説明

運動時の脈拍数,酸素飽和度測定方法及び測定装置

【課題】 被測定者の運動等による体動に起因する雑音の周期が一致或いは近接し、その振幅が大きい場合にも、正確に脈拍数及び酸素飽和度の測定が可能な脈拍数及び酸素飽和度測定方法及び測定装置を提供する。
【解決手段】 生体組織を透過又は反射した2種類の脈波信号を信号成分と雑音成分に分離するステップと、前記分離された信号成分と雑音成分の周波数スペクトルを演算するステップと、前記信号成分と雑音成分の周波数スペクトルに基づいて、体動の有無を判定するステップと、前記体動の有無の判定結果に応じて、脈拍周波数を決定するステップと前記決定された脈拍周波数から脈拍数を演算するステップと、前記決定された脈拍周波数に対応する前記2種類の脈波信号のスペクトル比から酸素飽和度を演算するステップとを含むことを特徴とする運動時の脈拍数及び酸素飽和度測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動時に装着して脈拍数や酸素飽和度(SpO2)の測定に適したパルスオキシメータであって、脈拍周期と運動による体動に起因する雑音の周期が一致或いは近接した場合にも適用可能な信号処理に関する。
【背景技術】
【0002】
一つの媒体からほぼ同時に抽出された2つの信号から信号成分と雑音成分に分離する方
法には様々な方法が提案されている。
それらは、一般的には周波数領域や時間領域による処理が行われている。
医療現場でも、光電脈波計と言われる脈波波形や脈拍数を測定する装置、血液に含まれ
る吸光物質の濃度測定として、酸素飽和度SpO2の測定装置、一酸化炭素ヘモグロビン
やMetヘモグロビン等の特殊ヘモグロビン濃度の測定装置、注入色素濃度の測定装置な
どがパルスフォトメータとして知られている。
中でも酸素飽和度SpO2測定装置を特にパルスオキシメータと呼んでいる。
【0003】
パルスフォトメータの原理は、対象物質への吸光性が異なる複数の波長の光を生体組織
に透過又は反射させ、その透過光又は反射光の光量を連続的に測定することで得られる脈
波データ信号から対象物質の濃度を求めるものである。
そしてその脈波データに雑音が混入すると、正しい濃度の計算が出来ず、誤処置につな
がる危険が生じる。
従来、パルスフォトメータにおいても雑音を低減するために周波数帯域を分割して信号
成分に着目し、2つの信号の相関を取るなどの方法が提案されている。
【0004】
本出願人は、異なる2つの波長の光を生体組織に照射して透過光から得られる
2つの脈波信号のそれぞれの大きさを縦軸、横軸としてグラフを描き、その回帰直線を求
め、その回帰直線の傾きに基づいて、動脈血中の酸素飽和度ないし吸光物質濃度を求める
ことを提案している。(特許文献1)
この発明により、測定精度を高め、低消費電力化することができた。
しかし、各波長の脈波信号についての多くのサンプリングデータを用いて回帰直線ないしその傾きを求めるためには、なお多くの計算処理を要していた。
【0005】
更に、本出願人は、周波数解析を用いてはいるが、その解析においては従来技術のように脈波信号そのものを抽出するのではなく、脈波信号の基本周波数を求め、さらには精度を高めるためにその高調波周波数を用いたフィルタを用いて脈波信号をフィルタリングする方法を提案している。(特許文献2)
また、信号分離法を使い信号とノイズを分離する方法も提案している。(特許文献3、
特許文献4)
【0006】
しかし、いずれの方法においても、振幅比で脈波の10倍もあるような大きな体動性ノ
イズが混入した場合、パルスレートおよび動脈血酸素飽和度を計算することは困難であり
、更なる改善が望まれていた。
【0007】
上記改善の例として、同一の媒体からほぼ同時に抽出される2つの同種の信号を処理して共通の信号成分を抽出する計算処理負担を軽減した信号処理方法も本出願人が出願している。(特許文献5参照)
上記特許文献5では、、上記信号処理方法を適用して、前記媒体の体動によるノイズが脈波信号に生じた場合であっても、対象物質の濃度を精度よく測定することにある。
また、体動によるノイズが脈波データ信号に生じた場合であっても、脈波信号からノイ
ズを除去し、精度よく脈拍を求めている。
【特許文献1】特許第3270917号公報
【特許文献2】特開2003−135434号公報
【特許文献3】特開2005−95581号公報
【特許文献4】特開2005−245574号公報
【特許文献5】特開2007−83021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記特許文献1−5に記載の技術でも、被測定者の運動等による体動に起因する雑音の周波数が脈拍の周波数に一致或いは近接し、その振幅が大きい場合には、脈拍数の正確な測定ができなかった。
【0009】
本発明の課題は、被測定媒体からほぼ同時に抽出された2つの信号(IR,R)からそれぞれ信号成分と雑音成分に分離した後、それぞれの周波数スペクトルを求めて、求めた信号成分と雑音成分の周波数スペクトルのそれぞれの基本波及び高調波のピーク周波数の関係から、脈拍数の演算に採用する周波数を決定して脈拍数を演算する。更に、脈拍数の演算に決定された周波数に基づいて酸素飽和度(SpO2)を演算することを特徴とする脈拍数及び酸素飽和度の測定方法及び測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明の運動時の脈拍数及び酸素飽和度測定方法は、
生体組織を透過又は反射した2種類の脈波信号を信号成分と雑音成分に分離するステップと、
前記分離された信号成分と雑音成分の周波数スペクトルを演算するステップと、
前記信号成分と雑音成分の周波数スペクトルに基づいて、
体動の有無を判定するステップと、
前記体動の有無の判定結果に応じて、脈拍周波数を決定するステップと、
前記決定された脈拍周波数から脈拍数を演算するステップと、
前記決定された脈拍周波数に対応する前記2種類の脈波信号のスペクトル比から酸素飽和度を演算するステップとを含むことを特徴とする。(請求項1)
【0011】
また、前記脈拍周波数の決定のステップは、体動が無い場合には、前記信号成分の基本周波数を前記脈拍周波数として決定するステップを含むことを特徴とする。(請求項2)
【0012】
また、前記脈拍周波数の決定のステップは、体動が有る場合に、信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数と雑音成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数との差が所定値以上の場合に、前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数を前記脈拍周波数として決定するステップを含むことを特徴とする。(請求項3)
【0013】
また、前記脈拍周波数の決定のステップは、更に、前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数と雑音成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数との差が所定値以下で、前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数と前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数よりも高い周波数のピーク周波数の1/2との差が所定値以下の場合に、前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数を前記脈拍周波数として決定するステップを含むことを特徴とする。(請求項4)
【0014】
また、前記脈拍周波数の決定のステップは、更に、前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数と雑音成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数との差が所定値以下で、前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数と前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数よりも高い周波数のピーク周波数の1/2との差が所定値以上で、信号成分周波数スペクトルの2番目の振幅のピーク周波数 と前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数よりも高い周波数のピーク周波数の1/2との差が所定値以下の場合に、前記信号成分周波数スペクトルの2番目の振幅のピーク周波数を前記脈拍周波数として決定するステップを含むことを特徴とする。(請求項5)
【0015】
また、前記脈拍周波数の決定のステップは、更に、前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数と雑音成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数との差が所定値以下で、前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数と前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数よりも高い周波数のピーク周波数の1/2との差が所定値以上で、前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数よりも高い周波数のピーク周波数の1/2と前時間窓脈拍周波数との差と、前記前時間窓脈拍周波数との比が所定%以下の場合には、前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数よりも高い周波数のピーク周波数の1/2を脈拍周波数として決定するステップを含むことを特徴とする。(請求項6)
【0016】
また、本発明の運動時の脈拍数及び酸素飽和度測定装置は、生体組織を透過又は反射した2種類の脈波信号を信号成分と雑音成分に分離する手段と、
前記分離された信号成分と雑音成分の周波数スペクトルを演算する手段と、
前記信号成分と雑音成分の周波数スペクトルに基づいて、体動の有無を判定する手段と、
前記体動の有無の判断結果に応じて、前記信号成分と雑音成分の周波数スペクトルに基づいて、脈拍周波数を決定する手段と、
前記決定された脈拍周波数から脈拍数を演算する手段と、
前記決定された脈拍周波数に対応する前記2種類の脈波信号のスペクトル比から酸素飽和度を演算する手段とを備えることを特徴とする。(請求項7)
【発明の効果】
【0017】
請求項1〜7に記載の本発明の脈拍数及び酸素飽和度の測定方法及び測定装置によれば、運動時の体動によるノイズ(雑音)の影響を排除して正確な脈拍数の測定が可能になる。
また、運動時に体動による動脈血以外の組織や静脈血の動きがある場合には、その動きによる周波数帯域の信号を用いないので、正確な酸素飽和度の測定が可能になる。
また、体動ない安静時には、高い時間分解能の脈拍計測が可能となる従来のゼロクロス法等の測定方法(装置)を併用して、選択して使用することができる。その場合には、脈拍数が低い安静時の計測に十分な時間分解能が得られる。また、自律神経の検査のための脈拍数のゆらぎ計測に必要な時間分解能を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の脈拍数及び酸素飽和度の測定方法及び測定装置におけるデータ処理の全体的な構成を図1の処理フローを用いて説明する。
・同一の被測定媒体からほぼ同時に抽出される2つの同種の信号(IR,R)を、信号成分と雑音成分に分離する。(ステップS1)
・ステップS1で分離した信号成分と、雑音成分に対してFFT処理等により、それぞれの周波数スペクトルを算出する。(ステップS2)
・体動の有無の判定及び後述の判定手法によって脈拍周波数算出する。(ステップS3)
・ステップS3で算出した脈拍周波数に基づいて、脈拍数を算出する。(ステップS4)
・ステップS3で算出して脈拍周波数におけるRとIRの周波数スペクトルを算出する。(ステップS5)
・ステップS5で算出した脈拍周波数におけるRとIRの周波数スペクトル比を抽出する。(ステップS6)
・ステップS6のRとIRの周波数スペクトル比から酸素飽和度(SpO2)を算出する。(ステップS7)
【0019】
本発明の脈拍周波数の決定判断は、以下の性質に基づいている。
被測定媒体から測定された脈拍周波数スペクトルには、基本波の他に第2高調波、第3高調波等が含まれ、それぞれ基本波周波数の整数倍のところに現れて、通常、その振幅はほぼ基本波、第2高調波、第3高調波の順に小さくなる性質がある。
また、体動が無い時には、動脈血が脈動して厚みが変化し、体動がある時は動脈血と静脈血の厚みが同時に変化する。
【0020】
本発明は、以下の3つの観点から解析(分類)されている。
(a) 体動で主として動いた部分は、動脈血か? 静脈血か?
信号成分は動脈血により生成されるので、体動で主として動いた成分が動脈血の場合は、その影響は信号成分に現れる。
また、体動で主として動いた成分が静脈血の場合は、その影響は雑音成分に現れる。
(b) 体動の周波数は脈拍の周波数と同じか? 隣り合っているか? 異なっているか?
体動と脈拍の周波数が同じか、隣り合っている場合には、信号成分のスペクトルと体動によるスペクトルとは分離できず、単峰性となる。
(c) 体動の強度は強いか?弱いか?
強い体動の時には、動脈血、静脈血の動きが大きくなるので、体動によるスペクトルの振幅は大きくなる。
弱い体動の時には、体動のスペクトルの振幅は小さくなる。
【0021】
以下に、被測定媒体からほぼ同時に抽出された2つの信号(IR,R)からそれぞれ信号成分と雑音成分に分離した後、上記の3つの観点から、それぞれの周波数スペクトルを求めた例で、体動があった場合の種々の例について図2の表1を用いて説明する。
【0022】
図2の表1は、体動があるときの信号成分周波数スペクトルと雑音成分周波数スペクトルとの関係を示すものである。
図2の表1では、脈拍によるスペクトルを実線で示し体動によるスペクトルを破線で示している。
【0023】
また、脈拍によるスペクトルと体動によるスペクトルが同じ周波数の場合は、信号成分と雑音成分が分離できず、両者が合計されたスペクトルとして表示されている。((1),(4),(7),(10))
【0024】
また、脈拍によるスペクトルと体動によるスペクトルが極めて近い隣り合った周波数S1とSn周波数の場合は、完全には分離できずFFT処理しても単峰となって、区別ができず、S1単独では認識できない。((2),(5),(8),(11))
【0025】
また、体動の強弱は動脈血及び静脈血共に動きが大きくなるので、強い体動作の時は体動によるスペクトル振幅は大きくなり、体動が弱い体動の時は体動のスペクトルは小さくなる。
【0026】
以下に、図2の表1における12の例について、信号成分周波数スペクトルのS1が、脈拍の周波数と判断できる理由を説明する。
【0027】
(6),(9),(12),(5),(8),(11)では、信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数S1が雑音成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数Nと一致していないので、S1が脈拍の周波数と判断できる。
【0028】
(1),(4),(7),(10)では、信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数S1が雑音成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数Nと一致するが、S1の2倍の周波数ピークS2があるので、S1が脈拍の周波数と判断できる。
【0029】
(3)では、信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数Snが雑音成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数Nと一致するが、Snの2倍の周波数ピークがないので、
Snは脈拍の周波数ではなく、体動の周波数であることが判断できる。
信号成分周波数スペクトルの第2の振幅ピーク周波数S1には2倍の周波数ピークS2があるのでS1が脈拍の周波数と判断できる。
【0030】
(2)では、信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数Snが雑音成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数Nと一致するが、Snの2倍の周波数ピークがないので、
Snは脈拍の周波数ではなく、体動の周波数であることが判断できる。
また、信号成分周波数スペクトルの脈拍によるピーク周波数S1はSnと区別がつかず、S1を見つけることはできない。
そこで、信号成分周波数スペクトルの第2の振幅ピーク周波数S2の1/2倍の周波数を先行する時間窓(前回の判断)で決定した脈拍の周波数と比較して、その変化率が一定の範囲内であれば、S2の1/2倍の周波数を脈拍の周波数として決定できる。
ここで、一定の範囲とは、時間窓を切り替える時間内に脈拍数が生理的に最大変化し得る変化率の大きさ(例えば、10%)である。
【0031】
上記判断例を表に纏めたものが、図3の表2の処理方法に示す。
図3の表2の優先順位1,2の例は、体動が無い場合であるので、前記図2の表1の(1)〜(12)には含まれてはいない。
【0032】
本発明の脈拍数(PR)の詳細な演算手順を図4のフローチャートを用いて説明する。
この演算手順を「運動アルゴリズムで決定された脈拍の周波数決定方法」と称する。
このフローチャートにおける判断手法は、脈拍数及び酸素飽和度の測定装置に搭載されるコンピュータによる自動判断処理に適している。
【0033】
・被測定媒体からほぼ同時に抽出された2つの信号(IR,R)を信号成分と雑音成分に分離して、FFT処理等によって、それぞれの周波数スペクトルを求める。(ステップS11)
・fN(体動による雑音成分スペクトル)があるか否かの判断をする。(ステップS12)
・ステップS12の判断がNoの場合には、信号成分スペクトルの周波数であるfS1,fS2,fS3が整数倍で、そのピークがfS1>fS2>fS3で、その差が±20%以内であるか否かの判断をする。(ステップS13)
【0034】
このステップS13の判断は、図3の表2の優先順位1のFFTパターンに相当する場合であって、基本波(fS1)と第2高調波(fS2)及び第3高調波(fs3)のピークがfS1>fS2>fS3の条件を満たしている。
【0035】
・ステップS13の判断がYesの場合には、脈拍周波数としてfS1を採用して、脈拍数(PR)をPR=fS1×60で算出する。(ステップS19)
【0036】
・ステップS13の判断がNoの場合には、信号成分スペクトルの周波数であるfS1,fS2,fS3が整数倍で、そのピークがfS1>fS3>fS2で、その差が±20%以内であるか否かの判断をする。(ステップS14)
【0037】
このステップS14の判断は、図3の表2の優先順位2のFFTパターンに相当する場合であって、基本波(fS1)と第2高調波(fS3)及び第3高調波(fs2)のピークがfS1>fS2>fS3の条件を満たしている。
【0038】
・ステップS14の判断がYesの場合には、脈拍周波数としてfS1を採用して、脈拍数(PR)をPR=fS1×60で算出する。(ステップS19)
【0039】
・ステップS14の判断がNo又はステップS12の判断がYesの場合には、
|fS1-fN|>Δf1(Hz)であるか否かの判断をする。(ステップS15)
ここで、fS1は、信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数、fNは、雑音成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数、Δf1の値は、例えば、0.25(Hz)である。
【0040】
このステップS15の判断は、図3の表2の優先順位3のFFTパターンに相当する場合であって、図2の表1の(5)、(6)、(8)、(9)、(11)、(12)、における基本波の信号成分S1の周波数(fS1)と雑音成分Nの周波数(fN)との差が、所定値(0.25Hz)以上の場合である。
【0041】
・ステップS15の判断がYesの場合には、脈拍周波数としてfS1を採用して、脈拍数(PR)をPR=fS1×60で算出する。(ステップS19)
【0042】
・ステップS15の判断がNoの場合には、
|fS1-fN|<Δf1(Hz)及び |fS1-fS2/2| Δf2(Hz)であるか否かの判断をする。(ステップS16)
ここで、fS1は、信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数、fNは、雑音成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数、fS2は、信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数よりも高い周波数のピーク周波数、Δf1及びΔf2の値は、例えば、共に0.25(Hz)である。
【0043】
このステップS16の判断は、図3の表2の優先順位4のFFTパターンに相当する場合であって、図2の表1の(1)、(4)、(7)、(10)、における基本波の信号成分(S1)の周波数(fS1)と雑音成分Nの周波数(fN)との差が、所定値(0.25Hz)以下の場合であり、且つ、基本波の信号成分S1の周波数(fS1)と第2高調波S2の周波数(fS2)の1/2の周波数との差が、所定値(0.25Hz)以下の場合である。
【0044】
・ステップS16の判断がYesの場合には、脈拍周波数としてfS1を採用して、脈拍数(PR)をPR=fS1×60で算出する。(ステップS19)
【0045】
・ステップS16の判断がNoの場合には、
|fSn-fN|<Δf1(Hz)及び |fSn-fS2/2|>Δf2(Hz) AND
|fSn-fS3/2|>Δf2(Hz)及び|fS1-fS2/2|<Δf2(Hz)か否かの判断をする。(ステップS17)
ここで、fSnは、信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数、fN1は、雑音成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数、fS2及びfS3は、信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数よりも高い周波数のピーク周波数、fS1は、信号成分周波数スペクトルの2番目の振幅のピーク周波数、Δf1及びΔf2の値は、例えば、共に0.25(Hz)である。
【0046】
このステップS17の判断は、図3の表2の優先順位5のFFTパターンに相当する場合であって、図2の表1の(3)における信号成分周波数スペクトルに現れた雑音(体動)Snの周波数(fSn)と雑音成分Nの周波数(fN)との差が、所定値(0.25Hz)以下の場合であり、信号成分の周波数スペクトルに現れた雑音(体動)Snの周波数(fSn)と第2高調波S2の周波数(fS2)の1/2の周波数との差が、所定値(0.25Hz)以上の場合である。
また、信号成分の周波数スペクトルに現れた雑音(体動)Snの周波数(fSn)と第3高調波S3の周波数(fS3)の1/2の周波数との差が、所定値(0.25Hz)以上の場合であり、信号成分の基本波S1の周波数(fS1)と第2高調波S2の周波数(fS2)の1/2の周波数との差が、所定値(0.25Hz)以下の場合である。
【0047】
・ステップS17の判断がYesの場合には、脈拍周波数としてfS1を採用して、脈拍数(PR)をPR=fS1×60で算出する。(ステップS19)
【0048】
・ステップS16の判断がNoの場合には、
|fSn-fN|<Δf1(Hz)及び |fSn-fS2/2|>Δf2(Hz) AND
|fSn-fS3/2|<Δf2(Hz)か否かの判断及び |fS2/2-前時間窓脈拍f|/前時間窓脈拍f<r(%)否かの判断をする。(ステップS18)
ここで、fSnは、信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数、fNは、雑音成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数、fS2及びfS3は、信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数よりも高い周波数のピーク周波数、Δf1及びΔf2の値は、例えば、共に0.25(Hz)であり、rの値は10(%)である。
【0049】
このステップS18の判断は、図3の表2の優先順位6のFFTパターンに相当する場合であって、図2の表1の(2)における信号成分周波数スペクトルに現れた雑音(体動)Snの周波数(fSn)と雑音成分Nの周波数(fN)との差が、所定値(0.25Hz)以下の場合であり、信号成分の周波数スペクトルに現れた雑音(体動)Snの周波数(fSn)と第2高調波S2の周波数(fS2)の1/2の周波数との差が、所定値(0.25Hz)以上の場合である。
また、信号成分の周波数スペクトルに現れた雑音(体動)Snの周波数(fSn)と第3高調波S3の周波数(fS3)の1/2の周波数との差が、所定値(0.25Hz)以上の場合であり、第2高調波S2の周波数(fS2)の1/2と前時間窓脈拍f との差と前時間窓脈拍fとの比が所定%(10%)以下の場合である。
【0050】
・ステップS18の判断がYesの場合には、脈拍周波数としてfS2/2を採用して、脈拍数(PR)をPR=fS2/2×60で算出する。(ステップS20)
・ステップS18の判断がNoの場合には、脈拍周波数を決定せずに、ステップS12に戻る。
【0051】
図4のフローチャートでは、脈拍数を算出するまでが開示されているが、酸素飽和度(SpO2)は、脈拍数を算出するのに使用した脈拍周波数における被測定媒体からほぼ同時に抽出された2つの信号(IR,R)の比を抽出することによって得られる。
【0052】
本発明の「運動アルゴリズムで決定された脈拍の周波数決定方法」と、従来の「ゼロクロス法」脈拍数の算出とを併用した例を図5に示す。
図5では、「運動アルゴリズムで決定された脈拍の周波数決定方法」による測定装置1と「ゼロクロス法」による測定装置2とを併用して、PRの選択手段3で運動時には、1を選択し、安静時には2を選択する。
【0053】
この選択によって、運動時に体動による動脈血以外の組織や静脈血の動きがある場合には、その動きによる周波数帯域の信号を用いないので、正確な酸素飽和度の測定が可能になる。
また、体動ない安静時には、高い時間分解能の脈拍計測が可能となる従来のゼロクロス法等の測定方法(装置)を併用して、選択して使用することができる。その場合には、脈拍数が低い安静時の計測に十分な時間分解能が得られる。また、自律神経の検査のための脈拍数のゆらぎ計測に必要な時間分解能を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の脈拍数及び酸素飽和度の測定方法及び測定装置におけるデータ処理の全体的な構成を示すフローチャートである。
【図2】被測定媒体からほぼ同時に抽出された2つの信号(IR,R)からそれぞれ信号成分と雑音成分に分離した後、それぞれの周波数スペクトルを求めた例で、体動があった場合の種々の例を示す図である。
【図3】図2の表に示した例における脈拍数を算出するための判断例を表に纏めたものである。
【図4】本発明の脈拍数(PR)の詳細な算出手順を示すフローチャートである。
【図5】「運動アルゴリズムで決定された脈拍の周波数決定方法」と「ゼロクロス法」による脈拍数の算出を併用した例を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1:「運動アルゴリズムで決定された脈拍の周波数決定方法」による脈拍数及び酸素飽和度測定装置
2:「ゼロクロス法」による脈拍数及び酸素飽和度測定装置
3:選択手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織を透過又は反射した2種類の脈波信号を信号成分と雑音成分に分離するステップと、
前記分離された信号成分と雑音成分の周波数スペクトルを演算するステップと、
前記信号成分と雑音成分の周波数スペクトルに基づいて、
体動の有無を判定するステップと、
前記体動の有無の判定結果に応じて、脈拍周波数を決定するステップと、
前記決定された脈拍周波数から脈拍数を演算するステップと、
前記決定された脈拍周波数に対応する前記2種類の脈波信号のスペクトル比から酸素飽和度を演算するステップと、
を含むことを特徴とする運動時の脈拍数及び酸素飽和度測定方法。
【請求項2】
前記脈拍周波数の決定のステップは、
体動が無い場合には、前記信号成分の基本周波数を前記脈拍周波数として決定するステップを、
含むことを特徴とする請求項1に記載の運動時の脈拍数及び酸素飽和度測定方法。
【請求項3】
前記脈拍周波数の決定のステップは、
体動が有る場合に、
信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数と雑音成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数との差が所定値以上の場合に、前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数を前記脈拍周波数として決定するステップを、
含むことを特徴とする請求項2に記載の運動時の脈拍数及び酸素飽和度測定方法。
【請求項4】
前記脈拍周波数の決定のステップは、
更に、前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数と雑音成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数との差が所定値以下で、前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数と前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数よりも高い周波数のピーク周波数の1/2との差が所定値以下の場合に、前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数を前記脈拍周波数として決定するステップを、
含むことを特徴とする請求項3に記載の運動時の脈拍数及び酸素飽和度測定方法。
【請求項5】
前記脈拍周波数の決定のステップは、
更に、前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数と雑音成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数との差が所定値以下で、前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数と前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数よりも高い周波数のピーク周波数の1/2との差が所定値以上で、信号成分周波数スペクトルの2番目の振幅のピーク周波数 と前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数よりも高い周波数のピーク周波数の1/2との差が所定値以下の場合に、前記信号成分周波数スペクトルの2番目の振幅のピーク周波数を前記脈拍周波数として決定するステップを、
含むことを特徴とする請求項4に記載の運動時の脈拍数及び酸素飽和度測定方法。
【請求項6】
前記脈拍周波数の決定のステップは、
更に、前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数と雑音成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数との差が所定値以下で、前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数と前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数よりも高い周波数のピーク周波数の1/2との差が所定値以上で、
前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数よりも高い周波数のピーク周波数の1/2と前時間窓脈拍周波数との差と、前記前時間窓脈拍周波数との比が所定%以下の場合には、前記信号成分周波数スペクトルの最大振幅ピーク周波数よりも高い周波数のピーク周波数の1/2を脈拍周波数として決定するステップを、
含むことを特徴とする請求項5に記載の運動時の脈拍数及び酸素飽和度測定方法。
【請求項7】
生体組織を透過又は反射した2種類の脈波信号を信号成分と雑音成分に分離する手段
前記分離された信号成分と雑音成分の周波数スペクトルを演算する手段と、
前記信号成分と雑音成分の周波数スペクトルに基づいて、体動の有無を判定する手段と、
前記体動の有無の判断結果に応じて、前記信号成分と雑音成分の周波数スペクトルに基づいて、脈拍周波数を決定する手段と、
前記決定された脈拍周波数から脈拍数を演算する手段と、
前記決定された脈拍周波数に対応する前記2種類の脈波信号のスペクトル比から酸素飽和度を演算する手段と、
を備えることを特徴とする運動時の脈拍数及び酸素飽和度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−22484(P2009−22484A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187884(P2007−187884)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】