説明

通電接合方法及び装置

【課題】通電接合において、接合に伴う加圧方向の圧縮変形を抑制しながら、欠陥の無い健全な接合を可能とする。
【解決手段】複数の通電可能な部材を接触させて接触面に面圧が生じるように加圧を行った状態で、部材間に通電を行い、接触面及び材料内部の抵抗発熱によって前記部材を加熱し、部材同士を接合する通電接合方法において、通電中に、接合部の温度、部材の寸法変化、部材に付与されている加圧力を測定する。そして、接合部の温度の時間変化が正である状態において、部材寸法の時間変化が負であることを検知したならば、部材への加圧力を減少させる加圧力制御と接合部の温度を保持又は所定の値まで降下させるように通電量を制御する通電量制御の少なくとも一方を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通電接合方法及び接合装置に関する。本発明は、特に接合部材を溶融させずに固相温度範囲で加熱して原子の拡散現象により接合を行う通電焼結接合に好適であり、また、難溶接性金属材料の同種材或いは異種材の接合に好適である。
【背景技術】
【0002】
金属材料の接合方法の中で、接合する部材に加圧下で通電を行い、接合界面の電気抵抗、及び材料内部の電気抵抗によるジュール発熱を利用して材料を加熱し接合する電気抵抗溶接法は、接合部に集中して温度上昇や材料変形が生じるためエネルギー効率が良く、接合時間も短い。このような利点から自動車産業を始めとして幅広く適用されている。
【0003】
一方で電気抵抗溶接法は、大きな電流密度で急加熱を行う手法であることから、接合界面や部材と電極との接触状態によって加熱挙動が変化し、溶接品質にばらつきを生じることがある。特に接合する面積が大きくなると均質な溶接部を得ることが困難である。また、接合部分を溶融させて結合する場合が殆どであり、溶融、凝固に伴って割れや脆性化合物を生じるような溶接性の悪い材料では良好な品質を得ることができない。
【0004】
このような問題の解決手法として、通電焼結接合法と呼ばれる接合法があり、例えば特許文献1に記載されている。この方法には、直流の連続通電を行うものと、直流のパルス通電を行うものとがあり、連続通電焼結接合法、パルス通電焼結接合法、パルス通電接合法、放電プラズマ焼結接合法、放電プラズマ接合法などと称されている。通電焼結接合法では、接合される部材は接合面を合わせて対向配置され、電極の間に挟まれ、加圧機構により電極を介して接合面に圧力が付与される。この状態で、電極間に連続電流、もしくはパルス電流、あるいはこれらを組み合わせた電流を流して接合界面を中心に抵抗発熱させる。このときの電流密度は電気抵抗溶接の十数分の一から数十分の一程度である。
【0005】
通電焼結接合法では、接合する材料の溶融温度以下の固相温度範囲で加熱を行い、材料の軟化、変形による接合界面の密着と固相拡散現象により接合がなされる。電気抵抗溶接に比べて接合部の加熱速度が小さく、温度上昇に伴って接合面の微小な変形が生じて界面の密着度が上がるため、接合面積が大きくても均質な接合部を得ることが容易である。また、接合する材料の溶融を伴わないため、接合による変形も少ない。溶融接合では良好な品質が得にくい難溶接材料の接合にも適する。
【0006】
変形による接合界面の密着と固相拡散現象を利用した接合方法には、ホットプレス法や固相拡散接合法もあるが、これらの手法は接合する部材全体を熱処理炉中で均一に加熱するため、接合に要する時間が数時間から数十時間と長く、部材全体が同様に変形するため接合変形が大きい。通電焼結接合法は局部加熱であることから、接合に要する時間を短くでき、接合変形を抑制することが可能である。
【0007】
【特許文献1】特許第3548509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、通電焼結接合法においても、加圧方向の接合変形量は場合によって数%となり、接合面側に溝形状などを予め加工しておき、接合によって部材内部に冷却流路等の内部空間を形成する用途などでは、接合変形に起因した内部空間の寸法誤差が問題になる場合がある。接合界面にボイドのない良好な接合を達成するためには、部材の接合面における材料の変形が不可欠であるが、その変形量は部材同士の接合面(接触面)に存在する微小な凹凸に起因した空隙を埋めるのに十分な大きさであれば良く、空隙が消失した後は部材間の良好な接触状態を維持するため変形を起こさない程度の加圧力が付与されていれば良い。ところが接合する材料の強度は温度によって逐次変化するため、加圧力の制御を接合開始前の設定や接合中の手動制御で行う従来の通電焼結接合法では、接合する部材の変形挙動に追従して再現性良く加圧力を調整することは困難であった。
【0009】
本発明の目的は、接合する部材の変形挙動に追従して再現性良く加圧力を調整できるようにした通電接合方法及び接合装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、複数の通電可能な部材を接触させて接触面に面圧が生じるように加圧を行った状態で、部材間に通電を行い、接触面及び材料内部の抵抗発熱によって前記部材を加熱し、部材同士を接合する通電接合方法において、通電中に、少なくとも接合部の温度と部材の寸法変化を測定し、接合部の温度の時間変化が正である状態において、部材寸法の時間変化が負であることを検知したならば、部材への加圧力を減少させる加圧力制御と通電量を調整する通電量制御の少なくとも一方を行うことを特徴とする。この場合、通電中に部材に付与されている加圧力を測定し、この加圧力が所定量だけ減少するように部材への加圧力を制御することが望ましい。また、加圧力制御では、部材への加圧力を所定量だけ減少させる制御を行い、部材寸法の時間変化が零または正となるまで複数回、同じ制御を繰り返すことが望ましい。通電量制御では、接合部の温度を保持、又は所定の値まで降下させるように通電量を制御すること、一般的には通電量を減少させることが望ましい。
【0011】
また、本発明は、複数の通電可能な部材を接触させて接触面に面圧が生じるように加圧を行った状態で、部材間に通電を行い、接触面及び材料内部の抵抗発熱によって前記部材を加熱し、部材同士を接合する通電接合方法において、通電中に、少なくとも接合部の温度と部材の寸法変化を測定し、接合部の温度の時間変化が正である状態において、部材寸法の時間変化が正から負へ変じ、更にこれにより生ずる部材寸法の極大値からの減少量が所定の値を超えた場合に、部材への加圧力を減少させる加圧力制御と通電量を調整する通電量制御の少なくとも一方を行うことを特徴とする。この接合方法の加圧力制御では、部材への加圧力を所定量だけ減少させる制御を行い、前記極大値からの部材寸法の減少量が所定値未満となるまで複数回、同じ制御を繰り返すことが望ましい。
【0012】
また、本発明は、複数の通電可能な部材を接触させて接触面に面圧が生じるように加圧を行った状態で、部材間に通電を行い、接触面及び材料内部の抵抗発熱によって前記部材を加熱し、部材同士を接合する通電接合方法において、通電中に、少なくとも接合部の温度と部材の寸法変化を測定し、接合部の温度の時間変化が正である状態において、所定の時間間隔における部材寸法の変化量を同一の時間間隔における温度変化量で除した値が、直前の時間間隔における値、もしくはそれ以前の複数の時間間隔における値の平均値よりも所定の割合以上に減少した場合に、部材への加圧力を減少させる加圧力制御と通電量を調整する通電量制御の少なくとも一方を行うことを特徴とする。この接合方法の加圧力制御では、部材への加圧力を所定量だけ減少させる制御を行い、その後の時間間隔における部材寸法の変化量を同一の時間間隔における温度変化量で除した値が、制御を行う直前の時間間隔における値、もしくはそれ以前の複数の時間間隔における値の平均値に対して所定の割合未満の減少量となるまで複数回、同じ制御を繰り返すことが望ましい。
【0013】
また、本発明は、複数の通電可能な部材を接触させて接触面に面圧が生じるように加圧を行った状態で、部材間に通電を行い、接触面及び材料内部の抵抗発熱によって前記部材を加熱し、部材同士を接合する通電接合方法において、通電中に、少なくとも接合部の温度と部材に付与されている加圧力を測定し、接合部の温度の時間変化が正である状態において部材の変形によって加圧力が減少し、その減少量が所定値を超えた場合に、部材への加圧力を更に所定量だけ減少させる加圧力制御と接合部の温度を保持又は所定の値まで降下させるように通電量を調整する通電量制御の少なくとも一方を行うことを特徴とする。この場合に、加圧力制御では、部材への加圧力を所定量だけ減少させる制御を行ったのち圧力調整を止め、加圧力の減少が停止するまで複数回、同じ制御を繰り返すことが望ましい。
【0014】
本発明において、加圧力を減少させる制御と、接合部の温度を保持又は所定の値まで降下させるための通電量の制御を同時に行うことは極めて望ましい。
【0015】
本発明は、複数の通電可能な部材を接触させて接触面に面圧が生じるように加圧を行った状態で、部材間に通電を行い、接触面及び材料内部の抵抗発熱によって前記部材を加熱し、部材同士を接合する通電接合装置において、部材に通電を行う複数の電極と、前記電極を介して部材同士の接触面に面圧を付与する加圧機構と、接合部の温度を検出する温度検出手段と、部材に付与されている加圧力の検出手段と、部材の変位を検出する変位検出手段と、前記温度検出手段及び前記変位検出手段から得られた接合部の温度データ及び部材の変位データを入力情報として所定の時間間隔における温度変化量に対する変位量の割合を算出する演算部と、前記温度変化量に対する部材の変位量の割合が予め設定された値になった場合に指令を発する制御指令部と、前記制御指令部からの指令により加圧力を所定量だけ減少させるか或いは/及び通電量を調整する制御部を備えたことを特徴とする。また、本発明は、前述の接合装置において、温度検出手段から得られる部材の加圧力が予め設定された量だけ減少するまで減圧操作を行う加圧力制御部を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、複数の通電可能な部材を接触させて接触面に面圧が生じるように加圧を行った状態で、部材間に通電を行い、接触面及び材料内部の抵抗発熱によって前記部材を加熱し、部材同士を接合する通電接合装置において、部材に通電を行う複数の電極と、前記電極を介して部材同士の接触面に面圧を付与する加圧機構と、接合部の温度検出手段と、部材に付与されている加圧力の検出手段と、前記温度検出手段及び前記変位検出手段から得られた接合部の温度データと加圧力データを入力情報として温度上昇中に生じる加圧力の減少量を監視する加圧力監視部と、前記加圧力の減少量が設定値を超えた場合に指令を発する制御指令部と、前記制御指令部からの指令を受け取り前記加圧力の検出手段から得られる部材の加圧力が予め設定された量だけ減少するまで減圧操作を行う加圧力制御部を有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、複数の通電可能な部材を接触させて接触面に面圧が生じるように加圧を行った状態で、部材間に通電を行い、接触面及び材料内部の抵抗発熱によって前記部材を加熱し、部材同士を接合する通電接合装置において、部材に通電を行う複数の電極と、前記電極を介して部材同士の接触面に面圧を付与する加圧機構と、接合部の温度検出手段と、部材の変位検出手段と、前記温度検出手段及び前記変位検出手段から得られた接合部の温度データ及び部材の変位データを入力情報として所定の時間間隔における温度変化量に対する変位量の割合を算出する部材変位監視部と、前記温度変化量に対する部材の変位量の割合が予め設定された値になった場合に指令を発する制御指令部と、その指令を受け取り前記温度検出手段から得られる部材接合部の温度を保持するか若しくは設定された値に降下するように通電量の調整を行う通電量制御部を有することを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、複数の通電可能な部材を接触させて接触面に面圧が生じるように加圧を行った状態で、部材間に通電を行い、接触面及び材料内部の抵抗発熱によって前記部材を加熱し、部材同士を接合する通電接合装置において、部材に通電を行う複数の電極と、前記電極を介して部材同士の接触面に面圧を付与する加圧機構と、接合部の温度検出手段と、部材に付与されている加圧力の検出手段と、前記温度検出手段及び前記加圧力の検出手段から得られた接合部の温度データ加圧力データを入力情報として温度上昇中に生じる加圧力の減少量を監視する加圧力監視部と、前記加圧力の減少量が設定された値を超えた場合に指令を発する制御指令部と、その指令を受け取り加圧力の検出手段から得られる部材の加圧力が予め設定された量だけ減少するまで減圧操作を行う加圧力制御部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の接合方法及び接合装置によれば、接合中の加圧により接合する部材に生じる圧縮変形に追従して加圧力を逐次調整することができる。これにより、過剰な変形を抑制しつつ、良好な接合部を得られる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、自動車分野における機構部品の異材接合、一般産業機械のインペラや油圧回路の形成、鋳造や樹脂成形分野における金型冷却構造の形成等に応用が可能である。
【0021】
本発明は、通電焼結接合を行う場合に特に適するが、電気抵抗溶接にも適用が可能である。本発明の実施形態の例を以下に示すが、本発明は以下の例に限定されるものではない。また、本発明において、接合する部材に印加する電流には、直流パルス、交流パルス、もしくは直流、交流の連続通電や、これらを組み合わせたものを用いることが出来る。接合部材の加圧機構には油圧式、空圧式、機械式など、一般的に用いられている機構を用いることができる。温度検出手段は放射温度計などの非接触式のものや、熱電対などの接触式のものが利用可能である。また、本発明によれば、加工寸法誤差を有する部材を接合した場合に、接合後の仕上がり寸法をより小さい誤差範囲に収めることが出来るという利点がある。
【実施例1】
【0022】
本実施例は、鉄又は鉄合金のように、熱伝導度が20W/m・K以下で、接合温度域までの昇温過程で材料強度が緩やかに減少する性質を有する金属部材同士を接合する場合に適する。本実施例では、部材間に直流パルス電流による通電を行い、接合部温度、部材寸法変化、部材に付与されている加圧力を測定し、接合部温度の時間変化が正である状態において、部材の寸法変化が負であった場合に、部材への加圧力を所定量だけ減少させる制御を行い、部材寸法の時間変化が零または正となるまで複数回、同じ制御を繰り返すことで実現した。
【0023】
図1は、二つの金属部材を接合する場合の接合部材と接合装置の構成を示している。接合部材及び電極の構成は断面で示している。接合装置は電極1、電極と接合電源を結ぶ通電経路2、接合電源3、加圧機構4、温度検出手段6、加圧力検出手段7、部材変位検出手段8、演算部9、制御指令部10及び加圧力制御部19から構成されている。接合部材は中空シャフト部材11であり、本実施例ではSUS403とした。中空シャフト部材11同士の接合面5を接合することにより、内部に空間を有する軸状の部品が形成される。図中の点線の矢印は検出信号の流れ17を示し、実線の矢印は制御信号の流れ18を示している。図2は接合過程において、温度検出手段6から検出された温度Tと部材変位検出手段8から検出された部材変位dの関係を示したグラフである。演算部9では所定の時間間隔における部材変位量Δdを同じ時間間隔で検出された温度変化量ΔTで除したパラメータであるΔd/ΔTを連続的に算出する。これは図2のグラフの傾きに相当する。接合過程では通電により中空シャフト部材11の接合部を中心に温度上昇が生じ、これに伴って熱膨張により部材変位dが増加する。通電開始直後には接合部の温度Tに対し部材変位dは正の傾き(Δd/ΔTが正)でほぼ線形に推移するが、温度上昇に伴って加圧方向へ中空シャフト部材11の圧縮変形が生じるため、傾きであるΔd/ΔTが減少して負の値に変化する。演算部9において、このΔd/ΔTの負への変化を検知した時点で、制御指令部10より加圧力制御部19へ所定量だけ加圧力を減少させる指令を送る。加圧力制御部19は、加圧力検出手段7から検知される加圧力の値が前記所定量だけ減少するまで、加圧機構4の減圧動作を行う。この圧力調整により中空シャフト部材11の圧縮変形が抑制された状態で所定の接合温度まで昇温を行い接合が達成される。一度の圧力調整動作では圧縮変形が抑制されず、圧力調整動作後に得られたΔd/ΔTの値が負のままである場合には、Δd/ΔTの値が正または零となるまで同様の圧力調整を複数回行う。これにより、過大な圧縮変形を抑制した接合が可能になる。実際に接合された部材の加圧方向の圧縮変形量は部材長さの1%未満であった。また接合面の断面観察を行ったところ、接合界面に隙間は無く良好に接合されており、接合された中空シャフト部材11から試験片を採取して引張試験を行ったところ、母材と同等の引張強度が得られた。本実施例では、接合部材をSUS403としたが、他の鉄系材料であってもよく、部材の数が三つ以上であっても、また部材の材質が異なっても構わない。
【0024】
また、接合する材料によっては接合温度域に達してから、制御指令部から加圧力を減少させる制御指令が出される場合がある。この場合には加圧力の調整を行う代わりに、即座に通電を停止もしくは抑制して接合部の温度を降下、冷却させる方法によっても、接合が達成される。
【実施例2】
【0025】
本実施例は、アルミニウム又はその合金、或いは銅又はその合金のように、熱伝導度が100W/m・K以上で、接合温度域までの昇温過程で材料強度が緩やかに減少する性質を有する金属部材同士を接合する場合に好適である。本実施例では、部材間に直流パルス通電を行い、接合部の温度の時間変化が正である状態において、部材寸法の時間変化が正から負へ変じ、更にこれにより生ずる部材寸法の極大値からの減少量が所定値を超えた場合に、通電量を減少させる制御を行うことで、これらの材料の接合を実現した。
【0026】
図3は、三つの金属部材を接合する場合の接合部材と接合装置の構成を示している。接合装置は電極1、通電経路2、接合電源3、加圧機構4、温度検出手段6、加圧力検出手段7、部材変位検出手段8、部材変位監視部12、制御指令部10及び通電量制御部20から構成されている。接合部材は蓋部材13、中間部材14およびポート部材15からなり、本実施例では接合部材をアルミニウム合金のA6061とした。蓋部材13と中間部材14、及び中間部材14とポート部材15の間に接合面5が存在し、接合により内部に冷却流路を有する部品が形成される。図4は接合過程において部材変位検出手段8から検出された部材変位dと、同じ時間間隔で2つの温度検出手段6から検出された接合部の温度のうち、高い側の温度Tの関係を示したグラフである。接合過程では通電により蓋部材13と中間部材14、及び中間部材14とポート部材15の接合部を中心に温度上昇が生じ、これに伴って熱膨張により部材変位dが増加する。通電開始直後には接合部の温度Tの増加に伴って変位dはほぼ一定の傾きで増加するが、温度上昇により加圧方向へ各部材の圧縮変形が生じるため、部材変位dは極大値dmaxを示したのち温度Tが上昇している状態で減少を始める。部材変位監視部12において、変位dの前記極大値dmaxからの減少量xが予め設定した割合以上になったことが検知された時点で、制御指令部10より通電量制御部20へ通電量を調整する指令を送る。通電量制御部20は、接合部の温度を保持、又は予め設定した値まで降下させるように、接合電源3からの通電量を調整する。一般的は通電量を減少させる。この通電量調整により各部材の圧縮変形が抑制された状態で所定の接合温度まで昇温を行い接合が達成される。一度の通電量調整動作では圧縮変形が抑制されず、通電量調整動作後に得られた部材変位dが減少を続ける場合には、部材変位dの減少が停止するまで同様の通電量調整を複数回行うことで過大な圧縮変形を抑制した接合が可能になる。実際に接合された部材の加圧方向の圧縮変形量は部材長さの2%未満であった。また接合面の断面観察を行ったところ、接合界面に隙間は無く良好に接合されており、蓋部材13、中間部材14、ポート部材15が接合された接合部材から試験片を採取して引張試験を行ったところ、母材と同等の引張強度が得られた。本実施例では、接合する部材をA6061としたが、他のアルミニウム合金や銅合金であってもよく、部材の材質が異なっても、また部材の数が二つもしくは四つ以上であっても構わない。
【0027】
本実施例のように接合面が複数存在する場合には、通電加熱中に、それぞれの接合部の温度がほぼ同じになるように、部材の設計や電極サイズの選定、電極の冷却条件の設定を行っておくことが望ましい。また、通電量調整の要否を判断するための温度データとしては、一箇所の検出温度を用いればよく、特に、最も高い温度が検出された接合部の温度データを用いることが好ましい。
【0028】
本実施例では、温度上昇過程で生じる部材変位の減少割合を部材変位監視部12で検知して通電量の調整を行ったが、部材変位監視部12の代わりに加圧力監視部を設け、加圧力の極大値からの減少割合を検知して、通電量の調整操作を行ってもよい。また、通電量調整操作終了後の加圧力の増減挙動を再度検知し、必要に応じて通電量の調整操作を繰り返して行ってもよく、接合する部材の過大な圧縮変形を抑制した接合が可能になる。
【0029】
通電量制御では、温度検出手段6から得られる接合部の温度Tが予め設定された温度パターンに追従するように、フィードバック制御などの通電量の自動制御を行うことも可能である。
【0030】
なお、予備試験等の過去のデータにおいて、接合前の部材寸法と、加熱中に起こった変位の減少割合と、その後冷却され常温に戻ったときの部材寸法、の三者の対応関係が分かっていれば、減圧等の制御をかける閾値を変更することで、接合前の部材寸法に加工誤差等でばらつきがある場合でも、接合後(冷却後)の部材寸法を目標とする範囲に収めることが出来る。
【実施例3】
【0031】
本実施例は、チタン又はその合金のように、熱伝導度が20W/m・K以下で、接合温度域までの昇温過程で相変態等により材料強度が急激に減少する性質を有する金属部材同士を接合する場合に好適である。
【0032】
図5は、二つの中空部材16を接合する場合の接合部材と接合装置の構成を示している。接合部材及び電極の構成は断面で示している。図6は接合過程において温度検出手段6から検出された温度Tと部材変位検出手段8から検出された部材変位dの関係を示したグラフである。演算部9では所定の時間間隔における部材変位量Δdを、同じ時間間隔で検出された温度変化量ΔTで除したパラメータであるΔd/ΔTを連続的に算出する。これは図6のグラフの傾きに相当する。接合過程では通電により中空部材16の接合部を中心に温度上昇が生じ、これに伴って熱膨張により部材変位dが増加する。通電開始直後には接合部の温度Tに対し部材変位dは正の傾き(Δd/ΔTが正)でほぼ線形に推移するが、温度上昇に伴って加圧方向へ中空部材16の圧縮変形が生じるためΔd/ΔTが徐々に減少する。演算部9において算出された或る時間間隔Δt(n)におけるΔd(n)/ΔT(n)が、その前の時間間隔Δt(n−1)において算出されたΔd(n−1)/ΔT(n−1)から所定の割合以上に減少したことが検知された時点で、制御指令部10より加圧力制御部19へ加圧機構4の加圧力を所定量だけ減少させる指令を送る。加圧機構4は加圧力検出手段7から検知される加圧力の値が前記所定量だけ減少するまで減圧動作を行う。また、制御指令部10より通電量制御部20へ、接合部の温度を保持、又は所定の値まで降下させるように、通電量を調整する指令を送り、通電量調整を行う。この圧力調整と通電量調整により中空部材16の圧縮変形が抑制された状態で所定の接合温度まで昇温を行い接合が達成される。一度の加圧力及び通電量調整動作では圧縮変形が抑制されず、これら調整動作後の所定の時間間隔Δt(n+1)で得られたΔd(n+1)/ΔT(n+1)の値が、Δd(n)/ΔT(n)よりも前記した所定の割合以上に減少し続けている場合には、Δd(n+x+1)/ΔT(n+x+1)のΔd(n+x)/ΔT(n+x)に対する減少の割合が前記所定の割合未満となるまで、同様の調整をx回行う。これにより、過大な圧縮変形を抑制した接合が可能になる。実際に接合された部材の加圧方向の圧縮変形量は部材長さの1%未満であった。また接合面の断面観察を行ったところ、接合界面に隙間は無く良好に接合されており、接合された中空部材16から試験片を採取して引張試験を行ったところ、母材と同等の引張強度が得られた。本実施例では、接合部材をTi−6Al−4V合金としたが、純チタンや他のチタン合金であっても良く、部材の材質が異なっても、また部材の数が三つ以上であっても構わない。
【0033】
本実施例では、温度上昇過程で生じる部材変位の減少を検知して加圧力と通電量を調整したが、部材の加熱を自動で行う場合には、到達温度と加熱速度の関係をプログラム(温度パターン)し、実際の温度とプログラムされた温度パターンの差異をチェックして、通電量の調整を行いながら昇温していくことも可能である。
【0034】
また、接合する材料によっては接合温度域に達してから、制御指令部から加圧力を減少させる制御指令が出される場合がある。この場合には加圧力の調整を行う代わりに、即座に通電を停止もしくは抑制して接合部の温度を降下、冷却させる方法によっても、接合が達成される。
【実施例4】
【0035】
第一の実施例では、演算部9においてΔd/ΔTの負への変化を検知した時点で加圧力制御を行っているが、図7に示すように、部材変位検出手段8及び演算部9を省略し、この代わりに加圧力監視部21を設け、加圧力の極大値からの減少割合を監視して、加圧力を制御することも可能である。具体的には、加圧力の減少量が予め設定した割合以上であることを検知したならば、加圧力監視部21から制御指令部10へ所定量だけ加圧力を減少させる指令を送る。制御指令部10からの指令を受けて、加圧力制御部19では、加圧力検出手段7から検知される加圧力の値が所定量だけ減少するまで、加圧機構4の減圧動作を行う。
【0036】
なお、熱伝導度や昇温過程での強度変化の傾向が大きく異なる異種の材料同士を接合する場合には、接合する材料のうちで最も融点が低い材料の性質に合わせて実施例1から実施例4の形態を用いることで過大な変形を抑制した接合が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第一の実施例による接合部材及び接合装置の構成を示した説明図である。
【図2】第一の実施例における接合部の温度Tと接合部材の変位dの関係を示したグラフである。
【図3】第二の実施例による接合部材及び接合装置の構成を示した説明図である。
【図4】第二の実施例における接合部の温度Tと接合部材の変位dの関係を示したグラフである。
【図5】第三の実施例による接合部材及び接合装置の構成を示した説明図である。
【図6】第三の実施例における接合部の温度Tと接合部材の変位dの関係を示したグラフである。
【図7】他の実施例による接合部材及び接合装置の構成を示した説明図である。
【符号の説明】
【0038】
1…電極、2…通電経路、3…接合電源、4…加圧機構、5…接合面、6…温度検出手段、7…加圧力検出手段、8…部材変位検出手段、9…演算部、10…制御指令部、11…中空シャフト部材、12…部材変位監視部、13…蓋部材、14…中間部材、15…ポート部材、16…中空部材、17…検出信号の流れ、18…制御信号の流れ、19…加圧力制御部、20…通電量制御部、21…加圧力監視部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の通電可能な部材を接触させて接触面に面圧が生じるように加圧を行った状態で、部材間に通電を行い、接触面及び材料内部の抵抗発熱によって前記部材を加熱し、部材同士を接合する通電接合方法において、通電中に、少なくとも接合部の温度と部材の寸法変化を測定し、接合部の温度の時間変化が正である状態において、部材寸法の時間変化が負であることを検知したならば、部材への加圧力を減少させる加圧力制御と通電量を調整する通電量制御の少なくとも一方を行うことを特徴とする通電接合方法。
【請求項2】
請求項1において、前記加圧力制御では、部材への加圧力を所定量だけ減少させ、部材寸法の時間変化が零または正となるまで複数回、同じ制御を繰り返すことを特徴とする通電接合方法。
【請求項3】
請求項1において、前記通電量制御では、接合部の温度を保持、又は所定の値まで降下させるように通電量を調整することを特徴とする通電接合方法。
【請求項4】
請求項1において、前記部材の接合が、部材を固相温度範囲で加熱し、接合界面での原子の拡散現象により行われる通電焼結接合であることを特徴とする通電接合方法。
【請求項5】
請求項2において、前記部材に付与されている加圧力を測定し、この加圧力の測定値が所定量だけ減少するように部材への加圧力を制御することを特徴とする通電接合方法。
【請求項6】
請求項1において、前記加圧力制御と前記通電量制御を同時に行うことを特徴とする通電接合方法。
【請求項7】
請求項1において、接合部の温度の時間変化が正である状態において、部材寸法の時間変化が正から負へ変じ、更にこれにより生ずる部材寸法の極大値からの減少量が所定の値を超えていることを検知したならば、部材への加圧力を減少させる加圧力制御と通電量を調整する通電量制御の少なくとも一方を行うことを特徴とする通電接合方法。
【請求項8】
複数の通電可能な部材を接触させて接触面に面圧が生じるように加圧を行った状態で、部材間に通電を行い、接触面及び材料内部の抵抗発熱によって前記部材を加熱し、部材同士を接合する通電接合方法において、通電中に、少なくとも接合部の温度と部材に付与されている加圧力を測定し、接合部の温度の時間変化が正である状態において部材の変形によって加圧力が減少し、その減少量が所定値を超えていることを検知したならば、部材への加圧力を更に所定量だけ減少させる加圧力制御と接合部の温度を保持又は所定の値まで降下させるように通電量を調整する通電量制御の少なくとも一方を行うことを特徴とする通電接合方法。
【請求項9】
請求項8において、前記加圧力制御では、部材への加圧力を所定量だけ減少させる制御を行ったのち圧力調整を止め、加圧力の減少が停止するまで複数回、同じ制御を繰り返すことを特徴とする通電接合方法。
【請求項10】
請求項8において、前記加圧力制御と前記通電量制御を同時に行うことを特徴とする通電接合方法。
【請求項11】
複数の通電可能な部材を接触させて接触面に面圧が生じるように加圧を行った状態で、部材間に通電を行い、接触面及び材料内部の抵抗発熱によって前記部材を加熱し、部材同士を接合する通電接合方法において、通電中に少なくとも接合部の温度と部材の寸法変化を測定し、接合部の温度の時間変化が正である状態において、所定の時間間隔における部材寸法の変化量を同一の時間間隔における温度変化量で除した値が、直前の時間間隔における値もしくはそれ以前の複数の時間間隔における値の平均値よりも所定の割合以上に減少していることを検知したならば、部材への加圧力を減少させる加圧力制御と通電量を調整する通電量制御の少なくとも一方を行うことを特徴とする通電接合方法。
【請求項12】
請求項11において、前記加圧力制御では、部材への加圧力を所定量だけ減少させる制御を行い、その後の時間間隔における部材寸法の変化量を同一の時間間隔における温度変化量で除した値が、制御を行う直前の時間間隔における値、もしくはそれ以前の時間間隔における値の平均値に対して所定の割合未満の減少量となるまで複数回、同じ制御を繰り返すことを特徴とする通電接合方法。
【請求項13】
請求項11において、前記通電量制御では、接合部の温度を保持、又は所定の値まで降下させるように通電量を調整することを特徴とする通電接合方法。
【請求項14】
請求項11において、前記加圧力制御と前記通電量制御を同時に行うことを特徴とする通電接合方法。
【請求項15】
複数の通電可能な部材を接触させて接触面に面圧が生じるように加圧を行った状態で、部材間に通電を行い、接触面及び材料内部の抵抗発熱によって前記部材を加熱し、部材同士を接合する通電接合に使用される接合装置であって、部材に通電を行う複数の電極と、前記電極を介して部材同士の接触面に面圧を付与する加圧機構を備えたものにおいて、
接合部の温度検出手段と、部材に付与されている加圧力の検出手段と、部材の変位検出手段と、前記温度検出手段から得られた接合部の温度データ及び前記変位検出手段から得られた部材の変位データを入力情報として所定の時間間隔における温度変化量に対する変位量の割合を算出する演算部と、前記温度変化量に対する部材の変位量の割合が予め設定された値になったときに指令を発する制御指令部と、前記制御指令部からの指令により加圧力を所定量だけ減少させるか或いは/及び接合部の温度を保持又は所定値だけ降下させるように通電量を調整する制御部を備えたことを特徴とする通電接合装置。
【請求項16】
請求項15において、前記制御指令部からの指令を受けて、前記加圧力の検出手段から得られる部材の加圧力が予め設定された量だけ減少するまで減圧操作を行う加圧力制御部を備えたことを特徴とする通電接合装置。
【請求項17】
複数の通電可能な部材を接触させて接触面に面圧が生じるように加圧を行った状態で、部材間に通電を行い、接触面及び材料内部の抵抗発熱によって前記部材を加熱し、部材同士を接合する通電接合に使用される接合装置であって、部材に通電を行う複数の電極と、前記電極を介して部材同士の接触面に面圧を付与する加圧機構を備えたものにおいて、
接合部の温度検出手段と、部材に付与されている加圧力の検出手段と、前記温度検出手段から得られた接合部の温度データと前記加圧力の検出手段から得られた加圧力データを入力情報として温度上昇中に生じる加圧力の減少量を監視する加圧力監視部と、前記加圧力の減少量が設定値を超えた場合に指令を発する制御指令部と、前記制御指令部からの指令を受け取り前記加圧力の検出手段から得られる部材の加圧力が予め設定された量だけ減少するまで減圧操作を行う加圧力制御部を備えたことを特徴とする通電接合装置。
【請求項18】
複数の通電可能な部材を接触させて接触面に面圧が生じるように加圧を行った状態で、部材間に通電を行い、接触面及び材料内部の抵抗発熱によって前記部材を加熱し、部材同士を接合する通電接合に使用される接合装置であって、部材に通電を行う複数の電極と、前記電極を介して部材同士の接触面に面圧を付与する加圧機構を備えたものにおいて、
接合部の温度検出手段と、部材の変位検出手段と、前記温度検出手段から得られた接合部の温度データと前記変位検出手段から得られた部材の変位データを入力情報として所定の時間間隔における温度変化量に対する変位量の割合を算出する部材変位監視部と、前記温度変化量に対する部材の変位量の割合が設定値になったときに指令を発する制御指令部と、前記制御指令部からの指令を受けて前記温度検出手段から得られる接合部の温度を保持又は予め設定された値まで降下するように通電量の調整を行う通電量制御部を備えたことを特徴とする通電接合装置。
【請求項19】
複数の通電可能な部材を接触させて接触面に面圧が生じるように加圧を行った状態で、部材間に通電を行い、接触面及び材料内部の抵抗発熱によって前記部材を加熱し、部材同士を接合する通電接合に使用される接合装置であって、部材に通電を行う複数の電極と、前記電極を介して部材同士の接触面に面圧を付与する加圧機構を備えたものにおいて、
接合部の温度検出手段と、部材に付与されている加圧力の検出手段と、部材の変位検出手段と、前記温度検出手段から得られる接合部の温度データと前記変位検出手段から得られる部材の変位データと前記加圧力の検出手段から得られる加圧力データを入力情報として所定の時間間隔における温度変化量に対する変位量の割合及び温度上昇中に生じる加圧力の減少量を算出する演算部と、前記温度変化量に対する部材の変位量の割合が予め設定された値になった場合及び前記加圧力の減少量が設定値を超えた場合にそれぞれ指令を発する制御指令部と、前記制御指令部からの指令により加圧力を所定量だけ減少させる加圧力制御部と接合部の温度を保持又は所定値だけ降下させるように通電量を調整する通電量制御部とを備えたことを特徴とする通電接合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−175740(P2007−175740A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−378277(P2005−378277)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(598101262)諏訪熱工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】