説明

連続発酵装置の運転方法

【課題】分離膜を用いた発酵により生産品を製造・回収する際、微生物混合液の高濃度培養に対するろ過性の保持と微生物濃度を制御することが可能な洗浄剤の供給方法を提供する。
【解決手段】変換前物質を含んだ原液を発酵槽に導入し、微生物含有液を用いて変換前物質を変換した後、膜モジュールを用いてろ過し、連続的に非透過液を発酵槽に保持しつつ変換後物質を含んだ透過液を取り出す連続発酵運転において、膜モジュールの透過液側から、次亜塩素酸塩水溶液を含有する洗浄剤を供給して膜洗浄を行う連続発酵装置の運転方法であって、洗浄剤の供給条件を発酵槽内の微生物濃度により制御することを特徴とする連続発酵装置の運転方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜を用いて発酵により連続的に化成品を製造する連続発酵装置の運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分離膜は発酵分野への適用を含め、飲料水製造、浄水処理、排水処理などの水処理分野、医薬品生産分野、食品工業分野等様々な方面で利用されている。飲料水製造、浄水処理、排水処理などの水処理分野においては、分離膜が従来の砂ろ過、凝集沈殿過程の代替として水中の不純物を除去するために用いられている。さらに排水処理および食品工業分野では、高濃度の排水または原料を処理槽に大量に投入し、微生物を高濃度に保ちながら処理を行い、除去率が高いことや高純度の処理液が得られることから、分離膜技術が幅広く使用されている。
【0003】
このような分離膜を用いた水処理分野、食品工業分野等においては、コストダウンの観点から透水性能の向上が求められ、透水性能が優れている分離膜で膜面積を減らし、装置をコンパクト化する等によって設備費・膜交換費および設置面積の低減を試みている。このようなコストの観点から、体積に対してろ過面積が広い中空糸膜が注目されている。
【0004】
しかし、中空糸膜を含め、このような分離膜は、ろ過運転を通じてろ過面にSS(Suspended Solid)や吸着物が付着することでろ過能力が低下し、必要なろ過液量が得られなくなることがある。このため、ろ過面を定期的または非定期的に洗浄することで、ろ過面に付着したSS分などを除去してろ過能力を保持している。例えば、特許文献1では、定期的にろ過側からろ過水を逆透過させることでろ過性能を維持している。また、特許文献2では、ろ過体下よりエアーを供給することでろ過面を洗浄しながらろ過を行うことが提案されている。さらに、特許文献3には、特許文献1や特許文献2に開示された方法でもろ過面が洗浄できない場合のために、ろ過体を化学洗浄する方法を提案している。
【0005】
一方、ろ過体を化学洗浄する方法の中でも次亜塩素酸塩処理は、有機物により発生したろ過膜の詰まりの洗浄に数多く使用されている。例えば、特許文献4では、トマトなどを中心とする養液栽培養液を膜ろ過により浄化する際発生した膜ろ過性能の低下について、有効塩素濃度が70〜200mg/Lの次亜塩素酸塩溶液を使用してろ過膜を洗浄することで、ろ過膜の閉塞を解消するとともに、ろ過膜付近の殺菌によるスライム形成性細菌の殺菌を行い、再度の細孔閉塞の防止効果も期待している。
【0006】
しかし、この方法からは、次亜塩素酸塩処理において、膜を通過することなく膜の上流側に接しながら洗浄を行う次亜塩素酸塩溶液の量と、膜を通過して洗浄を行う次亜塩素酸塩溶液(洗浄液)の量との比が、5:5〜9:1で行うこととなっており、膜の上流側に接しながら洗浄を行っている。この方法では、膜の上流側に流れていたろ過対象液の流れを遮断し、次亜塩素酸塩溶液を流して洗浄した後、次亜塩素酸塩溶液の流れを遮断し、ろ過対象液を再び流して、ろ過を再開する、という複雑な工程を行わなければならない。さらに、洗浄後に次亜塩素酸塩溶液がろ過膜の表面に残らないように、清浄な水で洗浄を行うとともに、次亜塩素酸塩溶液を用いた洗浄および清浄な水での洗浄で発生した廃水について、廃水処理を行う必要がある。
【0007】
この廃水処理問題について、例えば特許文献5では、2回の洗浄を行った後、それぞれの洗浄工程から発生した廃液を混合して中和することで、公共用水域へ放流が可能になる方法を提案している。この方法からは、第1洗浄工程に水酸化ナトリウムと次亜塩素酸ナトリウムの混合溶液を用いて膜洗浄を行い、第2工程に重亜硫酸ナトリウム溶液、亜硫酸水素ナトリウム溶液、亜硫酸ナトリウム溶液、チオ硫酸ナトリウム溶液などの還元性酸溶液を使用して膜洗浄を行う。洗浄後には2つの工程でそれぞれから発生した洗浄廃液を混合することで中和することができ、そのまま公共用水域へ放流することを提案している。しかしこの方法は、第2工程の洗浄まで必要としないろ過膜や、第2工程で洗浄効果が得られない膜汚れに対しては考慮しておらず、さらに2つの工程の洗浄によりコストが上がる問題があった。
【0008】
一方、近年では膜を利用した培養技術の提案が活発に行われている。この中でも微生物や培養細胞の培養を伴う連続製造方法においては、微生物や培養細胞を分離膜でろ過し、ろ液から生産物を回収すると同時にろ過された微生物や培養細胞を培養液に保持または環流させることで、培養液中の微生物や細胞濃度を高く維持することができる。例えば特許文献6では、分離膜を用いて連続発酵を行い、培養液中の微生物や細胞濃度を向上させ、かつ、高く維持させることで高い物質生産性が得られると提案している。しかし、この方法からは、高い物質生産性を得るために高い微生物濃度を維持する必要があり、高濃度微生物の培養液から生産物を回収するためには薬液洗浄などの洗浄を行い、ろ過性を保持する必要がある。さらに、高い微生物濃度を得るため培地供給速度を速くすると、高い生産速度は得られるものの、培地の豊富な供給により微生物が急激に増殖し、ろ過可能な微生物濃度以上の高濃度の微生物が培養され、ろ過膜が詰まってしまう問題があった。ろ過可能な微生物濃度以上の高濃度の微生物の増殖が行われた場合、微生物濃度を下げるため、培養液の一部を引き抜いて廃棄処理をしなければならなく、生産コストを上げる問題があった。
【0009】
このように従来の技術では、複雑な洗浄工程、洗浄中発生した廃液の処理、微生物の高濃度培養に対するろ過性の保持や微生物濃度の過大な増加に対する制御方法などの問題について検討されておらず、前記ろ過性を保持するための膜ろ過運転方法や微生物濃度の制御方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−141375号公報
【特許文献2】特開2001−38177号公報
【特許文献3】特開2002−126470号公報
【特許文献4】特許第3538385号公報
【特許文献5】特開2005−193119号公報
【特許文献6】国際公開WO2007/097260号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、分離膜を用いた発酵により生産品を製造・回収する際、微生物混合液の高濃度培養に対するろ過性の保持と微生物濃度を制御することが同時に可能な洗浄剤の供給方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、下記(1)〜(2)の構成によって達成される。
【0013】
(1)変換前物質を含んだ原液を発酵槽に導入し、微生物含有液を用いて変換前物質を変換した後、膜モジュールを用いてろ過し、連続的に非透過液を発酵槽に保持しつつ変換後物質を含んだ透過液を取り出す連続発酵運転において、膜モジュールの透過液側から、次亜塩素酸塩水溶液を含有する洗浄剤を供給して膜洗浄を行う連続発酵装置の運転方法であって、洗浄剤の供給条件を発酵槽内の微生物濃度により制御することを特徴とする連続発酵装置の運転方法。
【0014】
(2)変換後物質が、化成品、乳製品、医薬品、食品または醸造品のうち、少なくとも1種を含む流体物、または排水であることを特徴とする、(1)に記載の連続発酵装置の運転方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ろ過膜を用いて発酵培養液をろ過すると共に、連続的に非透過液を発酵槽に保持しつつ変換後物質を含んだ透過液を取り出す連続発酵運転において、膜ろ過により発生する膜の汚れを効果的に洗浄するとともに、発酵槽内の微生物濃度を制御することができ、安定に低コストで発酵生産効率を著しく向上させることができ、かつ、洗浄廃液および引き抜き培養液が発生しないことで処理費用の低減ができ、さらにコストの低減が可能になり、広く発酵工業において、発酵生産物を低コストで安定に生産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明で用いられる膜分離型連続発酵装置の例を説明するための概略側面図である。
【図2】本発明における膜ろ過モジュールの逆液洗浄方法・手順を示す図である。
【図3】実施例1および比較例1に係る連続発酵ろ過実験による微生物濃度の経時変化を示す図である。
【図4】実施例1および比較例1に係る連続発酵ろ過実験による膜ろ過差圧の経時変化を示す図である。
【図5】実施例2および比較例2に係る連続発酵ろ過実験による微生物濃度の経時変化を示す図である。
【図6】実施例2および比較例2に係る連続発酵ろ過実験による膜ろ過差圧の経時変化を示す図である。
【図7】実施例3および比較例3に係る連続発酵ろ過実験による微生物濃度の経時変化を示す図である。
【図8】実施例3および比較例3に係る連続発酵ろ過実験による膜ろ過差圧の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、膜モジュールを用いてろ過し、連続的に非透過液を発酵槽に保持しつつ変換後物質を含んだ透過液を取り出す連続発酵運転において、膜モジュールの透過液側から、次亜塩素酸塩水溶液を含有する洗浄剤を供給して膜洗浄を行い、洗浄剤の供給条件を発酵槽内の微生物濃度により制御することを特徴とする連続発酵装置の運転方法である。
【0018】
本発明の膜モジュールに用いられる分離膜は、有機膜、無機膜を問わず、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、セラミックス製の膜のように耐薬品性を持つ分離膜であれば良い。
【0019】
本発明で用いられる分離膜は、平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の細孔を有する多孔性膜であることが好ましい。また、分離膜の形状は、平膜、中空糸膜などいずれの形状のものも採用することができる。
【0020】
三次元網目構造の表面の平均孔径は、三次元網目構造の表面を走査型電子顕微鏡を用いて60000倍で写真撮影し、20個の任意の細孔の直径を測定し、数平均して求める。細孔が円状でない場合、画像処理装置等によって、細孔が有する面積と等しい面積を有する円(等価円)を求め、等価円直径を細孔の直径とする方法により求められる。
【0021】
本発明の好ましい態様によれば、前記の分離膜を用い、膜間差圧を0.1〜20kPaの範囲にしてろ過処理を行うことができる。
【0022】
本発明においての膜モジュールは、耐薬品性に優れる材質で作られ、洗浄液をモジュールの2次側から1次側へ注入できる形状であれば良い。
【0023】
本発明で使用される微生物や培養細胞の発酵原料、すなわち変換前物質は、発酵培養する微生物や培養細胞の生育を促し、目的とする発酵生産物である化学品を良好に生産させ得るものであればよい。発酵原料としては、例えば、炭素源、窒素源、無機塩類、および必要に応じてアミノ酸、およびビタミンなどの有機微量栄養素を適宜含有する通常の液体培地等が好ましく用いられる。前記発酵培養する微生物や培養細胞の生育を促し、目的とする発酵生産物である化学品を良好に生産させ得るものを一部含む液体であれば、例えば廃水または下水も、そのまま、または発酵原料を添加して使用してもよい。
【0024】
上記の炭素源としては、例えば、グルコース、シュークロース、フラクトース、ガラクトースおよびラクトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉、澱粉加水分解物、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ケーンジュース、甜菜糖蜜またはケーンジュースからの抽出物もしくは濃縮液、甜菜糖蜜またはケーンジュースのろ過液、シラップ(ハイテストモラセス)、甜菜糖蜜またはケーンジュースからの精製もしくは結晶化された原料糖、菜糖蜜またはケーンジュースからの精製もしくは結晶化された精製糖、更には酢酸やフマル酸等の有機酸、エタノールなどのアルコール類、およびグリセリンなどが使用される。ここで糖類とは、多価アルコールの最初の酸化生成物であり、アルデヒド基またはケトン基をひとつ持ち、アルデヒド基を持つ糖をアルドース、ケトン基を持つ糖をケトースと分類される炭水化物のことを指す。
【0025】
また、上記の窒素源としては、例えば、アンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば、油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ペプトン等のペプチド類、各種発酵菌体およびその加水分解物などが使用される。
【0026】
また、上記の無機塩類としては、例えば、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩およびマンガン塩等を適宜使用することができる。
【0027】
本発明において、微生物の発酵培養は、通常、pHが4〜8で温度が20〜65℃の範囲で行うことができる。発酵培養液のpHは、無機の酸あるいは有機の酸、アルカリ性物質、さらには尿素、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムおよびアンモニアガスなどによって、上記範囲内のあらかじめ定められた値に調節される。
【0028】
培養において、酸素の供給速度を上げる必要があれば、空気に酸素を加えて酸素濃度を好適には21%以上に保つ、発酵培養液を加圧する、攪拌速度を上げる、あるいは通気量を上げるなどの手段を用いることができる。逆に、酸素の供給速度を下げる必要があれば、炭酸ガス、窒素およびアルゴンなど酸素を含まないガスを空気に混合して供給することも可能である。
【0029】
本発明において、発酵培養液から発酵培養液から微生物もしくは培養細胞を含む発酵培養液を抜き出す際は、微生物もしくは培養細胞の濃度が減少して発酵生産物の生産性が低下しないように、発酵培養液の濁度またはMLSS(Mixed Liquor Suspended Solid)に基づいて適宜調整することが好ましい。
【0030】
発酵生産能力のあるフレッシュな菌体を増殖させつつ行う連続培養操作は、培養管理上、通常、単一の発酵反応槽で行うことが好ましい。しかしながら、菌体を増殖しつつ生産物を生成する連続発酵培養法であれば、発酵反応槽の数は問わない。発酵反応槽の容量が小さい等の理由から、複数の発酵反応槽を用いることもあり得る。その場合、複数の発酵反応槽を配管で並列または直列に接続して連続培養を行っても、発酵生産物の高生産性は得られる。
【0031】
本発明で使用される微生物や培養細胞としては、真核細胞または原核細胞が用いられ、例えば、発酵工業においてよく使用されるパン酵母などの酵母、大腸菌、乳酸菌、コリネ型細菌などのバクテリア、糸状菌、放線菌、動物細胞および昆虫細胞などが挙げられる。使用する微生物や細胞は、自然環境から単離されたものでもよく、また、突然変異や遺伝子組換えによって一部性質が改変されたものであってもよい。
【0032】
本発明で用いられる真核細胞の最も際立った特徴は、細胞内に細胞核(核)と呼ばれる構造を持ち、細胞核(核)を有さない原核生物とは明確に区別される。本発明では、その真核細胞のうちで更に好ましくは酵母を好ましく用いることができる。本発明において好適な酵母としては、例えば、サッカロミセス属(Genus Saccharomyces)に属する酵母とサッカロミセス・セレビセ(Saccharomyces cerevisiae)に属する酵母が挙げられる。
【0033】
本発明で用いられる原核細胞の最も際立った特徴は、細胞内に細胞核(核)と呼ばれる構造をもたないことであり、細胞核(核)を有する真核生物とは明確に区別される。本発明では、その真核細胞のうちで乳酸菌を好ましく用いることができる。
【0034】
本発明の製造方法で得られる化学品、すなわち変換後物質は、上記の微生物や培養細胞が発酵培養液中に生産する物質である。化学品としては、例えば、アルコール、有機酸、アミノ酸および核酸など発酵工業において大量生産されている物質を挙げることができる。また、本発明は、酵素、抗生物質および組換えタンパク質のような物質の生産に適用することも可能である。例えば、アルコールとしては、エタノール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、カダベリンおよびグリセロール等が挙げられる。また、有機酸としては、酢酸、乳酸、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、イタコン酸およびクエン酸等を挙げることができ、核酸であればイノシン、グアノシンおよびシチジン等を挙げることができる。
【0035】
また、本発明の製造方法で得られる変換後物質は、化成品、乳製品、医薬品、食品または醸造品のうち、少なくとも1種を含む流体物、または排水であることが好ましい。ここで化成品としては、例えば、有機酸、アミノ酸および核酸のように、膜分離ろ過後の工程により化学製品を作ることに適用可能な物質、乳製品としては、例えば、低脂肪牛乳など、膜分離ろ過後の工程により乳製品として適用可能な物質、医薬品としては、例えば、酵素、抗生物質、組み換えタンパク質のように、膜分離ろ過後の工程により医薬品を作ることに適用可能な物質、食品としては、例えば、乳酸飲料など、膜分離ろ過後の工程により食品として適用可能な物質、醸造品としては、例えば、ビール、焼酎など、膜分離ろ過後の工程によりアルコールを含む飲料として適用可能な物質、排水としては、例えば、食品洗浄排水、乳製品洗浄排水などの生産品洗浄後の排水や、有機物を豊富に含む家庭排水などが挙げられる。
【0036】
本発明で乳酸を製造する場合、真核細胞であれば酵母、原核細胞であれば乳酸菌を用いることが好ましい。このうち酵母は、乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子を細胞に導入した酵母が好ましい。このうち乳酸菌は、消費したグルコースに対して対糖収率として50%以上の乳酸を産生する乳酸菌を用いることが好ましく、更に好ましくは対等収率として80%以上の乳酸菌であることが好適である。
【0037】
本発明で乳酸を製造する場合に好ましく用いられる乳酸菌としては、例えば、野生型株では、乳酸を合成する能力を有するラクトバチラス属(Lactobacillus)、バチラス属(Bacillus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)、テトラゲノコッカス属(Genus Tetragenococcus)、カルノバクテリウム属(Genus Carnobacterium)、カルノバクテリウム属(Genus Carnobacterium)、カルノバクテリウム属(Genus Carnobacterium)、カルノバクテリウム属(Genus Carnobacterium)、バゴコッカス属(Genus Vagococcus)、ロイコノストック属(Genus Leuconostoc)、オエノコッカス属(Genus Oenococcus)、アトポビウム属(Genus Atopobium)、ストレプトコッカス属(Genus Streptococcus)、エンテロコッカス属(Genus Enterococcus)、ラクトコッカス属(Genus Lactococcus)およびスポロラクトバチルス属(Genus Sporolactobacillus)に属する細菌が挙げられる。
【0038】
また、乳酸の対糖収率や光学純度が高い乳酸菌を選択して用いることができ、例えば、D−乳酸を選択して生産する能力を有する乳酸菌としてはスポロラクトバチルス属に属するD−乳酸生産菌が挙げられ、好ましい具体例として、スポロラクトバチルス・ラエボラクティカス(Sporolactobacillus laevolacticus)またはスポロラクトバチルス・イヌリナス(Sporolactobacillus inulinus)が使用できる。さらに好ましくは、スポロラクトバチルス・ラエボラクティカス ATCC 23492、ATCC 23493、ATCC 23494、ATCC 23495、ATCC 23496、ATCC 223549、IAM12326、IAM 12327、IAM 12328、IAM 12329、IAM 12330、IAM 12331、IAM 12379、DSM 2315、DSM 6477、DSM 6510、DSM 6511、DSM 6763、DSM 6764、DSM 6771などとスポロラクトバチルス・イヌリナスJCM 6014などが挙げられる。
【0039】
L−乳酸の対糖収率が高い乳酸菌としては、例えば、ラクトバシラス・ヤマナシエンシス(Lactobacillus yamanashiensis)、ラクトバシラス・アニマリス(Lactobacillus animalis)、ラクトバシラス・アジリス(Lactobacillus agilis)、ラクトバシラス・アビアリエス(Lactobacillus aviaries)、ラクトバシラス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバシラス・デルブレッキ(Lactobacillus delbruekii)、ラクトバシラス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバシラス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバシラス・ルミニス(Lactobacillus ruminis)、ラクトバシラス・サリバリス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバシラス・シャーピイ(Lactobacillus sharpeae)、ラクトバシラス・デクストリニクス(Pediococcus dextrinicus)、およびラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)などが挙げられ、これらを選択して、L−乳酸の生産に用いることが可能である。
【0040】
本発明において、微生物や培養細胞の発酵培養液を膜モジュール中の分離膜でろ過処理する際の膜間差圧は、微生物や培養細胞および培地成分が容易に目詰まりしない条件であればよいが、膜間差圧を0.1kPa以上20kPa以下の範囲にしてろ過処理することが重要である。膜間差圧は、好ましくは0.1kPa以上10kPa以下の範囲であり、さらに好ましくは0.1kPa以上5kPaの範囲である。上記膜間差圧の範囲を外れた場合、原核微生物および培地成分の目詰まりが急速に発生し、透過水量の低下を招き、連続発酵運転に不具合を生じることがある。
【0041】
ろ過の駆動力としては、発酵培養液と多孔性膜処理水の液位差(水頭差)を利用したサイホン、またはクロスフロー循環ポンプにより分離膜に膜間差圧を発生させることができる。また、ろ過の駆動力として分離膜処理水側に吸引ポンプを設置してもよい。また、クロスフロー循環ポンプを使用する場合には、吸引圧力により膜間差圧を制御することができる。更に、発酵培養液側の圧力を導入する気体または液体の圧力によっても膜間差圧を制御することができる。これら圧力制御を行う場合には、発酵培養液側の圧力と多孔性膜処理水側の圧力差をもって膜間差圧とし、膜間差圧の制御に用いることができる。
【0042】
本発明においては、洗浄液として、膜の洗浄効果を有するとともに、微生物濃度を低減させることができる次亜塩素酸塩水溶液を使用するが、その中でも次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウムの水溶液が好ましく、コストの面から次亜塩素酸ナトリウム水溶液が望ましい。
【0043】
なお、本発明の次亜塩素酸塩水溶液には、発明の効果を阻害しない範囲で、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ溶液を含有しても構わない。
【0044】
洗浄液として使用する次亜塩素酸塩水溶液の濃度は、遊離塩素濃度が10〜5,000ppmの範囲であり、より好ましくは100〜3,000ppmである。遊離塩素濃度がこの範囲より高いと、ろ過膜に損傷を与える可能性があり、またこの範囲より低いと洗浄効果および微生物制御効果が充分に得られないことがある。また、洗浄液として使用する次亜塩素酸塩水溶液の逆圧洗浄速度は、膜ろ過速度の0.5〜5倍範囲であり、より好ましくは1〜3倍である。逆圧洗浄速度がこの範囲より高いと、ろ過膜モジュールに損傷を与える可能性があり、またこの範囲より低いと洗浄効果および微生物制御効果が充分に得られないことがある。
【0045】
ここで、逆圧洗浄とは、多孔性膜処理水側から発酵培養液側へ液体を送ることにより、膜面のファウリング物質を除去する方法である。
【0046】
洗浄液として使用する次亜塩素酸塩水溶液の逆圧洗浄周期は、膜差圧および膜差圧の変化により決定することができる。逆圧洗浄周期は、0.1〜12回/時間の範囲であり、より好ましくは4〜8回/時間である。逆圧洗浄周期がこの範囲より多いと、ろ過膜に損傷を与える可能性があり、またこの範囲より少ないと、洗浄効果および微生物制御効果が充分に得られないことがある。
【0047】
洗浄液として使用する次亜塩素酸塩水溶液の逆圧洗浄時間は、逆圧洗浄周期、膜差圧および膜差圧の変化により決定することができる。逆圧洗浄時間は、5〜300秒/回の範囲であり、より好ましくは30〜120秒/回である。逆圧洗浄時間がこの範囲より長いと、ろ過膜に損傷を与える可能性があり、またこの範囲より短いと、洗浄効果および微生物制御効果が充分に得られないことがある。
【0048】
洗浄剤保管タンク、洗浄剤供給ポンプ、洗浄剤保管タンクからモジュールまでの配管およびバルブは、耐薬品性に優れるものを使用すれば良い。洗浄剤の注入は手動でも可能だが、ろ過・逆洗制御装置を設け、ろ過ポンプおよびろ過側バルブ、洗浄剤供給ポンプおよび洗浄剤供給バルブを、タイマーなどにより自動的に制御して注入することが望ましい。
【0049】
本発明においては、微生物培養槽の微生物濃度を制御するために、微生物濃度をモニタリングする必要がある。微生物濃度の測定はサンプルを採取し、測定することでも可能だが、微生物培養槽に、MLSS測定器など、微生物濃度センサーを設置し、微生物濃度の変化状況を連続的にモニタリングすることが望ましい。
【0050】
次に、本発明で用いられる連続発酵装置について、図を用いて説明する。
【0051】
図1は、本発明の洗浄剤の供給方法で用いられる連続発酵装置を例示説明するための概略側面図である。図1は、分離膜モジュールが、発酵培養槽の外部に設置された代表的な連続発酵装置の例である。図1において、連続発酵装置は、発酵培養槽1と分離膜モジュール2と洗浄剤供給部で基本的に構成されている。ここで、分離膜モジュール2には、多数の中空糸膜が組み込まれている。また、洗浄剤供給部は、ろ過バルブ13と洗浄剤供給ポンプ12と洗浄剤供給バルブ14で構成される。前記分離膜モジュールおよび洗浄剤供給部については、後に詳述する。また、分離膜モジュール2は、循環ポンプ8を介して発酵培養槽1に接続されている。
【0052】
図1において、培地供給ポンプ9によって培地を発酵培養槽1に投入し、必要に応じて、撹拌装置4で発酵培養槽1内の発酵培養液を撹拌し、また、必要に応じて、気体供給装置15によって必要とする気体を供給することができる。このとき、供給された気体を回収リサイクルして再び気体供給装置15で供給することができる。また必要に応じて、pHセンサー・制御装置5および中和剤供給ポンプ10によって発酵培養液のpHを調節することにより、生産性の高い発酵生産を行うことができる。
【0053】
さらに、装置内の発酵培養液は、循環ポンプ8によって発酵培養槽1と分離膜モジュール2の間を循環する。発酵生産物を含む発酵培養液は、分離膜モジュール2によって微生物と発酵生産物にろ過・分離され、装置系から取り出すことができる。また、ろ過・分離された微生物は、装置系内にとどまることにより装置系内の微生物濃度を高く維持することができ、生産性の高い発酵生産を可能としている。ここで、分離膜モジュール2によるろ過・分離には、循環ポンプ8による圧力によって、特別な動力を使用することなく実施可能であるが、必要に応じてろ過ポンプ11を設け、差圧センサー・制御装置7によって発酵液量を適当に調整することができる。必要に応じて、温度制御装置3によって、発酵培養槽1の温度を一定に維持することができ、微生物濃度を高く維持することができる。
【0054】
本発明の洗浄剤の供給方法で用いられる洗浄剤供給部は、ろ過バルブ13と洗浄剤供給ポンプ12と洗浄剤供給バルブ14で構成される。洗浄剤は、微生物濃度をモニタリングし、投入することができる。
【0055】
本発明の運転方法で用いられる制御手順は、図2に示す手順に従って実施する。
【0056】
まず、生産品の膜ろ過を開始し、微生物濃度の変化や膜差圧の変化をモニタリングする。膜ろ過により膜に汚れが発生し、膜差圧が上昇すると、微生物濃度を確認し、その濃度が想定した微生物濃度より高い場合は、次亜塩素酸塩水溶液を用いて逆圧洗浄を行う。
【0057】
膜差圧が上昇した時、微生物濃度を確認し、その濃度が想定した微生物濃度より低い場合は、次亜塩素酸塩水溶液以外の、他洗浄液を用いて逆圧洗浄を行う。他洗浄液としては、発酵に影響を及ぼさないため、発酵に使用されている液剤が望ましく、発酵培養槽に投入する培地、中和剤、ろ過液、水、またはこれらの成分の中一つ以上を含む液剤が望ましい。
【0058】
次亜塩素酸塩水溶液または他洗浄液で膜洗浄を行った後、膜差圧を確認し、洗浄の効果を確認する。確認した差圧が想定した基準の差圧より高い場合、再び微生物濃度を確認し、確認した差圧が想定した基準の差圧より低い場合、逆圧洗浄を停止して良い。想定した基準の差圧は、ろ過膜の特性およびろ過膜モジュールの特性により決定して良い。
【0059】
以上の次亜塩素酸塩水溶液を用いた逆圧洗浄を行うことにより、廃液を発生せずにろ過膜の汚れを洗浄するとともに、過大に増殖する微生物濃度を制御することが可能となる。ろ過性の保持と微生物濃度を制御することが可能な洗浄剤の供給方法を行うことで、微生物培養液のろ過において、膜ろ過モジュールのろ過性能が増加し、そのろ過性能を維持するための微生物濃度の制御が実施可能であり、洗浄剤を使用しても廃液が発生しなく、膜が目詰まりした場合でも高い膜間差圧で運転した場合に比べて、好ましい長期間安定なろ過が、より容易に、可能になる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明をさらに詳細に説明するために、図1の概要図に示す装置を用いた連続発酵の具体的な実施形態について、実施例を挙げて説明する。

実施例1
まず、膜ろ過モジュールを製作した。膜モジュールの製作に使用した中空糸膜は、東レ(株)製加圧式PVDF中空糸膜モジュール“HFS1020”を解体して、接着固定されていない部分のみを切り出し、得られたPVDF中空糸膜を使用した。分離膜モジュール部材としてはポリカーボネート樹脂の成型品を用いた。作製した膜ろ過モジュールの容量は0.06Lで、膜ろ過モジュールの有効ろ過面積は200平方cmであった。製作した多孔性中空糸膜および膜ろ過モジュールを用いて、実施例1を行った。実施例1における運転条件は、特に断らない限り、以下のとおりである。
発酵培養槽容量:2(L)
発酵培養槽有効容積:1.5(L)
使用分離膜:ポリフッ化ビニリデン中空糸膜60本
温度調整:37(℃)
発酵培養槽通気量:0.2(L/min)
発酵培養槽攪拌速度:600(rpm)
pH調整:3N NaOHによりpH6に調整
乳酸発酵培地供給速度:15〜300mL/hrの範囲で可変制御
発酵液循環装置による循環液量:3.5(L/min)
膜ろ過流量制御:吸引ポンプによる流量制御
培地は高圧蒸気滅菌(121℃、15分)して用いた。微生物として Sporolactobacillus laevolacticus JCM2513(SL株)を用い、培地として表1に示す組成の乳酸発酵培地を用い、生産物である乳酸の濃度の評価には、下記に示したHPLCを用いて以下の条件下で行った。
【0061】
【表1】

【0062】
カラム:Shim-Pack SPR-H(島津社製)
移動相:5 mM p-トルエンスルホン酸(0.8 mL/min)
反応相:5 mM p-トルエンスルホン酸、20 mM ビストリス、0.1 mM EDTA・2Na(0.8 mL/min)
検出方法:電気伝導度
カラム温度:45℃
なお、乳酸の光学純度の分析は、以下の条件下で行った。
カラム:TSK-gel Enantio L1(東ソー社製)
移動相 :1 mM 硫酸銅水溶液
流速:1.0 mL/分
検出方法 :UV 254 nm
温度 :30℃
L-乳酸の光学純度は、次式(i)で計算される。
光学純度(%)=100×(L-D)/(D+L) ・・・(i)
また、D-乳酸の光学純度は、次式(ii)で計算される。
光学純度(%)=100×(D-L)/(D+L) ・・・(ii)
ここで、LはL-乳酸の濃度を表し、DはD-乳酸の濃度を表す。
【0063】
培養は、まずSL株を試験管で5mLの乳酸発酵培地で一晩振とう培養した(前々々培養)。得られた培養液を新鮮な乳酸発酵培地100mLに植菌し、500mL容坂口フラスコで24時間、30℃で振とう培養した(前々培養)。前々培養液を、図1に示す連続発酵装置の1.5Lの発酵培養槽に培地を入れて植菌し、付属の攪拌装置4によって攪拌し、発酵培養槽1の通気量の調整、温度調整、pH調整を行い、循環ポンプ8を稼働させることなく、50時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、循環ポンプ8を稼働させ、前培養時の運転条件に加え、乳酸発酵培地の連続供給を行い、膜分離型連続発酵装置の発酵液量を1.5Lとなるよう膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるD−乳酸の製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、ろ過ポンプ11から出てくるろ過量を測定し、膜ろ過量制御条件で変化させることで行った。適宜、膜ろ過発酵液中の生産されたD−乳酸濃度および光学純度を測定した。
【0064】
連続発酵ろ過運転は250時間行われ、逆圧洗浄は連続発酵80時間から180時間まで、230時間から250時間までそれぞれ行った。膜ろ過運転は、ろ過ポンプ11を用いて行い、ろ過流量は0〜50時間まではろ過を行わず、50〜200時間までは100mL/h、200〜250時間までは135mL/hの流量でろ過を行った。ろ過は9分ろ過、その後1分間ろ過停止を繰り返し行った。逆圧洗浄は、ろ過時間80〜250時間まで行い、9分間ろ過後、1分間逆圧洗浄を、逆圧洗浄速度170mL/hの流量で行った。発酵槽内の微生物濃度については、微生物濃度が増加することによりろ過性が低下する傾向があることから、ろ過速度が適切に維持でき、かつ生産性が維持できると考えられた微生物濃度を想定した後、その微生物濃度になるように運転を行った。逆圧洗浄に使用した薬液は、有効塩素濃度10%の市販の次亜塩素酸ナトリウムを用いて、遊離塩素濃度が1,000ppmまたは500ppmになるよう蒸留水で希釈して使用した。逆圧洗浄に使用した薬液は、連続発酵80時間から180時間までは遊離塩素濃度が1,000ppmの薬液を、230時間から250時間までは遊離塩素濃度が500ppmの薬液をそれぞれ使用した。ろ過差圧は差圧計を用いて1回/日で測定し、微生物濃度はOD600を用いて1回/日測定した。OD600の測定は、まず発酵槽からサンプルを採集し、サンプルのOD600が1前後になるように蒸留水を用いて希釈した後、波長600nmの吸光度を、吸光光度計(島津製作所UV-2450)を用いて測定した。得られた測定値に、蒸留水で希釈した倍率をかけ、サンプルのOD600として計算した。得られた実験結果を図3および図4に示す。その結果、微生物濃度を濁度30程度で維持しながら、膜ろ過差圧も安定的に維持することができ、微生物濃度を制御しながら効果的な膜洗浄を行うことが可能であった。
【0065】
実施例2
逆圧洗浄用薬液として、有効塩素濃度10%の市販の次亜塩素酸ナトリウムを用いて、遊離塩素濃度が3,000ppmになるよう蒸留水で希釈し、連続発酵180時間から250時間まで使用した。膜ろ過運転は、ろ過ポンプ11を用いて行い、ろ過流量は0〜50時間まではろ過を行わず、50〜200時間までは120mL/h、200〜250時間までは150mL/hの流量でろ過を行った。前記の方法以外には、実施例1と同様のD−乳酸連続発酵試験を行った。その結果を図5および図6に示す。その結果、微生物濃度を濁度40程度で維持しながら、膜ろ過差圧も安定的に維持することができ、微生物濃度を制御しながら効果的な膜洗浄を行うことが可能であった。
【0066】
実施例3
逆圧洗浄用薬液として、有効塩素濃度10%の市販の次亜塩素酸ナトリウムを用いて、遊離塩素濃度が100ppmになるよう蒸留水で希釈し、連続発酵100時間から250時間まで使用した。膜ろ過運転は、ろ過ポンプ11を用いて行い、ろ過流量は0〜50時間まではろ過を行わず、50〜200時間までは85mL/h、200〜250時間までは120mL/hの流量でろ過を行った。前記の方法以外には、実施例1と同様のD−乳酸連続発酵試験を行った。その結果を図7および図8に示す。その結果、微生物濃度を濁度20程度で維持しながら、膜ろ過差圧も安定的に維持することができ、微生物濃度を制御しながら効果的な膜洗浄を行うことが可能であった。
【0067】
比較例1
逆圧洗浄用薬液による逆圧洗浄を行わないまま、実施例1と同様のD−乳酸連続発酵試験を行った。その結果を図3および図4に示す。連続発酵250時間の濁度が75.1まで上昇し、微生物濃度の制御ができず、膜ろ過差圧も上昇し、安定的な連続発酵ろ過運転ができなかった。
【0068】
比較例2
逆圧洗浄用薬液による逆圧洗浄を行わないまま、実施例2と同様のD−乳酸連続発酵試験を行った。その結果を図5および図6に示す。連続発酵250時間の濁度が79.7まで上昇し、微生物濃度の制御ができず、膜ろ過差圧も上昇し、安定的な連続発酵ろ過運転ができなかった。
【0069】
比較例3
逆圧洗浄用薬液による逆圧洗浄を行わないまま、実施例3と同様のD−乳酸連続発酵試験を行った。その結果を図7および図8に示す。連続発酵250時間の濁度が58.8まで上昇し、微生物濃度の制御ができず、膜ろ過差圧も上昇し、安定的な連続発酵ろ過運転ができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、簡便な操作方法で、膜ろ過により発生する膜の汚れを効果的に洗浄するとともに、発酵槽内の微生物濃度を制御することができ、安定に低コストで発酵生産効率を著しく向上させることができ、かつ、洗浄廃液および引き抜き培養液から発生する処理費用の低減ができ、さらにコストの低減が可能になり、広く発酵工業において、発酵生産物を低コストで安定に生産することが可能となる。
【符号の説明】
【0071】
1 発酵培養槽
2 分離膜モジュール
3 温度制御装置
4 攪拌装置
5 pHセンサー・制御装置
6 レベルセンサー・制御装置
7 差圧センサー・制御装置
8 循環ポンプ
9 培地供給ポンプ
10 中和剤供給ポンプ
11 ろ過ポンプ
12 洗浄剤供給ポンプ
13 ろ過バルブ
14 洗浄剤バルブ
15 気体供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変換前物質を含んだ原液を発酵槽に導入し、微生物含有液を用いて変換前物質を変換した後、膜モジュールを用いてろ過し、連続的に非透過液を発酵槽に保持しつつ変換後物質を含んだ透過液を取り出す連続発酵運転において、膜モジュールの透過液側から、次亜塩素酸塩水溶液を含有する洗浄剤を供給して膜洗浄を行う連続発酵装置の運転方法であって、洗浄剤の供給条件を発酵槽内の微生物濃度により制御することを特徴とする連続発酵装置の運転方法。
【請求項2】
変換後物質が、化成品、乳製品、医薬品、食品または醸造品のうち、少なくとも1種を含む流体物、または排水であることを特徴とする、請求項1に記載の連続発酵装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−188791(P2011−188791A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57105(P2010−57105)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度新エネルギー・産業技術総合開発機構、「微生物機能を活用した環境調和型製造基盤技術開発/微生物機能を活用した高度製造基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】