説明

運動促進剤としての9−デスオキソエリスロマイシン化合物

【化1】


式(I) (式中、R1、R2、R3、R4、R5は、本明細書で定義される通りである。)の9-デスオキソエリスロマイシン化合物は、胃運動障害を治療するための運動促進剤として有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、9-デスオキソエリスロマイシン化合物、その製造方法、及び運動促進剤としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
消化管(“GI”)運動は、栄養素、電解質、及び液体の十分な吸収を確実にするために消化管によって摂取された物質の規則的な運動を調節する。食道、胃、小腸、及び結腸によるGI内容物の正しい通過は、前進を調節するとともに逆流を防止する、管内の圧力やいくつかの括約筋の局所制御に左右される。正常なGI運動パターンは、疾患や手術を含む、種々の状況によって損なわれてしまう。
GI運動障害としては、軽症胃アトニーや胃食道逆流疾患(“GERD”)が含まれる。症状が胃の不調、胸やけ、嘔気、嘔吐を含む軽症胃アトニーは、胃の内容物が空になることが遅れる。GERDは、胃と十二指腸の内容物の食道への逆流の多様な臨床症状を意味する。最も一般的な症状は、胸やけや嚥下困難であり、食道の糜爛から血液喪失が生ずることも知られている。GI運動障害が関係するGI疾患の他の例としては、食欲不振、胆のう鬱血、術後麻痺性腸閉塞、強皮症、腸の偽妨害、過敏性腸症候群、胃炎、嘔吐、慢性便秘(結腸無力症)が挙げられる。
モチリンは、腸粘膜における内分泌細胞によって分泌される22-アミノ酸のペプチドホルモンである。GI管におけるモチリン受容体への結合はGI運動を刺激する。モチリン受容体作動薬として作用する治療剤(“運動促進剤”)の投与がGI疾患のための治療として提案された。
エリスロマイシンは、放線菌類サッカロポリスポラ・エリスラエア(Saccharopolyspora erythraea)の発酵によって製造されるマクロライド系抗生物質のファミリである。エリスロマイシンA、一般的に用いられる抗生物質は、ファミリの中で最も量の多い重要な種類である。
【0003】
【化1】

エリスロマイシンAの副作用は、嘔気、嘔吐、腹部の不快感を含んでいる。これらの作用は、エリスロマイシンA(1)及び、それ以上に、その最初の酸接触分解生成物(5)におけるモチリン受容体作動薬活性に由来したものである。(第2分解生成物、スピロケタール(6)は、不活性である。)




【0004】
【化2】

【0005】
エリスロマイシンAや分解生成物(5)におけるモチリン作動薬活性の発見によって刺激され、運動亢進活性を有するマクロライドが呼ばれるように、研究者は新規なモチライドを発見しようと努力した。研究の多くは、天然に産生したエリスロマイシンの発酵後化学転換或いは又は発酵プロセスの修飾(遺伝子工学を含む)による、新規なエリスロマイシン類似体を生成することが中心であった。エリスロマイシン骨格に基づくモチライドに関する説明的開示としては、Omura et al.の米国特許第5,008,249号(1991)及び米国特許第5,175,150号(1992); Harada et al.の米国特許第5,470,961号(1995); Freiberg et al.の米国特許第5,523,401号(1996); 米国特許第5,523,418号(1996); 米国特許第5,538,961号(1996); 及び米国特許第5,554,605号(1996); Lartey et al.の米国特許第5,578,579号(1996); 米国特許第5,654,411号(1997); 米国特許第5,712,253号(1998); 及び米国特許第5,834,438号(1998); Koga et al.の米国特許第5,658,888号(1997); Miura et al.の米国特許第5,959,088号(1998); Premchandran et al.の米国特許第5,922,849号(1999); Keyes et al.の米国特許第6,084,079号(2000); Ashley et al.の米国特許出願第2002/0025936 A1号(2002); Ashley et al.の米国特許出願第2002/0094962 A1号(2002); Carreras et al.の米国特許出願第2002/0192709 A1号(2002); Ito et al.の日本特許公報60-218321(1985)(対応するChemical Abstracts abstract no. 104: 82047); Santi et al.の米国特許出願第10/648,946号、出願日2003年8月26日; Carreras et al.の米国仮特許出願第10/920,170号、2004年8月24日; Omura et al.,“Gastrointestinal Motor-Stimulating Activity of Macrolide Antibiotics and the Structure-Activity Relationship,”J. Antibiotics(1985)、38、1631-2; Faghih et al.,“Preparation of 9-Deoxo-4"-deoxy-6,9-epoxyerythromycin Lactams‘Motilactides’: Potent and Orally Active Prokinetic Agents,”Biorg. & Med. Chem. Lett., 8 (1998), 805-810; Faghih et al.,“Synthesis of 9-Deoxo-4"-deoxy-6,9-epoxyerythromycin Derivatives: Novel and Acid-Stable Motilides,”J. Med. Chem., 1998, 41, 3402-3408; Faghih et al.,“Entry into Erythromycin Lactams: Synthesis of Erythromycin A Lactam Enol Ether as a Potential Gastrointestinal Prokinetic Agent,”Synlett 751 (Jul. 1998) Lartey et al., J. Med. Chem., 38, 1793-1798 (1995),“Synthesis of 4"-Deoxy Motilides: Identification of a Potent and Orally Active Prokinetic Drug Candidate”が挙げられ、これらの開示内容は本願明細書に含まれるものとする。
【0006】
モチライドとしてのエリスロマイシン類似体の開発に多くのパラメーターが関連する。第1に、天然産生生物におけるエリスロマイシン骨格の進展は、抗菌効力によって推進され、運動亢進効力によるものではなかった。それ故、モチリン受容体作動薬活性の構造活性関係の最適化について相当な余地が残っている。第2に、実際にはモチライドが抗菌活性を有することは望ましくない。GI管は、大集団の細菌のホストであり、抗菌活性を有するモチライドにさらされることはエリスロマイシン抗生物質に対する耐性の発現を誘発するものである。従って、モチライドは、内に操作される運動亢進活性と外に操作される抗菌活性を高めたものが望ましい。第3に、現在まで評価されたモチライドに共通に見いだされる欠点は、モチライドの初回量後の次の用量がより弱い応答を誘発するか又は全く応答を誘発しない(タキフィラキシー)ことを意味する、モチライド受容体を除感作する傾向である。第4に、安定性やバイオアべイラビリティについて懸念があり、胃におけるエリスロマイシンAのすばやい分解とその第2分解生成物の活性の欠徐が示されている。第5に、エリスロマイシンファミリにおける一部の化合物は、QT間隔の延長や心室性不整脈の誘導を含む、望ましくない抗不整脈作用を有することが報告された。これらの作用を許容できるレベルに制限することが望ましい。従って、種々の異なる性能要求のバランスがとれた新規なモチライドを開発することが継続して求められている。
【発明の開示】
【0007】
本発明の第1態様においては、下記式Iの構造を有する化合物、又はその薬学的に許容しうる塩、溶媒和物、水和物、又はエステルが提供される。
【化3】

【0008】
(式中、R1は、C2-C5アルキル、C2-C5アルケニル、又はC2-C5アルキニルであり;
R2は、H、Me、又はFであり;
R3は、H又はMeであり;
R4は、H又はOHであり;
R5は、H又はMeである。)
本発明の第2態様においては、本発明は、胃運動障害をこのような疾患に罹患している患者において治療するための方法であって、化合物Iの治療的に有効な用量をこのような治療を必要とする患者に投与することを含む前記方法を提供する。胃運動障害は、軽症胃アトニー、胃食道逆流疾患、食欲不振、胆のう鬱血、術後麻痺性腸閉塞、強皮症、腸の偽性閉塞、胃炎、嘔吐、又は慢性便秘(結腸無力症)であり得る。
本発明の第3態様においては、化合物Iは、胃運動障害を治療するための薬剤の調製に用いられる。
本発明の第4態様においては、モチリン受容体を刺激する方法であって、モチリン受容体と式Iによる構造を有する化合物とを接触させることを含む前記方法が提供される。モチリン受容体は、細胞の内側に、又は細胞の外側に位置するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
定義
以下の用語の定義は、文脈が明らかに示さない限り、本明細書及び添付の特許請求の範囲全体にわたって用いられる用語にあてはまる。
“アルキル”は、鎖内に指定された炭素原子数(例えば、“C2-C5アルキル”)又は、炭素原子数が指定されない場合には、鎖内に3個までの炭素原子を有する任意に置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖炭化水素部分を意味する。
“アルケニル”は、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合と鎖内に指定された炭素原子数(例えば、“C2-C5アルケニル”)又は、炭素原子数が指定されない場合には、鎖内に3個までの炭素原子を有する任意に置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖炭化水素部分を意味する。
“アルキニル”は、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合と鎖内に指定された炭素原子数(例えば、“C2-C5アルキニル”)又は、炭素原子数が指定されない場合には、鎖内に3個までの炭素原子を有する任意に置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖炭化水素部分を意味する。
“アルキルアリール”、“アリールアルキル”、“ヘテロシクロアルキル”、“アルキルヘテロアリール”、“アルキル複素環”等は、場合によっては、ベンジル、フェネチル等の直接アルキル部分に結合されるアリール基、複素環基、又はヘテロアリール基を意味する。
“アリール”は、それぞれが1つ以上の位置で任意に置換されている、環部分に炭素原子6〜12個を有する単環式又は二環式芳香族炭化水素環系、例えば、フェニル、ナフチル、ビフェニル部分を意味する。
“シクロアルキル”は、不飽和C3-C7炭素環式環と更に縮合することができる、好ましくは環1〜3個と1つの環につき炭素3〜7個(異なる炭素数が示されない限り)を有する、任意に置換されていてもよい飽和した環状炭化水素環系を意味する。例示的なシクロアルキル環系としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロデシル、シクロドデシル、アダマンチルが挙げられる。
“ハロゲン”又は“ハロ”は、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素を意味する。
【0010】
“複素環”、“複素環式”、又は“ヘテロシクロ”は、例えば、少なくとも1つの炭素原子含有環において少なくとも1つのヘテロ原子を有する、4〜7員単環式、7〜11員二環式、又は10〜15員三環式環系である、任意に置換されていてもよい、完全に飽和された又は不飽和の芳香族又は非芳香族環系を意味する。“ヘテロアリール”は、環構造がアリールである複素環を意味する。ヘテロ原子を含有する複素環基の各々の環は、N、O及びSより選ばれたヘテロ原子1、2又は3個を有するものであり、NとSは任意に酸化されていてもよく、Nは任意に四基化されていてもよい。
例示的な単環複素環式環系としては、ピロリジニル、ピロリル、インドリル、ピラゾリル、オキセタニル、ピラゾリニル、イミダゾリル、イミダゾリニル、イミダゾリジニル、オキサゾリル、オキサゾリジニル、イソキサゾリニル、イソキサゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル、チアゾリジニル、イソチアゾリル、イソチアゾリジニル、フリル、テトラヒドロフリル、チエニル、オキサジアゾリル、ピペリジニル、ピペラジニル、2-オキソピペラジニル、2-オキソピペリジニル、2-オキソピロリジニル、2-オキサゼピニル、アゼピニル、4-ピペリドニル、ピリジニル、N-オキソピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロチオピラニル、テトラヒドロチオピラニルスルホン、モルホリニル、チオモルホリニル、チオモルホリニルスルホキシド、チオモルホリニルスルホン、1,3-ジオキソラン、テトラヒドロ-1,1-ジオキソチエニル、ジオキサニル、イソチアゾリジニル、チエタニル、チイラニル、トリアジニル、トリアゾリ等が挙げられる。好ましいヘテロシクロ基としては、ピリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピロイル、ピラゾリル、イミダゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、チアジアゾリル、オキサジアゾリル、チエニル、フラニル、キノリニル、イソキノリニル等が挙げられる。
【0011】
例えば、“置換された又は置換されていない”又は“任意に置換されていてもよい”という句を用いることにより、基が置換されてもよいことを示す場合には、このような基は1つ以上の独立して選ばれた置換基、好ましくは数では1つ又は2つを有してもよい。置換基及び置換パターンは、化学的に安定であり且つ当該技術において既知の技術や本明細書に示される方法によって合成することができる化合物を提供するために当業者が選ぶことができることは理解される。適切な置換基の例としては、本明細書に指定されるものに加えて、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ハロ、トリフルオロメトキシ、トリフルオロメチル、ヒドロキシ、アルコキシ、シクロアルキルオキシ、ヘテロシクロオキシ、アルカノイル、アルカノイルオキシ、アミノ、アルキルアミノ第四級アンモニウム、アラルキルアミノ、シクロアルキルアミノ、ヘテロシクロアミノ、ジアルキルアミノ、アルカノイルアミノ、チオ、アルキルチオ、シクロアルキルチオ、ヘテロシクロチオ、ウレイド、ニトロ、シアノ、カルボキシ、カルボキシアルキル、カルバミル、アルコキシカルボニル、アルキルチオノ、アリールチオノ、アルキルスルホニル、スルホンアミド、アリールオキシ等が挙げられる。置換基は、例えば、ハロ、ヒドロキシ、アルキル、アルコキシ; アリール、置換アリール、置換アルキル、置換アラルキル等によって更に置換することができる。好ましくは、アルキル、アルケニル及びアルキニル部分のための置換基は、数では1〜3であり、特にβ位又は2位にある場合、N-ピロリジニル、N-モルホリニル、N-アゼチジニル、ヒドロキシル、ハロ、アルコキシル、シアノ、アミノ、アルキルアミノ、及びジアルキルアミノから独立して選ばれる。
“薬学的に許容しうるエステル”は、生体内で(例えば、ヒト体内で)加水分解して親化合物又はその塩を生じるか又は親化合物に類似したそれ自体活性を有するエステルを意味する。適切なエステル基としては、各々のアルキル又はアルケニル部分が好ましくは炭素原子6個以下を有する、薬学的に許容しうる脂肪族カルボン酸、特にアルカン酸、アルケン酸、シクロアルカン酸、アルカン二酸から誘導されたものが挙げられるがこれらに限定されない。説明的なエステルとしては、ギ酸エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、ブチル酸エステル、アクリル酸エステル、クエン酸エステル、コハク酸エステル、エチルコハク酸エステルが挙げられる。
【0012】
“薬学的に許容しうる塩”は、医薬製剤に適した化合物の塩を意味する。適切な薬学的に許容しうる塩としては、例えば、化合物の溶液と薬学的に許容しうる酸の溶液とを混合することによって形成することができる酸付加塩、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、安息香酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、リン酸、炭酸等が挙げられる。化合物が1つ以上の酸性部分をもつ場合には、薬学的に許容しうる塩は化合物の溶液を薬学的に許容しうる塩基、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化テトラアルキルアンモニウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア、アルキルアミン等の溶液で処理することによって形成されることができる。
具体的な立体異性体が特に示されない限り、(例えば、構造式における関連した立体中心に太字又は破線の結合によって、構造式におけるE又はZ構造を有するように二重結合を示すことによって、又は立体化学指定命名法を用いることによって)、全ての立体異性体が純粋な化合物及びその混合物として本発明の範囲内に含まれる。特に明記しない限り、個々のエナンチオマー、ジアステレオマー、幾何異性体、及びそれらの組合わせ及び混合物は全て本発明によって包含される。多形結晶形態や溶媒和物もまた本発明の範囲内に包含される。
本発明は、その範囲内に本発明の化合物のプロドラッグを含んでいる。このようなプロドラッグは、一般に、生体内で必要とされる化合物に容易に変えられる化合物の官能性誘導体である。従って、本発明の処理方法においては、“投与”という用語は、特に開示された化合物で又は特に開示されなくてもよい化合物で記載された種々の疾患を治療するが、それを必要としている患者に投与した後に生体内で指定された化合物に変換することを包含する。適切なプロドラッグ誘導体の選択及び調製のための従来の手順は、例えば、Wermuth,“Designing Prodrugs and Bioprecursors,”Wermuth, ed., The Practice of Medicinal Chemistry, 2nd Ed., pp. 561-586 (Academic Press 2003)に記載され、その開示内容は本願明細書に含まれるものとする。プロドラッグには、生体内で(例えば、ヒト体内で)加水分解して本発明の化合物又はその塩を生成するエステルが含まれる。適切なエステル基としては、各々のアルキル又はアルケニル部分が好ましくは6個以下の炭素原子を有する、薬学的に許容しうる脂肪族カルボン酸、特にアルカン酸、アルケン酸、シクロアルカン酸、アルカン二酸から誘導されたものが挙げられるが、これらに限定されない。説明的なエステルとしては、ギ酸エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、ブチル酸エステル、アクリル酸エステル、クエン酸エステル、コハク酸エステル、エチルコハク酸エステルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
化合物及び方法
C9の位置に塩基性原子を有する(9-ケト、9-オキシム、9-ヒドラゾン、9-アミノ等)エリスロマイシンA誘導体は、通常グラム陽性菌に対して非常に活性である。エリスロマイシンA(及びその6-OMe対応物クラリスロマイシン)における9-ケト基を還元すると、抗菌効力がより小さいがなお有意に残存することが報告された(Faghih et al., J. Antibiotics, 43 (10), 1334-1336 (1990),“Synthesis and Antibacterial Activity of (9S)-9-Dihydroclarithromycin”)。従って、9-ジヒドロエリスロマイシンは良好なモチリン作動薬活性を有する(Depoortere et al., J. Gastrointestinal Motility, 1, 150-159 (1989),“Structure-Activity Relation of Erythromycin-Related Macrolides in Inducing Contractions and in Displacing Bound Motilin in Rabbit Duodenum”)が、その残存する抗菌活性は治療的に有用な運動促進剤としての開発に不利に作用する。
【0014】
【化4】

我々は、エリスロマイシン骨格に基づく運動促進剤の新規な種類を発見した。9-ケト基をメチレン基(9-デスオキソエリストマイシン化合物)に完全に還元するとともにデスオサミン基におけるN-メチル基の1つを置き換えることによって、我々は運動活性と抗菌活性を分離することに成功した。このような分離は、我々が有効なモチリン作動薬活性を有し且つほとんど抗菌活性を有しない化合物を発見することを可能にした。(9-デスオキソエリスロマイシンA自体は調製されている(Hauske et al., J. Org. Chem. 49, 712-714 (1983)を参照のこと)が、運動促進剤として探求又は提唱されていない。)
好適実施態様においては、下記式Iaによる構造を有する化合物に対応して、R3はHであり、R4はOHであり、R5はMeである。
【0015】
【化5】

式I及びIaを参照すると、R1は、好ましくはイソプロピル、sec-ブチル、n-プロピル、2-ヒドロキシエチル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピル、t-ブチル、2-エトキシエチル、又はイソブチル; より好ましくはイソプロピル、sec-ブチル、イソブチル又は2-ヒドロキシエチルである。R2は、好ましくはHである。理論に束縛されることなく、エリスロマイシンにおけるデスオサミンNMe2基は、細菌リボソームに結合することが考えられ、その抗菌活性を説明している。NMe2基をより大きなNMeR1基に置き換えると、このような結合が妨害され抗菌活性が低下する作用を有する。
本発明の個々の化合物としては、下記の化合物が挙げられる。























【0016】
【化6】

本発明の化合物Iの合成は、原型としてエリスロマイシンAを用いたスキーム1に示されるように、前駆物質エリスロマイシン化合物からの9-ケト基の除去から出発する。





















【0017】
【化7】

【0018】
スキーム1の手順によって得られる9-デスオキソ化合物は、次に、スキーム2の手順によって、本発明の化合物に変換される。
【化8】

【0019】
本発明の実施は、例として限定せずに示される以下の実施例によって更に理解することができる。
実施例1 - 9-デスオキソエリスロマイシンA
9-デスオキソエリスロマイシンAを、Hauske et al., J. Org. Chem., 49, 712-714 (1984)の手順に従って、スキーム1に示されるように調製した。
(9S)-9-ジヒドロエリスロマイシンA -10℃に冷却したTHF(200ml)中のエリスロマイシンA(22.0g、30ミリモル)の溶液にNaBH4(2.27g、60ミリモル)を少しずつ添加した。次に、その混合液を0℃で3時間撹拌した後、その反応液を水で急冷した。溶媒の大部分が蒸発した後、NaHCO3希釈溶液を添加し、その混合液をEtOAcで3回抽出した。合わせた有機層を水と食塩水で洗浄し、MgSO4で乾燥した。粗生成物を、1%Et3Nを有する2:1ヘキサン-アセトンを用いたシリカゲルクロマトグラフィーによって精製して、純粋な生成物を得た(12.8g、収率58%)。m/z: 736.5 (MH); 13C-NMR (CDCl3): 177.00, 103.21, 96.32, 84.20, 83.10, 79.23, 77.72, 77.63, 74.99, 74.48, 72.66, 70.75, 70.69, 69.29, 66.09, 65.02, 49.32, 45.52, 41.73, 40.32 (2x), 36.91, 34.84, 34.23, 31.97, 28.81, 25.25, 21.68, 21.51, 21.18, 20.06, 18.12, 16.50, 15.06, 14.80, 10.81, 9.36.
【0020】
(9S)-9-ジヒドロエリスロマイシンA 9,11-環状チオノカーボネート アセトン(15ml)中の(9S)-9-ジヒドロエリスロマイシンA(3.70g、5.0ミリモル)と無水K2CO3(1.74g、12.5ミリモル)の溶液にチオカルボニルジイミダゾール(0.98g、5.5ミリモル)を添加した。その混合液を室温で3時間撹拌した。薄層クロマトグラフィー分析によって出発物質をもはや見ることができなくなったときに反応が完了していると判断した。次に、その混合液をEtOAcで希釈し、水で3回、食塩水で1回洗浄し、MgSO4で乾燥した。溶媒を蒸発した後、粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(1%Et3Nを有するCH2Cl2中2%〜5%メタノール)で精製し、2.90g(収率75%)の所望の生成物を得た。m/z: 778.6 (MH); 13C-NMR (CDCl3): 190.64, 175.56, 104.78, 97.74, 89.94, 87.53, 86.96, 79.62, 78.94, 77.52, 76.77, 74.09, 72.51, 70.49, 69.5, 66.16, 64.66, 49.35, 46.96, 41.86, 40.29 (2x), 37.52, 34.86, 34.15, 34.02, 28.87, 25.01, 22.93, 21.36, 21.09, 21.02, 17.83, 16.04, 15.48, 14.00, 10.67, 9.78.
9-ジヒドロエリスロマイシンA 9,11-環状チオカーボネート N,N-ジメチルホルムアミド(20ml)中の(9S)-9-ジヒドロエリスロマイシンA 9,11-環状チオノカーボネート(2.80g、3.6ミリモル)の溶液にKI(5.60g、33.7ミリモル)を一度に添加した。得られた溶液を、窒素下に130℃で3時間撹拌した。室温に冷却した後、反応混合液をEtOAcで希釈し、水で3回、食塩水で1回洗浄し、MgSO4で乾燥した。溶媒を蒸発した後、粗生成物(2.80g)を得、これを精製せずに次の工程に直接用いた。
【0021】
9-デスオキソエリスロマイシンA 上記粗生成物を窒素雰囲気下でEtOH(50ml)に溶解し、続いてラネーNi(5.60g)を添加した。次に、得られたスラリーを2時間加熱還流した。室温に冷却した後、その混合液をセライトでろ過し、そのセライトをEtOHで2回洗浄した。ろ液と洗液を減圧下で濃縮し、次に、シリカゲルクロマトグラフィ(1%Et3Nを有するヘキサン中30%〜60%アセトン)によって精製して、純粋な生成物(2.0g、最後の2工程について収率77%)を得た。m/z: 720.4 (MH); 13C-NMR (CDCl3): 178.46, 101.64, 95.06, 81.47, 78.41, 77.98, 77.76, 77.21, 75.09, 74.99, 72.73, 71.03, 69.36, 68.30, 66.63, 64.99, 49.25, 44.98, 44.74, 41.34, 40.40 (2x), 34.65, 29.25, 28.92, 26.87, 25.42, 22.64, 21.73, 21.30, 21.19, 18.08, 16.07, 15.23, 13.87, 11.21, 8.91.
【0022】
実施例2 - 化合物I
上記の実施例において生成された9-デスオキソエリスロマイシンAを用いてスキーム2に示された手順によって化合物Iを製造した。N-デスメチル-N-イソプロピル-9-デスオキソエリスロマイシンA(化合物I-b)の以下の詳細な手順は代表例である。
N-デスメチル-9-デスオキソエリスロマイシンA MeOH-水(8:2 V/V、10ml)中の9-デスオキソエリスロマイシンA(400mg、0.55ミリモル)とNaOAc(0.62g、7.56ミリモル)の混合液を50℃で撹拌した。次に、ヨウ素(0.42g、1.65ミリモル)を添加した。反応中に2N NaOH(0.82ml)を少しずつ添加した。薄層クロマトグラフィー分析によって完了している反応を求めた。溶媒を除去した後、混合液をEtOAcで3回抽出し、Na2SO4で乾燥した。粗生成物を、シリカゲルクロマトグラフィー(1:1ヘキサン-アセトン、1%Et3N))によって精製して、N-デスメチル-9-デスオキソエリスロマイシンA(210mg、収率54%)を得た。m/z: 706.3 (MH); 13C-NMR (CDCl3): 178.00, 102.21, 95.59, 83.89, 78.77, 78.08, 77.43 (2x), 74.95, 74.93, 74.22, 72.73, 68.98, 68.58, 66.63, 59.87, 49.10, 45.14, 44.19, 42.31, 41.33, 36.75, 34.75, 32.99, 29.12, 26.67, 22.62, 21.53, 21.17, 20.87, 18.02, 16.06, 15.28, 14.54, 9.78, 9.26.
【0023】
N-デスメチル-N-イソプロピル-9-デスオキソエリスロマイシンA(化合物I-b) アセトニトリル(10ml)中のN-デスメチル9-デスオキソエリスロマイシンA(176mg、0.25ミリモル)、ジイソプロピルエチルアミン(0.44ml、10当量)、2-ブロモプロパン(600mg、20当量)の混合液を70℃の浴中で一晩加熱した。水とNaHCO3飽和液を添加し、その溶液をEtOAcで3回抽出し、MgSO4で乾燥した。粗生成物をシリカゲルカラム(3:1ヘキサン-アセトン、1%Et3N)によって精製して、純粋な生成物(116mg、収率62%)を得た。m/z: 748.5 (MH); 13C-NMR (CDCl3): 178.55, 101.49, 95.02, 81.03, 78.43, 77.86 (2x), 75.09, 74.96, 72.69, 70.33, 69.28, 68.45, 66.47 (2x), 61.75, 52.62, 49.23, 45.01, 44.76, 43.44, 41.23, 34.64, 32.93, 31.18, 29.21, 26.86, 25.43, 22.62, 21.69, 21.23, 21.21, 20.36, 18.09, 16.06, 15.23, 13.86, 11.17, 8.82.
化合物I-c、I-d、I-eを、アルキルハライドとしてそれぞれヨウ化sec-ブチル、ヨウ化イソブチル、2-ヨードエタノールを用いて同様に調製した。それらの分析データを以下に示す。
N-デスメチル-N-sec-ブチル-9-デスオキソエリスロマイシンA(化合物I-c) m/z: 762.6 (MH); 13C-NMR (CDCl3): 178.52, 101.66と101.49 (2組), 95.18, 81.25, 78.60, 77.84 (2×), 75.11, 74.98, 72.70, 70.73と70.40 (2組), 69.26と69.15 (2組), 68.71, 66.46と66.38 (2組), 64.46, 61.93 and 60.96 (2 sets), 57.67, 49.20, 45.01, 44.62, 43.24, 41.08, 34.70, 33.88と33.46 (2組), 32.65, 29.16, 28.20と28.08 (2組), 27.78, 26.80, 25.61, 22.62と22.58 (2組), 21.64, 21.22と21.17 (2組), 18.12, 17.25と16.68 (2組), 16.05, 15.27, 13.96と11.59 (2組), 11.12と11.08 (2組), 8.85. I-cは、2つの同量ジアステレオマーの混合物である。
【0024】
N-デスメチル-N-イソブチル-9-デスオキソエリスロマイシンA(化合物I-d) m/z: 762.7 (MH); 13C-NMR (CDCl3): 178.56, 101.59, 95.11, 81.24, 78.50, 77.90, 77.80, 75.22, 75.00, 72.73, 70.70, 69.40, 68.57, 66.50, 65.67, 61.88, 49.22, 45.00, 44.68, 43.32, 41.20, 37.02, 34.70, 29.53, 29.20, 26.85, 26.10, 25.64, 22.62, 21.69, 21.24, 21.20, 20.61, 20.44, 18.11, 16.06, 15.27, 13.91, 11.17, 8.87.
N-デスメチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-9-デスオキソエリスロマイシンA(化合物I-e) m/z: 750.5 (MH); 13C-NMR (CDCl3): 178.25, 102.33, 95.33, 82.78, 78.81, 77.99, 77.42, 75.01, 74.91, 72.80, 71.54, 69.30, 68.33, 67.08, 63.59, 58.95, 55.07, 49.19, 44.87, 44.67, 42.80, 41.49, 36.77, 34.68, 31.42, 29.19, 26.75, 25.44, 22.52, 21.66, 21.19, 21.01, 18.00, 16.05, 15.18, 14.00, 11.14, 8.95.
当業者は、エリスロマイシンAを用いる上記手順が説明的なものであり、本発明の他の化合物を調製するために異なる出発物質によって類似した合成順序が行われ得ることを理解する。R2がMe又はFである化合物は、それぞれ15-メチルエリスロマイシンA又は15-フルオロエリスロマイシンAから調製することができる。15-メチルエリスロマイシンAは、Chu et al.の米国特許出願第2002/0156028 A1号(2002); Ashley et al.の米国特許出願第2002/0094962 A1号(2002); Chu et al.の米国特許出願第6,514,944 B2号(2002)、Chu et al.の米国特許出願第6,762,168 B2号(2004)に教示されるように調製することができる。15-フルオロエリスロマイシンAは、Chu et al.の米国特許出願第2002/0156028 A1号(2002); Ashley et al.の米国特許出願第6,492,562 B1号(2002); Chu et al.の米国特許出願第6,762,168 B2(2004); Desai et al., Biotechnol. Prog. 20, 1660-1665 (2000),“Improved Bioconversion of 15-Fluoro-6-deoxyerythronolide B to 15-Fluoroerythromycin A by Overexpression of the eryK Gene in Saccharopolyspora erythraea”に教示されるように調製することができる。上述の文献の記載は、本願明細書に含まれるものとする。同様に、クラリスロマイシン(6-O-MeエリスロマイシンA)、エリスロマイシンB又はD、又はエリスロマイシンC又はDから出発することによって、それぞれR3がMeであり、R4がHであり、R5がHである本発明の化合物を製造することができる。
【0025】
実施例3 - モチリン作動薬の効力(細胞をベースにした分析)
Carreras et al., Anal. Biochemistry, 300, 146-151 (2002)に開示された手順に従って、細胞ベースの分析において化合物I-bのモチリン作動薬の効力を評価した。開示内容は本願明細書に含まれるものとする。概要としては、本方法ではHEK293細胞をヒトモチリン受容体の合成遺伝子によって形質転換させる。合成遺伝子の発現によってヒトモチリン受容体が生じ、次に、それに試験化合物が結合することによって受容体の活性化が測定される。
比較データは、2つの他の既知のモチリン作動薬、エリスロマイシンAとBT 229を含み、後者は臨床試験に入っていたが以後取り消された半合成モチライドである(Faghih et al., J. Med. Chem., 41, 3402-3408 (1998); Faghih et al., Drugs of the Future, 23 (8), 861-872 (1998))。
【0026】
【化9】

結果を表1に示す。
【0027】

a 上記、Anal. Biochemistryに報告された通り。
【0028】
実施例4 - モチリン作動薬の効力(組織ベースの分析)
化合物I-bのモチリン作動薬効力もまた、一般的にはDepoortere et al., J. Gastrointestinal Motility, 1, 150-159 (1989)の手順に従って、ウサギ十二指腸組織をベースにした収縮性分析を用いた組織ベースの分析を用いて評価した。この開示内容は本願明細書に含まれるものとする。概要としては、本方法はウサギ十二指腸組織、モチリンに応答する組織における収縮を誘発する化合物の能力を測定する。
ウサギ十二指腸の細片を試験し、以下の通りによって分析での使用のために得た。ウサギ十二指腸のセグメント、幽門に対する20-30 cm先端部を縦に分割した。粘膜を除去し、セグメントから縦の平滑筋の2×2×15mm細片をスライスした。細片を1.5gの張力で37℃の酸素化クレブス液の浴に浸し、収縮を増張力的に測定した。強く規則的な位相性活性(大きさ0.3g、0.3-0.4HzにおけるFFTピーク、他のピークより>3倍強い)と、1μMカルバコール(“CCH”)に対する迅速な再現性応答(<30sでピーク収縮、位相性の大きさ>3×)を示す細片を分析での使用に得、上述の基準を満たしていない細片を捨てた。得られた細片を試験装置に取り付けた。
化合物I-bを、10mMの最終濃度に、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した。水における一連の7つの10×連続希釈液調製し、第7番目の連続希釈液の濃度は1.0×10-6 mMであった。
取り付けたウサギ十二指腸細片に1μMカルバコールを投与した。次に、器官浴緩衝液を2回替えることによってカルバコールを洗い流した。カルバコール収縮後、細片を更にまた20±5分間洗浄した。この最後の洗浄後、10±5分以内に用量応答実験を始めた。化合物の第1〜第5連続希釈液を適用し、200μlの最も希釈した液から始めた。各々適用した後、次の用量(次のより高い濃度の連続希釈液)を適用する前に応答が安定するまで2±0.5分間の待ち時間があった。小さな応答が認められるまで、用量を10倍増加分で増加した。その後の用量を、最大応答が得られるまで2-5倍増加分で増加した。最後の薬剤添加の2±0.5分後に細片に1μMカルバコールを投与した。
【0029】
EC50(半最大効果を生じる濃度)を以下の通りに算出した。基礎張力を各々の読み取りのために化合物誘導張力から差し引いた。データ点を、実験終了後1μMカルバコールから得られる応答に対して標準化した。化合物の濃度を応答に対してプロットし、以下の式にあてはめた。
R = (Rmax・C)/(EC50 + C)
(式中、Rは収縮応答であり、Rmaxは最大収縮応答であり、Cは化合物の濃度である。)
RとRmaxは共に1μMカルバコール収縮の関数として表され、0〜1の範囲にある。
EC90(最大効果の90%を生じる濃度)をまず最初にEC50の10倍近くにした。次に、この近似値の正確さを用量応答曲線によって証明した。得られた十二指腸細片に0.25・EC90で投与した。最大応答が得られた(2±0.5分)後、用量を4倍に増加した。2±0.5分後、細片に1μMカルバコールを投与した。2つの用量の差は、10-20%の範囲になければならない。得られた十二指腸細片の第2組にEC90で投与した。最大応答が得られた(2±0.5分)後、用量を2倍に増加した。2±0.5分後、細片に1μMカルバコールを投与した。2つの用量間の差は10%未満でなければならない。我々の経験において、EC90の最初の近似値の正確さを毎回確認した。
化合物I-bのEC50とEC90は、それぞれ180nMと1.8μMであると決定された。
【0030】
実施例5 -抗菌活性
S.ニューモニエ(S. pneumoniae)のエリスロマイシンA感受性株に対する化合物I-bの最小阻止濃度(MIC)を96ウェルマイクロタイタープレート上の連続希釈液を用いて求めた。結果を表2に示す。データは、化合物I-bが低抗菌活性、運動促進剤には望ましい特性を有することを示している。
【0031】

【0032】
実施例6 - シトクロムP450の阻止
シトクロムP450 3A4、多くの薬剤の代謝に関与する最も存在するシトクロムP450酵素に対する化合物I-bの阻止作用を、Stresser et al., Drug Metabolism Disposition, 30 (7), 845-52.に基づく方法を用いて求めた。強い阻止作用は、他の薬剤を妨害する確率が高いことを表すので望ましくない。化合物I-bのKiは、エリスロマイシンAに匹敵する、9.9μMであることがわかった。
【0033】
実施例7 - 長期間投与タキフィラキシーモデル
本実施例は、化合物I-bのタキフィラキシー(最初の投与後の応答の減少; 要するに化合物の作動薬効果に対する脱感作)を比較するものであり、エリスロマイシンAとABT 229と比較した。
ウサギ十二指腸細片を上記の通りに得、試験化合物をEC90濃度で投与した。収縮を記録した。ピーク収縮力が達されたときに、カルバコール(1μM)を添加し、あらゆる収縮を更に記録した。得られた収縮は、1μMカルバコール収縮の関数として表される。浴液を2回替えることによって試験化合物とカルバコールを洗い流した。最初の投与の30、60、90分後に手順を繰り返した。
0、30、60、90分における収縮応答を図1に示されるようにプロットし、0分時の応答は任意に各試験化合物の100%として設定している。図1におけるデータは、化合物I-bのタキフィラキシー効果がABT 229より顕著でないことが明白であることを示している。
この手順を用いて、化合物I-bは、第4回量の後に最初の収縮の39±13%を誘発することがわかった。化合物I-eは、第4回量の後に最初の収縮の85±11%を誘発することがわかった。
【0034】
実施例8 - タキフィラキシー回復モデル
この実験においては、初回量の後に、最初のレベルに回復する試験化合物に対する応答のために必要とされる時間に関してタキフィラキシーを測定した。試験される化合物は、化合物I-b、エリスロマイシンA、モチリン、ABT 229であった。
上記の実施例に記載されたように、上記の実施例に対して得られたウサギ十二指腸の筋細片に試験化合物をEC90濃度で投与した。最初の投与後に、浴液を2回替えることによって試験化合物とカルバコールを除去した。可変的な時間量(0.25、0.5、1、又は2時間)待った後に第2用量を投与した。応答(カルバコール応答に対して標準化され、初回量の100%として任意に設定した)を図2にプロットする。データは、化合物I-bがモチリン自体に匹敵し且つABT 229より顕著に短い回復時間を有することを示している。
好適実施態様においては、本発明の化合物は、以下の特性の少なくとも1つを有する。(a) S.ニューモニエATCC 6301、700671、49619の各々に対してMICが50μg/ml以上; (b) 実施例3の細胞ベースの分析で測定した場合、モチリン作動薬としてEC50が2.0以下; (c) 実施例8のタキフィラキシー回復モデルで測定した場合、回復が最初の投与効力の1時間後の60%以上。より好ましくは、本発明の化合物は、特性(a)、(b)、(c)の少なくとも2つを有する。更により好ましくは、本発明の化合物は、特性(a)、(b)、(c)の3つ全てを有する。
【0035】
実施例8 - hERGチャネル阻害
エリスロマイシンと関連化合物の催不整脈作用は、hERG(ヒトether-a-go-go関連遺伝子)カリウムチャネルの阻害によるものである。Stanat et al., Mol. Cellular Biochem., 254, 1-7 (2003),“Characterization of the Inhibitory Effects of Erythromycin and Clarithromycin on the HERG Potassium Channel.” 本発明の化合物のhERGチャネル阻害作用をStanat et al.論文に報告された技術を用いて評価し、エリスロマイシンAとABT-229に対する比較データを含む、結果を表4に示す。結果は、本発明の化合物のhERGカリウムチャネル阻害値が比較のモチライド化合物ABT-229より小さいが、それらの値はエリスロマイシンAより更に高いことを示している。
【0036】

【0037】
本発明の上述の詳細な説明は、本発明の具体的な部分又は態様と主に又は排他的に関与する経過を含んでいる。これは明瞭さや便利さのためであること、具体的な特徴がそれが開示されている経過だけより更に関連してもよいこと、本明細書における開示が異なる経過に見られる情報の適切な組合わせ全てを含んでいることは理解すべきである。同様に、種々の図面と本明細書における説明は本発明の個々の実施態様に関するが、個々の特徴が具体的な図面又は実施態様に関連して開示される場合、このような特徴もまた、他の図面又は実施態様に関連して、他の特徴と組合わせて、又は一般的な本発明において、適切な程度まで、使用し得ることは理解すべきである。
更に、本発明をある種の好ましい実施態様に関して特に記載してきたが、本発明は、このような好ましい実施態様に限定されない。むしろ、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の化合物に対する長期間投与タキフィラキシーモデルの結果を示すグラフである。
【図2】本発明の化合物に対するタキフィラキシー回復モデルの結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式Iの構造を有する化合物、又はその薬学的に許容しうる塩、溶媒和物、水和物、又はエステル。
【化1】

(式中、R1は、C2-C5アルキル、C2-C5アルケニル、又はC2-C5アルキニルであり;
R2は、H、Me、又はFであり;
R3は、H又はMeであり;
R4は、H又はOHであり;
R5は、H又はMeである。)
【請求項2】
下記式Iaの構造を有する、請求項1記載の化合物。
【化2】

【請求項3】
R2がHである、請求項2記載の化合物。
【請求項4】
R1が、イソプロピル、sec-ブチル、n-プロピル、2-ヒドロキシエチル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピル、t-ブチル、2-エトキシエチル、又はイソブチルである、請求項3記載の化合物。
【請求項5】
R1が、イソプロピル、sec-ブチル、2-ヒドロキシエチル、又はイソブチルである、請求項3記載の化合物。
【請求項6】
R1がイソプロピルである、請求項3記載の化合物。
【請求項7】
R1が2-ヒドロキシエチルである、請求項3記載の化合物。
【請求項8】
胃運動障害をこのような疾患に罹患している患者において治療するための方法であって、請求項1記載の化合物の治療的に有効な量をこのような治療を必要としている患者に投与することを含む、前記方法。
【請求項9】
胃運動障害が、軽症胃アトニー、胃食道逆流疾患、食欲不振、胆のう鬱血、術後麻痺性腸閉塞、強皮症、腸の偽性閉塞、胃炎、嘔吐、又は慢性便秘(結腸無力症)である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
請求項1記載の構造を有する化合物が下記式Iaの構造を有する、請求項8記載の方法。
【化3】

【請求項11】
R1がイソプロピル、sec-ブチル、n-プロピル、2-ヒドロキシエチル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピル、t-ブチル、2-エトキシエチル、又はイソブチルであり、R2がHである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
R1がイソプロピルであり、R2がHである、請求項10記載の方法。
【請求項13】
R1が2-ヒドロキシエチルであり、R2がHである、請求項10記載の方法。
【請求項14】
モチリン受容体の作用を刺激する方法であって、モチリン受容体と請求項1記載の構造を有する化合物とを接触させることを含む前記方法。
【請求項15】
請求項1記載の構造を有する化合物が下記式Iaの構造を有する、請求項14記載の方法。
【化4】

【請求項16】
胃運動障害を治療する薬剤を調製するための請求項1又は2記載の化合物の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−514766(P2007−514766A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545548(P2006−545548)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【国際出願番号】PCT/US2004/042767
【国際公開番号】WO2005/060693
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(504269110)コーザン バイオサイエンシス インコーポレイテッド (17)
【Fターム(参考)】