説明

連続鋳造方法

【課題】 スラブ鋳片におけるホワイトバンドの発生を抑制し、ブレークアウト等の発生を効果的に防止して安定した操業を実現できる連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】 取鍋溶鋼の炭素濃度を[C](質量%)としたとき、スラブ鋳片コーナの夫々から70mm×70mmの範囲における偏析度Keが下記(1)式および(2)式を満足すると共に、鋳片表面から70mmよりも内部での偏析度Koが1.05以下となる様に電磁撹拌条件を制御して操業する。
Ke≧1.15×[C](0.073)−0.12…(1)
Ke≦1.15×[C](0.038)−0.12…(2)
但し、偏析度Keは、最小のときの炭素濃度[Cmin](質量%)と前記炭素濃度
[C]の比([Cmin]/[C])で、偏析度Koは、最大のときの炭素濃度[
Cmax](質量%)と前記炭素濃度[C]の比([Cmax]/[C])で表わ
される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型内電磁撹拌を行いつつスラブ鋳片を連続鋳造法によって製造する方法に関するものであり、特にスラブ鋳片におけるホワイトバンドの発生を抑制し、ブレークアウト等の発生を効果的に防止して安定した操業を実現できる連続鋳造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造においては、取鍋中の溶鋼を鋳型に投入し、鋳型内部で冷却(一次冷却)して凝固シェルを形成し、その後水によるスプレイ帯にガイドロールによって案内しつつ冷却して(二次冷却)凝固シェルを次第に厚くしていき、その後ピンチロールによって徐々に引き抜いて凝固完了後に鋳片としてその後の工程に送るように構成されている。
【0003】
こうした連続鋳造においては、鋳片の表面性状や内部品質の向上を目指して、鋳型内メニスカス近傍の溶鋼に磁界を作用させて溶鋼流速を制御するいわゆる電磁撹拌が行われることが多い。
【0004】
しかしながら、電磁撹拌強度が強すぎると、鋳片の凝固遅れが発生することがあり、こうした凝固遅れは連続鋳造の操業において様々の問題を発生させる。例えば、凝固遅れが発生した箇所(凝固界面)には、ホワイトバンドと呼ばれる負偏析帯が生成することが知られている。このホワイトバンドの発生状況を模式的に図1に示す。電磁撹拌への印加電流を大きくして、溶鋼流速を速くするほど凝固シェル厚みの不均一度が大きくなり、ホワイトバンドは生成しやすくなる。またこの偏析度が或る値よりも大きくなって強い負偏析帯が形成されると、鋳片のブレークアウト(以下、「B.O.」と略記することがある)が発生することになる。
【0005】
連続鋳造における電磁撹拌は、溶鋼を撹拌して溶鋼中の介在物や気泡を洗い流すことによって、これらが凝固シェル内に補足されることを防止することが目的でなされるものであり、印加強度を強くするほど品質改善効果が大きくなる。しかしながら、撹拌を強くし過ぎると上記の様なホワイトバンドが生成してB.O.などの操業トラブルに繋がるというという問題がある。
【0006】
こうしたホワイトバンドの発生は、鋳造速度や鋳型狭面テーパ量によっても変化するものとなる。また鋳造速度や鋳型狭面テーパ量は、ホワイトバンドに影響を与えるばかりでなく、連続鋳造機の機長や内部割れ、鋳片表面傷等の要因によって、各種鋼種成分や製品用途によっても適切に設定する必要がある。従って、これらの要件を満たした上で、B.O.が発生しない電磁撹拌条件を適切に設定する必要がある。
【0007】
上記のようなホワイトバンドの発生は、鋳片断面形状によっても異なり、しかもその発生原因は様々な要因があることから、ホワイトバンドの発生を効果的に抑制するための最適な電磁撹拌条件を鋼種ごとに論理的に決定することは困難な状況であった。
【0008】
ホワイトバンドの発生を抑制した技術として、例えば特許文献1には、鋼種成分に応じて所定の関係式を満足するように溶鋼流動速度を制御しつつ電磁撹拌を行う方法が提案されている。しかしながら、現実問題としては、溶鋼流動速度を正確に測定することは困難であり、適切な溶鋼撹拌条件を設定できないという問題がある。
【特許文献1】特許第3257546号公報 特許請求の範囲など
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、スラブ鋳片におけるホワイトバンドの発生を抑制し、ブレークアウト等の発生を効果的に防止して安定した操業を実現できる連続鋳造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る連続鋳造方法とは、鋳型内電磁撹拌を行いつつスラブ鋳片を連続鋳造するに当たり、取鍋溶鋼の炭素濃度を[C](質量%)としたとき、スラブ鋳片コーナの夫々から70mm×70mmの範囲における偏析度Keが下記(1)式および(2)式を満足すると共に、鋳片表面から70mmよりも内部での偏析度Koが1.05以下となる様に電磁撹拌条件を制御して操業する点に要旨を有するものである。
Ke≧1.15×[C](0.073)−0.12…(1)
Ke≦1.15×[C](0.038)−0.12…(2)
但し、偏析度Keは、最小のときの炭素濃度[Cmin](質量%)と前記炭素濃度
[C]の比([Cmin]/[C])で、偏析度Koは、最大のときの炭素濃度[
Cmax](質量%)と前記炭素濃度[C]の比([Cmax]/[C])で表わ
される。
【0011】
本発明の連続鋳造方法においては、取鍋溶鋼の炭素濃度を[C]が0.001〜0.25%であることが好ましい。またスラブ鋳片における軸直角断面が厚み:150〜250mm、幅:800〜1800mm程度を想定したものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、スラブ鋳片の炭素含有量に応じて、スラブ鋳片コーナの所定の領域における偏析度が一定の関係式を満足すると共に、鋳片内部での偏析度を制御することによって、ホワイトバンドの発生を抑制してB.O.などの問題が発生しない連続鋳造方法が実現できた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、ホワイトバンドの原因となる凝固遅れは、鋳片断面形状が比較的扁平なスラブ鋳片の場合には、鋳型四隅コーナ部の領域で発生しやすいことが判明し、特にこうした領域での偏析度Keを、鋳片の炭素含有量(即ち、取鍋溶鋼の炭素濃度)に応じて適切な範囲となるように電磁撹拌条件を制御すれば、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
スラブ鋳片を連続鋳造したときに、鋳片の凝固遅れが発生する鋳型内領域を図2に示す。スラブ鋳片の場合には、電磁撹拌条件が適切でないときには、溶鋼流速の影響によってスラブ鋳片コーナの夫々から70mm×70mmの範囲A〜Dにおける偏析度Keが変化することになる。そして、この領域における偏析度Keをスラブ鋳片の炭素濃度(即ち、取鍋溶鋼の炭素濃度)に応じて適切な範囲となるように電磁撹拌条件を制御すれば、ホワイトバンドの発生が抑制できるのである。
【0015】
また、上記条件を満足するようにすれば、鋳片表面から70mmよりも内部での偏析度Koが必然的に1.05以下となるのであるが、このようなスラブ鋳片では、鋼板としたときに溶接部での曲げ加工性が極めて良好になることも分かった。尚、「鋳片表面から70mmよりも内部」とは、前記スラブ鋳片コーナの領域A〜Dを含めて、鋳片各表面から70mmまでの領域を除いた内部領域を意味する。
【0016】
本発明方法を実施するための具体的な電磁撹拌条件としては、具体的には電磁撹拌装置を構成する電磁コイルの周波数、電流強度などが挙げられるが、これらによって溶鋼に作用する推力を変化させることになる。
【0017】
本発明で対象とするスラブ鋳片の炭素濃度[C](即ち、取鍋溶鋼の炭素濃度)の範囲については、特に限定するものではないが、鋼板として使用されることを考慮すれば、0.001〜0.25%であることが好ましい。
【0018】
また本発明で対象とする鋳片は、軸直角断面形状が扁平であるスラブを対象とするものであり、その形状は例えば厚み:150〜250mm、幅:800〜1800mm程度のものを想定したものである。
【0019】
本発明方法を実施するに当たっては、電子撹拌条件以外については、特に限定するものではなく、通常の条件に従えばよいが、鋳造速度や鋳型狭面テーパ量もホワイトバンドの発生に影響を与えることも考慮し、これらの値も適切な範囲とすることが好ましい。例えば、鋳造速度は1.2〜2.0m/min程度、鋳型狭面テーパ量片面で0.5〜0.75%に設定することが好ましい。尚、鋳型狭面テーパ量とは、[(鋳型上幅−鋳型下幅)/(鋳型上幅)]×100(%)を意味し、鋳型内での熱収縮を補償するという理由で、スラブ鋳片短辺形状と表面の割れに影響を及ぼすものである。
【0020】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0021】
2基の連続鋳造機用いて、カーボン濃度が異なる複数の鋼種を種々の電磁撹拌条件のものでスラブ鋳造し、各コーナ部(鋳片コーナから70mm×70mmの領域)での偏析度(Ke)とB.O発生状況および鋳片表面品質(ヘゲ疵、スリバー疵発生率)の関係について調査した。製造した各スラブ鋳片(取鍋溶鋼)の化学成分組成は下記表1に示す通りである。このとき、連続鋳造の鋳造速度は1.2〜2.0m/min、鋳片サイズ(幅)は800〜1700mmの範囲で任意に変更した。また狭面鋼板のテーパ率は片側0.50〜0.75%の範囲で鋳型サイズに応じて変更した。尚、偏析度Keについては、スラブ鋳片の表層部より中心に垂直に(鋳片幅方向に向かって)10mmピッチで直径5mm以内のドリルで切り粉を採取して炭素濃度を測定し、その最も低い値を[Cmin](質量%)とし、取鍋溶鋼の炭素濃度[C](質量%)との比([Cmin]/[C])で求めた。
【0022】
【表1】

【0023】
各鋼種の炭素濃度[C]や偏析度KeがB.O.の発生や鋳片表面品質に与える影響を図3に示す。この結果から明らかな様に、鋳片の炭素濃度[C]が高くなるほど、および偏析度Keの大きい領域になるほどB.O.が発生する範囲が拡大していることが分かる。またいずれの炭素濃度[C]においても、偏析度Keを大きくし過ぎると、溶鋼流動速度が遅くなり過ぎ、電磁撹拌による洗浄効果がなくなって品質不良に繋がっていることが分かる。
【0024】
この結果に基づいて、操業トラブルや表面品質不良が発生しない操業範囲を検討した結果、前記(1)式および(2)式で規定される範囲が導くことができた。
【0025】
本発明方法は、鋳片の炭素濃度に応じて電磁撹拌条件を制御することによって、鋳片の偏析度Keを制御し、これによって操業トラブルや表面品質不良が発生しないスラブ鋳片が得られるのであるが、このときの具体的な条件について詳細に検討した。
【0026】
上記実験では、電磁撹拌の際の周波数は3.0Hzとしたものであるが、電流強度を変えることによって、鋳型内での溶鋼の推力を変化させて偏析度を変えたものである。尚、ここで「推力」とは、電磁撹拌用コイルから発生する電磁力で鋳型内の溶鋼を旋回撹拌させる推進力のことであり、この推進力は真鍮の板を広面鋼板から15mm離れた位置に平行に吊るし、電流印加時の真鍮板の移動荷重をバネ秤で測定することよって算定した。
【0027】
用いた電磁撹拌装置における電流値と水力の関係は、下記表2に示す通りである。また、こうした電磁撹拌装置によって、電磁撹拌するときに取鍋溶鋼の炭素濃度[C]に応じた最適な電磁撹拌条件(印加電流値および推力)は下記表3に示す通りである。
【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
従って、鋼中のカーボン濃度に応じて表3の範囲内で適切に制御し、前記(1)式および(2)式の関係を満足するように、その電磁撹拌条件を適切に制御すれば良い。
【0031】
上記(1)式および(2)式を満足するようにして電磁撹拌を行いつつ連続鋳造すれば、基本的に鋳片表層から70mmよりも内部で偏析度Koを1.05以下にできるのであるが、偏析度Koと曲げ加工時の割れとの関係についても調査した。
【0032】
このとき、取鍋溶鋼の炭素濃度[C]が0.14%である鋳片について、上記と同様にして連続鋳造したときに、得られるスラブ鋳片における表面から70mmよりも内部での偏析度Ko([Cmax]/[C])と冷間加工時の溶接部割れとの関係について調査した。尚、このときの各炭素量([Cmax]/[C])測定法は前記した方法に準じた。
【0033】
連続鋳造時の電磁撹拌条件を変えて内部の偏析度の異なる各種のスラブ鋳片を製造し、このスラブ鋳片から圧延することによって300×300×2(mm)の鋼板を作製し、これをアーク溶接によって試験片[600×300×2(mm)]を作製した。このとき相互の偏析部が溶接部に位置するようにした。
【0034】
得られた試験片について、バルジ加工(曲げ加工の一種)を行い、溶接部において偏析起因の割れが発生するときの発生率によって加工性を調査した。このとき、割れ発生の有無は目視によって判断し、その発生率(溶接部をバルジ加工した試験片枚数に対する破断した試験片枚数の割合)が10ppm(100万枚に10枚)未満のときを「○」、10ppm以上となるときを「×」と評価した。
【0035】
その結果を偏析度Koとの関係で下記表4に示すが、表面から70mmよりも内部での偏析度Koを1.05以下とすることによって良好な曲げ加工性が達成されていることが分かる。
【0036】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】ホワイトバンドの発生状況を模式的に示した説明図である。
【図2】凝固遅れが発生する領域を示す鋳型内の説明図である。
【図3】炭素濃度[C]と偏析度KeがB.O.の発生や鋳片表面品質に与える影響を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型内電磁撹拌を行いつつスラブ鋳片を連続鋳造するに当たり、取鍋溶鋼の炭素濃度を[C](質量%)としたとき、スラブ鋳片コーナの夫々から70mm×70mmの範囲における偏析度Keが下記(1)式および(2)式を満足すると共に、鋳片表面から70mmよりも内部での偏析度Koが1.05以下となる様に電磁撹拌条件を制御して操業することを特徴とする連続鋳造方法。
Ke≧1.15×[C](0.073)−0.12…(1)
Ke≦1.15×[C](0.038)−0.12…(2)
但し、偏析度Keは、最小のときの炭素濃度[Cmin](質量%)と前記炭素濃度
[C]の比([Cmin]/[C])で、偏析度Koは、最大のときの炭素濃度[
Cmax](質量%)と前記炭素濃度[C]の比([Cmax]/[C])で表わ
される。
【請求項2】
炭素濃度[C]が0.001〜0.25%である請求項1に記載の連続鋳造方法。
【請求項3】
スラブ鋳片における軸直角断面が厚み:150〜250mm、幅:800〜1800mmである請求項1または2に記載の連続鋳造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate