説明

連続鋳造方法

【課題】 ブルーム鋳片におけるコーナ割れの発生を効果的に抑制して安定した操業を実現できる連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】 取鍋溶鋼の炭素濃度を[C](質量%)としたとき、ブルーム鋳片表面から深さ30mmまでの表層部における偏析度Keが下記(1)式および(2)式を満足すると共に、ブルーム鋳片表面から30mmよりも内部での偏析度Keが1.05以下となる様に電磁撹拌条件を制御して操業する。
Ke≦1.0163×[Co](0.0731)+0.05…(1)
Ke≧1.0163×[Co](0.0731)−0.05…(2)
但し、偏析度Keは、最大のときの炭素濃度[Cmax](質量%)と前記炭素濃 度[C]の比([Cmax]/[C])で表わされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型内電磁撹拌を行いつつブルーム鋳片を連続鋳造法によって製造する方法に関するものであり、特にブルーム鋳片におけるコーナ割れを効果的に防止して安定した操業を実現できる連続鋳造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造においては、取鍋中の溶鋼を鋳型に投入し、鋳型内部で冷却(一次冷却)して凝固シェルを形成し、その後水によるスプレイ帯にガイドロールによって案内しつつ冷却して(二次冷却)凝固シェルを次第に厚くしていき、その後ピンチロールによって徐々に引き抜いて凝固完了後に鋳片としてその後の工程に送るように構成されている。
【0003】
こうした連続鋳造においては、鋳片の表面性状や内部品質の向上を目指して、鋳型内メニスカス近傍の溶鋼に磁界を作用させて溶鋼流速を制御するいわゆる電磁撹拌が行われることが多い。
【0004】
こうした電磁撹拌を行うに際しては、鋳片表層の気泡や介在物の低減を図るためには、電磁撹拌強度はできるだけ強い方が好ましいのであるが、電磁撹拌強度が強すぎると、ブルーム鋳片のコーナ割れが発生するという問題が生じる。これは、電磁撹拌強度が強くなりすぎると、鋳片コーナ部における凝固シェル厚みが薄くなり、割れが生じ易くなるものと考えられる。
【0005】
また、電磁撹拌強度は鋼種の如何に係らず、強すぎない範囲内である一定の条件に設定されているのが一般的である。しかしながら、同じ撹拌条件であっても鋼種によってコーナ割れが発生しやすくなるという問題がある。特に、鋳片の炭素含有量が多い場合や、S含有量に対するMn含有量が少ない場合には、割れ易いといわれている。
【0006】
こうしたことから、鋼種に応じた最適な電磁撹拌条件を設定することが望まれているのであるが、こうした技術は確立されていないのが実情である。
【0007】
電磁撹拌条件を適切に制御する技術として、例えば特許文献1には、鋳型内電磁撹拌によって30〜100cmの撹拌流動を与えつつ鋳造し、鋳片厚みの10%以下となる表層部分にCとSの偏析度が0.93以下となる負偏析帯を形成すると共に、この表層部よりも内側のコア部にCとSの偏析度が1.1以上の偏析帯を形成する技術が提案されている。
【0008】
この技術は、撹拌流速を適切に制御することによって、表層部と内部における偏析度を変化させることによって、表面品質が良好でコア部での被削性に優れたリムド鋼を連続鋳造法で製造するものである。
【0009】
しかしながら、現実問題としては、撹拌流速を正確に把握することは困難であり、適切な溶鋼撹拌条件を設定できないという問題がある。また、鋼種に応じて撹拌条件を適切に設定しなければ、上記したコーナ割れに有効に対処できないことになる。
【特許文献1】特公平7−16763号公報 「特許請求の範囲」、「発明の効果」の欄など
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、ブルーム鋳片におけるコーナ割れの発生を効果的に抑制して安定した操業を実現できる連続鋳造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る連続鋳造方法とは、鋳型内電磁撹拌を行いつつブルーム鋳片を連続鋳造するに当たり、取鍋溶鋼の炭素濃度を[C](質量%)としたとき、ブルーム鋳片表面から深さ30mmまでの表層部における偏析度Keが下記(1)式および(2)式を満足すると共に、ブルーム鋳片表面から30mmよりも内部での偏析度Keが1.05以下となる様に電磁撹拌条件を制御して操業する点に要旨を有するものである。
Ke≦1.0163×[Co](0.0731)+0.05…(1)
Ke≧1.0163×[Co](0.0731)−0.05…(2)
但し、偏析度Keは、最大のときの炭素濃度[Cmax](質量%)と前記炭素濃 度[C]の比([Cmax]/[C])で表わされる。
【0012】
本発明の連続鋳造方法においては、取鍋溶鋼の炭素濃度を[C]が0.01〜0.3%、Mn濃度[Mn]とS濃度[S]の比([Mn]/[S])が30以下であることが好ましい。またスラブ鋳片における軸直角断面が厚み:200〜500mm、幅:200〜700mmであるものを想定したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、ブルーム鋳片の炭素濃度に応じて、ブルーム鋳片表層部における偏析度が一定の関係式を満足すると共に、鋳片内部での偏析度を制御することによって、コーナ割れの発生を抑制することができる連続鋳造方法が実現できた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、コーナ割れの原因は、鋳型コーナ部での撹拌流速が炭素濃度に応じた適切な範囲に設定されていないことによることが判明した。そして、撹拌流速は直接的に把握できないので、その指標としてブルーム鋳片表層部での偏析度Keを、鋳片の炭素含有量(即ち、取鍋溶鋼の炭素濃度)に応じて適切な範囲となるように電磁撹拌条件を制御すれば、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
ブル−ム鋳片を連続鋳造した場合に、撹拌流速の影響によってブルーム鋳片表面から深さ30mmまでの表層部における偏析度Keが変化し、負の偏析帯が生成することになる。そして、この領域における偏析状態は鋳片コーナ部における偏析状態を反映しており、該偏析度Keをブルーム鋳片の炭素濃度(即ち、取鍋溶鋼の炭素濃度)に応じて適切な範囲となるように電磁撹拌条件を制御すれば、鋳片コーナ割れが抑制できたのである。
【0016】
また、上記条件を満足するようにすれば、鋳片表面から30mmよりも内部での偏析度Koが必然的に1.05以下となるのであるが、このようなブルーム鋳片では、冷間圧造加工性が極めて良好になることも分かった。尚、「鋳片表面から30mmよりも内部」とは、鋳片各表面から40mmまでの領域を除いた内部領域(コア部)を意味する。
【0017】
本発明方法を実施するための具体的な電磁撹拌条件としては、具体的には電磁撹拌装置を構成する電磁コイルの周波数、磁束密度などが挙げられるが、これらによって溶鋼への応力(推力)を変化させることになる。
【0018】
本発明で対象とするブルーム鋳片の炭素濃度[C](即ち、取鍋溶鋼の炭素濃度)の範囲については、特に限定するものではないが、割れ感受性を考慮すれば、0.01〜0.30%であることが好ましい。またMn濃度[Mn]とS濃度[S]の比([Mn]/[S])が30以下であることが好ましく、この値が30よりも大きくなると、本発明を適用しなくても割れが発生しなくなる。
【0019】
また本発明で対象とする鋳片は、軸直角断面形状が比較的大きいブルームを対象とするものであり、その形状は例えば厚み:200〜500mm、幅:200〜700mm程度のものを想定したものである。
【0020】
本発明方法を実施するに当たっては、電磁撹拌条件を炭素濃度[C]に応じて適切に調整する必要があるが、具体的には所定の周波数のもとでの鋳型各辺への磁束密度を適切に調整すれば良い。本発明者らが検討したところによれば、周波数2.0Hzの場合には、炭素濃度[C]が0.19%以下のときに、鋳型長片側(鋳片幅方向)に300〜500ガウス、短片側(鋳片厚み方向)に450〜800ガウスの磁束密度をかけ、炭素濃度[C]が0.20%以上のときには、鋳型長片側(鋳片幅方向)に500ガウス、短片側(鋳片厚み方向)に800ガウスの磁束密度をかけて電磁撹拌を行なえば良いことを把握している。
【0021】
また、こうした電磁撹拌条件以外の鋳造条件については、特に限定するものではなく、通常の条件に従えばよいが、例えば鋳造速度は0.60〜1.00m/min程度に設定することが好ましい。
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0023】
実施例1
取鍋溶鋼の炭素濃度[C]:0.25%,Mn濃度[Mn]:0.45%,S濃度[S]:0.020%の鋼種に対して電磁撹拌を行いつつ連続鋳造し、厚さ:380mm、幅:600mmのブルーム鋳片を製造した。このとき、鋳型長片側(鋳片幅方向)に500ガウス、短片側(鋳片厚み方向)に800ガウスの磁束密度(周波数:2.0Hz)をかけて電磁撹拌を行った。尚、磁束密度の測定は、電磁撹拌用コイルのセンター位置において銅板(鋳型)に密着させた状態で行った。また鋳造速度は0.65m/minとした。
【0024】
得られたブルーム鋳片は、コーナ割れや介在物の悪化が発生しないものであったが、このときの、鋳片表面から厚み方向(深さ方向)における偏析度Keの推移について調査した。このときのサンプル採取状況を図1(鋳片幅方向の適所で切断した状態)に示す。図1に示すように、偏析度Keの測定に当たっては、鋳造方向の偏析のバラツキを平均化するために、鋳片表面から厚み方向(深さ方向)に、幅:2mm、深さ:2mmで、鋳造方向に長さ200mmとなるスリット状試験片を所定間隔(最小ピッチ:2mm)で採取し、各試験片における炭素濃度の最大値[Cmax](質量%)を測定し、それらの比([Cmax]/[C])で求めた。
【0025】
その結果を、表1および図2に示すが、鋳片表面から深さ30mmまでの表層部においては、負の偏析が生じており、それより内部では正の偏析状態となっていることが分かる。
【0026】
【表1】

【0027】
実施例2
取鍋溶鋼の炭素濃度[C]:0.12%,Mn濃度[Mn]:0.40%,S濃度[S]:0.020%の鋼種に対して電磁撹拌を行いつつ連続鋳造し、厚さ:380mm、幅:600mmのブルーム鋳片を製造した。このとき、鋳型長片側(鋳片幅方向)に300〜500ガウス、短片側(鋳片厚み方向)に450〜800ガウスの磁束密度(周波数:2.0Hz)をかけて電磁撹拌を行った。尚、磁束密度の測定は、電磁撹拌用コイルのセンター位置において銅板(鋳型)に密着させた状態で行った。また鋳造速度は0.65m/minとした。
【0028】
得られたブルーム鋳片は、コーナ割れや介在物の悪化が発生しないものであったが、鋳片表面から厚み方向(深さ方向)における偏析度Ke(またはKo)の推移について、実施例1と同等にして調査した。
【0029】
その結果を、表2および図3に示すが、鋳片表面から深さ30mmまでの表層部においては、負の偏析が生じており、それより内部では正の偏析状態となっていることが分かる。
【0030】
【表2】

【0031】
実施例3
上記実施例1、2の結果から、各鋼種の炭素濃度[C]に応じて最適な偏析度Keの範囲があることを把握した。そして、様々の鋼種のものについて上記実施例1、2に従って各種ブル−ム鋳片を製造し、鋳片の炭素濃度(即ち、取鍋溶鋼の炭素濃度[C])および表層部の偏析度Keが鋳片コーナ割れなどに与える影響について調査した。
【0032】
その結果を図4に示す。尚、図4において、「●」はコーナ割れが発生した領域、「×」は介在物が悪化した領域、「○」はコーナ割れが発生せず、しかも介在物の生成もなしの領域を夫々示している。
【0033】
この結果から明らかな様に、鋳片の炭素濃度[C]が高くなるほど、および偏析度Keの大きい領域になるほどコーナ割れが発生する範囲が拡大していることが分かる。またいずれの炭素濃度[C]においても、偏析度Keを大きくし過ぎると、電磁撹拌による洗浄効果がなくなって品質不良に繋がっていることが分かる。
【0034】
コーナ割れが発生することなく安定した操業が実施できる領域は、図のラインAおよびラインBの範囲内であると判断できたが、この範囲は前記(1)式および(2)式で規定される範囲となる。
【0035】
実施例4
上記(1)式および(2)式を満足するようにして電磁撹拌を行いつつ連続鋳造すれば、基本的に鋳片表面から30mmよりも内部での偏析度Keを1.05以下にできるのであるが、偏析度Keと冷間圧造性との関係についても調査した。
【0036】
このとき、取鍋溶鋼の炭素濃度[C]が0.12%である鋳片について、上記と同様にして連続鋳造したときに、得られるブル−ム鋳片における表面から30mmよりも内部での偏析度Ke([Cmax]/[C])と冷間圧造性との関係について調査した。尚、このときの各炭素量([Cmax]、[C])測定法は前記した方法に準じた。
【0037】
連続鋳造時の電磁撹拌条件を変えて内部の偏析度の異なる各種のブルーム鋳片を製造し、これらのブルーム鋳片から熱間圧延することによって直径5.5mmの線材を取り出し、更に直径:4.0mmまで伸線加工し、長さ20mmの線材に対して、冷間圧造(加工率70%)してボルト頭部を形成した(最終長さ:13mm)。
【0038】
こうした圧造加工において割れが発生するときの発生率によって加工性を調査した。このとき、割れ発生の有無は目視によって判断し、その発生率(検査数に対する割れ発生数の割合)が10ppm(100万枚に対して10枚)未満のときを「○」、10ppm以上となるときを「×」と評価した。
【0039】
その結果を偏析度Keとの関係で下記表4に示すが、表面から30mmよりも内部での偏析度Keを1.05以下とすることによって良好な冷間圧造性が達成されていることが分かる。
【0040】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】偏析度Keを測定するときのサンプル採取状況を示す説明図である。
【図2】実施例1において鋳片表面から厚み方向における偏析度Keの推移を示すグラフである。
【図3】実施例2において鋳片表面から厚み方向における偏析度Keの推移を示すグラフである。
【図4】鋳片の炭素濃度および表層部の偏析度Keが鋳片コーナ割れなどに与える影響を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型内電磁撹拌を行いつつブルーム鋳片を連続鋳造するに当たり、取鍋溶鋼の炭素濃度を[C](質量%)としたとき、ブルーム鋳片表面から深さ30mmまでの表層部における偏析度Keが下記(1)式および(2)式を満足すると共に、ブルーム鋳片表面から30mmよりも内部での偏析度Keが1.05以下となる様に電磁撹拌条件を制御して操業することを特徴とする連続鋳造方法。
Ke≦1.0163×[Co](0.0731)+0.05…(1)
Ke≧1.0163×[Co](0.0731)−0.05…(2)
但し、偏析度Keは、最大のときの炭素濃度[Cmax](質量%)と前記炭素濃 度[C]の比([Cmax]/[C])で表わされる。
【請求項2】
鋳片おける炭素濃度[C]が0.01〜0.3%、Mn濃度[Mn]とS濃度[S]の比([Mn]/[S])が30以下である請求項1に記載の連続鋳造方法。
【請求項3】
ブルーム鋳片における軸直角断面が厚み:200〜500mm、幅:200〜700mmである請求項1または2に記載の連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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