説明

連続鋳造における二次冷却方法

【課題】 連続鋳造設備の二次冷却帯にて鋳造中の鋳片を冷却するにあたり、鋳片表面に温度ムラを発生することなく、鋳片を均一に冷却することのできる二次冷却方法を提供する。
【解決手段】 連続鋳造機1で鋳造されている鋳片10を、鋳型5の下方に設けた二次冷却帯にて冷却水または冷却水と気体との混合体を用いて二次冷却する際に、連続鋳造中の鋳片表面を、鋳造方向の二箇所以上の位置(図8ではA−A’位置、B−B’位置、C−C’位置、D−D’位置の四箇所)で、1MPa以上の衝突圧力の液体によって鋳片幅方向全体にわたるデスケーリングを行い、該デスケーリング後の10秒以内に鋳片を二次冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速鋳造時であっても鋳片を均一に
冷却することのできる、連続鋳造設備の二次冷却帯における鋳片の冷却方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造では、取鍋内の溶鋼を一旦タンディッシュに注入し、タンディッシュ内に所定量の溶鋼が滞在した状態で、タンディッシュ内の溶鋼を、タンディッシュ底部に設置した浸漬ノズルを介して鋳型に注入している。鋳型内に注入された溶鋼は冷却されて鋳型との接触面に凝固シェルを形成し、この凝固シェルを外殻とし、内部に未凝固溶鋼を有する鋳片は、鋳型下方に設けられた二次冷却帯において冷却水(「二次冷却水」という)によって冷却されながら鋳型下方に連続的に引抜かれ、やがて中心部までの凝固が完了する。中心部までの凝固の完了した鋳片を所定の長さに切断して、圧延用素材である鋳片が製造されている。
【0003】
二次冷却帯では、一般に、鋳片の表面温度は600〜1000℃に制御されているが、近年の鋳造速度の高速化に伴い、二次冷却の能力が強化され、600℃以下の表面温度で操業することも行われている。
【0004】
この二次冷却帯において、不均一な冷却が発生すると、鋳片の表面や内部に割れが生じたり、鋳片中心部の中心偏析が悪化したりするので、鋳片の鋳造方向及び幅方向で均一な冷却を行うことが提案され、実施されてきた。この場合、スラブ鋳片は幅が広く、複数個のスプレーノズルを幅方向に配置する必要があることから、幅方向で不均一冷却になりやすく、特に、鋳片幅方向に均一な冷却を行うことが重要となる。
【0005】
例えば、特許文献1には、スプレーノズルの先端に複数の噴射孔を設け、隣り合うロール間において、前記噴射孔から噴射される互いに平行な、複数条のフラットスプレー水で鋳片表面を冷却することが開示されている。特許文献1によれば、複数条のスプレー水で冷却するので、冷却−復熱の温度差が小さくなり、それに応じて繰り返しの熱応力が軽減され、鋳片の表面割れが軽減されるとしている。
【0006】
特許文献2には、スプレーノズルから噴射される冷却水の、鋳片引き抜き方向の水量分布で、水量分布における最大部の20%となる点をA及びBとしたとき、AとBとの間では最大部の20%以上の水量分布が連続し、且つ、スプレーノズルの噴射孔中心をCとしたとき、角ACBが30度以上であるスプレーノズルを用いて鋳片を冷却することが開示されている。特許文献2によれば、鋳片に対する冷却能を効率良く高めることができるとしている。
【0007】
また、特許文献3には、加圧系にブースターポンプを備えた送水機構を介して、鋳片に25〜100kgf/cm2(2.5〜9.8MPa)の給水圧の冷却水を吹き付けて冷却しながら連続鋳造することが開示されている。特許文献3によれば、鋳片に衝突した冷却水のはね帰りが霧状化され、鋳片表面の部分的な溜り水の発生が防止され、部分的な過冷却が防止されて、均一な冷却が実現されるとしている。
【0008】
一方、本発明者らは、これまでの調査結果から、鋳片表面に形成されるスケールや、鋳片表面におけるモールドパウダーの残留物が、二次冷却における過冷却の原因になることを確認している。連続鋳造中の鋳片表面のスケールやモールドパウダーを除去する方法も、鋳片を均一に冷却するための手段として提案されたものではないが、幾つか提案されている。
【0009】
例えば、特許文献4には、鋳造中の鋳片表面に50kgf/cm2(4.9Mpa)以上の高圧水または高圧気水を噴射し、デスケーリングする技術が開示されている。特許文献4によれば、鋳片表面に付着したモールドパウダーが除去され、表面性状の良好な薄鋼板が直接圧延法により製造できるとしている。
【0010】
また、特許文献5には、鋳片表面での衝突面圧が0.2〜0.8kgf/cm2(0.02〜0.08Mpa)の範囲内になるように調整したスプレー水を鋳片に噴射し、鋳片表面のスケールを除去する技術が開示されている。特許文献5によれば、鋳片を圧下するための圧下ロールと鋳片との間へのスケールの噛み込みが防止され、凹凸状圧痕疵のない鋳片が得られるとしている。
【特許文献1】特開昭50−103426号公報
【特許文献2】特開2003−136205号公報
【特許文献3】特開昭57−91857号公報
【特許文献4】特開昭59−229268号公報
【特許文献5】特開平2−229653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、本発明者らは、これまでの研究結果から、連続鋳造機内の鋳片表面における温度ムラの発生と鋳造後の鋳片表面割れの発生とには、相関があることを確認している。この温度ムラは、特に高速鋳造時のスプレー冷却時に発生する現象であり、鋳造中の鋳片表面が二次冷却帯における過冷却によって黒くなる現象で、図1に、スラブ鋳片における温度ムラの発生状況(図1(A))と、冷却後のスラブ鋳片の表面割れの発生状況(図1(B))との関係を示すように、鋳造後の鋳片を観察すると、温度ムラの発生部位に表面割れが集中する。
【0012】
この温度ムラを防止する観点から上記従来技術を検証すれば、上記従来技術は何れも温度ムラの防止には効果がない。即ち、特許文献1は、スプレー水の噴射される面積、つまり冷却面積を広げて過冷却を防止しているが、フラットスプレーノズルを使用しており、フラットスプレーノズルのみで冷却する限り、冷却時の衝突圧力が強く、高速鋳造下での温度ムラの発生を防ぐことはできない。
【0013】
特許文献2は、鋳造方向の噴射角度を広げたスプレーノズルであり、特許文献1のフラットスプレーノズルに比較すれば、冷却時の衝突圧力を弱くすることができるので、過冷却は発生しにくくなる。しかしながら、スプレーノズルのみを用いて冷却する限り、鋳片幅方向或いは鋳造方向に対してスプレー水の強弱が発生し、且つ鋳造速度が速いときにはその強弱が大きくなることから、それが過冷却つまり温度ムラの発生原因となる。
【0014】
特許文献3は、鋳片に25〜100kgf/cm2の高圧の二次冷却水を噴霧しており、冷却水が直接噴霧される部分と、噴霧されない部分との冷却強度の差が大きく、直接噴霧される部分は、冷却強度が強いことから遷移沸騰(遷移沸騰の詳細は後述する)になりやすく、つまり過冷却になりやすく、常に温度ムラの原因を抱えている。また、二次冷却水を25〜100kgf/cm2の高圧に加圧する必要があり、通常の二次冷却装置では、流路が狭く圧損が大きく、そのため、多数の加圧用ブースターポンプが必要となり、現実的ではない。
【0015】
特許文献4は、高圧水または高圧気水の噴霧圧を50kgf/cm2以上としているものの、ノズルから鋳片までの距離やノズルの噴射角度が明確でなく、設置するノズルによっては十分にデスケーリングできない場合がある。また、鋳片の均一冷却を目的としておらず、高圧水及び高圧気水の鋳造方向での噴霧位置が明確でなく、デスケーリングは可能であっても、鋳片の均一冷却は達成できない可能性がある。
【0016】
特許文献5は、鋳片表面での衝突面圧が0.2〜0.8kgf/cm2と低圧であり、剥離性の良くないスケールの場合には、十分に剥離・除去できない恐れが多分にあり、鋳片の均一冷却を安定して達成することができない。
【0017】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、連続鋳造設備の二次冷却帯にて鋳造中の鋳片を冷却するにあたり、鋳片表面に温度ムラを発生することなく、鋳片を均一に冷却することのできる二次冷却方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するための第1の発明に係る連続鋳造における二次冷却方法は、連続鋳造機で鋳造されている鋳片を、鋳型の下方に設けた二次冷却帯にて冷却水または冷却水と気体との混合体を用いて二次冷却する際に、連続鋳造中の鋳片表面を、鋳造方向の二箇所以上の位置で、1MPa以上の衝突圧力の液体によって鋳片幅方向全体にわたるデスケーリングを行い、該デスケーリング後の10秒以内に鋳片を二次冷却することを特徴とするものである。
【0019】
第2の発明に係る連続鋳造における二次冷却方法は、連続鋳造機で鋳造されている鋳片を、鋳型の下方に設けた二次冷却帯にて冷却水または冷却水と気体との混合体を用いて二次冷却する際に、連続鋳造中の鋳片表面を、投射密度が5kg/cm2以上の研掃材によって鋳片幅方向全体にわたるブラスト処理を行い、該ブラスト処理後の10秒以内に鋳片を二次冷却することを特徴とするものである。
【0020】
第3の発明に係る連続鋳造における二次冷却方法は、連続鋳造機で鋳造されている鋳片を、鋳型の下方に設けた二次冷却帯にて冷却水または冷却水と気体との混合体を用いて二次冷却する際に、連続鋳造中の鋳片表面を、投射密度が5kg/cm2以上の研掃材によって鋳片幅方向全体にわたるブラスト処理を行うとともに、鋳造方向の二箇所以上の位置で、1MPa以上の衝突圧力の液体によって鋳片幅方向全体にわたるデスケーリングを行い、前記ブラスト処理後の10秒以内及び前記デスケーリング後の10秒以内に、鋳片を二次冷却することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、連続鋳造機で鋳造されている鋳片に対して、高圧液体によるデスケーリング及び/または研掃材によるブラスト処理を二次冷却帯で実施して鋳片表面のスケールを除去し、スケールの除去された鋳片表面を二次冷却するので、膜沸騰冷却から遷移沸騰冷却へと変わる点であるMHF点が低下し、鋳造速度を高めた高速鋳造下であっても、安定してMHF点以上の膜沸騰の領域に保持した冷却が実現でき、それにより、鋳片表面は過冷却とならず、鋳片表面に温度ムラを発生させることなく、鋳片を均一に冷却することが達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。先ず、本発明に至った経緯を説明する。
【0023】
本発明者らは、実機連続鋳造機の操業結果から、前述した図1に示すように、鋳造速度が速くなると、温度ムラの原因である鋳片の過冷却が多発し、それに応じて鋳片の表面割れが多発することを確認した。そこで、鋳造速度が速くなると温度ムラが起こりやすくなる原因を追求した。
【0024】
連続鋳造機の設備長は限られており、従って、鋳造速度が速くなると、限られた設備長の範囲内で鋳片の凝固を完了させなければならず、そのために、二次冷却帯における冷却能力を強くする。通常、二次冷却帯の水スプレーノズルやエアーミストスプレーノズル(以下、まとめて「スプレーノズル」とも記す)から噴射される冷却水量或いはミスト量を増加させて、二次冷却帯における冷却能力を強くしている。
【0025】
しかしながら、本発明者らは、図2に示すように、水スプレーノズルやエアーミストスプレーノズルを用いて鋳片を冷却する場合に、冷却能力を強くすると、膜沸騰冷却から遷移沸騰冷却へと変わる点であるMHF(Minmum Heat Flux)点が高くなるとの知見を得た。これは、冷却能力を強くするべく、水スプレーノズルやエアーミストスプレーノズルからの冷却水量或いはミスト量を増加すると、スプレーノズルから噴射される冷却水或いはミストの鋳片表面への衝突圧力が高くなり、鋳片表面と冷却水との間に蒸気膜が存在する膜沸騰状態が保持できず、スプレーノズルからの冷却水或いはミストが、蒸気膜を破って鋳片表面へ直接接触し始める遷移沸騰へと移行するためである。
【0026】
尚、図2は、鋳片の単位質量あたりの二次冷却水量を一定として、つまり鋳造速度に比例させて二次冷却水量を調整して、二次冷却ゾーンの上流部に取り付けられているスプレーノズルの一例としてエアーミストスプレーノズルを用いて鋳片を冷却したときの鋳片表面温度と熱伝達率との関係を鋳造速度別に示す図であり、低速鋳造(鋳造速度:約0.8〜1.0m/min)の場合には、MHF点はおよそ620℃程度であるが、中速鋳造(鋳造速度:約1.4〜1.6m/min)の場合には、MHF点はおよそ730℃程度となり、高速鋳造(鋳造速度:約1.8〜2.0m/min)の場合には、MHF点は800℃以上になることが分かる。
【0027】
更に、本発明者らは鋳片の表面状態とMHF点との関係に着目した。図3は、1000℃に加熱した鋼材を、水量25L/min、風量180Nl/min、鋳片からノズル先端までの距離が190mmのエアーミストスプレーノズルで冷却し、エアーミストスプレーノズルの直下における鋳片表面温度と熱伝達率との関係を調査した結果である。図3に示すように、通常状態(スケール厚み約800μm)の鋼材に比較して、鋼材の表面にモールドパウダーが残留している場合には、MHF点が上昇することが分かる。また、スケール厚みが厚い場合(スケール厚み約1400μm)も、通常状態に比較してMHF点が上昇し、特に、鋼材のSi含有量が高い場合(Si含有量=1.6質量%)に形成されるSiO2含有スケールの場合には、MHF点が最も上昇することが分かった。
【0028】
MHF点が上昇すると、鋳片表面温度が高温であるにも拘わらず膜沸騰から遷移沸騰になりやすくなる。二次冷却中に、一旦遷移沸騰領域に突入すると、図4に示すように、熱流束(熱伝達率)が鋳片表面温度の低下に伴って急激に上昇するため、過冷却が継続される。これが温度ムラの発生原因であり、特に、鋳造速度が2.0m/min以上の高速鋳造時には温度ムラが増大し、その上で、スケールの生成などのMHF点の上昇する現象が発生すると、過冷却が更に促進され、それに伴って表面割れが多発することが知見された。つまり、鋳片表面温度がMHF点以下にならないように冷却することで、温度ムラが防止できるとの知見を得た。尚、図4は、高温の鋳片表面をスプレー水で冷却したときの冷却形態及びそのときの熱流束を模式的に示す図である。
【0029】
そこで、本発明者らはスケールを除去して冷却すると、どのようになるかを調査した。調査方法は、鋳片の表面状態とMHF点との関係を調査した前述の実験と同じように行い、1000℃に加熱した鋼材を、水量25L/min、風量180Nl/min、鋳片からノズル先端までの距離が190mmのエアーミストスプレーノズルで冷却し、エアーミストスプレーノズルの直下における鋳片表面温度と熱伝達率との関係を調査した。鋼材のスケールの除去方法は、85℃、10質量%の塩酸溶液に鋼材を1分間浸漬して酸洗処理し、この酸洗処理によりスケールを除去し、この鋼材を1000℃に加熱して調査した。
【0030】
図5に、スケールを除去した鋼材での鋳片表面温度と熱伝達率との関係を示す。図5には、前述した図3のデータも併せて示している。図5からも明らかなように、スケールを除去した鋼材では膜沸騰状態が表面温度500℃付近の低温域まで維持されており、スケールを除去することによりMHF点が下がることを知見した。
【0031】
本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、連続鋳造機で鋳造されている鋳片を、鋳型の下方に設けた二次冷却帯にて冷却水または冷却水と気体との混合体を用いて二次冷却する際に、鋳片中の鋳片に対して、高圧液体によるデスケーリング及び/または研掃材によるブラスト処理を二次冷却帯で実施し、デスケーリング及び/またはブラスト処理によりスケールの除去された鋳片表面を二次冷却することを特徴としている。
【0032】
前記デスケーリング及びブラスト処理は、二次冷却帯の全域で行う必要はなく、高圧液体によるデスケーリングは鋳造方向の二箇所以上、研掃材によるブラスト処理は一箇所以上であれば良い。また、デスケーリング及びブラスト処理の両方を実施する必要はなく、どちらか一方のみでよい。元論、両者を組み合せて実施してもよい。デスケーリング及びブラスト処理を施す位置は、鋳片に過冷却が発生してしまった以降では効果が少なく、過冷却が発生するよりも以前とすることが望ましく、従って、少なくとも一箇所は、二次冷却帯の上流側とすることが望ましい。
【0033】
鋳片表面に液体を噴霧しても鋳片表面における衝突圧力が低いと、スケールの除去は十分には行われない。そこで、高圧液体のスプレーによるデスケーリングを確実に実施するために必要な衝突圧力を調査した。ここで、噴霧される液体の衝突圧力は下記の(1)式によって表される。
【0034】
Po=0.05757×(Q/A)1.08×P0.47…(1)
但し、(1)式において、Poは液体の衝突圧力(kgf/cm2)、Qは液体の噴射流量(L/min)、Aはスプレー衝突面積、Pはスプレー噴射圧力(kgf/cm2)であり、Aは下記の(2)式によって表される。
【0035】
A=2×H×tan(θ/2)×0.051×H0.78×Q0.09×P-0.0045…(2)
但し、(2)式において、Hはスプレーノズルと鋳片との距離(cm)、θはスプレー噴射角度(deg.)、Qは液体の噴射流量(L/min)、Pはスプレー噴射圧力(kgf/cm2)である。
【0036】
一例として、噴射圧力Pを150kgf/cm2、噴射流量Qを118L/min、距離Hを15cm、スプレー噴射角度θを31度としたときの噴射圧力Poは、(1)式及び(2)式から約21kgf/cm2となる。
【0037】
鋳造長さ5mの試験用小型連続鋳造機の出側にデスケーリング用スプレーノズルを配置し、スプレー噴射圧力及び噴射流量を調整して鋳片表面における衝突圧力を変更し、鋳造される鋳片表面のデスケーリングを実施した。図6に調査結果を示す。図6における「通常スケール材」とは、Mn及び微量のCrを含有する鋼を用いたときの結果であり、「厚スケール材」とは、合金成分が少ない鋼を用いたときの結果であり、「含SiO2スケール材」とは、Siを1.6質量%含有する鋼を用いたときの結果である。デスケーリング後、直ちに鋳片を水冷してスケールの成長を抑制したが、高温のためにデスケーリング後も若干のスケール成長が認められた。
【0038】
図6に示すように、衝突圧力がゼロの場合、つまりデスケーリングを実施しないときのスケール厚みは、通常スケール材で約800μm、厚スケール材で約1400μm、含SiO2スケール材で約1200μmであった。厚スケール材では、衝突圧力が1kgf/cm2程度でも十分にスケールが除去できることが分かった。しかし、通常スケール材では、スケール除去のためには5kgf/cm2以上の衝突圧力が必要であり、更に、含SiO2スケール材では、10kgf/cm2以上の衝突圧力が必要であることが分かった。
【0039】
従って、本発明では、どのようなスケールであっても確実に除去するために、高圧液体のスプレーによるデスケーリングにおける衝突圧力を1MPa(10.2kgf/cm2)以上に限定した。
【0040】
また、研掃材によるブラスト処理においても、スケールを確実に除去するための条件を上記の試験用小型連続鋳造機を用いて検討した。
【0041】
即ち、試験用小型連続鋳造機の出側に、直径0.5〜1.2mmの鉄球を研掃材とするショットブラストマシンを設置して、鋳片表面に投射される研掃材の投射密度を変更し、鋳造される鋳片表面にブラスト処理を施した。この試験においては、ショットブラストマシンは本来スケールの除去能力に優れることから、生成されるスケールの剥離性が悪い含SiO2スケール材について試験した。
【0042】
図7に試験結果を示す。図7に示すように、研掃材の投射密度を5kg/cm2以上とすることで、スケールを確実に除去できることが分かった。従って、本発明では、ブラスト処理における研掃材の投射密度を5kg/cm2以上に限定した。
【0043】
高圧液体のスプレーによるデスケーリング及び研掃材によるブラスト処理を実施してスケールを除去しても、連続鋳造中の鋳片は高温であり、スケールの生成が速く、沸騰特性が変化するので、スケールを除去した後、10秒以内に冷却水或いはミストにより鋳片を二次冷却することが必要である。例えば、鋳造速度が2.0m/minの場合、鋳片は10秒間で33.3cm引き抜かれており、鋳片支持ロールのロールピッチが33mm以下の連続鋳造であるならば、或るロール間にデスケーリング用スプレーノズル或いはショットブラストマシンを配置し、次のロール間に配置した二次冷却スプレーノズルで鋳片を冷却することで、この条件を十分に満足することができる。
【0044】
以上説明したように、本発明によれば、連続鋳造機の二次冷却帯にて冷却水または冷却水と気体との混合体を用いて鋳片表面を冷却する際に、連続鋳造機で鋳造されている鋳片に対して、高圧液体によるデスケーリング及び/または研掃材によるブラスト処理を二次冷却帯で実施して鋳片表面のスケールを除去し、スケールの除去された鋳片表面を二次冷却するので、膜沸騰冷却から遷移沸騰冷却へと変わる点であるMHF点が低下し、鋳造速度を高めた高速鋳造下であっても、安定してMHF点以上の膜沸騰の領域に保持した冷却が実現でき、それにより、鋳片表面は過冷却とならず、鋳片表面に温度ムラを発生させることなく、鋳片を均一に冷却することが達成される。
【実施例1】
【0045】
図8に示すスラブ連続鋳造機における本発明の実施例を説明する。図8において、符号1は、スラブ連続鋳造機、2は、取鍋から供給される溶鋼を鋳型に中継供給するためのタンディッシュ、3は、鋳型への溶鋼流量調整用のスライディングノズル、4は、溶鋼を鋳型内に注入するための浸漬ノズル、5は、溶鋼を冷却するための鋳型、6は、鋳片を支持・案内するためのロール、7は、鋳造された鋳片を搬送するための搬送ロール、8は、鋳造された鋳片を所定長さに切断するためのガス切断機、9は溶鋼、10は鋳造されつつある鋳片、10aは切断された鋳片、11は凝固シェル、12は未凝固相である。
【0046】
使用したスラブ連続鋳造機1の設備長は45mであり、幅2000mmのスラブ鋳片の鋳造が可能な設備である。鋳型5の上端から鋳型5の下端までが1mであり、鋳型直下から機端までの44mの範囲が二次冷却帯であり、この二次冷却帯を、およそ11m毎に、鋳型直下側から機端側に向いて、第1ゾーン、第2ゾーン、第3ゾーン、第4ゾーンの4つの二次冷却ゾーンに分け、それぞれの二次冷却ゾーン毎に冷却条件を設定した。
【0047】
また、各二次冷却ゾーンの最も上流側の位置に、つまり、図8におけるA−A’の位置、B−B’の位置、C−C’の位置、D−D’の位置の四箇所(鋳片の表裏面では八箇所となる)に、デスケーリングノズル(図示せず)を鋳片の幅方向に配置した。
【0048】
デスケーリングノズルは市販の高圧デスケーリングノズルであり、水の噴射圧力が14kgf/cm2、噴射流量が約118L/min、そのときの噴射角度が31度であり、隣り合うノズルとの間隔を140mmとし、鋳片表面からノズル先端までの距離を150mmとした。この条件から(1)式及び(2)式により定まる衝突圧力は2.1MPaとなる。尚、デスケーリングノズルは取り付けの際に、軸方向に5度ひねっており、垂直方向に15度倒して取り付けられている。デスケーリングノズルの本数は各二次冷却ゾーンの1列あたり14個であり、全部で112個(=14×2×4)である。
【0049】
デスケーリングノズルが配置された位置を除いて、各二次冷却ゾーンでは、エアーミストスプレーノズルを用いて鋳片を冷却した。各二次冷却ゾーンの冷却水量及び冷却風量は表1に示す通りである。
【0050】
【表1】

【0051】
デスケーリングノズルから水を噴射して鋳片表面のスケールを剥離することにより、MHF点が低下して、鋳片の過冷却の発生を防止することができるので、鋳片表面温度を下げることができ、鋳造速度を高速化することが可能となる。
【0052】
このスラブ連続鋳造機1を用い、前述した「通常スケール材」を鋳造した結果、従来、過冷却が発生することから、鋳造速度を2.8m/minまでしか上昇できなかったが、衝突圧力が2.1MPaの場合には、4.0m/minまで鋳造速度を上げることができた。デスケーリングノズルの衝突圧力を1.0MPaに低下しても、過冷却は発生せず、4.0m/minの鋳造速度での操業が可能であった。但し、衝突圧力を0.5MPaに低下した場合には過冷却が発生し、3.2m/minの鋳造速度が限界であった。
【0053】
前述した「厚スケール材」を鋳造した結果、従来、過冷却が発生することから、鋳造速度を2.4m/minまでしか上昇できなかったが、衝突圧力が2.1MPaの場合には、4.0m/minまで鋳造速度を上げることができた。デスケーリングノズルの衝突圧力を1.0MPaに低下しても、過冷却は発生せず、4.0m/minの鋳造速度での操業が可能であった。但し、衝突圧力を0.5MPaに低下した場合には過冷却が発生し、3.0m/minの鋳造速度が限界であった。
【0054】
前述した「含SiO2スケール材」を鋳造した結果、本来割れの発生しやすい材料であり、従来、鋳造速度を1.6m/minまでしか上昇できなかったが、衝突圧力が2.1MPaの場合には、割れを発生することなく、3.0m/minまで鋳造速度を上げることができた。デスケーリングノズルの衝突圧力を1.0MPaに低下しても、2.6m/minの鋳造速度での操業が可能であった。但し、衝突圧力を0.5MPaに低下した場合には過冷却が発生し、2.1m/minの鋳造速度が限界であった。
【実施例2】
【0055】
実施例1に示すスラブ連続鋳造機1のデスケーリングノズルに替えて、デスケーリングノズルの設置されていた位置にショットブラスマシンを合計8基配置し、このショットブラストマシンから、直径0.5〜1.2mmの鉄球を研掃材として鋳片表面全幅に投射し、ブラスト処理した。その他の条件は、実施例1に準じて行った。
【0056】
このスラブ連続鋳造機1を用い、前述した「通常スケール材」を鋳造した結果、従来、過冷却が発生することから、鋳造速度を2.8m/minまでしか上昇できなかったが、研掃材の投射密度が10kg/cm2の場合には、3.8m/minまで鋳造速度を上げることができた。ショットブラストマシンからの投射密度を5kg/cm2に低下しても、過冷却は発生せず、3.8m/minの鋳造速度での操業が可能であった。但し、投射密度を2kg/cm2に低下した場合には過冷却が発生し、3.0m/minの鋳造速度が限界であった。
【0057】
前述した「厚スケール材」を鋳造した結果、従来、過冷却が発生することから、鋳造速度を2.4m/minまでしか上昇できなかったが、研掃材の投射密度が10kg/cm2の場合には、3.6m/minまで鋳造速度を上げることができた。ショットブラストマシンからの投射密度を5kg/cm2に低下しても、過冷却は発生せず、3.6m/minの鋳造速度での操業が可能であった。但し、投射密度を2kg/cm2に低下した場合には過冷却が発生し、2.6m/minの鋳造速度が限界であった。
【0058】
前述した「含SiO2スケール材」を鋳造した結果、本来割れの発生しやすい材料であり、従来、鋳造速度を1.6m/minまでしか上昇できなかったが、投射密度が10kg/cm2の場合には、割れを発生することなく、2.4m/minまで鋳造速度を上げることができた。デスケーリングノズルからの投射密度を5kg/cm2に低下しても、2.4m/minの鋳造速度での操業が可能であった。但し、投射密度を2kg/cm2に低下した場合には過冷却が発生し、1.8m/minの鋳造速度が限界であった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】スラブ鋳片における温度ムラの発生状況と、冷却後のスラブ鋳片の表面割れの発生状況との関係を示す図である。
【図2】エアーミストスプレーノズルで冷却した場合の鋳片表面温度と熱伝達率との関係を示す図である。
【図3】鋳片表面のスケールなどの付着物を変更したときの鋳片表面温度と熱伝達率との関係を示す図である。
【図4】高温の鋳片表面をスプレー水で冷却したときの冷却形態及びそのときの熱流束を模式的に示す図である。
【図5】鋳片表面のスケールを除去したときの鋳片表面温度と熱伝達率との関係を示す図である。
【図6】スプレー水の衝突圧力とスケールの剥離との関係を示す図である。
【図7】ショットブラスト処理における研掃材の投射密度とスケールの剥離との関係を示す図である。
【図8】本発明を適用したスラブ連続鋳造機の概略図である。
【符号の説明】
【0060】
1 スラブ連続鋳造機
2 タンディッシュ
3 スライディングノズル
4 浸漬ノズル
5 鋳型
6 ロール
7 搬送ロール
8 ガス切断機
9 溶鋼
10 鋳片
11 凝固シェル
12 未凝固相

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造機で鋳造されている鋳片を、鋳型の下方に設けた二次冷却帯にて冷却水または冷却水と気体との混合体を用いて二次冷却する際に、連続鋳造中の鋳片表面を、鋳造方向の二箇所以上の位置で、1MPa以上の衝突圧力の液体によって鋳片幅方向全体にわたるデスケーリングを行い、該デスケーリング後の10秒以内に鋳片を二次冷却することを特徴とする、連続鋳造における二次冷却方法。
【請求項2】
連続鋳造機で鋳造されている鋳片を、鋳型の下方に設けた二次冷却帯にて冷却水または冷却水と気体との混合体を用いて二次冷却する際に、連続鋳造中の鋳片表面を、投射密度が5kg/cm2以上の研掃材によって鋳片幅方向全体にわたるブラスト処理を行い、該ブラスト処理後の10秒以内に鋳片を二次冷却することを特徴とする、連続鋳造における二次冷却方法。
【請求項3】
連続鋳造機で鋳造されている鋳片を、鋳型の下方に設けた二次冷却帯にて冷却水または冷却水と気体との混合体を用いて二次冷却する際に、連続鋳造中の鋳片表面を、投射密度が5kg/cm2以上の研掃材によって鋳片幅方向全体にわたるブラスト処理を行うとともに、鋳造方向の二箇所以上の位置で、1MPa以上の衝突圧力の液体によって鋳片幅方向全体にわたるデスケーリングを行い、前記ブラスト処理後の10秒以内及び前記デスケーリング後の10秒以内に、鋳片を二次冷却することを特徴とする、連続鋳造における二次冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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