換えてIC反応液の下でICをCOに変換するIC反応器31と、IC反応器31の出力側に設けられた除湿器(図示省略。)を経由して注入されたCOの濃度を測定する分光部30等を備えている。即ち、分光部30は、TC燃焼管内で酸化触媒中で完全燃焼させてCOに変換した場合のTC(全炭素)濃度と、TC燃焼管を経由しないで直接IC反応器31でCOに変換した測定ガス中のIC(無機炭素)濃度を、別々に定量測定する非分散型赤外分析計(NDIR)を構成している。
【0015】
TOC測定装置2は、図2に示すように、さらに演算制御部23と、試料溶液や薄膜弾性体歪特性等の情報を入力するための入力装置24と、TOC濃度測定の結果等を出力するための出力装置25と、TOC濃度測定の結果等を表示するための表示装置26と、TOC測定に関する種々の情報、例えばロット番号とTC濃度、IC濃度、TOC濃度が関連付けて記憶し、また薄膜弾性体に採取ニードル5を突き刺した際にどの程度撓むかの薄膜弾性体に関する情報を記憶するための記憶装置28とを有する。
【0016】
演算制御部23は、オートサンプラ1の採取ニードル駆動手段40に採取ニードル5を上下動させる命令を送る採取ニードル制御手段231と、高純度空気を採取ニードル5に供給するように、ガス供給部22に命令を送るガス供給制御手段233と、試料溶液を採取するように、試料採取部21に命令を送る試料採取制御手段235と、試料採取部21から試料溶液を採取し、全炭素をCOに変換するTC燃焼管を加熱するように、TC炉29に命令を送るTC炉制御手段232と、TC燃焼管を経由して注入された測定ガス(COを含む燃焼ガス)及び試料採取部21から直接注入された試料溶液を、それぞれ切り換えてIC反応液の下で無機炭素(IC)をCOに変換するように、IC反応器31に命令を送るIC反応器制御手段237と、IC反応器31を経由して注入されたCOの濃度を測定するように、分光部30に命令を送る分光部制御手段234と、TC濃度からIC濃度を差し引いてTOC濃度を定量測定し、記憶装置28に記録するTOC演算手段236と、記憶装置28から測定予定の容器数を呼び出し、未測定の容器があるか否か確認を行う試料容器確認手段238と、所望の容器が採取ニードル5の下方にくるように、ターンテーブル10を回転させるよう、ターンテーブル駆動手段6に命令を送るターンテーブル制御手段239とを有する。
【0017】
演算制御部23としては、CPU等の通常のコンピュータシステムで用いられる演算装置等で構成すればよい。入力装置24としては、例えばキーボード、マウス等のポインティングデバイスが挙げられる。出力装置25としては、例えばプリンタ等が挙げられる。表示装置26としては、例えば液晶ディスプレイ、モニタ等の画像表示装置等が挙げられる。記憶装置28としてはROM、RAM、磁気ディスクなどの記憶装置が使用可能である。
【0018】
オートサンプラ1は、図3に示すように、円板状のターンテーブル10と、ターンテーブル10の周縁に沿って配置された複数の試料容器3と、複数の試料容器3のそれぞれから試料溶液を採取する採取ニードル5と、ターンテーブル10の周縁上に配置された採取ニードル5を上下動させる採取ニードル駆動手段40と、採取された試料溶液を外部へ引き出す採取ニードル5に連続する試料流路44とを備える。
【0019】
図2に示すように、試料採取部21は、試料流路44と、試料流路44から分岐した試料流路44aを介して採取ニードル5に接続されている。試料採取部21を駆動させることで、試料溶液は採取ニードル5から試料採取部21に送られる。TC炉29に設けられたTC燃焼管(図示省略。)は、試料流路44cを介して試料採取部21に接続されている。TC炉29は600℃以上の一定高温でTC燃焼管を加熱し、試料採取部21から採取された試料溶液は、TC燃焼管の内部においてキャリアガスと酸化触媒の下で燃焼酸化される。IC反応器31は、試料流路44dを介して試料採取部21に接続され、また試料流路44eを介してTC炉29のTC燃焼管に接続されている。IC反応器31は、試料流路44d、44eのいずれか一方の試料流路から注入された試料を、それぞれ切り換えてIC反応液の下でICをCOに変換する。分光部30は試料流路44fを介してIC反応器31に接続されている。分光部30にて試料流路44fを経由して注入された測定ガスの分光を行い、予め作成しておいた吸光度に対するTC濃度もしくはIC濃度の検量線と比較することで、TC濃度もしくはIC濃度を間接的に導くことができる。
【0020】
試料容器3は、図4に示すように内部に試料溶液8を収容し、開口部が薄膜弾性体4を備えるキャップ9により封止されている。試料溶液8を採取するときは、試料容器3の内部に採取ニードル5の先端部側が薄膜弾性体4を突き破って挿入し、採取ニードル5の一部が試料溶液8に浸かるようにする。採取ニードル5上に配置された採取ニードル駆動手段40は、一端(図4において下端)が保持部43にねじ込まれ他端(図4において上端)がモータ42に取り付けられたねじ棒41を備える。採取ニードル5の先端部の他端(図4において上端)側は保持部43に接続されていることより、モータ42を駆動させてねじ棒41を回転させることで、採取ニードル5の上下位置を調整することができる。試料容器3としては一般にバイアルとして知られている容器を用いることができる。
【0021】
採取ニードル5は、図5に示すように、側部に破線で示す通気溝5c、5d、先端部(図5において下端部)近傍に試料取水孔5aを備える。通気溝5c、5dは、試料容器3に挿入した際に試料容器3の開口部に当たる位置に設けられている。図6に破線で示したように、採取ニードル5は、内部に試料取水孔5aに連続する取水管5bを備える。図7に採取ニードル5の長手方向に垂直な断面を示すように、取水管5bは円状の断面形状を有し、通気溝5c、5dは半円状の断面形状を有している。そのため、試料採取部21の採水シリンジを稼動させることで、試料取水孔5aから採取した試料溶液8を、取水管5bから試料流路44を介して試料採取部21へ引き出せる。
【0022】
試料容器3は、図8に示すように試料容器3の上部の開口部近傍の側部に選択的に設けられたネジ山(雄ねじ)3aに、キャップ9のネジ山(雌ねじ)がネジ込まれている。キャップ9は、天井部に開孔部9aを備えて断面凹形の形状をなしている。キャップ9の天床部とねじ山3aの上端との間には、開孔部9aを覆うように設けられた薄膜弾性体4の端部(縁部)が挟まれている。そのため、薄膜弾性体4が、試料容器3の開口部を封止すると共に開孔部9aを介して、薄膜弾性体4の中央部の表面が外部に露出している。薄膜弾性体4としては、セプタムと呼ばれるセプタムの厚さは1.5mm程度のシリコン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂等からなるシールを用いることができる。
【0023】
採取ニードル5は、試料流路44、及び試料流路44から分岐した試料流路44bを介してガス供給部22に接続されているので、ガス供給部22から高純度空気を採取ニードル5を介して試料溶液8の内部に導入し、バブリングすることにより、通気処理を行うことができる。即ち、側部に通気溝5c、5d、先端部近傍に試料取水孔5a、内部に試料取水孔5aに連続し長手方向に延伸する取水管5bを備える管状の採取ニードル5と、試料溶液8を内部に収容し、開口部を薄膜弾性体4で封止した試料容器3に対し、通気溝5c、5dが薄膜弾性体4に接するまで、採取ニードル5を下降して薄膜弾性体4を貫通させ、採取ニードル5を薄膜弾性体4に突き刺したことで生じた薄膜弾性体4の試料溶液8方向に向う歪みを緩和するように、採取ニードル5を試料溶液8の反対側に引き上げる採取ニードル駆動制御手段40と、採取ニードル5の取水管5bを介して試料容器3内部にガスを送りこむガス供給部22とを備えて、本発明の実施形態に係る通気装置が構成されている。
【0024】
環境水のようにTCに占めるICの量が極端に多い場合,TC濃度からIC濃度を差し引く方法によりTOCの測定を行うと誤差が大きくなる可能性がある。その場合、試料溶液8に揮発性有機体炭素(POC)が含まれていなければ、試料溶液8を試料採取部21へ吸入する前に、オートサンプラ1に空気を吹き込む通気処理を施すことにより、試料溶液8に含まれるICを除去する不揮発性有機炭素(NPOC)の測定法が好適である。即ち、図11に示すように、試料溶液8に塩酸や硫酸等の無機酸を加えて試料溶液8を酸性にし、図2に示したガス供給部22から高純度の空気を試料溶液8中に吹き込み通気処理をする。通気処理により、試料溶液8中のICがCOに変換され大気中に放出される。このため、通気処理により試料溶液8からICを除去した後にTC燃焼管15で燃焼させれば、IC反応器31のIC反応液の下でICをCOに変換し、分光部30にてIC濃度を求める処理を行うことなく、簡単にTOC濃度を求めることができる。
【0025】
[TOC濃度測定における通気方法]
図1のフローチャートを参照しつつ、TOC濃度の測定方法を説明して、本発明の実施の形態に係る通気方法を説明する。
【0026】
(イ)先ず、試料容器3の内部に試料溶液8を収容し、この試料溶液8に塩酸や硫酸等の無機酸を少量加えて試料溶液8を酸性にする。そして、図8に示すように、試料容器3の上部の開口部を薄膜弾性体4で封止する。ステップS101において、この試料容器3を複数本、図3に示すようにオートサンプラ1に充填する。
【0027】
(ロ)ステップS103において、試料溶液8の種類や容量、試料溶液8加えた無機酸の種類や量、試料容器3の本数やサイズ等の情報を、図1の入力装置24を用いて入力する。入力された情報は、ロットNo.と関連付けてTOC測定装置2の記憶装置28に記憶させる。
【0028】
(ハ)採取ニードル5が、それぞれの薄膜弾性体4の上方に順次移動するように、図3に示したターンテーブル10が回転するように、ターンテーブル制御手段239からターンテーブル駆動手段6に命令を送る。ステップS105において、例えば、図8に示すように、特定の試料容器3の位置に採取ニードル5の先端の位置を合わせたら、採取ニードル制御手段231から採取ニードル駆動手段40に指示を送り、採取ニードル5を図8の矢印で示す下方に移動させる。採取ニードル駆動手段40は、図9に示すように、採取ニードル5の先端部に薄膜弾性体4を突き破らせ、さらに、採取ニードル5の先端部が試料容器3の底部近傍に達するまで採取ニードル5を下方に移動させ続け、採取ニードル5の先端部を試料容器3内に挿入させる。
【0029】
(ニ)ステップS108において、図2の記憶装置28に記憶された薄膜弾性体4の撓みの特性や試料容器3の情報等を読み出す。この情報に基づき、所定の高さに採取ニードル5が制御されるように、図2の採取ニードル制御手段231から採取ニードル駆動手段40に対して命令を送る。そして、図10に示すように、採取ニードル5を薄膜弾性体4に突き刺したことで生じた薄膜弾性体4の試料溶液8方向に向う歪みを緩和させるために、採取ニードル5を試料溶液8の反対側(即ち上方)に引き上げる。その際、採取ニードル5と薄膜弾性体4の接触部断面において、薄膜弾性体4の主面が採取ニードル5の側面に対して垂直になる位置、もしくは垂直になる位置以上の高さで薄膜弾性体4が採取ニードル5に接触するように、採取ニードル5の高さを調整することが好ましい。より具体的には、図10に示す断面図において、試料溶液8の方向に面した薄膜弾性体4の表面が、基準水平位置4Lに一致するように、採取ニードル5を3〜6mm程度引き上げることが好ましい。
【0030】
(ホ)ステップS110において、図2の記憶装置28から試料溶液8の情報を読み出す。そして、試料溶液8の種類や容量に応じた高純度空気供給量を所定の供給時間で供給するように、ガス供給制御手段233からガス供給部22に指示を送る。そして、図11に示すように、採取ニードル5の取水管5bを介して試料容器3内部に高純度空気を送りこむ。無機酸を加えて酸性にした試料溶液8中にガス供給部22から高純度空気が吹き込まれて通気処理をすることにより、試料溶液8中のICがCOに変換され、通気溝5c、5dから大気中に放出される。又、過剰の高純度空気も通気溝5c、5dから大気中に放出される。
【0031】
(ヘ)ステップS112において、試料取水孔5aから試料溶液8を採取するように、試料採取制御手段235から試料採取部21に指示を送る。そして、試料取水孔5aからICが除去された試料溶液8を採取し、取水管5bから試料流路44、44aを介して、図2の試料採取部21に送る。
【0032】
(ト)TC燃焼管(図示省略。)の内部にICが除去された試料溶液8が注入されると、TC炉制御手段232は、TC炉29にTC燃焼管を、600℃〜1000℃程度の一定の高温に、好ましくは650℃以上、例えば680℃程度の一定の高温で加熱させる命令を出す。これにより、TC燃焼管中で試料溶液8がキャリアガスと白金等の酸化触媒の下で燃焼酸化し、試料溶液8中の全炭素がCOに変換される。ステップS114において、分光部制御手段234は、分光部30に対して、測定ガスをIC反応器31、及びIC反応器31の出力側に設けられた除湿器(図示省略。)を経由して採取し、測定ガスを分光させ、TC濃度を測定し、TOC濃度を算出する。そして、算出したTOC濃度を演算制御部23の記憶装置28に、ロッドNo.等と関連付けて記憶させる。
【0033】
(チ)ステップS116において、試料容器確認手段238は、図2の記憶装置28に記憶されたTOC測定予定の試料容器3の本数等を読み出し、未測定の試料容器3があるか否か確認する。次の試料容器3がある場合は、採取ニードル制御手段231がオートサンプラ1に命令を送り、図4のモータ42によりねじ棒41を回転させて採取ニードル5を測定済みの試料容器3から引き上げる。その後、ターンテーブル制御手段239がオートサンプラ1に命令を送り、図3のターンテーブル10をターンテーブル駆動手段6により回転させ、次に測定が予定されている試料容器3を、採取ニードル5の直下へ移動させる。そして、採取ニードル制御手段231がオートサンプラ1に命令を送り、図4のモータ42によりねじ棒41を回転させて、ステップS105において、採取ニードル5を試料容器3の上部に取り付けられた薄膜弾性体4に突き刺し、採取ニードル5を試料容器3内に挿入する。その後、ステップS108〜ステップS116の手順を、未測定の試料容器3がなくなるまで繰り返す。
【0034】
従来の方法では、ステップS101からステップS105を終了した後に、ステップS108を行うことなく、ステップS110の通気作業を行っていたため、図14に示すように通気時に生じた液滴8aが試料容器3の内側の薄膜弾性体4上に付着し、その後矢印で示すように採取ニードル5の通気溝5c、5dに集まり、その液滴8aが通気溝5c、5dを通じて試料容器3の外部に漏れ出し、液滴8dとして目視されることがあった。
【0035】
本発明の実施形態に係る通気方法によれば、TOC濃度測定において、従来のような液漏れ問題がなくなることで、オートサンプラ1のメンテナンスが容易になるという効果が得られる。
【0036】
[実施例、比較例]
実施例として、実施形態に係る通気方法により、通気実験を10回行ったところ、目視可能な液漏れは発生しなかった。一方、比較例として従来の通気方法で通気実験を10回行ったところ、目視可能な液漏れは3回発生した。以上より、実施例に係る通気方法によれば、試料溶液8を内部に備え開口部が薄膜弾性体4で封止された試料容器3内に薄膜弾性体4を突き刺して採取ニードル5を挿入し、採取ニードル5の取水管5bを介して試料容器3内部にガスを送りこむ際に、試料容器3からの液漏れを防止することができることが確認された。
【0037】
(その他の実施形態)
本発明は上記の実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0038】
例えば、上記の実施形態の説明における通気処理によるICの除去が不完全であることが懸念される場合や、試料溶液8に揮発性有機体炭素(POC)が含まれている場合は、TC濃度の測定が完了したら、IC反応器制御手段237が、IC反応器31に対して、TC燃焼管からの注入経路を閉じ、試料採取部21から直接注入された試料溶液8を、IC反応液の下で無機炭素(IC)をCOに変換させる命令を出力するようにしてもよい。この場合、分光部制御手段234は、分光部30に対して、測定ガスをIC反応器31から、IC反応器31の出力側に設けられた除湿器(図示省略。)を経由して採取し、測定ガスを分光させ、IC濃度を測定させる。得られたTC濃度及びIC濃度を図2の記憶装置28に関連付けて記憶させる。その後、ステップS114において、記憶装置28からTC濃度及びIC濃度を読み出し、TOC演算手段236においてTC濃度からIC濃度を差し引くことで、より精確にTOC濃度が算出できる。
【0039】
又、上記の実施形態においては、発明の理解を容易にするため、薄膜弾性体4として薄膜平面状のセプタムを用いた。しかし、封止効果が得られ、採取ニードル5が突き刺さるものであれば薄膜弾性体4の形状は特に限定されることなく、断面凸形状の種々の弾性体を用いることができる。
【0040】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0041】
1…オートサンプラ
2…TOC測定装置
21…試料採取部
22…ガス供給部
23…演算制御部
28…記憶装置
3…試料容器
4…薄膜弾性体
5…採取ニードル
5a…試料取水孔
5b…取水管
5c、5d…通気溝
8…試料溶液
8a、8d…液滴
9…キャップ
9a…開孔部
40…採取ニードル駆動制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液を内部に収容し、上部の開口部を薄膜弾性体で封止した試料容器に対し、側部に通気溝、先端部近傍に試料取水孔、内部に前記試料取水孔に連続し長手方向に延伸する取水管を備える管状の採取ニードルを、前記薄膜弾性体の上方から、前記通気溝の位置が前記薄膜弾性体に接するまで下方に向かって移動し、前記採取ニードルを前記薄膜弾性体に突き刺し、前記試料取水孔を前記試料溶液内に挿入する工程と、
前記採取ニードルを前記薄膜弾性体に突き刺したことで生じた前記薄膜弾性体の前記試料溶液方向に向う歪みを緩和するように、前記採取ニードルを前記試料溶液の反対側に引き上げる工程と、
前記取水管を介して前記試料容器内部の前記試料溶液にガスを送りこむガス通気工程
とを含むことを特徴とする通気方法。
【請求項2】
前記引き上げる工程において、前記薄膜弾性体の主面が前記採取ニードルの側面に対して垂直になる位置、もしくは前記垂直になる位置以上の高さで前記薄膜弾性体が前記採取ニードルの側面に接触するように、前記採取ニードルの高さを調整することを特徴とする請求項1記載の通気方法。
【請求項3】
側部に通気溝、先端部近傍に試料取水孔、内部に前記試料取水孔に連続し長手方向に延伸する取水管を備える管状の採取ニードルと、
試料溶液を内部に収容し、開口部を薄膜弾性体で封止した試料容器に対し、前記通気溝が前記薄膜弾性体に接するまで、前記採取ニードルを下降して前記薄膜弾性体を貫通させ、前記採取ニードルを前記薄膜弾性体に突き刺したことで生じた前記薄膜弾性体の前記試料溶液方向に向う歪みを緩和するように、前記採取ニードルを前記試料溶液の反対側に引き上げる採取ニードル駆動制御手段と、
前記採取ニードルの取水管を介して前記試料容器内部の前記試料溶液にガスを送りこむガス供給部
とを備えることを特徴とする通気装置。
【請求項4】
採取ニードル駆動制御手段が、前記薄膜弾性体の主面が前記採取ニードルの側面に対して垂直になる位置、もしくは前記垂直になる位置以上の高さで前記薄膜弾性体が前記採取ニードルの側面に接触するように、前記採取ニードルの高さを調整することを特徴とする請求項3記載の通気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−243282(P2010−243282A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91039(P2009−91039)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】