説明

連続発光の光音響分光法

1つ以上の周波数で連続光を放射することによって光音響分光法を使用して微小循環を分析するための方法およびシステムが提供される。光音響分光モニタが、患者の組織に存在する異なる吸収体を測定できるよう、放射される光の波長を変化させるために遅い変調法を利用することができる。光音響分光センサが、より低出力の連続波を患者の組織へと放射することができる。組織によって生成される音響応答を、センサの検出器に位置する薄いポリマー検出フィルムによって検出することができる。検出器によって検出された音響応答の振幅および位相情報にもとづき、モニタが患者の組織における吸収体の濃度および吸収体の位置を割り出すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、広くは医療装置に関し、さらに詳しくは、微小循環を分析するための光音響分光法における連続発光の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書のこの箇所は、後述され、さらには/あるいは特許請求の範囲において請求される本開示の種々の態様について、それらに関係しうる技術の種々の態様を読者に紹介しようとするものである。この解説は、本開示の種々の態様のより良好な理解を容易にする背景情報を読者に提供するうえで役に立つと考えられる。したがって、これらの説明を、そのような観点から読み取るべきであり、先行技術の自認として解釈してはならないことを、理解すべきである。
【0003】
医学の分野において、医師らは、多くの場合に、患者の何らかの生理学的特徴の監視を望む。したがって、多数のそのような生理学的特徴を監視するために、幅広くさまざまな装置が開発されてきている。そのような装置は、医師および他の医療担当者に、患者に可能な限り最良の医療を提供するために必要な情報を提供する。結果として、そのような監視装置は、現代の医学の欠くことのできない一部となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、臨床医が、心臓の機能を判断するために、患者の血流および血中酸素飽和度の監視を望む可能性がある。正常な値または予想される値からの逸脱により、臨床医は、特定の病態の存在を知ることができる。細動脈および毛細血管を含む患者の微小循環系が、種々の組織および器官への血液の供給に関与し、これらの組織または器官への血液の供給の変化は、怪我または病気の表れである可能性がある。したがって、微小循環の変化を監視することによって、臨床医は、特定の器官または組織の病気を診断または監視することができる。さらには、微小循環の変化は、全身の変化(より早期またはより根深い微小循環の変化を呈した後で、より大きな血管への血流に変化を生じる)を予報することができる。例えば、ショックまたは病原菌の感染の場合に、臨床反応は、主要な器官(例えば、脳および心臓)への血流を増やして損傷を防止しつつ、二次的な器官(例えば、胃腸系または皮膚)への血流を一時的に減らす試みにおいて、血液を微小循環系からより大きな血管へと短絡することを含むことができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
微小循環を、血液容量を評価するための技法を使用して分析することができる。いくつかの技法は、侵襲的であり、放射性元素または他のタグ付けされた血液インジケータの使用を含むことができる。インジケータを、血液容量を見積もるために、循環によって追跡することができる。これらの技法の多くは、特定の血液成分の密度または濃度を測定することによる血液容量の間接的な評価を含む。例えば、音速の測定を、いくつかの血行動態パラメータを測定するために使用することができる。しかしながら、そのようなセンサは、音速と血液の密度との間の非線形な関係について線形近似を使用する。この近似が、この技法の精度を制限する可能性がある。さらに、これらの技法は、微小循環の局所的な変化の評価には適さない可能性がある。
【0006】
本開示の技法の利点が、以下の詳細な説明を検討し、図面を参照することによって、明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】一実施の形態によるパルス酸素濃度計の簡単なブロック図を示している。
【図2】変化する周波数を患者の組織へと放射するように連続波源を変調させるためのプロセスを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本技法の1つ以上の具体的な実施の形態を、以下で説明する。これらの実施の形態の簡潔な説明を提供するための努力において、実際の実施例の特徴のすべてが本明細書において説明されるわけではない。任意のそのような実際の実施例の開発においては、あらゆる工学または設計プロジェクトと同様に、実施例ごとにさまざまでありうるシステム関連およびビジネス関連の制約の遵守など、開発者の特有の目標を達成するために、多数の実施例ごとの具体的な決定を行なわなければならないことを、理解すべきである。さらに、そのような開発の努力が、複雑かつ時間を要するものともなりうるが、それでもなお本開示の恩恵を被る当業者にとって設計、製作、および製造のありふれた取り組みと考えられることを、理解すべきである。
【0009】
本実施の形態は、光音響分光法を用いた患者の微小循環の非侵襲的な監視に関する。患者の微小循環の監視は、患者の病態についての情報をもたらすことができる患者の総血液容量または患者の総血液容量の変化の推定を含むことができる。さらに、微小循環の変化を、例えば細動脈、毛細血管、などといった最も小さい血管において最初に見ることができる。したがって、そのような小さな血管の分析に適した光音響分光センサが、微小循環の変化のより早期の監視および/または検出を可能にする情報をもたらすことができる。いくつかの実施の形態においては、微小循環の監視が、微小循環の変化に少なくとも部分的にもとづいて患者を診断することを、臨床医にとって可能にすることができる。設けられるセンサを、微小循環のパラメータを監視するために患者の皮膚または粘膜組織に適用することができる。例えば、そのようなセンサは、微小循環の血管を充分な密度で有している患者の任意の領域における使用に適することができる。そのような領域として、指、耳、ほお、舌および舌下領域、ならびに/あるいは上気道(例えば、気管切開チューブまたは気管内チューブによってアクセス可能であってもよい食道、気管または肺)が挙げられる。一実施の形態においては、そのようなセンサを、患者が外科処置を受けているときにアクセス可能であってもよい器官組織を監視するために使用することができる。
【0010】
光音響分光法は、放射された光が組織および/または血液の特定の成分によって吸収されるように、組織へと光を放射するために適した光源を必要とする。光のエネルギーの吸収によって運動エネルギーが生じ、結果として測定部位において圧力変動が生じる。圧力変動を、音響放射(例えば、超音波)の形態で検出することができる。組織の測定部位の吸収体および吸収体の濃度が異なれば、吸収される光の波長も異なる可能性があるため、検出される音響放射の大きさを、放射された光の波長において吸収を果たす特定の吸収体の密度または濃度に相関付けることができる。さらに、検出された音響放射と放射された光との間の位相差が、測定部位における位置(例えば、光音響分光センサに対する組織における深さ)を示すことができる。このように、組織および/または血液中の成分によって吸収される波長の光ビームを放射することによって、光音響分光法を、特定の測定部位の微小循環の血液容量および他のパラメータを推定するために使用することができる。
【0011】
光音響分光法は、微小循環の検査にいくつかの利点をもたらすことができ、光音響分光法において生成される音響応答が、伝統的な血液監視装置と比べて追加の情報をもたらすことができる。例えば、光音響分光センサによって検出される音波が、組織および/または血液の吸収スペクトルに比例でき、測定される吸収体の位置も表わすことができる信号を生成することができる。より具体的には、位相、振幅、および波形などといった音波の特定のパラメータを分析し、センサからの種々の深さにおける血中酸素濃度および総ヘモグロビンなどといった生理学的情報を割り出すことができる。さらに、いくつかの実施の形態においては、比較的低出力の連続的な波源を、光音響分光センサのための連続的な光源として使用することができる。そのような一実施の形態においては、薄いポリマートランスデューサを、音波に関する圧力変動を検出するために使用することができる。より薄いポリマートランスデューサを使用することで、感度の向上、より高い信号対雑音比、ならびにセンサの設計におけるより高い柔軟性を可能にすることができる。
【0012】
さらに、一実施の形態においては、センサによって放射される光を、或る周波数(例えば、10MHz〜100MHz)で変調させることができ、光を異なる波長で放射することができる。種々の測定部位(例えば、指、耳、ほお、舌および舌下領域、など)が、異なる波長の光を吸収するさまざまな種類の流体および/または組織を有する可能性がある。異なる波長で光を放射することで、測定部位に関する吸収体(例えば、血液、他の流体、および/または組織、など)の吸収特性に応じた異なる情報をもたらすことができる。したがって、これらの実施の形態は、患者の種々の測定部位の異なる吸収体を分析するために1つ以上の波長の光を放射できるように、光音響分光器から放射される光に変調を加えることを含むことができる。さらに、変調の技法は、放射される光の変化に起因する圧力波の変化を検出できるよう、遅い変調(例えば、100KHz〜10MHzの間)を含むことができる。
【0013】
微小循環を監視するためのシステム、センサ、および方法が、本明細書において提示される。そのようなシステムは、光音響分光センサを、微小循環血管によって潅流される組織層の血液容量または血流、微小循環血管の深さまたは分布、あるいは微小循環血管における血液成分の濃度、などといった微小循環を表わす1つ以上のパラメータを評価することができる医療用モニタと併せて使用することを含むことができる。本技法のシステムおよび方法は、連続波の光源の使用をさらに含むことができる。連続波源は、薄いポリマー検出フィルムを音響応答の検出に使用できるよう、典型的なパルス波の光源よりも低い出力であってもよい。さらに、光源を、種々の波長の光を送信できるよう、種々の周波数で変調させることができる。
【0014】
図1が、微小循環の監視に使用することができるシステム10を示している。システム10は、光源14と音響検出器16とを有する光音響分光センサ12を備えている。センサ12は、動作時に連続的な方式で光を放射することができるが、いくつかの実施の形態においては、代わりにパルス状の光源をシステム10において使用してもよい。パルス状の波源が、典型的には、より短いパルスにてより大きな出力の光を放射できる一方で、連続波の光源は、より低い出力の光を連続的に放射することができる。連続波の光源は、組織の加熱が少ないがゆえに、より長時間にわたる組織の監視を可能にすることができる。微小循環は比較的小さい血管において生じるため、そのような加熱は、血管に血流を生み出し、センサの測定を妨げる可能性がある。したがって、組織の加熱を少なくすることができる連続波の光源は、微小循環を分析するために光音響分光センサ12において使用されたときに特定の利点をもたらすことができる。一実施の形態においては、連続波源によって放射される比較的低出力の光が、約50mW〜1Wの範囲であってもよい。
【0015】
センサアセンブリ10は、任意の適切な種類であってもよい光放射体14および音響検出器16を備えている。放射体14は、本明細書に記載のとおりに1つ以上の波長の光を送信するように構成された1つ以上の発光ダイオード(LED)を備えることができ、検出器16は、放射された光に応答して組織によって生成される超音波を受信し、対応する電気または光信号を生成するように構成された1つ以上の超音波トランスデューサを備えることができる。特定の実施の形態においては、放射体14が、レーザダイオードまたは垂直キャビティ面発光レーザ(VCSEL)であってもよい。レーザダイオードは、ただ1つのダイオードをいくつかの吸収体に対応する種々の波長へとチューニングできるよう、波長可変レーザであってもよい。光音響センサ12の特定の構成に応じて、放射体14を、放射される光を組織へと伝えるための光ファイバに組み合わせることができる。光は、血液中の特定の成分によって吸収される波長に対応する任意の適切な波長であってもよい。例えば、緑色の可視光に相当する約500nm〜約600nmの間の波長を、デオキシヘモグロビンおよびオキシヘモグロビンが吸収することができる。他の実施の形態においては、赤色および近赤外の波長を使用することができる。さらに、放射される光を、1MHzまたは10MHzなどの任意の適切な周波数で変調することができる。
【0016】
音響検出器16は、放射された光に曝されたときの組織によって生成される応答を受信するために適した任意の受信器であってもよい。いくつかの実施の形態においては、応答が、吸収された光エネルギーが運動エネルギーへと変換されることによって生成される圧力変動、音波、熱波、または任意の他の非光波であってもよい。本明細書においては、音波を、放射された光への組織の応答(検出器16によって検出される)の一例として使用する。パルス波のシステムが、より高出力のパルス状の光に応答して生成される音波を検出するために適した比較的より複雑な音響検出器を利用することができる一方で、連続波の光音響分光センサにおける音響検出器16は、より低出力の光の放射を使用して生成される音波を検出するために適した標準的な検出器のモデルであってもよい。さらに、一実施の形態においては、連続光源によって生成される音波が、パルス状の光によって生成される音波よりも高い信号対雑音比をもたらすことができる。
【0017】
一実施の形態においては、検出器16が、薄いポリマー検出フィルムを光ファイバの先端に取り付けて備えることができる低フィネスのファブリーペロー(Fabry−Perot)干渉計であってもよい。薄い検出フィルムは、より厚い検出フィルムよりも高い感度の実現を可能にできる。ファブリーペローポリマーフィルム干渉計を使用することによって、検査対象の組織から発せられて入射する音波が、薄いポリマーフィルムの厚さおよびポリマーフィルムの両面から反射される光の位相差を変調することができる。光の反射が、フィルムから反射される光の対応する強度変調を生じさせる。したがって、音波を、光ファイバによって適切な光検出器へと伝えることができる光学的情報に変換することができる。検出された光の位相の変化を、適切な干渉分光装置によって検出することができる。薄いポリマーフィルムを使用することで、マイクロメートルまたは数十マイクロメートルの厚さのフィルムにおいても、高い感度を達成することができる。例えば、一実施の形態においては、干渉計のミラーを形成する片面の少なくとも或る程度は光を反射するアルミニウムコーティング(例えば、40%の反射)と他方の面の鏡面反射コーティング(例えば、100%の反射)とを有する厚さ50マイクロメートルのポリエチレンテレフタレートの直径0.25mmの円板であってもよい。光ファイバは、開口数が0.1であって、外径が0.25mmである50マイクロメートルのコアのシリカマルチモードファイバなど、任意の適切なファイバであってもよい。
【0018】
上述のように、放射体14によって放射される連続光を、正弦変調することができ、組織に向かって放射される光エネルギーを、吸収時に運動エネルギーへと変換でき、この運動エネルギーが、組織において圧力変動を生じさせることができる。圧力変動を、変調された光の組織における1つ以上の吸収体による吸収に比例することができる音波として、検出器16によって検出することができる。検出器16を、組織において生じた音波に比例する電圧信号を出力するように構成できるロックイン増幅器43へと接続できる。ロックイン増幅器43は、例えば、音波の周波数へとロックして、音波の位相および振幅を電圧信号へと変換するために、周波数ミキサを使用することができる。一実施の形態においては、連続波源の正弦変調が、ロックイン増幅器43が音波により高い精度でロックでき、出力される電圧応答の信号対雑音比が改善されるよう、比較的遅い変調(例えば、100KHz〜20MHz)であってもよい。さらに、連続波源の遅い変調は、より簡単かつ/またはよりコストの低いロックイン増幅器を使用できるよう、ロックイン増幅器43の技術的要件も軽減することができる。いくつかの実施の形態においては、ロックイン増幅器43を、センサ12に実装することができ、あるいはロックイン増幅器43が、センサ12の外部に(例えば、モニタ22)に位置してもよい。
【0019】
システム10は、いくつかの実施の形態において、光音響分光センサ12と併せて使用することができる患者のパラメータに関する情報をもたらすための任意の数の追加の医療センサ18または検出用の構成要素あるいは追加の医療センサ18または検出用の構成要素の組み合わせをさらに備えることができる。例えば、適切なセンサとして、血圧、血液成分(例えば、酸素飽和度)、呼吸数、呼吸努力、心拍数、患者の体温、または心拍出量を割り出すためのセンサを挙げることができる。そのような情報を、微小循環の情報と併せて、患者の生理学的状態を明らかにするために使用することができる。例えば、追加の医療センサ18として、パルス酸素濃度計センサ、血圧カフ、または他の非侵襲の血圧センサ、などを挙げることができる。さらに、特定の実施の形態においては、光音響分光センサ12が、パルス酸素濃度計による検出あるいは他の心臓または血液成分の検出ための追加の構成要素を含む一体のハウジングを備えるセンサなど、マルチパラメータセンサであってもよい。
【0020】
システム10は、光音響分光センサ12から信号を受信することができ、いくつかの実施の形態においては1つ以上の追加のセンサ18から信号を受信することができるモニタ22をさらに備えることができる。モニタ22は、光音響分光センサ12および/または1つ以上の追加のセンサ18によって受信される信号にもとづいて微小循環を分析することができる。例えば、追加のセンサ18がパルス酸素濃度計センサである実施の形態においては、パルス酸素濃度計信号が、モニタ22によってさらに処理することができるプレチスモグラフ波形を生成することができる。モニタ22は、光音響分光センサ12からの信号を受信および処理し、光音響分光センサ12および/または任意の追加のセンサ18によって生成された信号にもとづいて生理学的条件を判断することができる。一実施の形態においては、モニタ22が、微小循環のパラメータに関する状態(例えば、患者が敗血症にある可能性)を示すことができ、さらには/あるいは生理学的状態を表わす他の情報を示すことができる。
【0021】
モニタ22は、内部バス34へと接続されたマイクロプロセッサ32を備えることができる。さらに、RAMメモリ36および表示装置38をバスへと接続することができる。時間処理ユニット(TPU)40が、作動時のセンサ(例えば、光音響分光センサ12または任意の他の追加の医療センサ18)による光の放射を制御し、複数の光源が使用される場合には種々の光源の多重化のタイミングを制御する光駆動回路42へとタイミング制御信号をもたらすことができる。さらに、TPU40は、センサ12およびスイッチング回路44からの信号のゲートインも制御することができる。これらの信号は、どの光源が作動させられるのか(複数の光源が使用される場合)および/またはどの波長で光が放射されているのか(放射される光が2つ以上の波長で変調される場合)に少なくとも部分的に応じた適切な時点でサンプリングされる。いくつかの実施の形態においては、センサ12から受信される信号を、増幅器、低域通過フィルタ、および/またはアナログ−デジタル変換器などといった1つ以上の信号処理要素に通すことができる。さらに、いくつかの実施の形態においては、デジタルデータを、例えばキュー付きシリアルモジュール、RAM36、またはROM56などといったモニタ22内の適切な記憶要素に保存することができる。
【0022】
TPU40および光駆動回路42は、放射体14のLEDまたは他の放射構造を作動させる光駆動回路42からの駆動信号を変調させることができる変調器50の一部であってもよい。変調器50は、ハードウェアにもとづく変調器、ソフトウェアにもとづく変調器、あるいはこれらの何らかの組み合わせであってもよい。例えば、変調器50のソフトウェアの態様を、メモリ36に保存することができ、プロセッサ32によって実行することができる。いくつかの実施の形態においては、変調器50を、光音響分光センサ12から放射される連続波の光を変調するように構成することができ、変調器50は、低出力の連続波源の変調に適した任意の変調器であってもよい。パルス波を放射すべき場合には、変調器50は、光のより高出力のパルスを変調するために適することができる。変調器50がモニタ22に位置するものとして示されているが、いくつかの実施の形態においては、変調の機能を、光音響分光センサ12に配置された変調器によって実行することができる。一実施の形態においては、変調および検出の特徴の両方が、信号の移動距離を短くし、妨害の可能性を少なくするために、センサ12および/または18に位置してもよい。
【0023】
一実施の形態においては、検出された音波に応答して検出器16によって生成される信号に少なくとも部分的にもとづいて、マイクロプロセッサ32が、種々のアルゴリズムを使用して微小循環のパラメータを計算することができる。患者の状態を、センサ12から受信される信号にもとづき、さらにいくつかの実施の形態においては他のセンサ18(例えば、パルス酸素濃度計センサ)および/またはユーザによって入力される制御入力54にもとづいて、分析することができる。例えば、医療従事者が、患者の年齢、体重、性別、または患者の状態の分析に関係しうる患者の病態についての情報を、入力することができる。微小循環のパラメータの計算に使用されるこれらのアルゴリズムは、経験的に決定することができ、使用される光の波長に対応することができる特定の係数を使用することができる。さらに、アルゴリズムは、追加の補正係数を使用することができる。アルゴリズムおよび係数を、ROM56または他の適切なコンピュータにとって読み取り可能な記憶媒体に保存することができ、マイクロプロセッサ32のインストラクションに従ってアクセスし、動作させることができる。一実施の形態においては、補正係数を、ルックアップテーブルとして用意することができる。さらに、センサ12が、放射体14および/または検出器16についての情報を含むセンサ12の特性に関する情報をエンコードすることができるエンコーダ60などの特定のデータ記憶要素を含んでもよい。情報に、モニタ22に位置する検出器/デコーダ62によってアクセスすることができる。
【0024】
可変の波長にて光を放射するために光音響分光センサの連続光源を変調するためのプロセス70の一実施の形態が、図2にフロー図として提示されている。プロセス70は、センサ12(図1のような)の光源を変調し(ブロック72)、適切な波長にて変調されたビーム74を放射するステップを含むことができる。変調プロセスは、例えば、光音響分光システム10の変調器50の光駆動回路42によって実質的に制御することができる放射体14のレーザダイオードの動作電流の制御を含むことができる。変調周波数は、測定される患者の生理学的状態、患者における測定部位、対象となる測定部位の吸収体、分析すべき状態、および/または光音響分光システムの制約など、種々の因子にもとづくことができる。例えば、患者について舌下の測定が行なわれる場合、放射される光を、口腔内のオキシヘモグロビンによって吸収されることができる緑色の可視光に対応する約500nm〜約600nmの間の波長へと変調することができる。
【0025】
ひとたびセンサ12が変調された光を患者の組織に向かって放射(ブロック76)すると、光のエネルギーを、組織の特定の成分(例えば、吸収体)によって、光の波長、測定部位の吸収体の濃度および/または量、ならびに/あるいは吸収体の吸収係数にもとづいて吸収することができる。吸収された光のエネルギーを、測定部位の組織に音響応答78を生じさせる運動エネルギーへと変換することができる。音波78を、光音響分光センサ12の検出器16によって受信することができる(ブロック80)。検出器16を、音波78の周波数にロックイン(ブロック82)するロックイン増幅器43に接続することもできる。増幅器43は、変調された光74の周波数にもとづいて音波78の周波数にロックインすることができる。このようにして、ロックイン増幅器43が、音波78の振幅ならびに音波78と変調されて放射された光74の波形との間の位相のずれを割り出すことによって、位相に応じた検出プロセスを実行することができる。
【0026】
変調されて放射された光74の波形と検出された音波78との比較にもとづき、音波78の振幅成分ならびに音波78と変調されて放射された光74との間の位相のずれが、測定される吸収体の濃度および/または位置に関する情報をもたらすことができる。音波78の振幅成分が、音響反応78の強度が特定の吸収係数を有する吸収体によって吸収される光の量に比例しうるがゆえに、測定される吸収体の濃度に対応する情報をもたらすことができる。音波78の位相成分が、測定される吸収体の位置に対応する情報をもたらすことができる。より具体的には、位相成分は、変調された光74と音響応答78との間の時間遅延であってもよい。モニタ22が、音響反応78の位相情報にもとづいてセンサ12が組織の特定の深さの吸収体を測定していることを(例えば、マイクロプロセッサ32によって実行されるアルゴリズムにもとづいて)判断することができる。ロックイン増幅器43が、音波78の振幅および位相情報の電圧信号84を出力することができる。上述のように、この信号84を、測定部位の微小循環のさらなる処理および/または分析のためにモニタ22によって使用することができる。
【0027】
一実施の形態においては、遅い変調プロセスを、放射される光の周波数を変化させるように実行することができる。ひとたび音響応答が或る周波数にロックインされると、プロセス70は、先に変調されて放射された光76とは異なる周波数を有する続いて変調されたビーム88を放射するように、光源をゆっくりと変調させることを含むことができる(ブロック86)。光源の周波数を変化させることで、より高い柔軟性を可能にすることができ、さらには/あるいは種々の測定部位の種々の吸収体の濃度に関してより多くの情報を生成することができる。例えば、光源の変調は、測定部位の異なる吸収体(異なる吸収係数を有することができる)によって吸収されうる異なる波長での光の放射をもたらすことができ、したがって測定される組織の1つ以上の吸収体の濃度についてより多くの情報を生成することができる。さらに、対象のいくつかの吸収体が、測定部位(例えば、指、口腔、など)に応じた異なる吸収係数を有することができるため、異なる波長での光の放射は、患者の種々の測定部位の対象の吸収体の測定を可能にすることができる。いくつかの実施の形態においては、1つの波長の光を、同時または異なる時点でセンサ12によって放射することができる。さらに、一実施の形態においては、2つ以上の波長の光を同時に放射できるよう、センサ12が2つ以上の光源を有することができる。
【0028】
続いて変調された光88の波形に対応する信号を、音響応答78を続いて放射された光88の周波数、振幅、および位相に関して分析できるように、検出器16および/またはロックイン増幅器23へとフィードバックすることができる。続いて変調された光88と続いて変調された光88によって生成される音響応答78との間の位相のずれを、ロックイン増幅器43によって検出および出力することもできる。さらに、変調は、放射される光74および88の変化に応答した音波78の変化を増幅器43によって検出してロックインできるように遅くてもよい。
【0029】
本開示は、種々の変更および代案の形態を受け入れる余地を有することができるが、特定の実施の形態を、図面に例として示し、本明細書において詳しく説明した。しかしながら、本明細書に提示の実施の形態が、開示された特定の形態への限定を意味するものではないことを、理解すべきである。むしろ、種々の実施の形態は、以下の特許請求の範囲によって定められるとおりの本開示の技術的思想および技術的範囲に含まれるすべての変更、均等物、および代案を包含することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の組織に存在する吸収体によって吸収されうる波長を有する光を放射すべく、光音響分光センサにおいて連続光源を変調するステップと、
変調された光を患者の組織へと放射するステップと、
変調されて放射された光に応答して生じる音波の振幅成分および位相成分を割り出すステップと
を含む方法。
【請求項2】
連続光源の変調が、2つ以上の周波数での連続光源の変調を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
2つ以上の周波数が、患者の生理学的状態、患者の組織に存在する1つ以上の吸収体、または光音響分光センサの構成のうちの1つ以上にもとづく、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
連続光源が、約50mW〜1Wで連続的に光を放射する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
音波の振幅成分および位相成分が、音波と変調されて放射された光の波形との比較にもとづいて割り出される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
音波の振幅成分が、吸収体の濃度を示している、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
音波の位相成分が、患者の組織における吸収体の位置を示している、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
1つ以上の波長の光を患者の組織へと放射すべく変調されるように構成された連続波光源と、
連続波光源によって放射された光に応答して患者の組織において生成された非光学的な応答波を受信するように構成された検出器と、
応答波および光の1つ以上の波長にもとづいて患者の組織に存在する吸収体の濃度を割り出すように構成されたプロセッサと
を備える光音響分光システム。
【請求項9】
連続波光源を或る周波数範囲にわたって変調するように構成された変調器を備える、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
応答波が、圧力波、音波、または熱波のうちの1つ以上である、請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
検出器が、ファブリーペローポリマーフィルムトランスデューサを備える、請求項8に記載のシステム。
【請求項12】
検出器が、約1μm〜約50μmの間の厚さのフィルムを備える、請求項8に記載のシステム。
【請求項13】
患者の組織へと放射された光にもとづいて応答波の周波数を割り出すように構成されたロックイン増幅器を備える、請求項8に記載のシステム。
【請求項14】
ロックイン増幅器が、応答波の振幅情報または位相情報のうちの1つ以上を含む電圧信号を出力するように構成されている、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
1つ以上の波長の光を連続的に放射するように構成され、応答波を受信するようにさらに構成された光音響分光センサを備える、請求項8に記載のシステム。
【請求項16】
1つ以上の波長の光を患者の組織へと放射し、患者の組織を透過した光または患者の組織によって散乱させられた光を受信するように構成されたパルス酸素濃度計センサをさらに備える、請求項8に記載のシステム。
【請求項17】
吸収体の濃度および吸収体の深さの計算に関するアルゴリズムを記憶するメモリを備えており、プロセッサがアルゴリズムを実行すべくメモリにアクセスすることができる、請求項8に記載のシステム。
【請求項18】
連続光源を変調させるように構成された変調器と、
連続光源の放射への非光学データからなる応答を受信し、応答の振幅および位相を割り出すように構成されたデータ処理回路と、
振幅または位相のうちの1つ以上を利用して、患者の組織における吸収体の濃度または吸収体の位置のうちの1つ以上を計算するように構成されたプロセッサと
を備える光音響分光モニタ。
【請求項19】
応答が、圧力波、音波、または熱波のうちの1つ以上である、請求項18に記載のモニタ。
【請求項20】
データ処理回路が、連続光源の放射の周波数にもとづいて応答の周波数にロックインするように構成されている、請求項18に記載のモニタ。
【請求項21】
データ処理回路が、応答の振幅および位相を含む信号を処理するように構成されている、請求項18に記載のモニタ。
【請求項22】
吸収体の位置が、吸収体の濃度が割り出された場所の患者の組織における深さである、請求項18に記載のモニタ。
【請求項23】
吸収体が、血液、他の流体、組織、または光のエネルギーを吸収して運動の応答を生じることができる任意の他の患者の構成要素のうちの1つ以上を含む、請求項18に記載のモニタ。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−518673(P2013−518673A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552052(P2012−552052)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【国際出願番号】PCT/US2011/023466
【国際公開番号】WO2011/097291
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(591191572)ネルコー ピューリタン ベネット エルエルシー (22)
【Fターム(参考)】