説明

連続式雰囲気高温炉装置、ナノカーボンの連続製造方法、ナノ材料の焼成・黒鉛化法

【課題】雰囲気ガスの制御性の良い、連続的に運転のできる連続式雰囲気高温炉装置及び該装置を用いたナノカーボンの製造方法、焼成方法、黒鉛化方法を提供する。
【解決手段】高温炉1の両端に、基板又は試料を連続的に供給する機構3、7と、処理後の基板または試料を連続的に回収する機構4を設ける。雰囲気ガスを供給するガス供給部5を回収部に、ガス排出部6を供給部に設ける。基板又は試料を順次移動させながら、昇温、加熱処理および冷却の一連のことを行うことで、高温炉の作業効率が高められる。供給機構を収納する供給ボックスおよび回収機構を収納する回収ボックスは、炉心管と連結して、密閉な空間となり、真空により空気を抜き、雰囲気ガスと交換することが可能になり、無酸素の雰囲気で、炭素材料を始めとするナノ材料の生成反応や焼成、黒鉛化を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料の製造、焼成、黒鉛化に係わり、高温管状炉の両端に、基板又は試料を連続的に供給する機構と、処理後の基板または試料を連続的に回収する機構と、雰囲気ガスの供給・排出口を設けた連続式雰囲気高温炉装置、この高温炉装置を用いてナノカーボンをはじめとするナノ材料を製造するナノカーボンの連続製造方法、および該高温炉装置を用いてナノカーボンをはじめとするナノ材料を加熱するナノ材料の焼成・黒鉛化法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温炉として、バッチ式のボックス式恒温箱、マッフル炉、セラミックス管状炉、連続式の回転キルン、コンベア焼成炉などが知られている。バッチ式の高温炉では、炉内温度を上昇させ、既定温度を保持して、室温まで冷却することが1サイクルであり、昇温、降温するのに時間が要するため、非効率であることが知られている。一方、連続式の高温炉では、摺動部の耐熱性、気密性に問題があり、雰囲気の制御、超高温域の適応に不向きであるとされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、雰囲気の制御および連続処理のできる連続式雰囲気炉装置、並びに該装置を用いる炭素材料の連続製造方法、およびその焼成、黒鉛化方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の連続式雰囲気高温炉装置は、加熱炉とこの炉を貫通した耐熱管からなる高温炉部と、被加熱物を高温炉の入口まで搬送する搬入部と、高温炉の入口に置かれた被加熱物を耐熱管内に移送する挿入部と、高温炉の出口から移送された被加熱物を搬出する搬出部と、搬出部に雰囲気ガスを供給するガス供給部と、搬入部にガスを排気する真空吸引装置および排気ガス処理装置を備えたガス排出部とを備えることを特徴とする。
【0005】
本発明では、高温管状炉の両端に、基板又は試料を連続的に供給する機構と、処理後の基板または試料を連続的に回収する機構が設けられる。雰囲気ガスの供給口が回収部に、ガス排出口が供給部に設けられる。基板又は試料を順次移動させながら、加熱、熱処理および冷却の一連のことを行うことで、高温炉の作業効率が高められる。また、試料の輸送・搬出機構は、高温領域に接しないため、摺動部品の耐熱性による高温炉の温度が制限されない。また、供給機構を収納する供給ボックスおよび回収機構を収納する回収ボックスは、炉心管と連結して、密閉な空間となり、真空により空気を抜き、雰囲気ガスと交換することが容易となる。
【0006】
また、本発明の連続式雰囲気高温炉を用いて、触媒を載せた基板を高温領域へ順次に移送しながら反応性ガスを持続的に供給することで、化学気相堆積(CVD)装置が得られる。
【0007】
更に、合成した炭素材料などを詰込んだるつぼを高温領域へ順次に移送しながら、種々の雰囲気ガスを持続的に供給することで、炭素材料などの焼成、焼結、黒鉛化が可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、高温炉の両端に搬入・搬出機構と挿入機構とガス供給・排気部を設けることにより、被加熱物の連続処理が可能となる。バッチ式高温炉に比べると昇温、冷却の時間が省かれ、作業効率は格段的に改善され、工業用、産業用に大きな利点が得られる。
【0009】
また、本発明の連続式雰囲気高温炉は、基板法連続CVD装置としてナノカーボンの製造と製造されたナノカーボンの焼成または黒鉛化を実現し、研究開発用にも好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて説明する。しかし、本発明は多様な他の形に変形でき、ここに示す実施例は本発明を説明するために提供されるものであり、本発明の範囲が後述する実施例によって限定されるものと解釈されてはならない。また、図面における要素の形状などはより明確な説明を強調するために誇張されたものであり、本発明の要素の仕様、寸法を限定されるものと解釈されてはならない。
【0011】
図1は、本発明を説明するための、連続式雰囲気高温炉装置を概略的に示す図面である。本発明の装置は、高温炉1と耐熱管2からなる管状高温炉の両端部に、搬入機構3と搬出機構4を連結し、搬出機構4に雰囲気ガス供給部5を、搬入機構3にガス排出部6を備えている。
【0012】
また、搬入機構3が移送して来た基板又はるつぼを耐熱管2に挿入する挿入機構7が設けられる。更に、搬入機構3と搬出機構4を連動させる連動機構8が設けられる。
【0013】
高温炉1は、熱源とする役割をするもので、抵抗炉、赤外炉、高周波電気炉などから選べる。材質、形状、大きさなどはとくに制限しないが、耐熱管2とフィットした耐高熱の物が好ましい。
【0014】
耐熱管2は、高温炉1からの熱を効率よく基板または試料に伝達させる役割と、基板または試料を大気に曝されない役割をするもので、金属管、石英管、セラミックス管から選択できる。耐熱管2は、通常円筒状が好ましいが、断面四角、長方形、楕円形などの異形パイプでも好適である。
【0015】
搬入機構3は、基板または試料を耐熱管2の入口まで搬送する役割をするもので、ベルトコンベア、ローラーコンベア、チェーンコンベア、圧力リフトなどから選択できる。
【0016】
挿入機構7は、搬入機構3により搬送してきた基板または試料を耐熱管2内に移送する役割をするもので、前後に移動ができ、ガス漏れのないように構成される。真空パーキングを備えた摺動棒、または螺旋バーが好適である。
【0017】
搬出機構4は、耐熱管2の出口から移送してきた基板または試料を回収する役割をするもので、搬入機構3と同じく、ベルトコンベア、ローラーコンベア、チェーンコンベア、圧力リフトなどから選択できる。
【0018】
また、搬入機構3と搬出機構4を同じピッチで動かせるため、連動機構8が設けられる。連動機構8は、搬入機構3、搬出機構4に併せて、同軸歯車、同軸駆動ローラー、などから選択できる。連動機構は、手動またはステップモーターにより駆動することができる。
【0019】
基板またはるつぼは、図に示していないが、耐熱性を有する石英、炭素材、セラミックス材が好ましい。基板とるつぼの形状、寸法に制限がないが、耐熱管2を損傷させることなく、よくフィットするものが好ましい。
【0020】
ガス供給部5は、雰囲気ガスを高温炉1に供給するもので、搬出機構4の端部、つまり搬出される基板またはるつぼを回収する回収部近辺に設けられる。ガス供給部5は、雰囲気ガスの圧力を制御するレギュレーター、ガス流量をモニターと制御する流量計とバルブを備える。ガス種に制限がないが、水素などの還元性ガス、アルゴン、ヘリウム、窒素などの不活性ガス、炭化水素などの反応性ガスが使途によって選択できる。反応ガスの中に液体炭化水素を気化させ、ガスとして使用することもできる。
【0021】
ガス排出部6は、搬入機構3の基板またはるつぼ供給部近辺に設けられ、真空ポンプと排気ガスの脱臭装置を備える。真空を引くことにより装置内部の空気を吸出し、ガス供給部5から導入された雰囲気ガスに空気が混入されるのを防止する。脱臭装置は、出ガスの成分により選択するが、炭化水素を吸着する活性炭フィルターや、アルカリ性水のスクラバーなどが好ましい。
【0022】
触媒体は、金属、金属化合物、それらの混合物または合金からなるものである。中には、Fe、Co、Ni、Cu、Znなどの遷移金属の群から少なくとも一種を含む金属、合金、金属化合物、混合物よりなる群から選択される触媒が好ましい。
【0023】
より低温で、より多種多様のナノカーボンを合成するため、前記の触媒前駆体にAl、In、Sn、P、Sなどの低融点金属、非金属の群から少なくとも一種を含む単体、化合物、混合物よりなる群から選択された物を添加することが好ましい。
【0024】
反応性ガスは、炭化水素化合物の群から少なくとも一種を選択された物が好ましい。常温でガス態のメタン、アセチレンなどと、常温で液体のベンゼン、トルエン、シクロヘキサンなどまたは混合物のガソリン、軽油、灯油などを気化したガスが好適である。
【0025】
次に、本発明を実施例に基いて具体的に説明する。
【実施例1】
【0026】
実施例1に使用する装置では、図1に示す概略図と同じく、搬入機構3、搬出機構4は水平に設置されたベルトコンベアである。ベルトコンベアをステップモーターにより間欠的に移動する。挿入機構7は、ウィルソンシールに取付けた摺動棒を使用する。
【0027】
鉄とスズの微粉の混合物を触媒としてシリコン基板に均一に塗布して、この基板を黒鉛のるつぼに上向きに固定し、順次高温域から搬入部3のコンベアに載せる。
【0028】
そして、ガス排出部6の真空ポンプにより真空を引き、空気を排出して、ガス供給部5より窒素ガスを導入する。このような工程を2回繰り返して、換気を行う。更に、ガス排出部6の真空ポンプにより真空を引き、窒素を排出して、ガス供給部5よりヘリウムガスを導入する。
【0029】
ガス供給部5よりヘリウムガスを導入しながら、耐熱管の温度を750℃に昇温して、高温炉1に備えた温度制御装置により温度を自動的に維持する。
【0030】
そして、ガス供給部5よりアセチレンを一定の比率でヘリウムガスに混入しながら、耐熱管2内に導入して、反応させる。
【0031】
上記の状態で、5分間ナノカーボンの生成反応を行って、挿入機構7に備えた摺動棒を押し、被加熱物を移動させる。
【0032】
更に、搬入・搬出機構を構成するベルトコンベアを動かし、被加熱物を耐熱管2の入口に移送して、挿入機構7に備えた摺動棒により耐熱管2内に挿入する。
【0033】
5分間毎に、摺動棒による被加熱物の管内移動、搬入・搬出機構による被加熱物の移送を繰り返して行う。全体的に見れば、被加熱物は間欠的に移動され、連続的に処理されている。
【0034】
回収された被加熱物の表面を電子顕微鏡(SEM)で観察すると、図2に示すように、カーボンナノコイル(CNC)に覆われていることがわかる。
【実施例2】
【0035】
実施例2に使用する装置では、図1に示す概略図と同じであるが、搬入機構3、搬出機構4は垂直に設置されたリフトコンベアである。リフトコンベアをステップモーターにより間欠的に移動する。挿入機構7は、ウィルソンシールに取付けた摺動棒を使用する。
【0036】
流動法化学気相堆積(CVD)法により合成したナノカーボンを黒鉛のるつぼに入れ、順次高温域から搬入機構3のコンベアにセットする。
【0037】
そして、ガス排出部6の真空ポンプにより真空を引き、空気を排出して、ガス供給部5より窒素ガスを導入する。このような工程を2回繰り返して、換気を行う。更に、ガス排出部6の真空ポンプにより真空を引き、窒素を排出して、ガス供給部5よりアルゴンガスを導入する。
【0038】
ガス供給部5よりアルゴンガスを導入しながら、耐熱管2の温度を650℃に昇温して、高温炉1に備えた温度制御装置により温度を自動的に維持する。
【0039】
上記の状態で、20分間ナノカーボンの焼成を行って、挿入機構7に備えた摺動棒を押し、被加熱物を移動させる。
【0040】
更に、搬入・搬出機構を構成するベルトコンベアを動かし、被加熱物を耐熱管2の入口に移送して、挿入機構7に備えた摺動棒により耐熱管2内に挿入する。
【0041】
30分間毎に、摺動棒による被加熱物の管内移動、搬入・搬出機構による被加熱物の移送を繰り返して行う。全体的に見れば、被加熱物は間欠的に移動され、連続的に焼成されている。
【実施例3】
【0042】
実施例3では、実施例2と同じ装置を使用する。
【0043】
上記の焼成したナノカーボンを黒鉛のるつぼに入れ、順次高温域から搬入部3のコンベアにセットする。
【0044】
そして、ガス排出部6の真空ポンプにより真空を引き、空気を排出して、ガス供給部5より窒素ガスを導入する。このような工程を2回繰り返して、換気を行う。更に、ガス排出部6の真空ポンプにより真空を引き、窒素を排出して、ガス供給部5よりアルゴンガスを導入する。
【0045】
ガス供給部5よりアルゴンガスを導入しながら、耐熱管2の温度を2800℃に昇温して、高温炉1に備えた温度制御装置により温度を自動的に維持する。
【0046】
上記の状態で、30分間ナノカーボンの焼成を行って、挿入機構7に備えた摺動棒を押し、被加熱物を移動させる。
【0047】
更に、搬入・搬出機構を構成するベルトコンベアを動かし、被加熱物を耐熱管2の入口に移送して、挿入機構7に備えた摺動棒により耐熱管内に挿入する。
【0048】
30分間毎に、摺動棒による被加熱物の管内移動、搬入・搬出機構による被加熱物の移送を繰り返して行う。全体的に見れば、被加熱物は間欠的に移動され、連続的に黒鉛化されている。
【0049】
図3は、流動法化学気相堆積(CVD)法により合成したナノカーボンのアズグロー品、実施例2より得られた焼成品、実施例3より得られた黒鉛化品の圧縮体積抵抗を示す。焼成および黒鉛化することにより、ナノカーボンの体積抵抗が減少し、つまり導電性が付与されたことがわかる
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明を説明するための連続式雰囲気高温炉装置を概略的に示す構成図である。
【図2】実施例1により製造されるカーボンナノコイル(CNC)の電子顕微鏡(SEM)写真図である。
【図3】アズグローのナノカーボン、実施例2によるナノカーボンの焼成品、実施例3によるナノカーボンの黒鉛化品の体積抵抗率を示す表図である。
【符号の説明】
【0051】
1 高温炉
2 耐熱管
3 搬入部
4 搬出部
5 ガス供給部
6 ガス排気部
7 挿入部
8 搬入・搬出機構の連動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉とこの炉を貫通した耐熱管からなる高温炉部と、被加熱物を高温炉の入口まで搬送する搬入部と、高温炉の入口に置かれた被加熱物を耐熱管内に移送する挿入部と、高温炉の出口から移送された被加熱物を搬出する搬出部と、搬出部に雰囲気ガスを供給するガス供給部と、搬入部にガスを排気する真空吸引装置および排気ガス処理装置を備えたガス排出部とを備えることを特徴とする連続式雰囲気高温炉装置。
【請求項2】
請求項1の連続式雰囲気高温炉装置を用いて、触媒を載せた基板を耐熱管に導入して、真空により排気を行い、雰囲気ガスを供給し、高温炉を昇温させ、反応性ガスを導入をしてから、触媒基板を間欠的に搬入・搬出し、ナノカーボンを含むナノ材料を製造することを特徴とするナノカーボンの連続製造方法。
【請求項3】
請求項1の連続式雰囲気高温炉装置を用いて、ナノ材料を充填したるつぼを耐熱管に導入して、真空により排気を行い、雰囲気ガスを供給し、高温炉を昇温し、不活性ガスを導入してから、るつぼを間欠的に搬入・搬出し、ナノカーボンを含むナノ材料を加熱することを特徴とするナノ材料の焼成・黒鉛化法。
【請求項4】
反応性ガスは、炭化水素の化合物群から選択された一つまたはそれらの混合物であることを特徴とする請求項2に記載のナノカーボンの連続製造方法。
【請求項5】
触媒は、Fe、Co、Ni、Cu、Znなどの遷移金属の群から少なくとも一種を含む金属、合金、金属化合物、混合物よりなる群から選択されることを特徴とする請求項2又は4に記載のナノカーボンの連続製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−247621(P2008−247621A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87232(P2007−87232)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(592057385)株式会社湘南合成樹脂製作所 (61)
【Fターム(参考)】