説明

連続混練機

【課題】 連続混練機において、材料中で伸長流れを起こすものの体積割合を高めて、材料に容易に伸長流れを付与することを可能にする。
【解決手段】本発明の連続混練機1は、2つの円通孔4、4がその内壁面12の一部同士が互いに重なり合うように内部に平行に形成されたバレル3と、それぞれの円通孔4、4の内部に挿通されると共に互いに異なる方向に回転する2軸の混練ロータ2とを備えた連続混練機1であって、混練ロータ2は、混練ロータ2の軸心回りに混練フライト10を少なくとも2条以上有しており、混練ロータ2の回転中心Rが、軸垂直方向の断面において、混練ロータ2が挿入される円通孔4の中心Pからバレル3の中央寄りまたは上方寄りに偏心していることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難混練性の樹脂材料に対して混練を行う連続混練機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、連続混練機は、バレル内に高分子樹脂のペレットや粉状の添加物などの材料を供給し、バレル内に挿通された一対の混練ロータを回転させることで両者をバレル内で混練しながら下流側へ送る機構となっている。
このような連続混練機での混練(分散混練)については、一般に、材料にせん断流れ(材料を引き裂くような流れ)を付与するより、材料に伸長流れ(材料を引き伸ばすような流れ)を付与する方が優位であるとされている。特に、近年は新しい複合樹脂材料の開発などにより難混練性の材料が増える傾向があり、混練時において伸長流れを起こす材料の体積割合を高めて分散混練を効果的に行いたいというニーズが大きくなっている。
【0003】
このように伸長流れを起こす材料の体積割合を高めようとする場合は、入側が広く出側が狭い流路、言い換えれば流れ方向に開口断面積が急激に小さくなるような流路に材料を導いて混練を行うことが一般的である。例えば特許文献1には、一対の混練ロータをバレル内に備えた射出成形機であって、バレルの内壁面に対面して回転する混練フライトのフライト面を軸方向に沿って傾斜させたものが開示されている。このようにフライト面を傾斜状に形成すれば、バレルの内壁面とフライト面との間に形成されるクリアランス(チップクリアランス)が軸方向(材料の流れ方向)に徐々に狭まるようになり、このクリアランスに導かれる材料に伸長流れを付与可能となる。
【0004】
一方、上述したような入側が広く出側が狭い流路を得る方法としては、混練ロータの軸心とこの混練ロータが挿入されるバレル内の円通孔の中心とを偏心させる方法もある。
例えば、特許文献2には、バレルの内壁面に対する混練フライトの衝突(かじり)を回避する目的ではあるが、混練ロータの軸心が円通孔の中心に対して外側に偏心した押出機が開示されている。この押出機では、混練フライトのフライト面がバレルの中心寄り(噛み合い側)の内壁面を通過するときにはチップクリアランスは広くなるが、中心から離れたバレルの外側の内壁面を通過するときにはチップクリアランスが狭くなり、この狭いチップクリアランスを通過する材料にある程度の伸長流れを付与することが可能となる。
【0005】
このように混練ロータの軸心が円通孔の中心から偏心した混練設備には、特許文献2以外にも例えば特許文献3の2軸押出機や特許文献4のバッチ式混練機などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−1265号公報
【特許文献2】特開2006−56095号公報
【特許文献3】特開昭62−234533号公報
【特許文献4】実開平2−76020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1の射出成形機においては、上述したように軸方向に沿って傾斜したフライト面に沿って材料が流れた場合に材料に伸長流れが付与される。しかしながら、周方向に回転する混練ロータにあっては、フライト面は周方向に大きな速度で移動していても、軸方向にはあまり大きな速度で移動していない。つまり、混練ロータを回転させることで形成される材料の流れは周方向には大きな速度成分を有していても、軸方向には大きな速度成分を有していない。当然、このように材料の流れが弱い軸方向に沿ってフライト面を傾斜させても、材料に付与できる伸長流れの程度はそれほど大きくない。それゆえ、特許文献1の射出成形機では、フライト面を傾斜させた効果があまり発揮されずに、難混練性の材料を十分に分散混練することは困難となっていた。
【0008】
一方、混練設備には混練ロータの回転方向などによってさまざまな種類があるが、この中でも異方向回転型の連続混練機が同方向回転型の押出機やバッチ式の混練機に比べて材料に伸長流を付与しやすいといわれている。これは、異方向に回転し合う2軸の混練ロータ間、言い換えればフライトの噛み合い部分では、フライト面同士が互いに近接し合いながら互いに同じ方向に向かって移動するため、フライト間に材料を巻き込んで引き伸ばすことが比較的容易に実施可能になるからである。
【0009】
ところが、特許文献2〜特許文献4の混練設備は、同方向回転型の装置であり、異方向回転型の連続混練機のようにフライト同士が同じ方向に向かって移動しつつ噛み合う部分を有していない設備となっている。加えて、これらの装置は伸長流を発生させるために重要なこの「噛み合う部分」のチップクリアランスを小さくしたものとはなっていない。つまり、異方向回転型の連続混練機とは異なる特許文献2〜特許文献4の混練設備では、混練ロータを偏心させても材料に十分な伸長流れを付与することはできず、材料に十分な分散混練を行うことはできないことが現場の実績として明らかとなっている。
【0010】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、伸長流れを起こす材料の体積割合を高めて、材料に容易に伸長流れを付与することが可能になる連続混練機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の連続混練機は以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明の連続混練機は、2つの円通孔がその内壁面の一部同士が互いに重なり合うように内部に平行に形成されたバレルと、それぞれの円通孔の内部に挿通されると共に互いに異なる方向に回転する2軸の混練ロータとを備えた連続混練機であって、前記混練ロータは、当該混練ロータの軸心回りに混練フライトを少なくとも2条以上有しており、前記混練ロータの回転中心が、軸垂直方向の断面において、当該混練ロータが挿入される円通孔の中心からバレルの中央寄りまたは上方寄りに偏心していることを特徴とするものである。
【0012】
なお、軸垂直方向の断面において、前記円通孔の中心から見た混練ロータの回転中心が、2つの円通孔の中心間を結ぶ基準線に対して、前記混練ロータの回転方向に−90〜+70°の角度に位置しているのが好ましい。
また、前記混練フライトは、前記混練ロータの回転方向を向く側に、バレルの内周面との間に伸長流を生起可能な迎え角を有するフライト面を備えているのが好ましい。
【0013】
さらに、前記迎え角は、10°〜60°とされているのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の連続混練機によれば、伸長流れを起こす材料の体積割合を高めて、材料に容易に伸長流れを付与することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る連続混練機の正面断面図である。
【図2】(a)は図1のA−A線断面図であり、(b)は混練ロータの軸心の設定可能領域をバレルの断面上に示した図である。
【図3】円通孔の中心を基準としてさまざまな偏心角γに軸心を偏心させた連続混練機を示す図である。(a)は偏心角γ=−90°、(b)は偏心角γ=0°、(c)は偏心角γ=+36°のものである。
【図4】円通孔での混練ロータの偏心程度を示すクリアランス比と、伸長流れを起こす材料の体積割合との関係を、偏心角γの大きさで比較して示した図である。(a)は迎え角θが60°の混練ロータを用いた場合であり、(b)は迎え角θが30°の混練ロータを用いた場合である。
【図5】円通孔での混練ロータの偏心程度を示すクリアランス比と、伸長流れを起こす材料の体積割合との関係を、偏心角γの大きさで比較して示した図である。(a)は迎え角θが14°の混練ロータを用いた場合であり、(b)は迎え角θが10°の混練ロータを用いた場合である。
【図6】円通孔での混練ロータの偏心程度を示すクリアランス比と、伸長流れを起こす材料の体積割合との関係を、偏心角γの大きさで比較して示した図である。(a)は迎え角θが5°の混練ロータを用いた場合であり、(b)は迎え角θが70°の混練ロータを用いた場合である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る連続混練機1の実施形態を、図面に基づき詳しく説明する。
図1は、本発明の連続混練機1を示している。
本発明の連続混練機1は、互いに異方向に回転する2軸の混練ロータ2を備えた設備であり、樹脂などの材料の混練を行うものである。この連続混練機1は、上流側から供給された材料を連続して混練しつつ下流側に送る設備であり、例えば2軸押出機やバッチ式混練機1などとは別の設備として用いられる。
【0017】
連続混練機1(以降、単に混練機1という)は、内部が空洞とされたバレル3と、バレル3の内部に収容される混練ロータ2とを有している。このバレル3の内部には混練ロータ2を収容可能な円通孔4が平行に並んで2つ穿孔されている。2つの円通孔4、4は、その内壁面12の一部同士が互いに重なり合うようになっており、一方の円通孔4から他方に材料を移動可能となっている。これら2つの円通孔4のそれぞれには混練ロータ2が挿通されており、この混練機1は混練ロータ2を合計で2軸有する2軸タイプとなっている。
【0018】
なお、以降の説明において、図1の紙面の左側を混練機1を説明する際の上流側とし、紙面の右側を下流側とする。また、図1の紙面の左右方向を混練機1を説明する際の軸方向、さらに、軸方向に対して垂直な方向を軸垂直方向と呼ぶ。
図1に示すように、バレル3は、水平方向に沿って長い筒状に形成されており、その内部には上述したように2つの円通孔4、4が平行に並んで上流から下流(軸方向)を向くように形成されている。バレル3の軸方向の上流側にはバレル3内に材料を供給するホッパ5が設けられており、またバレル3の内部には電気ヒーターや加熱した油を用いた加熱装置(図示略)が備えられている。
【0019】
図2(a)に示すように、円通孔4は、バレル3の内部を水平方向に向かってくり抜いて得られる略円筒状の横穴であり、その軸垂直方向を向く断面は略円形とされている。円通孔4は、水平方向に平行に並んで左右一対設けられており、その内壁面12の一部が互いに重なり合うようになっている。それ故、バレル3の軸垂直方向の断面形状は、いわゆる「めがね孔状」となっており、両円通孔4、4の間で材料の流通(往来)が可能となっている。
【0020】
混練ロータ2は円通孔4のそれぞれを挿通するように左右一対設けられている。一対の混練ロータ2、2は、軸方向に沿って形成されたスプライン軸(図示略)を内部に備えており、このスプライン軸により串刺し状に複数のセグメントが固定された構成とされている。なお、図例の混練機1は一対の混練ロータ2、2がそれぞれの円通孔4の中で互いに異なる回転方向(図例では、左側の混練ロータ2が時計回り方向、右側の混練ロータ2が反時計回り方向となっている)に回転する異方向回転型となっている。
【0021】
図1に示すように、混練ロータ2は、さまざまな種類のセグメントを軸方向に組み合わして形成されており、用いるセグメントの種類によって軸方向に複数のパートに分かれている。図例の混練ロータ2は3つのパートを有しており、これらの3つのパートは、材料を混練する混練部6と、混練部6より上流側に配備されてこの混練部6に材料を送る送り部7と、混練部6より下流側に配備されて混練部6で混練された材料を下流側のペレタイザなどに送る押出部8とで構成されている。
【0022】
3つのパートのうち混練部6は、軸方向に連続して配備された複数のロータセグメント9(混練用セグメント)で構成されている。これらのロータセグメント9は、軸垂直方向の断面が回転方向に向かって歪んだ三角形のような形状に形成されており、3条の混練フライト10を軸心回りに有している。これらの混練フライト10は、混練ロータ2が回転するとフライトの先端に形成されたフライト面11がバレル3の内壁面12をかすめるように回転し、内壁面12に付着した材料を残さず掻き取って材料を混練できるようになっている。
【0023】
ところで、本発明の混練機1は、混練ロータ2の回転中心が、軸垂直方向の断面において、この混練ロータ2が挿入される円通孔4の中心からバレル3の中央寄り(中心寄り)または上方寄りに偏心していることを特徴とするものである。具体的には、この混練ロータ2と円通孔4との位置関係は、軸垂直方向の断面において、円通孔4の中心Pから見た混練ロータ2の回転中心Rが、2つの円通孔4の中心間を結ぶ基準線Lに対して、混練ロータ2の回転方向に偏心角γ=−90°〜+70°の方向に向かって偏心していることをいう。
【0024】
この「偏心角γ=−90°〜+70°」とは、具体的には、次のような意味である。すなわち、図2(b)に示す混練機1において、左側の混練ロータ2の偏心角γを例にとって考える。この左側の円通孔4の中央側には中心Pがあり、この中心Pを通って基準線Lが水平に伸びている。そして、左側の混練ロータ2は時計回りに回転している。
このような状況において、左側の円通孔4の中心Pから見て混練ロータ2の回転中心Rが偏心角γ=0°〜−90°に位置する場合を考える。この場合の混練ロータ2の回転中心Rは基準線Lから円通孔4の中心P回りに反時計回りに90°の範囲に位置している。つまり、図2(b)の紙面において中心Pを基準として「−γ」の矢印で示す円弧状の領域(円通孔4の中心Pから見て図の右上に位置するグレーの領域)に混練ロータ2の回転中心Pがあるときを、混練ロータ2の回転中心Pが偏心角γ=0°〜−90°に位置するということができる。
【0025】
次に、左側の円通孔4の中心Pから見て混練ロータ2の回転中心Rが偏心角γ=0°〜+70°に位置する場合を考える。この場合の混練ロータ2の回転中心Rは基準線Lから円通孔4の中心P回りに時計回りに70°の範囲に位置している。つまり、図2(b)の紙面において中心Pを基準として「γ」の矢印で示す円弧状の領域(円通孔4の中心Pから見て図の右下に位置するグレーの領域)に混練ロータ2の回転中心Rがあるときを、混練ロータ2の回転中心Rが偏心角γ=0°〜+70°に位置するということができる。
【0026】
つまり、「偏心角γ=−90°〜+70°に混練ロータ2の中心Rを偏心させる」とは、中心Pから見て上方、右上方、右方、右下方のいずれかの領域に混練ロータ2の中心Rを移動させるという意味であり、図2(b)にグレーで示す部分内に混練ロータ2の回転中心Rを設定することを意味している。
なお、上述した例は、左側の混練ロータ2に関するものであるが、右側の混練ロータ2の場合は、グレーで示す部分が左右で線対称になったような領域となる。
【0027】
具体的には、このように混練ロータ2の回転中心Rが円通孔4の中心Pから見て偏心角γになるような配置には、次の図3に示すような例がある。
例えば、図3(a)に示す場合であれば、黒点として示される混練ロータ2の回転中心Rが、×印で示される円通孔4の中心Pから見て、上方(白抜きの矢印の方向)にずれた配置となって、偏心角γ=−90°となっている。
【0028】
また、図3(b)に示す場合であれば、黒点として示される混練ロータ2の回転中心Rが、×印で示される円通孔4の中心Pから見て、バレル3の中央寄りにずれた配置となっており、偏心角γ=0°となっている。
さらに、図3(c)に示す場合であれば、黒点として示される混練ロータ2の回転中心Rが、×印で示される円通孔4の中心Pから見て、バレル3の中央よりであって且つ下方にずれた配置となっており、偏心角γ=+36°となっている。
【0029】
このように偏心角γを−90°〜+70°、好ましくは−36°〜0°とすれば、図2(b)に示すように円通孔4の中心Pよりも混練ロータ2の回転中心Rが上述した図2(b)のグレーの部分にずれ、回転中心Rが中心Pの位置から偏心した分だけ混練ロータ2の先端が両円通孔4同士が重なり合う部分の内壁面12に近づく。その結果、混練フライト10同士が噛み合って伸長流を生起しやすい部分(噛み合い部)において、材料に伸長流を効果的に発生させることが可能になるのである。
【0030】
一方、混練ロータ2の軸心(回転中心R)を円通孔4の中心Pから偏心させて混練フライト10の先端をバレル3の内壁面12に近づけることができたとしても、混練フライト10のフライト面11とバレル3の内壁面12との間に材料を蓄えられるスペースが十分に確保できないような場合は、材料に伸長流を効果的に発生させることが困難になる。
そこで、本発明の連続混練機1では、混練ロータ2の偏心角γだけでなくフライト面11の迎え角θについても規定を設けている。
【0031】
図2(a)に示すように、混練フライト10は混練ロータ2の回転中心R回りに120°の位相差をあけて3条設けられており、それぞれの混練フライト10にフライト面11が形成されている。それぞれのフライト面11は、この混練フライト10の最も径外側(外周側)に突出する面がバレル3の内壁面12と対面するチップ面となっている。そして、このチップ面を基準として、周方向の回転方向側に隣接したフライト面11がなだらかに傾斜した緩斜面13となっており、反対側に隣接したフライト面11が切り立つように傾斜した急斜面14となっている。これらのフライト面11のうち、緩斜面13は、混練ロータ2の回転方向を向いていて材料を案内可能な面とされており、材料に伸長流を生起可能な迎え角θをバレル3の内壁面12との間に有している。
【0032】
迎え角θは、緩斜面13(混練ロータ2の回転方向を向くフライト面11)とバレル3の内壁面12とが為す角度として規定される。具体的には、この迎え角θは、軸垂直方向の断面において、上述した緩斜面13の延長とバレル3の内壁面12とが交わる点(交点)を考え、この交点にて内壁面12に接する線と緩斜面13とが形成する角度として与えられる。
【0033】
この迎え角θは、具体的には10°〜60°、より好ましくは14°〜60°とされるのが良い。迎え角θを10°以上、好ましくは14°以上とすることで、バレル3の内壁面12とチップ面との間に形成される小さなチップクリアランスに材料が一度に流れ込み、材料に伸長流を発生させることが可能となる。また、迎え角θを60°以下とすることで、混練フライト10に加わる回転抵抗が小さくなり混練ロータ2がスムーズに回転するようになる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例及び比較例を用いて本発明の連続混練機1をさらに詳しく説明する。
実施例及び比較例は、迎え角θが70°、60°、30°、14°、10°、5°と異なる3条の混練フライト10を有する混練ロータ2を、バレル3内に2軸備えた連続混練機1を用いて材料を混練した場合のものであり、それぞれの混練ロータ2の軸心を偏心角γ=−90°、−36°、0°、+36°、+70°、+90°の方向に偏心させた際の伸長流の発生状態を評価したものである。なお、評価結果は、図4及び図5に示すように、「クリアランス比」に対する「FN>0.7体積割合増加率」の変化として示されたものである。
【0035】
この「クリアランス比」は、混練ロータ2をバレル3の内壁面12に対して円通孔4の中心Pからどの程度の距離だけ偏心させたかを示す指標であり、偏心させていない場合を基準としてずれの程度を示す偏差として示される。具体的には、「クリアランス比」は、3つの混練フライト10のチップ部がバレル3の内壁面12からどの程度のクリアランスになっているかを求めたうえで、3つのクリアランスのうち最大となるクリアランスの値で最小のクリアランスの値を除したものである。
【0036】
例えば、混練ロータ2の回転中心Rが円通孔4の中心Pと同じ位置にある場合は、3つの混練フライト10のチップ部はバレル3の内壁面12からいずれも等しい距離になるので、「クリアランス比」は1となる。逆に、混練ロータ2の回転中心Rが円通孔4の中心Pから大きくずれた場合は、「クリアランス比」は0に近づく。
一方、「FN>0.7体積割合増加率」は、FN(フローナンバー)が0.7を超えるような伸長流れを起こす材料が全材料中でどの程度の体積割合になっているかを示したものである。そして、この「FN>0.7体積割合増加率」は、混練ロータ2の回転中心Rが円通孔4の中心Pと同心の場合、つまり混練ロータ2の回転中心Rが偏心していない場合の体積割合を基準として、体積割合の増加分を百分率で示したものである。
【0037】
なお、FN(フローナンバー)は、流れ場の伸長度合いを示す指標で、
FN=(|相当ひずみ速度|)/(|相当ひずみ速度|+|渦度|)
と定義され、FN=0で純回転、FN=1で純伸長、FN=0.5で純せん断であることを示す。
迎え角θが60°の図4(a)の結果を見ると、混練ロータ2を偏心角γ=−90〜+70°に偏心させた実験データは、いずれも「クリアランス比」が1以下で「FN>0.7体積割合増加率」が正の値となっており、伸長流が発生する材料の体積割合が偏心がない場合に比べ大きくなっている。
【0038】
特に、混練ロータ2を偏心角γ=−36°で偏心させた実験データ(▲)に比べて、偏心角γ=−90°の実験データ(◆))は、「FN>0.7体積割合増加率」が小さくなる傾向がある。また、混練ロータを偏心角γ=0°で偏心させた実験データ(■)に比べて、偏心角γ=+70°の実験データ(*)は、「FN>0.7体積割合増加率」が小さくなる傾向がある。このことから、伸長流が発生する材料の体積割合を大きくするためには、少なくとも偏心角γは−90°〜+70°の範囲、より好ましくは偏心角γは−36°〜0°の範囲に収まるようにするのが好ましいと考えられる。
【0039】
一方、迎え角θが30°の図4(b)の結果を見ると、右側の混練ロータ2を偏心角γ=+90°で偏心させた実験データ(◇)は、「FN>0.7体積割合増加率」が負の値となっており、「FN>0.7体積割合増加率」が正の値となっている同図の迎え角θ=0°の結果や図4(a)の迎え角θ=+70°の結果に比べて伸長流が発生する材料の体積割合がむしろ少なくなっている。このことから、材料に伸長流を発生させるためには、混練ロータ2の偏心角γは少なくとも+70°以下とした方が良いと判断される。
【0040】
また、この図4(b)の結果は、偏心角γ=−90°となっている左側の混練ロータ2は好適範囲(−90°〜+70°)に含まれているが、右側の混練ロータ2は偏心角γ=+90°となっていて偏心角γの好適範囲には含まれていない。ところが、「FN>0.7体積割合増加率」の結果を見ると、結果は良好となっている。このことから一対の混練ロータ2のうち一方だけでも偏心角γの好適範囲を満足しているだけでも、同様な作用効果が得られると判断される。
【0041】
また、迎え角θが10°の図5(b)と迎え角θが5°の図6(a)とを比較すると、迎え角θが10°の場合には「FN>0.7体積割合増加率」が正の値を示す偏心角γ=−90°の実験データ(◆)であっても、迎え角θが5°の場合には「FN>0.7体積割合増加率」が負の値を示している。このことから、材料に伸長流を発生させるためには、混練ロータ2の迎え角θは少なくとも+10°以上とした方が良いと判断される。
【0042】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、発明の本質を変更しない範囲で各部材の形状、構造、材質、組み合わせなどを適宜変更可能である。
例えば、一対の混練ロータ2のうち一方だけでも偏心角γの好適範囲を満足していれば、もう一方が好適範囲外にあっても、本発明の作用効果が十分に期待できる。それゆえ、本発明には、片方の混練ロータ2だけが円通孔の中心からバレルの中央寄りや上方に偏心したものも含まれる。
【0043】
例えば、混練ロータ2には、上述した3翼タイプだけでなく、2翼タイプを用いても良い。図5(a)に示す×印の実験データは、回転中心に対して180°の位相差で混練フライト10を2条備えた混練ロータ2について、3翼タイプのものと同様な実験条件で「クリアランス比」と「FN>0.7体積割合増加率」との関係を求めたものである。この図5(a)の実験データにおいても、迎え角θが0°の場合には「FN>0.7体積割合増加率」が正の値を示しており、材料に伸長流が発生していることがわかる。このことから、3翼タイプ以外にも、混練ロータの軸心回りに混練フライトを少なくとも2条以上有するものを用いても同様な作用効果が期待できると判断される。
【符号の説明】
【0044】
1 混練機
2 混練ロータ
3 バレル
4 円通孔
5 ホッパ
6 混練部
7 送り部
8 押出部
9 ロータセグメント
10 混練フライト
11 フライト面
12 内壁面
13 緩斜面
14 急斜面
γ 偏心角
θ 迎え角
L 基準線
P 円通孔の中心
R 混練ロータの回転中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの円通孔がその内壁面の一部同士が互いに重なり合うように内部に平行に形成されたバレルと、それぞれの円通孔の内部に挿通されると共に互いに異なる方向に回転する2軸の混練ロータとを備えた連続混練機であって、
前記混練ロータは、当該混練ロータの軸心回りに混練フライトを少なくとも2条以上有しており、
前記混練ロータの回転中心が、軸垂直方向の断面において、当該混練ロータが挿入される円通孔の中心からバレルの中央寄りまたは上方寄りに偏心していることを特徴とする連続混練機。
【請求項2】
軸垂直方向の断面において、前記円通孔の中心から見た混練ロータの回転中心が、2つの円通孔の中心間を結ぶ基準線に対して、前記混練ロータの回転方向に−90〜+70°の角度に位置していることを特徴とする請求項1に記載の連続混練機。
【請求項3】
前記混練フライトは、前記混練ロータの回転方向を向く側に、バレルの内周面との間に伸長流を生起可能な迎え角を有するフライト面を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の連続混練機。
【請求項4】
前記迎え角は、10°〜60°とされていることを特徴とする請求項3に記載の連続混練機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−245643(P2012−245643A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117065(P2011−117065)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】