連続的な電流伝送を行うためのスリップリングボディ
本発明は、担体材料と金または金合金から成るスリップコンタクト面とから形成されたスリップリングボディと、制御信号、制御電流およびジェネレータ電流を伝送するための(とりわけ風力設備または工業用ロボットにおける)スリップリング伝送器にスリップリングボディを使用する方法とに関する。前記スリップコンタクト面は、サポートベースによって安定化される。このような構成により、寿命が長くなり、品質の改善と関連して電圧降下が小さくなり、金が著しく削減される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続的な電流伝送を行うためのスリップリング伝送器用のスリップリングボディと、該スリップリングボディを製造するためのガルバニック製造方法とに関する。
【0002】
特殊鋼または貴金属コーティングから成るコンタクトシステムを有する回転式の電流伝送器は主に、電流伝送の品質(回転中の電圧変動)、寿命および保守容易性に対して高い要求が課される場合に使用される。電流中断を有するスライドコンタクトと電流中断を有さないスライドコンタクトとが区別される。
【0003】
・中断されたスリップ軌道にわたるスリップコンタクトの均質な運動(DC小形モータ)。
・コンタクトセグメントを経由して新たな静止位置までの電流におけるタップコンタクトのスライド(ロータリースイッチ、スライドスイッチ)。
・閉鎖的なスリップ軌道にわたるスリップコンタクトの均質な運動(スリップリング伝送器)。
【0004】
連続的な電流伝送を行うための典型的な構成形式は、シリンダ形のスリップリング伝送器、またはプリント基板を有する扁平な伝送システムである。このような電気的負荷スペクトルは、データ伝送(<1A)からエネルギー伝送(100〜500A)にまで及ぶ。それより高い電流(>2A)を伝送するためには、用途に応じて複数の貴金属スリップコンタクトがスリップ軌道上に平行に配置される。クレーン設備の伝送ドラム、溶接ロボットまたは風力設備におけるジェネレータ用途ではこのような貴金属スリップコンタクトによって、最大で500Aを伝送することができる。
【0005】
銅ベースのニッケルメッキされた担体上に施された単純な金‐コバルト塗布では、電圧降下の変動が生じ、これによって伝送品質が阻害される。約300万〜500万回の回転後には、電圧降下は非常に著しく大きくなり、スリップリング伝送器はもはや使用不可能になる。
【0006】
ガルバニック層システムは、担体上に少なくとも2つの異なる層を有する。電流伝送用の通常のガルバニック層システムは真鍮担体上に約0.5μmの厚さの銅層を有し、さらにその上に被着された2〜5μmの厚さのニッケル層を有し、該ニッケル層上にはさらに、金‐銅‐カドミウム層が5〜15μmの厚さで被着されている。このような層システムにより、担体に施される単純なガルバニック層より長い寿命が実現される。しかし、このような層システムでは電圧降下は、単純な金‐コバルトコーティングより格段に高くなってしまう。さらに、カドミウムは環境的または健康上の観点から望ましくない。
【0007】
本発明の課題は、電圧降下をより低くかつ均質にし、システムの寿命をさらに増大することである。
【0008】
前記課題の解決手段は、独立請求項に記載されている。従属請求項に有利な実施形態が記載されている。
【0009】
本発明では、スリップコンタクト面は硬質のサポートの上に、従来において通常であったよりも薄く形成される。このことにより、最大500万回の回転で従来は実現できなかった品質(電圧降下の変動)を有する電圧降下を、2Aで0.5Vを格段に下回る一定の値に低減することができる。さらに最大1000万回の回転を行うと、少なくとも、従来技術では最初の100万回の回転で実現される品質と同等の高品質がなお実現される。
【0010】
硬度はどのような場合でも、従来は拡散阻止層として使用されていたニッケルの硬度より高くなければならない。白金族金属と、リンがドーピングされたニッケルは、本発明に十分な硬度を有する。本発明のスリップリング伝送器は、回転システム用の電気エネルギー伝送およびデータ伝送のすべての用途に適しており、とりわけ、風力設備、ロボット、溶接ロボット、伝送ドラムおよびレーダ設備に適している。これらにはすべて、固定的に設置された電流接続を使用できない。
【0011】
有利には、金または硬金合金から成るスリップコンタクト面の層厚さは決定的に低減される。このようにして本発明では、金使用量が著しく低減されるだけでなく、動作時間も長くなる。その際には本発明では、適用例に応じて適切である、金または硬金から成るスリップコンタクト面の層厚さは少なくとも30%低減され、とりわけ少なくとも50%低減される。10μm未満の層厚さ、とりわけ1〜5μmの層厚さ、有利には2〜3μmの層厚さが良いことが実証されており、このことはとりわけ、Hera 277(AuPdAg合金)から成る貴金属スリップワイヤの適用時に実証されている。15μmを超えると、金被着部は非経済的になっていく。寿命と関連して摩耗が最小層厚さを決定する。
【0012】
スリップコンタクト軌道のスリップコンタクト面は、有利には軌道形である。この軌道は、軸方向にディスクの表面上に配置するか、または半径方向にリングの外側面に配置することができる。
【0013】
スリップコンタクトディスク上の軌道として形成されたスリップコンタクト面は、ディスク形であるのが有利である。ディスク上には複数の軌道を半径方向に相互に隣接して配置することができる。このような構成では、プリント基板が良いことが実証されている。
【0014】
スリップコンタクトリング上の軌道として形成されたスリップコンタクト面は、環状であるのが有利である。複数のリングを軸方向に軸上に配置することができる。
【0015】
コバルトまたはニッケルを含む金合金から成るスリップコンタクト面が良いことが実証されている。適切な金‐コバルト合金または金‐ニッケル合金は、50〜99.8質量%の金と、0.2〜20質量%のコバルトまたはニッケルと、0〜30%の別の合金成分とを含む。別の合金成分としては、リン、シリコンまたは炭素、ホウ素のドーピングと、銅、別の貴金属が適している。
【0016】
サポートベース、とりわけニッケルメッキされた担体上に配置された中間層は、スリップコンタクト面を支持する硬質の材料から成り、とりわけ結合体の最も硬質の材料から成る。サポートベース、とりわけ中間層は、1つまたは複数の白金族金属(PGM)から成るか、またはその合金から成るか、または硬化されたニッケルから成る。それより下位の合金成分としては、ニッケル、コバルトおよび鉄と、ホウ素、炭素、シリコンまたはリンのドーピングとが、PGMの削減に適している。銅合金から成りニッケルメッキされた担体上に、Pd電気メッキを施すのが良いことが実証されている。この銅合金は、たとえば真鍮、青銅またはCuZrである。限定的な範囲では、白金族金属を鉄金属に置換することができる。B,C,SiまたはPのドーピングによって硬度が上昇する。
【0017】
さらに、ニッケルから成る拡散阻止層に、より硬質の中間層を設けると良いことが実証されている。中間層が、リンによって硬化されたニッケルから形成される場合、白金族金属を削減することができる。有利な実施形態では、銅をベースとする担体、たとえば真鍮に、ニッケルから成る拡散阻止層が配置される。このようなニッケル拡散阻止層に、リンによって硬化されたニッケルから成る中間層が被着される。このような硬化されたニッケルに、ニッケル含有硬金層がスリップコンタクト面として被着される。これら3つの層は複雑でないことを特徴とする。ニッケル拡散は重大でない。というのも、3つの層はすべてニッケルを含むからである。リン拡散は知られていない。
【0018】
10μm未満の層厚さを有する中間層が良好であり、とりわけ2〜7μmの層厚さ、特に3〜4μmの層厚さを有する中間層が良好であることが実証されている。
【0019】
中間層をスリップコンタクト面より厚く形成することが良いことが実証されている。
【0020】
有利には、スリップコンタクト面と該スリップコンタクト面を支持する中間層とから成る導電性結合体は3〜10μmの間の厚さで形成され、とりわけ4〜8μmの間の厚さで形成され、特に有利には5〜7μmの間の厚さで形成されている。
【0021】
導電性担体は、有利には銅合金である。連続的な電流伝送を行うのに良いと実証された銅合金は、亜鉛(真鍮)、錫(青銅)またはジルコニウムを含む。
【0022】
サポートベースは、たとえば拡散阻止層である薄層または付着促進剤によって、スリップコンタクト面から分離することができる。このような層は1μmを超えない厚さで形成するのが推奨される。というのも、この薄層の層厚さが大きくなるほど、サポートベースの支持機能が阻害されるからである。
【0023】
本発明によって硬化されたサポートを有するスリップコンタクト面は、制御信号、制御電流およびジェネレータ電流を伝送するためのスリップリング伝送器(とりわけ風力設備または工業用ロボット)の表面として使用される。
【0024】
以下で、実施例に基づいて図面を参照して本発明を説明する。
【0025】
図1 本発明によるスリップコンタクト面の回転に依存する電圧降下を示す。
図2 本発明による回転電流伝送の開始時のオシログラムである。
図3 400万回の回転後のオシログラムである。
図4 1000万回の回転後のオシログラムである。
図5aおよび5b スリップリング伝送器を示す。
図6 電圧降下および品質を検出するためのテスト構成を示す。
図7〜9 図1との比較図である。
図10〜12 図2との比較オシログラムである。
図13〜15 図3との比較オシログラムである。
図16〜18 図4との比較オシログラムである。
【0026】
実施例:
簡単な実施形態(図5b)では、電流伝送器はリングとして構成されており、該リングの外表面にスリップコンタクト面が配置されている。このようなリングを製造するためには、真鍮リングまたは青銅リングの外表面に2μmのニッケルが電気メッキされ、その上に5μmのニッケルリンが電気メッキされる。ニッケルリン層では、ニッケルにリンがドーピングされているので、この層は、該ニッケルリン層の下方にあるニッケル層より格段に硬質である。リンがドーピングされたこのようなニッケル層に、4μmの金‐ニッケル合金が電気メッキされている。
【0027】
硬化されたニッケル層を有さないスリップリング伝送器と比較して、電流伝送の品質が良好になり、摩耗耐性が高くなる。
【0028】
別の実施形態(図5b)では、真鍮リングの外表面に4μmのニッケル層がガルバニックで設けられている。このようなニッケル層に、5μmの厚さのパラジウム層がガルバニックで被着される。このパラジウム層に、金およびコバルトから成るガルバニック硬金合金が5μmの厚さで被着される。このようにして形成された電流伝送器を、図7による構成で評価する。両スリップワイヤは、異なるトレースで設けられる。
【0029】
テストパラメータ:
電気的負荷:24V DC/2A/オーム性
コンタクト力:2〜3cN
ばね長さ:45mm
スリップワイヤ:d=0.5mm
スリップリングボディ:d=60mm
回転数:300/分
ファットニング:なし
回転回数:1000万回
当該スリップコンタクトは、Hera 277(AuAgPd合金)から成る。
【0030】
図1のオシログラムに、テスト開始時の電圧降下が示されている。図2のオシログラムには400万回の回転後の電圧降下が示されており、図3のオシログラムには1000万回の回転後の電圧降下が示されている。すべてのオシログラムに、トリガ信号が方形パルスとして示されている。電圧信号のゼロ線は常に、下から2番目のボックスの上側の線である。
【0031】
回転回数に依存する電圧降下は、図1のグラフに示されている。破線はオシログラムの上方値を表し、点線は下方値を表し、実線は平均値を表す。
【0032】
比較のために図5aでは、ニッケルコーティングされた真鍮担体上にそれぞれ設けられたAuCo,AuCuCdおよびPdから成る10μmのスリップコンタクト面を有する3つのスリップコンタクトボディを、同一のテスト条件で検査する。AuCoスリップコンタクト面を有するスリップリングボディと、Pdスリップコンタクト面を有するスリップリングボディとは、1000万回の回転に耐えられなかったので、適切に低減された回転回数によるオシログラムを比較した(図15,16および18)。図10,13および16のオシログラムはAuCoスリップコンタクト面によって形成され、図11,14および17のオシログラムはAuCuCdスリップコンタクト面によって形成され、図12,15および18のオシログラムはPdスリップコンタクト面によって形成された。
【0033】
回転回数に依存する電圧降下は図7〜9に、図1と同様に示されている。
【0034】
次の実施例:
複数のスリップリングボディを軸方向に軸上に積層することができる。このようにして、複数の電流経路が得られる。高い電流強度を適用するため、複数の電流経路を並列接続する。択一的な構成では、複数のスリップ軌道をディスク上に半径方向に配置することができる。この場合、上記でリングの外表面に関して説明したのと同様に、ディスクをディスク面のうち1つに重ねる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明によるスリップコンタクト面の回転に依存する電圧降下を示す。
【図2】本発明による回転電流伝送の開始時のオシログラムである。
【図3】400万回の回転後のオシログラムである。
【図4】1000万回の回転後のオシログラムである。
【図5】スリップリング伝送器を示す。
【図6】電圧降下および品質を検出するためのテスト構成を示す。
【図7】図1との比較図である。
【図8】図1との比較図である。
【図9】図1との比較図である。
【図10】図2との比較オシログラムである。
【図11】図2との比較オシログラムである。
【図12】図2との比較オシログラムである。
【図13】図3との比較オシログラムである。
【図14】図3との比較オシログラムである。
【図15】図3との比較オシログラムである。
【図16】図4との比較オシログラムである。
【図17】図4との比較オシログラムである。
【図18】図4との比較オシログラムである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続的な電流伝送を行うためのスリップリング伝送器用のスリップリングボディと、該スリップリングボディを製造するためのガルバニック製造方法とに関する。
【0002】
特殊鋼または貴金属コーティングから成るコンタクトシステムを有する回転式の電流伝送器は主に、電流伝送の品質(回転中の電圧変動)、寿命および保守容易性に対して高い要求が課される場合に使用される。電流中断を有するスライドコンタクトと電流中断を有さないスライドコンタクトとが区別される。
【0003】
・中断されたスリップ軌道にわたるスリップコンタクトの均質な運動(DC小形モータ)。
・コンタクトセグメントを経由して新たな静止位置までの電流におけるタップコンタクトのスライド(ロータリースイッチ、スライドスイッチ)。
・閉鎖的なスリップ軌道にわたるスリップコンタクトの均質な運動(スリップリング伝送器)。
【0004】
連続的な電流伝送を行うための典型的な構成形式は、シリンダ形のスリップリング伝送器、またはプリント基板を有する扁平な伝送システムである。このような電気的負荷スペクトルは、データ伝送(<1A)からエネルギー伝送(100〜500A)にまで及ぶ。それより高い電流(>2A)を伝送するためには、用途に応じて複数の貴金属スリップコンタクトがスリップ軌道上に平行に配置される。クレーン設備の伝送ドラム、溶接ロボットまたは風力設備におけるジェネレータ用途ではこのような貴金属スリップコンタクトによって、最大で500Aを伝送することができる。
【0005】
銅ベースのニッケルメッキされた担体上に施された単純な金‐コバルト塗布では、電圧降下の変動が生じ、これによって伝送品質が阻害される。約300万〜500万回の回転後には、電圧降下は非常に著しく大きくなり、スリップリング伝送器はもはや使用不可能になる。
【0006】
ガルバニック層システムは、担体上に少なくとも2つの異なる層を有する。電流伝送用の通常のガルバニック層システムは真鍮担体上に約0.5μmの厚さの銅層を有し、さらにその上に被着された2〜5μmの厚さのニッケル層を有し、該ニッケル層上にはさらに、金‐銅‐カドミウム層が5〜15μmの厚さで被着されている。このような層システムにより、担体に施される単純なガルバニック層より長い寿命が実現される。しかし、このような層システムでは電圧降下は、単純な金‐コバルトコーティングより格段に高くなってしまう。さらに、カドミウムは環境的または健康上の観点から望ましくない。
【0007】
本発明の課題は、電圧降下をより低くかつ均質にし、システムの寿命をさらに増大することである。
【0008】
前記課題の解決手段は、独立請求項に記載されている。従属請求項に有利な実施形態が記載されている。
【0009】
本発明では、スリップコンタクト面は硬質のサポートの上に、従来において通常であったよりも薄く形成される。このことにより、最大500万回の回転で従来は実現できなかった品質(電圧降下の変動)を有する電圧降下を、2Aで0.5Vを格段に下回る一定の値に低減することができる。さらに最大1000万回の回転を行うと、少なくとも、従来技術では最初の100万回の回転で実現される品質と同等の高品質がなお実現される。
【0010】
硬度はどのような場合でも、従来は拡散阻止層として使用されていたニッケルの硬度より高くなければならない。白金族金属と、リンがドーピングされたニッケルは、本発明に十分な硬度を有する。本発明のスリップリング伝送器は、回転システム用の電気エネルギー伝送およびデータ伝送のすべての用途に適しており、とりわけ、風力設備、ロボット、溶接ロボット、伝送ドラムおよびレーダ設備に適している。これらにはすべて、固定的に設置された電流接続を使用できない。
【0011】
有利には、金または硬金合金から成るスリップコンタクト面の層厚さは決定的に低減される。このようにして本発明では、金使用量が著しく低減されるだけでなく、動作時間も長くなる。その際には本発明では、適用例に応じて適切である、金または硬金から成るスリップコンタクト面の層厚さは少なくとも30%低減され、とりわけ少なくとも50%低減される。10μm未満の層厚さ、とりわけ1〜5μmの層厚さ、有利には2〜3μmの層厚さが良いことが実証されており、このことはとりわけ、Hera 277(AuPdAg合金)から成る貴金属スリップワイヤの適用時に実証されている。15μmを超えると、金被着部は非経済的になっていく。寿命と関連して摩耗が最小層厚さを決定する。
【0012】
スリップコンタクト軌道のスリップコンタクト面は、有利には軌道形である。この軌道は、軸方向にディスクの表面上に配置するか、または半径方向にリングの外側面に配置することができる。
【0013】
スリップコンタクトディスク上の軌道として形成されたスリップコンタクト面は、ディスク形であるのが有利である。ディスク上には複数の軌道を半径方向に相互に隣接して配置することができる。このような構成では、プリント基板が良いことが実証されている。
【0014】
スリップコンタクトリング上の軌道として形成されたスリップコンタクト面は、環状であるのが有利である。複数のリングを軸方向に軸上に配置することができる。
【0015】
コバルトまたはニッケルを含む金合金から成るスリップコンタクト面が良いことが実証されている。適切な金‐コバルト合金または金‐ニッケル合金は、50〜99.8質量%の金と、0.2〜20質量%のコバルトまたはニッケルと、0〜30%の別の合金成分とを含む。別の合金成分としては、リン、シリコンまたは炭素、ホウ素のドーピングと、銅、別の貴金属が適している。
【0016】
サポートベース、とりわけニッケルメッキされた担体上に配置された中間層は、スリップコンタクト面を支持する硬質の材料から成り、とりわけ結合体の最も硬質の材料から成る。サポートベース、とりわけ中間層は、1つまたは複数の白金族金属(PGM)から成るか、またはその合金から成るか、または硬化されたニッケルから成る。それより下位の合金成分としては、ニッケル、コバルトおよび鉄と、ホウ素、炭素、シリコンまたはリンのドーピングとが、PGMの削減に適している。銅合金から成りニッケルメッキされた担体上に、Pd電気メッキを施すのが良いことが実証されている。この銅合金は、たとえば真鍮、青銅またはCuZrである。限定的な範囲では、白金族金属を鉄金属に置換することができる。B,C,SiまたはPのドーピングによって硬度が上昇する。
【0017】
さらに、ニッケルから成る拡散阻止層に、より硬質の中間層を設けると良いことが実証されている。中間層が、リンによって硬化されたニッケルから形成される場合、白金族金属を削減することができる。有利な実施形態では、銅をベースとする担体、たとえば真鍮に、ニッケルから成る拡散阻止層が配置される。このようなニッケル拡散阻止層に、リンによって硬化されたニッケルから成る中間層が被着される。このような硬化されたニッケルに、ニッケル含有硬金層がスリップコンタクト面として被着される。これら3つの層は複雑でないことを特徴とする。ニッケル拡散は重大でない。というのも、3つの層はすべてニッケルを含むからである。リン拡散は知られていない。
【0018】
10μm未満の層厚さを有する中間層が良好であり、とりわけ2〜7μmの層厚さ、特に3〜4μmの層厚さを有する中間層が良好であることが実証されている。
【0019】
中間層をスリップコンタクト面より厚く形成することが良いことが実証されている。
【0020】
有利には、スリップコンタクト面と該スリップコンタクト面を支持する中間層とから成る導電性結合体は3〜10μmの間の厚さで形成され、とりわけ4〜8μmの間の厚さで形成され、特に有利には5〜7μmの間の厚さで形成されている。
【0021】
導電性担体は、有利には銅合金である。連続的な電流伝送を行うのに良いと実証された銅合金は、亜鉛(真鍮)、錫(青銅)またはジルコニウムを含む。
【0022】
サポートベースは、たとえば拡散阻止層である薄層または付着促進剤によって、スリップコンタクト面から分離することができる。このような層は1μmを超えない厚さで形成するのが推奨される。というのも、この薄層の層厚さが大きくなるほど、サポートベースの支持機能が阻害されるからである。
【0023】
本発明によって硬化されたサポートを有するスリップコンタクト面は、制御信号、制御電流およびジェネレータ電流を伝送するためのスリップリング伝送器(とりわけ風力設備または工業用ロボット)の表面として使用される。
【0024】
以下で、実施例に基づいて図面を参照して本発明を説明する。
【0025】
図1 本発明によるスリップコンタクト面の回転に依存する電圧降下を示す。
図2 本発明による回転電流伝送の開始時のオシログラムである。
図3 400万回の回転後のオシログラムである。
図4 1000万回の回転後のオシログラムである。
図5aおよび5b スリップリング伝送器を示す。
図6 電圧降下および品質を検出するためのテスト構成を示す。
図7〜9 図1との比較図である。
図10〜12 図2との比較オシログラムである。
図13〜15 図3との比較オシログラムである。
図16〜18 図4との比較オシログラムである。
【0026】
実施例:
簡単な実施形態(図5b)では、電流伝送器はリングとして構成されており、該リングの外表面にスリップコンタクト面が配置されている。このようなリングを製造するためには、真鍮リングまたは青銅リングの外表面に2μmのニッケルが電気メッキされ、その上に5μmのニッケルリンが電気メッキされる。ニッケルリン層では、ニッケルにリンがドーピングされているので、この層は、該ニッケルリン層の下方にあるニッケル層より格段に硬質である。リンがドーピングされたこのようなニッケル層に、4μmの金‐ニッケル合金が電気メッキされている。
【0027】
硬化されたニッケル層を有さないスリップリング伝送器と比較して、電流伝送の品質が良好になり、摩耗耐性が高くなる。
【0028】
別の実施形態(図5b)では、真鍮リングの外表面に4μmのニッケル層がガルバニックで設けられている。このようなニッケル層に、5μmの厚さのパラジウム層がガルバニックで被着される。このパラジウム層に、金およびコバルトから成るガルバニック硬金合金が5μmの厚さで被着される。このようにして形成された電流伝送器を、図7による構成で評価する。両スリップワイヤは、異なるトレースで設けられる。
【0029】
テストパラメータ:
電気的負荷:24V DC/2A/オーム性
コンタクト力:2〜3cN
ばね長さ:45mm
スリップワイヤ:d=0.5mm
スリップリングボディ:d=60mm
回転数:300/分
ファットニング:なし
回転回数:1000万回
当該スリップコンタクトは、Hera 277(AuAgPd合金)から成る。
【0030】
図1のオシログラムに、テスト開始時の電圧降下が示されている。図2のオシログラムには400万回の回転後の電圧降下が示されており、図3のオシログラムには1000万回の回転後の電圧降下が示されている。すべてのオシログラムに、トリガ信号が方形パルスとして示されている。電圧信号のゼロ線は常に、下から2番目のボックスの上側の線である。
【0031】
回転回数に依存する電圧降下は、図1のグラフに示されている。破線はオシログラムの上方値を表し、点線は下方値を表し、実線は平均値を表す。
【0032】
比較のために図5aでは、ニッケルコーティングされた真鍮担体上にそれぞれ設けられたAuCo,AuCuCdおよびPdから成る10μmのスリップコンタクト面を有する3つのスリップコンタクトボディを、同一のテスト条件で検査する。AuCoスリップコンタクト面を有するスリップリングボディと、Pdスリップコンタクト面を有するスリップリングボディとは、1000万回の回転に耐えられなかったので、適切に低減された回転回数によるオシログラムを比較した(図15,16および18)。図10,13および16のオシログラムはAuCoスリップコンタクト面によって形成され、図11,14および17のオシログラムはAuCuCdスリップコンタクト面によって形成され、図12,15および18のオシログラムはPdスリップコンタクト面によって形成された。
【0033】
回転回数に依存する電圧降下は図7〜9に、図1と同様に示されている。
【0034】
次の実施例:
複数のスリップリングボディを軸方向に軸上に積層することができる。このようにして、複数の電流経路が得られる。高い電流強度を適用するため、複数の電流経路を並列接続する。択一的な構成では、複数のスリップ軌道をディスク上に半径方向に配置することができる。この場合、上記でリングの外表面に関して説明したのと同様に、ディスクをディスク面のうち1つに重ねる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明によるスリップコンタクト面の回転に依存する電圧降下を示す。
【図2】本発明による回転電流伝送の開始時のオシログラムである。
【図3】400万回の回転後のオシログラムである。
【図4】1000万回の回転後のオシログラムである。
【図5】スリップリング伝送器を示す。
【図6】電圧降下および品質を検出するためのテスト構成を示す。
【図7】図1との比較図である。
【図8】図1との比較図である。
【図9】図1との比較図である。
【図10】図2との比較オシログラムである。
【図11】図2との比較オシログラムである。
【図12】図2との比較オシログラムである。
【図13】図3との比較オシログラムである。
【図14】図3との比較オシログラムである。
【図15】図3との比較オシログラムである。
【図16】図4との比較オシログラムである。
【図17】図4との比較オシログラムである。
【図18】図4との比較オシログラムである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体材料と、金または金合金から成るスリップコンタクト面とから成るスリップリングボディにおいて、
該スリップコンタクト面は、サポートベースによって安定化されていることを特徴とする、スリップリングボディ。
【請求項2】
前記サポートベースはニッケルより硬質である、請求項1記載のスリップリングボディ。
【請求項3】
前記サポートベースは、前記スリップコンタクト面と担体との間の中間層である、請求項1または2記載のスリップリングボディ。
【請求項4】
前記硬金はニッケルまたはコバルトを含む、請求項1から3までのいずれか1項記載のスリップリングボディ。
【請求項5】
前記硬金合金は、50〜98質量%の金と、0.02〜20質量%のコバルトまたはニッケルまたはコバルトおよびニッケルと、0〜30%の別の合金成分とを有し、
該別の合金成分はとりわけ、銅と銀とパラジウムと白金とロジウムとイリジウムとルテニウムとホウ素と炭素とシリコンとリンとの群から選択される、請求項4記載のスリップリングボディ。
【請求項6】
前記サポートベースとりわけ前記中間層は、1つまたは複数の白金族金属をベースとするか、またはニッケルリン(リンがドーピングされたニッケル)から成るか、またはニッケルとニッケルリンとから成る2重層から成る、請求項1から5までのいずれか1項記載のスリップリングボディ。
【請求項7】
(とりわけ風力設備または工業用ロボットにおける)スリップリング伝送器において、制御信号、制御電流およびジェネレータ電流を伝送するために、請求項1から6までのいずれか1項記載のスリップリングボディを使用する方法。
【請求項8】
金被着部の層厚さは特別な用途では、相応の用途で従来は最小であった厚さの最大70%まで低減し、とりわけ10〜50%まで低減する、請求項1から6までのいずれか1項記載のスリップリングボディを使用する方法。
【請求項9】
連続的な電流伝送を行うためのスリップリングボディの製造方法であって、
該スリップリングボディは、スリップコンタクト面と、導電性の担体と、該担体と該スリップコンタクト面との間に配置された中間層とを有し、
該中間層を該担体上に電気メッキし、該中間層に金または硬金を電気メッキする製造方法において、
該中間層を、ニッケルより硬質の材料から形成することを特徴とする製造方法。
【請求項1】
担体材料と、金または金合金から成るスリップコンタクト面とから成るスリップリングボディにおいて、
該スリップコンタクト面は、サポートベースによって安定化されていることを特徴とする、スリップリングボディ。
【請求項2】
前記サポートベースはニッケルより硬質である、請求項1記載のスリップリングボディ。
【請求項3】
前記サポートベースは、前記スリップコンタクト面と担体との間の中間層である、請求項1または2記載のスリップリングボディ。
【請求項4】
前記硬金はニッケルまたはコバルトを含む、請求項1から3までのいずれか1項記載のスリップリングボディ。
【請求項5】
前記硬金合金は、50〜98質量%の金と、0.02〜20質量%のコバルトまたはニッケルまたはコバルトおよびニッケルと、0〜30%の別の合金成分とを有し、
該別の合金成分はとりわけ、銅と銀とパラジウムと白金とロジウムとイリジウムとルテニウムとホウ素と炭素とシリコンとリンとの群から選択される、請求項4記載のスリップリングボディ。
【請求項6】
前記サポートベースとりわけ前記中間層は、1つまたは複数の白金族金属をベースとするか、またはニッケルリン(リンがドーピングされたニッケル)から成るか、またはニッケルとニッケルリンとから成る2重層から成る、請求項1から5までのいずれか1項記載のスリップリングボディ。
【請求項7】
(とりわけ風力設備または工業用ロボットにおける)スリップリング伝送器において、制御信号、制御電流およびジェネレータ電流を伝送するために、請求項1から6までのいずれか1項記載のスリップリングボディを使用する方法。
【請求項8】
金被着部の層厚さは特別な用途では、相応の用途で従来は最小であった厚さの最大70%まで低減し、とりわけ10〜50%まで低減する、請求項1から6までのいずれか1項記載のスリップリングボディを使用する方法。
【請求項9】
連続的な電流伝送を行うためのスリップリングボディの製造方法であって、
該スリップリングボディは、スリップコンタクト面と、導電性の担体と、該担体と該スリップコンタクト面との間に配置された中間層とを有し、
該中間層を該担体上に電気メッキし、該中間層に金または硬金を電気メッキする製造方法において、
該中間層を、ニッケルより硬質の材料から形成することを特徴とする製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公表番号】特表2009−533544(P2009−533544A)
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−533940(P2008−533940)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際出願番号】PCT/EP2006/009651
【国際公開番号】WO2007/039302
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(390023560)ヴェー ツェー ヘレーウス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (42)
【氏名又は名称原語表記】W.C.Heraeus GmbH
【住所又は居所原語表記】Heraeusstrasse 12−14, D−63450 Hanau, Germany
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際出願番号】PCT/EP2006/009651
【国際公開番号】WO2007/039302
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(390023560)ヴェー ツェー ヘレーウス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (42)
【氏名又は名称原語表記】W.C.Heraeus GmbH
【住所又は居所原語表記】Heraeusstrasse 12−14, D−63450 Hanau, Germany
【Fターム(参考)】
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