説明

連続鋳造用鋳型内の磁束密度測定装置

【課題】 スラブ連続鋳造機の鋳型背面に配置される交流移動磁場発生装置や直流静磁場発生装置から鋳型内部空間に印加される交流移動磁場や直流静磁場の磁束密度を短時間で且つ磁束密度の最大値及び最小値を正確に測定する。
【解決手段】 本発明の磁束密度測定装置1は、スラブ連続鋳造機の鋳型背面に設置された交流移動磁場発生装置または/及び直流静磁場発生装置から鋳型内部空間に印加される交流移動磁場または/及び直流静磁場の磁束密度を測定する磁束密度測定装置であって、磁束密度を測定するための磁束測定素子2と、該磁束測定素子を保持するためのガイド3と、該ガイドを保持し、ガイドを保持した状態で手動操作による鋳型長辺方向への移動が可能な移動架台4と、該移動架台を支持するための固定架台5と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造用鋳型内の溶鋼流動を制御するべく鋳型銅板背面に設置される交流移動磁場発生装置や直流静磁場発生装置によって鋳型内部空間に印加される磁束密度を測定するための測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スラブ鋳片の連続鋳造では、鋳型銅板背面に交流移動磁場発生装置や直流静磁場発生装置を配置し、この磁場発生装置から交流移動磁場や直流静磁場を印加し、鋳型内の溶鋼を水平方向に旋回撹拌する或いは浸漬ノズルから吐出される溶鋼吐出流を制動するなどして、鋳型内溶鋼の流動を制御し、溶鋼中の非金属介在物やガス気泡の溶鋼からの浮上・分離を促進させている。但し、磁場発生装置は鋳型銅板背面に配置されることから、鋳型内部空間に印加される磁束密度は鋳型によって減衰し、鋳型内部空間の磁束密度を磁場発生装置の仕様だけから求めることはできない。
【0003】
そこで、鋳型内部空間に印加される磁束密度がどの程度であるかが測定されている。鋳型内部空間の磁束密度分布を正確に測定することは、非金属介在物やガス気泡の少ない清浄な鋳片を製造する上で重要なポイントとなる。特に、交流移動磁場では、磁場が鋳型の幅方向に移動し、磁束密度も磁場の移動に伴って変化してしまうことから、正確且つ迅速に最高磁束密度を測定することのできる磁束密度測定装置が望まれている。
【0004】
連続鋳造用鋳型の内部空間などの被試験体内の磁束密度を測定する装置として、特許文献1には、下記の磁束密度測定装置が開示されている。つまり、ソレノイドコイルを備えてなる被試験体内の磁束分布を測定する装置において、回転軸に対して周方向に等間隔で配置された少なくとも2組以上の回転コイルからなり、前記被試験体の内部に挿入して配設された駆動コイルと、この駆動コイルに連結され、前記被試験体内の磁束を測定するための磁束測定素子と、前記駆動コイルに対して制御電流を通電するための通電用電源と、磁束分布測定位置が決定されると、この決定された測定位置へ前記磁束測定素子を駆動するように、前記通電用電源から駆動コイルへの制御電流の通電を制御する制御手段と、この制御手段からの測定位置に関する信号と前記磁束測定素子からの磁束測定信号とに基づいて前記被試験体内の磁束分布を求める演算手段と、から構成される磁束密度測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−239072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された磁束密度測定装置を連続鋳造用鋳型内の交流移動磁場の磁束密度の測定に用いた場合には、以下の問題点がある。
【0007】
特許文献1に開示される測定装置は、ソレノイド内が均一な磁束密度となる被試験体内の磁束分布を求める装置であるので、制御電流を調整することで測定装置の移動速度が調整可能であり、各磁束分布測定位置における磁束密度最大値の測定が可能となる。しかし、鋳型内の交流移動磁場のように、時間的変化のある磁束密度では、制御電流を調整しても、磁束密度の変化により測定装置の移動速度が一定にならず、測定装置の位置決めに時間を要し、測定時間が長くなる。また、磁束測定位置によって磁束密度の最大値が異なるので、磁束密度の最大となる位置及び最小となる位置を的確に把握するためには、多くの測定点で測定を行う必要がある。
【0008】
この方法とは別に、磁束測定素子を移動させずに或る測定位置に固定して測定し、そこでの測定が終了したなら、別の測定位置に磁束測定素子を移動し、そこに固定して測定し、これを繰り返し実施して、磁束密度の分布を測定する方法もあるが、測定位置が固定され、その測定位置が磁束密度の最大位置或いは最小位置であるとは限らず、必ずしも最大値或いは最小値を正確に測定しているとは限らない。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、スラブ連続鋳造機の鋳型背面に配置される交流移動磁場発生装置や直流静磁場発生装置から鋳型内部空間に印加される、時間的変化のある交流移動磁場や直流静磁場の磁束密度を短時間で且つ磁束密度の最大値及び最小値を正確に測定することのできる、連続鋳造用鋳型内の磁束密度測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)スラブ連続鋳造機の鋳型背面に設置された交流移動磁場発生装置または/及び直流静磁場発生装置から鋳型内部空間に印加される交流移動磁場または/及び直流静磁場の磁束密度を測定する磁束密度測定装置であって、磁束密度を測定するための磁束測定素子と、該磁束測定素子を保持するためのガイドと、該ガイドを保持し、ガイドを保持した状態で手動操作による鋳型長辺方向への移動が可能な移動架台と、該移動架台を支持するための固定架台と、を有することを特徴とする、連続鋳造用鋳型内の磁束密度測定装置。
(2)前記ガイドは、前記移動架台に対して鋳型短辺方向の取り付け位置及び鋳型深さ方向の取り付け位置が任意に設定可能であることを特徴とする、上記(1)に記載の連続鋳造用鋳型内の磁束密度測定装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、磁束測定素子を保持した移動架台を手動操作で移動させるので、移動架台を電動機などを用いて駆動した場合の駆動電流による磁束密度への影響は発生せず、磁束密度の本来の強度を測定することができ、また、磁束測定素子を手動操作によって鋳型内部空間の鋳型長辺方向で繰り返し往復させながら磁束密度を測定することが可能であり、このようにして測定することで、時間的変化のある交流移動磁場であっても、各測定位置の最大値の包絡線をたどることによって、磁束密度の最大値、並びに、磁束密度が最大値となる位置を正確に測定することができる。その結果、従来に比較して磁束密度の測定時間を大幅に短縮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る磁束密度測定装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明に係る磁束密度測定装置を用いて、鋳型内部空間に印加される交流移動磁場の磁束密度を測定している状況を示す図である。
【図3】鋳型幅方向における磁束密度の測定結果の1例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。図1は、本発明に係る磁束密度測定装置の構成を示す概略図である。
【0014】
図1において、鋳型内部空間の交流移動磁場の磁束密度を測定するための磁束測定素子2が略鉛直方向を向いたガイド3の下方側先端部に固定して保持され、このガイド3は水平方向を向いた移動架台4によって保持されている。移動架台4の両端部にはそれぞれ複数の車輪7が設けられており、この車輪7は水平方向を向いて配置される固定架台5に乗っている。固定架台5は、スラブ連続鋳造機の鋳型内部空間の形状と同様に平面形状が長方形の空間を有する枠状の架台であり、車輪7は固定架台5の長辺側の架台に乗っている。長方形形状の固定架台5の長辺が鋳型内部空間の幅方向に該当し、固定架台5の短辺が鋳型内部空間の厚み方向に該当している。移動架台4にはハンドル6が設置されており、このハンドル6を手動操作によって回転させることで、ハンドル6の回転運動が、チェーンや歯車などの伝達機構(図示せず)によって車輪7に伝達され、車輪7が回転することで、移動架台4が固定架台5の上を走行するように構成されている。
【0015】
ガイド3は移動架台4に対する取り付け位置が任意に設定できるようになっている。つまり、これによって、磁束測定素子2の設置位置を、固定架台5の枠で囲まれる範囲内の任意の位置に設定できるように、換言すれば、鋳型内部空間内で、鋳型短辺方向及び鋳型深さ方向の任意の位置に設定できるようになっている。これは、例えば、移動架台4に、ボルトなどを介してガイド3を保持するホルダー4aを設け、ガイド3を任意の高さでホルダー4aに取り付け、且つ、移動架台4の長手方向にスリット4bを設け、スリット4bの内部でガイド3を移動させることで、実現することができる。
【0016】
また、固定架台5における移動架台4の位置を測定するための位置検出器8が設けられ、位置検出器8の測定データは位置データ処理装置10に入力され、位置データ処理装置10による加工データ(位置データ)は保存装置11に入力されている。一方、磁束測定素子2の測定データは磁束密度演算器9に入力され、磁束密度演算器9による加工データ(磁束密度値)は保存装置11に入力されている。保存装置11は磁束密度演算器9及び位置データ処理装置10から入力されるデータを用いて、固定架台5の長方形の枠で囲まれる範囲内における幅方向、厚み方向、深さ方向の3次元の位置別の磁束密度を保存し且つ出力する。本発明に係る磁束密度測定装置1はこのようにして構成されている。
【0017】
図2は、本発明に係る磁束密度測定装置1を用いて、交流移動磁場発生装置から鋳型内部空間に印加される交流移動磁場の磁束密度を測定している状況を示す図であり、図2において、相対する一対の鋳型長辺12に囲まれる鋳型内部空間に磁束測定素子2が配置され、また、鋳型長辺12の背面には相対する交流移動磁場発生装置13が配置されている。図2において、鋳型短辺は図示していないが、鋳型短辺は相対する鋳型長辺12に挟まれた状態で配置される。
【0018】
交流移動磁場発生装置13から鋳型内部空間に印加される交流移動磁場の磁束密度を測定する際は、磁束測定素子2の鋳型短辺方向位置及び鋳型深さ方向位置を所定の位置に調整し、その状態でハンドル6を手動操作で回転させ、移動架台4を鋳型長辺12の長さ方向で繰り返して往復させながら、磁束測定素子2により磁束密度を連続的に測定する。鋳型内溶鋼の流動は磁束密度の最大値に影響されるので、鋳型内部空間のそれぞれの幅方向位置、厚み方向位置、深さ方向位置において、磁束密度の最大値がどの程度であるかを測定する。
【0019】
図3に、鋳型幅方向における磁束密度の測定結果の1例を示す。この測定値は、鋳型長辺12の中央部分(浸漬ノズルの配置位置)を境として鋳型幅方向で2つに分離された合計4基の磁場発生装置からなる交流移動磁場発生装置から鋳型内部空間に印加される交流移動磁場の磁束密度を、移動架台4つまり磁束測定素子2を鋳型長辺12の長さ方向に繰り返して往復させながら測定した結果である。
【0020】
図3に示すように、本発明では、各測定位置で磁束密度の最大値を測定するのではなく、移動させながら連続的に測定して磁束密度の瞬時値を求め、鋳型長辺12の長手方向つまり鋳型幅方向で何往復も測定することにより、鋳型幅方向の磁束密度の分布並びに最大値を求める。つまり、図3に示すように、最大値の包絡線をたどることで、鋳型幅方向の磁束密度の分布並びに最大値を求めることが可能となる。
【0021】
因みに、本発明の磁束密度測定装置1を用いて、交流移動磁場の磁束密度を測定することで、従来は100点の測定で約2時間費やしていたが、約5分間で終了させることが可能となっている。また、本発明の磁束密度測定装置1は、交流移動磁場の磁束密度を測定するものに限られず、直流静磁場や、交流移動磁場と直流静磁場とを重畳した磁束密度の測定もできる。
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、磁束測定素子2を保持した移動架台4を手動操作で移動させるので、移動架台4を電動機などを用いて駆動した場合の駆動電流による磁束密度への影響は発生せず、磁束密度の本来の強度を測定することができ、また、磁束測定素子2を手動操作によって鋳型内部空間の鋳型長辺方向へ繰り返し移動させながら磁束密度を測定することが可能であり、このようにして測定することで、時間的変化のある交流移動磁場であっても、各測定位置の最大値の包絡線をたどることによって、磁束密度の最大値、並びに、磁束密度が最大値となる位置を正確に測定することができる。
【符号の説明】
【0023】
1 磁束密度測定装置
2 磁束測定素子
3 ガイド
4 移動架台
4a ホルダー
4b スリット
5 固定架台
6 ハンドル
7 車輪
8 位置検出器
9 磁束密度演算器
10 位置データ処理装置
11 保存装置
12 鋳型長辺
13 交流移動磁場発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラブ連続鋳造機の鋳型背面に設置された交流移動磁場発生装置または/及び直流静磁場発生装置から鋳型内部空間に印加される交流移動磁場または/及び直流静磁場の磁束密度を測定する磁束密度測定装置であって、磁束密度を測定するための磁束測定素子と、該磁束測定素子を保持するためのガイドと、該ガイドを保持し、ガイドを保持した状態で手動操作による鋳型長辺方向への移動が可能な移動架台と、該移動架台を支持するための固定架台と、を有することを特徴とする、連続鋳造用鋳型内の磁束密度測定装置。
【請求項2】
前記ガイドは、前記移動架台に対して鋳型短辺方向の取り付け位置及び鋳型深さ方向の取り付け位置が任意に設定可能であることを特徴とする、請求項1に記載の連続鋳造用鋳型内の磁束密度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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